説明

胃腸疾患の治療方法および組成物

治療上有効量のプロスタグランジンEP4アゴニスト成分を、食道潰瘍、アルコール性胃疾患、十二指腸潰瘍、胃潰瘍、非ステロイド系抗炎症薬誘発性胃疾患および腸虚血から選ばれる疾患または症状に苦しんでいるまたは苦しみがちな哺乳類に投与することに関連する方法を提供する。そのような投与は、上記疾患または症状の治療または予防をもたらす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2006年12月18日に出願された米国仮出願第60/870,444号の権利を主張する;該米国仮出願は、その全体を参考として本明細書に合体させる。
【0002】
本発明は、治療上活性な組成物を使用してのある種の疾患または症状の治療または予防に関する。詳細には、本発明は、ある種のプロスタグランジンEP4アゴニスト成分を使用して、限定するものではないが、食道、胃、小腸および/または大腸に対して影響を有する症状のような胃腸管のある種の疾患または症状を治療または予防する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
プロスタグランジン類は、細胞表面レセプターのGタンパク質共役受容体(GPCR)群の亜科のメンバーを増強する。GPCR群レセプターのメンバーは、折畳まれて細胞膜を7回交差させるような形で構成されていることに特徴を有する;従って、これらのレセプターは、7回膜貫通型レセプターとも称する。
【0004】
現在、種々の細胞タイプにおいて、プロスタグランジンの9種の既知のレセプターが存在する。これらのレセプターは、DP1‐2、EP1‐4、FP、IPおよびTPと称し、その名称は、相応するプロスタグランジンと結合しそれによって増強されるレセプターに相応している(例えば、E4レセプターは、プロスタグランジンE4即ちPGE4に結合しそれによって増強される)。従って、プロスタグランジン類は、収縮または膨張をもたらす血管平滑筋細胞のような各種細胞に対して、凝集または解離をもたらす血小板に対して、さらには、疼痛をもたらす脊髄ニューロンに対して作用する。プロスタグランジン類は、限定するものではないが、筋肉収縮および炎症の媒介のような広範囲の作用を有する。他の作用としては、カルシウム移動、ホルモン調節および細胞増殖制御がある。トロンボキサンは、血小板中で産生し、血管収縮および血小板凝集をもたらす。プロスタサイクリンは、血管壁中の細胞によって合成され、トロンボキサンと拮抗性である。
【0005】
プロスタグランジン類は、プロスタン酸とのその構造的類似性に関連して説明することができ、下記の構造式および番号付けスキームを有する:
【化1】

【0006】
種々のタイプのプロスタグランジンが、プロスタン酸骨格の構造およびその脂環式環上に担持された置換基に応じて知られている。プロスタグランジンのさらなる分類は、包括的タイプのプロスタグランジンの後の下付き数字[例えば、プロスタグランジンE1(PGE1)、プロスタグランジンE2(PGE2)]によって示される側鎖中の不飽和結合の数、およびαまたはβ[例えば、プロスタグランジンF(PGF)]によって示される脂環式環上の置換基の構造に基づく。
【0007】
また、天然産生のプロスタグランジン以外に、プロスタグランジンとのある種の構造的類似性を有する種々の非天然産生アナログ類、誘導体および他の化合物も、一般的なプロスタグランジンレセプター、とりわけ、E4レセプターとの活性を有することが見出されている。
プロスタグランジンEP4レセプターアゴニスト活性を有するとりわけ興味のある化合物は、化学名:(Z)‐7‐{(1R,4S,5R)‐5‐[(E)‐5‐(3‐クロロ‐ベンゾ[b]チオフェン‐2-イル)‐3‐ヒドロキシ‐ペンテ‐1‐エニル]‐4‐ヒドロキシ‐3,3‐ジメチル‐2‐オキソ‐シクロペンチル}‐ヘプテ‐5‐エン酸を有し、米国特許公開第2005/0164992号に開示されている;該出願は、本明細書に参考として合体させる。
【0008】
プロスタグランジンEP4レセプター選択性アゴニストは、様々な医学的用途を有するものと信じている。例えば、米国特許第6,552,067 B2号(本明細書に参考として明確に合体させる)は、プロスタグランジンEP4レセプター選択性アゴニストの、“哺乳類における低骨量、とりわけ、骨粗しょう症、虚弱、骨粗しょう症性骨折、骨欠損、小児突発性骨量減少、歯槽骨欠損、下顎骨欠損、骨折、骨切り術、歯周炎に関連した骨欠損または補綴内方成長(prosthetic ingrowth)を示す症状の治療方法”の処置における使用を教示している。
【0009】
米国特許第6,586,468 B1号(本明細書に参考として明確に合体させる)は、ある種のプロスタグランジンEP4レセプター選択性アゴニストが、“免疫疾患(自己免疫疾患(筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多発性硬化症、シェーグレン症候群、関節炎、関節リウマチ、全身性紅斑性狼瘡等)、移植後組織不適合等)、喘息、異常骨形成、神経細胞死、肺障害(pulmopathy)、肝障害、急性肝炎、腎炎、腎不全、高血圧症、心筋虚血、全身性炎症症候群、熱傷によって誘発された疼痛、敗血症、血液食作用(hemophagocytosis)症候群、マクロファージ活性化症候群、スティル病、川崎病、火傷、全身性肉芽腫、潰瘍性大腸炎、クローン病、透析時の高サイトカイン血症、多臓器不全、ショック等の予防および/または治療に有用である”ことを教示している。
【0010】
米国特許公開第2005/0164992号(参考として上記に合体させる;また、本譲受人による共同所有である)は、ある種のプロスタグランジンEP4レセプターアゴニストの、大腸または小腸の炎症に特徴を有し且つ下痢、疼痛および体重減のような症状として現れる炎症性腸疾患(IBD)の治療における使用を開示している。非ステロイド系抗炎症薬がIBD発症のリスクに関連していると考えられており、さらに、Kabashima等は、“EP4は、粘膜構造を保持し、先天性免疫を鎮圧し、また、CD4+T細胞の増殖および活性化をダウンレギュレートするように作用する。これらの知見は、NSAID類によるIBDのメカニズムを解明しているだけではなく、EP4選択性アゴニストのIBDの予防および治療における治療可能性も示唆している”と開示している。(Kabashima, et. al., The Journal of Clinical Investigation, April 2002, Vol. 9, 883‐893)。
【0011】
胃腸管の各種他の症状は、罹患個々人の損傷に対して発症する。そのような疾患または症状の中には、胃食道逆流性疾患、急性および慢性胃炎(限定するものではないが、ヘリコバクター・ピロリ(Heliobacter pylori)誘発性胃炎、萎縮性胃炎、悪性貧血、ストレス性粘膜障害、アルコール性胃疾患、術後アルカリ性胃炎および好酸球性胃腸炎のような)、十二指腸炎、憩室炎、ゾリンジャー・エリソン症候群、化学療法誘発性胃腸毒性、放射線誘発性胃腸毒性、および損傷または手術に起因する胃腸管に対する創傷または損傷がある。
そのような疾患および症状を治療または予防するための新規な方法および組成物は、極めて有益である。
【発明の概要】
【0012】
本発明は、例えば、哺乳類身体の胃腸管の1以上の疾患または症状を治療または予防する方法および組成物に関する。詳細には、本発明は、胃食道逆流性疾患、急性および慢性胃炎(限定するものではないが、ヘリコバクター・ピロリ誘発性胃炎、萎縮性胃炎、悪性貧血、ストレス性粘膜障害、アルコール性胃疾患、術後アルカリ性胃炎および好酸球性胃腸炎のような)、十二指腸炎、憩室炎、ゾリンジャー・エリソン症候群、化学療法誘発性胃腸毒性、放射線誘発性胃腸毒性、および損傷または手術に起因する胃腸管に対する創傷または損傷のような胃腸症状を治療する方法および組成物に関する。そのような疾患(1以上)または症状(1以上)を治療または予防することは、1以上の実質的な利点を提供する、例えば、そのような疾患(1以上)または症状(1以上)に苦しんでいるまたは苦しみがちな個々の、例えば、ヒトまたは動物の健康を増進または維持する。
【0013】
本発明の1つの広い局面においては、本発明は、下記のような構造を有するプロスタグランジンEP4アゴニスト(並びに、それらの塩およびエステル、およびこれら塩またはエステルの混合物)を含む治療上有効量の治療上有効な組成物を、胃食道逆流性疾患、急性および慢性胃炎(限定するものではないが、ヘリコバクター・ピロリ誘発性胃炎、萎縮性胃炎、悪性貧血、ストレス性粘膜障害、アルコール性胃疾患、術後アルカリ性胃炎および好酸球性胃腸炎を含む)、十二指腸炎、憩室炎、ゾリンジャー・エリソン症候群、化学療法誘発性胃腸毒性、放射線誘発性胃腸毒性、および損傷または手術に起因する胃腸管に対する創傷または損傷から選ばれる1以上の疾患または症状に苦しんでいるまたは苦しみがちな哺乳類に投与し、それによって上記1以上の症状または疾患を治療または予防することを特徴とする方法に関する:
【0014】
【化2】

