説明

船舶の運転制御方法及びその船舶

【課題】船舶の運転制御方法において、燃費性能が高く、且つ、排気ガス性能の高い運転制御方法を提供する。また、安定的な構造で実現することができる運転制御方法を提供する。
【解決手段】ディーゼルエンジン5と、ディーゼルエンジン5に過給を行う過給器1と、ディーゼルエンジン5の吸気ラインに補助ブロア3を有した船舶の運転制御方法において、ディーゼルエンジン5の出力が53.3%以下の低回転領域で、補助ブロア3を連続して運転する制御を行い、船舶をディーゼルエンジン5の出力が44.8%以上53.3%以下となる範囲で運航する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ばら積み船、コンテナ船、タンカー等の貨物用船舶の運転制御方法及びその船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、ばら積み船、コンテナ船、タンカー等の貨物用船舶は、推進用の主機として大型ディーゼルエンジンを搭載している。燃料費の高騰や、地球環境への影響等から、燃費の向上が望まれている。この要求に対して、船舶の運航システムにより燃費を向上する構成が提案されている(例えば特許文献1参照)。この運航システムにより、船舶は、予定到着時刻に間に合う範囲内で、かつ航海中の対潮流速度を一定に保つように船速を制御することができる。そのため、船舶の燃費を向上することができる。
【0003】
しかしながら、上記の運航システムはいくつかの問題点を有している。第1に、ディーゼルエンジン(主機)を、通常運転の回転数を下回る回転数(例えば90rpm以下)での長期運転ができないという問題を有している。これは、エンジンの回転数が一定以下となった場合に、ディーゼルエンジンに設置した過給器(以下、ターボチャージャ)が効率よく働かず、排気ガス性能が著しく低下するためである。
【0004】
図9に、エンジン回転数とシリンダ出口における排気ガス温度の関係を示す。図9にあるように、特にターボチャージャが効率よく働き始める直前の回転領域(例えば80〜90rpm)で、排気ガス温度が急上昇することを実験により発見した。この温度上昇は、エンジンや排気ガス処理装置の故障等を引き起こす原因となるため、運航者はこの範囲での長期運転を避ける必要があった。つまり、ディーゼルエンジンの運転制御は、一定の制限を受けることになり、燃費性能の最適化に限界があった。
【0005】
ここで、従来の船舶は、通常、エンジン始動領域S(80rpmより小さい)から、ターボチャージャが効率的な作動を行う通常運転領域N(90rpmより大きい)までは、短時間で加速する制御を行っていた。そのため、上記の知見を得ることは困難であった。
【0006】
第2に、船速の制御を潮流に対して行うため、ディーゼルエンジンの回転数は一定とならず、燃費性能の観点からは改善の余地が残っているという問題を有している。燃費性能の観点からは、ディーゼルエンジンを、低い回転数で且つ回転数が一定となるように制御することが望ましい。
【0007】
第3に、上記の運航システムの搭載により、船舶の制御システムが複雑化し、故障等が発生する危険性が高まるという問題を有している。特に、貨物用船舶等は、故障等が発生した場合、洋上で乗組員が修理等できる安定的な構造であることが要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−25914号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の問題を鑑みてなされたものであり、その目的は、船舶の運転制御方法において、燃費性能が高く、且つ、排気ガス性能の高い運転制御方法を提供することにある。また、安定的な構造で実現することができる運転制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するための本発明に係る船舶の運転制御方法は、ディーゼルエンジンと、前記ディーゼルエンジンに過給を行う過給器と、前記ディーゼルエンジンの吸気ラインに補助ブロアを有した船舶の運転制御方法において、前記ディーゼルエンジンの出力が53.3%以下の低回転領域で、前記補助ブロアを連続して運転する制御を行い、前記船舶を前記ディーゼルエンジンの出力が44.8%以上53.3%以下となる範囲で運航することを特徴とする。この構成により、船舶の燃費性能が高く、且つ、排気ガス性能の高い運転制御方法を提供することができる。さらに、燃費性能及び排気ガス性能を安定的な構造及び制御で実現することができる。
