説明

薄膜の形成方法

本発明の薄膜の形成方法は、基板を保持するための基板ホルダ13の搬送速度を制御しながら、基板ホルダ13を、中間薄膜形成工程を行う領域と膜組成変換工程を行う領域との間を繰り返し搬送させて、最終的に形成される薄膜の膜組成を調整し、ヒステリシス現象が起きる領域の光学的特性値を有する薄膜を形成する光学的特性調整工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は薄膜の製造方法およびスパッタリング装置に係り、特にスパッタを行うことにより、所望の光学的特性をもつ薄膜を基板上に形成するための薄膜の製造方法およびスパッタリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ある製品群に対して要求された光学分光特性を設計するために、自然界の中の限られた物質で光学薄膜を設計することが試みられている。しかし、このように限られた物質を使用して光学薄膜を設計すると、設計が複雑なものとなり、任意な光学的特性を有する薄膜を得ることが困難であった。
そのため、任意な屈折率及び減衰係数をもつ物質、すなわち自然界に存在しない物質を求める必要があった。
例えば、ワイドバンド反射防止膜を構成するためには、自然界の中にほとんど存在しない中間屈折率(1.46〜2.20の間)を有する材料が必要である。ガラスを例にすると、ガラスの反射率を可視光領域全般で低い反射率にするためには、一般的に、1.46〜2.20の範囲の中間屈折率と称される屈折率を有する材料が必要とされる。上記中間屈折率を得るために、以下の技術が知られている。
【0003】
すなわち、低屈折材料{例えばSiO(屈折率:1.46)}と高屈折材料{例えばTiO(屈折率2.35)}を、それぞれ別の蒸発源から同時に蒸発させ、その混合比によって中間屈折率(1.46〜2.40)を得る技術、低屈折材料と高屈折材料を混合し1つの蒸発源から同時に蒸発させ、その混合比によって中間屈折率を得る技術、低屈折材料と高屈折材料の組み合わせにより等価的に中間屈折率を得る等価膜技術等が知られている。
【0004】
また、屈折率を任意に制御可能で、光学的特性や力学的特性等が安定した金属化合物薄膜を得ることができる技術として、低屈折材料{例えばSiO(屈折率:1.46)}と高屈折材料{例えばTiO(屈折率2.35)}からなる各ターゲットを基板上へスパッタして、複合金属からなる超薄膜を形成した後、この超薄膜に酸素等の反応性ガスの活性種を接触させ、上記超薄膜と反応性ガスの活性種とを反応させて複合金属の化合物に変換する工程を繰返し、所望の膜厚と光学的特性を有する複合金属の化合物薄膜を基板に形成する技術が知られている(例えば、特開平09−263937号公報(第2−3頁、図1))。
【0005】
これは、それぞれに独立した少なくとも二種以上の異種金属からなる各ターゲットをスパッタして、基板上に複合金属ないし複合金属の不完全反応物からなる超薄膜を形成し、形成された超薄膜に化学的に不活性な性質を有する不活性ガスを混入した反応性ガスの活性種を接触させて反応させ、複合金属の化合物に変換する工程を繰り返し行い、複合金属の化合物薄膜を構成する金属単独の化合物が本来有する光学的性質の範囲内で任意の光学的特性を得る技術である(例えば、特開2001−011605号公報(第2−4頁、図1))。
【0006】
更に、反応プロセスゾーンまたは成膜プロセスゾーンに導入する反応性ガスの流量を調整することにより、形成される薄膜の屈折率や減衰係数等の光学的特性を調整する方法も知られている。
【0007】
しかしながら、低屈折材料と高屈折材料を、それぞれ別の蒸発源から同時に蒸発させ、その混合比によって中間屈折率を得る技術、低屈折材料と高屈折材料を混合し1つの蒸発源から同時に蒸発させ、その混合比によって中間屈折率を得る技術、低屈折材料と高屈折材料の組み合わせにより等価的に中間屈折率を得る等価膜技術等においては、屈折率の制御が困難で安定した品質の製品を得ることが難しいという問題点があった。
【0008】
そのため、低屈折材料と高屈折材料からなる各ターゲットを基板上へスパッタして、複合金属からなる超薄膜を形成した後、この超薄膜に酸素等の反応性ガスの活性種を接触させ、上記超薄膜と反応性ガスの活性種とを反応させて複合金属の化合物に変換する工程を繰返し、所望の膜厚と光学的特性を有する複合金属の化合物薄膜を基板に形成するという技術が知られている。
なお、「超薄膜」とは、超薄膜が複数回堆積されて最終的な薄膜となることから、この「薄膜」との混同を防止するために用いた用語であり、最終的な「薄膜」より十分薄いという意味である。
【0009】
この技術によると、屈折率を任意に制御可能で、光学的特性や力学的特性等が安定した金属化合物薄膜を得ることができるが、少なくも2種類以上の複数の金属をターゲットとして使用する必要があり、複合金属からなる金属化合物薄膜を得ることはできるが、単独金属のみを使用して、屈折率を任意に制御可能で、光学的特性や力学的特性等が安定した薄膜を形成することが困難であるという問題点があった。
【0010】
そのため、単独金属のみをターゲットとして用いる場合において、スパッタ実施時に導入する反応性ガスの流量を調整することにより、形成される薄膜の光学的特性である屈折率や減衰係数等の光学的特性を調整する技術が知られている。
【0011】
