説明

自動車足回り部品およびその製造方法

【課題】軽量であり、かつ優れた強度を有する自動車足回り部品およびその製造方法を提供する。
【解決手段】自動車足回り部品10は、抜き穴hを有するアルミニウム合金製で、結晶粒が粗大化していない箇所である正常部の耐力が270MPa以上であり、リブ11における抜き穴h側の所定部位であるリブ部端から、ウエブ12における抜き穴h側の所定部位である抜き穴部端までの最短長さが6mm以上であることを特徴とする。
自動車足回り部品の製造方法は、鋳塊素材作製工程と、熱処理工程と、成形加工工程と、鍛造工程と、抜き穴形成工程と、調質処理工程と、を含み、リブにおける前記抜き穴側の所定部位であるリブ部端から、ウエブにおける抜き穴側の所定部位である抜き穴部端までの最短長さが6mm以上である自動車足回り部品とすることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽量化の可能な抜き穴を有する自動車用足回り部品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車足回り部品としては、一般に6000系(JIS6000系)のアルミニウム合金、例えば、6106、6111、6003、6151、6061、6N01、6063等のアルミニウム合金が用いられている。このような6000系アルミニウム合金の鍛造材は、高強度かつ高靱性で、耐食性にも比較的優れている。また、6000系アルミニウム合金自体も、合金元素量が少なく、スクラップを再び6000系アルミニウム合金溶解原料として再利用しやすい点で、リサイクル性にも優れている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
このような6000系アルミニウム合金の使用により、自動車の高強度化を実現することができる。一方で、近年、自動車から排出されるCOによる温暖化の問題が深刻になっている。このような自動車から排出されるCOを削減するためには、自動車の軽量化が有効である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−163445号公報
【特許文献2】特開2008−223108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
自動車足回り部品では、軽量化を図ると共に、強度を確保することも重要である。ここで、従来の自動車足回り部品においては、軽量化のため、自動車足回り部品に抜き穴を形成することが考えられるが、本発明者らの研究の結果、抜き穴の形成により、リブの内側(抜き穴を形成する側)近傍の部位に粗大な結晶粒が生成し、この部位の耐力が低下することで自動車足回り部品の強度が低下することがわかった。
【0006】
本発明は、前記問題点に鑑みてなされたものであり、軽量であり、かつ優れた強度を有する自動車足回り部品およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明に係る自動車足回り部品(以下、適宜、足回り部品という)は、抜き穴を有するアルミニウム合金製の自動車足回り部品であって、結晶粒が粗大化していない箇所である正常部の耐力が270MPa以上であり、リブにおける前記抜き穴側の所定部位であるリブ部端から、ウエブにおける前記抜き穴側の所定部位である抜き穴部端までの最短長さが6mm以上であることを特徴とする。
【0008】
このような構成によれば、抜き穴を有することで、足回り部品が軽量となり、正常部の耐力が270MPa以上であることで、足回り部品としての耐力が優れたものとなる。また、リブ部端から抜き穴部端までの最短長さが6mm以上であることで、再結晶により結晶粒が粗大化した部位である再結晶部がリブに生じず、足回り部品の強度が低下しない。
【0009】
