説明

荷電粒子照射システム及び照射計画装置

【課題】荷電粒子照射システムにおいて、ビーム走査とエネルギースタッキングにより動く照射対象を照射し、一様な線量分布を形成したいニーズがある。
【解決手段】目標ビーム電流値を設定してイオンビームを出射する荷電粒子ビーム発生装置1と、走査電磁石23,24及びエネルギーフィルタ26を有し、イオンビームを出射する照射装置21と、照射対象の位置を測定し、照射対象の移動によって時間変化する信号を出力する監視装置66を備え、監視装置から出力される信号に基づいて、イオンビームの出射タイミングを決定し、イオンビームのエネルギーを順次変更して各エネルギーでリペイント照射することで、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子線照射システムに係り、特に荷電粒子ビームを腫瘍等の患部に照射して治療する荷電粒子照射システムに関する。
【背景技術】
【0002】
癌などの患者の患部に陽子及び炭素イオン等のいずれかの荷電粒子ビーム(イオンビーム)を照射する治療方法が知られている。この治療に用いる荷電粒子照射システムは荷電粒子ビーム発生装置,ビーム輸送系、及び照射室を備える。荷電粒子ビーム発生装置により発生したイオンビームはビーム輸送系により照射室へ輸送され、照射室内の照射装置へ達する。照射装置へ到達するイオンビームは細いビームである。照射装置は通過するイオンビームを走査する走査電磁石を有する。癌腫瘍などの照射標的に一様な線量分布を形成するため、照射装置に備えられた走査電磁石はビーム軸に垂直な方向(横方向)にイオンビームを走査して照射標的全体を照射することができる。このイオンビームを照射標的に照射した場合、イオンビームのエネルギーによって決まる特定の深さにピークを有する線量分布が形成される。この線量分布のピークをブラッグピークと呼ぶ。ブラッグピークの広がりは深さ方向に数mmと狭いため、エネルギーの異なるイオンビームを照射することで
標的を一様に照射する。
【0003】
本発明が対象とするスキャニング法と呼ばれる線量分布拡大方法は、走査電磁石によりイオンビームを走査して横方向へ線量分布を拡大し、エネルギーを変更して深さ方向に線量分布を拡大する方法である。この照射方法は照射装置内でのイオンビームのエネルギー損失が少ないため、効率良くイオンビームを利用できる利点がある。一方で、ビーム走査とエネルギー変更により、患部などの照射対象を順次塗りつぶすように照射するため、例えば、呼吸により患部が移動するような照射対象が照射中に移動する場合、一様な線量分布を形成し難い可能性がある。
【0004】
移動する照射標的に一様な線量分布を形成するため、特許文献1には照射対象の移動量を表す移動波形を予め求め、照射中に照射対象が予め決めた位相にあるときのみ線量を複数回に分割して照射するリペイント照射を実施する方法が記載されている。この方法は移動波形が予め求めたものから大きく変化した場合、照射を止め、次の周期の同じ位相から照射を再開することで所望の線量分布を形成する。
【0005】
また、特許文献2には、照射装置に設けられる走査電磁石が、イオンビームの進行方向に対して垂直な方向に、イオンビームを偏向し、螺旋周期単位で照射を繰返すように制御される荷電粒子照射システムが開示されている。この荷電粒子照射システムでは、リペイント照射の際に、走査電磁石が螺旋周期単位でイオンビームの照射位置を操作し、この螺旋周期の途中でイオンビームの照射が中断されることがないように制御することで、一様な線量分布を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−154627号公報
【特許文献2】特開2006−288875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はスキャニング照射法を用いた荷電粒子照射システムにおいて、移動する照射標的に一様な線量分布を形成する手段を提供する。
【0008】
特許文献1に記載の方法によると照射対象の移動波形が不安定な場合、照射中断により照射時間が長くなってしまう可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明はエネルギーフィルタとリペイント照射とゲート照射を行うことで、動く照射対象に対して所望の照射野を形成する。深さ方向の一様度はエネルギーフィルタによるブラッグピーク形状の緩和とリペイント照射により確保する。また、横方向の一様度を確保するため、ゲートが終了した後も短時間であればゲート外で照射しても影響は小さいことに着目し、一面の照射はその途中で中断すること無く照射する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、照射対象が移動した場合でも所望の線量分布を形成することができる。特にエネルギーフィルタを用いてブラッグピークの幅を大きくすることでブラッグピークの移動に対する線量の変化を小さくすることができる。さらに使用するエネルギー数を削減できるため、従来と同じ照射時間内にひとつのエネルギーで照射する時間を長くすることができ、多数回のリペイント照射を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の好適な一実施形態である荷電粒子照射システムの全体概略構成を表す図である。
【図2】図1に示した荷電粒子照射システムに備えられる照射装置の構成を示す横断図面である。
【図3】図1に示した荷電粒子照射システムに備えられる照射対象監視装置によるゲート信号作成の一例を示す図である。
【図4】図2に示した照射装置が備える走査電磁石が走査するイオンビームの経路の一例を示す図である。
【図5】図2に示した照射装置が備える走査電磁石が走査するイオンビームの経路の一例を示す図である。
【図6】図5に示した走査経路によるX軸方向の線量分布の一例を示す図である。
【図7】図2に示した照射装置が備えるエネルギーフィルタの概観を示す図である。
