説明

耐圧摺動部材及びブレーキパッド

【課題】風車のヨー制御用ブレーキパッドのような高負荷がかかる摺動部品に用いることが可能な強度を有し、なおかつ耐摩耗性に優れるとともに、低コストである摺動部材を提供する。
【解決手段】フッ素樹脂繊維集合体と繊維集合体とマトリックス樹脂を含む摺動部(A)と繊維集合体とマトリックス樹脂を含む基盤部(B)から構成される耐圧摺動部材であって、摺動部(A)のフッ素樹脂繊維集合体と繊維集合体が交互に積層して構成される耐圧摺動部材及びそれからなるブレーキパッド。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧用の高強度摺動部材及びブレーキパッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、無潤滑下における摺動部材には固体潤滑材を含有した熱硬化性樹脂(例えば、特許文献1参照。)やカーボン焼結体(例えば、特許文献2参照。)等が用いられている。これらは低摩擦、耐摩耗である特徴を活かし、軸受、シールリング、ブレード等の摺動部材に使用されている。
【0003】
風車のヨー制御用ブレーキパッドに使用される摺動部材は、構造上高圧の負荷がかかる部材である。従来の樹脂材料及びカーボン材料では、このような高圧の負荷がかかる部材に使用すると、強度が耐えられず、割れてしまうという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−001883号公報
【特許文献2】特開2008−249129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、高負荷がかかる摺動部品に用いることが可能な強度を有し、なおかつ優れた耐摩耗性を有するとともに、低コストである摺動材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下の通りである。
(1)フッ素樹脂繊維集合体とマトリックス樹脂を含む摺動部(A)と繊維集合体とマトリックス樹脂を含む基盤部(B)から構成される耐圧摺動部材(図1)。
(2)フッ素樹脂繊維集合体と繊維集合体とマトリックス樹脂を含む摺動部(A)と繊維集合体とマトリックス樹脂を含む基盤部(B)から構成され、前記摺動部(A)のフッ素樹脂繊維集合体と繊維集合体が交互に積層して構成される耐圧摺動部材(図2)。
(3)フッ素樹脂繊維集合体及び繊維集合体が織物、編物、交織物、フエルトから選択される形態である(1)又は(2)に記載の耐圧摺動部材。
(4)繊維集合体が綿、毛、絹、麻、レーヨン、ナイロン、アクリル、ビニロン、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリウレタン、アラミド、ボロン、ザイロン、ガラス、炭素から少なくとも1種から選ばれる(1)〜(3)のいずれかに記載の耐圧摺動部材。
(5)摺動部(A)のフッ素樹脂繊維集合体及び繊維集合体の積層面と摺動面のなす角が2〜90°である(2)〜(4)のいずれかに記載の耐圧摺動部材(図3)。
(6)マトリックス樹脂がフェノール樹脂又はエポキシ樹脂である(1)〜(5)のいずれかに記載の耐圧摺動部材。
(7)(1)〜(6)のいずれかに記載の耐圧摺動部材からなるブレーキパッド。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高負荷下において割れ、破損がなく、耐摩耗性に優れた摺動材料を提供できる。
また、摺動部と基盤部の二層構造とすることで、耐摩耗特性と低コストの両立が可能な摺動材料を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の耐圧摺動部材の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の耐圧摺動部材の他の実施形態を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明の耐圧摺動部材の他の実施形態を模式的に示す断面図である。
【図4】本発明のブレーキパッドの一実施形態を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0010】
