説明

自動変速機の変速制御装置

【課題】ハイ側変速段を制限し始める直前における無駄で煩わしいアップシフトを抑制し得る変速制御装置を提案する。
【解決手段】自車からカーブ入口までの距離L1が接近判定距離未満になるt0と、この距離L1が0になるt3との間であって、アクセル開度APOをアイドル開度にする減速操作が行われるt2に、ハイ側変速段を、車速VSPが瞬時t3に安全なカーブ通過速度となるのに必要な上限変速段に制限する。ハイ側変速段制限制御が開始される前は変速パターンに基づく変速制御であるため、t2直前に破線で示すように無駄なアップシフトが発生する。これを抑制するため、カーブ入口で車速VSPを安全なカーブ通過速度に低下させるのに必要な時々刻々の目標減速度G1を演算し、設定減速度G1s以上になるt1に、即ちハイ側変速段の制限が必要になると予想されるとき、アップシフト変速線を高車速側へ移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定条件が成立するとき自動変速機のハイ側(高速側)における変速比の限界値を設定して、自動変速機のハイ側変速比を当該ハイ側変速比限界値に制限するようにした、自動変速機の変速制御装置に関し、
特に、かかるハイ側変速比の制限を行う直前における無駄なアップシフトを抑制する変速制御技術に係わる。
【背景技術】
【0002】
自動変速機のハイ側変速比制限技術としては従来、例えば特許文献1に記載のようなものが提案されている。
【0003】
この提案技術は、有段式自動変速機を前提とし、車載ナビゲーションシステムからの道路情報を基に車両が湾曲路に接近したと判定し、且つ、アクセルペダルから足を離す等の減速操作が行われたと判定するとき、自動変速機のハイ側変速段に上限を設定して、自動変速機のハイ側変速段を該上限変速段に制限するものである。
【0004】
かかる自動変速機のハイ側変速比制限技術によれば、減速操作しつつ湾曲路に進入するとき、自動変速機が上記の上限変速段を越えてアップシフトされることがないため、上限変速段により狙った所定の減速下に湾曲路を安全速度で通過させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−184892号公報(図7)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし従来は、車両が湾曲路に向かっていても、アクセルペダルから足を離す等の減速操作を行う前は、自動変速機がハイ側変速段を制限されない。
【0007】
このとき自動変速機は、予定の変速線を基にアクセル開度や車速などの車両運転状態から求めた目標変速段(最ハイ変速段を含む)へ自由に変速可能であり、
アクセル操作および車速などの運転状態や、路面勾配などの走行環境によっては、自動変速機が、ハイ側変速段を上記の上限変速段に制限され始める直前において、無駄にアップシフトされるという懸念があった。
【0008】
本発明は、例えば上記したようにハイ側変速比の制限を行う場合において、その直前における無駄で煩わしいアップシフトを抑制し得るようにした自動変速機の変速制御装置を提案し、これにより上記の懸念を払拭することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的のため、本発明による自動変速機の変速制御装置は、以下のごとくにこれを構成する。
【0010】
前提となる自動変速機は、運転状態に応じて変速比を決定されるものであり、また、これに用いる変速制御装置は、所定条件が成立するとき自動変速機のハイ側における変速比の限界値を設定して、自動変速機のハイ側変速比を該ハイ側変速比限界値に制限するようにしたものである。
【0011】
本発明は、かかる自動変速機の変速制御装置に対し、以下のハイ側変速比制限条件成立直前検知手段およびアップシフト抑制手段を設ける。
前者のハイ側変速比制限条件成立直前検知手段は、上記所定条件の成立までに、予定の時間的要件を満たすタイミングに至ったのを検知するものであり、また、
後者のアップシフト抑制手段は、ハイ側変速比制限条件成立直前検知手段により上記タイミングに至ったことが検知された時から、自動変速機のアップシフトを抑制するものである。
【発明の効果】
【0012】
かかる本発明の変速制御装置によれば、上記所定条件(ハイ側変速比制限制御開始条件)の成立までに、予定の時間的要件を満たすタイミングに至ったことが検知された時から、自動変速機のアップシフトを抑制するため、
上記所定条件の成立でハイ側変速比の制限が開始される直前に無駄なアップシフトが行われるという前記の懸念を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施例になる変速制御装置を適用したパワートレーンを、その制御系と共に例示する概略システム図である。
【図2】図1のパワートレーンにおける自動変速機の変速に際して、目標変速段を求めるのに用いる変速パターンを例示する変速パターン図である。
【図3】図1のパワートレーン制御系における変速機コントローラが、ハイ側変速段の制限に際して実行する変速制御プログラムのメインルーチンを示すフローチャートである。
【図4】図3のメインルーチンにおいて、カーブ進入時のハイ側変速段制限制御に先立ちアップシフト抑制用にアップシフト変速線を補正する必要があるか否かを判定するための変速線補正要否判定プログラムに係わるサブルーチンを示すフローチャートである。
【図5】図3のメインルーチンにおいて、高速道路走行中や経路案内走行中の予定地点通過時におけるハイ側変速段制限制御に先立ちアップシフト抑制用にアップシフト変速線を補正する必要があるか否かを判定するための変速線補正要否判定プログラムに係わるサブルーチンを示すフローチャートである。
【図6】図3のメインルーチンにおいて、車間距離制御中や追突防止制御中における前車とへの接近時におけるハイ側変速段制限制御に先立ちアップシフト抑制用にアップシフト変速線を補正する必要があるか否かを判定するための変速線補正要否判定プログラムに係わるサブルーチンを示すフローチャートである。
