説明

織物基材及び繊維強化複合材料

【課題】強化繊維のクリンプが無く、しかも形態保持性及び賦形性が良く繊維強化複合材料の強化繊維基材に適した織物基材を提供する。
【解決手段】織物基材10は、繊維束からなり互いに平行に配列された複数の強化繊維用経糸11と、繊維束からなり互いに平行にかつ強化繊維用経糸11と交差する方向に配列された複数の強化繊維用緯糸12とを備えている。強化繊維用緯糸12より細い糸条からなり、強化繊維用緯糸12と同方向に延びる補助緯糸13は、強化繊維用経糸11に対して強化繊維用緯糸12の反対側に配列されている。強化繊維用経糸11より細い糸条からなる補助経糸14a,14bは、強化繊維用経糸11と同方向に延びかつ強化繊維用経糸11同士の間に配列され、強化繊維用緯糸12に係合した状態での折り返し及び補助緯糸13に係合した状態での折り返しが混在した状態で配列されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、織物基材及び繊維強化複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
軽量、高強度の材料として繊維強化複合材料が使用されている。繊維強化複合材料は、強化繊維が樹脂や金属等のマトリックス中に複合化されることにより、マトリックス自体に比べて力学的特性(機械的特性)が向上するため、構造部品として好ましい。特にマトリックスとして樹脂を使用した繊維強化プラスチック(以下、FRPとも言う。)の場合はより軽量化が図れるため好ましい。
【0003】
FRPに使用する織物基材として、平織、綾織、朱子織等で織られた織物がクロス材として使用されている。クロス材は、経糸と緯糸との交差部でクリンプ(屈曲状態)を形成しており、FRPにおいて一本の強化繊維について見た場合、強化繊維は他の強化繊維との交差部毎にクリンプが存在する状態でマトリックス中に配列された状態となる。その結果、強化繊維が本来発現すべき特性を十分に活用できず、強化繊維のクリンプによる強度、剛性の低下が指摘されている。
【0004】
従来、クロス材の欠点である強化繊維のクリンプのない強化繊維基材として多軸成形材料(通称「多軸織物」)が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1の多軸成形材料は、多数本の強化繊維糸条が並行に配列されたシートが、少なくとも2枚、該強化繊維糸条が交差するように積層されて積層体を構成し、該積層体がステッチ糸により一体化されている。即ち、多軸織物は、経糸、緯糸、斜方向糸の強化繊維が、互いに交わることが無く配列されて経糸層、緯糸層、斜方向糸層を構成し、さらに各層の強化繊維は、ステッチ糸により縫合されて一体化されている。
【0005】
また、強化繊維のクリンプのない強化繊維基材として、複合材料用布帛構造物も提案されている(特許文献2参照)。特許文献2の複合材料用布帛構造物は、図6に示すように、一方向にシート状に引き揃えた屈曲を有しない真っ直ぐな補強用繊維糸条51,52からなる2群の糸条群A,Bを有する。両糸条群A,Bはシート状の面が互いに対向し、かつ一方の糸条群Aの補強用繊維糸条51が他方の糸条群Bの補強用繊維糸条52に対して互いに交差した状態で補助繊維糸条53,54によって一体に保持されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−182065公報
【特許文献2】特開昭55−30974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に、強化繊維基材は平板状のまま使用されることは少なく、所望の形状に賦形された状態で樹脂が含浸、硬化されて繊維強化複合材料が形成される。特許文献1に記載された多軸織物は、多数本の強化繊維糸条が並行に配列されたシートが複数積層されるとともにステッチ糸にて縫合されているため、強化繊維(強化繊維糸条)の動きが悪く(可撓性が悪く)クロス材と比べ賦形性に劣る。
