説明

育毛剤組成物

【課題】加齢により女性ホルモン濃度の低下した女性に見られる薄毛、脱毛に対し、ダイズイソフラボン配糖体と6−ベンジルアミノプリンを併用することによって育毛効果とともに、優れた抜け毛予防効果を発現する育毛剤組成物の提供。
【解決手段】ダイズイソフラボン配糖体と、6−ベンジルアミノプリンとを含有してなる育毛剤組成物である。該ダイズイソフラボン配糖体が、ダイジン及びゲニスチンのいずれかである態様、該ダイズイソフラボン配糖体(A)と、6−ベンジルアミノプリン(B)とのモル比(A:B)が1:1000000〜1000:1である態様、などが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた表皮角化細胞の増殖促進作用及びBMP−2遺伝子の発現促進効果が得られる育毛剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、女性の急激な女性ホルモン減少により起こる毛髪の不具合に対し有効な育毛剤の提供が望まれている。そこで、女性ホルモン様作用を持つ化合物としてはイソフラボン類が知られており、これらの中でも、マロニルイソフラボン配糖体には表皮角化細胞を増殖させる効果があることが知られている(特許文献1参照)。しかし、前記マロニルイソフラボン配糖体は、熱による分解を受けやすく、長期保存中にマロニル基が加水分解されてしまうという問題点がある。
【0003】
一方、脱毛症の人の頭皮において減少しているタンパク質としてBMP−2が知られている(非特許文献1参照)。そこで、BMP−2の産生を促進する化合物として、本願出願人は、既に6−ベンジルアミノプリンについて報告している(非特許文献2参照)。この6−ベンジルアミノプリンは、育毛作用を有することが知られている化合物である(特許文献2参照)が、脱毛症の女性において6−ベンジルアミノプリンを配合した育毛剤の有効性の確認試験を行ったところ、軽度改善する効果は見られるが、顕著な改善効果は得られていない(非特許文献3参照)。
【0004】
したがって女性の急激な女性ホルモン減少により起こる毛髪の不具合に対し有効な育毛剤組成物の速やかな提供が強く望まれているのが現状である。
【0005】
【特許文献1】特開平9−59166号公報
【特許文献2】特開平5−320028号公報
【非特許文献1】Journal of Dermatological Science (2004) 36,25−32
【非特許文献2】第26回日本基礎老化学会、2004年、翠川辰行ら
【非特許文献3】皮膚、第40巻、第4号、1998年8月、三嶋豊ら
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、加齢により女性ホルモン濃度の低下した女性に見られる薄毛、脱毛に対し、ダイズイソフラボン配糖体と6−ベンジルアミノプリンを併用することによって育毛効果とともに、優れた抜け毛予防効果を発現する育毛剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、(A)ダイズイソフラボン配糖体と(B)6−ベンジルアミノプリンを併用することによる相乗効果により、優れた表皮角化細胞の増殖促進作用と、顕著なBMP−2遺伝子の発現促進効果とが得られ、女性ホルモンの減少によって起こる薄毛、抜け毛に対して、太くしっかりとした毛髪に改善するとともに抜け毛を防止する効果があることを知見した。
【0008】
本発明は、本発明者による前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては以下の通りである。即ち、
<1> ダイズイソフラボン配糖体と、6−ベンジルアミノプリンとを含有してなることを特徴とする育毛剤組成物である。
<2> ダイズイソフラボン配糖体が、ダイジン及びゲニスチンの少なくともいずれかである前記<1>に記載の育毛剤組成物である。
<3> ダイズイソフラボン配糖体(A)と、6−ベンジルアミノプリン(B)とのモル比(A:B)が1:1000000〜1000:1である前記<1>から<2>のいずれかに記載の育毛剤組成物である。
<4> ダイズイソフラボン配糖体と、6−ベンジルアミノプリンとを含有してなることを特徴とする表皮角化細胞増殖促進組成物。