本発明は、高負荷がかかる摺動部品において、相手面を傷つけることのない摩擦係数の低い摺動特性を持ち、耐久性に優れた摺動部材について鋭意検討した結果、繊維集合体を数種類併用し、これらを積層して用いることで、前記課題を解決した。これにより、従来の樹脂材料、カーボン焼結体と同等以上の耐摩耗特性を有し、高負荷がかかる摺動部品に使用可能な摺動材料を提供できる。
【0011】
本発明の摺動部(A)は、フッ素樹脂繊維集合体とマトリックス樹脂を含む。フッ素樹脂繊維集合体には、フッ素樹脂繊維の樹脂等との濡れ性を向上させることやコストダウンを目的に、フッ素樹脂繊維の低摩擦特性を損なわない範囲で、他の素材を交織、混撚あるいは混綿してもよい。また、摺動部(A)は、フッ素樹脂繊維集合体と他の素材の繊維集合体を1枚又は複数枚ずつ交互に積層させて用いてもよい。
【0012】
フッ素樹脂繊維集合体及び繊維集合体が、織物、編物、交織物、フエルトから選択される形態であることが好ましい。これらの形態の繊維集合体を用いることで、高負荷がかかる摺動部品において割れることなく形状を維持できる部品を提供できる。
【0013】
本発明の耐圧摺動部材に用いるフッ素樹脂は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオトエチレン−p−フルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)等を単独又は2種類以上ブレンドしたものを使用することができる。フッ素樹脂繊維の中でも、耐摩耗性が優れるPTFE繊維を用いることが好ましい。
【0014】
本発明の繊維集合体としては、綿、毛、絹、麻、レーヨン、ナイロン、アクリル、ビニロン、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリウレタン、アラミド、ボロン、ザイロン、ガラス、炭素から少なくとも1種から選ばれる繊維集合体が挙げられる。低コストの観点からは、天然繊維では綿、合成繊維ではポリエステル、無機繊維ではガラスを用いることが好ましく、高強度の観点から天然繊維では麻、合成繊維ではアラミド繊維、無機繊維では炭素繊維を用いることが好ましい。
【0015】
本発明では、摺動部材の摺動部(A)が摩擦面に接するよう構成される。通常、摺動部(A)を摩擦面にそのまま接触させて使用する。摺動部(A)は長時間の摩擦により摩耗するが、最表面にフッ素樹脂繊維が常に接触していることが好ましい。そこで、摺動部(A)のフッ素樹脂繊維集合体と繊維集合体が交互に積層して構成する時は、フッ素樹脂繊維の低摩擦特性を最大限に引き出すために、摩擦面に対して2〜90°の角度傾斜をつけることが好ましい。摩擦面に対して傾斜をつけることにより、常にフッ素樹脂繊維が摩擦面に接触し、フッ素樹脂の特性を活かすことができる。
【0016】
本発明の耐圧摺動部材は、摺動部(A)と基盤部(B)の2層構造とされる。摩擦相手材と接する摺動部(A)は、優れた耐摩耗性及び高負荷に耐えうる強度が要求されるのに対し、基盤部(B)は、高負荷に耐えうる強度が要求されるが、摺動面に接することがないため耐摩耗性は要求されない。このため、耐圧摺動部材を使用する期間内に摺動面と接触する可能性のない部分は、基盤部(B)として、高負荷に耐えうる強度を備える素材により構成すればよい。耐圧摺動部材を、摺動部(A)と基盤部(B)の2層構造とし、耐摩耗性を付与するフッ素樹脂繊維を摺動部(A)にのみ使用することにより、高価であるフッ素樹脂繊維の使用量を少なくすることができる。これにより低コストと摺動特性を両立する材料を提供することが可能となる。
また、さらに摺動部(A)をフッ素樹脂繊維集合体と他の素材の繊維集合体を1枚又は複数枚ずつ交互に積層させることによって、耐摩耗性は若干低下するものの、その低下の程度は軽微であり、実用に耐えうる十分な耐摩耗性が得られることに加えて、さらに低コスト化が可能である。
【0017】
本発明の耐圧摺動部材は、例えば、風車回転面を変動する風向に追尾させるヨー制御装置に用いるブレーキ部材のディスクパッドとして使用する。例えば、図4に示すように円筒型の真鍮製のカップに円盤形状にくり抜いた耐圧摺動部材をはめ込みブレーキ部材とする。得られたブレーキ部材を、ベアリングに複数個押し当てて使用する。ディスクパッドはナセルの質量及び風による負荷、また、ヨー動作時にはその動荷重も受け止めるため、これに耐えられる強度及び耐久性が必要である。本発明の耐圧摺動部材は、強度及び耐久性に優れるため、割れ、破損がなく使用できる。
