説明

色分解テーブルの作成方法およびその装置、並びに、画像形成装置

【課題】 有色インクとクリアインクを用いて形成する画像の光沢特性のむらを抑制する。
【解決手段】 光沢特性測定部703は、有色インク用の色分解テーブル401の色分解値に対して、クリアインクのインク量を変化させたパッチデータによって形成された複数のパッチの光沢特性に関する測定値を取得する。色分解テーブル生成部403は、パッチデータが示す色または階調ごとに一つの測定値を選択し、選択した測定値と有色インク用の色分解テーブル401に基づき、有色インクとクリアインクを用いる場合の色分解テーブルを作成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有色インクとクリアインクを用いて画像を形成する画像形成装置の色分解テーブルの作成に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置のインクとして、水に溶解し易い染料を色材とした染料インクが広く用いられている。水を主成分とする染料インクは、溶媒中に溶解した色材が記録媒体の繊維内部に浸透し易い。従って、画像記録後も、記録媒体の表面形状が維持され易く、記録媒体自体の光沢が画像の光沢として維持される。言い換えれば、光沢に優れた記録媒体に染料インクを用いて画像を記録すれば、光沢に優れた画像を容易に得ることができる。従って、染料インクを用いるインクジェット記録装置においては、記録媒体の光沢を調整することにより、画像の光沢を調整可能である。
【0003】
染料インクは、一般に耐光性が低く、色材の染料分子が光によって分解し、画像が褪色する。また、染料インクで印刷した印刷物は、一般に耐水性が低く、水に濡れると繊維質に浸透した染料分子が水に溶解し、画像の滲みが発生する。
【0004】
染料インクを使用する場合に発生する耐光性や耐水性の問題を解決するため、近年、色材に顔料を用いた顔料インクの開発が進められている。顔料インクは、分子として存在する染料と異なり、数10nmから数μmの粒子として溶剤中に存在する。顔料インクの色材粒子は、染料インクの色材粒子に比べて大きく、耐候性が高い印刷物が得られる。
【0005】
顔料インクの色材は、記録媒体内に浸透し難く、記録媒体の表面に堆積する。そのため、顔料インクを付けた領域と顔料インクを付けなかった領域とでは画像表面の微細な形状が異なる。また、画像の濃度や色に応じて色材の使用量が異なる。そのため、色材が記録媒体を被覆する面積が異なり、色材の反射率と記録媒体の表面反射率が異なるため、色材が記録媒体を被覆する面積の違いで光沢に違いが生じる。
【0006】
上述した理由により、顔料インクを用いて画像を記録すると、画像の濃度や色によって光沢感が異なる「光沢むら」と呼ぶ現象が発生する。光沢むらが発生すると、同一の画像内に光沢が観察されるグロス領域と光沢が観察されないマット領域が混在し、とくに写真画像の場合は好ましくない画像として認識される。
【0007】
光沢むらは、顔料インクを用いるインクジェット記録装置に限らず、トナーを記録媒体に定着して画像を記録する電子写真方式の記録装置でも発生する。例えば、トナーの付着量が多い領域は、定着によって画像表面の平滑性が高くなる。そのため、光沢が低い普通紙であれば、画像が存在する領域は、画像が存在しない記録紙の表面が剥き出しの領域に比べて、光沢が高くなる。なお、画像が存在する領域の光沢は、トナーの付着量、定着温度、定着速度などに依存して変化することが知られている。
【0008】
光沢むらを抑制するために、色再現に影響しない実質的に無色透明なインク(以下、クリアインク)を用いる方法が知られている。つまり、有色インクで被覆されていない領域に、クリアインクまたは白色インクを付けて光沢むらを抑制する(例えば、特許文献1)。また、再現する色や階調に依らず有色インクとクリアインクの総量を一定にして記録を行う方法や、所定濃度より階調が低い領域(以下、ハイライト部)の有色インクとクリアインクの総量を一定にして記録を行う方法が知られている(例えば、特許文献2)。
【0009】
また、若干の色を帯びた、実質的に無色ではないインク(以下、準クリアインク)を用いる方法もある(例えば、特許文献3)。準クリアインクは、有色インクと一緒に使用すると、有色インクのみの場合と再現色が異なる特性をもつ。準クリアインクを用いる場合は、まず、準クリアインクと有色インクの記録量が異なる複数のパッチを印刷し、当該パッチの測色値に基づき、所定の色を再現する組み合わせを求めて色分解用のルックアップテーブル(以下、色分解テーブル)を作成する。