<5> ダイズイソフラボン配糖体と、6−ベンジルアミノプリンとを含有してなることを特徴とするBMP−2遺伝子の発現促進組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、従来における諸問題を解決することができ、加齢により女性ホルモン濃度の低下した女性に見られる薄毛、脱毛に対し、ダイズイソフラボン配糖体と6−ベンジルアミノプリンを併用することによって育毛効果とともに、優れた抜け毛予防効果を発現する育毛剤組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の育毛剤組成物は、(A)ダイズイソフラボン配糖体と、(B)6−ベンジルアミノプリンとを含有し、更に必要に応じてその他の成分を含有してなる。
なお、本発明においては、表皮角化細胞の増殖促進作用により育毛効果を発揮できることから、本発明の育毛剤組成物を「表皮角化細胞増殖促進組成物」と称することがあり、また、BMP−2遺伝子の発現促進作用により育毛効果を発揮できることから、本発明の育毛剤組成物を「BMP−2遺伝子の発現促進組成物」と称することがある。
【0011】
<(A)ダイズイソフラボン配糖体>
イソフラボン類は、フラボノイドに属しており、抗酸化作用、女性ホルモン様作用が確認されている。
ダイズのイソフラボン類を測定すると12種類のイソフラボンの存在が確認されている。該12種類のイソフラボンとしては、(1)ダイゼインとその配糖体である(2)ダイジン、ダイジンのアセチル化体である(3)アセチルダイジン、ダイジンのマロニル化体である(4)マロニルダイジン、(5)ゲニステインとその配糖体である(6)ゲニスチン、ゲニスチンのアセチル化体である(7)アセチルゲニスチン、ゲニスチンのマロニル化体である(8)マロニルゲニスチン、(9)グリシテインとその配糖体である(10)グリシチン、グリシチンのアセチル化体である(11)アセチルグリシチン、グリシチンのマロニル化体である(12)マロニルグリシチンがある。
乾燥ダイズ中には、これら12種類のイソフラボン類のうち、下記構造式(I)で表されるゲニスチン、下記構造式(II)で表されるダイジン、下記構造式(III)で表されるマロニルゲニスチン、下記構造式(IV)で表されるマロニルダイジンの4つが大部分を占めており、表皮角化細胞の増殖促進効果の点からダイジン、ゲニスチンが特に好ましい。
【0012】
<構造式(I)>
ゲニスチン(分子量:432.3)
【化2】

【0013】
<構造式(II)>
ダイジン(分子量:416.38)
【化3】

【0014】
<構造式(III)>
マロニルゲニスチン(分子量:432.38)
【化4】

【0015】
<構造式(IV)>
マロニルダイジン(分子量:432.38)
【化5】

【0016】
前記ダイズイソフラボン配糖体としては、適宜調製したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。
前記ダイズイソフラボン配糖体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、ダイズイソフラボン配糖体としては、ダイズから水やアルコールなどの溶媒で抽出後、ろ過又は遠心分離し、必要に応じて精製したものを用いることができる。
前記ダイズイソフラボン配糖体の調製方法としては、例えばダイズに水を加えて浸漬後ろ過し、次いで、残渣を熱水で抽出し、熱水で抽出した液を30℃〜38℃で冷却後、不溶物を除去することによりイソフラボン配糖体を含むダイズ抽出物が得られる。
得られたダイズ抽出物からダイズイソフラボン配糖体を分離する方法としては、例えば特開平11−255792号公報に記載のように吸着剤を用いる方法がある。即ちダイヤイオンHP−20(三菱化学株式会社製)などの吸着剤を充填したカラムに大豆抽出液を通過させることによりダイズイソフラボン配糖体を吸着する。次いで、吸着剤に吸着したダイズイソフラボン配糖体をエタノール濃度の異なる水溶液を用いて溶出させる。得られた溶液は減圧濃縮し、凍結乾燥することにより、ダイズイソフラボン配糖体の乾燥粉末を得ることができる。
【0017】
前記ダイズイソフラボン配糖体の市販品としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えばダイジン(フジッコ株式会社製)、ゲニスチン(フジッコ株式会社製)、マロニルダイジン(和光純薬株式会社製)、マロニルゲニスチン(和光純薬株式会社製)、などが挙げられる。また、ダイズから抽出したダイズイソフラボン配糖体を含有するエキスとしては、例えば「フラボステロンSE」(一丸ファルコス株式会社製、ダイジン含量0.07w/v%〜0.15w/v%、ゲニスチン含量0.01w/v%〜0.03w/v%)、などが挙げられる。
【0018】
<(B)6−ベンジルアミノプリン>
