説明

繊維強化樹脂部材の製造方法

【課題】少なくとも曲がり部を有するマンドレル外周において、軸方向糸を滑らせることなく配置することがき、もって軸方向糸と斜向糸がともに均一に配置された高品質な繊維強化樹脂部材を製造するための製造方法を提供する。
【解決手段】少なくとも曲がり部を有する長尺のマンドレル1aに該マンドレル1aの軸方向に延びる軸方向糸Q,…と該軸方向に対して所定角度傾斜した斜向糸P,…を供給して、軸方向糸と斜向糸とが相互に編み込まれてなる繊維織物を製造する第1の工程と、該繊維織物に樹脂を含浸硬化させることによって繊維強化樹脂部材を製造する第2の工程とを有し、第1の工程ではマンドレル1aの曲がり部に鋼製ピン2や樹脂フィルム3などの滑り止め部材を装着しておき、軸方向糸Q,…が該滑り止め部材にて位置決めされた姿勢でその上に斜向糸が巻装される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に車両のルーフサイドレールとして使用される繊維強化樹脂部材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両のAピラー(ルーフサイドレールとも言い、ドライバーから見て斜め前方に位置し、フロントウィンドウを支える左右両端の支柱)には静的な強度特性(たとえば曲げ剛性)と車両衝突時の耐クラッシュ特性の双方が要求されており、近時の高安全性および軽量化が追求されているハイブリッド車、電気自動車等に対しては、剛性と軽量化の双方を満足できる繊維強化樹脂部材が好適である。
【0003】
この繊維強化樹脂部材の一例として、炭素繊維強化プラスチック部材(CFRP)を挙げることができる。この繊維強化樹脂部材は、所定の引張強度等を備えた繊維糸を部材の軸方向に延びる軸方向糸と軸方向に対して所定の傾斜角の斜向糸とを使用して双方を編み込むことで多層の巻層構造を形成し、これに樹脂を含浸硬化させることで形成されている。この繊維強化樹脂部材において、曲げ剛性には軸方向糸が寄与しており、耐クラッシュ特性には互いに配向方向の異なる巻層構造が寄与している。
【0004】
上記するルーフサイドレールは、車両のフロントサイドからルーフに沿う形状、すなわち、直線部と曲がり部が連続した形状となっており、この形状に沿って軸方向糸と斜向糸とが巻装されている。
【0005】
ところで、上記する繊維強化樹脂部材を形成する繊維織物を製造するための方法が特許文献1に開示されている。具体的には、軸方向糸供給部とブレーダー糸供給部をそれぞれ装着した2つのブレーダーを有する製造装置を使用して、このブレーダー内で直線状のマンドレルを往復移動させながら、一方のブレーダーが駆動している間は他方の駆動を停止させる制御方法を実行することにより、軸方向糸とブレーダー糸の双方をマンドレル外周に巻装するものである。
【0006】
【特許文献1】特許第3215308号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1に開示の装置では、直線状のマンドレルの外周において軸方向糸とブレーダー糸の双方を巻装することは可能である。しかし、上記ルーフサイドレールのごとく、曲がり部を有するマンドレル外周に軸方向糸を供給した場合に、この曲がり部では軸方向糸がマンドレル上を滑ってしまい、うまくマンドレル外周に均一に軸方向糸を配置することができない。曲がり部で軸方向糸が滑ってしまうと、ある箇所では軸方向糸が集中してしまい、別の箇所では軸方向糸が存在しないといった具合に部位ごとに織り密度が相違することとなり、この曲がり部が強度的弱部となってしまうことは必然である。
【0008】
本発明は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、少なくとも曲がり部を有するマンドレル外周において、軸方向糸を滑らせることなく配置することがき、もって軸方向糸と斜向糸がともに均一に配置された高品質な繊維強化樹脂部材を製造するための製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成すべく、本発明による繊維強化樹脂部材の製造方法は、少なくとも曲がり部を有する長尺のマンドレルに該マンドレルの軸方向に延びる軸方向糸と該軸方向に対して所定角度傾斜した斜向糸を供給することにより、複数の軸方向糸と複数の斜向糸とが相互に編み込まれてなる繊維織物を製造する第1の工程と、該繊維織物に樹脂を含浸させ、硬化させることによって繊維強化樹脂部材を製造する第2の工程と、からなる繊維強化樹脂部材の製造方法において、前記マンドレルの少なくとも曲がり部には滑り止め部材が装着されており、前記第1の工程では、マンドレルの曲がり部において軸方向糸が前記滑り止め部材にて位置決めされた姿勢でその上に斜向糸が巻装されるものである。
