説明

蒸着装置

【課題】蒸着材料の供給時に発生する飛沫を抑え、さらに液面の波紋の影響を低減し、蒸着材料のロスを少なくする蒸着装置を提供する。
【解決手段】真空室12内に、送りロール13と巻取りロール14を設けてベースフイルム15を走行させ、中途の冷却キャン16で定速回転させる。冷却キャン16の幅方向の長さはルツボ1と略同じ円筒状で、内部の冷却水でベースフイルム15の温度上昇による変形等を抑制する。ルツボ1を蒸着材料蒸発部分と、これに直角に設けた蒸着材料溶融部分で構成し、蒸着材料溶融部分で蒸着材料供給時に生じる波紋の影響を防ぎ安定な蒸着を行う。冷却キャン16を軟磁性部分16Aと非磁性部分16Bで構成し、1つの電子銃21から照射される蒸発,溶解用電子ビーム21A,21Bと、これを局部偏向することにより、蒸着材料を溶解,蒸発し、電子ビーム相互干渉による異常放電を抑え、ルツボ1を小さくし蒸着材料のロスを少なくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録テープなどの記録材料の蒸着に用いられる蒸着装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁気記録媒体の容量は、長時間記録や記録装置の小型化により、高容量化が求められてきた。磁気記録の中でコバルトを中心とするメタルテープは、現在DVC(Digital Video Cassette)に広く使われている。これには、Co,Co-Ni,Co-Crなどの合金が使われることが多い。そのため、低コスト化は必須の項目であり、高速にかつ安価に製造する方法が求められている。その目的のためには、歩留りと設備コストの低価格化は最重要項目である。記録媒体は一箇所の欠陥でもドロップアウトとなり、記録信号が書き込まれないために再生できないことになる。
【0003】
ドロップアウトの数は、少なければ少ないほど記録信号の品質がよくなり、より正しい再生がなされる。特に、デジタル信号の記録のためには、より欠陥の少ないものが要求されてきている。記録材料の製膜方法には幾つかあるが、現在はコストの観点からと高速生産が可能な蒸着による製造が一般的である。蒸着による製造法で歩留りを悪くする最大のものは、突起と呼ばれる欠陥である。
【0004】
この欠陥は、蒸着基材(記録媒体の基材)に付着したゴミや基材製造時にできる異常突起や凹みに起因するものもあるが、蒸着時にできるものも多い。その中でもスプラッシュと呼ばれる蒸着材料の供給時や突然に起こる突沸などにより、記録材料の小さい塊が蒸着基材に付着する欠陥が多い。このスプラッシュにより、均一な膜とならないで突起となる。
【0005】
この欠陥を防止する方法が幾つか提案されている。その一例として、図13のように、蒸着材料のペレットをホッパー9から傾斜させた供給路5を通してルツボ101に供給する方法がある(例えば、特許文献1参照。)。この際、供給路5に湾曲部6,7を設けて、この湾曲で一旦減速させてからルツボ101に供給し、固体物が液体に供給された時に発生する飛沫を極力防止する。
【0006】
また、図14のように、ルツボ101に逆凸状の仕切り板2Aを設け、蒸着材料のペレット20が固体のまま液面を通過しないようにして、蒸着材料のペレット20が溶融材料の上を走らないようにした方法がある(例えば、特許文献2参照。)。
【0007】
また、図15のように、蒸着材料10を溶解専用電子ビーム4Bで溶融し、ルツボ101へ供給することにより、供給時に発生する飛沫や突沸を防止する方法がある(例えば、特許文献3参照。)。
【0008】
しかしながら、どの方法もスプラッシュの低減には一定の効果を得ることはできるが満足のいくものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3095534号公報
【特許文献2】特許第3707114号公報
【特許文献3】特公昭61−47221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述したように、蒸着による製造においては、歩留りを落とすスプラッシュが大きな課題である。スプラッシュの原因については、幾つかのはっきりした原因も知られている。例えば、連続蒸着による蒸着材料の減少を補うために、材料供給の方法は工夫されてきた。蒸着材料がペレット状の場合、電子ビームなどで加熱溶解された蒸着材料にペレットを落下させることになり、ペレットが静かに溶け込まずに溶融材料の上を走ったり爆発したりする。その際に、材料の飛沫が蒸着基材に付着し突起欠陥となる。
【0011】
そして、特許文献1のように、飛沫の発生を少なくするために、供給するペレットをソフトに落下させる、あるいは転がし入れるなどの方法が提案されている。また、特許文献2のように、ルツボに逆凸状の仕切り板を設け、蒸着材料が固体のまま液面を通過しないようにして、固体の蒸着材料が溶融した蒸着材料の上を走らないようにした方法が提案されている。
【0012】
しかし、前述のどの方法も、スプラッシュの低減には一定の効果を得ることはできるが、満足のいくものではない。また、一般的に民生用テープのドロップアウト数は60個/分以下が望ましい。これは、60個/分以下であれば、画像補正回路により、欠陥補正することができるからである。しかしながら、データ記録に使用されるテープでは、10個/分以下でないと、欠陥補正を行っても、記録の欠落につながる重大欠陥となる。現状方式では、民生用テープのドロップアウト数はクリアできるが、データ記録用テープのドロップアウト数をクリアすることはできない。
【0013】
