説明

自動変速機の油圧制御装置

【課題】アキュムレータを油圧源とした自動変速機で油圧の閉じ込み制御が可能で、かつ通電遮断時にアキュムレータからの過度な油圧が掛かることを回避する油圧制御装置を提供する。
【解決手段】無段変速機の油圧室などにアキュムレータの油圧を供給する電磁弁を常開タイプのものとし、かつそのアキュムレータから排圧する電磁弁を常閉タイプのものとし、これらの電磁弁に対する通電を遮断する操作が行われた場合(ステップS1)、各電磁弁を開弁状態に制御(ステップS2)してアキュムレータから排圧することによりその油圧を低下させ、アキュムレータの油圧が所定値まで低下した後(ステップS3)、電磁弁に対する通電を止めて(ステップS4)、供給用の電磁弁を開状態、排圧用の電磁弁を閉状態に制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両における変速比や前後進状態の切り替えを行う自動変速機を対象とする制御装置に関し、特に変速比の設定や前後進状態の切り替えなどを行うための油圧を制御する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両用の自動変速機は、エンジンなどの駆動力源から駆動輪に至る動力伝達系統におけるトルクの伝達状態を車速や駆動要求量などの車両の状態に応じて電気的に制御するように構成されている。具体的には、車速やアクセル開度などに応じてライン圧の調圧レベルを電気的に変化させることにより、ライン圧を伝達するべきトルクに応じた圧力とし、また制御バルブを電気的に制御することにより、変速比を設定するアクチュエータに対する油圧を制御している。
【0003】
このような制御を行うための油圧は、車両においてはエンジンや電動機によってオイルポンプを駆動することにより発生させており、また近年では、一時的な停車時にエンジンを止める場合に油圧を確保したり、あるいは回生エネルギで発生させた油圧を蓄えるためにアキュムレータを設けることも行われている。特許文献1には、ベルト式無段変速機を対象とする油圧制御装置であって、モータによって駆動されるオイルポンプと並列にアキュムレータを備えた装置が記載されている。そのベルト式無段変速機は、エンジンなどの駆動力源からトルクが入力される駆動側プーリ(以下、プライマリプーリという)と、出力軸に連結された従動側プーリ(以下、セカンダリプーリという)とにベルトを巻き掛けた構成であって、またその油圧制御装置は、油圧源として電動オイルポンプとアキュムレータとを有しており、その油圧源で発生した油圧を、変速比を制御するプライマリプーリにおける油圧室に供給する第1供給用バルブと、ベルトを挟み付ける挟圧力に応じて伝達トルクを制御するセカンダリプーリにおける油圧室に供給する第2供給用バルブとを有している。また、プライマリプーリにおける油圧室から圧油を排出する第1排出用バルブと、セカンダリプーリにおける油圧室から油圧を排出する第2排出用バルブとが設けられている。そして、これらの供給用バルブおよび排出用バルブは、ソレノイド開閉弁などの電気的に制御されるバルブによって構成されている。
【0004】
この特許文献1に記載されたベルト型無段変速機においては、第1供給用バルブが開かれて油圧源の油圧をプライマリプーリにおける油圧室に供給し、あるいは第1排出用バルブが開かれてプライマリプーリにおける油圧室の油圧を排出することにより変速比が制御される。一方、第2供給用バルブが開かれてセカンダリプーリにおける油圧室に油圧が供給されることにより、あるいは第2排出用バルブが開かれてセカンダリプーリにおける油圧室の油圧が排出されることにより、ベルトを挟み付ける挟圧力が変化して伝達トルク容量が制御される。
【0005】
また、特許文献2には、アキュムレータに蓄えた油圧をベルト式無段変速機の制御に使用する一方、駆動トルクの伝達を行うクラッチやトルクコンバータあるいは自動変速機の各部の潤滑のための潤滑油に使用するように構成された油圧制御装置が記載されている。この特許文献2に記載された油圧制御装置においても、プライマリプーリにおける油圧室およびセカンダリプーリにおける油圧室に対する油圧の給排を、電気的に制御される供給用バルブおよび排出用バルブによって制御するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】欧州特許第0985855号明細書
【特許文献2】国際公開第2010/021218号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の特許文献1や特許文献2に記載された発明では、油圧源としてアキュムレータを備えているから、油圧ポンプが停止した場合であっても油圧を確保することができるが、プライマリプーリやセカンダリプーリにおける油圧室に対する油圧の給排を制御するバルブが、通電を止めたオフ状態で閉じるタイプのものであるから、電気的なフェイルによって通電されなくなった場合には全てのバルブが閉じることになる。そのため、走行中にそのようなフェイルが生じると、変速比やトルクの伝達状態がフェイルの生じる直前の状態に維持され、定常的な走行状態であれば、変速比が高速側の変速比(小さい変速比)に維持され、登坂できなくなったり、一旦停止すると再発進することが困難になるなどの事態が生じる可能性がある。
【0008】
一方、上述した供給用のバルブや排圧用のバルブには、オフ状態で開弁するいわゆる常開タイプのバルブを採用することができる。しかしながら、このような構成とした場合には、通電が止まれば全てのバルブが開いて油圧が低下するので、ベルト式無段変速機やクラッチなどのトルク容量が失われて走行できなくなってしまう。
【0009】
