説明

膜厚測定方法、膜厚測定装置

【課題】多層ディスク等の多層構造体の被測定物について分光干渉法で正確な膜厚測定ができるようにする。
【解決手段】
波長帯域幅を持つ光を、被測定物の表面側から斜め方向となる入射角θiで照射させ、第1の反射膜(記録層L0)の反射光と第2の反射膜(記録層L1)の反射光との干渉光から、第1の反射膜と上記第2の反射膜の間の膜厚(スペーサ層の膜厚)を算出するとともに、第2の反射膜の反射光と表面の反射光との干渉光から、第2の反射膜と上記表面の間の膜厚(カバー層の膜厚)を算出する。入射角は、第1の反射膜の反射光と第2の反射膜の反射光との干渉光の特定の高調波成分の光強度より、第2の反射膜の反射光と上記表面の反射光との干渉光の光強度が大きくなる入射角とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定物の層の膜厚を測定する膜厚測定方法、膜厚測定装置に関するものであり、特に多層構造を有する被測定物、例えば多層の記録層を有する記録媒体等についての層の膜厚測定に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
【非特許文献1】「レーザー&オプティクスガイド5(1)」第1版、メレスグリオ株式会社、1998年4月1日発行、p.A5.4,A5.5
【非特許文献2】Filmetrics社製(米国)薄膜測定装置カタログ「ADVANCED THIN-FILM MEASUREMENTS SYSTEMS」、松下インターテクノ株式会社、2000年5月発行、p.1
【非特許文献3】「膜厚測定原理[分光干渉法]技術資料 MC-I001」、大塚電子株式会社、1995年6月15日発行、p.3
【0003】
被測定物の膜厚測定の手法として、分光干渉法が知られている。図6で分光干渉法について説明する。
図6(a)のように、基板100上に透明な膜101が形成された被測定物において膜101の膜厚dを測定することを考える。なお空気の屈折率をn1、膜101の屈折率をn2、基板100の屈折率をn3とし、n1<n2、かつn2>n3とする。
この被測定物に対して入射光Iを照射する。なお図6(a)では図示の都合により斜め方向からの入射光Iを示しているが、この入射光Iは被測定物の表面に対して垂直に入射させる。入射光Iは単一波長ではなく、ある波長帯域幅をもった光である。
入射光Iに対して、膜101の表面で反射した反射光をR10、膜101の裏面、つまり膜101と基板100の境界部分で反射した反射光をR20としている。
この場合、反射光R20は、反射光R10よりも、破線で示す分、光路長が長くなる(光路差=2d)。このため反射光R20、反射光R10には位相差が生じている。このような反射光R20、反射光R10の干渉光の波形を図6(b)に示すが、波長により2以上のピークが生ずる。この干渉光を用いて、膜厚dを算出することができる。
【0004】
空気中の波長をλとする。図6(a)に破線で示した光学的光路差は2d・n2である。また反射光R20、反射光R10の位相差をδとする。すると位相差δは、
δ/2π=2d・n2/λより、
δ=(2π・2d・n2)/λ
=4πn2d/λ
となる。
ここで、光は、光学的に媒質との境界面で反射したとき位相がπ変化する。これを考慮すると、
δ={(4n2d/λ)+1}π
この位相差δが、2πの整数倍の時、光は強め合う事になるので、
{(4n2d/λ)+1}π=2πm (但し、m=1,2,3,・・・の整数)。
整理すると、
4n2d/λ=2m−1
【0005】
2つの明るいピークを持つ波長をλ1、λ2とすると、
4n2d/λ1=2(m+1)−1
=2(m+1)+1 ・・・式1
4n2d/λ2=2m−1 ・・・式2
【0006】
上記より、dを求めると、式1から、
2m=(4n2d/λ1)−1
これを式2に代入すると、
4n2d/λ2={(4n2d/λ1)−1}−1
(4n2d/λ1)−(4n2d/λ2)=2
4n2d(λ2−λ1)/λ1λ2=2
従って、膜厚dは、
d=λ1・λ2/2n2(λ2−λ1
