説明

腎線維症の治療剤又は予防剤

【課題】腎臓のVKORを阻害することで、腎線維症を予防し、かつ、治療することができる、安全性の高い医薬品の提供。
【解決手段】化学式(II)


[式中、Rは、水素原子、ハロゲン原子、置換アルキル基等を示し、Rは、水素原子、アルキル基、アシル基、複素環基等を示す]で示されるラクトン誘導体、環拡大した6員環ラクトン誘導体、又はそれらの薬理学的に許容しうる塩を含む腎線維症の治療剤又は予防剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腎線維症の治療剤又は予防剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食生活を中心とした生活習慣の大きな変化により、高血圧や糖尿病などの生活習慣病罹患率が増加し、それに伴って腎疾患、延いては腎不全のリスクが増大しつつある。
従来の腎疾患の治療は、高血圧や糖尿病を対象とした間接的又は予防的なものが主であったため、直接的な病態の改善又は治癒はほとんど期待できなかった。特に、病態の進行した末期腎不全(ESRD)には有効な治療法がなく、病態の進行に直接作用する新たな腎疾患治療薬が望まれていた。
【0003】
腎疾患はその症状などにより、糸球体腎炎、慢性又は急性の腎不全、ネフローゼ症候群に大別されるが、全ての腎疾患が腎臓の線維化を伴い、最終的に末期腎不全に至る。特に、慢性的な腎機能の低下は腎臓の線維化の進行と深く関わっているため、線維化の進行阻害は、慢性腎不全の進行抑制につながると考えられている(非特許文献1及び2)。
【0004】
一般的に、腎線維症は、内皮細胞の障害を起因する炎症反応を伴い、最終的に過剰の細胞外マトリックスが線維化して起こるものである。例えば、糸球体硬化症においては、糸球体内皮細胞の障害が起因となり、サイトカイン(ケモカイン、増殖因子など)が分泌され、単細胞やマクロファージが遊走することで炎症反応が進行する。次いで、メサンギウム細胞の活性化、増殖、形質転換が起こり、メサンギウム細胞から過剰量の細胞外マトリックスが産生され、それらが線維化することで、糸球体硬化症に至る。
【0005】
最近、ビタミンK依存性タンパク質であるGas6が、上記のメサンギウム細胞の働きに重要な役割を果たしていることが明らかとなった。生体内の酸化型ビタミンK(ビタミンKエポキシド)は、ビタミンKエポキシド還元酵素(以下、VKOR)により活性化されてビタミンKとなるが、このVKORはGas6を活性化する。このため、腎臓のVKORを阻害すれば、Gas6の活性化に基づく腎線維化は抑制され、結果として腎疾患の進展も抑制可能である(非特許文献3)。
【0006】
実際、VKOR阻害活性を有する医薬品であるワルファリンは、臨床において糸球体腎炎治療薬として使用されている。しかし、VKORは肝臓や腎臓などの主要臓器に広く分布しているため、ワルファリンは腎臓のみならず、血液凝固因子産生の場である肝臓にも作用して肝臓の血液凝固因子産生を阻害する。このため、ワルファリンの使用は出血などを伴うリスクが高く、特に、臨床での使用に際しては投与量の厳密なコントロールが必要である。したがって、腎臓のVKORを選択的に阻害し、かつ、安全性の高い、新たな腎線維症の治療剤及び予防剤が求められていた。
【0007】
【非特許文献1】相川ら、「腎臓疾患の病理と臨床」、1980年、南山堂
【非特許文献2】Wardener、「腎臓」、1970年、医歯薬出版
【非特許文献3】Yanagitaら、「Clin.Exp.Nephrol」、2004年、8巻、p.304−309
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、腎臓のVKORを阻害することで、腎線維症を予防し、かつ、治療することができる、安全性の高い医薬品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の組織線維化を伴う腎疾患について鋭意研究を重ねた結果、5又は6員環ラクトン誘導体が腎臓のVKOR阻害活性を発揮し、腎線維化を治療、予防又は改善する効果を有することを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち本発明は、一般式(I)
【化1】

