説明

耐食・耐摩耗性非晶質金属組成物および構造化皮膜

本方式は、11より多い元素を含む非晶質金属源を提供するステップと、11より多い元素を含む非晶質金属を表面にスプレーで塗布するステップとを含む。11より多い元素を含む非晶質金属製の複合材料を含む皮膜。堆積室と、堆積スプレーを生成する堆積室の堆積源であって、11より多い元素を含む非晶質金属製の複合材料を含む堆積源と、構造物に堆積スプレーを向ける系とを含む、構造物に耐食性非晶質金属皮膜を生成する装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非晶質金属、特に耐食・耐摩耗性非晶質金属組成物および構造化皮膜に関する。
【背景技術】
【0002】
米国政府は、米国エネルギー省およびローレンス・リバモア国立研究所を附属機関とするカリフォルニア大学(University of California)との間の契約書番号W−7405−ENG−48に従い、本発明の権利を保有する。
【0003】
(関連出願)
本出願は、2005年11月14日に出願された米国仮出願第60/736,958号(発明の名称「高臨界冷却速度、損傷許容性、高硬度および例外的耐摩耗性の高性能耐食性材料となる非晶質金属およびセラミックナノ粒子からなる新複合材料」)を参照により本願明細書に援用する。
【0004】
2005年3月24日公表の、The Nanosteel Companyによる国際特許出願第2004/106565号(発明の名称「鉄系ガラス合金から形成される多層金属材料(LAYERED METALLIC MATERIAL FORMED FROM IRON BASED GLASS ALLOYS)」)によると、発明者Daniel James Branaganは次の技術情報を提供している。
【0005】
「従って、多層金属材料を提供するため、層の一つは好適には下層の層よりも高い強度を有する。これに鑑み、現在係属中であり、ここに開示される多層構造物の高強度材料として好適な材料を開示し、その内容がここに参照により援用される米国出願第09,709,918号および第10,172,095号に関する。開示されるように、硬化金属材料は溶融合金を形成し、基板上でガラス皮膜を形成すべく前記合金を冷やすことにより形成することができる。そのような金属ガラス皮膜は、好ましくは11未満の元素を含む合金を含み、少なくとも約9.2GPaの硬度を有する。」
【発明の概要】
【0006】
本発明の特徴および利点は、以下の記載から明らかになるであろう。出願人は、図面および特定の実施例を含む本記載を、本発明の広範の表現を与えるべく提供するものである。また本発明の範囲でのさまざまな変形例も、本記載と本発明の実施により当業者に理解されるところである。本発明の範囲は開示される特定の形態に限定されるものではなく、本発明は請求の範囲によって規定されるように、本発明の範囲にある全ての変形例、同等物、代替物の範囲に及ぶ。
【0007】
本発明は、表面を被膜するシステムを提供し、システムは、11より多い元素を含む非晶質金属源を提供するステップと、11より多い元素を含む非晶質金属を表面にスプレーで塗布するステップとを含む。ある実施形態においては、11より多い元素を含む非晶質金属は、12以上の合金元素および20以下の合金元素を含有する鉄あるいはニッケル系非晶質金属を含む。別の実施形態においては、11より多い元素を含む非晶質金属は、Fe、Co、Ni、Mn、B、C、Cr、Mo、W、Si、Ta、Nb、Al、Zr、Ti、La、Gd、Y、O、およびNからなる群から選択される20以下の合金元素を含有する鉄あるいはニッケル系非晶質金属を含む。
【0008】
本発明はまた、11より多い元素を含む非晶質金属製の複合材料を含む皮膜を提供する。ある実施形態においては、11より多い元素を含む非晶質金属は、12以上の合金元素および20以下の合金元素を含有する鉄あるいはニッケル系非晶質金属を含む。別の実施形態においては、11より多い元素を含む非晶質金属は、Fe、Co、Ni、Mn、B、C、Cr、Mo、W、Si、Ta、Nb、Al、Zr、Ti、La、Gd、Y、O、およびNからなる群から選択される20以下の合金元素を含有する鉄あるいはニッケル系非晶質金属を含む。
