説明

薄膜トランジスタ

【課題】 オン特性に優れるとともにオフ電流の上昇を抑制した薄膜トランジスタを実現する。
【解決手段】 基板上に配置された第1ゲート電極と、第1ゲート電極の上に形成された第1ゲート絶縁膜と、第1ゲート絶縁膜の上に一方側が非晶質シリコン層となり他方側が微結晶シリコン層となるように積層されたチャンネル層と、チャンネル層のチャンネル領域を挟んで配置されたソース電極およびドレイン電極と、チャンネル層の上に形成された第2ゲート絶縁膜と、第2ゲート絶縁膜の上に配置された第2ゲート電極とを備え、第1ゲート電極および第2ゲート電極のうち微結晶シリコン層側となる一方のゲート電極はソース電極またはドレイン電極との間にオフセット領域を有し、非晶質シリコン層側となる他方の電極はオフセット領域まで延在する薄膜トランジスタとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ディスプレイなどに使用される薄膜トランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、薄膜トランジスタを用いた表示デバイスでは、ゲートドライバ一体型液晶ディスプレイや有機EL駆動回路内蔵ディスプレイなど、アレイ基板にある程度大きな規模の回路を作りこむことが行われている。これらのデバイスの回路部分では、大きいオン電流が必要であるため、高移動度の薄膜トランジスタが適している。このような薄膜トランジスタとして従来はコプレーナ型の低温ポリシリコン薄膜トランジスタが一般的であった。しかし、コプレーナ型低温ポリシリコン薄膜トランジスタの製造には、成膜したアモルファスシリコンをレーザーアニールして結晶化させる工程、イオン注入の工程、また注入した不純物を活性化させるアニール工程などが必要である。このような低温ポリシリコン薄膜トランジスタの製造プロセスは複雑である。これらの欠点を解消するため、従来の逆スタガ型の薄膜トランジスタ構造のまま、チャネル部のシリコンを微結晶として移動度の向上を図った微結晶薄膜トランジスタが開発されている。
【0003】
たとえば特許文献1では、液晶ディスプレイ用の周辺駆動回路用薄膜トランジスタとしてチャネルを多結晶質及び微結晶、非晶質シリコンの3層積層構造とした逆スタガ構造とすることによりオン特性に優れた薄膜トランジスタを作製している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−226656号広報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし微結晶シリコンは非晶質シリコンと比較してバンドギャップが狭く、微結晶シリコンで薄膜トランジスタを形成した場合、オフ電流の低減が困難であった。そこで、オン特性に優れるとともにオフ電流の上昇を抑制した薄膜トランジスタを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の薄膜トランジスタは、基板上に配置された第1ゲート電極と、第1ゲート電極の上に形成された第1ゲート絶縁膜と、第1ゲート絶縁膜の上に一方側が微結晶シリコン層となり他方側が非晶質シリコン層となるように積層されたチャンネル層と、チャンネル層のチャンネル領域を挟んで配置されたソース電極およびドレイン電極と、チャンネル層の上に形成された第2ゲート絶縁膜と、第2ゲート絶縁膜の上に配置された第2ゲート電極とを備え、第1ゲート電極および第2ゲート電極のうち微結晶シリコン層側にある一方のゲート電極はソース電極またはドレイン電極との間にオフセット領域を有し、非晶質シリコン層側にある他方のゲート電極はオフセット領域の少なくとも一部と重なる領域に配置される薄膜トランジスタとした。
【発明の効果】
【0007】
