説明

繊維強化成形体

【課題】植物由来原料を主成分とし、実質的に非生分解性の耐熱性、強度、剛性、耐久性に優れる繊維強化成形体、並びに、自動車部品又は家電部品を提供することを目的とする。
【解決手段】乳酸系樹脂を主成分とする生分解性樹脂(A)と、アラミド繊維及び/又はLCP繊維(B)と、加水分解防止剤(C)とを含有し、A:B=60:40〜99:1(質量比)、かつ、(A+B):C=100:0.1〜100:5.0(質量比)である繊維強化成形体を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、植物由来原料を主成分とし、耐熱性、強度、剛性、耐久性に優れる繊維強化成形体、並びに、自動車部品又は家電部品に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、プラスチックは、その優れた加工性や物性から、包装材、日用品、農業土木軽資材、家電部品、自動車部品等に広く使用されている。その一方で、枯渇性資源である石油を原料としている点が大きな社会問題になっている。
【0003】
これらの問題を解決するために、植物由来の生分解性プラスチックが、実用化され始めている。代表的な製品例としては、乳酸系樹脂がある。乳酸系樹脂は、とうもろこしや砂糖大根を原料とし発酵を行って得られる乳酸を重合したプラスチックである。
ところが、乳酸系樹脂は、特許文献1〜2に開示されるように、包装材や日用品のような消費材としての実用化例は多数あるが、家電部品や自動車部品のような耐久材として高度な要求特性が求められる分野には、使用実績はほとんどない。この1つの理由としては、家電部品や自動車部品として使用する場合には、この用途で広く使われているABS樹脂やフィラー充填PP樹脂と比べて、乳酸系樹脂は耐熱性、強度、剛性、耐久性が乏しいからである。
【0004】
これに対し、特許文献3には、耐熱性の改良方法が開示されるなど、いくつかの改良方法が知られている。また、特許文献4〜5には、生分解性樹脂と天然繊維の複合体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−207041号公報
【特許文献2】特開平7−308961号公報
【特許文献3】特開平8−193165号公報
【特許文献4】特開平9−169897号公報
【特許文献5】特開2002−146219号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献3には、家電部品や自動車部品として総合的に物性を改良する方法は開示されていない。また、上記特許文献4〜5には、生分解性樹脂と天然繊維の複合体が開示されているが、強度や耐久性の面で全く十分と言えなかった。
さらにまた、これらの各特許文献は、生分解性を大きな特徴として挙げているが、家電部品や自動車部品としては、実質的に非生分解性のものが求められている。
【0007】
そこでこの発明は、植物由来原料を主成分とし、実質的に非生分解性の耐熱性、強度、剛性、耐久性に優れる繊維強化成形体、並びに、自動車部品又は家電部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、乳酸系樹脂を主成分とする生分解性樹脂(A)と、アラミド繊維及び/又はLCP繊維(B)と、加水分解防止剤(C)とを含有し、A:B=60:40〜99:1(質量比)、かつ、(A+B):C=100:0.1〜100:5.0(質量比)である繊維強化成形体を用いることにより、上記課題を解決したのである。
【0009】
乳酸系樹脂に所定の繊維及び加水分解防止剤を含有させるので、耐熱性、強度、剛性、耐久性等を向上させることができる。
【発明の効果】
【0010】
この発明によると、植物由来原料を主成分とし、実質的に非生分解性の耐熱性、強度、剛性、耐久性に優れる繊維強化成形体、並びに、自動車部品又は家電部品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下において、この発明について詳細に説明する。
この発明における生分解性樹脂とは、乳酸系樹脂を主成分とする樹脂である。この乳酸系樹脂とは、構造単位がL−乳酸であるポリL−乳酸、構造単位がD−乳酸であるポリD−乳酸、構造単位がL−乳酸及びD−乳酸である、ポリDL−乳酸やこれらの混合体をいい、さらには、α−ヒドロキシカルボン酸やジオール/ジカルボン酸との共重合体であってもよい。