また、特許文献3のように、蒸着材料を溶解専用電子ビームで溶融し、ルツボへ供給することによって、供給時に発生する飛沫や突沸を防止する方法がある。この方法はスプラッシュに対して、最も効果のある方法であるが、蒸発専用電子ビームと溶解専用電子ビームの装置2台が必要なため、設備コストが高くなることと、複数台の電子ビームを隣接して使用すると、電子ビームの相互干渉から異常放電の頻度が高くなり、異常放電による電子ビームのダウンにより、蒸着膜厚不良が発生する品質課題を有している。
【0014】
この課題を解決するためにルツボを長くして、溶融部分と蒸着部分の距離を開け、電子ビーム間距離を700mm以上確保するようにしている。しかし、このルツボを長くすることによって、蒸着材料の多大なロスが発生している。
【0015】
さらに、特許文献1の方法では飛沫の発生を少なくできても、落下時の溶融材料表面に発生する波紋をなくすことはできないという課題を有している。既に公知のように、スプラッシュの最大要因は、材料落下時の飛沫それと固体材料を溶融金属中に投入した時に静かに溶け込まず溶融材料の上を走ったり爆発したりした時に発生する材料の飛沫が蒸着機材に付着して突起欠陥になることが知られている。
【0016】
我々が鋭意研究した結果、それ以外にも蒸着材料が落下時の溶融材料表面で発生させる波紋がスプラッシュを発生させていることがわかった。スプラッシュのメカニズムは明確ではないが、波紋が影響していることは実験結果から明確である。特許文献1の方法では、飛沫の発生を少なくできても波紋の発生を抑えることができないために、波紋から発生するスプラッシュを抑えることはできない。
【0017】
また、特許文献2の方法は、波紋並びに溶融材料の上を走ったり爆発したりした時に発生するスプラッシュには有効であるが、飛沫の発生を抑えることはできないという課題を有している。飛沫防止の目的でルツボの上方に仕切り板を設けているが、斜方蒸着では蒸着材料が被蒸着物に付着する割合が10%未満とされており、残りの約90%が被蒸着物以外に付着する。このため、ルツボを長くすればするほど蒸着材料が無駄になるだけではなく、他の部位に付着した蒸着材料が熱による再溶融で溶け出し、ルツボ上に落下するために、スプラッシュの最大原因と考えられる飛沫や溶融材料表面にできる波紋の原因になる場合がある。
【0018】
特に、ルツボの上方に仕切り板等の板等を設ける方法(特許文献2)ではルツボからの距離が近く、仕切り板に付着した蒸着材料が輻射熱で再溶融して溶け出し、飛沫や溶融材料表面にできる波紋によりスプラッシュになる。
【0019】
また、前述したように特許文献3においても、ルツボを長くして、溶融部分と蒸着部分の距離を開けて、電子ビーム間距離を700mm以上確保しているが、このルツボを長くすることによって、蒸着材料の多大なロスが発生するだけでなく、材料のリサイクルの観点からも他部位への付着量が多くなり、多ければ多いほど回収に時間がかかるとともに不純物の混入などの弊害が発生し、分別回収が難しく、一部材料廃棄などにつながり、安価なものづくりの妨げになっている。
【0020】
前述したように、特許文献1,2,3に記載した現状方式では効果はあるが、なお欠陥が残るために不十分であるという課題がある。
【0021】
本発明は、前述した課題に鑑みて考案されたものであり、蒸着材料の供給時に発生する飛沫を抑え、さらに投入時の液面の波紋が蒸着に与える影響を低減するとともに、蒸着材料のロスをできるだけ少なくする蒸着装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
前記課題を解決するために本発明の請求項1に記載の蒸着装置では、蒸着層が形成される蒸着基材を搬送しながら冷却する冷却キャンと、前記蒸着層を形成する蒸着材料が充填されるルツボと、前記ルツボ内の蒸着材料に電子ビームを照射する電子ビーム照射手段とを備え、前記冷却キャンが、軸方向の一端の帯状部分が磁性を帯びた円筒形状であることを特徴とする。
【0023】
また、請求項2,3に記載の発明は、請求項1の蒸着装置において、冷却キャンの円筒状の軸方向で両端の帯状部分が磁性を帯びていること、さらに、冷却キャンの帯状部分の材質が軟磁性材料で構成されていることを特徴とする。
【0024】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1〜3の蒸着装置において、冷却キャンと同じ幅を有するルツボが、幅方向に伸びた蒸着材料蒸発部分と、幅方向と直角に伸びた蒸着材料溶融部分とを有することを特徴とする。
【0025】
また、請求項5〜8に記載の発明は、請求項4の蒸着装置において、ルツボの蒸着材料溶融部分が、蒸着材料蒸発部分の両端にあること、さらに、ルツボの蒸着材料蒸発部分と蒸着材料溶融部分とを連通する仕切り板で仕切られていること、さらに、仕切り板がルツボの壁から突堤のように突き出た壁であり蒸着材料蒸発部分と蒸着材料溶融部分とがつながっていること、さらに、蒸着材料溶融部分の壁の一部が傾斜面を有していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、設備コストが安くできるだけでなく、電子ビーム相互干渉による異常放電がなくなって、この異常放電による蒸着膜厚不良がなくなり、さらに、スプラッシュ欠陥を低減できるために、スプラッシュによるドロップアウトが少なくなって、品質が向上できる。それと共に、ルツボを小さくできることから蒸着材料のロスも少なくできるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】(a)本発明の実施の形態1における蒸着装置の斜視図、(b)本実施の形態1における蒸着装置の概略構成図
