説明

脱泡剤としてのセルロースミクロフィブリル

本発明は、硬化工程に供される粘稠な組成物における脱泡剤としてのミクロフィブリル化セルロース(MFC)の使用に関する。本発明による脱泡剤は、硬化工程の前、または硬化工程の最中に添加され、特には、乾燥、冷却および/または硬化の工程の前、または該工程の最中に添加される。また、本発明は、明細書中にてさらに説明されているとおり、MFCを脱泡剤として含む粘稠な組成物であって、物品に用いられるものに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つの固化ステップに供される粘稠な組成物中の脱泡剤としてのミクロフィブリル化セルロース(MFC)の使用に関する。本発明による脱泡剤は、少なくとも一つの固化ステップの前、または該固化ステップの最中に添加される。
【0002】
また、本発明は、(i)少なくとも一つの固化ステップにて硬化可能な少なくとも一種のポリマーと、(ii)少なくとも一種のミクロフィブリル化セルロースとを、少なくとも含む粘稠な組成物に関する。
【0003】
また、本発明は、基材と、粘稠な組成物を固化した固化物とからなる物品(物品ないしは物)であって、この固化物が、(i)少なくとも一つの固化ステップにて硬化可能な少なくとも一種のポリマーと、(ii)少なくとも一種のミクロフィブリル化セルロースとを、少なくとも含むものに関する。
【0004】
固化した組成物の表面における面積空孔密度は、100個/cm2未満であり、好ましくは10個/cm2未満、より好ましくは1個/cm2未満である。
【背景技術】
【0005】
固化ステップに供される粘稠な組成物の一般的な問題、特には乾燥及び/または硬化(反応による硬化)の工程における問題は、粘稠な組成物が塗布されたならば、例えば基材に塗布されたならば、空気が粘稠な組成物の内部にトラップされ得ることである。空気のトラップは、塗布の工程中に起きるか、または、初めから存在していたものである。粘稠な組成物の粘性及び保持特性に基づき、固化、例えば、乾燥及び/または硬化が、トラップされた空気の放出よりも速く行われることがある。これにより、塗布されて固化がなされた最終の組成物の内部または表面に、一般に不所望である泡または空孔が生じる。この泡または空孔の発生は、特には、基材や表面に塗布された、塗料、ポリマーコーティング層、接着剤またはゲルコートにとり、問題となる。
【0006】
したがって、流れの制御が問題となる点であり、また、特には、塗布された塗膜やコーティング層からの空気の拡散が遅いことが問題となる。粘稠な組成物の固化物または乾燥物における空孔率は、塗布及び/または吹き付け工程中に導入された空気の噛み込みの結果である。すなわち、ウェット状態(液状物が残る状態)にあるコーティング層中にて安定化され、コーティング層が硬化する前に組成物の外へと放散できない小さい気泡に基づく、あるレベルの空孔率は、ある種のチクソトロピー付与剤の存在によって事実上悪化しうる。チクソトロピー付与剤は、他の点では、塗布工程にとり有益である。空気の噛み込みを低減し、この結果として空孔の形成を低減させるためには、多くの場合、空孔形成を低減する脱泡剤を添加する必要がある。特には、チクソトロピー付与剤をも含む組成物に、脱泡剤を添加する必要がある。
【0007】
空孔または気泡がコーティング層の質(例えば、靭性、光沢、経時安定性、耐水性、耐候(紫外線)性等)を低下させる傾向にあるので、最終コーティング層における空隙率は、いかなるタイプのものであっても、望ましくない。これらの空孔の壁は、徐々にオゾンと紫外線への暴露により、分解を受ける。微細な破片、汚染物質やこびりつく汚れが、空孔内に溜まり、酸化のプロセスを加速して、内側からコーティング層を腐食させる。基材に塗布されて硬化または乾燥された粘稠な組成物中における空孔の生成は、このような粘稠な組成物を基材に塗布する際の一般的な問題であり、修復及び仕上げにかなりのコストが追加される。
【0008】
ある類型のミクロフィブリル化セルロースを、修飾・改変して、または修飾・改変せずに、コーティング剤またはその他の粘稠な組成物に対するレオロジー添加剤として用いることは、従来技術により知られている。例えば、国際公開WO 02/18486及びヨーロッパ特許EP 726 356より知られている。しかし、これらの出願には、空孔形成の問題についての言及がない。
【0009】
国際公開WO 02/18486によると、親水性の不溶性セルロース(特にはバクテリアセルロース)は、水非混和性液体のための「レオロジー改変剤」として機能することができる。セルロース繊維の表面の水酸基が、水素結合により特定の補助添加剤と会合して、水に非混和性の液体中で安定させることができる。得られる溶液は、以下のようなレオロジー特性が改良されている。すなわち、(1)シェルフライフ引き延ばしのためのコロイド及び粒子の長期的な懸濁安定性、(2)ある温度条件の範囲下での安定性の向上、(3)ずり(せん断;剪断)力が加わった際の高度の擬塑性、(4)低濃度での有効性、及び、(5)最も重要である、水または親水性の液体の存在を要しない機能性などのレオロジー特性が改良されている。国際公開WO 02/18486によると、レオロジー特性を向上させた組成物は:(a)親水性の不溶性セルロースと、(b)親水性の不溶性セルロースと水素結合を形成することができる助剤とを含む。この助剤は、水非混和性の液体に溶解可能であり、以下を含む産業用用途に用いられている。すなわち、石油掘削液、塗料の溶剤、溶剤型または無溶剤型エポキシ樹脂系、産業用の潤滑油及びグリース、薄膜及び粉体塗料、並びに、植物油を含む産業用用途に用いられている。
【0010】
ヨーロッパ特許EP726356には、新規のミクロフィブリル化セルロース、及び、これを一次壁の植物パルプから生産する方法が示されている。特には、ショ糖抽出後のテンサイのパルプから生産する方法が示されている。ヨーロッパ特許EP 726 356のセルロースは、レオロジー的な流動性及びチクソトロピーを付与する添加剤であり、主として、残渣量のペクチンまたはヘミセルロースと会合しているセルロースからなり、このペクチンまたはヘミセルロースが、特定の物理的および化学的性質を付与する。特には、非常に高い化学反応性、非常に大きいアクセス可能な表面領域、優れた保水能力、高い懸濁性、及び増粘能力を付与する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】フランス特許出願公開FR2867193A
【特許文献2】国際公開WO 2005/056666A
