説明

自動変速機の制御装置

【課題】シフトレバーがDレンジに操作されている状態で、ステアリングホイールに設けられたステアリングアップスイッチの操作により変速段のシフトアップが可能とされた自動変速機において、前記スイッチの不適切な操作によるシフトアップ変速により、加速不良等、走行性が悪化することを防止する。
【解決手段】シフトレバーがDレンジに操作されている状態で、ステアリングホイール4に設けられたステアリングアップスイッチ47がON操作されたとき、シフトアップ後の余裕駆動力を算出し、該余裕駆動力が所定値より小さいときは変速段のシフトアップを禁止するシフトアップ禁止手段を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車に搭載される自動変速機、特に自動変速レンジでの手動変速機能を備えた自動変速機の制御装置に関し、自動車用変速機の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車用自動変速機として、走行状態に応じて変速段を自動的に切り換える自動変速モードと、運転者の手動操作によって変速段を切り換える手動変速モードとを備えたものが実用化されている。
【0003】
この自動変速機は、レンジ切り換え用のシフトレバーの操作位置として、駐車用のPレンジ、後退用のRレンジ、中立用のNレンジ、及び自動変速モード選択用のDレンジ等の他に、Mレンジ等と呼ばれる手動変速モード選択位置が設定され、この手動変速モード選択位置におけるシフトレバーの操作により、変速段が1段ずつシフトアップ又はシフトダウンするように構成されている。
【0004】
また、特許文献1には、前記のようなシフトレバーの操作によって変速段を切り換える手動変速モードを備えた自動変速機において、さらに、ステアリングホイールにシフトアップスイッチとシフトダウンスイッチとを設け、手動変速モードにおいて、これらのスイッチの操作によっても変速段のシフトアップ又はシフトダウンを可能としたものが開示されている。
【0005】
そして、この特許文献1に記載の自動変速機では、自動変速モードにおいて前記シフトダウンスイッチを操作すれば、変速モードが手動変速モードに切り換り、その後、シフトアップスイッチを操作すれば、自動変速モードに復帰するように構成されており、これによれば、シフトレバーをDレンジ等の自動変速モード選択位置に操作したまま手動変速モードに切り換えることができ、一時的に或いは迅速に加速、減速することが可能となって、変速操作の利便性が向上する。
【0006】
【特許文献1】特開2002−349687号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述のようにシフトレバーを自動変速モード選択位置に操作したままステアリングホイールに設けたスイッチの操作により変速操作を可能とすると、利便性が向上する半面、不用意な変速操作や、旋回時等に手がスイッチに触れて予期しない変速が行われる誤操作が生じ易くなる。そして、このような不適切な操作により走行状態に適合しない変速が行われた場合、特に不適切なシフトアップ変速が行われた場合には、当該自動車の駆動力が不足し、加速不良を生じるなど、走行性が悪化することになる。
【0008】
そこで、本発明は、ステアリングホイールに手動変速モードで変速操作を行うためのスイッチが設けられ、このスイッチの操作により、シフトレバーが自動変速モード用のレンジに操作されている状態でも変速が可能とされた自動変速機において、該スイッチによる不適切な操作、特に不適切なシフトアップ操作が行われることによる加速不良等の走行性の悪化を防止することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明は次のように構成したことを特徴とする。
【0010】