【0010】
この繊維強化樹脂部材は、たとえばその芯材となるマンドレルの外周に該マンドレルの軸方向に延びる軸方向糸からなる巻層とこの軸方向に対して所定角度傾斜してなる斜向糸(ブレーダー糸)からなる巻層とが相互に形成され、この2種類の巻層の組合せがたとえば複数組形成され、これら巻層間に熱硬化性の樹脂が含浸硬化してなるものである。
【0011】
使用されるマンドレルは鋼製、樹脂製など任意素材のものが使用されるが、部材形状によってはこのマンドレルが最終的に引抜かれることなく部材構成要素として残ることになる。なお、既述するAピラーとしてこの繊維強化樹脂部材が適用される場合には、このAピラーの形状が、単なる長尺な筒部材ではなく、たとえばその一端が円形断面であり、中央が凹みを有する五角形断面であり、他端がボルト締結プレートに漸近していく等の複雑形状を呈することから、芯材であるマンドレルはそのまま部材要素として残ることになる。この場合、部材全体の重量を可及的に軽量化すべく、当該マンドレルは軽量でかつ高強度なABS樹脂(アクリロニトリル、ブタジエン、スチレンの共重合合成樹脂)、ウレタン系の発泡樹脂等から成形されているのが好ましい。
【0012】
本発明の製造方法が対象としている繊維強化樹脂部材はたとえば直線部と曲がり部を有するものであり、この曲がり部において軸方向糸を効率的かつ効果的に均一に配置することを目的としたものであり、本製造方法により、曲がり部においても均一に軸方向糸を配置することができ、もって曲げ強度の高い繊維強化樹脂部材を製造することができる。
【0013】
本発明者等の経験則および実験によれば、部材の曲がり部において軸方向糸を部材軸方向に配置しようとするとこの軸方向糸はマンドレル外周を滑ってしまい、結果として均一な軸方向糸配置(均一な密度の軸方向糸)を有する部材を製造することが極めて困難であることが分かっている。
【0014】
そこで、本発明の製造方法では、軸方向糸の巻装に先んじてマンドレルの少なくとも曲がり部外周に滑り止め部材を装着しておき、これに軸方向糸を配置するものである。
【0015】
ここで、上記する滑り止め部材としては複数の実施の形態がある。その一つは、滑り止め部材としてマンドレルに着脱自在なピンを使用するものであり、当該マンドレルがたとえばウレタン系の発泡樹脂からなる場合には、鋼製ピンを容易にマンドレルに突き刺すことができ、軸方向糸からなる巻層形成後に容易にマンドレルから抜き取ることができる。
【0016】
また、滑り止め部材の他の実施の形態として、マンドレル外周に粘性を有するフィルムを貼着する方法もある。
【0017】
ここで、フィルムの貼着形態としては、曲がり部に対して螺旋巻き、フープ巻きなど、任意の貼着形態がある。
【0018】
また、フィルムの素材としては、最終的に巻層内に含浸される熱硬化性の樹脂と同素材であるもの、もしくは当該含浸樹脂になじみのよいものが好ましく、エポキシ樹脂素材やポリエステル樹脂素材のフィルムが適用できる。
【0019】
上記する本発明の製造方法によれば、マンドレルの曲がり部に単に適宜の滑り止め部材を設けただけで、曲がり部を有するマンドレル外周に軸方向糸を均一な密度で配置することが可能となる。この方法には従来法に比して別段高価な機器を用意するといった必要がないことから、製造コストを何ら高騰させることなく、高い曲げ強度特性を有する繊維強化樹脂部材を製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
