説明

荷役機械の制御装置及び荷役機械の制御方法

【課題】燃費の良い荷役機械の制御装置及び制御方法を提供する。
【解決手段】荷役作業用のモータ(4)と、電池(5)と、エンジン(11)からの動力により発電する発電機(12)と、直流母線に電池が接続され、発電機及び/又は電池から供給される電力からモータを駆動するための電力変換を行うインバータ(3)と、を備えた荷役機械の制御装置であって、モータの駆動開始時から0以上の第1の所定時間経過後に、エンジンの回転数をアイドル状態の回転数から定格回転数に切り替え、モータの駆動終了時から0以上の第2の所定時間経過後に、エンジンの回転数を定格回転数からアイドル状態の回転数に切り替える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷役機械を制御する制御装置及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンテナの積み下ろしなどの荷役作業を行う荷役機械は、エンジン発電機と荷役作業用のモータを備えており、エンジン発電機から出力される電力でモータを駆動し、荷物の積み降ろし動作(荷役動作)を行う。荷役機械において、エンジン発電機からの電力は、さらに、照明装置や運転室の空調設備などの補機にも供給される。そのため、荷役機械では、荷役動作時以外でもエンジン発電機を動作させて、補機に電力を供給する必要がある。
【0003】
近年、エンジン発電機と電池の両方を備えた荷役機械が開発されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に開示された荷役機械は、無負荷状態が続いたときに、エンジン発電機を定格運転からアイドルに切り替えて、補機への電力供給を電池から行い、電池電圧が所定値以下に低下すると、エンジン発電機をアイドルから定格運転に切り替えて、エンジン発電機から補機に電力を供給している。
【特許文献1】特開2004−360610号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エンジン、特に、ディーゼルエンジンは、大きな動力を必要とする荷役作業時の電力供給に適したものであるが、荷役作業が行われていない間は補機を運転すればよく、小さな動力しか必要としない補機への電力供給には適していない。しかし、従来の荷役機械は、荷役作業が行われていない間も、補機に電力を供給する必要があるためにエンジン発電機を動作させるので、エンジンの燃料消費量が多くなり、燃費が悪くなるという問題があった。
【0005】
また、ディーゼルエンジンは、その特性上、部分負荷運転においては効率(燃費)が悪く、定格負荷近傍で運転するとき最も効率(燃費)が良い。荷役機械においては、一般に貨物の横移動時や荷役機械移動時の必要動力は、巻き上げ時のそれに比べて小さい。このため、貨物の横移動時においては、ディーゼルエンジンは、かなり低負荷で運転することになり、効率の悪い運転を強いられることとなる。例えば、横移動用モータの定格動力が37kwであり、巻き上げ用モータの定格動力が170kwである場合、ディーゼルエンジンは20%程度と低い負荷で運転することとなり、燃費が悪いのみならず、パティキュレート(煤など)の発生に伴う環境負荷が高くなる。
【0006】
本発明は、上記従来の問題を解決するものであって、その目的とするところは、燃費の良い荷役機械の制御装置及び制御方法を提供することにある。さらには、環境にやさしい荷役機械の制御装置及び制御方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、荷役機械の制御装置であって、荷役機械は、荷役作業用のモータと、電池と、エンジンからの動力により発電する発電機と、直流母線に電池が接続され、発電機及び/又は電池から供給される電力からモータを駆動するための電力変換を行うインバータと、を備えており、制御装置は、モータの駆動開始時から0以上の第1の所定時間経過後に、エンジンの回転数をアイドル状態の回転数から定格回転数に切り替え、モータの駆動終了時から0以上の第2の所定時間経過後に、エンジンの回転数を定格回転数からアイドル状態の回転数に切り替えることを特徴とする。本発明の荷役機械の制御装置は、図2に示すパワーフロー制御装置7である。
【0008】
上記電池は、いわゆる蓄電機能を有した蓄電設備であってもよい。好ましくは、上記電池は、積層型ニッケル水素電池である。
【0009】
荷役機械は、電池のSOC(State of Charge)を算出する電池モニタをさらに備えてもよい。このとき、電池モニタにより算出される電池のSOCの値に応じて、第1の所定時間を設定してもよい。また、電池モニタにより算出される電池のSOCの値に応じて、第2の所定時間を設定してもよい。
【0010】
