説明

荷電粒子線装置及び荷電粒子線照射方法

【課題】荷電粒子線を試料表面に対して、所望の領域に広範囲の角度で照射可能な荷電粒子線装置を実現する。
【解決手段】イオンビームカラム201aの中心軸の延長線に沿う方向の位置、直交する方向の位置)や傾斜角度(イオンビームカラム201aの中心軸の延長線と直交する面に対する傾斜角度)を調整可能な電極を有する電極部204を、試料室203内に配置し、電極等により、曲げられたイオンビーム201bを試料202の表面に照射するように構成する。イオンビーム201bを試料202の表面の所望の領域に、試料表面に対して広範囲の角度で照射可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、イオンビームを用いる荷電粒子線装置及び荷電粒子線照射方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、(走査)透過電子顕微鏡((S)TEM)観察用の薄膜試料作製には、集束イオンビーム(FIB)装置が用いられている。特に、半導体デバイス不良解析用の薄膜試料作製において、FIB装置は必須のツールとなっている。
【0003】
近年、半導体産業を筆頭に、燃料電池や太陽電池といったエネルギー産業や、有機エレクトロルミネッセンス(Electro−Luminescence:EL)ディスプレイなどのように有機材料を用いた産業など、様々な産業において、構造物の微細化が進み、観察試料や分析試料の加工技術向上が望まれている。例えば、最先端デバイスではノードサイズが30nm以下のデバイスが適用されつつあり、このようなデバイスの(S)TEM用薄膜試料作製では、ナノメートルオーダーの加工精度が要求される。その上、構造物の微細化・複雑化にともない、軽元素や重元素が混在することによる加工断面の荒れ(カーテニング模様)も(S)TEM観察用試料としてより一層大きな問題となっている。そのため、(S)TEM観察用薄膜試料の最終仕上げにおいては、所望領域のダメージ層およびカーテニング模様を的確に除去することが要求される。
【0004】
上記問題を解決するために、特許文献1には、薄膜加工に用いる第1のイオンビーム(ガリウムイオン)とは異なる第2のイオンビーム(アルゴンイオン)をダメージ層除去に用いる方法が示されている。
【0005】
また、特許文献2には、イオンミリング装置を用いてアルゴンイオンを薄片試料に照射することでダメージ層を除去する方法が示されている。
【0006】
また、特許文献3には、ダメージ層を低減するために、仕上げ加工に用いるイオンビームのエネルギーを主加工に使用するイオンビームのエネルギーよりも低くする方法が示されている。また、イオンビームを基準に見て、試料を傾斜させて仕上げ加工を行うことでスループットの低下を抑えられることについても示されている。
【0007】
また、ダメージ層とは別の問題として、集束イオンビームを試料の表面に対して垂直にビームを照射しても垂直な断面は得られない。これは、集束イオンビームはフォーカス位置に集束する形状となっているためであり、試料の表面に対して垂直な断面を有していなければ、(S)TEM観察用の薄膜試料として適切ではない。
【0008】
この問題を回避する方法として、特許文献4には、試料を所定の角度だけ傾けて、イオンビームを照射することにより、垂直な断面を得る方法が示されている。一般的には、試料表面をイオンビームの中心軸に対して3〜5度程度の角度だけ傾斜させて加工が行なわれている。
【0009】
さらに、特許文献5には、角度変更用電極を用いて、イオンビオームを試料表面に対する角度を75度から90度まで変更可能な技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004‐264145号公報
【特許文献2】特開2002‐277364号公報
【特許文献3】特開2007‐193977号公報
【特許文献4】特開平8‐5528号公報
【特許文献5】特開2002−148159号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記特許文献1〜3に記載の技術では、イオンビームの照射方位に大きな制約が存在している。そのため、イオンビームを試料の所望の領域のみに照射することや、最適な角度で照射することが困難であった。
【0012】
特許文献4に記載の技術のように、イオンビームに対して試料を傾斜させる技術においても、試料傾斜のみではイオンビームを所望の領域に、所望の角度で照射することは困難である。
【0013】
さらに、特許文献5に記載の技術では、イオンビオームの試料表面に対する角度を変更可能ではあるが、それ以上の角度でイオンビームを試料に照射させることはできず、所望の領域に、所望の角度で照射することは困難である。
【0014】