まず、本願の請求項1に記載の発明は、走行状態に応じて変速段が自動的に切り換る自動変速モードと、運転者の手動操作によって変速段が切り換わる手動変速モードとが設定され、これらのモードを選択するシフトレバーが備えられていると共に、ステアリングホイール上又はその近傍に、手動操作により変速段をシフトアップさせるシフトアップスイッチが設けられた自動変速機の制御装置において、前記シフトレバーが手動変速モード選択位置に操作されている状態で、前記シフトアップスイッチが操作されたときに変速段をシフトアップさせる第1手動変速制御手段と、前記シフトレバーが自動変速モード選択位置に操作されている状態で、前記シフトアップスイッチが操作されたときに変速段をシフトアップさせる第2手動変速制御手段と、変速段をシフトアップした後の余裕駆動力を算出する余裕駆動力算出手段と、前記第1変速制御手段によって変速段のシフトアップが許容される走行状態であっても、前記余裕駆動力算出手段で算出されたシフトアップ後の余裕駆動力が所定値より小さいときは、前記第2変速制御手段による変速段のシフトアップを禁止するシフトアップ禁止手段とが備えられていることを特徴とする。
【0011】
また、請求項2に記載の発明は、前記請求項1に記載の自動変速機の制御装置において、アクセル開度を検出するアクセル開度検出手段が備えられ、前記シフトアップ禁止手段は、前記余裕駆動力算出手段で算出されたシフトアップ後の余裕駆動力が所定値より小さい場合において、前記アクセル開度検出手段によって検出されたアクセル開度が所定値より大きいときにのみ、変速段のシフトアップを禁止することを特徴とする。
【0012】
さらに、請求項3に記載の発明は、前記請求項1又は請求項2に記載の自動変速機の制御装置において、走行路の勾配を検出する勾配検出手段が備えられ、前記余裕駆動力算出手段は、該勾配検出手段によって検出された勾配をパラメータとして用いて余裕駆動力を算出することを特徴とする。
【0013】
そして、請求項4に記載の発明は、前記請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の自動変速機の制御装置において、当該自動車の旋回角を検出する旋回角検出手段が備えられ、前記余裕駆動力算出手段は、該旋回角検出手段によって検出された旋回角をパラメータとして用いて余裕駆動力を算出することを特徴とする。
【0014】
ここで、旋回角の検出は、例えばステアリングホイールの操舵角、左右の車輪の回転速度差、車体に作用する横加速度等の検出によって行われる。
【発明の効果】
【0015】
以上のように構成したことにより、本願各請求項の発明によれば、次の効果が得られる。
【0016】
まず、請求項1に記載の発明によれば、シフトレバーが例えばMレンジ等の手動変速モード選択位置に操作されている状態では、シフトアップスイッチが操作されたときに、例えば変速制御システムが故障していたり、シフトアップ後にエンジン回転数が極端に低下して走行不能となるような走行状態でない限り、第1手動変速制御手段により、変速段のシフトアップが実行される。
【0017】
これに対して、シフトレバーがDレンジ等の自動変速モード選択位置に操作されている状態では、余裕駆動力算出手段によって算出されるシフトアップ後の余裕駆動力が所定値より小さい場合は、前記第1手動変速制御手段による変速段のシフトアップが許容される走行状態であっても、第2変速制御手段による変速段のシフトアップが禁止される。
【0018】
したがって、ステアリングホイール又はその近傍に設けられたシフトアップスイッチの不用意な操作や誤操作等により変速段が不適切にシフトアップされ、その結果、駆動力が不足して加速不良を生じる等の走行性の悪化が未然に防止され、良好な走行性が維持されることになる。
【0019】
また、請求項2に記載の発明によれば、シフトアップ後の余裕駆動力が所定値より小さい場合において、アクセル開度が所定値より大きい場合、換言すれば運転者の加速要求がある場合にのみ、変速段のシフトアップが禁止される。したがって、加速要求がなく、もともと加速不良の問題が存在しないアクセル開度が所定値以下の状態で徒にシフトアップを禁止することが回避され、運転者の操作に応じた変速が実行されることになる。
【0020】
さらに、請求項3に記載の発明によれば、前記余裕駆動力の算出に際して走行路の勾配がパラメータとして用いられので、平坦路、登坂路、降坂路のいずれにおいても余裕駆動力が適正に算出され、加速不良等を防止するための変速段のシフトアップ禁止制御が常に適切に実行されることになる。
【0021】
