説明

自動車用IPM型モータに使用される永久磁石の製造方法

【課題】 優れた耐食性、耐摩耗性および耐衝撃性を兼ね備えた、自動車用IPM型モータに使用される永久磁石の製造方法を提供すること。
【解決手段】 R−Fe−B系永久磁石の表面に、第1層目として膜厚が3〜15μmのNi被膜を電気めっき法により成膜した後、第2層目として膜厚が3〜15μmのCuまたはSn被膜を電気めっき法により成膜し、第3層目として第2層目のCuまたはSn電気めっき被膜のビッカース硬度を1とした場合に2.5〜4.5のビッカース硬度を有する膜厚が4〜7μmのNi−P合金被膜を無電解めっき法により成膜することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車用IPM型モータのロータヨーク内のスロットに挿入して使用される永久磁石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車やハイブリッドカーに搭載されるモータには、その高性能化のために、永久磁石材料の中で最も高い磁気特性を持つR−Fe−B系永久磁石(Rは希土類元素)が用いられている。このR−Fe−B系永久磁石は、反応性の高いRを含むため、大気中で酸化腐食されやすい。従って、その使用に際しては、耐食性確保のために、Niめっき被膜やAl蒸着被膜、樹脂塗装被膜などをその表面に成膜するなど、何らかの表面処理が施される。
R−Fe−B系永久磁石の耐食性をさらに向上するための方法は数多く提案されており、特許出願の数も多い。例えば、特許文献1には、耐食性に優れたR−Fe−B系永久磁石を得るため、第1の保護層としてNi被膜、第2の保護層として第1の保護層より軟質であるCuまたはSn被膜、第3の保護層として第2の保護層より硬質であるNi被膜をその表面に成膜することが開示されている。特許文献2〜4にも、耐食性向上を目的とした、Ni被膜−Cu被膜−NiまたはNi−P被膜の組み合わせの積層被膜が開示されている。特許文献5には、耐食性向上と耐摩耗性確保の目的で、硬度の低い無光沢Ni被膜と硬度の高い光沢Ni被膜の組み合わせの積層被膜が開示されている。また、特許文献6には、鉄系焼結材料の表面に、ビッカース硬度が400〜500程度のNi−P被膜を成膜し、鉄系焼結材の耐磨耗性を向上させることが開示されている。
【特許文献1】特開平1−321610号公報
【特許文献2】特開平5−205926号公報
【特許文献3】特許第3377605号公報
【特許文献4】特開平7−331486号公報
【特許文献5】特開平9−7810号公報
【特許文献6】特開2003−97429号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
電気自動車やハイブリッドカーの高性能化に伴い、これらに搭載されるモータにも高性能化が求められ、その結果、SPM型(Surface Permanent Magnet:表面磁石型)モータに替えてIPM型(Interior Permanent Magnet:内部磁石型)モータが採用されるようになった。IPM型モータは、例えば、図1に示すロータ1を用いて組み立てられるものであり、ロータ1は、珪素鋼板を積層して作製されたヨーク2内に設けられたスロット3に磁石4が挿入される構造をとる。ヨークは、珪素鋼板を打ち抜いたものを積層して作製されているため、そのスロット表面には、バリや打ち抜きの刃の痕などの凹凸がある。従って、表面に耐食性被膜が成膜されたR−Fe−B系永久磁石をスロットに挿入する際、前記凹凸によって被膜が傷つくことがあり、その結果、磁石の耐食性に問題を生じ、磁気特性が劣化し、モータの特性低下が生じるという問題があった。また、スロット内部と磁石の間のクリアランスは非常に小さく、磁石の挿入時に磁石に大きな応力が加わって、被膜に割れ欠けを生じるという問題もあった。さらに、IPM型モータの回転は、6000rpm以上にも達し、回転時にスロット内の磁石には、磁石の大きな磁気的吸引力に加えて、大きな遠心力が作用する。そのため、磁石はスロット内で径方向に移動し、磁石とヨークとの衝突が生じるので、被膜が傷ついたり磨耗したり、被膜に割れ欠けを生じたりする問題もあった。
