説明

縫製装置の目飛び糸切れチェック装置

【課題】目飛びの検出を簡素な構造でコスト的に有利に実現でき、目飛びや糸切れの検出精度が向上し、良好な作業効率となり生産性の向上に寄与する縫製装置の目飛び糸切れチェック装置の提供。
【解決手段】所定長さDの弛み部分の位置を検出装置8により検出する構成のため、弛み部分の位置が目飛びSや糸切れの有無に確実に対応し、目飛びSや糸切れの検出を誤ることなく高い精度で実現し、目飛びや糸切れ現象を確実に判別することができる。検出装置8は、上糸3に張力を付与できるだけの簡易なエア供給装置19と検出手段としての光電スイッチ23から成る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、縫製運転時に縫い糸の弛み部分を検知することにより、布に対する縫い糸の目飛びや糸切れを高い精度で検出できるように改良した縫製装置の目飛び糸切れチェック装置に関する。
【背景技術】
【0002】
縫製用のミシンでは、縫い針の上下変位と針板の下方に位置する釜の回転運動との組合せにより、縫い針が布を貫通するに伴い、上糸が下糸と絡み合って縫い目を形成する。
この際、縫い糸により布に縫い目が所定の間隔で連続形成されるが、縫製運転に伴い、縫い目の途中で縫い目が1目あるいは数目にわたって形成されない目飛びと称する縫い目のむらを生じる場合がある。
【0003】
目飛びの発生原因としては、糸撚りや布の厚さむらにより、ミシンの動作に適合しないことをはじめ、縫い針と釜のセットゲージの不適切や縫い針の上下動と釜回転のタイミングの不一致などが挙げられる。
いずれにせよ、布の縫い目に目飛びが生じた場合には、ミシンの運転を停止して、目飛び部分の状態に応じた補修を行う必要がある。
【0004】
縫製運転時に目飛びを検出するものに、特許文献1に目飛び検出装置が記載されている。この目飛び検出装置は、針糸の糸案内に針糸が摺接して生じる摩擦音を検出する検知センサを備えている。
具体的には、検知センサにおいて、連続的に入力される1針毎の摩擦音の発生時間を比較し、前回と今回との摩擦音の発生時間差に基づく糸移動量差を求めるとともに、回転検出センサによってミシンの回転数を検出し、エンコダーから連続入力される1針毎の回転数を比較し、前回と今回との回転数差に基づく糸移動量差を求め、回転数差に基づく糸移動量差と摩擦音の発生時間差に基づく糸移動量差とを比較している。この比較結果に基づいて目飛びを判別することにより、摩擦音の発生時間のばらつきが大きい場合でも、目飛びの検出を誤ることなく行えるようにしている。
【0005】
また、特許文献2では、ミシンにおける縫製時の糸切れおよび目飛び検出方法が開示されている。特許文献2の目飛び検出方法は、目飛びの発生時、釜剣先が上糸ループを掛け損じるため、上糸が釜を一周する長さだけ弛むという知見に基づいて構成されている。
この時、天秤と針との間に存する上糸の張力を歪みゲージ(ストレインゲージ)で検出することにより目飛びの発生を確認している。具体的には、上糸をループ状のガイド環に通し、ガイド環に対する上糸の摺接圧を歪みゲージに伝え、その歪み量の大小の設定値によって目飛びの有無を判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−276088号公報
【特許文献2】特開昭50−54457号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の目飛び検出装置では、検知センサの構成が複雑でコスト高を招き易くなる虞れがある。併せて、回転数差による糸移動量差と摩擦音発生時間差による糸移動量差とを比較する際、縫製状況や縫製条件によっては、比較条件を調整する必要が生じ、縫製用の布によっては、目飛びの判別の設定値を変更することも考えられることから判別精度が不安定になる虞れがある。
特許文献2では、縫製運転時にガイド環に対する上糸の摺接圧は変わり易いため、歪みゲージの歪み量が、確実には目飛び発生の有無に繋がらないことも考えられ、判定の設定値が難しくなって、特許文献1と同様に判別精度が不安定になる虞れがある。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的は、目飛びの検出を簡素な構造でコスト的に有利に実現させ、目飛びや糸切れの検出精度が向上し、ひいては作業効率がよくなり、生産性の向上に寄与する縫製装置の目飛び糸切れチェック装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(請求項1について)