【図2】本実施の形態1における蒸着装置の冷却キャンの正面図
【図3】(a)本実施の形態1におけるルツボの上面図、(b)本実施の形態1におけるルツボの正面断面図、(c)本実施の形態1におけるルツボの右側断面図
【図4】従来方式のルツボの断面とベースフイルム、電子銃、蒸発用電子ビーム及び蒸着材料との関係を説明する図
【図5】(a)本実施の形態1における波紋とスプラッシュの関係を説明する正面断面図、(b)本実施の形態1におけるルツボの上面図
【図6】本発明の実施の形態2における冷却キャンの構造を示す図
【図7】本実施の形態2におけるルツボの上面図
【図8】本発明の実施の形態3における冷却キャンの断面図
【図9】(a)本発明の実施の形態4におけるルツボの斜視図、(b)本実施の形態4におけるルツボの正面断面図
【図10】(a)本発明の実施の形態5におけるルツボの上面図、(b)本実施の形態5におけるルツボの正面断面図
【図11】(a)本発明の実施の形態6におけるルツボの上面図、(b)本実施の形態6におけるルツボのA−A断面図と部分拡大図
【図12】本実施の形態7における磁気記録媒体サンプルの作製工程のフローチャート
【図13】従来(特許文献1)の蒸着材料の供給方法を説明する図
【図14】従来(特許文献2)の蒸着材料の供給方法を説明する図
【図15】従来(特許文献3)の蒸着材料の供給方法を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照して本発明における実施の形態を詳細に説明する。
【0029】
(実施の形態1)
図1(a)は本発明の実施の形態1における蒸着装置の斜視図であり、図1(b)は蒸着装置の概略構成図である。また、図2は蒸着装置の冷却キャンの正面図であり、図3はルツボを示す図であって、図3(a)は上面図、図3(b)は正面の断面図、図3(c)は右側面の断面図である。
【0030】
図1(b)に示すように、蒸着装置は頭部と底部にそれぞれ設けられた排気口11から真空ポンプ(図示せず)により排気され、内部が真空状態となされた真空室12内に、図中の反時計回り方向に定速回転する送りロール13と、図中の反時計回り方向に定速回転する巻取りロール14とが設けられ、これら送りロール13から巻取りロール14にテープ状の蒸着機材であるベースフイルム15(以後、蒸着機材のことをベースフイルムと呼ぶ)が順次走行するようになされている。
【0031】
これら送りロール13から巻取りロール14側にベースフイルム15が走行する中途部には、各ロール13,14の径よりも大径となされた冷却キャン16が設けられている。この冷却キャン16は、ベースフイルム15を図中の矢印方向に引き出すように設けられ、図中の時計回り方向に定速回転する構成とされている。
【0032】
また、送りロール13,巻取りロール14は、それぞれベースフイルム15の幅と略同じ長さからなる円筒状をなすものである。冷却キャン16の長さはルツボ1と略同じ長さからなる円筒状をなしており、内部には図示しない冷却水が流れる構造で、前記ベースフイルム15の温度上昇による変形等を抑制し得るようになされている。
【0033】
したがって、ベースフイルム15は、送りロール13から順次送り出され、さらに冷却キャン16の周面を通過し、巻取りロール14に巻き取られていくようになされている。
【0034】
なお、送りロール13と冷却キャン16との間、及び冷却キャン16と巻取りロール14との間にはそれぞれガイドロール17,18が配設され、送りロール13から冷却キャン16及び冷却キャン16から巻取りロール14にわたって走行するベースフイルム15に所定のテンションをかけ、ベースフイルム15が円滑に走行するようになされている。
【0035】
ここで、真空室12内は真空10−3Paとされ、冷却キャンの直径はφ1000mmであり、冷却温度は−20℃とされている。また、図1に示すように、真空室12内には、冷却キャン16の下方に同じ幅で筐体状のルツボ1が設けられている。
【0036】
このルツボ1は、蒸着源たるCo-Ni系等の蒸着材料20aを供給し、電子銃21からの溶解用電子ビーム21Bで溶解させるものである。本実施の形態1では、ルツボ1は冷却キャン16の幅方向の長さと同じで、冷却キャン16と平行な部分である、蒸着材料蒸発部分1Aと、この蒸着材料蒸発部分1Aと直角に設けられた蒸着材料溶融部分1Bから構成されている(図3(a)〜(c)参照)。
【0037】
特に、蒸着材料溶融部分1Bを設けることにより、蒸着材料20aを供給する際に発生する波紋の影響を防止することができる。また、1台の電子銃21で蒸着材料の溶解、蒸発を実現するには、波紋によるスプラッシュを低減しなければならない。
【0038】
ここで、図4を用いて、従来方式における波紋とスプラッシュの関係を説明する。図4は従来方式のルツボ101の断面とベースフイルム15、電子銃21、蒸発用電子ビーム21A及び蒸着材料20aとの関係を示す図である。
【0039】
図示しない溶解用電子ビームにより蒸着材料20aが溶融されてルツボ101に落下する。この時、ルツボ101内の溶融材料110(図1に示す蒸着材料(溶融状態)20b)の溶融表面111は、図4で示すように、溶融した蒸着材料20aの落下に伴い、波立つこととなる。このように、溶融材料110は溶融表面111が波立った状態で電子銃21の蒸発用電子ビーム21Aで加熱蒸発され、蒸着材料の溶融材料110がベースフイルム15に被着される。
【0040】