【0008】
一方、特許文献2に記載された複合材料用布帛構造物はステッチ糸を使用せず、一般の織物の経糸の役割を果たす補助繊維糸条53と、緯糸の役割を果たす補助繊維糸条54とで織物組織の形態を保持する構成のため、ステッチ糸を使用した場合に比べて賦形性は良い。しかし、特許文献2の織物組織では、緯糸を構成する補強用繊維糸条52と補助繊維糸条54とが交互に配列される構成のため、補助繊維糸条53に張力が掛かると補強用繊維糸条52間が開き、補強用繊維糸条52間に隙間ができる。これはFRPにした場合、樹脂リッチ部が線状に存在することになり強度的に不利となる。
【0009】
本発明は、前記の問題に鑑みてなされたものであって、その第1の目的は、強化繊維のクリンプが無く、しかも形態保持性及び賦形性が良く繊維強化複合材料の強化繊維基材に適した織物基材を提供することにある。また、第2の目的は強化繊維のクリンプが無く、しかも形態保持性及び賦形性が良い織物基材を強化繊維基材とした繊維強化複合材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記第1の目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、繊維束からなり互いに平行に配列された複数の強化繊維用経糸と、繊維束からなり互いに平行にかつ前記強化繊維用経糸と交差する方向に配列された複数の強化繊維用緯糸と、前記強化繊維用緯糸より細い糸条からなり、前記強化繊維用緯糸と同方向に延びかつ前記強化繊維用経糸に対して前記強化繊維用緯糸の反対側に配列された補助緯糸と、前記強化繊維用経糸より細い糸条からなり、前記強化繊維用経糸と同方向に延びかつ前記強化繊維用経糸同士の間に配列され、前記強化繊維用緯糸に係合した状態での折り返し及び前記補助緯糸に係合した状態での折り返しが混在した状態で配列された補助経糸とを備えている。ここで、「強化繊維用経糸」とは、織物基材を複合材料の強化繊維基材として使用した際に、複合材料のマトリックスを強化する役割を担う経糸を意味し、「強化繊維用緯糸」とは、織物基材を複合材料の強化繊維基材として使用した際に、複合材料のマトリックスを強化する役割を担う緯糸を意味する。また、「補助経糸」及び「補助緯糸」とは、一般の織物の経糸及び緯糸と同様に、織組織を構成して織物(織物基材)の移送や取り扱いの際に、強化繊維の配列が乱れたり織物(織物基材)が変形したりするのを防止するための機能を有する糸条を意味し、「補助経糸」及び「補助緯糸」は、自身が複合材料の機械的強度に寄与する必要は必ずしもない。また、「補助経糸」及び「補助緯糸」は、複数本の繊維の束で構成されるものに限らず、1本のフィラメントのようなものをも含む。
【0011】
この発明の織物基材は、繊維強化複合材料を構成した場合に強化繊維として機能する強化繊維用経糸及び強化繊維用緯糸が交差部においてクリンプせずに配列されているため、強化繊維が本来発現すべき特性である強度、剛性を発現できる。また、織物組織を構成する補助経糸及び補助緯糸は、繊維強化複合材料を構成した場合に強化繊維として機能する必要が無いため、細い糸条を使用できる。そのため、ステッチ糸で縫合する構成に比べて強化繊維用経糸及び強化繊維用緯糸の拘束が緩く、動き易いため賦形性が良くなる。また、補助緯糸が強化繊維用経糸に対して強化繊維用緯糸の反対側に配列された構成のため、特許文献2の構成と異なり、補助経糸に張力が加わっても緯糸間が開くことが抑制されて緯糸間の隙間が拡がらず、繊維強化複合材料にした場合、樹脂リッチ部が線状に存在する状態にならず、強度低下を防止する。したがって、この発明は、強化繊維のクリンプが無く、しかも形態保持性及び賦形性が良く繊維強化複合材料の強化繊維基材に適した織物基材を提供することができる。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記補助経糸は、隣接する前記強化繊維用経糸同士の間に複数配列され、かつ前記複数の補助経糸のうち少なくとも1本は他の少なくとも1本に対して前記強化繊維用緯糸あるいは前記補助緯糸に対する折り返し位置が互いに逆になるように配列されている。