説明

色変換のための装置および方法

【課題】色変換の精度を向上することと、そのために要するメモリ容量を節約することとの両立を図る。
【解決手段】RGB色空間に属する入力値をCMYK色空間に属する出力値に変換する変換ユニット25を含むプリンタ1を提供する。変換ユニット25は、分割情報31に基づき、入力値の属する部分色空間(領域)を判断する機能26と、判断された領域がLUTを用いて変換する領域の場合は、色変換用の3次元LUT32を用いて出力値を求める第1の機能23と、判断された領域が近似関数を用いて変換する領域の場合は、関数情報33により定義される近似関数を用いて出力値を求める第2の機能24とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ある色空間に属する座標値を、他の色空間に属する座標値に変換するのに適した方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、第1の色空間に属する複数の点について定めた色補正値を記憶するルックアップテーブルを備え、第1の色空間に属する点の色値を、ルックアップテーブルが記憶する色補正値に基づいて第2の色空間に属する点の色値に変換する色変換装置において、第1の色空間を複数の格子に分割してあり、ルックアップテーブルは、格子の格子点及び重心、並びに格子の格子面の重心について色補正値を定めてあることを特徴とする色変換装置が記載されている。
【0003】
特許文献2には、3次元ルックアップテーブルである誤差値格納手段の実使用時に必要なメモリ容量を節約することを可能とした色変換装置を提供することが記載されている。そのため、係数値LUT参照部により係数値LUTを参照して、入力値に対して、入力値の属する領域に対応した係数値を選択し、該選択した係数値と入力値に対する近似関数値を関数値演算部で計算し、該算出した近似関数値と、誤差値LUT参照部により誤差値LUTを参照して得た入力値に対応する誤差値とを加算部で加算することにより、3次元LUTの出力値を得ることが記載されている。LUTの出力値と近似関数値の出力値との誤差(差分)を見ると、元々のLUTの出力値の値域と比較して狭くなっており、誤差値については、LUTの出力値よりも少ないビット数で表現できる。したがって、近似関数値の計算に必要な係数値の個数が少なければ、誤差値格納テーブルのサイズと係数値の格納領域のサイズとを加えても、なお、元々の3次元LUTのサイズより小さくできるため、LUTを使用する際のメモリ容量を節約することができる。
【特許文献1】特開2006−121530号公報
【特許文献2】特開2006−246236号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
カラー画像出力の需要は高く、様々な機器およびシステムにおいて、カラー画像を出力することが要求されている。たとえば、個人用および業務用を含むプリンタおよびコピー機などの印刷システム、様々なタイプのディスプレイを含むシステムにおいてカラー画像を出力することが要求されている。
【0005】
カラー画像の出力においては、出力対象の画像情報に対して、色を安定して再現することが要望され、出力方式、ディスプレイタイプなどに合致した色変換(色補正)を行うことが重要である。この色変換処理の1つの方法として、3次元LUT(ルックアップテーブル)を用いた方法(3次元補間法)が公知である。3次元LUTは、精度を向上するためには格子点を増やすことが望ましい。しかしながら、格子点を増やすと3次元LUTが膨大になる。
【0006】
色変換処理の他の1つの方法として、近似関数を用いた方法が公知である。近似関数の定義に必要な係数の個数が少なければ、誤差値を格納することを考慮しても、それらを格納するためのメモリ領域を、3次元LUTを格納するメモリ領域よりも小さくできる可能性がある。しかしながら、色空間の全ての領域において、他の色空間へ変換するための近似関数の定義に必要な係数の個数が少なくできるか否かは問題がある。特に、変換精度を向上しようとした場合、近似関数を複雑にするか、あるいは、係数を定義する領域のサイズ(範囲)を細かく(狭く)する必要が生ずる。