【図7】自車がカーブに進入する時におけるハイ側変速段制限制御を説明するのに用いた自車の経路説明図である。
【図8】変速線の補正を行わなかった場合においてハイ側変速段制限制御の開始直前に無駄なアップシフトが発生する原因を説明するのに用いた、或る変速段間におけるアップシフト変速線およびダウンシフト変速線を示す変速線図である。
【図9】ハイ側変速段制限制御の開始直前に無駄なアップシフトが発生しないようアップシフト変速線を高車速側に移動させる一要領を説明するのに用いた、或る変速段間におけるアップシフト変速線およびダウンシフト変速線を示す変速線図である。
【図10】ハイ側変速段制限制御の開始直前に無駄なアップシフトが発生しないよう変速線を補正するに際し、アップシフト変速線だけでなくダウンシフト変速線をも高車速側へ移動させた場合の弊害を説明するのに用いた、或る変速段間におけるアップシフト変速線およびダウンシフト変速線を示す変速線図である。
【図11】ハイ側変速段制限制御の開始直前に無駄なアップシフトが発生しないようアップシフト変速線を高車速側に移動させる他の要領を説明するのに用いた、或る変速段間におけるアップシフト変速線およびダウンシフト変速線を示す変速線図である。
【図12】図3に示すハイ側変速段制限用変速制御プログラムによる動作タイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。
<構成>
図1は、本発明の一実施例になる変速制御装置を適用したパワートレーンを、その制御系と共に例示するもので、
本実施例ではこのパワートレーンを、エンジン1および有段式自動変速機2により構成し、エンジン1の回転を自動変速機2により変速して出力する、車両用のパワートレーンとする。
なお自動変速機2からの出力回転は、ディファレンシャルギヤ装置を含む終減速機3により左右駆動輪4へ分配出力し、車両の走行に供する。
【0015】
エンジン1は、エンジンコントローラ5により出力制御し、自動変速機2は、変速機コントローラ6により変速制御する。
そのため変速機コントローラ6には、アクセル開度(アクセルペダル踏み込み量)APOを検出するアクセル開度センサ7からの信号と、車速VSPを検出する車速センサ8からの信号とを入力し、
またエンジンコントローラ5には、エンジン回転数Neを検出するエンジン回転センサ9からの信号を入力する。
なお、エンジンコントローラ5および変速機コントローラ6間では、個々のコントローラ5,6への入力情報を含めて、内部情報を相互に通信可能とする。
【0016】
エンジンコントローラ5は、アクセル開度APO、車速VSPおよびエンジン回転数Neを含む、運転者による車両運転状態に応じて、エンジン1の電子制御スロットル弁(図示せず)を開度制御したり、燃料噴射量を制御したり、点火時期を制御することにより、エンジン1を出力制御するものとする。
【0017】
変速機コントローラ6は、図2に破線で表示したアップシフト変速線(数字は変速段、矢印は変速方向を示す)および実線で表示したダウンシフト変速線(数字は変速段、矢印は変速方向を示す)の組み合わせになる予定の変速パターンを基に、車速VSPおよびアクセル開度APOから、現在の運転状態に適した目標変速段(第1速〜第5速)を求め、自動変速機2をこの目標変速段となるよう変速制御するものとする。
【0018】
図1のパワートレーンを搭載した車両は更に、同図に示すようにナビゲーションシステム11および運転支援システム12を具える。
前者のナビゲーションシステム11は、極一般的なものであるため詳細な図示を省略したが、ナビゲーション処理部と、道路情報記憶部と、GPS(地球測位システム)を含む現在位置検出部と、運転者が操作する入力部と、ディスプレイなどの表示部とを有する。
ナビゲーション処理部は、入力部から入力された目的地やナビゲーション条件などの入力情報と、現在位置検出部で検出した自車位置情報と、道路情報記憶部に格納してある道路位置、道路の種類(高速道路、一般道路)、サービスエリア位置、料金所位置、路面勾配、湾曲路曲率半径、交差点などの道路情報とに基づいて、所定のナビゲーション処理により自車位置から目的地までの経路探索を行うと共に、その結果である経路案内図や、残り距離を表示部に表示して、経路案内を行う。
【0019】
運転支援システム12は、自車位置から前車位置までの車間距離を検出するレーザーレーダ13からの車間距離情報を基に、車間距離保持や、追突防止などのための、エンジン出力制御および変速制御を介した運転支援制御を行う。
かかる運転支援制御のためにエンジンコントローラ5および変速機コントローラ6はそれぞれ、これら両者間だけでなく、運転支援システム12との間でも、内部情報を相互に通信可能とする。
なおエンジンコントローラ5および変速機コントローラ6は更に、後述の目的のため、上記したナビゲーションシステム11との間でも、内部情報を相互に通信可能とする。
【0020】
<変速制御>
上記したパワートレーンにおける自動変速機2を、本発明の前記した目的が達成されるよう変速制御するに際し、変速機コントローラ6は、ナビゲーションシステム11および運転支援システム1との共働により、図3の制御プログラムを一定時間隔で繰り返し実行して当該変速制御を遂行する。
【0021】
先ずステップS11においては、図2に例示した変速パターン中の変速線を補正する必要があるか否かを判定する。
この変速線補正要否判定に当たっては、例えば図4〜6の制御プログラムを実行して当該判定を行うこととする。
【0022】
図4は、車両が(カーブ)湾曲路にさしかかって減速される場合の変速線補正要否判定で、ステップS21およびステップS22においては、ナビゲーションシステム11から取り込んだカーブ半径R、および自車位置からカーブ入口位置までの距離L1を基に、カーブを安全速度で通過させるのに必要な車両の時々刻々における目標減速度を逐一演算する。