【0009】
本発明は、堆積室と、堆積スプレーを生成する堆積室の堆積源であって、11より多い元素を含む非晶質金属製の複合材料を含む堆積源と、構造物に堆積スプレーを向ける系とを含む、構造物に耐食性非晶質金属皮膜を生成する装置を提供する。ある実施形態においては、11より多い元素を含む非晶質金属は、12以上の合金元素および20以下の合金元素を含有する鉄あるいはニッケル系非晶質金属を含む。別の実施形態においては、11より多い元素を含む非晶質金属は、Fe、Co、Ni、Mn、B、C、Cr、Mo、W、Si、Ta、Nb、Al、Zr、Ti、La、Gd、Y、O、およびNからなる群から選択される20以下の合金元素を含有する鉄あるいはニッケル系非晶質金属を含む。
【0010】
本発明は変形例や代替形態を取りうる。特定の実施形態は一例として示される。本発明は開示される特定の形態に限定されるものではないことは理解されるところである。本発明は請求の範囲によって規定されるように、本発明の範囲にある全ての変形例、同等物、代替物の範囲に及ぶ。
【図面の簡単な説明】
【0011】
本明細書に組み込まれてその一部を成す添付の図面は本発明の特定の実施形態を示し、上記の本発明の概要および特定の実施形態の詳細な説明と合わせ、本発明の本質を説明する。
【図1】本発明のシステムの一つの実施形態を示す。
【図2】図1に示される皮膜の一部の拡大図を示す。
【図3】本発明のシステムの別の実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図面、以下の詳細な説明、援用される資料を参照し、特定の実施形態の記述を含み本発明の詳細な情報を提供する。詳細な説明は本発明の本質を説明する。本発明は変形例や代替形態を取りうる。本発明は開示される特定の形態に限定されるものではない。本発明は請求の範囲によって規定されるように、本発明の範囲にある全ての変形例、同等物、代替物の範囲に及ぶ。
【0013】
多様な建造物における膨大な量の物質の腐食のために、毎年国家は数十億ドルを損失している。たとえば、液体および海水の配管、バラストタンクおよび推進システムに加え、軍艦や艦艇の約3億4500万平方フィートの構造物に高価な腐食防止対策が必要とされている。この巨大な表面積の継続的な劣化を防ぐため、高耐食性物質を使用することは非常に有益であると考えられる。開発中の耐食性非晶質金属皮膜は、船への適用において重要である可能性がある。非晶質金属によって見込まれる利点は以前から認識されている。
【0014】
本発明は、耐食性非晶質金属の先端的な組成物を提供する。新しい元素組成が開発され、耐食および耐摩耗性非晶質金属および、これらと他の同様な非結晶金属を含む混合材料に加え、非晶質金属とセラミックスの層状および漸変皮膜について試験が行われている。これらや他の非晶質金属皮膜は、皮膜によって保護されている金属基板材料から徐々に、純非晶質金属皮膜または非晶質金属多層皮膜、そしてついにはセラミック外側層へと推移することで究極の耐食性および耐摩耗性を提供する漸変皮膜として生成することができる。グレーディング(grading)は低温または高温溶射工程中、非晶質金属粉末からセラミック粉末へと徐々に変わることにより実現する。アルミニウムなどのより軟質の成分のいくつかは、コールドスプレー工程中に比較的軟質な結合剤として使用が可能である。中性子吸収体となるホウ素は、合金内に元素形態で含まれるだけでなく、カーバイドやBCといった他の金属間粒子としても取り入れられることが可能であり、ある皮膜厚さにおいてより高度の中性子吸収作用の実現を可能にする。
【0015】
