説明

自動車の下部構造

【課題】本発明は、フロアパネルの傾斜面部にシートベルトアンカ等を取付ける自動車の下部構造において、車体重量の増加を招くことなく、車両衝突時等における、フロアパネルとサイドフレームの間の剥離を抑制できる自動車の下部構造を提供することを目的とする。
【解決手段】隆起段部14の、車両前後方向略中央位置には、稜線30に対応するように、車幅方向内方側に膨出する膨出部14aを形成している。また、この膨出部14aの内側壁面には、稜線30を車両前後方向に「略Y字状」に分岐する傾斜補強面部42を形成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車の下部構造に関し、特に、フロアパネルの傾斜面部にシートベルトアンカを取付ける自動車の下部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車後部の下部で車両前後方向に延びる左右一対のサイドフレームにおいては、サスペンションクロスメンバー等を車体下部に配置する関係で、車両後方側を上方にキックアップさせる(略クランク状に折り曲げてフレームの上下位置を前後でオフセットさせる)キックアップ部を形成することが知られている。
【0003】
ところが、こうしたキックアップ部を形成した場合、サイドフレームに後突荷重が入力されると、キックアップ部に応力が集中して、サイドフレームに折れ曲がり変形が生じ易くなるといった問題がある。
【0004】
そこで、サイドフレームのキックアップ部の傾斜角度ができるだけ緩やかになるように、サイドフレームの傾斜角をできるだけ小さく設定し、これに応じてサイドフレームに接合されるフロアパネルも徐々に上方に傾斜されるのが一般である。
【0005】
一方、フロアパネルの上方には、シートを設置することが知られており、特に、リアシートのシートクッションを、サイドフレームのキックアップ部の車幅方向内方側に設置することが知られている。
【0006】
ここで、シートにおいては、シートクッションの厚みを厚くして座り心地を高めることが求められるため、リアシートのシートクッションにおいても、同様に厚みを確保することが求められる。
【0007】
そこで、サイドフレームのキックアップ部の車幅方向内方側のフロアパネルに、車室フロア面から可及的に車両後方側に延びる水平面部と、その後端からサイドフレームの傾斜角よりも大きな傾斜角で傾斜する傾斜面部とを形成し、その間に、車幅方向に延びる稜線を形成して、シートクッションの設置空間を確保することが知られている。
【0008】
このため、フロアパネルには、車幅方向側部に、車両後方側に向うに従いサイドフレームに沿って上方に隆起する隆起段部が形成され、その車幅方向内方位置には、相対的に窪むような形で水平面部と傾斜面部とが形成されることになる。
【0009】
ところで、このフロアパネルの傾斜面部には、シートベルト装置のシートベルトアンカ等を取付けることが知られている。
【0010】
例えば、下記特許文献1や特許文献2には、リアシートの後方に位置するフロアパネルの傾斜面部に、シートベルトアンカや、チャイルドシートの固定フックなどを取付ける構造が開示されている。
【特許文献1】特開平10−147210号公報
【特許文献2】特開2004−268810号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
もっとも、フロアパネルの傾斜面部に、シートベルトアンカやチャイルドシートの固定フックを取付けた場合には、車両衝突時に、乗員を拘束するシートベルト装置やチャイルドシートから、この傾斜面部に車両前方側への引っ張り荷重が作用することになる。
【0012】
このように、傾斜面部が車両前方側への引っ張り荷重を受けると、フロアパネルの傾斜面部に、車両前方側に移動するような挙動が生じ、それに伴い傾斜面部と水平面部の間で車幅方向に延びる稜線に、車両前方側斜め上方に変位するような動きが生じる。このため、この稜線の車幅方向側端部に位置する隆起段部でフロアパネル下面に接合されるサイドフレームと、フロアパネルの間で「剥離」が生じるおそれがある。
【0013】
このサイドフレームとフロアパネルとの間の「剥離」を回避するためには、フロアパネルの板厚を厚くして、剛性を高めることで稜線に変形が生じないようすることが考えられるが、フロアパネルの板厚を厚くすると、車体重量の増加を招くといった弊害が生じる。また、稜線部分にレインフォースメントを設けて、稜線に変形が生じないようにすることも考えられるが、この場合も車体重量の増加を招くといった弊害が生じる。