前記6−ベンジルアミノプリンは、下記構造式で示される分子量225.26の白色結晶性の粉末であり、別名6−ベンジルアデニンとも呼ばれる。
【化1】

【0019】
前記6−ベンジルアミノプリンは、皮膚の老化防止効果及び頭皮に外用することによる細胞の賦活化を目的として育毛剤(特開平5−320028号公報及び特開平7−233037号公報参照)、皮膚化粧料(皮膚 第40巻 第4号、P407−413、1998年8月、三嶋豊ら参照)などに用いられている。
前記6−ベンジルアミノプリンとしては、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。
前記合成方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば特開2005−35903号公報に従って合成する方法、又は天然物から精製する方法などが挙げられる。
前記市販品としては、例えば6−ベンジルアミノプリン(三省製薬株式会社製、分子量=225.26)などが挙げられる。
【0020】
−6−ベンジルアミノプリンによる育毛のメカニズム−
本願出願人は、既に、細胞培養実験において6−ベンジルアミノプリンがBMP−2と呼ばれるタンパク質の産生を促進することを報告している(第26回日本基礎老化学会、2004年、翠川辰行ら参照)。また、本願出願人は、BMP−2とは脱毛症の人の頭皮の細胞内において産生が低下しているタンパク質であり、BMP−2の産生を促進することで優れた育毛効果が発揮されることを報告している(Journal of Dermatological Science(2004)36,25−32)。
【0021】
育毛剤組成物中におけるダイズイソフラボン配糖体及び6−ベンジルアミノプリンの配合量としては、(A)ダイズイソフラボン配糖体が0.000002質量%〜4質量%において、(B)6−ベンジルアミノプリンが0.02質量%〜2質量%であることが好ましく、中でも、(A)ダイズイソフラボン配糖体が0.000002質量%〜0.2質量%において、(B)6−ベンジルアミノプリンが0.1質量%〜0.5質量%であることがより好ましい。
前記(A)ダイズイソフラボン配糖体と、前記(B)6−ベンジルアミノプリンとのモル比(A:B)は、1:1000000〜1000:1であることが好ましく、1:1000000〜10:1であることがより好ましく、1:1000000〜1:1であることがより好ましい。この範囲において、優れた表皮角化細胞の増殖促進効果が得られる。
【0022】
皮膚表面は表皮により覆われており、表皮を主に構成している細胞は表皮角化細胞と呼ばれる細胞である。表皮角化細胞は皮膚科学研究の材料として広く用いられていると同時に毛髪科学研究のモデルとしても広く使われている。これは毛髪が皮膚科学的にみると皮膚の付属器であり、皮膚の一部であるからである。本発明の育毛剤組成物は、表皮角化細胞の増殖を促進すると共に、毛髪の角化細胞の増殖も促すため太い毛根を形成し、育毛を促すことができると同時に抜け毛を防止することができる。
【0023】
本発明の育毛剤組成物は、(A)ダイズイソフラボン配糖体と、(B)6−ベンジルアミノプリンとを含有してなり、頭皮に直接施すと、毛周期において成長期から休止期への移行を抑制し、成長期を更に延長することにより、更に強い育毛効果と共に、より一層優れた抜け毛予防効果を発揮するものである。このような相乗効果を更に高めるために、必要に応じて又は使用目的に応じて、本発明の育毛剤組成物には、前記(A)ダイズイソフラボン配糖体及び(B)6−ベンジルアミノプリン以外の任意の成分を本発明の目的及び効果を損なわない範囲で含有することができる。
【0024】
前記任意成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水、エタノール、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤又はその他の界面活性剤、セルロース類、植物油、エステル油、角質溶解剤、高分子樹脂、紫外線吸収剤、ビタミン類、血管拡張剤、細胞賦活剤、アミノ酸類、抗炎症剤、皮膚機能亢進剤、色剤、香料、などが挙げられる。
【0025】
前記水としては、例えば精製水、蒸留水、イオン交換水、純水、超純水、海洋深層水、などが挙げられる。
前記セルロース類としては、例えばヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、などが挙げられる。
