説明

荷電粒子線描画装置及びデバイス製造方法

【課題】 荷電粒子線による描画動作に支障を与えることなく、ストッピングアパーチャに堆積される汚染物質を効率よく除去する。
【解決手段】 荷電粒子線描画装置は、荷電粒子線を偏向するブランキング偏向器18と、前記ブランキング偏向器で偏向された荷電粒子線を遮断するストッピングアパーチャ19と、前記ストッピングアパーチャに堆積された堆積物を分解する活性種を気体から生成するための触媒24と、前記触媒に前記気体を供給する供給機構25と、を備える。前記堆積物を除去する除去動作では、前記荷電粒子線描画装置は、前記供給機構によって前記気体を前記触媒に供給しながら、パターンを描画する描画動作では前記荷電粒子線が照射されない領域に前記荷電粒子線を照射することによって、少なくとも前記領域に位置する前記触媒によって前記気体から前記活性種が生成され、該生成された活性種により前記堆積物を分解して除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子線描画装置及びデバイス製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の荷電粒子線を用いたマルチ荷電粒子ビーム描画装置は、既に提案されている。荷電粒子は大気中に存在する気体成分によっても吸収され、著しく減衰するため、荷電粒子線描画装置内は荷電粒子が減衰しない程度の真空に保たれている。荷電粒子線描画装置内の真空雰囲気中には、主に炭素化合物や水を主成分とする気体がわずかではあるが残留している。これらの残留している気体は、描画装置の内部で使用される部品やケーブル、有機材料部品などから発生する。また、描画対象であるウエハ上に塗布された感光剤(以降レジストと称す)に荷電粒子線が照射されることにより、レジストの分子状態が変化し、その際に揮発成分が発生する。
【0003】
前記の残留している気体は、描画装置内で用いられる部材表面上において、吸着と脱離を繰り返しているが、物理吸着のみで部材表面上に付着したり反応をおこしたりすることはない。しかし、ストッピングアパーチャのように荷電粒子線が照射されるところでは、照射箇所で発生した二次電子が主な原因となって、物理吸着していた気体が解離する。この解離された気体から生成された物質が部材表面上に堆積したり、生成した反応活性種により部材表面が変質したりすることがある。これらはコンタミネーションと呼ばれている。
【0004】
コンタミネーションの中でも、主なものとして以下の2つの現象が挙げられる。1つは、残留している気体のうち炭素を含む成分が荷電粒子線描画装置を構成する部材表面上に物理吸着し、そこに荷電粒子線が照射されると炭素を含む成分が解離をおこし、部材表面上に炭素を含む物質が堆積していく現象である。他の1つは、荷電粒子線描画装置の部材表面上に吸着した水の成分が同じく荷電粒子線の照射により解離し、活性な酸素を生成して部材表面を酸化する現象である。
【0005】
荷電粒子線描画装置の部材表面上に炭素を含む物質がある量を超えて堆積する、もしくは部材表面が酸化されると、堆積された又は酸化された部分の電気的特性が変化する。カーボンの付着あるいは表面の酸化によって、導体である部材のその部分の導電率が低下する。そこに更に荷電粒子線が照射されると、荷電粒子の電荷が行き場を失ってその部分に溜まり、その部分が電位を持つことになる。この部分的な電位発生により、荷電粒子線の通り道に本来設定されていない電場が形成され、荷電粒子線の軌道に少なからず影響を与えることになる。半導体素子の高集積化に伴い、描画位置の精度は数nm以下程度に要求されるため、このような電荷溜まりに起因する電場も無視できない。
【0006】
これらのコンタミネーションのうち、表面の酸化については荷電粒子線描画装置の部材を耐酸化性材料で構成することで回避することが試みられている。一方、炭素等の堆積に関しては、程度の差はあっても堆積が避けられないと考えられ、堆積した炭素物質を除去することが試みられている。特許文献1には、リソグラフィ装置の炭素物質が堆積した部材の近傍に水素ガスを供給し、ラジカル形成デバイスによって水素ガスから水素ラジカルを生成させ、生成された水素ラジカルによって堆積された炭素物質を除去することが開示されている。特許文献1には、水素ラジカルを生成させるラジカル形成デバイスをホットフィラメント、プラズマ、放射線及び触媒の1つ以上とすることが開示されている。特許文献2には、荷電粒子線描画装置内の構造物を、光触媒作用を持つ物質で構成するか光触媒作用を持つ物質を表面に塗装することにより、これらの物質に荷電粒子ビームを照射することで、構造物に付着したコンタミネーションを分解することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009-049438号公報