荷役作業用のモータは、荷役機械において貨物を上昇させるための巻き上げ用モータであってもよい。荷役作業用のモータは、荷役機械を走行させるための走行用モータであってもよい。荷役作業用のモータは、荷役機械において貨物を横行させるための横行用モータであってもよい。
【0011】
荷役作業用のモータの回生電力により電池を充電してもよい。
【0012】
本発明は荷役機械の制御方法であって、荷役機械は、荷役作業用のモータと、電池と、エンジンからの動力により発電する発電機と、直流母線に電池が接続され、発電機及び/又は電池から供給される電力からモータを駆動するための電力変換を行うインバータと、を備えており、制御方法は、モータの駆動開始時から第1の所定時間経過後に、エンジンの回転数をアイドル状態の回転数から定格回転数に切り替えるステップと、モータの駆動終了時から第2の所定時間経過後に、エンジンの回転数を定格回転数からアイドル状態の回転数に切り替えるステップと、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、モータを駆動しているときは、主としてエンジン発電機から電力を供給し、モータを停止しているときは電池から電力を供給することで、エンジン発電機と電池の負荷分担を調整している。具体的には、モータを駆動している間は、エンジンを定格回転させて、主としてエンジン発電機からの電力でモータを駆動し、モータを停止させている間は、エンジンをアイドルにして、電池のみから補機に電力を供給するようにしている。これにより、エンジンの燃料消費量を低減することができ、燃費が良くなる。
【0014】
さらには、巻き上げ用モータを駆動しているときは、主としてエンジン発電機から電力を供給し、巻き上げ用モータを停止しているときは、電池から電力を供給するようにしてもよい。かかる場合は、横移動用モータなどの駆動のための電力は、主として、電池から供給することになる。このようにすれば、エンジンは低負荷ないしは部分負荷で運転することを避けることができるので、燃費が良くなり、パティキュレート(煤など)の発生に伴う環境負荷を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に示す本発明の実施形態は、エンジン発電機と、インバータの直流母線に接続された電池と、を備えたハイブリッド方式の荷役機械の制御において、荷役動作を行っている間は、エンジンを定格回転させて、主としてエンジン発電機からの電力でモータを駆動し、荷役動作を行っていない間は、エンジンをアイドルにして、電池のみから補機に電力を供給する。これにより、エンジンの燃費が良くなるという効果が得られる。
【0016】
1. 荷役機械の構成
図1に、本発明の実施形態の制御装置を含む荷役機械の外観を概略的に示す。本実施形態の荷役機械100は、港湾等の荷役作業に使用されるクレーン装置の一つであるゴムタイヤ式トランスファークレーン(RTG:Rubber Tired Gantry crane)である。荷役機械100は、コンテナ101を吊り上げるスプレッダ103と、巻き上げ及び巻き下げによりスプレッダ103を上昇及び下降させるワイヤーロープ109と、スプレッダ103を横行させるためのトラバーサ105と、前後の方向に走行が可能なタイヤ107と、を有する。荷役機械100は、コンテナ101をスプレッダ103で吊り上げ、スプレッダ103に取り付けられたワイヤーロープ109を巻き上げてスプレッダ103を上昇させ、トラバーサ105を所望の位置まで横行させた後、ワイヤーロープ109を巻き下げてスプレッダ103を下降させることにより、コンテナ101の積み下ろしを行う。また、荷役機械100は、タイヤ107による走行によって、任意の位置に移動することができる。
【0017】
図2に、本発明にかかる荷役機械100のシステム構成をブロック図で示す。荷役機械100は、交流電力を出力するエンジン発電機1と、エンジン発電機1を制御するエンジン発電機制御装置2と、エンジン発電機1に接続されたインバータ3と、インバータ3から出力される電力により駆動するモータ4と、インバータ3に運転指令を出力する運転指令部8と、を有する。エンジン発電機1は、エンジン11とエンジン11に接続された発電機12とにより構成される。本実施形態において、エンジン11は、軽油を燃料とするディーゼルエンジンである。エンジン11が定格回転しているとき発電機12は動作し、エンジン11がアイドルのとき発電機12は停止する。エンジン発電機制御装置2は、エンジン回転数指令に基づいて、エンジン11を回転させる。インバータ3は、交流電力を直流電力に変換するコンバータ部31と、直流電力を交流電力に変換するインバータ部32とを有する。インバータ3は、運転指令部8から出力される運転指令に従って、コンバータ部31及びインバータ部32を制御し、モータ4に電力を供給する。モータ4は、図1に示すワイヤーロープ109の巻き上げを行うための巻き上げ用モータである。運転指令部8は、荷役機械100の運転室などに設けられる。運転指令部8は、操作員から指示された運転指令をインバータ3に出力する。運転指令は、巻き上げ及び巻き下げ指令を含む。