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】LIU, et al; Polymer 49(5),1285-1296 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記に鑑み、本発明の一つの目的は、粘稠な組成物において、特には、樹脂系組成物、ペースト、接着剤、エポキシプライマー、ゲルコート、塗料、複合成形材、マスチック組成物またはポリマー混合物であって、塗布または硬化した粘稠な組成物中における空孔の形成または存在を最小化または防止するものを提供することである。より好ましい目的によると、粘稠な組成物中における、市販の空気放出添加剤の使用についての省略及び/または最小化が可能である。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0014】
この目的(およびその他の目的)は、硬化可能な少なくとも一つのポリマーを含む粘稠な組成物中における脱泡剤として、ミクロフィブリル化セルロースを用いることによって解決される。
【0015】
ここで、ミクロフィブリル化セルロースは、硬化工程の前、または最中に、粘稠な組成物中に添加される。
【0016】
このような一つまたは複数の目的は、(i)少なくとも1つの硬化段階にて硬化された少なくとも一種のポリマー材料と、(ii)少なくとも一種のミクロフィブリル化セルロースとを少なくとも含む粘稠な組成物によっても解決される。
【0017】
このような一つまたは複数の目的は、基材と、粘稠な組成物の固化物とからなる物品であって、前記の粘稠な組成物の固化物が、(i)少なくとも1つの硬化段階にて硬化された少なくとも一種のポリマー材料と、(ii)少なくとも一種のミクロフィブリル化セルロースとを含むものによっても解決される。
【0018】
粘稠な組成物と物品とのいずれにおいても、粘稠な組成物の固化物の表面における空孔密度は、100個/cm2未満、好ましくは10個/cm2未満、さらに好ましくは1個/cm2未満である。
【0019】
本発明によれば、「粘稠な組成物」は、ゼロせん断粘度が、少なくとも水の粘度の10倍より大きい組成物である。すなわち10mPa・sより大きい。好ましくは100mPa・sより大きく、より好ましくは500mPa・sより大きく、さらに好ましくは1000 mPa・sより大きい。
【0020】
「ゼロせん断粘度」は、低せん断速度の限界で測定した粘度である。すなわち、組成物が、静止し、かく乱されない状態にあるときに、究極的に得られる粘度である。流動曲線は、よく知られており、塗料やコーティング産業にて通常用いられている。別段の表示がない限り、用語「粘度」は、いずれも、標準条件で測定されたゼロせん断粘度、特には、
室温及び大気圧にて測定されたゼロせん断粘度を指す。「ゼロせん断」に非常に近い状態で測定された粘度、または、「ゼロせん断」に近づいて行く際に測定した粘度も、本発明でいうところの「ゼロせん断粘度」である。
【0021】
好ましくは、前記物品において、前記の組成物の固化物は、少なくとも1μm以上、少なくとも5μm以上、少なくとも20μm以上、または、少なくとも100μmの厚さのフィルム/層またはコーティング層として基材上に存在する。さらに好ましくは、内側の表面と、外側の表面とがあり、外側の表面、すなわち、所定用途にて観察者の側を向く面は、比較のための基準面として使用される。
【0022】
好ましい粘稠な組成物の例は以下のとおりである。すなわち、樹脂、ペースト、接着剤、ゲルコート、塗料、複合材料成形品、マスチック組成物、エポキシプライマー、または、一般的なポリマーの混合物である。ポリマー混合物は、好ましくは、熱可塑性または熱硬化性の、フィルムや材料を形成するものである。
【0023】
本発明の特に好ましい実施形態によると、粘稠な組成物は、ミクロフィブリル化セルロース以外に、他のチクソトロピー付与剤、及び/または、他のずり減粘性付与剤、及び/または、他の脱泡剤を含まない(すなわち、これら三者の任意の組み合わせを含まない)。本実施形態によると、ミクロフィブリル化セルロースは、唯一の脱泡剤、及び/または、チクソトロピー付与剤、及び/または、ずり減粘性付与剤として使用される。チクソトロピー付与剤、及び/または、ずり減粘性付与剤を加えると、通常、空孔率に悪影響を及ぼす(すなわち、空孔率を増大させる)という事実に鑑みると、ミクロフィブリル化セルロースの使用が、チクソトロピー付与剤、及び、ずり減粘性付与剤としての、相乗効果を有することは、特に有益である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】MFCを脱泡剤とし用いるという本発明により調製したゲルコートの表面を示す。表面空孔密度の平均値は、1個/cm2を大きく下回っている。格子としての正方形は1cm×1cmである。
【図2】ミクロフィブリル化セルロースの代わりに従来の添加剤であるシリカが含まれていることのみ異なり、これ以外では図1と同一であるゲルコートの表面を示す。この場合、300個/cm2より多い空孔が認められた(写真中、白っぽい点として見える)。
【図3】他の比較用サンプル(シリカをチクソトロピー付加剤として用い、ミクロフィブリル化セルロースを含まないもの)の表面を、より高い倍率にて示す。黒と白のサイドバーは、各辺の側で5mmを示す。このサンプルについて、平均で632個/cm2と計数された。
【図4】図3のサンプルと全く同様に調製されたが、シリカの代わりにミクロフィブリル化セルロースが用いられたゲルコートのサンプルの表面を示す。ミクロフィブリル化セルロースが、唯一の脱泡剤であり、また、唯一のチクソトロピー付加剤である。ここでは、実質上、空孔が認められなかった(0.1個/cm2)。
【図5】『ミクロフィブリル化セルロースに加えて』従来の脱泡剤も同様に追加した点のみ異なり、その他は図4に示すのと同一であるサンプルを示す。ここで、0.07個/cm2の空孔がカウントされた。すなわち、ミクロフィブリル化セルロースの脱泡性能は、他の脱泡剤の添加による影響を受けない。これは、本発明によるゲルコートが、界面活性剤の影響に対して強いことを示している。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の趣旨における「ミクロフィブリル化セルロース(MFC)」は、種々の原料に由来するセルロース繊維に関するものである。本発明のミクロフィブリル化セルロース(MFC)は、特には、機械的な処理を施すことで、比表面積を増大させ、断面積及び長さの点でのサイズを低減させたセルロースである。このサイズの低減により、繊維径はナノメートルの領域となり、繊維長はマイクロメートルの領域となっている。
【0026】
本発明によるミクロフィブリル化セルロースは、官能基について、修飾・改変しないままとすることもでき、また、化学的修飾、物理的改変、またはこれら修飾及び改変の両方を施しておくことができる。
【0027】
セルロースミクロフィブリルの表面の化学修飾は、好ましくは、セルロースミクロフィブリルの表面官能基の種々の可能な反応により、より具体的には水酸基と化合物との反応により行われる。好ましくは、シリル化反応、エーテル化反応、イソシアネートとの縮合、アルキレンオキシドによるアルコキシル化反応、または、グリシジル誘導体との縮合または置換反応によって行われる。