縫製装置における縫い針は、布に対して縫い目形成を行うために往復運動する。押圧機構は、縫い針に係合した縫い糸に張力を付与する。天秤機構は、縫い糸に係合して縫い針と連動する往復運動を行う。
検出装置は、縫い糸に対して張力を付与する張力付与手段と、縫製運転に伴って縫い糸に生じた弛み部分を張力付与手段により屈曲変形させて弛み部分の位置を検出する検出手段とを有し、押圧機構から縫い針の先端までの糸経路内に設けられている。
【0010】
縫製運転に伴って発生する目飛び現象は、種々の原因により、釜剣先が縫い糸の上糸ループを掛け損じるため、縫い糸が釜を一周する長さだけ弛むようになり、縫い糸に所定長さの弛み部分が生じる。弛み部分の位置を検出装置により検出する構成のため、所定長さの弛み部分を検出することになり、弛み部分の位置の検出が目飛びや糸切れの有無に確実に対応し、目飛びや糸切れの検出を誤ることなく、高い精度で実現し、目飛びや糸切れ現象を確実に判別することができる。
しかも、検出装置は、縫い糸に張力を付与できるだけの簡易な張力付与手段と検出手段から成る簡素な構造でよく、コスト的に有利に実現させることができる。
【0011】
(請求項2について)
張力付与手段は、縫製運転時に所定の風圧を縫い糸に連続的に付与するエア供給装置であるため、目飛びや糸切れの発生時には、弛み部分が吹き飛ばされて屈曲変形状態で検出される。また、張力付与手段は、エア供給装置により天秤機構から縫い針の間の縫い糸に連続的にエアーを付与するため、目飛び等の縫製不良を発生しにくくする糸調子機構の役割も兼ねる。さらに、張り張力付与手段は、縫い糸に張力を付与できる簡易なエア供給装置でよいため、小型でよくコスト的に有利である。
【0012】
(請求項3について)
張力付与手段は、縫製運転時に所定の負圧で縫い糸を連続的に吸引する負圧供給装置であるため、目飛びや糸切れの発生時には、弛み部分が吸引により屈曲変形状態で検出される。張力付与手段は、縫い糸に張力を付与できるだけの簡易な負圧供給装置でよいため、請求項2と同様に、小型でよくコスト的に有利である。
【0013】
(請求項4について)
張力付与手段は、捩りスプリングと電磁ソレノイドとを有する。縫製運転時に電磁ソレノイドを通電することにより、電磁ソレノイドのプランジャーが伸びて捩りスプリングの一端を押圧弾性変形する。これに伴い、捩りスプリングの他端が押圧弾性力により縫い糸に連続的に摺接する。
目飛びや糸切れの発生時には、縫い糸に弛み部分が発生するため、弛み部分が捩りスプリングの他端に押圧され、屈曲変形して目飛びや糸切れが検出される。
張力付与手段は、縫い糸に張力を付与できるだけの簡易な電磁ソレノイドと捩りスプリングとからなるため、小型でよくコスト的に有利である。
【0014】
(請求項5について)
張力付与手段は、捩りスプリングとエアシリンダとを有する。縫製運転時にエアシリンダを駆動することにより、エアシリンダのロッドが伸びて捩りスプリングの一端を押圧弾性変形する。これに伴い、捩りスプリングの他端が押圧弾性力により縫い糸に連続的に摺接する。
目飛びや糸切れの発生時には、縫い糸に弛み部分が発生するため、弛み部分が捩りスプリングの他端部に押圧され、屈曲変形して目飛びや糸切れが検出される。
張力付与手段は、縫い糸に張力を付与できるだけの簡易なエアシリンダと捩りスプリングとからなるため、小型でよくコスト的に有利である。
【0015】
(請求項6について)
張力付与手段は、捩りスプリングを有し、捩りスプリングの一端を所定量だけ弾性変位させた状態で固定することにより、捩りスプリングの他端を弾性力により縫い糸に連続的に摺接させる。
捩りスプリングの一端は、所定量だけ変位しているため、その一端には弾性力が蓄勢されている。目飛びや糸切れの発生時には、縫い糸に弛み部分が生じるので、捩りスプリングの他端が弾性力により押圧され、弛み部分を屈曲変形させて目飛びや糸切れを検出する。
この場合、張力付与手段は、簡易な捩りスプリングから成るため、簡素な構造で入手し易い既存品を適用できて一層コスト的に有利である。
【0016】
(請求項7について)
