説明

自動車用シートの取り付け構造

【課題】フロアパネルの形状などに影響されることなく前突に対応し得るシート取り付け構造とする。
【解決手段】フロアパネル1の中央部に燃料タンクに対応する膨出部1aが形成され、その膨出部の一部となる部分1dと足元部1bとによる段差形状の部分に、フロントシート3の車両前側の固定におけるボルト6をねじ込むためのシート取付ブラケット9を設け、かつサイドシル7の直近に設ける。さらに第2ブラケット11により閉断面を形成する。サイドシルの変形し難さと、両ブラケットによる強度の増強とにより、前突によりシート取付ブラケットの変位が生じることを回避することができる。前突時には乗員の慣性力がシートの前側を沈み込ませるように作用するため、例えばフロントシートの前側固定部分に本発明を適用することにより、その沈み込ませようとする力に抗することができ、前突時にシートの沈み込みを防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用シートの取り付け構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車用シートはフロアパネルの上に取り付けられており、例えばフロントシートにあっては、スライドレールを支持する矩形状フレームの4角に脚部を一体的に設け、各脚部をフロアパネルにねじ止めにより結合するなどしていた。なお、強度上、ねじ止め部分にシート取付ブラケットをフロアパネルに溶接したものがある。
【0003】
一方、リアシートと後部トランクルームとの間に燃料タンクを設けているものに対して、フロアパネルの中央部分に燃料タンクを搭載するようにしたセンタータンクレイアウト車がある(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−302071号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記したようなセンタータンクレイアウト車にあっては、燃料タンクをフロントシートの下部に配置して、燃料タンクによる車室側への膨出部分をフロントシートの下部の空間で吸収することにより、リアシートの下のフロアパネル(後席乗員の足元部)が高くなることを回避することができる。
【0005】
そのようなフロアパネルの形状はフロントシートの前側で上記膨出部と足元部とが階段状に並設されるため両者間に段差状壁部が生じることになり、またフロントシートの前側固定部分はそのフロアパネルの段差状壁部の近傍となる。しかしながら、車両の前突(正面衝突など)に対してはフロアパネルの上記したような段差状壁部の部分が弱いため、その部分にシート固定部分があると前突時にシートの前側が沈み込むという虞がある。
【0006】
それに対して、フロアパネルの下面に車両前後方向に延在するサイドフレームを設けた自動車にあっては、そのサイドフレームにシート取付ブラケットを固着することが考えられる。それにより、単にフロアパネルの段差部分にシート取付ブラケットを設けるものに対して高い強度を確保することができる。しかしながら、フロアパネル側のサイドフレーム(フロアフレーム)とエンジンルーム側のサイドフレームとの接続部がフロアパネルの前側部分にあると、その接続部が前突時に折れ曲がる虞がある。その折れ曲がりが生じた場合にサイドフレームと共に取付ブラケットが変位した場合にはシートがその影響を受けてしまう。
【0007】
また、センタータンクレイアウト車にあっては、燃料タンクをフロアパネルの下面側に設けたことによりフロアパネルのその部分が車室側へ膨出した形状になると、例えばフロントシートとの間にクロスメンバを設ける余裕が無くなり、クロスメンバをフロアパネルの下面であって燃料タンクと干渉しない場所に設けるようになる。燃料タンクを後部に配設した車両ではフロアパネルの上面にクロスメンバを設けることができ、そのようにフロアパネル上に露出しているクロスメンバにシートを固定することは容易である。それに対して、センタータンクレイアウト車では上記構造によりシートをクロスメンバに直接固定することが困難である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような課題を解決して、フロアパネルの形状などに影響されることなく前突に対応し得る自動車用シートの取り付け構造を実現するために本発明に於いては、フロアパネル(1)側に設けたシート取付ブラケット(9)にシート(3)の一部を結合してシート(3)を取り付けるようにした自動車用シートの取り付け構造であって、前記フロアパネル(1)の側縁部に一体的に設けられたサイドシル(7)を有し、前記シート取付ブラケット(9)が、前記フロアパネル(1)における前記サイドシル(7)の直近に一体的に取り付けられているものとした。