本発明の目的は、荷電粒子線を試料表面に対して、所望の領域に広範囲の角度で照射可能な荷電粒子線装置及び荷電粒子線照射方法を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明における荷電粒子線装置は、イオンビームカラムと、イオンビームカラムが取り付けられた試料室と、試料室内に配置された試料ステージと、試料室内に配置され、イオンビームの軌道を変更し、試料ステージに支持された試料に照射させる電極部と、この電極部を移動させる電極部移動制御部とを備えている。
【0016】
イオンビームカラムから発生されたイオンビームの軌道は、電極部により、イオンビームカラムの中心軸の延長線となす角度を変更し、上記イオンビームを上記試料ステージに支持される試料に照射することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、荷電粒子線を試料表面に対して、所望の領域に広範囲の角度で照射可能な荷電粒子線装置及び荷電粒子線照射方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1の実施例による荷電粒子線装置の概略構成図である。
【図2】本発明の第1の実施例におけるイオンビームの軌道を示す一例を示す図である。
【図3】本発明の第1の実施例におけるイオンビームの軌道を示す他の例を示す図である。
【図4】本発明の第1の実施例におけるイオンビームの軌道を示す他の例を示す図である。
【図5】本発明の第1の実施例におけるイオンビームの軌道を示す他の例を示す図である。
【図6】本発明の第1の実施例によるダメージ層除去方法と本発明と異なる例によるダメージ層除去方法との比較説明図である。
【図7】本発明の第2の実施例による荷電粒子線装置の概略構成図である。
【図8】本発明の第2の実施例における電子ビームの軌道を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、イオンビームカラムを備える荷電粒子線装置の試料室内に、荷電粒子の軌道を曲げるための電極部を備えている。そして、この電極部が生成する電場によって荷電粒子線が曲げられ、試料に照射される。
【0020】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。ただし、以下に説明する実施形態は、本発明を実現するための一例に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0021】
(第1の実施例)
(荷電粒子線装置の構成の説明)
図1は、本発明の第1の実施例が適用された荷電粒子線装置の全体の概略構成図である。
【0022】
図1において、荷電粒子線装置は、イオンビームカラム201aと、試料室203と、試料室203内に設けられ、電圧印加が可能で、任意の方向に移動可能であり、かつ、傾斜角度が調整可能な電極部204と、この電極部204の位置や角度を制御する電極制御器211と、電極部204に電圧を印加するための電圧供給装置205と、電圧供給装置205を制御する電圧制御器212と、荷電粒子線装置全体の動作を制御する統合コンピュータ213とを備える。
【0023】
さらに、荷電粒子線装置は、イオンビームカラム201aか発生されるイオンビーム201bの走査を制御するためのイオンビームスキャン制御器214と、走査型イオン顕微鏡(SIM)像を得るための検出器206と、検出した情報を統合コンピュータ213に提供する検出器用制御器215と、オペレータが照射条件や電極の電圧条件や位置条件といった各種指示等を入力するコントローラ(キーボード、マウスなど)216と、取得したSIM像を表示するディスプレイ217とを備えている。
【0024】
さらに、荷電粒子線装置は、電極部204を第2の検出器として用いるための電流計測器207と、電流計測器207が検出した電流値を増幅等の処理を行う電流計測装置用制御装置218とを備えている。電流計測装置用制御装置218からの電流計測信号は、統合コンピュータ213に供給される。
【0025】
イオンビームカラム201aは、イオンビーム201bを発生するためのイオン源や、イオンビーム201bを集束するためのレンズ、イオンビームを走査、シフトするための偏向系など、FIBに必要な構成要素を全て含んだ系である。そして、イオンビームカラム201aは、試料室203に搭載される。また、イオンビーム201bは、一般にガリウムイオンが使用されるが、加工する目的においてイオン種は問わない。
【0026】
また、イオンビーム201bは、集束イオンビームに限られず、ブロードなイオンビームでもよい。なお、本発明の第1の実施例では、1つのFIBカラム201aを配置しているが、2つ以上のイオンビームカラムを配置してもよい。例えば、Ga集束イオンビームカラムとAr集束イオンビームカラムとを備えた構成としてもよい。
【0027】
なお、電極部204に電圧を供給する電圧供給装置205は、変調可能である。また、各制御器は互いに通信可能であり、統合コンピュータ213によってコントロールされる。
【0028】