として算出される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、このようにして膜厚測定を行う分光干渉法は、多層構造体の膜厚測定には利用された例が無かった。
そして近年、ブルーレイディスク(Blu-ray Disc)やDVD(Digital Versatile Disc)などの光ディスクメディアにおいて、複数の記録層を有する多層構造のディスクが開発されており、これのディスクの各層間膜厚の測定に分光干渉法が利用することが検討されたが、以下に述べるように問題が生じた。
【0008】
図7に、記録層が2層のブルーレイディスクのスペーサ層とカバー層の膜厚を分光干渉法で測定する場合の構成を示す。
まずディスク1の層構造を説明する。ディスク1の厚みは1.2mmとされる。このディスク1は1.1mmの基板層(サブストレート)に第1記録層L0、スペーサ層、第2記録層L1、カバー層が順に形成される。例えばポリカーボネイトによるカバー層の表面側が記録再生時にレーザ光が入射される面となる。第1記録層L0、第2記録層L1には、それぞれ所要の反射率の反射膜が形成されている。
第1,第2記録層L0,L1の間のスペーサ層の厚みは25μm、カバー層の厚みは75μmと規定される。
【0009】
このようなディスク1に対しては、例えば製造工程や試験工程などにおける膜厚測定として、スペーサ層の膜厚とカバー層の膜厚を測定することが行われる。例えばスペーサ層とカバー層が、それぞれ25μm、75μmに形成されているかの検査等のために膜厚測定が行われる。
【0010】
測定には、膜厚測定装置10が用いられる。膜厚測定装置10は、ライトソース11として、ハロゲンランプやLED(Light Emitting Diode)等、或る程度の波長帯域幅を持った光を出力する光源を有する。
ライトソース11からの光は1又は複数の光ファイバ13によって光出力・検出ユニット15に導かれる。
光出力・検出ユニット15は、1又は複数の光ファイバ13、及び1又は複数の光ファイバ14を保持し、またレンズアセンブリを有し、光ファイバ13、14を被測定物に対向させるユニットである。
光出力・検出ユニット15が図のようにディスク1の表面側に配置されることで、光ファイバ13によって導かれた光は、ディスク1の表面に対して垂直(入射角0°)に照射される。
【0011】
ディスク1に対して照射された光は、一部がその表面で反射し、また一部が第2記録層L1で、さらに第1記録層L0で反射される。つまり表面反射光、L1反射光、L0反射光が光出力・検出ユニット15に戻ってくる。光出力・検出ユニット15に戻った光は光ファイバ14によってスペクトロメータ12に供給される。
スペクトロメータ12は、光ファイバ14から供給された光を波長毎に分光、解析し、各波長の強度を測定する。
スペクトロメータで解析された情報はコンピュータ装置9に送られ、所定の演算処理が施されてスペーサ層の膜厚及びカバー層の膜厚が算出される。
【0012】
図6を用いて説明したように各反射光は光路長の差による位相差による干渉が発生し、従ってスペクトロメータ12では図6(b)のような干渉光波形が検出される。
そして特に図7のようなシステムの場合、ディスク1のL0反射光とL1反射光の干渉光成分からスペーサ層の膜厚を算出し、またL1反射光と表面反射光の干渉光成分からカバー層の膜厚を算出することになる。
ここで図7のシステムにおいて、スペクトロメータ12が、検出される干渉光波形をFFT解析し、横軸を周波数、縦軸を光強度としたものが、図8に示されるようになる。
【0013】
この図8において、周波数軸上のa値にあらわれる波形のピークは、L0反射光とL1反射光の干渉光成分に相当する。この周波数軸上の値は、等価的に膜厚に換算できる。即ち、ピーク点として検出されたa値に所定の係数kを与えることで、スペーサ層の膜厚が算出される。算出される膜厚は25μm近辺となるはずである。
また周波数軸上のb値にあらわれる波形のピークは、L1反射光と表面反射光の干渉光成分に相当し、このピーク点であるb値に所定の係数kを与えることで、カバー層の膜厚が算出される。算出される膜厚は75μm近辺となるはずである。