本発明の薄膜トランジスタは、非晶質シリコン層と微結晶シリコン層とが積層されたチャンネル層と、微結晶シリコン層側の一方のゲート電極とソース電極またはドレイン電極との間にオフセット領域を有し、非晶質シリコン層側の他方のゲート電極はオフセット領域の少なくとも一部と重なる領域に配置される。このため、薄膜トランジスタがオン状態となった際に、一方のゲート電極が形成された領域は高移動度の微結晶シリコン層により低抵抗となる。微結晶シリコン層側ではオフセット領域はゲート電極がないので高抵抗層であるが、反対側の非晶質シリコン層側に他方のゲート電極が配置されるので、電流は非晶質シリコン層側を迂回して流れる。また、薄膜トランジスタがオフの場合には、微結晶シリコン部分は通常のオフセット構造の薄膜トランジスタとして機能し、バンドギャップの狭さに起因するオフ電流の上昇を抑制できる。従ってオン特性に優れるとともにオフ電流の上昇を抑制した薄膜トランジスタを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本実施の形態1の薄膜トランジスタの構造を示す断面図である。
【図2】本実施の形態1の薄膜トランジスタの動作を示す断面図である。
【図3】本実施の形態1の薄膜トランジスタの構造を示す上面図である。
【図4】本実施の形態2の薄膜トランジスタの構造を示す断面図である。
【図5】本実施の形態2の薄膜トランジスタの動作を示す断面図である。
【図6】本実施の形態3の薄膜トランジスタの構造を示す断面図である。
【図7】本実施の形態3の薄膜トランジスタの動作を示す断面図である。
【図8】本実施の形態3の薄膜トランジスタの構造を示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<実施の形態1>
図1は本実施の形態1の薄膜トランジスタの構造を示す断面図である。ガラスなどの絶縁性の基板10の上に、たとえばモリブデンやタングステンなどの金属で構成される第1ゲート電極1、その第1ゲート電極1を覆う、たとえば非晶質の窒化ケイ素からなる第1ゲート絶縁膜2、第1ゲート絶縁膜2の上に非晶質シリコンで構成される第1チャネル層3、その第1チャネル層3の上に接する微結晶シリコンで構成される第2チャネル層4が順次積層される。第2チャネル層4の上の一部には導電性を付与するために不純物であるリンが添加された非晶質シリコンからなるソース・ドレイン層5、そのソース・ドレイン層5の上にたとえばアルミニウムなどの金属から構成されるソース電極6a、ドレイン電極6bが形成されている。
【0010】
ソース・ドレイン層5およびソース電極6a、ドレイン電極6bはそれぞれソース領域とドレイン領域とに分割されて形成されており、ソース領域とドレイン領域との間にはソース・ドレイン層5およびソース・ドレイン電極6a、6bが形成されないチャンネル領域を有する。ソース・ドレイン層5およびソース電極6a、ドレイン電極6b、これらが形成されていないチャンネル領域の第2チャネル層4の上はたとえば非晶質の窒化ケイ素からなる第2ゲート絶縁膜7によって覆われている。第2ゲート絶縁膜7は層間絶縁膜に兼用されてもよい。また図のように以上の構造の上を絶縁性の保護層11で覆ってもよい。また、第2チャネル層4のチャンネル領域の厚みはソース・ドレイン領域に比べて薄くなっていてもよい。
【0011】
チャンネル領域の第2チャネル層4の上には第2ゲート絶縁膜7を介して金属や透明導電膜などで構成される第2ゲート電極8が形成されている。この第2ゲート電極8のチャンネル方向の長さであるゲート長G2は、ソース領域とドレイン領域との間の間隔であるチャンネル領域の長さLCに比べて小さい。また、チャンネル領域の長さLCは基板側にある第1ゲート電極1のゲート長G1よりも少し短い。基板に垂直な方向から見た場合、チャンネル領域は第1ゲート電極1の形成された領域内に包含され、また第2ゲート電極8はチャンネル領域に包含される。また、第2チャネル層4側にソース電極6aやドレイン電極6bが形成された領域と、第1チャネル層3側に形成された第1ゲート電極1が形成された領域とは一部重なる。第1ゲート電極1がチャンネル領域の長さLCより短いので、第1ゲート電極1とソース電極6aやドレイン電極6bとの間にはゲート電極や低抵抗のソース・ドレイン層5がないオフセット領域OFが存在する。図はオフセット領域OFが第1ゲート電極1に対してソース電極6a側とドレイン電極6b側との両側にある場合であるが、いずれか一方のみに形成されるように第1ゲート電極1を配置してもよい。