【0012】
上記乳酸系樹脂のDL構成は、L体:D体=100:0〜90:10、又は、L体:D体=0:100〜10:90が必要である。かかる範囲外では、部品の耐熱性が得られにくく、用途が制限されることがある。
【0013】
上記乳酸系樹脂の重合法としては、縮重合法、開環重合法など公知のいずれの方法を採用することができる。例えば、縮重合法ではL−乳酸又はD−乳酸、あるいはこれらの混合物を直接脱水縮重合して任意の組成を持った乳酸系樹脂を得ることができる。
【0014】
また、開環重合法では乳酸の環状二量体であるラクチドを、必要に応じて重合調整剤等を用いながら、選ばれた触媒を使用してポリ乳酸系重合体を得ることができる。ラクチドにはL−乳酸の2量体であるL−ラクチド、D−乳酸の2量体であるD−ラクチド、さらにL−乳酸とD−乳酸からなるDL−ラクチドがあり、これらを必要に応じて混合して重合することにより任意の組成、結晶性をもつ乳酸系樹脂を得ることができる。
【0015】
さらに、耐熱性を向上させるなどの必要に応じ、少量共重合成分として、テレフタル酸のような非脂肪族ジカルボン酸及び/又はビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物のような非脂肪族ジオールを用いてもよい。
さらにまた、分子量増大を目的として少量の鎖延長剤、例えば、ジイソシアネート化合物、エポキシ化合物、酸無水物などを使用できる。
【0016】
上記乳酸系樹脂に共重合される上記の他のヒドロキシ−カルボン酸単位としては、乳酸の光学異性体(L−乳酸に対してはD−乳酸、D−乳酸に対してはL−乳酸)、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシn−酪酸、2−ヒドロキシ3,3−ジメチル酪酸、2−ヒドロキシ3−メチル酪酸、2−メチル乳酸、2−ヒドロキシカプロン酸等の2官能脂肪族ヒドロキシ−カルボン酸やカプロラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン等のラクトン類が挙げられる。
【0017】
乳酸系樹脂に共重合される上記脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール,1,4−シクロヘキサンジメタノール等があげられる。また、上記脂肪族ジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸及びドデカン二酸等が挙げられる。
【0018】
共重合で最も好ましいのは、ブロック共重合である。ポリ乳酸セグメントをA、例えばジオールジカルボン酸セグメントをBとすると、典型的にABAブロックコポリマーとすることにより、透明性と耐衝撃性を具備したポリマーとすることができる。この場合、Bのセグメントのガラス転移温度(Tg)は、0℃以下であることが、耐衝撃性の発現上好ましい。
【0019】
上記生分解性樹脂(A)として用いられる樹脂としては、上記の乳酸系樹脂以外に、必要に応じて、ガラス転移点Tgが0℃以下である脂肪族ポリエステル及び/又は芳香族脂肪族ポリエステルを乳酸系樹脂に5〜50質量部混合することができる。これを混合させることによって、上記生分解性樹脂(A)に耐衝撃性を付与することができる。ガラス転移点Tgが0℃を越えると、耐衝撃性改良効果が乏しい。
【0020】
上記脂肪族ポリエステル及び/又は芳香族脂肪族ポリエステルとしては、乳酸系樹脂を除く脂肪族ポリエステル樹脂、例えば、脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸及び/又は芳香族ジカルボン酸を縮合して得られる脂肪族ポリエステル及び/又は脂肪族芳香族ポリエステル、並びに、環状ラクトン類を開環重合した脂肪族ポリエステル等が挙げられる。
【0021】
上記肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸及び/又は芳香族ジカルボン酸を縮合して得られる脂肪族ポリエステル及び/又は芳香族脂肪族ポリエステルは、脂肪族ジオールであるエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等と、脂肪族ジカルボン酸であるコハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等、及び/又は、芳香族ジカルボン酸であるテレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の中から、それぞれ1種類以上選んで縮合重合して得られる。必要に応じてイソシアネート、エポキシ化合物等でジャンプアップして所望のポリマーを得ることができる。具体的には、昭和高分子(株)製ビオノーレ、イレケミカル社製Enpole、三菱ガス化学(株)製ユーペック、イーストマンケミカル社製Easterbio、BASF社製Ecoflex等が、挙げられる。