又は、一般式(II)
【化2】

[一般式(I)及び(II)中、
1は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、−(CH2q−X、−CH2−O−(CH2r−Y又は−CH=CH−Z、
2は、それぞれ独立して、水素、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数2〜10のアシル基又は炭素数1〜9の複素環基(該複素環基は、塩素原子、臭素原子、フッ素原子、ヒドロキシ基、ニトロ基、メトキシ基又はエトキシ基で置換されていてもよい。)であり、
Xは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基(該アルキル基は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、ニトロ基、メトキシ基、エトキシ基、カルボキシル基、カルボエトキシ基、カルボメトキシ基、シアノ基、トリフロオロメチル基、メチルチオ基、フェニルチオ基又は炭素数1〜6のアルキルアミノ基で置換されていてもよい。)、炭素数1〜9の複素環基(該複素環基は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、ニトロ基、メトキシ基、エトキシ基又は炭素数1〜9のアルキル基で置換されていてもよい。)、ヒドロキシ基、チオール基、炭素数1〜6のチオエーテル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、アセチル基、アミノ基、アセトアミド基、シアノ基、炭素数1〜7のカルボン酸エステル基、カルボキシル基、炭素数2〜6のリン酸エステル基、リン酸基、炭素数1〜7のアルキルスルフォニル基、t−ブトキシカルボニルアミノ基、メチルスルオキシド基、1級アミド基又は2級アミド基、
Yは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基(該アリール基は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、ニトロ基、メトキシ基、エトキシ基、カルボキシル基、カルボエトキシ基、カルボメトキシ基及びシアノ基なる群から選ばれる1以上の置換基で置換されていてもよい。)、炭素数1〜9の複素環基(該複素環基は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、ニトロ基、メトキシ基又はエトキシ基で置換されていてもよい。)、ヒドロキシ基、チオール基、炭素数1〜6のチオエーテル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、アセチル基、アミノ基、アセトアミド基、シアノ基、炭素数1〜7のカルボン酸エステル基、カルボキシル基、1級アミド基又は2級アミド基、
Zは、それぞれ独立して、炭素数6〜12のアリール基(該アリール基は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、ニトロ基、メトキシ基、エトキシ基、カルボキシル基、カルボエトキシ基、カルボメトキシ基、シアノ基、トリフルオロメチル基、メチルチオ基及びフェニルチオ基なる群から選ばれる1以上の置換基で置換されていてもよい。)又は炭素数1〜9の複素環基(該複素環基は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、ニトロ基、メトキシ基又はエトキシ基で置換されていてもよい。)
qは、0〜10の整数、rは、0又は1である。]
で示される、ラクトン誘導体又はその薬理学的に許容しうる塩を含む腎線維症の治療剤又は予防剤を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、腎臓のVKORを選択的に阻害することで、出血などのリスクを伴うことなく、腎臓の線維化を予防、改善又は治療することが可能となる。このため、本発明の新規なラクトン誘導体又はその薬理学的に許容される塩は、より効果的で、かつ安全性の高い腎線維症の治療剤又は予防剤として極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための好ましい実施形態について説明する。
【0013】
本発明の腎線維症の治療剤又は予防剤は、
一般式(I)
【化3】