【0023】
この演算に当たっては、先ずステップS21において、安全なカーブ走行のために許容されるカーブ走行基準横加速度と、カーブ半径Rとから、安全なカーブ通過速度である目標カーブ通過速度を演算する。
次のステップS22おいては、この目標カーブ通過速度と、自車位置からカーブ入口までの距離L1とに基づき、カーブ入口で車速VSPを目標カーブ通過速度まで低下させるのに必要な車両の時々刻々における(距離L1ごとの)目標減速度G1を逐一演算する。
この目標減速度G1は、必要に応じて路面の勾配抵抗分だけ補正して、精度を一層高めるのがよい。
【0024】
ステップS23においては、目標減速度G1が設定減速度G1s以上か否かにより、変速線の補正が必要か否かを判定する。
G1≧G1sであれば、変速線の補正が必要であるとして、制御をステップS24に進め、ここで変速線補正要否判定フラグFLAG1を1にセットする。
G1<G1sであれば、変速線の補正が不要であるとして、制御をステップS25に進め、ここで変速線補正要否判定フラグFLAG1を0にリセットする。
【0025】
ここで、G1≧G1sなら変速線の補正が必要である(変速線補正要否判定フラグFLAG1=1)とし、G1<G1sなら変速線の補正が不要である(変速線補正要否判定フラグFLAG1=0)とした理由を、以下に説明する。
【0026】
上記変速線の補正は、図3のステップS15以降につき後述するごとく自動変速機2のハイ側変速段を、カーブへの進入時に車速VSPが上記した安全な目標カーブ通過速度まで低下するのに必要な上限変速段(ハイ側変速比限界値)に制限するハイ側変速段制限制御が開始される直前に無駄なアップシフトが発生しないようにして、前記した本発明の目的が達成されるようにするための補正である。
【0027】
ここで、ハイ側変速段制限制御の開始直前に無駄なアップシフトが発生する理由を、図7のカーブ進入時につき説明する。
ハイ側変速段制限制御に当たっては、ナビゲーションシステム11からの道路情報を基に自車100が、図7のA地点を通過してカーブ(湾曲路)110に接近したと判定し、且つ、同図のB地点で運転者がアクセルペダルから足を離す等の減速操作を行ったと判定するとき、当該ハイ側変速段制限制御が開始されて自動変速機のハイ側変速段を、カーブ入口のC地点で車速VSPが前記した安全な目標カーブ通過速度まで低下されるようにするのに必要な上限変速段に制限する。
【0028】
かかる自動変速機のハイ側変速段制限制御によれば、減速操作しつつカーブ110に進入するとき、自動変速機2が上限変速段を越えてアップシフトされることがないため、上限変速段により狙った通り所定の減速下にカーブ110を安全な目標カーブ通過速度で通過させることができる。
【0029】
しかし、自車100が図7のA地点を通過し、カーブ110に接近していても、アクセルペダルから足を離す等の減速操作を行うB地点に至らない限り、自動変速機2はハイ側変速段の上記制限を行われない。
従ってA地点からB地点に向かっている間、自動変速機2は、図2に例示する予定の変速線を基にアクセル開度APOおよび車速VSPから求めた目標変速段(最ハイ変速段の第5速を含む)へ自由に変速可能である。
【0030】
このため、図7のA地点からB地点に向かっている間に、例えばゆっくりと加速するような緩加速走行を行うなど、変速が生起されるような運転を行うと、
図2の或る変速段間におけるアップシフト変速線{n→(n+1)}およびダウンシフト変速線{n←(n+1)}を移記した図8に示すように、運転点がXからYへと変化して第n速から第(n+1)速への無駄なアップシフトが発生する。
つまり、図12の選択変速段の欄に破線で例示するごとく、アクセル開度APOがアイドル開度となってハイ側変速段制限制御が開始される瞬時t2の直前に、無駄なアップシフトが発生する。
【0031】
かかるアップシフトは、上記した車速変化だけでなく、アクセル操作や、路面勾配などによっても発生するが、いずれにしても無駄であるだけなく、その後におけるハイ側変速段の制限時にダウンシフトを生起させる原因ともなり、これらアップシフトおよびダウンシフトが2度の変速ショックを伴うことから、運転者にとって煩わしい。
【0032】
本実施例は、上記した無駄で煩わしいアップシフトが起きないよう、若しくは少なくともこのアップシフトが起きにくくなるよう、前記変速線の補正を行う。
従って、かかる変速線の補正が必要か否かを判定するときに用いる前記設定減速度G1sは、ハイ側変速段の上記した制限が必要になると予想される前記目標減速度G1の下限値とし、
G1≧G1sであれば(ステップS23)、近々ハイ側変速段制限制御が開始されるために変速線の補正が必要なタイミングであるとし、ステップS24において、変速線補正要否判定フラグFLAG1を1にセットし、
G1<G1sであれば(ステップS23)、近々ハイ側変速段制限制御が開始されるタイミングに至っていないことから変速線の補正が不要であるとし、ステップS25において、変速線補正要否判定フラグFLAG1を0にリセットすることとした。
従ってステップS23は、本発明におけるハイ側変速比制限条件成立直前検知手段に相当する。
【0033】
図5は、車両が高速道路上における立ち寄り予定または減速予定のサービスエリアや料金所など、或いは一般路における給油予定のガソリンスタンドや立ち寄り予定のコンビニエンスストアなどに近づいて減速される場合の変速線補正要否判定である。
【0034】
ステップS31においては、ナビゲーションシステム11から取り込んだナビ情報を基に、有料道路走行中、または経路案内中か否かを判定し、
有料道路走行中または経路案内中であれば、ステップS32において、各予定地点の目標通過速度(0を含む)と、ナビゲーションシステム11より取り込んだ自車位置から予定地点までの距離L2とに基づき、予定地点で車速VSPを上記の目標通過速度にするのに必要な車両の時々刻々における(距離L2ごとの)目標減速度G2を逐一演算する。