【0010】
しかし、特許文献1の技術は、有色インクによって形成するドットと排他関係にある位置にクリアインクのドットを形成する。つまり、有色インクかクリアインクかに依らず、記録媒体の表面すべてをインクで被覆する。この方法は、有色インクによって記録媒体の表面すべてが被覆される中間濃度以上はクリアインクを使用せず、光沢むらの抑制に最適なクリアインクの使用量ではない可能性がある。
【0011】
特許文献2の技術は、再現色や階調に依らず有色インクとクリアインクの総量を一定にする。そのため、使用する各インクが光沢に及ぼす特性(例えば、表面の凹凸や表面反射率など)によっては、必要以上にクリアインクを使用したり、クリアインクの使用量が光沢むらの抑制に不足する場合が発生する。
【0012】
特許文献3の技術は、所望する再現色を得るための準クリアインクの使用量を求めることができるが、光沢むらを抑制する準クリアインクの使用量を求めるわけではない。
【0013】
さらに、上述した光沢むらのほかに、顔料インクやトナーを用いる記録装置には、次の課題が存在する。
【0014】
使用する顔料インクやトナーの種類によっては、記録媒体の表面に顔料インクやトナーが形成した薄膜において薄膜干渉が発生することがある。薄膜干渉は、薄膜の厚さが光の波長と同程度、かつ、表面が比較的平滑である場合に発生する。薄膜干渉が発生すると、印刷物からの正反射光(および、正反射近傍に拡散する光)が様々な色を帯びる。
【0015】
また、顔料インクやトナーにより記録された印刷物は、印刷物の表面に露出した材料の特性により波長依存性をもつ反射が発生する。これは「ブロンズ現象」と呼ばれる。ブロンズ現象が発生すると、薄膜干渉の場合と同様、印刷物からの正反射光(および、正反射近傍に拡散する光)が色を帯びる。印刷物からの正反射光は、観察者にとって、印刷物に映り込んだ照明像として観察される。そのため、薄膜干渉やブロンズ現象が発生すると、印刷物に映り込んだ照明像の色が、照明本来の色と異なる色に観察される。以下では、薄膜干渉によって映り込んだ照明像が色を帯びて観察される現象を「干渉色」、ブロンズ現象によって映り込んだ照明像が色を帯びて観察される現象を「ブロンズ色」と呼ぶ。また、両者を総称して「正反射色」と呼ぶ。
【0016】
顔料インクやトナーにより記録された印刷物は、再現色や階調によって表面の構造や材質が異なる。薄膜干渉やブロンズ現象は、上述したとおり、印刷物の表面の構造や材質に依存するため、色ごとまたは階調ごとに表面の構造や材質が異なる印刷物は、色ごとまたは階調ごとに正反射色が異なる。このような印刷物は、複数の色によって構成される画像領域の正反射色が、画像の位置によって異なって観察されるため、観察者に違和感を与える。この現象を以下では「正反射色むら」と呼ぶ。従来、画像形成において、正反射色は考慮されていない。
【0017】
以下では、鏡面光沢度、写像性を総称して「光沢」と呼び、光沢(鏡面光沢度、写像性)に正反射色を加えて「光沢特性」と呼ぶ場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2002-307755公報
【特許文献2】特開2007-276482公報
【特許文献3】特開2004-202790公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、有色インクとクリアインクを用いて形成する画像の光沢特性のむらを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、前記の目的を達成する一手段として、以下の構成を備える。
【0021】
本発明にかかる色分解テーブルの作成は、有色インクとクリアインクを用いて記録媒体に画像を形成する画像形成装置の色分解テーブルを作成する際に、前記有色インク用の色分解テーブルの色分解値に対して、前記クリアインクのインク量を変化させたパッチデータによって形成された複数のパッチの光沢特性に関する測定値を取得し、前記パッチデータが示す色または階調ごとに、前記クリアインクのインク量が異なる複数のパッチの測定値から一つの測定値を選択し、前記選択した測定値と前記有色インク用の色分解テーブルに基づき、前記有色インクと前記クリアインクを用いる場合の色分解テーブルを作成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、有色インクとクリアインクを用いて形成する画像の光沢特性のむらを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施例の画像処理装置の機能構成例を説明するブロック図。
