説明

自己分散ポリマー水性分散物の製造方法、水性インク組成物、インクセット、及び画像形成方法

【課題】分散安定性に優れる自己分散ポリマー水性分散物の製造方法を提供する。
【解決手段】自己分散ポリマー水性分散物を、親水性の構成単位及び疎水性の構成単位を含む共重合体を、有機溶剤を全質量中に10質量%未満含有する反応混合物中において製造する重合工程と、重合工程により得られた共重合体に有機溶剤を添加して共重合体溶液を得た後、該共重合体溶液から調製した共重合体の固形分濃度が25質量%の溶液サンプルに対してサンプル長10mmでの660nm吸光度測定を室温(25℃)で行い、得られた吸光度が0.10より大きい場合には、共重合体溶液に含まれる不溶物を除去して、不溶物を除去した後の共重合体溶液における前記吸光度測定と同条件で測定した吸光度を0.10以下にする共重合体溶液調製工程と、前記共重合体溶液調製工程により得られた共重合体溶液に水を添加して、共重合体の水性分散物を得る分散工程と、を含む製造方法により製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己分散ポリマー水性分散物の製造方法、水性インク組成物、インクセット、及び画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、インクジェットヘッドに形成された多数のノズルからそれぞれインク滴を打滴することによって記録を行うものであり、記録動作時の騒音が低く、ランニングコストが安く、多種多様な記録媒体に対して高品位な画像を記録できることなどから幅広く利用されている。
【0003】
インクジェット用インクでは、黒色インクにカーボンブラック顔料が使用されているが、カラーインクにおいては水溶性染料が中心的であり、耐候性(耐光性、耐オゾン性、耐水性)の改良が求められている。特に、印刷分野への応用を考えた場合、耐候性の改善は特に重要である。顔料は、その高い結晶性に起因して本質的に堅牢性が高く、耐光性、耐水性は染料に比べて格段に優れている。しかしながら、ノズル部の目詰まり等による吐出性、凝集沈降などの保存安定性や、さらに粒子が記録媒体表面に留まるために耐擦性や光沢性といった印字物の定着性が悪くなるなど、課題が残されている。
【0004】
インクジェットヘッドにおけるノズル部の目詰まりを防止する技術として、有機溶媒中で合成された水不溶性ポリマーを水性担体媒質中に分散させたハイドロゾルポリマーを含有するインクジェットインク組成物が開示されている(例えば、特許文献1参照)。該インク組成物は、保存安定性が良好で、低粘度であり、優れた印刷品質を示し、乾燥後の優れた耐汚れ性と十分に長い閉塞又は凝固時間を示すとされている。
【0005】
インクジェット記録における吐出性向上技術として、ポリマーバインダーエマルジョン由来の親水性モノマーから誘導される単位のセラム画分の含有量が少ない水性インクジェット記録液が開示されている(例えば、特許文献2参照)。該水性インクジェット記録液は、光学濃度を改善することができ、一定のポリマーエマルジョンバインダー含有インクジェットインクに発生している印刷寿命の問題を克服することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3069543号明細書
【特許文献2】特開2006−131900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のハイドロゾルポリマーを含有するインクジェットインク組成物は、定着性向上効果が認められるものの、紙カール発生が少ないインク溶剤を用いたインクジェットインクに適用した場合、高速印字の際、吐出性が十分でない場合がある。
【0008】
また、特許文献2に記載されるポリマーバインダーエマルジョンの製造方法は、乳化重合を行った後に、透析や限外ろ過が必要な方法であり、生産性が悪いといった問題がある。また、該ポリマーバインダーエマルジョンをインクジェットインクに適用した場合、インクの安定性が劣ったり、高速印字の際、吐出性が十分でない場合がある。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、分散安定性に優れる自己分散ポリマー水性分散物の製造方法、該製造方法により得られた水性分散物を含有してなり、経時安定性に優れ且つインクジェット用に適用した場合において良好な吐出安定性を示すインク組成物及びインクセット、及び、該インク組成物又は該インクセットを用いた画像記録方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するための具体的手段は以下の通りである。
<1> 親水性の構成単位及び疎水性の構成単位を含む共重合体を、有機溶剤を全質量中に10質量%未満含有する反応混合物中において製造する重合工程と、
前記重合工程により得られた共重合体に有機溶剤を添加して共重合体溶液を得た後、該共重合体溶液から調製した共重合体の固形分濃度が25質量%の溶液サンプルに対してサンプル長10mmでの660nm吸光度測定を室温(25℃)で行い、得られた吸光度が0.10より大きい場合には、前記共重合体溶液に含まれる不溶物を除去して、不溶物を除去した後の共重合体溶液における前記吸光度測定と同条件で測定した吸光度を0.10以下にする共重合体溶液調製工程と、
前記共重合体溶液調製工程により得られた共重合体溶液に水を添加して、前記共重合体の水性分散物を得る分散工程と、
を含む自己分散ポリマー水性分散物の製造方法。
【0011】
<2> 前記重合工程が、塊状重合法又は懸濁重合を適用した重合工程である前記<1>に記載の自己分散ポリマー水性分散物の製造方法。
<3> 前記親水性の構成単位の少なくとも1種は、カルボキシル基を有する構成単位である前記<1>又は<2>に記載の自己分散ポリマー水性分散物の製造方法。
<4> 前記疎水性の構成単位の少なくとも1種は、アクリル酸エステル系モノマー及びメタクリル酸エステル系モノマーの少なくとも一方に由来する構成単位である前記<1>〜<3>のいずれか1項に記載の自己分散ポリマー水性分散物の製造方法。
【0012】
<5> 着色剤を含む水不溶性着色粒子と、前記<1>〜<4>のいずれか1項に記載の自己分散ポリマー水性分散物の製造方法によって製造された自己分散ポリマー水性分散物と、を含有する水性インク組成物。
【0013】
<6> 前記<5>に記載の水性インク組成物の少なくとも1種を含むインクセット。
<7> 前記<5>に記載の水性インク組成物、又は前記<6>に記載のインクセットを用いて、被記録媒体上に、前記水性インク組成物を付与するインク付与工程を含む画像形成方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、分散安定性に優れる自己分散ポリマー水性分散物の製造方法、該製造方法により得られた水性分散物を含有してなり、経時安定性に優れ且つインクジェット記録への適用において良好な吐出安定性を示すインク組成物及びインクセット、及び、該インク組成物又は該インクセットを用いた画像記録方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<自己分散ポリマー水性分散物の製造方法>
本発明の自己分散ポリマー水性分散物の製造方法(以下、単に「本発明の製造方法」とも称する。)は、親水性の構成単位及び疎水性の構成単位を含む共重合体を、有機溶剤を全質量中に10質量%未満含有する反応混合物中において製造する重合工程と、
前記重合工程により得られた共重合体に有機溶剤を添加して共重合体溶液を得た後、該共重合体溶液から調製した共重合体の固形分濃度が25質量%の溶液サンプルに対してサンプル長10mmでの660nm吸光度測定を室温(25℃)で行い、得られた吸光度が0.10より大きい場合には、前記共重合体溶液に含まれる不溶物を除去して、不溶物を除去した後の共重合体溶液における前記吸光度測定と同条件で測定した吸光度を0.10以下にする共重合体溶液調製工程と、前記共重合体溶液調製工程により得られた共重合体溶液に水を添加して、前記共重合体の水性分散物を得る分散工程と、を有する。
本発明の製造方法は、かかる構成を有することにより、分散安定性に優れる自己分散ポリマー水性分散物を効率よく製造することができる。
【0016】
[自己分散ポリマー]
本発明において自己分散ポリマーとは、親水性の構成単位と疎水性の構成単位とを含む共重合体であって、界面活性剤の不存在下、ポリマー自身の親水性の官能基(好ましくは、解離性基又はその塩)によって、水性媒体中で分散状態となりうる水不溶性ポリマーをいう。自己分散ポリマーは、エチレン性不飽和結合を有するモノマーに由来する共重合体であることが好ましい。また、ここでいう分散状態とは、水性媒体中に水不溶性ポリマーが液体状態で分散された乳化状態(エマルション)、及び、水性媒体中に水不溶性ポリマーが固体状態で分散された分散状態(サスペンション)の両方の状態を含むものである。
自己分散ポリマーは、例えば、水性インク組成物に含有された場合のインク定着性の観点から、水不溶性ポリマーが固体状態で分散された分散状態となりうる自己分散ポリマーであることが好ましい。
【0017】
また、本発明における自己分散ポリマーの分散状態とは、水不溶性ポリマー30gを70gの有機溶剤(例えば、メチルエチルケトン)に溶解した溶液、該水不溶性ポリマーの解離性基を100%中和できる中和剤(塩生成基がアニオン性であれば水酸化ナトリウム、カチオン性であれば酢酸)、及び、水200gを混合、攪拌(装置:攪拌羽根付き攪拌装置、回転数200rpm、30分間、25℃)した後、該混合液から該有機溶剤を除去した後でも、分散状態が25℃で少なくとも1週間安定に存在することを目視で確認することができる状態をいう。
【0018】
また、水不溶性ポリマーとは、ポリマーを25℃の水100g中に溶解させたときに、その溶解量が10g以下であるポリマーをいい、その溶解量が好ましくは5g以下、更に好ましくは1g以下である。該溶解量は、水不溶性ポリマーの解離性基の種類に応じて、水酸化ナトリウム又は酢酸で100%中和した時の溶解量である。
【0019】
以下、本発明の製造方法における各工程について順次説明する。
【0020】
[重合工程]
重合工程は、親水性の構成単位及び疎水性の構成単位を含む共重合体を、有機溶剤を全質量中に10質量%未満含有する反応混合物中において製造する工程であり、本工程で製造される共重合体が、上述した本発明における自己分散ポリマーを構成する。
以下、自己分散ポリマーを構成する共重合体の合成について説明する。
【0021】
重合工程における共重合体の合成は、有機溶剤を全質量中に10質量%未満含有する反応混合物中にて行う。重合工程は、乳化重合法、懸濁重合法、塊状重合法、固相重合法、沈殿重合法などの各重合法を用いることができる。
