説明

自動車の車体構造

【課題】 ホイールハウスにおけるダンパの支持剛性を高め、もって操縦安定性や乗り心地等の向上させた自動車の車体構造を提供する。
【解決手段】 上部ラバーホルダ21では、保持凹部21aの開放端から略矩形の閉断面形成部21bが延設されており、この閉断面形成部21bの外側端部に連続するフランジ21cがダンパベース16の上壁部16cにスポット溶接されている。閉断面形成部21bとダンパベース16との間には、保持凹部21aの周囲に閉断面25が形成される。下部ラバーホルダ22では、保持凹部22aの開放端から略矩形の閉断面形成部22bが延設されており、この閉断面形成部22bの外側端部に連続するフランジ22cがダンパベース16の上壁部16cにスポット溶接されている。閉断面形成部22bとダンパベース16との間には、保持凹部22aの周囲に閉断面26が形成されることになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダンパの支持剛性の向上等を図った自動車の車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の懸架装置は、サスペンションアームやスプリング、ダンパ等から構成されている。ダンパは、通常、ホイールハウス内に直立状態で設置されており、その上端がホイールハウスの上壁に支持される(特許文献1参照)。ダンパは、走行振動やキックバック等の車体への伝達を防ぐべく、マウンティングラバーを介してホイールハウスのダンパベースに弾性支持されている。例えば、図6に示すものでは、ホイールハウス15に設けられたダンパベース16の上下面に椀状のラバーホルダ21,22をそれぞれスポット溶接し、これらラバーホルダ21,22にマウンティングラバー17,18を嵌入させた後、ダンパ20のロッド20aを貫通させてナット24によって締結する構成が採られている。
【0003】
一方、ホイールハウスには悪路走行時等にダンパから上下方向の衝撃荷重が入力するため、その剛性が低い場合にはホイールハウスが撓み変形し、操縦安定性等に悪影響をあたえる。そこで、ダンパスティフナを取り付けることにより、ホイールハウスの剛性を向上させる技術が開示されている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2004−92753号公報(段落0002、図6)
【特許文献2】特開平7−309252号公報(段落0012、図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献1の構造では、ダンパ20から大きな衝撃荷重が入力した場合、図6中に二点鎖線で示すように、ダンパベース16がラバーホルダ21,22の接合部位で局部的に撓んでしまい、ダンパ20の支持点の変位によって操縦安定性や乗り心地等が悪化する虞があった。また、特許文献2のダンパスティフナは、通常、ラバーホルダから離れた位置に取り付けられるため、ダンパ20の支持点の変位を防止することができなかった。
【0005】
本発明は、このような背景に鑑みなされたもので、ホイールハウスにおけるダンパの支持剛性を高め、もって操縦安定性や乗り心地等の向上させた自動車の車体構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明に係る自動車の車体構造は、懸架装置を構成するダンパが、上部マウンティングラバーと下部マウンティングラバーとを介して、ホイールハウスの上壁に弾性支持される自動車の車体構造であって、前記ホイールハウスのダンパ支持部には、その上面に前記上部マウンティングラバーを保持する保持凹部を備えた上部ラバーホルダが接合され、その下面に前記下部マウンティングラバーを保持する保持凹部を備えた下部ラバーホルダが接合され、前記上部ラバーホルダと前記下部ラバーホルダとの少なくとも一方には、前記ホイールハウスとの間に閉断面を形成すべく、前記保持凹部の開放端側から延設されて当該ホイールハウスに接合される閉断面形成部が設けられたことを特徴とする。
【0007】
また、請求項2の発明に係る自動車の車体構造は、請求項1に記載の自動車の車体構造において、前記閉断面形成部は、その車体中心側部分が車体前後方向に沿って折り曲げられて前記ホイールハウスの側壁に接合されたことを特徴とする。
【0008】
また、請求項3の発明に係る自動車の車体構造は、請求項1または請求項2に記載の自動車の車体構造において、前記リヤホイールハウスと前記リヤフロアパネルとがトランクルームを画成し、前記リヤホイールハウスと前記リヤフロアパネルとの間に前後方向に延びるフロアフレームが設置され、前記ホイールハウスの側壁には補強用のスティフナが設けられ、当該スティフナの上端側が前記ラバーホルダに接合され、当該スティフナの下端側が前記フロアフレームに接合されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の自動車の車体構造によれば、ホイールハウスにおけるダンパ支持部の剛性が向上し、ダンパの支持点の変位に起因する操縦安定性や乗り心地等の悪化が起こり難くなる。また、請求項2の自動車の車体構造によれば、ラバーホルダの製造やそのホイールハウスへの接合が容易となる。また、請求項3の自動車の車体構造によれば、トランクルームの剛性が向上することにより車体のねじり変形や曲げ変形が効果的に抑制され、操縦安定性や乗り心地等が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明を適用した自動車の後部車体構造の実施形態を詳細に説明する。