又は、一般式(II)
【化4】

[一般式(I)及び(II)中、
1は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、−(CH2q−X、−CH2−O−(CH2r−Y又は−CH=CH−Z、
2は、それぞれ独立して、水素、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数2〜10のアシル基又は炭素数1〜9の複素環基(該複素環基は、塩素原子、臭素原子、フッ素原子、ヒドロキシ基、ニトロ基、メトキシ基又はエトキシ基で置換されていてもよい。)であり、
Xは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基(該アルキル基は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、ニトロ基、メトキシ基、エトキシ基、カルボキシル基、カルボエトキシ基、カルボメトキシ基、シアノ基、トリフロオロメチル基、メチルチオ基、フェニルチオ基又は炭素数1〜6のアルキルアミノ基で置換されていてもよい。)、炭素数1〜9の複素環基(該複素環基は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、ニトロ基、メトキシ基、エトキシ基又は炭素数1〜9のアルキル基で置換されていてもよい。)、ヒドロキシ基、チオール基、炭素数1〜6のチオエーテル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、アセチル基、アミノ基、アセトアミド基、シアノ基、炭素数1〜7のカルボン酸エステル基、カルボキシル基、炭素数2〜6のリン酸エステル基、リン酸基、炭素数1〜7のアルキルスルフォニル基、t−ブトキシカルボニルアミノ基、メチルスルオキシド基、1級アミド基又は2級アミド基、
Yは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基(該アリール基は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、ニトロ基、メトキシ基、エトキシ基、カルボキシル基、カルボエトキシ基、カルボメトキシ基及びシアノ基なる群から選ばれる1以上の置換基で置換されていてもよい。)、炭素数1〜9の複素環基(該複素環基は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、ニトロ基、メトキシ基又はエトキシ基で置換されていてもよい。)、ヒドロキシ基、チオール基、炭素数1〜6のチオエーテル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、アセチル基、アミノ基、アセトアミド基、シアノ基、炭素数1〜7のカルボン酸エステル基、カルボキシル基、1級アミド基又は2級アミド基、
Zは、それぞれ独立して、炭素数6〜12のアリール基(該アリール基は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、ニトロ基、メトキシ基、エトキシ基、カルボキシル基、カルボエトキシ基、カルボメトキシ基、シアノ基、トリフルオロメチル基、メチルチオ基及びフェニルチオ基なる群から選ばれる1以上の置換基で置換されていてもよい。)又は炭素数1〜9の複素環基(該複素環基は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、ニトロ基、メトキシ基又はエトキシ基で置換されていてもよい。)
qは、0〜10の整数、rは、0又は1である。]
で示される、ラクトン誘導体又はその薬理学的に許容しうる塩を含むことを特徴としている。
【0014】
本明細書で使用する次の用語は、特に断りがない限り、下記の定義の通りである。
【0015】
「ハロゲン原子」とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を意味する。
【0016】
「炭素数1〜12のアルキル基」とは、炭素数1〜12の直鎖状、分岐状もしくは環状の飽和又は不飽和炭化水素基を意味し、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、アセチレニル基、プロピニル基、ブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基、フェニル基などが挙げられる。
【0017】
「炭素数1〜9の複素環基」としては、例えば、チエニル基、フラニル基、ピロリル基、テトラヒドロフラニル基、N−メチルピロリル基、インドイル基、イミダゾイル基、ピロリジニル基、ピリジニル基、ベンゾチオフェニル基、ベンゾフラニル基、キノリニル基、イソキノリニル基、フタルイミド基、フタリド基などが挙げられる。
【0018】
上記のチオエーテル基としては、例えば、チオメチル基、チオエチル基、チオプロピル基、チオフェニル基、チオブチル基などが挙げられる。
【0019】
上記のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロピオキシ基、フェノキシ基などが挙げられる。
【0020】
上記のカルボン酸エステル基としては、例えば、カルボメトキシ基、カルボエトキシ基、カルボプロポキシ基、カルボブトキシ基、カルボフェノキシ基などが挙げられる。
【0021】
上記の1級アミドとしては、例えば、N−メチルアミド基、N−エチルアミド基、N−プロピルアミド基などが挙げられる。
【0022】
上記の2級アミドとしては、例えば、N、N−ジメチルアミド基、N、N−ジエチルアミド基、N、N−メチルエチルアミド基、N、N−ジプロピルアミド基などが挙げられる。炭素数1〜6のアルコキシ基とは例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロピオキシ基、フェノキシ基などが例示される。
【0023】
「炭素数6〜12のアリール基」としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基などが挙げられる。
【0024】
としては、−(CH2q−X(qは0〜10の整数を表し、Xは水素原子、炭素数1〜6のアルキル基)又は炭素数1〜9の複素環基が好ましく、−(CH2q−X(qは0〜10の整数を示し、Xは水素原子、炭素数1〜6のアルキル基)がより好ましく、メチル基がさらに好ましい。
【0025】
としては、炭素数1〜6のアルキル基又は炭素数1〜9の複素環基が好ましく、炭素数1〜6のアルキル基がより好ましく、メチル基がさらに好ましい。
一般式(I)又は(II)で表されるラクトン誘導体の薬理学的に許容しうる塩としては、例えば、塩酸、硫酸などの無機酸塩や、マレイン酸、フマール酸、酢酸、マロン酸、クエン酸などの有機酸塩などが挙げられる。また、これら塩化体は国際公開第97/35565号パンフレットに記載された方法により製造することができる。
【0026】
一般式(I)で示されるラクトン誘導体の好適な具体例を、以下に示す。
【化5】

