説明

脂肪族ポリエステル系成形体

【課題】成形性、耐熱性、耐衝撃性、透明性に優れた脂肪族ポリエステル系成形体を提供する。
【解決手段】脂肪族ポリエステルからなるシートを成形して得られる成形体であって、結晶化度χAが3〜60%である脂肪族ポリエステルからなる層Aを少なくとも有し、かつ、成形体のヘーズが10%以下であることを特徴とする脂肪族ポリエステル系成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性、耐衝撃性、透明性を備えた脂肪族ポリエステル系成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境意識の高まりのもと、プラスチック製品の廃棄による土壌汚染問題、また、焼却による二酸化炭素増大に起因する地球温暖化問題が注目されている。前者への対策として、種々の生分解樹脂、後者への対策として、焼却しても大気中に新たな二酸化炭素の負荷を与えない植物由来原料からなる樹脂がさかんに研究、開発されている。各種商品の展示包装用などに用いられている保形具類や、食品トレー、飲料カップなどの容器類についても、種々の生分解樹脂、植物由来原料からなる樹脂を用いたものが開発されている。なかでも特に脂肪族ポリエステルであるポリ乳酸は、生分解、植物由来プラスチックとしてはガラス転移点が約60℃と高く、透明であることなどから、将来性のある素材として最も注目されている。
【0003】
しかしながら、ポリ乳酸は、従来の石油由来原料、例えば、ポリエチレンテレフタレートに比べるとガラス転移点が約20℃低く、現行の各用途に用いると、耐熱性が不足するという問題がある。
【0004】
この問題を解決するための手段として、ポリ乳酸を結晶化させ、耐熱性を改良する技術が提案されている(例えば、特許文献1〜5参照)。
【0005】
例えば、特許文献1では、透明核剤を含有したポリ乳酸組成物を成形時または成形後に熱処理し、結晶性を上げる技術が記載されている。本技術は成形時の成形金型熱処理、もしくは成形後の熱処理によって結晶化させ耐熱性を付与させているため、シート自体の耐熱性は不足していた。
【0006】
特許文献2には、成形前のシートを熱処理、または延伸配向させることにより、成形時の加熱金型離型性を付与させる技術が記載されている。しかしながら、本技術ではシートおよび成形品の透明性が大きく不足していた。
【0007】
また、特許文献3には、結晶性のポリ乳酸と非晶性のポリ乳酸を混合することで、延伸シートに熱成形性を付与させる技術が記載されている。しかしながら、本技術では非晶性のポリ乳酸が50%以上含有されているため、十分な耐熱性を付与させることができていない。
【0008】
特許文献4では、内層にポリ乳酸と乳酸系ポリエステル、外層に透明核剤を含有するポリ乳酸という2種3層のシート構成とし、耐折強度の大きいポリ乳酸系シートが提案されている。しかしながら、ここに開示されている技術では、成形時の熱処理により透明性が悪くなる問題点があった。
【0009】
特許文献5では、ポリ乳酸樹脂のD体含有量すなわち結晶性に差をもたせた2層からなる積層シートを熱結晶化させて、成形性と耐熱性を両立させる技術が提案されているが、本技術内容では透明性が大きく不足していた。
【特許文献1】特開平9−278991号公報
【特許文献2】特開2003−245971号公報
【特許文献3】特開2004−204128号公報
【特許文献4】特開2005−119062号公報
【特許文献5】特開2005−125765号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、かかる背景に鑑み、耐熱性、耐衝撃性、透明性に優れた脂肪族ポリエステル系成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、
(1)脂肪族ポリエステルからなるシートを成形して得られる成形体であって、結晶化度χAが3〜60%である脂肪族ポリエステルからなる層Aを少なくとも有し、かつ、成形体のヘーズが10%以下であることを特徴とする脂肪族ポリエステル系成形体。
(2)前記層Aが結晶核剤を含有することを特徴とすることを特徴とする前記(1)に記載の脂肪族ポリエステル系成形体。
(3)前記結晶核剤を含有する脂肪族ポリエステルからなる層Aが、前記結晶核剤と水素結合性を有する化合物を含有することを特徴とする前記(2)に記載の脂肪族ポリエステル系成形体。
(4)前記脂肪族ポリエステルからなる層Aが、結晶核剤として、脂肪族カルボン酸アミド、およびN−置換尿素からなる群より選ばれる少なくとも1種と、結晶核剤と水素結合性を有する化合物として、脂肪族アルコール類、ソルビトール系化合物、アミノ酸、およびポリペプチドからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする前記(3)に記載の脂肪族ポリエステル系成形体。
(5)結晶化度χBが下記の関係式を満たす脂肪族ポリエステルからなる層Bを少なくとも有することを特徴とする前記(1)から(4)のいずれかに記載の脂肪族ポリエステル系成形体。
【0012】
χA>χB
(6)前記層Aおよび/または層Bの脂肪族ポリエステルがポリ乳酸であることを特徴とする、前記(1)〜(5)のいずれかに記載の脂肪族ポリエステル系成形体。
(7)前記ポリ乳酸が、ポリL−乳酸と、ポリD−乳酸の混合物からなることを特徴とする前記(6)に記載の脂肪族ポリエステル系成形体。
(8)前記層Aを構成するポリL−乳酸中のD−乳酸ユニットの含有割合Da(mol%)と、前記層Bを構成するポリL−乳酸中のD−乳酸ユニットの含有割合Db(mol%)が下記の関係式を満たすことを特徴とする前記(6)または(7)に記載の脂肪族ポリエステル系成形体。
【0013】
Da<Db
(9)成形体中に含まれる乳酸オリゴマー成分量が0.3質量%以下であることを特徴とする前記(6)〜(8)のいずれかに記載の脂肪族ポリエステル系成形体。
【発明の効果】
【0014】
本発明の脂肪族ポリエステル系成形体は耐熱性、耐衝撃性、透明性が良好であり、各種ブリスターパックなどの保形具類や、耐熱性や透明性を必要とする食品トレー、飲料カップなどの容器類、耐熱性を必要とする飲料自動販売機のディスプレイ用ボトル、缶などの包装材料用途、表面材、ラミネート材などの工業材料用途、キャリアテープなどの電子部品搬送用途などに好ましく用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明者らは、前記課題、つまり、耐熱性、耐衝撃性、透明性に優れた脂肪族ポリエステル系成形体について鋭意検討した結果、結晶化度と成形体のヘーズを特定範囲にコントロールしたところ、かかる課題を一挙に解決することを究明したものである。
【0016】
本発明の脂肪族ポリエステル系成形体は、結晶化度χAが3〜60%である脂肪族ポリエステルからなる層Aを少なくとも有し、かつ、成形体のヘーズが10%以下であることが重要である。なお、本発明の脂肪族ポリエステル系成形体は、少なくとも上記層Aを有していれば、層Aのみからなる単層構造であっても、その他の層を有する2層や3層の積層構造であっても特に限定されない。層Aを構成する脂肪族ポリエステルの結晶化度χAの好ましい範囲は4〜50%、より好ましい範囲は5〜40%である。層Aを構成する脂肪族ポリエステルの結晶化度χAが3%未満である場合、耐熱性が不十分となることがある。また、結晶化度χAが60%を超える場合、成形性が悪化することがある。
【0017】
また、本発明の脂肪族ポリエステル系成形体は、成形体のヘーズが10%以下であることが重要であるが、成形体のヘーズが8%以下が好ましい。より好ましくは成形体のヘーズが5%以下であり、さらに好ましくは3%以下である。成形体のヘーズが10%を超えると、耐熱性、耐衝撃性、透明性が悪化することがある。また、成形体のヘーズの下限としては、特に制限されず小さい程好ましいが、現在の技術では0.1%未満にすることは現実的に困難であることから、0.1%程度が下限と考えられ、また0.5%以上10%以下であれば本発明の脂肪族ポリエステル系成形体として十分な特性を有する。
【0018】
なお、本発明でいうヘーズは、厚み0.4mmに換算した場合の換算ヘーズ値であり、H0.4(%)=H×0.4/d(H0.4:0.4mm厚み換算ヘーズ値(%)、H:成形体サンプルのヘーズの実測値(%)、d:ヘーズ測定部の成形体サンプル厚み(mm))で定義される式により得られる換算ヘーズ値とする。本発明では、この換算ヘーズ値が10%以下であることが重要である。
【0019】
成形体のヘーズを10%以下に抑えることは、本発明の課題であった耐熱性、耐衝撃性、透明性の全てを発現させるために、下記(1)〜(3)の点で非常に重要なポイントであった。
【0020】
(1)耐熱性:同一の結晶化度を有する成形体では、成形体のヘーズが低い方が、より微細な結晶が形成されており、この場合、樹脂を高密度かつ均一に結晶化させることができ、成形体の耐熱性を向上させるのに非常に有利である。
【0021】
(2)耐衝撃性:一般的にプラスチックに大きな力を加えると割れが起こり、力は割れ目(クラック)の先端に集中し、さらに力が加わると、クラックの先端が伸びて破壊が拡大していく。しかし、成形体のヘーズを10%以下に抑えている場合、成形体中には微細結晶が分散しており、割れが進行すると、プラスチック中の微細結晶にぶつかり、割れの進行を周囲に分散する。こうして1つの大きな割れが、何本かの小さな割れに変わるので、割れがいずれ止まり、結果として耐衝撃性には有利となる。
