説明

脚式移動ロボット

【課題】駆動制御性の良好な膝関節角を増加させることが可能な脚式移動ロボットを提供する。
【解決手段】ロボット1は、上腿リンク32と下腿リンク34を連結する膝関節16とを有する脚体2を備える。膝関節16は、一端が下腿リンク34の軸40に対して回転自在に連結され、他端が上腿リンク32の軸42に回転自在に連結される連結ロッド44と、下腿リンク34の軸60と上腿リンク32の軸56との間の距離を、電動モータ40による駆動力により変化させる距離変動機構50とを備える。膝関節16の屈曲角が0度のとき、軸40と軸42との間の距離と軸60と軸56との間の距離との和が、軸40と軸56との間の距離よりも小さい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脚式移動ロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
上体、及び、上体と上腿リンクを連結する股関節と、上腿リンクと下腿リンクを連結する膝関節と、下腿リンクと足平を連結する足首関節とを有する脚体を備え、脚体を駆動して移動する脚式移動ロボットが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、大腿リンク(上腿リンク)と下腿リンクとを連結する膝関節が膝Y軸(ピッチ軸)を有し、大腿リンクに配置された電動モータの出力がベルト及び減速機を介して膝Y軸に伝達されることが開示されている。下腿リンクの所定点は、膝Y軸を回転中心として、円状の軌跡を描いて大腿リンクに対して相対的に移動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−298997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に開示されたような脚式移動ロボットにおいては、膝関節がほぼ伸びきると、すなわち、膝関節の関節角(屈曲角)が0度近傍まで伸展すると、下腿リンクに駆動力を伝達しても、関節角はほとんど変化せず、駆動制御性が損なわれた状態に陥る。そのため、駆動制御性が良好な関節角までしか膝関節を伸展させることができない。
【0006】
従って、ロボットが直立状態の場合でも、膝関節をある程度屈曲させる必要があるので、膝関節にかかるトルクが大きく、駆動源が大型化、重量化するという問題が生じる。さらに、股関節及び足首関節を屈曲・伸展させる頻度が多くなるという問題も生じる。さらに、支持脚の膝関節を伸びきりに近い状態にできず、膝部が前方に飛び出し、遊脚の膝部と干渉しやすくなる。これに伴い、歩容の自由度が少なく、移動安定性(バランス性)に劣るという問題が生じる。
【0007】
本発明は、以上の点に鑑み、駆動制御性が良好な膝関節角を増加させることが可能な脚式移動ロボットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上体、及び、前記上体と上腿リンクを連結する股関節と、前記上腿リンクと下腿リンクを連結する膝関節と、前記下腿リンクと足平を連結する足首関節とを有する脚体を備え、該脚体を駆動して移動する脚式移動ロボットであって、一端が前記下腿リンクの第1の軸に対して回転自在に連結され、他端が前記上腿リンクの第2の軸に回転自在に連結される連結ロッドと、前記下腿リンクの第3の軸と前記上腿リンクの第4の軸との間の距離を、駆動源による駆動力により変化させる距離変動機構とを備え、前記膝関節の屈曲角が0度のとき、前記第1の軸と前記第2の軸との間の距離と前記第2の軸と前記第4の軸との間の距離との和が、前記第3の軸と前記第4の軸との間の距離よりも小さいこと特徴とする。
【0009】
本発明によれば、下腿リンクは、上腿リンクに対して距離変動機構により駆動され、その瞬間回転中心は第2の軸となる。そして、膝関節の屈曲角が0度のとき、第1の軸と第2の軸との間の距離と第2の軸と第4の軸との間の距離との和が、第3の軸と第4の軸との間の距離よりも小さい。そのため、第1の軸を中心とし前記和を半径とする円の底に、第4の軸が到達することはない。
【0010】
よって、上腿リンクの所定点と下腿リンクの所定点との間の距離を膝関節の屈曲角で微分した値が、膝関節の屈曲角が0度のとき0にならない。これにより、上記特許文献1に開示されたような脚式移動ロボットと異なり、膝関節が0度近傍のときでも、膝関節角を良好に駆動制御することが可能となる。
【0011】
そして、これに伴い、ロボットが直立状態のとき、膝関節を伸びきり、又は伸びきりに近い状態にすることが可能となり、膝関節にかかるトルクが減少するので、駆動源を小型化、軽量化することができる。さらに、股関節及び足首関節を屈曲・伸展駆動させる頻度、あるいはその駆動角度を減少することが可能となる。