【図2】画像処理部の構成例を説明するブロック図。
【図3】色分解テーブルの生成を説明するブロック図。
【図4】色分解テーブルの生成を説明するフローチャート。
【図5】印刷条件に応じた色分解テーブルの生成を説明するブロック図。
【図6】印刷条件に応じた色分解テーブルの生成を説明するフローチャート。
【図7】クロスパッチの作成とクロスパッチの光沢特性の測定を説明するブロック図。
【図8】クロスパッチデータの一例を説明する図。
【図9】記録媒体に印刷されたパッチの一例を説明する図。
【図10】クリアインクのインク値の決定方法を説明する図。
【図11】入力値とインク量の関係を説明する図。
【図12】記録材制限値を考慮したクロスパッチデータの一例を説明する図。
【図13】正反射色を測定した結果の一例を説明する図。
【図14】実施例の画像処理装置の構成例を説明するブロック図。
【図15】印刷条件設定部が提供するUIを説明する図。
【図16】有色インクのインク量をパラメータとして、クリアインクのインク量が異なるパッチの正反射色の測定結果を表す図。
【図17】有色インクのインク量が異なる測定値の間で正反射色むらが小さくなるように選択した測定値を示す図。
【図18】入力値に対する、選択したパッチの有色インクのインク量、クリアインクのインク量、総インク量を表す図。
【図19】入力値に対する、クリアインクのインク量を変化させた複数のパッチの鏡面光沢度および写像性の測定結果を表す図。
【図20】正反射色むらの抑制の優先度に設定に応じて選択可能な測定値(パッチ)を表す図。
【図21】鏡面光沢度むらの抑制の優先度に設定に応じて選択可能な測定値(パッチ)を表す図。
【図22】写像性むらの抑制の優先度に設定に応じて選択可能な測定値(パッチ)を表す図。
【図23】有色インクのインク量をパラメータとして、クリアインクの使用量の設定を満たす、クリアインクのインク量が異なるパッチの正反射色の測定結果を表す図。
【図24】入力値に対する、クリアインクの使用量の設定を満たす、クリアインクのインク量を変化させた複数のパッチの鏡面光沢度および写像性の測定結果を表す図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明にかかる実施例の画像処理を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下では、本発明の実施例をインクジェット方式の画像形成装置を例に説明するが、本発明はトナーを使用する電子写真方式の画像形成装置にも適用することができる。
【0025】
[装置の構成]
図14のブロック図により実施例の画像処理装置の構成例を説明する。
【0026】
マイクロプロセッサ(CPU)1401は、ランダムアクセスメモリ(RAM)1402をワークメモリとして、リードオンリメモリ(ROM)1403やハードディスクドライブ(HDD)1406に格納されたプログラムを実行し、装置全体の動作を制御する。CPU1401は、処理対象のデータや後述するユーザインタフェイス(UI)を表示部1404に表示し、キーボード、マウス、タッチパネルなどから構成される入力部1405からユーザ指示を入力する。CPU1401は、ネットワークインタフェイス(I/F)1407と、USBやIEEE1394などのシリアルバスI/F1408を備える。そして、ネットワーク1409や図示しないシリアルバスを介して、プリンタ1410などの周辺機器やサーバなどに接続し、画像の入出力を行う。
【0027】
[機能構成]
図1のブロック図により実施例の画像処理装置の機能構成例を説明する。
【0028】
画像入力部101では、印刷対象の画像データ(以下、入力画像)を入力する。印刷条件設定部102は、画像を印刷する際の記録媒体の種類や色処理方法など印刷条件を設定するUIをユーザに提供する。なお、印刷条件設定部102は、後述するUIを提供する、例えば、画像処理装置に画像データを供給するコンピュータ装置上で稼働するプリンタドライバでもよい。
【0029】
画像処理部103は、印刷条件設定部102によって設定された印刷条件に対応する画像処理を入力画像に施す。画像出力部104は、インクジェットプリンタなどの記録装置であり、画像処理部103が出力する画像データに基づく画像を印刷条件設定部102によって設定された種類の記録媒体に印刷する。