この目標減速度G2は、必要に応じて路面の勾配抵抗分だけ補正して、精度を一層高めるのがよい。
【0035】
ステップS33においては、目標減速度G2が設定減速度G2s以上か否かにより、変速線の補正が必要か否かを判定する。
ここで設定減速度G2sは、前記した設定減速度G1sと同様な考え方に基づき、ハイ側変速段の前記した制限が必要になると予想される目標減速度G2の下限値と定める。
従って、ステップS33でG2≧G2sと判定した場合は、近々ハイ側変速段制限制御が開始されるために変速線の補正が必要なタイミングであるとして、制御をステップS34に進め、ここで変速線補正要否判定フラグFLAG2を1にセットし、
ステップS33でG2<G2sと判定した場合は、近々ハイ側変速段制限制御が開始されるタイミングに至っていないことから変速線の補正が不要であるとして、制御をステップS35に進め、ここで変速線補正要否判定フラグFLAG1を0にリセットする。
従ってステップS33は、本発明におけるハイ側変速比制限条件成立直前検知手段に相当する。
【0036】
図6は、車両が図1の運転支援システム12により車間距離制御下や、追突防止制御下に走行している間に、減速が必要になった場合の変速線補正要否判定である。
【0037】
ステップS41においては、レーザーレーダ13で検出した前車との車間距離L3と、自車速VSPとから前車の車速VSP3を演算し、
ステップS42においては、自車速VSPと、前車の車速VSP3と、車間距離L3とから、車両の時々刻々における(距離L3ごとの)目標減速度G3を逐一演算する。
この目標減速度G3は、必要に応じて路面の勾配抵抗分だけ補正して、精度を一層高めるのがよい。
【0038】
ステップS43においては、目標減速度G3が設定減速度G3s以上か否かにより、変速線の補正が必要か否かを判定する。
ここで設定減速度G3sは、前記した設定減速度G1s,G2sと同様な考え方に基づき、ハイ側変速段の前記した制限が必要になると予想される目標減速度G3の下限値と定める。
よって、ステップS43でG3≧G3sと判定した場合は、近々ハイ側変速段制限制御が開始されるために変速線の補正が必要なタイミングであるとし、制御をステップS44に進め、ここで変速線補正要否判定フラグFLAG3を1にセットし、
ステップS43でG3<G3sと判定した場合は、近々ハイ側変速段制限制御が開始されるタイミングに達していないことから変速線の補正が不要であるとして、制御をステップS45に進め、ここで変速線補正要否判定フラグFLAG1を0にリセットする。
従ってステップS43は、本発明におけるハイ側変速比制限条件成立直前検知手段に相当する。
【0039】
図3のステップS11において、図4〜6に示す制御プログラムの実行により変速線補正要否判定がなされた後は、図3のステップS12において、変速線補正要否判定フラグFLAG1, FLAG2, FLAG3のいずれかが1であるか否かにより、前記した無駄なアップシフトを抑制するための変速線の補正が必要であるか否かをチェックする。
【0040】
ステップS12で変速線補正要否判定フラグFLAG1, FLAG2, FLAG3のいずれかが1であると判定するときは、近々ハイ側変速段の制限が行われるタイミングに至っていて、ハイ側変速段制限制御が開始される直前の無駄なアップシフトを抑制するための変速線の補正が必要であるから、制御をステップS13に進める。
このステップS13においては、図2の或る変速段間におけるアップシフト変速線{n→(n+1)}およびダウンシフト変速線{n←(n+1)}と、アップシフト変速線{(n−1)→n}およびダウンシフト変速線{(n−1)←n}とを移記した図9に白抜き矢印および二点鎖線で示すごとく、アップシフト変速線の最低車速表示線をそれぞれ高車速側へ移動させて、アップシフト変速線の補正を行う。
【0041】
かようにアップシフト変速線の最低車速表示線を高車速側へ移動させた場合、図9上において、図8におけると同様な運転点遷移X→Yがあっても、アップシフト変速線{n→(n+1)}の上記高車速側への補正により、遷移後の運転点Yを第n速領域に保つことができ、前記無駄なアップシフトを抑制し得る。
従って、当該アップシフト変速線の補正を行うステップS13は、本発明におけるアップシフト抑制手段に相当する。
【0042】
なお、本実施例のようにアップシフト変速線のみを高車速側へ移動させて補正することとした理由は、以下のためである。
アップシフト変速線だけでなく、ダウンシフト変速線の最低車速表示線をも高車速側へ移動させて補正する場合、図10のダウンシフト変速線{n←(n+1)}およびダウンシフト変速線{(n−1)←n}につき同図に白抜き矢印で示すごとく、ダウンシフト変速線の最低車速表示線がそれぞれ高車速側へ例えば二点鎖線位置まで移動されることになる。
【0043】
かようにダウンシフト変速線の最低車速表示線をも高車速側へ移動させた場合、図10上において、図8,9におけると同様な運転点遷移X→Yがあったとき、ダウンシフト変速線{(n−1)←n}の上記高車速側への補正により、遷移後の運転点Yが第(n−1)速領域に入ってしまい、無駄なダウンシフトが発生するという新たな問題を生ずる。
この問題は、自動変速機2の多段化により隣接する変速線の間隔が小さくて変速線が過密状態になっている場合、特に顕著になる。
【0044】
ところで本実施例のように、アップシフト変速線(その最低車速表示線)のみをそれぞれ、図9に二点鎖線で例示するごとく高車速側へ移動させて、アップシフト変速線のみを補正する場合、ダウンシフト変速線の高車速側移動による補正がないことから、無駄なダウンシフトが発生するという上記新たな問題を生ずることがなく有利であり、
これが、本実施例のようにアップシフト変速線(その最低車速表示線)のみを高車速側へ移動させて、アップシフト変速線のみを補正することとした理由である。
【0045】