【0028】
セルロースミクロフィブリルは、物理的な手段によっても改変を施すことができる。表面での吸着、吹き付け、コーティング、または、ミクロフィブリルのカプセル化のいずれかにより改変を施すことができる。好適な改変ミクロフィブリルは、少なくとも一つの化合物を物理吸着させることで得ることができる。MFCは、両親媒性化合物(界面活性剤)との会合により改変させることもできる。
【0029】
MFCは、単独で存在するものでも、誘導体化MFC及び/または誘導体化セルロースと共存するものでもよい。特には、セルロースエーテル及び/またはセルロースエステルと共に存在するものでもよい。
【0030】
ミクロフィブリル化セルロースは、特には、米国特許US4,481,077、米国特許US4,374,702および米国特許US4,341,807に記載されている。米国特許US4,374,702("Turbak")によると、ミクロフィブリル化セルロースは、以前から知られているセルロース類から区別できる性質を有する。また、米国特許US4,374,702("Turbak")によると、MFCは、次のようにして得られる。セルロースの懸濁液が小径のオリフィスを通過するようにすることで、該懸濁液に、大きな圧力低下と高速ずり作用が加わるようにし、この後、高い減速衝撃が加えられるようにする。懸濁液について小径のオリフィスを通過させる操作を、セルロース懸濁液が実質的に安定な懸濁液になるまで繰り返す。この工程により、セルロース出発物質に実質上の化学的変化を引き起こすことなく、セルロースがミクロフィブリル化セルロースに変換される。
【0031】
特に均一なMFCを得るための改良されたプロセスは、国際公開WO2007/091942に記載されている。
【0032】
本発明のミクロフィブリル化セルロースは、好ましくは、次の特徴を有している。すなわち、AFM(原子間力顕微鏡)イメージングによって測定される数平均繊維幅、すなわち直径が、5nm〜100nmの範囲内、好ましくは10nm〜60nmの範囲内、さらに好ましくは20nm〜30nmの範囲内である。ナノメートルスケールの直径は、好ましくは、以下に、より詳しく述べる精製・均質化ステップによって達成される。このステップにより、ミクロフィブリル化繊維の直径についての、特に狭く均一な分布が得られる。
【0033】
好ましい実施形態によると、SCAN-C62:00(ISO 23714:2007)により決定される、本発明のミクロフィブリル化セルロースの保水値(WRV)は、300%より高く、好ましくは、400%よりも高く、より好ましくは500パーセントよりも高い。このような高い保水値は、以下に述べる製造方法により達成される。
【0034】
原則として、セルロースミクロフィブリルの原料は任意のセルロース材料であり、特には、木材、一年生植物、綿、亜麻、わら、ラミー、サトウキビからのバガス、特定の藻類、ジュート、テンサイ、柑橘類、食品加工産業の廃棄物、エネルギー作物、または、細菌由来のセルロース、または、例えばホヤといった動物起源のセルロース材料である。
【0035】
好ましい実施形態では、木質材料を原料とし木材パルプをミクロフィブリル化に用いる。木材パルプは、ヘミセルロースの含量が比較的高く、MFCを安定化し、フィブリル同士の分離の後の再凝集を防止する。好ましくは、ISO 692:1982によるS18-値として測定されたヘミセルロースの含有量が3%より大きく、更に好ましくは4%(w/w)より大きい。
【0036】
本発明によるミクロフィブリル化セルロースは、当技術分野における公知の任意のプロセスにより製造することができる。好ましくは、この製造方法が、少なくとも1つの機械的前処理工程と、少なくとも1つの均質化ステップとを含む。少なくとも一つの前処理工程は、好ましくは、精製工程であるか、またはこの精製工程を含むものである。
【0037】
少なくとも1つの機械的前処理工程の前に、または少なくとも2つの機械的前処理工程の間に、または機械的な前処理工程として、セルロースパルプの酵素(前)処理を行うことができる。この酵素(前)処理は、ある用途では好ましいことがある任意の追加ステップである。セルロースをミクロフィブリル化するとともに酵素前処理を行うことに関して、WO 2007/091942の各内容が、引用によって本明細書に組み込まれる。
【0038】
MFCを製造するための本発明のプロセスによると、機械的な前処理工程の目的は、セルロースパルプを「叩解」することで、細胞壁のアクセシビリティを向上させること、すなわち、表面積を増大させ、これにより保水性の値を増大させることである。したがって、この本製造方法の好ましい実施形態では、機械的な前処理中に、特には精製の段階中に、ミクロフィブリル化は、全く起こらないか、または、限られた程度だけ起きる。すなわち、繊維同士が分離され、アクセス可能なOH基をもつ自由表面が生成するが、繊維の寸法、特には、繊維の長さは、実質上、変化がないか、または、約半分に、または、これより少ない程度だけ低減される。
【0039】
機械的前処理工程で好ましく用いられるリファイナー中において、1つまたは2つの回転ディスクが採用されている。すなわち、セルロースパルプのスラリーにせん断力が加えられる。
【0040】
酵素(前)処理が行われる場合は、酵素は、好ましくは、少なくとも1つのそのような精製工程の後に追加される。
【0041】
均質化ステップが、好ましくは、少なくとも1つの機械的前処理工程の後に行われるが、この均質化ステップの目的は、セルロース繊維を、実際にミクロフィブリルの懸濁液にまで、ばらばらにすることである。
【0042】
このようにミクロフィブリル化されたセルロースは、好ましくは、高いアスペクト比を有する。アスペクト比は、ミクロフィブリル束における直径に対する長さの比(L/D)に相当する。この目的のために、パルプスラリーは、好ましくは、ホモジナイザー(高圧ホモジナイザーまたは低圧ホモジナイザー)を通過し、対向面の間、好ましくはオリフィスにパルプスラリーを押し込むことにより、圧力低下に供される。
【0043】
用語「オリフィス」は、開口、ノズルまたはバルブであって、セルロースを粉砕均質化処理するのに適したホモジナイザーに含まれているものを意味する。
【0044】
好ましい実施形態によると、粘稠な組成物のための成分としてのミクロフィブリル化セルロース(MFC)は、上記の粘稠な組成物における他の成分に添加する前に、少なくとも1つの乾燥工程に供される。少なくとも一つの乾燥工程は、好ましくは、凍結乾燥、スプレー乾燥、ローラー乾燥、対流式オーブンによる乾燥、フラッシュ乾燥などから選択される。しかし、一度も乾燥していないMFCを、本発明による脱泡剤として用いることもできる。
【0045】
一実施形態では、MFCを、少なくとも一つの添加剤と共に乾燥させる。本発明の好ましい実施形態によれば、少なくとも一つの添加剤は、界面活性剤、または、誘導体化したセルロースである。例えばセルロースエーテルまたはセルロースエステルである。