【0012】
図2は本実施の形態1の薄膜トランジスタの動作を示す断面図である。図は薄膜トランジスタの第1ゲート電極1および第2ゲート電極8に正の電圧が印加され、トランジスタがオンとなった状態を示している。第1チャネル層3の第1ゲート電極1に対向する側である基板側には下部の第1ゲート電極1の正の電圧により反転層Aが誘起される。また、第2チャネル層4の第2ゲート電極8に対向する側、つまり基板と反対側には上部の第2ゲート電極8の正の電圧により反転層Bが誘起される。図中に示した点線Lはこの状態で主として電流流れる電流経路を示している。
【0013】
ソース電極6aからドレイン電極6bへ流れる電流は、まずソース電極6aからソース・ドレイン層5、微結晶シリコンからなる第2チャネル層4を経て、第2ゲート電極8が形成されていないオフセット領域OFでチャンネル層の反対側の面の第1ゲート電極1側にできた第1チャンネル層の反転層Aに入って流れる。次いで第2ゲート電極8の形成された領域では第2チャネル層4側にできた反転層Bを主に通過する。
【0014】
本実施の形態1の薄膜トランジスタは、微結晶シリコンからなる第2チャネル層4側の第2ゲート電極8がチャンネル長さLCよりも短いため、チャンネル領域内に第2チャネル層4側に反転層ができないオフセット領域OFを有する。オン状態でオフセット領域OFは高抵抗であり、電流はこの領域を迂回して、下部の第1ゲート電極1により誘起された反転層Aを経由する。第2ゲート電極8の形成された領域では、非晶質シリコンからなる第1チャネル層3の反転層Aよりも微結晶シリコンからなる第2チャネル層4の反転層Bの方が低抵抗であるので、主として第2チャネル層4の反転層Bを流れる。ドレイン電極6b側のオフセット領域OFでも反転層Aを経由した後、ドレイン電極6bに至る。
【0015】
第1ゲート電極1および第2ゲート電極8へのオンまたはオフの電圧印加は同時に行われるとよい。たとえばトランジスタをオンにする際にはそれらのゲート電極に正の電圧を印加し、オフとする際には負電圧を印加するか、または電圧を印加しない。
【0016】
図3は本実施の形態1の薄膜トランジスタの構造を説明する上面図である。なお図1は図3中の点線Z−ZZの断面図に相当する。図3は微結晶シリコンからなる第2チャネル層4側から見た図であり、第2チャネル層4側はソース電極6aとドレイン電極6bと第2ゲート電極8との間にオフセット領域OFがあり、非晶質シリコンからなる第1チャネル層3側にある第1ゲート電極1は少なくともオフセット領域OFと重なる領域に配置される。なお、図3は基板1に垂直な方向から見た場合の第1ゲート電極1、オフセット領域OF、第2ゲート電極8の重なりを示す図であり、ゲート絶縁膜2、7や保護膜11、基板10は省略した。また、上面からみたチャンネル層や各電極の形状や配置は種々の変更に可能である。ソース電極6aには配線21a、ドレイン電極6bには配線21b、ゲート電極1または8には配線21cが接続され、それぞれの電極には配線21a、21b、21cを通じて電気信号が印加される。
【0017】
第1ゲート電極1と第2ゲート電極8とは第1チャネル層3や第2チャネル層4が形成された領域より外側に延在し、その領域で相互に接続される接続部17を有するようにしてもよい。第1ゲート電極1と第2ゲート電極8とが同じノードに接続されて、そのノードに同じ電圧を印加するようにするとオンオフの制御が簡単である。図には示さないが第2ゲート絶縁膜7に第1ゲート電極1に達するコンタクトホールを形成した後に第2ゲート電極8を形成すると、コンタクトホール内で第1ゲート電極1と第2ゲート電極8とが電気的に接続される接続部17が形成される。また、このような接続部はコンタクトホールを用いた接続箇所に限らず、たとえば、さらに上層に配線層を形成し、その配線層によって第1ゲート電極1と第2ゲート電極8とを接続した部分であってもよい。
