説明

蒸着用ボートとこれを使用した成膜方法

【課題】材料ワイヤが空中で溶解して発生する飛沫を排除でき、しかも材料蒸発領域が縮小しない蒸着用ボートを提供することを目的とする。
【解決手段】プール2の一端3aの近傍の材料供給部9aがこの材料供給部の他端3bの側に接続された材料蒸発部10よりも低温になるように、プール2の材料蒸発部10の裏面に、断面積が均一な平坦部14と、平坦部14と材料供給部9aとを接続する勾配部15aを設け、勾配部15aを、一端3aから他端3bに向かう方向に断面積が大きくなるよう形成して温度分布を形成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜材料を加熱蒸発させる蒸着用ボートに関する。
【背景技術】
【0002】
基板の上に薄膜を形成する代表的な方法として、真空蒸着法がある。
この方法は、被覆室内を真空状態にし、内部で成膜材料を高温蒸発させることにより、被覆室の上部に設けられた基板に薄膜を形成するというものである。成膜された基板は、その膜の特性を生かし、半導体をはじめ、各種の高機能デバイスとして利用されている。
【0003】
真空蒸着装置の加熱装置(蒸発源)には、抵抗加熱法や電子衝撃法、高周波誘導加熱法によるものが用いられるが、簡便な抵抗加熱法の普及率が高い。
そして、抵抗加熱用蒸発源は、その形状により、スパイラル型,ボート型,ボックス型,るつぼ型などに分類される。このうち、ボート型蒸発源の蒸着用ボートの形状は、薄膜材料を収容する有底孔を表面側に設けた厚板状のものが一般的であり、薄膜材料の形状を選ばず対応可能であるという利点がある。
【0004】
また、蒸発用ボートは、高融点金属やそれらの合金あるいはグラファイトやセラミックなどが用いられ、蒸発源材料表面が熱分解窒化ホウ素(PBN)や窒化ホウ素(BN)によりさらに被覆される。
【0005】
図12は、真空蒸着装置(図示せず)中に配置される蒸着用ボートの設置例である。
PBNコートされたグラファイト製の蒸着用ボート1aの表面中央に、有底孔としてプール2が形成されている。蒸着用ボートの両端3a,3bには、通電加熱用の一対の電極4a,4bが接続される。図13(a)は蒸着用ボート1aの上面図、図13(b)は断面図を示している。
【0006】
この蒸着用ボート1aのプール2には、材料ワイヤガイド5から薄膜材料として材料ワイヤ6が供給される。材料ワイヤ6は、リール7に巻き上げられており、送出ローラ8の回転によりワイヤガイド5に沿って繰り出され、材料ワイヤ6の先端がプール2に到達する。このとき、蒸着用ボート1aは、電極4a,4bの通電によるコンポジットヒータとなり、プール2内の材料に対して加熱が行われる。繰り出される材料ワイヤ6の先端を、プール2において所定蒸気圧での融点以上に加熱することにより、連続的に供給される材料ワイヤ6が溶融状態でプール2中に収容される。そして、この際に蒸着用ボート1aの上方を蒸発方向とした蒸発が継続的に行われる。
【0007】
このような真空蒸着プロセスにおいて生成された膜はデバイスの機能と直結するため、生産性・歩留まり向上のためには、いかにして均一な膜を効率的に生成するかが重要となるが、そのためには、特に蒸着用ボートへの蒸発粒子の安定した供給が要求される。
【0008】
このような蒸着用ボート1aを用いた場合、材料供給部9aの温度と材料蒸発部10の温度差があまりなく、材料供給部9aの温度が上昇し過ぎてしまう。これにより、材料ワイヤガイド5から送り出された材料ワイヤ6が空中で溶解し、それが蒸着用ボート1aの上に滴下して発生した飛沫が、均一な成膜を妨げる問題がある。
【0009】
この問題の解決法として、特許文献1には図14(a)(b)の蒸着用ボート1bが記載されている。この蒸着用ボート1bでは、材料ワイヤ6への輻射熱を低減して空中からの材料滴下を抑制するために、空孔11a,11bがプール2に隣接して形成されている。しかし、この構成では、飛沫の発生に対して本質的に問題となる材料供給部9aからの熱量は変わらず、大きな効果は得られない。
【0010】