【0018】
荷役機械100は、さらに、インバータ3のコンバータ部31とインバータ部32との間の直流母線に直結された電池5と、電池5の充電状態(SOC:State Of Charge)を算出する電池モニタ6と、運転指令と電池5のSOCに基づいて、エンジン発電機制御装置2を制御するパワーフロー制御装置7と、を有する。本実施形態において、電池5はニッケル水素単電池を直列に積層した積層型ニッケル水素電池である。具体的には、ニッケル水素電池は、対向して設けられた一対の板状の集電体の間に、セパレータによって仕切られた正極セルと負極セルとを有する複数の単位電池が、互いに隣り合う一方の前記単位電池の正極セルと他方の前記単位電池の負極セルとが対向するように積層されてなる電池モジュールである。ニッケル水素電池の特性については後述するが、ニッケル水素電池は、SOC(state of charge)の変動による電圧変動が小さいという特性を有しているため、直流母線に直結することができる。電池の出力電圧は、単位電池の積層数によって調整することができる。ニッケル水素電池の場合は、1.2V単位の小さな単位で電池の出力電圧を調整することができる。パワーフロー制御装置7は、運転指令部8からインバータ3に出力される運転指令と電池モニタ6により算出される電池5のSOCに基づいて、エンジン11にエンジン回転数指令を出力する。エンジン回転数指令は、定格回転数を指示する定格回転指令と、定格回転数より低い回転数であるアイドルを指示するアイドル指令を含む。
【0019】
また、荷役機械100は、インバータ3のコンバータ部31とインバータ部32との間の直流母線に接続されたDC/ACコンバータ9と、DC/ACコンバータ9に接続された補機10とを備える。補機10は、荷役動作時だけでなく、荷役動作時以外においても電力を必要とするものであって、例えば、荷役機械100に設けられた照明装置や運転室の空調設備、油圧ユニット(油圧ポンプ等)などである。
【0020】
2. 荷役機械の動作
荷役機械100の動作について、巻き上げを指示する運転指令が入力されたときを例にして説明する。図3に、巻き上げを開始するときのパワーフロー制御装置7の制御を示す。巻き上げが開始される前、パワーフロー制御装置7はエンジン回転数指令としてアイドル指令を出力している。エンジン発電機制御装置2は、アイドル指令に従って、エンジン11をアイドルにしている。このとき、発電機12の発電電力はゼロである。操作員が巻き上げ指令を運転指令部8に入力すると、運転指令部8は巻き上げ指令を出力する。パワーフロー制御装置7は、運転指令部8からの巻き上げ指令を入力したかどうかを判断する(S301)。巻き上げ指令が入力されると、パワーフロー制御装置7は、電池モニタ6が算出した電池5のSOCを入力する(S302)。電池モニタ6は、電池5の電流、電圧、及び温度を検出して電池5のSOCを算出している。パワーフロー制御装置7は、入力された電池5のSOCが所定値以上かどうかを判断する(S303)。
【0021】
電池5のSOCが所定値未満であれば(S303でNo)、ステップS304〜S306の処理を行わず、パワーフロー制御装置7は、エンジン回転数指令をアイドル指令から定格回転指令に切り替え、定格回転指令をエンジン発電機制御装置2に出力する(S307)。ここで、ステップS304〜S306の処理を行わないとは、遅延時間となる所定時間αをゼロに設定することに相当する。エンジン発電機制御装置2は、定格回転指令に従って、エンジン11を定格回転させる。このとき、エンジン11に接続された発電機12は発電し、エンジン発電機1と電池5の両方からモータ4へ電力が供給され、巻き上げが開始される。
【0022】
電池5のSOCが所定値以上であれば(S303でYes)、電池5の充電状態が十分であり、続いて充電されると、過充電になるおそれがあると判断できる。よって、パワーフロー制御装置7は、まず、電池5のSOCに基づいて、遅延時間となる所定時間αを設定し(S304)、所定時間αが経過するまでは、アイドル指令の出力を継続する(S305)。そのため、エンジン発電機制御装置2は、エンジン11をアイドルのまま運転する。インバータ3は、運転指令部8から出力される巻き上げ指令に従って動作し、電池5から出力される直流電力を交流電力に変換して、モータ4に供給する。このように、電池5からの電力のみで巻き上げを行う。パワーフロー制御装置7は、設定した所定時間αが経過したかどうかを判断する(S306)。所定時間αが経過すれば、パワーフロー制御装置7は、エンジン回転数指令をアイドル指令から定格回転指令に切り替え、定格回転指令をエンジン発電機制御装置2に出力する(S307)。エンジン発電機制御装置2は、定格回転指令が入力されると、エンジン11を定格回転させる。このとき、エンジン11に接続された発電機12は発電を開始する。これにより、エンジン発電機1と電池5の両方からモータ4に電力が供給され、巻き上げが行われる。