本発明は、11より多い元素を含む非晶質金属製の複合材料を含む耐食性非晶質金属の先端的な組成物を提供する。ある実施形態において、本発明は11より多い元素を含む非晶質金属が、12以上の合金元素および20以下の合金元素を含有する鉄あるいはニッケル系非晶質金属を含む皮膜を含む。別の実施形態においては、11より多い元素を含む非晶質金属は、Fe、Co、Ni、Mn、B、C、Cr、Mo、W、Si、Ta、Nb、Al、Zr、Ti、La、Gd、Y、O、およびNからなる群から選択される20以下の合金元素を含有する鉄あるいはニッケル系非晶質金属を含む。
【0016】
溶融合金を形成し、基板上でガラス皮膜を形成すべく前記合金を冷やすことにより形成される硬化金属材料の鉄系ガラス合金から形成され、そのような金属ガラス皮膜は少なくとも約9.2GPaの硬度を有し、好ましくは11未満の元素を含む合金を含む層状金属材料が、The Nanosteel Companyにより2005年3月24日に公表された国際特許出願第WO2004/106565号に開示されている。The Nanosteel Companyにより2005年3月24日に公表された、鉄系ガラス合金から形成される層状金属材料の国際特許出願第WO2004/106565号を参照により本願明細書に援用する。
【0017】
本発明の耐食性非晶質金属の先端的な組成物の特定の特性は以下を含む。
【0018】
(1) 10以上の合金元素および20以下の合金元素を含有する鉄あるいはニッケル系非晶質金属。成分は、Fe、Co、Ni、Mn、B、C、Cr、Mo、W、Si、Ta、Nb、Al、Zr、Ti、La、Gd、Y、O、およびNを含む。
(2) Fe、Co、NiおよびMnは合金の基材として使われる。
(3) B、PおよびCはガラス形成を促進するために加えられる。
(4) BおよびPは腐食溶解中に表面近傍でバッファを形成し、孔食および隙間腐食を伴う加水分解誘発の酸性化が防がれる。
(5) Cr、Mo、WおよびSiは耐食性向上のために加えられる。
(6) TaとNbは、特に酸性環境において耐食性をさらに向上させるため加えられる。
(7) Al、TiおよびZrにより、比較的低重量を維持しつつ強度が高められる。
(8) Yおよび他の希土類元素が、臨界冷却速度を下げるために加えられる。
(9) BおよびGdは固溶体状あるいは金属間層として、臨界管理が重要視される用途において中性子を吸収すべく加えられる。
(10) 酸素および窒素は、酸化物および窒化物粒子のその場(in situ)形成を可能にすべく管理下で意図的に加えられ、非結晶金属の破砕に伴うせん断帯形成が妨げられ、損傷許容性が高められる。
【0019】
本発明には多くの用途がある。たとえば本発明は、金属・セラミック外装、射弾、砲身、タンク・ローダトレー、レールガン、非磁性船体、ハッチ、シール、プロペラ、方向舵、飛行機、船、潜水艦、石油および水掘削装置、耕運機、トンネル掘削機、ポンプ羽根車および軸、廃核燃料の輸送、保管および廃棄用コンテナ、加圧水炉、沸騰水型原子炉、液体金属(PbBi)冷却材を備える第4世代原子炉および他の用途に使用することができる。高レベル放射性廃棄物(HLW)廃核燃料(SNF)の輸送および長期保管のためのコンテナの外表面全体を覆うため、もしくは溶接部と熱影響部を保護するためにもこのような材料の使用が考えられ、それにより応力腐食割れを引き起こす恐れのある環境への露出を防ぐことができる。今後、より高価なニッケル系合金の代わりにこのような高性能鉄系材料を用いること可能性もあり、それによって、様々な産業上の利用においてコスト削減が可能となる。
【0020】
図面、特に図1は、本発明のシステムのある実施形態を示す。この実施形態は概して参照符号100で示される。実施形態100は、耐食性非晶質金属皮膜108を提供する。耐食性非晶質金属皮膜108は、非晶質金属製の複合材料皮膜を形成するスプレー加工により形成される。図1に示されるように、耐食性非晶質金属105がスプレーされることにより、層101、102および103といった多層を含む皮膜108が形成される。
【0021】
