説明

繊維強化棒状体および繊維強化筒状体ならびにこれらの製造方法および製造装置

【課題】曲げ剛性に優れ、軽量な繊維強化棒状体および繊維強化筒状体、ならびにこれらの繊維強化棒状体および繊維強化筒状体を高生産性の下で製造することができる連続製造方法および連続製造装置を提供する。
【解決手段】硬化性または固化性を有するマトリックスを含有する強化繊維シート基材を長手方向に引き取りながら凹状に折り曲げ、該凹状に折り曲げた凹部に流動体を供給して前記強化繊維シート基材で前記流動体を包み込んだ後、該強化繊維シート基材のマトリックスを硬化または固化させることを特徴とする繊維強化棒状体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、曲げ剛性に優れた軽量な繊維強化棒状体および繊維強化筒状体、ならびにこれらの繊維強化棒状体および繊維強化筒状体を生産性良く製造することができる製造方法および製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
繊維強化棒状体および繊維強化筒状体はその繊維強化複合材料としての特性を生かして、中間基材として、もしくは最終製品として様々な分野で用いられている。強度だけでなく、剛性にも優れた繊維強化材を表面に局在化することにより曲げ剛性の高いロープ、ワイヤ、ケーブル、チューブ、配管、補強筋など、橋梁、トンネルなどの土木資材、道路橋や歩道橋などの道路資材、架線などの鉄道資材、治水・水処理設備資材、港湾・海洋資材、架設機材などの土木、建築資材をはじめ、帆船、船舶、自動車、航空・宇宙、防衛などの構造資材、さらには、電力、電気通信機器、スポーツ用品など産業資材全般の分野に亘って好適に利用されている。また、繊維強化材の繊維配向を制御するなどして、荷重に対し任意の応答をするものを設計することもでき、例えば、自動車用FRPプロペラシャフトは筒状体のねじり剛性は高く、軸圧縮強度を低く設定することにより、衝突安全性を確保している。例えば、FRPクラッシュチューブと呼ばれる筒状体は軸圧縮荷重に対し座屈ではなく逐次破壊を起こし、高いエネルギー吸収量を有している。
【0003】
上記のように、有用に用いられる繊維強化筒状体には多くの製造方法がある。例えば、FW(フィラメントワインディング)法、SW(シートワインディング)法が知られている。これらの製造方法はある所定の長さの筒状体をフィラメントもしくはシートを巻きつけることでバッチ製造する手法であるので生産性に劣るという問題を有する。例えば、連続的にマンドレル周りに多数のプリプレグシートを回転させ、連続的に引き抜きながら角パイプを製造する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、マンドレルの代わりに連続的にコア材を供給してその周りに直接編組する装置が提案されている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、これら手法では、芯材となるマンドレルもしくはコア材の周りを多数本の繊維基材を回転させなければならず、一本一本の繊維基材の重量を大きくできないため、連続製造の合間にしばしば繊維基材を取り替えなければならず、生産性はあまり向上しない上に装置として大掛かりとなってしまうという問題を有する。
【特許文献1】国際公開第2004/057082号パンフレット
【特許文献2】特開2006−88634号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、かかる従来技術の問題点に鑑み、曲げ剛性に優れ、軽量な繊維強化棒状体および繊維強化筒状体、ならびにこれらの繊維強化棒状体および繊維強化筒状体を高生産性の下で製造することができる連続製造方法および連続製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、
(1)硬化性または固化性を有するマトリックスを含有する強化繊維シート基材を長手方向に引き取りながら凹状に折り曲げ、該凹状に折り曲げた凹部に流動体を供給して前記強化繊維シート基材で前記流動体を包み込んだ後、該強化繊維シート基材のマトリックスを硬化または固化させることを特徴とする繊維強化棒状体の製造方法。
(2)強化繊維シート基材を長手方向に引き取りながら凹状に折り曲げ、該凹状に折り曲げた凹部に硬化性または固化性を有する流動体を供給してその一部を前記強化繊維シート基材に含浸してマトリックスとするとともに、前記強化繊維シート基材で前記流動体を包み込んだ後、前記強化繊維シート基材に含浸した前記流動体を硬化または固化させることを特徴とする繊維強化棒状体の製造方法。
(3)強化繊維シート基材を長手方向に引き取りながら凹状に折り曲げ、該凹状に折り曲げた凹部に流動体を供給して前記強化繊維シート基材で前記流動体を包み込んだ後、前記強化繊維シート基材に外部より硬化性または固化性を有するマトリックスを含浸し、さらにマトリックスを硬化または固化させることを特徴とする繊維強化棒状体の製造方法。
(4)前記流動体が硬化性または固化性を有するものであり、前記強化繊維シート基材に含浸したマトリックスおよび前記流動体の両方を硬化または固化させることを特徴とする前記(1)から(3)の何れかに記載の繊維強化棒状体の製造方法。
(5)前記強化繊維シート基材が少なくとも長手方向に繊維を配向させ開繊させた強化繊維束であることを特徴とする前記(1)から(4)の何れかに記載の繊維強化棒状体の製造方法。
(6)前記強化繊維シート基材が積層基材であり、幅方向の両端にドロップオフ部を形成させ、かつ前記強化繊維シート基材で前記流動体を包み込む際、前記強化繊維シート基材の前記ドロップオフ部をオーバーラップさせることを特徴とする前記(1)から(5)の何れかに記載の繊維強化棒状体の製造方法。
(7)前記流動体を前記強化繊維シート基材に接触させた後、前記強化繊維シート基材の曲率および両端の位置を規制するガイドを配し、前記強化繊維シートの長手方向に直交する断面での曲率半径を減じ、かつ前記強化繊維シート基材の長手方向に同一位置にある幅方向の2つの端部のうち一方の端部を前記流動体に接触させた後もう一方の端部を前記強化繊維シートの上に接触させてオーバーラップし、前記流動体を包み込むことを特徴とする前記(1)から(6)の何れかに記載の繊維強化棒状体の製造方法。
