説明

耐火材用マトリックス材、耐火材及び廃棄物燃焼溶融炉

【課題】廃棄物を燃焼溶融しスラグ化する廃棄物燃焼溶融炉において、炉内壁を構成する耐火材の溶融スラグに対する耐食性を向上した耐火材用マトリックス材、耐火材、及び、廃棄物燃焼溶融炉を提供する。
【解決手段】定比性または不定比性スピネル単相から構成される酸化物材料であって、4価酸化物を固溶成分として、0.1mass%以上1mass%未満含有するものを耐火材用マトリックス材に適応する。ここで、マグネシアスピネル単相とは、X線解析で同定される結晶相としてスピネル結晶のみを含み、マグネシアーアルミナ2元系表示におけるMgO成分含有量が7mass%以上39mass%以下の範囲にあるものをいう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家庭やオフィスなどから出される都市ごみ等の一般廃棄物、廃プラスチック、カーシュレダー・ダスト、電子機器、化粧品などの産業廃棄物等、即ち、可燃物を含む廃棄物を焼却処理して生じる灰分を加熱して溶融スラグとする廃棄物燃焼溶融炉の内面を構成する耐火材に使用される耐火材用マトリックス材、この耐火材用マトリックス材を含む耐火材、及び、この耐火材を使用する廃棄物燃焼溶融炉に関するものである。
【背景技術】
【0002】
都市ゴミ等の一般廃棄物や廃プラスチック等の可燃物を含む廃棄物の処理装置の一つとして、廃棄物を熱分解反応器に入れて低酸素雰囲気下で加熱して熱分解し、熱分解ガス(乾留ガス)と主として不揮発性成分からなる熱分解残留物とを生成し、この熱分解ガスと熱分解残留物とを排出装置において分離し、更に、熱分解残留物を不活性雰囲気下の冷却装置で冷却した後、分離装置に供給して熱分解カーボンを主体とする燃焼性成分と、例えば、金属や陶器、砂利などの不燃性成分とに分離し、燃焼性成分を粉砕して粉体とし、この粉砕された燃焼性成分と前記した熱分解ガスとを廃棄物燃焼溶融炉に導いて燃焼させ、生じた燃焼灰をその燃焼熱により加熱して溶融スラグとなし、この溶融スラグは耐火材で覆われた炉内面を伝って流下し、排出部から外部に排出して冷却固化させるようにした廃棄物処理装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
一方、耐火材が、鉄鋼、非鉄、セメント、ガラス、窯業など高温処理を必要とする工業の窯炉やボイラ、廃棄物焼却炉等に使用される。この耐火材の採用に際して、溶融スラグと接触する環境の下で使用する場合においては、酸素分圧、アルカリ分圧などの気相側の環境と共に、溶融スラグが関与する苛酷な高温腐食についても考慮する必要がある。
【0004】
一般に、酸素分圧の高い使用条件下においては、酸化物系耐火材が使用されるが、空気で燃焼溶融する廃棄物処理での酸化物系耐火材の場合には、マグネシアーアルミナ複合系でマグネシアスピネル(MgAl2 4 )−マグネシアの混合耐火材が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0005】
しかしながら、上記の廃棄物処理装置の灰分を溶融させた溶融スラグは、塩基度が低く、また、塩素やイオウなどの酸化性ガスが共存するため、アルミナやマグネシア等の耐火材成分の溶解度が高い。これらの溶融スラグや酸化性ガスへの耐火材の耐食性を高めるためには、物理的、化学的に耐久性の高いマトリックス材料が必要である。即ち、アルミナやマグネシウムの単独酸化物成分は、熱膨張特性が両者の複合した酸化物(マグネシアスピネル)と異なり、体積安定性が低く、クラックなどを生じ易いという問題点や、灰中のシリカ成分・アルカリ成分や排ガス中のSOx分などと反応し易いという問題点がある。従って、耐火材の部分的剥離や、溶融スラグの浸入など、損傷や損耗の発生が起こり易く、結果として耐火材のスポーリングや溶解などの損耗が継続的に進行するという問題が生じる。
【特許文献1】特公平6−56253号公報
【特許文献2】特開2001−158661号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、その目的は、廃棄物を燃焼溶融しスラグ化する廃棄物燃焼溶融炉において、溶融スラグに接する炉内壁を構成する耐火材に好適な耐火材用マトリックス材、この耐火材用マトリックス材を含む耐火材、及び、この耐火材を使用した廃棄物燃焼溶融炉を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するための本発明の耐火材用マトリックス材は、結晶相としてスピネル型結晶を含み、MgO成分含有量が7mass%以上39mass%以下の範囲にあるマグネシアスピネル単相から構成される耐火材用マトリックス材であって、4価金属酸化物を固溶成分として0.1mass%以上1mass%未満含有するように構成される。