【0027】
腎線維症の治療効果は、血小板、AST、ALT、γ−GT、ALP、ヒアルロン酸、ヒドロキシプロリン、IV型コラーゲン、グルタミルリジン、尿中タンパク質、クレアチニン、腎臓組織重量などの生理マーカーを用いて確認することができる。
【0028】
上記の腎線維症の治療剤又は予防剤の投与用法は、患者の年齢、体重、性別、人種、内科的症状、腎疾患の進行度若しくは重症度、又は併用薬の種類若しくは量など、様々な要因に従って選択される。投与経路としては、例えば、経口投与、静脈内投与、皮下投与、筋肉内投与などが挙げられるが、患者の負担を考慮すると、経口投与が最も好ましい。投与量としては、0.01〜100mg/kg/日の範囲が好ましいが、ワルファリンと同様に、プロトロンビン時間の測定やトロンボテストを用い、出血をコントロールしながら投与量を暫増していくことが好ましい。ワルファリンに対する感受性は個体差が大きく、さらに同一個体でも治療中にその感受性が変化することが知られているため、上記の腎線維症の治療剤又は予防剤においても、投与初期には、プロトロンビン時間測定、トロンボテストなどを頻回行い、治療域を逸脱しないように留意することが好ましい。投与期間は、尿検査(尿蛋白、血尿、クレアチニンなど)、血液検査(クレアチニン、BUNなど)、組織検査(生検)などの、腎疾患を対象とした様々な検査の結果から設定することができる。
【0029】
上記の腎線維症の治療剤又は予防剤には、賦形剤が適宜混合されていてもよく、投与形態としては、例えば、錠剤、糖衣錠、丸剤、カプセル剤、散剤、トローチ剤、液剤、坐剤、注射剤などが挙げられる。
【0030】
上記の賦形剤としては、例えば、乳糖、ショ糖、ブドウ糖、ソルビトール、マンニトール、馬鈴薯でんぷん、アミロペクチン、その他各種でんぷん、セルロース誘導体(カルボキシメチルセルロース、ハイドロキシエチルセルロースなど)、ゼラチン、ステアリン酸マグネシウム、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコールワックス、アラビアゴム、タルク、二酸化チタン、オリーブ油、ピーナッツ油、ゴマ油などの植物油、パラフィン油、中性脂肪基剤、エタノール、プロピレングリコール、生理食塩水、滅菌水、グリセリン、着色剤、調味剤、濃厚剤、安定剤、等張剤、緩衝剤などが挙げられる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例を挙げて本発明について具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【0032】
(実施例1)in vitro 肝臓及び腎臓のVKOR阻害試験
(1)肝臓及び腎臓のVKOR分画の調製
TRIZMA BASE 7.26g、塩化カリウム33.56gおよびSucrose256.8gを3Lの超純水にて溶解した後、濃塩酸を滴下してpHを7.4に調整したものを緩衝液Aとした。また、塩化ナトリウム29.2gを500mLの緩衝液Aで溶解したものを、緩衝液Bとした。エーテル麻酔下のラットの門脈へ、ペリスタポンプを用いて緩衝液Aを灌流し(10〜20mL/分、2〜3分)、灌流後直ちに腹大静脈より放血させ、そのまま屠殺した。
【0033】
屠殺したラットの肝臓および腎臓を摘出した後、緩衝液Aで両組織をよく洗浄した。電子天秤を用いて摘出した各組織の湿重量を測定した後、各組織をハサミでよく細断し(数mm画程度)、湿重量の3倍容の緩衝液Aを加えて、氷冷下でポッター型ホモジナイザーを用いてホモジナイズした。低速遠心機にて、4℃、700×g、10分間遠心分離後、上清を採取した。超遠心機にて、4℃、9,000×g、20分間遠心分離後、上清を採取した。超遠心機にて、4℃、105,000×g、60分間遠心分離後、上清を除去し、沈殿を採取した。
