説明

自己位置標定装置

【課題】道路データのない地域における自車両位置を特定することを可能とした自己位置標定装置を得る。
【解決手段】測位情報を定期的に取得し、自車両位置の観測値を生成する観測値生成手段2と、自車両位置の観測値を入力し、前回時刻に推定した自車両位置の予測値と観測値との差分から単位時間当たりの移動速度推定値を算出する推定速度算出手段3と、自車両の車軸回転数を検出する回転数検出手段4と、観測値の生成タイミングごとに、回転数検出手段で検出された車軸回転数に基づいて移動速度実測値を算出する実測速度算出手段5と、移動速度推定値と移動速度実測値との差分であるドリフト量を算出し、ドリフト量の大きさに応じて自車両位置の観測値を補正して今回時刻の自車両位置の予測値を推定する自車両位置予測手段6とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測位情報を利用して自車両位置を予測する自己位置標定装置に関し、特に、道路データのない地域における測位情報の補正を、道路データとのマップマッチングによる補完処理を行わずに、緯度、経度および高度の単位時間あたりの振幅量を計測することによって実行可能とする自己位置標定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の自己位置標定装置は、地図データを利用して地図中の道路上に自車両位置を特定するマップマッチング機能を有し、自車両位置を地図上に表示するものがある。ドライバーは、表示された地図上で自車両が位置する道路と実際の走行路とが一致しないと判断した場合には、補正指示を入力可能である。この補正指示の入力を受けて、自己位置標定装置は、所定の補正処理により補正自車両位置を求め、その補正自車両位置を地図上に表示していた(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2000−74679号公報(第1頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来技術には次のような課題がある。自車両の位置(以下、自己位置という)をGPS(Global Positioning System:全地球測位システム)で標定するシステムにおいて、1sec毎に収集されるGPSの測位情報は、ばらつきがあり、特に、高度情報のばらつきは、車両静止時においても、40〜50m程度と大きい。さらに、緯度・経度においても、20m前後のばらつきが発生する。そのため、車両が走行中、地図上の道路から自車両位置が逸脱する状況が生じていた。
【0005】
車両が道路を走行中であれば、GPSアンテナから受信した測位信号を基に自己位置情報を算出し、ロードマップに格納された道路データとのマップマッチングを行って、測位自己位置情報の補完処理を行うことにより、自己位置の補正がある程度は可能であった。
【0006】
しかし、道路のない地域(例えば演習場、工事現場あるいはグランド等)での自己位置標定は、地図(道路)情報がなく補完処理等が困難となるため、観測値をそのまま使用するしかない。したがって、従来技術では、道路データのない地域における自己位置の補正には制約が生じていた。
【0007】
本発明は上述のような課題を解決するためになされたもので、道路データのない地域における自車両位置を特定することを可能とした自己位置標定装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る自己位置標定装置は、測位情報を利用して自車両位置の予測値を推定する自己位置標定装置において、測位情報を定期的に取得し、自車両位置の観測値を生成する観測値生成手段と、観測値生成手段により定期的に生成された自車両位置の観測値を入力し、前回時刻に推定された自車両位置の予測値と観測値との差分である変化量から単位時間当たりの移動速度推定値を算出する推定速度算出手段と、自車両の車軸回転数を検出する回転数検出手段と、観測値生成手段による観測値の生成タイミングごとに、回転数検出手段で検出された車軸回転数に基づいて移動速度実測値を算出する実測速度算出手段と、移動速度推定値と移動速度実測値との差分であるドリフト量を算出し、ドリフト量の大きさに応じて自車両位置の観測値を補正して今回時刻の自車両位置の予測値を推定する自車両位置予測手段とを備えたものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、測位情報に基づいて算出される移動速度推定値と、車軸回転数の実測値に基づいて算出される移動速度実測値との差分の大きさに応じて自車両位置の観測値を補正して自車両位置の予測値を求めることにより、道路データに依存せずに、道路データのない地域における自車両位置を特定することを可能とした自己位置標定装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の自己位置標定装置の好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。