【0014】
そこで、本発明は、フロアパネルの傾斜面部にシートベルトアンカ等を取付ける自動車の下部構造において、車体重量の増加を招くことなく、車両衝突時等における、フロアパネルとサイドフレームの間の剥離を抑制できる自動車の下部構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この発明の自動車の下部構造は、シートのシートクッションが設置される水平面部と、該水平面部の後端から斜め上方に延びてシートベルトアンカが取付けられる傾斜面部とを有するフロアパネルと、該フロアパネルの車幅方向側部の下面に接合されて、車両後方側が上方にキックアップする車両前後方向に延びるサイドフレームとを備え、前記フロアパネルのサイドフレームが接合される部分に、車両後方側に向うに従い該サイドフレームに沿って上方に隆起する隆起段部を形成し、該隆起段部に、前記水平面部と傾斜面部との間に形成される車幅方向に延びる稜線位置で、車幅方向内方側に膨出する膨出部を形成したものである。
【0016】
上記構成によれば、フロアパネルの隆起段部に車幅方向内方側に膨出する膨出部を形成したことにより、車両衝突時に傾斜面部が車両前方側へ引っ張られることによって発生する、稜線に作用する荷重が、膨出部によって、サイドフレームから車幅方向内方側に離間した位置で、車両前後方向に分散されて、車幅方向外方側に伝達されることになる。
このため、サイドフレームのキックアップ部に荷重が集中するのを抑制し、サイドフレームとフロアパネルとの間の接合部分に応力集中するのを緩和して、接合部分が剥離するのを防止できる。
【0017】
なお、隆起段部の「膨出部」の内側壁面を構成する「傾斜補強面部」の面形状は、特に限定されるものではなく、菱形、三角形、四角形又は台形形状であってもよい。
【0018】
また、隆起段部の「膨出部」の下端辺で、車幅方向に延びる稜線を前後に分岐する形状は、Y字状や、地図記号の消防署マーク等、前後に分岐する形状であれば、どのような形状であってもよい。
【0019】
この発明の一実施態様においては、前記隆起段部の膨出部と前記水平面部との間に車両斜め前方側に延びる前部稜線を形成し、隆起段部の膨出部と前記傾斜面部との間に車両斜め後方側に延びる後部稜線を形成し、該後部稜線の長さよりも、前記前部稜線の長さの方を長く設定したものである。
上記構成によれば、隆起段部の膨出部で前後に分岐した稜線の長さを、前部稜線の方を長くすることで、車両衝突時に発生する稜線に作用する荷重を車両前方側のパネル部、すなわちフロアパネルの水平面部側に多く伝達することができる。
このため、一般に傾斜面部より広く形成される水平面部側に、稜線に作用する荷重を多く分散することができ、より広い範囲に荷重を分散することができる。
よって、より大きな荷重が稜線に作用したとしても、フロアパネルとサイドフレームとの間の剥離を確実に防止することができる。
【0020】
この発明の一実施態様においては、前記フロアパネルの傾斜面部に設けたシートベルトアンカ取付け部と前記隆起段部の膨出部との間に、前記水平面部と前記傾斜面部とに跨って車両前後方向に延びる縦ビードを設けたものである。
上記構成によれば、水平面部と傾斜面部とに跨って縦ビードを設けたことにより、車両衝突時に傾斜面部が引っ張られることにより水平面部と傾斜面部との間の稜線に生じる前方斜め上方側への変形を、縦ビードによって抑制することができる。
このため、稜線の変形を抑えて隆起段部の膨出部に作用する荷重を抑えることができ、隆起段部の膨出部の機能をさらに高めることができる。
よって、より大きな荷重が稜線に作用したとしても、フロアパネルとサイドフレームとの間の剥離を防止することができる。
【0021】
この発明の一実施態様においては、前記フロアパネルのシートベルトアンカ取付け部と隆起段部の膨出部との間の傾斜面部に、突出した曲面部を形成したものである。
上記構成によれば、傾斜面部に突出した曲面部を形成することにより、傾斜面部自体のパネル剛性を向上することができる。
このため、傾斜面部の剛性が高まり、傾斜面部の変形が抑えられ、稜線に生じる前方斜め上方側への変形を抑えることができる。また、傾斜面部のパネル剛性を高めることで車体パネルのパネル振動による放射音も抑制することができる。