この発明の織物基材は、隣接する強化繊維用経糸の間に1本の補助経糸が配列された構成の織物基材に比べて組織が強固になり、織物基材の取り扱いが容易になる。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記強化繊維用緯糸は、前記強化繊維用経糸と90°の角度を成すように配列されている。この発明の織物基材を製織する場合、従来の織機の簡単な改造で対応することができる。また、この発明の織物基材を2枚使用して、一方の織物基材を他方の織物基材に対して強化繊維の配列方向が45°ずれる状態で積層して使用することにより、繊維配向角度が0°、90°、+45°、−45°で配列された強化繊維層を有する擬似等方性の繊維強化複合材料を容易に得ることができる。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の発明において、前記補助緯糸は、前記強化繊維用経糸に対して前記強化繊維用緯糸の反対側において前記強化繊維用緯糸の幅内に配列されている。
【0015】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の発明において、前記強化繊維用経糸及び前記強化繊維用緯糸は、太さが100〜1600テックスであり、前記補助経糸及び前記補助緯糸は、太さが前記強化繊維用経糸及び前記強化繊維用緯糸の1/10以下である。
【0016】
強化繊維用経糸及び強化繊維用緯糸の太さは要求性能に対応して設定される。例えば、繊維強化複合材料の強化繊維として使用される炭素繊維のうち、市販の長繊維(フィラメント)集合体のPAN系炭素繊維には、1K、3K、6K、12K、24Kがあり、東レ製T700は12Kで800テックスである。なお、1Kとは1000フィラメントを意味する。この発明では強化繊維用経糸及び強化繊維用緯糸の太さが前記範囲のため、例えば、強化繊維用経糸及び強化繊維用緯糸として炭素繊維を使用する場合、市販の炭素繊維を入手し易い。
【0017】
前記第2の目的を達成するため、請求項6に記載の発明の繊維強化複合材料は、繊維束からなり互いに平行に真っ直ぐに配列された複数の強化繊維用経糸と、繊維束からなり互いに平行にかつ前記強化繊維用経糸と交差する方向に真っ直ぐに配列された複数の強化繊維用緯糸と、前記強化繊維用緯糸より細い糸条からなり、前記強化繊維用緯糸と同方向に延びかつ前記強化繊維用経糸に対して前記強化繊維用緯糸の反対側に配列された補助緯糸と、前記強化繊維用経糸より細い糸条からなり、前記強化繊維用経糸と同方向に延びかつ前記強化繊維用経糸同士の間に配列され、前記強化繊維用緯糸に係合した状態での折り返し及び前記補助緯糸に係合した状態での折り返しが混在した状態で配列された補助経糸とを備えている織物基材に樹脂を含浸させてなる。
【0018】
この発明の繊維強化複合材料は、強化繊維として機能する強化繊維用経糸及び強化繊維用緯糸が交差部においてクリンプせずに真っ直ぐな状態で配列されているため、強化繊維が本来発現すべき特性である強度、剛性を発現できる。強化繊維基材となる織物基材は、強化繊維用経糸及び強化繊維用緯糸をステッチ糸で縫合する構成に比べて強化繊維用経糸及び強化繊維用緯糸の拘束が緩く、動き易いため賦形性が良くなる。また、織物基材は、補助経糸に張力が加わっても緯糸間が開くことが抑制されて緯糸間の隙間が拡がらず、繊維強化複合材料にした場合、樹脂リッチ部が線状に存在する状態にならず、強度低下を防止する。したがって、繊維強化複合材料を製造する際の織物基材の取り扱いが容易になる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、強化繊維のクリンプが無く、しかも形態保持性及び賦形性が良く繊維強化複合材料の強化繊維基材に適した織物基材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】(a)は第1の実施形態の織物基材の模式斜視図、(b)は織物基材の模式断面図。