なおアップシフト変速線の補正に当たっては、図9に例示するごとくアップシフト変速線の最低車速表示線のみを高車速側へ移動させる代わりに、図11のアップシフト変速線{n→(n+1)}につき同図に白抜き矢印および二点鎖線で例示するように、アップシフト変速線を全体的に高車速側へ移動させてもよい。
この場合も、図11上において、図8,9,10におけると同様な運転点遷移X→Yがあったとき、アップシフト変速線{n→(n+1)}の全体的な上記高車速側への補正により、遷移後の運転点Yを第n速領域に保つことができ、前記無駄なアップシフトが発生するのを抑制することができる。
【0046】
しかし、アップシフト変速線の最低車速表示線のみを高車速側へ移動させるにしても、アップシフト変速線を全体的に高車速側へ移動させるにしても、
アップシフト変速線の高車速側移動量は、前記した目標減速度G1,G2,G3が大きいほど大きくするのが良い。
その理由は、目標減速度G1,G2,G3が大きいほどハイ側変速段制限制御の開始が近くて、前記した無駄なアップシフトを効率よく、確実に抑制する必要があるためである。
【0047】
図3のステップS12において変速線補正要否判定フラグFLAG1, FLAG2, FLAG3のいずれも1でなく、全てが0であると判定するときは、近々ハイ側変速段の制限が行われることがなくてハイ側変速段制限時直前の無駄なアップシフトを抑制するための変速線補正も不要であるから、制御をステップS14に進める。
【0048】
このステップS14においては、上記の通り変速線の補正が不要であることに呼応して、ステップS13で補正したアップシフト変速線を元に戻し、変速パターンを図2に示した本来のものに復帰させる。
なお、ステップS13でのアップシフト変速線の補正がなされていない場合、変速パターンは図2に示した本来の変速パターンのままに保たれること勿論である。
【0049】
図3のステップS11〜ステップS14で上記のごとくアップシフト変速線の補正制御が行われた後は、この補正制御後における変速パターンを基に、同図のステップS15以降において、以下のごとくにハイ側変速段制限制御を遂行する。
【0050】
ステップS15においては、ハイ側変速段制限制御開始条件が成立したか否かをチェックする。
ハイ側変速段制限制御開始条件は、例えば以下のようなものとする。
(1)図4の制御プログラムにより変速線補正要否判定フラグFLAG1が1にセットされるような場合は、自車がカーブ入口まで所定距離の位置に接近して前記の距離L1が図12に示す接近判定距離未満になる同図の瞬時t0からL1=0になる瞬時t3までの間であって、アクセルペダルの釈放によりアクセル開度APOをアイドル開度にするなどの減速操作が行われた同図の瞬時t2をもって、ハイ側変速段制限制御開始条件が成立したこととする。
(2)図5の制御プログラムにより変速線補正要否判定フラグFLAG2が1にセットされるような場合は、自車が停車予定地点や、減速予定地点や、立ち寄り予定地点まで所定距離の位置に接近して前記の距離L2が接近判定距離未満になった瞬時からL2=0になる瞬時までの間であって、アクセルペダルの釈放によりアクセル開度APOをアイドル開度にするなどの減速操作が行われた瞬時をもって、ハイ側変速段制限制御開始条件が成立したこととする。
(3)図6の制御プログラムにより変速線補正要否判定フラグFLAG3が1にセットされるような場合は、自車と前車との車間距離L3が接近判定距離未満になり、且つ、アクセルペダルの釈放によりアクセル開度APOをアイドル開度にするなどの減速操作が行われた瞬時をもって、ハイ側変速段制限制御開始条件が成立したこととする。
【0051】
ステップS15でハイ側変速段制限制御開始条件が成立したと判定するときは、制御を順次ステップS16〜ステップS18へ進めて、以下のようにハイ側変速段の制限を行う。
【0052】
(1)図7において自車100がカーブ110に接近し、B地点で減速操作が行われたためにハイ側変速段の制限が必要である場合は、ステップS16において、先ず、安全なカーブ走行のために許容されるカーブ走行基準横加速度と、カーブ半径Rとから、安全なカーブ通過速度である目標カーブ通過速度を演算し、次いで、この目標カーブ通過速度と、自車位置からカーブ入口地点Cまでの距離L1とに基づき、カーブ入口地点Cで車速VSPを上記の目標カーブ通過速度へ低下させるのに必要なハイ側の上限変速段を決定する。
次のステップS17においては、ステップS13でアップシフト変速線を高車速側へ移動された変速パターンに基づきアクセル開度APOおよび車速VSPから目標変速段を決定する。
次のステップS18においては、上限変速段および目標変速段のうちロー側の変速段を指令して、自動変速機2を、当該指令通りの変速段が選択された状態にする。
【0053】
かくして自動変速機2は、図7において自車100が減速操作しつつカーブ110に進入するとき、ハイ側への変速を上限変速段に制限されることとなり、この上限変速段を越えてアップシフトされることがないため、上限変速段により狙った通り所定の減速下にカーブ110を安全な目標カーブ通過速度で通過させることができる。
【0054】
なお当該ハイ側変速段制限制御中は、目標変速段を決定するときに用いる変速パターンが上記の通り、アップシフト変速線を高車速側へ移動されているが(ステップS13)、この移動は自動変速機2をロー側変速段選択傾向にするものであって、上記のハイ側変速段制限制御に支障をきたすものでないことから、また、ハイ側変速段制限制御が減速操作に呼応して行われるものであることとも相まって、
変速パターンがアップシフト変速線を高車速側へ移動されていても、これが問題になることはない。
【0055】
(2)自車が、図5につき前述した予定地点に接近し、アクセルペダルを釈放する(アクセル開度APO=アイドル開度にする)などの減速操作を行ったためにハイ側変速段の制限が必要である場合は、ステップS16において、予定地点で車速VSPを目標通過速度(0を含む)にするのに必要なハイ側の上限変速段を決定する。