よって、フロアパネルとサイドフレームとの間の剥離を防止する共に、車室内騒音も低減することができる。
【0022】
この発明の一実施態様においては、前記フロアパネルの傾斜面部の下部に前記縦ビードを車幅方向に複数形成し、該傾斜面部のシートベルトアンカ取付け部に車両前後方向に延びるレインフォースメントを設置して、該傾斜面部の上部に車幅方向に延びるクロスメンバーを設置し、該傾斜面部の側部に前記サイドフレームを設置する共に、該傾斜面部の下部側部に前記隆起段部の膨出部を設定することで、該傾斜面部に区画されたパネル面を構成し、該区画されたパネル面の中央に前記曲面部を形成し、該曲面部の周囲に制振材を設置したものである。
【0023】
上記構成によれば、フロアパネルの傾斜面部の周囲に、縦ビード、レインフォースメント、クロスメンバー、サイドフレーム、さらには、隆起段部の膨出部という剛性部を設けることによって区画されたパネル面を構成して、このパネル面の中央に曲面部を形成することで、パネル面に高剛性部と低剛性部を形成することになる。
このうち、低剛性部である曲面部の周囲に制振材を設置することで、低剛性部に集中するパネル面の振動を、少ない制振材で効果的に抑えて、パネル振動による放射音を抑制することができる。
よって、パネル剛性を高めることで、傾斜面部自体の変形を抑制しつつも、制振材の効率的な使用によって放射音の抑制効果も得ることができる。
【発明の効果】
【0024】
この発明によれば、フロアパネルの隆起段部に膨出部を形成することで、サイドフレームのキックアップ部に荷重が集中するのを抑制し、サイドフレームとフロアパネルとの間の接合部分に応力集中するのを緩和して、接合部分が剥離するのを防止できる。
よって、フロアパネルの傾斜面部にシートベルトアンカ等を取付ける自動車の下部構造において、車体重量の増加を招くことなく、車両衝突時等における、フロアパネルとサイドフレームの間の剥離を抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を詳述する。
まず、図1〜図9により、本発明の第一実施形態について説明する。図1は自動車の下部構造のフロアパネルを示した全体斜視図、図2はフロアパネルの平面図、図3は要部詳細斜視図、図4は要部詳細平面図、図5〜図9は、図4のA−A線,B−B線,C−C線,D−D線、及びE−E線の各矢視断面図である。
【0026】
図1及び図2に示すように、本実施形態の自動車の下部構造は、車両後部で車両前後方向及び車幅方向に延びるフロアパネル1と、そのフロアパネルの両側部で車両前後方向に延びる左右一対のサイドシル2,2(図1ではサイドシルインナのみ図示)と、フロアパネル1上面で車幅方向に延びてサイドシルの後部を連結する第一クロスメンバー3と、フロアパネル1下面で車両前後方向に延びてサイドシル後部の車幅方向内側に連結された左右一対のサイドフレーム4,4と、フロアパネル1下面で車幅方向に延びてサイドフレーム4,4の中間部を連結する第二クロスメンバー5とを備える。
なお、車両後部のフロアパネル1上には、サスペンション支持剛性を高めるサス補強ブラケット6,6を設置している。
【0027】
前述のフロアパネル1は、車両前方側から順に、車室フロア面を構成する水平面部11と、その後端から上方に傾斜して延びる傾斜面部12と、その後端からさらに後方に延びて荷室フロア面を構成する後部水平面部13とを有し、さらに、水平面部11と傾斜面部12の車幅方向両側端部には、サイドフレームの4,4のキックアップ部4a(図6参照)に対応して、後上がりになだらかに傾斜した隆起段部14,14を有している。
【0028】
このうち、まず、水平面部11は、上方にリアシートのシートクッションS(図8参照)を設置するために、車幅方向に広がる略平坦面で構成している。この水平面部11の中央には、下方に設置した燃料タンクT(図5参照)の装備品を貫通させるための貫通穴Zを形成している。
【0029】
また、後部水平面部13は、水平面部11より一段高い位置で車幅方向に広がる略平坦面で構成している。そして、その車幅方向中央にはスペアタイヤ(図示せず)を収容するスペアタイヤパン15を凹設している。この後部水平面部13の下方には、サスペンションクロスメンバー(図示せず)を設置している。
【0030】
一方、傾斜面部12は、上方に立ち上がる車幅方向に広がる傾斜面で構成している。この傾斜面部12で前述の水平面部11と後部水平面部13を連続するように形成している。