この波の頂点に蒸発用電子ビーム21Aが当たると、頂点部分は体積が小さいために、電子ビームのエネルギーが集中し、溶融材料110が突沸蒸発して、小さい塊としてベースフイルム15に付着するものと考えられる。この小さい塊(スプラッシュ)により、均一な膜にならないで突起となり、ドロップアウトの原因になるものと考えられる。
【0041】
このため、従来方式では波紋から発生するスプラッシュ防止目的と、蒸発用電子ビームと溶解用電子ビームの2つの電子銃の相互干渉で発生する異常放電による蒸着膜厚不良をなくすために、ルツボを長くして蒸着を行っていた。ルツボ長さは、ベースフイルムの約3倍(例えば、ベースフイルムが幅500mmの場合、ルツボの長さは約1500mmを使用している。)の長さを使用している。
【0042】
図5(a),(b)は本実施の形態1における波紋とスプラッシュの関係を説明する図である。図5(b)に示すように、ルツボ1が端部を直角に曲げた蒸着材料溶融部分1Bを設けた構成になっている。溶解用電子ビーム21Bにより蒸着材料20aを加熱溶解して、解けた材料の雫をルツボ1に供給するわけであるが、蒸着材料溶融部分1Bを設けたことにより、蒸着材料蒸発部分1Aにおいて、波の影響を受けることがなく蒸着できるためにスプラッシュの発生を防止することができる。
【0043】
このため、蒸着材料蒸発部分1Aを蒸発用電子ビーム21Aで加熱蒸発させても、波は蒸着材料溶融部分1Bで発生し、かつ減少及び消滅しているために、蒸着材料蒸発部分1Aに影響することはない。すなわち、電子ビームパワーが均一に蒸着材料20bに加わるために均一な蒸着材料の蒸発が行えることとなる。
【0044】
前述したような、電子ビームのエネルギー集中がないために、突沸蒸発することがない。このことにより、蒸着材料20aを供給する際に発生するスプラッシュを防止するものである。
【0045】
本実施の形態1では、蒸着材料蒸発部分1Aの長さをベースフイルム15の幅より、200mm大きくした。また、蒸着材料溶融部分1Bの幅はベースフイルム15の幅に対して1/4とするとともに、奥行き寸法もベースフイルム15の幅に対して1/4とした。
【0046】
なお、蒸着材料蒸発部分1Aの長さをベースフイルム15の幅より200mm大きくしたのは、膜厚の均一性を確保するためであり、膜厚の均一性が確保できれば、200mmより大きくても、逆に小さくてもよいわけであり、200mmに制限されるものではない。
【0047】
また、蒸着材料溶融部分1Bの幅及び奥行きをベースフイルム15の1/4としたのは、蒸着材料20aの寸法、蒸着材料の供給量、蒸着材料の落下時に発生する波の大きさ、及び仕切り板寸法により決定した。
【0048】
しかるに、蒸着材料20aの寸法、蒸着材料の供給量、蒸着材料の落下時に発生する波の大きさ、及び仕切り板寸法により決定されるものであるから、蒸着材料溶融部分1Bの幅及び奥行きはベースフイルム15の1/4に限定されるものではない。
【0049】
前述したように、このようなルツボ1を使用すると、短いルツボを用いることで、波紋の影響をなくすことができる。ここで、前述したルツボ1の蒸着材料20a,20bに溶融,蒸発用電子ビーム21A,21Bを1つの電子銃21から照射するには電子ビームを局部偏向させなければならない。この局部偏向させる方法としてはいろいろな方法がある。
【0050】
まず、偏向コイルを用いて偏向させる方法であり、偏向コイルを電子銃の出口近傍に設置する方法と、ルツボの近傍に設置する方法が考えられる。両方の方法は、共に偏向コイルに電流を流すことにより磁場を発生させて、電子ビームを偏向させる方法である。流す電流の大きさを変えることにより、磁力の強さが変わるため、電流を制御することで任意に電子ビームの偏向量を変えることができる。
【0051】
しかしながら、ルツボの近傍に偏向コイルを設置する方法は、蒸発した蒸発金属が偏向コイルに付着するという課題がある。付着した金属が磁性材料であれば、キュリー点以下になれば磁性体となり、偏向コイルに付着した量の磁力が加わることになる。長時間蒸着をすればするほど付着量は多くなり、付着磁力は強くなる。偏向コイルの磁力に、その付着磁力が加わるために、付着磁力量が把握できないことには、偏向コイルで電流を変化させ磁力を変化させても、精度よく偏向することが困難になるという課題を有している。
【0052】
また、電子銃本体の出口に偏向コイルを設けて偏向させる方法も前述したように、長時間蒸着すると、付着磁力が強くなり、精度よく偏向することが困難になる課題を有している。
【0053】
そこで、本実施の形態1では、長時間蒸着しても磁力が変化しない、安定した磁力を保つことができる方法として、冷却キャンを着磁して、偏向する方法を採用している。
【0054】
本実施の形態1の冷却キャン16は、図2に示すように、軟磁性部分16Aと非磁性部分16Bから構成される。軟磁性部分16Aの材質は軟磁性材料のSS400(軟鋼)であり、非磁性部分16Bの材質はSUS304(ステンレス鋼)で構成されているが、軟磁性部分16Aは軟磁性材料であれば、SS400以外でも可能であるし、また非磁性部分16Bは非磁性材料であればSUS304以外でも可能であって、SS400及びSUS304に限定されるものではない。
【0055】
また、軟磁性部分16Aは冷却キャン16に巻き回されるベースフイルム15の外側(範囲外)に設けている(図1(a)参照)。本実施の形態1では、ベースフイルム15より100mm外側に幅100mmで設けている。これは、電子ビームが効率良く偏向し、またスプラッシュが発生しない条件で設定される寸法であるから、前述した寸法に限定されるものではない。