【0011】
上記の目的を達成するための本発明に係る船舶の運転制御方法は、ディーゼルエンジンと、前記ディーゼルエンジンに過給を行う過給器と、前記ディーゼルエンジンの吸気ラインに補助ブロアを有した船舶の運転制御方法において、前記ディーゼルエンジンの回転数が88rpm以下である低回転領域で、前記補助ブロアを連続して運転する制御を行い、前記船舶を前記ディーゼルエンジンの回転数が80rpm以上88rpm以下となる範囲で運航することを特徴とする。この構成により、上記と同様の作用効果を得ることができる。
【0012】
上記の目的を達成するための本発明に係る船舶は、ディーゼルエンジンと、前記ディーゼルエンジンに過給を行う過給器と、前記ディーゼルエンジンの吸気ラインに補助ブロアと、制御装置を有した船舶において、前記制御装置が、前記ディーゼルエンジンの出力が53.3%以下の低回転領域で、前記ブロアを連続して運転する制御を行い、前記制御装置が、前記船舶を前記ディーゼルエンジンの出力が44.8%以上53.3%以下となる範囲で運航する制御を行う構成を有していることを特徴とする。この構成により、上記と同様の作用効果を得ることができる。
【0013】
上記の船舶において、前記船舶が、補助ブロアのモータの大型化、補助ブロアの大容量化、又は補助ブロアの高回転化の内、少なくとも1つにより吸気容量を向上させた補助ブロアを有することを特徴とする。船舶のサイズによりことなるが、船舶が、例えば45kw以上の出力を有するサイズの補助ブロアを有することを特徴とする。この構成により、従来では不可能であった、補助ブロアの連続運転を実現することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る船舶の運転制御方法及びその船舶によれば、燃費性能の高い運転制御方法を提供することができる。また、安定的な構造で実現することができる運転制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る実施の形態のディーゼルエンジンの吸排気系統の概略を示した図である。
【図2】シリンダ出口排気ガス温度とエンジン回転数の関係を示したグラフである。
【図3】ターボチャージャ入口排気ガス温度とエンジン回転数の関係を示したグラフである。
【図4】ターボチャージャ出口廃バス温度とエンジン回転数の関係を示したグラフである。
【図5】掃気圧とエンジン回転数の関係を示したグラフである。
【図6】ターボチャージャ回転数とエンジン回転数の関係を示したグラフである。
【図7】燃料消費量とエンジン回転数の関係を示したグラフである。
【図8】船速とエンジン回転数の関係を示したグラフである。
【図9】従来のシリンダ出口排気ガス温度とエンジン回転数の関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る実施の形態の船舶の運転制御方法について、図面を参照しながら説明する。図1に、ディーゼルエンジンの吸気及び排気系統の概略を示す。吸気系統は、空気Aを、ターボチャージャ(過給器)1のコンプレッサ1C、インタークーラ2、及び補助ブロア3を介してディーゼルエンジン5の吸気マニホールド4に供給するように構成している。排気系統は、排気ガスGを、排気マニホールド6及びターボチャージャ1のタービン1Tを介して系外に排出するように構成している。なお、7は補助ブロアを回転するためのモータを示している。また、補助ブロア3及びディーゼルエンジン5等は、図示しない制御装置により制御するように構成している。
【0017】
ディーゼルエンジン5の回転数が80rpm以上88rpm以下である低速回転領域Lで、補助ブロア3を連続運転する制御を行い、船舶を低速回転領域Lで運転制御する。望ましくは80rpm以上86rpm以下の範囲で、補助ブロア3を連続運転する。なお、この補助ブロア3が作動するエンジン5の回転数は、排気ガス性能と補助ブロア3の容量の関係で決定することができる。また、今回の実験において、エンジン5の回転数80rpmは、出力の44.8%にあたり、回転数86rpmは50.1%にあたり、回転数88rpmは53.3%にあたる。
【0018】
以下、本発明の実施例の運転制御方法と、従来例の運転制御方法を比較するために行った実験について説明する。対象とした船舶は、ハンディサイズと呼ばれる1万8000〜5万トン載貨重量トンである。ディーゼルエンジン5は、MITSUI MAN B&W