そこで、このような事態を未然に回避するために、供給用のバルブにはオフ状態で開弁するいわゆる常開タイプの電磁弁を採用し、これに対して排圧用のバルブにはオフ状態で閉じるいわゆる常閉タイプの電磁弁を採用することが考えられる。このように構成すれば、断線などの電気的なフェイルが生じた場合や車両のメインスイッチをオフにした場合などに、アキュムレータに蓄えた油圧をベルト式無段変速機やクラッチなどに供給してそのトルク容量を高い状態に設定することができる。したがって、電気的なフェイルが生じた場合であってもいわゆるリンプホーム走行が可能であり、また一旦停止した後の再発進が可能になる。
【0010】
しかしながら、アキュムレータに蓄える油圧は、自動変速機が必要とする最も高い油圧あるいはそれを上回る油圧とするのが一般的であるから、供給用のバルブを常開タイプのものとし、かつ排圧用のバルブを常閉タイプのものとすると、例えばメインスイッチをオフにして通電が止まると同時に、各油圧室あるいはアクチュエータに高圧の油圧が供給されることになる。そのため、例えばベルト式無段変速機では、変速比を設定するために制御されるプーリの油圧室に高い圧力の圧油が供給されてアップシフトさせる作用が生じたり、また通常時はベルト式無段変速機よりは低い油圧が制御されるクラッチなどに高圧の油圧が供給されてそのクラッチに関する油圧系統の耐久性が低下するなどの可能性がある。
【0011】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、アキュムレータを油圧源として備えるとともに、アクチュエータの油圧を電気的に制御するように構成された自動変速機を対象とし、電気的なフェイルが生じた場合に必要とな油圧を確保でき、かつアクチュエータに過度な油圧が作用することを防止もしくは抑制することのできる油圧制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために、請求項1の発明は、アキュムレータを含む油圧源から油圧が供給されて変速比および伝達トルク容量が設定される自動変速機の油圧制御装置において、供給される油圧に応じて変速比もしくは伝達トルク容量を設定するアクチュエータと、前記アキュムレータから前記アクチュエータに対して供給される油圧を制御し、かつ通電が止められることにより開弁状態となる常開タイプの供給用電磁弁と、前記アクチュエータから油圧を排出することによりそのアクチュエータの油圧を制御し、かつ通電が止められることにより閉弁状態となる常閉タイプの排圧用電磁弁と、前記供給用電磁弁および排圧用電磁弁に対する通電を止める操作が実行された場合に、これら供給用電磁弁および排圧用電磁弁を開状態に制御する排圧制御手段と、その排圧制御手段によって前記供給用電磁弁および排圧用電磁弁が開状態に制御されて前記アキュムレータの油圧が予め定めた圧力に低下したことに基づいて前記排圧用電磁弁を閉じる閉じ込み制御手段とを備えていることを特徴とするものである。
【0013】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記自動変速機は、前記アキュムレータから油圧が供給される第1アクチュエータを有するとともにその第1アクチュエータに供給される油圧に応じて溝幅を変更する第1プーリと、前記アキュムレータから油圧が供給される第2アクチュエータを有するとともにその第2アクチュエータに供給される油圧に応じてベルト挟圧力を生じる第2プーリと、これら第1プーリと第2プーリとに巻き掛けられてトルクを伝達するベルトとを備えたベルト式無段変速機を含み、前記供給用電磁弁は、前記第2アクチュエータと前記アキュムレータとの間に配置された第2供給用電磁弁を含み、前記排圧用電磁弁は、前記第2アクチュエータの油圧をドレイン箇所に排出させる第2排圧用電磁弁を含み、さらに前記第1アクチュエータと前記アキュムレータとの間に配置された第1供給用電磁弁と、前記第1アクチュエータの油圧をドレイン箇所に排出させる第1排圧用電磁弁とを備え、前記排圧制御手段は、前記各電磁弁に対する通電を止める操作が実行された場合に、前記第1供給用電磁弁を閉状態に制御し、かつ第2供給用電磁弁および第1排圧用電磁弁ならびに第2排圧用電磁弁を開状態に制御する手段を含み、前記閉じ込み制御手段は、第1排圧用電磁弁および第2排圧用電磁弁を閉状態に制御することに加えて、前記第1供給用電磁弁を開状態に制御する手段を含むことを特徴とする自動変速機の油圧制御装置である。
【0014】
請求項3の発明は、請求項1の発明において、前記アクチュエータは、相対的に高い油圧に制御されて動作する高圧側アクチュエータと、相対的に低い油圧に制御されて動作する低圧側アクチュエータとを含み、前記予め定めた圧力は、前記低圧側アクチュエータに供給可能な油圧に基づいて設定されている圧力であることを特徴とする自動変速機の油圧制御装置である。
【0015】
請求項4の発明は、請求項2の発明において、前記自動変速機は、前記ベルト式無段変速機よりも低い油圧で係合してトルクを伝達する摩擦係合装置と、その前記摩擦係合装置に設けられている第3アクチュエータとを更に備え、前記供給用電磁弁は、前記第3アクチュエータと前記アキュムレータとの間に設けられた第3供給用電磁弁を更に含み、前記排圧用電磁弁は、前記第3アクチュエータの油圧を前記ドレイン箇所に排出する第3排圧用電磁弁を更に含み、前記排圧制御手段は、前記各電磁弁に対する通電を止める操作が実行された場合に、前記第1供給用電磁弁を閉状態に制御し、かつ第2供給用電磁弁および第1排圧用電磁弁ならびに第2排圧用電磁弁に加えて前記第3排圧用電磁弁を開状態に制御する手段を含み、前記閉じ込み制御手段は、第1排圧用電磁弁および第2排圧用電磁弁に加えて第3排圧用電磁弁を閉状態に制御するとともに前記第1供給用電磁弁を開状態に制御する前記手段を含むことを特徴とする自動変速機の油圧制御装置である。
【0016】
請求項5の発明は、請求項4の発明において、前記予め定めた圧力は、前記第3アクチュエータに供給可能な油圧に基づいて設定されている圧力であることを特徴とする自動変速機の油圧制御装置である。
