説明

航空機用電動アクチュエータ

【課題】手動で安全に作動させることができる手動操作機構を具備してなる航空機用の電動アクチュエータ(EMA)を提供すること。
【解決手段】航空機用電動アクチュエータ1を構成するロッド手動操作機構8は、遊星歯車機構3のリングギヤ20に噛み合う手動動力伝達部材26と、手動動力伝達部材26の棒状部材30に対して軸方向に相対移動可能となるように棒状部材30の端部に一端部が係合され、他端部に手動操作力が加えられるプランジャ27と、ケーシング12aとプランジャ27との間の隙間に配置されたコイルバネ28とを備える。プランジャ27は、ケーシング12aの内壁にセレーション結合27bされている。プランジャ27の他端部27dに手動操作力を加えてコイルバネ28の付勢力に抗してケーシング12aの内方向にプランジャ27を押し込むことで、セレーション結合27bをはずしてプランジャ27を回転可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機用電動アクチュエータに関し、特に、航空機に設けられた各種ドアを開閉させるのに好適な航空機用電動アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
航空機用のアクチュエータに関する技術分野では、油圧系統をなくして航空機の軽量化を図るために、EMA(Electro Mechanical Actuator)、EHA(ElectroHydrostatic Actuator)の研究開発が世界的な流れとなって行われている。
【0003】
ここで、EMAに関する技術としては、例えば特許文献1に記載されたものがある。特許文献1に記載された電動アクチュエータ(EMA)は、1つのアクチュエータに2個の電動モータを配置している。この2個の電動モータは、アクチュエータ部分の両側にそれぞれ動力伝達部材を介して配置されている。一方の電動モータが故障した場合には他方の電動モータでアクチュエータを作動させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2007/0051847号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された電動アクチュエータでは、1個の電動モータを用いる電動アクチュエータに比べて、電動モータ1個分および当該電動モータとアクチュエータとを連結する歯車などの動力伝達部材1セット分の重量増加となる。また、電動モータ1個分および動力伝達部材1セット分、大きな電動アクチュエータとなってしまう。
【0006】
一方、貨物室などのドア用に電動アクチュエータ(EMA)を用いる場合、電動モータが故障して自動(電動)でドアを開閉することができない場合には、例えば、アクチュエータを手動で作動させてドアを開閉したとしても、これにより完全にドアを全閉にすることができるのであれば、フライト上の支障は特にない。しかしながら、電動モータが1つの既存のEMAに、単純に手動操作機構を付加するだけでは、アクチュエータ操作の安全上、好ましくない。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、手動で安全に作動させることができる手動操作機構を具備してなる航空機用の電動アクチュエータ(EMA)を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、航空機用の電動アクチュエータであって、電動モータと、前記電動モータの出力側に取り付けられた減速機構と、前記減速機構の出力側に動力伝達部材を介して取り付けられたネジ軸と、前記ネジ軸に螺合されたナットと、前記ネジ軸の回転により前記ナットを介して伸縮するロッドと、前記減速機構に噛み合わされ、前記ロッドを手動で伸縮させるためのロッド手動操作機構と、を備え、前記ロッド手動操作機構は、前記減速機構に噛み合う手動動力伝達部材と、前記手動動力伝達部材に対して軸方向に相対移動可能となるように当該手動動力伝達部材の端部に一端部が係合され、他端部に手動操作力が加えられるプランジャと、当該ロッド手動操作機構を収容するケーシングと前記プランジャとの間の隙間に配置され、前記手動動力伝達部材に対して前記プランジャが離れる方向に前記プランジャを付勢するバネと、を備え、前記プランジャは、前記ケーシングの内壁にセレーション結合されており、前記プランジャの他端部に手動操作力を加えて前記バネの付勢力に抗して前記ケーシングの内方向に当該プランジャを押し込むことで、前記セレーション結合をはずして当該プランジャを回転可能にすることを特徴とする、航空機用電動アクチュエータである。