図1に示されるように、交互に重なる層101、102および103などは構造物104に塗布される。スプレー103により皮膜108を塗布する個体107が示されている。スプレー装置606はスプレー105を生成する。異なったスプレー加工システムが皮膜108の形成に使用するでき、たとえば、スプレー加工には、フレームスプレー加工、プラズマ・スプレー加工、高速酸素火炎(HVOF:High Velocity Oxygen Fuel)スプレー、高速空気火炎(HVAF:High Velocity Air Fuel)スプレー加工、爆発溶射加工、あるいは他のスプレー加工がある。スプレー加工は溶射加工あるいはコールドスプレー加工でも可能である。
【0022】
本発明は、耐食性非晶質金属の先端的な組成物から作られる皮膜108を提供する。皮膜108は、11より多い元素を含む非晶質金属製の複合材料を含む。皮膜108は、11より多い元素を含む非晶質金属で作られている。ある実施形態において、皮膜108は、12以上の合金元素および20以下の合金元素を含有する鉄あるいはニッケル系非晶質金属を含む。別の実施形態は皮膜108を含み、11より多い元素を含む非晶質金属は、Fe、Co、Ni、Mn、B、C、Cr、Mo、W、Si、Ta、Nb、Al、Zr、Ti、La、Gd、Y、O、およびNからなる群から選択される20以下の合金元素を含有する鉄あるいはニッケル系非晶質金属を含む。
【0023】
本発明の皮膜108の耐食性非晶質金属の先端的な組成物の特定の特性は以下を含む。
【0024】
(1) 10以上の合金元素および20以下の合金元素を含有する鉄あるいはニッケル系非晶質金属。成分は、Fe、Co、Ni、Mn、B、C、Cr、Mo、W、Si、Ta、Nb、Al、Zr、Ti、La、Gd、Y、O、およびNを含む。
(2) Fe、Co、NiおよびMnは合金の基材として使われる。
(3) B、PおよびCはガラス形成を促進するために加えられる。
(4) BおよびPは腐食溶解中に表面近傍でバッファを形成し、孔食および隙間腐食を伴う加水分解誘発の酸性化が防がれる。
(5) Cr、Mo、WおよびSiは耐食性向上のために加えられる。
(6) TaおよびNbは、特に酸性環境において耐食性をさらに向上させるため加えられる。
(7) Al、TiおよびZrにより、比較的低重量を維持しつつ強度が高められる。
(8) Yおよび他の希土類元素は、臨界冷却速度を下げるために加えられる。
(9) BおよびGdは固溶体状あるいは金属間層として、臨界管理が重要視される用途において中性子を吸収すべく加えられる。
(10) 酸素および窒素は、酸化物および窒化物粒子のその場(in situ)形成を可能にすべく管理下で意図的に加えられ、非結晶金属の破砕に伴うせん断帯形成を妨げられ、損傷許容性が高められる。
【0025】
本発明の皮膜108は、耐食性非晶質金属の先端的な組成物を提供する。新しい元素組成が開発され、耐食および耐摩耗性非晶質金属および、これらと他の同様な非結晶金属を含む混合材料に加え、非晶質金属とセラミックスの層状および漸変皮膜について試験が行われている。これらや他の非晶質金属皮膜は、皮膜によって保護されている金属基板材料から徐々に、純非晶質金属皮膜または非晶質金属多層皮膜へ、そして最終的に外側層へと推移することで究極の耐食性および耐摩耗性をもたらす漸変皮膜として形成されうる。グレーディングはコールドスプレーまたは溶射工程中、ある非晶質金属粉末から別の非結晶粉末へと徐々に変わることにより実現されうる。アルミニウムなどのより軟質の成分のいくつかは、コールドスプレー工程中に比較的軟質な結合剤として使用が可能である。中性子吸収体となるホウ素は、合金内に元素形態で含まれるだけでなく、カーバイドやBCといった他の金属間粒子としても取り入れられることが可能であり、ある皮膜厚さにおいてより高度の中性子吸収作用の実現を可能にする。
【0026】