また、請求項4に記載の発明によれば、前記余裕駆動力の算出に際して当該自動車の旋回角がパラメータとして用いられので、旋回中においてもその度合いに応じて余裕駆動力が適正に算出され、前記請求項3の発明と同様に、変速段のシフトアップ禁止制御が適切に実行されることになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0023】
図1は本実施の形態に係る自動変速機が搭載された自動車の概略の構成を示すもので、この自動車の前部には、エンジン1と自動変速機2とを結合してなるパワーユニットが搭載されている。また、車内には、運転席の側方に前記自動変速機2のレンジを切り換えるためのシフトレバー3が、前方にステアリングホイール4がそれぞれ配設されていると共に、運転席の前方のフロアには、アクセルペダル5及びブレーキペダル6が配設されている。さらに、前記ステアリングホイール4の前方のインストルメントパネルには、メーターユニット7が配置されている。
【0024】
前記シフトレバー3は、図2に示すように、ガイド部材31に設けられた一連の操作経路32に沿って操作されるようになっており、その操作経路32上に、Pレンジ位置、Rレンジ位置、Nレンジ位置、及びDレンジ位置が設けられている。そして、シフトレバー3がDレンジ位置に操作されたときに、自動変速機2の変速モードが走行状態に応じて変速段が自動的に切り換わる自動変速モードに設定されるようになっている。
【0025】
さらに、Dレンジ位置の側方にはMレンジ位置33が設けられており、シフトレバー3がDレンジ位置から該Mレンジ位置33に操作されたときに、自動変速機2の変速モードが運転者の手動操作によって変速段を切り換える手動変速モードに切り換わるようになっている。
【0026】
このMレンジ位置33は前後に長い操作領域を有し、その中央の中立位置からシフトレバー3を前方(図2(b)に示すA方向)へ操作すれば、シフトダウンスイッチ(以下、「シフトレバーダウンスイッチ」という)34がONされて、自動変速機2の変速段が1段シフトダウンし、後方(図2(b)に示すB方向)へ操作すれば、シフトアップスイッチ(以下、「シフトレバーアップスイッチ」という)36がONされて、変速段が1段シフトアップするようになっている。そして、操作後は中立位置に戻り、次の操作に備えるようになっている。
【0027】
また、図3に示すように、前記ステアリングホイール4は、中央のパドル部41と、該パドル部41からT字状に延びる3本のスポーク42、43、44と、これらのスポークに支持されたホイール部45とで構成されている。そして、左右のスポーク42、43の表側の前方位置、即ちホイール部45を握った運転者の左右の手の親指が位置する部位の近傍に左右一対のシフトダウンスイッチ(以下、「ステアリングダウンスイッチ」という)46、46が設けられており、また、該スポーク42、43の裏側における前記パドル部41の所定の部位、即ちホイール部45を握った運転者の左右の手の親指以外の指が位置する部位の近傍に左右一対のシフトアップスイッチ(以下、「ステアリングアップスイッチ」という)47、47が設けられている。
【0028】
このステアリングダウンスイッチ46、46及びステアリングアップスイッチ47、47は、前記シフトレバー3がMレンジ位置に操作されて手動変速モードが選択されているときに、前記シフトレバーダウンスイッチ34及びシフトレバーアップスイッチ35の代わりに、変速段をシフトダウン又はシフトアップさせる機能を備えている。
【0029】
具体的には、一対のステアリングダウンスイッチ46、46のいずれか一方(又は両方)を図3(a)に示すA′方向に押し下げ操作すれば、該スイッチ46がONされて自動変速機2の変速段が1段シフトダウンし、また、一対のステアリングアップスイッチ47、47のいずれか一方(又は両方)を矢印B′で示すように手前へ引き寄せ操作すれば、該スイッチ47がONされて変速段が1段シフトアップする。
【0030】
また、このステアリングダウンスイッチ46及びステアリングアップスイッチ47は、手動変速モードにおいて変速段をシフトダウン又はシフトアップさせる機能に加えて、シフトレバー3がDレンジ位置に操作されている状態で一時的に手動変速を可能とする変速モード(以下、「ダイレクトモード」という)に設定する機能を備えている。
【0031】