【0022】
(3)透明性:成形体のヘーズを10%以下と小さくすると、透明性も良好である。
【0023】
このように本発明の脂肪族ポリエステル系成形体は、層Aの脂肪族ポリエステルの結晶化度χAを3〜60%と最適範囲に制御することで、脂肪族ポリエステル系成形体の耐熱性を十分に高め、かつ、シート全体のヘーズを10%以下にすることで、脂肪族ポリエステル系成形体の耐熱性、耐衝撃性、透明性を全て両立させることができた。
【0024】
本発明の脂肪族ポリエステル系成形体は、シートから成形体を製造する際の成形性が良好であるという点で、前記層Aと、χA>χBを満たす結晶化度χBを有する脂肪族ポリエステルからなる層Bを少なくとも有することが好ましい。
【0025】
χAとχBの関係は、χA>2χBであることがより好ましい。さらに好ましくはχA>3χBであり、特に好ましくはχA>5χBである。χAとχBの関係が、χA>χBを満たす場合、成形性の改善効果が大きくなる点から好ましい。また、χAの最適範囲が60%以下であることから、χAとχBの関係は、χA<20χBであることが好ましい。
【0026】
本発明の脂肪族ポリエステル系成形体が層Bを有する場合、脂肪族ポリエステル系成形体全体厚みに対する上記層Aの合計厚みと、層Bの合計厚みの割合は、両層の効果を有効にするため、各々全体厚みに対して10〜90%であることが好ましい。層Aの合計厚みの割合が成形体全体厚みに対して10〜90%を満たし、層Bの合計厚みの割合が成形体全体厚みに対して10〜90%を満たす場合、耐熱性と成形性が両立しやすくなる点から好ましい。より好ましい層Aの合計厚みと、層Bの合計厚みの割合は、各々全体厚みに対して15〜85%、さらに好ましくは20〜80%である。
【0027】
本発明の脂肪族ポリエステル系成形体が層Bを有する場合、その積層構成は、層Aと層Bの2層構成であってもよいし、層A/層B/層A、もしくは層B/層A/層Bの3層構成であってもよいし、それ以上の多層構成であっても構わない。また、層Aおよび層B以外の第3の層(他層)を含んでいても構わない。層Aおよび層B以外の他層は、例えば、他層/層A/層B/層A、層A/他層/層B/他層/層A、など、本発明の脂肪族ポリエステル系成形体において、内層や表層などその配置される位置は特に限定されない。
【0028】
これらのうちで、本発明の脂肪族ポリエステル系成形体は、層Bの両側に層Aが配置された、層A/層B/層Aの少なくとも3層を含む積層構造を有することが、本発明の脂肪族ポリエステル系成形体においてもっとも好ましい。相対的に結晶性の高いA層が表層に配置されることにより、シートから成形体を製造する際、加熱された金型との滑り性が良くなるからである。
【0029】
層Aの両側に層Bが配置された、層B/層A/層Bの3層を含む積層構造を採用した場合は、相対的に結晶性の低い層Bが表層に配置されることにより、表面の光沢が良くなるという利点があるが、シートから成形体を製造する際、加熱された金型との滑り性、耐熱性の点では層A/層B/層Aの3層を含む積層構造に比べて不利となりやすい。
【0030】
本発明の脂肪族ポリエステル系成形体の厚みは、特に限定されないが、50〜2000μmであることが好ましい。より好ましくは100〜1500μmであり、さらに好ましくは200〜1000μmである。成形体の厚みが50μm以上である場合、成形時のシート破れを防ぎ、成形体の強度維持の点から好ましい。また、成形体厚みが2000μm以下である場合、成形時の長時間加熱による成形性、透明性の悪化を防ぐことができる点から好ましい。
【0031】
本発明に用いられる脂肪族ポリエステルとしては、脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールからの重縮合体、脂肪族ヒドロキシカルボン酸の重縮合体などであるが、単量体の構造や重合法などに特に制限は無い。
【0032】
具体的には、ポリブチレンセバケート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート/アジペート、ポリプロピレンセバケート、ポリプロピレンサクシネート、ポリプロピレンサクシネート/アジペート、ポリ乳酸、ポリグリコール酸などを使用することができる。これらのなかでも、植物由来原料であるといった環境面、透明性、耐熱性に優れるといった性能面から、脂肪族ポリエステルとしてポリ乳酸を含むことが好ましい。よって本発明の脂肪族ポリエステル系成形体は、層Aおよび/または層Bの脂肪族系ポリエステルがポリ乳酸であることが好ましい。
【0033】
本発明の層Aや層Bを構成する脂肪族系ポリエステルとして用いられるポリ乳酸としては、L−乳酸および/またはD−乳酸ユニットを主たる構成成分とするポリマーである。本発明でいうポリL−乳酸としては、ポリ乳酸重合体の全乳酸成分中のL−乳酸ユニットの含有割合が50mol%を超え100mol%以下のものが好ましく、結晶性の面から、ポリ乳酸重合体の全乳酸成分中のL−乳酸ユニットの含有割合が80mol%以上100mol%以下であることがさらに好ましく、95mol%以上100mol%以下であることがより好ましく、98mol%以上100mol%以下であることがさらにより好ましい。一方、本発明でいうポリD−乳酸としては、ポリ乳酸重合体の全乳酸成分中のD−乳酸ユニットの含有割合が50mol%を超え100mol%以下のものが好ましく、結晶性の面から、ポリ乳酸重合体の全乳酸成分中のD−乳酸ユニットの含有割合が80mol%以上100mol%以下であることがさらに好ましく、95mol%以上100mol%以下であることがより好ましく、98mol%以上100mol%以下であることがさらにより好ましい。ポリL−乳酸は、D−乳酸ユニットの含有割合によって、樹脂自体の結晶性が変化する。つまり、ポリL−乳酸中のD−乳酸ユニットの含有割合が多くなれば、ポリL−乳酸の結晶性は低くなり非晶に近づき、逆にポリL−乳酸中のD−乳酸ユニットの含有割合が少なくなれば、ポリL−乳酸の結晶性は高くなっていく。同様に、ポリD−乳酸は、L−乳酸ユニットの含有割合によって、樹脂自体の結晶性が変化する。つまり、ポリD−乳酸中のL−乳酸ユニットの含有割合が多くなれば、ポリD−乳酸の結晶性は低くなり非晶に近づき、逆にポリD−乳酸中のL−乳酸ユニットの含有割合が少なくなれば、ポリD−乳酸の結晶性は高くなっていく。
【0034】
本発明の層Aや層Bを構成する脂肪族ポリエステルとして用いられるポリ乳酸は、乳酸以外の他の単量体ユニットを含んでいてもよい。他の単量体としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘプタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオ−ル、デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノ−ル、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ビスフェノ−ルA、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールおよびポリテトラメチレングリコールなどのグリコール化合物、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、マロン酸、グルタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4´−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸などのジカルボン酸、グリコール酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸、カプロラクトン、バレロラクトン、プロピオラクトン、ウンデカラクトン、1,5−オキセパン−2−オンなどのラクトン類を挙げることができる。上記の他の単量体ユニットの共重合量は、層Aや層Bを構成する脂肪族ポリエステルがポリ乳酸系樹脂である場合に、ポリ乳酸系樹脂の単量体ユニット全体に対し、0〜30モル%であることが好ましく、0〜10モル%であることがより好ましい。
【0035】
本発明の層Aや層Bを構成する脂肪族ポリエステルに用いられるポリ乳酸の重量平均分子量は、適度な製膜性、延伸適性および実用的な機械特性を満足させるため、5万〜50万であることが好ましく、より好ましくは10万〜25万である。なお、ここでいう重量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)でクロロホルム溶媒にて測定を行い、ポリメチルメタクリレート換算法により計算した分子量をいう。
【0036】
本発明の層Aや層Bを構成する脂肪族ポリエステルに用いられるポリ乳酸は、成形体全体のヘーズをより小さく抑制できるといった点から、ポリL−乳酸と、ポリD−乳酸の混合物からなることが好ましい。ポリL−乳酸とポリD−乳酸の混合物を結晶化させると、通常のL−乳酸もしくはD−乳酸のみからできる結晶(α結晶)とは晶系が異なる、ステレオコンプレックス結晶(SC結晶)が形成する。同一系内にα結晶とSC結晶という2種類の晶系が存在することにより、一方の晶系の結晶成長を、もう一方の晶系の結晶が阻害することによって、結晶をより微細化できる。つまりこの方法により、成形体全体のヘーズを小さく抑えることができる。実際の成形体中に各結晶を形成させる方法は後に説明するが、α結晶とSC結晶を同時に形成させてもよいし、一方を先に形成させておいてから、もう一方を後で形成させてもよい。SC結晶を先に形成させる方法としては、シート製造時の口金〜キャスト部分における降温結晶化が好ましく用いられる。これは、SC結晶が比較的高温の状態から降温結晶化を始めることを利用している。