次のステップS17においては、ステップS13でアップシフト変速線を高車速側へ移動された変速パターンに基づきアクセル開度APOおよび車速VSPから目標変速段を決定する。
次のステップS18においては、上限変速段および目標変速段のうちロー側の変速段を指令して、自動変速機2を、当該指令通りの変速段が選択された状態にする。
【0056】
かくして自動変速機2は、減速操作しつつ予定地点に接近するとき、ハイ側への変速を上限変速段に制限されることとなり、この上限変速段を越えてアップシフトされることがないため、上限変速段により狙った通り所定の減速下に予定地点を目標速度で通過させたり、予定地点で車両を停車させることができる。
【0057】
(3)自車が、図1の運転支援システム12により図6につき前述した車間距離制御または追突防止制御されている間、前車に接近して、アクセルペダルを釈放する(アクセル開度APO=アイドル開度にする)などの減速操作を行ったためハイ側変速段の制限が必要である場合は、ステップS16において、前車への所定以上の接近を防止するのに必要なハイ側の上限変速段を決定する。
次のステップS17においては、ステップS13でアップシフト変速線を高車速側へ移動された変速パターンに基づきアクセル開度APOおよび車速VSPから目標変速段を決定する。
次のステップS18においては、上限変速段および目標変速段のうちロー側の変速段を指令して、自動変速機2を、当該指令通りの変速段が選択された状態にする。
【0058】
かくして自動変速機2は、前車への接近により減速操作が行われたとき、ハイ側への変速を上限変速段に制限されることとなり、この上限変速段を越えてアップシフトされることがないため、上限変速段により狙った通り所定の減速下で前車への接近を防止することができる。
【0059】
ステップS15でハイ側変速段制限制御開始条件が成立していないと判定するとき、例えば図7つき代表的に説明すると、自車100が未だカーブ接近判定地点Aに到達しておらず、未だカーブ110に接近ししていないと判定するときや、カーブ接近判定地点A を通過後であっても未だ減速操作が行われていない(減速操作地点Bよりも前)であると判定するときや、自車100がカーブ入口地点C到達した後と判定するときは、制御を順次ステップS19およびステップS20に進めて、自動変速機2を以下のように変速制御する。
【0060】
ステップS19においては、ステップS13でアップシフト変速線を高車速側に移動された補正後の変速パターン、またはステップS14でアップシフト変速線の高車速側動を解除された図2の変速パターンを基に、車速VSPおよびアクセル開度APOから目標変速段を決定する。
またステップS20においては、この目標変速段を自動変速機2に指令して、自動変速機2を、当該指令された目標変速段が選択された状態にする。
【0061】
従って、ハイ側変速段制限制御開始条件が成立する前(図7では、B地点よりも前)においては、自動変速機2が、変速パターンに基づいて決定された目標変速段を選択することになる。
【0062】
ところで、前記目標減速度G1(図4のステップS22),G2(図5のステップS32),G3(図6のステップS42)のいずれかが、対応する設定減速度G1s(図4のステップS23),G2s(図5のステップS33),G3s(図6のステップS43)以上になるとき、つまり前記したハイ側変速段の制限の必要が予測されるとき(例えば図12の瞬時t1)、
図4のステップS24、図5のステップS34、図6のステップS44で、対応するフラグFLAG1,FLAG2,FLAG3が1にセットされ、これを受けて図3のステップS12がステップS13を選択することにより、上記変速パターンのアップシフト変速線を高車速側に移動させる補正を行う。
【0063】
このため、ハイ側変速段制限制御開始条件が成立する直前(図7のB地点の直前)においては、図3のステップS19およびステップS20による変速制御が、アップシフト変速線を高車速側に移動された変速パターンに基づく変速制御となり、
かかるアップシフト変速線の高車速側移動によって、ハイ側変速段制限制御開始条件が成立する直前(図7のB地点の直前)に無駄なアップシフトが発生するのを、図9,11につき前述した原理により防止、または抑制することができる。
【0064】
なお、目標減速度G1(図4のステップS22),G2(図5のステップS32),G3(図6のステップS42)がそれぞれ、設定減速度G1s(図4のステップS23),G2s(図5のステップS33),G3s(図6のステップS43)未満であるとき、つまり前記したハイ側変速段の制限の必要が予測されない間は(例えば図12の瞬時t1よりも前は)、
図4のステップS25、図5のステップS35、図6のステップS45で、対応するフラグFLAG1,FLAG2,FLAG3が0にリセットされているため、図3のステップS12がステップS14を選択することにより、変速パターンを、アップシフト変速線が高車速側に移動されていない、図2に示すごときものとなす。
【0065】
このため、ハイ側変速段の制限の必要が予測されない間は(図12の瞬時t1よりも前においては)、図3のステップS19およびステップS20による変速制御が、アップシフト変速線を高車速側に移動されない図2に示す変速パターンに基づく変速制御となり、
ハイ側変速段の制限の必要が予測されない間(図12の瞬時t1よりも前)における通常変速に、アップシフト変速線の高車速側移動による悪影響が及ぶことはない。
【0066】
<作用効果>
上記した本実施例の変速制御装置による作用効果を、カーブ進入時のハイ側変速段制限制御に関連して、図12を参照しつつ以下に説明する。
図7において自車100がカーブ入口地点Cまで所定距離のA地点に到達し、自車100からカーブ入口地点Cまでの距離L1が図12に示す接近判定距離未満になる同図の瞬時t0と、カーブ入口地点Cに到達する(L1=0になる)瞬時t3との間であって、アクセルペダルの釈放によりアクセル開度APOをアイドル開度にする減速操作が行われた瞬時t2に(図7のB地点)、ハイ側変速段制限制御開始条件が成立したとして(図3のステップS15)、図3のステップS16〜ステップS18で前記のハイ側変速段の制限を行う。