以上のような問題に鑑みれば、自動車用IPM型モータ用のR−Fe−B系永久磁石の表面処理方法には、耐食性(容易に傷つかないこと)に加え、耐摩耗性(容易に磨耗しないこと)と耐衝撃性(容易に割れ欠けを生じないこと)が求められる。
しかしながら、耐磨耗性を確保しようとして、磁石の表面に成膜する被膜の硬度を高くすると、被膜の耐衝撃性は劣る方向に進み、被膜に割れ欠けを生じやすくなる一方、耐衝撃性を確保しようとして、被膜に柔軟性を持たせると、被膜の耐摩耗性は劣る方向に進み、被膜が傷つきやすくなったり磨耗しやすくなったりするという相反する課題を有している。従って、IPM型モータ用の磁石の表面処理方法として、上記の特許文献1〜6などに記載された従来の表面処理方法をそのまま適用したのでは、このような問題を解決できない。特許文献1〜5には、種々の積層被膜が開示されているが、その目的は耐食性の向上であり、自動車用IPM型モータに使用される磁石のような、特殊環境で使用される磁石に対し、耐磨耗性と耐衝撃性を同時に付与するといった視点からの記載や示唆はない。また、特許文献6にあるような、硬質被膜を最表層に成膜しただけでは耐磨耗性と耐衝撃性を確保できない。
そこで本発明は、優れた耐食性、耐摩耗性および耐衝撃性を兼ね備えた、自動車用IPM型モータに使用される永久磁石の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは上記の点に鑑み鋭意検討を行った結果、R−Fe−B系永久磁石の表面に、下地層として所定の膜厚のNi電気めっき被膜を介して、衝撃緩衝材としての機能を持つ所定の膜厚のCuまたはSn電気めっき被膜を積層し、最表層に所定の硬度と膜厚のNi−P合金無電解めっき被膜を成膜することにより、上記の問題を解決できることを知見した。
【0005】
上記の知見に基づいてなされた本発明の自動車用IPM型モータのロータヨーク内のスロットに挿入して使用される永久磁石の製造方法は、請求項1記載の通り、R−Fe−B系永久磁石の表面に、第1層目として膜厚が3〜15μmのNi被膜を電気めっき法により成膜した後、第2層目として膜厚が3〜15μmのCuまたはSn被膜を電気めっき法により成膜し、第3層目として第2層目のCuまたはSn電気めっき被膜のビッカース硬度を1とした場合に2.5〜4.5のビッカース硬度を有する膜厚が4〜7μmのNi−P合金被膜を無電解めっき法により成膜することを特徴とする。
また、請求項2記載の製造方法は、請求項1記載の製造方法において、第1層目の被膜をpHが6.0〜8.0に調整されたNiめっき浴を用いて成膜することを特徴とする。
また、請求項3記載の製造方法は、請求項1または2記載の製造方法において、第3層目の被膜のビッカース硬度を400〜700とすることを特徴とする。
また、請求項4記載の製造方法は、請求項1乃至3のいずれかに記載の製造方法において、第3層目の被膜をPが5〜12wt%含まれるようにすることを特徴とする。
また、請求項5記載の製造方法は、請求項1乃至4のいずれかに記載の製造方法において、第1層目〜第3層目の被膜の合計膜厚を15〜25μmとすることを特徴とする。
また、本発明の自動車用IPM型モータのロータヨーク内のスロットに挿入して使用される永久磁石は、請求項6記載の通り、R−Fe−B系永久磁石の表面に、膜厚が3〜15μmのNi電気めっき被膜を介して、膜厚が3〜15μmのCuまたはSn電気めっき被膜を有し、さらに、前記CuまたはSn電気めっき被膜のビッカース硬度を1とした場合に2.5〜4.5のビッカース硬度を有する膜厚が4〜7μmのNi−P合金無電解めっき被膜を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、衝撃緩衝材としての機能を持ち、かつ、非常に被膜硬度が高く摺動性に優れた積層被膜がR−Fe−B系永久磁石の表面に成膜されるので、自動車用IPM型モータのロータヨーク内のスロットに挿入して使用しても、被膜が傷ついたり磨耗したりすること、また、被膜に割れ欠けを生じたりすることを効果的に抑制し、磁石に優れた耐食性、耐摩耗性および耐衝撃性を付与できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の自動車用IPM型モータのロータヨーク内のスロットに挿入して使用される永久磁石の製造方法は、R−Fe−B系永久磁石の表面に、第1層目として膜厚が3〜15μmのNi被膜を電気めっき法により成膜した後、第2層目として膜厚が3〜15μmのCuまたはSn被膜を電気めっき法により成膜し、第3層目として第2層目のCuまたはSn電気めっき被膜のビッカース硬度を1とした場合に2.5〜4.5のビッカース硬度を有する膜厚が4〜7μmのNi−P合金被膜を無電解めっき法により成膜することを特徴とするものである。
【0008】
第1層目のNi電気めっき被膜は、公知のワット浴やスルファミン浴などを用いて成膜することができるが、特に、R−Fe−B系永久磁石との密着性や、磁石表面からの磁石成分の溶出を極力少なくするという観点からは、例えば、特許第2908637号公報に記載の、pHが6〜8に調整されたNiめっき浴(中性Niめっき浴)を用いることが好ましい。中性Niめっき浴を構成するめっき浴組成としては、例えば、硫酸ニッケルを70〜200g/L、クエン酸アンモニウムおよび/またはクエン酸ナトリウムを25〜150g/L、ホウ酸を10〜30g/L、塩化アンモニウムおよび/または硫酸ナトリウムを5〜50g/L、応力抑制剤を3〜15g/L含み、pHを6.0〜8.0に調整したものが挙げられる。その浴温は40〜60℃とすればよい。
【0009】
第1層目のNi電気めっき被膜の膜厚を3〜15μmと規定するのは、3μm未満では下地層としての上層めっき被膜との密着性向上の効果が得られない恐れがあり、15μmを超えるとコスト増大要因や磁石の有効体積減少につながる恐れがあるからである。
【0010】
第2層目のCuまたはSn電気めっき被膜は、衝撃緩衝材としての機能を持つ。Cu電気めっき被膜は、例えば、公知のピロリン酸銅めっき浴などを用いて成膜すればよい。ピロリン酸銅めっき浴を構成するめっき浴組成としては、例えば、ピロリン酸銅を20〜105g/L、ピロリン酸カリウムを100〜370g/L、アンモニア水を2〜5mL/L、光沢剤を適量含み、pHを8.0〜9.0に調整したものが挙げられる。その浴温は50〜60℃とすればよい。Sn電気めっき被膜は、例えば、公知の酸性スズめっき浴などを用いて成膜すればよい。酸性スズめっき浴を構成するめっき浴組成としては、例えば、硫酸第一スズを30〜50g/L、硫酸を80〜200g/L、光沢剤を適量含み、pHを0.1〜2.0に調整したものが挙げられる。その浴温は10〜30℃とすればよい。
【0011】
第2層目のCuまたはSn電気めっき被膜の膜厚を3〜15μmと規定するのは、3μm未満では衝撃緩衝材としての機能が得られない恐れがあり、15μmを超えるとコスト増大要因や磁石の有効体積減少につながる恐れがあるからである。第2層目のCuまたはSn電気めっき被膜の好ましい膜厚は、7〜15μmである。
【0012】
第3層目のNi−P合金無電解めっき被膜は、例えば、Niイオンと次亜リン酸塩を主成分とする公知の酸性浴やアルカリ性浴を用いて成膜すればよい。好適なめっき浴組成としては、例えば、硫酸ニッケルを15〜40g/L、次亜リン酸ナトリウムを20〜40g/L、その他、安定剤や錯化剤などを適量含み、pHを4.0〜5.0に調整したものが挙げられる。その浴温は80〜95℃とすればよい。
【0013】