また、第1の実施例では、SIM像を取得するための検出器206を1つ配置したが、2つ以上の同一または異なる検出器を備えた構成としてもよい。例えば、二次電子検出器と二次イオン検出器を搭載してもよい。
【0029】
さらに、試料室203には、上述した構成以外にも、試料ステージ、ガスデポジションユニット、マイクロサンプリングユニットなどが搭載されている。試料を搬送するための試料ステージ219(図2に示す)は、試料202を載置することが可能であり、平面移動や回転、傾斜が可能である。また、試料ステージ219は、イオンビームの加工や観察に必要な箇所をイオンビーム照射位置に移動させることもできる。
【0030】
試料202としては、半導体試料の他、鉄鋼、軽金属、及びポリマー系高分子等も想定される。保護膜作製やマーキングに使用されるガスデポジッションユニットは、荷電粒子ビームの照射により堆積膜を形成するデポガスを貯蔵し、必要に応じてノズル先端から供給することができる。
【0031】
FIBによる試料202の加工や切断との併用により、試料202の特定箇所をピックアップするマイクロサンプリングユニットは、プローブ駆動部によって試料室203内を移動できるプローブを含む。プローブは、試料202に形成された微小な試料片を摘出したり、試料表面に接触させて試料へ電位を供給したりすることに利用される。
【0032】
また、検出器用制御器215は、検出器206からの検出信号を演算処理し、画像化する回路または演算処理部を備えていてもよい。また、試料ステージ、デポジションユニット、及びマイクロサンプリングユニットといった各駆動機構も制御回路を各々に持つ。そして、それらの制御回路は互いに通信可能であり、1つまたは複数のコンピュータによって統合的にコントロールされる。
【0033】
図2、図3、図4は、図1に示した試料202付近の拡大図である。
【0034】
図2は、電極部204が有する電極の形状が平板電極である場合を示しており、電圧が印加された平板電極304によって、イオンビームカラム201aの先端部301aからのイオン(Ion)のビーム301cが曲げられ、試料ステージ219に支持された試料202に照射されることを示している。この場合、平板電極304の位置(イオンビームカラム201aの中心軸の延長線に沿う方向の位置、イオンビームカラム201aの中心軸の延長線に直交する方向の位置)や傾斜角度α(イオンビームカラム201aの中心軸の延長線と直交する面に対する傾斜角度)を変更することで試料202上でのイオンビーム301cの照射位置や照射角度を変更することが可能である。図2の(A)は、傾斜角度がαの場合であり、図2の(B)は、傾斜角度がαの場合である。
【0035】
また、図3は、電極部204が有する電極の形状が球状電極404である場合を示している。この場合、球状電極404を水平移動(イオンビームカラム201aの中心軸の延長線と直交する方向への移動)することで、試料202へのイオンビーム照射位置や照射角度が変更可能である。図3の(A)は、イオンビームカラム201aの中心軸の延長線と球状電極404の中心との距離がLの場合であり、図3の(B)は、イオンビームカラム201aの中心軸の延長線と球状電極404の中心との距離がLの場合である。ただし、距離LはLより大である。
【0036】
また、図4は、電極部204が有する電極の形状がパラボラ形状(方物曲面形状)の電極504を用いる場合を示している。このパラボラ形状の電極504を用いることにより、イオンビーム301cの照射位置の広がりを抑えることができることが示されている。
【0037】
また、図2、図3、図4に示したような形状の電極を複合した電極(複数の電極)を用いれば、電極の位置や傾斜角度、回転角度を変更することで様々な照射位置および照射角度を実現することができる。また、電極に印加する電圧を変調することによっても照射位置や照射角度を変更することができる。即ち、電極形状や電極電圧、電極の位置、イオンビームの照射方位、試料の移動を組み合わせることで所望の照射位置に所望の照射角度でイオンビームを照射することができる。具体的には、平行電極304を、イオンビームカラム201aの中心軸の延長線と垂直な状態から水平な状態まで角度を変更することにより、広範囲の角度でイオンビームを試料表面に照射することができる。
【0038】
または、電極部204により、イオンビーム301cをイオンビームカラム201aの中心軸の延長線となす角度を変更し、その変更したビームの角度を維持した状態で、電極部204を上下左右方向に移動させることにより、試料202の一表面に渡ってイオンビームを照射することができる。
【0039】
また、図5に示すように、複数の電極604a(球状電極)、604b(平板状電極)を同時に使用して、試料202の所望の照射位置や照射角度を実現してもよい。例えば、球状電極604a(第1の電極部)をイオンビームカラム201aの先端部301aの近傍に位置させ、平板電極604b(第2の電極部)を試料202の近傍に位置させることも可能である。
【0040】