【図2】製織状態を示す模式側面図。
【図3】(a)は第2の実施形態の織物基材の模式斜視図、(b)は織物基材の模式断面図。
【図4】第2の実施形態の織物基材の製織時におけるヘルドと強化繊維用経糸との関係を示す模式斜視図。
【図5】別の実施形態の織物基材の模式斜視図。
【図6】従来技術の複合材料用布帛構造物の概略斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(第1の実施形態)
以下、本発明を具体化した第1の実施形態を図1及び図2にしたがって説明する。
図1(a),(b)に示すように、織物基材10は、強化繊維としての複数の強化繊維用経糸11と、強化繊維としての複数の強化繊維用緯糸12と、補助緯糸13と、補助経糸14a,14bとを備えている。「強化繊維」とは、織物基材10を複合材料の強化繊維基材として使用した際に、複合材料のマトリックスを強化する役割を担う繊維束を意味する。複数の強化繊維用経糸11は、繊維束からなり互いに平行に真っ直ぐに配列され、複数の強化繊維用緯糸12も繊維束からなり互いに平行にかつ強化繊維用経糸11と交差する方向に真っ直ぐに配列されている。強化繊維用緯糸12は強化繊維用経糸11と90°の角度を成すように配列されている。
【0022】
強化繊維用経糸11及び強化繊維用緯糸12には炭素繊維が使用されている。炭素繊維は、複合材料の要求性能にもよるが、例えば、東レ製T700のフィラメント数が12000本で太さが800テックスのものを使用した。強化繊維用経糸11及び強化繊維用緯糸12は、炭素繊維が開繊された状態で織物基材10を構成している。「開繊された状態」とは、繊維束を構成する繊維間隔が拡げられて繊維束が扁平な状態になることを意味する。
【0023】
補助緯糸13は、強化繊維用緯糸より細い糸条でからなり、強化繊維用緯糸12と同方向に延びかつ強化繊維用経糸11に対して強化繊維用緯糸12の反対側に配列されている。強化繊維用緯糸12の反対側とは強化繊維用緯糸12の幅内に位置することを意味する。補助経糸14a,14bは、強化繊維用経糸11より細い糸条からなり、強化繊維用経糸11と同方向に延びかつ強化繊維用経糸11同士の間に配列され、強化繊維用緯糸12及び補助緯糸13と交差する状態でかつ強化繊維用緯糸12に係合した状態での折り返し及び補助緯糸13に係合した状態での折り返しが混在した状態で配列されている。この実施形態では、補助経糸14a,14bは隣り合う強化繊維用経糸11の間に交互に1本ずつ配列されている。補助緯糸13及び補助経糸14a,14bには太さが10テックス程度のナイロンやポリエステル製の糸が使用されている。
【0024】
次に前記のように構成された織物基材10の製造方法を説明する。織物基材10の製織は、例えば、補助経糸14a,14bの開口を行う2枚のヘルドフレーム(綜絖枠)を備えた従来の平織織機の簡単な改造で対応することができる。具体的には、補助経糸14a,14bの同じ開口に強化繊維用緯糸12及び補助緯糸13を緯入れする構成にする。
【0025】
図2に示すように、織機は、強化繊維用経糸11を供給する強化繊維用経糸ビーム21と、補助経糸14aを供給する補助経糸ビーム22と、補助経糸14bを供給する補助経糸ビーム23とが上下に3段に配置されている。強化繊維用経糸ビーム21からは強化繊維用経糸11が水平に送り出され、一方の補助経糸ビーム22から送り出される補助経糸14aは一方のヘルドフレームのヘルド24により開口動作が行われ、他方の補助経糸ビーム23から送り出される補助経糸14bは他方のヘルドフレームのヘルド25により開口動作が行われるようになっている。なお、ヘルド24,25の目は図において黒丸で示されている。筬30はヘルド24と織り前31との間に配置されている。
【0026】