これらの重合法は、従来ポリマー水分散物の製造に適用されていた、一般的な溶液重合法と比べ、重合速度が速く残存モノマー量が少ない、同程度の重量平均分子量のポリマーを合成した場合に分子量分布が小さいポリマーが得られるなどの特徴を有する。
【0022】
本発明者らは、残存モノマーが少ないと、分散工程における共重合体(自己分散ポリマー)の分散が安定となり、延いては、本発明の製造方法により得られた自己分散ポリマーを、インクジェト用インク組成物に用いた場合に吐出性が向上すること、また、共重合体の分子量分布が小さいと、インク組成物中における低分子量成分の含有量が減るために、吐出性を更に向上させることを見出した。
【0023】
重合工程に適用する重合法としては、上記の重合法の中でも、乳化重合法、懸濁重合法、又は塊状重合法が好ましく、低分子の界面活性剤の使用が必須でないことから、懸濁重合法又は塊状重合法がより好ましく、高いガラス転移温度の共重合体の合成が可能なことから懸濁重合法が特に好ましい。
【0024】
乳化重合法及び懸濁重合法の場合は、重合媒体の主成分が水であるが、乳化重合法においては、モノマーの重合媒体への溶解拡散性を高めるためや分子量を制御するなどのために、懸濁重合法においては、固体モノマーを用いた場合にモノマー滴を液体状態で保つため又は分子量を制御するなどのために、有機溶剤を10質量%未満使用してもよい。
【0025】
重合工程において得られる共重合体(自己分散ポリマー)は、親水性の構成単位の少なくとも1種と、疎水性の構成単位の少なくとも1種とを含む。
【0026】
疎水性の構成単位のうち少なくとも1種は、分散安定性の観点から、エチレン性不飽和結合を有するモノマーに由来する構成単位であることが好ましく、アクリル酸エステル系モノマー及びメタクリル酸エステル系モノマーの少なくとも一方に由来する構成単位であることがより好ましい。
【0027】
疎水性の構成単位を構成するモノマーとして具体的には、スチレン、α−メチルスチレン、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、sec−ブチルアクリレート、tert−ブチルアクリレート、アミルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、tert−オクチルアクリレート、2−クロロエチルアクリレート、2−ブロモエチルアクリレート、4−クロロブチルアクリレート、シアノエチルアクリレート、2−アセトキシエチルアクリレート、ベンジルアクリレート、メトキシベンジルアクリレート、2−クロロシクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、フルフリルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、フェニルアクリレート、2−フェノキシエチルアクリレート、5−ヒドロキシペンチルアクリレート、2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−メトキシエチルアクリレート、3−メトキシブチルアクリレート、2−エトキシエチルアクリレート、2−ブトキシエチルアクリレート、2−(2−メトキシエトキシ)エチルアクリレート、2−(2−ブトキシエトキシ)エチルアクリレート、グリシジルアクリレート、1−ブロモ−2−メトキシエチルアクリレート、1,1−ジクロロ−2−エトキシエチルアクリレート、2,2,2−テトラフルオロエチルアクリレート、1H,1H,2H,2H−パーフルオロデシルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、sec−ブチルメタクリレート、tert−ブチルメタクリレート、アミルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、クロロベンジルメタクリレート、オクチルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、2−(3−フェニルプロピルオキシ)エチルメタクリレート、フルフリルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、フェニルメタクリレート、2−フェノキシエチルメタクリレート、クレジルメタクリレート、ナフチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、4−ヒドロキシブチルメタクリレート、トリエチレングリコールモノメタクリレート、ジプロピレングリコールモノメタクリレート、2−メトキシエチルメタクリレート、3−メトキシブチルメタクリレート、2−エトキシエチルメタクリレート、メトキシジエチレングリコールメタクリレート、2−iso−プロポキシエチルメタクリレート、2−ブトキシエチルメタクリレート、2−(2−メトキシエトキシ)エチルメタクリレート、2−(2−エトキシエトキシ)エチルメタクリレート、2−(2−ブトキシエトキシ)エチルメタクリレート、2−アセトキシエチルメタクリレート、2−アセトアセトキシエチルメタクリレート、アリルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、2,2,2−テトラフルオロエチルメタクリレート、1H,1H,2H,2H−パーフルオロデシルメタクリレートなどが挙げられる。
【0028】
さらに、疎水性の構成単位を構成するモノマーのその他の具体例として、アクリル酸及びメタクリル酸のシクロヘキシル、シクロヘキシルメチル、3−シクロヘキセニルメチル、4−イソプロピルシクロヘキシル、1−メチルシクロヘキシル、2−メチルシクロヘキシル、3−メチルシクロヘキシル、4−メチルシクロヘキシル、1−エチルシクロヘキシル、4−エチルシクロヘキシル、2−tert−ブチルシクロヘキシル、4−tert−ブチルシクロヘキシル、メンチル、3,3,5−トリメチルシクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、ノニル、シクロデシル、2−ノルボルニル、イソボルニル、3−メチル−2−ノルボルニル、ジシクロペンタニル、ジシクロペンテニル、ジシクロペンテニルオキシエチル、アダマンチル−1−イル、アダマンタン−2−イル、2−メチルアダマンタン−2−イル、2−エチルアダマンタン−2−イル及び3,5−ジメチルアダマンタン−1−イル、1,1′−ビスアダマンタン−3−イルなどの各エステルが挙げられる。
【0029】
また、共重合体(自己分散ポリマー)に含まれる親水性の構成単位としては、親水性基とエチレン性不飽和結合とを有するモノマー(以下、「親水性基含有モノマー」とも称する。)に由来するものが好ましい。親水性基含有モノマーとしては、1種の親水性基を含有するモノマーであっても、2種以上の親水性基を含有するモノマーであってもよい。また、親水性基含有モノマーが有する親水性基としては、特に制限はなく、解離性基であってもノニオン性親水性基であってもよい。
【0030】
本発明において前記親水性基は、自己分散促進の観点、形成された乳化又は分散状態の安定性の観点から、解離性基であることが好ましく、アニオン性の解離基であることがより好ましい。前記解離性基としては、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基などが挙げられ、中でも、自己分散ポリマー水性分散物を水性インク組成物を構成した場合の定着性の観点からは、カルボキシル基が好ましい。
【0031】
本発明における親水性基含有モノマーは、自己分散性の観点から、解離性基含有モノマーであることが好ましく、解離性基とエチレン性不飽和結合とを有する解離性基含有モノマーであることが好ましい。
解離性基含有モノマーとしては、例えば、不飽和カルボン酸モノマー、不飽和スルホン酸モノマー、不飽和リン酸モノマー等が挙げられる。
【0032】
不飽和カルボン酸モノマーとして具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、2−メタクリロイルオキシメチルコハク酸等が挙げられる。不飽和スルホン酸モノマーとして具体的には、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−スルホプロピル(メタ)アクリレート、ビス−(3−スルホプロピル)−イタコン酸エステル等が挙げられる。不飽和リン酸モノマーとして具体的には、ビニルホスホン酸、ビニルホスフェート、ビス(メタクリロキシエチル)ホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイロキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、ジブチル−2−アクリロイロキシエチルホスフェート等が挙げられる。
解離性基含有モノマーの中では、分散安定性、吐出性の観点から、不飽和カルボン酸モノマーが好ましく、アクリル酸及びメタクリル酸がより好ましい。
【0033】
重合工程において得られる共重合体(自己分散ポリマー)の分子量範囲は、重量平均分子量で、3000〜20万であることが好ましく、5000〜15万であることがより好ましく、10000〜10万であることが更に好ましい。共重合体の重量平均分子量を3000以上とすることで水溶性成分量を効果的に抑制することができる。また、共重合体の重量平均分子量を20万以下とすることで、自己乳化安定性を高めることができる。
尚、重量平均分子量は、ゲル透過クロマトグラフ(GPC)によって測定することできる。
【0034】
以下に、自己分散ポリマーの具体例として、例示化合物B−01〜B−12を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。尚、括弧内は共重合成分の質量比を表す。
【0035】
B−01:メチルメタクリレート/2−メトキシエチルアクリレート/ベンジルメタクリレート/メタクリル酸 共重合体(47/10/34/9)
B−02:メチルメタクリレート/スチレン/ベンジルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(63/10/20/7)
B−03:フェノキシエチルアクリレート/メチルメタクリレート/アクリル酸 共重合体(50/45/5)
B−04:メチルメタクリレート/ジシクロペンタニルメタクリレート/ベンジルメタクリレート/メタクリル酸 共重合体(43/17/30/10)
B−05:メチルメタクリレート/イソボルニルメタクリレート/メタクリル酸 共重合体(38/52/10)
B−06:スチレン/フェノキシエチルアクリレート/メチルメタクリレート/アクリル酸 共重合体(10/49/35/6)
B−07:ベンジルアクリレート/メチルメタクリレート/アクリル酸 共重合体(50/45/5)
B−08:フェノキシエチルメタクリレート/ベンジルアクリレート/エチルメタクリレート/メタクリル酸 共重合体(32/20/40/8)