張力付与手段は、上向きに膨出形成されたドーム状の収容部と、収容部内の縫い糸上に回転自在で連続的に摺接し、常に自重により縫い糸に張力を付与する球状の錘体を有する。
目飛びや糸切れ現象に起因して発生する弛み部分は、錘体の自重で、錘体と一緒に落下することにより、屈曲変形して検出される。
張力付与手段が収容部と錘体から成るため、入手し易い既存品でよく、かつ構造が簡素でコスト的に有利である。
【0017】
(請求項8について)
検出装置の検出手段は、弛み部分の有無を判別するために、受光素子と発光素子とを有する光電センサを設けている。
検出手段として既存の光電センサを適用できるので、コスト的に有利となる。
【0018】
(請求項9について)
検出装置の検出手段は、弛み部分の有無を判別するために設けた近接センサであるため、検出手段として既存の近接センサを適用できるので、コスト的に有利となる。
【0019】
(請求項10について)
検出装置の検出手段は、弛み部分の有無を判別するために設けた接触センサであるため、検出手段として既存の接触センサを適用できるので、コスト的に有利となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】(a)は布および釜とともに示し、紙面の裏側に90°の角度だけ回転させた態様の縫製ミシン頭部の側面図、(b)は布および釜とともに示す縫製ミシン頭部の正面図である(実施例1)。
【図2】(a)は検出手段のタイムチャートの模式図、(b)は検出手段の制御回路図である(実施例1)。
【図3】布および釜とともに示す縫製ミシン頭部の正面図である(実施例2)。
【図4】(a)は通常の縫製運転時において、布および釜とともに示す縫製ミシン頭部の正面図、(b)は目飛びや糸切れを判別する検出装置の拡大正面図、(c)は目飛びや糸切れの発生時において、布および釜とともに示す縫製ミシン頭部の正面図である(実施例3)。
【図5】布および釜とともに示す縫製ミシン頭部の正面図である(実施例4)。
【図6】(a)、(b)、(c)は目飛びや糸切れを判別する検出装置の拡大正面図である(実施例5、6、7)。
【発明を実施するための形態】
【0021】
縫製運転に伴って発生する目飛びや糸切れ現象は、上糸に所定長さの弛み部分を生じさせるが、本発明では、弛み部分の位置を検出手段により検出する構成のため、弛み部分の位置の検出が目飛びや糸切れの有無に確実に対応し、目飛びや糸切れの検出を誤ることなく、高い精度で行うことができ、目飛びや糸切れの現象を確実に判別することが可能となる。検出装置は、いずれも簡易で小型の張力付与手段と検出手段から成る簡素な構造のため、コスト的に有利となる。
【実施例1】
【0022】
以下、図1および図2を参照しながら本発明の実施例1を説明する。
図1は、縫製装置1の縫製ミシン頭部2を便宜上、紙面の裏側に90°の角度だけ回転させた態様を示す。図1の縫製装置1は縫製用のミシンであり、縫製ミシン頭部2には、糸巻スプール(図示せず)からの上糸3が糸通し部4、第1糸調子5、押圧機構としての第2糸調子6および天秤機構7を介して後述する検出装置8に導出されている。
検出装置8からの上糸3は、糸掛け部9を介して縫い針10の針穴10aに導かれている。縫い針10は布11に対して縫い目形成を行うために往復運動を行う。第2糸調子6は、縫い針10に係合した上糸3に張力を付与する。天秤機構7は、上糸3に係合して縫い針10と連動する往復運動を行う。
【0023】
布11を支持する針板(図示せず)の下方には、ボビンケース12を有する外釜13を備えた釜14が配置されている。ボビンケース12内に収容されたボビン15からは、上糸3とともに縫い糸を成す下糸16が布11に供給されるようになっている。
検出装置8は、第2糸調子6から縫い針10の先端までの糸経路内の所定位置に設けたもので、天秤機構7の下方にプラスチック製あるいは金属製の案内辺17を取り付けている。案内辺17は、例えば、天秤機構7と縫い針10とを結ぶ線上に位置し、上糸3を挿通させた縦形の透孔17aを形成している。
【0024】
案内辺17の図示左側部には、透孔17aに連通し、張力付与手段としてのエア供給装置19に連結されたエアブローパイプ18を取り付けている。エア供給装置19は縫製の運転開始・停止に連動して駆動・停止するようになっている。エア供給装置19は、上糸3に空気を吹きかけて張力を付与できる簡易な小型のものでよい。