なお、イオンビーム301cの軌道を曲げるという目的において電極部204の支持方法は問わない。例えば、電極支持用のユニットを新規に用意してもよいし、マイクロサンプリングプローブの代わりに電極を取り付けてもよい。もちろん、マイクロサンプリングプローブ自体を電極の代わりしてもよい。また、複数の試料ステージ219が備えつけられている場合には、試料ステージ219の1つに電極部204を支持してもよい。例えば、XYZの駆動機構、傾斜機構、および回転機構を備えた試料ステージ(ユーセントリックステージ)と(S)TEM共用試料ホルダとを備えた荷電粒子線装置において、イオンの軌道を曲げるための電極部204をユーセントリックステージに支持し、試料を(S)TEM共用試料ホルダに支持してもよい。この場合、電極部204を支持するステージの動作を電極制御器211で制御するように構成できる。
【0041】
また、上述した電極の例として、平板電極、球状電極、パラボラ形状電極の他に、多面体電極も適用可能である。
【0042】
(イオンビームの任意方向照射についての説明)
以上のような構成を有し、イオンビームが照射できる荷電粒子線装置に、イオンの軌道を曲げる電極を試料室に搭載する効果は、イオンビームを任意の方向から照射できることであり、以下、その説明を行う。
【0043】
重元素と軽元素が混在した試料をイオンビームで加工すると、スパッタレートの違いにより加工不均一になり、断面に筋ができる。例えば、重元素と軽元素が交互に試料の上部に存在する部分では、その部分のスパッタレートが低下し加工断面に筋ができる。この筋は、スパッタレートが均一になるようにイオンビームの照射方向を任意に変更することにより除去または軽減することが可能になる。
【0044】
また、(S)TEM用薄膜試料作製においては、試料の観察領域の下方に重元素の領域がくるようなイオンビーム照射方位をとることで、観察領域の表面荒れを防ぐことが可能である。
【0045】
本発明の第1の実施例によれば、このような照射方位からイオンビームを照射することが可能となる。
【0046】
また、イオンビーム照射によるダメージ層の除去を高効率で行うことが可能となる。
【0047】
図6の(A)は、本発明を採用しない場合のダメージ層の除去方法を示す。イオンビーム301bを用いて、試料202の表面202aを加工した場合、イオンビーム照射により、試料202には、ダメージ層721が形成される。このダメージ層721の除去に用いるイオンビーム301bは、主加工ビームと同一方向から照射するイオンビーム301bである。そのため、図6の(A)に示すように、イオンビーム301bの極々一部(イオンビーム301bの側部の一部)を用いてダメージ層221を除去することになる。そのため、非常に効率が悪い。
【0048】
これに対して、図6の(B)に示す本発明を適用した場合に例においては、平板電極304を図示した位置から移動した状態で、イオンビーム301bにより、試料202の表面202aを加工した後、試料202を移動し、かつ、平板電極304を図示した位置に移動して、イオンビーム301bを平板電極304で曲げて、ダメージ層721の照射することで、イオンビーム301bを無駄なく利用し効率よくダメージ層721を除去することができる。
【0049】
また、電極304の位置や傾きをコントロールし、試料202上の所望の領域に所望の角度で照射することで、表面の凹凸を除去することもできる。例えば、イオンビーム照射によって生成された表面荒れを効率よく除去することができる。その際、電極304の位置や傾きに加え、試料202の位置や傾きも合わせて調整してもよい。
【0050】
また、(S)TEM用薄膜試料作製において、特許文献4に示されているように垂直な加工断面を得るために試料を傾斜させてイオンビームを照射する方法が取られるが、イオンビームの照射方位を任意に選択することができれば、試料を傾斜させなくても垂直な加工断面を得ることができる。さらに、下方からイオンビームを照射することで、薄膜試料の厚くなっている部分(裾の部分)を集中的に除去することができ効率的である。
【0051】
さらに、イオンビームを任意方位から照射できる点は、観察面においても大きな利点である。例えば、傾斜機構や回転機構を持たない試料ステージにおいても様々な方向からのSIM像を取得することができる。例えば、カラム下方から観察したSIM像や、光軸に対して水平な方向から観察したSIM像の取得も可能である。その結果、試料の立体構造をより正確に分析することが可能になる。尚、SIM像取得方法として電極を検出器として用いてもよい。
【0052】
ところで、図1において、正の電圧を印加した電極204を試料202の近傍に配置した場合、試料202から放出された二次電子の多くは、電極204の電圧に引き寄せられ、検出器206に到達しない。そのため、検出器206ではSIM像の取得が困難となる。
【0053】