したがって、色変換の精度を向上することと、そのために3次元LUTまたは近似関数の係数および誤差値を格納するためのメモリ容量を節約することとを両立させることは難しい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1つの態様は、第1色空間に属する第1の点を示す第1の座標値を、色変換情報に基づき第2色空間に属する第2の点を示す第2の座標値に変換する変換ユニットと、色変換情報を格納するためのライブラリとを有する装置である。色変換情報は、第1色空間を複数の部分第1色空間に分割するための分割情報と、分割情報により規定された第1の部分第1色空間を複数の格子に分割し、それぞれの格子の格子点の座標値に対応する第2色空間の座標値を格納した3次元LUTと、分割情報により規定された第2の部分第1色空間の座標値から第2色空間の座標値を求めるための変換関数を定義した関数情報とを含む。変換ユニットは、分割情報に基づき、第1の点の属する部分第1色空間を判断する機能と、第1の点が第1の部分第1色空間に属する場合は、3次元LUTを用いて第2の座標値を求める第1の機能と、第1の点が第2の部分第1色空間に属する場合は、変換関数を用いて第2の座標値を求める第2の機能とを含む。
【0008】
第1色空間の第1の点を第2色空間の第2の点に変換する場合、その変換特性が、第1色空間の全域にわたって線形あるいはそれに近い状態である場合は少なく、また、第1色空間の全域にわたって変換特性が非線形である場合は少ない。また、色空間には、視覚的に敏感な領域と、それほど敏感ではない領域とが含まれることが多い。
【0009】
この装置においては、変換元の第1の点が属する部分第1色空間を判断するための分割情報を用意しているので、第1の点が属する部分第1色空間により、第1の機能により、3次元LUTを用いて第2の点に変換することができる。また、第1の点が属する部分第1色空間によっては、第2の機能により、変換関数を用いて第2の点に変換することができる。したがって、変換特性が線形またはそれに近い領域、あるいは、視覚的に敏感でない領域など、変換のために簡易な関数を用いた方が、色変換情報を格納するライブラリのメモリ容量を小さくできる領域(部分色空間)は、第2の機能により変換されるように分割情報を生成できる。変換特性が非線形な領域、あるいは、視覚的に敏感な領域など、変換のために3次元LUTを用いた方がライブラリのメモリ容量を小さくできる領域(部分色空間)は、第1の機能により変換されるように分割情報を生成できる。このため、色変換の精度を向上することと、そのために要する色変換情報を格納するためのメモリ容量を節約することとを両立させることができる。
【0010】
第1の部分第1色空間と第2の部分第1色空間とが隣接している場合は、関数情報は、第2の部分第1色空間との境界面近傍における補正パラメータと、補正パラメータを適用する補正範囲パラメータとを含んでいることが望ましい。また、第2の座標値を求める第2の機能は、第1の点が補正範囲パラメータの範囲内であれば、変換関数に補正パラメータを適用して第2の座標値を求める機能を含んでいることが望ましい。関数により変換する部分色空間の境界面における変換結果(第2の点)と、3次元LUTにより変換する部分色空間の変換結果とのずれを抑制でき、色変換の品質を向上できる。
【0011】
本発明の他の態様の1つは、第1色空間に属する第1の点を示す第1の座標値を、色変換情報に基づき第2色空間に属する第2の点を示す第2の座標値に変換する方法である。この方法は以下の工程を含む。
・分割情報に基づき、第1の点の属する部分第1色空間を判断すること。
・第1の点が第1の部分第1色空間に属する場合は、3次元LUTを用いて第2の座標値を求めること。
・第1の点が第2の部分第1色空間に属する場合は、変換関数を用いて第2の座標値を求めること。
【0012】
さらに、第1の部分第1色空間と第2の部分第1色空間とは隣接しており、関数情報は、第2の部分第1色空間との境界面近傍における補正パラメータと、補正パラメータを適用する補正範囲パラメータとを含む場合は、第2の座標値を求める工程は、第1の点が補正範囲パラメータの範囲内であれば、変換関数に補正パラメータを適用して第2の座標値を求めることを含むことが望ましい。
【0013】