【0037】
層Aや層Bを構成する脂肪族ポリエステルとしてポリ乳酸を用いた場合において、各層におけるポリ乳酸全体に対するポリL−乳酸とポリD−乳酸のそれぞれの配合割合は特に制限されないが、上記目的から、1〜40%であることが好ましく、5〜35%であることがより好ましく、10〜30%であることがさらに好ましい。各層におけるポリ乳酸全体に対するポリL−乳酸とポリD−乳酸のそれぞれの配合割合が1〜40%の範囲を満たす場合、上記した結晶の微細化効果が発現しやすくなる点で好ましい。
【0038】
また、より効率よくSC結晶を形成させるため、各層におけるポリL−乳酸の重量平均分子量(以下、Mw(L)とする)とポリD−乳酸の重量平均分子量(以下、Mw(D)とする)の比Mw(L)/Mw(D)またはMw(D)/Mw(L)が2〜40であることが好ましく、3〜20であることがより好ましく、4〜10であることがさらに好ましい。これは、ポリL−乳酸とポリD−乳酸の分子鎖長に差をつけることで、相互の接近が容易となり効率的にSCが形成できるからである。各層におけるMw(L)とMw(D)の比Mw(L)/Mw(D)またはMw(D)/Mw(L)が2以上である場合、SC結晶が効率よく形成される点で好ましい。また、各層におけるMw(L)とMw(D)の比Mw(L)/Mw(D)またはMw(D)/Mw(L)が40以下の場合、層を構成する樹脂の強度を維持できる点で好ましい。
【0039】
本発明の脂肪族ポリエステル系成形体は、前記層Aを構成するポリL−乳酸中の単量体ユニット全体に対するD−乳酸ユニットの含有割合Da(mol%)と、前記層Bを構成するポリL−乳酸中の単量体ユニット全体に対するD−乳酸ユニットの含有割合Db(mol%)の関係が、
Da<Db
であることが、層Aおよび層Bそれぞれに期待する結晶化効果を発現させやすくなる点で好ましい。つまり、DaとDbを上記Da<Dbの関係とすることにより、層Aと層Bの結晶化度の関係をχA>χBと制御することができ、結果として耐熱性と、シートから成形体を製造する際の成形性を両立させやすくなる。
【0040】
なおこの際の層Aや層Bは、ポリL−乳酸を有すれば特に限定されず、層Aや層Bは、ポリL−乳酸のみで構成されていても、ポリL−乳酸とポリD−乳酸の混合物であっても、Da<Dbを満たしさえすれば(ポリL−乳酸中の単量体ユニット全体に対するD−乳酸ユニットの含有割合を、層Aと層Bの間で制御しさえすれば)好ましい実施態様となる。つまり例えば、A層としてポリL−乳酸とポリD−乳酸の混合物、B層としてポリL−乳酸であり、Da<Dbを満たす場合、A層、B層共にポリL−乳酸とポリD−乳酸の混合物であり、Da<Dbを満たす場合、などが挙げられる。
【0041】
ポリL−乳酸中の単量体ユニット全体に対するD−乳酸ユニットの含有割合は、層AにおいてはDa=0.2〜4mol%の範囲であることが好ましい。より好ましくはDa=0.3〜3mol%、さらに好ましくはDa=0.5〜2mol%である。ポリL−乳酸中の単量体ユニット全体に対するD−乳酸ユニットの含有割合は、層BにおいてはDb=1〜15mol%が好ましく、より好ましくはDb=1.2〜10mol%、さらに好ましくはDb=1.5〜5mol%である。各層に2種類以上のポリL−乳酸が用いられるときは、それぞれのポリL−乳酸中のD−乳酸ユニット含有割合に、対応するポリL−乳酸の層中の含有割合(質量%)を乗じて求めた平均値を用いるものとする。
【0042】
また、本発明の脂肪族ポリエステル系成形体には、脂肪族ポリエステル以外の樹脂を各層ごとに含んでも良い。含有量は、各層の総質量に対して0〜80質量%が好ましく、より好ましくは0〜60質量%、さらに好ましくは0〜40質量%である。脂肪族ポリエステル以外の樹脂としては、例えば、ポリアセタール、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリ(メタ)アクリレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリイミド、ポリエーテルイミドなどの熱可塑性樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂、エチレン/グリシジルメタクリレート共重合体、ポリエステルエラストマー、ポリアミドエラストマー、エチレン/プロピレンターポリマー、エチレン/ブテン−1共重合体などの軟質熱可塑性樹脂が挙げられる。これらの中でも、脂肪族ポリエステル、特に、ポリ乳酸との相溶性が良く、混合後の樹脂組成物のガラス転移温度が向上し、高温剛性が向上できる点から、ポリ(メタ)アクリレートが好ましい。ポリ(メタ)アクリレートとは、アクリレートおよびメタクリレートから選ばれる少なくとも1種の単量体を構成単位とするものであり、2種以上の単量体を共重合して用いても構わない。ポリ(メタ)アクリレートを構成するのに使用されるアクリレートおよびメタクリレートとしては、例えばメチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、シアノエチルアクリレート、シアノブチルアクリレートなどのアクリレート、およびメチルメタクリレート、エチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレートなどのメタクリレートが使用できる。これらの中で、より高い高温剛性および成形性を樹脂組成物に付与するには、ポリメチルメタクリレートが好ましく使用できる。
【0043】
また、脂肪族ポリエステル以外の樹脂として、耐衝撃性付与および成形性向上の観点から、層Aおよび層Bから選ばれた少なくとも1層が、ガラス転移温度が60℃以下の樹脂Lを、その層の総質量に対して0.1〜40質量%含有することが好ましい。含有量は、より好ましくは0.2〜30質量%、特に好ましくは0.5〜20質量%である。ガラス転移温度が60℃以下の樹脂Lの含有量が、該層の総質量に対して0.1質量%以上である場合、耐衝撃性の改良効果が高くなる点から好ましい。また、40質量%以下である場合、透明性と耐熱性も維持できる点か好ましい。なお樹脂Lは、少なくとも層Bに含まれることが、耐衝撃性付与および成形性向上の観点から好ましい。
【0044】
該樹脂Lの重量平均分子量は、主に耐熱性を維持する観点と脂肪族ポリエステル系樹脂との相溶性の観点から、2,000〜200,000が好ましく、より好ましくは5,000〜100,000、特に好ましくは10,000〜80,000である。なお、ここでいう重量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)でクロロホルム溶媒にて測定を行い、ポリメチルメタクリレート換算法により計算した分子量をいう。
【0045】
樹脂Lとしては、ポリエステルもしくはポリアルキレンエーテル並びにポリ乳酸のブロック共重合体、ポリエステル、ゴムなどが好ましく用いられる。
【0046】
樹脂Lとしてポリエステルを用いる場合、該樹脂L(ポリエステル)を含有する層の総質量に対して0.1〜10質量%含有することが好ましい。含有量は、より好ましくは0.2〜5質量%、特に好ましくは0.5〜3質量%である。
【0047】
樹脂Lとして好ましく用いられるポリエステルは、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンセバケート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート/テレフタレート、ポリブチレンアジペート/テレフタレート、ポリブチレンサクシネート/アジペート、ポリプロピレンセバケート、ポリプロピレンサクシネート、ポリプロピレンサクシネート/テレフタレート、ポリプロピレンアジペート/テレフタレート、ポリプロピレンサクシネート/アジペートなどの芳香族および/または脂肪族ポリエステルを好ましく使用することができる。これらの中でも特に耐衝撃性付与に効果的であるのが、ポリブチレンアジペート/テレフタレートおよびポリブチレンサクシネート/アジペートである。
【0048】
樹脂Lとして、ポリエステルもしくはポリアルキレンエーテル並びにポリ乳酸のブロック共重合体や、ゴムを用いる場合、該樹脂L(ポリエステル若しくはポリアルキレンエーテル並びにポリ乳酸のブロック共重合体や、ゴム)を含有する層の総質量に対して5〜40質量%含有することが好ましい。含有量は、より好ましくは7〜30質量%、特に好ましくは10〜20質量%である。
【0049】
また樹脂Lである、ポリエステルもしくはポリアルキレンエーテル、並びにポリ乳酸のブロック共重合体は、ポリエステルセグメント若しくはポリアルキレンエーテルセグメント、並びにポリ乳酸セグメント、とからなるブロック共重合体である。該ブロック共重合体における乳酸成分の含有量は、該ブロック共重合体100質量%中の0質量%より大きく60質量%以下であることが好ましい。該ブロック共重合体において、乳酸成分が該ブロック共重合体100質量%中の0質量%よりも大きく60質量%以下の範囲を満たす場合、物性向上の効果が高くなる点で好ましい。さらに本発明の脂肪族ポリエステル系成形体の、該ブロック共重合体を用いる層の脂肪族ポリエステルがポリ乳酸の場合は特に、該ブロック共重合体一分子中に分子量が1,500以上のポリ乳酸セグメントを一つ以上有することが好ましい。この場合、該ブロック共重合体のポリ乳酸セグメントが、母材の脂肪族ポリエステルであるポリ乳酸によって形成される結晶中に取り込まれることで、ブロック共重合体のポリ乳酸セグメントが母材につなぎ止められる作用を生じ、該ブロック共重合体のブリードアウトを抑制することができる。