図2は、皮膜108の一部の拡大図を示す。皮膜108は、層101、102および103の多層を含む漸変皮膜である。層101と層102の間に遷移セクション109を示す。層102と層103の間に遷移セクション110を示す。層102の中心セクション111は、遷移セクション109または遷移セクション110の部分を形成しない。皮膜108は、皮膜108によって保護されている金属基板材料から徐々に非晶質金属多層皮膜へ、そして最終的には外側層へと推移し、究極の耐食性および耐摩耗性をもたらす。ある実施形態において、層102は11より多い元素を含む非晶質金属製複合材料を含む。層102は、11より多い元素を含む非晶質金属で作られている。層102は、12以上の合金元素および20以下の合金元素を含有する鉄あるいはニッケル系非晶質金属を含む。
【0027】
粉末形態を非球状で形が不規則になるよう意図的に調整することで既知の気孔率の皮膜が生成でき、フッ化炭化水素ポリマー(Teflon:登録商標「テフロン」等)といった自己潤滑剤の組み入れが可能になる。気孔は潤滑ポリマーのホストサイトになる。
【0028】
気孔は、皮膜に検知能力もたらすポリマー材料のホストにもなることができる。たとえば、孔食および隙間腐食発生中の酸性化により色を変化させるポリマーの組み入れが可能である。したがって、皮膜は保護機能および自己診断機能を有する。気孔はまた、微生物誘導腐食(MIC:Microbial Induced Corrosion)の発生を防ぐような徐放が可能な殺生物剤のホストにもなりうる。
【0029】
このような材料は、電気化学析出、スパッタ堆積、蒸発、融解紡糸、アーク溶解およびドロップキャスティング、ガス噴霧法、元素の低温共粉砕(cryogenic co−milling of elements)、溶射堆積、コールドスプレー堆積、誘導加熱コールドスプレー・ジェット(Induction−heated Cold−spray Jets)および他の方法により非晶質金属にすることができる。
【0030】
本発明の皮膜108には多くの用途がある。たとえば皮膜108は、金属・セラミック外装、射弾、砲身、タンク・ローダトレー、レールガン、非磁性船体、ハッチ、シール、プロペラ、方向舵、飛行機、船、潜水艦、石油および水掘削装置、耕運機、トンネル掘削機、ポンプ羽根車および軸、廃核燃料の輸送、保管および廃棄用コンテナ、加圧水炉、沸騰水型原子炉、液体金属(PbBi)冷却材を備える第4世代原子炉および他の用途に使用することができる。高レベル放射性廃棄物(HLW)廃核燃料(SNF)の輸送および長期保管のためのコンテナの外表面全体を覆うため、もしくは溶接部と熱影響部を保護するためにもこのような材料の使用が考えられ、それにより応力腐食割れを引き起こす恐れのある環境への露出を防ぐことができる。皮膜108の別の用途はより高価なニッケル系合金の代わりになることであり、それにより様々な産業上の利用においてコスト削減が可能となる。
【0031】
図3は、本発明のシステムの別の実施形態を示す。この実施形態は概して参照符号300で示される。堆積室301は、堆積部302を含む成膜装置を含む。堆積部302は堆積スプレー303および堆積スプレー304を生成する。堆積スプレー303および304は被膜される構造物305の表面に向けられる。たとえば、構造物305は、飛行機、船、潜水艦、石油および水掘削装置、耕運機、トンネル掘削機、あるいは他の機器の構成要素となりうる。システム300のよって被膜された構成要素は、金属外装、射弾、砲身、タンク・ローダトレー、レールガン、非磁性船体、ハッチ、シール、プロペラ、方向舵、ポンプ羽根車および軸、廃核燃料用コンテナ、加圧水炉、沸騰水型原子炉、液体金属(PbBi)冷却材を備える第4世代原子炉および他の用途に使用することができる。システム300によって被膜された構成要素は、高レベル放射性廃棄物(HLW)廃核燃料(SNF)の輸送および長期保管のためのコンテナに使用、もしくは溶接部と熱影響部を保護するために使用でき、それにより応力腐食割れを引き起こす恐れのある環境への露出を防ぐことができる。皮膜308の別の用途はより高価なニッケル系合金の代わりになることであり、それにより様々な産業上の利用においてコスト削減が可能となる。
