説明

耐熱遮光フィルムとその製造方法

【課題】デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、プロジェクターなどに用いられるシャッター羽根または絞り羽根や、カメラ付き携帯電話や車載モニターの固定絞りとして用いられ、耐熱性、高遮光性、低反射性に優れた耐熱遮光フィルムとその製造方法を提供する。
【解決手段】表面に微細な凹凸を形成した200℃以上の耐熱性を有する樹脂フィルム基材(A)の少なくとも一方の面に、50nm以上の膜厚を有する硬質性の遮光性薄膜(B)がスパッタリング法で形成された耐熱遮光フィルムであって、遮光性薄膜(B)は、炭化チタンと金属成分とを主成分とし、該金属成分はニッケル、チタン、タングステン、モリブデン、鉄、アルミニウム、又はマグネシウムから選ばれる一種以上の金属成分を3〜7質量%含有する金属炭化物膜(B1)、及び該金属炭化物膜上の酸素を含む金属炭化物膜(B2)からなり、非晶質相を含まず完全な結晶相だけで構成された積層膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱遮光フィルムとその製造方法に関し、より詳しくは、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラのレンズシャッターなどに用いられるシャッター羽根または絞り羽根や、カメラ付き携帯電話や車載モニターのレンズユニット内の固定絞りや、プロジェクターの光量調整モジュールの絞り羽根などの光学機器部品として用いられ、耐熱性、高遮光性、低反射性に優れた耐熱遮光フィルムとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタルカメラの高速(機械式)シャッターの開発が活発に行われている。その狙いは、シャッタースピードをより高速にして、超高速の被写体をブレ無く撮影し、鮮明な画像を得ることを可能にすることである。一般にシャッターは、シャッター羽根と呼ばれる複数の羽根が回転、移動することで開閉が行われているが、シャッタースピードを高速化するためには、シャッター羽根が瞬間的な動作と停止に対応できるよう、軽量かつ高摺動性であることが必要不可欠である。更に、シャッター羽根は、シャッターが閉じている状態では、フィルムなどの感光材やCCD、CMOSなどの撮像素子の前面を覆って光を遮る役割を有しているので、完全な遮光性を必要とするだけでなく、複数枚のシャッター羽根が互いに重なり合って動作する際に、各羽根間の漏れ光の発生を防ぐために羽根表面の光反射率が低いことが望まれる。
【0003】
撮影機能を有した携帯電話、すなわちカメラ付携帯電話においても、デジタルカメラ同様、近年、高画素で高画質の撮影が行えるよう、小型の機械式シャッターがレンズユニットに搭載され始めている。また、固定絞りも携帯電話のレンズユニット内に挿入されている。上記の携帯電話に組み込まれる機械式シャッターは、一般のデジタルカメラよりも、省電力による作動が要求される。そのためシャッター羽根の軽量化が特に強く要求される。更に、最近カメラ付き携帯電話のレンズユニットの組み立ては、製造コストを低減する目的で、レンズ、固定絞り、シャッターなどの各部材がリフロー工程で行われることが要望されている。そのため、これに用いられるシャッター羽根や固定絞りには、高遮光性、表面の低反射性に加えて、耐熱性が要求されている。
【0004】
一方、液晶プロジェクターは、大画面でホームシアターとして鑑賞できるため、最近、一般家庭に普及し始めている。リビングルームといった明るい環境下でも鮮やかなハイコントラスト映像が楽しめるような高画質化が強く要望され、ランプ光源を高出力化することによって、画質の高輝度化が図られている。プロジェクターの光学系には、ランプ光源からの光量を調整する光量調整モジュール用絞り装置(オートアイリス)がレンズ系の内部や側面に用いられている。光量調整モジュールの絞り装置は、シャッターと同様に複数枚の絞り羽根が互いに重なって光を通す開口部の面積を調整する。このような光量調整モジュール用絞り装置の絞り羽根も、シャッター羽根の場合と同様の理由から高遮光性、表面の低反射性と軽量化が要求されている。それと同時に、光量調整モジュール用絞り装置の絞り羽根には、ランプ光の照射による加熱に対する耐熱性も必要となる。すなわち、光照射によって羽根材の表面温度が高くなり、変色することで低反射性が損なわれてしまい、表面で反射した光が迷光となって鮮明な映像を写せなくなるからである。
【0005】
上述のシャッター羽根や固定絞り、光量調整モジュール用絞り装置の絞り羽根に用いる遮光板として、要求特性に応じて下記のものが一般に用いられている。
耐熱性を要求される場合は、SUS、SK材、Al、Ti等の金属薄板を基材とした遮光板が一般に用いられている。金属薄板自体を遮光板としたものもあるが、金属光沢を有するため、表面の反射光による迷光の影響を回避したい場合には好ましくない。これに対して金属薄板上に黒色潤滑塗装した遮光板は、低反射性を有するが、塗装材が耐熱性に劣るため、高温環境下では一般に使用できない。さらに、加工端面の光反射を抑えるために、所定の形状に加工後、加工端面を黒染め処理する工程が必ず必要となり、製造コストが高くなるという課題を有している。
【0006】
例えば、特許文献1には、遮光性、低光沢性、導電性の点からランプ光源などから発せられる光を吸収させるためにカーボンブラック、チタンブラックなどの導電性黒色微粒子をポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムなどの樹脂フィルムに含浸させ遮光性及び導電性を持たせ、さらに遮光フィルムの片面または両面マット処理し、低反射性、低光沢性とした遮光フィルムが開示されている。