そこで、電流計測装置207を用いて、電極部204に到達する電流を測定し、測定された電流信号が電流計測装置用制御装置218を介して、統合コンピュータ213に供給される。そして、統合コンピュータ213が、電流計測装置用制御装置218から供給された電流信号に基づいて、SIM像を取得する。したがって、試料202の近傍に電極204を配置した場合においてもSIM像を取得することができる。
【0054】
また、負の電圧を印加した電極204を試料202の近傍に配置した場合には、試料202から放出された二次イオンにおいて上述と同様なことが言える。
【0055】
このように、本発明を用いることで、集束イオンビーム照射によって形成される非晶質層や観察断面の荒れを効率よく除去し、かつ加工状況をより正確に知ることが可能となる。
【0056】
(低倍率観察)
次に、本発明の第1の実施例により、低倍率の観察可能範囲を拡大可能であることを説明する。
【0057】
本発明の第1の実施例のように、イオンビームを迂回させて試料202に照射することで、イオンビームの移動距離を伸ばすことができる。イオンビームの走査可能範囲は、イオンビームカラム201aを出射してから試料202に到達するまでの距離に依存し、距離が長くなるほど観察領域は広くなる。
【0058】
従って、本発明の第1の実施例によれば、集束イオンビームの走査範囲を広げることができる。即ち、低倍率の観察可能範囲を広げることができる。この点は、視野探しを行なう上で優位である。また、より広範囲を加工したい場合にも利用可能である。
【0059】
以上のように、本発明の第1の実施例によれば、イオンビームカラム201aの中心軸の延長線に沿う方向の位置、直交する方向の位置や傾斜角度α(イオンビームカラム201aの中心軸の延長線と直交する面に対する傾斜角度)を調整可能な電極304、404、504などの電極204を、試料室203内に配置し、電極304等により、曲げられたイオンビーム301cを試料202の表面に照射するように構成したので、イオンビームを試料表面の所望の領域に、試料表面に対して広範囲の任意の角度で照射可能な荷電粒子線装置及び荷電粒子線照射方法を実現することができる。
【0060】
以上のように、本発明の第1の実施例によれば、FIB加工時にイオンビーム照射面に形成されるダメージ層や表面荒れを効率よく除去できる装置を提供することができる。
【0061】
さらに、イオンビームカラム201aから出射されたイオンビームの試料表面に到達するまでの距離を延長することが可能であり、走査範囲を拡大して、低倍率の観察範囲を拡大することができる。
【0062】
(第2の実施例)
(荷電粒子線装置の構成の説明)
図7は、本発明の第2の実施例が適用される荷電粒子線装置全体の概略構成図である。
【0063】
なお、第2の実施例における荷電粒子線装置は、第1の実施例の装置構成に加え、SEMカラム807aと、このSEMカラム807aの電子ビーム807bの走査を制御するための電子ビームスキャン制御器818とを備えており、他の構成は第1の実施例と同等となっている。
【0064】
また、SEMカラム807aは、電子ビームを発生するための電子源や、電子ビームを集束するためのレンズ、電子ビームを走査、シフトするための偏向系など、SEMに必要な構成要素を全て含んだ系である。
【0065】
本発明の第2の実施例による荷電粒子線装置は、FIB加工した試料202の断面をその場でSEM観察できる装置である。
【0066】
なお、本発明の第2の実施例では、イオンビームカラム201aを垂直配置し、SEMカラム807aを傾斜配置しているが、これに限られず、イオンビームカラム201aを傾斜配置し、SEMカラム807aを垂直配置してもよい。また、イオンビームカラム201aとSEMカラム807aの双方を傾斜配置してもよい。
【0067】
また、Ga集束イオンビームカラム、Ar集束イオンビームカラム、及び電子ビームカラムを備えた、トリプルカラム構成としてもよい。また、本発明の第2の実施例では、SEM像を得るための検出器と、検出した情報を統合コンピュータに提供する検出器用制御器と、検出信号に基づいて生成されたSEM画像を表示するディスプレイは、SIM像用のものと同一のものを用いる構成としているが、SEM像を取得・表示する機構として、1つまたは複数の検出器、検出器用制御器、ディスプレイを備えてもよい。
【0068】
(加工状況のSEM観察)
本発明の第2の実施例における加工状況のSEM観察について説明する。
【0069】
SEMカラム807aを備えた荷電粒子線装置である本発明の第2の実施例においては、電子の軌道を曲げて試料202に照射することでイオンビーム201bの加工状況を様々な方位からSEM観察することができる。
【0070】
試料202の表側の面を観察する場合は、図7に示すように、SEMカラム807aからの電子ビーム807bを試料202の表側面に照射して、加工状況をSEM観察することができる。
【0071】