【発明の効果】
【0017】
請求項1の発明によれば、供給用電磁弁は通電が止められると開状態になり、また排圧用電磁弁は通電が止められることにより閉状態になるが、通電を止める操作が実行された場合には、先ず、供給用制御弁および排圧用電磁弁を開状態にする制御が実行される。したがってアキュムレータから供給用制御弁を介してアクチュエータに油圧が供給されるが、そのアクチュエータが排圧用電磁弁を介してドレイン箇所に連通しているので、結局、アキュムレータの油圧はドレイン箇所に排出され、アキュムレータの油圧が低下する。そして、アキュムレータの圧力が予め定めた圧力にまで低下すると、排圧用電磁弁に対する通電が止められるなどのことによって排圧用電磁弁が閉状態に制御されて、アクチュエータからの排圧が停止される。すなわち、圧力が低下したアクチュエータの油圧がアクチュエータに供給され、その供給状態に維持される。すなわち、閉じ込み状態になる。そのため、各電磁弁に対する通電を止める場合、最終的に油圧を閉じ込めることになるとしても、それに先立ってアキュムレータの油圧が低下させられるので、アクチュエータに過度に高い油圧が作用することを回避もしくは抑制することができる。
【0018】
請求項2の発明によれば、通電を止める操作が行われた場合、アキュムレータの油圧が低下した後に、各排圧用電磁弁を閉状態に制御するとともに、各供給用電磁弁を開状態に制御して、いわゆる閉じ込み状態とするので、変速比を設定する第1プーリのアクチュエータに高い圧力が作用したり、それに伴ってアップシフト側への変速作用が生じたりすることを防止もしくは抑制することができる。特に、第1プーリのアクチュエータに対して供給される油圧を制御する第1供給用電磁弁は、先ず、閉状態に制御された後、アキュムレータの油圧が低下して開状態に制御されるので、第1プーリのアクチュエータに高い油圧が作用することを確実に回避することができる。
【0019】
請求項3の発明によれば、請求項1の発明と同様の効果を得られることに加えて、上記のいわゆる閉じ込み状態とされる際のアキュムレータの油圧が、低圧側アクチュエータに供給可能な油圧に基づいて定められているので、その低圧側アクチュエータに過度に高い油圧が作用したり、それに伴って耐久性が低下したりすることを未然に防止もしくは抑制することができる。
【0020】
請求項4の発明によれば、上記の請求項2の発明と同様の効果を得られることに加えて、通電を止める操作が実行された場合に、ベルト式無段変速機に加えて、摩擦係合装置をトルク伝達可能な状態に維持することができる。そして、請求項5の発明によれば、ベルト式無段変速機に対して低圧側の第3アクチュエータに必要以上に高い圧力が作用することを回避もしくは抑制してその耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】この発明に係る油圧制御装置で実行される制御の一例を説明するためのフローチャートである。
【図2】この発明に係る油圧制御装置で実行される制御の他の例を説明するためのフローチャートである。
【図3】この発明で対象とすることのできる自動変速機の一例を示す模式図である。
【図4】この発明に係る油圧制御装置の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
つぎにこの発明を図面を参照して具体的に説明する。この発明は、無段変速機や有段変速機などの車両用の自動変速機を対象とする油圧制御装置に適用することができ、その自動変速機の一例としてベルト式無段変速機を備えた例を図3に模式的に示してある。駆動力源1は、ガソリンエンジンなどの内燃機関や電動機もしくはこれら内燃機関と電動機とを組み合わせたいわゆるハイブリッド式のものであってよく、以下の説明では駆動力源1としてエンジンを採用した例を説明し、したがって駆動力源1をエンジン1と記す。
【0023】
エンジン1の出力側には、トルクコンバータ2が連結されている。このトルクコンバータ2は、車両に広く採用されている一般的な構造のものであって、入力側の要素と出力側の要素とを直接連結する直結クラッチ(ロックアップクラッチ)3を備えている。このトルクコンバータ2に続けて前後進切替機構4が配置されている。この前後進切替機構4は、要は、入力されたトルクをそのまま出力し、またトルクの作用方向を反転して出力できる機構であれば任意の構成のものであればよく、図3に示す例では、ダブルピニオン型遊星歯車機構を主体として構成されている。すなわち、トルクコンバータ2の出力要素に連結されたサンギヤ5と同心円上に、内歯歯車であるリングギヤ6が配置されており、これらサンギヤ5とリングギヤ6との間に、サンギヤ5に噛み合っているピニオンギヤ7と、そのピニオンギヤ7およびリングギヤ6に噛み合っている他のピニオンギヤ8とが配置されており、これらのピニオンギヤ7,8がキャリヤ9によって自転および公転できるように保持されている。
【0024】
サンギヤ5に入力されたトルクをそのまま出力する前進状態を設定するためのクラッチC1が設けられている。このクラッチC1は、要は、上記のダブルピニオン型遊星歯車機構におけるいずれか二つの要素を連結して遊星歯車機構の全体を一体化して回転させるように構成されたクラッチであり、図3に示す例では、サンギヤ5とキャリヤ9とを選択的に連結するように構成されている。このクラッチC1は、具体的には、湿式の多板クラッチによって構成することができ、したがって複数の摩擦板およびプレートとそれらを密着させるための油圧室(もしくは油圧アクチュエータ)(それぞれ図示せず)とを備えている。
【0025】