【0056】
さらに、軟磁性部分16Aは0.004〜0.006テスラに着磁されており、電子銃21から照射された電子ビームは、非磁性部分16B(蒸発用電子ビーム21A)のところでは(図3に示すルツボ1の蒸着材料蒸発部分1A)、冷却キャン16と平行に照射されるが、0.004〜0.006テスラに着磁された軟磁性部分16Aのところでは(図3に示すルツボ1の蒸着材料溶融部分1B)、軟磁性部分16Aの磁力に引き寄せられ、ルツボ1の蒸着材料溶融部分1Bに沿って曲がることとなる。
【0057】
本実施の形態1では、0.004〜0.006テスラに着磁したが、溶解用電子ビーム21Bが冷却キャン16の軟磁性部分16A(着磁部分)の磁力により、曲がればよいわけであり、0.004〜0.06テスラ以上でも以下でも可能であり、0.004〜0.006テスラに限定されるものではない。
【0058】
このようにして、1台の電子銃21により、放出される蒸発,溶解用電子ビーム21A,21Bによって蒸着材料の蒸発・溶解が可能となり、またスプラッシュの発生を防止することができる。
【0059】
前述したように、図1(b)の真空室12内は真空10−3Paとされ、冷却キャン16の直径はφ1000mmであり、冷却温度は−20℃とされている。一方、真空室12の側壁部には、図1(b)に示すように、ルツボ1内に充填された蒸着材料20bを加熱蒸発させるための電子銃21が取り付けられる。この電子銃21より放出される蒸発用電子ビーム21Aがルツボ1内の蒸着材料20bに照射されるような位置に配設される。そして、この蒸発用電子ビーム21Aによって蒸発した蒸着材料20bが冷却キャン16の周面を定速走行するベースフイルム15上に磁性層として被着形成されるようになる。
【0060】
また、冷却キャン16とルツボ1との間であって、冷却キャン16の近傍には、入射角制限マスク22a,22bが配設されている(図1(b)参照)。この入射角制限マスク22a,22bは、蒸発源から飛来する金属上気流の入射角度を規制するためのもので、通常、低入射角制限マスク22aと高入射角制限マスク22bとの2つからなる。これら入射角制限マスク22a,22bは、冷却キャン16の外周表面を定速走行するベースフイルム15の所定領域を覆う形で形成され、これら入射角制限マスク22a,22bにより、蒸発せしめられた蒸着材料20bがベースフイルム15に対して所定の角度範囲で斜めに蒸着されるようになっている。そして、成膜の際の最高入射角及び最低入射角は、これら入射角制限マスク22a,22bの開口位置によって決まる。
【0061】
このように、Co,Co-Ni合金の蒸着入射ビームは、入射角制限マスク22を設置することにより、任意に蒸着入射角の範囲を設定でき、ここではこの入射角を45°としている。
【0062】
さらに、このような蒸着に際し、真空室12の側壁部を貫通して設けられる酸素ガス導入口24を介してベースフイルム15の表面に酸素ガスが供給され(図1(b)参照)、磁気特性、耐久性及び対候性の向上が図られている。
【0063】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2について、図6の冷却キャンの構造と図7のルツボの上面図を用いて説明する。本実施の形態2において、図6に示す冷却キャン36、図7に示すルツボ31の構造が違うこと以外は、前述した実施の形態1の各図と同様の構成である。
【0064】
図6に示すように、冷却キャン36の両端部分を軟磁性部分36Aで、それ以外を非磁性部分36Bで構成し、図7に示すように、ルツボ31の両端部分を直角に曲げ、蒸着材料溶融部分1Bを2箇所設けた構成になっている。最終製品を安価に製作するためには、蒸着の生産性を高めなければならない。そのためには、蒸着速度を早くする必要があり、蒸着速度を早くすると蒸着材料を多く供給する必要がある。
【0065】
蒸着材料を多く供給する方法として、蒸着材料の供給速度を上げてルツボに多く供給する方法と、供給速度は上げないで複数本から供給する方法とが考えられる。前者の蒸着材料の供給速度を上げる方法であるが、当然のことながら、ルツボへの供給量が増えることになり、ルツボへの落下量が多くなり、これに伴う材料の飛沫や波紋によるスプラッシュが増大することとなる。
【0066】
また、後者の蒸着材料を複数本から供給する方法では、蒸着材料の供給速度を上げることなく、ルツボへの供給量が増えることになり、蒸着材料の供給に伴う材料の飛沫や波紋によるスプラッシュが増大することはない。しかしながら、増設された箇所の蒸着材料を溶解するために複数の電子銃が必要となる。
【0067】
本実施の形態2の冷却キャン36は、図6に示すように、電子銃21からの蒸発,溶解用電子ビーム21A,21Bを、両端部分で偏向させる目的で、両端部分は軟磁性部分36Aで構成されている。
【0068】
さらに、軟磁性部分36Aは0.004〜0.006テスラに着磁されており、電子銃21から照射された蒸発用電子ビーム21Aは、非磁性部分36Bのところでは(図7に示すルツボ31の蒸着材料蒸発部分1A)、冷却キャン36と平行に照射されるが、0.004〜0.006テスラに着磁された軟磁性部分36Aでは(図7に示すルツボ31の蒸着材料溶融部分31B)、電子銃21から照射された溶解用電子ビーム21Bは、軟磁性部分16Aの磁力に引き寄せられ、ルツボ31の蒸着材料溶融部分1Bに沿って曲がることとなる。
【0069】
本実施の形態2では、0.004〜0.006テスラに着磁したが、溶解用電子ビーム21Bが冷却キャン36の軟磁性部分36A(着磁部分)の磁力により、曲がればよいわけであって、0.004〜0.006テスラ以上でも以下でも可能であり、0.004〜0.006テスラに限定されるものではない。