本発明の自己位置標定装置は、車軸回転数の実測値を得るための回転数検出手段を備え、GPS等からの測位情報に基づいて算出される移動速度推定値と、車軸回転数の実測値に基づいて算出される移動速度実測値との差分であるドリフト量の大きさに応じて、測位情報に基づいて算出される自車両位置の観測値を補正することにより、道路データとのマップマッチングによる補完処理を行わずに自車両位置の予測値を特定できる点を特徴とするものである。
【0011】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1における自己位置標定装置の構成図である。図1における自己位置標定装置は、GPSアンテナ1、観測値生成手段2、推定速度算出手段3、回転数検出手段4、実測速度算出手段5、自車両位置予測手段6、デジタルマップメモリ7、および表示手段8で構成される。
【0012】
次に、動作について説明する。GPSアンテナ1は、GPS衛星から測位情報を受信する。そして、観測値生成手段2は、GPSアンテナ1により受信された測位情報から自車両位置の観測値を生成する。一例として、観測値生成手段2は、測位情報を、緯度情報、経度情報および高度情報に変換する。この情報は、例えば、1秒周期で更新される。
【0013】
次に、推定速度算出手段3は、観測値生成手段2により定期的に生成された自車両位置の観測値を入力し、すでに自車両位置予測手段6で推定された前回時刻の自車両位置の予測値と、入力した自車両位置の観測値との差分である変化量から単位時間当たりの移動速度推定値を算出する。
【0014】
一方、回転数検出手段4は、自車両のシャフトの車軸回転数を検出する。さらに、実測速度算出手段5は、回転数検出手段4により得られた車軸回転数に基づいて、観測値生成手段2による前記自車両位置の観測値の生成タイミングごとに単位時間当たりの移動速度実測値を算出する。
【0015】
例えば、GPS衛生から受信した時刻情報が1秒間隔である場合に、実測速度算出手段5は、回転数検出手段4で検出される車軸回転数を1サンプルの間カウントして角速度を算出する。さらに、実測速度算出手段5は、車軸の半径と角速度を用いて、速度を算出することにより、単位時間当たりの移動速度実測値を求めることができる。
【0016】
次に、自車両位置予測手段6は、推定速度算出手段3で算出された単位時間当たりの移動速度推定値と、実測速度算出手段5で算出された単位時間当たりの移動速度実測値との差分であるドリフト量を算出する。さらに、自車両位置予測手段6は、ドリフト量の大小に応じて、自車両位置の観測値と前回時刻に推定した自車両位置の予測値とに基づいて、今回時刻の自車両位置の予測値を推定する。
【0017】
図2は、本発明の実施の形態1におけるデジタルマップメモリ7に記憶されたデジタルマップの概念図である。デジタルマップメモリ7には、道路データおよび標高データがデジタルマップとして格納される。デジタルマップは、図2に示すように、例えば、地形の表面25m毎に標高値を設定した地図情報としてデジタルマップメモリ7に記憶されている。
【0018】
表示手段8は、自車両位置予測手段6で算出された自車両位置の予測値、およびデジタルマップメモリ7に蓄積されたデジタルマップに基づいて、地図上に自車両位置の予測値を表示する。このようにして、本発明の実施の形態1における自己位置標定装置は、観測値と道路データとのマップマッチングによる補完処理を行う必要がなく、道路データのない地域を走行している状態においても、自車両位置を表示することができる。
【0019】
図3は、本発明の実施の形態1における推定速度算出手段3および自車両位置予測手段6による自車両位置の予測値の算出アルゴリズムを説明するためのフローチャートである。
【0020】
ステップS301において、推定速度算出手段3は、観測値生成手段2からの最新の緯度情報、経度情報および高度情報と、前回時刻に自車両位置予測手段6により推定された自車両位置の予測値における緯度、経度、高度値とを用いて、例えば、1秒当たりの緯度、経度および高度の変化量を求める。
【0021】
緯度方向の変化量Ne、経度方向の変化量Ee、および高度方向の変化量Heは、それぞれ最新の観測位置から1秒前に推定された前回値を引くことにより、次式によって求められる。