【0022】
上記環状ラクトン類を開環重合した脂肪族ポリエステルとしては、環状モノマーであるε−カプロラクトン、δ−バレロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトン等が代表的に挙げられ、これらから1種類以上選ばれて重合される。
【0023】
この発明においては、上記生分解性樹脂(A)と、アラミド繊維及び/又はLCP繊維(B)と、加水分解防止剤(C)とを、A:B=60:40〜99:1(質量比)、(A+B):C=100:0.1〜100:5.0(質量比)で混合することが重要である。
【0024】
上記生分解性樹脂(A)、特に乳酸系樹脂は、溶融成形時に加水分解を起こしやすいので、あらかじめ乾燥するか、真空ベント押出工程を経ることが望ましい。
【0025】
上記アラミド繊維は、ポリパラフェニレンテレフタラミドや、コポリパラフェニレン・3.4‘オキシジフェニレン・テレフタラミド等の芳香族アミド構造を有する樹脂からなる繊維である。具体例としては、デュポン社製「ケブラー」、帝人テクノプロダクツ(株)製「テクノーラ」、「トワロン」等がある。これらは、通常、アラミド原料を硫酸やN−メチルピロリドンに溶解させ、湿式紡糸することにより繊維に成形される。
【0026】
また、LCP(液晶樹脂(Liquid Crystal Polymer))繊維は、溶融時に液晶性を示す樹脂からなる繊維であり、この樹脂は通常溶融時に液晶性を示すポリエステルを指す。溶融時に液晶性を示すポリエステルとは、90°直交した2枚の偏光板の間にある加熱試料台上にポリエステル試料粉末を置いて昇温していった時に流動可能な温度域において、光を透過しうる性質を有するものを意味している。
【0027】
このような芳香族ポリエステルとしては、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール及び/又は芳香族ヒドロキシカルボン酸やこれらの誘導体からなるもので、場合によりこれらと脂環族ジカルボン酸、脂環族ジオール、脂肪族ジオールやこれらの誘導体との共重合体も含まれる。
【0028】
ここで、上記芳香族ジカルボン酸としてはテレフタル酸、イソフタル酸、4,4′ジカルボキシジフェニル、2,6−ジカルボキシナフタレン、1,2−ビス(4−カルボキシフェノキシ)エタン等やこれらのアルキル、アリール、アルコキシ、ハロゲン基の核置換体があげられる。芳香族ジオールとしてはヒドロキノン、レゾルシン、4,4′−ジヒドロキシジフェニル、4,4′−ジヒドロキシベンゾフェノン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルメタン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルエタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、2,6−ジヒドロキシナフタレン、1,5−ジヒドロキシナフタレン等やこれらのアルキル、アリール、アルコキシ、ハロゲン基等の核置換体があげられる。
【0029】
上記芳香族ヒドロキシカルボン酸としてはp−ヒドロキシ安息香酸、m−ヒドロキシ安息香酸、2−ヒドロキシナフタレン−6−カルボン酸、1−ヒドロキシナフタレン−5−カルボン酸等やこれらのアルキル、アリール、アルコキシ、ハロゲン基の核置換体があげられる。脂環族ジカルボン酸としては、trans−1,4−ジカルボキシシクロヘキサン、cis−1,4−ジカルボキシシクロヘキサン等やこれらのアルキル、アリール、ハロゲン基の置換体があげられる。脂環族及び脂肪族ジオールとしてはtrans−1,4−ジヒドロキシシクロヘキサン、cis−1,4−ジヒドロキシシクロヘキサン、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、キシリレンジオール等があげられる。
