説明

色素増感型太陽電池用ガラスおよび色素増感型太陽電池用材料

【課題】ヨウ素電解液に侵食され難いガラスおよびこれを用いた材料を創案することにより、長期信頼性の高い色素増感型太陽電池を得ること。
【解決手段】本発明の色素増感型太陽電池用ガラスは、ガラス組成中のカチオンの平均イオン半径が0.80Å以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素増感型太陽電池用ガラスおよび色素増感型太陽電池用材料に関し、具体的には色素増感型太陽電池の透明電極基板と対極基板の封着および集電電極の被覆に好適な色素増感型太陽電池用ガラスおよび色素増感型太陽電池用材料に関する。
【背景技術】
【0002】
グレッチェルらが開発した色素増感型太陽電池は、シリコン半導体を使用した太陽電池に比べ、低コストであり、且つ製造に必要な原料が豊富にあるため、次世代の太陽電池として期待されている。
【0003】
色素増感型太陽電池は、透明導電膜が形成された透明電極基板と、透明電極基板に形成された多孔質酸化物半導体層(主にTiO層)からなる多孔質酸化物半導体電極と、その多孔質酸化物半導体電極に吸着されたRu色素等の色素と、ヨウ素を含むヨウ素電解液と、触媒膜と透明導電膜が形成された対極基板等で構成される。
【0004】
透明電極基板と対極基板には、ガラス基板やプラスチック基板等が使用される。透明電極基板にプラスチック基板を使用すると、透明電極膜の抵抗値が大きくなり、色素増感型太陽電池の光電変換効率が低下する。一方、透明電極基板にガラス基板を使用すると、透明電極膜の抵抗値が上昇し難く、色素増感型太陽電池の光電変換効率を維持することができる。このような事情から、近年では、透明電極基板として、ガラス基板が使用されている。
【0005】
色素増感型太陽電池は、透明電極基板と対極基板の間にヨウ素電解液が充填される。色素増感型太陽電池からヨウ素電解液の漏れを防止するために、透明電極基板と対極基板の外周縁を封止する必要がある。また、発生した電子を効率良く取り出すために、集電電極(例えば、Ag等が用いられる)を透明電極基板上に形成することがある。このとき、集電電極を被覆し、ヨウ素電解液により、集電電極が侵食される事態を防止する必要がある。さらに、一枚のガラス基板上に電池回路を形成する場合、透明電極基板と対極基板の間に隔壁を形成することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平1−220380号公報
【特許文献2】特開2002−75472号公報
【特許文献3】特開2004−292247号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】R.D.Shannon,「Revised effective ionic radii and systematic studies of interatomic distances in halides and chalcogenides」,Acta Cryst,1976,A32,751−767
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
色素増感型太陽電池は、長期耐久性の向上が実用化への課題である。長期耐久性を損なう原因の一つは、太陽電池部材(集電電極、封止材料等)とヨウ素電解液が反応し、太陽電池部材やヨウ素電解液が劣化することが挙げられる。特に、封止材料に樹脂を用い、ヨウ素電解液にアセトニトリル等の有機溶媒を用いたときに、その傾向が顕著である。この場合、樹脂がヨウ素電解液により侵食されるため、太陽電池からヨウ素電解液が漏洩し、電池特性が著しく低下する。同様にして、集電電極の被覆や隔壁の形成に樹脂を使用した場合も、樹脂がヨウ素電解液により侵食されるため、集電電極の劣化や隔壁の破れ等が生じる。
【0009】
このような事情に鑑み、封止材料に樹脂を使用しない方法が提案されている。例えば、特許文献1には、透明電極基板と対極基板の外周縁をガラスで封着することが記載されている。また、特許文献2、3には、透明電極基板と対極基板の外周縁を鉛ガラスで封着することが記載されている。
【0010】
しかし、鉛ガラスは、ヨウ素電解液に侵食されやすいため、封着材料に鉛ガラスを使用した場合でも、長期間の使用により、鉛ガラスの成分がヨウ素電解液中に溶出し、その結果、ヨウ素電解液が劣化し、電池特性が低下してしまう。また、集電電極の被覆や隔壁の形成に鉛ガラスを用いた場合でも、長期間の使用により、集電電極の劣化や隔壁の破れが生じる。これらの現象も、鉛ガラスがヨウ素電解液により侵食されることが原因である。
【0011】
そこで、本発明は、ヨウ素電解液に侵食され難いガラスおよびこれを用いた材料を創案することにより、長期信頼性の高い色素増感型太陽電池を得ることを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、種々の検討を行った結果、ガラス組成中のカチオンの平均イオン半径を所定範囲に規制することにより、上記技術的課題を解決できることを見出し、本発明として、提案するものである。ここで、「イオン半径」は、[非特許文献1]に記載の値を用い、構造が明確なものを除いて、6配位のときのイオン半径を用いる。
【0013】
ガラスの侵食メカニズムは、主にヨウ素イオン(I)が、ガラス網目構造を構成するカチオンと酸素の結合を切断するためである。本発明の色素増感型太陽電池用ガラスは、ガラス組成中のカチオンの平均イオン半径が0.80Å以下であることを特徴とするが、カチオンのイオン半径が小さい程、カチオンが酸素を引き付ける力が大きくなるため、両者の距離が縮まり構造が密になる。そのため、イオン半径の大きなヨウ素イオン(I)がガラス構造内に進入し難くなり、その結果、ガラス網目構造を構成するカチオンと酸素の結合を切断し難くなる。
【0014】
第二に、本発明の色素増感型太陽電池用ガラスは、[ガラス組成中のカチオンの平均価数]を[ガラス組成中のカチオンの平均イオン半径の2乗]で除した値が4.30/Å以上であることを特徴とする。カチオンの作る電場の強度は、カチオンの価数が大きい程、またカチオンのイオン半径が小さい程、強くなり、カチオンの価数をイオン半径の2乗で除した値で示される。カチオンの作る電場の強度が大きくなると、カチオンが酸素を引き付ける力が大きくなり、また構造が密になるため、イオン半径の大きなヨウ素イオン(I)が進入し難くなり、その結果、ガラス網目構造を構成するカチオンと酸素の結合を切断し難くなる。
【0015】