即ち、シフトレバー3がDレンジ位置に操作されている状態で、ステアリングダウンスイッチ46、46及びステアリングアップスイッチ47、47のいずれか一つがON操作されると、自動変速機2の変速モードが自動変速モードから前記ダイレクトモードに切り換わって、変速段が1段シフトダウン又はシフトアップし、所定の解除条件が成立するまで、その変速段が維持される。また、その間にステアリングダウンスイッチ46又はステアリングアップスイッチ47が再びON操作されれば、その都度、変速段が1段シフトダウン又はシフトアップする。
【0032】
さらに、図4に示すように、前記メーターユニット7は、中央に車速計71、その左側のエリアにエンジン回転計72、右側のエリアに水温計73、燃料計74及び自動変速機2の状態を示すインジケータ75を配置した構成とされている。
【0033】
このインジケータ75は、前記シフトレバー3の操作によって選択されたレンジを示すPレンジ表示器75a、Rレンジ表示器75b、Nレンジ表示器75c、及びDレンジ表示器75dを有し、さらに、Dレンジ表示器75dに隣接させて、「D」の文字を示すダイレクトモード表示器75e、及び「M」の文字を示す手動変速モード表示器75fを備えており、これらの表示器のうち、Dレンジ表示器75dはセブンセグメント型の表示器で構成されている。
【0034】
ここで、該Dレンジ表示器75dと、前記ダイレクトモード表示器75e及び手動変速モード表示器75fの表示態様を説明すると、まず、シフトレバー3がDレンジ位置にある自動変速モードでは、図5(a)に示すように、ダイレクトモード表示器75e及び手動変速モード表示器75fが消灯し、Dレンジ表示器75dが「D」の文字を表示する。
【0035】
また、シフトレバー3がMレンジ位置にある手動変速モードでは、図5(b)に示すように、ダイレクトモード表示器75eが消灯し、手動変速モード表示器75fが点灯すると共に、Dレンジ表示器75dがそのときの変速段を示す数字を表示する。
【0036】
そして、シフトレバー3がDレンジ位置に操作されている状態で、ステアリングダウンスイッチ46、46又はステアリングアップスイッチ47、47のいずれか一つがON操作されることにより設定されるダイレクトモードでは、図5(c)に示すように、ダイレクトモード表示器75e及び手動変速モード表示器75fが点灯すると共に、Dレンジ表示器75dがそのときの変速段を示す数字を表示する。
【0037】
次に、自動変速機2の変速段を制御するコントローラについて説明すると、図6に示すように、コントローラ100には、自動変速機2の基本的な変速制御としての自動変速モードでの制御のために、車速を検出する車速センサ101からの信号と、エンジン負荷としてアクセルペダル5の踏込み量(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサ102からの信号と、シフトレバー3の操作位置を検出するシフト位置センサ103からの信号とが入力されるようになっている。
【0038】
また、前記手動変速モードでの変速制御のために、シフトレバーダウンスイッチ34及びシフトレバーアップスイッチ35からの信号が入力されると共に、該手動変速モード及び前記ダイレクトモードでの変速制御のために、ステアリングダウンスイッチ46及びステアリングアップスイッチ47からの信号が入力されるようになっている。
【0039】
さらに、ダイレクトモードでの変速制御を適切に行うために、エンジン回転数を検出するエンジン回転数センサ104からの信号と、自動変速機2におけるトルクコンバータの出力回転数(タービン回転数)を検出するタービン回転数センサ105からの信号と、当該自動車の旋回角検出手段としてステアリングホイール4の操舵角を検出する操舵角センサ106からの信号と、当該自動車に搭載されている空調用エアコンプレッサの作動、非作動を検出するエアコンスイッチ107からの信号と、乗員や搭載荷物の重量を含む車両総重量を検出する車重センサ108からの信号と、走行路の勾配を検出する勾配センサ109からの信号とが入力されるようになっている。
【0040】
そして、このコントローラ100は、前記各センサ及びスイッチからの信号に基づいて変速段を設定し、その変速段を実現するように自動変速機2に変速制御信号を出力すると共に、前記メーターユニット7におけるインジケータ75の各表示器75a〜75fの表示状態を制御するための表示制御信号を出力するようになっている。