【0032】
堆積スプレー303および堆積スプレー304を生成する堆積部302は、11より多い元素を含む非晶質金属源である。たとえば堆積スプレー303の源は、12以上の合金元素および20以下の合金元素を含有する鉄あるいはニッケル系非晶質金属を含む非晶質金属の源になりうる。別の例において堆積スプレー304の源は、Fe、Co、Ni、Mn、B、C、Cr、Mo、W、Si、Ta、Nb、Al、Zr、Ti、La、Gd、Y、O、およびNからなる群から選択される20以下の合金元素を含有する鉄あるいはニッケル系非晶質金属を含む、11より多い元素を含む非晶質金属の源になりうる。堆積スプレー303および堆積スプレー304の源の特定の特性は以下を含む。
【0033】
(1) 10以上の合金元素および20以下の合金元素を含有する鉄あるいはニッケル系非晶質金属。成分は、Fe、Co、Ni、Mn、B、C、Cr、Mo、W、Si、Ta、Nb、Al、Zr、Ti、La、Gd、Y、O、およびNを含む。
(2) Fe、Co、NiおよびMnは合金の基材として使われる。
(3) B、PおよびCはガラス形成を促進するために加えられる。
(4) BおよびPは腐食溶解中に表面近傍でバッファを形成し、孔食および隙間腐食を伴う加水分解誘発の酸性化が防がれる。
(5) Cr、Mo、WおよびSiは耐食性向上のために加えられる。
(6) TaおよびNbは、特に酸性環境においての耐食性をさらに向上させるために加えられる。
(7) Al、TiおよびZrにより、比較的低重量を維持しつつ強度が高められる。
(8) Yおよび他の希土類元素が、臨界冷却速度を下げるために加えられる。
(9) BおよびGdは固溶体状あるいは金属間層として、臨界管理が重要視される用途において中性子を吸収すべく加えられる。
(10) 酸素および窒素は、酸化物および窒化物粒子のその場(in situ)形成を可能にすべく管理下で意図的に加えられる。これにより、非結晶金属の破砕に伴うせん断帯形成が妨げられ、損傷許容性が高められる。
【0034】
実施形態300は、耐食性非晶質金属皮膜308を提供する。耐食性非晶質金属皮膜308は、非晶質金属製の複合材料皮膜を形成する堆積加工により生成される。図3に示されるように、耐食性非晶質金属は堆積により構造物305上に皮膜308を形成する。異なった堆積加工方式が皮膜308の形成に使用できる。たとえば、電気化学析出またはスパッタ堆積が皮膜308の形成に使用可能である。
【0035】
本発明の皮膜308は、耐食性非晶質金属の先端的な組成物を提供する。新しい元素組成が開発され、耐食および耐摩耗性非晶質金属および、これらと他の同様な非結晶金属を含む混合材料に加え、非晶質金属とセラミックスを含む層状および漸変皮膜について試験が行われている。これらや他の非晶質金属皮膜は、皮膜によって保護されている金属基板材料から徐々に、純非晶質金属皮膜または非晶質金属多層皮膜、そしてついには外側層へと推移することで究極の耐食性および耐摩耗性を提供する漸変皮膜として形成されうる。グレーディングはコールドスプレーまたは溶射工程中に、ある非晶質金属粉末から別の非結晶粉末へと徐々に変わることにより実現される。アルミニウムなどのより軟質の成分のいくつかは、コールドスプレー工程中に比較的軟質な結合剤として使用が可能である。中性子吸収体となるホウ素は、合金内に元素の形態で含まれるだけでなく、カーバイドやBCといった他の金属間粒子としても取り入れることが可能であり、ある皮膜厚さにおいてより高度な中性子吸収作用の実現を可能にする。
【0036】
本発明は変形例や代替形態を取りうるが、図面には特定の実施形態が一例として示され、ここに詳述される。本発明は開示される特定の形態に限定されるものではないことは理解されるものであり、本発明は請求の範囲によって規定されるように、本発明の範囲にある全ての変形例、同等物、代替物の範囲に及ぶものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
