説明

自動車の衝突エネルギー吸収構造

【課題】 他車両との衝突時に衝突エネルギーの吸収効果を高める。
【解決手段】 フロントサイドフレーム12の下方に支持したフロントサブフレーム20に揺動アーム29を上下揺動可能に支持し、他車両との衝突が予知されたときにアクチュエータ16で揺動アーム29を下方に揺動させることで、揺動アーム29の前端に設けたサブバンパービーム30を前輪のアプローチアングルラインLの上方の退避位置から下方の作動位置に移動させる。これにより、衝突が予知されない通常時にはサブバンパービーム30を前記退避位置に保持して路面との接触を回避しながら、衝突が予知された緊急時にはサブバンパービーム30を作動位置に保持し、そのサブバンパービーム30を他車両のバンパービーム41やサイドシルに衝突させることで衝突エネルギーの吸収効果を高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バンパービームの下方にアクチュエータで上下揺動可能なサブバンパービームを備えた自動車の衝突エネルギー吸収構造に関する。
【背景技術】
【0002】
図7に示すように、フロントバンパーのバンパービーム01の位置が高くなるSUV等の車両において、前記バンパービーム01の後下方にアンダープロテクタ02を設けたものが公知である。
【0003】
また大型トラックの後部に上下移動機構により上下動可能な可能なバンパーを設け、地上高センサで検出した地上高に応じてバンパーの高さを調整することで、バンパーが傾斜した路面に接触するのを防止しながら、バンパーの位置をできるだけ低く保って追突車両が自車両の下に潜り込むのを防止するものが、下記特許文献1により公知である。
【特許文献1】特公平2−36420号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、図7に示す従来の車両では、アンダープロテクタ02が傾斜した路面に接触するのを避けるため、その上下方向の位置をある程度高くし、かつバンパービーム01の真下からある程度後方に配置する必要があった。そのため、他車両のバンパービーム03の高さと自車両のアンダープロテクタ02の高さとがほぼ同じになってしまい、正面衝突した場合に他車両のバンパービーム03が自車両のアンダープロテクタ02の下に潜り込み、衝突エネルギーを充分に吸収できなくなる問題があった。また図8に示すように、自車両が他車両の側面に衝突した場合に、自車両のアンダープロテクタ02がバンパービーム01よりも後方に引っ込んでいるので、アンダープロテクタ02が他車両のサイドシル04に衝突して衝突エネルギーを吸収する前に、バンパービーム01が他車両のドア05やセンターピラー06に衝突して車室内に貫入する可能性があった。
【0005】
そこで、前記特許文献1に記載された機構を用いてバンパーを低い位置に移動させれば、他車両が自車両の下に潜り込むことや自車両が他車両の車室内に貫入することを防止できる。しかしながら、路面との距離に応じてバンパーの高さを変化させると,高速走行中に路面の傾斜が変化したときにバンパーが路面に接触する可能性があるだけでなく、バンパーが常に上下動を繰り返してアクチュエータの騒音や消費電力の増加を招く可能性がある。
【0006】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、他車両との衝突時に衝突エネルギーの吸収効果を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、前端にバンパービームが固定されたフロントサイドフレームの下方にフロントサブフレームを支持し、このフロントサブフレームに上下揺動可能に支持した揺動アームの前端にサブバンパービームを設け、他車両との衝突が予知されたときにアクチュエータで前記サブバンパービームを前輪のアプローチアングルラインの上方の退避位置から下方の作動位置に移動させることを特徴とする自動車の衝突エネルギー吸収構造が提案される。
【0008】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記作動位置にある前記サブバンパービームの前端と前記バンパービームの前端とが車体前後方向に整列することを特徴とする自動車の衝突エネルギー吸収構造が提案される。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の構成によれば、フロントサイドフレームの下方に支持したフロントサブフレームに上下揺動可能に支持した揺動アームの前端にサブバンパービームを設け、他車両との衝突が予知されたときにアクチュエータで揺動アームを下方に揺動させることで、サブバンパービームを前輪のアプローチアングルラインの上方の退避位置から下方の作動位置に移動させることができる。これにより、衝突が予知されない通常時にはサブバンパービームをアプローチアングルラインの上方の退避位置に保持して路面との接触を回避しながら、衝突が予知された緊急時にはサブバンパービームをアプローチアングルラインの下方の作動位置に保持し、そのサブバンパービームを他車両のバンパーやサイドシルに衝突させることで衝突エネルギーの吸収効果を高め、自車両が他車両の上に乗り上げたり、自車両のバンパービームが他車両の車室内に貫入したりするのを防止することができる。