本発明に係る自動車足回り部品の製造方法は、結晶粒が粗大化していない箇所である正常部の耐力が270MPa以上であり、かつ抜き穴を有するアルミニウム合金製の自動車足回り部品の製造方法であって、鋳塊素材を作製する鋳塊素材作製工程と、前記鋳塊素材に熱処理を行う熱処理工程と、前記熱処理された鋳塊素材に成形加工を行う成形加工工程と、前記成形加工された成形加工材に鍛造を行う鍛造工程と、前記鍛造された鍛造材に抜き穴を形成する抜き穴形成工程と、前記抜き穴を形成した抜き穴形成部材に調質処理を行う調質処理工程と、を含み、前記鍛造工程において、前記抜き穴を形成する部位である抜き穴形成部位を形成し、前記抜き穴形成工程において、前記抜き穴形成部位を除去することで、リブにおける前記抜き穴側の所定部位であるリブ部端から、ウエブにおける前記抜き穴側の所定部位である抜き穴部端までの最短長さが6mm以上である自動車足回り部品とすることを特徴とする。
【0010】
このような製造方法によれば、鍛造工程で抜き穴形成部位を形成し、抜き穴形成工程で抜き穴形成部位を除去することで、リブ部端から抜き穴部端までの最短長さを6mm以上とすることによって、足回り部品が軽量化すると共に、リブに再結晶部を生じさせず、強度に優れる足回り部品を製造することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る自動車足回り部品によれば、抜き穴を形成することで軽量化することができ、自動車から排出されるCOを削減することができる。また、抜き穴を形成しても、自動車足回り部品としての優れた強度を有する。
本発明に係る自動車足回り部品の製造方法によれば、軽量であり、かつ強度に優れる自動車足回り部品を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】(a)は、本発明に係る自動車足回り部品を示す模式図、(b)は、(a)のX−X線による断面図であって、リブ部端から抜き穴部端までの最短長さを説明するための模式図である。
【図2】(a)、(b)は、自動車足回り部品の再結晶部について説明するための模式図である。
【図3】本発明に係る自動車足回り部品の製造方法のフローチャートである。
【図4】(a)、(b)は、抜き穴形成工程におけるトリミング方法の概略を示す説明図である。
【図5】(a)は、実施例における試験材を示す模式図、(b)は、実施例における試験材の荷重と変位の関係を示す、荷重−変位線図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る自動車足回り部品およびその製造方法について、図面を参照して詳細に説明する。
【0014】
<自動車足回り部品>
図1(a)、(b)に示すように、本発明に係る自動車足回り部品(以下、適宜、足回り部品という)10は、抜き穴hを有するアルミニウム合金製の自動車足回り部品10である。
ここで、足回り部品10とは、例えば、サスペンションアーム(L字)、ロアーアーム、アッパーアーム、ナックル、リンク(I字)等のことをいい、図1(a)では、アッパーアームの形態を示している。
そして足回り部品10は、結晶粒が粗大化していない箇所である正常部(図2参照)の耐力が270MPa以上であり、リブ11における抜き穴h側の所定部位であるリブ部端から、ウエブ12における抜き穴h側の所定部位である抜き穴部端までの最短長さ(以下、適宜、最短長さという)dが6mm以上である。
以下、各構成について説明する。
【0015】
[アルミニウム合金]
足回り部品10の材質としては、アルミニウム合金を用いるが、前記したように、一般的には、高強度かつ高靱性で、耐食性にも比較的優れている6000系(JIS6000系)のアルミニウム合金を用いる。6000系アルミニウム合金は、それ自体も合金元素量が少なく、スクラップを再び6000系アルミニウム合金溶解原料として再利用しやすい点で、リサイクル性にも優れているという特徴を有する。6000系のアルミニウム合金としては、例えば、6106、6111、6003、6151、6061、6N01、6063等が挙げられる。
【0016】
[正常部の耐力:270MPa以上]
本発明において正常部とは、結晶粒が粗大化していない箇所をいう。
足回り部品10の製造過程においては、抜き穴hを形成するためのせん断を行うために、抜き穴hを形成するための所定範囲、すなわち穴を抜く部分を薄くし、抜き穴hを形成するための部位である抜き穴形成部位を形成する必要がある。この抜き穴形成部位が厚いと、バリ13がむしれたようになり、ウエブ12の内側(抜き穴h側)の形状が不良となる。
【0017】