【0023】
図4に、電池5のSOCに基づいて設定する所定時間αの特性を示す。所定時間αは、電池5のSOCが多いほど所定時間αが長くなるように設定される。本実施形態では、所定時間αは、電池5のSOCに基づいて、0秒〜12秒の範囲で設定される。より具体的には、所定時間αは、電池5のSOCが所定の閾値(例えば、80%)未満のときは0秒に設定され、電池5のSOCが所定の閾値(例えば、80%)以上のときに0秒より大きくなるように設定される。
【0024】
以上のように、本実施形態によれば、巻き上げ開始時、電池5のSOCが所定値以上であれば、すなわち、続いて充電されると電池5が過充電になるおそれがあると判断されるときは、設定した所定時間αが経過するまで、エンジン11をアイドルのまま運転して、電池5のみで巻き上げを行う。これにより、電池5が消費され、インバータ3の直流母線に接続された電池5の過充電を防止できる。このように、巻き上げ開始時に電池5の充電状態に従って、電池5を放電させることにより、電池5を常に良好な充電状態に保持できる。
【0025】
次に、巻き上げ終了時の動作を説明する。図5に、巻き上げ終了時のパワーフロー制御装置7の制御を示す。操作員から運転指令部8に入力されている巻き上げ指令が終了すると、運転指令部8は、巻き上げ指令の出力を停止する。パワーフロー制御装置7は、運転指令部8の出力に基づいて、巻き上げ指令が終了したかどうかを判断する(S501)。巻き上げ指令が終了すると、パワーフロー制御装置7は、電池モニタ6が算出した電池5のSOCを入力する(S502)。電池モニタ6は、電池5の電流、電圧、及び温度を検出して、電池5のSOCを算出している。パワーフロー制御装置7は、算出された電池5のSOCが所定値以下かどうかを判断する(S503)。
【0026】
電池5のSOCが所定値よりも大きければ(S503でNo)、ステップS504〜S506の処理を行わず、パワーフロー制御装置7は、エンジン回転数指令を定格回転指令からアイドル指令に切り替えて、アイドル指令を出力する(S507)。ここで、ステップS504〜S506の処理を行わないとは、遅延時間となる所定時間βをゼロに設定することに相当する。エンジン発電機制御装置2は、アイドル指令に従って、エンジン11をアイドルに切り替える。これにより、発電機12の出力はゼロになる。補機10への電力供給は電池5からの電力のみで行われる。
【0027】
電池5のSOCが所定値以下であれば(S503でYes)、電池5の充電状態が十分でなく、電池5を続けて放電すると、過放電になるおそれがあると判断できる。よって、電池5のSOCが所定値以下であれば、パワーフロー制御装置7は、電池5のSOCに基づいて所定時間βを設定し(S504)、所定時間βが経過するまで、定格回転指令を出力し続ける(S505)。エンジン発電機制御装置2は、定格回転指令に従って、エンジン11の定格回転を継続する。これにより、エンジン発電機1から出力される電力で電池5が充電される。パワーフロー制御装置7は、設定した所定時間βが経過したかどうかを判断する(S506)。所定時間βが経過すれば、パワーフロー制御装置7は、エンジン回転数指令を定格回転指令からアイドル指令に切り替えて、アイドル指令を出力する(S507)。エンジン発電機制御装置2は、アイドル指令に従って、エンジン11をアイドルに切り替える。これにより、発電機12の出力はゼロになる。以後、補機10への電力供給は電池5からの電力のみで行われる。
【0028】
図6に、電池5のSOCに基づいて設定する所定時間βの特性を示す。所定時間βは、電池5のSOCが小さいほど所定時間βが長くなるように設定される。本実施形態では、所定時間βは、電池5のSOCに基づいて、0秒〜12秒の範囲で設定される。より具体的には、所定時間βは、電池5のSOCが所定の閾値(例えば、50%)よりも大きければ0秒に設定され、電池5のSOCが所定の閾値(例えば、50%)以下のときに0秒より大きくなるように設定される。
【0029】
以上のように、本実施形態によれば、巻き上げ終了時、電池5のSOCが所定値以下であれば、すなわち、続けて放電すると電池5が過放電になるおそれがあると判断されるときは、設定した所定時間βが経過するまで、エンジン11を定格回転のまま運転して、エンジン発電機1からの電力で電池5を充電する。これにより、インバータ3の直流母線に接続された電池5の過放電を防止できる。このように、巻き上げ終了時に電池5の充電状態に従って、電池5を充電させることにより、電池5を常に良好な充電状態に保持できる。