本発明のさらに他の態様の1つは、コンピュータに、第1色空間に属する第1の点を示す第1の座標値を、色変換情報に基づき第2色空間に属する第2の点を示す第2の座標値に変換させる命令を含むプログラムである。第2の座標値に変換させる命令は、分割情報に基づき、第1の点の属する部分第1色空間を判断することと、第1の点が第1の部分第1色空間に属する場合は、3次元LUTを用いて第2の座標値を求めることと、第1の点が第2の部分第1色空間に属する場合は、変換関数を用いて第2の座標値を求めることとを含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1に、本発明の1つの実施形態として、色変換処理を含む画像処理機能を備えたプリンタを示している。このプリンタ1は、パーソナルコンピュータなどのホスト2またはデジタルカメラ3などから画像データを受け入れ、選択された用紙に画像データを印刷する。プリンタ1は、制御ユニット10と、インクジェット方式により画像を印刷するための印刷機構12とを有する。印刷機構12は、レーザ光を用いたページプリンタ方式、熱転写方式、昇華方式など、他の画像を形成する方式を採用したものであっても良い。制御ユニット10は、画像データを受け入れるための入力インターフェイス14と、メモリ15と、CPU16と、画像処理ユニット20と、出力インターフェイス17とを含む。入力インターフェイス14は、例えば、ホスト2またはデジタルカメラ3と接続可能なUSBインターフェイスであり、SDカードなどのメモリカードを装着できるインターフェイス、LANインターフェイスであっても良い。
【0015】
メモリ15は、ROM、RAM、ハードディスクなどの揮発性または不揮発性のストレージとしての機能を提供できるものであれば良い。メモリ15には、CPU16にダウンロードされ、CPU16にプリンタ1を制御するための所定の機能を発揮させるプログラム18が格納されている。以下で説明する画像処理ユニット20としての機能をCPU16により提供するためのプログラムが格納されていても良い。また、メモリ15の一部は、色変換処理のための情報(色変換情報)30を格納するためのライブラリ39となっている。さらに、メモリ15は、入力された画像データ、処理中のデータおよび出力用の画像データなどを一時的に格納する機能も果たす。
【0016】
画像処理ユニット20は、RGBデータ(RGB色空間)で与えられた画像データ(入力データ)を、CMYKデータの画像データ(出力データ)に変換して出力する。この例では、出力データは印刷機構12において利用可能なCMYKデータであるが、色変換処理の出力データはCMYKデータに限定されない。色変換処理は、1つの色空間のデータを、他の色空間のデータ、または、同一の色空間のデータであって画像出力デバイスの発色の特性などにマッチしたデータに変換することであっても良い。
【0017】
画像処理ユニット20は、RGBデータの前処理を行うRGB処理ユニット21と、色変換ユニット25と、CMYKデータの後処理を行うCMYK処理ユニット22とを含む。RGB処理ユニット21は、必要に応じて、階調補正処理、領域分離処理を行う。色変換ユニット25は、RGB色空間のデータをCMYK色空間のデータに変換する。CMYK処理ユニット22は、空間フィルタ処理、階調再現処理などを必要に応じて行う。なお、色変換ユニット25により、CMY色空間のデータに変換し、CMYK処理ユニット22に黒生成処理を含めても良い。
【0018】
色変換ユニット25は、RGB色空間(第1色空間)に属する第1の点を示す第1のデータ(第1の座標値)28を、ライブラリ39の色変換情報30を用いて、CMYK色空間(第2色空間)に属する第2の点を示す第2のデータ(第2の座標値)29に変換する。色変換情報30は、RGB色空間を複数の部分RGB色空間(部分色空間)に分割するための分割情報31を含む。色変換情報30は、さらに、分割情報により規定された部分色空間(第1の部分RGB色空間)を複数の格子に分割し、それぞれの格子の格子点の座標値に対応するCMYK色空間の座標値を格納した3次元LUT(変換用LUT)32を含む。色変換情報30は、さらに、分割情報により規定された異なる部分色空間(第2の部分RGB色空間)の座標値からCMYK色空間の座標値を求めるための変換関数(近似関数)を定義した関数情報33を含む。典型的には、3次元LUT32および関数情報33は、それぞれ1つではなく、複数である。
【0019】