【図8】図2に示した照射装置が図2に示した照射対象にひとつのエネルギーでイオンビームを照射した場合に得られる深さ方向の線量分布を示す図である。
【図9】エネルギーフィルタを備えていない照射装置を用いて照射対象にイオンビームを照射した場合に得られる深さ方向の線量分布を示す図である。
【図10】エネルギーフィルタを備える照射装置を用いて照射対象にイオンビームを照射した場合に得られる深さ方向の線量分布を示す図である。
【図11】横方向の一様な線量分布が得られない例を示し、(a)は高線量域が生じた場合、(b)は低線量域が生じた場合を示す図である。
【図12】深さ方向の一様な線量分布が得られない例である。
【図13】図1に示した中央制御装置がイオンビームの出射ビーム電流値を算出する手順を示すフロー図である。
【図14】照射する手順を示したフロー図である。
【図15】イオンビームを照射するタイミングの例を示した図である。
【図16】本発明の他の実施例である荷電粒子照射システムに備えられる荷電粒子ビーム発生装置の構成を示した構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施例を、図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0013】
本発明の好適な一実施形態である荷電粒子照射システムについて、図1を用いて説明する。なお、本実施例の照射対象51は特に患者とし、照射標的52は患者内の患部を想定するが、本照射方法の照射対象は人でなくてもよい。
【0014】
本実施例の荷電粒子照射システムは、荷電粒子ビーム発生装置1,ビーム輸送系2,照射装置21,照射室17,制御システム60を備える。ビーム輸送系2が荷電粒子ビーム発生装置1と照射装置21を接続する。また、荷電粒子照射システムは、照射計画装置64に接続されている。
【0015】
荷電粒子ビーム発生装置1は、イオン源(図示せず),ライナック3(前段荷電粒子ビーム加速装置)及びシンクロトロン4を有する。シンクロトロン4は、高周波印加装置5,加速装置6を有する。高周波印加装置5は、シンクロトロン4の周回軌道に配置された高周波印加電極7と、この高周波印加電極7に接続される高周波印加電源8を備える。加速装置6は、イオンビームの周回軌道に配置された高周波加速空洞(図示せず)及び高周波加速空洞に高周波電力を印加する高周波電源(図示せず)を備える。出射用デフレクタ11がシンクロトロン4とビーム輸送系2を接続する。
【0016】
ビーム輸送系2は、ビーム経路12,四極電磁石14,四極電磁石18,偏向電磁石15,偏向電磁石19,偏向電磁石20を有する。ビーム経路12が、照射室17内に設置された照射装置21に接続される。
【0017】
照射室17は、照射対象51へイオンビームを照射する方向を変更できる回転ガントリ(図示せず)を備える。照射装置21は回転ガントリと共に回転する。また、照射室17内には、照射装置21,照射対象を支持するカウチ(支持装置)41,照射対象監視装置66が備えられている。照射対象はカウチ41と呼ばれる3次元に自由に移動することができるベッド上に設置される。また、照射室17内には照射対象の動きを計測する照射対象監視装置66を備える。
【0018】
照射装置21について図2を用いて説明する。照射装置21は、ビーム進行方向の上流側からモニタ22,Y軸走査電磁石23,X軸走査電磁石24,散乱体25,エネルギーフィルタ26,エネルギー吸収体27,モニタ28,コリメータ30,ボーラス31を有する。Y軸走査電磁石23及びX軸走査電磁石24が、通過するイオンビームを横方向(X軸方向及びY軸方向)へ走査する。ここで、横方向とはビーム軸に垂直な方向である。
エネルギーフィルタ26は楔形をしており、ブラッグピークと呼ばれる深さ方向のイオンビームの線量分布を緩やかにする。散乱体25は通過するイオンビームのビーム径を拡大する。モニタ22及び28はイオンビームの線量分布の平坦度,照射線量,ビーム位置,ビーム強度(ビーム電流値)を計測する。エネルギー吸収体27はビームエネルギーの微調整に使用する。コリメータ30はイオンビームの横方向の線量分布形状を照射標的の形に一致させ、ボーラス31は標的の形状に合わせて横方向の位置毎にイオンビームの飛程を調整する。
【0019】
制御システム60は、図1に示すように、中央制御装置61,加速器制御装置62,照射制御装置63を備える。中央制御装置61は、加速器制御装置62及び照射制御装置63に接続される。また、照射計画装置64が、中央制御装置61及び照射対象監視制御装置(監視制御装置)65に接続される。加速器制御装置62は、荷電粒子ビーム発生装置1に接続され、荷電粒子ビーム発生装置1に備えられる機器を制御する。照射制御装置63は、照射装置21に接続され、照射装置21に備えられる機器を制御する。照射制御装置63は、照射対象監視制御装置65に接続される。加速器制御装置62は照射制御装置63に接続されている。
【0020】
中央制御装置61は、照射に必要なパラメータを照射計画装置64から受け取り、これらのパラメータに基づいて、加速器制御装置62と照射制御装置63を制御することでイオンビームの照射を制御する。加速器制御装置62は、照射制御装置63からの信号を使用して、荷電粒子ビーム発生装置1と輸送系2を制御する。照射制御装置63は、照射装置21と照射対象監視制御装置65からの信号を受け取り、照射装置21の制御と加速器制御装置62へ出射開始信号などの信号を送信する。
【0021】
本実施例の荷電粒子照射システムは、照射対象に照射するイオンビームのビーム電流値を所望の値に制御することができる。その方法は以下の通りである。
【0022】