【0030】
図7〜図9に、巻き上げ及び巻き下げ動作におけるタイミングチャートを示す。図7〜図9において、(a)は運転指令部8が出力する巻き上げ指令のオン/オフを示し、(b)はパワーフロー制御装置7が出力するエンジン回転数指令を示し、(c)は運転指令部8が出力する巻き下げ指令のオン/オフを示し、(d)は電池5のSOCを示している。
【0031】
図7は、電池の充電状態が良好な状態にあるため、所定時間α及び所定時間βが設けられない例を示す。巻き上げ指令が入力されるまで(時刻t0〜時刻t1)、パワーフロー制御装置7は、エンジン回転数指令として、アイドル指令をエンジン発電機制御装置2に出力している。エンジン発電機制御装置2は、アイドル指令に従って、エンジン11をアイドルにしているため、発電機12は停止している。この間、補機10への電力供給は、電池5のみによって行われる。そのため、電池5のSOCは減少していく。
【0032】
時刻t1で巻き上げ指令が入力される。このときの電池5のSOCは75%であり、図4に示す所定の閾値(80%)を超えていないため、所定時間αは設定されない。言い換えると、所定時間αはゼロである。よって、パワーフロー制御装置7は、巻き上げ指令がオンになるとすぐに、アイドル指令から定格回転指令に切り替える。定格回転指令に従って、エンジン発電機制御装置2はエンジン11を定格回転させる。これにより、エンジン発電機1と電池5からの両方の電力によって巻き上げが行われる(時刻t1〜時刻t3)。
【0033】
時刻t3で巻き上げ終了の指令が入力される、すなわち、巻き上げ指令がオフになる。このときの電池5のSOCは55%であり、図6に示す所定の閾値(50%)より大きいため、所定時間βは設定されない。言い換えると、所定時間βはゼロである。よって、パワーフロー制御装置7は、巻き上げ指令がオフになるとすぐに、定格回転指令からアイドル指令に切り替える。アイドル指令に従って、エンジン発電機制御装置2はエンジン11をアイドルにする。これにより、発電機12は停止する。補機10への電力供給は、電池5のみによって行われる。そのため、電池5のSOCは減少していく(時刻t3〜時刻t5)。
【0034】
一方、巻き下げの指令が入力されると(時刻t5)、荷役機械100は巻き下げを開始する。巻き下げは、モータ4を駆動させず、コンテナ101の重量により行う。コンテナ101の降下に伴いモータ4が回転し、回生電力が発生する。この回生電力により、電池5が充電される。回生電力によって電池5に蓄えられた電力は、補機10への給電と次の巻き上げ作業に利用される。
【0035】
図8は、巻き上げ開始時の電池の充電状態が過充電になるおそれがある状態であり、所定時間αが設けられる例を示す。図8において、巻き上げ指令が入力されたときの電池5のSOCは90%であり(時刻t1)、図4に示す所定の閾値(80%)を超えている。よって、パワーフロー制御装置7は、図4の特性に示すように所定時間αを電池5のSOCに基づいて設定し、所定時間αが経過するまでの間、エンジン発電機制御装置2にアイドル指令を出力し続ける。この間(時刻t1〜時刻t2)、発電機12は停止しているため、巻き上げは、電池5からの電力のみによって行われる。所定時間αが経過すると、パワーフロー制御装置7は、アイドル指令から定格回転指令に切り替えて、定格回転指令をエンジン発電機制御装置2に出力する。エンジン発電機制御装置2は、定格回転指令に従って、エンジン11を定格回転する。これにより、発電機12は発電する。よって、所定時間αが経過した後は、エンジン発電機1と電池5の両方からの電力によって巻き上げが行われる(時刻t2〜時刻t3)。
【0036】
図9は、巻き上げ終了時の電池の充電状態が過放電になるおそれがある状態であり、所定時間βが設けられる例を示す。図9において、巻き上げ指令が終了したときの電池5のSOCは30%であり(時刻t3)、図6に示す所定の閾値(50%)より小さい。パワーフロー制御装置7は、図6の特性に示すように、所定時間βを電池5のSOCに基づいて設定し、所定時間βが経過するまでの間、エンジン発電機制御装置2に定格回転指令を出力し続ける。この間(時刻t3〜時刻t4)、電池5はエンジン発電機1から出力される電力により充電される。所定時間βが経過すると(時刻t4)、パワーフロー制御装置7は、エンジン回転数指令を定格回転指令からアイドル指令に切り替えて、アイドル指令をエンジン発電機制御装置2に出力する。
【0037】
本実施形態によれば、エンジン発電機1と電池5の負荷分担を運転指令に従って調整している。具体的には、モータ4を駆動している間は、エンジン11を定格回転させて、主としてエンジン発電機1からの電力でモータ4を駆動し、モータ4を停止させている間は、エンジン11をアイドルにして、電池5のみから補機10に電力を供給するようにしている。これにより、エンジン11の燃費が良くなる。
