説明

薄膜固体二次電池及び薄膜固体二次電池の製造方法

【課題】薄膜固体リチウム二次電池製造工程中の、下部電極集電体層から上部電極集電体層までの計5層の形成において、同一マスクで連続的に成膜することにより、装置の小型化及び製造工程の簡素化を提供する。
【解決手段】薄膜固体二次電池において、下部電極集電体層3、下部電極の活物質層4、固体電解質層5、上部電極の活物質層6、上部電極集電体層7を連続成膜する。このとき、マスク交換、大気開放を必要としないため、製造装置の小型化、および製造工程の簡素化を実現できる。また、各層の成膜において、膜界面が大気中に曝される事で発生する酸化、水分による変質、それに伴う電池性能へ及ぼす悪影響を解消することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜固体二次電池及び薄膜固体二次電池の製造方法に係り、特に、マスクを使用した製造工程の簡略化を図り、歩留まりの良い薄膜固体二次電池及び薄膜固体二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、携帯電話をはじめとする小型携帯機器は広く普及し、より小型、軽量、多機能化が進んでいる。それに伴い、それらの機器を駆動させるために必要な電池もより小型でエネルギー密度が高いことが求められている。リチウムイオン二次電池は、他の電池と比べてエネルギー密度が高いため広い用途で用いることが可能で、現在、最も広く普及している。
【0003】
最近では、安全性や高温耐性もリチウムイオン二次電池の重要な要素となってきているが、電解液を用いる従来の電池には液洩れや熱膨張による爆発などの危険性が伴うため、安全性や高温耐性が完全ではない面がある。例えば、電池動作が可能な温度の上限は、溶液電解質を使った通常のリチウムイオン二次電池では80℃程度であり、それよりも温度が上がると電池特性は劣化し、熱膨張による不測の事態が生じる可能性がある。
【0004】
また、小型化、薄型化に関しても、電解液を用いる従来の電池では容器の厚さなどから限界がある。このため、溶液ではなく、ゲル状の電解質や固体電解質を用いる全固体型の電池が提案されており、例えばゲル状の電解質を用いるポリマー電池(例えば、特許文献1参照)や、固体電解質を用いる薄膜固体二次電池(例えば、特許文献2、3参照)が提案されている。
【0005】
特許文献1に記載のポリマー電池は、外装体内部に、正極集電体、内部に高分子固体電解質を含有する複合正極、イオン伝導性高分子化合物からなる電解質層、内部に高分子固体電解質を含有する複合負極、負極集電体を順に配置して構成されている。
【0006】
このようなポリマー電池は、電解液を使う通常のリチウムイオン二次電池よりは薄型化、小型化が可能であり、また、安定した電池動作が可能な温度も100℃程度まで向上する。しかしながら、ゲル状の電解質や接合剤、封口部材等を必要とするため、厚さとしては0.1mm程度が限界であり、より一層の薄型化、小型化を進めるには適当ではなかった。また、電解質がポリマーであるため、150℃ぐらいの温度になると構造変化を起こし、電池そのものが崩壊してしまうため、より高い温度での使用に問題があった。
【0007】
一方、薄膜固体二次電池の構成は、特許文献2、3に記載のように、基板上に集電体薄膜、負極活物質薄膜、固体電解質薄膜、正極活物質薄膜、集電体薄膜を順に積層した構成、又は基板上に上記層を逆の順で積層した構成である。このような構成により、薄膜固体二次電池は、基板を除けば1μm程度の薄さにすることが可能である。また、基板の厚さを薄くしたり、薄膜化した固体電解質フィルムを基板の代わりに使用したりすれば、全体としてより薄型化、小型化を図ることが可能である。さらに、全固体型の薄膜固体二次電池であるため、液漏れ等の不都合もなく、高い安全性を備えたものとすることができる。
【0008】
薄膜固体二次電池の製造技術に関しては、薄膜固体二次電池(例えば薄膜固体リチウム二次電池)の各層を積層させる際、スパッタリング技術、真空蒸着技術等のドライプロセスによりその材料及び成膜技術に関して、種々の材料及び技術が提案されている。その中でも、スパッタリングによる成膜技術は、近年の技術進歩に伴い、様々なターゲットによる成膜が可能となってきているだけでなく、装置の小型化、成膜工程の簡略化、及びそれに伴うコストダウンも可能であることから、薄膜固体二次電池の製造技術において非常に重要とされる技術である。
【0009】