しかし、図8、図9に示すように、例えば、反応性ガスとして酸素を使用した場合、酸素流量と薄膜の光学的特性としての屈折率および減衰係数の関係を例にとると、酸素流量が極端に高い範囲および極端に低い範囲においては、酸素流量を変えることによって形成される薄膜の光学的特性である屈折率及び減衰係数を調整することは可能であるが、酸素流量が15sccm以下で、0sccmを含まない範囲においては、グラフ変化が急激になり、この範囲の酸素流量を用いることにより得られる屈折率および減衰係数を持つ薄膜を形成するためには厳密な酸素流量の調整が必要となる。
また、図8、図9に示したように、酸素ガス流量が増加する場合と減少する場合とで、薄膜の光学的特性である屈折率及び減衰係数の変化経路が異なる所謂ヒステリシス現象が生じるため、酸素ガス流量を調整することによる薄膜の光学的特性制御は、より困難となる。
【0012】
このように、屈折率が約1.5〜3.5程度の範囲および減衰係数が約1.0×10〜12.0×10−3程度の範囲の薄膜を形成することは、厳密な酸素流量の調整が必要となる。
そのため、酸素流量を調整することにより、前記範囲の屈折率および減衰係数を有する薄膜の形成する方法は、酸素流量の範囲によっては、再現性が悪く、所望の光学的特性を有する薄膜を高い再現性をもって形成することは非常に困難であった。よって、この範囲の光学的特性である屈折率及び減衰係数を有する薄膜を形成する技術が求められている。
【0013】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであって、単一の金属のみを使用し、反応性ガスの流量を増加させる場合と減少させる場合とで、反応性ガス流量に対する光学的特性値の変化経路が異なるヒステリシス現象が起きる領域の光学的特性値を有する薄膜を高い再現性をもって製造するための薄膜の製造方法およびスパッタリング装置を提供することを目的とする。
【発明の開示】
【0014】
本発明に係る薄膜形成方法は、単一種類あるいは複数種類の金属からなるターゲットをスパッタし、基板上へ、金属ないし金属の不完全反応物からなる中間薄膜を形成する中間薄膜形成工程と、前記形成された中間薄膜に、化学的に不活性な性質を有する不活性ガスを混入した反応性ガスの活性種を接触させ、前記中間薄膜と前記反応性ガスの活性種とを反応させて金属の化合物に変換する膜組成変換工程と、前記基板を保持するための基板ホルダの搬送速度を制御しながら、前記基板ホルダを、前記中間薄膜形成工程を行う領域と前記膜組成変換工程を行う領域との間を繰り返し搬送させて、中間薄膜形成と膜組成変換を繰り返し実施することにより、最終的に形成される薄膜の膜組成を調整し、反応性ガスの流量を増加させる場合と減少させる場合とで、反応性ガス流量に対する光学的特性値の変化経路が異なるヒステリシス現象が起きる領域の光学的特性値を有する薄膜を形成する光学的特性調整工程とを備えることを特徴とする。
【0015】
このように、基板ホルダが、中間薄膜形成工程を実施する成膜プロセスゾーンと、膜組成変換工程を実施する反応プロセスゾーンとを移動可能に形成されており、基板ホルダの移動速度を調整することができると、成膜プロセスゾーンでのスパッタ時間および反応プロセスゾーンでの中間薄膜と反応性ガスの活性種との反応時間を調整することが可能となる。したがって、最終的に形成される薄膜の組成を調整することが可能となり、薄膜の光学的特性値を制御することが困難な範囲であるヒステリシス現象が起きる領域内の光学的特性値を有する薄膜を、簡易に且つ高い再現性をもって形成することが可能となる。
【0016】
このとき、前記光学的特性調整工程では、前記基板を外周面に保持した円筒状または中空の多角柱状の前記基板ホルダを、回転駆動させ、前記基板ホルダの回転速度を制御することにより、前記ヒステリシス現象が起きる領域の光学的特性値を有する薄膜を形成するように構成すると好適である。
【0017】
これにより、基板ホルダに保持した基板は、成膜プロセスゾーンと反応プロセスゾーン間を繰り返しスムーズに搬送されるとともに、基板ホルダの回転速度を制御することによって、安定した搬送速度制御が可能となる。
また、基板ホルダ外周面に保持された多数の基板に対して、一度にスパッタによる薄膜を形成することが可能となり、薄膜の大量生産が可能となる。
【0018】
また、前記ヒステリシス現象が起きる領域は、スパッタを実施する際に導入される反応性ガス流量が、15sccm以下で、0sccmを含まない流量で形成される薄膜の光学的特性値の領域である。
【0019】
この領域においては、反応性ガス流量の変化に対する光学的特性の変化の割合が大きく、ヒステリシス現象も生じるため、反応性ガス流量を調整することによって、形成される薄膜の光学的特性をコントロールすることは、非常に困難である。したがって、この領域においては、反応性ガス流量を調整するのではなく、基板ホルダの回転速度を調整することにより、形成される薄膜の光学的特性をコントロールし、所望の光学的特性を有する薄膜を高い再現性をもって形成することが可能となる。
【0020】
本発明に係る薄膜形成装置は、真空槽内に配され、基板を保持する基板ホルダと、単一種類あるいは複数種類の金属からなるターゲットに対してスパッタを行うことで前記基板上に中間薄膜を形成させる、真空槽内に配設された成膜プロセスゾーンと、反応性ガスの活性種を発生するための活性種発生手段を備え、前記中間薄膜と反応性ガスの活性種とを反応させて薄膜を形成する、前記真空槽内に配設された反応プロセスゾーンと、前記成膜プロセスゾーンと前記反応プロセスゾーンとを、互いに空間的に分離する仕切手段と、前記基板を前記成膜プロセスゾーンに面する位置と前記反応プロセスゾーンに面する位置との間で搬送するために前記基板ホルダを駆動する基板ホルダ駆動手段と、反応性ガスの流量を増加させる場合と減少させる場合とで、反応性ガス流量に対する光学的特性値の変化経路が異なるヒステリシス現象が起きる領域の光学的特性値を有する薄膜を形成することのできる範囲内で、前記基板ホルダ駆動手段を制御する基板ホルダ搬送速度制御手段とを備えることを特徴とする。