第三に、本発明の色素増感型太陽電池用ガラスは、ガラス組成中のカチオンの平均イオン半径が0.80Å以下であり、且つ[ガラス組成中のカチオンの平均価数]を[ガラス組成中のカチオンの平均イオン半径の2乗]で除した値が4.30/Å以上であることを特徴とする。
【0016】
第四に、本発明の色素増感型太陽電池用ガラスは、25℃のヨウ素電解液に2週間浸漬したときの質量減が0.14mg/cm以下であることを特徴とする。ここで、質量減の算出に用いるヨウ素電解液には、アセトニトリル中に、ヨウ化リチウム0.1M、ヨウ素0.05M、tert−ブチルピリジン0.5M、および1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムヨーダイド0.6Mを溶解させたものを使用する。また、「質量減」は、上記ガラスからなるガラス粉末を緻密に焼き付けたガラス基板(ガラス粉末の軟化点以上の温度で焼き付けた焼成膜付きガラス基板)を、密閉容器中にてヨウ素電解液に浸漬し、浸漬前の質量から2週間経過後の質量を減じた値を、ヨウ素電解液に接する焼成膜の面積で除することで算出する。なお、ガラス基板は、ヨウ素電解液によって侵食されないものを用いる。
【0017】
一般的に、ヨウ素電解液は、ヨウ素、アルカリ金属ヨウ化物、イミダゾリウムヨウ化物、四級アンモニウム塩等のヨウ素化合物を有機溶媒に溶解させたものを指すが、ヨウ素化合物以外にもtert−ブチルピリジン、1メトキシベンゾイミダゾール等を溶解させたものもある。溶媒として、アセトニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル系溶媒、炭酸エチレン、炭酸プロピレン等のカーボネート系溶媒、ラクトン系溶媒等が用いられる。これら化合物や溶媒で構成されるヨウ素電解液であっても、ガラスがヨウ素電解液に侵食される上記問題は生じ得る。したがって、本発明の色素増感型太陽電池用ガラスは、これらのヨウ素電解液に25℃で2週間浸漬したときの質量減も、0.14mg/cm以下であることが好ましい。
【0018】
第五に、本発明の色素増感型太陽電池用ガラスは、25℃のヨウ素電解液に2週間浸漬したときの質量減が0.1mg/cm以下であることを特徴とする。
【0019】
第六に、本発明の色素増感型太陽電池用ガラスは、熱膨張係数が65〜120×10−7/℃であることを特徴とする。
【0020】
第七に、本発明の色素増感型太陽電池用材料は、上記の色素増感型太陽電池用ガラスからなるガラス粉末 50〜100体積%と、耐火性フィラー粉末 0〜50体積%とを含有することを特徴とする。ここで、本発明の色素増感型太陽電池用材料は、上記の色素増感型太陽電池用ガラスからなるガラス粉末のみで構成される態様を含む。なお、本発明の色素増感型太陽電池用材料において、耐火性フィラー粉末の含有量は、流動性の観点から10体積%以下、5体積%以下、特に1体積%以下が好ましく、実質的に耐火性フィラー粉末を含有しないこと(具体的には耐火性フィラー粉末の含有量が0.5体積%以下)がより好ましい。特に、封着に用いる場合、耐火性フィラー粉末の含有量を低減すると、透明電極基板と対極基板のギャップを狭小化しやすくなり、また均一化しやすくなる。
【0021】
第八に、本発明の色素増感型太陽電池用材料は、軟化点が550℃以下であることを特徴とする。ここで、「軟化点」とは、マクロ型示差熱分析(DTA)装置で測定した値を指し、DTAは室温から測定を開始し、昇温速度は10℃/分とする。なお、マクロ型DTA装置で測定した軟化点は、図2に示す第四屈曲点の温度(Ts)を指す。
【0022】
第九に、本発明の色素増感型太陽電池用材料は、封着に用いることを特徴とする。ここで、封着には、透明電極基板と対極基板の封着に加えて、ガラス管の封着等が含まれる。なお、透明電極基板と対極基板等に複数の開口部を設けて、各開口部にガラス管を封着した後、ガラス管を介して、色素増感型太陽電池内に色素を含有させた液体等を循環させて、多孔質酸化物半導体に色素を吸着させる場合がある。このような場合、本発明の色素増感型太陽電池用材料でガラス管を封着すると、液体等の漏れ等が発生し難くなる。
【0023】
第十に、本発明の色素増感型太陽電池用材料は、集電電極の被覆に用いることを特徴とする。
【0024】
第十一に、本発明の色素増感型太陽電池用材料は、レーザー光による封着処理に供されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明の色素増感型太陽電池用ガラスは、ガラス組成中のカチオンの平均イオン半径を0.80Å以下に規制することにより、ヨウ素電解液による侵食が顕著に抑制される。また、本発明の色素増感型太陽電池用ガラスは、25℃のヨウ素電解液に2週間浸漬したときの質量減を0.14mg/cm以下、特に0.1mg/cm以下にすることができる。その結果、封着、被覆および隔壁部位がヨウ素電解液に侵食され難くなり、長期間に亘り、ヨウ素電解液や電池特性の劣化を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】ガラス組成中のカチオンの平均イオン半径とヨウ素電解液による侵食量の関係を示すデータである。
【図2】マクロ型DTA装置で測定した時のガラスの軟化点を示す模式図である。
【図3】[ガラス組成中のカチオンの平均価数]を[ガラス組成中のカチオンの平均イオン半径の2乗]で除した値とヨウ素電解液による侵食量の関係を示すデータである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の色素増感型太陽電池用ガラスにおいて、ガラス組成中のカチオンの平均イオン半径は0.80Å以下、好ましくは0.78Å以下、より好ましくは0.76Å以下である。ガラス組成中のカチオンの平均イオン半径が0.80Åより大きいと、ガラス網目構造を構成するカチオンが酸素を引き付ける力が小さくなり、カチオンと酸素の距離が離れて、ガラス網目構造にヨウ素イオン(I)が進入し、ヨウ素イオン(I)によってカチオンと酸素の結合が切断されやすくなる。
【0028】
本発明の色素増感型太陽電池用ガラスにおいて、[ガラス組成中のカチオンの平均価数]を[ガラス組成中のカチオンの平均イオン半径の2乗]で除した値は4.30/Å以上、4.40/Å以上、特に4.50/Å以上が好ましい。この値が4.30/Åより小さいと、カチオンが酸素を引き付ける力が小さくなり、ガラス構造が疎になり、ヨウ素イオン(I)がガラス網目構造に進入し、カチオンと酸素の結合が切断されやすくなる。
【0029】