【0067】
よって図12の瞬時t2以降、選択変速段の欄に実線で示すごとくハイ側変速段を上限変速段(図3のステップS16)に制限することができ、
これにより、図7において自車100がカーブ入口地点Cの到達するとき、自車100を安全な目標カーブ通過速度まで減速させ得て、カーブ110を安全な目標カーブ通過速度で通過させることができる。
【0068】
一方、ハイ側変速段制限制御開始条件が成立する図12の瞬時t2(図7の地点B)よりも前は、図3のステップS19およびステップS20において、変速パターンに基づく目標変速段への変速が行われ、前記したように運転状態よっては(図12の場合、車速VSPの上昇により)、図12の選択変速段の欄に破線で示すごとき無駄なアップシフトを生ずる懸念がある。
【0069】
しかし本実施例においては、かかる無駄なアップシフトを以下のように、防止または抑制することができる。
図7のカーブ入口地点Cで車速VSPを上記のごとく目標カーブ通過速度にするのに必要な自車100の時々刻々における(カーブ入口地点Cまでの距離L1ごとの)目標減速度G1(図4のステップS22)が、設定減速度G1s以上になるとき(図4のステップS23)、つまりハイ側変速段の制限の必要が予測される図12の瞬時t1に、図4のステップS24で、対応する変速線補正要否判定フラグFLAG1を1にセットする。
【0070】
かかる変速線補正要否判定フラグFLAG1=1を受けて図3のステップS12はステップS13を選択し、このステップS13は、図3のステップS19で用いる変速パターン(図2)のアップシフト変速線を図9または図10につき前述したごとく高車速側に移動させる。
【0071】
このため、ハイ側変速段制限制御開始条件が成立する瞬時t2の直前(図7のB地点の直前)においては、図3のステップS19およびステップS20による変速制御が、図2におけるアップシフト変速線を高車速側に移動された変速パターンに基づく変速制御となる。
かかるアップシフト変速線の高車速側移動によって、ハイ側変速段制限制御開始条件が成立する瞬時t2の直前(図7のB地点の直前)に無駄なアップシフトが発生するのを、図9,11につき前述した原理によって、図12の選択変速段の欄に実線で示すごとくに防止することができる。
【0072】
なお、瞬時t2以降ハイ側変速段制限制御下で自車100が図7のカーブ入口地点Cに到達し、自車100からカーブ入口地点Cまでの距離L1が0になると(図12の瞬時t3)、L1=0であるため目標減速度G1も図12に示すごとく0になる。
これに呼応して図4のステップS25で変速線補正要否判定フラグFLAG1が0にリセットされるため、これを受けて図3のステップS12がステップS14を選択することとなり、変速パターンのアップシフト変速線を高車速側移動の解除により元に戻して、図3のステップS19で用いる変速パターンを図2に示すごとき本来のものに復帰させる。
【0073】
よって、自車100が図7のカーブ入口地点Cに到達した後、次のカーブに接近するまでの間は、図3のステップS19およびステップS20で行われる変速制御を、図2に示す変速パターンに基づく通常とおりのものにすることができる。
【0074】
また本実施例においては、ステップS23(ステップS33、ステップS43)で目標減速度G1(G2,G3)が設定減速度G1s(G2s,G3s)以上の減速度になった時に、ステップS24(ステップS34、ステップS44)でフラグFLAG1=1(フラグFLAG2=1、フラグFLAG3=1)により、ハイ側変速段制限制御開始条件が成立する直前のタイミングであるとし、この時に前記したアップシフト変速線の高車速側移動による補正を行うため(ステップS13)、
ハイ側変速段制限条件が成立する直前のタイミング(アップシフト変速線補正タイミング)を、簡単な要領で、しかし、確実且つ正確に求め得て、上記の作用効果を確実なものにすることができる。
【0075】
なお本実施例においては、上記の設定減速度G1s(G2s,G3s)を前記したとおり、ハイ側変速段の制限が必要になると予想される目標減速度の下限値に設定したため、
ハイ側変速段制限条件が成立する直前のタイミング(アップシフト変速線補正タイミング)を確実且つ正確に求め得るという上記の作用効果を一層確かなものにすることができる。
【0076】
また本実施例においては、ハイ側変速段の制限が開始される直前の無駄なアップシフトを防止するために行う変速線の高車速側への移動に際し、図9,10につき前述したごとくアップシフト変速線のみを高車速側へ移動させたため、以下の作用効果が奏し得られる。
ダウンシフト変速線をも高車速側へ移動させた場合、特に自動変速機2の多段化により隣接する変速線の間隔が小さくて変速線が過密状態になっていると、図10につき前述したごとく無駄なダウンシフトが発生するという新たな問題を生ずる。
【0077】
しかし本実施例のように、アップシフト変速線のみを高車速側へ移動させて無駄なアップシフトが発生するのを防止、または抑制する場合、ダウンシフト変速線の高車速側移動による補正がないことから、無駄なダウンシフトが発生するという上記の新たな問題の発生を、たとえ多段化された自動変速機の場合であっても回避することができる。
【0078】
なおアップシフト変速線の補正に際しては、図9につき前述したごとくアップシフト変速線の最低車速表示線のみを高車速側へ移動させてもよいし、図10につき前述したごとくアップシフト変速線を全体的に高車速側へ移動させてもよい。
前者のようにアップシフト変速線の最低車速表示線のみを高車速側へ移動させる場合、アップシフト変速線の補正を簡単に且つ迅速に完遂させることができ、無駄なアップシフトを防止、または抑制するという作用効果を簡単、且つ確実に達成することができる。