B−09:メチルメタクリレート/イソボルニルメタクリレート/ヒドロキシエチルメタクリレート/メタクリル酸 共重合体(40/48/5/7)
B−10:ベンジルメタクリレート/イソブチルメタクリレート/シクロヘキシルメタクリレート/メタクリル酸 共重合体(35/30/30/5)
B−11:フェノキシエチルアクリレート/エチルアクリレート/アクリル酸 共重合体(30/65/5)
B−12:メチルメタクリレート/tert−ブチルメタクリレート/イソボルニルメタクリレート/メタクリル酸 共重合体(35/10/45/10)
【0036】
[共重合体溶液調製工程]
共重合体溶液調製工程は、前記重合工程により得られた共重合体に有機溶剤を添加して共重合体溶液を得た後、該共重合体溶液から調製した共重合体の固形分濃度が25質量%の溶液サンプルに対してサンプル長10mmでの660nm吸光度測定を室温(25℃)で行い、得られた吸光度が0.10より大きい場合には、前記共重合体溶液に含まれる不溶物を除去して、不溶物を除去した後の共重合体溶液における前記吸光度測定と同条件で測定した吸光度を0.10以下にする工程である。
【0037】
本工程では、先ず、前記重合工程により得られた共重合体に有機溶剤を添加して共重合体溶液を得る。即ち、ここで得られた共重合体溶液は、重合工程にて得られた共重合体(自己分散ポリマー)を、これを溶解する有機溶剤に溶解して得られたものである。
【0038】
共重合体を有機溶剤に溶解する方法としては、特に制限はなく、通常用いられる溶解方法を適用することができる。
【0039】
前記有機溶剤としては、前記共重合体を溶解可能であれば特に制限はない。例えば、共重合体の溶解度(25℃)が10質量%以上である有機溶剤(以下、「有機良溶剤」ということがある。)を挙げることができる。
【0040】
有機良溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン、アセトン等のケトン系溶剤、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、1,3−オキソラン、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶剤、酢酸エチル等のエステル系溶剤、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミド系溶剤等を挙げることができる。本発明においてはケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、沸点が100℃以下のケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤から選ばれる少なくとも1種であることがより好ましく、メチルエチルケトン、アセトン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン及び酢酸エチルから選ばれる少なくとも1種であることが更に好ましい。
尚、有機良溶剤は1種単独でも、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0041】
また、前記共重合体を溶解する溶剤としては、有機良溶剤と、共重合体の溶解性が小さい溶剤(以下、「有機貧溶剤」ということがある)とを併用してもよい。ここで共重合体の溶解性が小さい有機貧溶剤とは、共重合体の溶解度(25℃)が10質量%未満である有機溶剤を意味する。
【0042】
有機貧溶剤としては、例えば、エタノール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、s-ブタノール、t-ブタノール、2−エチルヘキサノール等のアルコール系溶剤を挙げることができる。中でも、沸点が100℃以下のアルコール系溶剤であることが好ましく、エタノール、イソプロピルアルコール、t−ブタノールから選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。
尚、有機貧溶剤は1種単独でも、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0043】
本発明において有機貧溶剤を併用する場合、自己分散ポリマー水性分散物の分散安定性の観点から、共重合体を溶解する有機溶剤における有機貧溶剤の含有率が30〜70質量%であることが好ましく、30〜60質量%であることがより好ましい。
【0044】
前述のごとく、本発明における重合工程は、従前の重合法を適用した場合に比べ、重合速度が速く残存モノマー量が少ない、同程度の重量平均分子量のポリマーを合成した場合に分子量分布が小さいポリマーが得られるなどの特徴を有する。しかしながら、当該重合工程より得られた共重合体においても、有機溶剤に不溶な微量成分が含まれることがある。即ち、重合工程において共重合体(自己分散ポリマー)を製造する際には、例えば、乳化重合法を適用する場合であれば界面活性剤が用いられ、懸濁重合法を適用する場合であれば水溶性高分子化合物などの添加剤が用いられることから、これらの各成分が不溶物(不溶性成分)として共重合体と共に残存してしまい、本工程において得られる共重合体溶液中に、当該不溶物により濁り(以下、「濁り成分」とも称する。)が生じる場合がある。
【0045】
本発明者らは、この不溶物が、本発明の製造方法により得られる自己分散ポリマー水性分散物の物性に影響を及ぼすことを明らかにした。詳細には、自己分散ポリマー水性分散物中に濁り成分(不溶物)が多く含まれると、分散物中における自己分散ポリマーの安定性が低下したり、粒径が大きくなったり、ろ過性が悪化したりしてしまう。このため、濁り成分がある場合には、濁り成分の除去を行う必要がある。
【0046】
ここで、「共重合体溶液の濁り」とは、共重合体の濃度が25質量%溶液を、サンプル長10mmで660nmの吸光度を室温(25℃)で測定した値を指標とする。共重合体溶液の濁りの指標である吸光度は、0.10以下であることが好ましく、0.04以下が更に好ましく、0.02以下が特に好ましい。
【0047】
具体的には、共重合体溶液調製工程においては、共重合体に有機溶剤を添加して得られた共重合体溶液における濁りの有無を判定し、不溶物に起因する濁りが生じていると判断した場合には、共重合体溶液に含まれる当該不溶物を除去する。共重合体溶液に含まれる当該不溶物の除去は、以下のように行う。
【0048】
先ず、共重合体溶液における濁りの有無を判定する。判定は、共重合体溶液から共重合体の固形分濃度が25質量%の溶液サンプルを調製し、該溶液サンプルに対してサンプル長10mmでの660nm吸光度測定を室温(25℃)で行い、得られた吸光度が0.10以上である場合に「濁りが有る」と判断する。
【0049】
溶液サンプルの調製に際し、共重合体溶液の希釈が必要な場合には、共重合体溶液に添加した有機溶剤を更に添加して調製すればよい。
【0050】
得られた吸光度が0.10よりも大きく、共重合体溶液に「濁りが有る」と判断した場合には、共重合体溶液に含まれる不溶物を除去する。不溶物の除去は、除去後の共重合体溶液について、不溶物の除去前の共重合体溶液に対して行った吸光度測定と同条件で測定した吸光度が、0.10以下となるように行う。
【0051】
不溶物の除去方法としては、共重合体溶液をろ過する方法が好ましい。ろ過の方法としては、自然ろ過、減圧ろ過、加圧ろ過、遠心ろ過など従来公知の方法を用いることができる。ろ材としては、セルロース、ナイロン、ガラス繊維、セライト、金属、砂等を用いることができる。ろ材の形態は、シート、カートリッジ型、糸巻き型、ロール型、プリーツ型など何れでもよい。
【0052】
不溶物を除去した後の共重合体溶液には、後述する分散工程が行われる。
一方、得られた吸光度が0.10以下であり、共重合体溶液に「濁りが無い」と判断した場合には、不溶物の除去は行わずに、後述する分散工程を行ってもよい。
【0053】
[分散工程]
分散工程は、前記共重合体溶液調製により得られた共重合体溶液に水を添加して、共重合体の水性分散物を得る工程であり、共重合体溶液に少なくとも水を添加しながら、混合、攪拌して水性分散物を調製する工程であることが好ましい。
このように有機溶剤に共重合体が溶解した共重合体溶液中に、水を添加することで、強いせん断力を必要とせずに、より分散安定性に優れる自己分散ポリマー水性分散物を得ることができる。
【0054】
分散工程において混合、攪拌する方法については特に制限はなく、一般に用いられる混合攪拌装置や、必要に応じて超音波分散機や高圧ホモジナイザー等の分散機を用いることができる。
【0055】
分散工程においては、共重合体溶液に、少なくとも水を添加するが、水に加えて、中和剤及び/又は水溶性電解質を添加してもよい。なお、中和剤及び/又は水溶性電解質の共重合体溶液への添加は、分散工程の終了後に行ってもよい。
また、分散工程においては、水に加えて、有機溶剤(好ましくは、有機貧溶剤)を更に添加してもよい。
【0056】
分散工程において、共重合体溶液に中和剤を添加することで、共重合体(自己分散ポリマー)が有することがある解離性基の一部又は全部が中和され、共重合体(自己分散ポリマー)が水性媒体中で安定した分散状態を形成しうる。
また、分散工程において、共重合体溶液に水溶性電解質を添加することで、例えば、分散に寄与する電気二重層の厚みが制御され、共重合体粒子の分散粒子径が分散に適する粒子径となり、優れた分散安定性や粘度、粒径を制御することができる。
【0057】
中和剤としては、共重合体(自己分散ポリマー)が解離性基としてアニオン性の解離基を有する場合であれば、用いられる中和剤としては有機アミン化合物、アンモニア、アルカリ金属の水酸化物等の塩基性化合物が挙げられる。有機アミン化合物の例としては、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノプロピルアミン、ジプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N,N−ジメチル−エタノールアミン、N,N−ジエチル−エタノールアミン、2−ジメチルアミノ−2−メチル−1−プロパノール、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアニン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン等が挙げられる。アルカリ金属の水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。中でも、本発明の自己分散ポリマー粒子の水中への分散安定化の観点から、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリエチルアミン、トリエタノールアミンが好ましい。