本発明の色素増感型太陽電池用ガラスにおいて、ガラス組成中のカチオンの平均イオン半径を0.80Å以下にするため、また[ガラス組成中のカチオンの平均価数]を[ガラス組成中のカチオンの平均イオン半径の2乗]で除した値を4.30/Å以上にするためには、ガラス組成中にSi、Al等の元素の含有量を増加させ、或いはPb、Bi、Ba等の元素の含有量を減少させればよい。
【0030】
本発明の色素増感型太陽電池用ガラスは、Bi−B系ガラス、SnO−P系ガラス、SiO−B系ガラス、V系ガラス等を用いることができる。ここで、「〜系ガラス」とは、明示の成分を必須成分として、15モル%以上含有するガラスを指す。
【0031】
Bi−B系ガラスは、ガラス組成として、モル%で、Bi 25〜45%、B 20〜35%、ZnO 0〜35%、SiO+Al+ZrO 0.5〜15%含有することが好ましい。このようにすれば、熱的安定性、低融点特性およびヨウ素電解液に対する耐性(耐電解液性)を高いレベルで両立させることができる。以下に、ガラス組成範囲を上記のように限定した理由を述べる。
【0032】
Biは、軟化点を下げるための主要成分であり、その含有量は25〜45%、特に30〜40%が好ましい。ガラスを構成する成分の内、Bi3+はイオン半径が1.17Åと大きい。よって、Biの含有量が少ないと、ガラス組成中のカチオンの平均イオン半径は小さくなり、Biの含有量が多いと、平均イオン半径が大きくなりやすい。また、Bi3+の価数をイオン半径の2乗で除した値は2.19/Åである。よって、Biの含有量が少ないと、[ガラス組成中のカチオンの平均価数]を[ガラス組成中のカチオンの平均イオン半径の2乗]で除した値が大きくなりやすく、ヨウ素イオンによる侵食を受け難くなる。さらに、Biの含有量が少ないと、軟化点が高くなり過ぎ、低温で封着し難くなる。一方、Biの含有量が多いと、ガラスが熱的に不安定になり、溶融時または焼成時にガラスが失透しやすくなる。
【0033】
は、ビスマス系ガラスのガラスネットワークを形成する成分であり、その含有量は20〜35%、特に23〜30%が好ましい。ガラスを構成する成分の内、B3+はイオン半径が0.25Åと小さい。よって、Bの含有量が少ないと、ガラス組成中のカチオンの平均イオン半径が大きくなり、Bの含有量が多いと、平均イオン半径が小さくなりやすい。また、B3+の価数をイオン半径の2乗で除した値は、48.00/Åである。よって、Bの含有量が多いと、[ガラス組成中のカチオンの平均価数]を[ガラス組成中のカチオンの平均イオン半径の2乗]で除した値が大きくなり、ヨウ素イオンによる侵食を受け難くなる。さらに、Bの含有量が少ないと、ガラスが熱的に不安定になり、溶融時または焼成時にガラスが失透しやすくなる。一方、Bの含有量が多過ぎると、粘性が高くなり過ぎ、低温で封着することが困難になる。
【0034】
ZnOは、溶融時または焼成時に失透を抑制する成分であり、その含有量は0〜35%、より好ましくは10〜30%、特に20〜30%が好ましい。しかし、ZnOの含有量が多過ぎると、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、逆にガラスが失透しやすくなる。なお、Zn2+のイオン半径が0.74Å、価数をイオン半径の2乗で除した値が3.65/Åであるため、ヨウ素電解液による侵食を可及的に防止することを目的とする場合、ZnOの含有量は少ない方が好ましい。
【0035】
SiO+Alは、ヨウ素電解液による侵食を生じ難くする成分であり、その含有量は0.5〜15%、特に2〜10%が好ましい。SiO+Alの含有量が少ないと、Si4+のイオン半径、Al3+のイオン半径がそれぞれ0.40Å、0.64Å、価数をイオン半径の2乗で除した値がそれぞれ25.00/Å、6.68/Åであるため、ガラスがヨウ素電解液に侵食されやすくなり、長期間に亘り、ヨウ素電解液や電池特性の劣化を防止することができる。SiO+Alの含有量が多いと、軟化点が高くなり過ぎ、低温で封着することが困難となる。
【0036】
SiOは、ヨウ素電解液による侵食を生じ難くする成分であり、その含有量は0〜15%、0.1〜10%、特に2〜8%が好ましい。SiOの含有量が多いと、軟化点が高くなり過ぎ、低温で封着することが困難となる。
【0037】
Alは、ヨウ素電解液による侵食を生じ難くする成分であり、その含有量は0〜10%、特に0.1〜3.5%が好ましい。Alの含有量が多いと、軟化点が高くなり過ぎ、低温で封着することが困難となる。
【0038】
上記ガラス組成範囲において、上記成分以外にも、例えば、下記の成分をガラス組成中に25%(好ましくは20%、より好ましくは15%、更に好ましくは10%)まで含有させることができる。
【0039】
CuOは、溶融時または焼成時に失透を抑制する成分であり、その含有量は0〜10%、より好ましくは0〜7%である。CuOの含有量が多過ぎると、Cu2+のイオン半径が0.87Å、価数をイオン半径の2乗で除した値が2.64/Åであるため、耐電解液性が乏しくなる。また、CuOの含有量が多過ぎると、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、逆にガラスが失透しやすくなり、流動性が損なわれやすくなる。特に、CuOの含有量を0.1〜2%に規制すれば、熱的安定性を顕著に高めることができる。
【0040】
Feは、溶融時または焼成時に失透を抑制する成分であり、その含有量は0〜5%、好ましくは0〜2%である。Feの含有量が多いと、Fe3+のイオン半径が0.69Å、価数をイオン半径の2乗で除した値は6.30/Åであるため、耐電解液性が向上するが、Feの含有量が多過ぎると、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、逆にガラスが失透しやすくなる。また、Feの含有量を0.1〜2%に規制すれば、熱的安定性を顕著に高めることができる。
【0041】
BaO、SrO、MgO、CaOは、溶融時または焼成時に失透を抑制する成分であり、これらの成分は合量で15%までガラス組成中に含有させることができる。これらの成分の合量が多いと、軟化点が高くなり過ぎ、低温で封着し難くなる。
【0042】
BaOの含有量は0〜10%、特に0.1〜8%が好ましい。BaOの含有量が多過ぎると、Ba2+のイオン半径が1.49Å、価数をイオン半径の2乗で除した値は0.90/Åであるため、耐電解液性が乏しくなる。また、BaOの含有量が多過ぎると、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、逆にガラスが失透しやすくなる。そのため、熱的安定性を高める観点から、BaOの含有量を1%以上とするのが好ましい。
【0043】
