説明

自動二輪車

【課題】部品点数を低減しながら、アイドル停止とアイドル許可とを適切に行うことができる自動二輪車を提供する。
【解決手段】アイドル制御用スイッチ84が有する単一の操作子84Sが操作された場合に(ステップS11)、エンジン12Aの運転状態を判定し(ステップS12)、エンジン12Aが運転中であればエンジン12Aを停止させ(ステップS14)、エンジン12Aが停止中であればエンジン12Aを始動させるようにした(ステップS22〜S25)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の回転を変速して駆動輪に伝達する自動二輪車に関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車には、内燃機関の吸気系に燃料噴射弁が設けられ、所定条件が満たされると、自動的に燃料噴射弁の動作を停止させ、この停止から所定期間経過後に内燃機関の点火制御を停止させてアイドルストップさせる構成が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−100606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の構成は自動でアイドルストップさせるため、センサ類を多用し、かつ、複雑な制御を必要とし、廉価な自動二輪車には採用し難い。
一方、この種の廉価な自動二輪車では、信号停止した場合に、運転者がキーシリンダのキーを回動操作して手動でアイドルストップさせ、スタートする際に、スタータスイッチを操作して手動でエンジン始動させる場合があった。
しかし、これらの装備は車両の乗降時に操作するものであり、信号停止の度に操作するのは煩雑であり、本体の使用態様とは異なる。しかも、キャブレタ、及び、内燃機関の排気系に設けられる触媒が採用された廉価な自動二輪車では、スロットル開のときにキーシリンダのキー操作でエンジン停止させると、燃料供給の急停止に遅れが生じることがあり、燃料カット等の複雑な対策構造が必要になる。
【0005】
そこで、アイドル制御用の手動スイッチを設けることを考えた場合、アイドル停止とアイドル許可(エンジン始動)とを別々の操作子で行うと、部品点数が多くなり、コストが高くなってしまうという問題が生じてしまう。
本発明は、上述した事情を鑑みてなされたものであり、部品点数を低減しながら、アイドル停止とアイドル許可とを適切に行うことができる自動二輪車を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するため、本発明は、内燃機関(12A)の回転を変速して駆動輪(46)に伝達するマニュアル式変速機(12B)を有する自動二輪車において、単一の操作子(84S)を有するアイドル制御用スイッチ(84)と、前記単一の操作子が操作された場合に前記内燃機関(12A)の運転状態を判定し、前記内燃機関(12A)が運転中であれば前記内燃機関(12A)を停止させ、前記内燃機関(12A)が停止中であれば前記内燃機関(12A)を始動させるアイドルストップ制御部(101)とを備えることを特徴とする。この構成によれば、アイドル制御用の手動スイッチを備えた構成で、部品点数を低減しながら、アイドル停止とアイドル許可とを適切に行うことができる。
【0007】
上記構成において、前記アイドル制御用スイッチ(84)は、前記内燃機関(12A)のアイドルを停止/許可する際の操作が同一操作に構成されたスイッチであり、操作毎に前記内燃機関(12A)の運転状態を判定し、前記内燃機関(12A)が運転中であれば前記内燃機関(12A)を停止させ、前記内燃機関(12A)が停止中であれば前記内燃機関(12A)を始動させるようにしても良い。この構成によれば、より簡易な操作及び制御によって、アイドル停止とアイドル許可とを適切に行うことができる。
また、上記構成において、前記操作子(84S)が操作されると前記内燃機関(12A)の回転数を検出し、零を超える回転数が検出されるとアイドリング停止モードとなり、更に所定の回転数(Ne1)以下となったときにアイドリング停止を許可し、回転数が零のときは再始動モードとなり前記内燃機関(12A)を始動させるスタータモータ(85)を駆動し、所定の回転数(Ne2)以上となったときに始動完了と判定し、前記スタータモータ(85)を自動停止するようにしても良い。この構成によれば、内燃機関の回転数に応じてアイドリング停止か再始動かを適切に選ぶことができる。
【0008】
また、上記構成において、前記アイドル制御用スイッチ(84)は、前記単一の操作子(84S)が揺動するシーソースイッチ、又は、前記単一の操作子(84S)がスライドするスライドスイッチであり、前記アイドルストップ制御部(101)は、前記単一の操作子(84S)が一方側に操作された場合に、前記内燃機関(12A)が運転中であれば前記内燃機関(12A)を停止させ、他方側に操作された場合に、前記内燃機関(12A)が停止中であれば前記内燃機関(12A)を始動させるようにしても良い。この構成によれば、簡易な操作で、アイドル停止とアイドル許可とが可能である。
また、上記構成において、前記単一の操作子(84S)は、一方側又は他方側に操作されると、操作された側に位置が固定される構成であり、前記単一の操作子(84S)が操作された場合、前記アイドルストップ制御部(101)は、所定の待ち時間の経過を待って操作された側に応じた制御を行うようにしても良い。この構成によれば、内燃機関の始動時においては内燃機関が完全停止した後に始動でき、内燃機関のクランク軸等に負担がかかるのを低減し、また、スタータモータの消費電力を低減できる。
【0009】
また、上記構成において、前記単一の操作子(84S)は、外部からの操作力がある間だけ一方側又は他方側に操作され、それ以外は復帰位置に戻る構成であり、前記アイドルストップ制御部(101)は、前記他方側に操作される間、前記内燃機関(12A)を始動させるスタータモータ(85)を回転駆動させるようにしても良い。この構成によれば、従来のスタータスイッチ操作時と同じ簡易な制御を適用することが可能になる。
また、上記構成において、前記内燃機関(12A)の吸気系に設けられるキャブレタ(63)と、前記内燃機関(12A)の排気系に設けられる触媒(69)とを備え、前記内燃機関(12A)を停止させる場合、前記内燃機関(12A)が無負荷又は低負荷状態のいずれかに該当するか否かを判定し、無負荷又は低負荷状態のときに前記内燃機関(12A)を停止させるようにしても良い。この構成によれば、キャブレタ及び触媒を備える構成でも、燃料カット等の複雑な対策構造を不要にでき、構造を簡易にすることができる。
【0010】
また、本発明は、スロットル開度を検知するスロットル開度センサ(127)と、車速を検出する車速センサ(124)と、内燃機関(12A)に対して燃料を噴射する燃料噴射手段(223)と、前記内燃機関(12A)に対して点火を行う点火手段と、前記スロットル開度および前記車速に基づいてアイドルストップの条件を判定し、その条件に合致した場合に、前記点火手段または前記燃料噴射手段(223)を停止制御することによって内燃機関(12A)を停止させるアイドルストップ制御部(101)と、を備えた自動二輪車において、前記アイドルストップ制御部(101)は、前記停止制御を開始して所定時間経過後に前記燃料噴射手段(223)に燃料噴射させて、前記内燃機関(12A)内に次回始動に供する燃料を供給しておくことを特徴とする。この発明によれば、内燃機関内に次回始動に供する燃料を供給しておくので、再始動性を向上することができる。
【0011】
上記構成において、前記所定時間は、前記停止制御を開始する直前の前記内燃機関(12A)の平均回転数に基づいて設定されるようにしても良い。この構成によれば、内燃機関の停止時間は、直前の回転数に比例するので、適切な待ち時間を容易に設定することができる。この場合、前記所定時間は、前記平均回転数が高いほど長い時間に設定されるようにすれば、内燃機関内に次回始動に供する燃料を確実に供給することができる。
また、上記構成において、当該自動二輪車の傾斜状態を検出する傾斜検出手段(251)を備え、前記アイドルストップ制御部(101)は、前記傾斜状態に基づいてオフロード走行しているか否かを判定し、オフロード走行時であれば前記内燃機関(12A)の停止を許可しないようにしても良い。この構成によれば、オフロード走行時にアイドルストップを禁止することが可能になる。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、アイドル制御用スイッチが有する単一の操作子が操作された場合に内燃機関の運転状態を判定し、内燃機関が運転中であれば内燃機関を停止させ、内燃機関が停止中であれば内燃機関を始動させるアイドルストップ制御部を備えるので、アイドル制御用の手動スイッチを備えた構成で、部品点数を低減しながら、アイドル停止とアイドル許可とを適切に行うことができる。
また、アイドル制御用スイッチは、内燃機関のアイドルを停止/許可する際の操作が同一操作に構成されたスイッチであり、操作毎に内燃機関の運転状態を判定し、内燃機関が運転中であれば内燃機関を停止させ、内燃機関が停止中であれば内燃機関を始動させるようにすれば、より簡易な操作及び制御によって、アイドル停止とアイドル許可とを適切に行うことができる。