照射装置21内のビーム軌道上に設置されたモニタ22,28が、通過するイオンビームを検出し、照射制御装置63に検出信号を出力する。照射制御装置63は、この検出信号に基づいてイオンビームのビーム電流値を計測し、求めたビーム電流値を加速器制御装置62に出力する。加速器制御装置62は、予め設定されている所望のビーム電流値と、照射制御装置63から受け取ったビーム電流値(モニタ22,28からの検出信号に基づくビーム電流値)とを比較する。モニタ22,28からの検出信号に基づくビーム電流値が所望のビーム電流値よりも小さい場合、加速器制御装置62は、高周波印加電源8を制御し、高周波印加電極7へ印加する高周波強度を大きくする。モニタ22,28からの検出信号に基づくビーム電流値が所望のビーム電流値よりも大きい場合、加速器制御装置63は、高周波印加装置8を制御し、高周波印加電極7に印加する高周波強度を小さくする。このように、加速器制御装置62が高周波印加電源8を制御し、高周波印加電極7に印加する高周波の強度を調整することで、シンクロトロン4から出射されるイオンビームのビーム電流値を調整することができる。この制御を繰返すことで出射されるビーム電流値を所望の値にすることができる。
【0023】
照射対象監視装置66について、図3を用いて説明する。照射対象監視装置66は、照射室17内に設置され照射対象51を監視する。照射対象監視制御装置65は、照射対象監視装置66に接続され、この照射対象監視装置66を制御する。照射対象51は準周期的な動きをする。照射対象監視装置66は、照射対象51の表面の動きをレーザー距離計により監視し、図3にあるような照射対象移動信号を作成する。照射対象監視装置66は、この照射対象移動信号の振幅が照射計画装置64により指定された範囲(図3に示すゲート範囲)にあるときゲート信号を出力する。ゲート範囲は照射計画装置64より指定される。図3のゲート信号の立ち上がりがゲート開始信号,立ち下りがゲート終了信号である。ここで、準周期的とは臓器が呼吸により動くような、完全な再現性のない不完全な周期的な動きと定義する。
【0024】
なお、本実施例では、照射対象監視装置66としてレーザー距離計を用いる例を示したが、X線透視画像を用いることにより照射対象移動信号を作成してもよい。また、赤外線により照射対象の移動量を測定、照射対象表面に加速度センサを設置して加速度を測定、或いは超音波により照射対象内部の動きを測定することにより照射対象移動信号を作成してもよい。また、照射対象が患者の場合、呼吸による空気の流量を計測することで照射対象移動信号を作成してもよい。
【0025】
本実施例の照射装置21により形成する線量分布について、図4から図10を用いて説明する。線量分布はビーム走査による横方向の線量分布形成と、エネルギー変更による深さ方向の線量分布形成を組み合わせることで実現する。
【0026】
まず、照射装置21内のY軸走査電磁石23及びX軸走査電磁石24を用いて、イオンビームを横方向に走査する方法ついて説明する。図4と図5はイオンビームを走査する経路の例を示している。図4はジグザグ型の走査経路で走査開始終了点を一箇所持ち、図5はレクタンギュラー型の走査経路で走査開始終了点を二つ持つ。本実施例では、ジグザグ型のビーム走査(図4)であっても、レクタンギュラー型のビーム走査(図5)であっても同様の効果を得ることができる。本実施例の照射装置21は、散乱体25により径を拡大したイオンビームをY軸走査電磁石23及びX軸走査電磁石24で図4又は図5に示す経路を走査し横方向に分布を形成する。X軸及びY軸はビーム軸に垂直な方向であり、X軸とY軸は互いに直交する方向を示す。
【0027】
図6は、図5のX方向の線量分布を示したものである。図6に示すように横方向に一様な線量分布となる。なお、本実施例の照射方法では、ひとつのエネルギーで図4又は図5の経路を複数回走査して照射野を形成する。図4または図5の走査開始・終了点から次の走査開始・終了点に到達するまでの走査、すなわち横方向に一様な照射野を形成する最小単位の走査を一面照射(単位照射)と呼び、この一面照射を繰返すことをリペイント照射と呼ぶ。
【0028】
図4に示す経路はX軸方向,Y軸方向それぞれが常に等速で走査する経路となっており、制御が容易となる利点がある。図5に示す経路は図4に示す経路より短い経路で一面照射することができる。なお、本実施例はY軸のほうが速い走査が要求されるため、ビーム上流側の走査電磁石を用いてY方向に走査している。
【0029】
次に、ビーム進行方向(体表面からの深さ方向)へのイオンビームの照射について説明する。深さ方向はエネルギーフィルタ26によりブラッグピークを拡大し、エネルギーを変更してブラッグピークを重ね合わせることで一様な線量分布を形成する。ひとつのエネルギーにより形成する線量分布を層と呼ぶ。エネルギーフィルタ26は図7に示すような楔型をしており、ビーム軸に垂直な方向の位置により厚みが異なる。イオンビームはその厚みにより異なるエネルギーを損失する。図8(a)がエネルギーフィルタ26を使用しない場合の深さ方向の線量分布であり、図8(b)がエネルギーフィルタ26を使用した線量分布である。エネルギーフィルタ26によりイオンビームのエネルギー分布が拡大されるため、ブラッグピークの鋭さが緩和された線量分布を形成する。エネルギーフィルタ26を設置せずに照射装置からビームを出射した場合(図8(a))のエネルギー分布を重ねて一様な線量分布を作成したものを図9に示す。また、エネルギーフィルタ26を照射装置21内に設置してビームを出射した場合(図8(b))のエネルギー分布を重ねて一様な線量分布を形成したものを図10に示す。図9はブラッグピークの間隔が5mm以下であるのに対し、図10はブラッグピークの間隔が例えば1cm又は2cmであり図9に比べ大きい。このように、本実施例は、照射標的を深さ方向(体内でのイオンビームの進行方向)において複数の層に分割し、イオンビームのエネルギーを深さ(各層)に応じたエネルギーに変えて、深さ方向に厚みを持つ照射標的の全部に所望のイオンビームを照射するが、照射装置21内に設置されたエネルギーフィルタ26を通過したイオンビームを照射するため、照射標的の各層の厚みを大きくすることができる。これにより、照射標的を深さ方向に分割する分割数を少なくでき、短い治療時間で所望の線量分布を形成できる。また、エネルギーフィルタ26を通過したイオンビームを照射標的に照射するため、各エネルギーでのブラッグピークの形状が緩やかとなり、深さ方向の単位長さあたりの線量変化が小さいため、線量一様度は照射対象の深さ方向への移動や変形に対し鈍感となり、照射標的の全域にわたって線量一様度が向上する。