【0009】
特に、前記シート取付ブラケット(9)が前記フロアパネル(1)の下面に取り付けられていると共に、前記シート取付ブラケット(9)を下方から覆うように設けられた第2のブラケット(11)を有し、第2のブラケット(11)が、前記シート取付ブラケット(9)との間に閉断面を形成するべく前記シート取付ブラケット(9)にも固着されていると良い。また、前記フロアパネル(1)がシート取付側に対して段差状壁部(1c)を介して階段状に低くされた足元部(1b)を有し、前記シート取付ブラケット(9)の一部が、前記段差状壁部(1c)に沿って前記足元部(1b)に至る形状を有し、かつ少なくとも前記足元部(1b)に至る部分で固着されていると良い。
【発明の効果】
【0010】
このように本発明によれば、フロアパネルの側縁部に一体的に設けられたサイドシルは、前突時に対して座屈となり、またフロントバンパーを介して衝撃力を受けるサイドフレームに対して直接的な衝撃力を受けることがないため、前突時に曲げが生じることを回避することができる。そのサイドシルの直近にシート取付ブラケットを設けることにより、前突によりシート取付ブラケットの変位が生じることを回避することができる。前突時には乗員の慣性力がシートの前側を沈み込ませるように作用するため、例えばフロントシートの前側固定部分に本発明を適用することにより、その沈み込ませようとする力に抗することができ、前突時にシートの沈み込みを防止することができる。特に、センタータンクレイアウト車においてフロントシートの下部にフロアパネルの膨出部が設けられている場合にはフロアパネル上にクロスメンバを設けることが困難であり、その場合にはクロスメンバにシートを直接固定することができないため、そのような構造において有効である。
【0011】
また、シート取付ブラケットを覆う第2のブラケットを設け、その第2のブラケットをサイドシルとフロアパネルの下面とに固着しかつシート取付ブラケットと協働して閉断面を形成することにより、シート取付ブラケットを取り付けた部分のフロアパネルに前突の衝撃力が伝わってきたも閉断面構造により変形を防止することができる。
【0012】
また、例えば燃料タンクをフロアパネルの中央部分に配設した車両においてフロントシート下部に燃料タンクによる膨出部分がある場合には、フロアパネルがフロントシートの前側の足元部との間に段差が生じる形状となる。そのような段差部分を有するフロアパネルにあっては、前突に対してはその段差部分が変形し易くなるが、シート取付ブラケットの一部を段差形状における段差状壁部に沿って足元部に至る形状とし、その足元部に至る部分で固着することにより、段差状壁部を補強することができる。さらに第2のブラケットの車両前側端部を段差状壁部に対応する位置でシート取付ブラケットに固着して段差状壁部を第2のブラケットにより後方から支持するようにすることにより、段差状壁部の前突時に変形しようとする力に抗して第2のブラケットが突っ張るように作用するため、段差形状を有するフロアパネルにおけるシートの前突時の沈み込みをも防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。図1は本発明が適用された自動車のフロアパネル1を上から見た要部斜視図である。図に示されるようにフロアパネル1は、比較的薄い鋼板をプレス成型して形成されており、フロアパネル1に搭載される部品などに合わせると共に曲げ剛性を高めるために適所にビード(図示せず)が形成されている。また、フロアパネル1の車体の左右方向(車幅方向)の中央部には、車体の前後方向についての曲げ剛性を確保するために、断面形状が台形をなすフロアトンネル2が前後方向に延在するように形成されている。
【0014】
本図示例の自動車にあっては図2に併せて示されるようにフロアパネル1の下面側の中央部分となるフロントシート3の下方に燃料タンク4が配設されている。燃料タンク4は、大型部品であり、扁平に形成されているが、低床化したフロアパネル1に対しては上方(車室側)にある程度突出させて搭載される。そのため、フロントシート3の下方の空間を利用して、フロアパネル1の対応する部分に車室側に膨出する膨出部1aが設けられている。