【0021】
このように、基板を成膜プロセスゾーンに面する位置と反応プロセスゾーンに面する位置との間で搬送するために前記基板ホルダを駆動する基板ホルダ駆動手段と、基板ホルダの搬送速度を制御する基板ホルダ搬送速度制御手段を備えることで、基板ホルダの搬送速度を設定するのみで、反応性ガス流量を調整して形成される薄膜の光学的特性を調整するよりも高い再現性をもって、所望の光学的特性を有する薄膜を簡易に形成することが可能となる。
【0022】
このとき、前記ヒステリシス現象が起きる領域は、反応性ガス流量が15sccm以下で、0sccmを含まない流量で形成される薄膜の光学的特性値の領域である。
【0023】
この領域においては、酸素流量の変化に対する光学的特性の変化の割合が大きく、ヒステリシス現象も生じるため、酸素流量を調整することによって、形成される薄膜の光学的特性をコントロールすることは、非常に困難である。したがって、この領域においては、酸素流量を調整するのではなく、基板ホルダの回転速度を調整することが可能な薄膜形成装置を使用することにより、形成される薄膜の光学的特性をコントロールし、所望の光学的特性を有する薄膜を高い再現性をもって形成することが可能となる。
本発明の他の利点等は、以下の記述により明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
[図1]本発明のスパッタリング装置について示す説明図である。
[図2]本発明のスパッタリング装置を示す図1の線A−B−Cに沿った横断面説明図である。
[図3]薄膜の光学的特性の基板ホルダ回転速度依存性を示すグラフである。
[図4]薄膜の光学的特性の基板ホルダ回転速度依存性を示すグラフである。
[図5]プラズマ源の構成例を示す説明図である。
[図6]プラズマ源の構成例を示す説明図である。
[図7]プラズマ源の構成例を示す説明図である。
[図8]薄膜の屈折率の酸素流量依存性を示す図である。
[図9]薄膜の減衰係数の酸素流量依存性を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明は、スパッタを行うことで基板上に薄膜を形成するための、薄膜の製造方法およびスパッタリング装置に関する発明である。以下に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下に説明する部材、部材の配置等は本発明を限定するものでなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
【0026】
本実施形態では、目的とする光学的特性値及び膜厚を得るために、中間薄膜の成膜と反応を繰り返し実施し、薄膜を形成する。
目的とする薄膜の光学的特性値の範囲は、単一種類あるいは複数種類の金属をスパッタして薄膜を形成する際に導入される反応性ガスの流量を増加させる場合と減少させる場合とで、反応性ガス流量に対する光学的特性値の変化経路が異なるヒステリシス現象が起きる領域の光学的特性値である。
【0027】
図1は、本実施形態のスパッタリング装置について示す説明図である。図2は、図1の線A−B−Cに沿った横断面説明図である。本実施形態では、スパッタの一例であるマグネトロンスパッタを行うスパッタリング装置を用いているが、これに限定されるものでなく、マグネトロン放電を用いない2極スパッタ等、他の公知のスパッタを行うスパッタリング装置を用いることもできる。
【0028】
本実施形態のスパッタリング装置1は、真空槽11と、薄膜を形成させる図示しない基板を真空槽11内で保持するための基板ホルダ13と、基板ホルダ13を駆動するための基板ホルダ駆動手段としてのサーボモータ17とサーボモータ17を制御するための基板ホルダ搬送速度制御手段としての制御装置90、中間薄膜形成工程を実施する成膜プロセスゾーン20、成膜プロセスゾーンで形成された中間薄膜と不活性ガスを混入した反応性ガスの活性種を接触させて膜組成変換工程を実施する反応プロセスゾーン60、反応プロセスゾーン60を形成するための仕切手段としての仕切壁12、16と、スパッタ電極としてのマグネトロンスパッタ電極21a、21bと、交流電源23と、活性種を発生するための活性種発生手段としての活性種発生装置61と、を主要な構成要素としている。
なお、本明細書において、中間薄膜とは、金属或いは金属不完全酸化物からなり、成膜プロセスゾーンで形成される。
【0029】
真空槽11は、公知のスパッタリング装置で通常用いられるようなステンレス製で、略直方体形状を備える中空体である。真空槽11の形状は中空の円柱状であってもよい。真空槽11の底面には、排気用の配管が接続され、この配管には、図2に示すように、真空槽11内を排気するための真空ポンプ15が接続されている。この真空ポンプ15と図示しないコントローラとにより、真空槽11内の真空度が調整できるように構成されている。
【0030】
基板ホルダ13は、真空槽11内の略中央に配置されている。基板ホルダ13の形状は円筒状であり、その外周面に複数の基板を保持する。基板ホルダ13の形状は円筒状ではなく、中空の多角柱状であってもよいし、中空の略円錐台形状であってもよい。基板ホルダ13は、真空槽11から電気的に絶縁され、電位的にフローティングされた状態となっている。基板ホルダ13は、円筒の筒方向の中心軸線Zが真空槽11の上下方向になるように真空槽11内に配設される。基板ホルダ13は、真空槽11内の真空状態を維持した状態で、真空槽11の上部に設けられたサーボモータ17によって中心軸線Zを中心に回転駆動される。