【0058】
これら中和剤(好ましくは、塩基性化合物)は、共重合体(自己分散ポリマー)が有する解離性基100モル%に対して、5〜120モル%使用することが好ましく、10〜110モル%であることがより好ましく、15〜100モル%であることが更に好ましい。15モル%以上とすることで、水中での粒子の分散を安定化する効果が顕著に発現し、100モル%以下とすることで、分散状態における水溶性成分を顕著に低下させ、分散液の粘度上昇を抑制する効果がある。
【0059】
水溶性電解質は、酸性化合物及びその塩から選ばれ、水に溶解して解離可能な官能基を有する化合物であれば特に制限はなく、有機化合物であっても、無機化合物であってもよい。またここでいう水溶性とは、25℃で水100gに5g以上溶解することである。さらに、前記水溶性電解質は、前記中和剤としては実質的に機能しない化合物である。
【0060】
水溶性電解質としては、例えば、カルボン酸誘導体、スルホン酸誘導体、リン酸誘導体、無機酸等の酸性化合物、及び、これらの酸性官能基が塩を形成した化合物を挙げることができる。前記酸性化合物の分子量としては特に制限はないが、分散安定性の観点から、1000以下であることが好ましく500以下であることがより好ましく、300以下であることがさらに好ましい。
【0061】
また、酸性化合物と塩を形成するカチオンとしては、ナトリウムイオン又はカリウムイオンのようなアルカリ金属イオン、アンモニウムイオン(NH)、及びモノエタノールアンモニウムイオン(HOCHCHNH)のようなアミノアルコールイオン等を挙げることができる。前記塩を形成するカチオンは、1種であっても2種以上の組合せであってもよい。
また、水溶性電解質は酸性化合物と塩の混合物であってもよい。すなわち、酸性化合物の酸性官能基が部分的に塩を形成しているものが挙げられる。
【0062】
水溶性電解質の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、リンゴ酸、酒石酸、フマル酸、乳酸のようなカルボキシル基を含む酸性化合物及びそれら塩、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸のようなスルホニル基を含む酸性化合物及びそれらの塩、ならびに、NaCl、KCl、NaSO、CaCl、AlClなどの無機酸塩が挙げられる。
これらの中でも、分散安定性の観点から、カルボキシル基を含む酸性化合物及びそれらの塩、ならびに無機酸塩から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、分子量が500以下のカルボキシル基を含む酸性化合物及びそれらの塩、ならびに無機酸塩から選ばれる少なくとも1種であることがより好ましく、マレイン酸、リンゴ酸、酒石酸、及びこれらのNa塩、ならびにNaCl、NaSOから選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。
尚、水溶性電解質は1種単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0063】
水溶性電解質の添加量としては、自己分散ポリマー水性分散物の分散安定性の観点から、水溶性電解質の含有率が、自己分散ポリマー樹脂に対して0〜10質量%となるように添加することが好ましく、0〜5質量%となるように添加することがより好ましい。
水溶性電解質の含有率が10質量%以下であることで、自己分散ポリマー水性分散物の凝集、融着、析出を抑制することができる。
【0064】
本発明において、水溶性電解質としてカルボン酸誘導体又はその塩を用いる場合、水溶性電解質の含有率が、自己分散ポリマー樹脂に対して、0〜8質量%であることが好ましく、0〜5質量%であることがより好ましい。また、水溶性電解質として無機酸又はその塩を用いる場合、水溶性電解質の含有率が0〜7質量%であることもまた好ましく、0〜4質量%であることがより好ましい。
【0065】
[溶剤除去工程]
本発明の製造方法においては、分散工程後に、溶剤除去工程を含むことが好ましい。
溶剤除去工程は、分散工程後における水性分散物中に残存する溶剤の少なくとも一部を除去することができれば特に制限はない。溶剤の除去方法としては、通常用いられる方法、例えば、蒸留、減圧蒸留等を適用することができる。
【0066】
本発明の製造方法においては、溶剤除去工程を含むことで、より分散安定性に優れる自己分散ポリマー水性分散物を得ることができる。更に、溶剤除去工程後における自己分散ポリマー水性分散物に、前記した水溶性電解質を加えてもよい。
【0067】
溶剤除去工程においては、溶剤の少なくとも一部が除去されるが、溶剤とともに水の一部が除去されてもよい。
【0068】
また、溶剤除去工程は、自己分散ポリマー水性分散物中における溶剤の含有率が、共重合体の固形分質量の0.05質量%以上10質量%以下となるように溶剤を除去する工程であることが好ましく、0.08質量%以上8質量%以下であることがより好ましい。
【0069】
本発明の製造方法により得られた自己分散ポリマー水性分散物における自己分散ポリマー粒子の平均粒径は、0.1nm〜80nmの範囲であることが好ましく、0.2nm〜60nmがより好ましく、0.3nm〜40nmがさらに好ましい。0.1nm以上の平均粒径であることで製造適性が向上し、水性分散物の高粘度化を抑制することができる。する。また、80nm以下の平均粒径とすることで保存安定性が向上する。一方0.1nm未満の場合、粒子間相互作用が大きく増加して水性分散物の粘度が増加し、製造効率の低下を招くことがある。また、吐出性の観点から水性インク組成物に適さない。また、80nmを超えると、ポリマー粒子同士の融着やミクロンサイズの粗大粒子数が増加し、安定な分散状態を維持することが困難になる。
【0070】
本発明において、自己分散ポリマー粒子の粒径分布に関しては、特に制限は無く、広い粒径分布を持つものであっても、単分散の粒径分布を持つものであってもよい。また、自己分散ポリマー樹脂(共重合体)を、2種以上混合して含むものであってもよい。
尚、自己分散ポリマー粒子の平均粒径及び粒径分布は、例えば、動的光散乱法を用いて測定することができる。
【0071】
本発明の製造方法によって製造される自己分散ポリマー水性分散物は、優れた分散安定性を有している。従って、例えば、該自己分散ポリマー水性分散物を含有するインク組成物は、優れた保存安定性(経時安定性)を示すことができ、さらに良好なインク定着性を示すことができる。また、自己分散ポリマー水性分散物を、インクジェット用インク組成物に適用することで、保存安定性、インク定着性に加えて、優れた吐出性を示すことができる。
本発明における自己分散ポリマー水性分散物は、水性インク組成物等への適用に際して、1種単独で用いても、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0072】
<水性インク組成物>
本発明の水性インク組成物は、着色剤を含む水不溶性着色粒子の少なくとも1種と、前述の自己分散ポリマー水性分散物の少なくとも1種と、を含有する。本発明の水性インク組成物は、本発明の製造方法で製造された自己分散ポリマー水性分散物を含有することで、インク組成物の保存安定性に優れ、形成された画像の定着性が向上する。
【0073】
本発明の水性インク組成物は、単色画像の形成のみならず、多色画像(例えば、フルカラー画像)の形成に用いることができる。フルカラー画像を形成するために、マゼンタ色調インク、シアン色調インク、及びイエロー色調インクを用いることができ、また、色調を整えるために、更にブラック色調インクを用いてもよい。また、イエロー、マゼンタ、シアン色調インク以外のレッド、グリーン、ブルー、白色インクやいわゆる印刷分野における特色インク(例えば無色)等を用いることができる。
【0074】
本発明の水性インク組成物を用いて画像を記録する方法としては、特に制限はなく公知の画像記録方法を用いることができ、例えば、インクジェット方式、謄写方式、捺転方式等の手段により、被記録媒体に水性インク組成物を付与する方法を挙げることができる。
【0075】
[水不溶性着色粒子]
本発明における水不溶性着色粒子は、着色剤の少なくとも1種を含む。着色剤としては、公知の染料、顔料等を特に制限なく用いることができる。中でも、インク着色性の観点から、水に殆ど不溶であるか、又は難溶である着色剤であることが好ましい。具体的には例えば、各種顔料、分散染料、油溶性染料、J会合体を形成する色素等を挙げることができ、顔料であることがより好ましい。
本発明においては、水不溶性の顔料自体又は分散剤で表面処理された顔料自体を水不溶性着色粒子とすることができる。
【0076】
本発明における顔料としては、その種類に特に制限はなく、従来公知の有機及び無機顔料を用いることができる。例えば、アゾレーキ、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、ジケトピロロピロール顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料等の多環式顔料や、塩基性染料型レーキ、酸性染料型レーキ等の染料レーキや、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、昼光蛍光顔料等の有機顔料、酸化チタン、酸化鉄系、カーボンブラック系等の無機顔料が挙げられる。また、カラーインデックスに記載されていない顔料であっても水相に分散可能であれば、いずれも使用できる。更に、上記顔料を界面活性剤や高分子分散剤等で表面処理したものや、グラフトカーボン等も勿論使用可能である。上記顔料のうち、特に、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、カーボンブラック系顔料を用いることが好ましい。
【0077】
−分散剤−
本発明における着色剤が顔料である場合、分散剤によって水系溶媒に分散されていることが好ましい。分散剤としては、ポリマー分散剤でも低分子の界面活性剤型分散剤でもよい。また、ポリマー分散剤としては水溶性の分散剤でも非水溶性の分散剤の何れでもよい。
前記低分子の界面活性剤型分散剤(以下、「低分子分散剤」ということがある)は、インクを低粘度に保ちつつ、有機顔料を水溶媒に安定に分散させる目的で添加することができる。ここでいう低分子分散剤は、分子量2000以下の低分子分散剤である。また、低分子分散剤の分子量は、100〜2000が好ましく、200〜2000がより好ましい。
【0078】
前記低分子分散剤は、親水性基と疎水性基とを含む構造を有している。また、親水性基と疎水性基は、それぞれ独立に1分子に1以上含まれていればよく、また、複数種類の親水性基、疎水性基を有していてもよい。また、親水性基と疎水性基を連結するための連結基も適宜有することができる。
【0079】