Ne=NO−NPn−1
Ee=EO−EPn−1
He=HO−HPn−1
【0022】
ここで、右辺のそれぞれの記号は、NOが自車両位置に関する緯度方向の最新の観測値、NPn−1が自車両位置に関する緯度方向の前回の予測値、EOが自車両位置に関する経度方向の最新の観測値、EPn−1が自車両位置に関する経度方向の前回の予測値、HOが自車両位置に関する高度方向の最新の観測値、そしてHPn−1が自車両位置に関する高度方向の前回の予測値を示している。
【0023】
次に、ステップS302において、推定速度算出手段3は、各々の変化量を合成して振幅量を算出する。この振幅量は、変化量に基づいて算出された1秒当たりの移動速度推定値に相当する。
【0024】
次に、ステップS303において、自車両位置予測手段6は、実測速度算出手段5で算出された移動速度実測値Vを振幅量から減算することにより、ドリフト量Veを算出する。このドリフト量Veは、次式によって求められる。
Ve=|√{(Ne2+(Ee2+(He2}−V
【0025】
次に、ステップS304において、自車両位置予測手段6は、ステップS303で算出したドリフト量Veの大きさに応じて、フィルタゲインを設定する。一例として、ドリフト量Veが所定値5m/sよりも小さい場合には、自車両位置予測手段6は、フィルタゲインを1に近づけ、ドリフト量Veが5m/s以上の場合には、フィルタゲインを0に近づける。
【0026】
自車両位置予測手段6は、フィルタゲインを設定する際に、ドリフト量Veと所定値の比較結果に基づき、あらかじめ決められた増減量を加減算することにより新たなフィルタゲインを算出できる。あるいは、ドリフト量に応じたフィルタゲインの設定テーブルをあらかじめ有しておくことによっても、算出したドリフト量Veからフィルタゲインを一義的に決定することができる。
【0027】
さらに、ステップS305において、自車両位置予測手段6は、ドリフト量Veの大きさに応じたフィルタゲインを用いて、今回時刻における最新の自車両位置の予測値を算出する。今回時刻の自車両位置の予測値Pは、次式によって求められる。
=Pn−1+α(O−Pn−1
【0028】
ここで、右辺のそれぞれの記号は、Pn−1が前回時刻において推定された自車両位置の予測値、αが位置フィルタゲイン、Oが今回時刻における観測値生成手段2で生成された自車両位置の観測値を示している。
【0029】
自車両位置予測手段6は、ドリフト量Veが大きい場合には、観測値Oの誤差が大きいと判断して、観測値Oの影響を抑えて前回時刻の予測値に近い値を使用して今回時刻の自車両位置の予測値Pを算出する。逆に、ドリフト量Veが小さい場合には、自車両位置予測手段6は、観測値Oの誤差が小さいと判断して、観測値を積極的に使用して今回時刻の自車両位置の予測値Pを算出する。
【0030】
このように構成された自己位置標定装置において、自車両位置予測手段6は、ドリフト量Veが所定値よりも大きい場合には、前回時刻の自車両位置の予測値Pn−1の外挿値に近い予測値を自車両の走行位置に設定することが可能になる。逆に、ドリフト量Veが所定値よりも小さい場合には、観測値Oに近い予測値を自車両の走行位置に設定することが可能になる。
【0031】
以上のように、実施の形態1によれば、測位情報にばらつきが含まれている場合にも、測位情報に基づいて算出される移動速度推定値と、車軸回転数の実測値に基づいて算出される移動速度実測値との差分の大きさに応じて、測位情報のばらつきの影響を低減した適切な自車両位置の予測値を推定できる。
【0032】
さらに、観測値と道路データとのマップマッチングによる補完処理を行わずに自車両位置の予測値を特定でき、測位情報のばらつきの影響を低減するとともに、地図データのない地域の自車両位置の表示を行うことが可能となる。
【0033】
なお、上述においては、ドリフト量Veの大きさに応じて観測値の補正を行っている。ここで、GPSの測位情報では、一般的に、高度方向のばらつきが緯度方向あるいは経度方向に比べて大きく、変位量も大きい結果となる。そこで、ドリフト量Veの大きさに応じて、高度方向と、緯度および経度方向の補正を別々に行うことも可能である。
【0034】
例えば、ドリフト量Veがある所定範囲内である場合には、緯度方向と経度方向に関しては、今回時刻の自車両位置の予測値として観測値をそのまま採用し、高度方向に関してのみ観測値に補正を加えることもできる。このような場合にも、観測値のばらつきの影響を低減した適切な自車両位置の予測値を推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施の形態1における自己位置標定装置の構成図である。