【特許文献2】特許第3047293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ブランキング偏向器により偏向された荷電粒子線を遮断するストッピングアパーチャを用いて荷電粒子線の照射を制御する荷電粒子線描画装置において、炭素物質の堆積の影響が最も懸念される部材は、ストッピングアパーチャである。ストッピングアパーチャによって荷電粒子線を遮断する場合、ブランキング偏向器によって荷電粒子線を偏向してストッピングアパーチャ表面の所定位置に荷電粒子線を照射させる。この所定位置には、前述したように残留ガス中の炭素化合物と荷電粒子又はその二次電子との相互作用により炭素物質が付着し堆積する。そこに更に荷電粒子線が照射されるため、炭素物質の表面が帯電し、部分的な電位が発生する。この電位により、遮断しない荷電粒子線つまり描画に必要な荷電粒子線の軌道上の電界に変化が生じ、荷電粒子線の軌道が設定された軌道から微妙にずれ、荷電粒子線の到達位置つまり描画位置がずれることになる。これによって描画精度が劣化し、装置の性能の低下を引き起こす。
【0009】
この対策として、堆積した炭素物質を除去する従来技術を適用しても課題が残る。特許文献1の技術でストッピングアパーチャの近傍に加熱フィラメントを設置するものでは、加熱フィラメントの輻射熱によりストッピングアパーチャの温度が上昇する。すると熱膨張によってストッピングアパーチャが変形を起こし、アパーチャの位置がずれてしまう。変形をおこしたストッピングアパーチャは、後から冷やしても精度良く元の状態に戻ることは難しく、場合によっては荷電粒子線の軌道にアパーチャ縁が重なってしまうことになりかねない。また、特許文献1の技術で加熱フィラメントの位置に触媒を有する部材を配置する場合、触媒を有する部材が荷電粒子線の通過を阻害するので、荷電粒子線による描画動作に支障が生じる。
【0010】
本発明は、荷電粒子線による描画動作に支障を与えることなく、ストッピングアパーチャに堆積される汚染物質を効率よく除去する荷電粒子線描画装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、荷電粒子線を用いて基板にパターンを描画する荷電粒子線描画装置であって、前記荷電粒子線を偏向するブランキング偏向器と、前記ブランキング偏向器で偏向された荷電粒子線を遮断可能なストッピングアパーチャと、前記ストッピングアパーチャに堆積された堆積物を分解する活性種を気体から生成するための触媒と、前記触媒に前記気体を供給する供給機構と、を備え、前記堆積物を除去する除去動作では、前記供給機構によって前記気体を前記触媒に供給しながら、前記パターンを描画する描画動作では前記荷電粒子線が照射されない領域に前記荷電粒子線を照射することによって、少なくとも前記領域に位置する前記触媒によって前記気体から前記活性種が生成され、該生成された活性種により前記堆積物を分解して除去する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、荷電粒子線による描画動作に支障を与えることなく、ストッピングアパーチャに堆積される汚染物質を効率よく除去する荷電粒子線描画装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1における電子ビーム描画装置の概略構成図。
【図2】実施例2のブランキング偏向器部分の構成図。
【図3】実施例3における電子ビーム描画装置の概略構成図。
【図4】実施例4における電子ビーム描画装置の概略構成図。
【図5】実施例5のブランキング偏向器部分の構成図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、複数の荷電粒子線を用いて基板にパターンを描画する荷電粒子線描画装置に適用可能であるが、複数の電子ビームを用いて基板にパターンを描画する電子ビーム描画装置に適用した例を説明する。
【0015】
[実施例1]