SrO、MgO、CaOのそれぞれの含有量は0〜5%、特に0〜2%が好ましい。Sr2+、Mg2+、Ca2+のイオン半径は、それぞれ1.32Å、0.86Å、1.14Åであり、また価数をイオン半径の2乗で除した値はそれぞれ1.15/Å、2.70/Å、1.54/Åである。よって、各成分の含有量が多いと、耐電解液性が乏しくなる。また、各成分の含有量が多過ぎると、ガラスが失透、或いは分相しやすくなる。
【0044】
Sbは、失透を抑制するための成分であり、その含有量は0〜5%、特に0〜2%が好ましい。一方、Sbは、ビスマス系ガラスのネットワーク構造を安定化させる効果があり、ビスマス系ガラスにおいて、Sbを適宜添加すれば、Biの含有量が多い場合、例えばBiの含有量が35%以上であっても、熱的安定性が低下し難くなる。ただし、Sbの含有量が多過ぎると、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、逆にガラスが失透しやすくなる。Sb3+のイオン半径は0.90Å、価数をイオン半径の2乗で除した値は5.19/Åである。
【0045】
WOは、ガラス失透を抑制するための成分であり、その含有量は0〜10%、特に0〜4%が好ましい。WOは、WO6+のイオン半径が0.74Åであるため、ガラス組成中のカチオンの平均イオン半径を若干小さくするが、価数をイオン半径の2乗で除した値は15.61/Åと大きく、耐電解液性を向上させる成分である。しかし、WOの含有量が多過ぎると、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、逆にガラスが失透しやすくなる。
【0046】
In、Gaは必須成分ではないが、失透を抑制するための成分であり、その含有量は合量で0〜5%、特に0〜3%が好ましい。ただし、In、Gaの合量が多過ぎると、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、逆にガラスが失透しやすくなる。なお、Inの含有量は0〜1%が好ましく、Gaの含有量は0〜0.5%が好ましい。なお、In3+、Ga3+のイオン半径はそれぞれ0.94Å、0.76Åであり、価数をイオン半径の2乗で除した値はそれぞれ3.40/Å、5.19/Åである。
【0047】
Li、Na、KおよびCsの酸化物は、軟化点を低下させる成分であるが、溶融時に失透を促進する作用を有するため、その含有量は合量で2%以下とするのが好ましい。また、Li、Na、KおよびCsのイオン半径はそれぞれ0.90Å、1.16Å、1.52Å、1.81Åであり、価数をイオン半径の2乗で除した値はそれぞれ1.23/Å、0.74/Å、0.43/Å、0.31/Åである。よって、各成分の含有量が多過ぎると、耐電解液性が乏しくなる。
【0048】
MoO、La、YおよびGdは、溶融時に分相を抑制する成分であるが、これらの合量が3%より多いと、軟化点が高くなり過ぎ、低温で封着し難くなる。なお、各成分のイオン半径は、それぞれ0.73Å、1.17Å、1.04Å、1.08Åである。また、価数をイオン半径の2乗で除した値はそれぞれ11.26/Å、2.19/Å、2.77/Å、2.57/Åである。
【0049】
CeOは、溶融時または焼成時に失透を抑制する成分であり、その含有量は0〜5%、特に0〜2%が好ましい。CeOの含有量が多過ぎると、Ce4+のイオン半径が1.15Å、価数をイオン半径の2乗で除した値が3.02/Åであるため、耐電解液性が乏しくなる。また、CeOの含有量が多過ぎると、ガラス組成の成分バランスを欠き、逆に熱的安定性が損なわれて、その結果、ガラスが失透しやすくなり、流動性が損なわれやすくなる。
【0050】
は、溶融時に失透を抑制する成分であるが、その添加量が1%より多いと、溶融時にガラスが分相しやすくなるため好ましくない。
【0051】
また、その他の成分であっても、ガラス特性を損なわない範囲で10%(好ましくは5%)までガラス組成中に添加することができる。
【0052】
SiO−B系ガラスは、ガラス組成として、モル%で、SiO 20〜50%、B 15〜35%、ZnO 0〜35%含有することが好ましい。このようにすれば、熱的安定性、低融点特性および耐電解液性を高いレベルで両立させることができる。以下に、ガラス組成範囲を上記のように限定した理由を以下に述べる。
【0053】
SiOは、ガラスネットワークを形成し、且つヨウ素電解液による侵食を生じ難くする成分であり、その含有量は20〜50%、特に25〜45%が好ましい。SiOの含有量が多いと、Si4+のイオン半径が0.40Å、価数をイオン半径の2乗で除した値は25.00/Åであるため、耐電解液性が向上する。また、SiOの含有量が少ないと、ガラスが熱的に不安定になり、溶融時または焼成時にガラスが失透しやすくなる。一方、SiOの含有量が多いと、軟化点が高くなり過ぎ、低温で封着することが困難となる。
【0054】
は、ガラスネットワークを形成する成分であり、その含有量は15〜35%、特に20〜30%が好ましい。Bの含有量が少ないと、B3+のイオン半径が0.25Åであるため、ガラス組成中のカチオンの平均イオン半径が大きくなり、Bの含有量が多いと、平均イオン半径が小さくなりやすい。また、B3+の価数をイオン半径の2乗で除した値は48.00/Åである。よって、Bの含有量が多いと、[ガラス組成中のカチオンの平均価数]を[ガラス組成中のカチオンの平均イオン半径の2乗]で除した値が大きくなり、ヨウ素イオンによる侵食を受け難くなる。また、Bの含有量が少ないと、ガラスが熱的に不安定になり、溶融時または焼成時にガラスが失透しやすくなる。一方、Bの含有量が多いと、粘性が高くなり過ぎ、低温で封着することが困難になる。
【0055】
ZnOは、溶融時または焼成時に失透を抑制する成分であり、その含有量は0〜35%、より好ましくは10〜30%、特に20〜30%が好ましい。しかし、ZnOの含有量が多過ぎると、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、逆にガラスが失透しやすくなる。なお、Zn2+のイオン半径が0.74Å、価数をイオン半径の2乗で除した値は3.65/Åであるため、ヨウ素電解液による侵食を可及的に防止することを目的とする場合、ZnOの含有量は少ない方が好ましい。
【0056】
SnO−P系ガラスは、ガラス組成として、モル%で、SnO 35〜70%、P 18〜50%含有することが好ましい。このようにすれば、熱的安定性、低融点特性および耐電解液性を高いレベルで両立させることができる。以下に、ガラス組成範囲を上記のように限定した理由を述べる。
【0057】