スパッタリング技術において、成膜面積の制御方法としては、基板にマスクを装着し、基板成膜面側を部分的に覆い隠し、マスクの開口部分のみに成膜する方法がよく用いられている。基本的に、薄膜固体二次電池を構成する5層の成膜においては、それぞれ任意の二次元形状に成膜するために、マスクを積層プロセスごとに交換する必要がある。しかしながら、このマスク交換時においては、技術的な問題により僅かな「ずれ」が生じ、この「ずれ」に伴い、正極膜(正極集電体層及び正極活物質層)と負極膜(負極集電体層及び負極活物質層)とが、それぞれ膜の端部において接触して短絡が起きるという問題点がある。したがって、スパッタリング技術により高性能な全固体型リチウム二次電池を製造できるにもかかわらず、上記問題点により、不良品が発生する可能性があった。
【0010】
これに対し、特許文献4では、基板に凹部を形成し、凹部内に下部電極の活物質層、固体電解質層、上部電極の活物質層、上部電極集電体層の4層を順に成膜することによりマスク交換が必要ないとしている。すなわち、前記4層を成膜する際に、凹部内に順に積層されていくため、各膜の面積制御のためのマスク交換の必要はなく、従ってマスクのずれが生じることを回避することができると同時に、各膜の端部は均一に揃って成膜されるため、正極膜と負極膜とが接触して起こる短絡を防止でき、不良品の発生率が低い、と提案されている。さらに、各層成膜時のマスク交換に伴う異物の混入による電池機能の低下も解決できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平10−74496号公報
【特許文献2】特開平10−284130号公報
【特許文献3】特開2002−42863号公報
【特許文献4】特開2008−140705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献4の技術では、基板に凹部を形成し、凹部内に下部電極の活物質層、固体電解質層、上部電極の活物質層、上部電極集電体層を成膜することで、マスク交換時の「ずれ」を解消し、それにより短絡の発生率が低くなるとされているが、薄膜固体二次電池において、前記4層だけで機能することはできない。薄膜固体二次電池が機能するためには、下部電極集電体層が必要不可欠であり、下部電極集電体層には電極取り出し端子部を形成しなければならない。この下部電極集電体層は他の層とは外形が異なるため、下部電極集電体層を成膜した後マスクを交換し、その後、下部電極の活物質層、固体電解質層、上部電極の活物質層、上部電極集電体層を順に積層する方法が一般的である。
【0013】
したがって、特許文献4の技術においては、下部電極集電体形成後は一旦大気開放する必要がある。これは、下部電極の集電体層を開口部底面に成膜するとき、同時に基板表面上に電極端子を形成するが、その後で、電極端子と下部電極集電体層を接続する工程が必要になるためである。従って、積層される下部電極の活物質層との界面となる下部電極集電体層の表面が、マスク交換に伴い、大気中に曝される事で発生する酸化、水分による変質、それに伴い電池性能(例えば、電池の寿命)が低下するという問題点は解決されず、加えて薄膜固体二次電池の製造工程が複雑であるという問題があった。
【0014】
本発明の目的は、薄膜固体二次電池を構成する薄膜のうち、下部電極集電体層、下部電極の活物質層、固体電解質層、上部電極の活物質層、上部電極集電体層からなる5層のスパッタリングによる成膜において、マスク交換に伴う異物の混入を防ぎ、マスクと基板の位置がずれることにより上下電極間で起こる短絡の削減を図った薄膜固体二次電池及び薄膜固体二次電池の製造方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、長時間電圧を維持できる薄膜固体二次電池及び薄膜固体二次電池の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題は、本発明に係る薄膜固体二次電池の製造方法によれば、表面に導電層を有する基板の該導電層上に、下部電極集電体層、下部電極の活物質層、固体電解質層、上部電極の活物質層、上部電極集電体層を、この順にそれぞれ所定の膜厚で積層してなる薄膜固体二次電池の製造方法であって、前記下部電極集電体層、前記下部電極の活物質層、前記固体電解質層、前記上部電極の活物質層、前記上部電極集電体層を、同一マスクにより連続して所定の厚さまで成膜する成膜工程、を備えてなること、によって解決される。