【0030】
図2のブロック図により画像処理部103の構成例を説明する。
【0031】
カラーマッチング部203は、色変換テーブルを用いて入力画像201にカラーマッチング処理を施す。このカラーマッチング処理は、例えばモニタの色域の入力画像201を画像出力部104の色再現範囲(色域)にマッピングする処理である。また、図には示さないが、画像出力部104が入力画像201の解像度を扱うことができない場合は、カラーマッチング部203の処理前に、入力画像201の解像度を画像出力部104が扱うことができる解像度に変換する。
【0032】
色分解部204は、色分解テーブル205を参照して、カラーマッチング処理された画像を色分解する。ガンマ補正部206は、色分解された、例えばCMYKの色材に対応する信号値(以下、インク値)をそれぞれガンマ補正(階調補正)する。中間調処理部207は、ガンマ補正後の各色材に対応する画像(以下、プレーン画像)の階調数を、画像出力部104が処理可能な階調数に中間調処理して、画像出力部104に出力する印刷データ208を生成する。
【0033】
[色分解テーブルの生成]
図3のブロック図により色分解テーブル205の生成を説明する。また、図4のフローチャートにより色分解テーブル205の生成を説明する。
【0034】
色分解テーブル生成部403は、予め作成されている有色インク用の色分解テーブル401を取得する(S301)。有色インク用の色分解テーブル401は、入力画像の信号値(例えばRGB値)を画像出力部104が備える有色インクのインク値に色分解する条件を定めたルックアップテーブル(LUT)である。有色インク用の色分解テーブル401は、画像出力部104の色再現範囲、粒状性、階調性、濃度むらなどの特性を考慮して作成されている。
【0035】
次に、色分解テーブル生成部403は、クロスパッチの光沢特性テーブル402を取得する(S302)。クロスパッチは、有色インク用の色分解テーブル401が出力するインク値それぞれに対して、クリアインクのインク値を複数段階に変化させ、画像出力部104によって印刷した複数のパッチである。
【0036】
次に、色分解テーブル生成部403は、有色インク用の色分解テーブル401と、取得した光沢特性テーブル402に基づき、色分解テーブル205を生成する(S303)。なお、色分解テーブル生成部403は、詳細は後述するが、入力画像の信号値に対応するクリアインクのインク値を光沢むらや正反射色むらを抑制するように決定する。
【0037】
図3と図4は、例えば、ある種類の記録媒体を使用して、正反射色むらの抑制を重視する色分解テーブル205の生成方法に該当する。光沢が異なる様々な種類の記録媒体の使用や光沢むらの抑制の重視など、様々な印刷条件を考慮すると一つの色分解テーブル205では対応し切れない。そこで、ユーザによって設定された印刷条件に応じて、色分解テーブル205を生成する方法を説明する。
【0038】
図5のブロック図により印刷条件に応じた色分解テーブル205の生成を説明する。また、図6のフローチャートにより印刷条件に応じた色分解テーブル205の生成を説明する。なお、図3、図4と同様の構成および処理には同一符号を付して、その詳細説明を省略する。
【0039】
色分解テーブル生成部403は、印刷条件202を取得し(S304)、有色インク用の色分解テーブル401、クロスパッチの光沢特性テーブル402、印刷条件202に基づき、色分解テーブル205を生成する(S303)。印刷条件202は、詳細は後述するが、印刷に使用する記録媒体の種類、ユーザが重視する項目(例えば光沢むらの抑制や正反射色むらの抑制)、クリアインクの消費量などを含む。
【0040】
図7のブロック図によりクロスパッチの作成とクロスパッチの光沢特性の測定を説明する。
【0041】
クロスパッチ生成部701は、有色インク用の色分解テーブル401の入力RGB値(グリッドの座標値)の有色インクのインク値の組み合わせに対して、クリアインクのインク値を複数段階に変化させたデータ(以下、クロスパッチデータ)を作成する。図8によりクロスパッチデータの一例を説明する。図8は、入力RGB値が各8ビットの例を示し、入力画像の代表的な信号値(色分解テーブル401のグリッドの座標値)に対する、有色インクのインク量と、クリアインクの六段階のインク量を示す。なお、図8に示すインク量は、例えば、単位面積を被覆するインク量(吐出量)を基準値100%とする相対値である。クロスパッチデータは、入力画像の信号値と、各色インクのインク量の対応を示せばよく、インク量ではなく、例えば8ビットのインク値をクロスパッチデータとして、インク値とインク量の対応関係を別のテーブルに保持してもよい。