【0031】
サーボモータ17は、公知のサーボモータであり、制御手段としての制御装置90により制御されている。サーボモータ17の駆動により基板ホルダ13は回転し、その回転速度は10rpm〜150rpmの範囲で任意に制御される。
【0032】
基板ホルダ13の外周面には、基板を基板ホルダ13に保持するための図示しない基板保持手段が設けられており、基板保持手段には基板が収納される図示しない凹部が設けられ、凹部は上下方向に一列に形成されている。
【0033】
本実施形態では、基板の薄膜を形成させる面(以下「膜形成面」という)と膜形成面の反対の面(以下「基板裏面」という)とが平行である平板状の基板を用いることとして、基板保持手段を構成する台座の形状は、基板を保持したときに、凹部の基板裏面と対向する面が、基板ホルダ13の中心軸線Zと垂直な方向を向くように形作られている。このため、基板の膜形成面が基板ホルダ13の中心軸線Zと垂直な方向を向くようになっている。
【0034】
成膜プロセスゾーン20と反応プロセスゾーン60は、真空槽11内に固定された仕切壁12、16によって形成されている。成膜プロセスゾーン20は仕切壁12で囲繞された状態で形成され、反応プロセスゾーン60は仕切壁16で囲繞された状態で形成されている。
【0035】
本実施形態では、反応プロセスゾーン60は、成膜プロセスゾーン20が形成された位置から、基板ホルダ13の回転軸を中心に円周上に約90度回転した位置に形成されるように仕切壁16が真空槽11に固定されている。
【0036】
モータ17によって基板ホルダ13が回転駆動されると、基板ホルダ13に保持された基板が、成膜プロセスゾーン20に面する位置と反応プロセスゾーン60に面する位置との間で搬送されることになる。これにより、基板は、後述の成膜プロセスゾーン20に配置されるターゲット29a、29bに対して相対的に移動することになる。
【0037】
なお、本実施形態における仕切壁12、16は、向かい合う1対の面が開口した筒状の直方体であり、ステンレス製である。仕切壁12、16は、真空槽11の側壁と基板ホルダ13との間に、真空槽11の側壁から基板ホルダ13の方向へ立設した状態で固定され、このとき仕切壁12、16の一方の開口した側が真空槽11の側壁に当接し、他方の開口した側が基板ホルダ13に面するように真空槽内に固定される。仕切壁12、16には、それぞれ不図示の水冷用の配管が取り付けられて、仕切壁12、16を冷却できるように構成されている。
【0038】
成膜プロセスゾーン20には、ガス導入手段としてのマスフローコントローラ25が、配管を介して連結されている。このマスフローコントローラ25は、不活性ガスとしてのアルゴンガスを貯留するスパッタガスボンベ27、反応性ガスを貯留する反応性ガスボンベ79に接続されている。この反応性ガスは、反応性ガスボンベ79から、マスフローコントローラ25で制御して、配管を通して成膜プロセスゾーン20に導入可能に構成されている。反応性ガスとしては、例えば酸素ガス、窒素ガス、弗素ガス、オゾンガス等が考えられる。
【0039】
成膜プロセスゾーン20には、基板ホルダ13の外周面に対向するように、真空槽11の壁面にマグネトロンスパッタ電極21a、21bが配置されている。このマグネトロンスパッタ電極21a、21bは、不図示の絶縁部材を介して接地電位にある真空槽11に固定されている。マグネトロンスパッタ電極21a、21bは、トランス24を介して、交流電源23に接続され、交番電界が印加可能に構成されている。マグネトロンスパッタ電極21a、21bには、ターゲットとしてのターゲット29a、29bが保持される。ターゲット29a、29bの形状は平板状であり、ターゲット29a、29bの基板ホルダ13の外周面と対向する面が、基板ホルダ13の中心軸線Zと垂直な方向を向くように保持される。
【0040】
なお、図示は省略しているが、製膜プロセスゾーン20におけるターゲット29a、29bと基板ホルダ13との間には、ターゲット29a、29bと基板ホルダ13との間を遮断または開放するように可動するプレスパッタシールドが配置されている。このプレスパッタシールドは、スパッタを開始する時に、スパッタが安定して行われるようになるまでターゲット29a、29bと基板ホルダ13との間を遮断し、スパッタが安定して行われるようになった後にターゲット29a、29bと基板ホルダ13との間を開放することにより、スパッタが安定してから基板へスパッタ原子を堆積するためのものである。
【0041】
反応プロセスゾーン60の真空槽11の壁面には、開口が形成され、この開口には、活性種発生手段としての活性種発生装置61が連結されている。
【0042】
活性種発生装置61は、ラジカル源とも呼ばれ、反応性ガスプラズマを発生させる石英管からなる反応性ガスプラズマ発生室63と、反応性ガスプラズマ発生室63に巻回されたコイル状の電極65と、マッチングボックス67と、マッチングボックス67を介してコイル状の電極65に接続された高周波電源69と、マスフローコントローラ77と、マスフローコントローラ77を介して接続された反応性ガスボンベ79と、を備える。
【0043】
活性種発生装置61の反応性ガスプラズマ発生室63で放電により生じるプラズマは、プラズマイオン、電子、ラジカル、励起状態のラジカル、原子、分子等を構成要素とする。
【0044】
反応性ガスプラズマ発生室63で発生したプラズマ中の反応性ガスの活性種は、反応プロセスゾーン60内において、反応プロセスに参加することが可能となる。