【0016】
このように、同一マスクによって、下部電極集電体層を含む薄膜固体二次電池を構成する5層を大気開放することなく、同じ成膜装置内で連続成膜して形成することができる。また下部電極集電体層から上部電極集電体層までの5層の連続成膜を行なうことによって、異物の混入、不純物の生成が妨げられ、前記5層の界面に電池性能を劣化させる不純物が生じる可能性を低減することができる。
さらに、下部電極集電体層から上部電極集電体層までの5層を成膜する際、各層の位置がずれることがなく、これにより、正極膜と負極膜が接することによる短絡の発生を防止することができる。
【0017】
このとき、前記下部電極集電体層を正極集電体層、前記下部電極の活物質層を正極活物質層、前記上部電極の活物質層を負極活物質層、前記上部電極集電体層を負極集電体層とし、各層が前記導電層上にこの順に成膜して積層していると好適である。
このように構成すると、薄膜固体リチウム二次電池を作成する際、正極活物質層に含まれるリチウムが成膜中に負極活物質層等に移動し、不可逆容量の原因となり、電池特性が低下するのを防止できる。すなわち、リチウムイオン可動部分を密封することができるので、リチウムを含んでいる正極活物質層の表面保護を図り、電池性能の劣化を抑えることができ、電池性能を長期間保持することが可能となる。
【0018】
また、前記固体電解質層は、リン酸リチウム(LiPO)、リン酸リチウムの酸素を窒素で一部置換したリン酸リチウムオキシナイトライドガラス(LiPON)、又は遷移金属及びLiとNを含む複合酸化物の内の一つであると好ましい。このように、リチウムイオンの伝導性が良好なこれらの化合物を固体電解質層に含有することで、リチウムイオン二次電池の充放電特性を向上させることができる。
【0019】
さらに、前記導電層は電極取り出し金属膜であり、絶縁性基板上に金属層を形成する工程で形成されていると好適である。これにより、基板が薄膜固体二次電池の性能に与える影響を減らすことができ、薄膜固体二次電池の充放電特性を向上させることができる。
【0020】
このとき、前記電極取り出し金属膜と前記下部電極集電体層は、同一材料からなると好適である。これにより、前記電極取り出し金属膜と前記下部電極集電体は同一ターゲットで成膜できるため、薄膜固体二次電池の製造時、成膜に必要となるターゲット数が少なくなり、操作の簡易化、成膜時間の短縮、薄膜固体二次電池の製造装置の簡略化を図ることができる。
【0021】
さらに、前記電極集電体層のうち負極集電体層がニオブであり、前記電極活物質層のうち負極活物質層がニオブ酸化物(Nb)であると好ましい。この時、負極集電体層と負極活物質層は、同一のニオブ金属ターゲットを用い、スパッタリング成膜時の酸素ガス流量を調節して作製する事ができる。したがって、薄膜固体二次電池を作製する際に、成膜に使用するターゲット数及び電源の切り替え回数を減らし、製造工程を簡略化することができ、操作の簡易化、装置の小型化を図ることができる。また同一材料の金属を利用できるので、金属ターゲットを交換する必要がないため、作業者の作業効率の向上と共に、不純物の混入を防止して、得られる電池の性能の均一性を確保することができる。
【0022】
前記課題は、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の薄膜固体二次電池の製造方法によって製造されたこと、により解決される。このように、本発明の薄膜固体二次電池は、上記製造方法で述べた特性を備えた薄膜固体二次電池となる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の請求項1の薄膜固体二次電池の製造方法によれば、下部電極集電体層、下部電極の活物質層、固体電解質層、上部電極の活物質層、上部電極集電体層の5層を大気開放することなく、同じ成膜装置内で連続成膜して形成することができ、5層の連続成膜を行なうことによって、異物の混入、不純物の生成が妨げられ、両者の界面に電池性能を劣化させる不純物が生じる可能性が低くなる。また、電源の切り替え回数を減らし、製造工程を簡略化することができ、操作の簡易化、装置の小型化を図ることができる。
【0024】