また、特許文献2では、樹脂フィルム上に、遮光性と導電性を有するカーボンブラックなどの黒色顔料や潤滑材、艶消し剤を含有した熱硬化性樹脂層を塗布し、遮光性、低反射性、導電性、潤滑性、低光沢性を付与した遮光フィルムが開示されている。
特許文献1、2では、遮光性及び導電性、低光沢性の遮光フィルムであるが、例えばポリエチレンテレフタレートを使用した遮光フィルムの場合、プロジェクターの光量調整モジュール用絞り装置の絞り羽根やカメラ付き携帯電話のリフロー用固定絞り、シャッター羽根のように高温環境下では、上記遮光フィルムが熱変形してしまい、性能を発揮できなくなるという問題がある。
【0007】
そのため、本出願人は、光沢性の劣化は無く、変形したり、変色したりすることがない優れた耐久性を有し、膜剥がれ及びショット材の脱落が発生することのない導電性に優れた遮光フィルムを提案した(特許文献3参照)。この特許文献3には、樹脂フィルム基材(A)の片面もしくは両面に、非晶質相を実質的に含まず結晶相で構成されている硬質性の遮光性薄膜(B)を形成することが記載されている。
特許文献3によれば、耐熱性、低反射性に優れている耐熱遮光フィルムが提供されるが、最近では、さらにより低い光反射率が要求されている。
【0008】
このようなことから、大気中200℃以上の高温環境下でも高遮光性、低反射性を維持でき、かつ生産性にも優れたシャッター羽根や固定絞り、光量調整モジュール用絞り装置の絞り羽根などの耐熱遮光フィルムが必要とされていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平1−120503号公報
【特許文献2】特開平4−9802号公報
【特許文献3】特開2008−257134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、これら従来の問題点に鑑み、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラのレンズシャッターなどに用いられるシャッター羽根または絞り羽根や、カメラ付き携帯電話や車載モニターのレンズユニット内の固定絞りや、プロジェクターの光量調整モジュールの絞り羽根などの光学機器部品として用いられ、耐熱性、高遮光性、低反射性に優れた耐熱遮光フィルムとその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、上記課題を解決するために、耐熱性を有する樹脂フィルム基材表面に、炭化チタンとニッケルなどの金属成分からなる金属炭化物膜と、酸素を含む金属炭化物膜とを順次スパッタリング法で形成することにより、この積層膜が完全な結晶相で硬質性であるために、従来よりもはるかに低反射性となり、耐熱遮光フィルムとして有用であることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、表面に微細な凹凸を形成した200℃以上の耐熱性を有する樹脂フィルム基材(A)の少なくとも一方の面に、50nm以上の膜厚を有する硬質性の遮光性薄膜(B)がスパッタリング法で形成された耐熱遮光フィルムであって、遮光性薄膜(B)は、炭化チタンと金属成分とを主成分とし、該金属成分はニッケル、チタン、タングステン、モリブデン、鉄、アルミニウム、又はマグネシウムから選ばれる一種以上の金属成分を3〜7質量%含有する金属炭化物膜(B1)、及び該金属炭化物膜上の酸素を含む金属炭化物膜(B2)からなり、非晶質相を含まず完全な結晶相だけで構成された積層膜であることを特徴とする耐熱遮光フィルムが提供される。
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、遮光性薄膜(B)の膜厚は、金属炭化物膜(B1)が50〜150nm、酸素を含む金属炭化物膜(B2)が30〜80nmであることを特徴とする耐熱遮光フィルムが提供される。
また、本発明の第3の発明によれば、第1又は2の発明において、遮光性の指標である波長380〜780nmにおける平均光学濃度が、4以上であり、かつ最大正反射率が、0.6%以下であることを特徴とする耐熱遮光フィルムが提供される。
【0013】
一方、本発明の第4の発明によれば、第1〜3のいずれかの発明に係り、樹脂フィルム基材(A)の少なくとも一方の面に、膜厚が50nm以上で非晶質相を含まず完全な結晶相だけで構成された硬質性の遮光性薄膜(B)が形成された耐熱遮光フィルムの製造方法であって、樹脂フィルム基材(A)をスパッタリング装置に供給し、遮光性薄膜と同じ成分を有するスパッタリングターゲットを用いて、不活性ガス雰囲気下でスパッタリングを行い、樹脂フィルム基材(A)の表面に、炭化チタンと金属成分とを主成分とする金属炭化物膜(B1)、及び該金属炭化物膜上の酸素を含む金属炭化物膜(B2)からなる遮光性薄膜(B)を順次積層することを特徴とする耐熱遮光フィルムの製造方法が提供される。
また、本発明の第5の発明によれば、第4の発明において、スパッタリング圧力が、金属炭化物膜(B1)の成膜時、0.1〜0.8Paであり、酸素を含む金属炭化物膜(B2)の成膜時、1.0〜4.5Paであることを特徴とする耐熱遮光フィルムの製造方法が提供される。