また、サンギヤ5に入力されたトルクの方向を反転して出力する後進状態を設定するためのブレーキB1が設けられている。このブレーキB1は、図3に示す例では、リングギヤ6をケーシングなどの固定部10に選択的に連結してリングギヤ6に反力を与えてその回転を止めるように構成されている。また、このブレーキB1は、具体的には、湿式の多板式のものすることができ、したがって複数の摩擦板およびプレートとそれらを密着させるための油圧室(もしくは油圧アクチュエータ)(それぞれ図示せず)とを備えている。したがって、図3に示す例では、サンギヤ5が入力要素、リングギヤ6が反力要素、キャリヤ9が出力要素となっており、クラッチC1が係合してサンギヤ5とキャリヤ9とが連結されることにより、遊星歯車機構の全体が一体となって回転し、サンギヤ5およびキャリヤ9から入力されたトルクがそのまま出力されて前進状態が設定される。またクラッチC1に替えてブレーキB1が係合することによりリングギヤ6が固定され、その結果、サンギヤ5に対してキャリヤ9が反対方向に回転するので、入力されたトルクとは反対方向に作用するトルクが出力され、後進状態が設定される。なお、上記のクラッチC1およびブレーキB1がこの発明における摩擦係合装置に相当している。
【0026】
上記の前後進切替機構4の出力側にベルト式無段変速機11が連結されている。このベルト式無段変速機11は、従来広く知られている構成のものであって、それぞれ固定シーブとこれに対向して配置された可動シーブとからなる一対のプーリ12,13を備え、それらの固定シーブと可動シーブとによって形成されるいわゆるV溝にベルト14が巻き掛けられている。一方のプーリ12が駆動側のプーリ(プライマリプーリ)であって、このプライマリプーリ12が前述した前後進切替機構4におけるキャリヤ9に連結されている。またプライマリプーリ12における可動シーブの背面側に油圧室(アクチュエータ)15が設けられており、その油圧室15に供給する油圧を高くし、あるいは圧油の量を増大させることによりV溝の幅が狭くなってベルト14の巻き掛け半径が増大するように構成されている。すなわち、図3に示す例では、プライマリプーリ12の油圧あるいは圧油の量を制御することにより、変速比を変化させるように構成されている。
【0027】
また、他方のプーリ13が従動側のプーリ(セカンダリプーリ)であってその可動シーブの背面側に油圧室(アクチュエータ)16が設けられており、その油圧室16に給排する油圧によって、ベルト14を挟み付けて所定の伝達トルク容量を設定する挟圧力を生じさせるように構成されている。そして、このセカンダリプーリ13のプーリ軸17に設けた出力ギヤ18がカウンタドリブンギヤ19に噛み合っており、そのカウンタドリブンギヤ19と一体となって回転するカウンタドライブギヤ20が終減速機を構成しているデファレンシャルギヤ21のリングギヤ22に噛み合っており、そのデファレンシャルギヤ21から左右の駆動輪(図示せず)にトルクを伝達するように構成されている。
【0028】
なお、各プーリ12,13におけるそれぞれの可動シーブの移動限界位置は、機械的構造によって規定されている。すなわち、プライマリプーリ12における可動シーブがその固定シーブに最も接近した状態では、可動シーブの一部が固定シーブと一体の部分に引っ掛かって、それ以上に固定シーブに接近しないように構成されている。すなわち、可動シーブが固定シーブに最も接近した状態では、可動シーブを固定シーブに向けて押圧する荷重が両者の係合箇所で受け止められ、ベルト14をそれ以上に挟み付けないようになっている。このような構造は、セカンダリプーリ13における可動シーブと固定シーブとにも採用されており、変速比が最大となるようにセカンダリプーリ13の溝幅が小さくなった状態では、可動シーブが固定シーブもしくはプーリ軸と一体との部分に引っ掛かって可動シーブがそれ以上、固定シーブに接近しないようになっている。したがって、この状態では、可動シーブを固定シーブ側に押圧するベルト挟圧力がそれ以上に増大しない。また、プライマリプーリ12における可動シーブが固定シーブから最も離れた状態、あるいはセカンダリプーリ13における可動シーブがその固定シーブから最も離れた状態では、その可動シーブが固定シーブやプーリ軸と一体の部分に当接してそれ以上に後退移動しないように構成されている。したがって、その状態では、可動シーブを固定シーブから離す方向の荷重がベルト14以外の構成部材によって受け止められるようになっている。
【0029】
上記のロックアップクラッチ3やクラッチC1、ブレーキB1、無段変速機11などは油圧によって制御されるように構成されており、その制御のための油圧制御装置23が設けられている。この油圧制御装置23は、電気的に制御される複数のバルブを備え、それらのバルブのオン・オフの状態に応じて出力される油圧によって上記のロックアップクラッチ13やクラッチC1あるいはブレーキB1を係合もしくは解放させ、また無段変速機11で設定する変速比を変化させ、あるいはベルト挟圧力を高低に変化させるように構成されている。その具体的な構成は後述する。
【0030】
さらに、変速比やベルト挟圧力を制御し、またクラッチC1やブレーキB1に対する油圧の給排を制御する電子制御装置(ECU)24が設けられている。この電子制御装置24はマイクロコンピュータを主体として構成され、入力されたデータや予め記憶しているデータに基づいて演算を行って制御指令信号を出力するように構成されている。また、この電子制御装置24はエンジン1の出力を制御するように構成されており、したがって電子制御装置24から前述した油圧制御装置23やエンジン1に対して制御指令信号が出力されるように構成されている。
【0031】