【0030】
LCPの繊維は、通常これらのポリエステル原料を溶融紡糸することにより得られる。
【0031】
繊維の具体例としては、ヒドロキシ安息香酸とヒドロキシナフタレンカルボン酸からなる(株)クラレ製「ベクトラン」や、ヒドロキシ安息香酸を主成分とした住友化学工業(株)製「エコノール繊維」等が挙げられる。
【0032】
この発明においては、生分解性樹脂(A)と上記アラミド繊維及び/又はLCP繊維(B)を、A:B=60:40〜99:1(質量比)、好ましくは、A:B=70:30〜95:5(質量比)の割合で混合することが重要である。上記繊維がかかる範囲を下回ると、耐熱性、強度、剛性を改良する効果が乏しく、自動車部品、家電部品として好適な物性を有しない。上回る場合には、成形機へのフィード不良や溶融樹脂の流動性が不良になり、成形加工性に損なわれる。
【0033】
上記アラミド繊維及び/又はLCP繊維の直径としては、1〜40μm、好ましくは5〜20μmであることが望ましい。かかる範囲を下回ると、繊維の価格が上がり経済性が低下したり、嵩密度の低下によりハンドリング性が低下する。逆に上回ると、乳酸系樹脂の強度改良効果が低下する。
【0034】
上記アラミド繊維及び/又はLCP繊維の長さとしては、0.5〜30mm、好ましくは、1〜10mm、さらに好ましくは、2〜6mmであることが望ましい。かかる範囲を下回ると、乳酸系樹脂の耐熱性や強度の改良効果が乏しく、逆に上回ると、成形機のホッパーでブリッジを起こすなど作業性が低下したり、溶融特性を著しく阻害する等の問題を生ずる。
【0035】
上記アラミド繊維及び/又はLCP繊維の形態としては、上記直径と長さを有する範囲で、ステープル、カットフィラメント、チョップドストランド、チョップドストランドマット、パルプ等、任意の形態をとることができる。
【0036】
乳酸系樹脂に対する分散性や接着性の改良を目的として、上記アラミド繊維及び/又はLCP繊維に表面処理剤を塗布することもできる。表面処理剤としては、エポキシ基、カルボキシル基、カルボニル基、オキサゾニル基、水酸基、アミノ基などを2個以上持った化合物、例えば、EGMA−δ−As酸無水物変性ポリスチレン、酸無水物変性ポリオレフィン、EGMG、エポキシ樹脂、酸無水物変性ポリエステル、フェノギン樹脂、ジニトロアミン、酸無水物変性ポリエステルなどが好ましい。
【0037】
上記アラミド繊維及び/又はLCP繊維を乳酸系樹脂へ混合する方法としては、特に限定されないが、とりわけ以下の2つの方法が好ましい。一つ目の方法は、あらかじめ所定の長さを有するカット繊維やステープルを2軸押出機や溶融ミキサーを用いて、乳酸系樹脂に練り込んでコンパウンドを作製する方法である。この時、繊維を押出機にフィードするにあたり、まず乳酸系樹脂のみを溶融させた後、サイドフィーダー等で2軸押出機の半ばから繊維をフィードしてもよい。
【0038】
また、二つ目の方法は、連続フィラメントや連続ステープルヤーンを巻き出し、乳酸系樹脂をクロスヘッドダイから押し出すと同時に繊維に樹脂を、被覆・含浸させるという、いわゆる引き抜き成形法を利用したものである。引き抜き成形されたストランドは、ペレットカッター等により、適当なサイズにカットされ樹脂ペレットとされる。樹脂ペレットに含まれる繊維の長さは、樹脂ペレットの長さとほぼ同等に制御される。
【0039】
次に、この発明においては、乳酸系樹脂(A)と、アラミド繊維及び/又はLCP繊維(B)と、加水分解防止剤(C)が、(A+B):C=100:0.1〜100:5.0(質量比)となるように、加水分解防止剤が処方されることが重要である。
【0040】
上記添加量を下回る場合には、耐久性が低下し、同時に非生分解性が損なわれる。かかる範囲を上回る場合には、カルボジイミド化合物のブリードアウトによる成形体の外観不良や、可塑化による機械物性の低下が起こる。
【0041】
上記加水分解防止剤としては、エポキシ化合物、イソシアネート化合物、酸無水物、オキサゾリン化合物、メラミン化合物等が挙げられるが、最も好適に用いられるのは、下記構造式(1)を有するカルボジイミド化合物である。
−(N=C=N−R−)n− (1)
(上記式(1)において、nは1以上の整数を示す。Rはその他の有機系結合単位を示す。これらのカルボジイミド化合物は、Rの部分が、脂肪族、脂環族、芳香族のいずれかでもよい。)
通常nは1〜50の間で適宜決められる。
【0042】