傾斜面部12の車幅方向左右両側には、それぞれシートベルト装置のシートベルトアンカ21,22を、上下二つずつ取付けている。このシートベルトアンカ21、22は、図示しないシートベルト装置のバックル等にウェビングW(ベルト)(図8参照)を介して連結されており、車両衝突時には、乗員の荷重を支持する。このため、この傾斜面部12には、シートベルトアンカ21,22から車両前方側への大きな引っ張り荷重が作用することになる。
【0031】
また、傾斜面部12の図面右側のシートベルトアンカ21の上方には、チャイルドシート(図示せず)を固定するチャイルドシート固定フック23とフック取付けブラケット24を取付けている。チャイルドシート固定フック23も、リアシートに設置されるチャイルドシートの差込金具V(図8参照)を係止するように構成している。このため、傾斜面部12には、このチャイルドシート固定フック23からも車両前方側への引っ張り荷重が作用することになる。
【0032】
傾斜面部12の側部には、車室内方側(上方側)に突出するように湾曲した円形の曲面部16,16を左右それぞれに形成している(図7参照)。この曲面部16を形成することにより、傾斜面部12自体の剛性を高めている。また、曲面部16を形成することにより傾斜面部12の面剛性も高まるため、車体振動に対して振動しにくくなり、放射音の発生を抑制することができる。
【0033】
また、図2に示すように、フロアパネル1下面の車幅方向中央には、水平面部11の後端、傾斜面部12、それに後部水平面部13の前端に跨って、アンカレインパネル7を貼着している。このように、アンカレインパネル7をフロアパネル1下面に貼着することによって、傾斜面部12におけるシートベルトアンカ21,22の取付け位置の剛性を高めるともに、シートベルトアンカ21,22等から作用する荷重を第二クロスメンバー5に分散伝達できる。
【0034】
前述の傾斜面部12と水平面部11との間には、車幅方向に延びる稜線30を形成している。
この稜線30の車幅方向両側部には、水平面部11と傾斜面部12を跨ぐように車両前後方向に延びる縦ビード41を、左右それぞれに3本形成している。この縦ビード41を設けることにより、稜線30側端部の剛性を高めている。
【0035】
また、隆起段部14,14は、サイドフレーム4と共に、車両前後方向に延びるように形成され、前述の傾斜面部12の傾斜角よりも小さく傾斜するように構成している。このため、水平面部11と傾斜面部12が隆起段部14より相対的に窪んだような位置関係をとることになる。
【0036】
これは、隆起段部14では、対応するサイドフレーム4の後突時の折り曲げ変形を抑制するため、傾斜角を小さく設定しているのに対して、水平面部11と傾斜面部12では、リアシートのシートクッションSを厚みを確保するために、できるだけ水平面部11を車両後方側まで延ばし、その後端から上方へ立ち上がるように傾斜面部12を大きく傾斜させているためである。
【0037】
この隆起段部14の、車両前後方向略中央位置には、前記稜線30に対応するように、車幅方向内方側に膨出する膨出部14aを形成している。また、この膨出部14aの内側壁面には、稜線30を車両前後方向に「略Y字状」に分岐する傾斜補強面部42を形成している。
【0038】
この傾斜補強面部42の詳細構造を、図3、図4により説明する。
傾斜補強面部42は、傾斜面部12と水平面部11との間に形成され、上部42aをやや車幅方向外方側に傾斜させた略菱形形状の傾斜面で構成して、この傾斜面によって、車幅方向に延びる稜線30を、斜め前方側に延びる前方稜線31と斜め後方側に延びる後方稜線32とに分岐している。
【0039】
また、この傾斜補強面部42を、車両前方側へ長く形成することで、図4に示すように、前部稜線31の方が、後部稜線32よりも長くなるように設定している。
【0040】
また、隆起段部14の上面には、なだらかに湾曲する湾曲面部43を形成している。この湾曲面部43を形成することで、フロアパネル1の車幅方向端部が、稜線なく連続的に形成される。
【0041】
前述の傾斜補強面部42は、稜線30を分岐する位置では、図6のB−B線矢視断面図に示すように、前述の縦ビード41に隣接した位置に形成される。このような位置に傾斜補強面部42を形成することで、フロアパネル1下面のサイドフレーム4から離れた位置で稜線30を分岐できる。なお、図6で、1aはフロアパネル1の側端部を構成するサイドフロアパネル、8はホイールハウスインナ、Tは燃料タンクである。