図2に、色変換情報30の概要を示している。この図では、分割情報31により分割された状態を3次元LUT−Aにより示している。このLUT−A31は、RGB色空間S1をいくつかの部分色空間に分割するためのLUTである。LUT−A31に含まれる格子数は、異なる色変換用の3次元LUT32または色変換用の関数情報33を適用する部分色空間の数に少なくとも相当すればよい。したがって、LUT−A31に含まれる格子の数は限定され、LUT−A31を格納するために要するメモリ量はそれほど多くならない。LUT−A31に含まれる格子の形状は、同一の3次元LUT32または関数情報33が適用される領域(部分色空間)に依存し、立方体あるいは直方体である必要はなく、また、すべての格子の形状が同一である必要はない。しかしながら、それぞれのLUT−A31に含まれる格子点の座標値を格子点毎に定義することは、LUT−A31に含まれるデータ量が増加する要因になる可能性がある。このため、本例のLUT−A31は適当なサイズと数の立方体または直方体の格子を用意し、それらの格子により規定される部分色空間のうち、複数の部分色空間に対して同一の3次元LUT32または同一の関数情報33を適用する方法を採用している。
【0020】
図2に示したLUTiおよびLUTkは、色変換用の3次元LUT32の例である。LUTi32は、LUT−A31により定義された部分色空間iに対応し、その部分色空間iをさらに細かな格子に分割した、それぞれの格子点(RGB色空間の格子点)に対応するCMYK色空間の点の座標値(補正値)を含んでいる。色変換用のLUT32はLUT−A31の各格子に対応していても良く、LUTk32のように、複数の格子に対応していても良い。LUTk32は、4つの格子からなる部分色空間kに対応した色変換用のLUTである。
【0021】
図2に示した関数fj(r,g,b)および関数fm(r,g,b)は、関数情報33により定義された変換関数(近似関数)である。近似関数の種類は特に限定されない。典型的な関数は、図3に示すような、RGB色空間の座標値(r,g,b)をCMYK色空間の座標値(c,m,y,k)に変換するマトリクスで表現されるものである。
【0022】
図4に、色変換情報30のさらに具体的なデータ構造を示している。色変換情報30は、領域情報部35と、変換情報部36とを含む。領域情報部35は、RGB色空間の点が属する部分色空間(領域)を規定する情報を備えている。具体的には、領域情報部35は、部分色空間(領域)番号35aと、LUT−A31で与えられる領域内外判定条件35bと、その領域の変換方法を指定しているデータ、すなわち、変換情報部36のアドレスを示す変換方法指定部アドレス35cとを含む。変換情報部36は、LUTまたは近似関数により変換方法を示す変換方法指定部36aを含む。変換情報部36は、さらに、変換方法が近似関数の場合は、その近似関数を規定する情報を含む関数情報部33を含む。変換情報部36は、また、変換方法がLUTの場合は、色変換用のLUT32のデータを含む。
【0023】
図1に戻って、画像処理ユニット20の変換ユニット25は、3次元LUT−A31に基づき、RGB色空間の第1の点の座標値(r,g,b)の属する領域(部分色空間)を判断する判別機能26と、色変換用のLUT32を用いて座標値(r,g,b)をCMYK色空間の座標値(c,m,y,k)に変換する第1の機能23と、関数情報部33により定義された変換関数を用いて座標値(r,g,b)をCMYK色空間の座標値(c,m,y,k)に変換する第2の機能24とを含む。変換ユニット25は、座標値(r,g,b)の属する部分色空間(領域)によって、色変換用のLUT32を用い、色変換用のLUT32の格子点の座標と補正式とにより座標値(c,m,y,k)を求めることができ、また、近似関数fn(r,g,b)により座標値(c,m,y,k)を求めることができる。なお、nは任意の記号または整数などである。
【0024】
図5に、RGB色空間S1が領域(部分色空間)に分割され、領域毎に異なる変換方法を用いる様子を2次元のイメージで模式的に示している。変換特性が非線形の領域00には、中程度に分割された色変換用のLUTp32が適用され、変換特性がほとんど線形の領域01には、近似関数f01が適用され、変換特性が非線形ではあるが特異点になるような部分を含まない領域02には、粗く分割された色変換用のLUTq32が適用される。変換特性が線形またはそれに近い領域10〜12には、それぞれ近似関数f10、f11、f12が適用される。変換特性が非線形ではあるが特異点になるような部分を含まない領域20には、粗く分割された色変換用のLUTr32が適用され、特異点に近い領域21には、中程度に分割された色変換用のLUTs32が適用され、特異点を含み視覚的に敏感な領域22には、細かく分割された色変換用のLUTu32が適用される。
【0025】