また、本発明の第6の発明によれば、第4の発明において、不活性ガスの流量が、金属炭化物膜(B1)の成膜時、10〜100ml/minであり、酸素を含む金属炭化物膜(B2)の成膜時、80〜200ml/minであることを特徴とする耐熱遮光フィルムの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明の耐熱遮光フィルムは、表面に微細な凹凸を形成した200℃以上の耐熱性を有する樹脂フィルム基材の片面もしくは両面に、スパッタリング法で50nm以上の膜厚を有する炭化チタンとニッケルとを主成分とする金属炭化物膜、及びその膜上に金属酸化物膜が積層されており、この遮光性薄膜が非晶質相を含まず完全な結晶相だけで構成されていて硬質性であることから、可視光域(波長380〜780nm)において高遮光性、低反射性を有する遮光性薄膜となるため、様々な光学部材に有用である。
また、従来、最も低反射性を示すとされている特許文献3に記載の遮光性薄膜と対比しても、本発明の遮光性薄膜の方がさらに低反射性であることから、最近のデジタルカメラ、カメラ付き携帯電話、デジタルビデオカメラ、液晶プロジェクターなどの小型化、薄肉化の要望に対応した絞り材として極めて有用である。また、本発明の耐熱遮光フィルムは、遮光性薄膜が樹脂フィルム基材を中心に対称型の膜構造を有していることから、成膜時の膜応力によって耐熱遮光フィルムが変形しないので生産性も良く、実用性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の耐熱遮光フィルム(遮光性薄膜を片面に積層した構造)を示す模式図である。
【図2】本発明の耐熱遮光フィルム(遮光性薄膜を両面に積層した構造)を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の耐熱遮光フィルム、及びその製造方法について図面を用いて説明する。
【0017】
1.耐熱遮光フィルム
本発明の耐熱遮光フィルムは、表面に微細な凹凸を形成した200℃以上の耐熱性を有する樹脂フィルム基材(A)の少なくとも一方の面に、50nm以上の膜厚を有する硬質性の遮光性薄膜(B)がスパッタリング法で形成された耐熱遮光フィルムであって、遮光性薄膜(B)は、炭化チタンと金属成分とを主成分とし、該金属成分はニッケル、チタン、タングステン、モリブデン、鉄、アルミニウム、又はマグネシウムから選ばれる一種以上の金属成分を3〜7質量%含有する金属炭化物膜(B1)、及び該金属炭化物膜上の酸素を含む金属炭化物膜(B2)からなり、非晶質相を含まず完全な結晶相だけで構成された積層膜であることを特徴とする。
【0018】
本発明の遮光フィルムは、樹脂フィルム基材1と、その表面に形成された炭化チタンとニッケルで形成された金属炭化物膜2と、金属炭化物膜2を形成した時と同じスパッタリングターゲットを用いて得られる酸素を含む金属炭化物膜から成る遮光性薄膜3で構成されている。
遮光性薄膜(B)は、図1に示すように、樹脂フィルム基材の片面に形成されていてもよいが、図2に示すように両面に形成されている方が好ましい。樹脂フィルム基材両面に形成される場合は、各面の遮光性薄膜の組成と厚みが同じで、フィルム基材を中心として対称の構造であることが、より好ましい。基材の上に形成された薄膜は、基材に対して応力を与えるため、変形の要因となる恐れがある。基材の片面に薄膜が形成される場合、膜応力による変形は、成膜直後の耐熱遮光フィルムでも見られる場合があるが、特に180℃程度に加熱されると変形が大きくなり顕著となりやすい。しかし、上記のように基材の両面に形成する遮光性薄膜の材質、膜厚を同じにして、基材を中心として対称の構造にすることで、上記加熱条件下でも応力のバランスが維持され、変形のない耐熱遮光フィルムを実現しやすい。
【0019】
本発明の遮光フィルムは、遮光性に優れ、その指標である波長380〜780nmにおける平均光学濃度が4以上であり、かつ最大正反射率が0.6%以下である。また、耐熱性にも優れ、試験前後の平均正反射率の差が0.2%未満である。
【0020】
(A)樹脂フィルム基材
本発明の耐熱遮光フィルムで用いる樹脂フィルム基材は、200℃以上の耐熱性を有する耐熱樹脂フィルム基材であれば特に限定されない。耐熱性がある樹脂材料としては、ポリイミド、ポリアミドイミド、アラミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、及びポリエーテルサルフォンの群から選ばれる1種類以上の樹脂で構成される材質が好ましい。
【0021】
基材として用いる樹脂フィルムは、透明樹脂で構成されていても顔料を練りこんだ着色樹脂で構成されていても構わないが、200℃以上の耐熱性を有するものでなければならない。好ましいのは、顔料を練りこんだ着色樹脂である。ここで、200℃以上の耐熱性を有するフィルムとは、ガラス転移点が200℃以上であるフィルムであり、またガラス転移点の存在しない材料については、200℃以上の温度にて変質しないことを意味する。樹脂材料の材質としては、量産性を考慮して、スパッタリングによるロールコーティングが可能となるような可とう性を有する材料であることが好ましい。
【0022】
樹脂フィルムの厚みは、特に制限されないが、10〜200μmの範囲であることが好ましい。10μmより薄いものでは、ハンドリングが悪いとフィルムに折れ目や傷などの表面欠陥が付きやすくなり、好ましくない。また、200μmより厚いと小型が進む絞り装置や光量調整装置へ遮光羽根を複数枚搭載することができなくなり、好ましくない。
【0023】