(8)前記強化繊維シート基材を硬化させる際、外形状を規定する型を通過させることを特徴とする前記(1)から(7)の何れかに記載の繊維強化棒状体の連続製造方法。
(9)得られた前記繊維強化棒状体が均一断面形状であることを特徴とする前記(1)から(8)の何れかに記載の繊維強化棒状体の製造方法。
(10)得られた前記繊維強化棒状体が周期的に断面形状が変化する不均一断面形状であることを特徴とする前記(1)から(9)の何れかに記載の繊維強化棒状体の製造方法。
(11)強化繊維シート基材を長手方向に引き取りながら強化繊維シート基材の上側に前記強化繊維シート基材の幅方向中央部を下方に押し下げて凹状に折り曲げるガイドを配するとともに、該凹状に折り曲げた凹部に流動体を供給する流動体の供給手段を設け、さらに前記強化繊維シート基材の下側に前記強化繊維シート基材の幅方向の両端部が上方に向くように折り曲げるためのガイドを配したことを特徴とする繊維強化棒状体の製造装置。
(12)前記強化繊維シート基材の下側に配するガイドを前記強化繊維シート基材の上側に配したガイドの直後に設けることを特徴とする前記(11)に記載の繊維強化棒状体の製造装置。
(13)前記(1)から(10)の何れかに記載の繊維強化棒状体の製造方法、または前記(11)から(12)の何れかに記載の繊維強化棒状体の製造装置によって得られてなることを特徴とする繊維強化棒状体。
(14)前記(13)に記載の繊維強化棒状体から流動体を摘出して中空とすることを特徴とする繊維強化筒状体の製造方法。
(15)前記(14)に記載の繊維強化筒状体の製造方法によって得られてなることを特徴とする繊維強化筒状体。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、曲げ剛性に優れた軽量な繊維強化棒状体および繊維強化筒状体を提供でき、かつこれらの繊維強化棒状体および繊維強化筒状体を生産性良く製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は、前記課題、つまり、曲げ剛性に優れた軽量な繊維強化筒状体を生産性良く製造することができる繊維強化棒状体の連続製造方法および繊維強化筒状体の連続製造方法であって、強化繊維シート基材を大きく回転させることなく一つのみ使用し、形状がなく取り扱いやすい流動体をマンドレルとして用いることで簡易な引き抜き製造装置で繊維強化棒状体および繊維強化筒状体を連続的に製造することができ、かかる課題を一挙に解決することができることを究明したものである。
【0008】
本発明における繊維強化棒状体は、外表面が強化繊維シート基材で覆われている閉形状断面をもつ中実体であり、また、繊維強化筒状体は、強化繊維シート基材で閉形状断面を形成した中空体である。
【0009】
本発明は、強化繊維シート基材を長手方向に引き取りながら基材の幅方向の両端部を持ち上げ、および/または基材の幅方向中央部を下方に押し下げて凹状になるように折り曲げると同時にもしくは直後に折り曲げた強化繊維シート基材の凹部に流動体を供給して強化繊維シート基材と接触させるようにしたものである。さらに、強化繊維シート基材で流動体を包み込んだ後、強化繊維シート基材の形状を固定させて繊維強化棒状体を製造するものであり、さらに、繊維強化棒状体とした後、かかる棒状体から芯とした流動体を取り除くことにより、繊維強化筒状体を製造するものである。
【0010】
本発明においては、基材に予め含浸されているあるいは成形時に含浸するマトリックスを固化または硬化させることにより強化繊維シート基材の形状を固定するものであり、これには、下記する3通りの方法がある。
【0011】
まず、第1の方法は、硬化性または固化性を有するマトリックスを含有する強化繊維シート基材を長手方向に引き取りながら下に折り曲げると同時にもしくは直後に折り曲げた前記強化繊維シート基材の凹部に流動体を供給して前記強化繊維シート基材と接触させ、前記強化繊維シート基材で前記流動体を包み込んだ後、前記強化繊維シート基材のマトリックスを硬化または固化させるものである。
【0012】
第2の方法は、強化繊維シート基材を長手方向に引き取りながら下に折り曲げると同時にもしくは直後に折り曲げた前記強化繊維シート基材の凹部に硬化性または固化性を有する流動体を供給して前記強化繊維シート基材と接触させ、その一部を前記強化繊維シート基材に含浸するとともに前記強化繊維シート基材で前記流動体を包み込んだ後、少なくとも前記強化繊維シート基材に含浸した前記流動体を硬化または固化させるものである。
【0013】
第3の方法は、強化繊維シート基材を長手方向に引き取りながら下に折り曲げると同時にもしくは直後に折り曲げた前記強化繊維シート基材の凹部に流動体を供給して前記強化繊維シート基材と接触させ、前記強化繊維シート基材で前記流動体を包み込んだ後、前記強化繊維シート基材に硬化性または固化性を有するマトリックスを含浸し硬化または固化させるものである。
【0014】
本発明における流動体としては、粒状の固体もしくはゲル状体または高粘度なスラリー、液体のいずれかに該当する形状可変物で、強化繊維シート基材の面外方向に容易に透過しないものが選ばれる。この流動体は、棒状に強化繊維シート基材を賦形するための芯として用いられるとともに、硬化性または固化性を有するものを選択した場合には、強化繊維シート基材に含浸して繊維強化棒状体のマトリックスとしても同時に用いることもできる(マトリックスとしての機能については後述する。)。固形の芯材を用いた場合には、容易に折り曲げることができず、芯材の供給ラインが一方向に固定されてしまい、1枚の強化繊維シート基材から連続的に閉断面に賦形することが困難であるが、流動体を芯材として用いることで、あらかじめ閉断面に近い形状を付与した後、芯材が挿入されるので強化繊維シート基材1枚で簡単に棒状賦形することができる。また、芯材の供給ラインは滴下するだけでよいので、強化繊維シート基材の移動経路も比較的自由に選択できる。