案内辺17の図示右側部には、透孔17aに連通し、エアブローパイプ18の先端18aに対向し、内外に通ずる開口部17bを形成している。開口部17bの開口内周縁は、後述するように上糸3が摺動することを考慮して面取りなどにより滑らかな丸みを持たせている。
【0025】
検出装置8の検出手段は、目飛び糸切れチェック装置として設けられたもので、発光素子21と受光素子22とを備えた光電スイッチ23から成る。発光素子21は、例えば発光ダイオード(LED)から成り、受光素子22は、例えば光ダイオード(PHD)から成り、発光素子21と受光素子22とは、開口部17bの外部で、開口部17bの内外方向に沿って並行で互いに所定の距離Lだけ離間する状態に配置されている。
【0026】
縫製装置1の通常の縫製運転では、図1(a)に示すように、縫い針10の上下運動と釜14の回転運動との組合せにより、縫い針10が布11を貫通するに伴い、上糸3が下糸16と絡み合って縫い目Tを形成する。
この際、布11に縫い目Tが所定の間隔dで連続形成されるが、縫製運転に伴い、縫い目Tの途中で縫い目Tが1目あるいは数目にわたって形成されない目飛びSと称する縫い目Tのむらを生じる場合がある{図1(b)参照}。
目飛び現象は、種々の原因により釜剣先13aが上糸ループ3bを掛け損じた場合に、上糸3が釜14を一周する長さだけ弛むことにより生じる。
【0027】
縫製運転と同時にエア供給装置19が駆動されており、空気がエアブローパイプ18から透孔17aを横切って上糸3に連続的に吹きかかって常に張力を付与している。目飛びや糸切れ現象が生じた場合、上糸3が弛むため、その弛み部分3aが外方に吹き飛ばされて、開口部17bの開口内周縁部を摺動し、図1(b)に二点鎖線で示す位置から実線で示す位置に所定の長さDだけ屈曲変形する。
これに伴い、弛み部分3aが光電スイッチ23の発光素子21と受光素子22との間に侵入して発光素子21からの光照射を遮断する。この結果、弛み部分3aが屈曲変形して光電スイッチ23の発光素子21と受光素子22との間に侵入した弛み部分3aの位置が検出される。
【0028】
目飛びSや糸切れが生じた場合には、縫製運転を停止して、目飛び部分や糸切れの状態に応じた補修を行うので、目飛びSの発生を作業者などに報知する必要がある。
報知システムの一例を図2に示す。報知システムでは、図2(a)のタイムチャート(A、B、C、D)に示すように、発光素子21の光照射を遮断している時、光電スイッチ23が持続的に働いて、ベル24を鳴動し続けさせるとともに、ランプ25を点灯させ続けるように構成している。
【0029】
図2(b)は報知システムの制御回路の一例である。この制御回路において、弛み部分3aにより発光素子21の光照射が遮断されると、光電スイッチ23が働いてOR回路27の一端入力部aがハイ(H)となり、OR回路27の出力部cがハイ(H)となる。
一方、電圧Vcが印加された押しボタン式のリセットスイッチ26が開成状態では、NOT回路28によりAND回路29の一端入力部aがハイ(H)となっており、AND回路29の他端入力部bがハイ(H)のため、その出力部cがハイ(H)となり、OR回路27の他端入力部bをハイ(H)にする。これにより、ベル24およびランプ25を駆動し続ける。
【0030】
縫製運転を停止後に、ベル24の鳴動およびランプ25の点灯を停止するためには、上糸3の弛み部分3aを発光素子21と受光素子22との間から抜き取って外部に排除してから、リセットスイッチ26を閉じる。これにより、NOT回路28のためAND回路29の一端入力部aがロー(L)となり、AND回路29の出力部cがロー(L)となり、OR回路27の他端入力部bがロー(L)となる。
この時点では、すでに光電スイッチ23の出力、つまりOR回路27の一端入力部aがロー(L)となっているので、OR回路27の出力部cがロー(L)となってベル24およびランプ25への電流が止まる。
【0031】
なお、制御回路は図2(b)のものに限らず、結線方法により多様な制御構成にすることができる。ベル24とランプ25では、両方を同時に駆動する代りに、いずれか一方のみを駆動するようにしてもよい。ベル24やランプ25を継続的に駆動する代りに、ベル24を断続的に鳴動させたり、ランプ25を点滅させる構成でもよい。
【0032】