【0014】
ところが、この図8の波形には、a値のスペーサ層に相当する基本波とともに、その二次高調波、三次高調波、四次高調波・・・があらわれる。
そして25μm近辺に相当する周波数軸上のa値にあらわれる基本波の二次高調波のピークは、50μm近辺に相当する周波数軸上の値にあらわれ、また三次高調波のピークは75μm近辺に相当する周波数軸上の値にあらわれる。
つまりこの場合、b値における波形のピークは、三次高調波成分と、L1反射光と表面反射光の干渉光成分の合成となってしまう。
そして実際には、記録層L0、L1の反射率が12〜28%程度であることに比べ、カバー層の表面反射率は4%程度と小さいことから、L0反射光とL1反射光の干渉光の光強度に比べて、L1反射光と表面反射光の干渉光の光強度はかなり小さくなり、結果として、L1反射光と表面反射光の干渉光成分は、三次高調波よりも小さくなる。
つまりL1反射光と表面反射光の干渉光成分は、三次高調波によって埋もれてしまい、結局ピーク点として検出されるb値は、三次高調波のピークとなる。
【0015】
スペーサ層とカバー層と膜厚算出の際には、例えばまず図8の閾値thによりピーク点を見つける。なお、二次高調波も閾値thをこえているが、基本的にはスペーサ層は25μm近辺、カバー層は75μm近辺として計測されるはずであるので、二次高調波に相当する50μm近辺に相当する周波数範囲をマスクして検出を行う。
これにより、ピーク点として図8のa値、b値が判別され、a値からスペーサ層の膜厚が算出され、b値からカバー層の膜厚が算出されるのであるが、上記のようにb値はL1反射光と表面反射光の干渉光成分のピークではなく、三次高調波のピークである。このため、算出された膜厚は、カバー層の膜厚としての正確な値とはならない。
【0016】
以上のように、従来の分光干渉法では、多層ディスク等の多層構造体の被測定物について正確な膜厚測定ができない。
そこで本発明では、分光干渉法により、多層構造体の被測定物についての正確な膜厚測定を実現できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の膜厚測定方法は、多層構造を有する被測定物における層の膜厚を測定に好適な膜厚測定方法であり、所要の波長帯域幅を持つ光を、上記被測定物の表面側から斜め方向となる入射角で照射させ、上記被測定物の表面及び内部からの各反射光の干渉光から、上記被測定物内部の層の膜厚を算出する。
また上記被測定物の内部からの反射光とは、上記被測定物の内部の第1の反射膜と第2の反射膜からの反射光であり、上記第1の反射膜の反射光と上記第2の反射膜の反射光との干渉光から、上記第1の反射膜と上記第2の反射膜の間の膜厚を算出するとともに、上記第2の反射膜の反射光と上記表面の反射光との干渉光から、上記第2の反射膜と上記表面の間の膜厚を算出する。
そして上記斜め方向となる入射角とは、上記第1の反射膜の反射光と上記第2の反射膜の反射光との干渉光の特定の高調波成分の光強度より、上記第2の反射膜の反射光と上記表面の反射光との干渉光の光強度が大きくなる入射角である。特には上記斜め方向となる入射角とは、50°から60°の範囲である。
【0018】
本発明の膜厚測定装置は、所定の波長帯域幅を持つ光を発生させる光発生手段と、上記光発生手段で発生された光を上記被測定物の表面側から斜め方向となる入射角で照射させる照射手段と、上記被測定物の表面及び内部からの各反射光の干渉光を検出する光検出手段と、上記光検出手段で検出された干渉光から上記被測定物内部の層の膜厚を算出する算出手段とを備える。
【0019】
被測定物に対して斜め方向から光を入射すると、その被測定物の表面反射率が大きくなる。またそれに応じて内部の反射膜へ達する光量も少なくなり、結果として内部反射膜からの反射光強度は減る。