【0018】
非晶質シリコンの第1チャネル層3、その上に接する微結晶シリコンの第2チャネル層4とは、シラン(SiH)ガスと水素(H)ガスを原料にプラズマCVD装置を用いて連続的に成膜される。それらの成膜条件の一例を挙げると、微結晶シリコンの成膜条件は、雰囲気圧力400Torr(すなわち約53330Pa)、シラン分圧と水素分圧との比比率は0.05対9.95、基板温度200℃、投入電力密度は約3W/cmであり、非晶質シリコンの成膜条件は、雰囲気圧力400Torr(すなわち約53330Pa)、シラン分圧と水素分圧との比率は1.5対8.5、基板温度200℃、投入電力密度は約3W/cm)である。また、液晶表示用のTFT基板などでは第2ゲート絶縁膜7は層間絶縁膜と兼用が可能であり、第2ゲート電極8は画素電極やブラックマトリックス、上部配線などと兼用が可能である。このため、本構造の薄膜トランジスタは、通常の薄膜トランジスタと同じ生産コストで作成が可能である。
【0019】
以上のように、本実施の形態1の薄膜トランジスタは、基板10上に配置された第1ゲート電極1と、第1ゲート電極1の上に形成された第1ゲート絶縁膜2と、第1ゲート絶縁膜2の上に第1チャンネル層3である非晶質シリコン層と第2チャンネル層4である微結晶シリコン層とが積層されたチャンネル層と、そのチャンネル層のチャンネル領域を挟んで配置されたソース電極6aおよびドレイン電極6bと、チャンネル層の上に形成された第2ゲート絶縁膜7と、第2ゲート絶縁膜7の上に配置された第2ゲート電極8とを備える。第1ゲート電極1および前記第2ゲート電極8のうち第2ゲート電極8は第2チャンネル層4の微結晶シリコン層側となる一方のゲート電極である。この第2ゲート電極8のゲート長G2はチャンネル領域の長さLCより短いので、チャンネル層には第2ゲート電極8とソース電極6aまたはドレイン電極6bとの間にオフセット領域OFを有する。また、第2ゲート電極8とチャンネル層を挟んで反対側にある第1ゲート電極1は第1チャンネル層3の非晶質シリコン層側となる他方のゲート電極である。第1ゲート電極1とチャンネル層を挟んで反対側にある第2ゲート電極8はチャンネル層の第1ゲート電極1のオフセット領域OFまで延在する。第1ゲート電極のゲート長G1は第2ゲート電極のゲート長G2よりも長い構造としている。ソース電極6aとドレイン電極6bとは微結晶シリコン層側に配置され、第1ゲート電極1が形成された領域はチャンネル領域を包含しており、チャンネル層の第1ゲート電極1が形成された面と反対側の面に形成されたソース・ドレイン電極の領域に部分的に重なっている。
【0020】
このため、微結晶シリコン層側はチャンネル領域に比べてゲート長が短いゲートオフセット構造を有し、オン状態でも高抵抗のオフセット領域OFを有する。上記のように、他方のゲート電極である第1ゲート電極1はオフセット領域の少なくとも一部と重なる領域に配置されるので、そのオフセット領域OFに微結晶シリコン層表面と反対側の非晶質シリコン層表面側に反転層ができる。このため、高抵抗のオフセット部分を迂回してオン電流の低下をある程度抑えられる。一方、薄膜トランジスタがオフ状態となる時には第2ゲート電極はオフセット構造となっているため、ゲート電圧が負電圧時には、微結晶チャネル部とソース・ドレイン部との界面でのトンネル電流を抑制する。このため、本構造の薄膜トランジスタは、バンドギャップの狭い微結晶シリコンをチャネル材料に用いて、低いオフ電流と高いオン電流を両立できる。また、生産コストを上昇させずに高いオン電流と低いオフ電流の薄膜トランジスタが得られる。
【0021】
<実施の形態2>
図4は本実施の形態2の薄膜トランジスタの構造を示す断面図である。実施の形態1の薄膜トランジスタと比べて、非晶質シリコン層と微結晶シリコン層とが積層されたチャンネル層、非晶質シリコン層側と微結晶シリコン層側とにゲート電極を有する点は同様であるが、それぞれの位置関係が異なる。基板側の第1チャンネル層3が微結晶シリコン層からなり、基板と反対側の第2チャンネル層4が非晶質シリコン層からなる。