また、特許文献2には図15(a)(b)に示す蒸着用ボート1cが記載されている。この蒸着用ボート1cでは、電気的なエネルギに接続する蒸着用ボート1cの両端部3a,3bよりも大きな断面積を有しプール2の底部よりも高く突出した加熱面12を、プール2の中央域に加熱面12が形成されている。溶融されるべき材料ワイヤ6は、蒸着用ボート1cの中央域で加熱面12に供給され、材料ワイヤ6の端部が加熱面12の発熱で溶融されて、加熱面12の両側のプール2に流入させるように構成されている。つまり、加熱面12は、比較的大きな横断面に基づいて電気的な抵抗をその他の領域よりも小さくする。その結果、蒸着用ボートの線材供給域はその他の領域よりも熱くはならず、これにより、材料ワイヤ6の先端の極端に早い溶融、延いては、溶解した材料ワイヤ6の飛沫を排除しようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−194539号公報
【特許文献2】特開2003−213403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら特許文献2の構成では、飛沫形成を防ぐことは可能であるが、加熱面12がプール2の中央域に形成されているため、材料蒸発領域が加熱面12によって二分されるため、成膜ムラを生じる虞がある。また、加熱面12の周辺の温度が低下し、材料蒸発領域が縮小するといった新たな課題が発生する。
【0013】
本発明は、材料蒸発領域が縮小することが無く、しかも材料ワイヤが空中で溶解して発生する飛沫の発生を排除できる蒸着用ボートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の蒸着用ボートは、供給された薄膜材料を溶融させる材料供給部と前記材料供給部から溶融した薄膜材料が流入する材料蒸発部を有するプールがボート本体に形成され、前記ボート本体の一端と他端の間に通電して前記材料蒸発部の薄膜材料をその蒸発温度以上に加熱する蒸着用ボートであって、前記プールの前記材料供給部の裏面または側面に、前記材料蒸発部の裏面または側面よりも断面積が大きくなる突起部を一体に形成したことを特徴とする。
【0015】
また、前記プールの前記材料蒸発部の裏面または側面に、断面積が前記一端と前記他端を結ぶ長手方向に均一または略均一な平坦部と、前記平坦部と前記材料供給部とを接続し前記一端から前記他端に向かう方向に断面積が大きくなる勾配部を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ボート本体に突起部を一体に形成したので、前記突起部によって、前記プールの材料供給部の温度を材料供給部よりも低温にすることができ、材料供給部に外部から供給される薄膜材料が空中で溶解して落下する飛沫を解消することができ、材料蒸発部から蒸発する薄膜材料を安定にできる。さらに、突起部を前記プールの材料供給部の裏面または側面に設けているため、材料蒸発領域の縮小が発生しない。
【0017】
また、勾配部を設けた場合には、材料供給部の温度低減による材料蒸発部の極端な温度低下を回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態1における実施例1の蒸着用ボートの斜視図
【図2】実施例1の蒸着用ボートの上面図と断面図
【図3】同実施の形態における温度分布シミュレーション結果図
【図4】比較例の蒸着用ボートを示した上面図と断面図
【図5】本発明の実施の形態2における実施例2の蒸着用ボートの斜視図
【図6】同実施の形態における蒸着用ボートの上面図と断面図および側面図
【図7】本発明の実施の形態3における実施例3の蒸着用ボートの斜視図
【図8】同実施の形態における蒸着用ボートの上面図と断面図
【図9】同実施の形態における温度分布シミュレーション結果図
【図10】本発明の実施の形態4における実施例4の蒸着用ボートの断面図と実施例5の蒸着用ボートの上面図
【図11】本発明の実施の形態5における実施例6の蒸着用ボートの上面図
【図12】一般的な真空蒸着装置の概略図
【図13】従来例の蒸着用ボートの上面図と断面図
【図14】別の従来例の蒸着用ボートの上面図と断面図
【図15】更に別の従来例の蒸着用ボートの上面図と断面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の各実施の形態を図1〜図11に基づいて説明する。
(実施の形態1)
図1と図2(a)(b)は本発明の実施例1の蒸着用ボートを示す。
【0020】