【0070】
また、ルツボ31も、図7に示すように、両端に蒸着材料溶融部分31Bを設けている。このことにより、両側から蒸着材料20aが供給できる構造となっている。本実施の形態2によれば、電子銃21を増やすことなく、蒸発,溶解用電子ビーム21A,21Bを1台の電子銃21による照射で、蒸着材料の蒸発・溶解が可能となり、またスプラッシュの発生を防止することができる。
【0071】
(実施の形態3)
本発明の実施の形態3について、図8の冷却キャンの断面図を用いて説明する。本実施の形態3の冷却キャン46は、図8に示すように、冷却水56は冷却水送りポンプ(図示せず)より送られて、冷却水導入パイプ55を通じて、送りパイプ53Bを通り、冷却帯57に到達する。ここで、ベースフイルム15上に磁性層として、被着形成された時のベースフイルム15の温度上昇による変形を抑制し得るようになされている。その後、戻りパイプ53Aを通り、冷却水パイプ54と冷却水導入パイプ55の隙間を通じて、冷凍機(図示せず)に戻るようになされている。
【0072】
冷却キャン46は外筒52A(ベースフイルム15を冷却する部分)と内筒52Bの二重筒構造となっており、側板50で、溶接により密封構造となされている。さらに、外筒52Aは非磁性部分46Bと軟磁性部分46Aから構成される。
非磁性部分46Bと軟磁性部分46Aの締結は溶接でされ、硬質クロームメッキ処理後、外筒52Aの表面は0.1S以下の表面粗さに仕上げられている。
【0073】
これは、ベースフイルム15が、磁性層として被着形成された時に発生する熱を、速やかに冷却水56で奪い、ベースフイルム15の温度上昇をできるだけ、抑制するためである。
【0074】
本実施の形態3では非磁性部分46Bに、厚み10mmのSUS304を使用した。これを使用した目的は、溶解用電子ビーム21Bが磁力により曲げられない材料の中では、安価に入手できることと溶接接合性に優れているためである。しかるに、非磁性材料として溶接接合性に優れていれば、SUS304に限定されるものではない。
【0075】
また、軟磁性部分46Aには、厚み10mmのSS400を使用した。これを使用した目的は、着磁性能と溶接性能に優れているからで、その他の軟磁性材料、例えば一般構造用炭素鋼や冷間圧延鋼板や熱間圧延鋼板であってもよい。着磁性が良く溶接性能に優れていれば、SS400に限定されるものではない。
【0076】
また、本実施の形態3では軟磁性部分46Aの磁力の強さを0.004〜0.006テスラの強さで着磁した。これは、実験結果から、磁力の強さが、ルツボ1と冷却キャン46と電子銃21との相対的位置関係及び蒸着速度で決定されるものであることが判明したからである。
【0077】
このように、磁力の強さは、ルツボ1と冷却キャン46と電子銃21との相対的位置関係及び蒸着速度で決定されるものであるから、可変できる材料が必要である。このことから、磁力の強さを、任意の値で着磁できる、軟磁性材料が望ましい。
【0078】
また、本実施の形態3の冷却キャン46を構成する部品、側板50、内筒52B、送りパイプ53B、戻りパイプ53A、冷却水パイプ54、冷却水導入パイプ55等の軟磁性部分46Aを除く、全ての部品は非磁性材料である、SUS304を使用した。これは、冷却水56による、錆びの発生を防止することと、電子銃21から照射される蒸発,溶解用電子ビーム21A,21Bが、着磁した軟磁性部分46A以外の磁力の影響を受けないためである。
【0079】
(実施の形態4)
本発明の実施の形態4について、図9(a)のルツボの斜視図,(b)のルツボの正面の断面図を用いて説明する。また、本実施の形態4において、図9に示すルツボ41の構造が違うこと以外は、前述した実施の形態1の図1と同様の構成である。
【0080】
図9(a),(b)に示すように、ルツボ41の蒸着材料蒸発部分41Aに仕切り板2B、蒸着材料溶融部分41Bに仕切り板2Aを設けた構成になっている。
【0081】
この仕切り板2A,2Bはルツボ41の底部で蒸着材料蒸発部分41Aと蒸着材料溶融部分41Bとがつながっている。
【0082】
実施の形態1で述べたように、蒸着材料20aが、溶解用電子ビーム21B(図示せず)で溶解され、ルツボ41の蒸着材料溶融部分41Bに供給される、この溶解された蒸着材料20aがルツボ41に落下する時に、液面に波が発生する。この波は、蒸着材料蒸発部分41Aに対して直角に発生するが、仕切り板2Aに衝突し、消滅することとなる。また、仕切り板2Aを越える大きな波が発生しても、仕切り板2Bに衝突し、消滅することとなる。
【0083】
このため、蒸着材料蒸発部分41Aを蒸発用電子ビーム21Aで加熱蒸発させても、波は蒸着材料溶融部分41Bで発生し、かつ減少及び消滅しているために、蒸着材料蒸発部分41Aに影響することはない。すなわち、電子ビームパワーが均一に蒸着材料20bに加わるために均一な蒸着材料の蒸発が行えることとなる。
【0084】
前述したような、電子ビームのエネルギー集中がないために、突沸蒸発することがなく、このことにより、蒸着材料20aを供給する際に発生するスプラッシュを防止するものである。
【0085】
また、仕切り板の位置も本実施の形態4では、仕切り板2A,2Bと設けているが、蒸着材料蒸発部分41Aと蒸着材料溶融部分1Bを仕切れて、ルツボ41底部でつながっており、かつベースフイルム15の幅よりも広い位置を確保して設けられればいいわけであり、枚数や位置に限定されるものではない。