【0015】
もう1つの実施態様においては、本発明は、下記のような構造を有するプロスタグランジンEP4アゴニスト(並びに、それらの塩およびエステル、およびこれら塩またはエステルの混合物)を含む薬理学上有効な組成物に関する:
【0016】
【化3】

【0017】
もう1つの実施態様においては、上記の治療上有効な組成物をヒトに投与する。上記プロスタグランジンEP4アゴニスト成分は、哺乳類、例えば、ヒトの胃腸管に、投与し得、例えば、経口投与し得る。
本明細書において説明する全ての特徴およびそのような特徴の組合せは、そのようないずれかの組合せの各特徴が互いに矛盾しないことを条件として、本発明の範囲内に包含される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1A】リン酸化Aktに対して選択性の抗体をAkt種のプローブとして二次的に使用した、Aktタンパク質に対するバンドを有するIEC‐18細胞溶解物のポリアクリルアミド電気泳動ゲルのウエスタンブロットを示す。各レーンは、下記に由来するサンプルを含む:ビヒクル(0.1%DMSO)単独で処理した細胞、10μMのセレコキシブで処理した細胞、5μMのSC‐560で処理した細胞、および10μMのインドメタシンで処理した細胞。
【図1B】リン酸化Aktに対して選択性の抗体をAkt種のプローブとして二次的に使用した、Aktタンパク質に対するバンドを有するIEC‐18細胞溶解物のポリアクリルアミド電気泳動ゲルのウエスタンブロットを示す。各レーンは、下記に由来するサンプルを含む:各レーンは、下記に由来するサンプルを含む:ビヒクル処理細胞、インドメタシン(10μM)単独で処理した細胞、およびインドメタシンと10nMの化合物7で処理した細胞。
【図2】ビヒクル単独で処理したIEC‐18細胞(図2A)、ドキソルビシン(0.05μg/ml)とセレコキシブ(10μM)の双方で治療した細胞(図2B)、並びにドキソルビシンとセレコキシブの双方さらに10nMの化合物7で処理した細胞(図2C)のフローサイトメトリー(FACS)スキャンを示す。
【図2D】これらサンプルにおける相対的アポトーシス度合を示す棒グラフである。
【図3A】非対照マウスにはインドメタシンを投与しているマウス潰瘍モデルにおける潰瘍の大きさを示す棒グラフである。
【図3B】非対照マウスにはインドメタシンを投与しているマウス潰瘍モデルにおける白血球、リンパ球、好中球および単球細胞数を示す棒グラフである。
【図3C】非対照マウスにはインドメタシンを投与しているマウス潰瘍モデルにおける赤血球、ヘモグロビン(HGB)およびヘマトクッリトレベルを示す棒グラフである。
【図4A】対照マウスにはビヒクルを投与し、非対照マウスには化合物7を投与しているマウス潰瘍モデルにおける潰瘍の大きさを示す棒グラフである。
【図4B】対照マウスにはビヒクルを投与し、非対照マウスには化合物7を投与しているマウス潰瘍モデルにおける肉芽組織中の好中球および壊死レベルを示す棒グラフである。
【図4C】対照マウスにはビヒクルを投与し、非対照マウスには化合物7を投与しているマウス潰瘍モデルにおける潰瘍組織の巨視的形態と顕微鏡的形態を比較している写真を示す。
【図5A】対照マウスにはインドメタシン(3mg/kg/日)を投与し、非対照マウスにはインドメタシン(3mg/kg/日)と化合物7(0.1mg/kg/日)を投与しているマウス潰瘍モデルにおける赤血球、ヘモグロビン(HGB)ヘマトクリットレベルを示す棒グラフである。
【図5B】対照マウスにはインドメタシン(3mg/kg/日)を投与し、非対照マウスにはインドメタシンと化合物7(0.1mg/kg/日)を投与しているマウス潰瘍モデルにおける白血球(WBC)、リンパ球(LYM)および好中球(NEU)レベルを示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
プロスタグランジンEP4アゴニストは、プロスタグランジンEP4レセプターを、当業者にとって周知であるEP4活性測定のための多くのアッセイ法のいずれか1以上の方法に従い作動させるものと当業者が合理的に信じている化合物として、広義に定義される。例えば、限定するものではないが、1つのそのようなアッセイシステムは、Brannの米国特許第5,707,798号(本明細書に参考として合体させる)において一部開示されているRSATアッセイ技術として知られている。このアッセイシステムは、一般に、所定のクローン化レセプターにおける細胞表面レセプターのGタンパク質共役レセプター(GPCR)上科のメンバーの推定モジュレーターの作用(単に結合と言うよりも)をアッセイするのに使用する。このGPCR上科は、プロスタグランジンEP4レセプターを包含する。
【0020】
プロスタグランジンEP4レセプターのモジュレーターの活性を測定するのに使用し得る他のアッセイ法は、細胞内カルシウム信号伝達のアッセイにおいて、組換えEP4レセプターを発現し表示する細胞を使用することを含む。細胞に蛍光染料、例えば、Fluo‐4R染料を予め負荷させたときに、細胞内貯蔵箇所からのその後のCa++放出を、Fluo‐4Rの発光最大値での蛍光の増大として検出する(510〜570nmにおいて)。従って、プロスタグランジンEP4アゴニスト活性は、FLIPRR機器のような装置を使用して、細胞内カルシウム濃度の変化によって測定することができる。
【0021】
米国特許公開2005/0164992号(その全体を参考として本明細書の1部として合体させる;また、本譲受人による共同所有である)において開示され使用されているプロスタグランジンEP4アゴニストのプロドラッグは、これらのプロドラッグが本明細書において開示している特定のEP4レセプターアゴニストに該当し得るので、本発明の方法および組成物の範囲内に属するものとする。従って、本明細書において開示するEP4アゴニスト化合物は、治療剤として、生物学的活性化合物として、或いは1種以上のプロドラッグとして、例えば、限定するものではないが、以下から誘導されたまたは以下を含むものとして、投与し得ることを理解されたい:アルケン、アルキンおよびエステル結合;炭水化物のエステル、エーテルまたはアミド;アミノ酸のエステル、エーテルまたはアミド;グルコシドエステル、エーテルまたはアミド;グルクロニドエステル、エーテルまたはアミド;シクロデキストリンエステル、エーテルまたはアミド;またはデキストランエステル、エーテルまたはアミド;並びに、これらの混合物。
【0022】
一般に、薬物を胃腸管またはその所望する部分に伝達する製剤および方法は、当該技術において周知である。例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences Mack Publishing Company, Easton, Pa. 16th Edition (1980)を参照されたい。例えば、経口投与剤形としては、固形剤形および半固形剤形(例えば、液体またはゲル充填カプセル剤または錠剤のような錠剤、硬質および軟質カプセル剤);および、限定するものではないが、水中油および油中水エマルジョン、液体懸濁液、溶液、シロップ等のような水性および非水性液体剤形があり、当該技術において既知である。
【0023】
経口投与剤形の特定の製剤としては、限定するものではないが、1) 薬物を、適合性のある賦形剤、例えば、限定するものではないが、水素化ヒマシ油、他の植物油等のような油類、およびそれら油類の混合物;アルキルセルロース、ヒドロキシルアルキルセルロース、澱粉カルボン酸アルカリ金属塩、例えば、澱粉グリコール酸ナトリウム等およびこれらの混合物のような、セルロース誘導体類および澱粉誘導体類;糖類および糖誘導体等、およびこれらの混合物のような通常の賦形剤と接触させて、薬物を上部または下部胃腸管、例えば、食道、胃、十二指腸および結腸中に放出させるようにした製剤;2) プロドラッグを適合性のある賦形剤、例えば、上記1)において特記した通常の賦形剤と接触させ、プロドラッグを、薬物が上部胃腸管および/または下部胃腸管中に所望通りに放出されるように選定した製剤;3) 薬物および/またはプロドラッグを、上部および/または下部胃腸管に伝達させるように設計したアルキルセルロースまたはその誘導体および/またはゼラチンのようなポリマーでコーティングするか、或いは薬物および/またはプロドラッグをそのようなポリマー中に封入または含浸させた製剤;4) 薬物および/またはプロドラッグの持続放出伝達のための製剤;5) 経皮パッチ等のような生体接着系の使用がある。
【0024】
必要に応じて、現在有用な組成物または投与剤形は、等張化成分、緩衝剤成分、電解質成分、増粘剤、充填剤、希釈剤、香味剤、着色剤、酸化防止剤、防腐剤(抗菌剤または抗真菌剤のような)、pHを調節するための酸および/または塩基類等、およびこれらの混合物のような他の製薬上許容し得る賦形剤もさらに含み得る。そのような添加剤の各々は、存在する場合、典型的には、上記組成物の質量の約0.0001%以下または約0.01%以下乃至約10%以上を構成し得る。そのような添加剤としては、同様な製薬組成物において使用するのが通常であるかおよび/または周知である添加剤があり得る。例えば、適切な増粘剤としては、例えば、製薬上許容し得るポリマーおよび/または無機増粘剤として当該技術において知られている任意の増粘剤があり得る。そのような薬剤としては、限定するものではないが、ポリアクリレートホモポリマーおよびコポリマー;セルロースおよびセルロース誘導体;ポリビニルピロリドン;ポリビニル樹脂;ケイ酸塩等;およびこれらの混合物がある。
【0025】