前記非イオン性界面活性剤としては、例えばソルビタン脂肪酸エステル類(ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノオレート等)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油モノ又はイソステアレート、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル(モノミリスチン酸デカグリセリン、モノミリスチン酸ペンタグリセリン)、などが挙げられる。
前記エステル類としては、例えば多価アルコール脂肪酸エステル(トリ−2エチルヘキサン酸グリセリン、トリイソステアリン酸トリメチロールプロパン酸等の多価アルコール脂肪酸エステル、などが挙げられる。
前記植物油としては、例えばユーカリ油、サフラワー油、月見草油、ホホバ油、などが挙げられる。
前記エステル油としては、例えば不飽和脂肪酸アルキルエステル(オレイン酸エチル、リノール酸イソプロピル等)、ミリスチン酸メチル、ミリスチン酸イソプロピル、などが挙げられる。
前記角質溶解剤としては、例えばサリチル酸、レゾルシン、などが挙げられる。
前記高分子樹脂としては、例えば両性ポリマー、カチオン性ポリマー、アニオン性ポリマー、ノニオン性ポリマー、などが挙げられる。
前記紫外線吸収剤としては、例えばメトキシケイ皮酸オクチル(ネオヘリオパンAV)、オキシベンゾン、ウロカニン酸、などが挙げられる。
前記ビタミン類としては、例えばビタミンA、ビタミンB、ビタミンC、ビタミンE、酢酸トコフェロール、などが挙げられる。
前記血管拡張剤としては、例えば塩化カルプロニウム、ミノキシジル、セファランチン、などが挙げられる。
前記細胞賦活剤としては、例えばペンタデカン酸グリセリド、コレウスエキス、ジンセンエキス、アデノシン、などが挙げられる。
前記アミノ酸類としては、例えばグルタミン酸、メチオニン、セリン、グリシン、シスチン、スレオニン、などが挙げられる。
前記抗炎症剤としては、例えばβ−グリチルレチン酸、グリチルリチン酸ジカリウム、ローズマリーエキス、シソエキス、などが挙げられる。
前記皮膚機能亢進剤としては、例えばD−パンテノール、パントテニルエチルエーテル、などが挙げられる。
【0026】
−用途−
本発明の育毛剤組成物は、常法に従って、均一溶液、ローション、ジェルなどの形態で、ヘアトニック、ヘアクリーム、ヘアリキッド、シャンプー、ポマード、リンス、などに用いられる。また、育毛効果を有する外用剤として使用することができる。
【0027】
−形態−
本発明の育毛剤組成物は、エアゾール組成物の形態をとることができ、その場合には、上記の成分以外に、n−プロピルアルコール又はイソプロピルアルコール等の低級アルコール;ブタン、プロパン、イソブタン、液化石油ガス、ジメチルエーテル等の可燃性ガス;窒素ガス、酸素ガス、炭酸ガス、亜酸化窒素ガス等の圧縮ガスを含有することができる。
【0028】
本発明の育毛剤組成物は、(A)成分のダイズイソフラボン配糖体と、(B)成分の6−ベンジルアミノプリンとを含有してなり、頭皮に直接に適用すると、相乗効果により毛細胞の増殖を促進し、太くしっかりとした毛髪に改善されると共に、抜け毛を防止する効果を発揮することができる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0030】
<表皮角化細胞増殖活性の測定方法>
表皮角化細胞の増殖活性の測定は以下のようにして行った。
正常ヒト表皮角化細胞は、24歳女性由来の一次培養凍結品(Cascade Biologics社製、NHEK(B))を用いた。また、培地にはHumedia KG2(倉敷紡績社製)を用いた。24穴プレート(住友ベークライト株式会社製)に4400cells/wellとなるように播種し、これを5%炭酸ガス、飽和水蒸気下、37℃で培養に供した。24時間培養後、培養液を吸引して新鮮なHumedia KG2を加え、評価物質を添加し更に48時間培養した。培養後、Alamar Blue(Invitrogen社製)を10%濃度となるように添加し、蛍光(励起544nm、測定590nm)を測定し、これを初期測定値とした。5%炭酸ガス、飽和水蒸気下、37℃で3時間培養後に再び蛍光(励起544nm、測定590nm)を測定し、この測定値と初期値の差をAlamar Blue活性とした。評価エキスの代わりにエタノールを用いた際のAlamar Blue活性を100%とした際の各評価エキスのAlamar Blue活性を表皮角化細胞増殖活性とした。
【0031】
(実験例1)
−表皮角化細胞の細胞増殖活性の評価−