【0042】
クロスパッチ印刷部702は、画像出力部104により印刷条件202が示す記録媒体にクロスパッチデータに従う複数のパッチを印刷する。図9により記録媒体に印刷されたパッチの一例を説明する。図9Aに示す縦に並んだパッチは、それぞれ有色インクのインク値が異なり、横に並んだパッチは有色インクのインク値が同じでクリアインクのインク値が異なる。言い替えれば、縦方向に色または階調が変化し、横方向には色や階調は変化せず、光沢や正反射色のみが変化する。
【0043】
光沢特性測定部703は、図9に示すパッチの光沢特性を後述する「光沢特性測定方法」により測定し、光沢特性テーブル402に格納する。なお、ここで扱う光沢特性には、詳細は後述するが、鏡面光沢度、写像性、正反射色の何れか一つを含む。
【0044】
色分解テーブル生成部403は、上述したように、光沢特性テーブル402を利用して、有色インクの各インク値に対するクリアインクのインク値を決定する。図10によりクリアインクのインク値の決定方法を説明する。色分解テーブル生成部403は、光沢特性の測定結果に基づき、異なる色の間または異なる階調の間で光沢特性の差をできるだけ小さくするように、パッチを選択する。選択されたパッチは、例えば図10の太枠で囲んだパッチであり、一つの色または階調に対して一つのパッチが選択される。そして、選択したクリアインクのインク値を、有色インクのインク値に対応する、光沢むらまたは正反射色むらを抑制するクリアインクのインク値として色分解テーブル205に格納する。なお、パッチの選択は、後述する「光沢特性測定方法」により測定した測定結果に基づくことが好ましいが、人の主観評価に基づきパッチを選択しても構わない。
【0045】
上記では、クリアインクのインク量を0%から100%まで六段階に線形に変化させる例を説明したが、記録媒体によってはインクの制限値(記録材制限値)が規定されていて、クリアインクのインク量を非線形に変化させる必要がある場合もある。図11により入力値とインク量の関係を説明する。図11において、破線1101は記録媒体の記録材制限値を示し、実線1102は有色インク用の色分解テーブル401によって得られる入力値に対する有色インクのインク量を示す。従って、破線1101が示すインク量と実線1102が示すインク量の差が(点線1103)がクリアインクの最大インク量になる。言い換えれば、点線1103を超える量のクリアインクは記録することができない。図12により記録材制限値を考慮したクロスパッチデータの一例を説明する。図12の例は、記録材制限値が120%の例であり、記録材制限値を考慮してクリアインクのインク量を調整することで印刷および測定するパッチの数を減らすことができる。
【0046】
●光沢特性測定部
光沢特性測定部703による光沢特性測定方法を説明する。印刷媒体の光沢評価は、一般に、正反射光の強度を測定する鏡面光沢度測定方法(JIS Z 8741)に準拠する光沢度計の測定値を用いる。自動車の外板など高光沢物体の光沢評価は、試料表面の曇り具合を測定する反射ヘイズ測定法(ISO 13803、ASTM E 430)、試料表面に映り込んだ物体像の鮮明度を測定する写像性測定法(JIS K 7105、JIS H 8686)を用いる。写真印刷などに高光沢の記録媒体が用いられるインクジェットプリンタにおいては、特許第3938184号公報が開示するように、鏡面光沢度だけではなく鏡面光沢度と写像性(または反射ヘイズ)を用いる評価の方が観察者の主観との対応が良好である。
【0047】
以下、鏡面光沢度は、鏡面光沢度測定法に準拠する測定器(例えば日本電色製光沢計VG-2000)で測定された鏡面光沢度の値を示す。また、写像性は、写像性測定法に準拠する測定器(例えばスガ試験機製写像性測定器ICM-1T)で測定された像鮮明度の値または反射ヘイズ測定法で測定された反射ヘイズの値を示す。また、光源および受光器を変角して、試料からの反射光強度分布を測定するから、正反射方向の(または最大になる)強度を抽出したものを鏡面光沢度の代用としてもよい。ゴニオフォトメータの測定結果は「bidirectional reflectance distribution function (BRDF)と呼ばれる。また、BRDFの正反射近傍における広がり(例えば、半値幅)を写像性として扱ってもよい。さらに、上述した鏡面光沢度(BRDFの最大値を含む)、写像性(像鮮明度、反射ヘイズ、BRDFの半値幅を含む)を、より人の感覚に対応するように変換した値を用いても構わない。