【0008】
また、上記の耐火材用マトリックス材において、前記4価金属酸化物として、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化スズ、酸化ハフニウムの中のいずれか一つ又は二つ以上を含んで構成される。
【0009】
上記のように調製された耐火材用マトリックス材にあっては、立方晶という対称性の高い相で、しかも単一相であるため、昇降温や局部燃焼などの時間的及び空間的な温度場の変動に際して熱膨張特性のバラツキがなく、安定度が高い。
【0010】
その上、4価金属酸化物を固溶成分として含むため、結晶中の陽イオン空孔濃度が高く、拡散係数が大きくなり、粉末の常温状態から高温状態に上げた際の焼結挙動において、焼結体の最終密度が高くなる。
【0011】
従って、機械的な損傷や、溶融スラグの物理的浸入などの損傷要因が低減される。ここで、4価金属酸化物の添加率は0.1mass%以上1mass%未満とし、固溶体の形成範囲内とする。
【0012】
また、上記のように調製された耐火材用マトリックス材は、溶融スラグの化学的浸食に際して安定性の高い複合酸化物であるため、溶融スラグ中への物質移動が抑制される。従って、耐火材の耐食性が向上することになる。
【0013】
そして、上記の目的を達成するための本発明の耐火材は、上記の耐火材用マトリックス材を含んで構成される。この構成の耐火材は、溶融スラグ中への物質移動が抑制された耐火材、即ち、耐食性に優れた耐火材となる
更に、上記の目的を達成するための本発明の廃棄物燃焼溶融炉は、上記の耐火材用マトリックス材を含む耐火材を、溶融物と接する炉壁の炉壁材として用いて形成すると、溶融スラグに対する耐食性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の耐火材用マトリックス材、耐火材によれば、廃棄物を燃焼溶融しスラグ化する廃棄物燃焼溶融炉において、4価金属酸化物を固溶限以内の濃度に含むスピネル単相からなる試料を耐火材のマトリックス部に適用することにより、この耐火材用マトリックス材を含む耐火材の溶融スラグに対する耐食性を向上することができる。
【0015】
また、本発明の廃棄物燃焼溶融炉によれば、この耐火材用マトリックス材を含む耐火材を使用して廃棄物燃焼溶融炉の炉内壁を構成するので、この廃棄物燃焼溶融炉の溶融スラグに対する耐食性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係る耐火材用マトリックス材、耐火材及び廃棄物燃焼溶融炉の実施の形態について説明する。
【0017】
先ず、最初に、本発明に係る耐火材用マトリックス材の実施の形態について説明する。この耐火材用マトリックス材は、結晶相としてスピネル型結晶を含み、MgO成分含有量が7mass%以上39mass%以下の範囲にあるマグネシアスピネル単相から構成される耐火材用マトリックス材であって、4価金属酸化物を固溶成分として0.1mass%(重量%)以上1mass%未満含有するように構成される。
【0018】
つまり、定比性または不定比性スピネル単相から構成される酸化物材料であって、4価酸化物を固溶成分として含有するものを耐火材用マトリックス材に適応する。この4価金属酸化物としては、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化スズ、酸化ハフニウムの中のいずれか一つ又は二つ以上を使用することができる。この4価金属酸化物の添加率は0.1mass%以上1mass%未満とし、固溶体の形成範囲内とする。
【0019】
ここで、マグネシアスピネル単相とは、X線解析で同定される結晶相としてスピネル結晶のみを含み、マグネシアーアルミナ2元系表示におけるMgO成分含有量が7mass%以上39mass%以下の範囲にあるものをいう。
【0020】
この耐火材用マトリックス材は、立方晶という対称性の高い相で、しかも単一相であるため、昇降温や局部燃焼などの時間的及び空間的な温度場の変動に際して熱膨張特性のバラツキがなく、安定度が高い。
【0021】