【0012】
さらに、支持脚の膝関節を伸びきり、又は伸びきりに近い状態にすることが可能となり、膝部が前方に飛び出さず、遊脚の膝部が支持脚の膝部に干渉することが抑制されるので、歩容の自由度及び移動安定性が高まり、脚式移動ロボットは多彩な動作を行うことが可能となる。
【0013】
また、本発明において、一端が前記下腿リンクの第5の軸に対して回転自在に連結され、他端が前記上腿リンクの第6の軸に回転自在に連結される連結ロッドをさらに備えることが好ましい。この場合、この連結ロッドにより上腿リンクと下腿リンクとの相対移動が拘束され、相対移動が安定化する。
【0014】
また、本発明において、前記距離変動機構は、前記駆動源により前記第3の軸を中心に回転駆動される回転板と、一端が前記回転板の端部に回転自在に連結され、他端が前記第4の軸にて前記下腿リンクに回転自在に連結される連結ロッドとを備えることが好ましい。この場合、距離変動機構を簡易に構成することが可能となる。ただし、距離変動機構の構成はこれに限定されず、伸縮駆動ロッドやカム機構を用いたものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係る2足移動ロボットの概略構成を示す斜視図。
【図2】脚体の一部を示す側面図。
【図3】膝関節のリンク構成を説明する図。
【図4】膝関節角と長さ変化との関係を示すグラフ。
【図5】膝関節角と速比との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態に係る脚式移動ロボットについて、2足移動ロボット1(以下、単にロボット1という)を例にとって説明する。
【0017】
図1に示すように、ロボット1は、左右一対の脚体2R,2Lと、両脚体2R,2Lの基端部(上端部)に連結された上体4とを備えており、接床する脚体2R,2Lによって上体4が床面の上方に支持されている。
【0018】
両脚体2R,2Lは同一構造であり、それぞれ6個の関節を備える。その6個の関節は上体4側から順に、股の回旋用(上体4に対するヨー方向の回転用)の関節10R,10Lと、股のロール方向(X軸まわり)の回転用の関節12R,12Lと、股のピッチ方向(Y軸まわり)の回転用の関節14R,14Lと、膝部のピッチ方向の回転用の関節16R,16Lと、足首部のピッチ方向の回転用の関節18R,18Lと、足首部のロール方向の回転用の関節20R,20Lとから構成されている。
【0019】
なお、本実施形態の説明では、符号R,Lはそれぞれ右側脚体、左側脚体に対応するものであることを意味する。また、X軸方向、Y軸方向は、水平面上で互いに直交する2軸方向であり、X軸方向はロボット1の前後方向(ロール軸方向)、Y軸方向はロボット1の左右方向(ピッチ軸方向)に相当する。また、Z軸方向は鉛直方向(重力方向)であり、ロボット1の上下方向(ヨー軸方向)に相当する。
【0020】
各脚体2R(L)の関節10R(L),12R(L),14R(L)によって3自由度の股関節が構成され、関節16R(L)によって1自由度の膝関節が構成され、関節18R(L),20R(L)によって2自由度の足首関節が構成されている。
【0021】
そして、股関節10R(L),12R(L),14R(L)と膝関節16R(L)とは上腿リンク32R(L)で連結され、膝関節16R(L)と足首関節18R(L),20R(L)とは下腿リンク34R(L)で連結されている。また、各脚体2R(L)の足首関節18R(L),20R(L)の下部に、各脚体2R(L)の先端部(下端部)を構成する足平22R(L)が取着されている。また、各脚体2R(L)の上端部(基端部)が、股関節10R(L),12R(L),14R(L)を介して上体4に連結されている。
【0022】
各脚体2R(L)の上記構成により、各脚体2R(L)の足平22R(L)は、上体4に対して6自由度を有する。そして、ロボット1の移動に際して両脚体2R,2Lを合わせて6×2=12個の関節をそれぞれ適宜な角度に駆動することで、両足平22R,22Lの所望の運動を行うことができる。これにより、ロボット1は歩行動作や走行動作等、3次元空間を移動する運動を行うことが可能となっている。
【0023】
なお、図示は省略するが、本実施形態では、上体4の上部の両側部には左右一対の腕体が取り付けられると共に、上体4の上端部には頭部が搭載されている。そして、各腕体は、それに備える複数の関節(肩関節、肘関節、手首関節など)によって、該腕体を上体4に対して前後に振る等の運動を行うことが可能となっている。ただし、これらの腕体及び頭部はなくてもよい。