【0038】
また、巻き上げ開始時及び巻き上げ終了時には、電池5の充電状態(SOC)に基づいて、エンジン回転数の切り替えのタイミングを替えている。よって、インバータ3の直流母線に接続された電池5の過充電及び過放電を防止することができる。
【0039】
図10及び図11は、上記の制御に基づき実際に実験を行った際の実験結果を示す図である。図10は従来のハイブリッド方式でない荷役機械を用いて行った実験結果を示しており、図11は本発明のハイブリッド方式の荷役機械を用いて行った実験結果を示している。実験において、定格負荷(40.6t)の巻上及び巻下と無負荷の巻上及び巻下を1時間にそれぞれ10回行なった。また、図11に示す本実施形態の実験においては、図3〜図6に示すように、巻き上げ開始時及び巻き下げ終了時に、電池5のSOCに基づいて所定時間α、βを設定して実験を行った。図10及び図11に示すように、エンジンの燃料消費量を比較すると、従来は実験開始から60分経過後のエンジンの燃料消費量が17.7リットルであったのに対し、本発明は6.1リットルであった。この実験結果により、本発明の荷役機械100は、従来の荷役機械と比較して、約65.5%の燃料消費量を低減できることを確認できた。すなわち、本願発明の荷役機械100は、従来の荷役機械と比較して燃費が良くなることを確認できた。また、電池5のSOCに基づいて所定時間α、βを設定することにより、図11のΔSOCに示すように、インバータ3の直流母線に接続された電池5の充電状態が安定することも確認できた。
【0040】
ここで、ニッケル水素電池の特性について説明する。図12に、各種電池等のSOC(state of charge)に対する電圧変化を示すSOC特性を示す。曲線aはニッケル水素電池の電圧変化、曲線bは鉛蓄電池の電圧変化、曲線cはリチウムイオン電池の電圧変化、曲線dは電気二重層キャパシタの電圧変化を示す。SOCの変動に対する電圧変化(ΔV/ΔSOC)は、ニッケル水素電池で約0.1、鉛蓄電池で約1.5、リチウムイオン電池で約2、電気二重層キャパシタで約3になっている。つまり、同じ電圧変化とすれば、ニッケル水素電池は、鉛蓄電池の1/15に、リチウムイオン電池の1/20に、電気二重層キャパシタの1/30に小さくできる。
【0041】
図12に示すように、曲線aで示されるニッケル水素電池は、他の電池等に比較して電圧の変動に対するSOCの変動が広い範囲Sという特性を有する。すなわち、ニッケル水素電池は、SOCの変動に対して電池電圧の変動が小さい。これに比べて、曲線b、c、dで示される他の電池等では、SOCの変動に対して電池電圧の変動が大きい。例えば、SOCの中央値でみれば、ニッケル水素電池では、中央値の電圧をV1とし、電圧変動が範囲dV1内におさまるように使用する場合、SOCの範囲Sのほぼ全てにおいて使用することができ、電池容量を有効に利用することができる。これに対し、鉛蓄電池を中央値の電圧をV2とし、電圧変動がdV2内におさまるように使用する場合には、SOCが狭い範囲でしか使用することができず、電池容量を有効に利用できない。同様に、リチウムイオン電池を中央値の電圧をV3とし電圧変動が範囲dV3内におさまるように使用する場合には、SOCが狭い範囲でしか使用することができず、電池容量を有効に利用できない。ここで、電圧変動範囲の大きさは、dV1/V1=dV2/V2=dV3/V3とする。
【0042】
したがって、SOCが範囲Sの中ほど、例えばSOCが40〜60パーセントのときの電池電圧が、直流母線の定格出力電圧と等しいあるいは略等しいニッケル水素電池を、図2のように直流母線に直結した場合、ニッケル水素電池の充放電が繰り返されることによりその充電状態が変動しても電池電圧の変動を非常に小さく抑えることができるので、電池容量を有効に利用することができる。
【0043】
ニッケル水素電池は、直流母線電圧の変動許容範囲で、SOC特性の大半がカバーされるため、電池内の容量が有効に利用される。一方、ニッケル水素電池と比較して他の種類の二次電池では、SOCに対する電圧変化の傾斜が大きいので、直流母線に許容される電圧範囲で、有効な電池容量は比較的小さくなる。即ち、ニッケル水素電池以外の鉛蓄電池やリチウムイオン電池等の二次電池をき電線に直結して使用しようとすれば、ニッケル水素電池と比較して結果的に多数の電池が必要になり、広大な設置面積が必要となり、更に設備費が高価となる。
【0044】
3. まとめ