【0046】
一実施形態では、界面活性剤は、乾燥時に使用される添加剤として用いられる。界面活性剤の存在下での乾燥は、分散性を向上し、(有機)溶媒中での親水性のMFCの凝集を阻害し、経時的な沈降に対する安定性を確保するものと考えられている。非イオン性界面活性剤が好ましい。
【0047】
本発明の好ましい実施形態によると、MFCに対する界面活性剤の比率(界面活性剤/MFC)は、3:1以下であり、好ましくは1:1以下、さらに好ましくは1:3以下、好ましくは1:7以下である。後者の範囲は、粘稠な組成物としての塗料に特に有利である。
【0048】
一実施形態によれば、乾燥MFCを得るために凍結乾燥が行われる。この際、界面活性剤及び/または添加剤が、添加されるかまたは添加されない。
【0049】
粘稠な組成物は、上記のゼロせん断粘度の要件を満たしている限り、すなわち、ゼロせん断粘度が少なくとも10mPa・sより大きい限り、成分の種類や、成分の数や組成に関して、何ら限定されるものでない。
【0050】
本発明による好ましい粘稠な組成物は、ゲルコートである。ゲルコートは、好ましくはエポキシ樹脂や不飽和ポリエステル樹脂をベースにするものであって、基材に、保護または装飾のための外側の層として塗布されるものである。基材は、好ましくは、熱硬化性複合材料であるが、熱可塑性材料であることもある。ゲルコートは、硬化して架橋ポリマーを形成し、典型的には、複合ポリマーマトリックス、ポリエステル樹脂とガラス繊維との混合物、または、エポキシ樹脂とガラス及び/または炭素繊維との混合物により裏打ちされる。ゲルコートは、紫外線劣化や加水分解に対する抵抗性、特には水中でのブリスタ(コーティング膜ふくれ)に対する抵抗性を付与するような耐久性を備えるように設計されている。全ての粘稠な組成物と同様、本発明によるゲルコートは、好ましくは、基材に仕上げ色を付与する少なくとも一種の顔料を含有する。
【0051】
ゲルコートは、典型的には、海洋用途(ボート)に用いられる被覆複合体に用いるが、車体部材、風車部材、または、一般に、ガラス繊維強化不飽和ポリエステル樹脂またはエポキシ樹脂の部材に用いられる。特定用途に合わせたゲルコートを、成形品の製造に用いることができ、この成形品を部材の製造に用いる。このゲルコートには、硬化中及び離型工程中に生じる機械的および熱的ストレスに打ち勝つための、非常に高いレベルの耐久性が求められる。
【0052】
本発明に係るもう一つの好ましい粘稠な組成物は、コーティングや塗料組成物である。本発明によれば、好ましいコーティングは、基板上の保護及び/または装飾層を作成するために使用される塗料、ワニス、ラッカーまたは他の仕上げ材である。他のコーティングとしては、接着剤、プライマーまたは保護層であってもよい。
【0053】
本発明によれば、塗料は、薄層で基板に塗布後、不透明または透明の固形のコーティング膜に変換さる全ての液体、液状化可能な組成物、またはマスチック組成物である。固体状態でのコーティング膜の厚みは、少なくとも1μm、少なくとも5μm、少なくとも20μm、または少なくとも100μmである。
【0054】
プライマーのための好ましい厚みは少なくとも2μm〜5μmである。装飾的な自動車用途における好ましいコーティング膜の厚みは20μm〜40μmである。好ましい粉体塗料コーティングの厚みは、50μm〜100μmである。壁面(インテリア)の装飾用塗料コーティングの好ましい厚みは100μm〜500μmである。
【0055】
コーティングや塗料の一構成要素は、バインダーである。バインダーまたは樹脂は、塗装やコーティングにおける実際の膜形成成分である。好ましくは、バインダーは、ポリマーであるか、またはポリマーを含む。
【0056】
好ましくは、バインダーは、懸濁液中における顔料その他の(フィラー)の粒子を保持し、基材にこれらを付着させるためのコーティングの固形成分である。好ましくは、バインダーが樹脂(例えば、油、アルキド、ラテックス)を含む。アルキド樹脂バインダーは、油で変性された合成樹脂である。アルキド樹脂塗料は、バインダーにアルキド樹脂を含むコーティングである。
【0057】
バインダーは、好ましくは、接着性を付与し、顔料を相互に結合し、光沢性、外装の耐久性、柔軟性や強靭性などの特性に影響を与える。これらの性質は、一般に、気泡や空孔の形成により悪影響を受けるものである。
【0058】
バインダーは、それぞれの乾燥または硬化のメカニズム(すなわち固化のメカニズム)によって分類することができる。典型的な乾燥または硬化のメカニズムは、溶媒の蒸発、酸化的架橋、触媒重合または懸濁粒子の合体である。これらの乾燥および硬化のメカニズムなどは、本発明による固化ステップのための可能なメカニズムである。
【0059】
バインダーには、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、または油といった、合成または天然の樹脂が含まれる。このようなバインダーは、本発明の粘稠な組成物のいずれにおいても使用することができる。
【0060】
コーティングや塗料の一例は、エマルション(分散)コーティングや塗料である。エマルション塗料やエマルションコーティングは、好ましくは乳化剤の助けを借りて、水中に懸濁(分散)している樹脂で構成されている。
【0061】
コーティングや塗料の一例は、ラテックス塗料である。ラテックス塗料は、サブミクロンポリマー粒子の水性分散液である。塗料の文脈における用語「ラテックス」は、好ましくは水性分散液を意味する。なお、ラテックスゴム(歴史的にラテックスと呼ばれているゴムの木の樹液)成分とは限らない。この水性分散液は、乳化重合により調製される。ラテックス塗料は、融合合体と呼ばれるプロセスによって硬化する。このプロセスにより、まず、水が蒸発し、そして、微量の、または合体性の溶媒が蒸発して、ラテックスバインダー粒子を、引き合わし、柔らかくし、不可逆的に結合されたネットワーク構造へと融合させる。
【0062】
酸化的架橋により硬化する塗料は、好ましく単一パッケージ(一液性)のコーティングであり、塗布されると、大気中の酸素への暴露が、バインダー成分を架橋させて重合するプロセスを開始させる。古典的なアルキドエナメルは、このカテゴリーに分類される。
【0063】
触媒重合によって硬化する塗料は、一般に2つのパッケージ(二液性)のコーティングであり、樹脂と硬化剤とを混合することにより開始される化学反応により重合し、硬質のプラスチック構造を形成する。組成によっては、最初に乾燥して溶剤を蒸発させる必要がある。古典的な二つのパッケージ(二液性)のエポキシやポリウレタンは、このカテゴリーに分類される。
【0064】
さらに他のコーティング膜が、硬化のもう一つの方法である、バインダーの冷却によって形成される。例えば、焼き付け塗料やワックス塗料が未だ暖かいときに液体であり、冷却時に硬化する。再加熱すると、多くの場合、これらは再度柔軟になるかまたは液体となる。