上記構造式(1)を有するカルボジイミド化合物の具体的としては、ビス(ジプロピルフェニル)カルボジイミド、ポリ(4,4′−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(p−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリルカルボジイミド)、ポリ(ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(メチル−ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)等、及び、これらの単量体があげられる。このカルボジイミド化合物は、単独、又は、2種以上組み合わせて用いられる。
【0043】
カルボジイミド化合物の具体例としては、ラインケミー社製「スタバクゾール」、日清紡社製「カルボジライト」等が挙げられる。
【0044】
この発明にかかる繊維強化成形体を、自動車部品、家電部品用に使用する場合、無機充填材、結晶化促進剤、難燃剤、帯電防止剤等を処方することが好ましい。
【0045】
上記無機充填材としては、剛性、耐摩擦性、耐熱性(結晶化促進効果もあり)等の向上を目的として、上記繊維強化成形体100重量部に対し、20重量部以下の範囲で添加することができる。具体的には、シリカ、タルク、カオリン、クレー、アルミナ、非膨潤性マイカ、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸マグネシウム、珪藻土、アスベスト、ガラス繊維、金属粉等が例示される。添加量が、20重量部を上回ると、衝撃強度、成形加工性、耐加水分解性等が低下する傾向にあり、好ましくない。
【0046】
また、無機充填材として、層状珪酸塩を活用することもできる。層状珪酸塩は、乳酸系樹脂とナノコンポジットを形成し、部品の耐熱性や剛性を飛躍的に向上させる。また、平板粒子が整列することで、樹脂内部への水の進入を困難にし、耐加水分解性やガスバリア性も向上させる。ただし、層状珪酸塩は、樹脂中にナノ分散した場合においては、粘度の上昇により溶融成形性を著しく低下させるので、添加量としては、上記繊維強化成形体100重量部に対し、10重量部、好ましくは、5重量部が限度である。
【0047】
上記結晶化促進剤としては、タルク、カオリン、炭酸カルシウム、ベントナイト、マイカ、セリサイト、ガラスフレーク、黒鉛、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、三酸化アンチモン、硫酸バリウム、ホウ酸亜鉛、含水ホウ酸カルシウム、アルミナ、マグネシア、ウォラストナイト、ゾノトライト、セピオライト、ウィスカー、ガラス繊維、金属粉末、ビーズ、シリカバルーン、シラスバルーンなどがあげられる。また、上記結晶化促進剤の表面をチタン酸、脂肪酸、シランカップリング剤などで処理することにより樹脂との接着性を向上させ、結晶化促進効果を向上させることも可能である。
結晶化促進剤の配合量としては、上記繊維強化成形体100重量部に対し、0.1〜5質量部配合することがより好ましい。かかる範囲を下回ると結晶化促進効果が得られず、上回る場合には、衝撃強度、成形加工性、耐加水分解性等が低下する傾向にあり、好ましくない。
【0048】
上記難燃剤としては、ノンハロゲン系の水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、カルシウムアルミネートシリケート、ホウ酸亜鉛、スズ酸亜鉛、ポリリン酸塩、メラミンシアヌレート、ジメラミンフォスフェート、メラミンボレート、スルファミン酸グアニシン、リン酸グアニジン、リン酸グアニール、赤リン、ビニルフォスフェートオリゴマー、トリフェニルフォスフェート、クレジルジフェニルフォスフェート、ポリリン酸アンモン、シリコーンオイル、シリコーンゴム、シリコーン樹脂、酸化鉄、フェロセン、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化銅、酸化モリブデン、酸化ビスマス、酸化珪素、酸化ニッケル、酸化ジルコニウム等を好適に用いることができる。添加量は、難燃剤の効果を見ながら決められるが、上記繊維強化成形体100重量部に対し、10〜60質量部、好ましくは、15〜50質量部の範囲で決められる。かかる範囲を下回ると、難燃効果が発揮されず、逆に上回ると、加工時の流動特性や、成形体の強度や耐衝撃性が損なわれる。
【0049】