SnOは、ガラスを低融点化する成分であり、必須成分である。その含有量は35〜70%、40〜65%、特に48〜63%が好ましい。特に、SnOの含有量が40%以上であれば、流動性が高まり、気密信頼性を高めることができる。SnOの含有量が少ないと、粘性が高くなり過ぎ、封着温度が不当に高くなるおそれがある。一方、SnOの含有量が多いと、耐電解液性が乏しくなり、またガラス化が困難になる。Sn2+のイオン半径は0.83Å、価数をイオン半径の2乗で除した値は2.90/Åである。
【0058】
は、ガラス形成酸化物であると同時に、ヨウ素電解液による侵食を生じ難くする成分であり、しかもガラスを低融点化させる成分であり、その含有量は18〜50%、20〜35%、特に23〜30%が好ましい。Pの含有量が少ないと、P5+のイオン半径が0.31Å、価数をイオン半径の2乗で除した値が52.03/Åであるため、耐電解液性は乏しくなり、また熱的安定性が低下しやすくなる。一方、Pの含有量が多いと、耐水性が低下し、長期信頼性を確保し難くなるが、耐電解液性は向上する。
【0059】
上記ガラス組成範囲において、上記成分以外にも、例えば、下記の成分をガラス組成中に40%まで含有させることができる。
【0060】
ZnOは、中間酸化物であり、ガラスを安定化させる成分である。その含有量は0〜30%、0〜20%、特に3〜15%が好ましい。特にZnOの含有量を3%以上にすれば、熱的安定性を高めることができる。一方、ZnOが多過ぎると、Zn2+のイオン半径が0.74Å、価数をイオン半径の2乗で除した値が3.65/Åであるため、耐電解液性が乏しくなり、またガラス組成の成分バランスが損なわれて、逆に熱的安定性が低下しやすくなる。
【0061】
は、ガラス形成酸化物であり、ガラスを安定化させる成分であるとともに、B3+のイオン半径は0.25Å、価数をイオン半径の2乗で除した値は48.00/Åであるため、耐電解液性を高める成分であり、その含有量は0〜20%、特に0〜16%が好ましい。Bの含有量が多いと、粘性が高くなり過ぎ、流動性が低下しやすくなる。
【0062】
SiOは、ガラス形成酸化物であり、ガラスを安定化させる成分であるとともに、Si4+のイオン半径が0.40Å、価数をイオン半径の2乗で除した値は25.00/Åであるため、耐電解液性を高める成分であり、その含有量は0〜15%、特に0〜5%が好ましい。SiOの含有量が多いと、軟化点が上昇し、低温で封着し難くなる。
【0063】
Alは、中間酸化物であり、ガラスを安定化させる成分であるとともに、熱膨張係数を低下させる成分であるとともに、Al3+のイオン半径が0.64Å、価数をイオン半径の2乗で除した値が6.68/Åであるため、耐電解液性を高める成分であり、その含有量は0〜10%、特に0〜5%が好ましい。Alの含有量が多いと、軟化点が不当に上昇し、低温で封着し難くなる。
【0064】
Inは、熱的安定性を高める成分であり、その含有量は0〜5%が好ましい。Inの含有量が多いと、バッチコストが高騰する。なお、In3+のイオン半径は0.94Å、価数をイオン半径の2乗で除した値は3.40/Åである。
【0065】
Taは、熱的安定性を高める成分であり、その含有量は0〜5%が好ましい。Taの含有量が多いと、軟化点が不当に上昇し、低温で封着し難くなる。なお、Ta5+のイオン半径は0.88Å、価数をイオン半径の2乗で除した値は6.48/Åである。
【0066】
Laは、熱的安定性を高める成分であるとともに、耐候性を高める成分であり、その含有量は0〜15%、0〜10%、特に0〜5%が好ましい。Laの含有量が多いと、軟化点が不当に上昇し、低温で封着し難くなる。なお、La3+のイオン半径は1.17Å、価数をイオン半径の2乗で除した値は2.19/Åである。
【0067】
MoOは、熱的安定性を高める成分であり、その含有量は0〜5%が好ましい。MoOの含有量が多いと、軟化点が不当に上昇し、低温で封着し難くなる。なお、Mo6+のイオン半径は0.73Å、価数をイオン半径の2乗で除した値は11.26/Åである。
【0068】
WOは、熱的安定性を高める成分であり、その含有量は0〜5%が好ましい。WOの含有量が多いと、軟化点が不当に上昇し、低温で封着し難くなる。なお、WOは、W6+のイオン半径は0.74Å、価数をイオン半径の2乗で除した値は15.61/Åである。
【0069】
LiOは、ガラスを低融点化する成分であり、その含有量は0〜5%が好ましい。LiOの含有量が多いと、熱的安定性が低下しやすくなり、またLiのイオン半径が0.90Å、価数をイオン半径の2乗で除した値が1.23/Åであるため、耐電解液性が乏しくなる。
【0070】
NaOは、ガラスを低融点化する成分であり、その含有量は0〜10%、特に0〜5%が好ましい。NaOの含有量が多いと、熱的安定性が低下しやすくなり、またNaのイオン半径が1.16Å、価数をイオン半径の2乗で除した値が0.74/Åであるため、耐電解液性が乏しくなる。
【0071】
Oは、ガラスを低融点化する成分であり、その含有量は0〜5%が好ましい。KOの含有量が多いと、熱的安定性が低下しやすくなり、またKのイオン半径が1.52Å、価数をイオン半径の2乗で除した値は0.43/Åであるため、耐電解液性が乏しくなる。
【0072】
MgOは、熱的安定性を高める成分であり、その含有量は0〜15%が好ましい。MgOの含有量が多過ぎると、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、逆にガラスが失透しやすくなり、またMg2+のイオン半径が0.86Å、価数をイオン半径の2乗で除した値が2.70/Åであるため、耐電解液性が乏しくなる。
【0073】
BaOは、熱的安定性を高める成分であり、その含有量は0〜10%が好ましい。BaOの含有量が多過ぎると、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、逆にガラスが失透しやすくなり、またBa2+のイオン半径が1.49Å、価数をイオン半径の2乗で除した値が0.90/Åであるため、耐電解液性が乏しくなる。
【0074】
は、ガラスを低融点化する成分であり、その含有量は0〜5%が好ましい。Fの含有量が多いと、熱的安定性が低下しやすくなる。
【0075】
熱的安定性および低融点特性のバランスを考慮すれば、In、Ta、La、MoO、WO、LiO、NaO、KO、MgO、BaOおよびFの合量は15%以下が好ましい。
【0076】
−P系ガラスは、ガラス組成として、モル%で、V 25〜55%、P 15〜45%含有することが好ましい。このようにすれば、熱的安定性、低融点特性および耐電解液性を高いレベルで両立させることができる。以下に、ガラス組成範囲を上記のように限定した理由を述べる。