反応性ガスの活性種とは、イオン、ラジカル等のことである。また、ラジカルとは、遊離基(ratical)であり、一個以上の不対電子を有する原子または分子である。また、励起状態(excite state)とは、エネルギーの最も低い安定な基底状態に対して、それよりもエネルギーの高い状態のことをいう。
【0045】
反応性ガスボンベ79からマスフローコントローラ77を介して酸素ガスなどの反応性ガスが、反応性ガスプラズマ発生室63に供給され、マッチングボックス67を介して高周波電源69からの高周波電力が、コイル状の電極65に印加されると、反応性ガスのプラズマが反応性ガスプラズマ発生室63内に発生するように構成されている。
【0046】
また、図1、図2に示したように、外部磁石71が、反応性ガスプラズマ発生室63の外側に配置され、また内部磁石73が、反応プロセスゾーン60内に配置されている。この外部磁石71、内部磁石73は、プラズマ発生部に20〜300ガウスの磁場を形成することにより高密度プラズマを発生させ、活性種発生効率を高めるという機能を有する。なお、本実施形態では、外部磁石71、内部磁石73の双方を配設しているが、外部磁石71、内部磁石73のいずれか一方を配設するように構成してもよい。
【0047】
以下に、上述の本実施形態のスパッタリング装置1を用いて薄膜を製造する方法について、酸化ケイ素(SiO)誘導体薄膜を製造する場合を例として説明する。
なお、本明細書においては、ターゲットとして、ケイ素又はニオブを用いた例を説明したが、ターゲットとして使用することができるのは、単一種類の金属に限られるものではない。すなわち、複数種類の金属をターゲットとして使用する場合であっても、ヒストリシス現象が起きる範囲において、基板ホルダの回転速度を制御することによって、薄膜の光学的特性を制御することができる。
【0048】
(酸化ケイ素の薄膜を形成する工程)
まず、基板、ターゲット29a、29bをスパッタリング装置1に配置する。基板は、基板保持手段によって基板ホルダ13に保持する。ターゲット29a、29bは、それぞれマグネトロンスパッタ電極21a、21bに保持する。ターゲット29a、29bの材料としてケイ素(Si)を、を用いる。
目的とする薄膜の光学的特性値の範囲は、単一種類あるいは複数種類の金属からなるターゲットをスパッタする際に導入される反応性ガスの流量を増加させる場合と減少させる場合とで、反応性ガス流量に対する光学的特性値の変化経路が異なるヒステリシス現象が起きる領域である。
ヒステリシス現象とは、ある量Aの変化に伴って他の量Bが変化する場合、Aの変化の経路によって同じAに対するBの値が異なるという現象である。
本明細書では、単一種類または複数種類の金属からなるターゲットをスパッタする際に導入される反応性ガス流量の増加経路と減少経路とで、薄膜の光学的特性である屈折率及び減衰係数等の値が異なる経路で変化する現象をさす。
【0049】
次に、真空槽11内を所定の圧力に減圧し、サーボモータ17を作動させて、基板ホルダ13の回転を開始する。
基板ホルダ13の回転速度は10rpm〜100rpmの範囲、好ましくは10rpm〜60rpmの範囲において、所望の光学的特性を有する薄膜が形成される回転速度を選択し、制御装置90の設定を行う。
その後、真空槽11内の圧力が安定した後に、成膜プロセスゾーン20内の圧力を、1.0×10〜1.3Paに調整する。
【0050】
次に、成膜プロセスゾーン20内に、スパッタ用の不活性ガスであるアルゴンガスおよび反応性ガスとしての酸素ガスを、スパッタガスボンベ27、反応性ガスボンベ79からマスフローコントローラ25で流量調整して導き、成膜プロセスゾーン20内のスパッタを行うための雰囲気を調整する。
このとき成膜プロセスゾーン20に導入するアルゴンガスの流量は、約300sccmである。成膜プロセスゾーン20に導入する酸素ガスの流量を、後述のように所望の値に調整する。なお、流量の単位としてのsccmは、0℃、101325Paにおける、1分間あたりの流量を表すもので、cm/minに等しい。
【0051】
次に、交流電源23からトランス24を介して、マグネトロンスパッタ電極21a、21bに周波数1〜100KHzの交流電圧を印加し、ターゲット29a、29bに、交番電界が掛かるようにする。これにより、ある時点においてはターゲット29aがカソード(マイナス極)となり、その時ターゲット29bは必ずアノード(プラス極)となる。次の時点において交流の向きが変化すると、今度はターゲット29bがカソード(マイナス極)となり、ターゲット29aがアノード(プラス極)となる。このように一対のターゲット29a、29bが、交互にアノードとカソードとなることにより、プラズマが形成され、カソード上のターゲットに対してスパッタを行う。
【0052】
スパッタを開始する時には、スパッタが安定して行われるようになるまでターゲット29a、29bと基板ホルダ13との間をプレスパッタシールドで遮断し、スパッタが安定して行われるようになった後にターゲット29a、29bと基板ホルダ13との間を開放する。これにより、スパッタが安定してから基板へスパッタ原子を堆積させることができる。
【0053】
スパッタを行っている最中には、アノード上には非導電性あるいは導電性の低いケイ素不完全酸化物、酸化ケイ素等が付着する場合もあるが、このアノードが交番電界によりカソードに変換された時に、これらケイ素不完全酸化物等がスパッタされ、ターゲット表面は元の清浄な状態となる。
【0054】
そして、一対のターゲット29a、29bが、交互にアノードとカソードとなることを繰り返すことにより、常に安定なアノード電位状態が得られ、プラズマ電位(通常アノード電位とほぼ等しい)の変化が防止され、基板の膜形成面に安定してケイ素不完全酸化物が形成される。