【0030】
ここで準周期的に動く照射標的をスキャニング照射により照射するとき、一様な線量分布が得られない要因を説明する。
【0031】
移動を伴う照射対象51を照射する場合、従来からゲート照射と呼ばれる方法が採用されている。この方法は照射対象51が準周期的な動きをするとき、照射対象51の動きを監視して、その動きがある決まった位相(ゲート)内にあるときのみ照射する方法である。この方法により、イオンビームを照射するときの照射対象51の位置は限定されるため、ゲート照射しない場合に比べて位置精度良く照射することができる。しかし、このゲート照射をした場合でも、照射対象51の周期的な動きに不確定な部分があるため照射対象51の位置を数mm以下の精度で限定することは困難である。この数mmの動きが線量分布の
変化に関係する。
【0032】
まず、ビーム進行方向に垂直な方向である横方向の一様度について説明する。イオンビームを走査して照射している途中でゲートが終了し、照射を中断したとする。次のゲート開始と同時に照射を再開すると照射対象51の位置が照射を中断したときからずれている可能性があるため、照射位置が重なった場合、図11(a)に示すように高線量域が発生してしまう。一方、照射位置が離れてしまった場合、図11(b)に示すように低線量域が発生してしまう。
【0033】
次に、ビーム進行方向に平行な方向である深さ方向(体表面からの深さ方向)について説明する。あるエネルギーで照射されたイオンビームはブラッグピークを持つ線量分布を形成する。そのエネルギーでの照射が完了すると、シンクロトロン4で次のエネルギーにイオンビームを加速し照射を再開するが、イオンビームのエネルギーを変更している時間に照射対象の位置は移動してしまい、異なるブラッグピーク間の深さ方向の距離が変化してしまう。図12は点線で示したブラッグピークが浅い側へ移動してしまった場合の線量分布を示している。このようにブラッグピークが移動すると、深さ方向に対しても高線量域と低線量域が発生してしまう可能性がある。
【0034】
以上説明した要因により線量分布が変化し一様な線量分布が得られない可能性がある。
本実施例の荷電粒子照射システム(照射方法)によれば、一面照射の途中で照射を中断しないことにより横方向に一様な線量分布を形成し、エネルギーフィルタ26によるブラッグピークの緩和とリペイント照射によるブラッグピーク位置の揺らぎの減少により深さ方向に一様な線量分布を形成することができる。
【0035】
照射計画装置64には、予めX線CT装置(X線Computed Tomography装置)により撮影された照射対象51の撮影データが記憶されている。照射計画装置64は、この撮影データに基づいて、照射標的52を含む照射対象51の画像を表示装置(図示せず)に表示する。オペレータが、この画像データに基づいて、照射標的52に必要な照射線量及び照射標的52の照射野形状を判断する。オペレータは、入力装置(図示せず)からこの照射線量及び照射野形状を入力する。照射計画装置64が、照射線量及び照射野形状の情報を受信すると、オペレータが指定した照射線量と照射野形状を形成するように第1パラメータを決定する。第1パラメータには、照射角度(回転ガントリの角度),イオンビームのエネルギー,イオンビームの電荷量,照射野の大きさ,コリメータ形状,ボーラス形状の情報が含まれ、これらの情報は記憶装置に記憶される。ここで、本実施例の照射方法では、照射標的52を深さ方向に複数の層Li(i=1,2‥N)に分割してイオンビームを照射する。照射計画装置64は、それぞれの層の深さに応じて照射に適したイオンビームのエネルギーを求める。複数のエネルギーにより照射するため、照射計画装置64は照射標的52の照射対象51内での深さに応じて照射に用いる全てのエネルギーを指定する。
照射標的52に所望の線量が照射されるように、エネルギー毎にイオンビームの電荷量を決定する。照射計画装置64は、決定したイオンビームのエネルギー情報及び各エネルギーでの電荷量の情報を記憶装置に記憶する。
【0036】
また、オペレータは、入力装置を用いて各エネルギーのリペイント照射回数を指定する。入力されたリペイント照射回数の情報は、照射計画装置64に送信され、記憶装置に記憶される。ここで、リペイント照射回数とは、照射標的52のある層に対して、イオンビームの走査開始点から走査終了点までのイオンビームの走査を1単位として、何度の照射(リペイント)をするかを示す。
【0037】
照射対象監視装置66(本実施例では、レーザー距離計)は、カウチ41に横たわる照射対象51の体表面の動きを測定し、照射対象51の位置情報である照射対象移動信号を作成する。この照射対象移動信号は、照射対象監視制御装置65を介して照射計画装置64に送信される。照射計画装置64は、図3に示したような照射対象移動信号を表示装置に表示する。オペレータは、表示された照射対象移動信号に基づいて、照射対象監視装置66がゲート信号を出力する照射対象移動信号の振幅の範囲(ゲート範囲)を判断し、入力装置からゲート範囲を指定する。指定したゲート範囲は照射対象監視装置65へ送信する。また、照射計画装置64は、受信した照射対象移動信号に基づいて、照射対象移動信号の平均値を求める。ここで求めた照射対象移動信号の平均値と入力装置から指定されたゲート範囲に基づいて、照射計画装置64は、照射対象移動信号がゲート範囲内にあるゲート時間の平均値(平均ゲート時間)を求める。求めた平均ゲート時間は、他の照射に必要なパラメータと共に中央制御装置61へ送信され、記憶装置に記憶される。なお、本実施例では、照射室内に設置した照射対象監視装置66を用いて照射対象移動信号を予め取得しているが、照射室外にある別の照射対象監視装置を用いて取得してもよい。