また、例えば、図8に示すように、パラボラ形状電極904をSEMカラム807aからの電子線807cの軌道を曲げて、イオンビームカラム201aの先端部301aから出射されたイオンビーム301cが照射される位置に配置された試料202に向かうように配置する。これにより、SEMカラム807aから見て、試料202の裏側の面923を観察することができ、薄膜試料202の両面において加工状況をより正確に把握することができ、試料加工精度を向上させることができる。
【0072】
ただし、イオンビーム201b照射による試料加工中に、SEMカラム807aから見て裏側の試料面923をSEM観察する場合には、イオンビーム301cの加速電圧を電子ビーム807cの加速電圧より高くする方が望ましい。そうすることで、イオンビーム301cには殆んど影響を及ぼすことなく、図8に示すような電子の軌道を実現することができる。
【0073】
一方、電極204によって軌道を曲げられたイオンビーム201bを用いて加工を行っている最中にSEM観察を行う場合には、イオンビーム201bの加速電圧よりも電子ビーム807bの加速電圧を高く設定する方が望ましい。そうすることで、電子ビーム807bには殆んど影響を及ぼすことなくイオンビーム加工中のSEM観察を実現することができる。
【0074】
また、電子ビーム807bを迂回させて試料202に照射することで、電子ビーム807bの移動距離を伸ばすことができる。これにより、SIM観察の場合と同様、SEM観察においても低倍率の観察可能範囲を拡大することができる。
【0075】
本発明の第2の実施例によれば、第1の実施例と同様の効果を得ることができる他、上述したように、イオンビームによる加工中の試料表面の所望位置をSEMにより観察することができる。
【0076】
なお、本発明の第1、第2の実施例ともに、荷電粒子の軌道を変えるために電場を用いたが、磁場を用いても荷電粒子の軌道を変えることができる。例えば、コイルや永久磁石を試料室に設置することで荷電粒子の軌道を変えることもできる。
【0077】
また、最先端デバイスや機能材料の高品位な薄膜試料作製が可能となり、加工効率が飛躍的に向上するとともに、(S)TEMにおける解析精度も飛躍的に向上する。
【0078】
さらに、FIB−SEM装置では、試料の表面だけでなく、裏面もSEM観察できる装置を提供する。薄膜試料作製において、試料を動かすことなく両面を観察することが可能となり、薄膜試料の加工精度および加工再現性が飛躍的に向上する。
【符号の説明】
【0079】
201a:イオンビームカラム、201b、301b、301c:イオンビーム、202:試料、202a:試料表面、203:試料室、204:電極部、205:電圧供給装置、206:検出器、207:電流計測器、211:電極制御器、212:電圧制御器、213:統合コンピュータ、214:イオンビームスキャン制御器、215:検出器用制御器、216:コントローラ、217:ディスプレイ、218:電流計測装置用制御装置、219:試料ステージ、721:ダメージ層、301a:イオンビームカラムの先端部、301b、301c:イオンビーム、304、604a:平板電極、404、604a:球状電極、504、904:パラボラ電極、807a:走査電子顕微鏡カラム、807b:電子ビーム、807c:電子ビーム、818:電子ビームスキャン制御器、923:試料裏面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試 イオンビームを照射するイオンビームカラムと、
上記イオンビームカラムが取り付けられた試料室と、
上記試料室内に配置され、試料を支持する試料ステージと、
上記試料室内に配置され、上記イオンビームカラムから発生されたイオンビームの軌道を変更し、上記試料ステージに支持される試料に照射させる電極部と、
上記電極部を上記試料室内で移動させる電極部移動制御部と、
上記電極部に電圧を供給する電圧供給部と、
を備えることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項2】
請求項1に記載の荷電粒子線装置において、
上記電極部移動制御部は、上記電極部の位置及び傾斜角度を制御することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項3】
請求項2に記載の荷電粒子線装置において、
上記電極部は、上記電極部が、上記イオンビームカラムから見て、上記試料ステージに支持される試料よりも下方に位置させて、イオンビームを上記試料に照射させることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項4】
請求項2に記載の荷電粒子線装置において、
上記電極部は、平板状の電極を有することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項5】
請求項2に記載の荷電粒子線装置において、
上記電極部は、球状の電極を有することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項6】