また、上記操作子が操作されると内燃機関の回転数を検出し、零を超える回転数が検出されるとアイドリング停止モードとなり、更に所定の回転数以下となったときにアイドリング停止を許可し、回転数が零のときは再始動モードとなり内燃機関を始動させるスタータモータを駆動し、所定の回転数以上となったときに始動完了と判定し、スタータモータを自動停止するようにすれば、内燃機関の回転数に応じてアイドリング停止か再始動かを適切に選ぶことができる。
【0013】
また、アイドル制御用スイッチは、単一の操作子が揺動するシーソースイッチ、又は、単一の操作子がスライドするスライドスイッチであり、アイドルストップ制御部は、単一の操作子が一方側に操作された場合に、内燃機関が運転中であれば内燃機関を停止させ、他方側に操作された場合に、内燃機関が停止中であれば内燃機関を始動させるようにすれば、簡易な操作で、アイドル停止とアイドル許可とが可能である。
また、単一の操作子は、一方側又は他方側に操作されると、操作された側に位置が固定される構成であり、操作された側に所定時間保持された場合に、アイドルストップ制御部が操作された側に応じた制御を行うようにすれば、内燃機関のクランク軸等に負担がかかるのを低減し、また、スタータモータの消費電力を低減できる。
また、単一の操作子は、外部からの操作力がある間だけ一方側又は他方側に操作され、それ以外は復帰位置に戻る構成であり、アイドルストップ制御部は、他方側に操作される間、内燃機関を始動させるスタータモータを回転駆動させるようにすれば、従来のスタータスイッチ操作時と同じ簡易な制御を適用することが可能になる。
また、内燃機関の吸気系に設けられるキャブレタと、内燃機関の排気系に設けられる触媒とを備え、内燃機関を停止させる場合、内燃機関が無負荷又は低負荷状態のいずれかに該当するか否かを判定し、無負荷又は低負荷状態のときに内燃機関を停止させるようにすれば、キャブレタ及び触媒を備える構成でも、燃料カット等の複雑な対策構造を不要にでき、構造を簡易にすることができる。
【0014】
また、アイドルストップ制御部は、アイドルストップの条件に合致して内燃機関の停止制御を開始して所定時間経過後に燃料噴射手段に燃料噴射させて、内燃機関内に次回始動に供する燃料を供給しておくので、再始動性を向上することができる。
また、上記所定時間は、上記停止制御を開始する直前の内燃機関の平均回転数に基づいて設定されるようにすれば、適切な待ち時間を容易に設定することができる。この場合、上記所定時間は、上記平均回転数が高いほど長い時間に設定されるようにすれば、内燃機関内に次回始動に供する燃料を確実に供給することができる。
また、当該自動二輪車の傾斜状態を検出する傾斜検出手段を備え、アイドルストップ制御部は、傾斜状態に基づいてオフロード走行しているか否かを判定し、オフロード走行時であれば内燃機関の停止を許可しないようにすれば、オフロード走行時にアイドルストップを禁止することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1実施形態を適用した自動二輪車を示す左側面図である。
【図2】自動二輪車の操作系を上方から示した図である。
【図3】アイドルストップ制御装置を周辺構成とともに示すブロック図である。
【図4】アイドル制御用スイッチを周辺構成と共に示す図である。
【図5】アイドルストップ制御装置の制御を示すフローチャートである。
【図6】(A)は第2実施形態のスロットルハウジングの右側面図であり、(B)は正面図である。
【図7】(A)は図4(B)のA−A断面図であり、図5(B)は図4(B)のB−B断面図である。
【図8】第3実施形態のアイドル制御用スイッチを周辺構成と共に示す図である。
【図9】(A)は操作子が左右中央の位置(ニュートラル位置)にある場合を示し、(B)は左側のON位置にある場合を示し、(C)は右側のOFF位置にある場合を示す図である。
【図10】アイドルストップ制御装置の制御を示すフローチャートである。
【図11】第4実施形態に係る自動二輪車のエンジン周辺構造を模式的に示す図である。
【図12】待ち時間を設定するマップデータを説明する図である。
【図13】アイドルストップの動作を示すフローチャートである。
【図14】図13に対応するエンジン回転数のタイミングチャート図である。
【図15】第5実施形態に係る自動二輪車のエンジン周辺構造を模式的に示す図である。
【図16】アイドルストップの動作を示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。なお、説明中、前後左右および上下といった方向の記載は、特に記載がなければ車体に対する方向と同一とする。また、各図に示す符号FRは車体前方を示し、符号UPは車体上方を示し、符号Lは車体左方を示している。
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態を適用した自動二輪車1を示す左側面図である。
この自動二輪車1は、車体フレーム2の前後中央に比較的小型のパワーユニット12を支持し、このパワーユニット12の上方に燃料タンク10を備え、燃料タンク10の後方に乗員用シート16を備える小型の鞍乗り型車両である。
車体フレーム2は、前端に設けられるヘッドパイプ3から後下方に延びるメインフレーム4と、メインフレーム4の後端部から後方に延びる左右一対のシートレール5と、メインフレーム4の前端部から後下方に延びる左右一対のダウンフレーム6と、メインフレーム4の前端部よりも後方から後下方に延びてダウンフレーム6の後端部に連結される左右一対のセンターフレーム7と、シートレール5とセンターフレーム7との間を架橋する左右一対のサブフレーム8とを備えている。
【0017】
ヘッドパイプ3には、ステアリングシャフト(不図示)が回動自在に支持され、このステアリングシャフトに上下一対のトップブリッジ19およびボトムブリッジ20を介してフロントフォーク9が取り付けられ、フロントフォーク9がステアリングシャフトと一体に回動する。
トップブリッジ19には、ハンドルバー(ハンドル)21が取り付けられ、フロントフォーク9の下端には前輪31が回転自在に支持され、ハンドルバー21によって前輪31が左右に操舵される。このフロントフォーク9には、前輪31の上方を覆うフロントフェンダ32が取り付けられている。
また、トップブリッジ19およびボトムブリッジ20には、キーシリンダ22およびカウル支持ステー23が取り付けられ、このカウル支持ステー23を介してフロントカウル24、メータユニット25、インナカウル26、左右一対のフロントウインカー30を支持するウインカー支持ステー27、フロント用のナンバープレート28およびヘッドライトユニット29が支持される。なお、キーシリンダ22は、メカニカルキーによって操作されるメインスイッチとして機能するものであり、メインスイッチがOFF(オフ)にされると後述するエンジン12Aが自動二輪車1の各部の状況によらず運転停止される。
【0018】
メインフレーム4には、当該メインフレーム4を上方から跨ぐように鞍型の燃料タンク10が取り付けられ、センターフレーム7には、左右一対のピボットプレート11が取り付けられる。このピボットプレート11には、ピボット軸45を介してスイングアーム15が上下に揺動自在に支持される。左右一対のスイングアーム15は、後方に延び、その後端に後輪(駆動輪)46が回転自在に支持され、これらスイングアーム15とシートレール5の間には左右一対のリヤクッション47が介挿される。
左右のシートレール5には、乗員用シート16が取り付けられる。この乗員用シート16は、運転者と搭乗者とが前後に間隔を空けて着座可能な前後に長いシートに形成されており、シートレール5の後部には、搭乗者が把持するグラブレール40が取り付けられている。また、シートレール5には、後輪46の左側方を覆う後部側方ガード部材17、ヘルメットホルダ41、後輪46の上方を覆うリヤフェンダ54が取り付けられ、リヤフェンダ54には、リヤウインカー55およびテールライト56が取り付けられている。
【0019】
パワーユニット12は、複数のエンジン支持部50〜52を介してメインフレーム4、ピボットプレート11およびダウンフレーム6に支持され、メインフレーム4、センターフレーム7およびダウンフレーム6に囲まれる空間内に配置される。
このパワーユニット12は、シリンダ軸線Cが前傾して略水平に配置された水平エンジン(本実施形態では空冷の単気筒エンジン)12Aを有し、クランクケース57の前部から前方に延びるシリンダ58と、シリンダ58の前部に設けられるシリンダヘッド59とを有している。
シリンダヘッド59には、吸気装置60および排気装置61が取付けられている。吸気装置60は、燃料タンク10とエンジン(内燃機関)12Aとの間に配置された燃料供給装置であるキャブレタ63と、キャブレタ63の前部とシリンダヘッド59の上部の吸気ポートとを接続する吸気管62と、キャブレタ63の後部にコネクティングチューブ64を介して接続されるエアクリーナ65とを備えて構成されている。
【0020】
排気装置61は、シリンダヘッド59の下部の排気ポートに取付けられた排気管66と、この排気管66の後端に取付けたマフラ67とを有し、マフラ67を奥側のバー部材42およびバー部材42の先端に取付けたマフラステー68を介して支持したものである。
マフラ67内には、キャタライザー(触媒)69が配置され、排気ガスを浄化してマフラ67外へ排出する。なお、キャタライザー69はマフラ67内に限らず、排気管66の途中に設けても良い。