【0077】
は、ガラスを低融点化する成分であり、必須成分であり、その含有量は25〜55%、28〜53%、特に30〜50%が好ましい。特に、Vの含有量が25%以上であれば、流動性が高まり、気密信頼性を高めることができる。Vの含有量が少ないと、V5+のイオン半径が0.68Å、価数をイオン半径の2乗で除した値が10.81/Åであるため、耐電解液性が乏しくなり、また粘性が高くなり過ぎ、封着温度が不当に高くなるおそれがある。一方、Vの含有量が多いと、耐電解液性が向上するが、ガラス化が困難になる傾向がある。
【0078】
は、ガラス形成酸化物であると同時に、ヨウ素電解液による侵食を生じ難くする成分であり、しかもガラスを低融点化させる成分であり、その含有量は15〜45%、17〜40%、特に20〜35%が好ましい。Pの含有量が少ないと、イオン半径が0.31Å、価数をイオン半径の2乗で除した値は52.03/Åであるため、耐電解液性は乏しくなり、また熱的安定性が低下しやすくなる。一方、Pの含有量が多いと、耐電解液性は向上するが、耐水性が低下し、長期信頼性を確保し難くなる。
【0079】
上記ガラス組成範囲において、上記成分以外にも、例えば、下記の成分をガラス組成中に40%まで含有させることができる。
【0080】
ZnOは、中間酸化物であり、ガラスを安定化させる成分である。その含有量は0〜30%、0〜20%、特に3〜15%が好ましい。特にZnOの含有量を3%以上にすれば、熱的安定性を高めることができる。一方、ZnOが多過ぎると、Zn2+のイオン半径が0.74Å、価数をイオン半径の2乗で除した値が3.65/Åであるため、耐電解液性が乏しくなり、またガラス組成の成分バランスが損なわれて、逆に熱的安定性が低下しやすくなる。
【0081】
SrOは、熱的安定性を高める成分であり、その含有量は0〜25%が好ましい。SrOの含有量が多過ぎると、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、逆にガラスが失透しやすくなり、またSr2+のイオン半径が1.32Å、価数をイオン半径の2乗で除した値が1.15/Åであるため、耐電解液性が乏しくなる。
【0082】
BaOは、熱的安定性を高める成分であり、その含有量は0〜30%が好ましい。BaOの含有量が多過ぎると、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、逆にガラスが失透しやすくなり、またBa2+のイオン半径が1.49Å、価数をイオン半径の2乗で除した値が0.90/Åであるため、耐電解液性が乏しくなる。
【0083】
CuOは、溶融時または焼成時に失透を抑制する成分であり、その含有量は0〜25%、特に0〜20%が好ましい。CuOの含有量が多過ぎると、Cu2+のイオン半径が0.87Å、価数をイオン半径の2乗で除した値が2.64/Åであるため、耐電解液性が乏しくなる。また、CuOの含有量が多過ぎると、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、逆にガラスが失透しやすくなり、流動性が損なわれやすくなる。
【0084】
なお、本発明の色素増感型太陽電池用ガラスは、必ずしもPbOの含有を排除するものではないが、環境的観点およびヨウ素電解液による侵食を防止する観点から、実質的にPbOを含有しないことが好ましい。ここで、「実質的にPbOを含有しない」とは、ガラス組成中のPbOの含有量が1000ppm以下の場合を指す。
【0085】
本発明の色素増感型太陽電池用ガラスにおいて、25℃のヨウ素電解液に2週間浸漬したときの質量減は0.14mg/cm以下、0.1mg/cm以下、特に0.05mg/cm以下が好ましく、実質的に質量減がないことが望ましい。質量減が小さい程、長期間に亘り、ヨウ素電解液や電池特性の劣化を防止することができる。ここで、「実質的に質量減がない」とは、質量減が0.01mg/cm以下の場合を指す。
【0086】
本発明の色素増感型太陽電池用ガラスにおいて、熱膨張係数は91×10−7/℃未満、88×10−7/℃未満、86×10−7/℃未満、特に84×10−7/℃未満が好ましい。本発明の色素増感型太陽電池用ガラスと、透明電極基板等に用いられるガラス基板(例えば、ソーダガラス基板)の熱膨張係数の差が大き過ぎると、耐火性フィラー粉末を添加しない限り、焼成後にガラス基板や封着部位等に不当な応力が残留し、ガラス基板や封着部位等にクラックが発生しやすくなり、或いは封着部位に剥れが生じやすくなる。ここで、「熱膨張係数」は、押棒式熱膨張係数測定装置(TMA装置)により測定した値を指す。
【0087】
本発明の色素増感型太陽電池用材料は、実質的に耐火性フィラー粉末を含有しないことが好ましい。このようにすれば、太陽電池のセルギャップを小さく、且つ均一化しやすくなるとともに、耐火性フィラー粉末等の混合工程等が不要になるため、色素増感型太陽電池用材料の製造コストを低廉化することができる。
【0088】
本発明の色素増感型太陽電池用材料は、機械的強度を向上、或いは熱膨張係数を低下させるために、耐火性フィラー粉末を含有してもよい。一方、耐火性フィラー粉末の添加量を低減すれば、色素増感型太陽電池用材料の流動性、特に封着性を高めることができる。したがって、その混合割合はガラス粉末50〜100体積%、耐火性フィラー粉末0〜50体積%、好ましくはガラス粉末70〜100体積%、耐火性フィラー粉末0〜30体積%、より好ましくはガラス粉末95〜100体積%、耐火性フィラー粉末0〜5体積%であり、既述の理由により、実質的に耐火性フィラー粉末を含有しないことが望ましい。耐火性フィラー粉末の含有量が50体積%より多いと、相対的にガラス粉末の割合が低くなり過ぎて、所望の流動性を得難くなる。
【0089】
色素増感型太陽電池のセルギャップは、一般的に、50μm以下と非常に小さいため、耐火性フィラー粉末の粒子経が大き過ぎると、封着部位に局所的に突起物が発生するため、セルギャップを均一化し難くなる。このような事態を防止するため、耐火性フィラー粉末の最大粒子径は25μm以下が好ましく、15μm以下がより好ましい。ここで、「最大粒子径」とは、レーザー回折法により測定した際の体積基準の累積粒度分布曲線において、その積算量が粒子の小さい方から累積して99%である粒子径を表す。
【0090】
耐火性フィラー粉末は、特に材質が限定されないが、本発明の色素増感型太陽電池用ガラスからなるガラス粉末およびヨウ素電解液と反応し難いものが好ましい。具体的には、耐火性フィラー粉末として、ジルコン、ジルコニア、酸化錫、チタン酸アルミニウム、石英、β−スポジュメン、ムライト、チタニア、石英ガラス、β−ユークリプタイト、β−石英、リン酸ジルコニウム、リン酸タングステン酸ジルコニウム、タングステン酸ジルコニウム、ウイレマイト、[AB(MO]等のNZP型の基本構造をもつ化合物、