ダイジン、ゲニスチン、マロニルダイジン、マロニルゲニスチン、及び6−ベンジルアミノプリンのいずれかを10ng/mL濃度含むHumedia KG2培地をそれぞれ調製(50μgのダイズイソフラボン配糖体、又は6−ベンジルアミノプリンを10mLのエタノールに溶解した後、エタノールを用いて50倍に希釈した溶液をストック溶液とした。その後、Humedia KG2培地量の100分の1量のストック溶液をHumedia KG2培地に添加し調製)し、上記のようにして表皮角化細胞の細胞増殖活性を評価した。
比較としてダイジン、ゲニスチン、マロニルダイジン、及びマロニルゲニスチンのいずれかを5ng/mL濃度と、6−ベンジルアミノプリン5ng/mLを含むHumedia KG2培地を調製した。即ち、50μgのダイズイソフラボン配糖体、又は6−ベンジルアミノプリンを10mLのエタノールに溶解した後、エタノールを用いて50倍に希釈した溶液をストック溶液とした。その後、Humedia KG2培地量の200分の1量のダイズイソフラボン配糖体ストック溶液、及び200分の1量の6−ベンジルアミノプリンのストック溶液をHumedia KG2培地に添加し調製した。
これらの調製培地を用いて表皮角化細胞の細胞増殖活性を評価した。コントロールとしてエタノールをHumedia KG2培地量の100分の1量加え調製したコントロールについても表皮角化細胞の細胞増殖活性を評価し、このコントロールの増殖活性を1とした際のそれぞれの検体添加時の細胞増殖活性を増殖活性比(増殖活性比=検体添加時の細胞増殖活性/エタノール(コントロール)添加時の細胞増殖活性)として図1に示した。
【0032】
図1の結果から、マロニルダイジン、及びマロニルゲニスチンは、それぞれ3.7倍、3.8倍の増殖活性が認められ、特開平9−59166号公報に記載されているようにマロニル化イソフラボン配糖体の生理活性作用が認められた。ダイジン、及びゲニスチンにもそれぞれ1.5倍、1.6倍の増殖活性が認められたが、6−ベンジルアミノプリンと組み合わせることにより増殖活性がそれぞれ12.3倍、10.8倍にまで活性化され、ダイズイソフラボン配糖体と6−ベンジルアミノプリンを併用することによる相乗効果が認められた。また、マロニル化イソフラボン配糖体も6−ベンジルアミノプリンと併用することにより増殖活性の増加が認められたが、それぞれを単独で添加した場合と比べて有意差は無かった。
【0033】
(実験例2)
−ダイジンと6−ベンジルアミノプリンのモル比を変えた場合の表皮角化細胞増殖活性−
ダイジンと6−ベンジルアミノプリンの総量を10ng/mL含有し、かつダイジンと6−ベンジルアミノプリンのモル比を0:1〜1:0まで調製したHumedia KG2倍地を調製した。
次に、上記表皮角化細胞増殖活性の測定と同方法により表皮角化細胞増殖活性を評価した。結果を図2に示す。
図2の結果から明らかなように、ダイジン、6−ベンジルアミノプリンをそれぞれ単独で添加するよりも、両者を組み合わせて添加することにより、高い表皮角化細胞増殖促進活性が認められた。表皮角化細胞増殖促進効果が見られたのは、ダイジン:6−ベンジルアミノプリンのモル比が1:1000000〜10000:1の場合であり、特に高い表皮角化細胞増殖活性が見られ好ましいのはダイジン:6−ベンジルアミノプリンのモル比が1:1000000〜1:1の場合であった。
【0034】
(実験例3)
−ゲニスチンと6−ベンジルアミノプリンのモル比を変えた場合の表皮角化細胞増殖活性−
ゲニスチンと6−ベンジルアミノプリンとを総量10ng/mL含有し、かつダイジンと6−ベンジルアミノプリンのモル比を0:1〜1:0まで調製したHumedia KG2培地を調製した。
次に、上記表皮角化細胞増殖活性の測定と同方法により表皮角化細胞増殖活性を評価した。結果を図3に示す。
図3の結果から明らかなように、ゲニスチン、6−ベンジルアミノプリンをそれぞれ単独で添加するよりも、両者を組み合わせて添加することにより高い表皮角化細胞増殖活性が認められた。表皮角化細胞増殖促進効果が見られたのはゲニスチン:6−ベンジルアミノプリンのモル比が1:1000000〜10:1の場合であり、特に高い表皮角化細胞増殖活性が見られたのはゲニスチン:6−ベンジルアミノプリンのモル比が1:1000000〜1:1の場合であった。
【0035】
(実験例4)
−6−ベンジルアミノプリン、ダイジンによる遺伝子発現促進効果確認試験−