【0022】
ガラスなどの絶縁性の基板10の上に、たとえばモリブデンやタングステンなどの金属で構成される第1ゲート電極1、その第1ゲート電極1を覆うたとえば非晶質の窒化ケイ素からなる第1ゲート絶縁膜2、第1ゲート絶縁膜2の上に微結晶シリコンで構成される第1チャネル層3、その第1チャネル層3の上に接する非晶質シリコンで構成される第2チャネル層4が順次積層される。第2チャネル層4の上の一部には導電性を付与するために不純物であるリンが添加された非晶質シリコンからなるソース・ドレイン層5、そのソース・ドレイン層5の上にたとえばアルミニウムなどの金属から構成されるソース電極6a、ドレイン電極6bが形成されている。
【0023】
ソース電極6a、ドレイン電極6bはそれぞれソース領域とドレイン領域とに分割されて形成されており、ソース電極6aとドレイン電極6bとの間のチャンネル領域にはソース・ドレイン層5およびソース・ドレイン電極6a、6bが形成されない領域を有する。また、ソース・ドレイン層5はソース電極側およびドレイン電極側の下部からチャンネル領域の上にも一部延在する。ソース・ドレイン層5およびソース・ドレイン電極6a、6b、これらが形成されていないチャンネル領域の第2チャネル層4の上はたとえば非晶質の窒化ケイ素からなる第2ゲート絶縁膜7によって覆われている。第2ゲート絶縁膜7は層間絶縁膜にも兼用される。また図のように以上の構造を絶縁性の保護層11で覆ってもよい。また、図のように第2チャネル層4のチャンネル領域の厚みはソース・ドレイン領域に比べて薄くなっていてもよい。
【0024】
チャンネル領域の第2チャネル層4の上には第2ゲート絶縁膜7を介して金属や透明導電膜などで構成される第2ゲート電極8が形成されている。また、第2ゲート電極8はチャンネル領域よりもわずかに小さいが概ね全領域の上を覆うように形成されている。ソース電極とドレイン電極の間であるチャンネル領域の長さLCよりも第2ゲート電極8のゲート長G2はわずかに小さい。第2ゲート電極8はチャンネル領域のソース・ドレイン層5が形成されない領域のすべてと、ソース・ドレイン層5が形成された領域の大部分とを第2ゲート絶縁膜7を介して覆っている。一方、基板側の第1ゲート電極1のゲート長G1は第2ゲート電極8のゲート長G2よりも短い。図には示さないが、基板に垂直な方向から見た場合、第1ゲート電極1が形成された領域は、チャンネル層のソース・ドレイン層5が形成されない領域のすべてと、ソース・ドレイン層5が形成された領域の一部と重なっている。また、第1ゲート電極1が形成された領域とソース電極6aまたはドレイン電極6bが形成された領域との間にオフセット領域OFを有する。
【0025】
図5は本実施の形態2の薄膜トランジスタの動作を示す断面図である。図は薄膜トランジスタの第1ゲート電極1および第2ゲート電極8に正の電圧が印加され、トランジスタがオンとなった状態を示している。第1チャネル層3の第1ゲート電極1に対向する側である基板側には下部の第1ゲート電極1の正の電圧により反転層Eが誘起される。また、第2チャネル層4の第2ゲート電極8に対向する側である基板と反対側には上部の第2ゲート電極8の正の電圧により反転層Fが誘起される。図中に示した点線Lはこの状態で主として電流流れる電流経路を示している。
【0026】
ソース電極6aからドレイン電極6bへ流れる電流は、まずソース電極6aからソース・ドレイン層5を経て、第1ゲート電極1が形成されないオフセット領域OFでは第2チャネル層4の反転層Fを流れる。これは、オフセット領域では微結晶シリコンからなる第1チャネル層3側の第1ゲート電極1がチャンネル長さLCよりも短いため、第1チャネル層3は反転層ができずにオン状態で高抵抗であるためである。そして、第1ゲート電極1が形成された領域では、第1チャネル層3の第1ゲート電極1側にできた反転層Eのほうが第2チャネル層4の第2ゲート電極8側にできた反転層Fよりも移動度が高く、低抵抗であるため主として反転層Eを通過する。ドレイン電極6b側のオフセットの領域OFでは再び反転層Fを流れた後、ドレイン電極6bに至る。