【0048】
本実施例における正反射色の測定は、特開2006-177797公報に開示された方法を用いる。つまり、測定対象試料の正反射光の三刺激値XxYxZxと光源の三刺激値XsYsZsを測光し、JIS Z 8729に基づき、測定対象試料の正反射光のL*a*b*を算出する。この計算式を式(1)に示すが、これはJIS Z 8729のXnYnZnと値として、光源の三刺激値XsYsZsを適用したものである
a* = 500(Fx - Fy)
b* = 500(Fy - Fz) …(1)
ここで、Fx = (Xx/Xs)1/3
Fy = (Yx/Ys)1/3
Fz = (Zx/Zs)1/3
【0049】
図13により正反射色を測定した結果の一例を説明する。図13は、有色インクのインク量をゼロに固定し、クリアインクのインク量を変化させて印刷した試料の正反射色の測定結果を示す。グラフ上にプロットされた点と原点との間の距離が大きいほど、正反射光の色付きが大きいことを示す。
【0050】
[ユーザインタフェイス]
図15により印刷条件設定部102が提供するUIを説明する。
【0051】
ユーザから印刷指示が入力されると、印刷条件設定部102は、印刷条件設定ウィンドウ1501を表示部1404に表示する。ユーザは、「入力画像データ」設定欄1502を使用して画像入力部101によって入力すべき画像のファイル名やパス名を指定し、「用紙の種類」コンボボックス1503を使用して記録媒体の種類を選択する。また、ユーザは、色処理方法設定部1504を操作してユーザが重視する評価項目を設定する。つまり、スライダ1505により「鏡面光沢度むら抑制」の優先度を設定し、スライダ1506により「写像性むら抑制」の優先度を設定し、スライダ1507により「正反射色むら」の優先度を設定する。また、ユーザは、スライダ1508を操作して、クリアインクの使用量(消費量)を設定する。
【0052】
印刷条件設定ウィンドウ1501の初期状態、つまり表示された直後のデフォルト状態は、上記三つの項目の優先度が最もバランスのよい状態(例えば等優先度)なっていることが好ましい。そして、スライダ1505〜1507を連動させて、何れかの項目の優先度を変更した場合、他の項目の優先度が設定可能な範囲で最高になるように更新されることが好ましい。また、スライダ1508の操作に従い、スライダ1505〜1507の設定が自動的に更新されることが好ましい。
【0053】
ユーザが印刷ボタン1509を押すと、印刷条件設定部102は、ユーザが設定した条件に対応する印刷条件202を出力し、画像入力部101、画像処理部103、画像出力部104によって印刷が実行される。また、ユーザがキャンセルボタン1510を押すと印刷が中止される。
【0054】
[色分解テーブルの生成]
図16から図24により色分解テーブルの生成方法の詳細を説明する。
【0055】
図16は有色インクのインク量をパラメータとして、クリアインクのインク量が異なるパッチの正反射色の測定結果を表す。有色インクのインク量が異なる測定値の間で正反射色むらが小さくなるように測定値を選択すると、図17に丸印で囲んだ測定値が選択される。例えば、隣接する色または階調の間の測定値の差が所定の閾値を超えないように各測定値を選択する。図18は入力値に対する、選択したパッチの有色インクのインク量、クリアインクのインク量、総インク量を表している。総インク量は、使用するインクの特性によって差異はあるが、各入力値における総インク量が、総インク量が最も少ない場合のインク量に凡その定数を掛けたインク量(略定数倍のインク量)になることが好ましい。
【0056】
図19(a)は入力値に対する、クリアインクのインク量を変化させた複数のパッチの鏡面光沢度の測定結果を表し、実線でつないだ測定値は鏡面光沢度むらが小さくなるように選択した測定値である。例えば、隣接する色または階調の間の測定値の差が所定の閾値を超えないように各測定値を選択する。
【0057】
図19(b)は入力値に対する、クリアインクのインク量を変化させた複数パッチの写像性の測定結果を表し、実線でつないだ測定値は、写像性むらが小さくなるように選択した測定値である。例えば、隣接する色または階調の間の測定値の差が所定の閾値を超えないように各測定値を選択する。