表皮角化細胞を24穴プレートに3,000cells/cmとなるように播種し、培地としてHumedia KG2(倉敷紡績株式会社製)が一穴あたり0.5mLとなるように分注し、これを5%炭酸ガス、飽和水蒸気下、37℃で培養に供した。翌日に、(a)6−ベンジルアミノプリン1μg/mL、(b)ダイジン1μg/mL、又は(c)ダイジン500ng/mLと6−ベンジルアミノプリン500ng/mL〔モル比(ダイジン:6−ベンジルアミノプリン)=1:1.8〕濃度の溶液を、エタノールを用いて調製した。
これらをHumedia KG2倍地中に培地量の100分の1添加した(培地中の終濃度は(a)ダイジン10ng/mL、(b)ゲニスチン10ng/mL、(c)ダイジン5ng/mL、及びゲニスチン5ng/mL)。これらの培地中で表皮角化細胞を20時間培養した後、mRNAを抽出した。mRNAの抽出精製にはQIA shredder(QIAGEN社製)、RNeasy Mini(QIAGEN社製)を用いた。精製したmRNAをもとに、RTase(TOYOBO社製)を用いてcDNAを合成した。
合成したcDNAをもとに、ExTaq HS(TaKaRa社製)を用いてPCR反応(94℃で5分間インキュベートした後、30サイクルの増幅反応(94℃で30秒、プライマーの融解温度で60秒、72℃で60秒))を行った。この反応液を用いて1%アガロースゲルによる電気泳動を行い、女性ホルモン受容体β(ER−β)、BMP−2、及びGAPDH(コントロール)の遺伝子発現を比較した。結果を図4に示す。
図4の結果から、細胞にダイジンと6−ベンジルアミノプリンを共に添加した際に女性ホルモン受容体βとBMP−2の遺伝子発現が相乗的に高くなることが分かった。
【0036】
−6−ベンジルアミノプリンとダイジン又はゲニスチンとの組み合わせによる相乗効果について−
これまでに本願出願人は、毛包の角化細胞に対し、BMP−2が細胞増殖促進効果を持つことを報告している(Journal of Dermatological Science (2004) 36,25−32参照)。また、BMP−2の遺伝子発現は女性ホルモン受容体βによって促進されることについても報告しており(基礎老化学会 29,25(2005),FRAGRANCE JOURNAL 2005年12月号)、女性ホルモン受容体βがBMP−2を介して毛包の成長を促すことを明らかにしてきた。
しかし、実験例4で示すようにダイズイソフラボン配糖体と6−ベンジルアミノプリンを併用することで女性ホルモン受容体βの遺伝子発現が相乗的に促進されることは新知見であり、これに伴いBMP−2の遺伝子発現が促進されたことを受けて、実験例1〜3で示した表皮角化細胞の増殖促進効果が見られたと考えられる。
したがって(A)ダイズイソフラボン配糖体と、(B)6−ベンジルアミノプリンとを含有してなる育毛剤組成物は、女性ホルモンの減少によって起こる薄毛、抜け毛に対して、太くしっかりとした毛髪に改善するとともに抜け毛を防止する効果を発揮することができる。
【0037】
(実施例1〜9及び比較例1〜5)
−育毛剤組成物の調製−
下記表1に示す配合組成で、常法により各育毛剤組成物を調製した。なお、配合単位は、質量%であり、全量100質量%である。
得られた各育毛剤組成物について、以下のようにして、男性型脱毛症に対する治療効果についての臨床試験結果を行った。結果を表1に示す。
【0038】
<びまん性脱毛症に対する臨床試験方法>
104名のびまん性脱毛症の女性ボランティアを対象とし、被検薬剤群、及び対照群の合計13群に対し、1群8名としてランダムに割り付けた。
試験は、毎日朝、夜の2回、適量を前頭部から頭頂部へ塗擦した。投与期間は4ヵ月行った。
試験終了時(4ヵ月)に洗髪し、洗髪中に抜け落ちる毛をざるに不織布を2重にかぶせて採取した。採取した毛の本数を測定し、試験開始時の洗髪中の抜け毛本数と比較した。洗髪は1日1回、3日間連続して行い、3回の抜け毛本数の平均値を判定に用い、下記式により抜け毛本数の変化を測定した。
また、試験終了時に試験開始前と比較した毛髪所見(毛の質の変化)の改善度を、写真所見を参考にして下記の5段階評価(著明改善、中等度改善、軽度改善、不変、悪化)で判定した。
【0039】
〔判定基準〕
−抜け毛本数の変化−
試験開始時の抜け毛本数を100%とした場合の試験終了時の抜け毛本数の変化を算出した〔(試験終了時の抜け毛本数/試験開始時の抜け毛本数)×100〕。
「改善」:試験終了時の抜け毛本数が初期値の90%未満
「不変」:試験終了時の抜け毛本数が初期値の90%〜110%以内
「悪化」:試験終了時の抜け毛本数が初期値の111%以上
−毛の質の変化−
「著明改善」 :5点(軟毛がほとんど認められなくなり、正常化したもの)
「中等度改善」:4点(軟毛がかなり硬毛化したもの)
「軽度改善」 :3点(軟毛がわずかに硬毛化したもの)