樹脂フィルム表面の微細な凹凸は、フィルム表面を表面処理して形成する。例えば、ショット材に砂を使用したマット処理加工を行って得ることができるが、ショット材はこれに限定されない。ナノインプリンティング加工で表面に微細凹凸構造を形成しても得ることができる。フィルムを搬送しながらフィルム表面に微細な凹凸を形成することができるが、最適な表面粗さ(算術平均高さRa)は、マット処理中のフィルム搬送速度とショット材の種類、大きさに依存するので、これらの条件を最適化してフィルム表面の算術平均高さRa値が0.2〜0.8μmとなるように表面処理を行う。マット処理後のフィルムは、洗浄してショット材を除去した後、乾燥する。なお、フィルムの両面に金属炭化物膜と金属酸化物膜を形成する場合は、フィルムの両面をマット処理する。
【0024】
(B)遮光性薄膜
本発明において遮光性薄膜は、金属炭化物膜(B1)及び酸素を含む金属炭化物膜(B2)の積層膜であって、その双方に炭化チタンが含有される。チタン以外の金属成分は、ニッケルの他、耐熱性や耐食性に優れたタングステン、モリブデン、鉄、アルミニウム、或いはマグネシウムであることが好ましい。
金属炭化物膜(B1)は、炭化チタンを含むものであれば、組成(金属元素の含有量や種類、炭素含有量、窒素含有量)の異なった複数種類で構成されていても構わない。また、酸素を含む金属炭化物膜(B2)は、前記炭化チタン、ニッケルなどの金属を含む金属炭化物膜中に酸素が含まれた膜である。
【0025】
遮光性薄膜の構成成分の含有量は、耐熱遮光フィルムの高遮光性、低反射性を発揮できるように調整すればよいが、金属成分としてニッケル、チタン、タングステン、モリブデン、鉄、アルミニウム、マグネシウムから選ばれる一種以上の金属成分を3〜7質量%含有し、残部は炭化チタンとする。
具体的に、例えばチタン系合金膜が耐酸化性に優れているので、炭化チタンとニッケルで形成されたチタン系合金の炭化物膜(例えば質量比でTiC:Ni=95:5)が極めて優れた効果を示す。
【0026】
遮光性薄膜の膜厚は、50nm以上でなければならない。膜厚が50nm未満であると、波長380〜780nmにおいて十分な遮光性を示さないので好ましくない。ここで、十分な遮光性とは、光学濃度4以上を示すことであり、これを実現するための遮光性薄膜の膜厚は50nm以上である。ただし、膜厚が厚くなると遮光性は良くなるが、550nmを超えると、材料コストや成膜時間の増加による製造コスト高となり、また膜の応力が大きくなって変形しやくなり、好ましくない。金属炭化物膜の厚さは、20〜150μm、酸素を含む金属炭化物膜の厚さは、30〜100μmとする。好ましい金属炭化物膜の厚さは、50〜150μm、酸素を含む金属炭化物膜の厚さは、30〜80μmである。
一般に、金属膜は酸化されると透明度が増加するため、金属膜を遮光膜として用いる場合、耐 酸化性が劣っている。本発明の耐熱遮光フィルムに用いる遮光性薄膜は、炭化チタンを含む金属炭化物膜が基材フィルムの表面に密着しており、その上に酸素を含む金属炭化物膜が積層されている。そのため、遮光性薄膜は、通常の金属膜と異なり耐酸化性に優れ、耐熱性、低反射性にも優れている。
【0027】
本発明において遮光性薄膜は、炭化チタンとニッケルなどの金属成分とを主成分とする金属炭化物膜と酸素を含む金属炭化物膜の積層膜であり、非晶質相を含まず完全な結晶相だけで構成されているため、従来の金属膜に比べ十分な硬質性を有していることで耐傷つき性、耐摩耗性に優れている。
ここで十分な硬質性を有しているとは、表面硬度が引っかき試験(鉛筆法)でH以上であることを意味する。上記の遮光性薄膜は、完全な結晶相を有することで、引っかき試験においてH以上の高い硬度を発揮し、樹脂フィルムに対して強い密着力を発揮するため、耐熱遮光フィルムの遮光膜として有効である。遮光性薄膜中に非晶質相が含まれていると、180℃程度の高温環境下において、膜とフィルム基材との間の十分な密着性が得られず、また表面硬度がHB以下となりやすく十分な硬質性が得られないことがある。
すなわち、本発明の遮光性薄膜は、十分な硬質性を有するため、遮光性薄膜上へ保護膜を形成する必要はなく、遮光性薄膜単膜でも十分に耐熱遮光フィルムとして使用することができる。
【0028】
2.遮光性薄膜の形成方法
本発明の耐熱遮光フィルムの製造方法は、樹脂フィルム基材(A)の少なくとも一方の面に、膜厚が50nm以上で非晶質相を含まず完全な結晶相だけで構成された硬質性の遮光性薄膜(B)が形成された耐熱遮光フィルムの製造方法であって、樹脂フィルム基材(A)をスパッタリング装置に供給し、遮光性薄膜と同じ成分を有するスパッタリングターゲットを用いて、不活性ガス雰囲気下でスパッタリングを行い、樹脂フィルム基材(A)の表面に、炭化チタンと金属成分とを主成分とする金属炭化物膜(B1)、及び該金属炭化物膜上の酸素を含む金属炭化物膜(B2)からなる遮光性薄膜(B)を順次積層することを特徴とする。
【0029】
本発明における遮光性薄膜は、スパッタリング法を用いた成膜法で製造する。スパッタリング法であれば、大面積の基材上に均一に形成することができるだけでなく、基材に対して高い密着力を有して形成することができるためである。
本発明の耐熱遮光フィルムにおいては、遮光性薄膜は、例えばアルゴン雰囲気中において直流マグネトロンスパッタリング法により樹脂フィルム基材上に成膜形成される。放電方式は、高周波放電でもかまわないが、直流放電の方が、高速成膜が可能となるため好ましい。
【0030】
遮光性薄膜を形成するために、ターゲットとしては、炭化チタンと金属成分とを主成分とする金属炭化物の焼結体を加工して得られるターゲットが使用される。その組成は、特に制限されないが、基材に最初に形成される遮光性薄膜の金属炭化物膜の組成と同じであるものが好ましい。すなわち、ニッケル、チタン、タングステン、モリブデン、鉄、アルミニウム、又はマグネシウムから選ばれる一種以上の金属成分を3〜7質量%含有し、残部が炭化チタンであるターゲットが好ましい。
