説明

自動変速機の油圧制御装置

【課題】元圧が高い場合には発進装置の循環圧を一定圧力に保持し、元圧が低い場合には発進装置の循環圧を減圧し、自動変速機構に優先的に油圧を供給することが可能な自動変速機の油圧制御装置を提供する。
【解決手段】自動変速機の油圧制御装置10は、ライン圧Pの圧力が所定圧力P1以上の場合には、ライン圧を減圧した所定圧力P2を循環油の圧力として出力し、ライン圧Pの圧力が所定圧力P1未満の場合には、ライン圧を所定圧力P2より減圧した圧力を循環油の圧力として出力する循環圧変更機構20を備えている。これにより、ライン圧Pの圧力が所定圧力P1以上の際には、クラッチの係合制御を容易に行うことができるものでありながら、ライン圧Pの圧力が所定圧力P1未満の際には、循環油の圧力を減圧することで変速機構供給油路L2に供給する油圧を確保することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輌等に搭載される自動変速機の油圧制御装置に係り、詳しくは、駆動源と自動変速機構との間に介在された発進装置に循環油を給排する自動変速機の油圧制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動変速機を搭載する車輌には、例えば発進時において停止状態である駆動車輪と回転状態であるエンジンとの差回転を吸収しつつ駆動力を伝達するために、エンジンと自動変速機構との間にトルクコンバータなどの流体伝動装置を有する発進装置が備えられている。また近年、発進装置には、流体伝動装置の流体伝動に伴う伝導ロスを低減するため、エンジンの出力軸と自動変速機構の入力軸をロックアップするロックアップ機構が設けられている。
【0003】
上記のようなロックアップ機構を備えた自動変速機の発進装置には、オイルポンプにより発生された油圧をレギュレータバルブ等によって調圧した作動油圧が、ロックアップ機構の係合やトルクコンバータ内部を循環させるために用いられるものがある(例えば、特許文献1参照)。該発進装置には、ロックアップ機構の係合圧を給排するための油路と、トルクコンバータ内部に循環圧を入力する油路と、該循環圧を出力する油路との3本の油路が油圧制御装置に対して接続されている。
【0004】
また、上記特許文献1に示すような発進装置では、ロックアップ機構の係合圧とトルクコンバータの内部を循環する循環圧の差圧によって、該ロックアップ機構の係合を制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平1−303373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、近年、自動変速機の発進装置としては、エンジンの出力を変速機構の入力軸に流体伝動するためのフルードカップリングを予備的に設け、ソレノイドバルブによって電気的に係合制御を行い得る発進クラッチを用いることが考えられている。
【0007】
このようなフルードカップリング付き発進クラッチでも、上記特許文献1のロックアップ機構付きのトルクコンバータのように、発進クラッチの係合圧を給排するための油路と、フルードカップリング内部に循環圧を入力する油路と、該循環圧を出力する油路との3本の油路が接続されており、発進クラッチの係合圧とフルードカップリングの内部を循環する循環圧の差圧によって、該発進クラッチの係合を制御している。従って、トルクコンバータやフルードカップリングの循環圧が変動すると、ロックアップ機構や発進クラッチの係合圧を該循環圧に基づいた圧力に調圧しなくてはならず、制御が複雑化すると共に応答性が悪化する虞がある。そのため、トルクコンバータやカップリングの循環圧を一定圧力に制御することが好ましい。
【0008】