【0065】
本発明の好ましい塗料は、ポリマーの塗料であり、特に好ましくは、アクリル樹脂またはビニル系樹脂、または、これら両方の樹脂の組み合わせで作られた塗料であり、ベースとしての水との組み合わせで液体の形態をとる。この組成物は、広がって層をなし、水が蒸発すると、プラスチックの、連続した柔軟な防水性のコーティング膜を残す。
【0066】
アクリル塗料は、アクリルポリマーエマルジョン中に懸濁した顔料を含む速乾性の塗料である。アクリル塗料は、水で希釈することができるが、乾燥すると耐水性にすることができる。
【0067】
基材に粘稠な組成物を塗布する際、特には、塗料、接着剤、ゲルコートを塗布することは、例えば、はけ塗り、または、吹き付けの技術により実現できる。有利な性能特性を確保するためには、特には塗布しやすくする点で、また、長期的な貯蔵性、硬化、及び、基材との相溶性の点で、粘稠な組成物のためのチクソトロピー(せん断力依存及び時間依存)粘性の特性を有するのが、特に望ましい。
【0068】
従来技術によると、ヒュームドシリカ、および/または、(グリコール修飾物といった)チクソトロピー付与剤は、所望の粘性特性を実現するために粘稠な組成物に用いられる。ヒュームドシリカおよび/または粘土および/または他のレオロジー添加剤は、粘稠な組成物中に存在する極性基間における結合の、三次元ネットワークを形成することが想定される。これらの(弱い)結合は、ずり力が粘稠な組成物に作用した際に、破壊されて、粘度を低下させることが期待されている。結合が再度形成された際、ずり力の影響がなくなり、高い粘度が復元される。
【0069】
明示的に別段の記載がない限り、好ましい粘稠な組成物の以下の説明において、粘稠な組成物の成分に与えられたパーセンテージの範囲は、組成物の全体重量に対する重量パーセントを意味する。また、別段の記載がない限り、粘稠な組成物は、容易に硬化可能な組成物を意味する。すなわち、目的とする塗布の前の組成物、特には、硬化や乾燥や冷却の前の組成物である。
【0070】
本発明の粘稠な組成物がゲルコートである場合、この組成物は、好ましくは、硬化、冷却および/または乾燥の際に固化可能なポリマーを10重量%〜80重量%を含む。好ましい態様によれば、粘稠な組成物に、該ポリマーが20〜70重量%含まれる。
【0071】
好ましい実施形態において、粘稠な組成物は、好ましくは、10〜80重量%の不飽和ポリエステル樹脂またはエポキシ樹脂を含有するゲルコート組成物であり、より好ましくは、10〜80重量%の不飽和ポリエステル樹脂を含有するゲルコート組成物である。好ましい実施形態によると、ゲルコート組成物は、20〜70重量%の不飽和ポリエステルまたはエポキシ樹脂を含む。
【0072】
粘稠な組成物がゲルコートである場合、0.3〜2重量%または0.6〜1.5重量%または0.8〜1.3重量%の比較的少量のMFCが、有益な脱泡とチクソトロピック特性を実現するのに充分である。粘稠な組成物がゲルコートである場合、好ましくは、MFCの配合量は、目的とするチクソトロピー効果を達成するために同じ組成で使用されるシリカの量よりも少ない。すなわち、従来技術で知られているシリカの2%の値よりも少ない。
【0073】
本発明の粘稠な組成物が塗料やコーティングや接着剤である場合、該組成物は、好ましくは10〜99.9重量%、30〜99.9重量%または50〜98重量%、または40〜70重量%の硬化可能なポリマーを含む。
【0074】
本発明の粘稠な組成物は、好ましくはミクロフィブリル化セルロースを0.1重量%〜10%、好ましくは0.3〜5重量%、さらに好ましくは0.6〜2重量%、特に好ましくは0.8〜1.3重量%含む。
【0075】
好ましい態様によれば、粘稠な組成物は、さらに、充填剤及び/または顔料を1〜50重量%、好ましくは4〜20重量%含む。好ましい実施形態では、粘稠な組成物全体の中で、フィラーが5%〜20%をなし、顔料が15%〜25%をなす。いかなるフィラーおよび/または顔料をも含まない粘稠な組成物も本発明に含まれる。
【0076】
粘稠な組成物中に存在する可能性のある別の成分は、少なくとも一種の有機溶媒である。原則として、一般的に知られているあらゆる溶剤が使用可能であり、例えばアセトン、スチレン、メチルエチルケトン、キシレンまたはヘキサンが使用可能である。含水コーティングまたは塗料において、水または水と相溶性の溶剤が、上記溶剤に代えて、または上記溶剤とともに存在する。プロトン性溶媒は、この趣旨から、好ましい。
【0077】
脱泡剤としてのMFCの使用は、顔料および/または充填剤を含む粘稠な組成物において特に好ましく、特には、1%以上、好ましくは10%以上の顔料および/または充填剤を含む粘稠な組成物において好適である。表面の孔は、顔料着色面についても、(目に見えるから)特に厄介であるからである。したがって、粘稠な組成物は、好ましくは、1%以上、好ましくは10%以上の顔料および/または充填剤を含む。好ましい態様によれば、粘稠な組成物が、顔料を1%〜30%、好ましくは10〜25%含む。しかし、充填材および/または顔料を含ない透明な組成物も、本発明の一部である。
【0078】
上記のような粘稠な組成物は、好ましくは、基材に塗布され、この塗布が、例えば、噴霧または、はけ塗りによって行われる。塗布後、粘稠な組成物は、少なくとも部分的に固化する。このプロセスの最終製品は、好ましくは、基材と、その外面上の固化コーティング膜とからなる本発明による物品である。しかし、物品は、完全に、または主として本発明による粘稠な組成物の固化物で作られてもよい。
【0079】
本発明に係る粘稠な組成物の固化物は、(i)硬化、冷却および/または乾燥のステップにて固化されたな少なくとも一種のポリマーと、(ii)少なくとも一種のミクロフィブリル化セルロースとを含む。
【0080】
ここで、硬化した組成物の表面における面積空孔密度は、100個/cm2未満であり、好ましくは10個/cm2未満、より好ましくは1個/cm2未満である。
【0081】
好ましくは、硬化した組成物は、少なくとも1μm以上、少なくとも5μm以上、少なくとも20μm以上、少なくとも100μmの厚さのコーティング膜または層として、基材表面に存在する。
【0082】
基材は特に制限されない。好ましい基材は、熱硬化性樹脂体または熱可塑性樹脂体、成形体、複合材、ある形状に形成された物体、または平坦なシートである。基材は、金属、プラスチック、木材または複合材料から、特には特定の繊維強化複合材料からなり、または、これらの材料の組み合わせからなる。
【0083】
本発明に係る物品は、好ましくは、海洋用途(ボート、プラットフォーム、ウキ具・フロート装置、風車)、輸送の用途(乗用車の部品やボディ、及び、トラックの部品やボディ)または建築用途に用いられる。これらの用途において、耐環境性が不可欠である。また、家庭用および工業用の設置物における一般装飾用途で、耐候保護、摩耗保護などに用いられる。