例えばニッケルを含有した炭化チタン(TiC+Ni)ターゲットであれば、炭化チタンとニッケルの含有量は炭化チタン93〜97質量%、ニッケル3〜7質量%であり、好ましくは、炭化チタン94〜96質量%、ニッケル4〜6質量%のものである。炭化チタンの含有量が93質量%未満の場合、ニッケルの含有量が比例して増加し、遮光性薄膜が酸化しやすくなり好ましくない。また、炭化チタンの含有量が97重量%を超えると、単位時間当たりに形成される金属炭化物膜及び酸素を含む金属炭化物膜の膜厚が極めて小さくなるため、成膜時間が長くなり、製造コスト高につながり、工業的に好ましくない。また、炭化チタン以外の金属炭化物として、炭化タングステンや炭化モリブデンも挙げられ、ニッケル以外の金属成分との組合せも適用できる。
【0031】
(1)金属炭化物膜(B1)の形成
本発明において遮光性薄膜は、スパッタリング装置内に特定量の炭化チタンと金属を含有するターゲットを設置し、樹脂フィルム基材をスパッタリング装置に供給し、不活性ガス雰囲気下でスパッタリングして、まず樹脂フィルム基材上に金属炭化物膜(B1)を形成する。
【0032】
本発明においては、樹脂フィルム基材の表面に、非晶質相を含まず完全な結晶相からなる遮光性薄膜が形成されるように、樹脂フィルム基材は、予めスパッタリング前に100℃以上の温度で加熱して乾燥させる。100℃未満であると、基材表面に水分が残留しているために非晶質相が生成してしまう。
【0033】
次に、樹脂フィルム基材をスパッタリング装置に供給し、不活性ガス雰囲気下でスパッタリングする。本発明におけるスパッタリング成膜では、ガス圧は、装置の種類などによっても異なるので一概に規定できないが、例えば、0.1〜0.8Paのスパッタリングガス圧で、Arガスなどの不活性ガスをスパッタリングガスとして用いて、初めに金属炭化物膜を形成する。不活性ガスの流量は、金属炭化物膜の成膜時、10〜100ml/minとすることが好ましく、特に20〜80ml/minとすることが好ましい。
この条件を採用することにより、基材(樹脂フィルム)に到達するスパッタリング粒子が高エネルギーとなるため、結晶性の膜が耐熱樹脂フィルム基材上に形成され、膜とフィルムとの間に強い密着性が発現される。成膜時のガス圧が0.1Pa未満であると、ガス圧が低いためスパッタリング法でのアルゴンプラズマが不安定となり、成膜した膜の膜質が悪くなる。また、0.1Pa未満であると、反跳アルゴン粒子が基材上に堆積した膜を再スパッタリングする機構が強くなり、緻密な膜の形成を阻害しやすくなる。また、成膜時のガス圧が0.8Paを超えた場合では、基材に到達するスパッタリング粒子のエネルギーが低いため膜が結晶成長しにくく、金属炭化物膜の粒が粗くなり、高緻密な結晶性の膜質でなくなるので樹脂フィルム基材との密着力が弱くなり、膜が剥がれてしまう。このような膜は耐熱性用途の遮光膜に用いることはできない。特に、0.2〜0.5Paのスパッタリングガス圧とすることにより、結晶性の優れた本発明の遮光性薄膜を安定に製造することができる。
【0034】
不活性ガスとしては、通常、Arガス単独で使用し、高純度のものでも微量の不純物が含まれる市販品でもよい。市販のArガスにはOが0.05%以内で含有されているが、このOは上記スパッタリング条件では膜中に取り込まれることはないが、含有量が0.05%を超えると薄膜の結晶性が悪化する場合があり好ましくない。
【0035】
成膜時のフィルム表面温度は、金属炭化物膜の結晶性に影響を及ぼす。成膜時のフィルム表面温度が高温であるほど、スパッタリング粒子の結晶配列が起こりやすくなり、結晶性が良好となる。そのため樹脂フィルム基材が、180℃以上に加熱されることが好ましい。しかし、耐熱樹脂フィルムの加熱温度にも限界があり、最も耐熱性の優れたポリイミドフィルムでも表面温度は400℃以下で成膜する必要がある。フィルムの種類によっては、130℃以上に温度を上げると、ガラス転移点や分解温度を越えてしまうため、例えば、PETなどでは、成膜時のフィルム表面温度はなるべく低温、例えば100℃以下で行うことが望ましい。また、製造コストに着目しても、加熱時間や加熱のための熱エネルギーを考慮すると、なるべく低温で成膜を行うことがコスト低減には有効であることから、90℃以下が好ましく、85℃以下がより好ましい。
なお、樹脂フィルム基材は、成膜中にプラズマから自然加熱される。ガス圧とターゲットへの投入電力やフィルム搬送速度を調整することで、ターゲットから基材に入射する熱電子やプラズマからの熱輻射によって成膜中の樹脂フィルム基材の表面温度を所定の温度に維持することは容易である。
【0036】
(2)酸素を含む金属炭化物膜(B2)の形成
次に、炭化チタンと金属成分とを主成分とする金属炭化物膜(B1)の表面に、酸素を含む金属炭化物膜(B2)を積層する。
酸素を含む金属炭化物膜の形成では、前記金属炭化物膜の形成で用いたスパッタリングターゲットを用いて、不活性ガス雰囲気下でスパッタリングを行う。温度条件も変更する必要はない。
【0037】
スパッタリング圧力は、酸素を含む金属炭化物膜が成膜できれば特に制限されないが、金属炭化物膜の成膜時よりも高く、1.0〜4.5Paで行うことが好ましく、特に1.5〜4.0Paで行うことが好ましい。