【0015】
フロアパネル1におけるフロントシート3の車両前側部分は乗員の足を載せる足元部1bとなり、できるだけ低床となることが好ましい。そのため、膨出部1aと足元部1bとの間には階段状の段差状壁部1cが設けられている。
【0016】
上記した形状のフロアパネル1に対して、フロントシート3が適所にてねじ止めにより固設される。例えば図1に示されるように、フロントシート3のスライドレール(図示せず)の固定側を支持するための左右一対のレール支持ブラケット5が車両前後方向に延在するように設けられており、図1に示されるように各前側端部がボルト6によりフロアパネル1に対して固定される。なお図示省略するが、後側端部も同様にねじ止めにて固定される。また、図示例では運転席側のシートについて示しているが、助手席側も同様であって良く、その図示及び説明は省略する。
【0017】
次に、フロントシート3における前側かつ車両側部側の固定構造について示す。図1に示されるように、フロアパネル1の両側縁部には直線状のサイドシル7が溶着されており、両者が一体化されている。サイドシル7は、図では側方に開放された断面コ字状の形状が示されているが、ボディの側面を形成する図示されないパネルに、コ字状の両端に形成されたフランジ部が溶着されて、矩形状の閉断面が形成されるものである。このように形成されたサイドシル7は、長手方向(車両前後方向)に対する衝撃力に対しては座屈となるため変形し難い。
【0018】
本図示例では、ボルト6に対応するナット8を固着されたシート取付ブラケット9が図3乃至図6に示されるように、フロアパネル1の下面側に取り付けられている。なお、シート取付ブラケット9の一部(部分1d)の裏面にナット8が固着されており、フロアパネル1の対応する位置に設けられた孔を介して上記ボルト6をねじ込むことができるようになっている。
【0019】
シート取付ブラケット9はサイドシル7の直ぐ横となる直近に設けられている。これにより、サイドシル7が上記したように前突時の車両前後方向の力に対して変形し難いため、前突時にシート取付ブラケット9が変位することを好適に回避することができる。図示例のようにフロントシート3の前側の固定をこのようにすることにより、前突時のフロントシート3の沈み込みを抑制することができる。
【0020】
また、シート取付ブラケット9は、膨出部1aの一部として足元部1bよりも高く形成された部分1dと足元部1bとの間に渡って、かつ両者間の段差状壁部1cも含めて、フロアパネル1の下面の対応する部分に沿った形状に形成されている。さらに、シート取付ブラケット9にはサイドシル7にも沿うように曲折された平板部9aが一体に形成されている。シート取付ブラケット9は、フロアパネル1及びサイドシル7に適所をスポット溶接にて固着されている。図4及び図6において平板部9aに示した×印はサイドシル7に対するスポット溶接箇所を説明的に示したものであり、その数や場所は特定されるものではない。フロアパネル1に対するスポット溶接箇所は図示省略している。これにより、段差状壁部1cがその車両前後部分も含めてシート取付ブラケット9により補強されるため、フロアパネル1に対する前突時の車両前後方向の力に対する強度が高まり、フロアパネル1の段差形状による段差状壁部1cにおける変形を抑制し得る。なお、シート取付ブラケット9にあっては、上記したようにフロアパネル1とサイドシル7とのそれぞれに沿う形状に曲折されていることから、その曲折された部分間に渡るように図6の二点鎖線に示されるようなリブ(図では1つのみ示している)14をプレス成型により適所に同時に形成しておくと良い。これにより、強度をより一層高めることができる。
【0021】
さらに、シート取付ブラケット9の下面を概ね覆うように形成された第2のブラケット11が取り付けられている。第2のブラケット11は、図に示されるように、車幅方向についてはシート取付ブラケット9と略同じ幅に形成され、図6の矢印に示されるように、車両前後方向における前側端部を足元部1bに対してシート取付ブラケット9と共にスポット溶接にて固着され、その後側端部を膨出部1cの一部となる部分1dにシート取付ブラケット9と共に同様に固着されている。また、少なくともナット8の下方を覆うように形成されており、その部分においてシート取付ブラケット9と共に閉断面を形成するようになっている。なお、第2ブラケット11の固着にあってもシート取付ブラケット9と同様に適所をスポット溶接することであって良い。図6の矢印はスポット溶接箇所を説明的に示したものであり、その数や位置を特定するものではない。