上記帯電防止剤としては、溶融成形中の加水分解防止の観点から下記の(1)〜(3)の化合物から選ばれることが好ましい。添加量としては、上記繊維強化成形体100重量部に対し、0.1〜10重量部、好ましくは、0.3〜4.0重量部である。かかる範囲を下回ると効果が発現せず、上回るとブリードアウトによる成形体の外観不良や、可塑化による機械物性の低下や、耐久性の低下が起こる。
【0050】
(1)エチレングリコール・ジエチレングリコール・トリエチレングリコール・グリセリン・トリメチロールプロパン・ペンタエルスリット・ソルビット等の多価アルコール及び/又はその脂肪酸エステル。
(2)ポリエチレングリコール及び/又はその脂肪酸エステル。
(3)高級アルコール・多価アルコール・アルキルフェノールのポリエチレングリコール付加物、又はポリプロピレングリコール付加物。
【0051】
また、この発明の効果を損なわない範囲で、熱安定剤、核剤、抗酸化剤、UV吸収剤、光安定剤、滑剤、顔料、染料、可塑剤などの添加剤を処方することができる。
【0052】
この発明においては、部品の成形法、及び成形装置は、既知の方法、装置を採用することができるが、部品形状に合わせ、射出成形、押出成形、プレス成形、ブロー成形、SMC法が好適に用いられる。
【0053】
射出成形を行う場合においては、熱可塑性樹脂用の一般射出成形法、ガスアシスト成形法、射出圧縮成形法等の射出成形法を採用することができる。その他目的に合わせて、上記の方法以外でインモールド成形法、ガスプレス成形法、2色成形法、サンドイッチ成形法、PUSH−PULL、SCORIM等を採用することもできる。
【0054】
射出成形装置は一般射出成形機、ガスアシスト成形機及び射出圧縮成形機等と、これらに用いられる成形用金型及び付帯機器、金型温度制御装置及び原料乾燥装置等から構成される。成形条件は射出シリンダー内での樹脂の熱分解を避けるため、溶融樹脂温度を170℃〜210℃の範囲で成形することが好ましい。
【0055】
射出成形体を非晶状態で得る場合は、成形サイクル(型閉〜射出〜保圧〜冷却〜型開〜取出)の冷却時間を短くする点から金型温度はできるだけ低温とする事が好ましい。一般的には15℃〜55℃で、チラーを用いることも望ましい。しかし、後結晶化時の成形体の収縮及び反り、変形を抑える点ではこの範囲で高温とすることが有利である。
【0056】
また、成形品にさらなる耐熱性を付与するために、成形時の金型内、又は/及び、金型から取り出した後に結晶化処理を行うことが有効である。金型内で結晶化させる場合、加熱した金型内に溶融樹脂を充填した後、一定時間金型内で保持する。金型温度としては、80℃〜130℃、好ましくは90℃〜120℃、冷却時間としては、1〜300秒、好ましくは5〜30秒である。かかる温度、冷却時間にて金型内で結晶化処理を行うことで、射出成形体の耐熱性をさらに向上することができる。
【0057】
また、金型から成形体を取り出した後に結晶化させる場合、熱処理温度は、60〜130℃の範囲が好ましく、70〜90℃の範囲がより好ましい。熱処理温度が60℃より低い場合、成形行程において結晶化が進行せず、130℃より高い場合は、成形体の冷却時において変形や収縮を生じる。加熱時間は組成、及び熱処理温度によって適宜決められるが、例えば、70℃の場合は15分〜5時間熱処理を行う。また、130℃の場合は10秒〜30分熱処理を行う。
【0058】
結晶化の方法としては、事前に温度の上げられた金型で成形し、金型内で結晶化させる方法や、成形後に金型の温度を上げ金型内で結晶化させる方法、あるいは、成形体を非晶状態で金型から取り出した後、熱風、蒸気、温水、遠赤外線ヒーター、IHヒーターなどで結晶化させる方法があげられる。この時、成形体の変形を防止するために、金型、樹脂型などで固定することが好ましい。また、生産性を考慮に入れて、梱包した状態で熱処理を行うこともできる。
【0059】
この発明にかかる繊維強化成形体は、自動車部品、及び家電部品として利用することができる。具体的な自動車部品の例としては、フロントバンパー、フェーシャ、フェンダー、サイドガーニッシュ、ピラーガーニッシュ、リアスポイラー、ボンネット、ラジエータグリル、ドアハンドル、ヘッドランプレンズ、インパネ、トリム、エアクリーナーケース、吸気ダクト、サージタンク、燃料タンク、インテークマニホールド、ディストリビューター部品、燃料噴射部品、電装コネクター、エンジンロッカーカバー、エンジンオーナメントカバー、タイミングベルトカバー、ベルトテンショナープーリー、チェインガイド、カムスプロケット、ジェネレーターボビン、内板、ドアパネル、ドアボード、天井材等が挙げられる。