【0050】
樹脂Lであるブロック共重合体に用いられるポリエステルセグメントとしては、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンセバケート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート/テレフタレート、ポリブチレンアジペート/テレフタレート、ポリブチレンアジペート/サクシネート、ポリプロピレンセバケート、ポリプロピレンサクシネート、ポリプロピレンサクシネート/テレフタレート、ポリプロピレンアジペート/テレフタレート、ポリプロピレンアジペート/サクシネートなどを好ましく使用することができる。
【0051】
上記ポリアルキレンエーテルセグメントとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコール共重合体などを好ましく使用することができる。
【0052】
また樹脂Lである上記ゴムとしては、シリコーン成分、アクリル成分、スチレン成分、ニトリル成分、共役ジエン成分、ウレタン成分またはエチレンプロピレン成分などを含む重合体が好ましく、コア−シェル型の多層構造重合体であることがより好ましい。
【0053】
本発明の脂肪族ポリエステル系成形体は、層Aが結晶核剤を含有することが好ましい。かかる結晶核剤の役割は、各層を形成する脂肪族ポリエステルの結晶の過大な成長を抑制し結晶を微細化することと、結晶化速度を高めることである。このような役割をもつ結晶核剤としては、脂肪族カルボン酸アミド、N−置換尿素、脂肪族カルボン酸塩、脂肪族アルコール、脂肪族カルボン酸エステル、脂肪族/芳香族カルボン酸ヒドラジド、ソルビトール系化合物、メラミン系化合物、フェニルホスホン酸金属塩、アミノ酸、ポリペプチドなどを使用することができる。中でも、脂肪族カルボン酸アミド、ソルビトール系化合物、アミノ酸、ポリペプチドから選ばれた化合物を好ましく使用することができる。なお、少なくとも層Aと層Bを有する積層構成の場合には、少なくとも層Aが結晶核剤を含有していることが好ましく、層Aおよび層Bの両層が結晶核剤を含有している態様も本発明の好ましい一態様である。
【0054】
結晶核剤として好ましく用いられる脂肪族カルボン酸アミドの具体例としては、ラウリン酸アミド、パルミチン酸アミド、オレイン酸アミド、ステアリン酸アミド、エルカ酸アミド、ベヘニン酸アミド、リシノール酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミドのような脂肪族モノカルボン酸アミド類、N−オレイルパルミチン酸アミド、N−オレイルオレイン酸アミド、N−オレイルステアリン酸アミド、N−ステアリルオレイン酸アミド、N−ステアリルステアリン酸アミド、N−ステアリルエルカ酸アミド、メチロールステアリン酸アミド、メチロールベヘニン酸アミドのようなN−置換脂肪族モノカルボン酸アミド類、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスベヘニン酸アミド、エチレンビスイソステアリン酸アミド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、ブチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、へキサメチレンビスステアリン酸アミド、へキサメチレンビスベヘニン酸アミド、へキサメチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、m−キシリレンビスステアリン酸アミド、m−キシリレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミドのような脂肪族カルボン酸ビスアミド類、N,N´−ジオレイルセバシン酸アミド、N,N´−ジオレイルアジピン酸アミド、N,N´−ジステアリルアジピン酸アミド、N,N´−ジステアリルセバシン酸アミドのようなN−置換脂肪族カルボン酸ビスアミド類が挙げられる。この中でも、脂肪族モノカルボン酸アミド類、N−置換脂肪族モノカルボン酸アミド類および脂肪族カルボン酸ビスアミド類から選ばれた化合物が好適に用いられる。好ましくは炭素数4〜30、より好ましくは炭素数12〜30の脂肪族カルボン酸と、アンモニアもしくは炭素数1〜30の脂肪族/芳香族のモノアミン/ジアミンから選ばれたアミンとのアミドが好ましく用いられる。特に、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、エルカ酸アミド、ベヘニン酸アミド、リシノール酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミド、N−オレイルパルミチン酸アミド、N−ステアリルエルカ酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、m−キシリレンビスステアリン酸アミドおよびm−キシリレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミドから選ばれた化合物が好適に用いられる。
【0055】
また、結晶核剤として好ましく用いられるN−置換尿素の具体例としては、N−ブチル−N´−ステアリル尿素、N−プロピル−N´−ステアリル尿素、N−ステアリル−N´−ステアリル尿素、N−フェニル−N´−ステアリル尿素、キシリレンビスステアリル尿素、トルイレンビスステアリル尿素、ヘキサメチレンビスステアリル尿素、ジフェニルメタンビスステアリル尿素、ジフェニルメタンビスラウリル尿素などが使用できる。
【0056】
また、結晶核剤として好ましく用いられる脂肪族カルボン酸塩の好ましい例としては、好ましくは炭素数4〜30、より好ましくは炭素数14〜30の脂肪族カルボン酸の金属塩が挙げられる。炭素数14〜30の脂肪族カルボン酸の具体例としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、ベヘニン酸、モンタン酸などが挙げられる。また、金属の例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、アルミニウム、亜鉛、銀、銅、鉛、タリウム、コバルト、ニッケル、ベリリウムなどが挙げられる。特に、ステアリン酸の塩類やモンタン酸の塩類が好適に用いられ、特に、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸亜鉛およびモンタン酸カルシウムから選ばれた化合物が好適に用いられる。
【0057】
また、結晶核剤として好ましく用いられる脂肪族アルコールの好ましい例としては、炭素数4〜30、より好ましくは炭素数15〜30の脂肪族アルコールが挙げられる。具体的にはペンタデシルアルコール、セチルアルコール、ヘプタデシルアルコール、ステアリルアルコール、ノナデシルアルコール、エイコシルアルコール、セリルアルコール、メリシルアルコールなどの脂肪族モノアルコール類、1,6−ヘキサンジオール、1,7−へプタンジール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオールなどの脂肪族多価アルコール類、シクロペンタン−1,2−ジオール、シクロヘキサン−1,2−ジオール、シクロヘキサン−1,4−ジオールなどの環状アルコール類などが挙げられる。特に脂肪族モノアルコール類が好適に用いられ、特にステアリルアルコールが好適に用いられる。
【0058】
また、結晶核剤として好ましく用いられる脂肪族カルボン酸エステルの好ましい例としては、好ましくは炭素数4〜30、より好ましくは炭素数12〜30の脂肪族カルボン酸と、炭素数1〜30の脂肪族/芳香族のモノオール、ジオールおよびトリオールから選ばれたアルコールとのエステルが好ましく用いられる。具体例としては、ラウリン酸セチルエステル、ラウリン酸フェナシルエステル、ミリスチン酸セチルエステル、ミリスチン酸フェナシルエステル、パルミチン酸イソプロピルエステル、パルミチン酸ドデシルエステル、パルミチン酸テトラデシルエステル、パルミチン酸ペンタデシルエステル、パルミチン酸オクタデシルエステル、パルミチン酸セチルエステル、パルミチン酸フェニルエステル、パルミチン酸フェナシルエステル、ステアリン酸セチルエステル、ベヘニン酸エチルエステルなどの脂肪族モノカルボン酸エステル類、モノラウリン酸グリコール、モノパルミチン酸グリコール、モノステアリン酸グリコールなどのエチレングリコールのモノエステル類、ジラウリン酸グリコール、ジパルミチン酸グリコール、ジステアリン酸グリコールなどのエチレングリコールのジエステル類、モノラウリン酸グリセリンエステル、モノミリスチン酸グリセリンエステル、モノパルミチン酸グリセリンエステル、モノステアリン酸グリセリンエステルなどのグリセリンのモノエステル類、ジラウリン酸グリセリンエステル、ジミリスチン酸グリセリンエステル、ジパルミチン酸グリセリンエステル、ジステアリン酸グリセリンエステルなどのグリセリンのジエステル類、トリラウリン酸グリセリンエステル、トリミリスチン酸グリセリンエステル、トリパルミチン酸グリセリンエステル、トリステアリン酸グリセリンエステル、パルミトジオレイン、パルミトジステアリン、オレオジステアリンなどのグリセリンのトリエステル類などが挙げられる。この中でもエチレングリコールのジエステル類が好適であり、特にエチレングリコールジステアレートが好適に用いられる。
