説明

草刈り機

【課題】小型乗用草刈り機は運転操作性や操縦安定性への配慮は遅れていた。乗用シートにおいても前後スライド位置調整は一部にみられるだけである。またシートの左右位置に操作レバーを配す構成をとっているため乗り降りしずらい機械となっていた。特に高齢者には低床シートからこれら操作レバーをまたいで乗り降りすることは非常に難儀な動作になっていた。本発明はこれら小型乗用草刈り機のシート位置調整に加えて乗り降りしずらいという課題を同時に解決し、使う人の身になった操作性と安定性にすぐれた草刈り機を提供する。
【解決手段】小型乗用草刈り機の乗用シートを回動位置決め機構の回動部に配設し、更にその回動機構を往復位置決め機構の直線可動部に配設し、シート回動用の操作レバーとシートスライド用の操作レバーの操作によりシートの往復位置決めと回動位置決めをワンタッチで行うことが出来るようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は草刈り機または類機の芝刈り機の中で主に小形乗用タイプのもので、その操縦利便性、快適性などに関わるものである。
【背景技術】
【0002】
小型乗用草刈り機は国内では従来ほとんどが4輪の後輪駆動−前輪操舵型で普及している。(特許文献1、2)自動車運転感覚並の要望から乗用シートにも乗り心地の向上、操縦安定性の向上などをねらって種々考案が施されているが、近年更にこれを進めて作業内容の特殊性を反映し、より作業しやすいようにシート位置調整の行えるものも出てきている。(特許文献3)。
【特許文献1】実開平06−55320
【特許文献2】特開2003−320864
【特許文献3】特開2005−1585
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
小型乗用草刈り機は乗用ではあっても他の乗用農業機械に比べかなり小型につくられている。比較的スピードが出せ、作業時移動時共に、類機の作業環境に恵まれた芝刈り機とは異なり、起伏地、傾斜地、雑木草地、灌木地等々、不整地走行する場合が多いため作業性から、小型、低床にする場合がほとんどである。為に作業性、作業能率が先行し運転操作性や操縦安定性への配慮は遅れていた。乗用シートにおいても前後スライド位置調整は一部にみられるだけであり、作業者への配慮はほとんどみられない。このシート位置調整は他の乗用機ではごく普通にあるのに対し草刈り機は実績がほとんどなかった。これははなはだ時代遅れであるといえる。しかし近年、操作性や安定性に関わる可動式にしたものも出てきており、木の幹の側一杯まで刈り取り作業が出来るようシートを進行方向に対し左右にスライド出来るようにしたもの(特許文献3)、水平制御シート、などがある。しかしこれらもどちらかというと作業者への配慮というよりは草刈り作業性の向上からきたものであり、使う人への優しさ、使いやすさなどヒューマンケアに基づくものではない。
【0004】
一方草刈り機はまたシートの左右位置に操作レバーを配す構成をとっている(図1)。このことが低床位置シートと重なって、従来から乗り降りしずらい機械となっていた。特に高齢者には低床シートからこれら操作レバーをまたいで乗り降りすることはよけいな脚力、腹背筋力を使い非常に難儀な動作になっていた。バランスを崩し、転倒することもあった。作業性、作業能率の向上はもちろんであるが、その前にこれら問題を解決し使う人に優しい、使う人の身になった操作のし易さが必要とされる。特に高齢化社会の近年、刈り払い機を使う重労働を敬遠してわざわざ高価な乗用型を求めるケースが増加している。そうしたニーズに答えるためにもヒューマンケアに配慮した操作性と安定性が必要とされている。本発明はこれら小型乗用草刈り機の従来からある他では当たり前のシート位置調整に加えて乗り降りしずらいという課題を同時に解決し、使う人の身になった操作性と安定性にすぐれた草刈り機を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために本発明において講じた手段は、小型乗用草刈り機の乗用シートを回動位置決め機構の回動部に配設し、更にその回動機構を往復位置決め機構の直線可動部に配設したことである。
【発明の効果】
【0006】
本発明は上記手段を施したことにより以下の効果を有する。
【0007】
乗用シートの前後位置がワンタッチで調整することが出来、操縦姿勢が使う人の体型に合わせて調節できるのはもちろん、刈り取り圃場の地形、圃場面状況など作業環境に応じて調整も出来、またその時の体調に応じても調整することが出来きるため、運転操作性と安定性が向上し、使いやすさが向上する。
【0008】
乗用シートがスライド調整位置のそれぞれでワンタッチで回動させることが出来るため、操作レバー類をよけて、しかも正面姿勢で乗り降りすることができるため、乗り降りが大幅に楽になり、使いやすさが向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
操縦シート位置でただシートを回動させてもほとんど効果はなく、前後スライド機構と併用し、回動位置を選択し、乗り降りする位置と仕方を所望選択できることで、操作レバーの影響なく、楽に乗り降りできる構造が可能になった。高齢者の乗り降りする時の負担が解消され、またズボン以外の作業衣での乗り降りも可能になった。