【0034】
採取した沈殿を緩衝液Aに再懸濁し、超遠心機にて、4℃、105,000×g、60分間遠心分離後、上清を除去し、沈殿を採取した。採取した沈殿を緩衝液Bに再懸濁し、超遠心機にて、4℃、105,000×g、60分間遠心分離後、上清を除去し、VKOR分画として得た。各組織のVKOR分画のタンパク質濃度を測定し(BCA Protein Assay Kit、PIERCE)、タンパク質濃度が約15mg/mLになるように緩衝液Bを加えた後、再懸濁した。調製したミクロソーム分画懸濁液は使用時まで約−80℃で保存した。
【0035】
(2)試験手順および試験結果の解析方法
PP製96ウェルチューブプレート(TP−96V、ビーエム機器)の全てのウェルに、0.2μmol/L〜200mmol/Lの各化合物溶液を5μL、肝臓又は腎臓のVKOR分画懸濁液を10μL、20mmol/LのTris−HCl緩衝液(pH7.4)を74.5μL、1000μmol/LのビタミンKエポキシド溶液を0.5μL入れ、37℃で5分間プレインキュベートした。Negative Control用ウェル(反応時間0分)を除く全てのウェルに0.02mmol/LのDTT溶液を10μL添加した後、直ちに、ダイレクトミキサーで2〜3秒撹拌し、37℃で30分間インキュベートした。
【0036】
30分後、各ウェルに氷冷した2−プロパノールを300μL加え、反応停止した。Negative Control用ウェルに0.02mmol/LのDTT溶液10μLを添加した後、ダイレクトミキサーで約1分撹拌した。反応停止後のプレートを4℃で30分間冷却した後、反応液をガラスフィルタープレート(7700−3310、Whatman)を用い遠心濾過した(4℃、680×g、10分間)。ろ液を分析用試料とした。分析にはAcquity UPLCシステム(日本ウォーターズ)を用い、ビタミンKエポキシドの還元により生成されるビタミンKのピーク面積を測定した。分析条件は以下の通りである。
【0037】
・カラム:Acquity UPLC BEH−C18、1.7μm、2.1×50mm(日本ウォーターズ)
・カラム温度:40℃
・移動相A:アセトニトリル/2−プロパノール/DW=100/8/100
・移動相B:アセトニトリル/2−プロパノール/DW=100/8/2
・流速:0.8mL/min、グラジエントタイムプログラム(B%):1(初期)→1(1min)→99(1.5min)→99(3min)→1(3.01min)→1(3.5min)
・検出:UV(250nm)
・注入量:35μL
【0038】
阻害活性については、IC50(50%阻害活性を示す化合物濃度)を指標にした。IC50の算出にはMicrosoft Excel 2003を用いた。各化合物について、化合物を含まない場合の生成したビタミンKのピーク面積を100%として、各化合物濃度におけるビタミンK生成量を百分率で表示した。化合物濃度の対数をX軸、ビタミンK生成量の百分率をY軸として、化合物ごと、散布図を作成した。ビタミンK生成量50%を挟む直近の2濃度を結ぶ直線式(Y=aX+b)から、IC50を算出した。
(3)結果
結果を表1〜4に示した。腎臓のVKORに対する阻害活性が最も高かった化合物はD381であり、その阻害活性はワルファリン以上であることから、D381を含む腎線維症の治療剤又は予防剤が腎線維症に対して顕著な効果を示すことは明らかである。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
【表3】