【0059】
また、結晶核剤として好ましく用いられる脂肪族/芳香族カルボン酸ヒドラジドの具体例としては、セバシン酸ジ安息香酸ヒドラジド、ソルビトール系化合物の具体例としては、ジベンジリデンソルビトール、ビス(p−メチルベンジリデン)ソルビトール、ビス(p−エチルベンジリデン)ソルビトール、ビス(3,4−ジメチルベンジリデン)ソルビトール、メラミン系化合物の具体例としては、メラミンシアヌレートおよびポリビン酸メラミン、フェニルホスホン酸金属塩の具体例としては、フェニルホスホン酸亜鉛塩、フェニルホスホン酸カルシウム塩、フェニルホスホン酸マグネシウム塩などが使用できる。
【0060】
また、結晶核剤として好ましく用いられるアミノ酸の具体例としては、生体に含まれるタンパク質を構成する要素であるグリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、システイン、メチオニン、フェニルグリシン、トリプトファン、プロリン、o−チロシン、グルタミン酸、アスパラギン酸、グルタミン、アスパラギン、リシン、アルギニン、ヒスチジン、ポリペプチドの具体例としてはロイプロリドなどが使用できる。
【0061】
これらの結晶核剤は、各層において、単独で用いても、2種以上を併用してもかまわない。2種以上を併用して用いると、それぞれを単独で利用する場合と比較し、それぞれの相乗効果を発現し、結晶化速度増大、結晶の微細化促進がより顕著なものとなる場合がある。
【0062】
これらの結晶核剤の総含有量について、層Aに関しては、層Aの総質量に対して0.1〜5質量%含有することが好ましく、より好ましくは0.3〜3質量%、さらに好ましくは0.5〜2質量%である。層Aの結晶核剤の総含有量が、層Aの総質量の0.1質量%以上である場合、耐熱性および透明性を発現できる点で好ましい。また、含有量が5質量%以下である場合、結晶核剤としての効果が飽和して、外観や物性の変化を来すことを防ぐことができる点で好ましい。
【0063】
また、層Bに関しては、層Bの総質量に対して、0.05〜3質量%含有することが好ましく、より好ましくは0.08〜2質量%、さらに好ましくは0.1〜1.5質量%である。層Bの結晶核剤の総含有量が、層Bの総質量の0.05質量%以上である場合、耐熱性および透明性を発現できる点で好ましい。また、含有量を3質量%以下である場合、シートから成形体を製造する際の成形性を維持できる点で好ましい。
【0064】
本発明の脂肪族ポリエステル系成形体では、少なくとも層Aが結晶核剤および前記結晶核剤と水素結合性を有する化合物を含有することが好ましい。前記例示した結晶核剤は自己会合していることが多く、その場合、樹脂中に結晶核剤が凝集したまま添加されることになり、結晶の微細化には不都合となることがある。そこで、結晶核剤と水素結合性を有する化合物をさらに混合することで、該結晶核剤の自己会合が解け、結晶核剤がより微分散化されることがある。この場合、結晶の微細化がより効果的なものとなる。なお、少なくとも層Aと層Bを有する積層構成の場合には、少なくとも層Aが結晶核剤および前記結晶核剤と水素結合性を有する化合物を含有していることが好ましく、層Aおよび層Bの両層が結晶核剤および前記結晶核剤と水素結合性を有する化合物を含有している態様も本発明の好ましい一態様である。
【0065】
この、結晶核剤と水素結合性を有する化合物の添加方法には特に制限は無い。結晶核剤と水素結合性を有する化合物は、脂肪族ポリエステルや結晶核剤と同時に溶融もしくは溶液混合してもよいし、先に結晶核剤と溶融もしくは溶液混合したものを、脂肪族ポリエステルに添加してもよい。また、マスターペレットを作ってそれを希釈する方法でもよい。これらの中でも、結晶核剤の自己会合を解く観点から、結晶核剤と水素結合性を有する化合物を、先に結晶核剤と溶融もしくは溶液混合したものを、脂肪族ポリエステルに添加する方法が好ましい。
【0066】
また、該化合物と結晶核剤とに水素結合性を有するかどうかの判断は、NMRで解析可能である。例えば、該化合物と結晶核剤との溶液混合品の1H−NMRスペクトルを、それぞれ単体の場合とを比較した化学シフト変化から水素結合の有無を確認できる。例えば、結晶核剤としてアミド化合物、結晶核剤との間に水素結合性を有する化合物としてソルビトール系化合物を用いた場合、溶液混合品では、それぞれの単体比較、アミド結合のプロトンピークは低磁場シフトし、ソルビトールのヒドロキシル基のプロトンピークは高磁場シフトしていることで、これら両者の間に水素結合が存在することが確認できる。
【0067】
結晶核剤と水素結合性を有する化合物の具体例としては、結晶核剤として脂肪族カルボン酸アミドやN−置換尿素などを用いた場合、脂肪族アルコール類、ソルビトール系化合物、アミノ酸、ポリペプチドなどが使用できる。よって、結晶核剤としては脂肪族カルボン酸アミド、およびN−置換尿素からなる群より選ばれる少なくとも1種を使用し、結晶核剤と水素結合性を有する化合物としては脂肪族アルコール類、ソルビトール系化合物、アミノ酸、およびポリペプチドからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることが、特に好ましい。
【0068】
結晶核剤と水素結合性を有する化合物を含有する場合、結晶核剤との量関係には特に制限は無いが、効果的に結晶核剤の自己会合を解く観点から、結晶核剤と、結晶核剤と水素結合性を有する化合物の重量比は1:9〜9:1が好ましい。より好ましくは1:5〜5:1で、さらに好ましくは1:2〜2:1である。
【0069】
上記した、結晶核剤の自己会合を解いて、結晶核剤を樹脂中に微分散化するという観点からは、結晶核剤のみを一度溶剤に溶かし自己会合を解いたものを、樹脂中に添加するという方法も使用できる。
【0070】
本発明の脂肪族ポリエステル系成形体の層Aや層Bなどの各層には、各種粒子を含有することができる。粒子を含有することにより、シートから成形体を製造する際、成形金型とシートとの滑りが良くなり、成形ムラやシートの破断を低減することができ、また、金型からの離型性も良くなる。各種粒子の平均粒子径は0.01〜10μmが好ましく、各層における含有量は、各層の構成成分の総質量に対して0.01〜10質量%含有することが好ましい。各種粒子の平均粒子径は、より好ましくは0.02〜5μm、さらに好ましくは0.03〜2μmである。各層における含有量は、より好ましくは各層の構成成分の総質量に対して0.02〜1質量%、さらに好ましくは0.03〜0.5質量%である。平均粒子径が0.01μm以上である場合、または各層における含有量が各層の構成成分の総質量の0.01質量%以上である場合、成形金型とシートとの滑りの改良効果が大きくなる点で好ましい。一方、平均粒子径が10μm以下である場合、または各層における含有量が各層の総質量の10質量%以下である場合、フィルムの透明性を維持できる点で好ましい。なお、ここでいう平均粒子径とはフィルム中での数平均分散粒子径のことで、次の方法を用いて測定を行った。まず、フィルムから樹脂をプラズマ低温灰化処理法で除去し、粒子を露出させる。ここで、処理条件は、樹脂が灰化するが粒子がダメージを受けない条件を選択する。これを走査型顕微鏡で粒子数5,000〜10,000個を観察し、粒子画像を画像処理装置で処理し、円相当径から平均粒子径を数平均で求めた。粒子が内部粒子の場合、フィルム断面を切断し、厚さ0.1〜1μm程度の超薄切片を作製し、透過型電子顕微鏡を用いて倍率5,000〜20,000程度で写真を撮影(10枚:25cm×25cm)し、内部粒子の数平均粒子径を円相当径より計算した。また、粒子が凝集している場合はその凝集体の粒径(二次粒子径)を数平均算出の値として用いた。
【0071】
粒子の種類は、目的や用途に応じて適宜選択され、本発明の効果を損なわなければ特に限定されないが、無機粒子、有機粒子、架橋高分子粒子、重合系内で生成させる内部粒子などを挙げることができる。もちろん、各粒子は、それぞれ単独で使用しても、混合して用いても構わない。混合して用いる場合は、それぞれの種類の粒子が、平均粒子径0.01〜10μmの範囲内となるようにすればよく、また、全種類の粒子の各層における総含有量が、その層の0.01〜10質量%の範囲内となるようにすればよい。
【0072】
また、本発明の脂肪族ポリエステル系成形体の層Aや層Bなどの各層には、本発明の効果を損なわない範囲であれば、必要に応じて、添加剤、例えば、難燃剤、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、着色防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、可塑剤、粘着性付与剤、脂肪酸エステル、ワックスなどの有機滑剤またはポリシロキサンなどの消泡剤、顔料、染料などの着色剤を適量配合することができる。
【0073】
また、ブロッキング防止、帯電防止、離型性付与、耐傷付き性改良などの目的で、本発明の脂肪族ポリエステル系成形体の表面に機能層を設けてもよい。この機能層の形成には、成形体の材料となるシートの製造工程内で行うインラインコーティング法、シートの巻き取り後に行うオフラインコーティング法などを用いることができる。かかる機能層を形成するための具体的方法としては、ワイヤーバーコート法、ドクターブレード法、マイクログラビアコート法、グラビアロールコート法、リバースロールコート法、エアーナイフコート法、ロッドコート法、ダイコート法、キスコート法、リバースキスコート法、含浸法、カーテンコート法、スプレーコート法、エアドクタコート法あるいはこれら以外の塗布方法を単独または組み合わせて適用することができる。