図6に、RGB色空間S1の座標値(r,g,b)が、CMYK色空間S2の座標値(c,m,y,k)に変換される様子を1次元のイメージで模式的に示している。領域00においては、色変換用のLUTp32により入力値(座標値)(r,g,b)が出力値(座標値)(c,m,y,k)に変換される。領域10においては、近似関数f10により入力値が出力値に変換される。領域20においては、色変換用のLUTr32により入力値が出力値に変換される。領域30においては、近似関数f30により入力値が出力値に変換される。それぞれの領域の近似関数f10あるいはf30は、図3の(1)式に示したマトリクスで与えられ、マトリクスの係数を含む関数情報33としてライブラリ39に格納されている。
【0026】
さらに、関数情報33は、部分色空間、すなわち、領域の境界面近傍における補正パラメータ(dev)と、補正パラメータを適用する補正範囲パラメータ(dL)とを含む。そして、変換ユニット25の第2の機能24は、入力値、すなわち、RGB色空間S1の座標値(第1の座標値)が補正範囲パラメータの範囲内であれば、近似関数(変換関数)に補正パラメータを適用して出力値、すなわち、CMYK色空間S2の座標値(第2の座標値)を求める機能24aを含む。近似関数により変換する領域、たとえば領域10と、LUTにより変換する領域、たとえば領域20の境界面12で、それぞれの領域の変換値に差があると、不連続な変換となる。このため、CMYK色空間S2において色むらなどの視覚に見える違いが発生する可能性がある。そのような場合には、近似関数f10の変換値を補正することで精度を上げることができる。LUTr32で変換する領域20の側は格子点を詳細にすることで精度を保つことができるので補正は行わず、LUT変換による境界面12での変換値に、近似関数f10による境界面12での変換値を合わせるように補正することが望ましい。補正式の一例は以下の通りである。
f´i(x)=fi(x)+dev(dL−dx)/dL・・・(2)
ここで、xは入力値、dxは入力値の境界面からの距離、dLは補正範囲を示すパラメータであり、座標Lの境界面12からの距離を示す。fi(x)は、近似関数であり、f´i(x)は補正後の近似関数である。devは、補正パラメータであり、境界面におけるLUTから求められた座標値と近似関数fi(x)から求められた座標値との差分を示す。領域10と領域20との境界面12においては、式(2)を適用すると以下のようになる。
f´10(x)=f10(x)
+dev12(dL12−dx)/dL12・・・(2´)
ここで、dL12は境界面12に対する補正範囲を示すパラメータであり、境界面12からの距離を示す。f10(x)は、近似関数であり、f´10(x)は補正後の近似関数である。dev12は、境界面12におけるLUTrから求められた座標値と近似関数f10(x)から求められた座標値との差分を示す。
【0027】
図7に示すように、破線で示す近似関数f10では境界面12において、領域10と領域20とにおける変換値(出力値)に差が発生する。これに対し、実線で示す補正項を持った近似関数f´10を適用することにより、境界面12において、領域10と領域20とにおける変換値(出力値)に差が発生するのを防止できる。
【0028】
図8に、色変換ユニット25における変換処理(変換方法)50をフローチャートにより示している。まず、ステップ60において、分割情報31に基づき、入力値、すなわち、第1の座標値により、RGB色空間S1の第1の点の属する領域(部分第1色空間)を判断する。この判断は、LUT−Aのような3次元LUTを用いても良く、座標値からRGB色空間S1における領域(部分色空間)を求めても良い。図9は、分割サイズが分割情報31として与えられている例である。この場合は、ステップ61において、第1の軸、たとえば、R軸の分割番号mを求め、ステップ62において、第2の軸、たとえば、G軸の分割番号nを求め、ステップ63において、第3の軸、たとえば、B軸の分割番号lを求め、ステップ64において、領域番号mnlを出力する。
【0029】
変換処理50においては、ステップ60において、入力値により示された入力点の領域が決まると、ステップ51において変換方法を判断し、入力値(第1の点の座標値)がLUTを適用する領域にあれば、ステップ52において、色変換用のLUTを用いて出力値、すなわち、CMYK色空間の座標値を求める。一方、入力値が近似関数(変換関数)を適用する領域にあれば、ステップ53において、近似関数を用いて出力値を求める。ステップ54において、変換された値を出力し、ステップ55において、画像を形成するためのすべての入力データが変換されるまで上記を繰り返す。