【実施例】
【0084】
上記のような本発明に係る一の粘稠な組成物は、上記のように、樹脂(エポキシ樹脂または不飽和ポリエステル樹脂)と、0.8%〜1.3%のミクロフィブリル化セルロース(MFC)とを混合することによって調製される。ミクロフィブリル化セルロースは、粘稠な樹脂中に混ぜ込むことによって添加される。ここに例示する粘稠な組成物は、ゲルコートとして用いることができる。
【0085】
成分の添加は、次の順で行われる。すなわち、ポリエステル樹脂、MFC、フィラー、溶剤、その他の添加剤、及び顔料の順で行う。
【0086】
別段の記載がない限り、百分率は、粘稠な組成物の全体重量あたりの重量パーセントを示している。
【0087】
一例として、次のような、典型的なゲルコート組成物は、全体として、本発明に従う。
【0088】
不飽和ポリエステル樹脂:55% (w / w);
MFC-製品(乾燥済み。修飾・改変がされていても良い):0.8%〜1.5%;
タルク:5%;
スチレン:16%〜20%;
コバルト:0.3%;
反応抑制剤:0.05%;
硬化促進剤:0.1%;
顔料ペースト:15%〜25%。
【0089】
不飽和ポリエステル樹脂にMFCを添加してから、1500rpm〜2000rpmにて10分間混合を行う。次いで、タルクを添加し、分散するまで混合して(約10分の混合時間)から、スチレンで、約2〜5分の間に段階的に希釈する。次いで、この硬化樹脂組成物に、最後の成分としての顔料ペーストが添加される。
【0090】
比較例を以下に示す。従来技術より知られていたシリカベースのゲルコートに相当する比較例のゲルコートを調製した。本質的に、成分は、シリカを用いること、及び、MFCに代えて市販の脱泡添加剤が添加された点を除き、同一である。比較例のゲルコートは、以下のとおりに処方された。
【0091】
不飽和ポリエステル樹脂:55% (w / w);
フュームドシリカ:2%;
タルク:5%;
PEG(ポリエチレングリコール):0.3%;
脱泡添加剤BYK-022(シリコーン消泡剤):0.5%;
スチレン:16%〜20%;
コバルト顔料:0.3%;
抑制剤:0.05%;
硬化促進剤:0.1%;
顔料ペースト:15%〜25%。
【0092】
不飽和ポリエステル樹脂に、混合しながらシリカを添加する。タルクを、同じ方式にて添加する。PEGを追加した後、不飽和ポリエステル樹脂の粘性が増大し、約5分間、高いせん断力にて混合を行う。凝集体の粒子サイズは、「グラインドゲージ(粒子ゲージ)」によって測定される。高せん断混合後のゲルコートの凝集体は70μm〜30μmになるべきである。そうでないと、表面の外観が粗くなる。混合時間を長くすると、凝集体のサイズが小さくなる。ゲル化のおそれがあるとすれば、混合中、温度は45℃を超えてはならない。この後、脱泡添加剤を除く全ての成分が、不飽和ポリエステル樹脂中に混ぜ込まれる。脱泡添加剤は、ゲルコートの粘度が適正な粘度にまで低下した後に添加される。
【0093】
<結果と試験手順>
比較テストおよび測定を、上記の本発明による粘稠な組成物についてと同様に行い、本発明の粘稠な組成物の性能と、従来技術で知られていたシリカベースのゲルコート組成物の性能とを比較した。以下に説明する全てのテストは、標準的な条件下で行った。特には、室温及び大気圧にて行った。
【0094】
時間及び/またはズリ(ズリ曲線)の関数としての、粘稠な組成物の粘度の測定は、応力制御Physica UDS 200レオメータにて、パラレルプレート(50mm)の形状構成を用いて行った。
【0095】
ここで検討した粘稠な組成物は、ずり減粘性と、チクソトロピーを有するものであった。これらのチクソトロピー特性について、迅速かつ再現可能なスクリーニングを行うために、せん断法が開発された。この方法は、比較例(シリカベース)のゲルコートを用いて開発された。この方法では、せん断速度について、最初に、0.1回転/秒から1000回転/秒に増加させ、この後、直接、1000回転/秒から0.1回転/秒に減少させた。この方法により、再現性のある結果が得られた。
【0096】
硬化剤を添加した後、ゲルコートのゲル化が開始するまでの時間(ゲル化時間)は、以下の手順で測定した。1.5%の過酸化物(メチルエチルケトンパーオキサイド30%〜40%、活性酸素9.1パーセント)をゲルコートに添加した。ゲルコートと過酸化物とを混合し、23℃の水浴中に入れた。ゲルコートを混合してから、ロッドのまわりにてゲル化するまでの時間をゲル時間として記録した。
【0097】
ゲルコートを塗布してから硬化するまでのタレ性について、以下の手順により試験した。1.5%の過酸化物(メチルエチルケトンパーオキサイド30%〜40%、活性酸素9.1パーセント)をゲルコートに添加した。ゲルコートと過酸化物を混合して塗布することで、1000μmまでの種々の厚さにて、2つの線条を5回形成した。
【0098】
塗布の直後に、テストパネルを、垂直に配置し、塗布層の厚みが最も小さい線条が最も上方に来るようにし、また、起こり得る衝撃を防いだ。タレ性により、離れていた線条がくっ付き合う。硬化剤を添加してから塗料を塗布するまでの時間及び温度といった周辺条件を一定に保つことが重要である。
【0099】
硬化後のゲルコートにおける表面品質、凝集性及び光沢の程度について、以下の手順で評価した。1.5%の過酸化物(メチルエチルケトンパーオキサイド30%〜40%、活性酸素9.1パーセント)をゲルコートに添加した。ゲルコートと過酸化物を混合し、塗布は、600μmのギャップを有するキャスティングナイフ(ドクターブレード)にて、不透明度チャート(黒と白)へと行った。不透明度チャートは、硬化まで、水平に配置したままとした。被覆能、凝集体/塊、及び光沢について評価した。
【0100】
塗布性を比較するためには、ゲルコートに、1.5%の過酸化水素を混合してから、平坦な垂直のガラス繊維板、及び/または、水平のガラス板上へと、アプリケーターシステムAB IPG-8000(Moelnlycke、スウェーデン)を用いて吹き付けた。吹き付け層のウェット状態での厚みは、500μm〜1500μmであった。吹き付け特性とレベリングについて、吹き付け試験にて検討した。タレ性を検討するために、ドローダウンアプリケーター(draw-down applicator;たれ塗布機)を用いてゲルコートをガラス板に塗布し、塗布層の厚みが500μmとなるようにした。乾燥後、ゲルコートには、さらなるテストを可能にするために、バックアップとしての積層を施した。
【0101】
MFCベースの粘稠な組成物の固化物と、シリカベースの粘稠な組成物の固化物とについて、面積空孔密度を、次のように測定した。
【0102】