【0055】
このように、成膜プロセスゾーン20においてスパッタを行うことにより、中間薄膜としての、ケイ素或いはケイ素不完全酸化物からなる中間薄膜を基板の膜形成面に形成する。ケイ素不完全酸化物は、本発明における不完全反応物としての不完全反応物であり、酸化ケイ素SiOの構成元素である酸素が欠乏した不完全な酸化ケイ素SiO(x<2)のことである。
【0056】
中間薄膜を構成する物質の組成は、成膜プロセスゾーン20に導入する酸素ガスの流量を調整することで決定し、中間薄膜の膜厚は、基板ホルダ13の回転速度を調整することで決定する。
すなわち、成膜プロセスゾーン20に導入する酸素ガスの流量と、中間薄膜を構成するケイ素不完全酸化物SiO(x<2)の化学量論係数xとは、導入する酸素ガスの流量を大きくするにしたがって、化学量論係数xの値が大きくなる関係にある。
また、基板ホルダ13の回転速度を速くすると、成膜プロセスゾーンでのスパッタ時間が短くなるため、基板上に堆積する粒子数が少なくなり、中間薄膜の膜厚が薄くなる。
【0057】
本実施形態では、ケイ素或いは所望の化学量論係数xのケイ素不完全酸化物が基板の膜形成面に形成するように、導入する酸素ガスの流量を所望の値に調整し、所望の膜厚を形成するように、基板ホルダ13の回転速度を調整して、成膜プロセスゾーン20でスパッタを行う。スパッタを行っている最中は、基板ホルダ13を所定の回転速度で回転駆動させて基板を移動させながら、基板の膜形成面にケイ素或いはケイ素不完全酸化物からなる中間薄膜を形成させる。
【0058】
さらに、図示しないが、マグネトロンスパッタ電極21a、21bと基板ホルダ13との間に補正板および遮蔽板を設け、遮蔽板の形状に応じた膜厚分布の中間薄膜を形成させるようにしてもよい。
【0059】
成膜プロセスゾーン20で、基板の膜形成面にケイ素或いはケイ素不完全酸化物からなる中間薄膜を形成させることで、中間薄膜形成工程を行った後には、基板ホルダ13の回転駆動によって基板を、成膜プロセスゾーン20に面する位置から反応プロセスゾーン60に面する位置に搬送する。
【0060】
本実施形態では、反応プロセスゾーン60で、中間薄膜を構成するケイ素或いはケイ素不完全酸化物を酸化反応させて酸化ケイ素(SiO)に変換させることで、膜組成変換工程を行う。
【0061】
反応プロセスゾーン60には、反応性ガスボンベ79から反応性ガスとしての酸素ガスを導入する。コイル状の電極65に、100KHz〜50MHzの高周波電力を印加し、活性種発生装置61によりプラズマを発生させる。なお、反応プロセスゾーン60の圧力は、7.0×10−2〜1.0Paに維持する。反応性ガスプラズマ発生室63内のプラズマ中には、反応性ガスの活性種が存在し、この反応性ガスの活性種は、反応プロセスゾーン60に導かれる。
【0062】
そして、基板ホルダ13が回転して、ケイ素或いはケイ素不完全酸化物から構成される中間薄膜が形成した基板が反応プロセスゾーン60に面する位置に搬送されてくると、反応プロセスゾーン60では、中間薄膜を構成するケイ素或いはケイ素不完全酸化物を酸化反応させる工程を行う。すなわち、ケイ素或いはケイ素不完全酸化物を酸素ガスの活性種により酸化反応させて、酸化ケイ素(SiO)に変換させる。
【0063】
このとき、基板ホルダ13の回転速度を調整することによって、中間薄膜の組成を決定することができる。
基板ホルダ13の回転速度を速くすれば、成膜プロセスゾーン20で形成される中間薄膜の膜厚が薄くなり、反応プロセスゾーン60での反応が容易になるため、反応プロセスゾーンにおける、ケイ素、ケイ素不完全酸化物(SiO)の酸化ケイ素(SiO)への変換割合が高くなる。
すなわち、反応プロセスゾーン60において、酸化ケイ素(SiO)に変換されるケイ素、ケイ素不完全酸化物(SiO)の量は、基板ホルダ13の回転速度に依存して変化することとなり、形成される薄膜の組成は基板ホルダ13の回転速度に依存して変化することとなる。
よって、基板ホルダ13の回転速度を調整することにより、最終的に形成される薄膜を構成するケイ素、ケイ素不完全酸化物(SiO)、酸化ケイ素(SiO)の組成を調整することが可能となり、薄膜の組成によって、最終的に形成される薄膜の光学的特性が決定される。
このように、基板ホルダ13の回転速度を調整することによって、薄膜の組成を決定し、所望の光学的特性を有する薄膜を形成することが可能となる。
【0064】
図3は基板ホルダ13の回転速度と形成された薄膜の光学的特性との関係を示すグラフである。
形成された薄膜の光学的特性の評価のパラメータとしては、屈折率と減衰係数を選択し、横軸に基板ホルダ回転速度(rpm)、縦軸に屈折率および減衰係数を示す。
図3に示されるように、本実施形態による薄膜形成方法によれば、形成された薄膜の屈折率を基板ホルダ13の回転速度の増加とともに、2.02〜1.475まで制御可能であり、減衰係数は、1.6×10−2〜5.0×10−5まで制御可能である。
本実施形態では、図3に基づいて、所望の屈折率および減衰係数を有する薄膜が形成されるように、基板ホルダ13の回転速度(rpm)を決定する。
なお、薄膜の光学的特性は、分光エリプソメータの測定データを用いて評価した。
【0065】
表1は本実施形態における、基板ホルダ回転速度と成膜プロセスゾーンおよび反応プロセスゾーンの基板通過時間を示す表である。
【0066】


【0067】
このように、基板ホルダの回転速度を調整することによって、成膜プロセスゾーンでのスパッタ時間および反応プロセスゾーンでの反応時間を制御することが可能となり、この結果、最終的に形成される薄膜の組成を制御することが可能となる。