上記構成では、縫製運転に伴って目飛びや糸切れ現象が発生するが、目飛びや糸切れ現象は上糸3に所定長さDの弛み部分3aを生じる。弛み部分3aの位置を検出装置8により検出する構成のため、所定長さDの弛み部分3aを検出することになり、弛み部分3aの位置の検出が目飛びSや糸切れの有無に確実に対応し、目飛びSや糸切れの検出を誤ることなく、高い精度で実現し、目飛びや糸切れ現象を確実に判別することができる。
しかも、検出装置8は、上糸3に張力を付与できる簡易なエア供給装置19と検出手段としての光電スイッチ23から成るので、小型で簡素な構造となりコスト的に有利になる。
【実施例2】
【0033】
図3は本発明の実施例2を示す。実施例2が実施例1と異なるところは、エア供給装置19に代わって負圧供給装置30を設けたことである。負圧供給装置30は、バッキュームパイプ31を連結しており、その先端部分31aを光電スイッチ23を仲立ちにして案内辺17の開口部17bに近接している。
【0034】
負圧供給装置30は、縫製運転に伴って駆動され、所定の負圧で上糸3を開口部17bから連続的に吸引し、常に上糸3に張力を与える。このため、目飛びや糸切れ現象に起因して発生する弛み部分3aは、バッキュームパイプ31を介して透孔17aに働く負圧により開口部17bから外部に引き出され、屈曲変形して発光素子21と受光素子22との間に侵入する。
このように構成しても、実施例1と同様な効果が得られるが、負圧供給装置30は簡易なバキュームポンプでよいので、エア供給装置19と同様に、小型で簡素な構造になりコスト的に有利である。
【実施例3】
【0035】
図4は本発明の実施例3を示す。実施例3が実施例1と異なるところは、エア供給装置19の代りに、捩りスプリング32と電磁ソレノイド33とを張力付与手段として設け、光電スイッチ23に代わって近接センサ35を設けたことである。この場合、案内辺17の図示左側部は、開口部17bに連通する入口部17cを形成している。
【0036】
捩りスプリング32は、略Z字状に折曲されており、その上段の折曲部を縫製ミシン頭部2の支軸34に巻回し、一端32aを電磁ソレノイド33のプランジャー33aの下端に当接し、他端32bを幅広辺として入口部17c近傍で上糸3に当接している{図4(b)参照}。
電磁ソレノイド33のプランジャー33aの下方には、ストッパーピン33bが固定されており、後述する電磁ソレノイド33の通電時、プランジャー33aに押圧されて弾性変形した捩りスプリング32の一端32aが、ストッパーピン33bに当接して変位が止められる。
【0037】
縫製運転時には、電磁ソレノイド33は通電されて、プランジャー33aが伸びて捩りスプリング32の一端32aを押圧変形し、他端32bが弾性力により、支軸34の周りで図4(b)の矢印N方向に変形し、上糸3に連続的に摺接して上糸3に張力を付与する{図4(a)参照}。電磁ソレノイド33は、プランジャー33aで捩りスプリング32の一端32aを押圧変形できる簡易で小型のものでよい。
【0038】
捩りスプリング32の一端32aは、所定量だけ変位させているため、その一端32aには弾性力が蓄勢されている。目飛びSや糸切れの発生時には、上糸3に弛み部分3aが生じるので、捩りスプリング32の他端32bが押圧弾性力により、弛み部分3aを屈曲変形させ、入口部17cおよび開口部17bを介して外部に押し出し、近接センサ35に近接させて目飛びや糸切れ現象を検出させる{図4(c)参照}。
この場合、張力付与手段は、上糸3に張力を付与できる簡易な電磁ソレノイド33と捩りスプリング32とからなるため、小型で簡素な構造となりコスト的に有利である。
【実施例4】
【0039】
図5は本発明の実施例4を示す。実施例4が実施例1と異なるところは、縦形の案内辺17を横形の案内辺36にしたことである。案内辺36には、上糸3を挿通させた横方向の透孔36aが形成され、透孔36aに連通する開口部36bが下向きに形成されている。
案内辺36の上端側には、透孔36aに連通し、球体37が回転自在に配置されたドーム状の収容部36cが上向きに膨出形成されている。球体37は、ボール形の錘体として、例えば比重の大きい鉛球から成り、透孔36a内の上糸3に載置され、自重により常に上糸3に張力を付与している。
【0040】