しかし、上記トルクコンバータやフルードカップリング内部を循環する循環圧は、オイルポンプによって発生された油圧を調圧した元圧に基づいた油圧であり、該元圧は、これら発進装置だけでなく自動変速機構にも供給されている。このため、例えばオイルポンプによって発生された油圧が低くなることに起因して元圧が低くなる場合、上記フルードカップリングの循環圧を優先的に一定圧力とする制御を行うことは、自動変速機構に供給される油圧が不足してしまう虞がある。
【0009】
そこで本発明は、元圧が高い場合には発進装置の循環圧を一定圧力に保持し、元圧が低い場合には発進装置の循環圧を減圧し、自動変速機構に優先的に油圧を供給することが可能な自動変速機の油圧制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る本発明は(例えば図1乃至図3参照)、入力軸(3a)を有する自動変速機構(3)と、駆動源(2)と連結するドライブ軸(1a)と該ドライブ軸及び前記入力軸(3a)を連結するクラッチ(5)を有する発進装置(4)と、前記駆動源(2)の回転速度に応じて回転し前記発進装置(4)と前記自動変速機構(3)に油を吐出するオイルポンプ(7)と、
を備え、前記クラッチ(5)の係合状態が前記クラッチ(5)の油圧サーボに供給される係合油圧と前記発進装置(4)内を循環する循環油の圧力との差圧によって制御される自動変速機(1)の油圧制御装置(10)において、
前記オイルポンプ(7)から吐出された油を前記自動変速機(1)に必要な油圧に調圧して元圧とする元圧調圧部(11)と、
前記元圧調圧部(11)に接続し、前記元圧(P)が流れる共通油路(L1)と、
前記共通油路(L1)に接続されると共に前記自動変速機構(3)に前記元圧(P)を供給する変速機構供給油路(L2)と、
前記共通油路(L1)に接続されると共に前記発進装置(4)内部を循環する循環油を供給する循環供給油路(L3)と、
前記循環油を前記発進装置(4)から排出すると共に絞り部(18)が配置された循環排出油路(L4)と、
前記循環供給油路(L3)に配置され、前記元圧(P)の圧力が第1の所定圧力(P1)以上の場合に前記元圧(P)を減圧した第2の所定圧力(P2)を循環油の圧力として出力し、前記元圧(P)の圧力が第1の所定圧力(P1)未満の場合に前記元圧を前記第2の所定圧力(P2)より減圧した圧力を前記循環油の圧力として出力する循環圧変更機構(20)と、を備えてなる、
ことを特徴とする自動変速機の油圧制御装置(10)にある。
【0011】
請求項2に係る本発明は(例えば図1及び図2参照)、前記自動変速機構(3)は、複数の変速段を形成するように、それぞれの油圧サーボによって係脱される複数の摩擦係合要素を備え、
前記変速機構供給油路(L2)は前記複数の油圧サーボに接続されてなる、
請求項1記載の自動変速機の油圧制御装置(10)にある。
【0012】
請求項3に係る本発明は(例えば図2参照)、前記循環圧変更機構(20)は、
前記元圧(P)の圧力が第1の所定圧力(P1)未満の場合に該元圧を信号圧として出力し、前記元圧の圧力が第1の所定圧力(P1)以上の場合に該元圧の圧力を第1の所定圧力(P1)に減圧して信号圧(PMOD)として出力するモジュレータバルブ(12)と、
前記第1の所定圧力(P1)に減圧された前記信号圧(PMOD)が入力された際に、前記元圧(P)を減圧した前記第2の所定圧力(P2)を前記循環油の圧力として出力し、前記元圧(P)が前記信号圧として入力された際に、前記元圧(P)を前記第2の所定圧力(P2)より減圧した圧力を前記循環油の圧力として出力する循環圧変更バルブ(13)と、を備えてなる、
請求項1または2記載の自動変速機の油圧制御装置(10)にある。
【0013】
なお、上記カッコ内の符号は、図面と対照するためのものであるが、これは、発明の理解を容易にするための便宜的なものであり、特許請求の範囲の構成に何等影響を及ぼすものではない。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る本発明によると、元圧の圧力が第1の所定圧力以上の場合には、元圧を減圧した第2の所定圧力を循環油の圧力として出力し、元圧の圧力が第1の所定圧力未満の場合には、元圧を第2の所定圧力より減圧した圧力を循環油の圧力として出力する循環圧変更機構を備えているので、元圧の圧力が第1の所定圧力以上の際には、クラッチの係合制御を容易に行うことができるものでありながら、元圧の圧力が第1の所定圧力未満の際には、循環油の圧力を減圧することで変速機構供給油路に供給する油圧を確保することができ、元圧が低い場合に自動変速機構に優先的に油圧を供給することができる。