低分子分散剤が有する親水性基としては、アニオン性、カチオン性、ノニオン性、あるいはこれらを組合せたベタイン型等を挙げることができる。
アニオン性基は、マイナスの電荷を有するものであれば特に制限はないが、リン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、硫酸基、スルホン酸基、スルフィン酸基又はカルボン酸基であることが好ましく、リン酸基又はカルボン酸基であることがより好ましく、カルボン酸基であることがさらに好ましい。
【0080】
カチオン性基は、プラスの電荷を有するものであれば特に制限はないが、有機のカチオン性置換基であることが好ましく、窒素又はリンを含むカチオン性基であることがより好ましく、窒素を含むカチオン性基であることが更に好ましい。中でも、ピリジニウムカチオン又はアンモニウムカチオンであることが特に好ましい。
ノニオン性基は、マイナス又はプラスの電荷を有しないものであれば特に制限はない。例えば、ポリアルキレンオキシド、ポリグリセリン、糖ユニットの一部等が挙げられる。
【0081】
本発明における低分子分散剤における親水性基は、顔料の分散安定性と凝集性の観点から、アニオン性基であることが好ましい。
また、低分子分散剤がアニオン性の親水性基を有する場合、酸性の処理液と接触させて凝集反応を促進させる観点から、そのpKaは3以上であることが好ましい。本発明における低分子分散剤のpKaはテトラヒドロフラン−水=3:2(V/V)溶液に低分子分散剤1mmol/Lに溶解した液を酸あるいはアルカリ水溶液で滴定し、滴定曲線より実験的に求めた値のことである。
理論上、低分子分散剤のpKaが3以上であれば、pH3程度の処理液と接したときに、アニオン性基の50%以上が非解離状態になる。したがって、低分子分散剤の水溶性が著しく低下し、凝集反応が起こる。すなわち、凝集反応性が向上する。この観点から、低分子分散剤が、アニオン性基としてカルボン酸基を有していることが好ましい。
【0082】
一方、低分子分散剤が有する疎水性基は、炭化水素系、フッ化炭素系、シリコーン系等のいずれの構造を有するものであってもよいが、特に、炭化水素系であることが好ましい。また、これらの疎水性基は、直鎖状構造又は分岐状構造のいずれであってもよい。また疎水性基は、1本鎖状構造、又は2本以上の鎖状構造でもよく、2本鎖状以上の構造である場合は、複数種類の疎水性基を有していてもよい。
【0083】
また、疎水性基は、炭素数2〜24の炭化水素基が好ましく、炭素数4〜24の炭化水素基がより好ましく、炭素数6〜20の炭化水素基がさらに好ましい。
【0084】
本発明におけるポリマー分散剤のうち水溶性分散剤としては、親水性高分子化合物を用いることができる。例えば、天然の親水性高分子化合物では、アラビアガム、トラガンガム、グーアガム、カラヤガム、ローカストビーンガム、アラビノガラクトン、ペクチン、クインスシードデンプン等の植物性高分子、アルギン酸、カラギーナン、寒天等の海藻系高分子、ゼラチン、カゼイン、アルブミン、コラーゲン等の動物系高分子、キサンテンガム、デキストラン等の微生物系高分子などが挙げられる。
【0085】
また、天然物を原料として化学修飾した親水性高分子化合物としては、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース等の繊維素系高分子、デンプングリコール酸ナトリウム、デンプンリン酸エステルナトリウム等のデンプン系高分子、アルギン酸プロピレングリコールエステル等の海藻系高分子などが挙げられる。
【0086】
また、合成系の水溶性高分子化合物としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル等のビニル系高分子、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸又はそのアルカリ金属塩、水溶性スチレンアクリル樹脂等のアクリル系樹脂、水溶性スチレンマレイン酸樹脂、水溶性ビニルナフタレンアクリル樹脂、水溶性ビニルナフタレンマレイン酸樹脂、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、β−ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のアルカリ金属塩、四級アンモニウムやアミノ基等のカチオン性官能基の塩を側鎖に有する高分子化合物等が挙げられる。
【0087】
これらの中でも、顔料の分散安定性の観点から、カルボキシル基を含む高分子化合物が好ましく、例えば、水溶性スチレンアクリル樹脂等のアクリル系樹脂、水溶性スチレンマレイン酸樹脂、水溶性ビニルナフタレンアクリル樹脂、水溶性ビニルナフタレンマレイン酸樹脂等のようなカルボキシル基を含む高分子化合物が特に好ましい。
【0088】
ポリマー分散剤のうち非水溶性分散剤としては、疎水性部と親水性部の両方を有するポリマーを用いることができる。例えば、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、(メタ)アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合体、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体等が挙げられる。
【0089】
本発明におけるポリマー分散剤の重量平均分子量としては、3,000〜200,000が好ましく、より好ましくは5,000〜100,000、更に好ましくは5,000〜80,000、特に好ましくは10,000〜60,000である。
【0090】
また、顔料と分散剤との混合質量比(顔料:分散剤)としては、1:0.06〜1:3の範囲が好ましく、1:0.125〜1:2の範囲がより好ましく、更に好ましくは1:0.125〜1:1.5である。
【0091】
本発明において着色剤として染料を用いる場合には、染料を水不溶性の担体に保持したものを水不溶性着色粒子として用いることができる。染料としては公知の染料を特に制限なく用いることができ、例えば、特開2001−115066号公報、特開2001−335714号公報、特開2002−249677号公報等に記載の染料を本発明においても好適に用いることができる。また、担体としては、水に不溶又は水に難溶であれば特に制限なく、無機材料、有機材料及びこれらの複合材料を用いることができる。具体的には、特開2001−181549号公報、特開2007−169418号公報等に記載の担体を本発明においても好適に用いることができる。
染料を保持した担体(水不溶性着色粒子)は、分散剤を用いて水系分散物として用いることができる。分散剤としては上述した分散剤を好適に用いることができる。
【0092】
本発明における水不溶性着色粒子は、画像の耐光性や品質などの観点から、顔料と分散剤と含むことが好ましく、有機顔料とポリマー分散剤とを含むことがより好ましく、有機顔料とカルボキシル基を有するポリマー分散剤とを含むことが特に好ましい。
【0093】
本発明において、水不溶性着色粒子の平均粒径としては、10〜200nmが好ましく、10〜150nmがより好ましく、10〜100nmがさらに好ましい。平均粒径が200nm以下であることで色再現性が良好になり、インクジェット方式の場合には打滴特性が良好になる。また、平均粒径が10nm以上であることで、耐光性が良好になる。
また、水不溶性着色粒子の粒径分布に関しては、特に制限は無く、広い粒径分布又は単分散性の粒径分布のいずれであってもよい。また、単分散性の粒径分布を持つ水不溶性着色粒子を、2種以上混合して使用してもよい。
尚、水不溶性着色粒子の平均粒径及び粒径分布は、例えば、光散乱法を用いて測定することができる。
【0094】
本発明において、上記水不溶性着色粒子は1種単独で、また2種以上を組合せて使用してもよい。
また、水不溶性着色粒子の含有率としては、画像濃度の観点から、水性インク組成物に対して、1〜25質量%であることが好ましく、2〜20質量%がより好ましく、5〜20質量%がさらに好ましく、5〜15質量%が特に好ましい。
【0095】
本発明における水性インク組成物における自己分散ポリマーの固形分含有率としては、画像の光沢性などの観点から、水性インク組成物に対して、1〜30質量%であることが好ましく、5〜15質量%であることがより好ましい。
また、本発明の水性インク組成物における水不溶性着色粒子と水不溶性粒子の含有比率(水不溶性着色粒子/水不溶性粒子)としては、画像の耐擦過性などの観点から、1/0.5〜1/10であることが好ましく、1/1〜1/4であることがより好ましい。
【0096】
−水溶性有機溶剤−
本発明の水性インク組成物は、水を溶媒として含むものであるが、水溶性有機溶剤を更に含むことができる。前記水溶性有機溶剤は乾燥防止剤、浸透促進剤として含有することができる。
乾燥防止剤は、特に、本発明の水性インク組成物をインクジェット方式による画像記録方法に適用する場合、インク噴射口におけるインクの乾燥によって発生し得るノズルの目詰まりを効果的に防止することができる。
【0097】
乾燥防止剤は、水より蒸気圧の低い水溶性有機溶剤であることが好ましい。乾燥防止剤の具体的な例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、チオジグリコール、ジチオジグリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、アセチレングリコール誘導体、グリセリン、トリメチロールプロパン等に代表される多価アルコール類、エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノエチル(又はブチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−エチルモルホリン等の複素環類、スルホラン、ジメチルスルホキシド、3−スルホレン等の含硫黄化合物、ジアセトンアルコール、ジエタノールアミン等の多官能化合物、尿素誘導体等が挙げられる。中でも、乾燥防止剤としては、グリセリン、ジエチレングリコール等の多価アルコールが好ましい。また、上記の乾燥防止剤は単独で用いても、2種以上併用しても良い。これらの乾燥防止剤は、インク中に、10〜50質量%含有されることが好ましい。
【0098】
また、浸透促進剤は、インクを記録媒体(印刷用紙)により良く浸透させる目的で、好適に使用される。浸透促進剤の具体的な例としては、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、ジ(トリ)エチレングリコールモノブチルエーテル、1,2−ヘキサンジオール等のアルコール類やラウリル硫酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウムやノニオン性界面活性剤等を好適に用いることができる。これらの浸透促進剤は、インク組成物中に、5〜30質量%含有されることで、充分な効果を発揮する。また、浸透促進剤は、印字の滲み、紙抜け(プリントスルー)を起こさない添加量の範囲内で、使用されることが好ましい。