第3層目のNi−P合金無電解めっき被膜のビッカース硬度を第2層目のCuまたはSn電気めっき被膜のビッカース硬度を1とした場合に2.5〜4.5と規定するのは、2.5未満では硬度が低すぎて、磁石をスロットに挿入する際に被膜が傷ついて磁石の耐食性に悪影響を与える恐れや、被膜が必要以上に磨耗する恐れがあり、4.5を超えると硬度が高すぎて、第2層目のCuまたはSn電気めっき被膜との間に無視できない応力がかかり、被膜に割れ欠けを発生する恐れがあるからである。第3層目のNi−P合金無電解めっき被膜の好ましいビッカース硬度は、第2層目のCuまたはSn電気めっき被膜のビッカース硬度を1とした場合に3.0〜4.0である。第2層目のCuまたはSn電気めっき被膜を上記のようなめっき浴を用いて成膜した場合、そのビッカース硬度を100〜200にできるので、この場合、第3層目のNi−P合金無電解めっき被膜のビッカース硬度は、400〜700とすることが好ましい。このようなビッカース硬度のNi−P合金無電解めっき被膜は、被膜中にPが5〜12wt%含まれるようにすることで得ることができる。被膜中のP含量は、めっき浴中のP濃度を調整することで調整できる。
【0014】
第3層目のNi−P合金無電解めっき被膜の膜厚を4〜7μmと規定するのは、4μm未満では第3層目の被膜としての機能が得られない恐れがあり、7μmを超えるとコスト増大要因や磁石の有効体積減少につながる恐れがあるからである。第3層目のNi−P合金無電解めっき被膜の好ましい膜厚は、5〜7μmである。
【0015】
なお、第1層目〜第3層目の被膜の好ましい合計膜厚は、15〜25μmである。
【実施例】
【0016】
本発明を以下の実施例と比較例によってさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、以下の実施例と比較例は、例えば、米国特許4770723号公報や米国特許4792368号公報に記載されているようにして、公知の鋳造インゴットを粉砕し、微粉砕後に成形、焼結、熱処理、表面加工を行うことによって得られた14Nd−79Fe−6B−1Co組成(at%)の縦40.45mm×横18.5mm×高さ4.5mm寸法の板状焼結磁石(以下、磁石体試験片と称する)を用いて行った。
【0017】
A.サンプル1〜5の製造方法(実施例)
(工程1)
断面形状が一辺が450mmの正六角形で長さが160mmの耐熱プラスチック製バレル治具に磁石体試験片200個と見かけ容量1.5Lの直径6.0mmのスチールボールを収容した後、このバレル治具を硝酸ナトリウム0.2mol/Lと硫酸1.5vol%を含んだ液温30℃の酸洗液に浸漬し、4rpmの回転速度で回転させながら4分間酸洗し、その後、直ちに純水(25℃)で30秒間超音波洗浄してから速やかに磁石体試験片の表面への第1層目のNi電気めっき被膜の成膜工程に移った。この成膜工程は、硫酸ニッケル・6水和物を130g/L、クエン酸アンモニウムを30g/L、ホウ酸を15g/L、塩化アンモニウムを8g/L、サッカリンを8g/L含み、アンモニア水でpHを6.5に調整した液温50℃のめっき浴を用い、バレルを4rpmの回転速度で回転させながら電流密度0.25A/dm2で行った。成膜後は、純水(25℃)にバレルを浸漬して表面にNi電気めっき被膜が成膜された磁石体試験片を十分に水洗した。
【0018】
(工程2)
次に、ピロリン酸銅を25g/L、ピロリン酸カリウムを110g/L、アンモニア水を3mL/L、光沢剤を適量含み、アンモニア水でpHを8.5に調整した液温50℃のめっき浴を用い、バレルを4rpmの回転速度で回転させながら電流密度0.23A/dm2で、第1層目のNi電気めっき被膜の表面に第2層目のCu電気めっき被膜を成膜した。成膜後は、純水(25℃)にバレルを浸漬して表面に積層電気めっき被膜が成膜された磁石体試験片を十分に水洗した。
【0019】
(工程3)
次に、Ni−P合金無電解めっき浴として、硫酸ニッケル・6水和物を27g/L、次亜リン酸ナトリウムを30g/L、その他、安定剤や錯化剤などを適量含み、アンモニア水もしくは硫酸でpHを4.0に調整した液温90℃のめっき浴を用い、バレルを4rpmの回転速度で回転させながら処理することで、第2層目のCu電気めっき被膜の表面に第3層目のNi−P合金無電解めっき被膜を成膜した。その後、純水(25℃)にバレルを浸漬して表面に3層構造の積層被膜が成膜された磁石体試験片を十分に水洗した。次に、これをバレル治具から取り出し、さらに純水(25℃)で3分間超音波洗浄してから遠心乾燥機に収容し、温度70℃で回転数500rpmという条件下で遠心乾燥を6分間行って完成品(サンプル1〜5)とした。