【実施例1】
【0010】
本発明の第一実施例を添付図面に基づいて説明する。図1は本発明草刈り機の実施例で正面図と左側面図と右側面図、図2はその平面図、図3はシートのスライド&回動機構を示す部品構成図。図4はその組み立て構成を示す平面と側面の透視図である。図は見やすくする為一部省略及び一部誇張している。草刈り機はエンジン部2の回転出力で刈り取り部1の刈り刃を回転させて草を刈ることができる。一方、エンジン出力から別に変速機3を介し走行駆動車輪6により駆動走行し、ステアリングホイール4の操作で前輪5を操舵し操縦する。
【0011】
本草刈り機はごく標準的構成で、シート8の左側には刈り取り部1の高さを調整する昇降レバー71が、右側には前後進&速度調整用のHSTレバー72と高速低速切り替えレバー73が配備されている。機体に乗り降りする際、機体左側面からも右側面からもこれらレバーが影響する。特に高齢者にとってはかなりの障害になっている。元来シートに対し横方向から横ばい動作で乗り降りすること自体、人にとって不自然な動作であるのにさらにレバーという障害物が加わって乗降動作を非常に難儀なものにしていた。低床であるため、なんとか乗り降りできているのが現状であった。これに対しシートを機体側面側に回動させてやることで(図2)この問題は一変する。
【0012】
本発明であるシート8のスライド&回動機構を図3、図4で説明する。構成はシート本体81、回動台座82、樹脂プレート83、レールユニット84、ローラーベース85の5ブロックに大別される。シート本体81は回動台座82の回動板821の四隅にボルト固定される。(図略)回動板821のほぼ中央には支軸822が板鉛直下方向に固着されており、潤滑材である樹脂プレート83を挟んでレールユニット84の回動板軸受け843に回動可能に軸支される。軸受け843の先端にはノッチ板841が固着されており、機体進行方向ほぼ半円先端面に中央1左右3の計7箇所にノッチが形成されている。一方回動台座82にはラッチ824がシート回動レバー823の中央に固着され、回動板821に回動自在に軸支されたシート回動レバー823の回動操作に連動して回動動作する。
このラッチ824とノッチ板841とで、回動台座82はレールユニット84に対し機体進行方向に対し左右方向の回動位置決め機構を構成している。通常はラッチバネ825によりラッチ824はノッチ板841のノッチに係り止めされている。シート回動レバー823をシート手前に回動させラッチ824の係止めを外せば回動フリーになりノッチのそれぞれの位置でレバー8を戻せばその位置で固定できる。
【0013】
レールユニット84は機体進行方向左右2本のレール842−842が底板と中央リブ844に平行精度で堅固に固着されている。リブ844にはまた回動板軸受け843も堅固に固着されている。軸受け843下側から支軸822の抜け止めにワーシャー&ビス826を固定する。このレール842−842は更に下部のローラーベース85のフレーム内側に固着されているレールガイド851、852内にガイド内側のローラー853の周面に当接して摺動挿入され、ガイドに沿って往復摺動自在に支持される。片方のレール851の下側には爪ラック854が形成されており、これとレールユニット84側に装着されるシートスライドレバー845に形成されている爪とで、レールユニット84のローラーベース85に対する往復位置決め機構を構成している。レバー845はレールユニット84に形成してある軸受け846に回動自在に軸支され先端の爪部分は通常時はレバーバネ847により爪ラック854に係止めされている。レバー845を爪の係止め解除方向に回動させレールユニット84をスライドさせ爪ラック854のそれぞれの位置でレバー854を戻せばその位置で固定できる。
【0014】
以上の構成でシート本体81はレールユニット84に対し回動位置決め機構を構成し、そのユニット84はローラーベース85に対し往復位置決め機構を構成しており、シート回動レバー823とシートスライドレバー845の操作によりシート8の往復位置決めと回動位置決めを行うことが出来る。本発明のポイントはレールユニット84にある。スライド可動部(レール842)と回動支持部(回動板軸受け843、ノッチ板841)を一体設計したことにより構成が単純且つ高さを低く抑えることが出来、低シート高を維持することが出来た。往復位置決め機構の上に回動位置決め機構を単純に積み重ねただけだとシート高を高くし、また不安定になってしまう。
【0015】
シート8を回動させ乗降し易いようにしたものは福祉車両などにみられるが、本草刈り機の場合、シート脇の操作レバー類が障害になり、その場でただ回動させただけではほとんど効果はない。これは他の農業機械にも言えることでもある。そこで従来ニーズの低かったシート位置調整に再度着目しこの往復位置決め機構と併用するようにし、乗降しやすい位置という視点からスライド位置を設定した。結果としてシート位置調整の必要幅以上のスライド量となったが、乗降しやすい位置までシートをスライドしそこで横向きに回動させることで、操作レバーを避け、横ばい動作でなく正面動作で乗降出来るようになり、乗降性を飛躍的に向上させることが出来るようになった。