A:Li、Na、K、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Cu、Ni、Mn等
B:Zr、Ti、Sn、Nb、Al、Sc、Y等
M:P、Si、W、Mo等
若しくはこれらの固溶体が使用可能である。
【0091】
封着材料の軟化点が、ガラス基板の歪点より高いと、封着工程で、ガラス基板が変形しやすくなる。このため、封着材料(封着材料に使用されるガラス)には、低融点特性が要求される。そこで、本発明の色素増感型太陽電池用材料において、軟化点は575℃以下が好ましく、550℃以下がより好ましく、535℃以下が更に好ましい。軟化点が575℃より高いと、粘性が高くなり過ぎ、封着温度が不当に上昇し、ガラス基板が変形しやすくなる。また、色素増感型太陽電池用材料と多孔質酸化物半導体層を同時焼成する場合、封着温度が高過ぎると、酸化物半導体粒子の融着が進行し過ぎるおそれがあり、このような場合、多孔質酸化物半導体層の表面積が減少し、色素を吸着させ難くなる。
【0092】
本発明の色素増感型太陽電池用材料において、25℃のヨウ素電解液に2週間浸漬したときの質量減は0.14mg/cm以下、0.1mg/cm以下、特に0.05mg/cm以下が好ましく、実質的に質量減がないことが望ましい。質量減が小さい程、長期間に亘り、ヨウ素電解液や電池特性の劣化を防止することができる。
【0093】
本発明の色素増感型太陽電池用材料は、粉末のまま使用に供してもよいが、ビークルと均一に混練し、ペーストに加工すると取り扱いやすい。ビークルは、主に溶媒と樹脂とからなり、樹脂はペーストの粘性を調整する目的で添加される。また、必要に応じて、界面活性剤、増粘剤等を添加することもできる。作製されたペーストは、ディスペンサーやスクリーン印刷機等の塗布機を用いて塗布される。
【0094】
樹脂としては、アクリル酸エステル(アクリル樹脂)、エチルセルロース、ポリエチレングリコール誘導体、ニトロセルロース、ポリメチルスチレン、ポリエチレンカーボネート、メタクリル酸エステル等が使用可能である。特に、アクリル酸エステル、ニトロセルロースは、熱分解性が良好であるため、好ましい。
【0095】
溶媒としては、N、N’−ジメチルホルムアミド(DMF)、α−ターピネオール、高級アルコール、γ−ブチルラクトン(γ−BL)、テトラリン、ブチルカルビトールアセテート、酢酸エチル、酢酸イソアミル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ベンジルアルコール、トルエン、3−メトキシ−3−メチルブタノール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレンカーボネート、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチル−2−ピロリドン等が使用可能である。特に、α−ターピネオールは、高粘性であり、樹脂等の溶解性も良好であるため、好ましい。
【0096】
本発明の色素増感型太陽電池用材料は、封着に用いることが好ましく、特に透明電極基板と対極基板の封着に用いることが好ましい。本発明の色素増感型太陽電池用材料は、低融点特性を有し、ヨウ素電解液に侵食され難いため、長期間の使用により、ヨウ素電解液が漏洩し難く、太陽電池の長寿命化を図ることができる。また、透明電極基板と対極基板の封着に用いる場合、太陽電池のセルギャップを均一化するために、本発明の色素増感型太陽電池用材料にガラスビーズ等のスペーサーを添加してもよい。
【0097】
本発明の色素増感型太陽電池用材料は、レーザー光による封着処理に供することが好ましい。レーザー光を用いると、色素増感型太陽電池用材料を局所加熱することができ、ヨウ素電解液等の構成部材の熱劣化を防止した上で、透明電極基板と対極基板を封着することができる。本発明の色素増感型太陽電池用材料は、レーザー光を用いて透明電極基板と対極基板を封着する場合、ガラス組成として、遷移金属酸化物(例えば、CuO、Fe)を合量で0.1%以上、0.5%以上、1.5%以上、2%以上、特に3%以上含有することが好ましい。このようにすれば、レーザー光の光エネルギーを熱エネルギーに効率良く変換することができるため、換言すればガラスに的確にレーザー光を吸収させることができるため、封着すべき部位のみを局所加熱することができる。ここで、レーザー光として、種々のレーザー光を使用することができるが、特に、半導体レーザー、YAGレーザー、COレーザー、エキシマレーザー、赤外レーザー等は、取り扱いが容易な点で好適である。また、ガラスに的確にレーザー光を吸収させるために、レーザー光は、500〜1600nm、好ましくは750〜1300nmの発光中心波長を有することが好ましい。
【0098】
本発明の色素増感型太陽電池用材料は、集電電極の被覆に用いることが好ましい。一般的に、集電電極にはAgが使用されるが、Agはヨウ素電解液に侵食されやすい。したがって、集電電極にAgを使用する場合、集電電極を保護する必要がある。本発明の色素増感型太陽電池用材料は、低融点特性を有するため、緻密な被覆層を低温で形成できるとともに、ヨウ素電解液に侵食され難いため、長期間に亘って、集電電極を保護することができる。
【0099】
本発明の色素増感型太陽電池用材料は、隔壁の形成に用いることができる。一般的に、色素増感型太陽電池内に隔壁を形成する場合、セル内は、ヨウ素電解液で満たされる。本発明の色素増感型太陽電池用材料は、低融点特性を有するため、緻密な隔壁を低温で形成できるとともに、ヨウ素電解液に侵食され難いため、長期間に亘って、隔壁の破れを防止することができる。
【実施例1】
【0100】
実施例に基づいて、本発明を詳細に説明する。表1〜4は、本発明の実施例(試料No.1〜22)、比較例(試料No.23〜26)を示している。
【0101】
【表1】

【0102】
【表2】

【0103】
【表3】

【0104】
【表4】

【0105】
表中に記載の各試料は、次のようにして調製した。まず、表中のガラス組成になるように、各種酸化物、炭酸塩等の原料を調合したガラスバッチを準備し、これを白金坩堝またはアルミナ坩堝に入れて1000〜1200℃で1〜2時間溶融した。溶融は、SnOを含有するガラスついては窒素雰囲気下、それ以外は大気雰囲気下で行った。次に、溶融ガラスの一部をTMA用サンプルとしてステンレス製の金型に流し出し、その他の溶融ガラスは、水冷ローラーにより薄片状に成形した。TMA用サンプルは、成形後に所定の徐冷(アニール)処理を行った。最後に、薄片状のガラスをボールミルにて粉砕後、目開き75μmの篩いを通過させて、平均粒子径が約10μmの各ガラス粉末を得た。