【0030】
図8に示した変換方法は、上記の処理を実行可能な回路として提供することが可能である。また、CPUなどの汎用の処理ユニットにより上記の処理を実行させるためのプログラムとして提供することも可能である。したがって、図1における色変換ユニット25の機能をCPU16により実行させることが可能であり、さらに、画像処理ユニット20の機能をCPU16により実行させることも可能である。その場合は、それらの機能を実行するための命令を含むプログラム18が提供され、メモリ15に格納される。
【0031】
また、画像処理ユニット20の機能を、パーソナルコンピュータなどにより実現されるホスト2にインストールされるプリンタドライバ5により実現することも可能である。この場合、プリンタドライバ5は、色変換ユニット25の機能を含む画像処理ユニット20の機能を実現するための命令を含むプログラムであり、CD−ROM6などの適当な記録媒体に記録して提供され、ホスト2にインストールされる。
【0032】
本発明に含まれる装置および方法においては、第1色空間、たとえばRGB色空間から第2色空間、たとえばCMYK色空間に色変換する場合、部分的な空間(領域)の変換特性により、近似関数で十分な変換精度で変換できる特性であれば近似関数を適用できる。一方、部分的な空間の変換特性が、近似関数では変換が難しいあるいは近似関数を用いると関数を定義する情報量が過多になる場合は、3次元LUTを用いて変換のための情報量を削減できる。このため、色変換の精度を向上することと、そのために要する色変換情報を格納するためのメモリ15の容量を節約することとを両立させることができる。
【0033】
さらに、図5に示すように、色変換のための3次元LUTの格子数あるいは格子密度を、その3次元LUTによりカバーする色空間の非線形性、たとえば、特異点を含むなどの相違により変えることができる。したがって、3次元LUTとして用意する色変換のための情報量を部分的な空間の変換特性により変えることが可能となり、この点でも、色変換の精度を向上することと、そのために要する色変換情報の情報量を抑制することとを両立させることができる。
【0034】
なお、上記では、RGB色空間のデータをCMYK色空間のデータに変換する例を説明しているが、入力側の第1色空間S1および出力側の第2色空間S2は、RGB色空間に限らず、CIE・L色空間、物体色の刺激値を表すXYZ色空間など、他の色空間であっても良い。また、上記の方法および装置は、同じ色空間であっても、出力デバイスの特性、ユーザの志向などにより特性の異なる色空間の間でデータを変換する場合にも適用できる。
【0035】
また、上記では、プリンタを例に本発明に含まれる装置を説明しているが、コピー機、複合機などの他の多種多様な印刷装置に対しても本発明を適用できる。また、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイを始めとする多種多様な表示デバイスを備えた装置においても、本発明を適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施形態にかかるプリンタの概略構成を示す。
【図2】本発明の実施形態に係る変換情報の一例を示す。
【図3】変換関数(近似関数)の一例を示す。
【図4】変換情報のデータ構造の一例を示す。
【図5】領域毎の変換方法を2次元で模式的に示す。
【図6】変換される様子を1次元で模式的に示す。
【図7】境界面における変換を模式的に示す。
【図8】変換方法を示すフローチャート。
【図9】領域を判定する方法を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0037】
1 プリンタ、 2 ホスト(パーソナルコンピュータ)、 3 デジタルカメラ
5 プリンタドライバ
10 制御ユニット、 12 印刷機構
20 画像処理ユニット、 25 色変換ユニット
30 変換情報、 31 分割情報
32 色変換用の3次元LUT、 33 関数情報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1色空間に属する第1の点を示す第1の座標値を、色変換情報に基づき第2色空間に属する第2の点を示す第2の座標値に変換する変換ユニットと、