【0042】
【表4】

【0043】
(実施例2)ラットThy1腎炎モデルを用いた腎炎治療効果の確認
(1)Thy1腎炎ラットの作製
Yanagitaらの方法に従って作製した(Am.J.Phathol.,158(4)、1423−1432、2001)。Anti−rat Thy1.1 monoclonal antibody−asctites(CEDARLANE Laboratories Ltd.)の凍結乾燥品をリン酸緩衝液(PBS(−))で溶解し、濃度0.1mg/mLとなるよう調製した。6週齢Wistar系雄性ラット[Crj:Wistar]に0.1mg/mLのAnti−rat Thy1.1 monoclonal antibody−asctites溶液を、化合物初回投与日を1日目として6日目に1回、1mg/10mL/kgの用量で単回静脈内投与した。
【0044】
(2)試験手順および試験結果の解析方法
in vitro 腎VKOR阻害試験で活性の確認されたAMTについて、ラットThy1腎炎モデルにおける効果を検証した。Thy1腎炎ラットに、AMTを30mg/5mL/kgの用量で12日間反復静脈内投与した(1回/日)。コントロール群は生理食塩水(株式会社大塚製薬工場)を5mL/kgの用量で同様に12日間反復静脈内投与した(1回/日)。AMTの初回投与日を1日目として、12日目の投与後に動物を代謝ケージに収容し、約17時間採尿した。
【0045】
メスシリンダーを用いて尿量測定を行った後、4℃、1,500rpm、10分間遠心分離し上清尿を得た。上清尿は測定まで−80℃で冷凍保存した。これを用いて7070型自動分析装置にて総タンパク、電解質(Na、K、Cl)およびクレアチニンを、ELISA法によりアルブミンを測定した。総タンパク、電解質(Na、K、Cl)、クレアチニンおよびアルブミンについては、測定値に尿量を乗じ、1日排泄量を算出した。
【0046】
(3)結果
結果を図1に示す。生理食塩水を投与したコントロール群に比べ、AMT30mg/kg投与群において有意な尿中アルブミンの低下が確認された。また、両投与群において、血液凝固反応を含めた出血傾向に差は認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
以上の結果より、本発明の化合物は腎臓のVKOR阻害活性を有し、腎線維症を治療、予防又は改善することから、腎線維症治療薬として、医薬分野で好ましく用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】Thy1腎炎ラットにAMTを12日間反復静脈内投与時の尿中アルブミン/クレアチニン比を表した図である。図中、*はP<0.05(t検定)を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
【化1】