【0038】
照射に必要な情報は照射計画装置64が作成するパラメータ以外に、ビーム電流値が必要である。以下、図13を用いて中央制御装置61がビーム電流値を算出する手順を説明する。なお、中央制御装置61は、予め照射計画装置64からビーム電流値算出に必要な第2パラメータを受け取る。ここで、第2パラメータとは、イオンビームのエネルギー,イオンビームの電荷量,照射野の大きさ,平均ゲート時間,リペイント照射回数などの情報である。中央制御装置61は、これらの第2パラメータを記憶装置に記憶する。
【0039】
中央制御装置61は、照射対象51に照射するイオンビームのうち、高エネルギーから順にエネルギー毎にビーム電流値を決定する。つまり、照射標的52をビーム進行方向に複数の層Li(i=1,2‥N)に分割した場合の、体表面から深い位置にある層(最深部の層L1)から順に浅い層へ、各層でのビーム電流値を求めている。以下、図13に示すチャート図を用いて、各層でのビーム電流値を求める手法について説明する。
【0040】
図13のステップ101から始め、ステップ102において、中央制御装置61は、イオンビームの電荷量の観点からスピル数を求める。つまり、まず、中央制御装置61が、予め記憶装置に記憶されているひとつの周期(一スピル)でシンクロトロン4から出射可能な電荷量(第1電荷量)と、照射標的52の層Liへの照射に必要な電荷量(第2電荷量)の情報を読み取る。中央制御装置61は、第2電荷量を第1電荷量で割り、小数点以下を切り上げて求めた値を、イオンビームの電荷量の観点からみたスピル数とする。例えば、シンクロトロン4が一スピル当たり(一運転周期当たり)に出射可能なイオンビームの電荷量が10〔nC〕であり、照射標的52の層Liに対して必要となるイオンビームの電荷量が35〔nC〕とする。このような場合、第2電荷量である35〔nC〕を、第1電荷量10〔nC〕で割った値3.5のうち、小数点以下を切り上げた値4が、イオンビームの電荷量の観点からみたスピル数となる。つまり、層Liに対してイオンビームを照射する場合、必要となるスピル数が4となる。
【0041】
次に、ステップ103にて、中央制御装置61は、リペイント照射回数の観点からみたスピル数を求める。具体的には、中央制御装置61は、まず、記憶装置から平均ゲート時間と一面照射時間の情報を読み取る。ここで、平均ゲート時間は、第2パラメータに含まれる情報であり、予め記憶装置に記憶されている。また、一面照射時間とは、照射標的52のある一つの層Liの照射に要する照射時間(一面照射に要する時間)を示し、Y軸走査電磁石22及びX軸走査電磁石24によるイオンビームの走査速度と照射野の大きさによって異なる値となる。中央制御装置61は、イオンビームの走査速度及び照射標的52の照射野の大きさに基づいて、各層に対する一面照射時間を求め、この一面照射時間を予め記憶装置に記憶させている。中央制御装置61は、ここで読み取った平均ゲート時間を、一面照射時間で割り、小数点以下を切り捨てることで一スピルあたりのリペイント照射回数(第1リペイント照射回数)を求める。ここで求めた第1リペイント照射回数は、シンクロトロン4の一運転周期で、照射標的52の層Liに対して何度のリペイント照射が可能かを示す数値である。次に、中央制御装置61は、照射標的52の層Liに対して必要となるリペイント照射回数(第2リペイント照射回数)の情報を記憶装置から読み出す。この第2リペイント照射回数は、照射計画装置64から受信した値であり、予め記憶装置に記憶されているオペレータにより指定されたリペイント照射回数(一様な線量分布を形成するのに必要と判断されたリペイント照射回数)である。中央制御装置61は、必要なリペイント照射回数(第2リペイント照射回数)を、1スピルあたりのリペイント照射回数(第1リペイント照射回数)で割って求めた値を、リペイント照射回数の観点からみたスピル数とする。例えば、ある患者の照射対象移動信号に基づく平均ゲート時間が0.5〔秒〕であり、層Liへの一面照射時間が0.1〔秒〕とする。このような場合、中央制御装置61は、一回のスピル当たりに照射可能なリペイント照射回数(第1リペイント照射回数)を5回とする。次に、層Liに対して必要となるリペイント照射回数が50回の場合、中央制御装置61は、第2リペイント照射回数である50回を、第1リペイント照射回数である5回で割った値10を、リペイント照射回数の観点から見たスピル数とする。
【0042】
ステップ104にて、中央制御装置61は、ステップ102で求めたスピル数と、ステップ103で求めたスピル数を比較し、大きいほうを照射に必要なスピル数とする。例えば、前述の通り、ステップ102で求めたイオンビームの電荷量の観点からみたスピル数が4であり、ステップ103で求めたリペイント照射回数の観点からみたスピル数が10の場合、照射に必要なスピル数を10とする。
【0043】
次にステップ105にて、ビーム電流値とスピルあたりの最大リペイント照射回数を求める。具体的には、中央制御装置61は、ステップ104で求めた照射に必要なスピル数と、ステップ103で求めた1スピルあたりのリペイント照射回数と、一面照射時間との積を求め、求めた値を層Liに対してイオンビームを出射すべき時間(出射時間)とする。