【0016】
本構成で、乗降しやすい位置で、シートに対し横ばい動作でなく正面動作で乗降できるようになった。人の体型や好みに応じてワンタッチ操作で。このことが別のシート位置調整機能に再び光を当てる結果になった。従来シート位置調整は購入使用者が限定されていたことから、一度調整すればその後ほとんどいじることは無いため必要性は少ないとされ、あってもワンタッチの位置決め機構とは異なるボルト、ネジなどによる原始的固定式シート位置調整程度でしかなかった。近年社会の高齢化とともに草刈り機に対する見方が前記のように変化してきている中でも、そのためだけにあえてワンタッチの位置決め機構を搭載するような設計マインドはなかった。今回の乗降しやすい機構の開発でスライド移動の必要性検討の際、このことが浮かび上がり、シート位置調整機能も併せ持たせるようにした。一挙両得多機能機構への展開である。単一機能では贅沢に思われる機構でも複数機能に生かせるならば十分効果はある。且つ魅力的な。もともと本開発はヒューマンケアに基づく使いやすく操作性に優れたものを狙ったものである。シート位置調整機能も本来はあった方がよい。しかし従来前記理由で普及せず操作性、安定性に難を残していた。本発明はまたシート位置決め機構に乗降機構という大きな付加価値を付けコストメリットにおいても実用化を実現したものでもあるといえる。
【0017】
図5に本発明であるシート機構の操作状態を示す。上中段図はシートスライド範囲を示し、下段図はスライド中段図位置で乗降用に左90度に回動させた場合を示す。乗降用の回動方向は機体の停車状況や操縦者の癖や好みに応じ左右どちらでも自由である。図ではスライド前方位置一杯で90度回動させているが、大柄な人の場合はステアリングハンドルが邪魔になる場合がある。その場合は適度に前方スライド後また90度回動の必要はなく40度程度で十分な乗降アクセススペースは確保できる。(図2下段図)シート回動固定位置は乗降のしやすさを十分検証した上で設定している。もちろんシート回動位置状態での運転は危険なため、回動位置での運転は出来ないよう安全装置も備えている。ヒューマンケアに基づく人に優しい使いやすい操作性に優れた新機能の装備で、逆に新たな危険モードの発生することの無いよう安全に対する配慮は十分に考慮されている。
【0018】
実施例ではシートの位置固定にラッチや爪機構を使用したが、別にブレーキ機構でもよい。無段階設定出来るメリットがあるが、構造が複雑になる、固定が甘く草刈り作業中の衝撃などでズレやすい、などの欠点もある。本発明では振動、衝撃など作業環境の過酷な草刈り機用として堅固に確実に位置固定できる方式を採った。またシートの回動、スライドは全て手動にしてあるが、モーターや電動シリンダを使用し電動化することも出来る。
しかし草刈り機の製品性格としてはまだ時期尚早である。
【産業上の利用可能性】
【0019】
類機の芝刈り機をはじめ、中小型乗用の農業機械、土木建設機械など全ての中小型乗用作業機械に使用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本第1実施例草刈り機を示す正面図、左側面図、右側面図である。
【図2】本第1実施例草刈り機を示す平面図である。
【図3】本第1実施例草刈り機のシート機構の詳細を示す組み立て構成図である。
【図4】本第1実施例草刈り機のシート機構を示す側面と平面の透視図である。
【図5】本第1実施例草刈り機のシートアレンジを示すずである。
【符号の説明】
【0021】
1 刈り取り部
2 エンジン部
3 駆動用変速機
4 ステアリング
5 前輪
6 駆動後輪
7 操作レバー
8 シート機構
71 昇降レバー
72 HSTレバー
73 高低速切り替えレバー
81 シート本体
82 回動台座
83 樹脂プレート
84 レールユニット
85 ローラーベース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン又はモータを搭載し、左右一対の前輪、後輪と、該前後輪間に、刈り取り部と、乗用シートと、操縦&操舵機構とを配設し、自動車運転感覚で操縦できるようにした小型乗用草刈り機において、該シートを回動位置決め機構の回動部に配設し、該機構を往復位置決め機構の直線可動部に配設したことを特徴とする小型乗用草刈り機のシート位置決め機構。
【請求項2】
前記回動位置決め機構をノッチ、又は爪溝、又は歯溝を有す略円板と、ラッチ、又は爪、又は歯、による構成とし、前記往復位置決め機構をノッチラック、又は爪ラック、又はラックと、ラッチ、又は爪、又は歯、による構成とする請求項1に記載する小型乗用草刈り機のシート位置決め機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−90701(P2009−90701A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−260526(P2007−260526)
【出願日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【出願人】(000223698)フジイコーポレーション株式会社 (11)
【Fターム(参考)】