「不変」 :2点(毛の質に全く変化が認められなかったもの)
「悪化」 :1点(軟毛化したもの)
【0040】
【表1−1】

【表1−2】

【表1−3】

*ダイジン(フジッコ株式会社製、固形分純度99%以上、分子量=416.38)
*ゲニスチン(フジッコ株式会社製、固形分純度99%以上、分子量=432.38)
*6−ベンジルアミノプリン(三省製薬株式会社製、分子量=225.26)
*ポリエチレングリコール#300(ライオン株式会社製)
*POE(30)POP(6)−デシルテトラデシルエーテル(日光ケミカル株式会社製)
(*1):実施例4及び比較例4では、フラボステロンSEを0.1質量%含有する。フラボステロンSEは一丸ファルコス株式会社製のダイズエキスであり、エキス中にダイジンを0.1質量%、ゲニスチン0.02質量%含む。
(*2):モル比は、小数点以下一桁を四捨五入した数値を示す
【0041】
表1の結果から、本発明範囲となる有効成分〔(A)成分及び(B)成分〕を所定量含む実施例1〜9は、いずれも抜け毛予防効果及び毛の質の改善効果において優れた特性を示すことが分かった。また、ダイジン、ゲニスチンといったダイズイソフラボン配糖体の精製物でなくともこれらのダイズイソフラボン配糖体を含むダイズエキス(フラボステロンSE(一丸ファルコス株式会社製))を用いた場合(実施例4)にも抜け毛予防効果及び毛の質の改善効果に優れることが判明した。また、実施例1〜6は、実施例7〜8よりも効果が優れており、特に好ましいことが分かった。また、育毛剤組成物への配合量としては、実施例1〜8に見られるように(A)成分が0.000002質量%〜4質量%において、(B)成分が0.02質量%〜2質量%である場合に優れた効果が確認できた。その中でも(A)成分が0.000002質量%〜0.2質量%において、(B)成分が0.1質量%〜0.5質量%である場合に優れた効果が確認されており、育毛剤組成物への配合量として特に好ましいことが分かった。
これに対し、本発明の範囲外となる比較例1〜5は、いずれも優れた特性を示さないことが判明した。比較例1は、(A)成分及び(B)成分を共に含有しない場合、比較例2〜4は、(A)成分のみを含有する場合、比較例5は、(B)成分のみを含有する場合であり、これらの場合は、本発明の目的の効果である育毛効果、抜け毛防止効果を発揮できないことが分かった。
【0042】
次に、抜毛予防効果及び発毛重量において優れた特性を示す本発明の育毛剤組成物を実際の製品に適用した具体的な配合実施例を以下に示す。なお、下記の配合実施例の育毛剤組成物は、それぞれの組成に従って各剤型の常法に準じて調製した。
下記配合実施例1〜5の各種剤型の育毛剤組成物(養毛剤、育毛スプレー、育毛トニック、育毛ヘアローション)について、上記実施例1〜9及び比較例1〜5と同様にして、育毛効果を評価したところ、いずれも抜毛予防効果及び発毛重量において、実施例1〜9と同様の優れた効果を示した。
【0043】
(配合実施例1)
−育毛剤−
・フラボステロンSE*:0.1質量%・・・(A)成分
・6−ベンジルアミノプリン:0.5質量%・・・(B)成分
・コレウス・フォルスコリィ根抽出精製エキス:3.0質量%
・ヤシ油脂肪酸ソルビタン:1.0質量%
・ショ糖ミリスチン酸エステル:0.5質量%
・ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン:0.5質量%
・濃グリセリン:0.8質量%
・ノミリスチン酸デカグリセリン:0.3質量%
・ビオチン:0.002質量%
・コハク酸:0.3質量%
・酢酸DL−α−トコフェロール:0.1質量%
・香料:0.5質量%
・95%エタノール:50質量%
・精製水:残部
*フラボステロンSEは、一丸ファルコス株式会社製のダイズエキスであり、エキス中にダイジンを0.1質量%、ゲニスチン0.02質量%含む。
モル比〔(A)成分:(B)成分〕=1:7947(モル比は、小数点以下一桁を四捨五入した数値を示す)
【0044】
(配合実施例2)
−育毛スプレー−
・ダイジン:0.0001質量%・・・(A)成分
・6−ベンジルアミノプリン:0.1質量%・・・(B)成分
・コレウス・フォルスコリィ根抽出エキス:1.0質量%
・両性ポリマー(N−メタクロイルエチル−N,N−ジメチルアンモニウム・α−N−メチルカルボキシベタイン・メタクリル酸アルキル共重合体):0.2質量%
・オレイン酸エチル:1.0質量%
・コハク酸:0.3質量%
・ショ糖ラウリン酸エステル:0.5質量%
・ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン:0.5質量%