【0106】
次いで、各ガラス粉末と、ビークル(エチルセルロースまたはポリエチレンカーボネートをα−ターピネオールに溶解させたもの、或いはジエチルペンタンジオール)を混錬し、ペースト状とした。これをソーダガラス基板(熱膨張係数:100×10−7/℃)に、直径40mmで40〜80μm厚となるようにスクリーン印刷し、電気炉で120℃10分間乾燥した後、500〜550℃30分間焼成し、質量減の評価用試料を得た。なお、焼成は、SnOを含有するガラスについては窒素雰囲気下、それ以外は大気雰囲気下で行った。
【0107】
以上の試料を用いて、熱膨張係数、軟化点およびヨウ素電解液に対する質量減を評価した。その結果を表1〜4に示す。
【0108】
熱膨張係数は、TMA装置により測定した。熱膨張係数は、30〜300℃の温度範囲で測定した。
【0109】
軟化点は、DTA装置により求めた。測定は、空気中で行い、昇温速度は10℃/分とした。
【0110】
質量減は、以下のようにして算出した。まず上記の質量減の評価用試料の質量およびヨウ素電解液に接する焼成膜の表面積を測定し、次にガラス製密閉容器中のヨウ素電解液にこの試料を浸漬し、25℃の恒温槽にガラス製密閉容器を静置し、浸漬前の試料の質量から2週間経過した後の試料の質量を減じた値を、焼成膜の表面積で除することで算出した。質量減の評価に使用したヨウ素電解液は、アセトニトリルに対し、ヨウ化リチウム0.1M、ヨウ素0.05M、tert−ブチルピリジン0.5M、および1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムヨーダイド0.6Mを加えたものを使用した。
【0111】
表1〜4から明らかなように、試料No.1〜22は、熱膨張係数が64〜124×10−7/℃、軟化点が348〜535℃であった。また、いずれの質量減の測定用試料においても、焼成膜が剥れることなく、ガラス基板に良好に密着していた。さらに、試料No.1〜22は、質量減が0.10mg/cm以下であり、ヨウ素電解液に侵食され難かった。一方、試料No.23〜26は、質量減が大きく、ヨウ素電解液に侵食されやすかった。
【実施例2】
【0112】
ガラス組成中のカチオンの平均イオン半径とヨウ素電解液による侵食量の関係を調査した。
【0113】
実施例1と同様の方法により、各種ガラスにつき、ヨウ素電解液に対する質量減を評価した。次に、図1にガラス組成中のカチオンの平均イオン半径とヨウ素電解液による侵食量の関係をプロットした。
【0114】
図1から明らかなように、ガラス組成中のカチオンの平均イオン半径が小さい程、ヨウ素電解液による侵食量が小さくなることが分かる。
【実施例3】
【0115】
[ガラス組成中のカチオンの平均価数]を[ガラス組成中のカチオンの平均イオン半径の2乗]で除した値とヨウ素電解液による侵食量の関係を調査した。
【0116】
実施例1と同様の方法により、各種ガラスにつき、ヨウ素電解液に対する質量減を評価した。次に、図2にガラス組成中のカチオンの平均価数をカチオンの平均イオン半径の2乗で除した値とヨウ素電解液による侵食量の関係をプロットした。
【0117】
図2から明らかなように、ガラス組成中のカチオンの平均価数をカチオンの平均イオン半径の2乗で除した値が大きい程、ヨウ素電解液による侵食量が小さくなることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明の色素増感型太陽電池用ガラスおよび色素増感型太陽電池用材料は、色素増感型太陽電池の透明電極基板と対極基板の封着、集電電極の被覆、セル間を仕切るための隔壁の形成等に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス組成中のカチオンの平均イオン半径が0.80Å以下であることを特徴とする色素増感型太陽電池用ガラス。
【請求項2】
[ガラス組成中のカチオンの平均価数]を[ガラス組成中のカチオンの平均イオン半径の2乗]で除した値が4.30/Å以上であることを特徴とする色素増感型太陽電池用ガラス。
【請求項3】
ガラス組成中のカチオンの平均イオン半径が0.80Å以下であり、且つ[ガラス組成中のカチオンの平均価数]を[ガラス組成中のカチオンの平均イオン半径の2乗]で除した値が4.30/Å以上であることを特徴とする色素増感型太陽電池用ガラス。
【請求項4】
25℃のヨウ素電解液に2週間浸漬したときの質量減が0.14mg/cm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の色素増感型太陽電池用ガラス。
【請求項5】
25℃のヨウ素電解液に2週間浸漬したときの質量減が0.1mg/cm以下であることを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載の色素増感型太陽電池用ガラス。
【請求項6】
熱膨張係数が65〜120×10−7/℃であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の色素増感型太陽電池用ガラス。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の色素増感型太陽電池用ガラスからなるガラス粉末 50〜100体積%と、耐火性フィラー粉末 0〜50体積%とを含有することを特徴とする色素増感型太陽電池用材料。
【請求項8】
軟化点が550℃以下であることを特徴とする請求項7に記載の色素増感型太陽電池用材料。
【請求項9】
封着に用いることを特徴とする請求項7または8に記載の色素増感型太陽電池用材料。
【請求項10】
集電電極の被覆に用いることを特徴とする請求項7または8に記載の色素増感型太陽電池用材料。
【請求項11】
レーザー光による封着処理に供されることを特徴とする請求項9に記載の色素増感型太陽電池用材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−280554(P2010−280554A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−137479(P2009−137479)
【出願日】平成21年6月8日(2009.6.8)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】