【0015】
図1は、本発明における繊維強化筒状体の連続製造方法の手順の一例を示す図である。
【0016】
図1の例では、強化繊維シート基材1が長手方向7に引き取られながらガイド3で基材の幅方向中央部が下方に押し下げられて凹状になるように折り曲げられ、該凹状の凹部に流動体滴下装置5によって流動体2が強化繊維シート基材1上に供給され、ガイド4などで強化繊維シート基材1の幅方向料端部が上方を向くように折り曲げられ、さらに流動体2を包み込むように賦形して、外表面が強化繊維シート基材で覆われている閉形状断面をもつ中実体となし、その後形状を固定させて、繊維強化筒状体6とするものである。強化繊維シート基材を折り曲げて連続的にU字状、V字状、もしくはコの字状などの凹状とする折り曲げ方に本発明の特徴のひとつがある。
【0017】
図2は、本発明における強化繊維シート基材を筒状体へ賦形するためのコンセプトを示す図であり、本発明のコンセプトを幾何学的に理解しやすいよう記したものである。
【0018】
強化繊維シート基材の平坦部8がまず全体的に折り曲げられ形成されたエリア9の両端部を暫時折り曲げたエリア10を介して強化繊維シート基材に凹部11を形成する。凹部は流動体を上から滴下して受け止めることができるよう上に口が開いていれば、図2のようなコの字状でもV次状、多角形、U字状でもかまわない。一旦強化繊維シート基材を凹状に賦形することで、最終形状である矩形、円形、いずれの形状にも賦形しやすくなる。折り曲げ手段の一例として、図1の符号3で示すような、U字状などのガイドを強化繊維シート基材の上側に配置するとともに、走行方向の下流側に向かって下方に傾斜させて強化繊維シート基材の幅方向中央部を下方に押し下げるようにしたもの、および符号4で示すような、繊維基材の幅よりも狭い間隔のU字状などのガイドを強化繊維シート基材の下側に配置するとともに、走行方向の下流側に向かって幅方向に間隔が狭められるように上方に傾斜させて強化繊維シート基材の両端部が上方に向くように折り曲げるようにしたものがある。
【0019】
強化繊維シート基材としては、強化繊維束自体、織物、編物、組物など布帛基材や不織布、またはそれらにマトリックスの含浸したプリプレグなどが挙げられる。引き抜き性を向上するために表層のみ不織布基材を配置する、成形品からコアを分離するためのフィルムなど、2種類以上の基材を積層して用いてもよい。
【0020】
強化繊維シート基材を構成する強化繊維としては、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール(PBO)繊維などの有機繊維、ガラス繊維、炭素繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、チラノ繊維、玄武岩繊維、セラミックス繊維などの無機繊維、ステンレス繊維やスチール繊維などの金属繊維、その他、ボロン繊維、天然繊維、変性した天然繊維などを繊維として用いた強化繊維などを用いることができる。その中でも特に炭素繊維は、これら無機繊維の中でも軽量、かつ強度、剛性に優れているため、繊維強化筒状体の利点がさらに際だつ。すなわち、強度、剛性に優れた繊維強化筒状体を製造するのに好適である。
【0021】
強化繊維シート基材のマトリックスは、第1の方法では、強化繊維シート基材自体に予め含浸されており、第2、第3の方法では、マトリックスが含浸されていない強化繊維シート基材に、流動体をマトリックスとして供給(第2の方法)、または、流動体を包み込んだ後に外部からマトリックスを供給(第3の方法)される。
【0022】
第1の方法に用いる強化繊維シート基材は、強化繊維シート基材自体に予めマトリックスが含浸されているものである。例えば、強化繊維シート基材に熱硬化性樹脂を含浸またはディップして半硬化させた熱硬化プリプレグ基材や、強化繊維シート基材に熱可塑性樹脂を含浸した熱可塑プリプレグ基材が適用できる。このように、強化繊維シート基材自体に予めマトリックスが含浸されている場合には、強化繊維シート基材が硬化または固化するので、流動体としてはいかなるものも適用できる。
【0023】
第2、第3の方法では、マトリックスが含浸されていない強化繊維シート基材を適用する。マトリックスが含浸されていない強化繊維シート基材としては、例えば、強化繊維のみで織り上げられた織物基材や、熱可塑性の目止め糸やステッチ糸を少量適用した織物、編物、組物など、実質的に強化繊維のみで構成される基材を挙げることができる。第2の方法では、流動体の一部をマトリックスとして強化繊維シート基材に供給するので、流動体としては、後述するように、硬化性または固化性を有する流動体を適用する必要がある。第3の方法では、マトリックスが含浸されていない強化繊維シート基材で、流動体を包み込んだ後に外部からマトリックスを供給する(例えば熱硬化性樹脂をディップするなど)ので、第1の方法と同様に、流動体としては硬化性も固化性も有しないものであっても適用できる。従って、予め強化繊維シート基材にマトリックスを含浸させていない安価なシート基材を適用でき、また流動体および、マトリックスをそれぞれ最適なものを選択できるため、より高強度を狙った設計などが可能となる。例えば、速硬化性のセメントや発泡性樹脂などを流動体として用いて固化、芯材とした後、強化繊維シート基材に熱硬化性樹脂を付与することにより、芯材にまで樹脂が含浸する樹脂無駄を省くことができる。
【0024】