【0018】
また、ディスクパッドは継続的に摩耗するため、定期的に交換する必要があるが、その交換頻度はできるだけ少なくすることが好ましい。本発明では、ブレーキパッドの耐摩耗性を向上させたことにより、寿命が長くすることができ、交換頻度を少なくすることができた。さらに、耐摩耗性を向上させたことにより、摺動部(A)の厚みを薄くしても同じ寿命とすることも可能となった。この場合、ブレーキ部材の軽量化、原料コストの削減、摩耗粉発生の低減効果が得られる。
【0019】
本発明の耐圧摺動部材に用いるマトリックス樹脂は、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂もしくはポリアミド、ポリアセタール等の熱可塑性樹脂であることが好ましい。なかでも、耐熱性の観点から、熱硬化性樹脂が好ましく、フッ素樹脂繊維との濡れ性がよいフェノール樹脂や繊維との接着性が良好で機械特性に優れたエポキシ樹脂がより好ましい。
【0020】
本発明で用いるフェノール樹脂としては、ノボラック型フェノール樹脂又はレゾール型フェノール樹脂を単独で使用してもよく、また両者を併用してもよい。成形安定性の観点では、レゾール型フェノール樹脂を用いることが好ましい。
【0021】
本発明で用いるエポキシ樹脂としては、ビスフェノールAグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ビスフェノールFグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ビスフェノールSグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ビスフェノールADグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂が挙げられる。
【実施例】
【0022】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0023】
〔実施例1〕
(プリプレグの作製)
100mm×100mmにカットしたPTFE繊維織布(東レ株式会社製、商品名:トヨフロン(登録商標)、目付:201g/m)及びガラス繊維織布(日東紡績株式会社製、目付:570g/m)をそれぞれレゾール型フェノール樹脂ワニス(日立化成工業株式会社製、商品名:VP−51N)に浸漬し、引き上げた後、110℃、10分乾燥させ、PTFE繊維織布、ガラス繊維織布のプリプレグを得た。
【0024】
(硬化物の作製)
PTFE繊維織布プリプレグを17枚、ガラス繊維織布プリプレグを1枚、綿織布プリプレグ(日立化成工材株式会社製、商品名:GP−51NS)を40枚積層させ、300トン油圧成形機(東邦プレス製作所株式会社製)を用いて、165℃、8MPaで10分プレスした後、180℃、1時間処理し、PTFE繊維織布積層部からなる摺動部(A):2.6mmとガラス繊維織布積層部と綿織布積層部からなる基盤部(B):4.0mmで構成される硬化物を得た。
【0025】
(圧縮強度試験)
圧縮強度試験は、アムスラー式万能試験機(株式会社島津製作所製)を用い、摺動部(A)及び基盤部(B)の層に直交する方向に荷重を加え、JIS−A 1108に基づき圧縮強度試験を行った。圧縮強度は300MPaであった。
【0026】
(摺動摩耗試験)
リングオンディスク型摩耗試験機(株式会社茨城製作所製)を用い摺動摩耗試験を行った50mm×10mm×5mmに切り出したサンプルのPTFE繊維織布側に、リング(材質:SUS304(JIS―G 4303:2005)、外径:34mm、内径:25.6mm、巾:4.2mm)を押しあて、面圧:8MPa、回転速度:0.16m/sの条件で8時間測定した。時間当たりの摩耗深さは0.02mm/hであった。
【0027】
〔実施例2〕
PTFE繊維織布プリプレグと綿織布プリプレグを交互に20枚積層し、さらに下部に綿織布プリプレグを40枚積層させ、実施例1と同様にプレス、熱処理し、PTFE/綿交互積層部からなる摺動部(A):2.5mmと綿織布積層部からなる基盤部(B):4.0mmで構成される硬化物を得た。実施例1と同様に圧縮強度試験を行った結果、圧縮強度は280MPaであった。また、実施例1と同条件において摺動摩耗試験を行った結果、時間当たりの摩耗深さは0.10mm/hであった。