【0022】
このように第2ブラケット11が設けられていることにより、前突時の段差状壁部1cに加わる力を第2ブラケット11により突っ張るようにして受けることができるため、シート取付ブラケット9の前突に対する強度を補強することができる。また、上記したように両ブラケット8・11により閉断面が形成されていることから、両ブラケット8・11による強度が増強される。さらに、サイドシル7に第2ブラケット11の一部が固着されていることから、上記したようにサイドシル7の変形し難さにより第2ブラケット11の変形も好適に抑制され、より一層シート取付ブラケット9の強度が補強される。また、この第2ブラケット11によりナット8の下方が覆われ、その第2ブラケット11が平坦面形状に形成されていることにより、第2ブラケット11の下方に燃料タンクの一部がある場合に、例えば着脱時にナット8の角などが直接燃料タンクに当たって燃料タンクが傷付いてしまうことを防止することができる。
【0023】
一方、フロントシート3の前側における車体中央側の固定にあっては、図1に示されるようにフロアトンネル2の近傍であってフロアパネル1の下面に固着された内側ブラケット12を用いて、上記と同様にボルト6によりねじ止めしている。なお、左右の両内側ブラケット12同士はフロアトンネル2の下面の対応する部分に帯状に固着された補強ブラケット13の両端部とそれぞれ結合されている。これにより、両内側ブラケット12の強度が補強されている。
【0024】
なお、図示例ではフロントシートについて示したが、リアシートにおいてもフロアパネルが同様の形状にて形成されている場合にはそのリアシートの取り付け構造にも適用し得るものである。また、シート取付ブラケット9がフロアパネル1の下面に設けられている例について示したが、上面に設けられているものにも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明が適用された自動車のフロアパネル1を上から見た要部斜視図である。
【図2】図1の矢印II−II線に沿って見た断面図である。
【図3】図1の矢印III線から見たフロアパネルの要部下面図である。
【図4】図3の矢印IV−IV線に沿って見た要部拡大断面図である。
【図5】図4の矢印V−V線に沿って見た断面図である。
【図6】ブラケットの取り付け要領を示すフロアパネルの下方から見た斜視図である。
【符号の説明】
【0026】
1 フロアパネル
1b 足元部
1c 段差状壁部
3 フロントシート(シート)
7 サイドシル
9 シート取付ブラケット
11 第2のブラケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロアパネル側に設けたシート取付ブラケットにシートの一部を結合してシートを取り付けるようにした自動車用シートの取り付け構造であって、
前記フロアパネルの側縁部に一体的に設けられたサイドシルを有し、
前記シート取付ブラケットが、前記フロアパネルにおける前記サイドシルの直近に一体的に取り付けられていることを特徴とする自動車用シートの取り付け構造。
【請求項2】
前記シート取付ブラケットが前記フロアパネルの下面に取り付けられていると共に、
前記シート取付ブラケットを下方から覆うように設けられた第2のブラケットを有し、
第2のブラケットが、前記シート取付ブラケットとの間に閉断面を形成するべく前記シート取付ブラケットにも固着されていることを特徴とする請求項1に記載の自動車用シートの取り付け構造。
【請求項3】
前記フロアパネルがシート取付側に対して段差状壁部を介して階段状に低くされた足元部を有し、
前記シート取付ブラケットの一部が、前記段差状壁部に沿って前記足元部に至る形状を有し、かつ少なくとも前記足元部に至る部分で固着されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の自動車用シートの取り付け構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−321367(P2006−321367A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−146581(P2005−146581)
【出願日】平成17年5月19日(2005.5.19)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】