以上の説明から理解できるように、本発明の繊維強化樹脂部材の製造方法によれば、製造コストを高騰させることなく、高い曲げ強度特性を有する繊維強化樹脂部材を効率的に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は本発明の繊維強化樹脂部材が適用されるAピラーの車載位置を説明した図であり、図2は製造される繊維強化樹脂部材の一実施の形態の斜視図であり、図3は図2のIII−III矢視図である。図4は本発明の製造方法に使用される製造装置の側面図であり、図5〜図9はそれぞれ、マンドレルの曲がり部に設けられた滑り止め部材の実施の形態の斜視図である。なお、マンドレルの形状や繊維強化樹脂部材を形成する巻層の層数などは図示する実施の形態に限定されるものではない。
【0022】
製造される繊維強化樹脂部材は、特にその曲げ強度や耐衝撃性能が要求される、車両のAピラーに好適である。このAピラーは、図1で示す車両Cの乗員前方左右に位置するフロントウィンドウの支持部材である。このAピラーに繊維強化樹脂部材1を適用することにより、上記する強度特性が十分に確保できることに加えて、その軽量さゆえに、近時のハイブリッド車等には特に好適と言える。
【0023】
図2は、Aピラーに適用される繊維強化樹脂部材1の一実施の形態を示したものである。この繊維強化樹脂部材1は単なる直線状の筒部材ではなく、これがAピラーに適用されるがゆえにその形状は直線部1’,1a’のみならず曲がり部1”をも有しており、さらには、車両を構成する他の部材との締結用プレート部1’’’をも有している。また、各部の断面形状も均一ではなく、直線部1’は円形断面を呈しており、直線部1a’は楕円形断面を呈しており、曲がり部1”は一部が内方へ窪んだ窪み部1”aを有する楕円形断面を呈しており、締結用プレート部1’’’は扁平断面を呈するとともにボルト孔をも有している。
【0024】
この繊維強化樹脂部材1の構成をその断面図で説明したものが図3である。繊維強化樹脂部材1は、芯材であるABS樹脂製またはウレタン系発泡樹脂製のマンドレル1aと、その外周に巻装される軸方向糸からなる巻層1b、さらにその外周に巻装される斜向糸からなる巻層1c、その外周の軸方向糸からなる巻層1d、その外周の斜向糸からなる巻層1eから構成されており、各巻層内に熱硬化性樹脂が含浸硬化して繊維強化樹脂部材1が形成されている。なお、軸方向糸からなる巻層や斜向糸からなる巻層の層数は図示例に限定されるものではなく、それぞれ3層以上の層数であってもよい。
【0025】
次に、図4を参照して本発明の繊維強化樹脂部材の製造方法を概説する。
図4は、直線部と曲がり部を有するマンドレル1aの外周に上記する複数層の軸方向糸からなる巻層および斜向糸からなる巻層を形成するためのブレーダー機100を示している。
【0026】
このブレーダー機100は、斜向糸用ボビン11,…を周方向に具備する回転自在のブレーダー10と、その後方に位置する複数の軸方向糸用ボビン21,…とから大略構成されている。
【0027】
ブレーダー10の中央開口をマンドレル1aが往復移動自在となっており、図4において、マンドレル端部に軸方向糸Q,…斜向糸P,…の端部がテープ留めされ、マンドレル1aが右側から左側へ移動する(X1方向)。このとき、マンドレル外周の軸方向に沿って軸方向糸が配置され、かつ、マンドレル1aの移動に同期してブレーダー10が所定の回転速度で回転することにより、軸方向糸上に斜向糸が軸方向に対して所定角度(たとえば45度)で巻層を形成していく。
【0028】
ここで、マンドレル外周への軸方向糸の巻装に際し、本発明の製造方法では、図5〜図9で示すような軸方向糸の滑り止め部材をマンドレル外周に設けておく。
【0029】
図5で示す滑り止め部材は多数の鋼製ピン2,…であり、本実施の形態ではマンドレル1aがウレタン系の発泡樹脂からなる場合には、該マンドレルの曲がり部に容易に差し込み設置しておくことができる。この鋼製ピン2,…にてマンドレルの曲がり部における軸方向糸の滑りが防止され、その外周に軸方向糸を均一に配置することができる。なお、巻層形成後に、この鋼製ピンは抜き取られる。
【0030】
図6〜図9で示す滑り止め部材は、巻層内に含浸硬化される熱硬化性樹脂と同素材の樹脂からなる樹脂フィルムを示しており、その貼着形態がそれぞれに相違している。図6は樹脂フィルム3をマンドレルの曲がり部に螺旋巻きした形態であり、図7は樹脂フィルム3Aを曲がり部にフープ巻きした形態であり、図8は半円長さの樹脂フィルム3Bを曲がり部のフープ方向に貼着した形態であり、図9は樹脂フィルム3Cの横長の切れ片を曲がり部の長手方向に沿うように貼着した形態である。