しかも、4価金属酸化物を固溶成分として含むため、結晶中の陽イオン空孔濃度が高く、拡散係数が大きくなり、粉末の常温状態から高温状態に上げた際の焼結挙動において、焼結体の最終密度が高くなる。従って、機械的な損傷や、溶融スラグの物理的浸入などの損傷要因が低減される。
【0022】
また、このように調製された耐火材用マトリックス材は、溶融スラグの化学的浸食に際して安定性の高い複合酸化物であるため、溶融スラグ中への物質移動が抑制される。従って、この耐火材用マトリックス材を含む耐火材の耐食性が向上することになる。
【0023】
上記の耐火材用マトリックス材が微粒(粒子サイズが0.1mm以下)ないし中粒(0.1mm〜1mm)の微細部を構成する成分であるのに対し、中粒の粗大部及び粗粒(1mm以上)を構成する粒子成分は骨材と呼ばれる。骨材には、電融アルミナ、電融スピネル、電融ジルコニア等が使用される。耐火材は、上記のマトリックス材と骨材とから成る耐火性主材を基本構成物とする。これに、結合・強度を与えるための結合材や、分散剤、硬化遅延剤等を配合し、耐火材が構成される。
【0024】
上記の耐火材用マトリックス材、結合材、添加材等を所定の割合で混合した後、成形型に入れて所定の形状に成形する。この成形体を養生・乾燥させる。この後、成形体を加熱炉(焼成炉)に入れて、1400℃〜1700℃で加熱して焼結し、この焼結物を冷却して定形耐火材とする。
【0025】
また、不定形耐火材として使用する場合には、上記の耐火材用マトリックス材、結合材、添加材等を所定の割合で混合した粉末を用いる。この不定形耐火材を用いて、炉内壁を形成する場合には、不定形耐火材の粉末に水分を加えて混練りしたものを炉壁に設けた型枠内に流し込んで炉内壁を形成し、養生・乾燥させる。この後、この炉内壁を燃焼バーナー等で1200℃〜1400℃で加熱し、炉内壁を焼成する。
【0026】
そして、上記の製造方法によって製造された耐火材は、溶融スラグの化学的浸食に際して安定性の高い複合酸化物である耐火材用マトリックス材を含んでいるため、耐火材から溶融スラグ中への物質移動が抑制される。従って、耐火材の耐食性が向上する。
【0027】
次に、この耐火材用マトリックス材を含む耐火材を用いた廃棄物燃焼溶融炉について説明する。この図1に示す廃棄物燃焼溶融炉は、次のような廃棄物燃焼溶融システムで用いられる溶融炉である。
【0028】
この廃棄物燃焼溶融システムにおいては、都市ゴミ等の一般廃棄物や廃プラスチック等の可燃物を含む廃棄物を熱分解反応器に入れて低酸素雰囲気下で加熱して熱分解する。この熱分解により、熱分解ガス(乾留ガス)と主として不揮発性成分からなる熱分解残留物とを生成する。この熱分解ガスと熱分解残留物とを排出装置において分離する。
【0029】
この熱分解残留物を不活性雰囲気下の冷却装置で冷却した後、分離装置に供給して熱分解カーボンを主体とする燃焼性成分と、例えば、金属や陶器、砂利などの不燃性成分とに分離する。この燃焼性成分を粉砕して粉体とし、この粉砕された燃焼性成分と前記した熱分解ガスとを廃棄物燃焼溶融炉に導いて燃焼させる。この燃焼で生じた燃焼灰をその燃焼熱により加熱して溶融スラグとする。この溶融スラグは耐火材で覆われた炉内面を伝って流下し、排出部から外部に排出して冷却固化させる。
【0030】
この図1に示す廃棄物燃焼溶融炉1では、粉砕された燃焼性成分Fが投入口21から、熱分解ガスGがガス投入口22から廃棄物燃焼溶融炉1内に導かれる。また、燃焼用の空気Aが空気供給口23から導入される。そして、燃焼性成分Fと熱分解ガスGが空気Aと混合して燃焼し、この燃焼で生じた燃焼灰をその燃焼熱により加熱して溶融スラグCとする。この溶融スラグCは耐火材で覆われた炉内面を伝って流下し、排出部24から外部に排出され冷却固化する。
【0031】
この図1に示すような廃棄物燃焼溶融炉1において、溶融スラグが接する炉内壁部分(クロスハッチング部)を、上記の耐火材を用いて形成する。この場合に、耐火材を予め決まった形状に焼結した定形耐火材を積み上げて炉内壁を形成してもよいし、この耐火材を、粉末状のキャスタブル耐火材や練り土状のプラスチック耐火材等の不定形耐火材として用いて、流し込み施工等により炉内壁を形成した後、加熱して炉内壁を焼成してもよい。
【0032】
この廃棄物燃焼溶融炉1の溶融スラグに接する炉内壁の部分を上記の構成の耐火材で形成することにより、廃棄物燃焼溶融炉1の炉内壁の溶融スラグに対する耐食性を向上することができる。
【実施例】
【0033】