図1を用いて実施例1のマルチ電子ビーム描画装置の構成を説明する。電子銃(荷電粒子線源)11は、クロスオーバ12を形成する。符号13,14はクロスオーバ12から発散した電子の軌道を示している。クロスオーバ12から発散した電子は、電磁レンズで構成されたコリメーターレンズ15の作用により平行ビームを生成し、アパーチャアレイ16に入射する。アパーチャアレイ16は、マトリクス状に配列された複数の円形状の開口を有し、入射した電子ビームは複数の電子ビームに分割される。
【0016】
アパーチャアレイ16を通過した電子ビームは、円形状の開口を有した3枚の電極板(図中では、3枚を一体で図示している)から構成される第1の静電レンズ17に入射する。第1の静電レンズ17が最初にクロスオーバ像を形成する位置に、開口がマトリクス状に配置されたストッピングアパーチャ19が配置される。ストッピングアパーチャ19は、ブランキング偏向器18で偏向された電子ビームを遮断可能である。ストッピングアパーチャ19での電子ビームのブランキング動作は、マトリクス状に電極を配置したブランキング偏向器18により実行する。ブランキング偏向器18は、ブランキング制御回路32により制御され、ブランキング制御回路32は描画パターン発生回路29、ビットマップ変換回路30、ブランキング指令生成回路31によって生成されるブランキング信号により制御される。ストッピングアパーチャ19を通過した電子ビームは、第2の静電レンズ21により結像され、ウエハ又はマスクなどの試料(基板)22上に元のクロスオーバ12の像を結像する。
【0017】
パターンを描画する描画動作では、試料22はX方向にステージ23により連続的に移動し、レーザ測長機などのステージ23の測長結果を基準として、試料22の表面上の像が偏向器20でY方向に偏向され、かつブランキング偏向器18でブランキングされる。偏向器20は、偏向信号発生回路33により発生される偏向信号を偏向アンプ34に送信することによって制御される。コリメーターレンズ15、第1の静電レンズ17、第2の静電レンズ21は、レンズ制御回路28により制御され、全ての露光動作はコントローラ27により統括される。コントローラ27、レンズ制御回路28、描画パターン発生回路29、ビットマップ変換回路30、ブランキング指令生成回路31、ブランキング制御回路32、偏向信号発生回路33は、マルチ電子ビーム描画装置を制御する制御部を構成している。
【0018】
本実施例における描画方式を説明する。電子源11で生成された電子ビーム13は、格子状の配置からX方向に相互に距離Lだけずれた千鳥配置となるように、アパーチャアレイ16でM行N列に分割されている。パターン描画の際には、ステージ23がY方向に連続的に移動する間に、試料面上で複数の電子ビームはX方向に走査可能な距離Lの範囲を画素単位で、偏向器20により偏向を繰り返す。この距離Lは、偏向器20の偏向ストロークにより決定される。また、この際のステージ速度は、レジスト感度と電子ビームの電流密度の値とから決定される。試料面をY方向に設定された距離だけ連続移動描画をした後、ステージ23をY方向にステップアンドリピート移動して再びY方向への連続移動描画を行う。試料の折り返し位置では、X方向にステップアンドリピート移動して再びY方向への連続移動描画を行う。この動作を繰り返すことで試料22の全面に対して電子ビーム描画を行う。
【0019】
上記説明した描画動作において、試料22に対して電子ビームのブランキング動作を行う場合、ブランキング偏向器18によって電子ビームを変更し、ストッピングアパーチャ19上に照射させる。その場合、前述したようにストッピングアパーチャ19の表面で、装置内の炭素化合物の残留ガスと電子が反応して炭素物質からなるカーボンコンタミネーション26が堆積する。炭素化合物から生成したカーボンコンタミネーション26は金属に比較して導電性が良くないため、これが堆積した所に更に電子ビームが照射されると、電子が逃げにくくなりカーボンコンタミネーション部分に電荷が溜まり、帯電してしまう。ストッピングアパーチャ19の開口近傍の一部が帯電するとその周囲の電場に歪みが発生し、ストッピングアパーチャ19を通過する電子ビームの軌道に影響を与えてしまう。これを防ぐ為には、カーボンコンタミネーション26の堆積物を定期的に除去する必要がある。本実施例においては、ストッピングアパーチャ19のブランキング偏向器18の側の面の一部に触媒26が配置されている。そして、水素ガス(気体)を供給しながら電子ビームをカーボンコンタミネーション26近くに配置した触媒に照射することで、水素ガスから水素ラジカルを発生させて、カーボンコンタミネーション26を分解し、除去する。
【0020】