【0099】
また、水溶性有機溶剤は、上記以外にも、粘度の調整に用いることができる。粘度の調整に用いることができる水溶性有機溶剤の具体的な例としては、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、t−ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール)、多価アルコール類(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ペンタンジオール、グリセリン、ヘキサントリオール、チオジグリコール)、グリコール誘導体(例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングルコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル)、アミン(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、モルホリン、N−エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ポリエチレンイミン、テトラメチルプロピレンジアミン)及びその他の極性溶媒(例えば、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン、2−オキサゾリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、アセトニトリル、アセトン)が挙げられる。
尚、水溶性有機溶剤は、1種単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。
【0100】
−その他の添加剤−
本発明における水性インク組成物は、上記成分に加えて、その他の添加剤を含んでいてもよい。
本発明におけるその他の添加剤としては、例えば、褪色防止剤、乳化安定剤、浸透促進剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、表面張力調整剤、消泡剤、粘度調整剤、分散剤、分散安定剤、防錆剤、キレート剤等の公知の添加剤が挙げられる。これらの各種添加剤は、水性インク組成物を調製後に直接添加してもよく、水性インク組成物の調製時に添加してもよい。
【0101】
紫外線吸収剤は、画像の保存性を向上させる目的で使用される。紫外線吸収剤としては、特開昭58−185677号公報、同61−190537号公報、特開平2−782号公報、同5−197075号公報、同9−34057号公報等に記載されたベンゾトリアゾール系化合物、特開昭46−2784号公報、特開平5−194483号公報、米国特許第3214463号等に記載されたベンゾフェノン系化合物、特公昭48−30492号公報、同56−21141号公報、特開平10−88106号公報等に記載された桂皮酸系化合物、特開平4−298503号公報、同8−53427号公報、同8−239368号公報、同10−182621号公報、特表平8−501291号公報等に記載されたトリアジン系化合物、リサーチディスクロージャーNo.24239号に記載された化合物やスチルベン系、ベンズオキサゾール系化合物に代表される紫外線を吸収して蛍光を発する化合物、いわゆる蛍光増白剤も用いることができる。
【0102】
褪色防止剤は、画像の保存性を向上させる目的で使用される。褪色防止剤としては、各種の有機系及び金属錯体系の褪色防止剤を使用することができる。有機の褪色防止剤としてはハイドロキノン類、アルコキシフェノール類、ジアルコキシフェノール類、フェノール類、アニリン類、アミン類、インダン類、クロマン類、アルコキシアニリン類、ヘテロ環類などがあり、金属錯体としてはニッケル錯体、亜鉛錯体などがある。より具体的にはリサーチディスクロージャーNo.17643の第VIIのIないしJ項、同No.15162、同No.18716の650頁左欄、同No.36544の527頁、同No.307105の872頁、同No.15162に引用された特許に記載された化合物や特開昭62−215272号公報の127頁〜137頁に記載された代表的化合物の一般式及び化合物例に含まれる化合物を用いることができる。
【0103】
防黴剤としては、デヒドロ酢酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、ナトリウムピリジンチオン−1−オキシド、p−ヒドロキシ安息香酸エチルエステル、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン及びその塩等が挙げられる。これらは水性インク組成物中に0.02〜1.00質量%使用するのが好ましい。
pH調整剤としては、中和剤(有機塩基、無機アルカリ)を用いることができる。pH調整剤は水性インク組成物の保存安定性を向上させる目的で、該水性インク組成物がpH6〜10となるように添加するのが好ましく、pH7〜10となるように添加するのがより好ましい。
【0104】
表面張力調整剤としては、ノニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、ベタイン界面活性剤等が挙げられる。
また、表面張力調整剤の添加量は、インクジェット方式で良好に打滴するために、水性インク組成物の表面張力を20〜60mN/mに調整する添加量が好ましく、20〜45mN/mに調整する添加量がより好ましく、25〜40mN/mに調整する添加量がさらに好ましい。一方、インクの付与をインクジェット方式以外の方法で行う場合には、20〜60mN/mの範囲が好ましく、30〜50mN/mの範囲がより好ましい。
水性インク組成物の表面張力は、例えば、プレート法を用いて測定することができる。
【0105】
界面活性剤の具体的な例としては、炭化水素系では脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルリン酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩等のアニオン系界面活性剤や、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、グリセリン脂肪酸エステル、オキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマー等のノニオン系界面活性剤が好ましい。また、アセチレン系ポリオキシエチレンオキシド界面活性剤であるSURFYNOLS(AirProducts&ChemicaLs社)も好ましく用いられる。また、N,N−ジメチル−N−アルキルアミンオキシドのようなアミンオキシド型の両性界面活性剤等も好ましい。
更に、特開昭59−157636号公報の第(37)〜(38)頁、リサーチディスクロージャーNo.308119(1989年)記載の界面活性剤として挙げたものも用いることができる。
また、特開2003−322926号、特開2004−325707号、特開2004−309806号の各公報に記載されているようなフッ素(フッ化アルキル系)系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤等を用いることにより、耐擦性を良化することもできる。
また、これら表面張力調整剤は、消泡剤としても使用することができ、フッ素系化合物、シリコーン系化合物、及びEDTAに代表されるキレート剤等、も使用することができる。
【0106】
本発明の水性インク組成物の粘度としては、インクの付与をインクジェット方式で行う場合、打滴安定性と凝集速度の観点から、1mPa・s〜30mPa・sの範囲が好ましく、1mPa・s〜20mPa・sの範囲がより好ましく、2mPa・s〜15mPa・sの範囲がさらに好ましく、2mPa・s〜10mPa・sの範囲が特に好ましい。
また、インクの付与をインクジェット方式以外の方法で行う場合には、水性インク組成物の粘度としては、1mPa・s〜40mPa・sの範囲が好ましく、5mPa・s〜20mPa・sの範囲がより好ましい。
水性インク組成物の粘度は、例えば、ブルックフィールド粘度計を用いて測定することができる。
【0107】
<インクセット>
本発明のインクセットは、前記水性インク組成物の少なくとも1種を含んで構成される。本発明のインクセットは、上述した水性インク組成物を用いる記録方法に用いられ、特にインクジェット記録方法に用いるインクセットとして好ましい。また、本発明のインクセットはこれらを一体的に若しくは独立に収容したインクカートリッジとして用いることができ、取り扱いが便利である点等からも好ましい。インクセットを含んで構成されるインクカートリッジは当技術分野において公知であり、公知の方法を適宜用いてインクカートリッジにすることができる。
【0108】
<画像形成方法>
本発明の画像形成方法は、前記水性インク組成物又は前記インクセットを用いて、被記録媒体上に、前記水性インク組成物を付与するインク付与工程を含むものである。
本発明の水性インク組成物及びインクセットは、一般の筆記具用、記録計用、ペンプロッター用等に使用することができるが、インクジェット記録方法に用いることが特に好ましい。本発明のインクセット又はインクカートリッジを用いることができるインクジェット記録方法は、インク組成物を細いノズルから液滴として吐出させ、その液滴を記録媒体に付着させるいかなる記録方法も含む。本発明の水性インク組成物を用いることができるインクジェット記録方法の具体例を以下に説明する。
【0109】
第一の方法は静電吸引方式とよばれる方法である。静電吸引方式は、ノズルとノズルの前方に配置された加速電極との間に強電界を印加し、ノズルから液滴状のインクを連続的に噴射させ、そのインク滴が偏向電極間を通過する間に印刷情報信号を偏向電極に与えることによって、インク滴を記録媒体上に向けて飛ばしてインクを記録媒体上に定着させて画像を記録する方法、又は、インク滴を偏向させずに、印刷情報信号に従ってインク滴をノズルから記録媒体上にむけて噴射させることにより画像を記録媒体上に定着させて記録する方法である。本発明のインクセット又はインクカートリッジはこの静電吸引方式による記録方法に用いることが好ましい。
【0110】
第二の方法は、小型ポンプによってインク液に圧力を加えるとともに、インクジェットノズルを水晶振動子等によって機械的に振動させることによって、強制的にノズルからインク滴を噴射させる方法である。ノズルから噴射されたインク滴は、噴射されると同時に帯電され、このインク滴が偏向電極間を通過する間に印刷情報信号を偏向電極に与えてインク滴を記録媒体に向かって飛ばすことにより、記録媒体上に画像を記録する方法である。本発明のインクセット又はインクカートリッジはこの記録方法に用いることが好ましい。