【0027】
第1ゲート電極1および第2ゲート電極8が同じ電圧で駆動されるノードに接続されて制御されるようにするとオンオフの制御が簡単である。また、微結晶シリコンの第1チャネル層3、その上に接する非晶質シリコンの第2チャネル層4とはプラズマCVD装置で連続的に成膜することが可能である。また、液晶表示用のTFT基板などでは第2ゲート絶縁膜7は層間絶縁膜と兼用が可能であり、第2ゲート電極8は画素電極やブラックマトリックス、上部配線などと兼用が可能である。このため、本構造の薄膜トランジスタは、通常の薄膜トランジスタと同じ生産コストで作成が可能である。
【0028】
以上のように、本実施の形態2の薄膜トランジスタでも実施の形態1と同様に、非晶質シリコン層と微結晶シリコン層とが積層されたチャンネル層と、そのチャンネル層のチャンネル領域を挟んで配置されたソース電極およびドレイン電極と、チャンネル層の微結晶シリコン層側に一方のゲート電極と非晶質シリコン層側に他方のゲート電極を有し、一方のゲート電極はソース電極またはドレイン電極との間にオフセット領域を有している。微結晶シリコン層は第1チャンネル層3、一方のゲート電極は第1ゲート電極1、非晶質シリコン層は第2チャンネル層4、他方のゲート電極は第2ゲート電極8である。第1ゲート電極1のゲート長G1はチャンネル領域のチャンネル方向の長さLCに比べて短く、第2ゲート電極のゲート長G2は第1ゲート電極のゲート長G1よりも長い構造となっている。また、ソース・ドレイン電極6は非晶質シリコン層側に配置されている。チャンネル領域は第2ゲート電極8が形成された領域よりわずかに大きく、その第2ゲート電極8が形成された領域を包含する。また、第2ゲート電極8が形成された領域は、そのチャンネル層の反対側に形成された第1ゲート電極が形成された領域を包含する。
【0029】
実施の形態1と同様に、低抵抗な微結晶シリコンからなる層側にはゲートオフセットの構造であり、オン状態でも高抵抗の領域を有するが、他方のゲート電極である第2ゲート電極8はオフセット領域の少なくとも一部と重なる領域に配置されているため、非晶質シリコンからなる層側に反転層Fができて、電流がその反転層Fを経ることによりオン電流の低下はある程度抑えられる。一方、薄膜トランジスタがオフ状態である時には、第1ゲート電極1側はオフセット構造となっているため、たとえばゲート電圧が負電圧時には、微結晶チャネル部とソース・ドレイン部との界面でのトンネル電流を抑制する。このため、本構造の薄膜トランジスタは、バンドギャップの狭い微結晶シリコンをチャネル材料に用いて、低いオフ電流と高いオン電流を両立できる。また、生産コストを上昇させずに高いオン特性に優れるとともにオフ電流の上昇を抑制した薄膜トランジスタが得られる。
【0030】
<実施の形態3>
本実施の形態3の薄膜トランジスタは実施の形態1の薄膜トランジスタの構成を基本として、第1ゲート電極1の形状が異なる形状とした。図6は本実施の形態3の薄膜トランジスタの構造を示す断面図である。また、図7は本実施の形態3の薄膜トランジスタの動作を示す断面図である。図8は本実施の形態3の薄膜トランジスタの構造を示す上面図である。図6は実施の形態1の図1、図7は実施の形態1の図2、図8は実施の形態1の図3に対応する図である。
【0031】
本実施の形態3の薄膜トランジスタの第1ゲート電極1はチャンネル領域で第1ゲート電極1aと1bとの2つに分割された構造を有する。第2ゲート電極8の形成される領域は第1ゲート電極1aと1bと間に位置する領域とした。また、第1ゲート電極1aと1bは第2ゲート電極8のオフセット領域LCと部分的に重なる領域に形成されている。
【0032】
本実施の形態3の薄膜トランジスタでは実施の形態1のように第1ゲート電極1が第2ゲート電極8の形成される領域を包含しないが、第1ゲート電極1a、1bによってオフセット領域LCの非晶質シリコン側に反転層J、Kができるので実施の形態1と同様にオン電流の低下を抑える効果がある。
【0033】