【0086】
(実施の形態5)
本発明の実施の形態5について、図10(a)のルツボの上面図、(b)の正面の断面図を用いて説明する。本実施の形態5において、図10で示すルツボ61に仕切り板3A,3Bを設けたこと以外は、前述した実施の形態1と同様な形態である。
【0087】
図10(a),(b)に示すように、ルツボ61の蒸着材料蒸発部分61Aに仕切り板3A,3Bを設けており、仕切り板3A,3Bはルツボ61の側壁から突堤のように突き出た壁であり蒸着材料蒸発部分61Aと蒸着材料溶融部分61Bとがつながった構成となっている。
【0088】
前記実施の形態1で述べたように、蒸着材料20aが、溶解用電子ビーム21B(図示せず)で溶解され、ルツボ61の蒸着材料溶融部分61Bに供給される、この時溶解された蒸着材料20aがルツボ61に落下し、液面に波が発生する。
【0089】
この波は、蒸着材料蒸発部分1Aに対して直角に発生するが、仕切り板3Bに衝突し、消滅することとなる。また、仕切り板3Bを越える大きな波が発生しても、仕切り板3Aに衝突し、消滅することとなる。このため、蒸着材料蒸発部分61Aを蒸発用電子ビーム21A(図示せず)で加熱蒸発させても、波は蒸着材料溶融部分61Bで発生し、かつ減少及び消滅しているために、蒸着材料蒸発部分61Aに影響することはない。すなわち、電子ビームパワーが均一に蒸着材料20bに加わるために均一な蒸着材料の蒸発が行えることとなる。
【0090】
前述したような、電子ビームのエネルギー集中がないために、突沸蒸発することがない。このことにより、蒸着材料20aを供給する際に発生するスプラッシュを防止するものである。
【0091】
また、仕切り板の位置も本実施の形態5では、仕切り板3A,3Bと設けているが、蒸着材料蒸発部分61Aと蒸着材料溶融部分61Bを仕切れて、かつルツボ内でつながっており、かつベースフイルム15の幅よりも広い位置に、設けられればいいわけであり、枚数や位置に限定されるものではない。
【0092】
(実施の形態6)
本発明の実施の形態6について、図11(a)のルツボの上面図、(b)のA−A断面図と部分拡大図を用いて説明する。本実施の形態6において、図11(b)で示すルツボ71における蒸着材料溶融部分71Bの壁の一部に傾斜を設けたこと以外は、実施の形態1と同様な形態である。
【0093】
図11(b)に示すように、ルツボ71の蒸着材料溶融部分71Bの壁の一部に傾斜を設けることにより、蒸着材料20aが溶解用電子ビーム21Bで加熱溶解された後に、蒸着材料溶融部分71Bから供給される時に、雫となり傾斜面に落下し、自重でルツボ71に供給されることとなる。こうすることにより、材料供給時に発生する飛沫を抑制することができ、飛沫によるスプラッシュを低減するこができる。
【0094】
この傾斜面はルツボ71に設けるだけでなく、傾斜した板を蒸着材料溶融口に別に設けてもよく、溶解した蒸着材料20aが自重でルツボ71に供給されれば、特に限定されるものではない。また、傾斜の角度や長さについても、蒸着材料20aが自重でルツボ71に供給されれば、特に限定されるものではない。
【0095】
(実施の形態7)
本発明の実施の形態7について、前述の各実施の形態で説明した蒸着装置を使用した磁気記録媒体を製造する動作について説明する。本実施の形態7の蒸着装置により製造される磁気記録媒体は、非磁性支持体であるベースフイルム15上に強磁性金属、あるいはその合金の薄膜からなる磁性層が形成されるとともに、この磁性層の形成面とは反対側の面にバックコート層が形成される磁気記録媒体である。
【0096】
本実施の形態7における磁気記録媒体サンプルの作製工程を図12のフローチャートで説明する。
・ポリエンエチレンテレフタレート(PET)フイルムからなるベースフイルム15(厚み6.3μ)上にCoを蒸着させ磁性層を形成した(ステップS1)。この時のCoの純度は99.99%、また厚みは2000Åである。
・この磁性層の形成面とは反対側の面にバックコート層を形成した(ステップS2)。バックコートの形成に当たっては、主成分はニトロセルロースを塗布工法により、WET厚み50μで形成した。
・磁性層の形成面に防錆目的で防錆層を形成した(ステップS3)。防錆層の形成に当たっては、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)層を形成するために、スパッタ法でカーボンをターゲットとして、70Åの膜を形成した。
・磁性層の潤滑目的で、潤滑層を形成した(ステップS4)。潤滑層の形成に当たっては、主成分はパーフルオロポリエーテルを塗布工法により、WET厚み15μで形成した。
・ドロップアウトの測定目的で、6.35mm幅に裁断し、DVC(6.35mm幅)カセットに組み込んだ(ステップS5)。
【0097】
なお、この蒸着に際しては、図1(a),(b)、に示すように、蒸着材料20aは棒材で供給され、溶解用電子ビーム21Bで加熱溶解して、供給する構成となっている。溶解された蒸着材料20bは蒸発用電子ビーム21Aにより、加熱蒸発され、ベースフイルム15上で磁性層を形成する。
【0098】
(実施例1)
前述の実施の形態1と同様な形態で、同様な装置を使用して、磁気記録媒体を製造した。なお、この時の蒸着速度は60m/分である。
【0099】
(実施例2)
ルツボが実施の形態2と同様な形態で、蒸着材料20aの棒材を両側から供給し、蒸着速度を120m/分とした以外は、実施例1と同様な装置を使用して、磁気記録媒体を製造した。
【0100】
(実施例3)
ルツボが実施の形態6と同様な形態とした以外は、実施例1と同様な装置を使用して、磁気記録媒体を製造した。