【0074】
また、インラインコーティング法の例としては、無延伸シートに塗布液を塗布する方法、無延伸シートに塗布液を塗布し、逐次あるいは同時に二軸延伸する方法、一軸延伸されたシートに塗布液を塗布し、さらに先の一軸延伸方向と直角の方向に延伸する方法、あるいは二軸延伸シートに該塗布液を塗布した後、さらに延伸する方法などがある。
【0075】
なお、塗布液のシートへの塗布性および接着性を改良するため、塗布前にシートに化学処理や放電処理を施すことができる。
【0076】
また、本発明の脂肪族ポリエステル系成形体の材料となるシートの少なくとも片面に、離型層を有することが好ましい。これは、後に説明するが、本発明の脂肪族ポリエステル系成形体は、シートから成形体を製造する際、成型金型内での熱処理によって結晶化させて耐熱性を発現させることがあり、その際、シートと金型間の離型性を良好にするためである。
【0077】
かかる離型層の素材としては公知のものを用いることができ、長鎖アルキルアクリレート、シリコーン樹脂、メラミン樹脂、フッ素樹脂、セルロース誘導体、尿素樹脂、ポリオレフィン樹脂、パラフィン系離型剤などから選ばれた1種以上が好ましく用いられる。
【0078】
また、脂肪族ポリエステル系成形体の少なくとも片面に、帯電防止層を有することが好ましい。
【0079】
かかる帯電防止層の素材としては公知のものを用いることができるが、主鎖に4級アンモニウム塩を有する帯電防止剤が好ましい。また、スルホン酸、スルホン酸塩、ビニルイミダゾリウム塩、ジアニルアンモニウムクロライド、ジメチルアンモニウムクロリド、アルキルエーテル硫酸エステルの少なくとも1種を含む共重合体を含有させることにより帯電防止性を付与することができる。
【0080】
本発明の脂肪族ポリエステル系成形体は、分解による強度低下を抑制し、耐熱性を良好とする点から、成形体を構成する脂肪族ポリエステル系樹脂のカルボキシル基末端濃度が0.1〜30当量/10kgであることが好ましく、より好ましくは0.5〜20当量/10kg、特に好ましくは1〜10当量/10kgである。脂肪族ポリエステル系樹脂のカルボキシル基末端濃度が30当量/10kg以下である場合、脂肪族ポリエステル系成形体が、高温多湿条件下あるいは熱水との接触条件下で使用される際に、加水分解による強度低下を防ぐことができる点で好ましい。つまり、容器などの用途に使用した場合、該容器が脆くなり割れやすいなどといった問題の発生を防ぐことができる。
【0081】
カルボキシル基末端濃度を30当量/10kg以下とする方法としては、例えば、脂肪族ポリエステル成形体の材料となる脂肪族ポリエステル系樹脂の合成時の触媒や熱履歴により制御する方法、脂肪族ポリエステル成形体の材料となる脂肪族ポリエステル系シートの押出製膜時の熱履歴を低減する方法、反応型化合物を用いカルボキシル基末端を封鎖する方法などが挙げられる。反応型化合物としては、例えば、脂肪族アルコールやアミド化合物などの縮合反応型化合物やカルボジイミド化合物、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物などの付加反応型化合物が挙げられるが、反応時に余分な副生成物が発生しにくい点で付加反応型化合物が好ましい。
【0082】
本発明の脂肪族ポリエステル系成形体は、脂肪族ポリエステルがポリ乳酸である場合、成形体中に含まれる乳酸オリゴマー成分量が0質量%以上0.3質量%以下であることが好ましい。より好ましくは脂肪族ポリエステル系成形体中に0質量%以上0.25質量%以下、さらに好ましくは0質量%以上0.2質量%以下である。該シート中に含まれる乳酸オリゴマー成分量が0.3質量%以下である場合、該成形体中に残留している乳酸オリゴマー成分が粉末状あるいは液状として析出し、ハンドリング性および透明性の悪化を防ぐことができる点、また、ポリ乳酸樹脂の加水分解を進行させ、成形体の耐経時性の悪化も防ぐことができる点で好ましい。ここでいう乳酸オリゴマー成分とは、成形体中に存在する乳酸や乳酸の線状オリゴマー、環状オリゴマーなどの中で量的に最も多く代表的である乳酸の環状二量体(ラクチド)をいい、LL−ラクチドおよびDD−ラクチド、DL(メソ)−ラクチドである。
【0083】
次に、本発明の脂肪族ポリエステル系成形体を製造する方法を、脂肪族ポリエステルがポリ乳酸である場合を例に、具体的に説明する。
【0084】
本発明におけるポリ乳酸は、次のような方法で得ることができる。原料としては、L−乳酸および/またはD−乳酸の乳酸成分を用いるが、乳酸成分以外のヒドロキシカルボン酸を併用することもできる。また環状エステル中間体、例えば、ラクチド、グリコリドなどを原料として使用することもできる。さらにジカルボン酸類やグリコール類なども併用することができる。
【0085】
ポリ乳酸は、上記原料を直接脱水縮合する方法、または上記環状エステル中間体を開環重合する方法によって得ることができる。例えば直接脱水縮合して製造する場合、乳酸類または乳酸類とヒドロキシカルボン酸類を好ましくは有機溶媒、好ましくはフェニルエーテル系溶媒の存在下で共沸脱水縮合し、共沸により留出した溶媒から水を除き実質的に無水の状態にした溶媒を反応系に戻す方法によって重合することにより高分子量のポリマーが得られる。また、ラクチドなどの環状エステル中間体をオクチル酸錫などの触媒を用い、減圧下、開環重合することによっても高分子量のポリマーが得られることも知られている。このとき、有機溶媒中での加熱還流時の水分および低分子化合物の除去の条件を調整する方法や、重合反応終了後に触媒を失活させ解重合反応を抑える方法、製造したポリマーを熱処理する方法などを用いることにより、ラクチド量の少ないポリマーを得ることができる。
【0086】
本発明の脂肪族ポリエステル系成形体を、所望の結晶化度にするための方法は特に限定されないが、主に次の4種類の方法が利用できる。
(1) 製膜中、あるいは製膜後のシートの結晶化
シート製膜中、つまり、口金〜キャスト部分での降温結晶化、加熱ロール搬送中あるいはテンターによる昇温結晶化、一軸あるいは二軸延伸による配向結晶化、シート製 膜後(オフライン)の再加熱による昇温結晶化などを用いる方法。
(2) シート成形時の予熱による結晶化
成形機でシートを成形する際のヒーター加熱による結晶化を用いる方法。
(3) シート成形後、加熱した金型内での結晶化
成形機でシートを成形する際の金型を加熱しておき、成形後、その金型上で結晶化する方法。
(4) 成形体の加熱による結晶化
成形体自体を加熱オーブンなどに入れ、結晶化させる方法。
【0087】
これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0088】
ここでは、まずポリ乳酸シートの製膜中の結晶化、つまり口金〜キャスト部分での降温結晶化と、加熱ロール搬送中の昇温結晶化を行い、その後成形機にてシートを成形し、成形体を得る場合を例に、具体的に説明する。
【0089】
ポリL乳酸樹脂とポリD乳酸樹脂をそれぞれ5torr以下の減圧下、100〜120℃で3時間以上乾燥し、A層用の樹脂とB層用の樹脂をそれぞれ独立した別々の押出機に供給、溶融粘度に応じて150〜250℃で溶融混練する。ここで、口金〜キャスト部分で降温結晶化させるため、口金を樹脂の降温結晶化温度に応じて120〜200℃に冷却しておく。ダイ外またはダイ内で複合化し、Tダイ法によりリップ間隔1〜3mmのスリット状の口金から吐出する。吐出された樹脂を、金属製冷却キャスティングドラム上に、直径0.5mmのワイヤー状電極を用いて静電印加して密着させ、無配向キャストシートを得る。
【0090】
金属製冷却ロールの表面温度は、前記降温結晶化を促進させるため、樹脂の降温結晶化温度付近の温度にしておいてもよいが、通常は0〜50℃の範囲とすることが好ましく、より好ましい範囲は5〜40℃であり、さらに好ましい範囲は10〜30℃である。金属製冷却ロールの表面温度をこの範囲に設定することで、金属ロールとシートの粘着を防止でき、また、良好な透明性を発現できる。
【0091】
こうして得られた無配向キャストシートを、加熱ロール上を搬送させることによって所望の結晶化度となるように結晶化させる。最も高温となる加熱ロールの好ましい温度範囲は60〜160℃で、より好ましくは70〜150℃、さらに好ましくは80〜140℃である。加熱ロール表面は、シートの粘着を防止するため、シリコーンやフッ素(例えば、テフロン(登録商標))などの材質であることが好ましい。このときのシートの最終表面温度は70〜150℃であることが好ましく、80〜140℃であることがより好ましく、90〜130℃であることがさらに好ましい。次いで、0〜50℃の冷却ロール上を搬送させてシート温度を下げ、無延伸のシートを得る。
【0092】
テンター式逐次二軸延伸を行う場合は、前記で得られた無配向キャストシートを、加熱ロール上を搬送させることによって、縦延伸を行う温度まで昇温する。昇温には赤外線ヒーターなど補助的な加熱手段を併用しても良い。延伸温度の好ましい範囲は70〜95℃であり、より好ましくは75〜90℃である。このようにして昇温した無配向シートを加熱ロール間の周速差を用いてシート長手方向に1段もしくは2段以上の多段で延伸を行う。合計の延伸倍率は1.2〜3.5倍が好ましく、より好ましくは1.5〜3.0倍である。