【0011】
≪第1実施形態≫
図1は第1実施形態に係る自動車のボディを示す斜視図であり、図2は図1中のII部拡大縦断面図であり、図3は図1中の拡大III矢視図である。
【0012】
<第1実施形態の構成>
図1に示すように、第1実施形態のハッチバック車1は、ボディ2の後部にテールゲート3を備えた4ドアセダン型乗用車である。ボディ2は、リヤパネル4や、ルーフパネル5、リヤフロアパネル6、左右のアウタパネル7,8等をスポット溶接によって組み立ててなるモノコック構造となっている。テールゲート3は、ルーフパネル5の後端に設けられたヒンジ(図示せず)を支点として上方に開放し、開放状態でサポートストラット9により支持される。なお、図1は、車体構造の説明を容易にするため、トランクルームのカーペットやトリム類を外した状態で示している。
【0013】
リヤシート11の後方には、リヤフロアパネル6やリヤインナパネル12等によってトランクルーム13が画成されている。図2に示すように、トランクルーム13の側方には、フロアフレームインナ14aとフロアフレームアウタ14bとをスポット溶接してなる矩形断面形状のフロアフレーム14が配置されている。フロアフレーム14には、その内側面にリヤフロアパネル6がスポット溶接され、その外側面にホイールハウスインナ15aがスポット溶接されている。
【0014】
図2,図3に示すように、ホイールハウスインナ15aは、リヤインナパネル12を間に挟むかたちでホイールハウスアウタ15bにスポット溶接されることで、ホイールハウス15を形成している。また、ホイールハウス15の上部にはダンパベース(ダンパ支持部)16が接合されており、このダンパベース16に、上部マウンティングラバー17および下部マウンティングラバー18を介して、ダンパ20の上端が弾性支持されている。
【0015】
ダンパベース16は、鋼板のプレス成型品であり、外側端部に立設された上部フランジ16aがリヤインナパネル12にスポット溶接され、内側端部から下方に延設された下部フランジ16bがホイールハウスインナ15aにスポット溶接されている。ダンパベース16は、ホイールハウスインナ15aの上壁に連続する上壁部16cと、上壁部16cから一段下がったダンパ装着部16dとを有している。
【0016】
ダンパベース16には、上部マウンティングラバー17を保持する保持凹部21aを備えた上部ラバーホルダ21と、下部マウンティングラバー18を保持する保持凹部22aを備えた下部ラバーホルダ22とが接合されている。ダンパ20のロッド20aは、上部マウンティングラバー17および下部マウンティングラバー18を貫通した後、ワッシャ23およびナット24により締結されている。
【0017】
上部ラバーホルダ21では、保持凹部21aの開放端(上端)から略矩形の閉断面形成部21bが延設されており、この閉断面形成部21bの外側端部に連続するフランジ21cがダンパベース16の上壁部16cにスポット溶接されている。また、閉断面形成部21bの車体中心側部分には車体前後方向に沿って折り曲げられて下方に向かうフランジ21dが形成されており、このフランジ21dの下端がダンパベース16の下部フランジ16bにスポット溶接されている。これにより、図2に示すように、閉断面形成部21bとダンパベース16との間には、保持凹部21aの周囲に閉断面25が形成されることになる。なお、第1実施形態の場合、閉断面形成部21bの前後端からは、下方に向けて縦壁21eが延設されている。
【0018】
一方、下部ラバーホルダ22では、保持凹部22aの開放端(下端)から略矩形の閉断面形成部22bが延設されており、この閉断面形成部22bの外側端部に連続するフランジ22cがダンパベース16の上壁部16cにスポット溶接されている。また、閉断面形成部22bの車体中心側部分には車体前後方向に沿って折り曲げられて下方に向かうフランジ22dが形成されており、このフランジ22dの下端がホイールハウスインナ15aにスポット溶接されている。これにより、図2に示すように、閉断面形成部22bとダンパベース16との間には、保持凹部22aの周囲に閉断面26が形成されることになる。なお、第1実施形態の場合、閉断面形成部22bの前後端からは、上方に向けて縦壁22eが延設されている。なお、図3に示すように、上部ラバーホルダ21のフランジ21dと下部ラバーホルダ22のフランジ22dとは、ホイールハウスインナ15aおよびダンパベース16に対するスポット溶接位置を異ならせるべく、その下端が前後方向で互いに位相のずれた波状に形成されている。
【0019】
<第1実施形態の作用>
自動車の悪路走行時において、ダンパベース16のダンパ装着部16dには、大きな上下方向荷重が作用する。ところが、第1実施形態では、上部ラバーホルダ21および下部ラバーホルダ22の閉断面形成部21b,22bがダンパベース16との間に閉断面25,26を形成しているため、両ラバーホルダ21,22に縦壁21e,22eが形成されていることも相俟って該部の剛性が著しく高くなり、従来装置で問題となっていたダンパ20の支持点の変位に起因する操縦安定性や乗り心地等の悪化が殆ど起こらなくなった。
【0020】