強化繊維用緯糸12は補助経糸14a,14bの開口に対して強化繊維用経糸11の上側に緯入れ機構(図示せず)により緯入れされ、補助緯糸13は補助経糸14a,14bの開口に対して強化繊維用経糸11の下側に緯入れ機構(図示せず)により緯入れされるようになっている。
【0027】
上記の織機で織物基材10を製織する場合、強化繊維用経糸ビーム21から引き出された強化繊維用経糸11及び補助経糸ビーム22,23から引き出された補助経糸14a,14bの端部が巻き取りロール(図示せず)に固定された状態から製織が開始される。2枚のヘルドフレームが交互に上下方向に移動されることにより、一方のヘルドフレームに支持された各ヘルド24と、他方のヘルドフレームに支持された各ヘルド25とが逆方向に移動される。そして、補助経糸14a,14bは隣接するもの同士で交互に上下に開き、その都度形成される経糸開口16に対して、強化繊維用緯糸12及び補助緯糸13が緯入れされる。
【0028】
強化繊維用緯糸12は、経糸開口16の強化繊維用経糸11より上側に緯入れされ、補助緯糸13は、経糸開口16の強化繊維用経糸11より下側に緯入れされる。強化繊維用緯糸12及び補助緯糸13が緯入れされて、筬30の筬打ち動作が行われた後、ヘルド24,25が逆方向に移動されて開口状態が変更されて、次の緯入れ動作が行われる。これらの動作が繰り返されて織物基材10が製織され、巻き取りロールに巻き取られる。
【0029】
織物基材10は、複数枚積層された状態で賦形されてプリフォームに形成された後、例えば、RTM法で硬化前の液状の熱硬化性樹脂が含浸硬化されて繊維強化複合材料が形成される。擬似等方性の繊維強化複合材料を製造する場合は、擬似等方性の繊維基材を賦形してプリフォームを形成する必要がある。織物基材10は強化繊維用経糸11と強化繊維用緯糸12とが90°の角度で交差しており、2枚の織物基材10を強化繊維用経糸11が45°の角度で交差する状態で積層することにより、強化繊維が0°、90°、+45°、−45°で配列された擬似等方性の強化繊維基材を構成できる。また、繊維束の配向角が45°の一方向織物2枚と、1枚の織物基材10とを積層することによっても、強化繊維が0°、90°、+45°、−45°で配列された擬似等方性の強化繊維基材を構成できる。
【0030】
この実施形態によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(1)織物基材10は、繊維束からなり互いに平行に配列された複数の強化繊維用経糸11と、繊維束からなり互いに平行にかつ強化繊維用経糸11と交差する方向に配列された複数の強化繊維用緯糸12とを備えている。したがって、織物基材10を繊維強化複合材料の強化繊維基材に用いた場合、強化繊維が本来発現すべき特性である強度、剛性を発現できる。
【0031】
(2)織物基材10は、強化繊維用緯糸12より細い糸条からなり、強化繊維用緯糸12と同方向に延びる補助緯糸13と、強化繊維用経糸11より細い糸条からなり、強化繊維用経糸11と同方向に延びる補助経糸14a,14bとを備えている。補助緯糸13は、強化繊維用経糸11に対して強化繊維用緯糸12の反対側に配列され、補助経糸14a,14bは、強化繊維用経糸11同士の間に配列され、かつ強化繊維用緯糸12に係合した状態での折り返し及び補助緯糸13に係合した状態での折り返しが混在した状態で配列されている。織物組織を構成する補助経糸14a,14b及び補助緯糸13は、繊維強化複合材料を構成した場合に強化繊維として機能する必要が無いため、細い糸条を使用できる。そのため、ステッチ糸で縫合する構成に比べて強化繊維用経糸11及び強化繊維用緯糸12の拘束が緩く、動き易いため賦形性が良くなる。また、補助緯糸13が強化繊維用経糸11に対して強化繊維用緯糸12の反対側に配列された構成のため、補助経糸14a,14bに張力が加わっても緯糸間が開くことが抑制されて緯糸間の隙間が拡がらず、繊維強化複合材料にした場合、樹脂リッチ部が線状に存在する状態にならず、強度低下が防止される。したがって、織物基材10は、強化繊維のクリンプが無く、しかも形態保持性及び賦形性が良く繊維強化複合材料の強化繊維基材に適した織物基材10となる。