この蒸着用ボート1dは、主要部がグラファイト製のボート本体Mの一端3aと他端3bを結ぶ長手方向に伸びる上面Uに、溶融した薄膜材料を溜めるプール2が形成されている。プール2の裏面で前記一端3aの近傍に、図2(b)に示すように前記他端3bよりも断面積が大きくなる突起部13aが一体に形成されている。プール2の裏面で前記他端3bの近傍に、図2(b)に示すように突起部13aよりも断面積が小さい平坦部14が形成されている。プール2の裏面で突起部13aと平坦部14の間には、図2(b)に示すように突起部13aから平坦部14に近付くにつれて断面積が次第に大きくなる勾配部15aが形成されている。ここでは図2(a)に示すように材料供給部9a,材料蒸発部10,勾配部15aの幅は何れも同じであって、前記長手方向に垂直な面での断面積は、材料供給部9a,材料蒸発部10,勾配部15aの順に小さい。
【0021】
また、勾配部15aの断面積は、材料供給部9aの側で最も小さくなり、材料蒸発部10に近付くに従って大きくなり、材料蒸発部10との接続個所で材料蒸発部10の断面積と一致している。
【0022】
この蒸着用ボート1dのボート本体Mは、グラファイトによって一体に成形し、さらに表面が熱分解窒化ホウ素(PBN)や窒化ホウ素(BN) によりさらに被覆されている。ボート本体Mの加熱は、一端3aと他端3bの間に通電して抵抗加熱法によって、プール2の薄膜材料をその蒸発温度以上に加熱する。
【0023】
図3の温度分布T1は電気・伝熱シミュレーションにより得られた蒸着用ボート1dの表面の温度分布を示す。横軸をプール2の一端3aからの距離、縦軸に表面温度を表している。詳しくは、一端3aには外部から供給された材料を溶融する温度分布が1200℃〜1300℃の材料供給部9aが形成されている。材料供給部9aに続いて他端3bの間には、材料供給部9aから流れ込んだ薄膜材料を蒸発させる1300℃〜1500℃の材料蒸発部10が形成されている。勾配部15aの断面積は、材料供給部9aの側で最も小さくなり、材料蒸発部10に近付くにしたがって大きくなり、材料蒸発部10との接続個所で材料蒸発部10の断面積と一致している。
【0024】
ここでは薄膜材料としてアルミニウムを取り扱う場合を想定しており、図3の1400℃の表示温度T0は、溶融している薄膜材料が蒸発するために最低限必要な温度を表しており、蒸着用ボート表面温度がこの温度以上となった場合に成膜が行われるものとする。
【0025】
グラファイトによって一体に成形された突起部13aは、材料供給部9aの温度を材料蒸発部10の1300℃〜1500℃の温度分布よりも低温の温度分布にする働きがあり、突起部13aに隣接して設けられた勾配部15aは、材料供給部9aから材料蒸発部10にかけての温度勾配が大きくなり、材料蒸発部10の温度低下を最小限に抑えることが出来、材料蒸発領域の縮小を防ぐことが出来る。平坦部14には、突起部13aによる材料蒸発領域の縮小効果を低減する働きがある。
【0026】
図3の温度分布T2は図13で示した従来の蒸着用ボートの温度分布、温度分布T3は図13で示した従来の蒸着用ボート1aに突起部13aのみを設けた図4(a)(b)に示した比較例の蒸着用ボート1eの温度分布である。温度分布T1,T2,T3の何れの場合にも材料供給部9aは、プール端部0〜10mmの範囲、材料蒸発部はプール端部から10〜80mmの範囲として規定する。
【0027】
また、実施例1の蒸着用ボートの突起部13aの断面積と勾配部15aの最小断面積の比は8.6、勾配部15aの最小断面積と平坦部14の断面積の比は0.48、勾配部15aと平坦部14の長さの比を0.23としている。
【0028】
図3を見ると、図13に示した従来の蒸着用ボート1aの温度分布T2は材料供給部9aで1300℃付近と高いのに対して、この実施の形態の蒸着用ボート1dの温度分布T1では、材料供給部9aの温度が1200℃付近となっており、底面部に突起部13aを設けた効果が十分にあらわれていることがわかる。この温度低減効果により、材料供給時の飛沫発生のリスクを低減できる。これは、図4に示した比較例の蒸着用ボート1eでも見られる効果であるが、その温度分布T3を見てみると、温度低減効果により材料蒸発領域である材料蒸発部10の温度も低下している。これでは飛沫の発生リスクの低減は達成されるものの、材料蒸発部10の材料蒸発領域が縮小しているため、図13に示した蒸着用ボート1aと比較して、生産性が悪化することは明らかである。
【0029】