マトリックスは、硬化性または固化性を有するものが用いられる。硬化性のマトリックスとしては、例えばエポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、フェノキシ樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、マレイミド樹脂、シアネート樹脂などの熱硬化性樹脂や、、アルミナ、セラミックス、石膏、ポルトランドセメントなどの無機物を溶媒や水に分散して流動化したものが挙げられる。これらは、加熱により反応硬化したり、脱溶媒や脱水により硬化させることができる。固化性のマトリックスとしては、例えばポリアミド、ポリアセタール、ポリアクリレート、ポリスルフォン、ABS、ポリエステル、アクリル、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、液晶ポリマー、塩ビ、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂(例えば“テフロン(登録商標)”)、シリコーンなどの熱可塑性樹脂、アルミナ、セラミックス、石膏、ポルトランドセメント、などの無機物を溶媒や水に分散して流動化したもの、溶融した低融点金属や溶融した低融点ガラス、などが挙げられる。これらは、加熱により溶融化させることができ、冷却により固化できる。また、熱可塑性樹脂に関しては、溶媒により流動化させて、脱溶媒により固化することもできる。これら硬化性または固化性を有するマトリックスの中でも、エポキシ樹脂が、強化繊維複合材料とした時の力学特性に優れているので好ましい。
【0025】
また、第1の方法において、強化繊維シート基材自体に予め含有している場合と、第3の方法において、マトリックスが含浸されていない強化繊維シート基材に供給される場合で最適な態様が異なる。後者の場合は、製造工程中で含浸させる必要があるため低粘度な流動状態にあることが重要であり、前者の場合には、半硬化もしくは柔軟な固形状で強化繊維シート内に含浸しているか、シート状に分離して積層されていることが好ましく。より具体的にはBステージ化した熱硬化性樹脂や柔軟な熱可塑性樹脂などが好ましい。
【0026】
流動体としては、硬化性のもの、固化性のもの、硬化性も固化性を持たないものがあるが、前記第1から第3の方法と適用できる流動体の関係は、次のとおりである。
【0027】
第1の方法においては、棒状体を製造するのに、強化繊維シート基材のマトリックスを硬化させるので、流動体としては、硬化性のもの、固化性のもの、硬化性も固化性を持たないもののいずれも適用できる。
【0028】
第2の方法においては、強化繊維シート基材で流動体を包み込んだ後、その強化繊維シート基材に含浸した流動体を硬化または固化させるので、硬化性または固化性の流動体のみが適用できる。
【0029】
第3の方法においては強化繊維シート基材で流動体を包み込んだ後、強化繊維シート基材に硬化性または固化性を有するマトリックスを含浸し、さらにマトリックスを硬化させるので、流動体としては、硬化性のもの、固化性のもの、硬化性も固化性を持たないもののいずれも適用できる。
【0030】
硬化性のものとしては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、フェノキシ樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、マレイミド樹脂、シアネート樹脂などの熱硬化性樹脂、アルミナ、セラミックス、石膏、ポルトランドセメントなどの無機物を溶媒や水に分散して流動化したものが挙げられる。これらは、加熱により反応硬化したり、脱溶媒や脱水により硬化させることができる。
【0031】
固化性のものとしては、ポリアミド、ポリアセタール、ポリアクリレート、ポリスルフォン、ABS、ポリエステル、アクリル、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、液晶ポリマー、塩ビ、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂、例えば“テフロン(登録商標)”、シリコーンなどの熱可塑性樹脂、溶融した低融点金属、溶融した低融点ガラス、などが挙げられる。これらは、加熱により溶融化させることができ、冷却により固化できる。また、熱可塑性樹脂に関しては、溶媒により流動化させて、脱溶媒により固化することもできる。また、硬化性または固化性の流動体は、発泡させて芯材として用いてもよい。
【0032】
硬化性も固化性も持たないものとしてアルミナ、セラミックス、石膏、ポルトランドセメント、砂、食塩、ガラスビーズなどの粒状体や、アルミナ、セラミックス、砂、食塩、ガラスビーズなどを溶媒や水に分散して流動化したもの、ゲル状体などが挙げられる。これら硬化性も固化性も持たない流動体は単に芯材として用いられる。第1の方法および第3の方法において流動体にこのような硬化性も固化性を持たないものを適用すれば、強化繊維シート基材のマトリックスを硬化または固化させ棒状体を製造した後、流動体を除去して、筒状体を得ることもできる。
【0033】
また、流動体は強化繊維シート基材を硬化されるまで粉体や液状のままでもよいし、硬化性のものの場合加熱などにより硬化させ発泡させてフォームコアとしてもよく、逆に粉体を溶融させて最終形状に沿いやすくしてもよい。
【0034】
さらに、流動体を強化繊維シート基材に接触させる場合、連続的に接触させても不連続的(例えば間欠的)に接触させてもよい。例えば、均一断面形状の繊維強化筒状体(円柱状、多角柱状など)を得る場合には、連続的に接触させるのが好ましい。一方、例えば周期的に断面形状が変化する不均一断面形状(数珠状など)の繊維強化筒状体を得る場合には、間欠的に接触させるのが好ましい。中でも、流動体を連続的に強化繊維シート基材と接触させると、特に均一断面形状の繊維強化筒状体の製造効率を一層高めることができるため、本発明における好ましい態様といえる。
【0035】
本発明の製造方法において、好ましくは、前記したように、強化繊維シート基材の上側にガイドを配し、強化繊維シート基材の幅方向中央部を下方に押し下げて凹状に折り曲げ、強化繊維シート基材で流動体を包み終える前に強化繊維シート基材の下側にガイドを配し、強化繊維シート基材の幅方向両端部が上方に向くように折り曲げ、強化繊維シート基材に均一の張力を与えるのがよい。すなわち、上下2つのガイドの位置、角度を調整することで強化繊維シート基材に均一の張力を与え、平面状である強化繊維シート基材が凹形状に安定して連続に賦形させるのがよい。
【0036】