また、本実施の形態3では第1ゲート電極1を分割してソース電極側とドレイン電極側の2つのオフセット領域OFのどちらにも形成するようにしたが、片側だけであってもよい。また、オフセット領域OFの全領域と重なると低下を抑える効果が大きいが、オフ電流の上昇を抑制するには一部重ならないようにしてもよい。図6では第2ゲート電極8の形成される領域の両側に第1ゲート電極1a、1bと重ならない領域をわずかに設けた例である。また、第1ゲート電極1a、1bのいずれかが第2ゲート電極8の形成される領域と重なるように形成されていてもかまわない。また、図のように第1ゲート電極1a、1bのゲート長G1a、G1bをそれぞれソース電極側とドレイン電極側のオフセット領域の長さより長くしてソース電極が形成される領域、ドレイン電極が形成される領域と重なるようにしてもよい。また、第1ゲート電極1aと1bとは図8のようにチャンネル層の外側で連結されているとよい。
【0034】
なお、以上の実施の形態においてバンドギャップの狭い層として微結晶シリコン、それよりもバンドギャップの高い層として非晶質シリコンを用いた構造を示したが、たとえばシリコンの代わりにゲルマニウムやゲルマニウムを含有するシリコン、カーボンを含有するシリコンなどの他の材料を用いても同様な効果が得られる。また、第1ゲート電極1と第2ゲート電極とに同じ電位を同時に印加するようにしたが、たとえばそれぞれが対向するチャンネル層に適する異なる電位を印加してもよく、時間的にずらして印加するように構成してもよい。
【0035】
また、以上の実施の形態のトランジスタの構造は従来の逆スタガ型の構造を基本にすると、チャンネル層をバンドギャップの異なる2層として、逆スタガ型のゲート電極の反対側にさらに別のゲート電極を加えた構造である。このチャンネル層の積層構造とゲート電極の配置をそのまま基板に対して上下反対の構造としても同様の効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明によれば、高いオン電流と低いオフ電流の薄膜トランジスタを実現できる。たとえばゲートドライバ一体型液晶ディスプレイや有機EL駆動回路内蔵ディスプレイなどに適用することにより、これらの製品の高性能化が実現できる。
【符号の説明】
【0037】
1 第1ゲート電極、2 第1ゲート絶縁膜、3 第1チャネル層、4 第2チャネル層、5 ソース・ドレイン層、6a ソース電極、6b ドレイン電極、7 第2ゲート絶縁膜、8 第2ゲート電極、10 基板、11 保護層、17 接続部、OF オフセット領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に配置された第1ゲート電極と、前記第1ゲート電極の上に形成された第1ゲート絶縁膜と、前記第1ゲート絶縁膜の上に一方側が微結晶シリコン層となり他方側が非晶質シリコン層となるように積層されたチャンネル層と、前記チャンネル層のチャンネル領域を挟んで配置されたソース電極およびドレイン電極と、前記チャンネル層の上に形成された第2ゲート絶縁膜と、前記第2ゲート絶縁膜の上に配置された第2ゲート電極とを備え、
前記第1ゲート電極および前記第2ゲート電極のうち前記微結晶シリコン層側にある一方のゲート電極と前記ソース電極または前記ドレイン電極との間にオフセット領域を有し、前記非晶質シリコン層側にある他方のゲート電極は前記オフセット領域の少なくとも一部と重なる領域に配置される薄膜トランジスタ。
【請求項2】
第1ゲート電極と第2ゲート電極とを接続する接続部を有する請求項1に記載の薄膜トランジスタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−245162(P2010−245162A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−90035(P2009−90035)
【出願日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】