請求項2に記載の荷電粒子線装置において、
上記電極部は、放物曲面形状の電極を有することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項7】
請求項2に記載の荷電粒子線装置において、
上記電極部は、多面体の電極を有することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項8】
請求項1に記載の荷電粒子線装置において、
上記電極部は、上記イオンビームカラムの近傍に位置する第1の電極部と、上記試料ステージの近傍に位置する第2の電極部とを有することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項9】
請求項1に記載の荷電粒子線装置において、
上記電極部に到達する二次イオン又は二次電子を検出する電流計測部と、この電流計測部により計測された二次イオン又は二次電子に基づいて、走査型イオン顕微鏡像を形成する統合コンピュータとを備えることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項10】
イオンビームを照射するイオンビームカラムと、
上記イオンビームカラムが取り付けられた試料室と、
上記試料室内に配置され、試料を支持する複数の試料ステージと、
上記試料室内に配置された上記複数の試料ステージのうちの一つに配置され、上記イオンビームカラムから発生されたイオンビームの軌道を変更し、上記複数の試料ステージのうちの他のステージに支持される試料に照射させる電極部と、
上記電極部を上記試料室内で移動させる電極部移動制御部と、
上記電極部に電圧を供給する電圧供給部と、
を備えることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項11】
請求項10に記載の荷電粒子線装置において、
上記電極部移動制御部は、上記電極部の位置及び傾斜角度を制御することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項12】
請求項10に記載の荷電粒子線装置において、
上記電極部移動制御部は、上記電極部が、上記イオンビームカラムから見て、上記試料ステージに支持される試料よりも下方に位置させて、イオンビームを上記試料に照射させることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項13】
請求項1に記載の荷電粒子線装置において、
電子ビームを上記試料ステージに支持される試料又は上記電極部に照射する走査電子顕微鏡カラムと、この走査電子顕微鏡カラムから照射される電子ビームの走査を制御する電子ビームスキャン制御部とを備えることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項14】
イオンビームを照射するイオンビームカラムと、上記イオンビームカラムが取り付けられた試料室と、上記試料室内に配置され、試料を支持する試料ステージとを有する荷電粒子線装置における荷電粒子線照射方法において、
上記イオンビームカラムから発生されたイオンビームの軌道を、上記試料室内に配置され、電圧が供給される移動可能な電極部により、上記イオンビームカラムの中心軸の延長線となす角度を変更し、上記イオンビームを上記試料ステージに支持される試料に照射することを特徴とする荷電粒子線照射方法。
【請求項15】
請求項14に記載の荷電粒子線照射方法において、
上記電極部の位置及び傾斜角度を制御することを特徴とする荷電粒子線照射方法。
【請求項16】
請求項15に記載の荷電粒子線照射方法において、
上記電極部移動制御部は、上記電極部が、上記イオンビームカラムから見て、上記試料ステージに支持される試料よりも下方に位置させて、イオンビームを上記試料に照射させることを特徴とする荷電粒子線照射方法。
【請求項17】
請求項15に記載の荷電粒子線照射方法において、
上記イオンビームカラムの近傍に位置する第1の電極部と、上記試料ステージの近傍に位置する第2の電極部とを用いて、上記イオンビームの照射方向を変更することを特徴とする荷電粒子線照射方法。
【請求項18】
請求項14記載の荷電粒子線照射方法において、
上記電極部に到達する二次イオン又は二次電子を電流計測部により検出し、この電流計測部により計測された二次イオン又は二次電子に基づいて、走査型イオン顕微鏡像を形成することを特徴とする荷電粒子線照射方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−123942(P2012−123942A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−271806(P2010−271806)
【出願日】平成22年12月6日(2010.12.6)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】