【0009】
この構成によると、ケーシングの内方向にプランジャを押し込まない限り、プランジャが回転することはない。すなわち、プランジャが不用意に回転してしまうことない。これにより、操作者は、電動アクチュエータを手動にて安全に作動させることができる。
【0010】
また本発明において、前記手動動力伝達部材は、前記減速機構に噛み合う手動動力伝達歯車と、前記手動動力伝達歯車の内側に配置され、前記プランジャと係合する棒状部材と、前記手動動力伝達歯車と前記棒状部材との間に設けられ、前記手動動力伝達歯車と前記棒状部材とを摩擦係合するクラッチ機構と、を備え、前記プランジャに加えられる回転トルクが所定のトルク以上になると、前記手動動力伝達歯車と前記棒状部材との係合が前記クラッチ機構により解除されることが好ましい。
【0011】
この構成によると、手動操作力が大きすぎる場合には、その手動操作力の伝達を上記クラッチ機構でカットすることができ、減速機構、ネジ軸などの損傷を防止することができる。すなわち、電動アクチュエータを構成する部品を、手動操作で破損させてしまうことを防止できる。この効果は、電動アクチュエータを手動にて安全に作動させることができる、という効果に通じるものである。
【0012】
さらに本発明において、前記電動モータは、ブレーキを内蔵するモータであり、前記減速機構は、太陽歯車と、複数の遊星歯車と、遊星キャリヤと、当該複数の遊星歯車の外側に配置されたリングギヤとを有する遊星歯車機構であり、前記リングギヤには、前記遊星歯車が配置される側とは反対側の端部外周に、前記手動動力伝達歯車と噛み合う複数の歯が形成されており、電動で前記ロッドを伸縮させる場合には、前記手動動力伝達歯車と噛み合う前記リングギヤが前記セレーション結合により固定されていることで、前記太陽歯車の回転により前記ネジ軸が回転し、手動で前記ロッドを伸縮させる場合には、前記ブレーキにより前記太陽歯車が固定されるとともに、前記セレーション結合がはずれて前記リングギヤが手動操作力で回転させられることで、前記ネジ軸が回転することが好ましい。
【0013】
この構成によると、電動モータとネジ軸との間の歯車などの部品と、ロッド手動操作機構とネジ軸との間の歯車などの部品とを、一部共通化することができる。その結果、コンパクトな電動アクチュエータとすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、電動アクチュエータの操作者は、当該電動アクチュエータを手動にて安全に作動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る航空機用電動アクチュエータを示す側断面図である。
【図2】図1のA部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。以下に説明する航空機用電動アクチュエータは、航空機の貨物室のドアを開閉するための電動アクチュエータ(EMA)を想定しているが、本発明の航空機用電動アクチュエータは、航空機に設けられた人を乗降させるためのドアを開閉するための電動アクチュエータとしても用いることができるし、航空機の脚を昇降させるために開閉するドアを作動させるための電動アクチュエータとしても用いることができる。すなわち、航空機に設けられた各種ドアを開閉させるための電動アクチュエータとして、本発明の航空機用電動アクチュエータを用いることができる。
【0017】
(航空機用電動アクチュエータの構成)
図1は、本発明の一実施形態に係る航空機用電動アクチュエータ(以下、「電動アクチュエータ」と記載する)を示す側断面図であり、図2は、そのA部拡大図である。
【0018】
図1および図2に示すように、電動アクチュエータ1は、そのシリンダ13の中に配置されたロッド7と、ロッド7を伸縮させる(直線運動させる)ための駆動源となる電動モータ2およびロッド手動操作機構8と、電動モータ2を制御するためのコントローラ9とを備えている。