【0041】
次に、前記コントロールユニット100による変速制御、特に手動変速モード及びダイレクトモードでのステアリングアップスイッチ47の操作に基づくシフトアップ変速の制御例を図7に示すフローチャートに従って説明する。
【0042】
まず、ステップS1で、図6に示す各センサ及びスイッチからの信号を入力し、ステップS2で、ステアリングアップスイッチ47がONされたか否かを判定する。そして、OFFの状態からONされた直後であれば、ステップS3で、現在の変速段が最高速段か否かを判定し、現在の変速段がシフトアップが可能な最高速段以外の変速段であれば、次にステップS4を実行し、所定のシフトアップ条件が成立しているか否かを判定する。
【0043】
このシフトアップ条件としては、例えば、シフトアップ後のエンジン回転数が所定値以下の運転不能となるようなごく低回転数にならないこと、或いは別途備えられている故障診断システムによって当該変速システムの故障が検出されていないことなどである。そして、シフトアップ条件が成立しておれば、次にステップS5で、シフトレバー3の操作位置がMレンジ位置かDレンジ位置かを判定する。
【0044】
シフトレバー3がMレンジ位置にあり、変速モードが手動変速モードに設定されているときは、ステップS6で、前記ステアリングアップスイッチ47のON操作に従い、変速段を1段シフトアップするように自動変速機2に変速制御信号を出力する。
【0045】
一方、シフトレバー3がDレンジ位置にあるときは、前記ステアリングアップスイッチ47がON操作されたので、ステップS7で、変速モードを自動変速モードからダイレクトモードに切り換えると共に、ステップS8、S9で、変速段をシフトアップするかどうかの判定制御を行う。
【0046】
即ち、まずステップS8で、シフトアップ後の当該自動車の余裕駆動力を算出する。この余裕駆動力は、エンジンを動力源として車輪に伝達される駆動力Fから自動車の走行抵抗Dを減算した値として求められる(余裕駆動力=F−D)。その場合に、駆動力F及び走行抵抗Dは、この実施の形態では、次式に従って算出される。
F=[(T−TLP−TAC)×t−TLG]×I×I/R
D=R+R+R+R+R
【0047】
ここで、Tはシフトアップ後のエンジン出力トルクで、例えばエンジン回転数センサ104によって検出される現エンジン回転数から算出されるシフトアップ後のエンジン回転数と、アクセル開度センサ102によって検出される現アクセル開度と、エンジンの動力性能マップとから求められる。TLPは自動変速機2のオイルポンプの駆動損失で、エンジン回転数に応じて予め設定された特性に基づいて求められる。TACは空調用エアコンプレッサの駆動損失で、エアコンスイッチ107がONのときに所定値が代入される。
【0048】
また、tはトルクコンバータのトルク比で、エンジン回転数センサ104によって検出されるエンジン回転数とタービン回転数センサ105によって検出されるタービン回転数とから求められる速度比と、トルクコンバータの特性マップとから求められる。TLGは自動変速機2から車輪に至る動力伝達経路上のギヤの駆動損失で、所定値が用いられる。Iは自動変速機2のシフトアップ後の変速段の減速比である。さらに、Iは終減速機の減速比、Rは車輪の有効半径であり、これらは当該自動車の諸元として既知の値が用いられる。
【0049】
さらに、Rは車輪の転動抵抗で、車速センサ101によって検出される車速、車重センサ108によって検出される車両総重量及び路面摩擦係数等に基づいて算出される。Rは空気抵抗で、車速と当該自動車の諸元としての車両前面投影面積及び空気抵抗係数等に基づいて算出される。Rは加速抵抗で、同じく車速(車速の変化率)、前面投影面積、空気抵抗係数等に基づいて算出される。Rは勾配抵抗で、勾配センサ109によって検出される走行路の勾配と車両総重量とに基づいて算出される。さらに、Rはコーナリング抵抗で、操舵角センサ106によって検出されるステアリングホイール4の操舵角や車速等に基づいて算出される。
【0050】
なお、以上の余裕駆動力の計算方法は一例であって、他の方法によって求めることも可能である。
【0051】