図3は、本発明における強化繊維シート基材を筒状体へ賦形するためのコンセプトを示す図である。強化繊維シート基材がプロセス中に幅長さが変化しないとすると、図3に示すように、強化繊維シート基材1のどの点も、強化繊維シート基材の長手方向に垂直な折り曲げの開始ライン12から強化繊維シート基材の長手方向に垂直な断面形状が一定となるライン13を通過するまでのパスがいずれも同一距離であることにより、均一な張力を達成することができる。パスが同一距離でなければ、強化繊維シート基材中にひずみが生じ、安定してU字賦形ができない。図3においてはパス14とパス15は等距離である。好ましくは下側のガイドを上側のガイドの直後に設けることにより、繊維強化シート基材の折り曲げ線を集中させることができ、前記パスを同一距離とするための制御が容易となる。
【0037】
特に好ましい強化繊維シート基材の形態としては、少なくとも長手方向に繊維を配向させ開繊させた強化繊維束がある。引き抜き方向にのみ繊維が配向しているので、張力ムラによる繊維乱れが起きにくく、繊維を折り曲げない方向への形状追従性が高く引き抜き成形に適しており、安定して生産が可能となる。また、成形された繊維強化筒状体は、少なくとも長手方向に繊維が配向しているため、曲げ剛性が高くできる。より好ましくは、強化繊維シート基材の繊維の全てが長手方向に配向している態様が挙げられる。かかる態様であると、最も効率的に高い曲げ剛性を実現できる。
【0038】
また、強化繊維シート基材として積層基材が設計上好ましい場合もあり、積層基材を適用する際には、幅方向の両端にドロップオフ部を形成させ、かつ強化繊維シート基材で流動体を包み込む際、強化繊維シート基材のドロップオフ部をオーバーラップさせるのがよい。なお、本発明におけるドロップオフとは積層基材において積層数を徐変して段階的に厚みを変化させることを言う。
【0039】
図4は、本発明における強化繊維シート基材として積層基材を用いた場合の好ましい賦形の一例を示す図である。図4のように、強化繊維シート基材の端部の厚みを徐々に変化させ、両端のドロップオフ部16はa)のような点対称もしくはb)のような線対称に作成されるのが良い。流動体を包み込んだ後、ドロップオフ部16とオーバーラップすることで、凹凸が対応して繊維強化筒状体6の周方向にも強固な固着が可能となる。また、積層基材は特に各層積層されただけの基材でも層間を固着されて一体化されている基材でもよい。薄肉の繊維強化筒状体を製造したい場合は層間を固着して一体化されている方が取り扱い性に優れ、また積層数自体も少なくてよいか、もしくは1層のみで成立する場合は取り扱い性を向上するための固着は必要ない。厚肉の繊維強化筒状体を製造したい場合は、層間の固着がないと取り扱い性に劣るが、完全に層間を固着してしまうと複雑な断面形状を賦形した際、シワが発生する可能性があるため、適度に層間の拘束を緩めておく、もしくは何層かごとに層間の固着を行うなどして対応することができる。固着の方法としては熱可塑樹脂の融着、熱硬化性樹脂バインダー、ステッチングなどで対応できる。
【0040】
さらに好ましくは、流動体を強化繊維シート基材に接触させた後、強化繊維シート基材の曲率および両端の位置を規制するガイドを配し、強化繊維シートの長手方向に直交する断面での曲率半径を減じ、かつ強化繊維シート基材の長手方向に同一位置にある幅方向の2つの端部のうち一方の端部を流動体に接触させた後もう一方の端部を強化繊維シートの上に接触させてオーバーラップし、流動体を包み込むのが良い。強化繊維シートの両端が流動体に接触するタイミングをずらすことで、オーバーラップ時どちらの端部を内側もしくは外側に配置するか制御でき、品質の高い繊維強化筒状体を連続製造することができる。強化繊維シート基材の曲率および両端の位置を規制するガイドとして複数のガイドを設けてもよいし、例えば図5のように螺旋状のガイド17を設けることにより上記工程を実現できる。
【0041】
強化繊維シート基材を硬化させるにあたっては、単純な形状であれば引き抜きの張力を制御することにより所望の断面形状を得ることもできるが、さらに精度よく断面形状を実現するために繊維強化筒状体の外形を規定する型を通してもよい。例えば熱を加えることにより繊維強化材を硬化させる場合には、型として複数のガイドを用いてオーブン内を通過させてもよいし、熱源を有した金型を通過させてもよい。
【0042】
強化繊維シートが計算されたカットパターンで供給されれば連続的に断面形状の異なる筒状体を製造することが可能で、例えば周期的に断面形状が変化する不均一断面形状(数珠状など)とすることができる。中でも、均一断面形状(例えば円柱状、多角柱状、など)が製造安定性や精度の観点から好ましい。断面形状としては、円形、矩形、多角形などのある程度単純形状で、凹面がない方がさらに製造安定性や精度に優れる。
【0043】
さらに、強化繊維シート基材を硬化させ筒状体の外側がしっかりと固定された後、流動体を摘出して中空の繊維強化筒状体を得てもよい。筒状体が中空となることで、コアの流動体とスキンの繊維強化材が一体化したサンドイッチ構造よりもさらに軽量化することができる。流動体としては繊維強化材が固化する過程で固化しない例えばガラスビーズや砂などを用いた場合、簡単に摘出することができる。また、水などの溶媒に可溶な流動体、例えば塩や水溶性セラミックスなどを用いることで、繊維強化シート基材が硬化する際には固化しているコアを溶媒にさらして溶かしだすことができる。適当な長さに筒状体を切り出すことで、コアの摘出はさらに容易になる。
【0044】
このようにして、従来不可能であった生産性の高い繊維強化筒状体の連続製造方法が提供できたものである。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を実施例により、さらに具体的に説明するが、本発明は特にこれに限定されるものではない。
【0046】
実施例1、2、3、4、5として本発明を用いて連続製造した繊維強化筒状体について、比較例1、2、3、4、5として従来の手法を用いて製造した繊維強化筒状体について、下記する。強化繊維としては東レ(株)製炭素繊維“トレカ(登録商標)”T700Sを用いた。
【0047】
実施例1