1つの実施態様においては、アゾ系プロドラッグを使用して、薬物を下部胃腸管中に投与し得る。下部腸管微生物叢は、アゾ結合を還元的に開裂して、2個の窒素原子をアミン官能基として残存させることができるものと信じている。また、下部胃腸管の細菌は、グリコシド、グルクロニド、シクロデキストリン、デキストランおよび他の炭水化物を消化し得る酵素を有し、これらの炭水化物から調製したエステルプロドラッグは、親の活性薬物を下部胃腸管に選択的に伝達することが証明されている。
【0026】
限定するものではないが、アミラーゼ、アラビノガラクタン、キトサン、コンドロイチン硫酸、デキストラン、グアーゴム、ペクチン、キシリン等、およびこれらの混合物のような炭水化物ポリマーを使用して、薬物および/またはプロドラッグをコーティングすることができ;或いは、薬物および/またはプロドラッグを、上記ポリマー中に含浸または封入させることもできる。経口投与した後、上記ポリマーは、上部胃腸管内では安定なままであるが、下部胃腸管の微生物叢によって消化され、そのようにして薬物を治療作用のために放出する。
【0027】
また、pHに対して感受性であるポリマーも、下部胃腸管が上部胃腸管よりも高いpHを有するので使用し得る。そのようなポリマーは、商業的に入手可能である。例えば、Rohm Pharmaceuticals社(ドイツ国ダルムシュタット)は、商品名EudragitRとして販売しているpH依存性メタクリレート系ポリマーおよびコポリマーを上市しており、このポリマーは、ポリマー中の遊離カルボン酸基の数に基づき種々のpH範囲に亘って変動する溶解性を有する。また、持続放出系、生体接着系および他の伝達系も使用することができる。
【0028】
また、プロスタグランジンEP4アゴニストとEP4アゴニスト以外の薬物のような1種以上の他の薬物との、単一組成物または別個の投与剤形いずれかでの同時投与も意図する。また、本発明の範囲を如何なる形でも限定するつもりはないが、胃腸障害をプロスタグランジンEP4アゴニストおよびそのプロドラッグで治療することを目的とする併用療法において含ませ得る他の薬物としては、限定するものではないが、下記のものがある:
抗炎症薬:例えば、限定するものではないが、アスピリンおよびアスピリン誘導体、アセトメニフェン(acetomenifen)、イブプロフェン、ケトロラック、ナポキセン(napoxen)、ピロキシカム、ナブメトン、ジクロフェナク、ジフルニサル、エトドラク、フェノプロフェン、ケトプロフェン、メフェナム酸、メロキシカム、ナブメトン、オキサプロジン、スリンダクおよびトルメチン等、およびこれらの混合物のような、非選択性COXインヒビターおよび選択性COX‐2インヒビター;インドメタシン等のようなインドール類;セレコキシブ等のようなジアリールピラゾール類;ピロロピロール類;プロスタグランジン合成を抑制する他の薬剤;アミノサリチル酸塩類;他の非ステロイド系抗炎症薬等;並びに、これらのプロドラッグおよび混合物;
ステロイド類:例えば、ヒドロコルチゾン、コルチゾン、プレドニゾロン、プレドニゾン、トライアムシノロン、デキサメタゾン、メドリゾン、フルオロメトロン、エストロゲン類、プロゲステロン類等、およびこれらの混合物;
免疫調節剤:例えば、アザチオプリン、6‐メルカプトプリン、シクロスポリン(例えば、シクロスポリンA)等、およびこれらの混合物;および、
炎症誘発性サイトカインに対するヒト化および非ヒト化モノクロナール抗体類(そのフラグメント、誘導体および変異タンパク質を含む):例えば、インフリキシマブ、エタネルセプト、オネルセプト、アダリムマブ、CDP571、CDP870、ナタリズマブ、MLN‐02、ISIS 2302、cM‐T412、BF‐5、バシリズマブ、ダクリズマブ、ラニビズマブ、ベバシズマブ、バシリキシマブ、抗‐CD40L等、およびこれらの混合物。
そのような他の単数または複数の薬物を、有効量で投与して所望の治療効果(1以上)を得る。
【0029】
プロスタグランジンEP4アゴニスト活性および選択性をスクリーニングし測定するためのアッセイ法を以下で説明するが、そのようなアッセイ法は、本目的においては、当業者にとって既知の多くのアッセイ法の1つにすぎない。
【0030】
ヒト組換えEP1、EP2、EP3、EP4、FP、TP、IPおよびDPレセプター:安定な形質転換体
ヒトEP1、EP2、EP3、EP4、FP、TP、IPおよびDPレセプターをコード化する各プラスミドを、それぞれのコード配列を真核細胞発現ベクターpCEP4(Invitrogen社)中にクローニングすることによって調製する。pCEP4ベクターは、エプスタイン・バールウイルス(EBV)複製起源を含有し、EBV核抗原(EBNA‐1)を発現する霊長類細胞系中でのエピソーム複製を可能にする。また、pCEP4ベクターは、真核細胞選択のために使用するハイグロマイシン耐性遺伝子も含有する。安定なトランスフェクションにおいて使用する細胞は、EBNA‐1タンパク質で形質転換させ且つ該タンパク質を発現するヒト胚腎細胞(HEK‐293)である。これらのHEK-293‐EBNA細胞(Invitrogen社)を、ジェネティシン(Geneticin) (G418)を含有する培地中で増殖させて、EBNA‐1タンパク質の発現を維持する。HEK‐293細胞は、10%ウシ胎仔血清(FBS)、250μg ml-1のG418(Life Technologies社)および200μg ml-1のゲンタマイシンまたはペニシリン/ストレプトマイシンを含むDMEM中で増殖させる。安定な形質転換体の選択は200μg ml-1のハイグロマイシンによって達成するが、最適濃度は、前以ってのハイグロマイシン殺生曲線試験によって決定する。
【0031】
トランスフェクションに当っては、上記細胞を、10cmプレート上で、50〜60%の密集度まで培養する。それぞれのヒトプロスタノイドレセプターに対するcDNA挿入物を組込んでいるプラスミドpCEP4 (20μg)を、500μlの250mM CaCl2に添加する。その後、HEPES緩衝生理食塩水×2 (2×HBS、280mM NaCl、20mM HEPES酸、1.5mM Na2HPO4、pH7.05〜7.12)を、室温で連続渦流処理しながら、500μlの総量まで滴下により添加する。30分後、9mlのDMEMを混合物に添加する。その後、DNA/DMEM/リン酸カルシウム混合物を、10mlのPBSで前以って洗浄した細胞に添加する。その後、細胞を、加湿した95%空気/5%CO2中で、37℃で5時間インキュベートする。その後、リン酸カルシウム溶液を除去し、細胞を、DMEM中の10%グリセリンで2分間処理する。次いで、グリセリン溶液を、10%FBSを有するDMEMによって置き換える。細胞を1夜インキュベートし、培地を、250μg ml-1のG418およびペニシリン/ストレプトマイシンを含有するDMEM/10%FBSで交換する。翌日、ハイグロマイシンBを、200μg ml-1の最終濃度まで添加する。
【0032】
トランスフェクションの10日後、ハイグロマイシンB耐性クローンを個々に選択し、24ウェルプレートの別個のウェルに移す。密集状態で、各クローンを6ウェルプレートの1つのウェルに移し、その後、10cmの皿中で増殖させる。細胞を、使用するまで、連続ハイグロマイシン選択下に維持する。
【0033】
放射性リガンド結合性
放射性リガンド結合性試験は、プロスタグランジンEPレセプターの見込みのあるモジュレーターについてのスクリーニングにおける有用な初期工程である;しかしながら、結合性試験のみでは、結合性リガンドが上記レセプターのアゴニスト、逆アゴニストまたは拮抗薬のいずれであれ、関連する情報を得ることはできない。細胞から調製した原形質膜画分についての放射性リガンド結合性試験は、以下のようにして実施する。TME緩衝液で洗浄した細胞を、フラスコ底部からすくい取り、ブリンクマン(Brinkman) PT 10/35ポリトロンを使用して30秒間均質化する。TME緩衝液を、遠心分離チューブ内で40ml容量を得るのに必要であるように添加する。TMEは、50mM TRIS塩基、10mM MgCl2、1mM EDTAからなる;pH 7.4を、1N HClを添加することによって得る。細胞ホモジネートを、Beckman Ti‐60またはTi‐70ローターを使用し、4℃で20〜25分間、19,000rpmにて遠心分離する。その後、ペレットを、TME緩衝液中に、Bio‐radアッセイにより測定したときに1mg/mlの最終タンパク質濃度を得るように再懸濁させる。放射性リガンド結合性アッセイは、100μlまたは200μlの容量で実施する。
【0034】
[3H]PGE2の結合性(特異性活性165Ci/ミリモル)を、正副二通りで且つ少なくとも3回の別々の試験で実施する。インキュベーションは、25℃で60分間であり、4mlの氷冷50mM TRIS‐HClを添加することによって終了させ、次いで、WhatmanGF/Bフィルターによる急速濾過および細胞ハーベスター(Brandel)内での3回のさらなる4ml洗浄を行う。競合試験を2.5または5nM [3H] PGE2の最終濃度を使用して実施し、非特異結合性を10-5Mのラベル化していないPGE2によって測定する。
全ての放射性リガンド結合性試験において、算入基準は、>50%の特異結合性および500〜1000の置換可能計数またはそれより良好である。
【0035】
FLIPRR(蛍光イメージングプレートリーダー)試験方法
(a) 細胞培養