本発明の薄膜固体二次電池によれば、薄膜固体リチウム二次電池の各層を積層させる際、同一マスクで連続成膜することが可能となる。電池セルの動作部分を一貫して高真空の成膜装置内で作製する為、電池性能が周囲の温度、湿度、クリーン度のような環境の変化による影響を受けにくいと言える。その結果、成膜時の異物混入を防ぐことができ、それに伴い短絡の発生を防ぐことができる。したがって、より安定した、再現性の良い電池性能が得られ、且つ、歩留まり良く作製することができる。また、連続成膜することにより、集電体界面と活物質層界面の不連続性による性能への悪影響がなく、電池性能の向上が期待できる。
【0025】
さらに上記電池性能の向上のみならず、連続成膜により電池セルの作製時間が大幅に短縮されるため、製造原価の低減を図ることができる。これは、マスク交換の為、真空成膜装置を大気開放する毎に行なう真空成膜装置の排気時間を省略する事ができるためである。
さらに、その製造過程において、複数の担当者が関わった場合でも、電池セルを構成する薄膜が劣化しやすい大気中での作業が少ないので、担当者間の作業効率の差に依存して、電池性能に差が出る可能性が低い。
【0026】
また請求項2のように、薄膜固体リチウム二次電池を作成する際、下部電極集電体層を正極集電体層とし、電極の活物質層を正極活物質層、固体電解質層、上部電極の活物質層を負極活物質層、上部電極集電体層を負極集電体層とし、各層が下部電極取り出し金属膜上にこの順に積層すると、正極活物質層に含まれるリチウムが成膜中に負極活物質層等に移動し、不可逆容量の原因となり、電池特性が低下するのを防止できる。
【0027】
また請求項3の発明によれば、前記した効果を備えると共に、リチウムイオンの伝導性が良好な上記化合物を固体電解質層に含有することで、リチウムイオン二次電池の充放電特性を向上させることができる。
また請求項4の発明によれば、基板として絶縁体を選択することにより、薄膜固体二次電池を作製できる基板の種類が制限されず、絶縁体フィルムなどを含む様々な材料を用いることができる。
【0028】
また請求項5のように、電極取り出し金属膜と下部電極集電体層を同一材料とすることにより、成膜に必要となるターゲット数を減らすことができ、操作の簡易化、成膜時間の短縮、薄膜固体二次電池の製造装置の簡略化を図ることができる。
【0029】
さらに、請求項6の発明によれば、電極集電体層において、負極集電体層をニオブ、電極活物質層において負極活物質層をニオブ酸化物(Nb)とすることで、連続成膜工程中、負極集電体層及び負極活物質層を単一ターゲットで成膜できるため、成膜工程の簡略化を図ることができる。
さらに、請求項7の発明によれば、上記製造方法で述べた特性を備えた薄膜固体二次電池を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施形態に係る薄膜固体二次電池の概略側面図である。
【図2】薄膜固体二次電池のサイクル特性のグラフ図である。
【図3】薄膜固体二次電池の放電曲線のグラフ図である。
【図4】比較例1の実施形態に係る薄膜固体二次電池の概略側面図である。
【図5】比較例2の実施形態に係る薄膜固体二次電池の概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の実施形態に係る薄膜固体二次電池の製造方法を図面に基づいて説明する。なお、以下に説明する材料、配置、構成等は、本発明を限定するものでなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
図1は本発明の実施形態に係る薄膜固体二次電池を示す概略側面図であり、本実施形態の薄膜固体二次電池は、基板1上に、電極取り出し金属膜2、下部電極集電体層3、下部電極の活物質層4、固体電解質層5、上部電極の活物質層6、上部電極集電体層7の薄膜が順に積層されて形成されている。
【0032】
そして、本発明の薄膜固体二次電池の製造方法では、電極取り出し金属膜2に重なるように、下部電極集電体層3、下部電極の活物質層4、固体電解質層5、上部電極の活物質層6、上部電極集電体層7を、この順で各層が所定の膜厚になるまで同一マスクを用いて連続して成膜する。
このように、下部電極集電体層3以降はマスクの交換、大気開放を行うことなく、真空状態を保った状態で成膜する。
【0033】
なお、本実施形態では、下部電極集電体層3又は上部電極集電体層7において、いずれかを負極集電体層とし、負極集電体をニオブとし、さらに下部電極の活物質層4又は上部電極の活物質層6のうちいずれかを負極活物質層とし、負極活物質をニオブ酸化物(Nb)とした場合、DCスパッタリング法によって成膜することができるため、RFスパッタリング法に比して、成膜速度の向上が促され、成膜時間の短縮が可能となり、生産効率が向上し、製造原価を削減することができる。