強化繊維シート基材として、強化繊維束T700S−12K(引張強度4900MPa、引張弾性率230GPa、フィラメント数12000本、繊維目付800g/1000m:東レ社製)を用いた。流動体としてはマグネシアと珪酸ソーダ3号を7:3で配合したスラリーを用いた。図1に示す装置を用いて、まず強化繊維シート基材1を上からU字型のガイド3で押し付け、下からガイド4で支え、強化繊維シート基材1の断面を凹形状に賦形する。流動体2を時間当たり一定量滴下して強化繊維シート基材1を一定速度で引き抜くと、流動体を芯として張力で円筒状に賦形された。流動体2のマグネシアと珪酸ソーダ3号の混合スラリーの一部が強化繊維シート基材1である強化繊維束内に浸透して一体化した。まっすぐ引き抜いた繊維強化筒状体6は5mごと切断し室温にて2日養生した。直径約3mmの繊維強化筒状体が成形され、手でやっと折れる程度の高い曲げ強度が得られた。断面観察を行うと、炭素繊維が表面にのみ局在化して中央部は流動体が乾燥固化して詰まっている様子が分かり、同一炭素繊維量でも高い曲げ剛性を有する繊維強化筒状体が形成されたことが分かった。また、表面品位は良く、断面形状もほぼ均一な円形で生産できた。
【0048】
実施例2
実施例1と同様、強化繊維シート基材として強化繊維束T700S−12Kを用い、流動体としてはマグネシアと珪酸ソーダ3号を7:3で配合したスラリーを用いた。実施例1と同様に図1に示す装置を用いて、まず強化繊維シート基材1を上からU字型のガイド3で押し付け、下からガイド4で支え、強化繊維シート基材1の断面を凹形状に賦形する。流動体2を間欠的に滴下して強化繊維シート基材1を一定速度で引き抜くき、強化繊維シート基材上1に流動体2が存在している部分と流動体2が存在しない部分を交互に作成した。強化繊維シート基材を引き取るニップローラーに強化繊維シート基材上に流動体が存在している部位と対応した溝を付けておき、断面形状が一定でない数珠状の繊維強化筒状体を引き取った。流動体のマグネシアと珪酸ソーダ3号の混合スラリーの一部が強化繊維シート基材である強化繊維束内に浸透して一体化した。このように作成した繊維強化筒状体は5mごと切断し室温にて2日養生した。最大径約4mm、最小径約1mmの繊維強化筒状体が成形された。手で折ると最小径部で折れたが従来連続的に製造できなかった不均一断面の繊維強化筒状体を連続製造できた。断面観察を行うと、炭素繊維が表面にのみ局在化して中央部は流動体が乾燥固化して詰まっている様子が分かった。
【0049】
実施例3
強化繊維シート基材として、強化繊維束T700S−12Kを2本引き揃えて22mm幅にまで開繊した基材を用いた。流動体としては、熱可塑性樹脂であるナイロン12共重合体(融点90℃)を用いた。実施例1と同様に図1に示す装置を用いて、まず強化繊維シート基材1を上からU字型のガイド3で押し付け、ガイド3の直後に下からガイド4で支え、強化繊維シート基材1の断面を凹形状に賦形する。100℃で加熱したナイロン12のペレットを流動体2として時間当たり一定量押し出しして同じくドライヤーで加熱した強化繊維シート基材1を一定速度で引き抜き、流動体を芯として加熱源のない5mm×5mm(R0.5mm)の矩形の金型で固化して矩形状に賦形した。流動体2の一部が強化繊維シート基材1である強化繊維内に含浸して一体化した。流動体が直接金型に接触しないため、かきとられることなく適量強化繊維シート基材にマトリックスとして付与され、連続製造性に優れていた。5mm角の矩形繊維強化筒状体が成形され、手で折るのが難しいほど高い曲げ強度が得られた。断面観察を行うと、炭素繊維が表面にのみ局在化して中央部は流動体が固化して詰まっている様子が分かり、同一炭素繊維量でも高い曲げ剛性を有する繊維強化筒状体が形成されたことが分かった。また、表面品位は良く、断面形状も金型で賦形しているため均一な矩形で生産できた。
【0050】
実施例4
強化繊維シート基材としてドライ基材BT70−30(強化繊維束T700S−12Kの平織物:東レ社製)を用いた。流動体としては、流動体としてはポリウレタンを用い、発泡させフォームコアとした。実施例1と同様に図1に示す装置を用いて、まず110mm幅の強化繊維シート基材1を上からU字型のガイド3で押し付け、ガイド3の直後に下からガイド4で支え、強化繊維シート基材1の断面を凹形状に賦形する。60℃で加熱しておいたポリウレタンA液、B液を混合し流動体2として時間当たり一定量押し出しして、一定速度で引き抜き抜かれている凹形状に賦形されている強化繊維シート1上に塗布した直後、2つのガイドを通過させまず片側の端部を流動体2に接触させた後にもう一方の端部を強化繊維シート1に接触してオーバーラップ部を形成し、加熱源のない25mm×25mm(R2.5mm)の矩形の金型を通過させ、ポリウレタンの発泡圧で金型に押し付け強化繊維シート基材1と一体化させ矩形状に賦形した。まっすぐ引き抜いた繊維強化筒状体6は1mごと切断し、主剤と硬化剤混合初期時の70℃における粘度が100cpのエポキシ樹脂をマトリックスとして表面に塗布し、90℃に温調されたオーブン内で30分硬化して繊維強化シート基材1を完全に硬化させた。断面観察を行うと、炭素繊維が表面にのみ局在化してR部にもシワがなく、中央部はウレタンフォームコアがしっかり詰まっている様子が分かり、非常に高剛性でかつ手では折ることのできない高い曲げ強度を有していた。また、表面品位は良く、断面形状も均一な矩形で生産できた。
【0051】
実施例5