上述した自動変速機を対象とするこの発明に係る油圧制御装置23は、上記のプライマリプーリ12における油圧室15およびセカンダリプーリ13における油圧室16毎に供給用電磁弁および排圧用電磁弁を設け、また前述したクラッチC1およびブレーキB1に対して供給用電磁弁および排圧用電磁弁を設け、これらの電磁弁を電気的に開閉制御して、変速比や伝達トルク容量を制御するように構成されている。その一例を図4に模式的に示してある。ここに示す油圧制御装置23は、電動機25により駆動されてオイルパン26からオイルを汲み上げて吐出する電動オイルポンプ27を有している。その電動オイルポンプ27の吐出口にアキュムレータ28が接続されている。このアキュムレータ28は、電動オイルポンプ27が吐出した油圧を蓄えておき、電動オイルポンプ27が停止している状態においても所定の油圧を維持するいわゆる油圧源として機能するものであり、その油圧は、前述したベルト式無段変速機11で必要とする最大油圧あるいはそれより高い油圧である。そのアキュムレータ28における油圧を検出する油圧センサ29が設けられている。
【0032】
上記の電動オイルポンプ27あるいはアキュムレータ28による油圧が、油路30を介して上述した無段変速機11やクラッチC1あるいはブレーキB1に供給されるように構成されている。具体的に説明すると、電動オイルポンプ27およびアキュムレータ28と前述したプライマリプーリ12における油圧室15とを連通させている油路31に供給用電磁弁SLP1が設けられており、この供給用電磁弁SLP1により油路31を開閉してプライマリプーリ12における油圧室15に対する圧油の供給を選択的に行うようになっている。また、プライマリプーリ12における油圧室15には、その油圧室15の油圧をオイルパン26などのドレイン箇所に排出する排圧用電磁弁SLP2が連通されている。なお、図4に示す例では、この排圧用電磁弁SLP2は、上記の供給用電磁弁SLP1と油圧室15との間の油路31に接続されている。さらに、油圧室15の圧力を検出して信号を出力する油圧センサ32が設けられている。
【0033】
これらの供給用電磁弁SLP1および排圧用電磁弁SLP2は、電気的に制御されてポートを開閉するバルブであって、閉弁状態では油圧の漏れを殆ど生じさせることなくポートを閉じるいわゆるポペットタイプのバルブによって構成されている。また、供給用電磁弁SLP1は、通電されることによりポートを閉じて閉弁状態となり、また通電が遮断されることによりポートを開いて開弁状態となるいわゆる常開タイプ(ノーマリオープンタイプ)のバルブによって構成されている。これに対して排圧用電磁弁SLP2は、通電されることによりポートを開いて開弁状態となり、また通電が遮断されることによりポートを閉じて閉弁状態となるいわゆる常閉タイプ(ノーマリクローズタイプ)のバルブによって構成されている。これは、通電が遮断された場合であっても、油圧室15に油圧を閉じ込んで所定の変速比および伝達トルク容量を確保するためである。
【0034】
ベルト挟圧力を設定するセカンダリプーリ13における油圧室16についての油圧の給排機構も、上記のプライマリプーリ12における油圧室15についての油圧の給排機構と同様に構成されている。すなわち、電動オイルポンプ27およびアキュムレータ28と前述したセカンダリプーリ13における油圧室16とを連通させている油路33に供給用電磁弁SLS1が設けられており、この供給用電磁弁SLS1により油路33を開閉してセカンダリプーリ13における油圧室16に対する油圧の供給を選択的に行うようになっている。また、セカンダリプーリ13における油圧室16には、その油圧室16の油圧をオイルパン26などのドレイン箇所に排出する排圧用電磁弁SLS2が連通されている。なお、図4に示す例では、この排圧用電磁弁SLS2は、上記の供給用電磁弁SLS1と油圧室16との間の油路33に接続されている。さらに、油圧室16の圧力を検出して信号を出力する油圧センサ34が設けられている。
【0035】
これらの供給用電磁弁SLS1および排圧用電磁弁SLS2は、電気的に制御されてポートを開閉するバルブであって、閉弁状態では油圧の漏れを殆ど生じさせることなくポートを閉じるいわゆるポペットタイプのバルブによって構成されている。また、供給用電磁弁SLS1は、通電されることによりポートを閉じて閉弁状態となり、また通電が遮断されることによりポートを開いて開弁状態となるいわゆる常開タイプ(ノーマリオープンタイプ)のバルブによって構成されている。これに対して排圧用電磁弁SLS2は、通電されることによりポートを開いて開弁状態となり、また通電が遮断されることによりポートを閉じて閉弁状態となるいわゆる常閉タイプ(ノーマリクローズタイプ)のバルブによって構成されている。これは、通電が遮断された場合であっても、油圧室16に油圧を閉じ込んで所定の変速比および伝達トルク容量を確保するためである。
【0036】
さらに、クラッチC1およびブレーキB1に前記電動オイルポンプ27あるいはアキュムレータ28から油圧を供給する油路35に供給用電磁弁SLC1が設けられており、その供給用電磁弁SLC1により油路35を開閉してクラッチC1およびブレーキB1における油圧室に対する油圧の供給を選択的に行うようになっている。また、この供給用電磁弁SLC1の出力側(吐出口側)には、クラッチC1およびブレーキB1に対する供給圧を検出して信号を出力する油圧センサ36が設けられている。さらに、供給用電磁弁SLC1から吐出された油圧をクラッチC1とブレーキB1とに切り替えて供給し、また油圧の供給を遮断するマニュアルバルブ37が設けられている。このマニュアルバルブ37は、前述した自動変速機が搭載されている車両の運転席に設けられているシフトレバー(それぞれ図示せず)に連動するバルブであって、シフトレバーをドライブポジションやマニュアルポジションなどの前進走行ポジションに設定することによりクラッチC1に油圧を供給するように切り替わり、またリバースポジションに設定することにより、クラッチC1に替えて、ブレーキB1に油圧を供給するように切り替わるバルブである。
【0037】