組換えヒトプロスタグランジンレセプターの1つのタイプまたはサブタイプ(発現させるプロスタグランジンレセプター:hDP/Gqs5;hEP1;hEP2/Gqs5;hEP3A/Gqi5;hEP4/Gqs5;hFP;hIP;hTP)を安定的に発現するHEK‐293 (EBNA)細胞を、100mmの培養皿内で、10%ウシ胎仔血清、2mMのl‐グルタミン、選択マーカーとして250μg/mlのジェネティシン(G418)および200μg/mlのハイグロマイシンB、並びに100単位/mlのペニシリンG、100μg/mlのストレプトマイシンおよび0.25μg/mlのアンフォテリシンBを含有する高グルコースDMEM培地中で培養する。
【0036】
(b)FLIPRRにおいてのカルシウムシグナル試験
形質転換体細胞を、ウェル当り5×104個の細胞密度でBiocoatR Poly‐D‐リシンコーティング黒壁透明底96‐ウェルプレート(Becton‐Dickinson社)中に接種し、37℃のインキュベーター内で1夜結合させる。その後、細胞を、Denley Cellwashプレート洗浄器(Labsystems社)を使用して、HBSS-HEPES緩衝液(重炭酸塩とフェノールレッドを含まないハンクス平衡塩溶液、20mM HEPES、pH7.4)で2回洗浄する。カルシウム感受性染料Fluo‐4 AMを2μMの最終濃度で使用して暗中で45分間染料を負荷させた後、プレートを、HBSS‐HEPES緩衝液によって4回洗浄して過剰の染料を除去し、各ウェル中に100μlを残存させる。その後、プレートを数分間37℃に再平衡化させる。
【0037】
細胞をアルゴンレーザーにより488nmで励起し、発光を、510〜570nm帯域幅発光フィルター(FLIPRTM;Molecular Devices社、カリフォルニア州サニーベール)により測定する。薬物溶液を50μlの容量で各ウェルに添加して、所望の最終濃度を得る。蛍光強度のピーク上昇を各ウェルにおいて記録する。各プレートにおいて、4個のウェルが、各々、陰性対照(HBSS‐HEPES緩衝液)および陽性対照(標準アゴニスト:レセプターに応じてのBW245C(hDP);PGE2(hEP1;hEP2/Gqs5;hEP3A/Gqi5;hEP4/Gqs5);PGF(hFP);カルバサイクリン(hIP);U‐46619(hTP))として機能する。その後、各薬物含有ウェルにおけるピーク蛍光変化を、対照と対比して表す。
【0038】
各化合物を、ハイスループット(ETS)または濃度応答(CoRe)方式で試験する。HTS方式においては、プレート当り44種の化合物を、10-5Mの濃度にて正副二通りで試験する。濃度応答曲線を描くためには、プレート当り4種の化合物を、10-5〜10-11M範囲の濃度にて正副二通りで試験する。正副値を平均する。HTSまたはCoRe方式のいずれにおいても、各化合物を、種々の継代に由来する細胞を使用して少なくとも3つの別々のプレートにおいて試験して、3のn値を得る。
【0039】
細胞内環状AMPの変化の測定
cタンパク質共役レセプターアゴニスト活性の他のアッセイ法は、環状AMP(cAMP)のようなCa++以外の細胞内第2メッセンジャーの濃度変化の検出を使用し得る。cAMPアッセイ法は、極めて周知である。そのような方法は、例えば、上記のレセプター、例えば、プロスタグランジンEP4レセプターアドレナリンレセプターをコード化する核酸をcAMP依存性クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)レポータープラスミドと一緒にヒトJEG‐3絨毛腫細胞中に共トランスフェクションし、上記細胞を上記レセプターのモジュレーターで刺激(challenging)することを含み得る。例えば、ヒトJEG‐3細胞(American Type Culture Collection;メリーランド州ロックビル)を、10%ウシ胎仔血清(FCS)、100単位/mlのペニシリンおよび100マイクログラム/mlのストレプトマイシンを含有するダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)中で培養する。細胞を、トランスフェクションの1〜2日前に10cm皿に塗抹する。その後、細胞を、10マイクログラムのCATレポーター、例えば、CATに結合させた単純ヘルペスウィルスチミジンキナーゼプロモーターに結合させたヒト糖タンパク質ホルモンに対するα‐サブユニット遺伝子のプロモーターに由来する18塩基対の環状AMP応答性要素(Delegeane et al., (1987) Mol. Cell. Biol., 7: 3994‐4002)を含有するプラスミドTESBglIICRE(+)ΔNHSE (カリフォルニア州ラホーヤのP. Mellon, Salk Institudeからの提供)および10マイクログラムの関連レセプタープラスミドにより、リン酸カルシウム沈降法(Graham and van der Eb, (1973) Virology, 52: 456‐467)を使用して形質転換する。形質転換後、細胞を、DMEM/5%FCS中に36〜40時間維持し、その後、DMEMで2回洗浄する。次に、ホルスコリン(1μM)、即ち、アデニル酸シクラーゼ活性を刺激することが知られる薬物を、陽性対照として5mlのDMEM中に試験化合物と一緒に添加し得る。その後、細胞を37℃で4時間インキュベートし、採集する。
【0040】
CATアッセイにおいては、薬物のインキュベーション後、細胞を低温PBSで洗浄し、すくい取り、1mlの40mM Tris‐HCl、pH7.5、150mM NaCl、1mM EDTA中に入れる。細胞を遠心分離し、200μlの250mM Tris‐HCl、pH7.5中での3回の凍結‐解凍サイクルによって溶解させる。[3H]‐CATアッセイを、50μlのサイトゾル、200nCiの[3H]‐クロラムフェニコールおよび300μMのブチリル‐CoAを使用して実施する(Seed and Sheen, (1988) Gene, 67: 271‐277)。サンプルを37℃で1時間インキュベートし、反応を200μlの混合キシレンを添加することによって停止させる。ブチリル化クロラムフェニコールを混合キシレン中に抽出し、その後、200μlの10mM Tris‐HCl、pH8.0、1mM EDTAによって2回逆抽出する。放射性標識生成物を、液体シンチレーション計数法により、Packard Tri-Carb 460Cを50〜52%の効率で使用して測定する。CAT活性の上昇は、ブチリルCoAからのブチリル基の[3H]‐クロラムフェニコールへの移行によって示され、cAMP増大の尺度である。
【0041】
本発明に従って使用するプロスタグランジンEP4アゴニスト成分の投与量は、比較的広範囲に亘って変動し、限定するものではないが、下記のような医薬技術において周知の要因に依存する:上記アゴニスト成分を投与する個々人の体重、そのような個々人の一般的な健康状態/症状、そのような投与によって治療/予防すべきとみなした疾患/症状、そのような個々人のそのような疾患/症状の重篤度、投与する特定のEP4レセプターアゴニスト成分の有効性、投与する特定のアゴニスト成分に対するそのような個々人の感受性、投与方式、そのような個々人の年齢、そのような個々人の性別、そのような個々人の妊娠の有無、そのような個々人に投与されている他の継続中の薬物療法および同様な要因。化合物(Z)‐7‐{(1R,4S,5R)‐5‐[(E)‐5‐(3‐クロロ‐ベンゾ[b]チオフェン‐2‐イル)‐3‐ヒドロキシ‐ペンテ‐1‐エニル]‐4‐ヒドロキシ‐3,3‐ジメチル‐2‐オキソ−シクロペンチル}‐ヘプテ‐5‐エン酸は、ヒトEP4プロスタグランジンレセプターを発現するHEK‐EBNA細胞中のcAMPの細胞内濃度の変化を測定するFLIPRRCa++流量試験および別の活性試験の双方において、0.03〜0.1nMの試験管内EC50値(50%最大有効濃度)を有する。
【0042】
ヒトまたは動物の各々において日量基準で使用するプロスタグランジンEP4アゴニスト成分の量は、約0.1mgから約30mgまたは約50mgまたは約100mgまたは約150mgまたは約200mgまたはそれ以上までの範囲であり得る。1つの実施態様においては、そのような日量は、約5mgから約150mgまたは約200mgまたはそれ以上までの範囲であり得る。上記プロスタグランジンEP4アゴニスト成分は、1日に1回以上の投与、例えば、1日1回、1日2回、1日3回またはそれ以上の頻度で投与し得る。1つの実施態様においては、1日1回の投与が有用である。
一般に、プロスタグランジンEP4アゴニスト成分は、所望する治療効果(1以上の)、即ち、上記薬物を投与する胃腸疾患の症状の緩和を得るのに十分な期間投与する。治療期間は、例えば、約1日間または約3日間または約1週間または約2週間〜約4週間または約8週間または約12週間または約20週間またはそれ以上の範囲内であり得る。1つの有用な実施態様においては、治療期間は、約2週間〜約12週間の範囲内である。
【0043】
以下、非限定的な実施例により、本発明のある種の局面を具体的に説明する。
【0044】
(実施例1〜4)
4種類の錠剤組成物を、1種のプロスタグランジンEP4アゴニストおよび3種のプロスタグランジンEP4アゴニストプロドラッグを使用して製造する。錠剤組成物は、各々、下記のようにして調製する。
粉塵封じ込め領域内で、成分混合物を調製し、混合物が均一になるまでブレンドする。その後、下記の表に示すような組成を有する均一な混合物を、通常の錠剤化装置内で使用して、そのような組成物を有する100mgの錠剤を製造する。錠剤は、例えば、高密度ポリエチレンボトル内に適切なシリカゲルパックと一緒に包装し、栓をして、ラベル付けし得る。
【0045】
上記混合物および錠剤は、下記の組成を有する:

【0046】
(1)
【化4】

【0047】
(2) 上記(1)のイソプロピルエステル。
(3) 上記(1)のメチルエステル。
(4) 上記(1)の2‐アミノエタノールによるアミド誘導体。
(5) 例えば、充填剤、錠剤化助剤、増量剤、防腐剤、緩衝液等として有用な通常の製薬用賦形剤の混合物。例えば、限定するものではないが、水素化ヒマシ油、ヒドロキシルエチルセルロース、澱粉グリコール酸ナトリウム、ソルビトール等の混合物がある。
【0048】
実施例1〜4において製造する錠剤は、各々、必要に応じて、約10mgの上記アゴニスト調製物またはプロドラッグ調製物を含み、各錠剤の総質量は約100mgである。
【0049】
(実施例5および6)
2種類の硬質シェルゼラチンカプセル組成物を、1種のプロスタグランジンEP4アゴニストおよび1種のプロスタグランジンEP4アゴニストプロドラッグを使用して製造する。これらのカプセル剤組成物は、各々、下記のようにして調製する。
粉塵封じ込め領域内で、小砂糖球体を調製する。OpadryRクリアのようなバインダー/シール剤を含む上記アゴニストまたはプロドラッグの水性混合物を調製し、上記砂糖球体上に、通常の流動床スプレー装置を使用してスプレーする。バインダー/シール剤、例えば、OpadryRクリアを液状担体中に含む第2混合物を、初めにスプレーした球体上に、通常の流動床スプレー装置を使用してスプレーする。この工程により、密封コーティングを有するアゴニストまたはプロドラッグ取込みペレットが得られる。
【0050】
これらのペレットを、通常の流動床スプレー装置を使用して、クエン酸トリエチル、タルクおよびメタクリル酸コポリマーの水性混合物でコーティングする。この工程により、密封コーティングと外側の腸溶性コーティングを有するアゴニストまたはプロドラッグ取込みペレットが得られる。これらのペレットを、天然透明硬質シェルゼラチンカプセル中に封入する。充填カプセルは、例えば、高密度ポリエチレンボトル内に適切なシリカゲルパックと一緒に包装し、栓をして、ラベル付けし得る。
【0051】
上記腸溶性コーティングを有するペレットは、下記の組成を有する。

【0052】
(1)
【化5】

【0053】
(2) 上記(1)のデキストランエステル。
(3) Rohm Pharmaceuticals社から販売されているEudragitR L30‐D55と標示されている腸溶性コーティング組成物。
(4) 流動促進剤として有用。
(5) 可塑剤として有用。
実施例5〜6において製造したカプセル剤は、各々、約35.5mgの上記アゴニストまたはプロドラッグを含む。
【0054】
(実施例7〜10)
4種類の軟質シェルゼラチンカプセル組成物を、1種のプロスタグランジンEP4アゴニストおよび3種のプロスタグランジンEP4アゴニストプロドラッグを使用して製造する。上記カプセル組成物は、各々、下記のようにして調製する。
粉塵封じ込め領域内で、約20〜45%のゼラチン、約15〜30%の水、約17.5〜35%の可塑剤(これは、グリセリンもしくはソルビトールまたはこれらの混合物からなる)および約5〜25%の水素化澱粉加水分解物を含む均一な軟質シェルゼラチン混合物を調製する。軟質シェルゼラチン混合物を、加熱しながら、均一な溶融物が生じるまで撹拌する。上記アゴニストまたはアゴニストプロドラッグの均一な懸濁液または溶液である第2混合物を、軟質ゼラチンカプセル装填物質として調製する。この充填物質は、実質的に無水(約5〜7%以下の水分)であるようにし、上記アゴニストまたはアゴニストプロドラッグおよび任意量の共溶媒、緩衝液、界面活性剤、増粘剤等を含む。上記充填物質は、均一であり且つ軟質ゼラチン封入剤と適合性がある、即ち、軟質ゼラチンシェルを実質的に劣化させない限りにおいて、固体、半固体、ゲルまたは液体形であり得る。上記充填物質は、下記の表に示す組成を有し、好ましくは、次の工程で使用する前に脱ガスする。上記軟質シェルゼラチン調製物を使用し、標準のカプセル化技術を使用して100mg部の充填物質を封入し、ワンピースの密封軟質ゼラチンカプセル剤を製造する。軟質シェルゼラチンカプセル剤は、例えば、高密度ポリエチレンボトル内に適切なシリカゲルパックと一緒に包装し、栓をして、ラベル付けし得る。
【0055】
上記カプセル剤の充填物質は、下記の構成を有する:

【0056】
(1)
【化6】

【0057】
(2) 上記(1)のイソプロピルエステル。
(3) 上記(1)のメチルエステル。
(4) 上記(1)の2‐アミノエタノールによるアミド誘導体。
(5) 例えば、共溶媒、緩衝剤、防腐剤、界面活性剤、増粘剤等として有用な任意量の通常の製薬用賦形剤の混合物;但し、これらの賦形剤は、実質的に無水(約5〜7%以下の水分)であり、且つ軟質ゼラチン封入剤と適合性があること、即ち、軟質ゼラチンシェルを実質的に劣化させないことを条件とする。例えば、植物油混合物、液状ポリアルキレングリコール等がある。
【0058】
実施例7〜10において製造したカプセル剤は、各々、必要に応じて、約10mgの上記アゴニストまたはプロドラッグを含み、各々のカプセル剤の総質量は、上記軟質ゼラチンシェルの質量に依存する。
【0059】
(実施例11〜20)
10名の成人が、胃食道逆流性疾患と診断された。これら人々の各々は、組成物1〜10のうちの異なる1種を含む錠剤またはカプセル剤(実施例1〜10に記載したようにして製造した)を、12週間、1日に1回経口服用した。この期間の終了時に、各人は、胃食道逆流性疾患からの実質的な緩和を報告した。疼痛および/または疾患の他の症状は、軽減されていた。
【0060】
(実施例21〜30)
10名の成人が、胃炎と診断された。胃炎は、急性または慢性のいずれかであり、ヘリコバクター・ピロリ誘発性胃炎、萎縮性胃炎、悪性貧血誘発性胃炎、ストレス性粘膜障害誘発性胃炎、アルコール性胃疾患誘発性胃炎、術後アルカリ性胃炎および好酸球性胃腸炎のようなタイプを含んでいた。上記10名の各人は、組成物1〜10のうちの異なる1種を含む錠剤またはカプセル剤(実施例1〜10に記載したようにして製造した)を、12週間、1日に1回経口服用した。この期間の終了時に、各人は、胃炎からの実質的な緩和を報告した。疼痛および/または疾患の他の症状は、軽減されていた。
【0061】
(実施例31〜40)
10名の成人が、十二指腸炎と診断された。これら人々の各々は、組成物1〜10のうちの異なる1種を含む錠剤またはカプセル剤(実施例1〜10に記載したようにして製造した)を、12週間、1日に1回経口服用した。この期間の終了時に、各人は、十二指腸炎からの実質的な緩和を報告した。疼痛および/またはこの疾患の他の症状は、軽減されていた。
【0062】
(実施例41〜50)
10名の成人が、憩室炎と診断された。これら人々の各々は、組成物1〜10のうちの異なる1種を含む錠剤またはカプセル剤(実施例1〜10に記載したようにして製造した)を、12週間、1日に1回経口服用した。この期間の終了時に、各人は、憩室炎からの実質的な緩和を報告した。疼痛および/またはこの疾患の他の症状は、軽減されていた。
【0063】
(実施例51〜60)
10名の成人が、ゾリンジャー・エリソン症候群と診断された。これら人々の各々は、組成物1〜10のうちの異なる1種を含む錠剤またはカプセル剤(実施例1〜10に記載したようにして製造した)を、12週間、1日に1回経口服用した。この期間の終了時に、各人は、上記疾患からの実質的な緩和を報告した。疼痛および/またはこの疾患の他の症状は、軽減されていた。さらに、上記疾患に由来する胃および/または十二指腸の潰瘍も、大きさが縮小するか、或いは実質的に完全に治癒していた。
【0064】
(実施例61〜70)
10名の成人が、化学療法誘発性胃腸毒性と診断された。これら人々の各々は、組成物1〜10のうちの異なる1種を含む錠剤またはカプセル剤(実施例1〜10に記載したようにして製造した)を、12週間、1日に1回経口服用した。この期間の終了時に、各人は、化学療法誘発性胃腸毒性からの実質的な緩和を報告した。上記毒性に起因する疼痛および/または他の症状は、軽減されていた。
【0065】
(実施例71〜80)
10名の成人が、放射線療法誘発性胃腸毒性と診断された。これら人々の各々は、組成物1〜10のうちの異なる1種を含む錠剤またはカプセル剤(実施例1〜10に記載したようにして製造した)を、12週間、1日に1回経口服用した。この期間の終了時に、各人は、化学療法誘発性胃腸毒性からの実質的な緩和を報告した。上記毒性に起因する疼痛および/または他の症状は、軽減されていた。
【0066】
(実施例81〜90)
10名の成人が、胃腸管に対する損傷および/または腸管の手術のいずれかに由来する創傷を有していた。これら人々の各々は、組成物1〜10のうちの異なる1種を含む錠剤またはカプセル剤(実施例1〜10に記載したようにして製造した)を、12週間、1日に1回経口服用した。この期間の終了時に、各人は、疼痛および/または上記損傷および/または手術の他の症状からの実質的な緩和を報告した。さらに、上記損傷/手術に由来する創傷も、実質的に完全に治癒していた。
【0067】
(実施例91〜100)
10名の成人が、腸潰瘍を患っていた。これら人々の各々は、組成物1〜10のうちの異なる1種を含む錠剤またはカプセル剤(実施例1〜10に記載したようにして製造した)を、12週間、1日に1回経口服用した。この期間の終了時に、各人は、失血、ヘモグロビンおよびヘマトクリット量の低下のような胃潰瘍の症状からの実質的な緩和を報告した。さらに、胃の中の潰瘍も実質的に完全に治癒していた。
【0068】
(実施例101)
PI3k(ホスホイノシチド‐3‐キナーゼ)/Aktリン酸化経路は、細胞増殖、移動、分化およびアポトーシスの調節のための重要な細胞内シグナル変換経路である。とりわけ、PI3k/Akt経路は、生体外および生体内双方における腸上皮細胞の増殖において不可欠であることが証明されている。この経路は、腸上皮細胞内のレセプターと細胞周期機構間の増殖シグナルを変換する。Sheng H., et al., Gut 52:1472-1478 (2003)。
Akt(タンパク質キナーゼBまたはPKBとしても知られている)は、ホスファチジルイノシトール(3,4,5)‐トリスホスフェート(PtdIns(3,4,5)P3、PIP3として知られている)に高親和性でもって結合するドメイン、即ち、PHドメインを有するセリン/スレオニンタンパク質キナーゼである。PIP3は、活性化されたホスホイノシチド‐3‐キナーゼ(PI3kとして知られている)によるジリン酸化ホスフィノシチド(phosphinositide)Ptdins(4,5)P2のリン酸化によって形成される。一旦形成されると、PIP3は、Aktに結合し得る。
【0069】
シクロオキシゲナーゼ(COX)は、プロスタグランジン合成に関与する酵素群(COX1、COX2)である。COX1調節のメカニズムは、完全に良好には理解されていない。しかしながら、注目すべき研究により、COX2合成は、PI3k(ホスホイノシチド‐3‐キナーゼ)/Aktリン酸化経路によって少なくとも部分的に調節されることが証明されている。要するに、PIP3に結合するとき、Aktは、部分的に活性化され、PDK1 (3‐ホスフィノシチド‐依存性キナーゼ‐1)によってリン酸化され得る。リン酸化時には、Aktは、完全に活性化され、引続いてIκBキナーゼをリン酸化し、このキナーゼは、転写因子p65およびp50が集まっているIκBをリン酸化する。その後、リン酸化されたIκB/p65/p50複合体は、細胞核に入り、 COX‐2の転写を刺激する。例えば、Little et al., J. Vet. Intern. Med. 21:367-377 (2007) を参照されたい。COX‐2インヒビターのセレコキシブは、PDK1の活性を抑制し、従って、Aktのリン酸化も阻害すると考えられている。
【0070】
ラット腸上皮細胞(IEC‐18細胞)は、American Type Culture Collection (ATCC)から購入した不死化正常上皮細胞である。本試験においては、IEC‐18細胞を、高グルコースダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)中で、5%CO2下に37℃で培養し、a) 5μMのCOX‐1インヒビターのSC-560 (ミズーリ州セントルイスのSigma-Aldrich社から購入)、10μMのCOX‐2インヒビターのセレコキシブまたは10μMのCOX‐1/2インヒビターのインドメタシンのいずれかと一緒に24時間インキュベートした。各薬物は、0.1%ジメチルスルホキシド(DMSO)ビヒクル中で使用した。
【0071】
PI3k/Akt経路を、下記の一般的アッセイ手順を使用してモニターする。インキュベーション後、細胞溶解物を、ホスファターゼインヒビターおよびプロテイナーゼインヒビターを含有する溶解緩衝液と一緒に収集する。上清を集め、タンパク質濃度を測定する。その後、SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)サンプル緩衝液を調製して、最終タンパク質濃度が各サンプルにおいて等しいことを確認し、100℃で10分間煮沸する。その後、各サンプルを4%〜12%の予め調製したSDS‐PAGE(ポリアクリルアミドゲル電気泳動)上に取込ませ、ゲルを電気泳動下に展開する。サンプルがゲルの底部に達したとき、ゲルを電気泳動装置から取出し、ニトロセルロース膜に移し、膜をミルクで遮断した。膜を、a) 完全Aktまたはb)リン酸化Aktのいずれかに対して選択性の一次抗体と一緒に4℃で1夜インキュベートする。接合西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)成分を有する二次抗体を使用し、一次抗体の定常領域に結合させる。膜を、選択的抗体結合に好都合な条件下で洗浄する。最後に、HRPを、Thermo Fisher Scientific社から入手し得るSuper SignalR ELISA Pico Substratesのような酵素開始性化学発光基質を使用して検出する。