【0111】
第三の方法は、インク液に圧電素子によって圧力と印刷情報信号を同時に加え、ノズルからインク滴を記録媒体に向けて噴射させ、記録媒体上に画像を記録する方法(ピエゾ)である。本発明のインクセット又はインクカートリッジはこの記録方法に用いることが好ましい。
【0112】
第四の方法は、印刷信号情報に従って微小電極を用いてインク液を加熱して発泡させ、この泡を膨張させることによってインク液をノズルから記録媒体に向けて噴射させて記録媒体上に画像を記録する方法である。本発明のインクセット又はインクカートリッジはこの記録方法に用いることが好ましい。
【0113】
本発明における被記録媒体としては特に制限はなく、例えば、普通紙、上質紙、塗工紙等を挙げることができる。
【0114】
本発明のインクセット又はインクカートリッジは、上述した4つの方法を含むインクジェット記録方式による画像記録方法を用いて被記録媒体上に画像を記録する場合に用いるインク組成物として特に好ましい。本発明のインクセットを用いて記録された記録物は優れた画質を有し、さらにインク定着性に優れている。
【実施例】
【0115】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、特に断りのない限り、「部」及び「%」は質量基準である。
【0116】
<実施例1>
1.自己分散ポリマー水性分散物の調製
−重合工程−
攪拌機、還流冷却管、及び窒素ガス導入管を備えた1リットルセパラブルフラスコに、ポリビニルアルコール(重合度1,000)5.3g、水300gを仕込んで、65℃まで昇温した。攪拌しながら、メチルメタクリレート128.1g、イソボロニルメタクリレート166.4g、メタクリル酸27.2g、ドデシルメルカプタン1.1g、及び過酸化ベンゾイル(70%)4.06g、水170gからなる混合溶液を加えた。1時間攪拌後、85℃まで昇温して1時間攪拌を行い、続いて90℃まで昇温して2時間攪拌し、ろ過により共重合体の粒子を取り出した。更に、共重合体の粒子を熱水500mlで攪拌洗浄し、ろ過する操作を3回繰り返し、共重合体(P−01)を300g得た。共重合体の重量平均分子量(Mw)は87000、分散度(Mw/Mn)は1.9(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりポリスチレン換算で算出、使用カラムはTSKgel SuperHZM−H、TSKgel SuperHZ4000、TSKgel SuperHZ200(東ソー(株)製))であった。共重合体(P−01)の酸価は53KOHmg/gであったため、酸価を補正した後のメチルメタクリレート/イソボルニルメタクリレート/メタクリル酸の共重合比は40/51.9/8.1(質量比)である。
【0117】
−共重合体溶液調製工程−
共重合体(P−01)300gに、メチルエチルケトン450g、イソプロパノール250gを加えて該共重合体を溶解させ、共重合体溶液(溶液P−01a)を得た。溶液P−01aには、目視により、若干濁りが見られた。
溶液P−01aの吸光度測定のために、溶液P−01aからその一部を分取し、これにメチルエチルケトンを加えて、共重合体(P−01)の固形分濃度を25質量%とした溶液サンプルを調製した。該溶液サンプルを用いて、サンプル長10mmのセルを用いて660nmの吸光度を室温(25℃)で吸光度を測定したところ、その値は0.12であった。
更に、得られた溶液P−01aの一部を分取し、表1に示す各材料でろ過をそれぞれ行い、溶液(溶液P−01b)〜(溶液P−01d)を得た。更に、溶液(P−01b)〜(溶液P−01d)について、溶液P−01aと同様にして、吸光度を測定した。その結果を表1に示す。
【0118】
−分散工程−
次に、得られた共重合体溶液(溶液P−01a)83.3g(固形分濃度30%)を秤量し、メチルエチルケトン12.5g、イソプロパノール4.2g、2モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液7.0gを加え、反応容器内温度を75℃に昇温した。次に蒸留水77gを2ml/minの速度で滴下し、水分散化せしめた。その後、減圧にしてイソプロパノール、メチルエチルケトン、蒸留水を合計で90g留去し、固形分濃度26.5%の自己分散ポリマー(P−01)の水性分散物(L−01)を得た。
共重合体溶液(溶液P−01a)を、(溶液P−01b)〜(溶液P−01d)に変更し、水性分散物(L−01)と同様にして、分散ポリマー水性分散物(L−02)〜(L−04)をそれぞれ得た。
得られた自己分散ポリマー水性分散物(L−01)〜(L−04)の物性を表1に示した。
【0119】
2.自己分散ポリマー水性分散物の評価
上記で得られた自己分散ポリマー水性分散物(L−01)〜(L−04)について、以下のようにして、外観、保存安定性、及びろ過性の評価を行った。
【0120】
(外観)
各水性分散物10mLをそれぞれ15mLのガラス瓶に入れ密栓をし、外観を目視にて観察した。以下の評価基準に従って評価した。○及び△が、実用上問題のないレベルである。
〜評価基準〜
○ … 殆ど透明〜薄い乳白色。
△ … 乳白色。
× … 白濁。
【0121】
(安定性)
各水性分散物について、60℃7日間放置する前後における、平均粒径を測定し、放置前と放置後における平均粒径の変化率[(放置後の平均粒径−放置前の平均粒径)/放置前の平均粒径]を算出した。
水性分散物の安定性(保存安定性)を、得られた平均粒径の変化率により評価した。評価基準は、次の通りである。○及び△が、実用上問題のないレベルである。
なお、粒径は、水性分散物を調製して24時間以内に、動的散乱法を用いて測定した体積平均粒径であり、マイクロトラックUPA EX−150(日機装(株)製)を用いて常法により測定した値である。
〜評価基準〜
○…平均粒径の変化率の変化率が5%未満であった。
△…平均粒径の変化率の変化率が5%以上10%未満であった。
×…平均粒径の変化率の変化率が10%以上であった。
【0122】
(ろ過性)
ろ過性は、各水性分散物を、5μmシリンジフィルター(25mmφ)でろ過を行い、以下の評価基準に従って評価した。
○及び△が、実用上問題のないレベルである。
〜評価基準〜
○ … 10mL以上。
△ … 2mL以上、10mL未満。
× … 2mL未満。
【0123】
【表1】

【0124】
まず、表1からわかるように、懸濁重合で重合した共重合体(P−01)は、共重合体溶液にした場合、吸光度が0.10より大きく、不溶物の除去を行っていない該共重合体溶液を用いて作製した自己分散ポリマー水性分散物(L−01)は、外観、安定性、ろ過性とも劣っている。
一方、共重合体(P−01)を含む共重合体溶液を調製後、吸光度が0.10以下になるようにろ過により不溶物を除去した共重合体溶液を用いて作製した自己分散ポリマー水性分散物(L−02)〜(L−04)は、外観、安定性、ろ過性とも良好であった。特に、吸光度が0.04以下の水性分散物(L−03)は、水性分散物(L−02)よりも外観、安定性が優れ、吸光度が0.02以下の水性分散物(L−04)は、水性分散物(L−01)よりも外観、安定性、ろ過性とも優れていた。
【0125】
<実施例2>
−重合工程−
実施例1の共重合体(P−01)の合成において、メチルメタクリレート、イソボロニルメタクリレート、及びメタクリル酸の代わりに、下記に示す共重合体P−02〜P−05の質量比となるように各モノマーの種類及び混合比を変更したこと、共重合体溶液をろ紙でろ過したこと、中和塩基種の種類と量を表2に示すように変更したこと、以外は実施例1と同様にして、自己分散ポリマーである下記共重合体(P−02)〜(P−05)を得た。さらに、これらの共重合体を用いて、自己分散ポリマー水性分散物(L−04)〜(L−09)をそれぞれ得た。得られた自己分散ポリマー水性分散物(L−04)〜(L−09)の物性を表2に示した。
【0126】
P−02:メチルメタクリレート/ジシクロペンタニルメタクリレート/メタクリル酸 共重合体(40/50/10)
P−03:メチルメタクリレート/スチレン/ベンジルメタクリレート/メタクリル酸 共重合体(62/10/20/8)
P−04:メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート/アクリル酸 共重合体(50/44/6)
P−05:メチルメタクリレート/イソボルニルメタクリレート/メタクリル酸 共重合体(38/52/10)
【0127】
<実施例3>
−重合工程−
攪拌機、温度計、還流冷却管、及び窒素ガス導入管を備えた0.3L三口フラスコに、メチルメタクリレート50.0g、フェノキシエチルアクリレート45.0g、アクリル酸5.0g、チオグリコール酸−2−エチルヘキシル1.0g及び2,2’ −アゾビスイソブチロニトリル0.5gからなる混合溶液を投入し、80℃で5時間、続いて100℃で5時間加熱し、共重合体(P−06)を得た。共重合体の重量平均分子量(Mw)は68000、分散度(Mw/Mn)は2.0であった。
【0128】
−共重合体溶液調製工程−
共重合体(P−06)をメチルエチルケトン/イソプロパノールに固形分30質量%となるように溶解させ共重合体溶液(溶液P−06)を得た。得られた溶液P−06を分取し、固形分濃度25質量%になるように、メチルエチルケトンを加えて調製した溶液サンプルについて、実施例1と同様にして吸光度を測定した。測定した吸光度は0.02であったため、ろ過は行わなかった。
【0129】
−分散工程−
分散工程は、実施例1における(溶液P−01a)の代わりに(溶液P−06)を用いたこと、中和塩基種の量を表2に示すように変更したこと、以外は実施例1と同様にして行い、これにより自己分散ポリマー水性分散物(L−10)を得た。得られた自己分散ポリマー水性分散物(L−10)の物性を表2に示した。
【0130】
P−06:メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート/アクリル酸 共重合体(50/45/5)
【0131】
<実施例4>
実施例1において、共重合体溶液を得る工程で得られた溶液をろ紙でろ過すること、分散工程において、水酸化ナトリウム水溶液を加えた後に20%リンゴ酸水溶液を3.7g(水溶性電解質:共重合体に対して0.3%相当)添加したこと、以外は実施例1と同様にして、自己分散ポリマー水性分散物(L−11)得た。得られた自己分散ポリマー水性分散物(L−11)の物性を表2に示した。
【0132】
<比較例1>