【0021】
パワーユニット12のクランクケース57内には、エンジン12Aが回転駆動するクランク軸71の回転を変速して出力軸72に伝達する変速機12Bと、クランク軸71と変速機12Bとの間の動力伝達を遮断可能なクラッチ12Cとが配置されている。この出力軸72の回転は、チェーンカバー49内に設けられたチェーン伝達機構(動力伝達機構)を介して後輪46に伝達される。
図1中、符号75は、エンジン12Aの回転動力で発電する発電機(不図示)の電力を蓄電するバッテリーであり、このバッテリー75の電力によって車体が具備するライト等の電装品が駆動される。
【0022】
燃料タンク10の下方には収納ボックス33が配置される。収納ボックス33は、メインフレーム4とパワーユニット12との間に位置し、メインフレーム4の下部にブラケット35を介して取り付けられている。この収納ボックス33には、後述する制御部(アイドリングストップ制御部)101が配置されている。
また、パワーユニット12下方のダウンフレーム6には、パワーユニット12左右に延びて乗員用シート16の前部に着座する運転者が足を載せる左右一対のステップ76が取り付けられると共に、自動二輪車1を駐車するためのスタンド77が収納自在に取り付けられる。
また、パワーユニット12後方のサブフレーム8には、後下方に延びるバー部材42を介して、乗員用シート16の後部に着座する搭乗者が足を載せる左右一対のステップ43が取り付けられている。
【0023】
図2は、自動二輪車1の操作系を上方から示した図である。図2中、符号C1は、自動二輪車1の車幅中心線を示している。
図2に示すように、この自動二輪車1のハンドルバー21の右端部には、運転者(乗員)が右手で操作するスロットル(スロットルグリップとも称する)81が回動自在に装着られ、このスロットル81の車幅方向内側に、スロットル81の基端部を覆うケースであるスロットルハウジング82が設けられる。
このスロットルハウジング82内では、スロットル81にスロットルケーブルCT(図1参照)の一端が接続され、このスロットルケーブルCTを介して、スロットル81の回動操作がキャブレタ63内のスロットル弁に伝達される。これにより、運転者がスロットル開度を手動で可変させ、エンジン12Aの吸気量(燃料と空気の混合気の量)を変化させ、エンジン出力を調整できる。
また、このスロットルハウジング82には、運転者が右手の親指で操作する押下式のスタータスイッチ(始動スイッチ)83とアイドル制御用スイッチ84とが設けられている。
【0024】
スタータスイッチ83は、エンジン12Aの始動を指示する手動スイッチであり、このスタータスイッチ83がONの間、パワーユニット12の上部に設けられたスタータモータ85が回転駆動し、エンジン12Aが始動する。なお、スタータスイッチ83はOFF側に付勢されており、押下される間だけONに切り替わり、押下されなくなるとOFFに切り替わるように構成されている。
アイドル制御用スイッチ84は、エンジン12Aのアイドル停止/再始動を指示する手動スイッチであり、このアイドル制御用スイッチ84の所定操作により、不図示の点火装置(点火手段)を介してエンジン12Aの点火プラグ(不図示)による点火制御が停止され、エンジン12Aが停止させることができ、また、スタータモータ85が回転駆動され、エンジン12Aを再始動させることができる。
【0025】
ハンドルバー21の左端部には、運転者が左手で操作するクラッチレバー86が設けられ、このクラッチレバー86の操作が、クラッチケーブルCCを介してクラッチ12Cに伝達され、クラッチ12Cを断続させる。クラッチレバー86は、基端部を支点にしてハンドルグリップ87から離れる方向(前方向)に付勢されており、運転者がクラッチレバー86を手前に引くと(ハンドルグリップ87側に操作すると)、クラッチ12Cが切断状態となり、クラッチレバー86が前方に戻ると(ハンドルグリップ87と反対側に移動すると)、クラッチ12Cが接続状態となる。つまり、この自動二輪車1のクラッチ12Cは、運転者の操作のみで作動する手動クラッチとされている。
このハンドルグリップ87の車幅方向内側には、運転者が左手の親指で操作するスイッチ群88(ウインカースイッチ88A、ヘッドライトスイッチとポジションライトスイッチを兼ねるライトスイッチ88B等)を備えるスイッチハウジング89が設けられている。これらスイッチの操作により、ウインカー30,55の点滅/消灯、ヘッドライトユニット29内のヘッドライト29A(後述する図3参照)の点灯/消灯、ヘッドライトユニット29およびテールライト56内のポジションライト29B(後述する図3参照)の点灯/消灯等が行われる。
【0026】
パワーユニット12の左側には、運転者が左足で操作するシーソー式のシフトペダル(変速操作子)91が上下に揺動自在に設けられ、このシフトペダル91の操作に応じて変速機12Bの変速段が切り替わる。この変速機12Bは、常時噛み合い式の変速機であり、シフトペダル91の前部又は後部を踏み込む毎に、1速〜4速、ニュートラルのいずれかに所定順で切り替わる。つまり、この変速機12Bは、運転者の操作のみで作動するマニュアル式変速機(手動変速機)とされている。
【0027】
ハンドルバー21の右側には、運転者が右手で操作するブレーキレバー92が設けられ、パワーユニット12の右側には、運転者が右足で操作するブレーキペダル93が設けられる。ブレーキレバー92は、クラッチレバー86と同様に基端部を支点にしてスロットル81から離れる方向(前方向)に付勢されており、このブレーキレバー92の操作が、不図示のブレーキケーブルを介して前輪用ブレーキに伝達される。具体的には、運転者がブレーキレバー92を手前に引くと前輪用ブレーキが作動する。
ブレーキペダル93の操作は、不図示のブレーキケーブルを介して後輪用ブレーキに伝達され、ブレーキペダル93を踏み込むと、後輪用ブレーキが作動する。なお、ブレーキレバー92、ブレーキペダル93が操作された際は、テールライト56内のブレーキライトが点灯される。
このように、この自動二輪車1は、スロットル開度の調整、エンジン12Aのアイドル停止、クラッチ12Cの断続、変速段(ニュートラルを含む)の切り替え、および、ブレーキの作動のいずれも手動式に構成されており、これらの作動にアクチュエータ等の駆動装置を使用しない構成となっている。このため、シンプル、且つ、安価(コスト低減に有利)な車体構造となっている。
【0028】
また、同図2に示すように、パワーユニット12の右側、且つ、ブレーキペダル93後方には、運転者が右足で操作するキックペダル95が収納自在かつ回動自在に設けられている。このキックペダル95を図2に矢印で示す方向に回動させると、運転者がキックペダル95を踏込可能となり、エンジン始動の際には、このキックペダル95を踏み込むと、エンジン12Aが始動する。つまり、この自動二輪車1は、エンジン始動を、スタータモータ85とキックペダル95のいずれでも行うことが可能である。但し、この構成に限らず、スタータモータ85だけでエンジン始動する構成にしても良い。
なお、図2中、符号96は、左右のグリップ(スロットル81、ハンドルグリップ87)の内側、より具体的には、スロットルハウジング82およびスイッチハウジング89の内側近傍に取り付けられる左右一対のサイドミラーである。
【0029】
ところで、アイドル停止とアイドル許可(エンジン始動)とを別々の操作子で行うと、部品点数が多くなり、コストが高くなる。
そこで、本実施形態では、一つの操作子でアイドル停止とエンジン再始動とを行うアイドルストップ制御装置100を備えるようにしている。以下、このアイドルストップ制御装置100について説明する。
【0030】
図3は、アイドルストップ制御装置100を周辺構成とともに示すブロック図である。
制御部101は、自動二輪車1の各部を中枢的に制御するコンピュータ(電子制御ユニット(ECU)とも称する)であり、運転者の操作を含む車体の各部からの情報を取得し、取得した情報に基づいて被制御部(エンジン12A等)を制御する。この制御部101には、運転者が操作する操作スイッチとして、スタータスイッチ83、アイドル制御用スイッチ84、及びスイッチ群88(図2参照)が接続されており、各スイッチ83,84,88の操作に応じて対応する制御を行う。つまり、制御部101は、アイドル制御用スイッチ84が操作された場合、アイドル停止/アイドル許可(エンジン始動)を行うアイドルストップ制御部として機能する。なお、アイドリングストップ制御部を別途設けても良い。
【0031】
この自動二輪車1では、運転者がシフトペダル91へ加える操作力が変速機12B内のシフトドラム111を所定角度回動させる力に変換される。このシフトドラム111の回動に伴って、変速ギヤ列112の複数のギヤ列による変速段が切り替えられ、所定のギヤ(1速〜4速)やニュートラルが選択される。クラッチ12Cは、クラッチレバー86に加える操作力によって開放状態に切り替えられる。
この自動二輪車1には、エンジン回転数(クランク軸71の回転数)を検出するエンジン回転数センサ(回転数検出手段)123と、変速ギヤ列112内の所定のギヤの回転数から車速を検出する車速センサ(車速検出手段)124と、シフトドラム111の回動角度に基づいて運転者が選択するギヤ段(ニュートラルを含む)を検出するギヤポジションセンサ(変速検出手段)125が設けられており、これらの検出結果に基づいて制御部101がエンジン12Aの点火タイミング等を制御する。