即ち、従来のように被測定物に対して光を垂直に入射する場合に比べて、表面反射光の光強度と内部反射光(内部の反射膜の反射光)の光強度として適度なレベルをとることが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、被測定物に対して斜め方向から光を入射することで表面反射光と内部反射光の干渉光の光強度を上げ、複数の内部反射光、例えば第1の反射膜の反射光と第2の反射膜の反射光との干渉光の光強度に対して適度なレベルとすることができる。結果として、各干渉光成分のピークを適切に検出でき、多層構造体としての被測定物の各層の膜厚を適正に測定することができるという効果がある。
【0021】
特に、第1の反射膜の反射光と第2の反射膜の反射光との干渉光の特定の高調波成分(例えば三次高調波成分)の光強度より、第2の反射膜の反射光と表面反射光との干渉光の光強度が大きくなるように入射角を設定することで、第2の反射膜の反射光と表面反射光との干渉光成分が上記高調波成分に埋もれてピークが検出できないということがなくなり、被測定物の第2の反射膜と表面の間の膜厚を正確に測定できる。
また斜め方向となる入射角とは、50°から60°の範囲とすれば、ブルーレイディスクのカバー層の膜厚測定に好適となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の実施の形態を説明する。図1はブルーレイディスクフォーマットのディスク1を対象として、そのスペーサ層及びカバー層の膜厚を測定する本例の膜厚測定システム構成を示している。
図1に示すディスク1の構造は、図7で説明したものと同様である。即ち、1.2mm厚のディスク1は、1.1mmの基板層(サブストレート)に第1記録層L0、スペーサ層、第2記録層L1、カバー層が順に形成され、例えばポリカーボネイトによるカバー層の表面側が記録再生時にレーザ光が入射される面となる。第1記録層L0、第2記録層L1には、それぞれ所要の反射率の反射膜が形成されている。また第1,第2記録層L0,L1の間のスペーサ層の厚みは25μm、カバー層の厚みは75μmと規定される。
【0023】
このようなディスク1に対してスペーサ層の膜厚とカバー層の膜厚を測定するために、膜厚測定装置2が用いられる。膜厚測定装置2は、ライトソース3として、ハロゲンランプやLED等、或る程度の波長帯域幅を持った光を出力する光源を有する。例えば450nm〜800nm程度の波長帯域幅を有する光の光源である。なお、必要な波長帯域幅は被測定物の膜厚が分光干渉法で検出できるように設定されればよいもので、その波長範囲が限定されるものではない。
【0024】
ライトソース3からの光は1又は複数の光ファイバ5によって光出力ユニット7に導かれる。
光出力ユニット7は、1又は複数の光ファイバ5を保持し、またレンズアセンブリを有し、光ファイバ5で導かれた光を被測定物に照射させるユニットである。光出力ユニット7は、図のように入射角θiでディスク1の表面側に光を入射させるように配置される。
【0025】
光出力ユニット7からは入射角θiで入射光Iがディスク1の表面に入射されるが、その一部が表面で反射される表面反射光Rsとなる。また一部が第2記録層L1で反射されたL1反射光R1となり、さらに一部が第1記録層L0で反射されたL0反射光R0となる。
表面反射光Rs、L1反射光R1、L0反射光R0は、それぞれ破線で示す光路長が異なることで位相差が生じ、これによって特定の波長が強められるように干渉する。そして表面反射光Rs、L1反射光R1、L0反射光R0の干渉光が光検出ユニット8で検出される。
光検出ユニット8は、レンズアセンブリを介して光を導入する1又は複数の光ファイバ6を保持しており、上記干渉光は、光ファイバ6に入射されてスペクトロメータ4に導かれる。
なお、図では光出力ユニット7と光検出ユニット8は別体として示しているが、実際に被測定物であるディスク1に対向させるデバイスとして、これらが一体化されていても良い。即ち、入射角θiで光をディスク1に照射し、またその反射光を受光できる位置に光検出ユニット8が配置されているものであれば、その構造はどのようなものでもよい。
【0026】
スペクトロメータ4は、光ファイバ6から供給された光を波長毎に分光、解析し、各波長の強度を測定する。