【0028】
〔実施例3〕
PTFE繊維織布プリプレグと綿織布プリプレグを交互に30枚積層し、実施例1と同様にプレス、熱処理したPTFE/綿交互積層部を5°傾け、厚み:2.5mmに切り出した。これに、綿織布プリプレグを40枚積層させ、実施例1と同様にプレス、熱処理し、PTFE/綿交互積層傾斜部からなる摺動部(A):2.5mmと綿積層部からなる基盤部(B):4.0mmで構成される硬化物を得た。実施例1と同様に圧縮強度試験を行った結果、圧縮強度は240MPaであった。また、実施例1と同条件において摺動摩耗試験を行った結果、時間当たりの摩耗深さは0.06mm/hであった。
【0029】
〔比較例1〕
綿繊維織布プリプレグを50枚積層し、実施例1と同様にプレス、熱処理し、硬化物を得た。実施例1と同様に圧縮強度試験を行った。その結果、圧縮強度は260MPaであった。また、実施例1と同条件において摺動摩耗試験を行った結果、時間当たりの摩耗深さは2.0mm/hであった。
【0030】
〔比較例2〕
カーボン摺動材料(日立化成工業株式会社製、商品名:ヒタロックHCB−10、ヒタロックは登録商標)を入手し、実施例1と同様に圧縮強度試験を行った。その結果、圧縮強度は100MPaであった。また、実施例1と同条件において摺動摩耗試験を行った結果、0.17mm/hであった。
【0031】
〔比較例3〕
フェノール樹脂(エア・ウォーター株式会社製、商品名:ベルパールS890、ベルパールは登録商標):70重量%、黒鉛(日本黒鉛工業株式会社製、商品名:CB150):30重量%を混練した後、150℃に熱した金型に入れ、2MPaで5分プレスした後、180℃で8時間処理し、フェノール樹脂材料を得た。実施例1と同様に圧縮強度試験を行った結果、圧縮強度は220MPaであった。また、実施例1と同条件において摺動摩耗試験を行った結果、時間当たりの摩耗深さは0.40mm/hであった。
【0032】
表1に実施例1〜3及び比較例1〜3の圧縮強度及び摩耗深さをまとめて示す。
【0033】
【表1】

【0034】
〔実施例4〕
実施例1で作製した硬化物を直径80mmの円盤形状にくり抜き、ブレーキパッドを製作した。
このブレーキパッドを、風車回転面を変動する風向に追尾させるヨー制御装置に用いるブレーキ部材(図4)に適用し、このブレーキパッドが、優れた耐圧性と耐摩耗性を示すことが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂繊維集合体とマトリックス樹脂を含む摺動部(A)と繊維集合体とマトリックス樹脂を含む基盤部(B)から構成される耐圧摺動部材。
【請求項2】
フッ素樹脂繊維集合体と繊維集合体とマトリックス樹脂を含む摺動部(A)と繊維集合体とマトリックス樹脂を含む基盤部(B)から構成され、前記摺動部(A)のフッ素樹脂繊維集合体と繊維集合体が交互に積層して構成される耐圧摺動部材。
【請求項3】
フッ素樹脂繊維集合体及び繊維集合体が織物、編物、交織物、フエルトから選択される形態である請求項1又は2に記載の耐圧摺動部材。
【請求項4】
繊維集合体が綿、毛、絹、麻、レーヨン、ナイロン、アクリル、ビニロン、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリウレタン、アラミド、ボロン、ザイロン、ガラス、炭素から少なくとも1種から選ばれる請求項1〜3のいずれかに記載の耐圧摺動部材。
【請求項5】
摺動部(A)のフッ素樹脂繊維集合体及び繊維集合体の積層面と摺動面のなす角が2〜90°である請求項2〜4のいずれかに記載の耐圧摺動部材。
【請求項6】
マトリックス樹脂がフェノール樹脂又はエポキシ樹脂である請求項1〜5のいずれかに記載の耐圧摺動部材。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の耐圧摺動部材からなるブレーキパッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−154364(P2012−154364A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−11825(P2011−11825)
【出願日】平成23年1月24日(2011.1.24)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】