【0032】
(3)強化繊維用経糸11及び強化繊維用緯糸12は、炭素繊維で構成され、市販の炭素繊維より容易に太さを選定して入手できる。
(4)強化繊維用緯糸12は、強化繊維用経糸11と90°の角度を成すように配列されている。したがって、織物基材10を製織する場合、従来の織機の簡単な改造で対応することができる。また、織物基材10を2枚使用して、一方の織物基材10を他方の織物基材10に対して強化繊維の配列方向が45°ずれる状態で積層して使用することにより、繊維配向角度が0°、90°、+45°、−45°で配列された強化繊維層を有する擬似等方性の繊維強化複合材料を容易に得ることができる。
【0033】
(5)補助経糸14a,14bは、隣り合う強化繊維用経糸11の間に交互に1本ずつ配列されている。したがって、織物基材10を製織する織機の経糸開口装置として、2枚のヘルドフレームで隣り合う経糸を交互に上下動させる一般の平織織機の装置を使用することができる。
【0034】
(第2の実施形態)
次に第2の実施形態を図3及び図4にしたがって説明する。この実施形態の織物基材10は、補助経糸14a,14bの配列状態が前記第1の実施形態と異なっており、その他の構成は第1の実施形態と同様であり、第1の実施形態と同様の部分は同一符号を付して詳しい説明を省略する。
【0035】
第1の実施形態では、隣接する強化繊維用経糸11の間に補助経糸14aと補助経糸14bとが交互に配列されていた。この実施形態では、図3(a),(b)に示すように、織物基材10を構成する補助経糸14a,14bは、隣接する強化繊維用経糸11の間に2本の補助経糸14a,14bが、強化繊維用緯糸12あるいは補助緯糸13に対する折り返し位置が互いに逆になるように配列されている。即ち、強化繊維用緯糸12及び補助緯糸13は、隣り合う強化繊維用経糸11間において強化繊維用緯糸12の配列面及び補助緯糸13の配列面と直交する平面内に位置する2本の補助経糸14a,14bにより保持される構成となる。
【0036】
織物基材10を製織する織機は、従来の平織織機と同様に補助経糸14a,14bの開口を行う2枚のヘルドフレーム(綜絖枠)を備えている。しかし、各ヘルドフレームのヘルド24,25は、図4に示すように、補助経糸14a及び補助経糸14bがそれぞれ同じ隣り合う強化繊維用経糸11の間において経糸開口を形成するように、隣り合う強化繊維用経糸11間の一平面内で上下動するように構成されている。したがって、強化繊維用経糸11の本数が同じ場合補助経糸14a,14bの本数は第1の実施形態の2倍になる。
【0037】
この第2の実施形態によれば、第1の実施形態の(1)〜(4)と同様な効果に加えて以下の効果を得ることができる。
(6)織物基材10を構成する補助経糸14a,14bは、隣接する強化繊維用経糸11の間に2本の補助経糸14a,14bが、強化繊維用緯糸12あるいは補助緯糸13に対する折り返し位置が互いに逆になるように配列されている。そのため、隣接する強化繊維用経糸11の間に1本の補助経糸が配列された構成の織物基材10に比べて組織が強固になり、織物基材10をプリフォームを形成するための成形型内に収容したり、マトリックス用の樹脂を含浸、硬化するための型内に収容したりするなどの取り扱いが容易になる。
【0038】
実施形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
○ 織物基材10は、隣り合う強化繊維用経糸11の間に補助経糸14a,14bの少なくとも一方が配列されている必要はなく、例えば、図5に示すように、補助経糸14aが配列された箇所と、補助経糸14a,14bが配列されていない箇所と、補助経糸14bが配列された箇所とが繰り返される構成としてもよい。
【0039】