これに対し、この実施例1の蒸着用ボート1aの温度分布T1は、材料供給部9aから材料蒸発部10にかけての温度勾配が急激に高くなっており、突起部13aによって材料蒸発領域を狭めることがないため、図13で示す公知の蒸着用ボートと同等の生産性を得られる。
【0030】
ただし、突起部13a、勾配部15a、平坦部14の寸法によっては、以上のような効果を得ることが出来ない可能性もあるため注意が必要である。例えば、突起部13aの断面積と勾配部15aの最小断面積の比は、図3で示す材料供給部9aの温度を決める要素となる。この比を8.0以上とすることによって、材料供給部9aの温度は図13で示す公知の蒸着用ボートと比較して、およそ100℃以上の温度低減効果が見込める。材料供給部9aの温度は、使用材料の融点以上である必要があるが、材料蒸発部10の温度と比較して低いほど良い。
【0031】
また、勾配部15aの最小断面積と平坦部14の断面積の比、および勾配部15aと平坦部14の長さの比は、勾配部15aに対する材料蒸発部10の相対温度を決める要素となる。前者の比が0.45より小さい、もしくは後者の比が0.3より大きいと、平坦部14の抵抗値が低くなり、勾配部15aと比較して発熱量が減る。逆に、前者の比が0.55より大きい、もしくは後者の比が0.2より小さいと、平坦部14の抵抗値が大きくなり、勾配部15aと比較して発熱量が増える。どちらにしても、蒸着用ボート1d全体として温度勾配が大きくなってしまうため、蒸発量の均一性は悪化する、もしくは材料蒸発領域が縮小してしまう虞がある。
【0032】
以上のような傾向に注意して各寸法を決定する必要があるが、前記のシミュレーション条件のように、突起部13aの断面積と勾配部15aの最小断面積の比は8.0以上、勾配部15aの最小断面積と平坦部14の断面積の比は0.45以上0.55以下、勾配部15aと平坦部14の長さの比は0.2以上0.3以下とすれば前記の効果は得られる。結果として、例えば、材料供給部の温度低減のために突起部13aを設けた図4に示した比較例の蒸着用ボート1eでは、実施例1に見られた勾配部15aが設けられていないため、この勾配部による材料蒸発領域の縮小防止効果がないため、材料蒸発領域は約20%の縮小が見込まれ、このままの構成では好ましくない。
【0033】
なお、図4に示した比較例のように突起部13aとは別に勾配部15aを設けない場合であっても、突起部13aの形状を特殊にすることによって、温度分布を実施例1に近付けられることを後述の実施の形態4において詳しく説明する。
【0034】
(実施の形態2)
図5と図6(a)(b)(c)は本発明の実施例2の蒸着用ボートを示す。
実施例1では突起部13aがプール2の裏面に突出して形成されていたが、この実施例2では、突起部13aa,13abがプール2の側面に突出して形成されている点が実施例1と異なっている。
【0035】
蒸着用ボート1fはプール2と蒸着用ボート1fの両側面に設けられた突起部13aa,13abと突起部13aa,13abに隣接して設けられた勾配部15aa,15ab、さらに勾配部15aa,15abに隣接して設けられた平坦部14からなる。
【0036】
蒸発面積を維持するため、突起部13aa,13abの断面積と勾配部15aa,15abの最小断面積の比は8.0以上、勾配部15aa,15abの最小断面積と平坦部14の断面積の比は0.45〜0.55、勾配部15aa,15abと平坦部14の長さの比は0.2〜0.3が望ましい。
【0037】
得られる効果としては、実施例1と同様であるが、実施例1と比べ、蒸着用ボート幅方向長さが大きくなるため、十分に幅方向長さをもった被覆室内で単独もしくは複数使用する方が望ましい。
【0038】
(実施の形態3)
図7と図8(a)(b)は本発明の実施例3の蒸着用ボートを示す。
図1と図2(a)(b)に示した実施例1では、プール2の前記一端3aの側にだけ材料供給部9aが形成されていたが、この実施例3の蒸着用ボート1gでは、プール2の前記他端3bの側にも材料供給部9bが形成されている。
【0039】
つまり、プール2には、材料蒸発部10を挟んで前記他端3bの近傍に材料蒸発部10に接続された第2材料供給部としての材料供給部9bを設け、プール2の裏面で前記他端3bの近傍に、平坦部14よりも断面積が大きい第2突起部としての突起部13bを一体に形成して、プール2に前記長手方向に温度分布を形成し、平坦部14と材料供給部9bとを接続する第2勾配部としての勾配部15bを設け、勾配部15bを、前記一端3aに近付く方向に断面積が大きくなるよう形成したものである。