全体のサイズが10cm×10cmである格子が、固化した物品ないしは物の表面に描かれる。ここで、上記の格子は、長さが1cmの立方体が10×10個、それぞれ隣接して配列されたマトリクスである。結果として、1cm2のサイズの隣り合う領域が、100個作成される。100個の正方形のそれぞれにおいて、固化後の物品ないしは物(例えば、基材の上に塗布された膜)の表面上に見える空孔の数を、各正方形の内部にて数える。空孔は、小さい「泡」として肉眼で視認可能である。識別を容易にするために、好ましい実施形態では、空孔(気泡)の数の測定を、10倍の倍率を有する光学顕微鏡の助けを借りて行うことができる。
【0103】
空孔(気泡)と、粘稠な組成物の固化物との間のコントラストが、十分であると認められない場合には、上面層を削り取っても良い。表面層を削り取っても、例えば100μm、200μm、またはその他の厚みだけ削り取っても、識別可能な気泡の数に、実質的な影響を与えない。
【0104】
いずれの検査方式でも、空孔は、顔料を含む粘稠組成物の固化物の背景中に、白っぽい斑点として、明瞭に表れる。空孔は、格子における100の正方形のそれぞれについてカウントされ、カウントされた空孔の数から、100の正方形についての平均が算出されて、平方センチメートルあたりの空孔の数が求められる。これは、本願の全体において、「面積空孔密度」と呼ぶ。
【0105】
試験の結果、シリカベースの比較例のゲルコートでは、300個/cm2以上の空孔が見られた。ここでの標準偏差は約20個/cm2である。これに対し、本発明に従って調製されたMFCベースのゲルコートでは、空孔の数が0個/cm2から0.8個/cm2の間で変動し、標準偏差は、1.3個/cm2であった。得られた結果は、本質的に、検討したゲルコート層の厚みと関係がなく、また、最上層の(光沢のある)表面コーティング層が、より良好な目視検査のために研削して除去されたかどうかとも関係がなかった。
【0106】
表面品質における、このような劇的な違いは、図1と図2で見ることができる。
【0107】
図1に示すのは、本発明により調製されたゲルコート(従来の脱泡剤が含まれているが、シリカを含まず、最も重要なことには、1.2w/w%のミクロフィブリル化セルロースを含む)における上記の面であって、参照格子を有するものである。この図から知られるように、面積(1cm×1cm)あたりの平均の空孔の数は、1より少ない。実際には、空孔がほとんど見られないことがある。
【0108】
これとの対比のため、図2には、ミクロフィブリル化セルロースが存在せずにヒュームドシリカ及び脱泡剤を含む他は、同一の組成を有し全く同一の方式で調製されたゲルコートについて示す。この場合、面積当たりの空孔数は、平均で、100を超える(実際には、簡便な拡大を行うと、平均して平方センチ当たり300個以上の空孔がカウントされる)。
【0109】
図3には、別の比較例の試料(チクソトロピー付与剤としてシリカを含み、MFCを含まないもの)の表面について、より高い倍率で示す(黒と白のサイドバーは、各辺にて5mmを示す)。ここでは、カウントされた空孔の数が632個/cm2であった。
【0110】
図4には、図3のサンプルと全く同様にして調製したもののシリカの代わりにMFCを用いたゲルコートのサンプルにおける表面を示す。MFCが、唯一の脱泡剤であり、また、唯一のチクソトロピー付与剤である。このサンプルには、実質上、空孔が見られなかった(0.1個/cm2)。
【0111】
図5には、図4に示すものと同様のサンプルであるが、MFCだけでなく従来の脱泡剤も添加された点のみ異なるものを示す。このサンプルでは、カウントされた空孔が0.07個/cm2であった。すなわち、MFCの脱泡性能は、他の脱泡剤の添加によって悪影響を受けない。このことは、本発明によるゲルコートが、界面活性化合物に対して、抵抗性を有することを示している。
【0112】
本発明による圧倒的な効果、すなわち、硬化される粘稠な組成物中における空孔形成のほぼ完全な防止は、粘稠な組成物の塗布の様式に依存しない。しかし、比較のため、空孔形成特性について比較するための粘稠な組成物を、垂直に置かれた平坦なガラス繊維プレートに、アプリケーターIPG-8000を用いて吹き付けた。吹き付け塗布されたコーティング膜のウェット状態での厚みは、約800μmになるように調整すべきである。吹き付け及び評価は、標準的な条件下で、すなわち、室温及び大気圧の下で行うべきである。粘稠な組成物に通常適用される硬化条件が、MFCを含むサンプルと、比較例のサンプルとの両方に適用される。これらの条件は、上記の実施例で適用された条件であり、これにより、各図に示すサンプルが得られた。
【0113】
下記の表1は、上述の測定およびテストから得られた結果をまとめたものである。
【表1】

【0114】
本発明のゲルコートが比較例のゲルコートよりも高いコーン−プレート粘度を有することに留意されたい。当業者は、粘度の増大により、より多くの空気が捕捉されるので、空孔の数、すなわち面積空孔密度が上昇すると予想するであろう。このような予想に反して、面積空孔密度が減少するということは、MFCの優れた脱泡性能を証するものである。
【0115】
特に重要な吹き付け塗布性に関連して、いずれのゲルコートについても、1.5%の過酸化物と混合してから、ガラス繊維(ボート)金型の各面に達するようにアプリケーターIPG-8000を用いて吹き付け、ウェット状態のコーティング膜の厚みが約800μmになるようにした。さらに得られた知見は、MFCベースのゲルコートが、比較例のシリカベースのゲルコートより吹き付けが容易であるということであり、このことは、MFCが有する優れたレオロジー効果を示すものである。
【0116】
最も重要で予想外であったのは、MFCゲルコートで、硬化済みの積層板に空孔が観察されなかったが、標準的なシリカベースのゲルコートでは、硬化済みの積層板にて多数の空孔が観察されたことである(表1の「表面評価」を参照)。実際、ミクロフィブリル化セルロースを含む本実施例の粘稠な組成物は、現在知られているゲルコートの中で最も低い空孔率を有するだけでなく、ほとんど空孔のないゲルコートを得れるようになっていることが知られた。コーティング層全体にわたって空孔がないことは、ゲルコート複合体を削ることにより、塗布されて硬化されたコーティング膜層の各深さ位置にて確認された。これに対し、比較例(シリカベース)のサンプルでは、調べたいずれの深さレベルでも、多数の空孔が見られた(図を参照)。
【0117】
上述の配合組成のMFCベースのゲルコートにおけるMFCの脱泡効果は、種々のタイプのポリマーを用いた種々の処方によっても、15℃〜23℃の温度範囲にて確認された。温度が15℃にまで低下すると粘度が上昇する。予想に反して、このような粘度の上昇による目立った泡の増加はなかった。
【0118】
また、本発明のMFCベースのゲルコートを用いたならば、同様またはより大きい粘度レベルにおいても、より良好な吹き付け特性が得られる。
【0119】
コーティング膜ふくれ(ブリスタ)試験、すなわち、塗布されて硬化された後のゲルコートについての、水に曝露した際の耐性試験を、50℃の水浴に全体を浸漬することで行った。結果を表2に示す。