【0032】
制御部101には、更に、キーシリンダ22(図1参照)にキーが挿入されてメインスイッチ(メインSW)がONになったことを示すON信号が入力され、このON信号が入力されている間だけ、制御部101がエンジン制御やアイドリングストップ制御を行う。
また、制御部101は、アイドリングストップ制御に関連してライトのON/OFFを管理する表示管理機能、アイドリングストップ中であることを乗員に報知する報知機能も有している。なお、図3中、符号131は、自動二輪車1の表示系を示している。この表示管理機能は、アイドリングストップ制御によりエンジン12Aを停止する間、ポジションライト29Bを点灯し、外部からの視認性を向上させる機能である。また、報知機能は、上記エンジン12Aを停止する間、メータユニット25等に設けられたアイドルストップ表示灯131(図3参照)を点灯或いは点滅させ、アイドリングストップ制御で止まったのか、或いは、不調で止まったのかを乗員に知らせる機能である。
【0033】
図4に示すように、アイドル制御用スイッチ84は、押下式の単一の操作子84Sを備えたプッシュスイッチで形成され、この操作子87Sを手の指で押し込み操作可能であり、操作子84Sが押下されるとONに切り替わり、押下されなくなるとOFFに切り替わるスイッチに構成されている。なお、この操作子84Sは、後述する他の実施形態と同様に、スロットルハウジング82における車幅方向内側(ハンドル左右中心)に膨出する膨出ケース82Eに設けられている。
【0034】
この自動二輪車1では、キーシリンダ22(図1参照)にキーが挿入されてメインスイッチ(メインSW)がONの場合に、スタータスイッチ83及びアイドル制御用スイッチ84が有効になる。メインスイッチがONの場合にスタータスイッチ83が押下されると、所定の始動条件が満足していれば、常にスタータモータ85が回転駆動される。なお、この始動条件は、マニュアル式変速機12Bがニュートラルであること、又は、マニュアル式変速機12Bがインギヤ(いずれかのギヤポジションが選択された状態)でクラッチ12Cが開放していることであり、従来の始動条件と同じである。
アイドル制御用スイッチ84(アイドルストップスイッチ84A,始動スイッチ84B)については、メインスイッチがONの場合であって、且つ、後述する所定の条件が満たされた場合に、対応する制御が行われる。
【0035】
図5は、アイドルストップ制御装置100の制御を示すフローチャートである。なお、このフローは、電源がONの状態(メインスイッチがON)場合に所定の割り込み周期で繰り返し実行される。
まず、制御部101は、アイドル制御用スイッチ84がONに切り替わると(ステップS11)、エンジン12Aの運転状態を判定する(ステップS12)。この判定の処理は、エンジン12Aが運転中か停止中かを判定する処理であり、本実施形態では、エンジン回転数を検出し、零を超えるエンジン回転数が検出されると、アイドリング停止モードとなり、更に、所定のエンジン回転数Ne1(例えば、アイドル回転数近傍の回転数)以下となったときにアイドリング停止を許可する。一方、検出したエンジン回転数が零のときは再始動モードとなり、エンジン始動を許可する。
【0036】
ステップS12の判定で、エンジン12Aが運転中であった場合(ステップS12:YES)、つまり、アイドリング停止モードでアイドリング停止を許可している場合、制御部101は、エンジン停止条件を満たすか否かを判定し(ステップS13)、満たす場合に、所定の待ち時間TA(本実施形態では10秒程度)の経過を待った後に(ステップS14:待機処理)、アイドルストップ制御を実行し(ステップS15)、満たさない場合はアイドルストップ制御を実行せず、当該処理を一時中断する。
なお、エンジン12Aが運転中か停止中かを判定する処理は、上記のエンジン回転数で判定する方法に代えて、エンジン回転数センサ123や車速センサ124やギヤポジションセンサ125の検出結果に基づいて、車速が所定速度以下でエンジン12Aが回転している場合、又は、ギヤポジションがニュートラルでエンジン12Aが回転している場合にエンジン運転中と判定する方法などの公知の判定方法を広く適用することができる。
【0037】
上記待ち時間TAは、走行中の自動二輪車1が停止するまでの予想時間に設定される。この待ち時間TAを設けたことにより、例えば、運転者が停止前の早いタイミングで操作子84Sを操作した場合に、停止後にアイドルストップ制御を実行させることができる。
また、上記エンジン停止条件は、少なくとも操作子84Sが操作され、本実施形態では、更に、キャタライザー保護条件(触媒保護条件)を含んでいる。
このキャタライザー保護条件は、エンジン12Aが無負荷又は低負荷状態であることであり、エンジン12Aが無負荷又は低負荷状態のいずれかに該当するか否かを判定し、無負荷又は低負荷状態のときにエンジン12Aを停止させる。ここで、制御部101は、エンジン回転数センサ123によって検出されるエンジン回転数が予め定めた閾値以下である場合、又は、スロットル開度を検出するセンサ(スロットル開度センサ)を追加し、スロットル開度が所定開度以下の場合にエンジン12Aが無負荷又は低負荷状態と判定する。また、それ以外の公知の負荷判定方法を適用しても良い。エンジン回転数の閾値は、例えば、エンジン12Aのアイドル回転数又はこのアイドル回転数に近い回転数である。エンジン回転数の閾値は、例えば、エンジン12Aのアイドル回転数又はこのアイドル回転数に近い回転数である。
【0038】
上記したように、本自動二輪車1は、キャブレタ63によって燃料供給する負圧式の構成であるため、電気式のインジェクタ(燃料噴射装置(燃料噴射手段))を使用する場合と比較して燃料供給を急停止させることが難しい。
このため、キャブレタ63、及び、排気系に設けられるキャタライザー(触媒)69を備えた構成では、エンジン12Aに大量の混合気が送られている最中にアイドルストップスイッチ84Aの操作により点火制御を停止すると、未燃焼ガス(未燃焼燃料)の急停止に遅れが生じ、燃料カット等の複雑な対策構造が必要になる。
本構成では、エンジン12Aが、この複雑な対策構造が不要な無負荷又は低負荷状態でなければアイドルストップ制御を実行しないので、構造を簡易にすることができる。
【0039】
このようにして、操作子84Sが操作され、キャタライザー保護条件(触媒保護条件)を満足している場合に、アイドルストップ制御を実行するので、キャタライザー69を保護しつつ、運転者の手動操作に応じたアイドルストップができる。
本実施形態のアイドルストップ制御では、エンジン12Aの点火制御を中止してエンジン12Aを停止させる制御に加え、ヘッドライト29Aの点灯時にアイドルストップになった場合に、バッテリー75の消費電力増大を抑えるため、アイドルストップ制御が入るとヘッドライト29Aを消灯してポジションライト29Bの点灯に切り替える制御を行うことにより、アイドリングストップ制御によりエンジン12Aを自動停止する間、ヘッドライト29Aの自動消灯とポジションライト29Bの自動点灯とを行い、消費電力低減と外部からの視認性向上とを両立させる。また、上記エンジン12Aを自動停止する間、メータユニット25等に設けられたアイドルストップ表示灯131(図3参照)を点灯或いは点滅させる制御を行うことにより、アイドリングストップ制御で止まったのか、或いは、不調で止まったのかを乗員に知らせる。なお、このアイドルストップ制御の間でも、ウインカー30,55、および、テールライト56内のブレーキライト56A(図3参照)等は作動可能である。
【0040】
一方、ステップS12の判定で、エンジン12Aが停止中であった場合(ステップS12:NO)、つまり、再始動モードでエンジン始動を許可している場合、制御部101は、エンジン再始動条件を満たすか否かを判定し(ステップS20)、満たす場合に、所定の待ち時間TB(本実施形態では10秒程度)の経過を待った後に(ステップS21:待機処理)、エンジン12Aを始動すべくスタータモータ85をON(駆動状態)にし(ステップS22)、満たさない場合はスタータモータ85をONにせず、当該処理を一時中断する。
この待ち時間TBは、アイドル停止開始(エンジン停止開始)からエンジン12Aが完全停止するまでのタイムラグに相当する時間に設定される。この待ち時間TBを設けたことにより、エンジン12Aが完全停止しないうちにスタータモータ85が作動開始してしまい、クランク軸71等に負担がかかってしまう事態を避けることができる。これにより、エンジン再始動時のエンジン保護を図ることができる。
【0041】
上記エンジン再始動条件は、少なくとも操作子84Sが操作され、本実施形態では、更に、マニュアル式変速機12Bの条件を含んでいる。このマニュアル式変速機12Bの条件は、スタータモータ85の始動条件と同じであり、つまり、ギヤポジションセンサ125の検出結果に基づきマニュアル式変速機12Bがニュートラルであること、又は、マニュアル式変速機12Bがインギヤでクラッチ12Cが開放していることである。
【0042】
スタータモータ85をON(駆動)した後、制御部101は、エンジン12Aが始動したか否かを監視し(ステップS23)、より具体的には、エンジン回転数が所定の回転数Ne2(例えば、アイドル回転数より若干低い回転数)以上となったときに始動完了と判定し(ステップS23:YES)、スタータモータ85をOFF(停止状態)にする(ステップS25)。これにより、始動スイッチ84Bが操作され、マニュアル式変速機12Bの条件が満たされると、エンジン12Aが始動するので、運転者の手動操作に応じて適切にエンジン始動できる。