【図2】本発明の実施の形態1におけるデジタルマップメモリに記憶されたデジタルマップの概念図である。
【図3】本発明の実施の形態1における推定速度算出手段および自車両位置予測手段による自車両位置の予測値の算出アルゴリズムを説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0036】
1 GPSアンテナ、2 観測値生成手段、3 推定速度算出手段、4 回転数検出手段、5 実測速度算出手段、6 自車両位置予測手段、7 デジタルマップメモリ、8 表示手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測位情報を利用して自車両位置の予測値を推定する自己位置標定装置において、
前記測位情報を定期的に取得し、自車両位置の観測値を生成する観測値生成手段と、
前記観測値生成手段により定期的に生成された前記自車両位置の観測値を入力し、前回時刻に推定された自車両位置の予測値と前記観測値との差分である変化量から単位時間当たりの移動速度推定値を算出する推定速度算出手段と、
自車両の車軸回転数を検出する回転数検出手段と、
前記観測値生成手段による前記観測値の生成タイミングごとに、前記回転数検出手段で検出された前記車軸回転数に基づいて移動速度実測値を算出する実測速度算出手段と、
前記移動速度推定値と前記移動速度実測値との差分であるドリフト量を算出し、前記ドリフト量の大きさに応じて前記自車両位置の観測値を補正して今回時刻の自車両位置の予測値を推定する自車両位置予測手段と
を備えたことを特徴とする自己位置標定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の自己位置標定装置において、
地図データが記憶されたデジタルマップメモリと、
前記デジタルマップメモリから読み出した地図データ上に、前記自車両位置予測手段により予測された前記今回時刻の自車両位置の予測値を表示させる表示手段と
をさらに備えたことを特徴とする自己位置標定装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の自己位置標定装置において、
前記観測値生成手段は、前記測位情報に含まれる緯度情報、経度情報、および高度情報から緯度、経度、および高度を含む自車両位置の観測値を生成し、
前記推定速度算出手段は、前記観測値生成手段により定期的に生成された緯度、経度、および高度を含む前記自車両位置の観測値を入力し、前回時刻に推定された緯度、経度、および高度を含む自車両位置の予測値と前記観測値との差分から求めた緯度変化量、経度変化量、および高度変化量を合成して単位時間当たりの移動速度推定値を算出し、
前記自車両位置予測手段は、前記移動速度推定値と前記移動速度実測値との差分であるドリフト量を算出し、前記ドリフト量の大きさに応じて前記自車両位置の観測値を補正して今回時刻の緯度、経度、および高度を含む自車両位置の予測値を推定する
ことを特徴とする自己位置標定装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の自己位置標定装置において、
前記自車両位置予測手段は、前記ドリフト量が所定値よりも小さい場合には、前記観測値生成手段で生成された前記自車両位置の観測値を今回時刻の自車両位置の予測値とし、前記ドリフト量が前記所定値以上の場合には、前回時刻までに推定した自車両位置の予測値から外挿して求めた値を今回時刻の自車両位置の予測値とすることを特徴とする自己位置標定装置。
【請求項5】
請求項3に記載の自己位置標定装置において、
前記自車両位置予測手段は、前記ドリフト量が所定値よりも小さい場合には、前記観測値生成手段で生成された前記自車両位置の観測値を今回時刻の自車両位置の予測値とし、前記ドリフト量が前記所定値以上の場合には、緯度方向および経度方向について生成された自車両位置の観測値を緯度方向および経度方向の今回時刻の自車両位置の予測値とするとともに、前回時刻までに推定した高度方向についての自車両位置の予測値から外挿して求めた値を高度方向の今回時刻の自車両位置の予測値とすることを特徴とする自己位置標定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−85846(P2007−85846A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−274052(P2005−274052)
【出願日】平成17年9月21日(2005.9.21)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】