【0024】
各脚体2R(L)の足首関節18R(L),20R(L)と足平22R(L)との間には6軸力センサ36R(L)が介装されている。この6軸力センサ36R(L)は、床から足平22R(L)を介して各脚体2R(L)に伝達される床反力の3軸方向の並進力成分及び3軸まわりのモーメント成分を検出し、その検出信号を図示しない制御ユニットに出力する。
【0025】
次に、脚体2R(L)の膝関節16R(L)の構成について説明する。脚体2R(L)は、左右対称であり、ここでは、膝関節16Rについて説明する。なお、他の関節は、例えば本願出願人が特開平3−184782号などで提案した公知の構造のものなど、任意の構造であってよい。
【0026】
図2に示すように、膝関節16Rは、一端が下腿リンク34Rの軸(第1の軸)40に対して回転自在に連結され、他端が上腿リンク32Rの軸(第2の軸)42に回転自在に連結される連結ロッド44を備えている。軸40の軸心A及び軸42の軸心Bは、共にZ軸方向に平行に設けられている。
【0027】
さらに、膝関節16Rは、膝関節16Rを屈曲・伸展させる駆動機構50を備えている。この駆動機構50は、下腿リンク34Rの軸(第3の軸)52と上腿リンク32Rの軸(第4の軸)54との間の距離を変化させる距離変動機構でもある。
【0028】
具体的には、駆動機構50は、上腿リンク32Rに設けられた電動モータ56と、電動モータ56の出力がベルト58を介して減速機構60から伝達され、軸54回りに回転駆動される回転板62と、一端が回転板62の端部に回転自在に連結され、他端が軸52に回転自在に連結された連結ロッド64とから構成されている。
【0029】
軸52の軸心C及び軸54の軸心Dは、共にZ軸方向に平行に設けられている。そして、膝関節の関節角(屈曲角)θが0度のとき、軸40と軸42との間の距離と軸42と軸54との間の距離との和が、軸52と軸54との間の距離よりも小さくなっている。
【0030】
さらに、膝関節16Rは、一端が下腿リンク34Rの軸(第5の軸)70に対して回転自在に連結され、他端が上腿リンク32Rの軸(第6の軸)72に回転自在に連結される連結ロッド74を備えている。軸70の軸心E及び軸72の軸心Fは、共にZ軸方向に平行に設けられている。
【0031】
次に、膝関節16Rの動作について説明する。図3の模式図も参照して、下腿リンク34Rは、点Aは上腿リンク32Rの点Bを中心に回転自在であるが、点Cは駆動機構により上腿リンク32Rの点Dからの距離が変化するように構成されている。さらに、下腿リンク34Rは、上腿リンク32Rに対する相対変位に拘わらず、上腿リンク32Rの点Fから点Eまでの距離が拘束され一定である。
【0032】
このようにして、膝関節16Rは屈伸可能となっており、下腿リンク34Rは点Aを瞬間的な回転中心として上腿リンク32Rに対して相対回転駆動されるが、下腿リンク34Rの上腿リンク32Rに対する相対変位は一意的に定まる。
【0033】
下腿リンク34Rの下端点H(足首関節18Rの回転軸心)の移動軌跡80は、図3に細線で示すように、点Bを中心とした略楕円状となる。一方、上記特許文献1に記載のように上腿リンクに対する下腿リンクの回転中心が一定である従来のロボットの場合、下腿リンクの下端点の移動軌跡82は、図3に点線で示すように、円形状となる。
【0034】
図4には、上腿リンク32Rに対する下腿リンク34Rの長さ変化と膝関節16Rの関節角θとの関係が示されている。ここで、上腿リンク32Rに対する下腿リンク34Rの長さ変化は、上腿リンク32Rの上端点G(股関節14Rの回転軸心)と下腿リンク34Rの下端点Hとの間の距離を関節角θで微分した長さ変化としてある。
【0035】
従来のロボットの場合、図4に点線で示すように、関節角θが0度のとき、長さ変化は0となる。これは、関節角θが0度近傍のとき、関節角θを変化させるように駆動させても、点Hがほとんど移動せず、駆動制御性が劣ることを意味する。従って、長さ変化が所定以上の値になる関節角θ2以上の範囲で駆動制御を行っていた。
【0036】
一方、本実施形態に係るロボット1の場合、図4に実線で示すように、関節角θが0度のとき、長さ変化は0とならない。これは、関節角θが0度近傍のとき、関節角θを変化させるように駆動させると、点Hが移動し、駆動制御性が良好であることを意味する。
【0037】
さらに、従来と同様に長さ変化が所定以上の値になる関節角θ1以上の範囲で制御を行うと、従来に対してΔθ(=θ1−θ2)だけ、駆動制御性が良好な関節角θの範囲が増加し、膝関節16Rをより伸展させることが可能となる。