【0015】
請求項2に係る本発明によると、元圧としてのライン圧が低くなるような場合であっても、循環圧変更機構によって変速機構供給油路に供給する元圧を確保できるので、摩擦係合要素の油圧サーボにも油圧の供給を行うことができ、係合圧の不足に起因して変速時間が延びてしまうことを防止することができる。
【0016】
請求項3に係る本発明によると、循環圧変更機構は、入力された元圧に基づき、モジュレータバルブ及び循環圧変更バルブによって、第2の所定圧力を循環油の圧力として出力する状態と第2の所定圧力より減圧した圧力を循環油の圧力として出力する状態とに変更するので、元圧の増減に合わせて速やかに循環油の圧力の切換えを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施の形態に係る自動変速機を示すスケルトン図。
【図2】発進装置及び油圧制御装置を示す回路図。
【図3】元圧と循環圧の関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る実施の形態を図1乃至図3に沿って説明する。
【0019】
例えば車輌等に搭載される自動変速機1は、図1に示すように、エンジン(駆動源)2のクランク軸に接続し得る入力軸1aと、該入力軸1aの回転(駆動力)を流体伝動し得る発進装置4と、該発進装置4を介して入力された回転を歯車機構や摩擦係合要素(クラッチやブレーキ)によって変速し、出力軸に伝達する変速機構(自動変速機構)3とを備えており、更に、該変速機構3の摩擦係合要素の係合状態や上記発進装置4を油圧制御するための、本発明に係る自動変速機の油圧制御装置10を備えて構成されている。該油圧制御装置10は、詳しくは後述する元圧調圧部としてのプライマリレギュレータバルブ11から元圧が出力される共通油路L1と、変速機構3へ元圧を供給する変速機構供給油路L2と、元圧を循環油の圧力に変更する循環圧変更機構20が配置された循環供給油路L3とが備えられている。
【0020】
上記発進装置4は、自動変速機1の入力軸1aに対して接続された外摩擦板及び変速機構3の入力軸3aに対して接続された内摩擦板を有する油圧多板式からなる発進クラッチ(クラッチ)5と、自動変速機1の入力軸1aに対して接続されたポンプインペラ6a及び作動流体を介して該ポンプインペラ6aの回転が伝達されるタービンランナ6bを有するフルードカップリング6とを備えて構成されている。
【0021】
また、上記発進装置4には、図2に示すように、後述する係合圧が油圧制御装置10から入力される入力ポート4aが設けられており、さらに、フルードカップリング6を作動させるための循環圧が油圧制御装置10から循環供給油路L3(図1も参照)を介して入力される入力ポート4bと、該循環圧が排出される出力ポート4cとが設けられている。該出力ポート4cは、該発進装置4内部の循環圧を所定圧に維持するためのオリフィス(絞り部)18が配置された循環排出油路L4に接続されている。
【0022】
また、上記発進装置4と変速機構3の間には、図1に示すように、上記ポンプインペラ6aに回転連結されることにより、エンジン2の回転に連動して駆動されることで油を吐出するオイルポンプ7が備えられている。
【0023】
つづいて、本発明に係る油圧制御装置10について説明する。油圧制御装置10は、図2に示すように、プライマリレギュレータバルブ(元圧調圧部)11と、モジュレータバルブ12及びサーキュレーションレギュレータバルブ(循環圧変更バルブ)13からなる循環圧変更機構20と、チェックバルブ15と、クーラバイパスバルブ16と、オイルクーラ17と、等を備えて構成されている。