【0093】
このように一軸延伸したシートをいったん冷却した後、シートの両端部をクリップで把持してテンターに導き、幅方向の延伸を行う。延伸温度は70〜95℃が好ましく、より好ましくは75〜90℃である。延伸倍率は1.2〜3.5倍が好ましく、より好ましくは1.5〜3.0倍である。シートの幅方向の性能差を低減するためには、長手方向の延伸温度よりも1〜15℃低い温度で幅方向の延伸を行うことが好ましい。さらに必要に応じて、再縦延伸および/または再横延伸を行ってもよい。
【0094】
次に、この延伸シートを緊張下または幅方向に弛緩しながら熱固定する。主にシートに熱寸法安定性を付与する観点、および、シートに含有されているラクチドを飛散させラクチド量を低減させる観点から、好ましい熱処理温度は100〜160℃であり、より好ましくは120〜150℃である。熱処理時間は0.2〜30秒の範囲が好ましい。弛緩率は、幅方向の熱収縮率を低下させる観点から1〜8%であることが好ましく、より好ましくは2〜5%である。熱固定処理を行う前にいったんシートを冷却することがさらに好ましい。
【0095】
さらに、必要ならば長手および幅方向に弛緩処理を施しながら、シートを室温まで冷やして巻き取り、逐次二軸延伸脂肪族ポリエステル系シートを得る。
【0096】
次に、上記で得られた脂肪族ポリエステル系シートを成形し、本発明の成形体を得る方法について以下に説明する。
【0097】
本発明でいう成形体とは、袋、チューブ、カップ、ボトル、トレー、糸などを包含し、その形状、大きさ、厚み、意匠などに関して制限はない。なかでも、商品の展示包装用に用いられているブリスターパックなどの保形具類、食品トレー、飲料自動販売機のディスプレイ用ボトル、お弁当箱や飲料カップなどの容器類、その他各種包装用の成形体、および表面材などの各種工業材料を好ましく挙げることができる。
【0098】
成形方法としては、真空成形、真空圧空成形、プラグアシスト成形、ストレート成形、フリードローイング成形、プラグアンドリング成形、スケルトン成形などの各種成形法を適用できる。
【0099】
成形体の耐熱性を更に上げる観点から、成形時または成形後に熱処理することが好ましい。その方法としては、前述の方法(2)〜(4)を使用できる。(2)のシート成形時の予熱による結晶化では、シートの表面温度が脂肪族ポリエステル系シートのガラス転移点(Tg)から融点(Tm)までの温度範囲にあることが好ましい。より好ましくは、(Tg+5)℃から(Tm−20)℃、さらに好ましくは(Tg+10)℃から(Tm−40)℃である。ここで脂肪族ポリエステル系シートが、樹脂の種類が異なる複数の層からなる場合など、脂肪族ポリエステル系シートとしては複数のガラス転移点が観測される場合、それぞれの層のガラス転移点のうち、最も低い値をTgとして用い、それぞれの層の融点のうち、最も低い値をTmとして用いる。
【0100】
(3)のシート成形後に加熱した金型内結晶化では、金型の設計温度条件は、好ましくは(Tg+5)℃から(Tm−20)℃、さらに好ましくは(Tg+10)℃から(Tm−40)℃である。ここで脂肪族ポリエステル系シートが、樹脂の種類が異なる複数の層からなる場合など、脂肪族ポリエステル系シートとしては複数のガラス転移点が観測される場合、それぞれの層のガラス転移点のうち、最も低い値をTgとして用い、それぞれの層の融点のうち、最も低い値をTmとして用いる。
【0101】
(4)の成形体の加熱による結晶化では、成形体の表面温度が脂肪族ポリエステル系シートのガラス転移点(Tg)から融点(Tm)までの温度範囲にあることが好ましい。成形体の表面温度が場合がある。Tgより低い場合は、成形体の結晶化が起こらず、目的とする結晶化が起こらない場合がある。
【実施例】
【0102】
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれにより何ら制限を受けるものではない。
[測定および評価方法]
実施例中に示す測定や評価は次に示すような条件で行った。
(1)結晶化度χA、χB
成形体を適当な大きさに切断し、アルミ製試料ホルダー(20mm×18mm×0.15mmt)に固定し、次の測定条件で、広角X線測定を行った。
【0103】
X線発生装置として理学電機(株)社製RU−200R(回転対陰極型)(X線源:CuKα線(湾曲結晶モノクロメータ使用)、出力:50kV、200mA)、ゴニオメータとして理学電機(株)社製2155D型(スリット:1°−0.15mm−1°−0.45mm、検出器:シンチレーションカウンター)、計数記録装置として理学電機(株)社製RAD−B型を用いて、測定条件[2θ/θ:連続スキャン、測定範囲:2θ=5〜145°、ステップ:0.02°、走査速度:2°/分]で広角X線測定を行い、Ruland法により結晶化度を求めた。
(2)乳酸オリゴマー成分量(ラクチド量)
成形体を塩化メチレンに溶解し、1g/20mlに濃度調整した後、アセトン60mlを追加し、さらに超音波撹拌しながらシクロヘキサン320mlを滴下していき、ポリ乳酸系重合体を主体とする成分を沈殿させ、これを分離、ろ過して、試料液を作製した。この試料液をガスクロマトグラフ5890型(AgilentTechnologies社製、検出器:FIDタイプ)を用い、カラム:DB−17MS型(J&W社製)、カラム温度:50〜320℃、25℃/分、キャリアーガス:Heの条件にて分析を行い、あらかじめ濃度を変更したラクチド単体の試料液を用いて検量線を作成し、これによりラクチド量を求めた。
(3)層厚み比
成形体断面を、ライカマイクロシステムズ(株)製金属顕微鏡LeicaDMLMを用いて、倍率100倍、透過光で写真撮影し、各層厚みを測定した。
【0104】
なお必要に応じて、成形体の断面観察を行いやすいように、成形体を加熱結晶化させてから測定を行った。
(4)成形体の材料となるシートの成形性
直径95mm、高さ7mmのコップのフタ状アルミ製金型(型温50〜120℃)を備えた真空成形機(成光産業(株)製フォーミング300X型)に、幅210mm、長さ300mm、厚さ0.4mmの、脂肪族ポリエステル系成形体の材料となるシートの枚葉サンプルをセットし、350℃に加熱したセラミックヒーターで15秒間シートを加熱、上記金型に10秒間真空圧着させて成形体を得た。
【0105】
得られた成形体を目視し、以下の基準で評価した。
○:エッジが直角に成形できている
△:エッジ部分に少し丸みがある
×:金型の形状と著しく異なる。
(5)成形体ヘーズ
(4)で成形した成形体のヘーズ値を濁度計(日本電色工業(株)製NDH5000)を用いて測定した。測定は1水準につき5回行い、5回の測定の平均値から、厚み0.4mmとした場合の換算値としてヘーズ値(%)を求めた。換算式は下記のとおりである。
【0106】
H0.4(%)=H×0.4/d
ここで、
H0.4 :0.4mm厚み換算ヘーズ値(%)
H:成形体サンプルのヘーズの実測値(%)
d:ヘーズ測定部の成形体サンプル厚み(mm)
(6)耐熱性
(4)で成形した成形体を用い、60℃に設定したオーブンに2時間入れたときの変形を目視にて評価した。
○:変形無し
△:変形小
×:変形大。
(7)耐衝撃性
(4)で成形した成形体から10mm×50mmの短冊サンプルを10本作成し、この短冊サンプルの長さ50mmが半分となるようにゆっくり180°折り曲げ、そのときのサンプル形状により、以下の基準で判断した。
○:10本とも割れない(折れる)
△:割れないサンプルが1本以上9本以下である
×:10本とも割れる。
[脂肪族ポリエステル樹脂]
実施例で用いた脂肪族ポリエステル樹脂について示す。
P−1:
D−乳酸ユニット含有割合1mol%、PMMA換算の重量平均分子量19万のポリL−乳酸樹脂
P−2:
D−乳酸ユニット含有割合5mol%、PMMA換算の重量平均分子量19万のポリL−乳酸樹脂
P−3:
P−1と、PMMA換算の重量平均分子量1万のポリD−乳酸樹脂(L−乳酸ユニット含有割合1mol%)を質量比90:10で混合したもの。
P−4:
P−1と、PMMA換算の重量平均分子量1万のポリD−乳酸樹脂(L−乳酸ユニット含有割合1mol%)を質量比60:40で混合したもの。
[結晶核剤]
実施例で用いた結晶核剤について示す。
Q−1:
エチレンビスラウリル酸アミド(EBLA)
Q−2:
エチレンビスステアリン酸アミド(EBSA)
Q−3:
ビス(p−メチルベンジリデン)ソルビトール
[脂肪族ポリエステル系成形体の作製]
(実施例1)
脂肪族ポリエステル樹脂(P−1)とエチレンビスラウリル酸アミド(Q−1)を質量比99:1でベント式二軸押出機に供給し、口金温度を200℃に設定したTダイ口金より押出し、静電印加方式により、30℃のキャスティングドラムに密着させ冷却固化し、無配向キャストシートを得た。
【0107】
続いてこの無配向キャストシートを、120℃に加熱したシリコーンロール上を、接触時間が10秒間となるように搬送させ、次いで30℃の冷却ロール上を搬送させてシート温度を下げ、厚さ0.40mmの無配向シートを得た。
【0108】
次に、得られた無配向シートを枚葉サンプルにカットして真空成形機にセットし、350℃に加熱したセラミックヒーターで15秒間加熱した後、50℃にセットしたアルミ製金型に10秒間真空圧着させ、直径80mm、高さ5mmの円柱状容器を得た。
【0109】
得られた成形体の耐熱性、透明性、耐衝撃性は良好であった。
【0110】
(実施例2、4〜6)
成形体を構成する脂肪族ポリエステル樹脂、結晶核剤を、表1のように変えた以外は実施例1と同様に実施した。
【0111】