【0038】
さらに、図5には、膝関節16Rの回転速度を回転板58の回転速度で除した速比と関節角θとの関係が示されている。これより、膝関節16Rは、膝関節角θが0度近傍のとき、速比が増加する増速機能を有することが理解され、これによっても、膝関節16Rの駆動制御性は良好となる。
【0039】
以上のように、ロボット1は、従来のロボットより、さらにΔθだけ関節角θを小さくして膝関節16を伸展させることができる。そのため、ロボット1が直立状態のとき、膝関節16を伸びきりに近付けることが可能となり、膝関節16にかかるトルクが減少するので、電動モータ56を小型化、軽量化することができる。
【0040】
さらに、股関節14及び足首関節18を屈曲・伸展駆動させる頻度、あるいはその駆動角度を減少させることが可能となる。さらに、支持脚の膝関節16を伸びきりに近い状態にすることが可能となり、膝部が前方に飛び出さず、遊脚の膝部が支持脚の膝部に干渉することが抑制され、歩容の自由度及び移動安定性が高まり、ロボット1は多彩な動作を行うことが可能となる。
【0041】
なお、以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、実施形態では、駆動機構をクランク・ロッド機構で構成した場合について説明したが、これに限定されない。直動駆動ロッドやカム機構を用いて距離変動機構を構成してもよい。
【0042】
さらに、各関節の構成や関節軸部の配置は、実施形態に限定されない。例えば、7自由度以上や5自由度以下の自由度を有するように関節軸部を構成してもよい。
【0043】
さらに、2足移動ロボットに限定されない。例えば、獣や昆虫等を模した4足移動ロボットや6足移動ロボット等であってもよい。
【符号の説明】
【0044】
1…2足移動ロボット(脚式移動ロボット)、 2R,2L…脚体、 16R,16L…膝関節、 32R,32L…上腿リンク、 34R,34L…下腿リンク、 40…軸(第1の軸)、 42…軸(第2の軸)、 44…連結ロッド、 50…駆動機構、距離変動機構、 52…軸(第3の軸)、 54…軸(第4の軸)、 56…電動モータ(駆動源)、 62…回転板、 64…連結ロッド、 70…軸(第5の軸)、 72…軸(第6の軸)、 74…連結ロッド。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上体、及び、前記上体と上腿リンクを連結する股関節と、前記上腿リンクと下腿リンクを連結する膝関節と、前記下腿リンクと足平を連結する足首関節とを有する脚体を備え、該脚体を駆動して移動する脚式移動ロボットであって、
一端が前記下腿リンクの第1の軸に対して回転自在に連結され、他端が前記上腿リンクの第2の軸に回転自在に連結される連結ロッドと、
前記下腿リンクの第3の軸と前記上腿リンクの第4の軸との間の距離を、駆動源による駆動力により変化させる距離変動機構とを備え、
前記膝関節の屈曲角が0度のとき、前記第1の軸と前記第2の軸との間の距離と前記第2の軸と前記第4の軸との間の距離との和が、前記第3の軸と前記第4の軸との間の距離よりも小さいこと特徴とする脚式移動ロボット。
【請求項2】
前記上腿リンクの所定点と前記下腿リンクの所定点との間の距離を前記膝関節の屈曲角で微分した値が、前記膝関節の屈曲角が0度のとき0にならないように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の脚式移動ロボット。
【請求項3】
一端が前記下腿リンクの第5の軸に対して回転自在に連結され、他端が前記上腿リンクの第6の軸に回転自在に連結される連結ロッドをさらに備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の脚式移動ロボット。
【請求項4】
前記距離変動機構は、
前記駆動源により前記第3の軸を中心に回転駆動される回転板と、
一端が前記回転板の端部に回転自在に連結され、他端が前記第4の軸にて前記下腿リンクに回転自在に連結される連結ロッドとを備えることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の脚式移動ロボット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−251396(P2011−251396A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−128490(P2010−128490)
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】