【0060】
また、具体的な家電部品の例としては、筐体、キャビネット、ローラー、ファン、軸受け、プリント基板、コネクター、バルブ、ケース、シールド板、ボタン、スイッチハンドル等が挙げられる。
【実施例】
【0061】
以下に実施例を示すが、これらによりこの発明は何ら制限を受けるものではない。なお、実施例中に示す測定値は次に示すような条件で測定を行い、算出した。
【0062】
(1)荷重たわみ温度(耐熱性)
JISK−7191に基づいてL120mm×W11mm×t3mmの試験片を作成し、東洋精器社製S−3Mを用いて荷重たわみ温度(HDT)の測定を行った。測定は、フラットワイズ方向、試験片に加える曲げ応力45.1N/cm2の条件で行った。
【0063】
(2)曲げ強さ、曲げ弾性率(剛性)
JISK−7171に基づいてL80mm×W10mm×t4mmの試験片を作成し、インテスコ社製精密万能材料試験機MODEL2010を用いて曲げ強さ、及び、曲げ弾性率の測定を行った。
【0064】
(3)乳酸系樹脂の重量平均分子量
東ソー(株)製ゲルパーミエーションクロマトグラフィーHLC−8120GPCに、(株)島津製作所製クロマトカラムShim−PackシリーズのGPC−800CPを装着し、溶媒クロロホルム、溶液濃度0.2wt/vol重量%、溶液注入量200μl、溶媒流速1.0ml/分、溶媒温度40℃で測定を行い、ポリスチレン換算で、乳酸系樹脂の重量平均分子量を算出した。用いた標準ポリスチレンの重量平均分子量は、2000000、670000、110000、35000、10000、4000、600である。
【0065】
(4)コンポスト分解試験(耐生分解性/耐久性)
家庭用コンポスター(静岡製機(株)製 商品名:エコロンポEC−25D)に、園芸用の腐葉土10Kgと、ドッグ・フード(日本ペットフード(株)製 商品名:ビタワン)5kgを混合して入れ、さらに水500mlを加え、厚み200mmの埋土とした。試験サンプルを埋土の底面から50mmの高さに配置して埋設した。内部を58℃に保ち、毎日200mlの水を追加して、10週間テストを行った。テストの前後の重量平均分子量を測定し、下記の式から重量平均分子量保持率を算出し、下記の基準で評価した。
重量平均分子量保持率=(コンポスト試験後の重量平均分子量)/(コンポスト試験前の重量平均分子量)×100(%)
耐生分解性:○…重量平均分子量保持率:90〜100%
△…重量平均分子量保持率:60〜 89%
×…重量平均分子量保持率: 0〜 59%
【0066】
(実施例1)
L体:D体=99:1であるカーギル・ダウ社製乳酸系樹脂:NatureWorks4031D(重量平均分子量20万)(A)と、帝人テクノプロダクツ社製アラミド繊維:テクノーラチョップドファイバーT−320(平均直径12μm、平均長さ3mm)(B)と、ラインケミー社製カルボジイミド化合物:スタバクゾールI(ビス(ジプロピルフェニル)カルボジイミド)(C)と、結晶化促進剤として、日本タルク社製タルク:ミクロエースL(D)とを、A:B=80:20(重量%)、(A+B):C:D=100:2:3(質量部)になるように調合し、ヘンシェルミキサーでブレンドし、熱風オーブン中で70℃で5時間乾燥させた後、三菱重工業(株)製40mmφ小型同方向二軸押出機を用いて、180℃でコンパウンドし、ペレット形状にした。
【0067】
得られたペレットを東芝機械(株)製射出成形機 IS50E(スクリュー径25mm)を用い、L100mm×W100mm×t3mm、4mmの板材を射出成形した。主な成形条件は以下の通り。
1)温度条件:シリンダー温度(195℃) 金型温度(20℃)
2)射出条件:射出圧力(115MPa) 保持圧力(55MPa)
3)計量条件:スクリュー回転数(65rpm) 背圧(15MPa)
【0068】
次に、射出成形体をベーキング試験装置(大栄科学精器製作所製DKS−5S)内に静置して、70℃で3.5時間熱処理を行い、結晶化を促進させた。4mm板を用いて、曲げ強度、引張り弾性率、耐生分解性の評価を、3mm板を用いて荷重たわみ温度の評価を行った。結果を表1に示す。
【0069】
(比較例1)