【0024】
なお、油圧制御装置10には、図2に示した部分の他に、上記変速機構3のクラッチやブレーキの油圧サーボに油圧を供給するための各種バルブや油路などが備えられているが、説明の便宜上、本発明の要部を除き、省略して説明する。
【0025】
油圧制御装置10は、エンジン2の回転に連動して駆動されるオイルポンプ7(図1参照)によりオイルパン(図示せず)からストレーナ(図示せず)を介してオイルを吸上げる形で油圧を発生させている。上記オイルポンプ7により発生された油圧は、出力ポートより各油路に出力されると共に、プライマリレギュレータバルブ11がライン圧(元圧)Pを生成し、油路a1,a2,a3に供給する。該プライマリレギュレータバルブ11は、詳細な構成についての図示を省略しているが、例えば変速中か否か等の変速機構3の状態、エンジン2のトルク、車速、スロットル開度、及び油温等に基づいて制御され、発進装置4及び変速機構3からなる自動変速機1に必要な油圧に調圧し得るように構成されている。
【0026】
モジュレータバルブ12は、スプール12pと、該スプール12pを上方に付勢するスプリング12sとを備えていると共に、該スプール12pの上方に油室12aと、ポート12bと、ポート12cとを備えている。該モジュレータバルブ12は、スプール12pが左半位置であると、ポート12bとポート12cとが連通状態となる。またモジュレータバルブ12は、スプール12pが右半位置であるとポート12bとポート12cとが遮断される。
【0027】
上記ポート12bには、油路a1,a2を介してライン圧Pが入力されている。上記ポート12cは、油路b1,b3を介してサーキュレーションレギュレータバルブ13の油室13bに接続されると共に、油路b1、b2を介して、油室12aに接続される。
【0028】
サーキュレーションレギュレータバルブ13は、スプール13pを備えていると共に、該スプール13pの上方に油室(第2油室)13aと、スプール13pの下方に油室(第1油室)13bと、ポート(入力ポート)13cと、ポート(出力ポート)13dとを備えている。また、該スプール13pは、ランド部(大径部)13q,(小径部)13rを有しており、該ランド部13q,13rには径の差違(受圧面積の差違)が備えられている。
【0029】
該サーキュレーションレギュレータバルブ13は、スプール13pが左半位置であると、ポート13cとポート13dとが連通される。また、該サーキュレーションレギュレータバルブ13は、スプール13pが右半位置であると、ポート13cとポート13dとが遮断される。
【0030】
上記ポート13cには、油路a1,a3を介してライン圧Pが入力されている。上記ポート13dは、油路c1,c2を介して油室13aに接続されている。また、ポート13dは、油路c1,c3,チェックバルブ15,油路d1,d3を介してオイルクーラ17に接続されると共に、油路油路c1,c3,チェックバルブ15,油路d1,d2を介してクーラバイパスバルブ16に接続されている。そして、これらオイルクーラ17及びクーラバイパスバルブ16は、該オイルクーラ17に接続された油路e1と、該クーラバイパスバルブ16に接続された油路e2とが合流し、油路e3を介して上記発進装置4の入力ポート4bに接続されている。
【0031】
次に、本実施の形態に係る油圧制御装置10の作用について説明する。
【0032】
例えば運転手によりイグニッションがONされると、本油圧制御装置10の油圧制御が開始される。まず、例えばシフトレバーの操作に基づき、車輌が、アイドリング状態を含むガレージシフト状態にされ、上述のように変速機構3の状態やエンジン2のトルク等に基づいた低圧状態となる。すると、上記プライマリレギュレータバルブ11により、ライン圧Pが、所定圧力(第1の所定圧力)P1未満となる圧力PLlow(図3参照)に調圧される。
【0033】