以上のようして、各センサから入力した値や自動車の各種諸元を用いてシフトアップ後の余裕駆動力を算出すれば、次に図7のフローチャートのステップS9で、この余裕駆動力が所定値以上か否かを判定する。そして、所定値以上であれば、前記ステップS6で変速段を1段シフトアップするように変速制御信号を出力すると共に、所定値より小さい場合はステップS10に進み、変速段をシフトアップする変速制御信号を出力せず、シフトアップを不実行とする。
【0052】
これにより、余裕駆動力が所定値以上で、変速段をシフトアップしても所要の加速力が得られる場合には、運転者の操作に応じて変速段がシフトアップされると共に、余裕駆動力が所定値より小さく、変速段をシフトアップすると加速不良が生じる場合にはシフトアップが禁止されることになり、ステアリングアップスイッチ47に対する運転者の不用意な操作や誤操作に起因する走行性の悪化が回避される。
【0053】
次に、前記ステアリングアップスイッチ47の操作に基づくシフトアップ変速の他の制御例を図8に示すフローチャートに従って説明する。
【0054】
この制御例の動作は、基本的には前記制御例の動作と同じであり、まず、図7のフローチャートのステップS1〜S4と同様にして、各種信号の入力、ステアリングアップスイッチ47がON操作された直後か否かの判定、現在の変速段が最高速段か否かの判定、シフトアップ条件が成立しているか否かの判定が行われる。
【0055】
そして、ステアリングアップスイッチ47がON操作された直後であり、自動変速機2の変速段が最高速段ではなく、かつ、シフトアップ条件が成立している場合には、図8のフローチャートのステップ5′で、シフトレバー3の操作位置がMレンジ位置かDレンジ位置かを判定する。そして、Mレンジ位置にある場合、即ち変速モードが手動変速モードに設定されている場合には、ステップS6′で、変速段を1段シフトアップするように自動変速機2に変速制御信号を出力する。
【0056】
一方、シフトレバー3がDレンジ位置にあるときは、前記ステアリングアップスイッチ47がON操作されたので、ステップS7′で、変速モードを自動変速モードからダイレクトモードに切り換えた上で、ステップS8′で、前記制御例と同様の計算でシフトアップ後の当該自動車の余裕駆動力を算出する。そして、ステップS9′で、この余裕駆動力が所定値以上か否かを判定し、所定値以上であれば、前記ステップS6′で変速段を1段シフトアップするように変速制御信号を出力する。
【0057】
以上の動作は、図7にフローチャート示す前記制御例の動作と同じであるが、この制御例では、前記ステップS9′で、シフトアップ後の余裕駆動力が所定値より小さいと判定されたときに、次にステップS10′で、アクセル開度センサ102によって検出されるアクセル開度が所定値以下か否かを判定する。
【0058】
そして、所定値以下の場合には、前記ステップS6′で、余裕駆動力が所定値より大きい場合と同様に、変速段を1段シフトアップするように変速制御信号を出力すると共に、アクセル開度が所定値より大きい場合には、ステップS11′に進み、変速段をシフトアップする変速制御信号を出力せず、シフトアップを不実行とする。
【0059】
つまり、アクセル開度が所定値以下のとき、換言すれば運転者の加速要求が存在しない場合には、もともと加速不良の問題を考慮する必要がないので、仮にシフトアップ後の余裕駆動力が所定値より小さくなる場合であっても変速段を1段シフトアップし、運転者のステアリングアップスイッチ47のON操作を尊重する。
【0060】
これに対して、アクセル開度が所定値より大きいとき、換言すれば加速不良が問題となる加速要求時には、変速段のシフトアップにより余裕加速度が所定値より小さくなる場合には、ステアリングアップスイッチ47のON操作があっても、シフトアップを禁止する。
【0061】
これにより、運転者のスイッチ操作を尊重しながら、不用意な操作や誤操作等による加速不良が防止され、良好な走行性が維持されることになる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