【0020】
B.サンプル6の製造方法(比較例)
上記のAの工程1と工程2と同様の工程によって得られた、表面に第1層目のNi電気めっき被膜と第2層目のCu電気めっき被膜が成膜された磁石体試験片に対し、Ni−P合金無電解めっき浴として、硫酸ニッケル・6水和物を20g/L、次亜リン酸ナトリウムを15g/L、その他、安定剤や錯化剤などを適量含み、アンモニア水もしくは硫酸でpHを6.0に調整した液温90℃のめっき浴を用い、バレルを4rpmの回転速度で回転させながら処理することで、第2層目のCu電気めっき被膜の表面に第3層目のNi−P合金無電解めっき被膜を成膜した。その後、純水(25℃)にバレルを浸漬して表面に3層構造の積層被膜が成膜された磁石体試験片を十分に水洗した。次に、これをバレル治具から取り出し、さらに純水(25℃)で3分間超音波洗浄してから遠心乾燥機に収容し、温度70℃で回転数500rpmという条件下で遠心乾燥を6分間行って完成品(サンプル6)とした。
【0021】
C.サンプル7の製造方法(比較例)
上記のAの工程1と工程2と同様の工程によって得られた、表面に第1層目のNi電気めっき被膜と第2層目のCu電気めっき被膜が成膜された磁石体試験片に対し、Ni電気めっき浴として、硫酸ニッケル・6水和物を240g/L、塩化ニッケル・6水和物を45g/L、ホウ酸を30g/L、2−ブチン−1,4−ジオールを0.2g/L、サッカリンを1g/L含み、炭酸ニッケルでpHを4.2に調整した液温50℃のめっき浴を用い、バレルを5rpmの回転速度で回転させながら電流密度0.2A/dm2で、第2層目のCu電気めっき被膜の表面に第3層目のNi電気めっき被膜を成膜した。その後、純水(25℃)にバレルを浸漬して表面に3層構造の積層被膜が成膜された磁石体試験片を十分に水洗した。次に、これをバレル治具から取り出し、さらに純水(25℃)で3分間超音波洗浄してから遠心乾燥機に収容し、温度70℃で回転数500rpmという条件下で遠心乾燥を6分間行って完成品(サンプル7)とした。
【0022】
上記のA〜Cで製造したサンプル1〜7の被膜の膜厚を表1に示す。また、第2層目のCu電気めっき被膜と第3層目の被膜のビッカース硬度(Hv)と両者の比率(第2層目のCu電気めっき被膜のビッカース硬度を1とした場合の第3層目の被膜のビッカース硬度)を表2に示す。なお、ビッカース硬度の測定は、被膜の表面に圧子が5gで時間が10秒の条件にて圧痕を打ち、この圧痕の大きさを測定し、ひし形の対角線の長さを換算して算出するマイクロビッカース硬度測定法に基づいて行った。
【0023】
【表1】

【0024】
【表2】

【0025】
評価1:
サンプル1,3,4,6,7に対し、モータ最大回転数を6000rpm以上とするモータ加減速耐久試験を行った。その結果、サンプル1はNi−P合金無電解めっき被膜が約2μm磨耗した。サンプル3はNi−P合金無電解めっき被膜が約5μm磨耗した。サンプル4はNi−P合金無電解めっき被膜が全て磨耗し、Cu電気めっき被膜が約3μm磨耗した(合計磨耗量は約8μm)。サンプル6のNi−P合金無電解めっき被膜はほとんど磨耗しなかったが、Cu電気めっき被膜とNi−P合金無電解めっき被膜の間で割れが発生した。サンプル7は50サイクルでNi電気めっき被膜の表面に傷が発生し、それ以上試験を続けることができなかった。
以上の結果から、最表層となる第3層目の被膜のビッカース硬度は高すぎても低すぎても優れた耐食性、耐摩耗性および耐衝撃性を磁石に付与できないことがわかった。
【0026】
評価2:
サンプル2,3,4,5の表面の任意の2箇所に1×10-4〜3×10-4Jのエネルギーを108〜109回与える過酷衝撃疲労試験を行った。その結果、いずれのサンプルの磁石体試験片にも割れ欠けが発生しなかった。サンプル2はNi−P合金無電解めっき被膜が全て磨耗し、Cu電気めっき被膜が約8μm磨耗した(合計磨耗量は約13μm)。サンプル3はNi−P合金無電解めっき被膜とCu電気めっき被膜が全て磨耗し、Ni電気めっき被膜が約3μm磨耗した(合計磨耗量は約15μm)。サンプル4とサンプル5は全ての被膜が磨耗し、磁石体試験片もその一部が磨耗した(合計磨耗量は約27μm)。
以上の結果から、第2層目のCu電気めっき被膜の膜厚が7μm以上ある場合は、5μmの場合に比較して、膜厚の差以上に磨耗量が少ないことがわかった。第3層目のNi−P合金無電解めっき被膜の下層の被膜の膜厚を制御することで耐磨耗性を著しく向上することができることは、これまでの知見からは予期できない効果であると言える。
【0027】
評価3:耐食性試験
サンプル1〜7の全てに対して、50℃×95%の恒温恒湿槽内に72時間放置するという耐食性試験を行ったところ、いずれのサンプルも錆を発生せず、優れた耐食性を有していることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、優れた耐食性、耐摩耗性および耐衝撃性を兼ね備えた、自動車用IPM型モータに使用される永久磁石の製造方法を提供することができる点において産業上の利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】IPM型モータに用いられるロータの一例の斜視図である。
【符号の説明】
【0030】
1 ロータ
2 ヨーク
3 スロット
4 磁石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車用IPM型モータのロータヨーク内のスロットに挿入して使用される永久磁石の製造方法であって、R−Fe−B系永久磁石の表面に、第1層目として膜厚が3〜15μmのNi被膜を電気めっき法により成膜した後、第2層目として膜厚が3〜15μmのCuまたはSn被膜を電気めっき法により成膜し、第3層目として第2層目のCuまたはSn電気めっき被膜のビッカース硬度を1とした場合に2.5〜4.5のビッカース硬度を有する膜厚が4〜7μmのNi−P合金被膜を無電解めっき法により成膜することを特徴とする製造方法。
【請求項2】
第1層目の被膜をpHが6.0〜8.0に調整されたNiめっき浴を用いて成膜することを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
第3層目の被膜のビッカース硬度を400〜700とすることを特徴とする請求項1または2記載の製造方法。
【請求項4】
第3層目の被膜をPが5〜12wt%含まれるようにすることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
第1層目〜第3層目の被膜の合計膜厚を15〜25μmとすることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
自動車用IPM型モータのロータヨーク内のスロットに挿入して使用される永久磁石であって、R−Fe−B系永久磁石の表面に、膜厚が3〜15μmのNi電気めっき被膜を介して、膜厚が3〜15μmのCuまたはSn電気めっき被膜を有し、さらに、前記CuまたはSn電気めっき被膜のビッカース硬度を1とした場合に2.5〜4.5のビッカース硬度を有する膜厚が4〜7μmのNi−P合金無電解めっき被膜を有することを特徴とする永久磁石。

【図1】
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【公開番号】特開2006−158012(P2006−158012A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−341118(P2004−341118)
【出願日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(000183417)株式会社NEOMAX (121)
【Fターム(参考)】