【0019】
(シリンダ部の構造)
筒状のシリンダ13の中には、ロッド7、ナット6、およびネジ軸5が配置されている。ロッド7は、中空の筒状形態とされており、その一端部にドア側の部材が取り付けられる取付部7bが設けられている。ロッド7の他端部には、ナット6と係合するリング状の突起部7aが設けられている。取付部7bは、常にシリンダ13から突出している。突起部7aは、内側に凸部7a1を有する形態とされ、ナット6の凹部6aと係合させられている。すなわち、ナット6の端部外周には、凹部6aが設けられており、この凹部6a部分でロッド7とナット6とが、ロッド7が伸びる(前進する)際にも縮む(後退する)際にも係合している状態を維持する。
【0020】
ロッド7の内側にはネジ軸5が配置されている。ネジ軸5は、中空の筒状形態とされており、その一端部から他端部へかけて外周にねじが切られている。ナット6は、このネジ軸5に螺合されている。ネジ軸5とナット6との螺合には、例えば、ボールネジが用いられる。ネジ軸5の内側には、位置センサ11および位置センサ用ロッド10が配置されている。位置センサ用ロッド10はロッド7と同軸にして当該ロッド7に固定されている。この位置センサ11は、ロッド7の伸縮位置を検出するためのセンサである。
【0021】
なお、エンコーダ、レゾルバ、またはホールセンサなどの角度検出器を電動モータ2に内蔵させて、当該検出器によりロッド7の伸縮位置を検出してもよい。
【0022】
(電動モータおよびそのコントローラ)
電動モータ2は、電磁ブレーキ2aを内蔵するモータである。電磁ブレーキ2aは励磁されることでブレーキが解除され、電動モータ2の出力軸2bは回転可能となる。なお、電動モータ2に電力が供給されないなどの異常時は、電磁ブレーキ2aを励磁することができないため、ブレーキがきいた状態、すなわち、電動モータ2の出力軸2bは回転不能の状態となる。電動モータ2としては、例えば、ブラシレスDCモータを挙げることができるが、他の構造・形式のモータを用いてもよい。
【0023】
コントローラ9は、電動モータ2を制御するためのモータ制御手段である。外部信号、位置センサ11などからの信号がコントローラ9に入力され、それらの入力信号に基づいて、コントローラ9は電動モータ2の回転を制御する。コントローラ9は、シリンダ13の側面に取り付けられている。
【0024】
(動力伝達機構)
電動モータ2とネジ軸5との間の動力伝達機構について説明する。この動力伝達機構は、電動モータ2側から順に、第1平歯車機構15、遊星歯車機構3、動力伝達部材4、および第2平歯車機構22で構成される。すなわち、ネジ軸5は、電動モータ2の出力側に、第1平歯車機構15、遊星歯車機構3、動力伝達部材4、および第2平歯車機構22を介して取り付けられている。第1平歯車機構15、遊星歯車機構3、動力伝達部材4、および第2平歯車機構22は、後述するロッド手動操作機構8とともに、ケーシング12に収容されている。なお、ロッド7に設けられた取付部7bとは反対側のケーシング12の外面には、機体への取付部14が設けられている。ケーシング12は、コントローラ9とは反対側のシリンダ13の側面に取り付けられている。
【0025】
ここで、電動モータ2の出力軸2bの先端部外周に設けられた平歯と、第1平歯車機構15の入力側の平歯車15aとが噛み合わされ、第1平歯車機構15の出力軸部15bに遊星歯車機構3を構成する太陽歯車18が固定されている。
【0026】
遊星歯車機構3は、電動モータ2の出力側に取り付けられた減速機構であり、太陽歯車18と、複数の遊星歯車19と、遊星歯車19の公転運動をひろう遊星キャリヤ21と、リングギヤ20とを具備してなる。遊星キャリヤ21は、断面二股状(断面Y字状)に形成された部品である。リングギヤ20は、複数の遊星歯車19の外側に配置されている。リングギヤ20の一端側の内面には平歯20a(複数の歯)が設けられ、他端側の外面には平歯20b(複数の歯)が設けられている。平歯20aは、遊星歯車19と噛み合い、平歯20bは、後述する手動動力伝達歯車29と噛み合う。なお、遊星歯車機構3を用いる必要は必ずしもなく、例えば、平歯車を複数組み合せた平歯車機構を減速機構として用いてもよい。