以上のように、本発明に係る自動変速機の制御装置によれば、ステアリングホイールに設けられたステアリングアップスイッチの操作により、シフトレバーが自動変速モード用のレンジに操作されている状態で変速段のシフトアップが可能とされた自動変速機において、該スイッチの不用意な操作や誤操作による不適切なシフトアップ変速が防止されて、良好な走行性が維持されることになる。したがって、本発明は、この種の自動車用自動変速機の製造産業分野において、好適に利用される可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の実施の形態を構成する各構成要素の配置を示す自動車の全部の概略図である。
【図2】シフトレバー及びその操作位置を示す図である。
【図3】ステアリングダウンスイッチ及びステアリングアップスイッチの配置を示す図である。
【図4】メーターユニットの構成を示す図である。
【図5】同メーターユニットにおける自動変速機用インジケータの要部の点灯状態を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態の制御システムを示すブロック図である。
【図7】同実施の形態の変速制御動作を示すフローチャートである。
【図8】他の制御動作の要部を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0064】
2 自動変速機
3 シフトレバー
4 ステアリングホイール
47 ステアリングアップスイッチ
100 コントローラ(第1、第2手動変速制御手段、余裕駆動力算出手段、シフトアップ禁止手段)
102 アクセル開度検出手段
106 操舵角検出手段
109 勾配検出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行状態に応じて変速段が自動的に切り換る自動変速モードと、運転者の手動操作によって変速段が切り換わる手動変速モードとが設定され、これらのモードを選択するシフトレバーが備えられていると共に、
ステアリングホイール上又はその近傍に、手動操作により変速段をシフトアップさせるシフトアップスイッチが設けられた自動変速機の制御装置において、
前記シフトレバーが手動変速モード選択位置に操作されている状態で、前記シフトアップスイッチが操作されたときに変速段をシフトアップさせる第1手動変速制御手段と、
前記シフトレバーが自動変速モード選択位置に操作されている状態で、前記シフトアップスイッチが操作されたときに変速段をシフトアップさせる第2手動変速制御手段と、
変速段をシフトアップした後の余裕駆動力を算出する余裕駆動力算出手段と、
前記第1変速制御手段によって変速段のシフトアップが許容される走行状態であっても、前記余裕駆動力算出手段で算出されたシフトアップ後の余裕駆動力が所定値より小さいときは、前記第2変速制御手段による変速段のシフトアップを禁止するシフトアップ禁止手段とが備えられていることを特徴とする自動変速機の制御装置。
【請求項2】
前記請求項1に記載の自動変速機の制御装置において、
アクセル開度を検出するアクセル開度検出手段が備えられ、
前記シフトアップ禁止手段は、前記余裕駆動力算出手段で算出されたシフトアップ後の余裕駆動力が所定値より小さい場合において、前記アクセル開度検出手段によって検出されたアクセル開度が所定値より大きいときにのみ、変速段のシフトアップを禁止することを特徴とする自動変速機の制御装置。
【請求項3】
前記請求項1又は請求項2に記載の自動変速機の制御装置において、
走行路の勾配を検出する勾配検出手段が備えられ、
前記余裕駆動力算出手段は、該勾配検出手段によって検出された勾配をパラメータとして用いて余裕駆動力を算出することを特徴とする自動変速機の制御装置。
【請求項4】
前記請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の自動変速機の制御装置において、
当該自動車の旋回角を検出する旋回角検出手段が備えられ、
前記余裕駆動力算出手段は、該旋回角検出手段によって検出された旋回角をパラメータとして用いて余裕駆動力を算出することを特徴とする自動変速機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−156358(P2009−156358A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−335722(P2007−335722)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】