【0040】
突起部13a,13bの断面積と勾配部15a,15bの最小断面積の比は8.0以上、突起部13a,13bの最小断面積と平坦部14の断面積の比は0.45〜0.55、勾配部15a,15bと平坦部14の長さの比は0.2〜0.3が望ましい。
【0041】
このような蒸着用ボート11gは、材料供給部9a,9bにそれぞれ材料ワイヤ6を送り込んでプール2に薄膜材料を連続供給することができ、生産性が向上する。
蒸着用ボート11gの表面の温度分布T4の一例を図9に示す。
【0042】
図9は、図3と同様に横軸をプール端部からの距離、縦軸に蒸着用ボート表面温度を表しており、電気・伝熱シミュレーションにより算出した蒸着用ボート表面温度の分布図である。突起部13a,13bの断面積と勾配部15a,15bの最小断面積の比は8.6、勾配部15aの最小断面積と平坦部14の断面積の比は0.48、勾配部15a,15bと平坦部14の長さの比を0.23としている。また、シミュレーションの材料条件として、蒸着用ボートの材質はグラファイトとし、薄膜材料としてアルミニウムが溶けた状態を想定している。T2は図13に示した従来の蒸着用ボート1aの温度分布である。
【0043】
いま、材料供給部9aはプール端部0〜10mmの範囲、材料供給部9bは80〜90mmの範囲とし、材料蒸発部10はプール端部から10〜80mmの範囲として規定する。また、材料蒸発下限温度T0を1400℃とし、蒸着用ボート表面温度が材料蒸発下限温度T0以上となった場合に成膜が行われるものとする。
【0044】
図9を見てみると、実施例1と同様に、材料供給部9a,9bでの温度低下が実現されており、かつ材料蒸発領域の縮小が発生していないことがわかる。
(実施の形態4)
図10(a)(b)は本発明の実施例4,実施例5の蒸着用ボートを示す。
【0045】
図1と図2(a)(b)に示した実施例1では、突起部13a,勾配部15a,平坦部14をプール2の裏面に設けることで目的とする温度分布と広い材料蒸発領域を得ることができたが、図10(a)に示した実施例4の蒸着用ボート1hには、突起部13aとは別に勾配部15a(仮想線で図示)が設けられていない。
【0046】
この実施例4の突起部13aの形状は、実施例1の突起部13aの形状とは異なり、材料蒸発部10に近付くに伴って断面積が減少するように勾配面16が形成されている。これによって、図4に示した比較例の場合よりもさらに実施例1に近づけた温度分布を実現できる。
【0047】
図5と図6(a)〜(b)に示した実施例2では突起部13aa,13ab,勾配部15aa,15ab,平坦部14をプール2の側面に設けることで目的とする温度分布と広い材料蒸発領域を得ることができたが、図10(b)に示した実施例5の蒸着用ボート1iには、突起部13aa,13abとは別に勾配部15aa,15ab(仮想線で図示)が設けられていない。
【0048】
この実施例5の突起部13aa,13abの形状は、実施例2の突起部13aa,13abの形状とは異なり、材料蒸発部10に近付くに伴って断面積が減少するように勾配面16aa,16abが形成されている。これによって、図4に示した比較例の場合よりもさらに実施例1に近付いた温度分布を実現できる。
【0049】
(実施の形態5)
図11は本発明の実施例6の蒸着用ボートを示す。
図5と図6(a)〜(c)に示した実施例2ではボート本体Mの前記一端3aにだけ材料供給部9aを設けたが、図11に示した実施例6の蒸着用ボート1jの場合には、ボート本体Mの前記他端3bにも材料供給部9bを有している点が異なっている。
【0050】
実施例6では、一端3aの付近のプール2の側面に突起部13aa,13ab,勾配部15aa,15abを形成し、他端3bの付近のプール2の側面にも突起部13ba,13bb,勾配部15ba,15bbを形成することによって、実施例3と同様の温度分布を実現できる。
【0051】
この実施例6では突起部13aa,13abとは別に勾配部15aa,15abを形成し、突起部13ba,13bbとは別に勾配部15ba,15bbを形成したが、図10(b)に示した実施例5の場合と同様に、突起部13aa,13ab,13ba,13bbに、材料蒸発部10に近付くに伴って断面積が減少するように勾配面を形成することによっても、目的とする温度分布と広い材料蒸発領域を得ることができる。