具体的には、例えば、外径70〜80mmである成形加工材を、鍛造により厚さ5〜30mmまで薄くした後、さらに穴を抜く部分を1〜3mmまで薄くし、抜き穴形成部位を形成する。このように成形加工材の抜き穴形成部位を薄くすると、バリ13近傍からウエブ12にかけて大きな鍛造ひずみが発生する。そして、抜き穴hを形成した抜き穴形成部材を熱処理すると、ひずみが多く溜まっている箇所に熱を加えることになるため、バリ13近傍からウエブ12にかけて結晶粒が再結晶し、結晶粒が粗大化する。
【0018】
このように、再結晶により結晶粒が粗大化していない箇所を正常部といい、例えば、リブ11の部分(リブ部)やウエブ12の一部(ウエブ12におけるバリ13近傍以外の部分)が該当する(図2(a)参照)。また、結晶粒が粗大化していない箇所とは、再結晶率が10%以下の部分をいう。
【0019】
そして、この正常部の耐力を270MPa以上とする。正常部の耐力を270MPa以上とすることで、足回り部品10として優れた強度を有するものとなる。
耐力は、例えばJIS Z 2241により測定することができ、再結晶率は、例えば断面ミクロ組織観察(光学顕微鏡)により測定することができる。
【0020】
[リブ部端から抜き穴部端までの最短長さ:6mm以上]
本発明においてリブ部端とは、足回り部品10のリブ11における抜き穴h側の所定部位、すなわち、リブ11の内側(ウエブ12側)の端部のことであり、抜き穴部端とは、足回り部品10のウエブ12における抜き穴h側の所定部位、すなわち、ウエブ12の内側(抜き穴h側)の端部のことである。そして、本発明では、リブ部端および抜き穴部端について、より具体的に以下のように定める。
【0021】
図1(b)に示すように、リブ11の横側面に沿って直線(水平)A1を引き、リブ11の内側の縦側面の斜面に沿って直線A2を引く。この直線A1と直線A2との交点を軸にして、直線A1に対して垂直に線を引き、この線とリブ11が重なる部位をリブ部端とする。また、ウエブ12の横側面に沿って直線(水平)B1を引き、ウエブ12の内側の縦側面の斜面に沿って直線B2を引く。この直線B1と直線B2との交点を軸にして、直線B1に対して垂直に線を引き、この線とウエブ12が重なる部位を抜き穴部端とする。なお、直線A2の傾きは、機械プレスする製品(メカプレ製品)であれば、通常、鍛造材を金型から離型させるために必要な1〜5°とする。
また、図1(b)に示すように、足回り部品10の断面の形状は、足回り部品10の表側(紙面において、上側)と裏側(紙面において、下側)で寸法が多少異なるが、本発明におけるリブ部端と抜き穴部端の規定においては、リブ部端から抜き穴部端までの長さが短くなる方、すなわち、最短距離となる方を基準にして規定する。
【0022】
そして、このリブ部端から抜き穴部端までの最短長さdを6mm以上とする。
足回り部品10は、軽量化のために抜き穴hを形成しているが、図2(a)に示すように、抜き穴hがリブ11から離れている場合(すなわち、最短長さdが6mm以上の場合)には、再結晶により結晶粒が粗大化した部位(以下、適宜、再結晶部という)gがリブ11に生じることはないが、図2(b)に示すように、足回り部品100において、抜き穴hの位置がリブ11に近くなると(すなわち、最短長さdが6mm未満の場合)、抜き穴hの形成により、リブ11の内側近傍の部位に再結晶部gが生じてしまう。
この再結晶部gは、正常部に比べて耐力が低下するため、リブ11に再結晶部gが生じると、この部位の耐力が低下し足回り部品100の強度が低下する。このような現象を回避するため、最短長さdを6mm以上とすることが必要である。最短長さdが6mm以上であれば、リブ11に再結晶部gが生じることがない。
【0023】
<その他>
リブ11の高さは、リブ11が低いと軽量化効果が小さく、逆にリブ11が高いと成形が困難になるため、10〜70mmが好ましい。ウエブ12の厚みは、ウエブ12が薄いと成形が困難であり、逆にウエブ12が厚いと軽量化効果が小さいため、5〜10mmが好ましい。バリ13(抜き穴を形成する部位)の厚みは、せん断加工でムシレ等の不良を発生させないため、また、過大な変形成形荷重を防止するため、1〜3mmが好ましい。前記直線A2を引いた側の斜面の曲率半径Rは、鍛造成形不良による欠陥を防止するため、2〜15mmが好ましい。
なお、ウエブ12の厚みや、前記曲率半径Rは、リブ11における再結晶部gの耐力とは無関係である。
