説明

自動車の車体後部構造

【課題】構造を複雑化することなく、車体重量の大きい増加を招くことなく、自車後部への後突車両の進入量を低減すること。
【解決手段】リアクロスメンバ36に、スペアタイヤ収納部46に収納されるスペアタイヤ100と車体前後方向に向かい合うスペアタイヤ対向部分(垂下部36A)を設け、後突時にスペアタイヤ収納部46に収納されたスペアタイヤ100がパンクしてスペアタイヤ100の金属ホイール102部分がリアクロスメンバ36に当接する構成とする。更に、リアクロスメンバ36とミドルフロアクロスメンバ38とをサブリアフレーム54によって接続して衝突荷重の伝達路とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の車体後部構造に関し、特に、車体後部構造の後面衝突(後突)対策に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体後部構造は、一般的に、車体後部に配置されて車体前後方向に延在し、左右のリアフレームを有する。左右のリアフレームは、リアフロアパネルを取り付けられ、車体前後方向中間部をリアクロスメンバによって互いに連結され、後端部をリアエンドクロスメンバ、リアバンパ骨格部材あるいはリアパネルによって互いに連結され、前端部をミドルフロアクロスメンバによって互いに連結されている。そして、この左右のリアフレームは、前端部をロッカメンバ、サイドシルと云われる車体前後方向に延在する車体前側の左右の側部骨格部材に接続され、後突時の衝突荷重を車体前部へ伝達し、車体後部の変形を抑制する。
【0003】
このような車体後部構造において、後突時の衝突荷重の車体前部への伝達経路を分散し、車体後部の変形抑制効果の向上を図ったものとして、後輪の支持を行うミドルフロアクロスメンバとをブレースと云われる補助メンバによって連結したものがある(例えば、特許文献1)。
【0004】
また、車体後部に設けられたスペアタイヤ収納部にスペアタイヤが横倒し状態で収納される自動車において、スペアタイヤ収納部におけるスペアタイヤの配置姿勢、固定具の配置等を工夫し、スペアタイヤに後突の衝突荷重が作用すると、スペアタイヤが起き上がるように回転して車載機器との干渉を避けるようにしたものがある(例えば、特許文献2)。
【0005】
また、リアシート後部にガス燃料タンクを搭載する自動車として、左右のリアフレーム間に四角枠状のサポートフレームを取り付け、サポートフレーム上にガス燃料タンクを取り付けた自動車が知られている(例えば、特許文献3)。
【特許文献1】特開2006−232030号公報
【特許文献2】特開2007−276605号公報
【特許文献3】特開2005−206041号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
リアサスペンションメンバとミドルフロアクロスメンバとを補助メンバによって連結したものは、後突時の衝突荷重の車体前部への伝達が、リアフレームより車体前側の側部骨格部材へ向かう経路と、リアサスペンションメンバより補助メンバを介してミドルフロアクロスメンバへ向かう経路とに分散して行われるが、後突の衝突荷重を、リアサスペンションメンバより車体後方に配置された機関排気系のマフラ(消音器)より受ける構造になっている。
【0007】
しかし、マフラは、多くの場合、潰れ易い構造のものであるため、車体後端からリアサスペンションメンバまでは潰れ易く、後突車両の車体前部が自車後部に大きく進入する虞がある。
【0008】