≪第2実施形態≫
図4は第2実施形態に係る自動車のボディを示す要部縦断面図であり、図4は同要部斜視図である。
【0021】
<第2実施形態の構成>
第2実施形態は、上述した第1実施形態に対して、下部ラバーホルダから閉断面形成部を廃し、ホイールハウスの側壁に補強用のスティフナを設けたものである。図4,図5に示すように、第2実施形態の下部ラバーホルダ22は、従来装置と同様に椀状を呈しており、下部マウンティングラバー18の収納を行うだけで、ダンパベース16との間に閉断面を形成する閉断面形成部を備えていない。また、第2実施形態では、ホイールハウス15の側壁に鋼板プレス成型品のスティフナ31が設置されている。スティフナ31は中央にリブ31aを備えた平板形状を呈しており、その上端が上部ラバーホルダ21のフランジ21dにスポット溶接され、その下端がフロアフレーム14にスポット溶接されている。
【0022】
<第2実施形態の作用>
第2実施形態では、このような構成を採ったことにより、ダンパベース16のダンパ装着部16dとフロアフレーム14とが強固に連結され、ホイールハウス15のダンパ装着部16dのみならず、トランクルーム13の剛性も向上してボディ2のねじり変形や曲げ変形が効果的に抑制される。その結果、高い操縦安定性や良好な乗り心地が得られるとともに、騒音や振動の減少も実現された。
【0023】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。例えば、上記実施形態は本発明をセダン型4ドア乗用車における後部車体構造に適用したものであるが、他の形式の自動車における後部車体構造に本発明を適用してもよい。また、上記実施形態では上部ラバーホルダや下部ラバーホルダとに閉断面形成部を設けるようにしたが、下部ラバーホルダのみに閉断面形成部を設けるようにしてもよい。また、上記実施形態では上部ラバーホルダや下部ラバーホルダの左右端部をホイールハウスに接合するようにしたが、前後端部(縦壁)も接合するようにしてもよい。また、上記実施形態では上部ラバーホルダや下部ラバーホルダをダンパベースにスポット溶接するようにしたが、リベット等により接合するようにしてもよい。更に、ラバーホルダやダンパスティフナ等の具体的形状等についても、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】第1実施形態に係る自動車を示す斜視図である。
【図2】図1中のII部を示す拡大縦断面図である。
【図3】図1中のIII矢視図である。
【図4】第2実施形態に係る自動車のボディを示す要部縦断面図である。
【図5】第2実施形態に係る自動車のボディを示す要部斜視図である
【図6】従来の自動車のボディを示す要部縦断面図である。
【符号の説明】
【0025】
2 ボディ
14 フロアフレーム
15 ホイールハウス
15a ホイールハウスインナ
15b ホイールハウスアウタ
16 ダンパベース
16d ダンパ装着部
17 上部マウンティングラバー
18 下部マウンティングラバー
20 ダンパ
21 上部ラバーホルダ
21a 保持凹部
21b 閉断面形成部
21e 縦壁
22 下部ラバーホルダ
22a 保持凹部
22b 閉断面形成部
22e 縦壁
25 閉断面
26 閉断面
31 スティフナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
懸架装置を構成するダンパが、上部マウンティングラバーと下部マウンティングラバーとを介して、ホイールハウスの上壁に弾性支持される自動車の車体構造であって、
前記ホイールハウスのダンパ支持部には、その上面に前記上部マウンティングラバーを保持する保持凹部を備えた上部ラバーホルダが接合され、その下面に前記下部マウンティングラバーを保持する保持凹部を備えた下部ラバーホルダが接合され、
前記上部ラバーホルダと前記下部ラバーホルダとの少なくとも一方には、前記ホイールハウスとの間に閉断面を形成すべく、前記保持凹部の開放端側から延設されて当該ホイールハウスに接合される閉断面形成部が設けられたことを特徴とする自動車の車体構造。
【請求項2】
前記閉断面形成部は、その車体中心側部分が車体前後方向に沿って折り曲げられて前記ホイールハウスの側壁に接合されたことを特徴とする、請求項1に記載の自動車の車体構造。
【請求項3】
前記リヤホイールハウスと前記リヤフロアパネルとがトランクルームを画成し、
前記リヤホイールハウスと前記リヤフロアパネルとの間に前後方向に延びるフロアフレームが設置され、
前記ホイールハウスの側壁には補強用のスティフナが設けられ、当該スティフナの上端側が前記ラバーホルダに接合され、当該スティフナの下端側が前記フロアフレームに接合されたことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の自動車の車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−315557(P2006−315557A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−140645(P2005−140645)
【出願日】平成17年5月13日(2005.5.13)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】