但し、スタータモータ85をONにした後、予め定めた設定時間が経過してもエンジン12Aが始動しない場合(ステップS24:YES)、制御部101は、スタータモータ85をOFFにする(ステップS25)。これにより、意図しない不具合がある場合に、スタータモータ85を駆動し続ける事態を回避することができる。
【0043】
以上説明したように、本実施の形態によれば、アイドル制御用スイッチ84が有する単一の操作子84Sが操作された場合に、エンジン12Aの運転状態を判定し、エンジン12Aが運転中であればエンジン12Aを停止させ、エンジン12Aが停止中であればエンジン12Aを始動させるので、アイドル制御用の手動スイッチを備えた構成で、アイドル停止とアイドル許可とを行うことができる。
この場合、エンジン12Aが運転中であればエンジン12Aを停止させ、エンジン12Aが停止中であればエンジン12Aを始動させるので、エンジン運転中にエンジン始動制御をしてしまったり、エンジン停止中にエンジン停止制御(アイドルストップ制御)をしてしまったりする事態を避けることができる。従って、部品点数を低減しながら、アイドル停止とアイドル許可とを適切に行うことができる。
【0044】
また、単一の操作子84Sが操作されるとエンジン回転数を検出し、零を超えるエンジン回転数が検出されるとアイドリング停止モードとなり、更に所定のエンジン回転数Ne1以下となったときにアイドリング停止を許可し、エンジン回転数が零のときは再始動モードとなりスタータモータ85を駆動し、所定のエンジン回転数Ne2以上となったときに始動完了と判定し、スタータモータ85を自動停止するので、エンジン回転数に応じてアイドリング停止か再始動かを適切に選ぶことができる。
しかも、アイドルを停止/許可する際の操作が同一操作とされた操作子84Sの操作毎に、エンジン12Aの運転状態を判定し、エンジン12Aが運転中であればエンジン12Aを停止させ、エンジン12Aが停止中であればエンジン12Aを始動させるので、簡易な制御によって、アイドル停止とアイドル許可とを適切に行うことができる。この構成によれば、運転者が、アイドル停止とアイドル許可とで操作を異ならせる必要がなく、操作をより簡単にすることができる。
また、本自動二輪車1は、アイドル制御用スイッチ84とは別に、エンジン12Aを停止可能なメインスイッチとして機能するキーシリンダ22を備えるので、降車時には従来と同様にキーシリンダ22によりエンジン12Aを停止させることができ、キーシリンダ22を乗降時専用、アイドル制御用スイッチ84を運転時専用に切り分けることができる。
【0045】
また、単一の操作子84Sが操作された場合、所定の時間TA,TBの経過を待って操作に応じた制御を行うので、エンジン12Aを始動させる場合、エンジン12Aが完全停止した後に始動でき、エンジン12Aのクランク軸71等に負担がかかってしまう事態を避けることができる。また、エンジン12Aを停止させる場合、自動二輪車1の停止後にエンジン12Aを停止させることができる。
また、本構成では、アイドル制御用スイッチ84の操作に応じてエンジン12Aを停止させる場合、エンジン12Aが無負荷又は低負荷状態のいずれかに該当するか否かを判定し、無負荷又は低負荷状態のときにエンジン12Aを停止させるので、キャブレタ63、キャタライザー69を備える構成でも、燃料カット等の複雑な対策構造を不要にでき、構造を簡易にすることができる。
【0046】
<第2実施形態>
第2実施形態では、アイドル制御用スイッチ84を、単一の操作子84Sが揺動するシーソースイッチとしている。図6(A)はスロットルハウジング82の右側面図であり、図6(B)は正面図である。また、図7(A)は図4(B)のA−A断面図であり、図7(B)は図6(B)のB−B断面図である。なお、各図において、符号LTはスロットル81の回動軸(=ハンドルバー21の軸線)を示している。
図6(A)(B)スロットルハウジング82は、ハンドルバー21を上下から挟むように連結される上下一対のケース82A,82Bで構成されており、スロットルハウジング82は、スロットル81の基端部に設けられた大径のドラム81Dが収納される収納部82Cと、収納部82Cから下方に延びて、スタータスイッチ83が設けられるスタータスイッチ部82Dとが一体に設けられる。そして、このドラム81DにスロットルケーブルCT(図1参照)の一端が取り付けられることによって、スロットル81の回動に応じてスロットルケーブルCTが巻き取られ、或いは、引き出され、スロットルケーブルCTの他端に取り付けられたスロットル弁が開閉される。
【0047】
また、スロットルハウジング82は、収納部82Cから車幅方向内側(ハンドル左右中心)に膨出する膨出ケース82E(図6(B),図7(B)参照)を一体に有し、この膨出ケース82E、つまり、ドラム81Dを避けた位置にアイドル制御用スイッチ84を設けている。この場合、膨出ケース82Eの後上部に回動軸LTに向けて凹む凹部82Fを設け、この凹部82Fのスペースを利用してアイドル制御用スイッチ84を設けている。これにより、アイドル制御用スイッチ84を運転者に向けて、且つ、操作しやすい位置に配置でき、且つ、スロットルハウジング82からの突出量を抑えることができる。また、アイドル制御用スイッチ84は、スタータスイッチ83に対して車幅方向(左右方向)及び上下方向に間隔を空けて配置されるので、両スイッチ83,84を誤操作し難く配置できる。
【0048】
アイドル制御用スイッチ84は、中間部84Cを支点に揺動する単一の操作子84Sを備えたシーソースイッチで形成され、この操作子84Sの長手方向のいずれかの端部(押下部84A,84B(図6(A)参照))を手の指で押し込み操作可能であり、一方の押下部(本実施形態では押下部84B)を押下すると、OFFからONに切り替わる単一のスイッチで構成されている。
2つの押下部84A,84Bは、スロットル81の回動方向に沿って順に配置され、スロットル閉側の押下部84Aが、エンジン12Aのアイドルを禁止するアイドルストップスイッチとして機能し、スロットル開側の押下部84Bが、エンジン12Aのアイドルを許可する始動スイッチとして機能する。
本構成では、いずれかの押下部84A,84Bが押下されると、押下された状態に保持されるスイッチ構造、つまり、単一の操作子84Sが揺動方向の一方側又は他方側に操作されると、操作された側に位置が固定される構造とされている。このため、エンジン12のアイドルを許可する押下部84Bを押下した状態(図6(A)参照)が、通常運転時の状態(通常状態)となっており、この状態であれば、自動二輪車1を従来通りに運転することが可能である。以下、説明を判りやすくするため、アイドルストップスイッチ84A,始動スイッチ84Bと適宜に表記する。アイドルストップ制御装置100の制御は、第1実施形態とほぼ同様であるため、異なる部分を詳述する。
【0049】
本実施形態では、アイドル制御用スイッチ84のいずれかのスイッチ84A,84Bが操作され、スイッチのON/OFFが切り替わると(ステップS11)、制御部101がエンジン12Aの運転状態を判定する(ステップS12)。そして、ステップS12の判定で、エンジン12Aが運転中であった場合(ステップS12:YES)、制御部101は、エンジン停止条件を満たすか否かを判定し(ステップS13)、満たす場合に、所定の待ち時間TA(本実施形態では10秒程度)の経過を待った後に(ステップS14:待機処理)、アイドルストップ制御を実行し(ステップS15)、満たさない場合はアイドルストップ制御を実行せず、当該処理を一時中断する。
本実施形態のエンジン停止条件は、少なくともアイドルストップスイッチ84Aが操作された状態であり、本実施形態では、更に、キャタライザー保護条件(触媒保護条件)を含んでいる。このため、アイドルストップスイッチ84Aが操作され、キャタライザー保護条件(触媒保護条件)を満足している場合に、アイドルストップ制御を実行し、キャタライザー69を保護しつつ、運転者の手動操作に応じたアイドルストップができる。
【0050】
一方、ステップS12の判定で、エンジン12Aが停止中であった場合(ステップS12:NO)、制御部101は、エンジン再始動条件を満たすか否かを判定し(ステップS20)、満たす場合に、所定の待ち時間TB(本実施形態では10秒程度)の経過を待った後に(ステップS21:待機処理)、エンジン12Aを始動すべくスタータモータ85をON(駆動状態)にし(ステップS22)、満たさない場合はスタータモータ85をONにせず、当該処理を一時中断する。
本実施形態のエンジン再始動条件は、少なくとも始動スイッチ84Bが操作された状態であり、本実施形態では、更に、マニュアル式変速機12Bの条件を含んでいる。このマニュアル式変速機12Bの条件は、スタータモータ85の始動条件と同じであり、つまり、ギヤポジションセンサ125の検出結果に基づきマニュアル式変速機12Bがニュートラルであること、又は、マニュアル式変速機12Bがインギヤでクラッチ12Cが開放していることである。このため、始動スイッチ84Bが操作され、エンジン再始動条件を満足している場合に、スタータモータ85を駆動し、エンジン12Aを適切に再始動させることができる。