強化繊維シート基材として引き揃えた強化繊維束T700S−12Kにあらかじめエポキシ樹脂を含浸したプリプレグP3052S−15(コンポジット特性:引張強度2700MPa、引張り弾性率135GPa:東レ社製)の45°/0°/−45°/90°積層品(基材長手方向が0°)を用いた。図4のa)のように各層とも幅92mmで裁断した後5mmずつオフセットしてドロップオフ部を形成して積層した。流動体としては食塩を用いた。実施例1と同様に図1に示す装置を用いて、まずドロップオフ部も含め107mm幅の強化繊維シート基材1を上からU字型のガイド3で押し付け、ガイド3の直後に下からガイド4で支え、強化繊維シート基材1の断面を凹形状に賦形する。食塩を流動体2として時間当たり一定量滴下し、一定速度で引き抜き抜かれている凹形状に賦形されている強化繊維シート1上に付与し、図5に示すような螺旋状のガイド17を用いて緩やかにオーバーラップさせ、150℃に温調された25mm×25mm(R2.5mm)の矩形の金型を3分かけて通過させ、強化繊維シート基材1を硬化させた。まっすぐ引き抜いた繊維強化筒状体6は1mごと切断し、150℃30分、オーブン内でアフタキュアし、繊維強化シート基材1を完全に硬化させた。こうして得られた繊維強化筒状体を水洗し、流動体である食塩を溶かしだして中空状の繊維強化筒状体を得た。断面観察を行うと、筒状体の外表面も無い表面もボイド、シワなどなく、均一な断面形状が得られた。また、強化繊維シート基材端部の突合せ部分では、ドロップオフ部同士が対応して隙間なくオーバーラップされており、均一な厚みとなっていた。高い曲げ剛性、強度とともに中空体であるので軽量性にも優れていた。
【0052】
比較例1
実施例1と同様に強化繊維シート基材として、強化繊維束T700S−12Kを用いた。マトリックスとしてはマグネシアと珪酸ソーダ3号を7:3で配合したスラリーを用いた。強化繊維シート基材を引き取りながら上からマトリックスを塗りつけ、円形のスリットを通して絞り円筒状の賦形した。まっすぐ引き抜いた繊維強化筒状体は5mごと切断し室温にて2日養生した。直径1.5mmの繊維強化筒状体が成形され、部位によって強度ばらつきがあるようであり、手で簡単に折れる程度の曲げ強度しか得られなかった。断面観察を行うと、炭素繊維が局在化している様子が分かったが、局在化している位置は制御されておらずばらばらであった。また、プロセス中にスリット部で毛羽が詰まり連続製造ができなかった。
【0053】
比較例2
実施例2と同様に強化繊維シート基材として強化繊維束T700S−12Kを用いた。マトリックスとしてはマグネシアと珪酸ソーダ3号を7:3で配合したスラリーを用いた。数珠状の溝が掘られた型を上型と下型分けて製造し、強化繊維シート基材を配した後、マトリックスを流し込んで上型と下型を閉じて成形した。室温にて2日養生した後、型を開け、数珠状の繊維強化筒状体を取り出した。最大径4mm、最小径1mmの精度良い品位が得られ、実施例2と同様に手で折ると最小径部で折れた。断面観察を行うと、炭素繊維が局在化している様子が分かったが、局在化している位置は制御されておらずばらばらであった。このように型を用いてバッチ式の製造方法では、生産性が低く、また炭素繊維の配される位置がコントロールできないため、繊維強化筒状体の製品としての物性ばらつきが大きくなると思われた。
【0054】
比較例3
実施例3と同様に強化繊維シート基材として、強化繊維束T700S−12Kを2本引き揃えて22mm幅にまで開繊した基材を用いた。ドライヤーで加熱した基材上に、マトリックスとして実施例3と同様の熱可塑性樹脂であるナイロン12共重合体(融点90℃)のペレットを100℃で暖め、時間当たり一定量押し出しして融着させ、加熱源のない5mm×5mm(R0.5mm)の矩形の金型で固化して矩形状に賦形した。マトリックスが強化繊維シート基材である強化繊維内に含浸して一体化した。5mm角の矩形繊維強化筒状体が成形され、手で折ると折れはしないものの曲げ剛性は低かった。断面観察を行うと、炭素繊維が局在化している様子が分かったが、局在化している位置は制御されておらずばらばらであった。また、金型入り口でマトリックスが搾り出され適量マトリックスが強化繊維シート基材中に含浸せず、ところどころ表面にはボイドが発生した。
【0055】
比較例4
実施例4と同様の強化繊維シート基材としてドライ基材BT70−30(強化繊維束T700S−12Kの平織物:東レ社製)を用いた。24.7mm×24.7mm×1000mmに切り出されたポリウレタンフォームコアに強化繊維シート基材を10mm幅のオーバーラップで巻いた。ただし、ポリウレタンフォームコアは切り出しから時間が経っていたため吸湿によりそりが発生しており、きれいに強化繊維シート基材を巻くことができなかった。真空注入成形を用いて強化繊維シート基材に樹脂を含浸させ繊維強化筒状体を得る。強化繊維シート基材の上からピールプライを巻きつけ、さらにバギングフィルムで包み、シーラント材で密封する。注入口と排出口をチューブで備え、排出口から伸びたチューブは真空ポンプにつなぎ、バギングフィルム内を真空とした後、注入口側のチューブから、実施例4と同様の主剤と硬化剤混合初期時の70℃における粘度が100cpのエポキシ樹脂をマトリックスとして注入、繊維強化シート基材中に含浸、フォームコアと一体化し、90℃に温調されたオーブン内で30分硬化して繊維強化シート基材を完全に硬化させた。断面観察を行うと、炭素繊維が表面にのみ局在化してR部にもシワがなく、中央部はウレタンフォームコアがしっかり詰まっている様子が分かり、非常に高剛性でかつ手では折ることのできない高い曲げ強度を有していた。しかしながら、フォームコアが反っていたため、得られた繊維強化筒状体も反っており、設計どおりの製品を得ることができなかった。加えて、バッチ式の真空注入成形のため生産性に著しく劣り、かつバギングフィルム、チューブなどの使い捨ての副資材が多く必要になってしまった。
【0056】
比較例5
強化繊維シート基材として引き揃えた強化繊維束T700S−12Kにあらかじめエポキシ樹脂を含浸したプリプレグP3052S−15を用いた。金属製の24.5mm×24.5mm×1000mmの分割式マンドレルを用意し、幅92mmで裁断したプリプレグを90°、−45°、0°、45°の順に5mmずつオフセットしてマンドレルに巻きつけ積層した。150℃に温調された25mm×25mm(R2.5mm)の矩形の分割式外型を上下から押し当て30分かけて繊維強化シート基材を完全に硬化させた。断面観察を行うと、筒状体の外表面も無い表面もボイド、シワなどなく、均一な断面形状が得られた。高い曲げ剛性とともに中空体であるので軽量性にも優れていた。しかしながら、マンドレルや外型を分割式で用意したため、非常に高価な設備投資となっただけでなく、一回ごと分解するため生産性が低いことが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明における繊維強化筒状体の連続製造方法の手順の一例を示す図である。