・濃グリセリン:0.8質量%
・モノミリスチン酸デカグリセリン:0.3質量%
・L−メントール:0.1質量%
・酢酸DL−α―トコフェロール:0.1質量%
・香料:0.5質量%
・95%エタノール:50質量%
・精製水:残部
−希釈用充填液−
・上記原液:80質量%
・LPG:20質量%
モル比〔(A)成分:(B)成分〕=1:1919(モル比は、小数点以下一桁を四捨五入した数値を示す)
【0045】
(配合実施例3)
−育毛トニック−
・ゲニスチン:0.00001質量%・・(A)成分
・6−ベンジルアミノプリン:0.05質量%・・・(B)成分
・POE(8モル)オレイルエーテル:1.5質量%
・グリセリン:3.0質量%
・L−メントール:0.1質量%
・ヒノキチオール:0.3質量%
・メチルパラペン:0.1質量%
・香料:0.3質量%
・95%エタノール:50質量%
・精製水:残部
モル比〔(A)成分:(B)成分〕=1:9242(モル比は、小数点以下一桁を四捨五入した数値を示す)
【0046】
(配合実施例4)
−育毛ヘアローション−
・ダイジン:0.001質量%・・・(A)成分
・6−ベンジルアミノプリン:0.5質量%・・・(B)成分
・天然ビタミンE:0.5質量%
・ショ糖ミリスチン酸エステル:0.5質量%
・POE(40)硬化ヒマシ油:0.5質量%
・プロピレングリコール:0.5質量%
・クエン酸:0.1質量%
・L−メントール:0.1質量%
・香料:適量
・95%エタノール:50質量%
・精製水:残部
モル比〔(A)成分:(B)成分〕=1:9597(モル比は、小数点以下一桁を四捨五入した数値を示す)
【0047】
(配合実施例5)
−育毛トニック−
・ゲニスチン:0.001質量%・・・(A)成分
・6−ベンジルアミノプリン:0.5質量%・・・(B)成分
・ニコチン酸アミド:0.1質量%
・ピロクトンオラミン:0.05質量%
・β−グリチルレチン酸:0.01質量%
・メリッサ抽出物:3.0質量%
・POE(2モル)オレイルエーテル:0.5質量%
・ポリエチレングリコール400:2.0質量%
・L−メントール:0.1質量%
・ヒノキチオール:0.3質量%
・香料:0.3質量%
・95%エタノール:50質量%
・精製水:残部
モル比〔(A)成分:(B)成分〕=1:9242(モル比は、小数点以下一桁を四捨五入した数値を示す)
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の育毛剤組成物は、優れた表皮角化細胞の増殖促進作用及びBMP−2遺伝子の発現促進効果を有し、特に女性における急激な女性ホルモン減少により起こる毛髪の不具合に対して有効なものであり、例えば、育毛効果を有するヘアトニック、ヘアクリーム、ヘアリキッド、シャンプー、ポマード、リンス、外用剤などに幅広く用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】図1は、実験例1における表皮角化細胞の増殖活性を評価した結果を示すグラフである。
【図2】図2は、実験例2におけるダイジンと6−ベンジルアミノプリンのモル比を変えた場合の表皮角化細胞の増殖活性を評価した結果を示すグラフである。
【図3】図3は、実験例3におけるゲニスチンと6−ベンジルアミノプリンのモル比を変えた場合の表皮角化細胞の増殖活性を評価した結果を示すグラフである。
【図4】図4は、実験例4の6−ベンジルアミノプリンとダイジンによる女性ホルモン受容体βとBMP−2の遺伝子発現促進効果を評価した結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイズイソフラボン配糖体と、6−ベンジルアミノプリンとを含有してなることを特徴とする育毛剤組成物。
【請求項2】
ダイズイソフラボン配糖体が、ダイジン及びゲニスチンの少なくともいずれかである請求項1に記載の育毛剤組成物。
【請求項3】
ダイズイソフラボン配糖体(A)と、6−ベンジルアミノプリン(B)とのモル比(A:B)が1:1000000〜1000:1である請求項1から2のいずれかに記載の育毛剤組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−150203(P2010−150203A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−331228(P2008−331228)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】