図1は、カーボンコンタミネーション26除去を行うために水素ラジカル発生するときの電子ビーム描画装置の状態を示している。図1に示すように、ストッピングアパーチャ19の表面で、かつ、描画動作で電子ビームが照射される領域のアパーチャ穴に対する反対側の領域に、触媒であるタングステン層24が配置されている。電子ビームを用いて描画動作を行っているうちに電子ビーム照射位置にカーボンコンタミネーション26が堆積する。カーボンコンタミネーション26がある一定の量、例えば厚さにして50nm程度になったら、電子ビームの照射を止め、描画動作を一旦停止する。そして、ストッピングアパーチャ19に堆積されたカーボンコンタミネーション26を除去する除去動作を実行する。まず、気体を供給する供給機構である水素ガス導入口25から水素ガスを10−2〜10Pa(例えば、1Pa程度)になるよう導入し、電子ビーム照射を再開する。このときブランキング偏向器18には、描画動作時と反対の電圧を一斉に加える。より具体的には、対の電極の片方は接地されているので、他方に印加する電圧と異なる電圧、具体的には逆極性の電圧を印加する。例えば通常描画時には+5Vの電圧を与えていたならば、−5Vの電圧を印加する。そうすることによって図1に示すように、電子ビーム37は描画動作の場合とは反対の方向に偏向され、ストッピングアパーチャ19上のタングステン層24に照射される。
【0021】
タングステン層24の表面では、当該表面に解離吸着していた水素が、電子ビームのエネルギーを得て原子状態で表面から離脱する。この原子状態の水素ラジカル(活性種)は活性が高く、付近に存在するカーボンコンタミネーション26と反応し、炭化水素ガスとなってストッピングアパーチャ19の表面から離脱する。この反応によって、カーボンコンタミネーション26がストッピングアパーチャ19から除去できる。図1に示すようにどの電子ビームも一斉に複数個所のタングステン層24に照射する。そのため、カーボンコンタミネーション26の近傍の全体で水素ラジカルを発生させることができ、効率良くカーボンコンタミネーション26を除去できる。この除去動作を一定時間行うことによって、カーボンコンタミネーション26が無くなるか少なくなる。そうすると、ストッピングアパーチャ19の表面は帯電しなくなるので、描画動作を再開できる状態になる。その後、電子ビームの照射を再度一旦止め、水素ガスの供給を停止して装置内空間の真空度を上げた後に、描画動作を再開する。
【0022】
このような除去動作は、カーボンコンタミネーション26の堆積量が大きくなったら行うが、ストッピングアパーチャ19上のカーボンコンタミネーション26の堆積量をモニターするのは簡単ではないので、一定時間毎に行うようにしても良い。例えば、除去動作を毎日決まった時間に行っても良いし、数日おきに行っても良い。除去動作の間隔が短いほど、カーボンコンタミネーション26の堆積量が少ないので、除去動作に要する時間も少なくなる。本実施例では、触媒としてタングステンを使用したが、同様の触媒作用のある材料であれば他でも良い。例えば、プラチナ、パラジウム、モリブデン、ニッケル、ルテニウムやこれらの合金や化合物を触媒として使用しても良い。また、カーボンコンタミネーション26を除去するために供給する気体は、水素に限らず、窒素、フッ素、酸素等も利用できる。さらに、本実施例はマルチ電子ビームを利用しているが、シングル電子ビームにおいても同様に応用できる。
【0023】
本実施例において、触媒は、描画動作のときに電子ビームが照射されないストッピングアパーチャ上の一部の位置に配置され、カーボンコンタミネーション26の除去動作のときに電子ビームを偏向することで触媒に電子ビームを照射する。本実施例では、通常の描画動作のときに触媒に電子ビームが照射されない。そのため、通常の描画動作では触媒にカーボンコンタミネーション26が付着せず、触媒の機能は低下しない。したがって、カーボンコンタミネーション26を除去するときに、機能が保全された触媒によって効率よく活性種を発生させることができる。
【0024】
[実施例2]
図2は、実施例2における電子ビーム描画装置のブランキング偏向器18およびストッピングアパーチャ19の近傍部分を3次元的に表現している。図2では、電子ビームを簡略して太線1本にて表示している。実施例1では、触媒に電子ビームを照射する際に、ブランキング偏向器18に通常の描画動作の場合とは逆極性の電圧をかけることで電子ビーム41の偏向方向を逆方向に変えた。この場合、ブランキング偏向器18に電圧を供給する系統に2種の電源を用意し、多数ある電極全てにスイッチング動作をさせる必要があり、ブランキング制御回路32に負荷がかかる。