前記色変換情報を格納するためのライブラリとを有する装置であって、
前記色変換情報は、前記第1色空間を複数の部分第1色空間に分割するための分割情報と、
前記分割情報により規定された第1の部分第1色空間を複数の格子に分割し、それぞれの格子の格子点の座標値に対応する前記第2色空間の座標値を格納した3次元LUTと、
前記分割情報により規定された第2の部分第1色空間の座標値から前記第2色空間の座標値を求めるための変換関数を定義した関数情報とを含み、
前記変換ユニットは、
前記分割情報に基づき、前記第1の点の属する部分第1色空間を判断する機能と、
前記第1の点が前記第1の部分第1色空間に属する場合は、前記3次元LUTを用いて前記第2の座標値を求める第1の機能と、
前記第1の点が前記第2の部分第1色空間に属する場合は、前記変換関数を用いて前記第2の座標値を求める第2の機能とを含む、装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記第1の部分第1色空間と前記第2の部分第1色空間とは隣接しており、前記関数情報は、前記第2の部分第1色空間との境界面近傍における補正パラメータと、前記補正パラメータを適用する補正範囲パラメータとを含み、
前記第2の座標値を求める第2の機能は、前記第1の点が前記補正範囲パラメータの範囲内であれば、前記変換関数に前記補正パラメータを適用して前記第2の座標値を求める機能を含む、装置。
【請求項3】
第1色空間に属する第1の点を示す第1の座標値を、色変換情報に基づき第2色空間に属する第2の点を示す第2の座標値に変換する方法であって、
前記色変換情報は、
前記第1色空間を複数の部分第1色空間に分割するための分割情報と、
前記分割情報により規定された第1の部分第1色空間を複数の格子に分割し、それぞれの格子の格子点の座標値に対応する前記第2色空間の座標値を格納した3次元LUTと、
前記分割情報により規定された第2の部分第1色空間の座標値から前記第2色空間の座標値を求めるための変換関数を定義した関数情報とを含み、
前記方法は、
前記分割情報に基づき、前記第1の点の属する部分第1色空間を判断することと、
前記第1の点が前記第1の部分第1色空間に属する場合は、前記3次元LUTを用いて前記第2の座標値を求めることと、
前記第1の点が前記第2の部分第1色空間に属する場合は、前記変換関数を用いて前記第2の座標値を求めることとを含む、方法。
【請求項4】
請求項3において、
前記第1の部分第1色空間と前記第2の部分第1色空間とは隣接しており、前記関数情報は、前記第2の部分第1色空間との境界面近傍における補正パラメータと、前記補正パラメータを適用する補正範囲パラメータとを含み、
前記第2の座標値を求めることは、前記第1の点が前記補正範囲パラメータの範囲内であれば、前記変換関数に前記補正パラメータを適用して前記第2の座標値を求めることを含む、方法。
【請求項5】
コンピュータに、第1色空間に属する第1の点を示す第1の座標値を、色変換情報に基づき第2色空間に属する第2の点を示す第2の座標値に変換させる命令を含むプログラムであって、
前記コンピュータは、前記色変換情報を格納するためのメモリを有し、
前記色変換情報は、前記第1色空間を複数の部分第1色空間に分割するための分割情報と、
前記分割情報により規定された第1の部分第1色空間を複数の格子に分割し、それぞれの格子の格子点の座標値に対応する前記第2色空間の座標値を格納した3次元LUTと、
前記分割情報により規定された第2の部分第1色空間の座標値から前記第2色空間の座標値を求めるための変換関数を定義した関数情報とを含み、
前記第2の座標値に変換させる命令は、
前記分割情報に基づき、前記第1の点の属する部分第1色空間を判断することと、
前記第1の点が前記第1の部分第1色空間に属する場合は、前記3次元LUTを用いて前記第2の座標値を求めることと、
前記第1の点が前記第2の部分第1色空間に属する場合は、前記変換関数を用いて前記第2の座標値を求めることとを含む、プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−206699(P2009−206699A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−45707(P2008−45707)
【出願日】平成20年2月27日(2008.2.27)
【出願人】(399063013)ナルテック株式会社 (30)
【Fターム(参考)】