次に、層Liを照射するのに必要となるトータルの電荷量(第2電荷量)を、ステップ104で求めた照射に必要なスピル数で割った値を、層Liに対して一スピルあたりに必要な電荷量とする。この一スピル当たりに必要な電荷量を出射時間で割りビーム電流値とする。このビーム電流値が、層Liに対してイオンビームを照射する際のビーム電流値となる。また、1スピルあたりの最大リペイント照射回数は、ステップ103で求めた1スピルあたりのリペイント照射回数とする。中央制御装置61は、ここで求めたビーム電流値とスピルあたりの最大リペイント照射回数を記憶装置に記憶する。本実施例のように最大リペイント照射回数を設定することで、照射中に電荷が不足して必要なビーム電流が得られないようなことが起きることを防ぐことができる。ある層Liに対するビーム電流値及び最大リペイント照射回数を記憶装置に記憶すると、ステップ106にて、中央制御装置61は、次のエネルギーに対応する層(Li+1)があるかを判断する。次の層があると判断した場合、中央制御装置61は、ステップ102にもとり、ステップ102からステップ105を実施して、層Li+1に対するビーム電流値及び最大リペイント照射回数を求める。以上の計算を全てのエネルギー(全ての層Li(i=1,2‥N))について実施し、ステップ106にて、次のエネルギーに相当する層がないと判断した場合、中央制御装置61は、ビーム電流値及び最大リペイント照射回数の計算を終了する。
【0044】
なお、以上の計算によりリペイント照射しない層がある場合もある。浅い層で照射量が少なく平均ゲート時間が短い場合、上記の計算の結果、リペイント照射回数が一回になる場合もある。
【0045】
ステップ106で残りエネルギーがある場合はステップ102に戻り計算を繰返す。なお、ステップ104にてステップ103で算出したスピル数を採用した場合、電荷に余裕があるため1スピルあたりの最大リペイント照射回数をより大きい値に設定することも可能である。
【0046】
本実施例は、以上のように、各エネルギー(各層Li)でのビーム電流値を算出することにより、照射計画装置64により指定されるリペイント照射回数を満たし、出射可能電荷量を考慮した最大ビーム電流によりイオンビームを照射することができる。最大ビーム電流でイオンビームを照射することにより照射時間を短縮することができ、照射対象の拘束時間を短くして負担を減らすことができる。さらに、一人の患者に対する治療時間を短縮することによって、より多くの患者を治療できるようになり、患者のスループットを向上させることができる。
【0047】
ビーム電流値を算出した後、中央制御装置61は加速器制御装置62と照射制御装置63へ必要な情報を送信する。イオンビームのエネルギーとビーム電流値を加速器制御装置62へ送信し、イオンビームの電荷量とエネルギー、照射野の大きさを照射制御装置63へ送信する。照射制御装置63は照射装置21内のモニタ22,28から取得したデータをもとにイオンビームの位置,幅,電荷量,ビーム電流値を算出し、加速器制御装置62へ出射開始信号,出射停止信号,ビーム電流値を送信する。また、走査電磁石23,24を励磁する励磁電源(図示せず)を制御して励磁電流を制御することにより、イオンビームの到達する横方向の位置を変更する。また、照射対象監視装置66からのゲート信号を受信する。なお、ゲート信号の開始をゲート開始信号、ゲートの終了をゲート終了信号とする。
【0048】
以上により照射計画装置64と中央制御装置61により照射に必要なパラメータが全て決定され、必要なパラメータが加速器制御装置62と照射制御装置63に設定される。照射対象51を載せたカウチ1が所定の位置に位置決めされると照射準備完了となる。
【0049】
図14を用いてイオンビームを照射する手順について説明する。全ての照射準備が整った後、オペレータにより中央制御装置61の照射開始ボタンが押され、ステップ111で一連の照射を開始する。まず、中央制御装置61は加速器制御装置62へ加速信号を送信し、照射制御装置63へ照射開始信号を送信する。加速器制御装置62は以下の制御をしてイオンビームを照射に用いるエネルギーまで加速する。まずイオン源からライナックに入射されたイオンビームは前段加速され、シンクロトロンに入射される。入射されたイオンビームはシンクロトロン内を周回し、加速装置により加速され照射計画装置により指定されたエネルギーまで加速される。イオンビームの加速が完了すると照射制御装置63へ出射準備完了信号を送信する。照射制御装置63は中央制御装置61から照射開始信号を受信すると走査電磁石を制御して走査開始位置へイオンビームが走査されるように準備する。出射準備完了信号を受信した後、ステップ112にてゲート開始信号を受信するとステップ113で一面照射を行う。具体的には照射制御装置63が加速器制御装置62へ出射開始信号を出力し、ビーム走査を開始する。加速器制御装置62は照射制御装置63から出射開始信号を受信すると、加速されたイオンビームに高周波印加装置により高周波を印加する。イオンビームはデフレクタを通じて出射される。ビーム出射中、照射制御装置63は線量モニタ信号から算出したビーム電流値を加速器制御装置62へ送信し続け、加速器制御装置62は照射制御装置63から受信するビーム電流値を参照し高周波印加装置を制御して中央制御装置61から指定されたビーム電流値でイオンビームを出射する。一面照射毎にステップ114からステップ116の確認をして全てに該当しない場合、ステップ113に戻り次の一面照射を継続して行う。ステップ114は照射中のエネルギーによるリペイント照射回数が照射計画装置により指定された回数に到達していることの確認、ステップ115は、同一周期中のリペイント照射回数がスピルあたりの最大リペイント照射回数に到達することの確認、ステップ116は一面照射中にゲート終了信号を受信していることの確認である。ステップ115又はステップ116に該当した場合、シンクロトロンはイオンビームの減速と加速をして新たに電荷を蓄積しステップ112に移行し、次のゲート開始信号により照射を再開する。また、ステップ114に該当した場合、ステップ117にて次のエネルギーを確認し、ある場合はステップ112へ戻り次のエネルギーによる照射を開始し、ない場合は照射終了となる。
【0050】