【0072】
図1に示すように、これらの薬剤は、各々、Aktリン酸化を抑制していた。とりわけ、インドメタシンは、Aktのリン酸化を、SC‐560またはセレコキシブがこれらの条件下で抑制したよりも高い度合で抑制していた。しかしながら、10μMのインドメタシンおよび10nMの組成物7のプロスタグランジンEP4アゴニスト(以下“化合物7”)の双方と一緒の細胞の24時間の共インキュベーションは、添加EP4アゴニストの不存在下にインドメタシンを使用したサンプルと比較して、Aktリン酸化を高レベルで維持していた。従って、化合物7のようなプロスタグランジンEP4アゴニストは、単独でまたは非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)類のようなCOXインヒビターの存在下で使用したときに、Akt活性を回復または増強させ得る。
【0073】
(実施例102)
IEC‐18細胞を、10%ウシ胎仔血清(FBS)、1%ペニシリン、1%ストレプトマイシン、50単位のインスリンを含有する高グルコースDMEM中で、アポトーシスを誘発する0.05μg/mlの化学療法剤ドキソルビシンの存在下に、本質的に実施例101に示すようにして48時間培養した。10μMのセレコキシブ(内生プロスタグランジンPGE2発現を抑制する)の存在下においては、ドキソルビシン処理IEC‐18細胞のアポトーシスは、そのような極めて低濃度のドキソルビシンにおいて48時間以内で進行している。最後に、トリプシンによって収集した細胞を、細胞周期の種々の段階での細胞の割合を特定するためのフローサイトメトリー分析に供した。
【0074】
培養した細胞を、トリプシン処理および遠心分離により、フローサイトメトリー用に調製した。その後、細胞を、低温リン酸塩緩衝生理食塩溶液(PBS)で洗浄し、次いで、低温70%エタノールで1夜固定させた。その後、細胞をPBSで再度洗浄し、核酸挿入染料であるヨウ化プロピジウムにより、RNアーゼの存在下に室温で30分間染色した。その後、細胞を、フローサイトメトリー装置のメーカーであるBecton‐Dickenson社によって提供される緩衝液を使用して選別した。
図2Aは、ビヒクル単独中でのIEC‐18細胞の蛍光フローサイトメトリー分析を示し;図2Bは、同じ条件下(細胞を0.05μg/mlのドキソルビシン(D)と10μMのセレコキシブ(C)で前以って処理していることを除いて)でのフローサイトメトリーを示し;図2Cは、IEC‐18細胞を、0.05μg/mlのドキソルビシン(D)、10μMのセレコキシブ(C)および10nMの化合物7と一緒にインキュベートしたときの結果を示している。
【0075】
さらに、CellQuestRソフトウェア(Becton‐Dickenson社)を使用して、48時間のインキュベーション後のIEC‐18細胞において生じているアポトーシスの割合の定量化を実施した。図2Dは、0.1%のDMSOビヒクル単独中での細胞のアポトーシス割合がおよそ2%であることを示している。対照的に、アポトーシスを被っている細胞の割合は、ドキソルビシンと10μMのセレコキシブで処理したときには約13%に増大している。しかしながら、10nMの化合物7のインキュベーション混合物への添加は、上記ベースラインレベルに近いおよそ5%へのアポトーシスの低下をもたらしている。
従って、この試験は、化合物7、即ち、プロスタグランジンEP4アゴニストが、腸上皮細胞に対するNSAID類および化学療法剤の細胞毒性作用を低減させ、それによって、そのような薬剤によってもたらされる消化管への損傷に対する保護効果をもたらしていることを示している。
【0076】
(実施例103)
胃潰瘍を、下記のように40%酢酸を使用することによって、C57BL/6マウスに発症させた。動物を麻酔した。各動物の腹部を外科的に開腹し、胃を露出させた。3mmキュレットを、各々の胃の前部表面に配置した。40%酢酸溶液をキュレット内に入れた。キュレットは、周囲組織への損傷を阻止する。酢酸処理により、胃血管への損傷を生じさせ、粘膜層に化学死を起させる。
潰瘍誘発後の3日目に、各動物に、経口強制投与によって種々の処置を施した。先ず、ビヒクル(4%DMSO‐コーン油)または4%DMSO‐コーン油中の低投与量(3mg/kg/日)のインドメタシンを使用した。インドメタシンのこの投与量は、胃に肉眼的病変を誘発しないと報告されているが、内生プロスタグランジンPGE2の生産を抑制することはできる。
【0077】
7日目に、犠牲動物から血液分析用に採血し、標準の血液パラメーターについて自動化試験に供した。潰瘍領域(胃粘膜上皮細胞によって覆われていない胃の領域として定義)を、巨視的分析のための解剖顕微鏡検査によって測定した;さらに、各潰瘍サンプルの最大切片を、顕微鏡により、サイズ指数として測定し観察した。胃を、腫瘍の最大部分からの切開および区分化により、病理分析用に加工した。切片を、ヘマトキシリンとエオシンを使用して染色した。
【0078】
結果は、インドメタシンが、胃潰瘍の自然治癒を遅らせ(図3A;巨視および顕微鏡測定の双方を使用している)、炎症を悪化させている(図3B;血液中のリンパ球(LYM)の増大によって示される)ことを示している。図3Bは、“WBC”(白血球)、LYM (リンパ球;その増大は、慢性炎症の標準指標である)、NEU(好中球)およびMONO(単球)のx軸キャプションを示している。後者の2つの細胞タイプは、急性(例えば、細菌介在性)免疫応答に関連する。従って、WBCは、その場合、次の棒グラフに“現れている”特定の細胞タイプを含む全ての白血球(リンパ球、好中球および単球を含む)の測定値である。インドメタシンは、潰瘍部位において失血を悪化させることが判明した(図3C)。上記結果は、内生PGE2が、慢性胃潰瘍の自然治療を促進するのに重要な役割を果していること示唆している。血液プロフィールは、自動化ADVIA120 Hematology System (Bayer社、ニューヨーク州タリタウン)を使用して、処置に対して目隠した人によって分析した。
【0079】
その後、マウスを、10nMの化合物7またはビヒクルにより、他は同一の条件下で処置した。この試験においては、ビヒクルは、0.1ml容量のコーン油中の4%のDMSOであった。マウスを犠牲にして、胃を、潰瘍形成後の7日目または11日目のいずれかで検査した。結果は、10nMの化合物7で処置したマウスが、ビヒクルで処置したマウスよりも有意に小さい潰瘍サイズを生じていることを示している(図4A)。解剖顕微鏡検査においては、化合物7で処置したマウスにおける潰瘍領域は、7日目および11日目のそれぞれにおいて、対照の60%および32%であった。化合物7で処置したマウスからの潰瘍は、対照群からの潰瘍と比較して、肉芽組織内での有意に少ない炎症細胞湿潤および壊死組織を有し、再上皮形成のためのより健常な症状を示唆し得ている(図4B)。
【0080】
図4Cは、ビヒクルおよび化合物7を含有する同じビヒクルでそれぞれ処置したマウスを7日目に犠牲にした後に行ったこの試験における潰瘍組織の典型的な巨視的および顕微鏡的形態を示す。理解し得るように、写真の結果は、病理学結果と相関しており、プロスタグランジンEP4アゴニストの化合物7が潰瘍の治癒を賦活し且つ壊死組織の除去を容易にしていることを実証している。
【0081】
プロスタグランジンEP4アゴニストのNSAID誘発性胃腸管組織障害に対する効果のさらなる示唆としては、血液学が、0.1mg/kg/日の化合物7と3mg/kg/日のインドメタシンの双方で処置したマウスが、潰瘍を誘発させ引続きインドメタシン単独で処置したマウスよりも有意に少ない失血を有することを示していた。図5Aは、全血の×106/μlの赤血球(“RBC”)数が、化合物7を投与したマウス(“治療マウス”)においては、ビヒクル単独を投与したマウス(“対照マウス”)と比較したときに、有意に多いことを示している。この試験においては、20匹の治療マウスからのデータを平均し(n=20)、20匹の対照マウスからの平均データと比較した。同様に、治療および対照動物集団の双方において、10リットル当りのグラム数で表すヘモグロビン(HGB)量および%血液容量で表すヘマトクリット(HCT)量の双方も測定した。HGBとHCTは、双方とも、対照マウスよりも治療マウスにおいて有意に多い;これらのデータは、低RBC数と同様に、胃腸管における失血の典型的な兆候である。
【0082】
図5Bは、治療群が、対照マウス群よりも、有意に緩和された炎症応答を有することを示している。従って、WBCおよびリンパ球数は、治療群よりも対照群において有意に高く、一方、血液中の好中球レベルは、比較的一定のままである。
従って、上記データは、明らかに、化合物7のようなプロスタグランジンEP4アゴニストが、胃潰瘍の治癒の促進をもたらし得ることを示している。さらに、そのような薬剤は、胃腸管におけるNSAID類(例えば、インドメタシン)の細胞毒性作用を抑制または軽減し得、とりわけ、腸および胃の上皮細胞のアポトーシスの度合を抑制または軽減する。
【0083】
従って、本発明は、下記の構造を有するプロスタグランジンEP4アゴニスト成分を非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)と組合せて含む治療組成物も意図する:
【0084】
【化7】