また、不活性ガスの流量は、酸素を含む金属炭化物膜が成膜できれば特に制限されないが、金属炭化物膜の成膜時よりも大きく、80〜200ml/minとすることが好ましく、90〜180ml/minとすることが好ましい。スパッタリングターゲットとしては、前記金属炭化物膜の形成で用いたものをそのまま用い、不活性ガスとしては、比較的純粋なArガス単独で使用するので、通常であれば金属炭化物膜が形成されるにもかかわらず、この工程では酸素を含む金属炭化物膜が形成されるのは、ArガスにOが微量含有されており、この酸素含有不活性ガス雰囲気下で、不活性ガスの流量を大きくし、より高いスパッタリング圧力で成膜しているためと考えられる。
【0038】
5.耐熱遮光フィルムの用途
本発明の耐熱遮光フィルムは、端面クラックが生じないように特定の形状に打ち抜き加工を行って、デジタルカメラ、カメラ付き携帯電話、デジタルビデオカメラの固定絞り、機械的シャッター羽根や、一定の光量のみ通過させる絞り(アイリス)、更には液晶プロジェクターの光量調整モジュール用絞り装置(オートアイリス)の絞り羽根として利用できる。また、本発明の耐熱遮光フィルムの片面または両面に粘着材を形成することでCCD、CMOSなどの撮像素子裏面へ入射する光を遮光する耐熱遮光テープとしても利用できる。
【実施例】
【0039】
次に、本発明について、実施例、比較例を用いて具体的に説明するが、本発明は、これら実施例によって限定されるものではない。遮光性薄膜の評価は以下の方法で実施した。
【0040】
<硬質性>
引っかき硬度試験(鉛筆法)は、JIS K5600−5−4に基づき測定した。この方法により、鉛筆硬度がH以上となる場合に、硬質性が良好(○)と判断した。
【0041】
<結晶性>
遮光性薄膜中の非晶質相の存在は、高分解能の断面TEM観察と電子線回折にて確認を行った。高分解能の遮光性薄膜の断面TEM観察により、原子配列が規則的となっている結晶相と、配列が不規則の非晶質相とを区別することができ、膜中に非晶質が存在しているか確認することができる。また、電子線回折においてハローパターンが観測されれば、非晶質相が存在していることがわかる。このような解析により結晶相である場合は良好(○)とし、非晶質相が存在している場合は不十分(×)とした。なお、結晶性解析に多用されるX線回折測定では、非晶質相が存在しても回折ピークが出現しないため、結晶相と非晶質相の混相となっているか、完全な結晶相で構成されているか区別がつかないため今回の評価には適用しなかった。
【0042】
<耐熱遮光フィルムの正反射率と平行光透過率>
得られた耐熱遮光フィルムの、波長380〜780nmにおける正反射率と平行光透過率は、分光光度計(日本分光社製V−570)にて測定し、平行光透過率(T)から、以下の式に従って、光学濃度(ODと記す)を算出した。
OD=log(100/T)
耐熱遮光フィルムの光の正反射率とは、反射光が反射の法則に従い、入射光の入射角に等しい角度で表面から反射していく光の反射率を言う。入射角は5°で測定した。また、平行光透過率とは、耐熱遮光フィルムを透過してくる光線の平行な成分を意味しており、次式で表される。
T(%)=(I/I)×100
(ここで、Tはパーセントで表わした平行光透過率、Iは試料に入射した平行照射光強度、Iは試料を透過した光のうち前記照射光に対して平行な成分の透過光強度である。)
【0043】
<密着性>
耐熱試験後の膜の密着性をJIS C0021に基づき評価した。評価は膜剥がれがない場合は良好(○)とし、膜剥がれがあるものは不十分(×)とした。
【0044】
<耐熱遮光フィルムの耐熱性>
耐熱遮光フィルムの耐熱性については、大気オーブン(アドバンテック社製)にて、270℃で3分の加熱処理を行った。評価は耐熱試験前後での平均正反射率、平均光学濃度の差が0.2%未満の場合に良好(○)とし、0.2%以上変化する場合は不十分(×)とした。
【0045】
(金属含有炭化チタンスパッタリングターゲット)
遮光性薄膜の形成には、炭化チタンの含有量95質量%、ニッケルの含有量5質量%のニッケル含有炭化チタンスパッタリングターゲット(6インチΦ×5mmt、純度4N)を用いた。
ニッケル含有炭化チタンターゲットは、炭化チタンと金属ニッケルの粉末の混合体からホットプレス法で作製した。各原料の配合割合を変えることで種々の組成のターゲットを作製することができた。作製した焼結体の組成は、焼結体破断面の表面をスパッタリング法で削った後、XPS(VG Scientific社製ESCALAB220i−XL)にて定量分析を行った。
【0046】
(実施例1)
本発明の耐熱遮光フィルムの作製において、6インチφの非磁性体ターゲット用カソードが3種搭載された直流マグネトロンスパッタ装置(トッキ社製SPK503型)を使用し、金属炭化物膜及び酸素を含む金属炭化物膜からなる遮光性薄膜をスパッタリング法により形成した。この装置は、第1カソード、第2カソード、第3カソードに同種または異種のスパッタリングターゲットを取り付けることができる。
第1カソードに、遮光性薄膜形成用のニッケル含有炭化チタンスパッタリングターゲット(炭化チタン含有量が95質量%、ニッケル含有量が5質量%)を取り付けた。成膜を行う樹脂フィルム基材は、カソードの直上に配置し、ターゲットと樹脂フィルム基材との距離を60mmとし、成膜は静止対向で行った。
樹脂フィルム基材には、マット処理を施した黒色ポリイミド(PI)フィルム(デュポン社製、厚さ25μm)を用いた。この樹脂フィルム基材は、予め100℃に加熱し乾燥させた。
第1カソードを用いて、チャンバー内の真空度が2×10−4Pa以下に達した時点で、純度99.9999%のアルゴンガスをチャンバー内に導入(導入ガス流量 50SCCM)してガス圧0.3Paとし、直流電源300Wを、ターゲット−樹脂フィルム基材間に投入して、プラズマを発生させ、樹脂フィルム基材上に膜厚120nmの金属炭化物膜を成膜した。