【0101】
(比較例)
蒸着材料20aの棒材の溶解に専用電子銃と、溶融した蒸着材料20bの蒸発に専用電子銃を用いた形態とした以外は、ルツボ1も実施例1と同様な形態とし、同様な装置を使用して、磁気記録媒体を製造した。
【0102】
このようにして作製された蒸着テープのドロップアウトを測定した測定結果を(表1)に示す。
【0103】
【表1】

【0104】
この測定には、パナソニック社製DVCビデオデッキを改造したものを使用した。
相対速度は3.8m/秒、記録信号は通常のビデオ信号で、基準白色を通常の50%で行うことで、よりドロップアウトがわかり易いようにした。
【0105】
ドロップアウトの基準は、再生出力が−16dbより低下した時間が10μsec以上続いた回数を測定した。測定は5分間行い、1分間当たりの平均値をドロップアウトの個数とした。
(表1)から明らかなように、前記実施例のいずれも、比較例の電子銃2台方式と比較して、1分間当たりの平均ドロップアウトの個数は同等かそれ以下の値を示している。特に、実施例3のルツボ1の蒸着材料溶融部分1Bの壁の一部が傾斜面を有している値が他の実施例より、小さい。
【0106】
これは蒸着材料20aを加熱溶解した後、その雫が自重でルツボ1に落下することにより、落下時に発生する飛沫、波紋を抑えることができているからだと考えられる。このことより、他の実施例も蒸着材料溶融部分1Bの壁の一部が傾斜面を有している方が好ましいことがわかる。
【0107】
なお、以上に説明した各実施の形態は一例であって、本発明の非磁性と軟磁性で構成される冷却キャン、及び冷却キャンの幅方向に伸びた蒸着材料蒸発部分1Aと、幅方向と直角方向に伸びた蒸着材料溶融部分1Bとを有する蒸着用ルツボの応用は同様の技術を専門とする技術者あるいは業者には容易に考えうるものでありそれらは本発明から逃れるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明は記録媒体の製造装置に使って有効であるばかりでなく、金属蒸着膜や無機蒸着膜を必要とするシートの分野に効果があり、食品用あるいは電子製品用の防湿や湿気性を目的としたパッケージや包装紙、あるいは機能性のシートなどの生産に有効である。
【符号の説明】
【0109】
1,31,41,61,101 ルツボ
1A,31A,41A,61A,101A 蒸着材料蒸発部分
1B,31B,41B,61B,101B 蒸着材料溶融部分
2A,2B,3A,3B 仕切り板
4A 蒸発専用電子ビーム
4B 溶解専用電子ビーム
5 供給路
6,7 湾曲部
9 ホッパー
10 蒸着材料
11 排気口
12 真空室
13 送りロール
14 巻取りロール
15 ベースフイルム
16,36,46 冷却キャン
16A,36A,46A 冷却キャン軟磁性部分
16B,36B,46B 冷却キャン非磁性部分
17,18 ガイドロール
20 ペレット
20a 蒸着材料(固体状態)
20b 蒸着材料(溶融状態)
21 電子銃
21A 蒸発用電子ビーム
21B 溶解用電子ビーム
22a,22b 入射角制限マスク
24 酸素ガス導入口
50 側板
52A 外筒
52B 内筒
53A 戻りパイプ
53B 送りパイプ
54 冷却水パイプ
55 冷却水導入パイプ
56 冷却水
57 冷却帯
110 溶融材料
111 溶融表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸着層が形成される蒸着基材を搬送しながら冷却する冷却キャンと、前記蒸着層を形成する蒸着材料が充填されるルツボと、前記ルツボ内の蒸着材料に電子ビームを照射する電子ビーム照射手段とを備え、
前記冷却キャンが、軸方向の一端の帯状部分が磁性を帯びた円筒形状であること
を特徴とする蒸着装置。
【請求項2】
前記冷却キャンが、軸方向の両端の帯状部分が磁性を帯びた円筒形状であること
を特徴とする請求項1に記載の蒸着装置。
【請求項3】
前記冷却キャンの帯状部分の材質が軟磁性材料で構成されていること
を特徴とする請求項1または2に記載の蒸着装置。
【請求項4】
前記冷却キャンと同じ幅を有するルツボが、幅方向に伸びた蒸着材料蒸発部分と、前記幅方向と直角方向に伸びた蒸着材料溶融部分とから構成されていること
を特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の蒸着装置。
【請求項5】
前記ルツボの蒸着材料溶融部分が、蒸着材料の蒸発部分の両端にあること
を特徴とする請求項4に記載の蒸着装置。
【請求項6】
前記ルツボが、前記ルツボの蒸着材料蒸発部分と蒸着材料溶融部分とを連通する仕切り板で仕切られていること
を特徴とする請求項4または5に記載の蒸着装置。
【請求項7】
前記仕切り板が、前記ルツボの壁から突堤のように突き出た壁で、かつ蒸着材料蒸発部分と蒸着材料溶融部分とがつながっていること
を特徴とする請求項6に記載の蒸着装置。
【請求項8】
前記蒸着材料溶融部分の壁の一部が傾斜面を有していること
を特徴とする請求項4〜7のいずれか1項に記載の蒸着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−280965(P2010−280965A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−136065(P2009−136065)
【出願日】平成21年6月5日(2009.6.5)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】