本実施形態によれば、モータ4を駆動しているときは、主としてエンジン発電機1から電力を供給し、モータ4を停止しているときは電池5から電力を供給することで、エンジン発電機1と電池5の負荷分担を調整している。具体的には、モータ4を駆動している間は、エンジン11を定格回転させて、主としてエンジン発電機1からの電力でモータ4を駆動し、モータ駆動を行わず、大きな電力が不要な期間は、エンジン11をアイドルにして、電池5のみから補機10に電力を供給するようにしている。これにより、モータ駆動を行わない期間の燃料消費を低減でき、燃費が良くなる。エンジン11のアイドル時間が長ければ長いほど、燃料消費量の低減の効果が得られる。
【0045】
また、巻き上げ用モータを駆動しているときは、主としてエンジン発電機から電力を供給し、巻き上げ用モータを停止しているときは、電池から電力を供給している。よって、横移動用モータなどの駆動のための電力は、主として、電池から供給することになる。これにより、エンジンは低負荷ないしは部分負荷で運転することを避けることができるので、燃費が良くなると共に、パティキュレート(煤など)の発生に伴う環境負荷を抑えることができる。
【0046】
ニッケル水素電池は、内部抵抗が小さく、かつSOC(state of charge)の変動による電圧変動が小さく電池容量を有効利用できるため、他の二次電池に比べて小容量の電池を用いることができ、大きな設置場所を必要としない。また、電池5として、SOCによる電池起電力の変化が小さいニッケル水素電池を使用することにより、電池5をインバータの直流母線に直接接続することが可能となるため、電池5と直流母線との間に従来技術で必要であった、電池5の充放電を制御する充放電制御装置が不要となる。本実施形態によれば、充放電制御装置を用いないため、充放電制御装置の設置スペースが不要となる。また、高価な充放電制御装置を用いないため、装置全体として安価になる。
【0047】
電池5を直流母線に直接接続すると、電池5への充放電が、電池5の起電力とインバータ3の直流母線の電圧との差によって決まるため、電池5が過充電又は過放電になる場合がある。しかし、本実施形態によれば、運転指令が入力されたとき、電池モニタ6により算出される電池5のSOCに基づいて所定時間αを設定し、設定した時間αが経過するまでの間、エンジン発電機1のエンジン回転数をアイドルのままにしている。よって、巻き上げが電池5からの電力のみで行われ、電池5が消費される。これにより、電池5の過充電を防ぐことができる。また、運転指令の入力が終了したときは、電池モニタ6により算出される電池5のSOCに基づいて、所定時間βを設定し、所定時間βが経過するまでは、エンジン発電機1のエンジン回転数を定格回転のままにしている。これにより、エンジン発電機1から出力される電力で、電池5が充電される。よって、電池5の過放電を防ぐことができる。
【0048】
また、所定時間α、βの長さを電池モニタ6により算出される電池5のSOCに基づいて設定することにより、電池5を所望のSOCに近づけることができる。よって、より確実に電池5の過充電及び過放電を防止することができる。これにより、電池5の寿命の延命化に寄与できる。
【0049】
エンジン発電機1と電池5による巻き上げ時の負荷分担はそれぞれの電圧によって決まる。電池5の電圧が発電機12の電圧よりも低くなるように設定しておけば、巻き上げ時の電池5の負荷分担は小さくなり、巻き上げ時における電池5の放電量が減る。よって、回生によって電池5に蓄積された電力をエンジンアイドル時の補機10への給電に十分に使用することができる。例えば、インバータ3に電池5を直結する前に、予め電池5の電圧を下げておくことにより、巻き上げ時の電池5の負荷分担を小さくすることができる。
【0050】
4. 変形例
なお、本実施形態においては、モータ4が巻き上げ用モータである場合について説明したが、モータ4は、トラバーサ105を横行させるための横行用モータ、又はタイヤ107を走行させるための走行用モータであってもよい。この場合であっても、本実施形態を適用できる。すなわち、走行が行われていない間及び横行が行われていない間、エンジン11をアイドルにすることにより、燃費を良くすることができる。さらに、走行開始時及び走行終了時、又は横行開始時及び横行終了時において、電池5のSOCに基づいて、所定時間α、βを設定し、エンジン回転数の切り替えタイミングを制御することにより、電池5の過充電及び過放電を防止できる。
【0051】
なお、電池5は、ニッケル水素電池以外の蓄電設備であってもよい。例えば、電池5は、鉛蓄電池、リチュームイオン電池、電気二重層キャパシタであってもよい。この場合、電池もしくはキャパシタなどの蓄電設備の間には、充放電制御装置を配して、電池等の電圧を適宜、昇降圧して、直流母線に接続してもよい。この場合であっても、本願発明の所定の効果を得ることができる。
【0052】
なお、本実施形態においては、所定時間α、βを0〜12秒の範囲で設定したが、この値は変更可能である。例えば、所定時間αは、電池5のSOCが十分に大きいとき(例えば、90%以上のとき)は、電池5のみで巻き上げを完了することができる時間に設定してもよい。