【0042】
また、この傾斜補強面部42は、前部稜線31の位置では、図5のA−A線矢視断面図に示すように、縦ビード41からやや離れた位置に形成される。これは、前部稜線31が徐々に車幅方向外方側のサイドフレーム4側に移行することを表している。なお、図5で1aはサイドフロアパネル、2aはサイドシルインナ後部、8はホイールハウスインナ、Tは燃料タンク、9は連結ブラケットである。
【0043】
一方、この傾斜補強面部42は、車両後方側では、図7のC−C線矢視断面図に示すように、ほとんど形成されず(図7では全く形成されてない)、傾斜面部12には前述した曲面部16が形成されている。そして、その傾斜面部12では、そのままフロアパネル1下面にサイドフレーム4を接合している。これは、後部稜線32がほとんど形成されず、傾斜面部12がそのままサイドフレーム側に向うことを表している。なお、図7で、8はホイールハウスインナ、Tは燃料タンク、25はアンカ補強ブラケットである。
【0044】
このように、膨出部14aの傾斜補強面部42が水平面部11と傾斜面部12との間の稜線30を遮るようにして、稜線をY字状に分岐することにより、車幅方向に延びる稜線30がそのままサイドフレーム4側に延びないようにしている。
【0045】
また、傾斜補強面部42の傾斜角度は、図5、図6に示すように、稜線30を分岐する位置の傾斜角α1の方が、前部稜線31の位置の傾斜角α2よりも僅かに大きく、やや急な傾斜面となっている。これにより、稜線30を分岐する位置においては、稜線30からの荷重がよりサイドフレーム4側に伝達し難いようになっている。
【0046】
図8に、D−D線矢視断面図を示す。前述のシートベルトアンカ21とフック取付けブラケット24は、締結具26である締結ボルト26aと溶接ナット26bによって、フロアパネル1とアンカレインパネル7に共締め固定され、傾斜面部12に対して強固に締結固定している。また、フック取付けブラケット24についてはフロアパネル1に溶接固定され、より強固に傾斜面部12に固定されている。なお、図8ではSはリアシートのクッション、Vはチャイルドシートから延びる差込金具、Wはシートベルト装置のウェビング、Tは燃料タンクである。
【0047】
図9に、E―E線矢視断面図を示す。前述の縦ビード41は、上方側に突出するように形成しており、傾斜面部12と水平面部11に跨るように形成している。このように縦ビード41を設けることで、傾斜面部12と水平面部11の間の稜線30の剛性を高めることができる。
【0048】
また、これらの図9及び図8に示すように、フロアパネル1下面には前述の第二クロスメンバー5を接合している。この第二クロスメンバー5は断面略ハット状に形成されており、フロアパネル1との間で車幅方向に延びる閉断面を構成して、車体剛性を高めている。特に、図8に示すように、アンカレインパネル7に第二クロスメンバー5を接合していることにより、第二クロスメンバー5で傾斜面部12の荷重を受けることができる。
【0049】
次に、この実施形態の車両衝突時の挙動について説明する。
図8に示すように、フロアパネル1の傾斜面部12には、シートベルトアンカ21,22や、フック取付けブラケット24を強固に取付けているため、前述したように、車両衝突時においては、傾斜面部12にシートベルト装置やチャイルドシートから車両前方側への引っ張り荷重(矢印参照)が作用する。これにより、傾斜面部12には、車両前方に変位するような挙動が生じる。
【0050】
この挙動に伴って、図4に示すように、水平面部11と傾斜面部12の間の稜線30には、前方斜め上方側に変位するような挙動が生じ、その変形挙動による荷重が車幅方向に延びる稜線30を伝って、車幅方向端部に伝達されることになる(矢印参照)。
【0051】
このとき、隆起段部14の膨出部14aに傾斜補強面部42を設けていることから、稜線30に作用する荷重が、前部稜線31と後部稜線32に分散されて、車幅方向外方側に伝達されることになり、直接サイドフレーム4に荷重伝達されることがない。
【0052】
よって、サイドフレーム4とフロアパネル1との間の接合部分に応力が集中することが抑制でき、両者の間で「剥離」が生じるのを防ぐことができる。
【0053】
また、この傾斜補強面部42は、前部稜線31を長く形成しているため、この車両衝突の際に作用する荷重を、車両前方側の水平面部11側に多く伝達することができ、その荷重分散を水平面部11側で行なうことができる。