【0027】
動力伝達部材4は、遊星キャリヤ21の出力軸部21aと、第2平歯車機構22を構成する平歯車23の入力軸部23aとを連結するカップリング(継手)である。動力伝達部材4としては、No−backと呼ばれる公知のカップリング(継手)を用いることが好ましい。No−backと呼ばれるカップリング(継手)は、出力側(ロッド7側)からのトルクが入力側に達しない構造とされた継手である。
【0028】
第2平歯車機構22は、入力軸部23aを有する平歯車23と、平歯車23に噛み合う平歯車24とを有する。平歯車24は、ネジ軸5の外周に固定されている。平歯車24の両側にはスラストベアリング25が配置されている。スラストベアリング25は、ネジ軸5を介して平歯車24に作用する軸方向荷重を受けるための軸受である。
【0029】
(ロッド手動操作機構)
ロッド手動操作機構8は、ロッド7を手動で伸縮させるためのものであり、ケーシング12のケーシング12a部分に収容されている。このロッド手動操作機構8は、遊星歯車機構3を構成するリングギヤ20に噛み合う手動動力伝達部材26と、手動動力伝達部材26を構成する棒状部材30に対してその軸方向に相対移動可能となるように形成されたプランジャ27とを具備してなる。
【0030】
プランジャ27は、段付きの空洞部27cを有する筒状の部品である。プランジャ27の一端側の内面はスプライン加工され、他端側の外面はセレーション加工されている。すなわち、プランジャ27は、棒状部材30とスプライン結合27aされるとともに、ケーシング12aの内壁にセレーション結合27bされている。なお、セレーション結合とは、軸方向には移動可能の固定用(回転固定用)の結合のことをいう。
【0031】
ここで、ケーシング12aとプランジャ27との間の隙間にはコイルバネ28が配置されている。コイルバネ28は、手動動力伝達部材26を構成する棒状部材30に対して離れる方向にプランジャ27を付勢するためのバネである。なお、バネの種類として、コイルバネに限定さることはない。
【0032】
また、プランジャ27を収容する部分のケーシング12aの内面には近接センサ37が配置されているとともに、スプライン加工された側のプランジャ27の端部には近接センサ37の検知対象部品38が取り付けられている。近接センサ37は、ケーシング12aの内方向(棒状部材30側)にプランジャ27が押し込まれているか否かを検知するためのセンサである。
【0033】
次に、手動動力伝達部材26は、プランジャ27とスプライン結合27aする棒状部材30と、棒状部材30の外側に配置された手動動力伝達歯車29と、棒状部材30と手動動力伝達歯車29との間に設けられたクラッチ機構31とを有する。
【0034】
手動動力伝達歯車29は、棒状部材30の一端側に配置されている。棒状部材30の他端側はスプライン加工され、このスプライン加工部30aはプランジャ27の空洞部27cに入り込めるようになっている。
【0035】
手動動力伝達歯車29は平歯車であって、遊星歯車機構3を構成するリングギヤ20に噛み合わされている。
【0036】
クラッチ機構31は、棒状部材30と手動動力伝達歯車29とを摩擦係合させるためのものである。このクラッチ機構31は、リング状部品であるローラ36、リング35、皿バネ34、リング33、およびナット32を具備してなる。
【0037】
ローラ36は、手動動力伝達歯車29の内側部分の両側に配置されている。リング35は、2つのローラ36を挟むようにローラ36の外側に計2つ配置され、棒状部材30に対してキーで固定されている。皿バネ34は、2つのリング35を挟むようにリング35の外側に計2つ配置されている。さらにその外側にリング33が配置され、棒状部材30の端にナット32がねじ込まれている。
【0038】
ナット32のねじ込み力を調整することで、リング35とローラ36との間、およびローラ36と手動動力伝達歯車29の内側部分との間の摩擦係合力、すなわち、棒状部材30と手動動力伝達歯車29との間の摩擦係合力を調整することができる。
【0039】
(電動アクチュエータの作動)
次に、電動の場合と手動の場合とに分けて、ロッド7の伸縮動作について説明する。なお、ロッド7が伸びる動作とロッド7が縮む動作とは、その動作方向が逆であることを除いては同様の動作であるため、ここでは、ロッド7が伸びるときの動作について説明する。