自車後部への後突車両の進入量が少ない車体構造であることが好ましく、特に、リアシート後部にガス燃料タンクやバッテリなどを搭載した自動車では、自車後部への後突車両の進入量を低減したい。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、構造を複雑化することなく、車体重量の大きい増加を招くことなく、自車後部への後突車両の進入量を低減することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による自動車の車体後部構造は、車体後部に配置されて車体前後方向に延在する左右のリアフレームと、車体幅方向に延在して前記左右のリアフレームの車体前後方向中間部を互いに連結するリアクロスメンバと、車体幅方向に延在して前記左右のリアフレームの前端部を互いに連結し、フロントフロアの後端を接続されるミドルフロアクロスメンバと、車体前後方向に延在して前記リアクロスメンバと前記ミドルフロアクロスメンバとを互いに連結するサブリアフレームとを有し、前記リアクロスメンバより車体後方位置にスペアタイヤを横倒し状態で収納するスペアタイヤ収納部が設置され、前記リアクロスメンバは前記スペアタイヤ収納部に収納されるスペアタイヤと車体前後方向に向かい合うスペアタイヤ対向部分を含んでいる。
【0011】
本発明による自動車の車体後部構造は、好ましくは、更に、前記リアクロスメンバの前記スペアタイヤ対向部分に、衝突荷重によって塑性変形する衝撃荷重吸収メンバが装着されている。
【0012】
本発明による自動車の車体後部構造は、前記リアクロスメンバの上部が車載機器の配置部になっている自動車への適用が、特に、有用である。
【発明の効果】
【0013】
本発明による自動車の車体後部構造によれば、後突時にスペアタイヤ収納部に収納されたスペアタイヤがパンクしてスペアタイヤの金属ホイール部分がリアクロスメンバに当接し、後突時の衝突荷重が、スペアタイヤ、リアクロスメンバ、サブリアフレーム、ミドルフロアクロスメンバを伝わって車体前方に伝わる。このように、スペアタイヤを利用して後突時の衝突荷重を車体前方へ伝えることが行われる。
【0014】
これにより、後突時の衝突荷重の車体前部への伝達が、リアフレームより車体前方へ向かう経路と、スペアタイヤよりリアクロスメンバ、サブリアフレーム、ミドルフロアクロスメンバを介して車体前方へ向かう経路とに分散して行われる。
【0015】
スペアタイヤの金属ホイール部分は、マフラ(消音器)より潰れ難い耐圧縮強度を有するものであるから、スペアタイヤの金属ホイール部分の存在により、自車後部への後突車両の進入量を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明による車体後部構造を燃料電池自動車に適用した一つの実施形態を、図1〜図4を参照して説明する。
【0017】
これらの図において、10は左右の後輪を示している。左右の後輪10は、各々、リアサスペンションアーム12、ラテラルロッド14、スタビライザ16、サスペンションスプリング18、ダンパ20等による周知のサスペンション機構によって車体より懸架されている。
【0018】
車体後部には、車体後部の骨格部材として、車体後部に配置されて車体前後方向に互いに平行に延在する左右のリアフレーム30が設けられている。
【0019】
左右のリアフレーム30の後端部は、車体幅方向に延在するリアパネル32によって互いに連結されている。
【0020】
左右のリアフレーム30の車体前後方向中間部には第1、第2のリアクロスメンバ34、36が設けられている。第1、第2のリアクロスメンバ34、36は、各々、車体幅方向に延在し、左右のリアフレーム30の車体前後方向中間部を互いに連結する。換言すると、第1、第2のリアクロスメンバ34、36は、各々、左右の端部を溶接等によって左右のリアフレーム30に接合されている。なお、第2のリアクロスメンバ36は第1のリアクロスメンバ34より車体前側にある。
【0021】
左右のリアフレーム30の前端部にはミドルフロアクロスメンバ38が設けられている。ミドルフロアクロスメンバ38は、車体幅方向に延在し、左右のリアフレーム30の車前端部を互いに連結する。換言すると、ミドルフロアクロスメンバ38は、左右の端部を溶接等によって左右のリアフレーム30に接合されている。
【0022】
ミドルフロアクロスメンバ38には、フロントフロアパネル40、車体前後方向に延在する左右のサイドシル(ロッカメンバ)42の後端部が接続されている。
【0023】