このとき、モジュレータバルブ12では、フィードバック圧として油室12aに入力されるライン圧の圧力PLlowが、スプール12pに作用するが、スプリング12sの付勢力の方が大きいため、該スプール12pは、左半位置のままとされる。つまり、ポート12cから出力されるライン圧の圧力PLlowが、そのままモジュレータ圧PMODとして油路b1,b3を介してサーキュレーションレギュレータバルブ13の油室13bに入力される。
【0034】
また、サーキュレーションレギュレータバルブ13のスプール13pは、上述のように油室13aにライン圧の圧力PLlowが入力され、油室13bにもライン圧の圧力PLlow(モジュレータ圧PMOD)が入力され、上方側のランド部13qと下方側のランド部13rとの径の差違(受圧面積の差違)により、スプール13pが下方側に付勢されて、スプール13pが下方側に移動し始める。スプール13pが下方側に移動し始めると、ポート13cとポート13dとが徐々に遮断され、ポート13dから出力されるライン圧の圧力PLlowが徐々に弱まり、油室13aにおけるライン圧の圧力PLlowの付勢力も弱まる。そして、油室13aにおけるライン圧の圧力PLlowの付勢力よりも油室13bに入力されるモジュレータ圧PMODによる上方側への付勢力の方が上回ると、スプール13pは、再び上方側へ移動し、ポート13cとポート13dとを連通させる。以上の動作の繰り返しにより、サーキュレーションレギュレータバルブ13のポート13dから、ライン圧の圧力PLlowが減圧された循環圧PCIR1(図3参照)が出力される(減圧状態)。そして、循環圧PCIR1は、オイルクーラ17又はクーラバイパスバルブ16を介して発進装置4の入力ポート4bに入力される。
【0035】
ついで、上記低圧状態から、例えばアクセルペダルが操作され、通常走行時となり、上述のように変速機構3の状態やエンジン2のトルク等に基づいた高圧状態とされると、上記プライマリレギュレータバルブ11により、ライン圧Pが、所定圧力P1以上となる圧力PLhigh(図3参照)に調圧される。
【0036】
このとき、モジュレータバルブ12のスプール12pは、上述のように油室12aに入力されるライン圧の圧力PLhighにより下方側に付勢され、スプリング12sの付勢力に反して下方側に移動し始める。スプール12pが下方側に移動し始めると、ポート12bとポート12cとが徐々に遮断され、ポート12cから出力されるライン圧の圧力PLhighが徐々に弱まり、油室12aにおけるライン圧の圧力PLhighの付勢力も弱まる。そして、油室12aにおけるライン圧の圧力PLhighの付勢力よりもスプリング12sの付勢力の方が上回ると、スプール12pは、再び上方側へ移動し、ポート12bとポート12cとを連通させる。以上の動作の繰り返しにより、モジュレータバルブ12は、ライン圧の圧力PLhighよりも低い一定圧に減圧されたモジュレータ圧PMODを出力し、油路b1,b3を介してサーキュレーションレギュレータバルブ13の油室13bに入力される。
【0037】
また、サーキュレーションレギュレータバルブ13のスプール13pは、上述のように油室13aに入力されるライン圧の圧力PLhighにより下方側に付勢され、油室13bに入力されるモジュレータ圧PMODによる上方側への付勢力に反して下方側に移動し始める。スプール13pが下方側に移動し始めると、ポート13cとポート13dとが徐々に遮断され、ポート13dから出力されるライン圧の圧力PLhighが徐々に弱まり、油室13aにおけるライン圧の圧力PLhighの付勢力も弱まる。そして、油室13aにおけるライン圧の圧力PLhighの付勢力よりも油室13bに入力されるモジュレータ圧PMODによる上方側への付勢力の方が上回ると、スプール13pは、再び上方側へ移動し、ポート13cとポート13dとを連通させる。以上の動作の繰り返しにより、サーキュレーションレギュレータバルブ13のポート13dから、ライン圧の圧力PLhighよりも低い所定圧力(第2の所定圧力)P2に減圧された圧力、即ち循環圧PCIR2(図3参照)が出力される(定圧状態)。そして、循環圧PCIR2は、オイルクーラ17又はクーラバイパスバルブ16を介して発進装置4の入力ポート4bに入力される。