【0051】
本構成によれば、アイドル制御用スイッチ84は、シーソースイッチであり、単一の操作子84Sが一方側に操作された場合に、エンジン12Aが運転中であればエンジン12Aを停止させ、他方側に操作された場合に、エンジン12Aが停止中であればエンジン12Aを始動させるので、操作が簡易である。
なお、本実施形態において、アイドル制御用スイッチ84の操作子84Sを、中間位置(一方側に押下した状態と他方側に押下した状態との間の位置)に復帰させる復帰構造を設け、操作子84Sを外部から操作される間だけ操作力に従って揺動させ、それ以外は復帰位置に戻るように構成しても良い。
このようにアイドル制御用スイッチ84を復帰機能付きのスイッチにした場合、上記ステップS22〜S25の処理に代えて、始動スイッチ84Bが押下される間だけスタータモータ85を回転駆動させる、という従来のスタータスイッチ操作時と同じ簡易な制御を適用することが可能になる。
【0052】
<第3実施形態>
第3実施形態では、図8に示すように、アイドル制御用スイッチ84を、単一の操作子84Sが左右にスライドするスライドスイッチとしている。また、図9はアイドル制御用スイッチ84の構成例を示す模式図であり、図9(A)は操作子84Sが左右中央の位置(ニュートラル位置)にある場合を示し、図9(B)は左側のON位置にある場合を示し、図9(C)は右側のOFF位置にある場合を示している。
この実施形態においても、スロットルハウジング82には、スロットル81の基端部に設けられるドラム81Dよりも車幅方向内側に膨出する膨出ケース82Eが設けられ、この膨出ケース82Eに、運転者の親指で操作可能にアイドル制御用スイッチ84が設けられる。
【0053】
このアイドル制御用スイッチ84は、単一の操作子84Sが左側に操作されるとONに切り替わり、右側に操作されるとOFFに切り替わるスイッチで形成されている。
より具体的には、図9(A)に示すように、アイドル制御用スイッチ84は、間隔を空けて3つの接点(第1接点ST1、共通接点ST2、第2接点ST3)と、単一の操作子84Sによって移動する導通部材84Tとを備え、操作子84Sが左右中央のニュートラル位置では、導通部材84Tが共通接点STだけに接触する。
図9(B)に示すように、操作子84Sが左側のON位置に移動した場合には、導通部材84Tが、第1接点ST1と共通接点ST2に導通し、この状態がスイッチONとして制御部101に検出される。また、図9(C)に示すように、操作子84Sが右側のOFF位置に移動した場合には、導通部材84Tが、第2接点ST3と共通接点ST2に導通し、この状態がスイッチOFFとして制御部101に検出される。
【0054】
また、このアイドル制御用スイッチ84は、単一の操作子84Sが上記いずれかの位置にスライド操作されると、中間位置(上記のニュートラル位置に相当)に戻る復帰機能付きスイッチに構成されている。このスイッチ操作時の制御は、第1実施形態の図6に示す制御を適用しても良いし、図5のステップS22〜S25の処理に代えて、始動スイッチ84Bが押下される間だけスタータモータ85を回転駆動させる、という簡易な処理を適用しても良い。
【0055】
このようにして、スライドスイッチを用いた構成でも、上記実施形態と同様の各種効果を得ることができる。また、この実施形態においても、アイドル制御用スイッチ84の操作子84Sを、操作された側に位置が固定されるスイッチ構造にしても良い。
【0056】
なお、上記第1実施形態において、図5に示すフローに代えて、図10に示すフローを適用しても良い。
この場合、制御部101は、アイドル制御用スイッチ84がONに切り替わると(ステップS11)、エンジン12Aの運転状態を判定し(ステップS12)、エンジン12Aが運転中であれば、アイドルストップ制御を実行する(ステップS14)。一方、制御部101は、エンジン12Aが停止中であれば、エンジン12Aを始動すべくスタータモータ85をON(駆動状態)にし(ステップS22)、エンジン12Aが始動すると(ステップS23:YES)、スタータモータ85をOFF(停止状態)にする(ステップS25)。
すなわち、図5に示す「エンジン停止条件を満たすか否かを判定する処理(ステップS13)」、及び、「エンジン再始動条件を満たすか否かを判定する処理(ステップS20)」等を行わないシンプルな制御となっている。なお、これらステップS13,20の処理は、第1実施形態以外の他の実施形態でも省略しても良い。
【0057】
<第4実施形態>
上記第1〜第3実施形態では、手動スイッチ(アイドル制御用スイッチ84)の操作に応じてエンジン12Aを停止(アイドルストップ)する場合を説明した。
一方、従来の自動二輪車には、スロットル開度を検知するスロットル開度センサ(スロットル開度検出手段)と、車速を検出する車速センサと、エンジンに対して燃料を噴射するインジェクタ(燃料噴射装置(燃料噴射手段))と、エンジンに対して点火を行う点火装置(例えば、イグニッションコイル)を備えるものがある。この自動二輪車では、スロットル開度および車速などに基づいてアイドルストップの条件を判断し、この条件に合致した場合に点火装置やインジェクタを停止制御することによってエンジンを停止させる自動アイドルストップ制御を実行するものがある(例えば、特開2012−77657号公報参照)。
この種の自動アイドルストップ機能を備えた自動二輪車において、再始動性をより向上することが望まれる。そこで、本実施形態では、アイドルストップ後の再始動性を向上することができる自動二輪車を提供することを目的としている。
【0058】
図11は、第4実施形態に係る自動二輪車1のエンジン周辺構造を模式的に示している。なお、第1実施形態などと同様の構造は同一の符号を付して重複する説明を省略する。
エンジン12Aは、クランク軸71にコンロッド202を介してつながるピストン203が摺動自在なシリンダ58と、シリンダ58の上部を覆うシリンダヘッド59とを有している。シリンダヘッド59には、ピストン203の頂部が臨む燃焼室210に連通する吸気ポート211及び排気ポート212と、点火プラグ215を駆動して燃焼室210内の混合気に点火する点火装置(点火手段)216と、吸気ポート211を開閉する吸気バルブ217と、排気ポート212を開閉する排気バルブ218とが設けられている。
吸気ポート211には、吸気通路221が接続され、この吸気通路221に上流から順にエアクリーナ65(図1参照)、吸気量可変装置であるスロットルボディ222、燃料噴射装置であるインジェクタ223が設けられており、エアクリーナ65で清浄化された空気の供給量をスロットルボディ222のスロットル弁(吸気絞り弁とも称する)224で調整し、インジェクタ223から供給される燃料と共に燃焼室210へ供給する。なお、インジェクタ223には燃料ポンプ(不図示)により燃料が供給される。
【0059】
吸気ポート211及び排気バルブ218は、公知の動弁機構によってクランク軸71の回転角度に同期させて駆動され、4サイクルエンジンの各工程(吸気行程、圧縮行程、燃焼工程、排気行程)に対応する弁駆動が実施される。
また、自動二輪車1は、スロットル開度を検出するスロットル開度検出手段であるスロットル開度センサ127と、クランク軸71の回転角(クランク角)を検出するクランク角検出手段(エンジン回転数検出手段)であるエンジン回転数センサ123と、吸排気バルブ217,218の回転角を検出するカム角センサ128と、車速センサ(車速検出手段)124とを備えており、制御部101は、これらセンサの検出結果を用いて、点火装置216の点火時期、及び、インジェクタ223の燃料噴射時期および燃料噴射量を制御する。なお、この構成および制御(通常運転時の制御)については公知のものを広く適用可能である。
【0060】
制御部101は、各種プログラムやマップデータなどの各種データを格納する記憶部101Mを有しており、記憶部101Mに記憶された所定の制御プログラムを実行することにより、アイドルストップ(エンジン停止)とアイドルスタート(エンジン再始動)とを行うアイドルストップ制御を実行し、つまり、アイドルストップ制御装置100の主部として機能する。
本実施形態では、アイドルストップ制御として、上記センサの検出結果に基づいてエンジン12Aを停止/始動する自動アイドルストップ制御を行うとともに、この自動アイドルストップ制御でエンジン12Aの停止制御を開始した後に、インジェクタ223に燃料噴射させてエンジン12A内に次回始動に供する燃料を供給しておく燃料噴射制御(以下、アイドルストップ時の燃料噴射制御と言う)とを行う。
また、本実施形態の自動二輪車1は、クランク軸71と変速機12Bとの間の動力伝達を遮断可能なクラッチ12C(図1参照)が遠心式クラッチで構成されており、エンジン回転数が低回転になるとクラッチ12Cが自動的に切断される車両となっている。
【0061】
上記自動アイドルストップ制御に用いるデータとして、エンジン停止条件(アイドルストップ条件とも言う)とエンジン始動条件(アイドルスタート条件とも言う)とを設定するデータが記憶される。エンジン停止条件としては、上記センサに基づいて自動二輪車1が停止すると推定できる条件が設定される。具体的には、スロットル開度センサ127及び車速センサ124を利用してスロットル開度が零で、かつ、車速が予め定めた閾値速度を下回ったこと、若しくは、車速センサ124を利用して車速が閾値速度を下回ったことなどの公知の様々な条件が適用される。