左右のリアフレーム30上にはリアフロアパネル44が取り付けられている。左右のリアフレーム30の車体前後方向中間部から後端部に至る中間部・後端部30Aは、前端部30Bより高い位置、換言すると、フロントフロアパネル40より高い位置にある。第1、第2のリアクロスメンバ34、36は、この高い位置にある中間部・後端部30Aに設けられている。
【0024】
第2のリアクロスメンバ36より車体後方のリアフロアパネル44の下方位置には、スペアタイヤ100を横倒し状態で収納するスペアタイヤ収納部46が設置されている。スペアタイヤ収納部46は、第2のリアクロスメンバ36の後面にヒンジ48によって上下方向に開閉可能に設けられ、ロック部50によって閉位置に保たれるスペアタイヤ保持枠体52を有し、スペアタイヤ保持枠体52とリアフロアパネル44の下底面に形成された傾斜突部44Aとでスペアタイヤ100を上下に挟み込むようにしてスペアタイヤ100を所定姿勢で収納保持する。
【0025】
本実施形態では、スペアタイヤ収納部46は、リアフレーム30の中間部・後端部30Aの下方位置において、車体前側が車体後側より下位になる横倒し前下がり傾斜姿勢で、スペアタイヤ100を収納保持する。
【0026】
なお、スペアタイヤ100は、金属ホイール102と、金属ホイール102の外周部に装着されたゴムタイヤ104とを有する一般的なスペアタイヤである。
【0027】
ここで、重要なことは、第2のリアクロスメンバ36は、車幅方向中央部にリアフレーム30の中間部・後端部30Aより下方に垂下した垂下部36Aを有し、当該垂下部36Aが、スペアタイヤ収納部46に収納されているスペアタイヤ100と車体前後方向に向かい合うスペアタイヤ対向部分をなしていることである。
【0028】
第2のリアクロスメンバ36の垂下部36Aによるスペアタイヤ対向部分には、衝突荷重によって塑性変形する衝撃荷重吸収メンバ56が取り付けられている。衝撃荷重吸収メンバ56は、溝形断面形状のもので、上端部は第1のリアクロスメンバ34に接合され、上端部が下端部より車体後方に位置する傾斜後面56Aを有する。この傾斜後面56Aの傾斜角は、後突によって衝撃荷重吸収メンバ56が塑性変形(圧壊)した時に、スペアタイヤ100を捕捉してスペアタイヤ100の姿勢を制御するに適した角度に設定されている。
【0029】
そして、車体前後方向に延在して第2のリアクロスメンバ36とミドルフロアクロスメンバ38とを互いに連結するサブリアフレーム54が設けられていることである。つまり、第2のリアクロスメンバ36がサブリアフレーム54によって車体前側のミドルフロアクロスメンバ38に剛固に接続されている。本実施形態では、サブリアフレーム54は、垂下部36Aの左右両側に一本ずつ設けられている。
【0030】
サブリアフレーム54上には、車載機器として、燃料電池ユニット筐体60、水素タンク62が搭載されている。また、第2のリアクロスメンバ36の上部位置には、車載機器配置部として、タンクベース64が取り付けられており、タンクベース64上に、車載機器として、もう一つの水素タンク66が取り付けられている。なお、当該部分に配置される車載機器としては、内燃機関車(エンジン車)では燃料タンク、ハイブリット車では電源ユニット等がある。
【0031】
図5に示されているように、車体後部に、車両(後突車両)200が衝突すると、スペアタイヤ収納部46に収納されているスペアタイヤ100がパンクしてスペアタイヤ100の金属ホイール104部分が第2のリアクロスメンバ36の垂下部(スペアタイヤ対向部分)36Aに当接し、垂下部36Aを車体前方へ押す。
【0032】
これにより、後突時の衝突荷重が、スペアタイヤ100、第2のリアクロスメンバ36、サブリアフレーム54を伝わってミドルフロアクロスメンバ38に伝わり、これより更にフロントフロアパネル40によって車体前方に伝わる。このように、スペアタイヤ100を利用して後突時の衝突荷重を車体前方へ伝えることが行われる。
【0033】
これにより、後突時の衝突荷重の車体前部への伝達が、リアフレーム30よりサイドシル42等によって車体前方へ向かう経路と、スペアタイヤ100より第2のリアクロスメンバ36、サブリアフレーム54、ミドルフロアクロスメンバ38を介して車体前方へ向かう経路とに分散して行われる。これにより、これら車体後部の構成メンバの変形が軽減される。