【0010】
また請求項2の構成によれば、作動位置にあるサブバンパービームの前端とバンパービームの前端とが車体前後方向に整列するので、自車両が他車両の側面に衝突したときに、バンパービームが他車両のドアやセンターピラーに衝突するのと略同時にサブバンパービームを他車両のサイドシルに衝突させることで、バンパービームが他車両の車室内に貫入するのを効果的に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を添付の図面に基づいて説明する。
【0012】
図1〜図6は本発明の実施の形態を示すもので、図1は自動車の車体前部の側面図、図2は図1の2部拡大図、図3は図2の3−3線拡大断面図、図4は車体前部の分解斜視図、図5は正面衝突時の作用説明図、図6は側面衝突時の作用説明図である。
【0013】
図1〜図4に示すように、自動車の車体前部に形成されたエンジンルーム11の左右両側に沿って車体前後方向に延びる左右のフロントサイドフレーム12,12が配置されており、これらのフロントサイドフレーム12,12の前端にボルト13…で結合された衝撃吸収部材12a,12aに、車幅方向に延びるバンパービーム14の後面に設けたブラケット15,15がボルト16…で結合される。バンパービーム14とその前面を覆うバンパーフェイス17とでバンパー18が構成される。
【0014】
前輪Wの下面とバンパー18の下端とを結び、地面に対してアプローチアングルαを成すラインは、アプローチアングルラインLとして定義される。アプローチアングルαは、車両が平坦路から登坂路に移行するとき、車両が降坂路から平坦路に移行するとき、あるいは車両が路面の突起部を乗り越えるときに、バンパー18の下端が路面と接触しないように設定される。
【0015】
フロントサイドフレーム12,12の下面に設けたブラケット19,19に、図示せぬエンジンやサスペンション装置を支持するフロトサブフレーム20がボルト21…で固定される。フロトサブフレーム20は左右の縦部材22,22を前部横部材23および後部横部材(図示せず)で枠状で結合したもので、前部横部材23に左右一対のブラケット25,25が固定される。各々のブラケット25は第1、第2固定板25a,25bと、第1、第2支持板25c,25dと備えており、第1、第2固定板25a,25bが前部横部材23を上下から挟むように溶接され、また第1支持板25cに固定した電動モータよりなるアクチュエータ26の出力軸27が第1、第2支持板25c,25dに設けたベアリング28,28に支持される。
【0016】
第1、第2支持板25c,25d間の出力軸27に揺動アーム29の基端がスプライン係合しており、左右一対の揺動アーム29,29の先端が車体左右方向に延びるサブバンパービーム30に接続される。各々の揺動アーム29の先端近傍とバンパービーム14とを接続するダンパー31は、シリンダ32の内部に充填したガスの圧力でロッド33を突出する方向に付勢するもので、サブバンパービーム30を図2に鎖線で示す格納位置から実線で示す作動位置へと付勢する。
【0017】
バンパーフェイス17に他車両のような障害物を検知するレーダー装置34が設けられており、このレーダー装置34が接続された電子制御ユニット35は前記アクチュエータ26,26の作動を制御する。
【0018】
次に、上記構成を備えた本発明の実施の形態の作用を説明する。
【0019】
車両が衝突する危険性がない通常時には、サブバンパービーム30は図2に鎖線で示す格納位置にあり、このときサブバンパービーム30はアプローチアングルラインLよりも上方に位置し、かつバンパービーム14の前端よりも後方に位置している。従って、車両が平坦路から登坂路に移行するときや車両が降坂路から平坦路に移行するときに、サブバンパービーム30が路面と接触することが回避される。
【0020】
レーダー装置34が他車両との衝突可能性が高まったことを検知すると、電子制御ユニット35からの指令でアクチュエータ26,26が作動し、出力軸27,27が回転して左右の揺動アーム29,29が下向きに揺動する。その結果、ダンパー31,31の弾発力で付勢されたサブバンパービーム30は速やかに下降し、図2に実線で示す作動位置に停止する。このとき、左右の揺動アーム29,29は略水平状態となる。
【0021】
この状態で、図5に示すように自車両が他車両に正面衝突すると、仮に自車両のバンパービーム14が他車両のバンパービーム41よりも高い位置にあっても、下降したサブバンパービーム30が他車両のバンパービーム41に引っ掛かることで、自車両が他車両の上に乗り上げて他車両の車室を損傷させるのを未然に回避することができる。
【0022】