【0058】
図17の選択方法により選択したパッチ(測定値)からは正反射色むらを優先的に抑制する色分解テーブル205が得られる。同様に、図19(a)の選択方法により選択したパッチ(測定値)からは鏡面光沢度むらを優先的に抑制する色分解テーブル205が得られる。また、図19(b)の選択方法により選択したパッチ(測定値)からは写像性むらを優先的に抑制する色分解テーブル205が得られる。
【0059】
図15に示したように、本実施例においては、鏡面光沢度むらの抑制、写像性むらの抑制、正反射色むらの抑制にそれぞれ優先度を設定することができる。つまり、設定された優先度に応じて、選択可能な測定値(パッチ)が制限される。
【0060】
図20は正反射色むらの抑制の優先度に設定に応じて選択可能な測定値(パッチ)を表す。同様に、図21は鏡面光沢度むらの抑制の優先度に設定に応じて選択可能な測定値(パッチ)を表す。また、図22は写像性むらの抑制の優先度に設定に応じて選択可能な測定値(パッチ)を表す。何れの図も円または楕円で囲んだ範囲の測定値が選択可能であることを表し、この選択範囲から各むらが小さくなるように測定値が選択され、色分解テーブル205が生成される。
【0061】
図20から図22の選択方法により選択したパッチ(測定値)からは鏡面光沢度むら、写像性むら、正反射むらそれぞれの優先度に対応した色分解テーブル205を生成される。
【0062】
また、図15に示したように、本実施例は、クリアインクの使用量を設定することができる。図23は、図16と同様に、有色インクのインク量をパラメータとして、クリアインクのインク量が異なるパッチの正反射色の測定結果を表すが、クリアインクの使用量の設定を満たす測定値だけを示す。つまり、図16に示す測定値の一部だけが示され、円で囲んだ測定値は、図17と同様に、正反射色むらが小さくなるように選択された測定値である。
【0063】
図24(a)は、図19(a)と同様に、入力値に対する、クリアインクのインク量を変化させた複数のパッチの鏡面光沢度の測定結果を表すが、クリアインクの使用量の設定を満たす測定値だけを示す。つまり、図19(a)に示す測定値の一部だけが示され、実線でつないだ測定値は、図19(a)と同様に、鏡面光沢度むらが小さくなるように選択された測定値である。図24(b)は、図19(b)と同様に、入力値に対する、クリアインクのインク量を変化させた複数パッチの写像性の測定結果を表すが、クリアインクの使用量の設定を満たす測定値だけを示す。つまり、図19(b)に示す測定値の一部だけが示され、実線でつないだ測定値は、図19(b)と同様に、写像性むらが小さくなるように選択された測定値である。
【0064】
図23、図24の選択方法により選択したパッチ(測定値)からは鏡面光沢度むら、写像性むら、正反射むらそれぞれの優先度に対応し、かつ、クリアインクの使用量の設定に対応した色分解テーブル205を生成される。
【0065】
[変形例]
例えば、色再現領域や明度域ごとに、鏡面光沢度むら、写像性むら、正反射色むらそれぞれの優先度を設定してもよい。一般に、シアンインクを多用するとブロンズ現象が発生し易いから、シアンに近い色再現領域の色分解値を決定する際は、正反射色の測定値に基づき色分解値を決定する。また、一般に、イエローインクを多用すると薄膜干渉が発生し易いから、イエローに近い色再現領域の色分解値を決定する際は、正反射色の測定値に基づき色分解値を決定する。また、一般に、比較的明度が低い領域は写像性が低下し易いから、当該領域の色分解値を決定する際は、写像性の測定値に基づき色分解値を決定する。さらに、中間明度域は鏡面光沢度が変動し易いから、中間明度域の色分解値を決定する際は、鏡面光沢度の測定値に基づき色分解値を決定する。
【0066】
このように、異なる色または階調の間で、光沢むら、正反射色むらを抑制する色分解テーブル205を生成することができる。また、予め作成されている有色インク用の色分解テーブル401によって決まる有色インクのインク量に対して、クリアインクのインク量を変化させたパッチを印刷してクリアインクのインク値を決定する。従って、比較的少ないパッチを用いて色分解テーブル205を生成することができる。また、鏡面光沢度むら、写像性むら、正反射色むらの何れを優先して抑制するかをユーザが設定することができ、ユーザが重要視する項目を優先的に改善することができる。さらに、クリアインクの消費量を考慮して色分解テーブル205を生成することもできる。
【0067】
[その他の実施例]