縫製運転時には、上糸3の変位により球体37は上糸3に張力を与えながら上糸3上で転がっている。このため、目飛びや糸切れ現象に起因して発生する弛み部分3aは、球体37の自重で、二点鎖線で示すように、重力により開口部36bから球体37と一緒に落下することにより、屈曲変形して発光素子21と受光素子22との間に侵入する。
このように構成しても、実施例1と同様な効果が得られるが、張力付与手段が収容部36cと球体37から成るため、構造が簡素でコスト的に有利である。球体37は金属に限らず、プラスチック材やセラミック材により形成してもよい。
【実施例5】
【0041】
図6(a)は本発明の実施例5を示す。実施例5が実施例3と異なるところは、電磁ソレノイド33の代りにエアシリンダ38を設けたことである。
この場合、縫製運転時にエアシリンダ38が駆動されるため、エアシリンダ38のロッド38aが伸びて捩りスプリング32の一端32aを押圧して弾性変形させる。これに伴い、捩りスプリング32の他端32bが弾性力により、支軸34の周りで矢印M方向に変形し、上糸3に連続的に摺接して張力を付与する。
【0042】
目飛びSや糸切れの発生時には、上糸3に弛み部分3aが発生するため、弛み部分3aが捩りスプリング32の他端32bに弾性力による押圧で屈曲変形して目飛びSや糸切れが検出される。
実施例5の張力付与手段は、上糸3に張力を付与できる簡易なエアシリンダ38と捩りスプリング32とからなるため、小型で簡素な構造となりコスト的に有利である。
【実施例6】
【0043】
図6(b)は本発明の実施例6を示す。実施例6が実施例3と異なるところは、電磁ソレノイド33を省力したことである。
この場合、捩りスプリング32の一端32aを所定量だけ弾性変位させた状態で、ストッパーピン33bに下方から当接固定させて、捩りスプリング32の他端32bを弾性力により上糸3に連続的に摺接して張力を付与する。
【0044】
捩りスプリング32の一端32aは、所定量だけ変位しているため、その一端32aには弾性力が蓄勢されている。目飛びSや糸切れの発生時には、上糸3に弛み部分3aが生じるので、捩りスプリング32の他端32bが弾性力により、矢印K方向に変位し、二点鎖線で示すように弛み部分3aを屈曲変形させて入口部17cおよび開口部17bを介して外部に押し出し、近接センサ35に近接させて目飛びSや糸切れを検出する。
実施例6の張力付与手段は、簡易な捩りスプリング32から成るため、簡素な構造で入手し易い既存品を適用できて一層コスト的に有利である。
【実施例7】
【0045】
図6(c)は本発明の実施例7を示す。実施例7が実施例6と異なるところは、帯状の捩りスプリング32の他端32bをコ字状の枠体32cにし、幅方向に対向する桟32d(一方のみ図示)の間に鼓状のローラ39を回転自在に設けたことである。
この場合、上糸3がローラ39にその回転を伴いながら摺接するので、捩りスプリング32の他端32bに対する上糸3の摩擦が小さくなって円滑な摺接状態が得られる。
【0046】
(変形例)
(a)上記実施例3、5、6、7では、捩りスプリング32を用いたが、板ばねやクリップスプリングなどを使用してもよい。捩りスプリング32は、幅寸法の小さく、薄肉で細長な帯状に形成してもよいが、線状にして他端32bのみを上糸3に対する幅広な摺接端としてもよい。
【0047】
(b)上記実施例1−7では、釜14を有する本縫い単針の縫製装置を用いたが、2本針タイプや多針タイプの縫製装置に適用してもよい。本縫いタイプの縫製装置に限らず、単環縫いをはじめ、二重状純環縫い、縁かがり縫い、あるいは偏平縫いなどにも適用してもよい。
(c)検出手段としては、光電スイッチ23や近接センサ35に限らず、接触センサ、変位センサ、圧電(振動)センサなどであってもよく、要は屈曲変形する弛み部分3aの位置を検出できるものであればよい。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明では、縫製運転に伴って発生する目飛びや糸切れ現象は、上糸に所定長さの弛み部分を生じさせるが、弛み部分の位置を検出手段により検出する構成のため、弛み部分の位置の検出が目飛びや糸切れの有無に確実に対応し、目飛びや糸切れの検出を誤ることなく、高い精度で行うことができ、目飛びや糸切れの現象を確実に判別することが可能となる。このため、目飛びや糸切れ検出の有益性が業者の需要を喚起し、関連部品の流通を介して機械産業に適用することができる。
【符号の説明】
【0049】
1 縫製装置