試験片組成として、表1の実施例1〜6に示すものを調合し、加圧成形し、大気中で固相反応させるために1600℃に加熱し、定比性スピネル又は不定比性スピネルを作製した。マグネシア対アルミナの配合比は、マグネシア−アルミナ系状態図で、定比性又は不定比性スピネル単相が生成するように、組成領域を選定したものである。これを粉砕して微細粉末にした。この一部を粉末X線法で検査することによりスピネル単相になっていることを確認した。
【0034】
この粉砕した粉末を、粒径0.5mm以下に分級し、成形後、大気中1400℃〜1600℃で焼結した。なお、焼結後の相状態も確認した。
【0035】
これを切出し、相対密度計測試料(φ10mm×5mm)、及び、耐食性評価用の丸棒状試料(φ10mm×75mm)を作製した。この相対密度は、アルキメデス法により、計測を行った。また、耐食性評価では、表3に示す組成の実機採取スラグに浸漬し腐食させる試験を行った。
【0036】
この腐食試験では、1400℃、20時間の浸漬の後、丸棒状試料を切断し、実験前後の外径の変化から腐食損耗量を求めた。その結果、表1に示すような腐食損耗が得られた。
【0037】
一方、比較例として、組成制御により、次の3種のものを作製した。(1)定比性スピネル単相で4価金属酸化物を含まないもの、(2)不定比性スピネル単相で4価金属酸化物を含まないもの,(3)スピネル及び4価金属酸化物の2相共存系。
(1)は、定比性スピネルとなるよう原料を調整し合成した。
(2)は、不定比性スピネル単相領域となるように、マグネシア−アルミナ2元系表示におけるアルミナ含有量が75mass%〜80mass%となるように選定し、合成した。
(3)は、別途作製した定比性スピネルに、4価金属酸化物を過剰となるよう調整し、合成した。
【0038】
これらをX線解析により予め相同定した。その後、実施例と同じ条件で成形し、焼結した。この焼結後の試料を切出し、相対密度計測試料(φ10mm×5mm)、及び、耐食性評価用の丸棒状試料(φ10mm×75mm)を作製した。また、この焼結後の試料から一部を切出し、相状態も確認した。この丸棒状試料について、上記と同様に実機採取スラグに浸漬する腐食試験を行った。その結果を、表2に示す。
【0039】
表1、表2の比較から、耐食性を比較した。その結果、4価金属酸化物を固溶限以内の濃度で含む試料において、4価金属酸化物を含まない試料や、4価金属酸化物を過剰に含む試料より優れた耐食性能が認められた。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【0042】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明に係る実施の形態の廃棄物燃焼溶融炉を示す図である。
【符号の説明】
【0044】
1 廃棄物燃焼溶融炉
21 投入口
22 ガス投入口
23 空気供給口
24 排出部
A 燃焼用の空気
C 溶融スラグ
F 燃焼性成分
G 熱分解ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶相としてスピネル型結晶を含み、MgO成分含有量が7mass%以上39mass%以下の範囲にあるマグネシアスピネル単相から構成される耐火材用マトリックス材であって、4価金属酸化物を固溶成分として0.1mass%以上1mass%未満含有する耐火材用マトリックス材。
【請求項2】
前記4価金属酸化物として、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化スズ、酸化ハフニウムの中のいずれか一つ又は二つ以上を含む請求項1記載の耐火材用マトリックス材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の耐火材用マトリックス材を含む耐火材。
【請求項4】
請求項3に記載の耐火材を、溶融物と接する炉壁の炉壁材として用いた廃棄物燃焼溶融炉。

【図1】
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【公開番号】特開2007−131498(P2007−131498A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−327574(P2005−327574)
【出願日】平成17年11月11日(2005.11.11)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】