11より多い元素を含む非晶質金属製の複合材料を含むことを特徴とする皮膜。
【請求項2】
11より多い元素を含む前記非晶質金属は、12以上の合金元素および20以下の合金元素を含有する鉄あるいはニッケル系非晶質金属を含むことを特徴とする請求項1に記載の皮膜。
【請求項3】
11より多い元素を含む前記非晶質金属は、Fe、Co、Ni、Mn、B、C、Cr、Mo、W、Si、Ta、Nb、Al、Zr、Ti、La、Gd、Y、O、およびNからなる群から選択される20以下の合金元素を含有する鉄あるいはニッケル系非晶質金属を含むことを特徴とする請求項1に記載の皮膜。
【請求項4】
前記非晶質金属は基材を有する合金を含み、Fe、Co、NiおよびMnが前記合金の前記基材として使われることを特徴とする請求項1に記載の皮膜。
【請求項5】
11より多い元素を含む前記非晶質金属は、ガラス形成を促進するために加えられるB、PおよびCを含むことを特徴とする請求項1に記載の皮膜。
【請求項6】
11より多い元素を含む前記非晶質金属は、耐食性を向上させるためにCr、Mo、WおよびSiを含むことを特徴とする請求項1に記載の皮膜。
【請求項7】
11より多い元素を含む前記非晶質金属は、酸性環境において耐食性をさらに向上させるためにTaおよびNbを含むことを特徴とする請求項1に記載の皮膜。
【請求項8】
11より多い元素を含む前記非晶質金属は、比較的低重量を維持しつつ強化のためにAl、TiおよびZrを含むことを特徴とする請求項1に記載の皮膜。
【請求項9】
11より多い元素を含む前記非晶質金属は、冷却を下げるためにYを含むことを特徴とする請求項1に記載の皮膜。
【請求項10】
11より多い元素を含む前記非晶質金属は、中性子の吸収のためにBおよびGdを含むことを特徴とする請求項1に記載の皮膜。
【請求項11】
11より多い元素を含む非晶質金属源を提供するステップと、11より多い元素を含む前記非晶質金属を表面にスプレーで塗布するステップとを含むことを特徴とする表面被膜方法。
【請求項12】
11より多い元素を含む前記非晶質金属は、12以上の合金元素および20以下の合金元素を含有する鉄あるいはニッケル系非晶質金属を含むことを特徴とする請求項11に記載の表面被膜方法。
【請求項13】
11より多い元素を含む前記非晶質金属は、Fe、Co、Ni、Mn、B、C、Cr、Mo、W、Si、Ta、Nb、Al、Zr、Ti、La、Gd、Y、O、およびNからなる群から選択される20以下の合金元素を含有する鉄あるいはニッケル系非晶質金属を含むことを特徴とする請求項11に記載の表面被膜方法。
【請求項14】
11より多い元素を含む前記非晶質金属を表面にスプレーで塗布するステップは、11より多い元素を含む前記非晶質金属を堆積によって表面に塗布させるステップを含むことを特徴とする請求項11に記載の表面被膜方法。
【請求項15】
11より多い元素を含む前記非晶質金属を表面にスプレーで塗布するステップは、11より多い元素を含む前記非晶質金属を電気化学析出によって表面に塗布させるステップを含むことを特徴とする請求項11に記載の表面被膜方法。
【請求項16】
11より多い元素を含む前記非晶質金属を表面にスプレーで塗布するステップは、11より多い元素を含む前記非晶質金属をスパッタ堆積によって表面に塗布させるステップを含むことを特徴とする請求項11に記載の表面被膜方法。
【請求項17】
11より多い元素を含む前記非晶質金属を表面にスプレーで塗布するステップは、11より多い元素を含む前記非晶質金属を溶射堆積によって表面に塗布させるステップを含むことを特徴とする請求項11に記載の表面被膜方法。
【請求項18】
11より多い元素を含む前記非晶質金属を表面にスプレーで塗布するステップは、11より多い元素を含む前記非晶質金属をコールドスプレー堆積によって表面に塗布させるステップを含むことを特徴とする請求項11に記載の表面被膜方法。