また、エンジン始動条件としては、上記センサなどに基づいて車両が停止中であると判断できる条件が設定される。具体的には、スロットル開度センサ127を利用してスロットル開度が零から予め定めた閾値以上に開かれたことなどの公知の様々な条件が適宜に適用される。
【0062】
このため、制御部101は、スロットル開度センサ127及び/又は車速センサ124などに基づいてアイドルストップの条件(エンジン停止条件)を判断し、その条件に合致した場合に、点火装置216及びインジェクタ223を停止制御し、アイドルスタートの条件(エンジン始動条件)を判断し、その条件に合致した場合に、スタータモータ85、点火装置216及びインジェクタ223などを駆動して自動的に再始動させることが可能になる。なお、この自動アイドルストップ制御については公知の制御を広く適用可能である。
【0063】
上記アイドルストップ燃料噴射制御に用いるデータとして、エンジン12Aの停止制御(アイドルストップ)を開始してから燃料噴射を開始するまでの待ち時間(燃料噴射待ち時間)Tを設定するためのデータが記憶されている。
ここで、自動二輪車1のエンジン12Aは様々な回転数で駆動するため、アイドルストップ開始時点のエンジン回転数も異なることが多く、そこから惰性でエンジン回転数が零になるまでの時間、つまり、エンジン12Aが停止するまでの停止時間も異なる。
【0064】
このため、仮に、待ち時間Tを一定値に設定したとすると、停止直前のエンジン回転数が高回転域の場合には、停止時間が長くなり、その待ち時間T経過後に燃料を噴射した後もエンジン12Aが回転し続け、排気バルブ218が複数回開いて燃料が外部に排気されてしまうおそれが生じる。また、停止直前のエンジン回転数が低回転域の場合には、停止時間が短くなるので、その待ち時間T経過後の燃料噴射中に、吸気バルブ217が閉じた状態でエンジン12が停まってしまうおそれが生じる。この場合は、エンジン12A内に十分な燃料を送れなくなってしまう。
そこで、本実施形態では、待ち時間Tを設定するデータとして、エンジン停止直前のエンジン回転数をパラメータとしたマップデータを適用し、図12に示すように、エンジン回転数(図中、符号Neを付して示す)が高いほど、待ち時間Tを長く設定することで、エンジン12A内に次回始動に供する燃料を確実かつ十分に供給できるようにしている。
【0065】
図13は、アイドルストップの動作を示すフローチャートであり、図14は、この場合のエンジン回転数Neのタイミングチャートである。なお、このフローは、電源がONの状態(メインスイッチがON)で自動二輪車1が走行中の場合に実行される。また、制御部101は、エンジン停止時以外は、平均エンジン回転数NeAを算出する平均回転数算出処理を行っている。この算出処理としては、エンジン回転数センサ123により検出されるエンジン回転数Neを所定の周期で取得し、その平均値を求めて記憶部101Mに一時的に記憶し、この記憶した平均エンジン回転数NeAを上書きする処理が行われる。
【0066】
まず、制御部101は、アイドルストップの条件(エンジン停止条件)が成立したか否かを判定し(ステップS51)、成立するまで待機する。この条件が時点t1(図14参照)で成立すると(ステップS51:YES)、制御部101は、点火装置216を停止制御するとともに(ステップS52)、インジェクタ223を停止制御する(ステップS53)。この点火装置216とインジェクタ223の停止制御により、エンジン12Aの停止制御が開始される。
次いで、制御部101は、エンジン12Aの停止制御開始前の平均エンジン回転数NeAを取得し、この平均エンジン回転数NeAを、エンジン停止直前のエンジン回転数Neとして図12に示すマップデータを参照することにより、待ち時間Tを検索する(ステップS54)。
この場合、エンジン停止直前の平均エンジン回転数NeAを特定するので、単一のタイミングで停止直前のエンジン回転数を取得する方法に比べて、測定タイミングの影響に起因する測定誤差を小さくすることができる。
【0067】
次いで、制御部101は、エンジン12Aの停止制御を開始してからの経過時間tmが待ち時間Tを超えたか否かを判定し(ステップS55,S56)、待ち時間Tに至ると(図14に示す時点t2)、インジェクタ223に所定量(本実施形態では一定量)だけ燃料噴射させる(ステップS57)。
このように、エンジン停止直前のエンジン回転数に応じて燃料噴射時期を設定するので、エンジン回転数に合わせて、図14に示すエンジン停止直前の期間H1内に燃料噴射させることができる。
【0068】
同図14に示すように、この期間H1は、エンジン12Aの停止直前の1サイクル(4サイクルエンジンの1サイクル)の期間内となっており、つまり、上記期間H1がエンジン12の停止直前の1サイクル内となるように待ち時間Tが設定されている。このため、エンジン停止前の吸気バルブ217が確実に開く期間(吸気行程、排気行程のいずれか)内に燃料を噴射することができ、エンジン12A内に確実に燃料を供給することができる。
また、燃料噴射が終了するとエンジン12Aが停止するため、エンジン12A内の燃料が外部に排出される事態も避けることができる。
【0069】
これにより、エンジン12A内に次回始動に供する燃料を確実に供給しておくことができる。この結果、次回始動時、つまり、アイドルスタート(エンジン再始動)の始動性を向上することができる。
図14の例では、時点t3のときにアイドルスタートの条件(エンジン始動条件)が成立した場合を示している。その場合、制御部101は、まず、スタータモータ85を駆動し、その後の時点t4に点火装置216を駆動することによって、エンジン12A内の燃料を使用して時点t4直後にエンジン12Aを直ちに始動することができる。
【0070】
以上説明したように、本実施の形態によれば、アイドルストップの停止制御を開始して所定の待ち時間(燃料噴射待ち時間)T経過後に燃料噴射させて、エンジン12A内に次回始動に供する燃料を供給しておくので、再始動性を向上することが可能である。
しかも、待ち時間Tは、停止制御を開始する直前の平均エンジン回転数(平均回転数)NeAに基づいて設定されるので、直前のエンジン回転数を精度良く特定でき、直前のエンジン回転数に応じた待ち時間Tを設定することができる。
上記したように、エンジン停止時間は、直前のエンジン回転数に比例するので、エンジン12A内に次回始動に供する燃料を供給するのに適切な待ち時間Tを容易に設定することが可能になる。具体的には、待ち時間Tを、平均エンジン回転数NeAが高いほど長い時間に設定することによって、エンジン停止直前の吸気バルブ217が開く期間に燃料を噴射でき、エンジン12A内に次回始動に供する燃料を確実に供給することが可能になる。これによって、再始動性を確実に向上させることができる。
【0071】
<第5実施形態>
ところで、自動二輪車1には、いわゆるオンロード(舗装路)だけでなく、不整地などのオフロード(非舗装路)も走行可能なオフロード車両がある。オフロード車両に、第4実施形態のアイドルストップ制御装置100を適用した場合、オフロード走行中にクラッチを切って車速が低い状態で、かつ、スロットルがほぼ零になったときでも強制的にアイドルストップが実行されてしまい、オフロード走行におけるユーザの要求を満たさない事態が生じる。そこで、本実施形態では、オフロード走行時はアイドルストップを禁止することができる自動二輪車を提供することを目的としている。
【0072】
図15は、第5実施形態に係る自動二輪車1のエンジン周辺構造を模式的に示している。この自動二輪車1は、第4実施形態のアイドルストップ制御装置100を備え、これにより自動アイドルストップ機能を有したオフロード走行可能な車両である。なお、第4実施形態と同様の構成については同一の符号を付して重複する説明を省略する。
この自動二輪車1は、当該自動二輪車1の傾斜状態を検出する傾斜センサ(傾斜検出手段)251を備えており、その検出結果は制御部101に出力される。
この傾斜センサ251は、自動二輪車1のロール角(車体の左右軸と地面とがなす角度(バンク角とも称する))を検出するロール角センサ252と、ピッチ角(車体の前後軸と地面とがなす角度)を検出するピッチ角センサ253とを備えている。なお、ジャイロセンサなどの単一のセンサを用いてロール角とピッチ角の両方を検出する構成でも良い。
【0073】
本実施形態では、制御部101が、エンジン停止時以外は、傾斜センサ251の検出結果を蓄積する傾斜状態蓄積処理を行っている。この処理では、少なくともアイドルストップ直前の走行の間、傾斜センサ251によって検出されるロール角、及び、ピッチ角の履歴を記憶部101Mに蓄積している。
このロール角及びピッチ角の履歴は、自動二輪車1がどのような傾斜状態で走行しているかを示している。本制御部101は、この履歴情報に基づいて、オフロード走行中か否かを判断する条件(オフロード判定条件)を予め設定しており、このオフロード判定条件を満たすか否かを判定することにより、オフロード走行中か否かを検出することができる。一例として、オフロード判定条件は、ピッチ角やロール角の絶対角度が予め定めた閾値角度を超えた急傾斜になっていること、若しくは、ピッチ角の変化が、登り坂と下り坂を短い周期で走行していることを示す変化であったことなどを適用すれば良い。