後者のようにアップシフト変速線を全体的に高車速側へ移動させる場合、あらゆる運転領域において、無駄なアップシフトを防止、または抑制するという作用効果を確実に達成することができる。
【0079】
ところで本実施例においては、かようにアップシフト変速線の最低車速表示線のみを高車速側へ移動させるか、アップシフト変速線を全体的に高車速側へ移動させるかにかかわらず、
アップシフト変速線の高車速側移動量を、前記した目標減速度G1,G2,G3が大きいほど大きくするのが良い。
【0080】
目標減速度G1,G2,G3が大きいほどハイ側変速段制限制御の開始が近くて、無駄なアップシフトを効率よく、確実に抑制する必要があるが、
本実施例のようにアップシフト変速線の高車速側移動量を、目標減速度G1,G2,G3が大きいほど大きくした場合、この要求を確実に満足させることができる。
【0081】
<その他の実施例>
なお図示例では、自動変速機2が有段式自動変速機である場合につき説明したが、自動変速機2が無段変速機である場合においても、前記の変速段を変速比と読み替えることにより、前記した本発明の着想をそのまま適用可能であり、この場合も前記したと同様な作用効果が全て奏し得られるのは言うまでもない。
【0082】
また図示例では、カーブ進入時のハイ側変速段制限制御や、高速道路走行中や経路案内中における予定地点通過時のハイ側変速段制限制御や、車間距離制御(追突防止制御)時のハイ側変速段制限制御に対し本発明の変速制御装置を適用する場合について説明したが、
本発明の変速制御装置は、これらハイ側変速段制限制御に適用を限られるものでなく、その他あらゆるハイ側変速段制限制御に対して有用であり、いずれの場合も前記したと同様な作用効果を達成し得ること勿論である。
【0083】
更に図示例では、変速線補正要否判定フラグFLAG1(FLAG2,FLAG3)を、図12に例示するごとくハイ側変速段制限制御終了時t3に0にリセットして、アップシフト変速線を高車速側移動状態から図2に示す元の状態に戻すこととしたが、
アップシフト変速線の高車速側移動(無駄なアップシフトの抑制)が必要なのは、ハイ側変速段制限制御開始瞬時(図12の場合t2)迄であることから、この瞬時に変速線補正要否判定フラグFLAG1(FLAG2,FLAG3)を0にリセットするようにしてもよい。
【符号の説明】
【0084】
1 エンジン
2 自動変速機
3 終減速機
4 駆動車輪
5 エンジンコントローラ
6 変速機コントローラ
7 アクセル開度センサ
8 車速センサ
9 エンジン回転センサ
11 ナビゲーションシステム
12 運転支援システム
13 レーザーレーダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転状態に応じて変速比を決定される自動変速機に用いられ、所定条件が成立するとき該自動変速機のハイ側における変速比の限界値を設定して、自動変速機のハイ側変速比を該ハイ側変速比限界値に制限するようにした、自動変速機の変速制御装置において、
前記所定条件の成立までに、予定の時間的要件を満たすタイミングに至ったのを検知するハイ側変速比制限条件成立直前検知手段と、
該手段により前記タイミングに至ったことが検知された時から、前記自動変速機のアップシフトを抑制するアップシフト抑制手段とを具備してなることを特徴とする、自動変速機の変速制御装置。
【請求項2】
前記ハイ側変速比限界値を、自動変速機の出力回転速度に係わる目標減速度から決定するようにした、請求項1に記載の自動変速機の変速制御装置において、
前記ハイ側変速比制限条件成立直前検知手段は、前記目標減速度が設定減速度以上の減速度になった時をもって、前記タイミングに至ったと検知するものであることを特徴とする、自動変速機の変速制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の自動変速機の変速制御装置において、
前記設定減速度は、前記ハイ側変速比の制限が必要になると予想される前記目標減速度の下限値であることを特徴とする、自動変速機の変速制御装置。
【請求項4】
前記自動変速機が、予定のアップシフト変速線およびダウンシフト変速線を基に、少なくとも自動変速機の出力回転速度から求めた目標変速比へ自動変速されるものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の自動変速機の変速制御装置において、
前記アップシフト抑制手段は、前記変速線のうちのアップシフト変速線のみを高車速側へ移動させるものであることを特徴とする、自動変速機の変速制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の自動変速機の変速制御装置において、
前記アップシフト抑制手段は、前記アップシフト変速線の最低車速表示線を高車速側へ移動させるものであることを特徴とする、自動変速機の変速制御装置。
【請求項6】
請求項4に記載の自動変速機の変速制御装置において、
前記アップシフト抑制手段は、前記アップシフト変速線を全体的に高車速側へ移動させるものであることを特徴とする、自動変速機の変速制御装置。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれか1項に記載の自動変速機の変速制御装置において、
前記アップシフト抑制手段は、前記アップシフト変速線の高車速側移動量を、前記目標減速度が大きいほど大きくするものであることを特徴とする、自動変速機の変速制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−64214(P2011−64214A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−212969(P2009−212969)
【出願日】平成21年9月15日(2009.9.15)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】