6S50MC−Cを使用した。このディーゼルエンジン5は、連続最大出力が10550PS(7760kw)、標準出力が8970PS(6597kw)である。このとき、回転数はそれぞれ107rpm、101rpmである。
【0019】
補助ブロア3のモータは、従来上記サイズの船舶に搭載されているものと、連続運転を行うために大容量化を実現した実施例のものを使用した。従来例のモータは出力が50PS(37kw)であり、実施例のモータ7は出力が61PS(45kw)である。
【0020】
補助ブロアは、従来例では、エンジン始動からエンジン回転数が80rpmに達するまでの領域(エンジン始動領域S)で作動するように制御する。実施例では、従来例の作動領域に加え、エンジン回転数が80rpmから86rpmまでの領域(低速回転領域L)で作動するように制御する。
【0021】
上記の条件の下、エンジン回転数と各パラメータの関係を示すデータを取得し、従来例と実施例の比較を行った。
【0022】
図2に、シリンダ出口排気ガス温度(℃)とエンジン回転数(rpm)の関係を示す。実線は本発明の実施例に係るエンジンのグラフを示す。一点鎖線は従来例のエンジンのグラフを示す。従来例(一点鎖線)に関しては、補助ブロア停止(80rpm)後、シリンダ出口排気ガス温度が急上昇(339.9℃、81rpm)することを発見した。排気ガス温度は、約42℃上昇し、その後330℃前後で推移後、エンジンの最大出力付近(107rpm)で350℃程度まで緩やかに上昇する。
【0023】
上記に対して、実施例(実線)(は、補助ブロアを80rpmから86rpmの間、連続運転しており、そのため、最大約42℃上昇していた排気ガス温度を抑制することができる。なお、補助ブロアの連続運転は、従来の補助ブロアでは容量が不足し不可能であっ
た。そのため、本発明の実施例では、補助ブロアのモータを大型化して、補助ブロアの容量アップを実現している。
【0024】
図3に、ターボチャージャ(T/C)入口排気ガス温度(℃)とエンジン回転数(rpm)の関係を示す。ここで、図2に示すシリンダ出口排気ガス温度とほぼ同様な温度変化が見られる。従来例に関しては、補助ブロア停止(80rpm)後、排気ガス温度が急上昇(350℃、81rpm)することを発見した。排気ガス温度は、約50℃上昇し、その後350℃前後で推移後、エンジンの最大出力付近(107rpm)で390℃程度まで緩やかに上昇する。上記に対して、実施例は、最大約50℃上昇していた排気ガス温度を抑制することができる。
【0025】
図4に、ターボチャージャ(T/C)出口排気ガス温度(℃)とエンジン回転数(rpm)の関係を示す。従来例に関しては、補助ブロア停止(80rpm)後、排気ガス温度が急上昇(297.6℃、83.7rpm)することを発見した。排気ガス温度は約44℃上昇し、その後、ターボチャージャの回転数上昇にともない240℃程度に下降する。上記に対して、実施例は、最大約44℃上昇していた排気ガス温度を抑制することができる。
【0026】
図5に、掃気圧(Mpa)とエンジン回転数(rpm)の関係を示す。従来例及び実施例ともに、補助ブロアが停止する瞬間(従来例80rpm、実施例86rpm)、掃気圧が若干低下(4〜9kpa)するが、ターボチャージャの効果により、直ちに上昇を再開し、ほぼエンジンの回転数に比例して緩やかに上昇する。つまり、実施例において、掃気圧の急激な落ち込み等が発生せず、従来例と同様の掃気圧を得ることができる。
【0027】
図6にターボチャージャ(T/C)回転数(rpm)とエンジン回転数(rpm)の関係を示す。ここで、図5に示す掃気圧とほぼ同様の傾向が見られる。つまり、実施例において、補助ブロアが停止する際に、顕著なターボチャージャの回転数低下は発生せず、従来例と同様に過給性能を得ることができる。
【0028】
図7に、燃料消費量(ton/day)とエンジン回転数(rpm)の関係を示す。燃料消費量は、エンジンのみの消費量を示している。従来は、エンジン回転数が86rpm以上の通常運転領域でのみ、船舶の運航を行っていた。これに対して、本発明の運転制御方法により、エンジン回転数が80rpm以上88rpm以下、望ましくは80rpm以上86rpm以下の低速回転領域で、船舶を連続運転することができる。そのため、燃料消費量を大幅に抑制することが可能となる。
【0029】
図8に、船速(knot)とエンジン回転数(rpm)の関係を示す。図7及び8から、エンジン回転数が76rpmから90rpmの範囲において、エンジンの回転数低下が、船速低下の割合以上に燃料消費量を抑制する効果が高いことがわかる。