なお、このオフロード判定条件を設定するデータ、及び、各種処理を行うためのプログラムデータなども記憶部101Mに予め記憶されている。
【0074】
図16は、アイドルストップの動作を示すフローチャートである。
本実施形態では、図16に示すように、アイドルストップの条件(エンジン停止条件)が成立した場合(ステップS51)に、制御部101が、記憶部101Mに蓄積されたロール角及びピッチ角の情報に基づいて、オフロード走行しているか否かを判定する(ステップS61)。
オフロード走行していない場合(ステップS61:NO)、制御部101は、続くステップS52の処理に移行してエンジン停止制御などを行い、アイドルストップを行う。
一方、オフロード走行している場合(ステップS61:NO)、制御部101は、ステップS51に移行し、再びアイドルストップの条件が成立するか否かを判定する。つまり、オフロード走行している場合は、ステップS52以降の処理に移行せず、エンジン停止制御などのアイドルストップを禁止することができる。
【0075】
すなわち、本実施形態では、自動二輪車1の傾斜状態に基づいてオフロード走行しているか否かを判定し、オフロード走行していない場合はアイドルストップを許可し、オフロード走行している場合はアイドルストップを許可しない。これによって、上記各実施形態の効果に加えて、オフロード走行時にアイドルストップを禁止することが可能になる。
なお、本実施形態では、自動二輪車1のロール角とピッチ角を検出するセンサ傾斜センサ(傾斜検出手段)251を備える場合を例示したが、これに限らず、ロール角又はピッチ角のいずれか一方を検出する傾斜センサ(傾斜検出手段)を備え、このセンサの検出結果に基づいてオフロード走行しているか否かを判定するように構成しても良い。
【0076】
上述した実施形態は、あくまでも本発明の一態様を示すものであり、本発明の主旨を逸脱しない範囲で任意に変形及び応用が可能である。
例えば、上記実施形態において、スタータスイッチ83を省略し、アイドル制御用スイッチ84がスタータスイッチを兼ねるようにしても良い。また、キックペダル95でエンジン始動する構成を省略しても良い。
また、上記実施形態では、制御部101が、各スイッチ83,84の操作に応じた制御を行うアイドルストップ制御部、及び、エンジン12Aの負荷状態を判定する負荷状態判定手段として機能する場合について説明したが、これらを別々のハードウェアで構成しても良い。
また、第4実施形態の「アイドルストップ時の燃料噴射制御」及び第5実施形態の「オフロード走行時はアイドルストップを禁止する制御」は、第4又は第5記実施形態の自動二輪車に限らず、様々な自動二輪車に適用しても良い。例えば、第5実施形態の上記制御を、第1〜第3実施形態に記載の自動二輪車に適用しても良い。
また、本発明は、自動二輪車1に適用する場合に限らず、自動二輪車以外も含む鞍乗り型車両にも適用可能である。なお、鞍乗り型車両とは、車体に跨って乗車する車両全般を含み、自動二輪車(原動機付き自転車も含む)のみならず、ATV(不整地走行車両)に分類される三輪車両や四輪車両を含む車両である。
【符号の説明】
【0077】
1 自動二輪車(鞍乗り型車両)
2 車体フレーム
12 パワーユニット
12A エンジン(内燃機関)
12B 変速機(マニュアル式変速機)
12C クラッチ(手動クラッチ)
22 キーシリンダ
46 後輪(駆動輪)
63 キャブレタ(燃料供給装置)
69 キャタライザー(触媒)
81 スロットル
84 アイドル制御用スイッチ
84S 操作子
85 スタータモータ
100 アイドルストップ制御装置
101 制御部(アイドルストップ制御部、負荷状態判定手段)
123 エンジン回転数センサ(エンジン回転数検出手段)
124 車速センサ(車速検出手段)
127 スロットル開度センサ(スロットル開度検出手段)
216 点火装置(点火手段)
223 インジェクタ(燃料噴射装置(燃料噴射手段))
251 傾斜センサ(傾斜検出手段)
TA,TB, 待ち時間
T 待ち時間(燃料噴射待ち時間)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関(12A)の回転を変速して駆動輪(46)に伝達するマニュアル式変速機(12B)を有する自動二輪車において、
単一の操作子(84S)を有するアイドル制御用スイッチ(84)と、前記単一の操作子が操作された場合に前記内燃機関(12A)の運転状態を判定し、前記内燃機関(12A)が運転中であれば前記内燃機関(12A)を停止させ、前記内燃機関(12A)が停止中であれば前記内燃機関(12A)を始動させるアイドルストップ制御部(101)とを備えることを特徴とする自動二輪車。
【請求項2】
前記アイドル制御用スイッチ(84)は、前記内燃機関(12A)のアイドルを停止/許可する際の操作が同一操作に構成されたスイッチであり、操作毎に前記内燃機関(12A)の運転状態を判定し、前記内燃機関(12A)が運転中であれば前記内燃機関(12A)を停止させ、前記内燃機関(12A)が停止中であれば前記内燃機関(12A)を始動させることを特徴とする請求項1に記載の自動二輪車。
【請求項3】
前記操作子(84S)が操作されると前記内燃機関(12A)の回転数を検出し、零を超える回転数が検出されるとアイドリング停止モードとなり、更に所定の回転数(Ne1)以下となったときにアイドリング停止を許可し、回転数が零のときは再始動モードとなり前記内燃機関(12A)を始動させるスタータモータ(85)を駆動し、所定の回転数(Ne2)以上となったときに始動完了と判定し、前記スタータモータ(85)を自動停止するようにしたことを特徴とする請求項1又は2に記載の自動二輪車。
【請求項4】
前記アイドル制御用スイッチ(84)は、前記単一の操作子(84S)が揺動するシーソースイッチ、又は、前記単一の操作子(84S)がスライドするスライドスイッチであり、
前記アイドルストップ制御部(101)は、前記単一の操作子(84S)が一方側に操作された場合に、前記内燃機関(12A)が運転中であれば前記内燃機関(12A)を停止させ、他方側に操作された場合に、前記内燃機関(12A)が停止中であれば前記内燃機関(12A)を始動させることを特徴とする請求項1に記載の自動二輪車。
【請求項5】
前記単一の操作子(84S)は、一方側又は他方側に操作されると、操作された側に位置が固定される構成であり、前記単一の操作子(84S)が操作された場合、前記アイドルストップ制御部(101)は、所定の待ち時間の経過を待って操作された側に応じた制御を行うことを特徴とする請求項4に記載の自動二輪車。
【請求項6】
前記単一の操作子(84S)は、外部からの操作力がある間だけ一方側又は他方側に操作され、それ以外は復帰位置に戻る構成であり、前記アイドルストップ制御部(101)は、前記他方側に操作される間、前記内燃機関(12A)を始動させるスタータモータ(85)を回転駆動させることを特徴とする請求項4に記載の自動二輪車。
【請求項7】
前記内燃機関(12A)の吸気系に設けられるキャブレタ(63)と、前記内燃機関(12A)の排気系に設けられる触媒(69)とを備え、
前記内燃機関(12A)を停止させる場合、前記内燃機関(12A)が無負荷又は低負荷状態のいずれかに該当するか否かを判定し、無負荷又は低負荷状態のときに前記内燃機関(12A)を停止させることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の自動二輪車。
【請求項8】
スロットル開度を検知するスロットル開度センサ(127)と、車速を検出する車速センサ(124)と、内燃機関(12A)に対して燃料を噴射する燃料噴射手段(223)と、前記内燃機関(12A)に対して点火を行う点火手段と、前記スロットル開度および前記車速に基づいてアイドルストップの条件を判定し、その条件に合致した場合に、前記点火手段または前記燃料噴射手段(223)を停止制御することによって内燃機関(12A)を停止させるアイドルストップ制御部(101)と、を備えた自動二輪車において、
前記アイドルストップ制御部(101)は、前記停止制御を開始して所定時間経過後に前記燃料噴射手段(223)に燃料噴射させて、前記内燃機関(12A)内に次回始動に供する燃料を供給しておくことを特徴とする自動二輪車。
【請求項9】
前記所定時間は、前記停止制御を開始する直前の前記内燃機関(12A)の平均回転数に基づいて設定されることを特徴とする請求項8に記載の自動二輪車。
【請求項10】
前記所定時間は、前記平均回転数が高いほど長い時間に設定されることを特徴とする請求項9に記載の自動二輪車。
【請求項11】
当該自動二輪車の傾斜状態を検出する傾斜検出手段(251)を備え、
前記アイドルストップ制御部(101)は、前記傾斜状態に基づいてオフロード走行しているか否かを判定し、オフロード走行時であれば前記内燃機関(12A)の停止を許可しないことを特徴とする請求項1乃至10のいずれか一項に記載の自動二輪車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−83243(P2013−83243A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−154614(P2012−154614)
【出願日】平成24年7月10日(2012.7.10)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】