乳酸系樹脂(A)と、アラミド繊維(B)と、カルボジイミド化合物(C)と、結晶化促進剤(D)を、A:B=100:0(重量%)、(A+B):C:D=100:2:3(質量部)と変更する以外は、実施例1と同様の方法で、板材を得た。評価結果を表1に示す。
【0070】
(比較例2)
乳酸系樹脂(A)と、アラミド繊維(B)と、カルボジイミド化合物(C)と、結晶化促進剤(D)を、A:B=50:50(重量%)、(A+B):C:D=100:2:3(質量部)と変更するのみで、コンパウンドを実施しようとしたが、ヘンシェルミキサーでも均一に分散できず、また、2軸押出機のフィードが安定せず、コンパウンド不能であった。
【0071】
(実施例2)
ヒドロキシ安息香酸を主成分とするLCP原料である住化スーパーE6000(ニート)を、シリコープラ工業社製30mmφ単軸押出機を用いて、紡糸温度390℃、引き取り速度300m/minで溶融紡糸し、ボビンに巻き取った。紡糸口金は、孔径0.07mm、孔長0.14mm、孔数300のものを用い、得られた繊維の平均直径は17μmであった。
次に、L体:D体=99:1であるカーギル・ダウ社製乳酸系樹脂:NatureWorks4031D(重量平均分子量20万)(A)と、ラインケミー社製カルボジイミド化合物:スタバクゾールP(ポリ(ジプロピルフェニル)カルボジイミド)(C)と、結晶化促進剤として、日本タルク社製タルク:ミクロエースL1(D)を、A:C:D=100:3:3(質量部)になるように調合し、ヘンシェルミキサーでブレンドし、熱風オーブン中で70℃で5時間乾燥させた後、引き抜き成形用クロスヘッドダイを連結したシリコープラ工業社製30mmφ単軸押出機にフィードする一方で、先に得られたLCP繊維のマルチフィラメント5組をそれぞれのボビンから巻き出し、クロスヘッドダイのホールに通して、樹脂温180℃でLCP繊維マルチフィラメントに樹脂被覆・含浸を行い、水槽で冷却した後、ペレットカッターを通した。得られたペレット原料の平均直径は1.5mm、平均長さは3mmであった。また、ペレット中の乳酸系樹脂(A)に対するLCP繊維(B)の割合は、A:B=80:20(重量%)であった。したがって、(A+B):C:D=100:2.5:2.5となる。
このペレット原料を用い、実施例1と同様の方法で射出成形を行い評価を行った。結果を表1示す。
【0072】
(比較例3)
L体:D体=99:1であるカーギル・ダウ社製乳酸系樹脂:NatureWorks4031D(重量平均分子量20万)(A)と、結晶化促進剤として、日本タルク社製タルク:ミクロエースL1(D)を、A:D=100:3(質量部)とする以外は、実施例2と同様の方法で、板材を得た。したがって、A:B=80:20(重量%)、(A+B):C:D=100:0:2.5となる。評価結果を表1に示す。
【0073】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸系樹脂を主成分とする生分解性樹脂(A)と、アラミド繊維及び/又はLCP繊維(B)と、加水分解防止剤(C)とを含有し、
A:B=60:40〜99:1(質量比)、かつ、(A+B):C=100:0.1〜100:5.0(質量比)であり、
上記アラミド繊維及び/又はLCP繊維(B)の直径は1〜40μmである繊維強化成形体。
【請求項2】
上記加水分解防止剤(C)が、カルボジイミド化合物である請求項に記載の繊維強化成形体。
【請求項3】
自動車部品又は家電部品として使用される、請求項1又は2に記載の繊維強化成形体。
【請求項4】
乳酸系樹脂を主成分とする生分解性樹脂(A)と、アラミド繊維及び/又はLCP繊維(B)と、加水分解防止剤(C)とを、A:B=60:40〜99:1(質量比)、かつ、(A+B):C=100:0.1〜100:5.0(質量比)の割合で混合、乾燥した後にペレット化し、
次いで、成形した後、結晶化処理を行うことにより、乳酸系樹脂を主成分とする生分解性樹脂を用いた成形体に耐生分解性を付与する方法。

【公開番号】特開2009−161780(P2009−161780A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−107623(P2009−107623)
【出願日】平成21年4月27日(2009.4.27)
【分割の表示】特願2003−191907(P2003−191907)の分割
【原出願日】平成15年7月4日(2003.7.4)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】