【0038】
なお、上記油圧制御装置10においては、ライン圧Pの圧力が(第1の)所定圧力P1以上(PLhigh)となる場合、循環圧変更機構20によって減圧された所定圧力P2が出力されるように構成され、ライン圧Pの圧力が(第1の)所定圧力P1未満(PLlow)となる場合、循環圧変更機構20によって(第2の)所定圧力P2よりも減圧された圧力が出力されるように構成されている。従って、(第1の)所定圧力P1は、常に(第2の)所定圧力P2以上となるように構成されている。
【0039】
一方、サーキュレーションレギュレータバルブ13からチェックバルブ15等を介して油路d1に供給された循環圧PCIR1,PCIR2は、例えばエンジン2の始動直後等の影響により油の温度が低く粘度が高い場合、オイルクーラ17内部を通過するための抵抗が大きくなる。このため、循環圧PCIR1,PCIR2は、オイルクーラ17内部を通過するための抵抗がクーラバイパスバルブ16のスプリングの付勢力よりも大きくなることにより、油路d2、クーラバイパスバルブ16、油路e2,e3を介して発進装置4の入力ポート4bに入力されるようになる。
【0040】
また、油の温度が上昇し、粘度が低くなった場合、循環圧PCIR1,PCIR2は、オイルクーラ17内部を通過するための抵抗も低くなりクーラバイパスバルブ16のスプリングの付勢力の方が大きくなることにより、油路d3、オイルクーラ17、油路e1,e3を介して発進装置4の入力ポート4bに入力されるようになる。つまり、上記のようにオイルクーラ17及びクーラバイパスバルブ16が並列となるように回路を組むことで、低い温度の油を速やかに温度上昇させるためのオイルウォーマーとすることができる。
【0041】
以上のように本発明に係る自動変速機の油圧制御装置10は、ライン圧Pの圧力が所定圧力P1以上の場合には、ライン圧を減圧した所定圧力P2を循環油の圧力として出力し、ライン圧Pの圧力が所定圧力P1未満の場合には、ライン圧を所定圧力P2より減圧した圧力を循環油の圧力として出力する循環圧変更機構20を備えているので、ライン圧Pの圧力が所定圧力P1以上の際には、クラッチの係合制御を容易に行うことができるものでありながら、ライン圧Pの圧力が所定圧力P1未満の際には、循環油の圧力を減圧することで変速機構供給油路L2に供給する油圧を確保することができ、ライン圧Pが低い場合に変速機構3に優先的に油圧を供給することができる。
【0042】
また、元圧としてのライン圧Pが低くなるような場合であっても、循環圧変更機構20によって変速機構供給油路L2に供給する元圧を確保できるので、摩擦係合要素の油圧サーボにも油圧の供給を行うことができ、係合圧の不足に起因して変速時間が延びてしまうことを防止することができる。
【0043】
また、循環圧変更機構20は、入力されたライン圧Pに基づき、モジュレータバルブ12及びサーキュレーションレギュレータバルブ13によって、所定圧力P2を循環油の圧力として出力する状態と所定圧力P2より減圧した圧力を循環油の圧力として出力する状態とに変更するので、ライン圧Pの増減に合わせて速やかに循環油の圧力の切換えを行うことができる。
【0044】
なお、以上説明した本実施の形態においては、発進装置として、フルードカップリング付き発進クラッチであるように説明したが、これに限らず、例えば発進クラッチのみの発進装置やロックアップクラッチ付きトルクコンバータとしてもよく、つまり、発進装置内部を循環する油を給排する循環供給油路及び循環排出油路と、駆動源及び自動変速機構を連結するクラッチの係合圧を供給する油路を備えたものであればどのような発進装置を備えた自動変速機の油圧制御装置であっても本発明を適用することができる。
【0045】