【0024】
<自動車足回り部品の製造方法>
図3に示すように、本発明に係る自動車足回り部品の製造方法(以下、適宜、足回り部品の製造方法という)は、結晶粒が粗大化していない箇所である正常部の耐力が270MPa以上であり、かつ抜き穴を有するアルミニウム合金製の自動車足回り部品の製造方法であって、鋳塊素材作製工程S1と、熱処理工程S2と、成形加工工程S3と、鍛造工程S4と、抜き穴形成工程S5と、調質処理工程S6と、を含む。以下、各工程について説明する。なお、アルミニウム合金、耐力および抜き穴については、前記足回り部品で説明したとおりであるので、ここでは説明を省略する。
【0025】
<鋳塊素材作製工程>
鋳塊素材作製工程S1は、鋳塊素材を作製する工程である。
鋳塊素材作製工程S1は、アルミニウム合金を溶解、鋳造して鋳塊を作製する溶解鋳造工程と、鋳塊を所定の長さに切断する切断工程とからなる。
【0026】
溶解鋳造工程では、所定の組成を有するアルミニウム合金を溶解した溶湯から、例えば、直径が70mmの長尺の丸棒状鋳塊を作製する。アルミニウム合金を溶解、鋳造する方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いればよい。例えば、真空誘導炉を用いて溶解し、連続鋳造法や、半連続鋳造法を用いて鋳造することができる。
【0027】
切断工程では、鋳塊(長尺の丸棒状鋳塊)を切断機によって、例えば、長さ/直径の比が3以上の鋳塊素材(丸棒素材)に切断する。なお、この切断の前に、鋳塊にピーリングを行ってもよい。
【0028】
<熱処理工程>
熱処理工程S2は、前記鋳塊素材に熱処理(均質化熱処理)を行う工程である。
鋳塊素材に熱処理を施すことによって、鋳造時に晶出した金属間化合物を拡散固溶させて組織が均質化される。熱処理は、加熱炉において、通常の条件で行えばよい。この条件で熱処理を行うことで、十分な均質化を行うことができる。なお、熱処理には、空気炉、誘導加熱炉、硝石炉等が適宜用いられる。
【0029】
<成形加工工程>
成形加工工程S3は、前記熱処理された鋳塊素材に成形加工を行う工程である。
成形加工としては、ロール成形や曲げ加工が挙げられる。
ロール成形は、ロール成形装置によって、例えば、鋳塊素材を段付きロール成形材とする。ここで、I字型以外の形状部材、例えば、L字型のサスペンションアーム等を作製する場合には、ロール成形後に曲げ加工を行う。曲げ加工は、例えば、プレス金型に備えられた曲げ加工用金型により行うことができる。
【0030】
<鍛造工程>
鍛造工程S4は、前記成形加工された成形加工材に鍛造を行う工程である。
熱処理後に、一旦室温まで冷却された鋳塊素材(成形加工材)は、鍛造開始温度まで再加熱される。そして、メカニカルプレスによる鍛造や油圧プレスによる鍛造等により熱間鍛造して、足回り部品の最終製品形状に鍛造加工される。
この鍛造は、例えば、荒鍛造である一次鍛造と、中間鍛造である二次鍛造と、仕上げ鍛造とからなる。一次鍛造は、成形加工材を第一鍛造用金型でプレスする工程であり、この工程により一次プレス材が成形される。二次鍛造は、一次プレス材を第二鍛造用金型でプレスする工程であり、この工程により二次プレス材が成形される。仕上げ鍛造は、二次プレス材を仕上げ鍛造用金型でプレスする工程であり、この工程により、鍛造材が製造される。これら一次鍛造、二次鍛造、仕上げ鍛造は、途中で再加熱を行うことなく、一貫して行われる。鍛造は、例えば、鍛造開始温度を400〜550℃とする条件で行えばよい。
【0031】
そして、この鍛造工程S4において、抜き穴を形成する部位である抜き穴形成部位を形成する。
この抜き穴形成部位の厚さは、例えば、1〜3mmとする。また、鍛造により抜き穴形成部位の範囲を調整することで、抜き穴形成工程S5における抜き穴形成部位の打ち抜き後、最短長さが6mm以上となる足回り部品とすることができる。すなわち、抜き穴部端の位置調整を、抜き穴形成部位を調整することにより行うことができる。
【0032】
なお、この鍛造工程S4において、例えば、圧下率は40〜90%である。さらには、圧下率が高いところがウエブの内側(抜き穴を形成する側)になるように鍛造する。
【0033】
<抜き穴形成工程>
抜き穴形成工程S5は、前記鍛造された鍛造材に抜き穴を形成する工程である。