【0054】
また、傾斜補強面部42の近傍には、縦ビード41を3本形成しているため、傾斜補強面部42に作用する荷重を軽減することができる。
【0055】
さらに、傾斜補強面部42の近傍の傾斜面部12には、円形の曲面部16を設けているため、傾斜面部12自体の剛性も高めることができ、車両衝突によって引っ張り荷重が生じたとしても、傾斜面部12に変形が生じないようにすることができる。
【0056】
こうした、複数の構成要素の働きにより、車両衝突時に生じるおそれのあるフロアパネル1とサイドフレーム4との間の「剥離」を防止することができる。
【0057】
また、傾斜面部12に円形の曲面部16を設けたことで、傾斜面部12のパネル剛性も高まるため、車両走行時等におけるフロアパネル1のパネル振動を抑制することもできる。
【0058】
次に、本実施形態の作用効果について、詳述する。
この実施形態の自動車の下部構造は、リアシートのシートクッションSが設置される水平面部11と、その水平面部11の後端から斜め上方に延びてシートベルトアンカ21,22が取付けられる傾斜面部12とを有するフロアパネル1と、そのフロアパネル1の車幅方向側部の下面に接合されて、車両後方側が上方にキックアップする車両前後方向に延びるサイドフレーム4とを備え、そのフロアパネル1のサイドフレーム4が接合される部分に、車両後方側に向うに従いそのサイドフレーム4に沿って上方に隆起する隆起段部14を形成し、その隆起段部14に、水平面部11と傾斜面部12との間に形成される車幅方向に延びる稜線30位置で、車幅方向内方側に膨出する膨出部14aを形成している。
【0059】
これにより、車両衝突時に、傾斜面部12が車両前方側へ引っ張られることによって発生する、水平面部11と傾斜面部12との間の稜線30に作用する荷重が、膨出部14aによって、サイドフレーム4から車幅方向内方側に離間した位置で、車両前後方向に分散されて車幅方向外方側に伝達されることになる。
このため、サイドフレーム4のキックアップ部4a(図6参照)に荷重が集中するのを抑制し、サイドフレーム4とフロアパネル1との間の接合部分(接合フランジ4b)に応力集中するのを緩和して、両者の間の接合部分が剥離するのを防止できる。
【0060】
よって、フロアパネル1の傾斜面部12にシートベルトアンカ21,22等を取付ける自動車の下部構造において、車体重量の増加を招くことなく、車両衝突時等における、フロアパネル1とサイドフレーム4の間の剥離を抑制できる。
【0061】
なお、この実施形態では、傾斜補強面部42の面形状を略菱形形状として構成したが、その他、三角形状、台形形状等で、傾斜補強面部42の面形状を構成してもよい。
【0062】
また、稜線30を前後に分岐する形状も、Y字状に限定されず、地図記号の消防署マーク等、前後に分岐する形状であれば、どのような形状であってもよい。
【0063】
また、この実施形態では、隆起段部14の膨出部14aで、車両前後方向に分岐する稜線30の長さを、車両前方側の前部稜線31の方を車両後方側の後部稜線32に比較して長く形成している。
これにより、車両衝突時に稜線30に作用する荷重を、車両前方側のパネル部、すなわちフロアパネル1の水平面部11側に多く伝達することができる。
このため、傾斜面部12より広く形成される水平面部11側で、稜線30に作用する荷重を分散することができ、より広い範囲で荷重を分散することができる。
よって、より大きな荷重が稜線30に作用したとしても、フロアパネル1とサイドフレーム4との間の剥離を確実に防止することができる。
【0064】
また、この実施形態では、フロアパネル1の傾斜面部12に設けたシートベルトアンカ21,22の取付け位置と隆起段部14の膨出部14aとの間に、水平面部11と傾斜面部12とに跨って車両前後方向に延びる縦ビード41を設けている。
これにより、車両衝突時に傾斜面部12が引っ張られることにより稜線30に生じる前方斜め上方側への変形を、縦ビード41によって抑制することができる。
このため、稜線30の変形を抑えて隆起段部14の膨出部14aに作用する荷重を抑えることができ、隆起段部14の膨出部14aの機能をさらに高めることができる。
よって、より大きな荷重が稜線30に作用したとしても、フロアパネル1とサイドフレーム4との間の剥離を防止することができる。
【0065】