スペクトロメータで解析された情報はコンピュータ装置9に送られ、所定の演算処理が施されてスペーサ層の膜厚及びカバー層の膜厚が算出される。
【0027】
基本的にはスペクトロメータ4及びコンピュータ装置9の処理は、図7で説明したものと同様である。即ちディスク1のL0反射光R0とL1反射光R1の干渉光成分からスペーサ層の膜厚を算出し、またL1反射光R1と表面反射光Rsの干渉光成分からカバー層の膜厚を算出することになる。
但し、本例の場合、入射光Iは入射角θiとしてディスク1の表面に斜め方向から入射されるようにしている。これによりスペクトロメータ4が、検出される干渉光波形をFFT解析し、横軸を周波数、縦軸を光強度としたものは図2に示されるようになる。
【0028】
この図2において、周波数軸上のa値にあらわれる波形のピークは、L0反射光R0とL1反射光R1の干渉光成分に相当する。図8で述べたように、この周波数軸上の値は、等価的に膜厚に換算できる。即ち、ピーク点として検出されたa値に所定の係数kを与えることで、スペーサ層の膜厚が算出される。算出される膜厚は25μm近辺となるはずである。
また周波数軸上のb値にあらわれる波形のピークは、L1反射光R1と表面反射光Rsの干渉光成分に相当し、このピーク点であるb値に所定の係数kを与えることで、カバー層の膜厚が算出される。算出される膜厚は75μm近辺となるはずである。
従って、スペーサ層とカバー層と膜厚算出の際には、例えばまず閾値thによりピーク点を見つける。これにより、ピーク点として図2のa値、b値が判別され、a値からスペーサ層の膜厚が算出され、b値からカバー層の膜厚が算出される。
【0029】
ここで従来の図7、図8の説明では、b値がL1反射光R1と表面反射光Rsの干渉光成分のピークではなく、L0反射光R0とL1反射光R1の干渉光成分の三次高調波のピークとなってしまうため、カバー層の膜厚が正確に検出できないと述べた。
ところが本例の場合、このb値のピークはL1反射光R1と表面反射光Rsの干渉光成分のピークとなる。このため、カバー層の膜厚が正確に算出できるものである。この理由は次の通りである。
【0030】
入射光Iは入射角θiとして斜め方向からディスク1の表面に入射されている。このためディスク1の表面での反射率が高くなる。またこれによって表面の透過率が減少し、第1記録層L0、第2記録層L1に達する光成分が減少するため、結果として、L0反射光R0とL1反射光R1の干渉光の光強度が弱められる。これは図2と図8を比較してわかるように、a値におけるピークとしての光強度が減少することにあらわれている。
つまり、L1反射光R1と表面反射光Rsの干渉光の光強度が高くなり、またL0反射光R0とL1反射光R1の干渉光の光強度が弱められ、その三次高調波成分も低減することから、
(三次高調波成分のピーク)<(L1反射光R1と表面反射光Rsの干渉光のピーク)
という状態となり、即ちb値におけるピークは、L1反射光R1と表面反射光Rsの干渉光のピークとなる。そしてこのようにb値はカバー層の膜厚に相当する値として検出されることになるため、カバー層の膜厚が正確に算出できるものである。もちろんスペーサ層の膜厚は、a値から正確に算出できる。
【0031】
以上のことから理解されるように本例では、ディスク1の表面に対して斜め方向(入射角θi)から光を入射することで表面反射光RsとL1反射光R1の干渉光の光強度を上げ、またL0反射光R0とL1反射光R1との干渉光の光強度を低下させることで、カバー層とスペーサ層の検出のための周波数軸上のピーク点を適切に検出でき、カバー層とスペーサ層の膜厚を適正に測定することができる。
そして特に、この効果を得るためには、斜め方向となる入射角θiは、L0反射光R0とL1反射光R1との干渉光の三次高調波成分よりも、表面反射光RsとL1反射光R1の干渉光の光強度が大きくなるような角度に設定すればよい。
また、本例では、入射角θiを与える光出力ユニット7、及びそれに対応する光検出ユニット8を変更するのみで、他は従来のシステムを流用できることから、実施の手間やコスト的な面で有利であり、安価で信頼できる測定が可能となる。