【0034】
スペアタイヤ100の金属ホイール102部分は、マフラ(消音器)より潰れ難い耐圧縮強度を有するものであるから、スペアタイヤ100の金属ホイール102部分の存在により、自車後部への後突車両200の進入量を十分低減することができる。
【0035】
衝撃荷重吸収メンバ56は、後突によって塑性変形(圧壊)し、傾斜後面56Aの適正傾斜角設定によってスペアタイヤ100を捕捉し、スペアタイヤ100の姿勢を、第2のリアクロスメンバ36への衝撃荷重の伝達に適した角度に設定される。これにより、後突時のスペアタイヤ100による第2のリアクロスメンバ36への衝撃荷重の伝達が良好に行われる。
【0036】
また、衝撃荷重吸収メンバ56は、後突によって塑性変形(圧壊)することにより、衝撃荷重を吸収する。
【0037】
このようなことから、スペアタイヤ収納部46に収納されているスペアタイヤ100を有効に利用して、構造を複雑化することなく、車体重量の大きい増加を招くことなく、自車後部への後突車両の進入量を十分低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明による車体後部構造を燃料電池自動車に適用した一つの実施形態を示す車体後部の断面図である。
【図2】本発明による車体後部構造を燃料電池自動車に適用した一つの実施形態を示す車体後部の底面図である。
【図3】本発明による車体後部構造を燃料電池自動車に適用した一つの実施形態を示す車体後部の要部の背面図である。
【図4】本発明による車体後部構造を燃料電池自動車に適用した一つの実施形態を示す車体後部の斜視図である。
【図5】本実施形態の車体後部構造の後突状態例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0039】
10 後輪
18 サスペンションスプリング
30 リアフレーム
32 リアパネル
34 第1のリアクロスメンバ
36 第2のリアクロスメンバ
36A 垂下部(スペアタイヤ対向部分)
38 ミドルフロアクロスメンバ
40 フロントフロアパネル
42 サイドシル
44 リアフロアパネル
46 スペアタイヤ収納部
54 サブリアフレーム
56 衝撃荷重吸収メンバ
60 燃料電池ユニット筐体
62、66 水素タンク
100 スペアタイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体後部に配置されて車体前後方向に延在する左右のリアフレームと、
車体幅方向に延在して前記左右のリアフレームの車体前後方向中間部を互いに連結するリアクロスメンバと、
車体幅方向に延在して前記左右のリアフレームの前端部を互いに連結し、フロントフロアの後端を接続されるミドルフロアクロスメンバと、
車体前後方向に延在して前記リアクロスメンバと前記ミドルフロアクロスメンバとを互いに連結するサブリアフレームとを有し、
前記リアクロスメンバより車体後方位置にスペアタイヤを横倒し状態で収納するスペアタイヤ収納部が設置され、
前記リアクロスメンバは前記スペアタイヤ収納部に収納されるスペアタイヤと車体前後方向に向かい合うスペアタイヤ対向部分を含んでいる自動車の車体後部構造。
【請求項2】
前記リアクロスメンバの前記スペアタイヤ対向部分に、衝突荷重によって塑性変形する衝撃荷重吸収メンバが装着されている請求項1に記載の自動車の車体後部構造。
【請求項3】
前記リアクロスメンバの上部が車載機器の配置部になっている請求項1または2に記載の自動車の車体後部構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−255663(P2009−255663A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−105403(P2008−105403)
【出願日】平成20年4月15日(2008.4.15)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】