【0025】
そこで、実施例2では、カーボンコンタミネーション26を除去する場合にのみ利用する偏向電極44,45を別途設置することにより、電子ビームの偏向方向を一斉に制御する。図2に示すように、偏向電極44,45がブランキング偏向器18による偏向方向と異なる方向、例えばブランキング偏向器18による偏向方向と直交する方向に電子ビームを偏向できる偏向器を構成している。しかも、この偏向電極44,45は、多数の電子ビームの経路に対して電界を作用させる構成であるため、多数の電子ビームをまとめて偏向できる。
【0026】
実施例1と同様に、ストッピングアパーチャ19の各開口49の−X方向に存在するカーボンコンタミネーション26が許容量を超えて堆積したら、描画動作を停止し、除去動作を開始する。カーボンコンタミネーション26の除去動作では、まず、水素ガスを水素ガス導入口25から導入しながら偏向電極44,45間に電圧46を加えて電子ビーム41,42,43を一斉に−Y方向に偏向させる。偏向の方向は通常の描画時の偏向方向(−X方向)に対して90度の−Y方向である。図2に示すように、この偏向によって電子ビーム41,42,43が照射されるストッピングアパーチャ19上の−Y方向における周縁領域に帯状のタングステン層24が形成されている。
【0027】
除去動作を数多く繰り返すことによって、タングステン層24に酸化、コンタミネーションの付着、表面荒れなどが生じることもありうる。そのような場合、偏向電極44,45間に電圧をかけると同時に、ブランキング偏向器18に描画に利用する際の電圧を印加する。そうすると電子ビームの照射位置が、例えば描画動作時の電子ビームの偏向方向に対して45度の方向に偏向されることになる。タングステン層24は帯状に形成されているので、こうすることでタングステン層24の触媒作用が高い領域に電子ビームを照射することができる。
【0028】
実施例2では、ブランキング偏向器18とストッピングアパーチャ19との間に電子ビームを触媒の表面に偏向する偏向電極44,45を別途設置する。これにより、実施例2では、ブランキング制御回路32への負担をなくし、多数の電子ビームを一括して触媒の表面に偏向できるという作用がある。
【0029】
[実施例3]
図3を用いて実施例3における電子ビーム描画装置を説明する。実施例3では、触媒であるプラチナの層51を、ストッピングアパーチャ19のブランキング偏向器18の側の面の、描画動作で電子ビームが照射されない領域に加えて、描画動作で電子ビームが照射される領域に配置する。例えば、ストッピングアパーチャ19の表面全体にプラチナ層51を設置する。プラチナは導電性の良好な金属であり、かつ耐酸化性もあるので、ストッピングアパーチャ19の表面材料に適している。ストッピングアパーチャ19の表面にプラチナを用いても、カーボンコンタミネーション26は付着し、堆積することは阻止できない。
【0030】
通常の描画動作によってカーボンコンタミネーション26がストッピングアパーチャ19の表面に付着するが、実施例3では、カーボンコンタミネーション26が厚く(例えば10nm程度以上)堆積する前に除去動作を行う。装置内の炭素化合物の残留ガスの種類や量にもよるが、例えば1日の描画動作では、カーボンコンタミネーション26の堆積量は数nm程度であると予想される。
【0031】
この場合、カーボンコンタミネーション26はストッピングアパーチャ19の表面全体に薄く均一に付着するわけではなく、島状に付着していることが多い。このような状況で、例えば水素ガス導入口25から水素ガスを1Pa程度になるように導入しながら電子ビーム37を照射する。そうすると、部分的に露出しているプラチナ層51の触媒作用によって水素ラジカルが生成され、水素ラジカルが、島状に付着しているカーボンコンタミネーション26と反応することが出来る。この方法では、カーボンコンタミネーション26がプラチナ層51の表面全体にわたって隙間無く堆積してしまったら除去効果が無くなるので、除去動作を頻繁に行う必要がある。
【0032】
実施例3のメリットは、実施例1のような逆電圧回路や実施例2のような多数の電子ビームを一括して偏向する偏向電極44,45を別途設置することなく、カーボンコンタミネーション26を除去できるという点である。また、実施例3の構成では通常の描画動作時のブランキング偏向器18をそのまま用いるため、描画動作時に水素ガスを微量導入することもできる。例えば、ストッピングアパーチャ19の近傍に水素ガスを1×10−3Pa程度の圧力となるように導入する。