【請求項19】
11より多い元素を含む前記非晶質金属を表面にスプレーで塗布するステップは、電気化学析出、スパッタ堆積、蒸発、融解紡糸、アーク溶解およびドロップキャスティング、ガス噴霧法、元素の低温共粉砕(cryogenic co−milling of elements)、溶射堆積、コールドスプレー堆積、誘導加熱コールドスプレー・ジェット(Induction−heated Cold−spray Jets)を含むことを特徴とする請求項11に記載の表面被膜方法。
【請求項20】
11より多い元素を含む前記非晶質金属は、中性子吸収体となるホウ素を含むことを特徴とする請求項11に記載の表面被膜方法。
【請求項21】
11より多い元素を含む前記非晶質金属は、カーバイドを含むことを特徴とする請求項11に記載の表面被膜方法。
【請求項22】
堆積室と、堆積スプレーを生成する、前記堆積室内の堆積源であって、11より多い元素を含む非晶質金属製の複合材料を含む堆積源と、構造物に前記堆積スプレーを向ける系と、を含むことを特徴とする、構造物に耐食性非晶質金属皮膜を生成する装置。
【請求項23】
11より多い元素を含む前記非晶質金属は、12以上の合金元素および20以下の合金元素を含有する鉄あるいはニッケル系非晶質金属を含むことを特徴とする、請求項22に記載の構造物に耐食性非晶質金属皮膜を生成する装置。
【請求項24】
11より多い元素を含む前記非晶質金属は、Fe、Co、Ni、Mn、B、C、Cr、Mo、W、Si、Ta、Nb、Al、Zr、Ti、La、Gd、Y、O、およびNからなる群から選択される20以下の合金元素を含有する鉄あるいはニッケル系非晶質金属を含むことを特徴とする、請求項22に記載の構造物に耐食性非晶質金属皮膜を生成する装置。
【請求項25】
前記非晶質金属は、基材を有する合金を含み、Fe、Co、NiおよびMnが前記合金の前記基材として使われることを特徴とする、請求項22に記載の構造物に耐食性非晶質金属皮膜を生成する装置。
【請求項26】
11より多い元素を含む前記非晶質金属は、ガラス形成を促進するために加えられるB、PおよびCを含むことを特徴とする、請求項22に記載の構造物に耐食性非晶質金属皮膜を生成する装置。
【請求項27】
11より多い元素を含む前記非晶質金属は、耐食性を向上させるためにCr、Mo、WおよびSiを含むことを特徴とする、請求項22に記載の構造物に耐食性非晶質金属皮膜を生成する装置。
【請求項28】
11より多い元素を含む前記非晶質金属は、酸性環境において耐食性をさらに向上させるためにTaおよびNbを含むことを特徴とする、請求項22に記載の構造物に耐食性非晶質金属皮膜を生成する装置。
【請求項29】
11より多い元素を含む前記非晶質金属は、比較的低重量を維持しつつ強化のためにAl、TiおよびZrを含むことを特徴とする、請求項22に記載の構造物に耐食性非晶質金属皮膜を生成する装置。
【請求項30】
11より多い元素を含む前記非晶質金属は、中性子の吸収のためにBおよびGdを含むことを特徴とする、請求項22に記載の構造物に耐食性非晶質金属皮膜を生成する装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−526204(P2010−526204A)
【公表日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−536461(P2009−536461)
【出願日】平成19年11月7日(2007.11.7)
【国際出願番号】PCT/US2007/083942
【国際公開番号】WO2008/063891
【国際公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【出願人】(507410009)ローレンス リヴァーモア ナショナル セキュリティ,エルエルシー (14)
【Fターム(参考)】