【0085】
上記NSAIDは、任意のNSAIDであり得るが、とりわけ、アスピリン、アセトメニフェン(acetomenifen)、インドメタシン、イブプロフェン、ケトロラク、ナポキセン(napoxen)、ピロキシカム、ナブメトン、セレコキシブ、ジクロフェナク、ジフルニサル、エトドラク、フェノプロフェン、ケトプロフェン、メフェナム酸、メロキシカム、ナブメトン、オキサプロジン、スリンダクおよびトルメチンからなる群から選択し得る。
【0086】
さらに、本発明は、NSAIDによる治療に応答性の症状を有する患者の治療方法を含み得、上記の患者にNSAIDと下記の構造を含むプロスタグランジンEP4アゴニスト成分とを投与することを特徴とする:
【0087】
【化8】

【0088】
勿論、プロスタグランジンEP4アゴニスト成分は、上記構造に相応する化合物のプロドラッグを含み得る。
【0089】
上記で引用および/または説明した各々のまたは全ての文献、論文、特許、特許出願および特許公開は、その全体を参考として本明細書に合体させる。本発明を、種々の特定の実施例および実施態様に関連して説明してきたけれども、本発明はこれらの実施例および実施態様に限定されないこと、並びに、本発明は特許請求の範囲内において多様に実施し得ることを理解すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の構造を有する治療上有効量のプロスタグランジンEP4アゴニスト成分を、胃食道逆流性疾患、急性および慢性胃炎、十二指腸炎、憩室炎、ゾリンジャー・エリソン症候群、化学療法誘発性胃腸毒性、放射線誘発性胃腸毒性、NSAID‐誘発性胃腸毒性、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、腸潰瘍、および損傷または手術に起因する胃腸管の創傷または損傷からなる群から選ばれる疾患または症状に対する治療を必要とする哺乳類に投与し、それによって前記疾患または症状を治療または予防することを特徴とする方法:
【化1】

【請求項2】
前記疾患または症状が、ヘリコバクター・ピロリ(Heliobacter pylori)誘発性胃炎、萎縮性胃炎、悪性貧血、ストレス性粘膜障害、アルコール性胃疾患、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、腸潰瘍、術後アルカリ性胃炎および好酸球性胃腸炎からなる群から選ばれる胃炎である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記哺乳類が、前記症状または疾患に対して予防的治療を必要とする、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記プロスタグランジンEP4アゴニスト成分を、哺乳類の胃腸管に投与する、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記疾患または症状が、ヘリコバクター・ピロリ誘発性胃炎である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記疾患または症状が、萎縮性胃炎である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記疾患または症状が、胃食道逆流性疾患である、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記疾患または症状が、悪性貧血である、請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記疾患または症状が、ストレス性粘膜障害である、請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記疾患または症状が、アルコール性胃疾患である、請求項1記載の方法。
【請求項11】
前記疾患または症状が、術後アルカリ性胃炎である、請求項1記載の方法。
【請求項12】
前記疾患または症状が、好酸球性胃腸炎である、請求項1記載の方法。
【請求項13】
前記疾患または症状が、十二指腸炎である、請求項1記載の方法。
【請求項14】
前記疾患または症状が、憩室炎である、請求項1記載の方法。
【請求項15】
前記疾患または症状が、ゾリンジャー・エリソン症候群である、請求項1記載の方法。
【請求項16】
前記疾患または症状が、化学療法誘発性胃腸毒性である、請求項1記載の方法。
【請求項17】
前記疾患または症状が、放射線誘発性胃腸毒性である、請求項1記載の方法。
【請求項18】
前記疾患または症状が、NSAID‐誘発性胃腸毒性である、請求項1記載の方法。
【請求項19】
前記疾患または症状が、胃腸管に対する創傷である、請求項1記載の方法。
【請求項20】
前記疾患または症状が、胃潰瘍である、請求項1記載の方法。
【請求項21】
前記疾患または症状が、十二指腸潰瘍である、請求項1記載の方法。
【請求項22】
前記疾患または症状が、腸潰瘍である、請求項1記載の方法。
【請求項23】
前記プロスタグランジンEP4レセプターアゴニスト成分が、前記プロスタグランジンEP4アゴニスト、前記プロスタグランジンEP4アゴニストの製薬上許容し得る塩、前記プロスタグランジンEP4アゴニストのプロドラッグ、またはこれら薬剤の2種以上の混合物を含む、請求項1記載の方法。
【請求項24】
前記プロスタグランジンEP4アゴニスト成分が、プロスタグランジンEP4アゴニストのプロドラッグを含む、請求項1記載の方法。
【請求項25】
前記プロドラッグが、炭水化物のエステル、エーテルまたはアミドであるか;或いは、前記プロドラッグが、アミノ酸のエステル、エーテルまたはアミドである、請求項24記載の方法。
【請求項26】
前記プロドラッグが、アミノ酸のアミド、エステルまたはエーテルである、請求項24記載の方法。
【請求項27】
前記プロスタグランジンEP4アゴニスト成分が、グルコシドエステル、エーテルまたはアミド;グルクロニドエステル、エーテルまたはアミド;シクロデキストリンエステル、エーテルまたはアミド;或いは、デキストランエステル、エーテルまたはアミドを含む、請求項24記載の方法。
【請求項28】
NSAIDと、下記の構造を有するプロスタグランジンEP4アゴニスト成分と含むことを特徴とする治療用組成物:
【化2】

【請求項29】
前記プロスタグランジンEP4アゴニスト成分が、プロスタグランジンEP4アゴニストのプロドラッグを含む、請求項28記載の組成物。
【請求項30】
前記プロドラッグが、炭水化物のエステル、エーテルまたはアミドであるか;或いは、前記プロドラッグが、アミノ酸のエステル、エーテルまたはアミドである、請求項29記載の組成物。
【請求項31】
前記プロドラッグが、アミノ酸のアミド、エステルまたはエーテルである、請求項29記載の組成物。
【請求項32】
前記プロスタグランジンEP4アゴニスト成分が、グルコシドエステル、エーテルまたはアミド;グルクロニドエステル、エーテルまたはアミド;シクロデキストリンエステル、エーテルまたはアミド;或いは、デキストランエステル、エーテルまたはアミドを含む、請求項29記載の組成物。
【請求項33】
前記NSAIDを、アスピリン、アセトメニフェン(acetomenifen)、インドメタシン、イブプロフェン、ケトロラック、ナポキセン(napoxen)、ピロキシカム、ナブメトン、セレコキシブ、ジクロフェナク、ジフルニサル、エトドラク、フェノプロフェン、ケトプロフェン、メフェナム酸、メロキシカム、ナブメトン、オキサプロジン、スリンダクおよびトルメチンからなる群から選択する、請求項28記載の組成物。

【公表番号】特表2010−513551(P2010−513551A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−543060(P2009−543060)
【出願日】平成19年12月11日(2007.12.11)
【国際出願番号】PCT/US2007/087042
【国際公開番号】WO2008/076703
【国際公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願人】(390040637)アラーガン インコーポレイテッド (117)
【氏名又は名称原語表記】ALLERGAN,INCORPORATED
【Fターム(参考)】