次に、純度99.9999%のアルゴンガスの導入ガス流量を100SCCMに増加させてチャンバー内に導入し、ガス圧を3.0Paに上昇させ、引き続き、直流電源300Wを、ターゲット−樹脂フィルム基材間に投入して、プラズマを発生させ、上記金属炭化物膜上に膜厚70nmの酸素を含む金属炭化物膜を成膜し、樹脂フィルム基材の片面に、遮光性薄膜を形成した。さらに樹脂フィルム基材裏面側も同様の成膜を実施して、樹脂フィルム基材を中心に対称構造の耐熱遮光フィルムを作製した。
作製した耐熱遮光フィルムの波長380〜780nmにおける平均光学濃度は4以上、最大反射率は0.3%であった。膜剥がれは無く、鉛筆硬度もHを示し、十分な硬度で良好であった。また、高分解能TEM観察、電子線回折測定から、遮光性薄膜は完全な結晶膜であり、非晶質膜が含まれていないことが確認された。加熱後でも膜剥がれは無く、平均光学濃度、平均正反射率も加熱前と変化が無かった。作製した耐熱遮光フィルムの構成、特性を表1に示す。
【0047】
(実施例2)
第1カソードとして用いるスパッタリングターゲット中の炭化チタンの含有量を97質量%、ニッケルの含有量を3質量%に変更した以外は、実施例1と同様の条件で耐熱遮光フィルムを作製した。
波長380〜780nmにおける平均光学濃度は4以上、最大反射率0.4%、であった。膜剥がれは無く、鉛筆硬度もHを示し、十分な硬度で良好であった。また、高分解能TEM観察、電子線回折測定から、遮光性薄膜は完全な結晶膜であり、非晶質膜が含まれていないことが確認された。加熱後でも膜剥がれは無く、平均光学濃度、平均正反射率も加熱前と変化が無かった。作製した耐熱遮光フィルムの構成、特性を表1に示す。
【0048】
(実施例3)
第1カソードとして用いるスパッタリングターゲット中の炭化チタンの含有量を93質量%、ニッケルの含有量を7質量%に変更した以外は、実施例1と同様の条件で耐熱遮光フィルムを作製した。
波長380〜780nmにおける平均光学濃度は4以上、最大反射率0.5%であった。膜剥がれは無く、鉛筆硬度もHを示し、十分な硬度で良好であった。また、高分解能TEM観察、電子線回折測定から、遮光性薄膜は完全な結晶膜であり、非晶質膜が含まれていないことが確認された。加熱後の耐熱遮光フィルムは、膜剥がれは無く、平均光学濃度、平均正反射率も加熱前と変化が無かった。作製した耐熱遮光フィルムの構成、特性を表1に示す。
【0049】
(実施例4)
樹脂フィルム基材上に膜厚50nmの金属炭化物膜を、さらに金属炭化物膜上に膜厚30nmの酸素を含む金属炭化物膜を形成した以外は、実施例1と同様の条件で耐熱遮光フィルムを作製した。
波長380〜780nmにおける平均光学濃度は4以上、最大反射率0.6%であった。膜剥がれは無く、鉛筆硬度もHを示し、十分な硬度で良好であった。また、高分解能TEM観察、電子線回折測定から、遮光性薄膜は完全な結晶膜であり、非晶質膜が含まれていないことが確認された。加熱後の耐熱遮光フィルムは、膜剥がれは無く、光学濃度、平均正反射率も加熱前と変化無かった。作製した耐熱遮光フィルムの構成、特性を表1に示す。
【0050】
(実施例5)
樹脂フィルム基材の片面のみに遮光性薄膜を形成した以外は、実施例1と同様の条件で耐熱遮光フィルムを作製した。
波長380〜780nmにおける平均光学濃度は4以上、最大反射率0.4%であった。膜剥がれは無く、鉛筆硬度もHを示し、十分な硬度で良好であった。また、高分解能TEM観察、電子線回折測定から、遮光性薄膜は完全な結晶膜であり、非晶質膜が含まれていないことが確認された。加熱後の耐熱遮光フィルムは、膜剥がれは無く、平均光学濃度、平均正反射率も加熱前と変化無かった。作製した耐熱遮光フィルムの構成、特性を表1に示す。
【0051】
(比較例1)
第1カソードとして用いるスパッタリングターゲット中の炭化チタンの含有量を98質量%、ニッケルの含有量を2質量%に変更した以外は、実施例1と同様の条件で耐熱遮光フィルムを作製した。
波長380〜780nmにおける平均光学濃度は4以上で膜剥がれは無く、鉛筆硬度もHを示し、高分解能TEM観察、電子線回折測定から、遮光性薄膜は完全な結晶膜であり、非晶質膜が含まれていないことが確認されたが、最大反射率は0.9%であった。加熱後の耐熱遮光フィルムは、膜剥がれは無く、平均光学濃度、最大反射率も加熱前と変化が無かった。しかし、最大反射率が高いため低反射性が求められる遮光フィルムとしては不適合であった。作製した耐熱遮光フィルムの構成、特性を表1に示す。
【0052】
(比較例2)
第1カソードとして用いるスパッタリングターゲット中の炭化チタンの含有量を92質量%、ニッケルの含有量を8質量%に変更した以外は、実施例1と同様の条件で耐熱遮光フィルムを作製した。
波長380〜780nmにおける平均光学濃度は4以上、高分解能TEM観察、電子線回折測定から、遮光性薄膜は完全な結晶膜であり、非晶質膜が含まれていないことが確認されたが、最大反射率は2.0%であった。また、成膜後、鉛筆硬度はHBを示し、膜も剥がれてしまった。加熱後の耐熱遮光フィルムは、平均光学濃度は4以上を維持していたが、平均正反射率は大きく変化した。また、膜が剥がれてしまい、密着力も弱かった。したがって、耐熱性と膜の密着性が非常に悪いため、耐熱遮光フィルムとして不適合であった。作製した耐熱遮光フィルムの構成、特性を表1に示す。
【0053】
(比較例3)
第1カソードとして用いるスパッタリングターゲット中の炭化チタンの含有量を100質量%に変更し、金属炭化物膜の膜厚を50nm、酸素を含む金属炭化物膜の膜厚を30nmに変えた以外は、実施例1と同様の条件で耐熱遮光フィルムを作製した。