抜き穴形成工程S5においては、抜き穴形成部位を除去することで抜き穴を形成し、これにより、リブにおける前記抜き穴側の所定部位であるリブ部端から、ウエブにおける前記抜き穴側の所定部位である抜き穴部端までの最短長さが6mm以上である足回り部品とすることができる。
【0034】
抜き穴の形成は、従来公知の方法で行うことができる。例えば、図4(a)、(b)に示すような、バリ1bのせん断除去と同時に、製品部1aに抜き穴1cを形成させるトリミング装置51により行うことができる。トリミング装置51では、(1)抜き型52およびポンチ57の上に鍛造材1を載置する。(2)抜き型52の上方に配置されたポンチ55を、抜き型52の穴部53に挿入して、鍛造材1を穴部53の下方に押し込むことにより、エッジ部54の刃54aによって、鍛造材1のバリ1bがせん断除去される。それと同時に、バリ1dが除去され、抜き穴1cが形成される。このように、トリミング装置51では、ポンチ55、57の1回のプレス上下動でバリ1bのせん断除去(トリミング)と抜き穴1cの形成とを行っている。
【0035】
<調質処理工程>
調質処理工程S6は、前記抜き穴を形成した抜き穴形成部材に調質処理を行う工程である。具体的には、前記抜き穴を形成した抜き穴形成部材に溶体化処理を行った後、焼き入れ処理を行い、その後、時効硬化処理を行う。
鍛造後、足回り部品としての必要な強度および靱性、耐食性を得るため、T6、T7等の調質処理を行う。T6は、溶体化および焼き入れ処理後、最大強さを得る人工時効硬化処理である。T7は、溶体化および焼き入れ処理後、最大強さを得る人工時効硬化処理条件を超えた条件にて行う過剰時効硬化処理である。すなわち、調質処理工程S6は、溶体化処理工程と、焼き入れ処理工程と、時効硬化処理工程とからなる。
【0036】
溶体化処理は、通常の条件、例えば、520〜570℃の温度範囲に1〜7時間保持する条件で行えばよい。なお、溶体化処理には、空気炉、誘導加熱炉、硝石炉等が適宜用いられる。また、焼き入れ処理も、通常の条件で行えばよい。
【0037】
時効硬化処理は通常の条件、例えば、170〜220℃の温度範囲と、3〜6時間の保持時間の範囲から、前記T6、T7等の調質処理の条件を選択すればよい。なお、時効硬化処理には、空気炉、誘導加熱炉、オイルバス等が適宜用いられる。
【0038】
なお、本発明を行うにあたり、前記各工程に悪影響を与えない範囲において、前記各工程の間あるいは前後に、他の工程を含めてもよい。例えば、ごみ等の異物を除去する異物除去工程や、調質処理工程S6の前後に、足回り部品として必要な、機械加工や表面処理等を適宜施す機械加工工程、表面処理工程等を含めてもよい。
【実施例】
【0039】
以上、本発明を実施するための形態について述べてきたが、以下に、本発明の効果を確認した実施例を、本発明の要件を満たさない比較例と対比して具体的に説明する。なお、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0040】
<供試材の作製>
まず、JIS6061合金の組成を有するアルミニウム合金鋳塊を溶解、連続鋳造して、鋳塊素材を作製した。この鋳塊素材を均質化熱処理した後、ロール成形、曲げ加工を行い、成形加工材とした。次に、この成形加工材を加熱して熱間鍛造した後、一部を除き、抜き穴を形成した。その後、T6処理として、順次、溶体化処理、焼き入れ処理、人工時効硬化処理を施し、図5(a)に示す形状の全ての部位での耐力が270MPa以上を有する試験材とした。
また、リブ部端から抜き穴部端までの最短長さdが、表1に示す値となるように調整した。
【0041】
<評価方法>
この試験材に対して、質量を測定すると共に、試験材強度、正常部の耐力、再結晶部の耐力、リブ部の再結晶率を測定した。
【0042】
[質量]
質量は、抜き穴を形成しなかったもの(比較例3)の質量を100とした場合の相対質量として算出した。そして、数値が100よりも小さいものを軽量化されているものとした。
【0043】
[試験材強度]
試験材強度は、試験材のブッシュ部を固定し、ボールジョイント部に荷重を加える強度試験を実施し、降伏強度(耐力)を測定することにより行った。試験材の荷重と変位の関係を示す、荷重−変位線図を図5(b)に示す。