○ 第2の実施形態のように隣り合う強化繊維用経糸11の間に2本の補助経糸14a,14bが配列された構成においても、2本の補助経糸14a,14bが配列された箇所と、補助経糸14a,14bが配列されていない箇所とが交互に繰り返される構成としてもよい。また、補助経糸14a,14bが配列されていない箇所と2本の補助経糸14a,14bが配列された箇所とがランダムに存在する構成としてもよい。これらの場合、補助経糸14a,14bの合計本数が第1の実施形態と同じでも、第1の実施形態に比べて補助経糸14a,14bによる織物基材10の形態保持効果が高くなる。
【0040】
○ 織物基材10は、隣り合う強化繊維用経糸11の間に配列された補助経糸14a,14bの本数が1本の箇所と、2本の箇所が存在する構成であってもよい。
○ 補助経糸14a,14bは、隣接する強化繊維用経糸11同士の間に複数配列され、かつ複数の補助経糸14a,14bのうち少なくとも1本は他の少なくとも1本に対して強化繊維用緯糸12あるいは補助緯糸13に対する折り返し位置が互いに逆になるように配列されていればよく、補助経糸14a,14bの本数が3本以上であってもよい。
【0041】
○ 織物基材10は、強化繊維用緯糸12が強化繊維用経糸11と成す角度は90°に限らず、他の角度であってもよい。例えば、強化繊維用緯糸12が強化繊維用経糸11と成す角度を45°としてもよい。
【0042】
○ 強化繊維用経糸11及び強化繊維用緯糸12を構成する繊維束は炭素繊維に限らず、繊維強化複合材料に要求される物性に対応して、アラミド繊維、ポリ−p−フェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、超高分子量ポリエチレン繊維等の高強度の有機繊維、ガラス繊維やセラミック繊維等の無機繊維を使用してもよい。例えば、ガラス繊維を使用した場合は、ガラス繊維が炭素繊維に比べて安価なため、コスト低減となる。
【0043】
○ 強化繊維用経糸11及び強化繊維用緯糸12は、太さが600テックス程度に限らない。繊維強化複合材料に対する要求性能にもよるが、炭素繊維の場合3K〜24Kの本数のものが使用され、炭素繊維の種類にもよるが太さはおおよそ100〜1600テックスとなる。なお、炭素繊維のフィラメントの密度は1〜2割程度の範囲でばらつきが有り、直径は5割程度の範囲でばらつきが有るため、同じ本数の炭素繊維であってもテックスで表す太さもバラツキが有る。
【0044】
○ 補助緯糸13及び補助経糸14a,14bはナイロンやポリエステル製の糸に限らず、炭素繊維やガラス繊維の繊維束であってもよい。
○ 補助緯糸13及び補助経糸14a,14bとしてナイロンやポリエステル製の糸を使用した場合その太さは数十デニールから1500デニール程度であり、テックスに換算すると数テックスから160テックス程度となる。即ち、補助緯糸13及び補助経糸14a,14b及びの太さは強化繊維用経糸11及び強化繊維用緯糸12の1/10以下になる。補助緯糸13及び補助経糸14a,14bは、織物基材10が繊維強化複合材料を構成した状態で強化繊維として機能する必要が無いため、織物基材10の状態において織物基材10の形態を保持できる太さであれば、細い方が好ましい。
【0045】
○ 織物基材10を繊維強化複合材料の強化繊維基材として使用する場合、マトリックス樹脂の種類や繊維強化複合材料の製造方法に、特に規制はない。
○ 織物基材10にRTM法で樹脂を含浸硬化する場合、織物基材10を予めプリフォームに賦形した後、樹脂の含浸硬化用の金型内に配置するのではなく、複数の織物基材10を金型内に配置しつつ賦形してもよい。
【0046】
○ 強化繊維用経糸11及び強化繊維用緯糸12は、織物基材10の状態ではそれぞれ真っ直ぐに配列されずに湾曲した状態に配列されていてもよい。織物基材10を製造した段階では強化繊維用経糸11及び強化繊維用緯糸12が湾曲した状態であっても、強化繊維用経糸11及び強化繊維用緯糸12が真っ直ぐに配列された状態でマトリックスとなる樹脂を含浸、硬化させることで繊維強化複合材料の状態では強化繊維用経糸11及び強化繊維用緯糸12が真っ直ぐに配列された状態にできる。