【0032】
次に、図1に示した層構造のブルーレイディスクのカバー層、スペーサ層の膜厚検出のために適切な入射角θiとしての具体例を検討する。
まず図5で、入射光Iのディスク1内での光路を述べる。
ディスク1の表面(カバー層表面)の反射率をRとする。また記録層L1の反射膜の反射率をaとする。表面反射率Rは後述するように入射角θiによって変化する。
ブルーレイディスクの場合、記録層L1の反射膜の反射率a、及び記録層L0の反射膜の反射率は、いづれも12〜28%程度である。
【0033】
入射角θiで入射される入射光Iは、一部が表面で反射され、表面反射光Rsとなる。表面反射光Rsは(入射光I)×(反射率R)で表される(Rs=I・R)。
表面を透過した光は、表面での屈折により入射角θtで第2記録層L1に達する。なお表面を透過する光成分の強度は、I−(I・R)となる。
記録層L1は反射率aであるため、記録層L1で反射される光成分は、
(I−(I・R))・a
となる。
この光成分は、表面に達した時点で一部が反射され、一部が透過する。表面での反射成分は、表面反射率Rにより(I−(I・R))・a・Rとなる。そして表面を透過する光成分、つまりL1反射光R1は、
R1=(I−(I・R))・a・(1−R)
となる。
また、記録層L1を透過した透過光Tは、
T=(I−(I・R))・(1−a)
となるが、この透過光Tは、破線で示すように一部が記録層L0で反射され、また一部が記録層L1、及び表面を透過して、L0反射光R0となる。
【0034】
図3は入射角θiを10°〜85°の範囲で変化させた場合の各種の値を示す。ここでは、カバー層がポリカーボネートであるとし、ポリカーボネートの屈折率は1.58〜1.6程度であることから、屈折率を1.6として検討した。なお、実際のブルーレイディスクでは、カバー層の表面にハードコートをすることがあるが、ハードコートもポリカーボネートとほぼ同じ屈折率であるため、ハードコートについては無視できる。
【0035】
カバー層の屈折率1.6と入射角θiから角度θtが算出される。また入射角θi毎の表面反射率Rを算出するため、S偏光、P偏光の反射率rs、ps、及びその平均値Aveが計算されている。
表面反射率Rは、平均値Aveに100を乗じた値としている。
このように算出された表面反射率Rは、入射角θiに応じて図4に示されるようになる。
図4からわかるように、入射角θiが大きくなるほど、表面反射率Rは大きくなる。
【0036】
図3における表面反射光Rsは、入射光I=1として、Rs=I・Rで算出している。
また記録層L1の反射率a=0.2216としている。ブルーレイディスク規格では記録層L0、L1の反射率は12〜28%である。通常読出時(垂直入射時)の記録層L1からの反射率を20%とすると、L1反射光R1は、
R1=(I−(I・R))・a・(1−R)
=0.2
ここで入射光I=1、垂直入射時の表面反射率R=0.05として記録層L1の反射率aを求めると、a=0.2216程度と考えられる。
【0037】
L1反射光R1は、上記のようにR1=(I−(I・R))・a・(1−R)であり、I=1、a=0.2216に、入射角θi毎の表面反射率Rを用いて算出される。
また表面反射光RsとL1反射光R1の干渉光強度(Rs・R1)が示される。
また(R1・R0・0.36)、及び(R1・R0)が示されている。(R1・R0)は、L0反射光R0とL1反射光R1の干渉光の光強度である。そして三次高調波は、基本波の約36%とし、(R1・R0・0.36)により、L0反射光R0とL1反射光R1の干渉光の三次高調波が示されている。
【0038】
上記図2で説明した正確なカバー層の膜厚測定のための入射角θiとしては、
(RsとR1の干渉パワー)>(R1とR0の干渉の3次高調波パワー)
となる様な入射角を求めればよいことになる。
すると、図3の(Rs・R1)の値と、(R1・R0・0.36)の値を比較して、入射角θiは50°以上が適切であるとすることができる。