また、この実施形態では、フロアパネル1のシートベルトアンカ21,22の取付け位置と隆起段部14の膨出部14aとの間の傾斜面部12に、車室内方側に突出した曲面部16,16を形成している。
これにより、傾斜面部12自体のパネル剛性を高めることができる。
このため、傾斜面部12の剛性が高まり、傾斜面部12の変形が抑えられ、稜線30に生じる前方斜め上方側への変形を抑えることができる。また、傾斜面部12の面剛性も高まるため、車体パネルのパネル振動による放射音も抑制することができる。
よって、フロアパネル1とサイドフレーム4との間の剥離を防止する共に、車室内騒音も低減することができる。
【0066】
なお、この実施形態では、曲面部16を車室内方側に突出させたが、曲面部16を車室外方側に突出するように構成してもよい。
【0067】
次に、第二実施形態について、図10〜図12により説明する。図10は図4に相当する要部詳細平面図、図11は剛性部よって構成される剛性枠部を説明する平面図、図12は図10のF−F線矢視断面図(a)、E−E線矢視断面図(b)である。前述の実施形態と同様の構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0068】
この実施形態は、図10に示すように、傾斜面部12の曲面部116の周囲に、制振材100を貼り付けることにより、フロアパネル1のパネル振動により発生する放射音を効果的に抑制しようとしたものである。
【0069】
具体的には、図11に示すように、フロアパネル1の傾斜面部12は、その周囲を、車幅方向外方側で車両前後方向に延びるサイドフレーム4と、上部で車幅方向に延びる第二クロスメンバー5と、車幅方向内方側で車両前後方向に延びるアンカレインパネル7と、下部で車幅方向に複数形成した縦ビード41と、稜線30を分岐する隆起段部14の膨出部14aと、いう複数の剛性部によって囲まれる。このため、傾斜面部12が剛性枠部Kで区画された状態となり、一つのパネル領域Pとして構成される。
【0070】
このパネル領域Pに対して、円形の曲面部116を形成することにより、この曲面部116が傾斜面部12の中で剛性が高くなり、他の部分が相対的に剛性が低下するため、パネル領域Pに「高剛性部」と「低剛性部」を形成することができる。
【0071】
エンジン振動や路面振動を起因として車体パネルが振動した場合には、高剛性部においては、振動が生じず、低剛性部に振動が集中するため、本実施形態では、図10に示すように、曲面部116の周囲の「低剛性部」に制振材100、例えば、比重が約1.7、硬度が鉛筆硬度で6B程度のアスファルト系制振材(製品名:ダンピングシート(株式会社ヒロタニ製))を貼着することで、この低剛性部の振動を吸収している。
【0072】
この制振材100は、曲面部116を取り囲むように車室内方側に貼着されており、車幅方向では、図12(a)に示すように、サイドフレーム4と曲面部116の間、曲面部116とアンカレインパネル7及びフック取付けブラケット24の間に、それぞれ貼着されており、車両前後方向では、図12(b)に示すように、縦ビード41と曲面部116の間、曲面部116と第二クロスメンバー5の間に、それぞれ貼着されている。
【0073】
このように、「高剛性部」たる曲面部116に、制振材100を設けずに、「低剛性部」たる周囲のみに制振材100を設置することにより、効果的に少ない制振材100によって、車体パネルの振動を抑え、車室内の放射音の発生を防ぐことができる。
【0074】
以上のように、本実施形態では、傾斜面部12の下部に縦ビード41を車幅方向に複数形成し、傾斜面部12のシートベルトアンカ21取付け位置に車両前後方向に延びるアンカレインパネル7を設置して、傾斜面部12の上部に車幅方向に延びる第二クロスメンバー5を設置し、傾斜面部12の側部にサイドフレーム4を設置する共に、傾斜面部12の下部側部に隆起段部14の膨出部14aを形成することで、傾斜面部12に区画されたパネル面を構成し、その区画されたパネル面の中央に曲面部116を形成し、その曲面部116の周囲に制振材100を設置している。
これにより、区画されたパネル面の中央に曲面部116を形成することで、パネル面に高剛性部と低剛性部を形成し、さらに、この低剛性部である曲面部116の周囲に制振材100を設置することで、低剛性部に集中する車体パネルの振動を、少ない制振材100で効果的に車体パネルの振動を抑えて、パネル振動による放射音を抑制することができる。