図14のフローに従って照射した場合の例を図15に示す。照射対象移動信号及びゲート信号は図3と同様である。スピルあたりの最大リペイント照射回数6回、エネルギーあたりのリペイント照射回数を15回とし、ひとつのエネルギーによる照射を示す。ビーム照射軸上にあるひとつの四角は一面照射を表す。まずひとつ目のスピルにおいて、ゲート開始と共に一面照射を開始する。5回目の一面照射中にゲート終了となっているため、5回目の一面照射完了によりひとつ目のスピルによる照射を完了する。ふたつ目のスピルは6回のリペイント照射を終了した時点でゲートは終了していないが、スピルあたりの最大リペイント照射回数が6回であることからリペイント照射回数6回にて二つ目のスピルを終了する。3つ目のスピルでは4回のリペイント照射により、エネルギーあたりのリペイント照射回数15に到達するため、4回のリペイント照射により三つ目のスピルによる照射を終了する。
【0051】
本実施例の照射方法による効果について、以下説明する。
【0052】
まず、横方向に一様な線量分布を形成するため、横方向の一面照射時間を短縮しゲートが終了した後も一面の照射を完了するまでは照射を継続している。この処理により、横方向への線量分布の繋ぎ目により線量分布が変化することがなくなる。また、ゲートが終了した後照射することはゲート照射による照射対象位置を限定した効果を打ち消してしまうが、一面照射時間を短縮することにより、ゲート終了後の照射時間を短くすることでゲート照射の効果を得ることができる。また、ゲート範囲を小さく設定することでゲート終了後に照射した場合でもゲート照射の効果を得ることができる。
【0053】
次に、深さ方向に一様な線量分布を形成するため、エネルギーフィルタ26を使用してリペイント照射している。リペイント照射することにより、ひとつのエネルギーで形成するブラッグピークは一面照射により形成されるブラッグピークを重ね合わせたブラッグピークとなる。より多くリペイント照射することで重ね合わせたブラッグピークの位置は安定し、異なるブラッグピーク間の距離を一定に近づけることができる。また、エネルギーフィルタ26によりブラッグピークの幅を大きくすることで深さ方向の単位長さあたりの線量変化量を小さくすることができる。すなわち線量分布の深さ方向の傾きが緩やかになる。傾きが緩やかな線量分布はブラッグピーク位置の深さ方向の移動に対して線量の変化が小さいため、一様な線量分布を形成することができる。
【0054】
本実施例はさらに散乱体25を使用し連続走査している。散乱体25を使用することにより走査経路が短くなり一面照射時間が短くなる。一面照射時間が短くなることで、ゲート終了後の照射時間を短くすることができる。さらに、一面照射時間が短いことで一面照射時間内の照射対象の動きは小さくなり一様度へ与える影響を小さくすることができる。
また、散乱体25を使用することにより、横方向の単位距離あたりの線量変化は小さくなり照射対象の動きやイオンビームの位置が揺らぐ場合にも一様な分布を得易くなる。また、一面照射時間が短くなることで一定の時間内に可能なリペイント照射回数を増やすことができる。
【0055】
本実施例はエネルギーフィルタ26を使用している。エネルギーフィルタ26でブラッグピークを緩和することにより深さ方向のずれに鈍感な線量分布を形成できる他、線量分布形成に必要なエネルギーの数を減らすことができる。さらにエネルギーの数が減ったことにより、ひとつのエネルギーによる照射時間を長くすることができ、照射時間が長くなることによりリペイント照射回数を増加させることができる。
【0056】
本実施例に示す方法による特許文献1に記載の方法の課題の解決策を説明する。本実施例ではリペイント照射回数を大幅に増加させることにより一様度を確保するため、特許文献1で課題となる照射対象の移動波形が不安定な場合でも一様な照射野を短時間に形成することができる。
【0057】
本実施例に示す照射方法によれば、リペイント照射回数を増加させることで線量一様度を得るため、照射対象の移動波形が不安定な場合でもその動きがゲート範囲内であれば照射を続けるため照射時間が長くなってしまうことがない。さらに周期あたりの出射可能電荷を考慮してビーム電流値を決定し照射するため、周期あたりの出射可能電荷が限られる場合においても適用可能である。
【0058】
本実施例によれば、中央制御装置が、シンクロトロンの一スピル当たりの出射可能電荷量を考慮して各エネルギー(各層)でのビーム電流値を決め、スピル当たりの最大リペイント照射回数を決定するため、各層での一面照射の途中でイオンビームの照射を中断することがない。このため、イオンビームの照射の中断により線量分布の一様度が悪化することを防ぐことができる。
【0059】
なお、本実施例は荷電粒子ビーム発生装置にシンクロトロンを採用した場合について説明したが、サイクロトロンなどの加速器を用いてもよい。サイクロトロンなどのひとつの周期内で使用する電荷量の制限が無視できる場合、スピルあたりの最大リペイント照射回数は無限大として本実施例に従い照射することで短時間に一様な照射野を形成することができる。
【0060】
サイクロトロンを用いた荷電粒子ビーム照射装置システムは、実施例1の荷電粒子照射装置システムにおいて荷電粒子ビーム発生装置1を、図16に示す荷電粒子ビーム発生装置1Aに替えた構成を有する。この荷電粒子ビーム発生装置1Aはイオン源80とサイクロトロン4Aとビーム加速装置81とエネルギー吸収体82から構成される。イオン源80により発生したイオンビームはサイクロトロン4Aにより一定のエネルギーまで加速され、エネルギー吸収体82によりエネルギーを調整された後、ビーム輸送系2により照射装置21へ輸送される。このときビーム電流はイオン源80の出力を変更することにより所望の値にすることができる。
【0061】
なお、本実施例は荷電粒子ビーム発生装置から出射されるイオンビームのエネルギーを変更することで照射対象に到達するイオンビームのエネルギーを変更したが、照射装置内のエネルギー吸収体、或いはビーム輸送系にエネルギー吸収体を設置することで照射対象に到達するイオンビームのエネルギーを変更しても良い。
【0062】
なお、本実施例は中央制御装置61がビーム電流値を計算したが、中央制御装置61に予め登録されている情報を照射計画装置にも登録しておき、照射計画装置がビーム電流値を計算してもよい。