【0040】
(電動の場合)
コントローラ9からの指令で電動モータ2を回転させる。このとき、プランジャ27は、コイルバネ28の付勢力によって棒状部材30から離れる方向に付勢されているので、ケーシング12aの内壁にセレーション結合27bし回転することなく、停止している。また、棒状部材30は、プランジャ27にスプライン結合27aしているため同様に停止しており、この棒状部材30にクラッチ機構31を介して摩擦係合している手動動力伝達歯車29も停止している。そのため、手動動力伝達歯車29に噛み合うリングギヤ20も停止している(固定状態にある)。
【0041】
電動モータ2が回転すると、電動モータ2の出力トルクは第1平歯車機構15を介して遊星歯車機構3に伝わる。リングギヤ20が固定状態にあることで、太陽歯車18の回転により、遊星歯車19は自転しつつ公転する。遊星歯車19が公転することで遊星キャリヤ21が回転し、その出力トルクは、動力伝達部材4および第2平歯車機構22を介してネジ軸5に伝わる。ネジ軸5の回転によりナット6が前進方向に動き、ナット6がロッド7を押すことでロッド7が伸びる。ロッド7が所定の位置まで伸びると(位置センサ11によりロッド7の位置を検出する)、コントローラ9からの指令で電動モータ2を停止させるとともに電磁ブレーキ2aを作動させて、ロッド7を停止・固定する。
【0042】
(手動の場合)
プランジャ27の他端部27dを押してコイルバネ28の付勢力に抗してケーシング12aの内方向にプランジャ27を押し込む。これにより、プランジャ27のセレーション結合27bがはずれ、プランジャ27は回転可能となる。このとき、プランジャ27の端部に取り付けられている検知対象部品38は、近接センサ37から離れる方向に移動する。コントローラ9は、近接センサ37からの信号を受けて、電磁ブレーキ2aを解除する(ブレーキをきかせる)信号をだす。これにより、電動モータ2の出力軸2bは回転不能の状態となる。その結果、第1平歯車機構15も回転不能となり、太陽歯車18は固定される。
【0043】
なお、ロッド7を伸ばす前に、電磁ブレーキ2aの励磁がとめられて、停止ブレーキとして電磁ブレーキ2aが用いられている場合は、近接センサ37からの信号は不要となる。また、電動モータ2に電力が供給されないなどの異常時(電気系統の故障時)は、電磁ブレーキ2aを励磁することができないため、ブレーキがきいた状態となっているので、この場合も、近接センサ37からの信号は不要となる。
【0044】
その後、プランジャ27を手動で回転させる。エアドリルなどを用いてプランジャ27を回転させてもよい。プランジャ27に加えられた手動による回転力が、棒状部材30、クラッチ機構31、および手動動力伝達歯車29に伝わり、手動動力伝達歯車29に噛み合うリングギヤ20が回転する。電磁ブレーキ2aにより太陽歯車18が固定状態にあるので、リングギヤ20の回転により、遊星歯車19は自転しつつ公転する。遊星歯車19が公転することで遊星キャリヤ21が回転し、手動による回転力は、動力伝達部材4および第2平歯車機構22を介してネジ軸5に伝わる。ネジ軸5の回転によりナット6が前進方向に動き、ナット6がロッド7を押すことでロッド7が伸びる。
【0045】
ここで、クラッチ機構31は、プランジャ27に加えられる手動による回転力(回転トルク)が所定のトルク値以上になると、棒状部材30と手動動力伝達歯車29との摩擦係合が解除されるように設定されている。このようにクラッチ機構31を設定しておくことで、手動操作力が大きすぎる場合には、その手動操作力の伝達をクラッチ機構31でカットすることができ、遊星歯車機構3、第2平歯車機構22、ネジ軸5などの損傷を防止することができる。すなわち、電動アクチュエータ1を構成する部品を、手動操作で破損させてしまうことを防止できる。
【0046】
本実施形態に係る電動アクチュエータ1のロッド手動操作機構8によると、ケーシング12aの内壁とプランジャ27とのセレーション結合27bにより、ケーシング12aの内方向にプランジャ27を押し込まない限り、プランジャ27が回転することはない。すなわち、プランジャ27が不用意に回転してしまうことない。これにより、操作者は、ロッド7を手動にて安全に伸縮させることができる。