そして、抜き穴を形成しなかったもの(比較例3)の試験材強度を100とした場合の相対強度として算出した。そして、数値が100のものを材料強度に優れるものとした。
【0044】
[耐力]
耐力として、正常部の耐力、再結晶部の耐力を、JIS Z 2241により測定した。そして、抜き穴を形成しなかったもの(比較例3)の正常部の耐力を100とした場合の相対強度として算出した。
【0045】
[再結晶率]
再結晶率として、リブ部の再結晶率を断面ミクロ組織観察(光学顕微鏡)により測定した。
これらの結果を表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
表1に示すように、実施例1〜3は、本発明の範囲を満たすため、抜き穴を形成しなかったもの(比較例3)に比べて質量が小さく、軽量化を実現できていた。また、試験材強度が比較例3と同等であり、材料強度に優れていた。さらに、耐力にも優れており、リブ部の再結晶率も比較例1、2に比べて低かった。
【0048】
一方、比較例1〜3は、本発明の範囲を満たさないため、以下の結果となった。
比較例1、2は、リブ部端から抜き穴部端までの最短長さ(d)が本発明の範囲を満たさないため、試験材強度に劣った。
比較例3は、抜き穴を形成していないため、質量が大きく、軽量化を図ることができなかった。
なお、6061以外の他の合金(6106、6111、6003、6151、6N01、6063等)でも、本発明の構成を満たすものは、本発明の構成を満たさないものに比べ、6061合金と同様に優れた結果が得られた。
【0049】
以上、本発明について実施の形態および実施例を示して詳細に説明したが、本発明の趣旨は前記した内容に限定されることなく、その権利範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて広く解釈しなければならない。なお、本発明の内容は、前記した記載に基づいて広く改変・変更等することが可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0050】
10 自動車足回り部品(足回り部品)
11 リブ
12 ウエブ
13 バリ(内バリ)
d リブ部端から抜き穴部端までの最短長さ
h 抜き穴
g 再結晶部
S1 鋳塊素材作製工程
S2 熱処理工程
S3 成形加工工程
S4 鍛造工程
S5 抜き穴形成工程
S6 調質処理工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抜き穴を有するアルミニウム合金製の自動車足回り部品であって、
結晶粒が粗大化していない箇所である正常部の耐力が270MPa以上であり、
リブにおける前記抜き穴側の所定部位であるリブ部端から、ウエブにおける前記抜き穴側の所定部位である抜き穴部端までの最短長さが6mm以上であることを特徴とする自動車足回り部品。
【請求項2】
結晶粒が粗大化していない箇所である正常部の耐力が270MPa以上であり、かつ抜き穴を有するアルミニウム合金製の自動車足回り部品の製造方法であって、
鋳塊素材を作製する鋳塊素材作製工程と、
前記鋳塊素材に熱処理を行う熱処理工程と、
前記熱処理された鋳塊素材に成形加工を行う成形加工工程と、
前記成形加工された成形加工材に鍛造を行う鍛造工程と、
前記鍛造された鍛造材に抜き穴を形成する抜き穴形成工程と、
前記抜き穴を形成した抜き穴形成部材に調質処理を行う調質処理工程と、を含み、
前記鍛造工程において、前記抜き穴を形成する部位である抜き穴形成部位を形成し、前記抜き穴形成工程において、前記抜き穴形成部位を除去することで、リブにおける前記抜き穴側の所定部位であるリブ部端から、ウエブにおける前記抜き穴側の所定部位である抜き穴部端までの最短長さが6mm以上である自動車足回り部品とすることを特徴とする自動車足回り部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−189851(P2011−189851A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−58167(P2010−58167)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】