【0030】
前述の比較実験により、以下の作用効果を得られることがわかる。第1に、燃費性能を向上することができる。従来使用することができなかった、80〜90rpm、望ましくは80〜86rpmの低回転領域で、エンジンを制御することができるため、燃料消費量を抑制することができる。これは、補助ブロアの連続動作により、吸気量を増加することができるためである。
【0031】
なお、従来の船舶において、エンジン始動を補助するための補助ブロアを有しているものもあった。しかし、補助ブロアの容量等の関係から、エンジン始動時及び80rpm以下の回転数領域でのみの使用に限られていた。本発明では、従来補助ブロアが停止していたエンジン回転領域(80rpm〜90rpm)で、補助ブロアを連続使用する。この補
助ブロアは船舶を運航する際に、数ヶ月に渡って連続的に使用するため、補助ブロアのモータの大型化、又は補助ブロアの大容量化、又は補助ブロアの高回転化の内、少なくとも1つにより補助ブロアの吸気容量を向上することが望ましい。
【0032】
第2に、排ガス性能を向上することができる。従来は、排気ガス温度が急上昇し、燃焼室や、排気ガス処理装置のフィルタ等に負荷を与える80〜90rpmの低回転領域において、この温度上昇を抑制することができる。
【0033】
第3に、上記の燃費性能及び排気ガス性能の向上を、安定的な構造及び制御で実現することができる。そのため、故障等が発生した場合、洋上で乗組員が修理できる安定的な船舶となる。
【0034】
なお、実験ではハンディサイズのばら積み船で行ったため、エンジンの回転数はこの実験船における最適回転数を記載している。エンジンの定格回転数の比に応じて回転数を修正することで、5万トン載貨重量トン以上のばら積み船及びタンカー等においても、同様の作用効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0035】
1 過給器(ターボチャージャ)
1C コンプレッサ
1T タービン
2 インタークーラ
3 補助ブロア
5 ディーゼルエンジン(主機)
7 モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディーゼルエンジンと、前記ディーゼルエンジンに過給を行う過給器と、前記ディーゼルエンジンの吸気ラインに補助ブロアを有した船舶の運転制御方法において、
前記ディーゼルエンジンの出力が53.3%以下の低回転領域で、前記補助ブロアを連続して運転する制御を行い、前記船舶を前記ディーゼルエンジンの出力が44.8%以上53.3%以下となる範囲で運航することを特徴とする船舶の運転制御方法。
【請求項2】
ディーゼルエンジンと、前記ディーゼルエンジンに過給を行う過給器と、前記ディーゼルエンジンの吸気ラインに補助ブロアを有した船舶の運転制御方法において、
前記ディーゼルエンジンの回転数が88rpm以下である低回転領域で、前記補助ブロアを連続して運転する制御を行い、前記船舶を前記ディーゼルエンジンの回転数が80rpm以上88rpm以下となる範囲で運航することを特徴とする船舶の運転制御方法。
【請求項3】
ディーゼルエンジンと、前記ディーゼルエンジンに過給を行う過給器と、前記ディーゼルエンジンの吸気ラインに補助ブロアと、制御装置を有した船舶において、
前記制御装置が、前記ディーゼルエンジンの出力が53.3%以下の低回転領域で、前記ブロアを連続して運転する制御を行い、前記制御装置が、前記船舶を前記ディーゼルエンジンの出力が44.8%以上53.3%以下となる範囲で運航する制御を行う構成を有していることを特徴とする船舶。
【請求項4】
前記船舶が、補助ブロアのモータの大型化、補助ブロアの大容量化、又は補助ブロアの高回転化の内、少なくとも1つにより吸気容量を向上させた補助ブロアを有することを特徴とする請求項3に記載の船舶。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−71710(P2012−71710A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−218589(P2010−218589)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【出願人】(000205535)株式会社 商船三井 (21)
【Fターム(参考)】