又は、一般式(II)
【化2】

[一般式(I)及び(II)中、
1は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、−(CH2q−X、−CH2−O−(CH2r−Y又は−CH=CH−Z、
2は、それぞれ独立して、水素、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数2〜10のアシル基又は炭素数1〜9の複素環基(該複素環基は、塩素原子、臭素原子、フッ素原子、ヒドロキシ基、ニトロ基、メトキシ基又はエトキシ基で置換されていてもよい。)であり、
Xは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基(該アルキル基は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、ニトロ基、メトキシ基、エトキシ基、カルボキシル基、カルボエトキシ基、カルボメトキシ基、シアノ基、トリフロオロメチル基、メチルチオ基、フェニルチオ基又は炭素数1〜6のアルキルアミノ基で置換されていてもよい。)、炭素数1〜9の複素環基(該複素環基は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、ニトロ基、メトキシ基、エトキシ基又は炭素数1〜9のアルキル基で置換されていてもよい。)、ヒドロキシ基、チオール基、炭素数1〜6のチオエーテル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、アセチル基、アミノ基、アセトアミド基、シアノ基、炭素数1〜7のカルボン酸エステル基、カルボキシル基、炭素数2〜6のリン酸エステル基、リン酸基、炭素数1〜7のアルキルスルフォニル基、t−ブトキシカルボニルアミノ基、メチルスルオキシド基、1級アミド基又は2級アミド基、
Yは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基(該アリール基は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、ニトロ基、メトキシ基、エトキシ基、カルボキシル基、カルボエトキシ基、カルボメトキシ基及びシアノ基なる群から選ばれる1以上の置換基で置換されていてもよい。)、炭素数1〜9の複素環基(該複素環基は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、ニトロ基、メトキシ基又はエトキシ基で置換されていてもよい。)、ヒドロキシ基、チオール基、炭素数1〜6のチオエーテル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、アセチル基、アミノ基、アセトアミド基、シアノ基、炭素数1〜7のカルボン酸エステル基、カルボキシル基、1級アミド基又は2級アミド基、
Zは、それぞれ独立して、炭素数6〜12のアリール基(該アリール基は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、ニトロ基、メトキシ基、エトキシ基、カルボキシル基、カルボエトキシ基、カルボメトキシ基、シアノ基、トリフルオロメチル基、メチルチオ基及びフェニルチオ基なる群から選ばれる1以上の置換基で置換されていてもよい。)又は炭素数1〜9の複素環基(該複素環基は、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、ニトロ基、メトキシ基又はエトキシ基で置換されていてもよい。)
qは、0〜10の整数、rは、0又は1である。]
で示される、ラクトン誘導体又はその薬理学的に許容しうる塩を含む腎線維症の治療剤又は予防剤。
【請求項2】
一般式(I)及び(II)中、
1は、それぞれ独立して、メチル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デカニル基、フェニル基、フラン−2−イル基、フラン−3−イル基、チオフェン−2−イル基、チオフェン−3−イル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシ−2−エニル基、シクロヘキシ−3−エニル基、ベンジル基、シクロヘキシルメチル基、シクロペンチルメチル基、フラン−2−イルメチル基、フラン−3−イルメチル基、チオフェン−2−イルメチル基、チオフェン−3−イルメチル基、フェノキシメチル基、4−メチルベンジル基、4−フルオロベンジル基、4−クロロベンジル基、4−メトキシベンジル基、4−メチルチオベンジル基、4−(トリフルオロメチル)ベンジル基、4−(ジメチルアミノ)ベンジル基、(フェニルアミノ)メチル基、フェニルチオメチル基、1−メチル−1H−ピロール−2−イル基、4−イソプロピルフェネチル基、3−(チオフェン−2イル)プロピル基、トシルメチル基、ベンゾフェン−2−イルメチル基、(5−クロロベンゾ[b]チオフェン−3−イル)メチル基、(1H−インドール−3−イル)メチル基、2−オキソ−(チオフェン)メチル基、(1,3−ジオキソイソインドリン−2−イル)メチル基、(3−オキソ−1,3−ジヒドロイソベンゾフラン−1−イル)メチル基、(3−メチルベンゾ[b]チオフェン−2−イル)メチル基又はベンゾ[d][1,3]ジオキソール−5−イルメチル基、
2は、それぞれ独立して、メチル基、エチル基、フラン−2−イル基、フラン−3−イル基、チオフェン−2−イル基、チオフェン−3−イル基、フェニル基又はシクロペンタ−1,3−ジエニル基である、請求項1記載の治療剤又は予防剤。
【請求項3】
腎臓のビタミンKエポキシド還元酵素を阻害又は抑制する、請求項1又は2記載の腎線維症の治療剤又は予防剤。

【図1】
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【公開番号】特開2010−77101(P2010−77101A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−250709(P2008−250709)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】