【0047】
また、本実施形態の電動アクチュエータ1では、遊星歯車機構3以降の出力側の部品を、電動操作の場合と手動操作の場合とで共通化できている。その結果、コンパクトな電動アクチュエータ1とすることができている。
【0048】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々に変更して実施することが可能なものである。
【符号の説明】
【0049】
1:航空機用電動アクチュエータ
2:電動モータ
3:遊星歯車機構(減速機構)
4:動力伝達部材
5:ネジ軸
6:ナット
7:ロッド
8:ロッド手動操作機構
12a、12:ケーシング
26:手動動力伝達部材
27:プランジャ
27a:スプライン結合
27b:セレーション結合
28:コイルバネ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機用の電動アクチュエータであって、
電動モータと、
前記電動モータの出力側に取り付けられた減速機構と、
前記減速機構の出力側に動力伝達部材を介して取り付けられたネジ軸と、
前記ネジ軸に螺合されたナットと、
前記ネジ軸の回転により前記ナットを介して伸縮するロッドと、
前記減速機構に噛み合わされ、前記ロッドを手動で伸縮させるためのロッド手動操作機構と、
を備え、
前記ロッド手動操作機構は、
前記減速機構に噛み合う手動動力伝達部材と、
前記手動動力伝達部材に対して軸方向に相対移動可能となるように当該手動動力伝達部材の端部に一端部が係合され、他端部に手動操作力が加えられるプランジャと、
当該ロッド手動操作機構を収容するケーシングと前記プランジャとの間の隙間に配置され、前記手動動力伝達部材に対して前記プランジャが離れる方向に前記プランジャを付勢するバネと、
を備え、
前記プランジャは、前記ケーシングの内壁にセレーション結合されており、
前記プランジャの他端部に手動操作力を加えて前記バネの付勢力に抗して前記ケーシングの内方向に当該プランジャを押し込むことで、前記セレーション結合をはずして当該プランジャを回転可能にすることを特徴とする、航空機用電動アクチュエータ。
【請求項2】
請求項1に記載の航空機用電動アクチュエータにおいて、
前記手動動力伝達部材は、
前記減速機構に噛み合う手動動力伝達歯車と、
前記手動動力伝達歯車の内側に配置され、前記プランジャと係合する棒状部材と、
前記手動動力伝達歯車と前記棒状部材との間に設けられ、前記手動動力伝達歯車と前記棒状部材とを摩擦係合するクラッチ機構と、
を備え、
前記プランジャに加えられる回転トルクが所定のトルク以上になると、前記手動動力伝達歯車と前記棒状部材との係合が前記クラッチ機構により解除されることを特徴とする、航空機用電動アクチュエータ。
【請求項3】
請求項2に記載の航空機用電動アクチュエータにおいて、
前記電動モータは、ブレーキを内蔵するモータであり、
前記減速機構は、太陽歯車と、複数の遊星歯車と、遊星キャリヤと、当該複数の遊星歯車の外側に配置されたリングギヤとを有する遊星歯車機構であり、
前記リングギヤには、前記遊星歯車が配置される側とは反対側の端部外周に、前記手動動力伝達歯車と噛み合う複数の歯が形成されており、
電動で前記ロッドを伸縮させる場合には、前記手動動力伝達歯車と噛み合う前記リングギヤが前記セレーション結合により固定されていることで、前記太陽歯車の回転により前記ネジ軸が回転し、
手動で前記ロッドを伸縮させる場合には、前記ブレーキにより前記太陽歯車が固定されるとともに、前記セレーション結合がはずれて前記リングギヤが手動操作力で回転させられることで、前記ネジ軸が回転することを特徴とする、航空機用電動アクチュエータ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−95467(P2012−95467A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−241242(P2010−241242)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(503405689)ナブテスコ株式会社 (737)
【Fターム(参考)】