3 上糸(縫い糸)
3a 弛み部
5 第1糸調子
6 第2糸調子(押圧機構)
7 天秤機構
8 検出装置(目飛び糸切れチェック装置)
10 縫い針
14 釜
16 下糸(縫い糸)
19 エア供給装置(張力付与手段)
21 発光素子(検出手段)
22 受光素子(検出手段)
23 光電スイッチ(検出手段)
30 負圧供給装置(張力付与手段)
32 捩りスプリング(張力付与手段)
32a 捩りスプリングの一端
32b 捩りスプリングの他端
33 電磁ソレノイド(張力付与手段)
33a プランジャー
36c 収容部
37 球体(錘体、張力付与手段)
38 エアシリンダ(張力付与手段)
38a ロッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
布に対して縫い目形成を行うために往復運動する縫い針と、
前記縫い針に係合した縫い糸に張力を付与する押圧機構と、
前記縫い糸に係合して前記縫い針と連動する往復運動を行う天秤機構を備えた縫製装置の目飛び糸切れチェック装置において、
前記縫い糸に対して張力を付与する張力付与手段と、縫製運転に伴って前記縫い糸に生じた弛み部分を前記張力付与手段により屈曲変形させて前記弛み部分の位置を検出する検出手段とを有する検出装置を具備し、
前記検出装置を前記押圧機構から前記縫い針の先端までの糸経路内に設けたことを特徴とする縫製装置の目飛び糸切れチェック装置。
【請求項2】
前記張力付与手段は、縫製運転時に所定の風圧を前記縫い糸に連続的に付与するエア供給装置であることを特徴とする請求項1に記載の縫製装置の目飛び糸切れチェック装置。
【請求項3】
前記張力付与手段は、縫製運転時に所定の負圧で前記縫い糸を連続的に吸引する負圧供給装置であることを特徴とする請求項1に記載の縫製装置の目飛び糸切れチェック装置。
【請求項4】
前記張力付与手段は、捩りスプリングと電磁ソレノイドとを有し、縫製運転時に前記電磁ソレノイドを通電することにより、前記電磁ソレノイドのプランジャーが伸びて前記捩りスプリングの一端を押圧弾性変形し、前記捩りスプリングの他端が押圧弾性力により前記縫い糸に連続的に摺接することを特徴とする請求項1に記載の縫製装置の目飛び糸切れチェック装置。
【請求項5】
前記張力付与手段は、捩りスプリングとエアシリンダとを有し、縫製運転時に前記エアシリンダを駆動することにより、前記エアシリンダのロッドが伸びて前記捩りスプリングの一端を押圧弾性変形し、前記捩りスプリングの他端が押圧弾性力により前記縫い糸に連続的に摺接することを特徴とする請求項1に記載の縫製装置の目飛び糸切れチェック装置。
【請求項6】
前記張力付与手段は、捩りスプリングを有し、前記捩りスプリングの一端を所定量だけ弾性変位させた状態で固定することにより、前記捩りスプリングの他端を弾性力により前記縫い糸に連続的に摺接させることを特徴とする請求項1に記載の縫製装置の目飛び糸切れチェック装置。
【請求項7】
前記張力付与手段は、上向きに膨出形成されたドーム状の収容部と、前記収容部内の前記縫い糸上に回転自在で連続的に摺接し、常に自重により前記縫い糸に張力を付与する球状の錘体とを有することを特徴とする請求項1に記載の縫製装置の目飛び糸切れチェック装置。
【請求項8】
前記検出装置の前記検出手段は、前記弛み部分の有無を判別するために、受光素子と発光素子とを有する光電センサを設けたことを特徴とする請求項1に記載の縫製装置の目飛び糸切れチェック装置。
【請求項9】
前記検出装置の前記検出手段は、前記弛み部分の有無を判別するために設けた近接センサであることを特徴とする請求項1に記載の縫製装置の目飛び糸切れチェック装置。
【請求項10】
前記検出装置の前記検出手段は、前記弛み部分の有無を判別するために設けた接触センサであることを特徴とする請求項1に記載の縫製装置の目飛び糸切れチェック装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−120868(P2011−120868A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176610(P2010−176610)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(594058735)木下精密工業株式会社 (4)
【Fターム(参考)】