攪拌機、温度計、還流冷却管、及び窒素ガス導入管を備えた2リットル三口フラスコに、メチルエチルケトン360.0gを仕込んで、75℃まで昇温した。反応容器内温度を75℃に保ちながら、メチルメタクリレート180.0g、フェノキシエチルアクリレート162.0g、アクリル酸18.0g、メチルエチルケトン72g、及び「V−601」(和光純薬(株)製)1.44gからなる混合溶液を、2時間で滴下が完了するように等速で滴下した。滴下完了後、「V−601」0.72g、メチルエチルケトン36.0gからなる溶液を加え、75℃で2時間攪拌後、さらに「V−601」0.72g、イソプロパノール36.0gからなる溶液を加え、75℃で2時間攪拌した後、85℃に昇温して、さらに2時間攪拌を続けた。冷却後、メチルエチルケトンを加えて固形分30%に調節し、共重合体溶液(溶液PH−01)を得た。得られた共重合体の重量平均分子量(Mw)は64000、分散度(Mw/Mn)は3.1であった。
【0133】
分散工程は実施例1の(溶液P−01a)の代わりに(溶液PH−01)を用い、中和塩基種の量を表1に示すように変更したこと、以外は実施例1と同様にして、自己分散ポリマー水性分散物を得た。得られた自己分散ポリマー水性分散物(LH−01)の物性を表2に示した。
PH−01:メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート/アクリル酸の共重合体(50/45/5)
【0134】
<比較例2>
特許第3069543号の実施例1に準じて自己分散ポリマー水性分散物(LH−02)を製造した。得られた自己分散ポリマー水性分散物(LH−02)の物性を表2に示した。
PH−02:メチルメタクリレート/エトキシトリエチレングリコールメタクリレート/メタクリル酸の共重合体(25/72/3)
【0135】
<実施例5>
[水性インク組成物の調製]
《シアンインクC−1の調製》
(水不溶性着色粒子としてのシアン分散液の調液)
反応容器に、スチレン6部、ステアリルメタクリレート11部、スチレンマクロマーAS−6(東亜合成製)4部、ブレンマーPP−500(日油(株)製)5部、メタクリル酸5部、2−メルカプトエタノール0.05部、メチルエチルケトン24部の混合溶液を調液した。
一方、スチレン14部、ステアリルメタクリレート24部、スチレンマクロマーAS−6(東亜合成製)9部、ブレンマーPP−500(日油(株)製)9部、メタクリル酸10部、2−メルカプトエタノール0.13部、メチルエチルケトン56部及び2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)1.2部からなる混合溶液を調液し、滴下ロートに入れた。
【0136】
次いで、窒素雰囲気下、反応容器内の混合溶液を攪拌しながら75℃まで昇温し、滴下ロート中の混合溶液を1時間かけて徐々に滴下した。滴下終了から2時間経過後、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)1.2部をメチルエチルケトン12質量部に溶解した溶液を3時間かけて滴下し、更に75℃で2時間、80℃で2時間熟成させ、ポリマー分散剤溶液を得た。
【0137】
得られたポリマー分散剤溶液の一部について、溶媒を除去することによって単離し、得られた固形分をテトラヒドロフランにて0.1質量%に希釈し、GPCにて重量平均分子量を測定した。その結果、単離された固形分は、ポリスチレン換算の重量平均分子量が25,000であった。
【0138】
また、得られたポリマー分散剤溶液を固形分換算で5.0g、シアン顔料ピグメントブルー15:3(大日精化製)10.0g、メチルエチルケトン40.0g、1mol/L水酸化ナトリウム8.0g、イオン交換水82.0g、0.1mmジルコニアビーズ300gをベッセルに供給し、レディーミル分散機(アイメックス製)で1000rpm6時間分散した。得られた分散液をエバポレーターでメチルエチルケトンが十分留去できるまで減圧濃縮し、顔料濃度が10%になるまで濃縮し、水不溶性着色粒子としてのシアン分散液C1を調液した。得られたシアン分散液C1の平均粒径は77nmであった。
【0139】
そして、水不溶性着色粒子としてのシアン分散液C1と、自己分散ポリマー水性分散物としてL−01を用いて、下記のインク組成になるようにインクを調液した。調液後5μmフィルターで粗大粒子を除去し、水性インク組成物としてシアンインクC−1を調製した。
【0140】
〈シアンインクC−1のインク組成〉
・シアン顔料(ピグメントブルー15:3、大日精化製) … 4%
・上記ポリマー分散剤 … 2%
・L−04(固形分換算) … 8%
・ジエチレングリコールモノエチルエーテル … 10%
(水溶性溶剤、和光純薬製)
・サンニックスGP250 … 5%
(水溶性溶剤、三洋化成工業(株)製)
・オルフィンE1010(日信化学) … 1%
・イオン交換水 … 合計が100%となるように添加
【0141】
《シアンインクC−2〜C−9、CH−1〜CH−2の調製》
シアンインクC−1における自己分散ポリマー水性分散物L−04の代わりに、下記表2に示したポリマーの水性分散物をそれぞれ用いたこと以外はシアンインクC−1と同様の方法で、水性インク組成物のシアンインクC−2〜C−8、CH−1〜CH−2をそれぞれ調製した。
【0142】
シアンインクC−1〜C−8、CH−1〜CH−2の粘度は何れも5mPa・s〜6mPa・sの良好な値を示した。
【0143】
[評価]
上記の如く調製した各シアンインク(以下、単に「インク」ということがある)についてインクの経時安定性試験及び打滴試験(吐出安定性試験)を行った。
インクの経時安定性試験は、インクを打滴する前、即ちインク貯留槽(あるいはカートリッジ)にインクが収納されているときの粒径や粘度の安定性についての評価であり、安定性が悪いとインクジェット装置の打滴ノズルから吐出する際に、打滴ノズルが詰まる等の問題が生じる。
また、打滴試験(吐出安定性試験)は、吐出方向性に関する評価であり、インク粘度が高いとノズルに目詰まりが発生して方向性不良が生じる。
【0144】
(インクの経時安定性試験)
インク10mLをそれぞれ15mLのガラス瓶に密閉して、60℃14日間放置後に、平均粒径及び粘度をそれぞれ測定した。放置前と放置後における平均粒径の変化率[(放置後の平均粒径−放置前の平均粒径)/放置前の平均粒径]及び粘度の変化率[(放置後の粘度−放置前の粘度)/放置前の粘度]をそれぞれ算出した。評価基準は、次の通りである。粒径は、水性分散物を調製して24時間以内に、動的散乱法を用いて測定した体積平均粒径であり、マイクロトラックUPA EX−150(日機装(株)製)を用いて常法により測定した値である。
【0145】
〜評価基準〜
○…平均粒径の変化率、又は粘度の変化率が5%未満であった。
△…平均粒径の変化率、又は粘度の変化率が5%以上10%未満であった。
×…平均粒径の変化率、又は粘度の変化率が10%以上であった。
そして、×の評価を、使用不可と判断した。結果を表2に示した。
【0146】
(吐出安定性試験)
吐出安定性試験は次のように行った。特菱両面アートN(三菱製紙(株)製)上に、リコー社製GELJETG717プリンターヘッドを用いて、30℃湿度50%の環境下
、解像度1200×600dpi、インク打滴量3pLになるように打滴した。連続して打適して75分後の状態を観察することで、吐出安定性を評価した。表3に吐出安定性試験結果を示した。尚、表2の吐出安定性試験の評価基準は、次の通りである。尚、×の評価を使用不可と判断した。
〜評価基準〜
○… 吐出不良がなく、方向不良もなかった。
○△…吐出不良がなく、方向不良が少し生じた。
△… 吐出不良が殆どなく、方向不良が少し生じた。
×… 吐出不良が多かった。
【0147】
【表2】

【0148】
尚、表2中に示される略語は以下の通りである。
NaOH:水酸化ナトリウム
Amm:アンモニア水(2.8%溶液)
TEA:トリエチルアミン
【0149】
表2からわかるように、本発明のシアンインクは、安定性、吐出性ともに優れているのに対し、実施例の重合工程とは異なり、有機溶剤を用いて共重合体を製造した比較例のシアンインクCH−1は打滴安定性が劣る傾向にあり、比較例のシアンインクCH−2はインク安定性が劣り、吐出性は不十分であった。
【0150】
以上より、製造方法に特徴のある本発明の自己分散ポリマー水分散物を含有するインク組成物を用いることで、従来にない高いインク安定性と、安定した吐出性を有するインク組成物を提供することができたことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性の構成単位及び疎水性の構成単位を含む共重合体を、有機溶剤を全質量中に10質量%未満含有する反応混合物中において製造する重合工程と、
前記重合工程により得られた共重合体に有機溶剤を添加して共重合体溶液を得た後、該共重合体溶液から調製した共重合体の固形分濃度が25質量%の溶液サンプルに対してサンプル長10mmでの660nm吸光度測定を室温(25℃)で行い、得られた吸光度が0.10より大きい場合には、前記共重合体溶液に含まれる不溶物を除去して、不溶物を除去した後の共重合体溶液における前記吸光度測定と同条件で測定した吸光度を0.10以下にする共重合体溶液調製工程と、
前記共重合体溶液調製工程により得られた共重合体溶液に水を添加して、前記共重合体の水性分散物を得る分散工程と、
を含む自己分散ポリマー水性分散物の製造方法。
【請求項2】
前記重合工程が、塊状重合法又は懸濁重合法を適用した重合工程である請求項1に記載の自己分散ポリマー水性分散物の製造方法。
【請求項3】
前記親水性の構成単位の少なくとも1種は、カルボキシル基を有する構成単位である請求項1又は請求項2に記載の自己分散ポリマー水性分散物の製造方法。
【請求項4】
前記疎水性の構成単位の少なくとも1種は、アクリル酸エステル系モノマー及びメタクリル酸エステル系モノマーの少なくとも一方に由来する構成単位である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の自己分散ポリマー水性分散物の製造方法。
【請求項5】
着色剤を含む水不溶性着色粒子と、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の自己分散ポリマー水性分散物の製造方法によって製造された自己分散ポリマー水性分散物と、を含有する水性インク組成物。
【請求項6】
請求項5に記載の水性インク組成物の少なくとも1種を含むインクセット。
【請求項7】
請求項5に記載の水性インク組成物、又は請求項6に記載のインクセットを用いて、被記録媒体上に、前記水性インク組成物を付与するインク付与工程を含む画像形成方法。

【公開番号】特開2011−38018(P2011−38018A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−187736(P2009−187736)
【出願日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】