【0033】
この程度の水素ガス雰囲気であれば、電子ビームへの影響はほとんど無い。このような状態で、通常の描画動作を進めると、ブランキングされた時に電子ビームがストッピングアパーチャ19に照射される。電子ビームが照射されるストッピングアパーチャ19の表面における炭素化合物の残留ガスが吸着していた箇所ではカーボンコンタミネーション26が付着し、水素が吸着していた箇所では水素ラジカルが生成される。この水素ラジカルがカーボンコンタミネーション26の堆積を抑制する。ただし、水素の供給量が少ないので、カーボンコンタミネーション26の堆積を無くすことは難しい。描画動作を行うときに水素供給量を増やし過ぎると、電子ビームの軌道や第1及び第2の静電レンズ17,21の作用に良くない影響が生じる。
【0034】
[実施例4]
図4を用いて実施例4における電子ビーム描画装置を説明する。実施例4では、触媒であるタングステン層24は、ストッピングアパーチャ19上で描画動作のときに電子ビーム37が照射される位置よりもさらに−X方向側に配置される。実施例4では、カーボンコンタミネーション26を除去する場合に電子ビーム13の加速電圧を変化させる。具体的な例としては、除去動作を行う場合、通常の描画動作時の加速電圧に対してその半分程度の加速電圧にする。このような状態で、水素ガス導入口25から水素ガスを導入しながら、ブランキング偏向器18によって電子ビーム37を偏向する。このときブランキング偏向器全てに偏向をかけ、電子ビームの軌道を曲げる。
【0035】
電子ビームに対する加速電圧が半分程度なので、電子軌道の偏向量は倍程度になる。したがって、電子ビームはストッピングアパーチャ19上では描画動作のときに電子ビームが照射される場所すなわちカーボンコンタミネーション26が堆積した場所を越え、その先の触媒層52の部分に照射される。これにより、タングステン層24の表面で水素分子が活性化されて水素ラジカルが発生し、カーボンコンタミネーション26を効率良く除去することが出来る。なお、タングステン層24は実施例3と同様にストッピングアパーチャ19の表面全体にあっても良い。実施例4のメリットは、電子ビームの加速電圧を可変にすることによって、実施例1の逆電圧回路や実施例2の多数の電子ビームを一括して偏向する偏向電極44,45を別途設置することなく、カーボンコンタミネーション26を除去できるという点である。
【0036】
[実施例5]
図5を用いて実施例5における電子ビーム描画装置を説明する。実施例5では、触媒をストッピングアパーチャ19上に層としては配置しない。ブランキング偏向器18とストッピングアパーチャ19との間の空間で、通常の描画動作では電子ビーム41,42,43が照射されない−Y方向の位置にX方向に延びるタングステンワイヤー53を設置する。本実施例では、さらに、実施例2にて説明した偏向電極44,45と同等のものが、ブランキング偏向器18による通常の描画動作時の電子ビームの偏向方向と平行な方向(X方向)に設置されている。
【0037】
カーボンコンタミネーション26を除去する場合には、水素ガス導入口25から水素ガスを導入しながら、この偏向電極44,45によって電子ビームの軌道が−Y方向に曲げられると、タングステンワイヤー53に電子ビーム41,42,43が照射される。そうすると、タングステンワイヤー53の表面で水素分子が活性化されて水素ラジカルとなり、その水素ラジカルによってカーボンコンタミネーション26を除去することができる。このとき、タングステンワイヤー53に数Vの正電圧を加えても良い。そうすることで、電子ビーム41,42,43がタングステンワイヤー53に集中して照射される。
【0038】
実施例5のメリットは、ストッピングアパーチャ19に触媒層を配置しないので、ストッピングアパーチャ19の製造において触媒層の成膜工程を省ける。また、実施例5では、触媒に電子ビームを当てすぎて触媒が劣化しても、ストッピングアパーチャ19と触媒とが別部品なのでメンテナンスが容易である。実施例5では触媒としてタングステンワイヤー53を用いたが、マトリクス状の電子ビームの周期に対応したメッシュ状の構成でも良い。また、触媒はタングステンに限らない。
【0039】
[デバイス製造方法]