よって、パネル剛性を高めることで、傾斜面部12自体の変形を抑制しつつも、制振材100の効率的な使用によって放射音の抑制効果も得ることができる。
【0075】
本実施形態では、傾斜面部12の高剛性部と低剛性部を、円形の曲面部116を形成することで構成したが、その他、略矩形状の曲面部116を設けて高剛性部と低剛性部を形成してもよい。また、制振材100についてもアスファルト系制振材以外の制振材であってもよい。
その他の作用効果については、第一実施形態と同様である。
【0076】
以上、この発明の構成と、前述の実施形態との対応において、
この発明のレインフォースメントは、実施形態のアンカレインパネル7に対応し、
発明のクロスメンバーは、実施形態の第二クロスメンバー5に対応するも、
この発明は、前述の実施形態に限定されるものではなく、あらゆる自動車の下部構造に適用する実施形態を含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】第一実施形態の自動車の下部構造のフロアパネルを示した全体斜視図。
【図2】フロアパネルの平面図。
【図3】要部詳細斜視図。
【図4】要部詳細平面図。
【図5】図4のA−A線矢視断面図。
【図6】図4のB−B線矢視断面図。
【図7】図4のC−C線矢視断面図。
【図8】図4のD−D線矢視断面図。
【図9】図4のE−E線矢視断面図。
【図10】第二実施形態の要部詳細平面図。
【図11】剛性部よって構成される剛性枠部を説明する平面図。
【図12】(a)図10のF−F線矢視断面図、(b)E−E線矢視断面図。
【符号の説明】
【0078】
1…フロアパネル
4…サイドフレーム
5…第二クロスメンバー
7…アンカレインパネル
11…水平面部
12…傾斜面部
14…隆起段部
14a…膨出部
16,116…曲面部
30…稜線
31…前部稜線
32…後部稜線
41…縦ビード
42…傾斜補強面部
100…制振材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートのシートクッションが設置される水平面部と、該水平面部の後端から斜め上方に延びてシートベルトアンカが取付けられる傾斜面部とを有するフロアパネルと、
該フロアパネルの車幅方向側部の下面に接合されて、車両後方側が上方にキックアップする車両前後方向に延びるサイドフレームとを備え、
前記フロアパネルのサイドフレームが接合される部分に、車両後方側に向うに従い該サイドフレームに沿って上方に隆起する隆起段部を形成し、
該隆起段部に、前記水平面部と傾斜面部との間に形成される車幅方向に延びる稜線位置で、車幅方向内方側に膨出する膨出部を形成した
自動車の下部構造。
【請求項2】
前記隆起段部の膨出部と前記水平面部との間に車両斜め前方側に延びる前部稜線を形成し、
隆起段部の膨出部と前記傾斜面部との間に車両斜め後方側に延びる後部稜線を形成し、
該後部稜線の長さよりも、前記前部稜線の長さの方を長く設定した
請求項1記載の自動車の下部構造。
【請求項3】
前記フロアパネルの傾斜面部に設けたシートベルトアンカ取付け部と前記隆起段部の膨出部との間に、前記水平面部と前記傾斜面部とに跨って車両前後方向に延びる縦ビードを設けた
請求項1又は2記載の自動車の下部構造。
【請求項4】
前記フロアパネルのシートベルトアンカ取付け部と前記隆起段部の膨出部との間の傾斜面部に、突出した曲面部を形成した
請求項3記載の自動車の下部構造。
【請求項5】
前記フロアパネルの傾斜面部の下部に前記縦ビードを車幅方向に複数形成し、
該傾斜面部のシートベルトアンカ取付け部に車両前後方向に延びるレインフォースメントを設置して、
該傾斜面部の上部に車幅方向に延びるクロスメンバーを設置し、
該傾斜面部の側部に前記サイドフレームを設置する共に、
該傾斜面部の下部側部に前記隆起段部の膨出部を設定することで、
該傾斜面部に区画されたパネル面を構成し、
該区画されたパネル面の中央に前記曲面部を形成し、
該曲面部の周囲に制振材を設置した
請求項4記載の自動車の下部構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2008−13052(P2008−13052A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−186533(P2006−186533)
【出願日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】