【0068】
また、この反応プロセスゾーン60における膜組成変換工程では、最終薄膜の膜厚が中間薄膜の膜厚よりも厚くなるように、最終薄膜が形成される。
すなわち、中間薄膜を構成するケイ素或いはケイ素不完全酸化物SiO(x<2)を酸化ケイ素(SiO)に変換することにより中間薄膜を膨張させ、最終薄膜の膜厚を中間薄膜の膜厚よりも厚くする。
この膨張率は、成膜プロセスゾーン20に導入する酸素ガスの流量に依存する。すなわち、成膜プロセスゾーン20での中間薄膜形成工程で成膜プロセスゾーン20に導入する酸素ガスの流量を減少させて、ケイ素不完全酸化物の化学量論係数xの値を小さくするにしたがって、膜厚の増加率が大きくなる関係にある。言い換えれば、中間薄膜形成工程で、成膜プロセスゾーン20に導入する酸素ガスの流量を調整することで、中間薄膜を構成するケイ素不完全酸化物の化学量論係数xを決定して(xを0とするなら、中間薄膜はケイ素から構成される)、中間薄膜に対する最終薄膜の膜厚の増加率を決定することができる。
【0069】
本実施形態では、以上説明した通り、基板ホルダの回転速度を制御して、中間薄膜形成工程と膜組成変換工程とを、基板を搭載した基板ホルダ13を回転させながら繰り返すことにより、成膜プロセスゾーン20におけるケイ素或いはケイ素不完全酸化物(SiO(x<2))の基板上への形成と、反応プロセスゾーン60におけるケイ素或いはケイ素不完全反応物の酸化ケイ素(SiO)への変換が繰り返され、所望の膜厚、所望の光学的特性を有する薄膜を形成することができる。
【0070】
以上、ケイ素をスパッタして薄膜を形成する工程を記述したが、同様にニオブをスパッタして薄膜を形成することもできる。図4は、基板ホルダ13の回転速度と形成された薄膜の光学的特性との関係を示す酸化ニオブ誘導体薄膜についてのグラフである。
形成された薄膜の光学的特性の評価のパラメータとしては、屈折率と減衰係数を選択し、横軸に基板ホルダ回転速度(rpm)、縦軸に屈折率および減衰係数を示す。
図4に示されるように、本実施形態による薄膜形成方法によれば、形成された薄膜の屈折率を基板ホルダ13の回転速度の増加とともに、3.50〜2.35まで制御可能であり、減衰係数は、6.5×10−2〜5.0×10−5まで制御可能である。
本実施形態では、図4に基づいて、所望の屈折率および減衰係数を有する薄膜が形成されるように、基板ホルダ13の回転速度(rpm)を決定する。
【0071】
以下に、本実施形態により、ケイ素をスパッタして薄膜を形成した場合と、ニオブをスパッタして薄膜を形成した場合の作動条件を示す。
(1)ケイ素のスパッタリング条件
投入電力:7.0kW
基板温度:室温
成膜プロセスゾーン内圧力:1.3Pa
印加交流電圧周波数:40KHz
完全化合物レート:0.40nm/s
(2)ニオブのスパッタリング条件
投入電力:4.5kW
基板温度:室温
成膜プロセスゾーン内圧力:1.3Pa
印加交流電圧周波数:40KHz
完全化合物レート:0.35nm/s
(3)活性種発生装置の駆動条件
装置:図1、図2に示した誘導結合型プラズマ発生源
投入電力:2.0kW
圧力:6.5×10−1Pa
【0072】
上記実施形態では、ターゲットの材料として、ケイ素およびニオブを使用したが、これに限定されるものではなく、ターゲット29a、29bの材料は種々変更できる。
【0073】
(a)例えば、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、スズ(Sn)、クロム(Cr)、タンタル(Ta)、テルル(Te)、鉄(Fe)、マグネシウム(Mg)、ハフニウム(Hf)、ニッケル・クロム(Ni−Cr)、インジウム・スズ(In−Sn)などの金属を用いることができる。また、これらの金属の化合物、例えば、Al、TiO、ZrO、Ta、HfO等を用いることもできる。
【0074】
これらのターゲットを用いた場合、反応プロセスゾーン60における反応性ガスの活性種の接触により、Al、TiO、ZrO、Ta、SiO、HfO、MgF等の光学膜ないし絶縁膜、ITO等の導電膜、Feなどの磁性膜、TiN、CrN、TiCなどの超硬膜とされる。
【0075】
(b)上記実施形態では、図1に示すように、成膜プロセスゾーン20と反応プロセスゾーン60とに、同一の反応性ガスボンベ79から反応性ガスを導入するように構成しているが、これに限定されるものでなく、成膜プロセスゾーン20と、反応プロセスゾーン60とに、異なるガスボンベを連結し、同じ元素を有する、異なるガスを導入することも可能である。
【0076】
上述の実施形態では、成膜プロセスゾーン20、反応プロセスゾーン60に反応性ガスとして酸素を導入しているが、その他に、オゾン、一酸化二窒素(NO)等の酸化性ガス、窒素等の窒化性ガス、メタン等の炭化性ガス、弗素、四弗化炭素(CF)等の弗化性ガスなどを導入することもできる。なお、成膜プロセスゾーン20に窒素ガスを導入する場合、導入するガス流量は、不活性ガスとしてのアルゴンガス300sccm、窒素ガス9〜60sccmとするとよい。
【0077】
(c)上記実施形態では、反応性ガスプラズマ部として、図1、図2に示すように、反応性ガスプラズマ発生室の外部または内部に電極を設けた誘導結合型プラズマ源を用いているが、次に説明するように、反応性ガスプラズマ発生室内にコイル電極を配置した誘導結合型プラズマ源(下記(1))、容量結合型プラズマ源(下記(2))、誘導結合・容量結合混在型プラズマ源(下記(3))などを用いることもできる。
【0078】