このマニュアルバルブ37の入力ポート(油路36が連通されているポート)側に排圧用電磁弁SLC2が接続されている。この排圧用電磁弁SLC2は、マニュアルバルブ37によって油路35に連通されているクラッチC1もしくはブレーキB1からドレイン箇所に排圧するためのバルブである。
【0038】
これらの供給用電磁弁SLC1および排圧用電磁弁SLC2は、電気的に制御されてポートを開閉するバルブであって、閉弁状態では油圧の漏れを殆ど生じさせることなくポートを閉じるいわゆるポペットタイプのバルブによって構成されている。また、供給用電磁弁SLC1は、通電されることによりポートを閉じて閉弁状態となり、また通電が遮断されることによりポートを開いて開弁状態となるいわゆる常開タイプ(ノーマリオープンタイプ)のバルブによって構成されている。これに対して排圧用電磁弁SLC2は、通電されることによりポートを開いて開弁状態となり、また通電が遮断されることによりポートを閉じて閉弁状態となるいわゆる常閉タイプ(ノーマリクローズタイプ)のバルブによって構成されている。これは、通電が遮断された場合であっても、クラッチC1あるいはブレーキB1に油圧を閉じ込んで所定の伝達トルク容量を確保するためである。
【0039】
つぎに、上記の自動変速機および油圧制御装置23の基本的な作用について説明する。メインスイッチやプッシュボタン式のエンジンスイッチ(それぞれ図示せず)などがオン操作されてエンジン1が駆動されていると、エンジン1が出力したトルクがトルクコンバータ2を介して前後進切替機構4に伝達される。一方、シフトレバーによってニュートラルポジションが選択されていると、クラッチC1およびブレーキB1のいずれにも油圧が供給されないので、これらが解放状態になり、無段変速機11や駆動輪にトルクが伝達されない。これに対して前進走行ポジションが選択されている場合には、マニュアルバルブ37によってクラッチC1が油路35に連通させられる。この状態で、電動オイルポンプ27で発生させられた油圧もしくはアキュムレータ28の油圧が供給用電磁弁SLC1によって調圧されてクラッチC1に供給され、これが係合する。すなわち前進状態となる。なお、クラッチC1の油圧が目標油圧より高い場合には、排圧用電磁弁SLC2が開かれてその油圧が低下させられる。このようなクラッチC1についての油圧の制御は、後進状態が選択されている場合には、ブレーキB1の油圧について同様に実行される。
【0040】
一方、変速比は、車速やアクセル開度などに基づいて目標変速比が求められており、その目標変速比を達成するように、プライマリプーリ12における油圧室15の油圧が制御される。すなわち、供給用電磁弁SLP1が開制御されて電動オイルポンプ27もしくはアキュムレータ28からプライマリプーリ12における油圧室15に油圧が供給され、あるいは排圧用電磁弁SLP2が開制御されてプライマリプーリ12における油圧室15から排圧されて目標変速比が達成される。その変速比制御は、プライマリプーリ12とセカンダリプーリ13との回転数などに基づいて実変速比を求め、その実変速比と目標変速比との偏差に基づくフィードバック制御によって実行することができる。
【0041】
また、無段変速機11における伝達トルク容量はアクセル開度に応じた駆動トルクを伝達できる容量に設定され、これは、アクセル開度もしくはエンジン1のスロットル開度に基づいて目標挟圧力を求め、セカンダリプーリ13における油圧室16の油圧がその目標挟圧力に相当する油圧となるように供給用電磁弁SLS1と排圧用電磁弁SLS2とを制御することにより行われる。すなわち、伝達トルク容量を増大させる場合には、供給用電磁弁SLS1が開制御されて電動オイルポンプ27もしくはアキュムレータ28からセカンダリプーリ13における油圧室16に油圧が供給され、また反対にその油圧室16の油圧が高すぎる場合には、排圧用電磁弁SLS2が開制御されてセカンダリプーリ13における油圧室16から排圧されて挟圧力が低下させられる。
【0042】
なお、無段変速機11は入力されたトルクの全てを伝達するから、各油圧室15,16の油圧は、そのトルクに応じた高い圧力に設定される。これに対して、前述したクラッチC1やブレーキB1は、エンジン1から駆動輪に伝達するべきトルクの全てを受け持つものではないから、その伝達トルク容量あるいは油圧は、無段変速機11における油圧より低くてよい。
【0043】
ところで、供給用の各電磁弁SLP1,SLS1,SLC1は前述したように、いわゆる常開タイプのバルブであるから、通電することに閉弁状態になり、したがって油圧の供給はこれらの電磁弁SLP1,SLS1,SLC1に通電することにより行われる。これに対して排圧用の各電磁弁SLP2,SLS2,SLC2はいわゆる常閉タイプのバルブであるから、通電することにより開弁状態になり、したがって排圧はこれらの電磁弁SLP2,SLS2,SLC2に通電することにより行われる。各電磁弁SLP1,SLS1,SLC1,SLP2,SLS2,SLC2をこのような構成および組合せとしているのは、断線や電子制御装置24のフェイルなどによって通電できない事態が生じた場合、アキュムレータ28の油圧を無段変速機11やクラッチC1あるいはブレーキB1に供給して少なくともリンプホーム走行を可能にするためである。具体的に説明すると、通電できない状態になって供給用の各電磁弁SLP1,SLS1,SLC1がいわゆるオフ状態になると、これらの電磁弁SLP1,SLS1,SLC1が開弁状態になり、また排圧用の各電磁弁SLP2,SLS2,SLC2は通電されないことにより閉弁状態になる。そのため、無段変速機11の各油圧室15,16やクラッチC1もしくはブレーキB1の油圧室に油圧が閉じ込められ、所定の伝達トルク容量あるいは変速比が維持される。
【0044】