【0031】
マンドレル外周に、上記するブレーダー機の作動とマンドレル1aの往復移動を繰り返すことにより、軸方向糸からなる巻層と斜向糸からなる巻層をそれぞれ所定数形成して中間体が製造される。
【0032】
上記する中間体を所定形状のキャビティ空間を有する金型に移載し、金型内にて熱硬化性樹脂の含浸硬化を実行する。ここで、樹脂の含浸硬化方法としては、マンドレル外周に巻層が形成された中間体を金型内に載置し、キャビティ内を真空雰囲気としながら樹脂を充填して加圧成形する、公知のRTM法を適用することができる。
【0033】
上記する本発明の繊維強化樹脂部材の製造方法によれば、当該部材の芯材であるマンドレルが曲がり部を有していても、その外周に設けられた適宜の滑り止め部材にて軸方向糸を均一に、しかも容易に配置することができ、次いでその上に斜向糸が巻装されることにより、製造効率を低下させることなく、特に曲げ剛性の高い繊維強化樹脂部材を製造することが可能となる。
【0034】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の繊維強化樹脂部材が適用されるAピラーの車載位置を説明した図である。
【図2】製造される繊維強化樹脂部材の一実施の形態の斜視図である。
【図3】図2のIII−III矢視図である。
【図4】本発明の製造方法に使用される製造装置の側面図である。
【図5】マンドレルの曲がり部に設けられた滑り止め部材の一実施の形態の斜視図である。
【図6】マンドレルの曲がり部に設けられた滑り止め部材の他の実施の形態の斜視図である。
【図7】マンドレルの曲がり部に設けられた滑り止め部材のさらに他の実施の形態の斜視図である。
【図8】マンドレルの曲がり部に設けられた滑り止め部材のさらに他の実施の形態の斜視図である。
【図9】マンドレルの曲がり部に設けられた滑り止め部材のさらに他の実施の形態の斜視図である。
【符号の説明】
【0036】
1…繊維強化樹脂部材、1a…マンドレル、1b、1d…軸方向糸の巻層、1c、1e…斜向糸の巻層、1’,1a’…直線部、1”…曲がり部、1’’’…締結プレート部、2…鋼製ピン(滑り止め部材)、3,3A,3B,3C…樹脂フィルム(滑り止め部材)、10…ブレーダー、11斜向糸用ボビン、21…軸方向糸用ボビン、100…ブレーダー機、P…斜向糸、Q…軸方向糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部に曲がり部を有する長尺のマンドレルに該マンドレルの軸方向に延びる軸方向糸と該軸方向に対して所定角度傾斜した斜向糸を供給することにより、複数の軸方向糸と複数の斜向糸とが編み込まれてなる繊維織物を製造する第1の工程と、
該繊維織物に樹脂を含浸させ、硬化させることによって繊維強化樹脂部材を製造する第2の工程と、からなる繊維強化樹脂部材の製造方法において、
前記マンドレルの少なくとも曲がり部には滑り止め部材が装着されており、前記第1の工程では、マンドレルの曲がり部において軸方向糸が前記滑り止め部材にて位置決めされた姿勢でその上に斜向糸が巻装される、繊維強化樹脂部材の製造方法。
【請求項2】
前記滑り止め部材がマンドレルに着脱自在なピンからなる、請求項1に記載の繊維強化樹脂部材の製造方法。
【請求項3】
前記滑り止め部材がマンドレル外周に形成された粘性を有するフィルムからなる、請求項1に記載の繊維強化樹脂部材の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の繊維強化樹脂部材の製造方法において、
前記フィルムが前記樹脂と同素材の樹脂からなる繊維強化樹脂部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−137062(P2009−137062A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−313329(P2007−313329)
【出願日】平成19年12月4日(2007.12.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】