【0053】
また、荷役機械100は、RTGの他、ガントリークレーン、ジブクレーン等であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の制御装置及び制御方法によれば燃費を良くすることができるという効果を有し、RTGなどの荷役機械に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の制御装置を含む荷役機械の外観図
【図2】図1の荷役機械の構成を示すブロック図
【図3】巻き上げ開始時のフローチャート
【図4】所定時間αの特性図
【図5】巻き上げ終了時のフローチャート
【図6】所定時間βの特性図
【図7】所定時間α、βが設けられない場合の例を示すタイミングチャート
【図8】所定時間αが設けられる場合の例を示すタイミングチャート
【図9】所定時間βが設けられる場合の例を示すタイミングチャート
【図10】従来の実験結果を示すグラフ
【図11】本発明の実験結果を示すグラフ
【図12】各種電池のSOCに対する電圧変化を示すSOC特性図
【符号の説明】
【0056】
1 エンジン発電機
2 エンジン発電機制御装置
3 インバータ
4 モータ
5 電池
6 電池モニタ
7 パワーフロー制御装置
8 運転指令部
9 DC/ACコンバータ
10 補機
11 エンジン
12 発電機
31 コンバータ部
32 インバータ部
100 荷役機械
101 コンテナ
103 スプレッダ
105 トラバーサ
107 タイヤ
109 ワイヤーロープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷役機械の制御装置であって、
前記荷役機械は、
荷役作業用のモータと、
電池と、
エンジンからの動力により発電する発電機と、
直流母線に前記電池が接続され、前記発電機及び/又は前記電池から供給される電力から前記モータを駆動するための電力変換を行うインバータと、
を備えており、
前記制御装置は、
前記モータの駆動開始時から0以上の第1の所定時間経過後に、前記エンジンの回転数をアイドル状態の回転数から定格回転数に切り替え、
前記モータの駆動終了時から0以上の第2の所定時間経過後に、前記エンジンの回転数を定格回転数からアイドル状態の回転数に切り替える、
ことを特徴とする荷役機械の制御装置。
【請求項2】
前記電池は、積層型ニッケル水素電池である、請求項1に記載の荷役機械の制御装置。
【請求項3】
前記荷役機械は、前記電池のSOC(State of Charge)を算出する電池モニタをさらに備えており、
前記電池モニタにより算出される前記電池のSOCの値に応じて、前記第1の所定時間を設定する、請求項1に記載の荷役機械の制御装置。
【請求項4】
前記荷役機械は、前記電池のSOC(State of Charge)を算出する電池モニタをさらに備えており、
前記電池モニタにより算出される前記電池のSOCの値に応じて、前記第2の所定時間を設定する、請求項1に記載の荷役機械の制御装置。
【請求項5】
前記荷役作業用のモータは、前記荷役機械において貨物を上昇させるための巻き上げ用モータである、請求項1に記載の荷役機械の制御装置。
【請求項6】
前記荷役作業用のモータは、前記荷役機械を走行させるための走行用モータである、請求項1に記載の荷役機械の制御装置。
【請求項7】
前記荷役作業用のモータは、前記荷役機械において貨物を横行させるための横行用モータである、請求項1に記載の荷役機械の制御装置。
【請求項8】
前記荷役作業用のモータの回生電力により前記電池を充電する、請求項1に記載の荷役機械の制御装置。
【請求項9】
荷役機械の制御方法であって、
前記荷役機械は、
荷役作業用のモータと、
電池と、
エンジンからの動力により発電する発電機と、
直流母線に前記電池が接続され、前記発電機及び/又は前記電池から供給される電力から前記モータを駆動するための電力変換を行う生成するインバータと、
を備えており、
前記制御方法は、
前記モータの駆動開始時から第1の所定時間経過後に、前記エンジンの回転数をアイドル状態の回転数から定格回転数に切り替えるステップと、
前記モータの駆動終了時から第2の所定時間経過後に、前記エンジンの回転数を定格回転数からアイドル状態の回転数に切り替えるステップと、
を含むことを特徴とする荷役機械の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−133333(P2010−133333A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−310011(P2008−310011)
【出願日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】