一方、(R1・R0)で示される、L1反射光R1とL0反射光R0の干渉パワーは、入射角θiが大きくなるほど低下していくことが図3からわかる。そしてL1反射光R1とL0反射光R0の干渉パワーは、スペーサ層の膜厚測定に用いるため、この(R1・R0)の値が小さすぎることも不適当である。図2のa値でのピークが良好に判別できなくなるためである。
結局、L1反射光R1とL0反射光R0の干渉パワーとして或る程度のレベルが維持され、かつ(RsとR1の干渉パワー)>(R1とR0の干渉の3次高調波パワー)となるためには、図3に太線枠で示した範囲、つまり入射角θiとしては50°〜60°程度が適切と考えることができる。
つまり図1の例をブルーレイディスクの膜厚測定に用いる場合、入射角θiが50°〜60°程度となるように光出力ユニット7を配置すればよい。
【0039】
なお、50°〜60°程度という入射角は、ブルーレイディスク規格においてスペーサ層とカバー層の膜厚測定において適切なものであり、他の種のディスク、或いは他の被測定物の膜厚測定に全て当てはまるものではない。つまり入射角θiとしては被測定物に応じて適切な角度が設定されればよいものであり、換言すれば、本発明の入射角θiは50°〜60°に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施の形態の膜厚測定の説明図である。
【図2】実施の形態の膜厚測定で観測される波形の説明図である。
【図3】実施の形態の入射角算出の説明図である。
【図4】入射角に対する表面反射率の説明図である。
【図5】入射光の光路の説明図である。
【図6】分光干渉法の説明図である。
【図7】従来の膜厚測定の説明図である。
【図8】従来の膜厚測定で観測される波形の説明図である。
【符号の説明】
【0041】
1 ディスク、2 膜厚測定装置、3 ライトソース、4 スペクトロメータ、5,6 光ファイバ、7 光出力ユニット、8 光検出ユニット、9 コンピュータ装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長帯域幅を持つ光を、被測定物の表面側から斜め方向となる入射角で照射させ、上記被測定物の表面及び内部からの各反射光の干渉光から、上記被測定物内部の層の膜厚を算出することを特徴とする膜厚測定方法。
【請求項2】
上記被測定物の内部からの反射光とは、上記被測定物の内部の第1の反射膜と第2の反射膜からの反射光であり、
上記第1の反射膜の反射光と上記第2の反射膜の反射光との干渉光から、上記第1の反射膜と上記第2の反射膜の間の膜厚を算出するとともに、
上記第2の反射膜の反射光と上記表面の反射光との干渉光から、上記第2の反射膜と上記表面の間の膜厚を算出することを特徴とする請求項1に記載の膜厚測定方法。
【請求項3】
上記斜め方向となる入射角とは、上記第1の反射膜の反射光と上記第2の反射膜の反射光との干渉光の特定の高調波成分の光強度より、上記第2の反射膜の反射光と上記表面の反射光との干渉光の光強度が大きくなる入射角であることを特徴とする請求項2に記載の膜厚測定方法。
【請求項4】
上記斜め方向となる入射角とは、50°から60°の範囲に設定されることを特徴とする請求項2に記載の膜厚測定方法。
【請求項5】
所定の波長帯域幅を持つ光を発生させる光発生手段と、
上記光発生手段で発生された光を、被測定物の表面側から斜め方向となる入射角で照射させる照射手段と、
上記被測定物の表面及び内部からの各反射光の干渉光を検出する光検出手段と、
上記光検出手段で検出された干渉光から、上記被測定物内部の層の膜厚を算出する算出手段と、
を備えたことを特徴とする膜厚測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−3456(P2007−3456A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−186339(P2005−186339)
【出願日】平成17年6月27日(2005.6.27)
【出願人】(594064529)株式会社ソニー・ディスクアンドデジタルソリューションズ (88)
【Fターム(参考)】