【図2】本発明における強化繊維シート基材を筒状体へ賦形するためのコンセプトを示す図である。
【図3】本発明における強化繊維シート基材を筒状体へ賦形するためのコンセプトを示す図である。
【図4】本発明における強化繊維シート基材として積層基材を用いた場合の好ましい賦形の一例を示す図である。
【図5】本発明における強化繊維シート基材を筒状体へ賦形する好ましい手段の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0058】
1:強化繊維シート基材
2:流動体
3:強化繊維シート基材上から形状を規制するガイド
4:強化繊維シート基材下から形状を規制するガイド
5:流動体滴下装置
6:繊維強化筒状体
7:強化繊維シート基材長手方向
8:強化繊維シート基材平坦部
9:強化繊維シート基材全体折り曲げ部
10:強化繊維シート基材端部折り曲げ部
11:強化繊維シート基材凹形状部
12:折り曲げ開始ライン
13:強化繊維シート基材断面形状が一定となるライン
14:強化繊維シート基材上の点が引き取られる際に描くパスの一つ
15:強化繊維シート基材上の点が引き取られる際に描くパスの一つ
16:ドロップオフ部
17:螺旋状のガイド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化性または固化性を有するマトリックスを含有する強化繊維シート基材を長手方向に引き取りながら凹状に折り曲げ、該凹状に折り曲げた凹部に流動体を供給して前記強化繊維シート基材で前記流動体を包み込んだ後、該強化繊維シート基材のマトリックスを硬化または固化させることを特徴とする繊維強化棒状体の製造方法。
【請求項2】
強化繊維シート基材を長手方向に引き取りながら凹状に折り曲げ、該凹状に折り曲げた凹部に硬化性または固化性を有する流動体を供給してその一部を前記強化繊維シート基材に含浸してマトリックスとするとともに、前記強化繊維シート基材で前記流動体を包み込んだ後、前記強化繊維シート基材に含浸した前記流動体を硬化または固化させることを特徴とする繊維強化棒状体の製造方法。
【請求項3】
強化繊維シート基材を長手方向に引き取りながら凹状に折り曲げ、該凹状に折り曲げた凹部に流動体を供給して前記強化繊維シート基材で前記流動体を包み込んだ後、前記強化繊維シート基材に外部より硬化性または固化性を有するマトリックスを含浸し、さらにマトリックスを硬化または固化させることを特徴とする繊維強化棒状体の製造方法。
【請求項4】
前記流動体が硬化性または固化性を有するものであり、前記強化繊維シート基材に含浸したマトリックスおよび前記流動体の両方を硬化または固化させることを特徴とする請求項1から3の何れかに記載の繊維強化棒状体の製造方法。
【請求項5】
前記強化繊維シート基材が少なくとも長手方向に繊維を配向させ開繊させた強化繊維束であることを特徴とする請求項1から4の何れかに記載の繊維強化棒状体の製造方法。
【請求項6】
前記強化繊維シート基材が積層基材であり、幅方向の両端にドロップオフ部を形成させ、かつ前記強化繊維シート基材で前記流動体を包み込む際、前記強化繊維シート基材の前記ドロップオフ部をオーバーラップさせることを特徴とする請求項1から5の何れかに記載の繊維強化棒状体の製造方法。
【請求項7】
前記流動体を前記強化繊維シート基材に接触させた後、前記強化繊維シート基材の曲率および両端の位置を規制するガイドを配し、前記強化繊維シートの長手方向に直交する断面での曲率半径を減じ、かつ前記強化繊維シート基材の長手方向に同一位置にある幅方向の2つの端部のうち一方の端部を前記流動体に接触させた後もう一方の端部を前記強化繊維シートの上に接触させてオーバーラップし、前記流動体を包み込むことを特徴とする請求項1から6の何れかに記載の繊維強化棒状体の製造方法。
【請求項8】
前記強化繊維シート基材を硬化させる際、外形状を規定する型を通過させることを特徴とする請求項1から7の何れかに記載の繊維強化棒状体の連続製造方法。
【請求項9】
得られた前記繊維強化棒状体が均一断面形状であることを特徴とする請求項1から8の何れかに記載の繊維強化棒状体の製造方法。
【請求項10】
得られた前記繊維強化棒状体が周期的に断面形状が変化する不均一断面形状であることを特徴とする請求項1から9の何れかに記載の繊維強化棒状体の製造方法。
【請求項11】
強化繊維シート基材を長手方向に引き取りながら強化繊維シート基材の上側に前記強化繊維シート基材の幅方向中央部を下方に押し下げて凹状に折り曲げるガイドを配するとともに、該凹状に折り曲げた凹部に流動体を供給する流動体の供給手段を設け、さらに前記強化繊維シート基材の下側に前記強化繊維シート基材の幅方向の両端部が上方に向くように折り曲げるためのガイドを配したことを特徴とする繊維強化棒状体の製造装置。
【請求項12】
前記強化繊維シート基材の下側に配するガイドを前記強化繊維シート基材の上側に配したガイドの直後に設けることを特徴とする請求項11に記載の繊維強化棒状体の製造装置。
【請求項13】
請求項1から10の何れかに記載の繊維強化棒状体の製造方法、または請求項11から12の何れかに記載の繊維強化棒状体の製造装置によって得られてなることを特徴とする繊維強化棒状体。
【請求項14】
請求項13に記載の繊維強化棒状体から流動体を摘出して中空とすることを特徴とする繊維強化筒状体の製造方法。
【請求項15】
請求項14に記載の繊維強化筒状体の製造方法によって得られてなることを特徴とする繊維強化筒状体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−137180(P2008−137180A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−323305(P2006−323305)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】