【表2】

【0120】
表2から知られるように、MFCベースのゲルコートは、シリカベースの比較例のコーティングに比べ、繊維パターンの形成、表面膨れ(ブリスタ)、及び、コーティング膜浮き上がりに対して、抵抗性が大きかった。MFCベースのゲルコートでは、50℃の水中2,000時間後にコーティング膜浮き上がりが出現したが、比較例では1600時間のみで出現した。これらの物性の向上は、空孔率の減少の結果であると考えられる。
【0121】
本発明のMFCベースの粘稠な組成物(ここではゲルコート)が、従来より知られていた、MFCを含まないシリカベースの比較例の粘稠な組成物と対比した場合に有する利点は、以下のように要約することができる。;
・MFCベースの粘稠な組成物、すなわち、より良好な脱泡性を有するMFCベースの粘稠な組成物は、固化後に、空孔を含まない。;
・MFCベースの粘稠な組成物は、固化後に、繊維模様の出現、表面ブリスタ、及びコーティング膜の浮き上がりに対する抵抗性が高い(50℃の水中に全体を浸漬する)。;
・典型的には、添加剤としての添加量、特には脱泡剤としての添加量は、シリカの場合よりも少なくて済む。MFCの場合に0.8%〜1.3%であるの対し、シリカでは2%。;
・貯留や製造の際の取り扱い性が向上している。(健康、環境及び安全(HES)の問題);
・MFCベースの粘稠な組成物は、チクソトロピー特性及び安定性が、シリカベースのものと同等、または、より良好である。すなわちMFCが、チクソトロピー付与剤やレオロジー改良剤として働く。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘稠な組成物のための脱泡剤としてのミクロフィブリル化セルロースの使用であって、
前記粘稠な組成物が、少なくとも一つの固化ステップにて固化可能な少なくとも一種のポリマーを含み、
前記ミクロフィブリル化セルロースが、前記少なくとも一つの固化ステップの前、または該ステップの最中に、前記粘稠な組成物に添加され、また、
前記粘稠な組成物は、室温でのゼロせん断粘度が10mPa・sよりも大きい組成物である、粘稠な組成物のための脱泡剤。
【請求項2】
前記粘稠な組成物に、ミクロフィブリル化セルロースが、ずり減粘性付与剤、及び/またはチクソトロピー付与剤としても用いられる請求項1に記載の、粘稠な組成物のための脱泡剤。
【請求項3】
(i)少なくとも一つの固化ステップにて固化可能な少なくとも一種のポリマーと、
(ii)少なくとも一種のミクロフィブリル化セルロースとを、少なくとも含む粘稠な組成物であって、
前記少なくとも一種のミクロフィブリル化セルロースの添加量が、0.1〜10重量%、0.3〜5重量%、0.6〜2重量%、または0.8〜1.3重量%である粘稠な組成物。
【請求項4】
基材と、粘稠な組成物を固化した固化物とからなる物品であって、この固化物は、
(i)少なくとも一つの固化ステップにて固化可能な少なくとも一種のポリマーと、
(ii)少なくとも一種のミクロフィブリル化セルロースとを、少なくとも含み、
前記少なくとも一種のミクロフィブリル化セルロースの添加量が、0.1〜10重量%、0.3〜5重量%、0.6〜2重量%、または0.8〜1.3重量%であることを特徴とする物品。
【請求項5】
前記固化物が、少なくとも1μm以上、少なくとも5μm以上、少なくとも20μm以上、または少なくとも100μmの厚さのフィルムまたは層またはコーティングとして、前記基材上に存在する請求項4に記載の物品。
【請求項6】
前記粘稠な組成物のゼロせん断粘度が、100mPa・sより大きいか、または、1000mPa・sより大きい、請求項1または2に記載の脱泡剤、請求項3に記載の粘稠な組成物、または、請求項4または5に記載の物品。
【請求項7】
水、水に相溶性の少なくとも一種の溶媒、少なくとも一種の顔料またはフィラー、少なくとも一種のプライマー、及び、少なくとも一つの硬化剤のうちの少なくとも一つをさらに含む、請求項1、2または6に記載の脱泡剤、請求項3または6に記載の粘稠な組成物、または、請求項4〜6のいずれかに記載の物品。
【請求項8】
少なくとも一種の有機溶媒、少なくとも一種の顔料またはフィラー、または、少なくとも一種の硬化剤をさらに含む、請求項1、2または6に記載の脱泡剤、請求項3または6に記載の粘稠な組成物、または、請求項4〜6のいずれかに記載の物品。
【請求項9】
前記粘稠な組成物が、不飽和ポリエステル樹脂またはエポキシ樹脂を10〜80重量%含有するゲルコートである、請求項1、2、6または8に記載の脱泡剤、請求項3、6または8に記載の粘稠な組成物、または、請求項4〜6及び8のいずれかに記載の物品。
【請求項10】
前記粘稠な組成物が、硬化可能なポリマーを10〜99.9重量%または30〜99.9重量%含む請求項1、2、6、8または9に記載の脱泡剤、請求項3、6、8または9に記載の粘稠な組成物、または、請求項4〜6及び8〜9のいずれかに記載の物品。
【請求項11】
前記粘稠な組成物が、ミクロフィブリル化セルロース以外の脱泡剤を含まない請求項1、2、6、8、9または10に記載の脱泡剤、請求項3、6、8、9または10に記載の粘稠な組成物、または、請求項4〜6及び8〜10のいずれかに記載の物品。
【請求項12】
前記粘稠な組成物が、ミクロフィブリル化セルロース以外のずり減粘剤を含まない請求項1、2、6、8、9、10または11に記載の脱泡剤、請求項3、6、8、9,10または11に記載の粘稠な組成物、または、請求項4〜6及び8〜11のいずれかに記載の物品。
【請求項13】
前記粘稠な組成物が、樹脂、エポキシプライマー、ペースト、接着剤、ゲルコート、塗料、複合材料成形品、マスチック塗材組成物、及びポリマー混合物からなる群より選ばれる少なくとも一種である請求項1、2、6及び8〜12のいずれかに記載の脱泡剤、請求項3、6、8〜12に記載の粘稠な組成物、または、請求項4〜6及び8〜12のいずれかに記載の物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2012−520911(P2012−520911A)
【公表日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−500152(P2012−500152)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【国際出願番号】PCT/EP2010/001749
【国際公開番号】WO2010/105847
【国際公開日】平成22年9月23日(2010.9.23)
【出願人】(511148662)ボレガード インダストリーズ リミテッド ノルゲ (2)
【氏名又は名称原語表記】BORREGAARD INDUSTRIES LIMITED NORGE
【住所又は居所原語表記】Hjalmar Wesselsv. 10, N−1721 Sarpsborg, Norway
【Fターム(参考)】