(実施例3)
実施例1と同様にして得られた無配向シートを枚葉サンプルにカットして真空成形機にセットし、350℃に加熱したセラミックヒーターで15秒間加熱した後、90℃にセットしたアルミ製金型に60秒間真空圧着させて実施例1と同形状の成形体を得た。
【0112】
得られた成形体の耐熱性、透明性、耐衝撃性は良好であった。
【0113】
(実施例7)
脂肪族ポリエステル樹脂(P−3)とエチレンビスラウリル酸アミド(Q−1)を質量比99:1でベント式二軸押出機に供給し、200℃で溶融混練したのち、180℃に冷却したTダイ口金より押出し、静電印加方式により、30℃のキャスティングドラムに密着させ冷却固化し、無配向キャストシートを得た。
【0114】
続いてこの無配向キャストシートを、120℃に加熱したシリコーンロール上を、接触時間が10秒間となるように搬送させ、次いで30℃の冷却ロール上を搬送させてシート温度を下げ、厚さ0.40mmの無配向シートを得た。
【0115】
次に、得られた無配向シートを枚葉サンプルにカットして真空成形機にセットし、350℃に加熱したセラミックヒーターで15秒間加熱した後、50℃にセットしたアルミ製金型に10秒間真空圧着させて実施例1と同形状の成形体を得た。
【0116】
得られた成形体の耐熱性、透明性、耐衝撃性は良好であった。
【0117】
(実施例8)
成形体を構成する脂肪族ポリエステル樹脂を表1のように変えた以外は実施例7と同様に実施した。
【0118】
(実施例9)
層A用の樹脂として、脂肪族ポリエステル樹脂(P−1)と、エチレンビスラウリル酸アミド(Q−1)を質量比99:1で、また、層B用の樹脂として、脂肪族ポリエステル樹脂(P−2)とエチレンビスラウリル酸アミド(Q−1)を質量比99:1で、それぞれ別々のベント式二軸押出機に供給し200℃で溶融混練したのち、層構成がA/B/Aとなるよう複合化、Tダイ口金より共押出し、静電印加方式により、30℃のキャスティングドラムに密着させ冷却固化し、無配向キャストシートを得た。
【0119】
続いてこの無配向キャストシートを、120℃に加熱したシリコーンロール上を、接触時間が10秒間となるように搬送させ、次いで30℃の冷却ロール上を搬送させてシート温度を下げ、厚さ0.40mmの無配向シートを得た。
【0120】
次に、得られた無配向シートを枚葉サンプルにカットして真空成形機にセットし、350℃に加熱したセラミックヒーターで15秒間加熱した後、50℃にセットしたアルミ製金型に10秒間真空圧着させて実施例1と同形状の成形体を得た。
【0121】
得られた成形体の耐熱性、透明性、耐衝撃性は良好であった。
【0122】
(実施例10〜12)
成形体を構成する脂肪族ポリエステル樹脂、結晶核剤を、表1のように変えた以外は実施例8と同様に実施した。
【0123】
(実施例13)
層A用の樹脂として、脂肪族ポリエステル樹脂(P−3)と、エチレンビスラウリル酸アミド(Q−1)を質量比99:1で、また、層B用の樹脂として、脂肪族ポリエステル樹脂(P−2)とエチレンビスラウリル酸アミド(Q−1)を質量比99:1で、それぞれ別々のベント式二軸押出機に供給し200℃で溶融混練したのち、層構成がA/B/Aとなるよう複合化、180℃に冷却したTダイ口金より共押出し、静電印加方式により、30℃のキャスティングドラムに密着させ冷却固化し、無配向キャストシートを得た。
【0124】
続いてこの無配向キャストシートを、120℃に加熱したシリコーンロール上を、接触時間が10秒間となるように搬送させ、次いで30℃の冷却ロール上を搬送させてシート温度を下げ、厚さ0.40mmの無配向シートを得た。
【0125】
次に、得られた無配向シートを枚葉サンプルにカットして真空成形機にセットし、350℃に加熱したセラミックヒーターで15秒間加熱した後、50℃にセットしたアルミ製金型に10秒間真空圧着させて実施例1と同形状の成形体を得た。
得られた成形体の耐熱性、透明性、耐衝撃性は良好であった。
【0126】
以上の実施例の結果を表1、表2に示す。
【0127】
(比較例1)
脂肪族ポリエステル樹脂(P−1)をベント式二軸押出機に供給し、口金温度を200℃に設定したTダイ口金より押出し、静電印加方式により、30℃のキャスティングドラムに密着させ冷却固化し、厚さ0.40mm無配向キャストシートを得た。
【0128】
次に、得られた無配向シートを枚葉サンプルにカットして真空成形機にセットし、350℃に加熱したセラミックヒーターで15秒間加熱した後、50℃にセットしたアルミ製金型に10秒間真空圧着させて実施例1と同形状の成形体を得た。
【0129】
得られた成形体の結晶化度は本発明の範囲に入っておらず、成形体の耐熱性が不十分であった。
【0130】
(比較例2)
実施例1と同様にして得られた無配向シートを枚葉サンプルにカットして真空成形機にセットし、350℃に加熱したセラミックヒーターで15秒間加熱した後、120℃にセットしたアルミ製金型に10分間真空圧着させて実施例1と同形状の成形体を得た。
【0131】
得られた成形体のヘーズは本発明の範囲に入っておらず、成形体の透明性、耐熱性が不十分であった。
【0132】
(比較例3)
実施例1と同様にして得られた無配向キャストシートを、120℃に加熱したシリコーンロール上を、接触時間が60秒間となるように搬送させ、次いで30℃の冷却ロール上を搬送させてシート温度を下げ、厚さ0.40mmの無配向シートを得た。
【0133】
次に、得られた無配向シートを枚葉サンプルにカットして真空成形機にセットし、350℃に加熱したセラミックヒーターで15秒間加熱した後、50℃にセットしたアルミ製金型に10秒間真空圧着させて実施例1と同形状の成形体を得た。
【0134】
得られた成形体の結晶化度、ヘーズは本発明の範囲に入っておらず、成形体の材料となるシートの成形性、成形体の透明性が不十分であった。
【0135】
以上の比較例の結果を表2に示す。
【0136】
【表1】

【0137】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0138】
本発明の脂肪族ポリエステル系成形体は、商品の展示包装用に用いられているブリスターパックなどの保形具類、食品トレー、飲料自動販売機のディスプレイ用ボトル、お弁当箱や飲料カップなどの容器類、その他各種包装用の成形体、表面材などの各種工業材料を始めとして、広い用途に適用することができる。
【0139】
本発明の脂肪族ポリエステル系成形体の原料となるシートは、真空成形、真空圧空成形、プラグアシスト成型、ストレート成形、フリードローイング成形、プラグアンドリング成形、スケルトン成形などの各種成形法を適用でき、高い成形性を有する。また、耐熱性および透明性、耐衝撃性が要求される各種保形具類、容器などの包装材料に特に好ましく用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族ポリエステルからなるシートを成形して得られる成形体であって、結晶化度χAが3〜60%である脂肪族ポリエステルからなる層Aを少なくとも有し、かつ、成形体のヘーズが10%以下であることを特徴とする脂肪族ポリエステル系成形体。
【請求項2】
前記層Aが結晶核剤を含有することを特徴とすることを特徴とする請求項1に記載の脂肪族ポリエステル系成形体。
【請求項3】
前記結晶核剤を含有する脂肪族ポリエステルからなる層Aが、前記結晶核剤と水素結合性を有する化合物を含有することを特徴とする請求項2に記載の脂肪族ポリエステル系成形体。
【請求項4】
前記脂肪族ポリエステルからなる層Aが、結晶核剤として、脂肪族カルボン酸アミド、およびN−置換尿素からなる群より選ばれる少なくとも1種と、結晶核剤と水素結合性を有する化合物として、脂肪族アルコール類、ソルビトール系化合物、アミノ酸、およびポリペプチドからなる群より選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項3に記載の脂肪族ポリエステル系成形体。
【請求項5】
結晶化度χBが下記の関係式を満たす脂肪族ポリエステルからなる層Bを少なくとも有することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の脂肪族ポリエステル系成形体。
χA>χB
【請求項6】
前記層Aおよび/または層Bの脂肪族ポリエステルがポリ乳酸であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の脂肪族ポリエステル系成形体。
【請求項7】
前記ポリ乳酸が、ポリL−乳酸と、ポリD−乳酸の混合物からなることを特徴とする請求項6に記載の脂肪族ポリエステル系成形体。
【請求項8】
前記層Aを構成するポリL−乳酸中のD−乳酸ユニットの含有割合Da(mol%)と、前記層Bを構成するポリL−乳酸中のD−乳酸ユニットの含有割合Db(mol%)が下記の関係式を満たすことを特徴とする請求項6または7に記載の脂肪族ポリエステル系成形体。
Da<Db
【請求項9】
成形体中に含まれる乳酸オリゴマー成分量が0.3質量%以下であることを特徴とする請求項6〜8のいずれかに記載の脂肪族ポリエステル系成形体。

【公開番号】特開2009−179773(P2009−179773A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−22456(P2008−22456)
【出願日】平成20年2月1日(2008.2.1)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】