【0047】
以下の技術的思想(発明)は前記実施形態から把握できる。
(1)隣り合う前記強化繊維用経糸の間には、前記補助経糸が配置された箇所と前記補助経糸が配置されていない箇所とが交互に存在する請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の織物基材。
【0048】
(2)請求項1〜請求項5及び前記技術的思想(1)のいずれか一項に記載の織物基材からなるプリフォーム。
(3)請求項1〜請求項5及び前記技術的思想(1),(2)のいずれか一項に記載の織物基材を強化繊維基材として含む繊維強化複合材料。
【符号の説明】
【0049】
10…織物基材、11…強化繊維用経糸、12…強化繊維用緯糸、13…補助緯糸、14a,14b…補助経糸。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維束からなり互いに平行に配列された複数の強化繊維用経糸と、
繊維束からなり互いに平行にかつ前記強化繊維用経糸と交差する方向に配列された複数の強化繊維用緯糸と、
前記強化繊維用緯糸より細い糸条からなり、前記強化繊維用緯糸と同方向に延びかつ前記強化繊維用経糸に対して前記強化繊維用緯糸の反対側に配列された補助緯糸と、
前記強化繊維用経糸より細い糸条からなり、前記強化繊維用経糸と同方向に延びかつ前記強化繊維用経糸同士の間に配列され、前記強化繊維用緯糸に係合した状態での折り返し及び前記補助緯糸に係合した状態での折り返しが混在した状態で配列された補助経糸と
を備えている織物基材。
【請求項2】
前記補助経糸は、隣接する前記強化繊維用経糸同士の間に複数配列され、かつ前記複数の補助経糸のうち少なくとも1本は他の少なくとも1本に対して前記強化繊維用緯糸あるいは前記補助緯糸に対する折り返し位置が互いに逆になるように配列されている請求項1に記載の織物基材。
【請求項3】
前記強化繊維用緯糸は、前記強化繊維用経糸と90°の角度を成すように配列されている請求項1又は請求項2に記載の織物基材。
【請求項4】
前記補助緯糸は、前記強化繊維用経糸に対して前記強化繊維用緯糸の反対側において前記強化繊維用緯糸の幅内に配列されている請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の織物基材。
【請求項5】
前記強化繊維用経糸及び前記強化繊維用緯糸は、太さが100〜1600テックスであり、前記補助経糸及び前記補助緯糸は、太さが前記強化繊維用経糸及び前記強化繊維用緯糸の1/10以下である請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の織物基材。
【請求項6】
繊維束からなり互いに平行に真っ直ぐに配列された複数の強化繊維用経糸と、
繊維束からなり互いに平行にかつ前記強化繊維用経糸と交差する方向に真っ直ぐに配列された複数の強化繊維用緯糸と、
前記強化繊維用緯糸より細い糸条からなり、前記強化繊維用緯糸と同方向に延びかつ前記強化繊維用経糸に対して前記強化繊維用緯糸の反対側に配列された補助緯糸と、
前記強化繊維用経糸より細い糸条からなり、前記強化繊維用経糸と同方向に延びかつ前記強化繊維用経糸同士の間に配列され、前記強化繊維用緯糸に係合した状態での折り返し及び前記補助緯糸に係合した状態での折り返しが混在した状態で配列された補助経糸と
を備えている織物基材に樹脂を含浸させてなる繊維強化複合材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−57143(P2013−57143A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−196328(P2011−196328)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】