この発明に係る油圧制御装置は、車両のメインスイッチやエンジンスイッチをオフ操作するなど、人為的に通電を止める場合には、各電磁弁SLP1,SLS1,SLC1,SLP2,SLS2,SLC2をオフにするのに先立って、以下の制御を実行するように構成されている。図1はその制御の一例を説明するためのフローチャートであって、このルーチンは所定の短い時間毎に繰り返し実行される。先ず、ドライバによるエンジン1の停止指示があったか否かが判断される(ステップS1)。これは、車両に設けられているキースイッチやプッシュ式のエンジンスイッチがオフ操作されることにより出力される信号に基づいて判断すればよい。このステップS1で否定的に判断された場合には、特に制御を行うことなくリターンし、図1のルーチンを一旦終了する。
【0045】
これとは反対に通電を停止することになるエンジン停止指示があってステップS1で肯定的に判断された場合には、先ず、セカンダリプーリ13についての供給用電磁弁(SOL)SLS1および排圧用電磁弁(SOL)SLS2が開弁状態に制御される(ステップS2)。その供給用電磁弁SLS1はいわゆる常開タイプのバルブであるから、通電が遮断され、これに対して排圧用電磁弁SLS2はいわゆる常閉タイプのバルブであるから、この排圧用電磁弁SLS2に対する通電が継続される。したがって、アキュムレータ28はこれらの電磁弁SLS1,SLS2を介してドレイン箇所に連通され、アキュムレータ28から油圧が排出される。また、このような制御と併せて、プライマリプーリ12についての供給用電磁弁SLP1およびクラッチC1あるいはブレーキB1についての供給用電磁弁(SOL)SLC1が閉弁状態に制御され、またそれぞれの排圧用電磁弁(SOL)SLS2,SLC2が開弁状態に制御される。エンジン1を停止する操作は、車両が停止している状態で行われるのが通常であるから、プライマリプーリ12における油圧室15から排圧して変速比を最も大きい発進用の変速比に設定し、また駆動輪にトルクが駆動トルクが現れないように、クラッチC1あるいはブレーキB1を解放してニュートラル状態を設定することとしたのである。
【0046】
ステップS2の制御が実行されることによりアキュムレータ28の油圧が低下するので、その油圧が予め定めた圧力以下になったか否かが判断される(ステップS3)。その判断の基準となる圧力は、アキュムレータ28の油圧がクラッチC1などのいわゆる低圧系統で許容される圧力、例えば油圧センサ36に異常が生じない程度の圧力であり、部品の仕様や耐久試験などに基づいて予め定めることができる。また、アキュムレータ28の油圧の判断は前述した油圧センサ29で検出した圧力に基づいて行うことができる。アキュムレータ28の油圧が未だ高いことによりステップS3で否定的に判断された場合には、前述したステップS2の制御が継続される。これに対してアキュムレータ28の油圧が十分低下してステップS3で肯定的に判断された場合には、エンジン1が停止させられ、また各電磁弁SLP1,SLS1,SLC1,SLP2,SLS2,SLC2に対する通電が止められる(ステップS4)。
【0047】
したがって、各供給用の電磁弁SLP1,SLS1,SLC1は開弁状態になり、また排圧用の各電磁弁SLP2,SLS2,SLC2は閉弁状態になる。すなわち、無段変速機11の各油圧室15,16やクラッチC1もしくはブレーキB1にアキュムレータ28の油圧が供給されて閉じ込められる。しかしながら、その油圧は十分低下しているので、各油圧室での圧力が過度に高くなることはなく、その耐久性が損なわれるなどの事態は生じない。例えばプライマリプーリ12における油圧室15に供給される油圧は十分低いので、回転していない状態でアップシフトさせる作用が生じることがなく、プーリ12,13とベルト14との間の滑りやそれに起因する摩耗などを回避できる。また、低圧系統においては、過度に高い油圧が作用することがないので、油路35や油圧センサ36の損傷などを未然に回避することができる。なお、走行中に断線などによって通電が止まった場合には、高い油圧が無段変速機11の油圧室15,16やクラッチC1あるいはブレーキB1に閉じ込められるので、変速比や伝達トルク容量を確保していわゆるリンプホーム走行が可能になる。
【0048】
なお、アキュムレータ28に蓄えられている油圧は、無段変速機11で必要とする油圧であってかなり高圧の場合があり、したがってセカンダリプーリ13についての排圧用電磁弁SLS2を開いた場合に油撃が生じる可能性が考えられる。そのような油撃を抑制するためには例えば図2に示す制御を実行するように構成すればよい。図2に示す制御例は、前述した図1に示す制御において、セカンダリプーリ13についての供給用電磁弁SLS1の開制御を徐々に行うように構成した例であり、具体的には前述したステップS2の制御に続けて、セカンダリプーリ13についての供給用電磁弁SLS1を徐々に開く制御(ステップS2−1)が実行される。図2に示すルーチンで他のステップは図1にルーチンと同様であるから、図2に図1と同様のステップ番号を付してその説明を省略する。したがって、図2に示す制御を実行するように構成されていれば、セカンダリプーリ13についての供給用電磁弁SLS1が開いてアキュムレータ28の油圧がセカンダリプーリ13における油圧室16に作用するとしても、その油圧は徐々に上昇するので、油撃が生じることを防止でき、あるいは油撃を緩和することができる。
【0049】
なお、上述した制御は、運転者が通電を止める操作を行ったことにより実行されるから、車両は停止していて無段変速機11では最も低車速側の変速比(最も大きい変速比)が設定されている。したがって、プライマリプーリ12における可動シーブは限界位置まで移動して固定シーブから離れていて、その移動は可動シーブがプーリ軸などの構成要素に引っ掛かって阻止されており、したがってその可動シーブを更に後退させる方向に荷重が生じるとしても、その荷重は機械的な構成要素によって受け止められる。同様に、セカンダリプーリ13における可動シーブは固定シーブに最も接近していて固定シーブあるいはプーリ軸に接近方向の荷重が受け止められており、したがってベルト14に過度に挟圧力が作用することはない。