(1)図5に示したプラズマ源:円盤状の石英ガラス等の誘電体からなる反応性ガスプラズマ発生室63の大気側に渦巻き状(蚊取り線香状)の渦巻状電極91を配置し、この渦巻状電極91に100KHz〜50MHzの高周波電力を印加してプラズマを発生させる誘導結合型プラズマ発生源。図5(B)は渦巻状電極91の平面の概略説明図である。
【0079】
(2)図6に示したプラズマ源:反応性ガスプラズマ発生室63の内部に平板状の電極93を配置し、この平板状電極93に100KHz〜50MHzの高周波電力を印加してプラズマを発生させる容量結合型プラズマ発生源。
【0080】
(3)図7に示したプラズマ源:反応性ガスプラズマ発生室63の内部にコイル状電極95または渦巻状電極を配置し、これら電極に100KHz〜50MHzの高周波電力を印加して誘導結合型プラズマと容量結合型プラズマとが混存するプラズマを発生されるプラズマ発生源。等を用いることができる。また、コイルの形状等を調整することにより、ヘリコン波プラズマ源とし、プラズマ中における活性種の発生効率を高めることもできる。
【0081】
(d)上記実施形態では、所謂カルーセル型のスパッタ装置を用いているが、これに限定されるものではない。すなわち、基板ホルダを回転駆動するものではなくても、基板ホルダを成膜プロセスゾーンと反応プロセスゾーンとの間で繰り返し搬送可能な構成であり、搬送速度を制御することが可能なスパッタ装置であればよい。
例えば、基板ホルダが平行に繰り返し移動するような構成のスパッタ装置でもよい。中間薄膜形成工程での処理および膜組成変換工程での処理は、上記実施形態で説明した、スパッタリング装置1を用いて薄膜を製造する方法と同様であり、基板ホルダの搬送速度を調整することにより、スパッタ時間および反応時間を調整して、形成される薄膜の光学的特性を決定することができる。
産業上の利用性
【0082】
以上のように本発明の薄膜の形成方法及びその形成装置においては、成膜プロセスゾーンと反応プロセスゾーン間において基板を搬送する基板ホルダの回転速度を調整することによって、形成される薄膜の膜厚および光学的特性を調整することが可能となる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一種類あるいは複数種類の金属からなるターゲットをスパッタし、基板上へ、金属ないし金属の不完全反応物からなる中間薄膜を形成する中間薄膜形成工程と、前記形成された中間薄膜に、化学的に不活性な性質を有する不活性ガスを混入した反応性ガスの活性種を接触させ、前記中間薄膜と前記反応性ガスの活性種とを反応させて金属の化合物に変換する膜組成変換工程と、前記基板を保持するための基板ホルダの搬送速度を制御しながら、前記基板ホルダを、前記中間薄膜形成工程を行う領域と前記膜組成変換工程を行う領域との間を繰り返し搬送させて、中間薄膜形成と膜組成変換を繰り返し実施することにより、最終的に形成される薄膜の膜組成を調整し、反応性ガスの流量を増加させる場合と減少させる場合とで、反応性ガス流量に対する光学的特性値の変化経路が異なるヒステリシス現象が起きる領域の光学的特性値を有する薄膜を形成する光学的特性調整工程と、を備えることを特徴とする薄膜の形成方法。
【請求項2】
前記光学的特性調整工程では、前記基板を外周面に保持した円筒状または中空の多角柱状の前記基板ホルダを、回転駆動させ、前記基板ホルダの回転速度を制御することにより、前記ヒステリシス現象が起きる領域の光学的特性値を有する薄膜を形成することを特徴とする請求項1記載の薄膜形成方法。
【請求項3】
前記ヒステリシス現象が起きる領域は、スパッタを実施する際に導入される反応性ガス流量が、15sccm以下で、0sccmを含まない流量で形成される薄膜の光学的特性値の領域であることを特徴とする請求項1に記載の薄膜形成方法。
【請求項4】
真空槽内に配され、基板を保持する基板ホルダと、単一種類あるいは複数種類の金属からなるターゲットに対してスパッタを行うことで前記基板上に中間薄膜を形成させる、前記真空槽内に配設された成膜プロセスゾーンと、反応性ガスの活性種を発生するための活性種発生手段を有し、前記中間薄膜と反応性ガスの活性種とを反応させて薄膜を形成する、前記真空槽内に配設された反応プロセスゾーンと、前記成膜プロセスゾーンと前記反応プロセスゾーンとを、互いに空間的に分離する仕切手段と、前記基板を前記成膜プロセスゾーンに面する位置と前記反応プロセスゾーンに面する位置との間で搬送するために前記基板ホルダを駆動する基板ホルダ駆動手段と、反応性ガスの流量を増加させる場合と減少させる場合とで、反応性ガス流量に対する光学的特性値の変化経路が異なるヒステリシス現象が起きる領域の光学的特性値を有する薄膜を形成することのできる範囲内で、前記基板ホルダ駆動手段を制御する基板ホルダ搬送速度制御手段と、を備えたことを特徴とする薄膜形成装置。
【請求項5】
前記ヒステリシス現象が起きる領域は、反応性ガス流量が15sccm以下で、0sccmを含まない流量で形成される薄膜の光学的特性値の領域内であることを特徴とする請求項4記載の薄膜形成装置。

【国際公開番号】WO2004/108981
【国際公開日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【発行日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−506761(P2005−506761)
【国際出願番号】PCT/JP2004/007609
【国際出願日】平成16年6月2日(2004.6.2)
【特許番号】特許第3779317号(P3779317)
【特許公報発行日】平成18年5月24日(2006.5.24)
【出願人】(390007216)株式会社シンクロン (52)
【Fターム(参考)】