波長380〜780nmにおける平均光学濃度は4以上で膜剥がれは無く、鉛筆硬度もHを示し、高分解能TEM観察、電子線回折測定から、遮光性薄膜は完全な結晶膜であり、非晶質膜が含まれていないことが確認されたが、最大反射率は0.9%であった。加熱後の耐熱遮光フィルムは、膜剥がれは無く、平均光学濃度、平均正反射率も加熱前と変化無かった。したがって、最大反射率が高いため耐熱遮光フィルムとしては不適合であった。作製した耐熱遮光フィルムの構成、特性を表1に示す。
【0054】
(比較例4)
金属炭化物膜上に酸素を含む金属炭化物膜を成膜する時のガス圧を5.0Paに変えた以外は、実施例1と同様の条件で耐熱遮光フィルムを作製した。
波長380〜780nmにおける平均光学濃度は4以上で膜剥がれは無く、鉛筆硬度もHを示したが、高分解能TEM観察、電子線回折測定から、遮光性薄膜は完全な結晶膜ではなく、非晶質膜が含まれていることが確認され、最大反射率は1.0%であった。加熱後の耐熱遮光フィルムは、膜剥がれは無く、平均光学濃度、平均正反射率は加熱前と変化していない。しかし、最大反射率については、加熱前の最大反射率は長波長側が高く加熱後の最大反射率は短波長側が高くなっていた。したがって、非晶質が含まれ、かつ耐熱性が非常に悪いため、耐熱遮光フィルムとしては不適合であった。作製した耐熱遮光フィルムの構成、特性を表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
「評価」
表1の結果から明らかなように、実施例1〜5、比較例1〜4を参照すると、膜組成はターゲット組成がほぼ反映されていることがわかる。
実施例1〜5の膜は、基材フィルムの表面に金属含有炭化チタン膜と、酸素及び金属含有炭化チタン膜が積層された本発明の遮光性薄膜であり、非晶質相を含まず完全な結晶相だけで構成されていて硬質性であることから、可視光域(波長380〜780nm)において高遮光性、低反射性を有する遮光性薄膜となっていることが分かる。
一方、表1の比較例1〜3で作製された膜は、積層膜のいずれか又は両方が本発明から逸脱しているために、可視光域(波長380〜780nm)において、反射性が大きくなって遮光性薄膜としては適さないことが分かる。
また、比較例4では、酸素を含む金属炭化物膜の成膜条件が不適切であったために、非晶質が含まれ、かつ耐熱性が非常に悪いため、遮光性薄膜としては適さないことが分かる。
【符号の説明】
【0057】
1 樹脂フィルム基材(A)
2 金属炭化物膜(B1)
3 酸素を含む金属炭化物膜(B2)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に微細な凹凸を形成した200℃以上の耐熱性を有する樹脂フィルム基材(A)の少なくとも一方の面に、50nm以上の膜厚を有する硬質性の遮光性薄膜(B)がスパッタリング法で形成された耐熱遮光フィルムであって、
遮光性薄膜(B)は、炭化チタンと金属成分とを主成分とし、該金属成分はニッケル、チタン、タングステン、モリブデン、鉄、アルミニウム、又はマグネシウムから選ばれる一種以上の金属成分を3〜7質量%含有する金属炭化物膜(B1)、及び該金属炭化物膜上の酸素を含む金属炭化物膜(B2)からなり、非晶質相を含まず完全な結晶相だけで構成された積層膜であることを特徴とする耐熱遮光フィルム。
【請求項2】
遮光性薄膜(B)の膜厚は、金属炭化物膜(B1)が50〜150nm、酸素を含む金属炭化物膜(B2)が30〜80nmであることを特徴とする請求項1に記載の耐熱遮光フィルム。
【請求項3】
遮光性の指標である波長380〜780nmにおける平均光学濃度が、4以上であり、かつ最大正反射率が、0.6%以下であることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載の耐熱遮光フィルム。
【請求項4】
樹脂フィルム基材(A)の少なくとも一方の面に、膜厚が50nm以上で非晶質相を含まず完全な結晶相だけで構成された硬質性の遮光性薄膜(B)が形成された耐熱遮光フィルムの製造方法であって、
樹脂フィルム基材(A)をスパッタリング装置に供給し、遮光性薄膜と同じ成分を有するスパッタリングターゲットを用いて、不活性ガス雰囲気下でスパッタリングを行い、樹脂フィルム基材(A)の表面に、炭化チタンと金属成分とを主成分とする金属炭化物膜(B1)、及び該金属炭化物膜上の酸素を含む金属炭化物膜(B2)からなる遮光性薄膜(B)を順次積層することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の耐熱遮光フィルムの製造方法。
【請求項5】
スパッタリング圧力が、金属炭化物膜(B1)の成膜時、0.1〜0.8Paであり、酸素を含む金属炭化物膜(B2)の成膜時、1.0〜4.5Paであることを特徴とする請求項4に記載の耐熱遮光フィルムの製造方法。
【請求項6】
不活性ガスの流量が、金属炭化物膜(B1)の成膜時、10〜100ml/minであり、酸素を含む金属炭化物膜(B2)の成膜時、80〜200ml/minであることを特徴とする請求項4に記載の耐熱遮光フィルムの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−186390(P2011−186390A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−54465(P2010−54465)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】