【0050】
以上、この発明の具体例を説明したが、この発明は上記の具体例に限定されないのであって、ベルト式無段変速機以外の自動変速機を対象とする油圧制御装置に適用することができ、この発明は、要は、油圧源としてのアキュムレータの油圧を、通電を止めていわゆる閉じ込み制御するにあたり、供給用および排圧用の電磁弁を上述したように開閉制御してアキュムレータの油圧を低下させた後に閉じ込み状態に制御するように構成されていればよい。また、ベルト式無段変速機を対象とする場合、変速比を設定するプーリは駆動側に替えて従動側のプーリとし、挟圧力を設定するプーリを駆動側のプーリとしてもよい。
【符号の説明】
【0051】
4…前後進切替機構、 C1…クラッチ、 B1…ブレーキ、 11…ベルト式無段変速機、 12,13…プーリ、 14…ベルト、 15,16…油圧室(アクチュエータ)、 23…油圧制御装置、 24…電子制御装置、 28…アキュムレータ、 29,32,34,36…油圧センサ、 30,31,33,35…油路、 SLP1,SLS1,SLC1…供給用電磁弁、 SLP2,SLS2,SLC2…排圧用電磁弁。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アキュムレータを含む油圧源から油圧が供給されて変速比および伝達トルク容量が設定される自動変速機の油圧制御装置において、
供給される油圧に応じて変速比もしくは伝達トルク容量を設定するアクチュエータと、
前記アキュムレータから前記アクチュエータに対して供給される油圧を制御し、かつ通電が止められることにより開弁状態となる常開タイプの供給用電磁弁と、
前記アクチュエータから油圧を排出することによりそのアクチュエータの油圧を制御し、かつ通電が止められることにより閉弁状態となる常閉タイプの排圧用電磁弁と、
前記供給用電磁弁および排圧用電磁弁に対する通電を止める操作が実行された場合に、これら供給用電磁弁および排圧用電磁弁を開状態に制御する排圧制御手段と、
その排圧制御手段によって前記供給用電磁弁および排圧用電磁弁が開状態に制御されて前記アキュムレータの油圧が予め定めた圧力に低下したことに基づいて前記排圧用電磁弁を閉じる閉じ込み制御手段と
を備えていることを特徴とする自動変速機の油圧制御装置。
【請求項2】
前記自動変速機は、前記アキュムレータから油圧が供給される第1アクチュエータを有するとともにその第1アクチュエータに供給される油圧に応じて溝幅を変更する第1プーリと、前記アキュムレータから油圧が供給される第2アクチュエータを有するとともにその第2アクチュエータに供給される油圧に応じてベルト挟圧力を生じる第2プーリと、これら第1プーリと第2プーリとに巻き掛けられてトルクを伝達するベルトとを備えたベルト式無段変速機を含み、
前記供給用電磁弁は、前記第2アクチュエータと前記アキュムレータとの間に配置された第2供給用電磁弁を含み、
前記排圧用電磁弁は、前記第2アクチュエータの油圧をドレイン箇所に排出させる第2排圧用電磁弁を含み、
さらに前記第1アクチュエータと前記アキュムレータとの間に配置された第1供給用電磁弁と、前記第1アクチュエータの油圧をドレイン箇所に排出させる第1排圧用電磁弁とを備え、
前記排圧制御手段は、前記各電磁弁に対する通電を止める操作が実行された場合に、前記第1供給用電磁弁を閉状態に制御し、かつ第2供給用電磁弁および第1排圧用電磁弁ならびに第2排圧用電磁弁を開状態に制御する手段を含み、
前記閉じ込み制御手段は、第1排圧用電磁弁および第2排圧用電磁弁を閉状態に制御することに加えて、前記第1供給用電磁弁を開状態に制御する手段を含む
ことを特徴とする請求項1に記載の自動変速機の油圧制御装置。
【請求項3】
前記アクチュエータは、相対的に高い油圧に制御されて動作する高圧側アクチュエータと、相対的に低い油圧に制御されて動作する低圧側アクチュエータとを含み、
前記予め定めた圧力は、前記低圧側アクチュエータに供給可能な油圧に基づいて設定されている圧力である
ことを特徴とする請求項1に記載の自動変速機の油圧制御装置。
【請求項4】
前記自動変速機は、前記ベルト式無段変速機よりも低い油圧で係合してトルクを伝達する摩擦係合装置と、その前記摩擦係合装置に設けられている第3アクチュエータとを更に備え、
前記供給用電磁弁は、前記第3アクチュエータと前記アキュムレータとの間に設けられた第3供給用電磁弁を更に含み、
前記排圧用電磁弁は、前記第3アクチュエータの油圧を前記ドレイン箇所に排出する第3排圧用電磁弁を更に含み、
前記排圧制御手段は、前記各電磁弁に対する通電を止める操作が実行された場合に、前記第1供給用電磁弁を閉状態に制御し、かつ第2供給用電磁弁および第1排圧用電磁弁ならびに第2排圧用電磁弁に加えて前記第3排圧用電磁弁を開状態に制御する手段を含み、
前記閉じ込み制御手段は、第1排圧用電磁弁および第2排圧用電磁弁に加えて第3排圧用電磁弁を閉状態に制御するとともに前記第1供給用電磁弁を開状態に制御する前記手段を含む
ことを特徴とする請求項2に記載の自動変速機の油圧制御装置。
【請求項5】
前記予め定めた圧力は、前記第3アクチュエータに供給可能な油圧に基づいて設定されている圧力であることを特徴とする請求項4に記載の自動変速機の油圧制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−102848(P2012−102848A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−253952(P2010−253952)
【出願日】平成22年11月12日(2010.11.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】