また、本発明は、以下の処理を実行することによっても実現される。即ち、上述した実施形態の機能を実現するソフトウェア(プログラム)を、ネットワーク又は各種記憶媒体を介してシステム或いは装置に供給し、そのシステムあるいは装置のコンピュータ(又はCPUやMPU等)がプログラムを読み出して実行する処理である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
取得手段、選択手段、作成手段を有する画像処理装置が、有色インクとクリアインクを用いて記録媒体に画像を形成する画像形成装置の色分解テーブルを作成する作成方法であって、
前記取得手段が、前記有色インク用の色分解テーブルの色分解値に対して、前記クリアインクのインク量を変化させたパッチデータによって形成された複数のパッチの光沢特性に関する測定値を取得し、
前記選択手段が、前記パッチデータが示す色または階調ごとに、前記クリアインクのインク量が異なる複数のパッチの測定値から一つの測定値を選択し、
前記作成手段が、前記選択した測定値と前記有色インク用の色分解テーブルに基づき、前記有色インクと前記クリアインクを用いる場合の色分解テーブルを作成することを特徴とする作成方法。
【請求項2】
さらに、前記画像処理装置は生成手段を有し、前記生成手段が、前記パッチを形成する記録媒体の記録材制限値を超えないように前記クリアインクのインク量を調整して前記パッチデータを生成することを特徴とする請求項1に記載された作成方法。
【請求項3】
前記選択手段は、隣接する色または階調の間における測定値の差が所定の閾値を超えないように測定値を選択することを特徴とする請求項1または請求項2に記載された作成方法。
【請求項4】
前記光沢特性は、鏡面光沢度、写像性、正反射色のうち少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1から請求項3の何れか一項に記載された作成方法。
【請求項5】
前記光沢特性は鏡面光沢度、写像性および正反射色を含み、前記作成手段は、前記鏡面光沢度、写像性および正反射色それぞれに対する優先度に基づき前記色分解テーブルを作成することを特徴とする請求項1から請求項3の何れか一項に記載された作成方法。
【請求項6】
前記光沢特性は鏡面光沢度、写像性および正反射色を含み、前記作成手段は、色再現領域および明度域ごとに、前記鏡面光沢度、写像性および正反射色それぞれに対する優先度に基づき前記色分解テーブルを作成することを特徴とする請求項1から請求項3の何れか一項に記載された作成方法。
【請求項7】
前記作成手段は、前記クリアインクの消費量の設定に基づき前記色分解テーブルを作成することを特徴とする請求項5または請求項6に記載された作成方法。
【請求項8】
前記作成手段は、各入力値における総インク量が、前記総インク量が最も少ない場合の略定数倍である前記色分解テーブルを作成することを特徴とする請求項5または請求項6に記載された作成方法。
【請求項9】
有色インクとクリアインクを用いて記録媒体に画像を形成する画像形成装置の色分解テーブルの作成装置であって、
前記有色インク用の色分解テーブルの色分解値に対して、前記クリアインクのインク量を変化させたパッチデータによって形成された複数のパッチの光沢特性に関する測定値を取得する取得手段と、
前記パッチデータが示す色または階調ごとに、前記クリアインクのインク量が異なる複数のパッチの測定値から一つの測定値を選択する選択手段と、
前記選択した測定値と前記有色インク用の色分解テーブルに基づき、前記有色インクと前記クリアインクを用いる場合の色分解テーブルを作成する作成手段とを有することを特徴とする作成装置。
【請求項10】
有色インクとクリアインクを用いて記録媒体に画像を形成する画像形成装置であって、
請求項1に記載した作成方法によって作成された色分解テーブルを格納するメモリと、
前記色分解テーブルを参照して、入力される画像データを前記有色インクのインク値および前記クリアインクのインク値に色分解する手段とを有することを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−218563(P2011−218563A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−86465(P2010−86465)
【出願日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】