【0052】
上記の各実施の形態の平坦部14は、前記長手方向に断面積が均一であるとして説明したが、平坦部14の表面に数ミリメートル以内の凹凸を形成して前記長手方向に断面積が略均一であっても同様の効果を期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、真空蒸着に限らず、各種のデバイス製造工程での成膜工程の歩留まり向上および生産性の向上に寄与する。
【符号の説明】
【0054】
M ボート本体
U 上面
1d,1f,1g,1h,1i,1j 蒸着用ボート
2 プール
3a 一端
3b 他端
6 材料ワイヤ
9a 材料供給部
9b 材料供給部(第2材料供給部)
10 材料蒸発部
13a 突起部
13b 突起部(第2突起部)
13aa,13ab 突起部
14 平坦部
15a 勾配部
15aa,15ab 勾配部
15b 勾配部(第2勾配部)
16 勾配面
16aa,16ab 勾配面
T0 溶融材料が蒸発するために最低限必要な温度
T1 蒸着用ボート1dの表面の温度分布
T2 図13で示した蒸着用ボートの温度分布
T3 比較例の蒸着用ボート1eの温度分布
T4 蒸着用ボート11gの表面の温度分布

【特許請求の範囲】
【請求項1】
供給された薄膜材料を溶融させる材料供給部と前記材料供給部から溶融した薄膜材料が流入する材料蒸発部を有するプールがボート本体に形成され、前記ボート本体の一端と他端の間に通電して前記材料蒸発部の薄膜材料をその蒸発温度以上に加熱する蒸着用ボートであって、
前記プールの前記材料供給部の裏面または側面に、前記材料蒸発部の裏面または側面よりも断面積が大きくなる突起部を一体に形成した
蒸着用ボート。
【請求項2】
前記突起部の形状を、前記材料蒸発部に近付くにつれて断面積が小さくなるよう成形した
請求項1記載の蒸着用ボート。
【請求項3】
前記プールの前記材料蒸発部の裏面または側面に、断面積が前記一端と前記他端を結ぶ長手方向に均一または略均一な平坦部と、前記平坦部と前記材料供給部とを接続し前記一端から前記他端に向かう方向に断面積が大きくなる勾配部を設けた
請求項1記載の蒸着用ボート。
【請求項4】
前記一端と前記他端を結ぶ長手方向に垂直な面での断面積が、前記材料供給部,前記材料蒸発部,前記勾配部の順に小さい
請求項3記載の蒸着用ボート。
【請求項5】
前記勾配部の断面積は、材料供給部の側で最も小さくなり、材料蒸発部に近付くにしたがって大きくなり、材料蒸発部との接続個所で材料蒸発部の断面積と一致している
請求項4記載の蒸着用ボート。
【請求項6】
前記材料供給部の断面積と、前記勾配部の最小断面積の比が8.0以上である
請求項4に記載の蒸着用ボート。
【請求項7】
前記勾配部の一番小さい部分において、前記勾配部の断面積と前記材料蒸発部の断面積の比が0.45以上0.55以下である
請求項4に記載の蒸着用ボート。
【請求項8】
前記勾配部の前記長手方向の長さと、前記材料蒸発部の前記長手方向の長さの比が0.20以上0.30以下である
請求項4に記載の蒸着用ボート。
【請求項9】
前記プールには、前記材料蒸発部を挟んで前記他端の近傍に前記材料蒸発部に接続された第2材料供給部を設け、
前記プールの裏面または側面で前記他端の近傍に、前記平坦部よりも断面積が大きくなる突起部を一体に形成し、
前記平坦部と前記第2材料供給部とを接続する第2勾配部を設け、前記第2勾配部を、前記他端に向かう方向に断面積が大きくなるよう形成した
請求項3〜請求項6の何れかに記載の蒸着用ボート。
【請求項10】
請求項1〜請求項7のいずれかに記載の蒸着用ボートの材料供給部に薄膜材料を供給して前記薄膜材料を溶融し、溶融した前記薄膜材料を材料蒸発部へ導き、前記材料蒸発部で前記薄膜材料を蒸発させて被対象物に前記薄膜材料の薄膜を蒸着する
成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−188692(P2012−188692A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−52268(P2011−52268)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】