【0063】
なお、ここまでひとつの周期内のビーム電流値は一定であることを仮定し、ひとつのエネルギーで照射する層の線量は横方向に一定であることを仮定したが、一定ではない線量分布を持つ場合でも良い。一定ではない線量分布を形成するためにはビーム電流値を照射位置毎に変化させる方法や、走査経路と走査速度を変化させる方法がある。
【0064】
また、散乱体25を使用せず照射することでコリメータ及びボーラスを使用することなく照射野を形成することもできる。このとき、一様度を確保するためリペイント照射回数は増加させる必要があり、照射時間は散乱体25を使用した場合と比べ長くなる。
【符号の説明】
【0065】
1 荷電粒子ビーム発生装置
2 ビーム輸送系
3 ライナック
4 シンクロトロン
5 高周波印加装置
6 加速装置
7 高周波印加電極
8 高周波電源
11 出射用デフレクタ
12 ビーム経路
14,18 四極電磁石
15,19,20 偏向電磁石
17 照射室
21 照射装置
22,28 モニタ
27,35 X線発生装置
23 Y軸走査電磁石
24 X軸走査電磁石
25 散乱体
26 エネルギーフィルタ
27 エネルギー吸収体
30 コリメータ
31 ボーラス
41 カウチ
51 照射対象
52 照射標的
60 制御システム
61 中央制御装置
62 加速器制御装置
63 照射制御装置
64 照射計画装置
65 照射対象監視制御装置
66 照射対象監視装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標ビーム電流値を設定してイオンビームを出射する荷電粒子ビーム発生装置と、通過するイオンビームを走査する走査電磁石及び前記イオンビームによって形成されるブラックピークの深さ方向における幅を増大させるエネルギーフィルタを有し、前記イオンビームを照射対象に出射する照射装置と、
前記照射対象の位置を測定し、前記照射対象の移動によって時間変化する信号を出力する照射対象監視装置を備え、
前記照射対象監視装置から出力される前記信号に基づいて、イオンビームの出射タイミングを決定し、前記イオンビームのエネルギーを順次変更して少なくともひとつのエネルギーでリペイント照射することを特徴とする荷電粒子照射システム。
【請求項2】
前記照射対象監視装置は指定された範囲内に照射対象があるときゲート信号を出力し、前記出射タイミングの出射開始は照射対象監視装置が出力するゲート信号の開始により開始され、前記イオンビームの出射停止はゲート信号の終了後、単位照射終了により停止されることを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子照射システム。
【請求項3】
前記荷電粒子ビーム発生装置は、前記イオンビームを加速するシンクロトロンを備え、 前記シンクロトロンは、前記各エネルギーで照射に必要な電荷量,前記エネルギー毎に指定されたリペイント照射回数,前記照射対象監視装置から出力される前記信号が所定範囲にあるゲート時間の平均値,前記シンクロトロンの一運転周期あたりに出射可能な電荷量、及び一面照射時間に基づいて決定された前記目標ビーム電流値でイオンビームを出射することを特徴とする請求項1又は2に記載の荷電粒子照射システム。
【請求項4】
前記荷電粒子ビーム発生装置は、前記イオンビームを加速するサイクロトロンを備え、 前記サイクロトロンは、前記各エネルギーで照射に必要な電荷量,前記エネルギー毎に指定されたリペイント照射回数,前記照射対象監視装置から出力される前記信号が所定範囲にあるゲート時間の平均値、及び一面照射時間に基づいて決定された前記目標ビーム電流値でイオンビームを出射することを特徴とする請求項1又は2に記載の荷電粒子照射システム。
【請求項5】
前記照射装置は、通過するイオンビームの径を拡大する散乱体を備えることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の荷電粒子照射システム。
【請求項6】
前記走査電磁石は、前記イオンビームの進行方向に対して上流側に設置される第一走査電磁石と、前記第一走査電磁石の下流側に設置される第二走査電磁石を備え、
前記第一走査電磁石は、前記第二走査電磁石よりも短い時間で照射対象上の走査位置を変更することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の荷電粒子照射システム。
【請求項7】
前記イオンビームの前記エネルギー毎に指定されたリペイント照射回数以上の回数でリペイント照射することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の荷電粒子照射システム。
【請求項8】
前記走査電磁石はビーム出射中に走査を停止しないことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の荷電粒子照射システム。
【請求項9】
前記荷電粒子ビーム発生装置は、照射計画装置で決定した前記目標ビーム電流値に基づいて、エネルギー毎に前記イオンビームを出射することを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子照射システム。
【請求項10】
前記シンクロトロンは、照射計画装置で決定した前記目標ビーム電流値で、前記エネルギー毎に前記イオンビームを出射することを特徴とする請求項3に記載の荷電粒子照射システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−253250(P2010−253250A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−35546(P2010−35546)
【出願日】平成22年2月22日(2010.2.22)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】