そして他車両からバンパービーム14に入力された衝突エネルギーは、図2に矢印で示すようにブラケット15,15および衝撃吸収部材12a,12aを経てフロントサイドフレーム12,12に伝達されて吸収され、その際に衝撃吸収部材12a,12aが圧壊することで衝突エネルギーが更に効果的に吸収される。
【0023】
また他車両からサブバンパービーム30に入力された衝突エネルギーは、揺動アーム29,29を経てフロトサブフレーム20に伝達され、かつ前記フロントサイドフレーム12,12に伝達された衝突エネルギーの一部もブラケット19,19を介してフロトサブフレーム20に伝達されて吸収される。このとき、揺動アーム29,29は略水平姿勢になっているので、サブバンパービーム30に入力された衝突エネルギーをフロントサブフレーム30に効率的に伝達することができる。
【0024】
また図6に示すように、サブバンパービーム30を作動位置に下降させた状態では、サブバンパービーム30の前端とバンパービーム14の前端とが車体前後方向に整列しているので(図2参照)、他車両に側面衝突したときに自車両のバンパービーム14が他車両のドア42およびセンターピラー43に衝突するのとほぼ同時に、自車両のサブバンパービーム30が他車両のサイドシル44に衝突する。このとき、ドア42およびセンターピラー43に比べてサイドシル44および該サイドシル44に連なるフロアフレーム45は剛性が高いため、衝突エネルギーが自車両のサブバンパービーム30および他車両のサイドシル44に効率的に吸収され、自車両のバンパービーム14が他車両の車室内に貫入するのを防止することができる。
【0025】
以上のように、衝突が予知されない通常時にはサブバンパービーム30をアプローチアングルラインL(図2参照)の上方の退避位置に保持して路面との接触を回避しながら、衝突が予知された緊急時にはサブバンパービーム30をアプローチアングルラインLの下方の作動位置に下降させるので、自車両が他車両に正面衝突したときには、自車両が他車両の上に乗り上げる(他車両が自車両の下に潜り込む)のを防止して衝突エネルギーを効果的に吸収することができ、また自車両が他車両に側面衝突したときには、自車両が他車両の車室内に貫入するのを防止して衝突エネルギーを効果的に吸収することができる。しかもアクチュエータ26,26は他車両との衝突が予知された場合にのみ作動するので、アクチュエータ26,26の消費電力が少なくて済むだけでなく、アクチュエータ26,26の作動に伴う騒音が問題となることはない。
【0026】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0027】
例えば、実施の形態では揺動アーム29,29を電動モータよりなるアクチュエータ26,26で駆動しているが、油圧式のアクチュエータや圧縮したスプリングを用いた畜力式のアクチュエータを採用することができる。
【0028】
また衝突を予知するためのレーダー装置34に代えて、あるいはレーダー装置34に加えて、CCDカメラやナビゲーションシステムを用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】自動車の車体前部の側面図
【図2】図1の2部拡大図
【図3】図2の3−3線拡大断面図
【図4】車体前部の分解斜視図
【図5】正面衝突時の作用説明図
【図6】側面衝突時の作用説明図
【図7】従来例の正面衝突時の作用説明図
【図8】従来例の側面衝突時の作用説明図
【符号の説明】
【0030】
12 フロントサイドフレーム
14 バンパービーム
20 フロントサブフレーム
26 アクチュエータ
29 揺動アーム
30 サブバンパービーム
L 前輪のアプローチアングルライン
W 前輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前端にバンパービーム(14)が固定されたフロントサイドフレーム(12)の下方にフロントサブフレーム(20)を支持し、このフロントサブフレーム(20)に上下揺動可能に支持した揺動アーム(29)の前端にサブバンパービーム(30)を設け、他車両との衝突が予知されたときにアクチュエータ(26)で前記揺動アーム(29)を下方に揺動させることで、前記サブバンパービーム(30)を前輪(W)のアプローチアングルライン(L)の上方の退避位置から下方の作動位置に移動させることを特徴とする自動車の衝突エネルギー吸収構造。
【請求項2】
前記作動位置にある前記サブバンパービーム(30)の前端と前記バンパービーム(14)の前端とが車体前後方向に整列することを特徴とする、請求項1に記載の自動車の衝突エネルギー吸収構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−203807(P2007−203807A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−22676(P2006−22676)
【出願日】平成18年1月31日(2006.1.31)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】