また、本実施の形態において、元圧は、プライマリレギュレータバルブによって生成されたライン圧であるように説明したが、これに限らず、セカンダリレギュレータバルブによって生成されたセカンダリ圧を元圧に用いても本発明を適用することができる。この場合、セカンダリレギュレータバルブは、例えばエンジン2のトルクに対してロックアップ機構または発進クラッチ5が係合できる油圧等の発進装置4の状態、変速機構3の潤滑に必要な油圧等の変速機構3の状態、エンジン2のトルク、車速、スロットル開度、及び油温等に基づいて制御され、発進装置4及び変速機構3からなる自動変速機1に必要な油圧に調圧し得るように構成されている。
【符号の説明】
【0046】
1 自動変速機
1a ドライブ軸
2 駆動源(エンジン)
3 自動変速機構(変速機構)
3a 入力軸
4 発進装置
5 クラッチ(発進クラッチ)
7 オイルポンプ
10 油圧制御装置
11 元圧調圧部(プライマリレギュレータバルブ)
12 モジュレータバルブ
13 循環圧変更バルブ(サーキュレーションレギュレータバルブ)
18 絞り部(オリフィス)
20 循環圧変更機構
L1 共通油路
L2 変速機構供給油路
L3 循環供給油路
L4 循環排出油路
元圧(ライン圧)
1 第1の所定圧力(所定圧力)
2 第2の所定圧力(所定圧力)
MOD 信号圧(モジュレータ圧)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸を有する自動変速機構と、駆動源と連結するドライブ軸と該ドライブ軸及び前記入力軸を連結するクラッチを有する発進装置と、
前記駆動源の回転速度に応じて回転し前記発進装置と前記自動変速機構に油を吐出するオイルポンプと、
を備え、前記クラッチの係合状態が前記クラッチの油圧サーボに供給される係合油圧と前記発進装置内を循環する循環油の圧力との差圧によって制御される自動変速機の油圧制御装置において、
前記オイルポンプから吐出された油を前記自動変速機に必要な油圧に調圧して元圧とする元圧調圧部と、
前記元圧調圧部に接続し、前記元圧が流れる共通油路と、
前記共通油路に接続されると共に前記自動変速機構に前記元圧を供給する変速機構供給油路と、
前記共通油路に接続されると共に前記発進装置内部を循環する循環油を供給する循環供給油路と、
前記循環油を前記発進装置から排出すると共に絞り部が配置された循環排出油路と、
前記循環供給油路に配置され、前記元圧の圧力が第1の所定圧力以上の場合に前記元圧を減圧した第2の所定圧力を循環油の圧力として出力し、前記元圧の圧力が第1の所定圧力未満の場合に前記元圧を前記第2の所定圧力より減圧した圧力を前記循環油の圧力として出力する循環圧変更機構と、を備えてなる、
ことを特徴とする自動変速機の油圧制御装置。
【請求項2】
前記自動変速機構は、複数の変速段を形成するように、それぞれの油圧サーボによって係脱される複数の摩擦係合要素を備え、
前記変速機構供給油路は前記複数の油圧サーボに接続されてなる、
請求項1記載の自動変速機の油圧制御装置。
【請求項3】
前記循環圧変更機構は、
前記元圧の圧力が第1の所定圧力未満の場合に該元圧を信号圧として出力し、前記元圧の圧力が第1の所定圧力以上の場合に該元圧の圧力を第1の所定圧力に減圧して信号圧として出力するモジュレータバルブと、
前記第1の所定圧力に減圧された前記信号圧が入力された際に、前記元圧を減圧した前記第2の所定圧力を前記循環油の圧力として出力し、前記元圧が前記信号圧として入力された際に、前記元圧を前記第2の所定圧力より減圧した圧力を前記循環油の圧力として出力する循環圧変更バルブと、を備えてなる、
請求項1または2記載の自動変速機の油圧制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−223327(P2010−223327A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−70996(P2009−70996)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】