本発明の好適な実施形態のデバイス製造方法は、例えば、半導体デバイス、FPDのデバイスの製造に好適である。前記方法は、上記の荷電粒子線描画装置を用いて感光剤が塗布された基板10にパターンを描画する工程と、前記パターンが描画された基板10を現像する工程とを含みうる。さらに、前記デバイス製造方法は、他の周知の工程(酸化、成膜、蒸着、ドーピング、平坦化、エッチング、レジスト剥離、ダイシング、ボンディング、パッケージング等)を含みうる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子線を用いて基板にパターンを描画する荷電粒子線描画装置であって、
前記荷電粒子線を偏向するブランキング偏向器と、
前記ブランキング偏向器で偏向された荷電粒子線を遮断可能なストッピングアパーチャと、
前記ストッピングアパーチャに堆積された堆積物を分解する活性種を気体から生成するための触媒と、
前記触媒に前記気体を供給する供給機構と、
を備え、
前記堆積物を除去する除去動作では、前記供給機構によって前記気体を前記触媒に供給しながら、前記パターンを描画する描画動作では前記荷電粒子線が照射されない領域に前記荷電粒子線を照射することによって、少なくとも前記領域に位置する前記触媒によって前記気体から前記活性種が生成され、該生成された活性種により前記堆積物を分解して除去する、ことを特徴とする荷電粒子線描画装置。
【請求項2】
前記触媒は、前記ストッピングアパーチャの前記ブランキング偏向器の側の面の一部に配置される、ことを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子線描画装置。
【請求項3】
前記触媒は、前記ストッピングアパーチャと前記ブランキング偏向器との間に配置される、ことを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子線描画装置。
【請求項4】
前記除去動作の間、前記ブランキング偏向器に前記描画動作の間とは異なる電圧を印加することにより前記荷電粒子線を前記領域に照射する、ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の荷電粒子線描画装置。
【請求項5】
前記除去動作の間、前記描画動作の間に前記ブランキング偏向器に印加する電圧と逆極性の電圧を前記ブランキング偏向器に印加する、ことを特徴とする請求項4に記載の荷電粒子線描画装置。
【請求項6】
前記除去動作の間、前記荷電粒子線を生成する荷電粒子線源に前記描画動作の間とは異なる加速電圧を印加することにより前記荷電粒子線を前記領域に照射する、ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の荷電粒子線描画装置。
【請求項7】
前記ブランキング偏向器による前記荷電粒子の偏向方向と異なる方向に前記荷電粒子線を偏向する偏向器をさらに備え、
前記除去動作の間、前記偏向器によって前記荷電粒子線を偏向することにより前記荷電粒子線を前記領域に照射する、ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の荷電粒子線描画装置。
【請求項8】
前記除去動作の間、前記偏向器及び前記ブランキング偏向器によって前記荷電粒子線を偏向して前記領域に照射する、ことを特徴とする請求項7に記載の荷電粒子線描画装置。
【請求項9】
前記触媒は、前記ストッピングアパーチャの前記ブランキング偏向器の側の面の、前記描画動作で荷電粒子線が照射されない領域に加えて前記描画動作で荷電粒子線が照射される領域に配置される、ことを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の荷電粒子線描画装置。
【請求項10】
前記触媒はプラチナである、ことを特徴とする請求項9に記載の荷電粒子線描画装置。
【請求項11】
前記気体は水素である、ことを特徴とする請求項1乃至請求項10のいずれか1項に記載の荷電粒子線描画装置。
【請求項12】
請求項1乃至請求項11のいずれか1項に記載の荷電粒子線描画装置を用いて基板にパターンを描画する工程と、
前記工程でパターンが描画された基板を現像する工程と、
を含むことを特徴とするデバイス製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−151305(P2012−151305A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−9199(P2011−9199)
【出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】