【0034】
上記構成を持つ様々な動作原理、種類の薄膜固体型の二次電池が作製可能であると考えられる。その中で、エネルギー密度等の電池特性が優れている点と、構成材料の薄膜化が比較的容易である点から、実用的には薄膜固体型のリチウム二次電池が好適である。
【0035】
ここで、薄膜固体リチウム二次電池を作製する場合は、下部電極集電体層3を正極集電体層、下部電極の活物質層4を正極活物質層、上部電極の活物質層6を負極活物質層、上部電極集電体層7を負極集電体層として成膜を行う。このように正極側から、順序に積層して作製したほうが望ましい。
正極側から順に積層する理由としては、リチウムを含んでいる正極活物質層の表面保護という目的があり、逆に負極側から積層して電池セルを作製した場合、正極活物質層に含まれるリチウムが成膜中に負極活物質層等に移動してしまい、不可逆容量の原因となり、電池特性が低下する可能性があることによる。
【0036】
上記の各薄膜の形成方法としては、スパッタリング法、電子ビーム蒸着法、加熱蒸法等の真空成膜法や、塗布法等を用いることができる。好ましくは、より薄く均一に薄膜を形成できる真空成膜法を用いるのが良い。さらに好ましくは、蒸着物質との原子組成のずれが少なく、均一に成膜ができるスパッタリング法を用いるのが良い。
【0037】
リチウム二次電池の構成材料であるリチウム含有酸化物は、水分及び酸化によって劣化しやすい事がよく知られている。その対策としてドライルーム、グローブボックス等が必要となるが、本発明により電池セルを構成する下部電極集電体層から上部電極集電体層までを連続して、真空成膜装置内で作製できるので、リチウム二次電池の作製方法として好適である。
【0038】
以降、下部電極集電体層3を正極集電体層3、下部電極の活物質層4を正極活物質層4、上部電極の活物質層6を負極活物質層6、上部電極集電体層7を負極集電体層7として、本例の薄膜固体リチウム二次電池の作製に最適な形態を述べる。なお、電極取り出し金属膜2上への積層順序は、正極集電体層3と負極集電体層7、及び正極活物質層4と負極活物質層6とを入れ替えた順序、すなわち、負極集電体層7、負極活物質層6、固体電解質層5、正極活物質層4、正極集電体層3の順であってもよい。
【0039】
基板1は、ガラス、半導体シリコン、セラミック、ステンレス、樹脂基板等を用いることができる。樹脂基板としては、ポリイミドやPET等を用いることができる。また、形が崩れずに取り扱いができるものであれば、基板1に折り曲げが可能な薄いフィルムを用いることができる。これらの基板には、例えば透明性を増したり、Naなどのアルカリ元素の拡散を防止したり、耐熱性を増したり、ガスバリア性を持たせるなどの付加特性が備わっていればより好ましく、そのために表面にSiO、TiOなどの薄膜がスパッタリング法などにより形成された基板であっても良い。
【0040】
電極取り出し金属膜2は、基板1との密着性がよく、電気抵抗が低い金属膜を用いることができる。電極取り出し金属層2が取り出し電極として良好に機能するためには、そのシート抵抗が1kΩ/□以下であることが望ましい。電極取り出し金属層2の膜厚を0.1μm以上に設定すると、電極取り出し金属層2は抵抗率が1×10−2Ω・cm以下の物質によって形成する必要がある。このような物質として、例えば、バナジウム、チタン、ニオブ、アルミニウム、銅、ニッケル、金等を使用することができる。これらの物質によって電極取り出し金属層2は、できるだけ薄くて電気抵抗も低くなる0.05〜1μm程度の膜厚に形成することができる。
【0041】
正極集電体層3は、正極活物質層4との密着性がよく、電気抵抗が低い導電膜を用いることができる。電極取り出し金属膜2と同様にバナジウム、チタン、ニオブ、アルミニウム、銅、ニッケル、金等を使用することができる。電極取り出し金属膜2と正極集電体層3を同一の材料で形成すると、電池セルの製造工程を簡略化することができ、好適である。
【0042】
正極活物質層4は、リチウムを含み、リチウムイオンの離脱、吸蔵が可能である物質であればよく、特に限定はないが、好ましくは、遷移金属であるマンガン、コバルト、ニッケルのうちのいずれか一つ以上とリチウムを含む金属酸化物薄膜を用いると好適である。例えば、リチウム−マンガン酸化物(LiMn,LiMn等),リチウム−コバルト酸化物(LiCoO,LiCo等),リチウム−ニッケル酸化物(LiNiO,LiNi等),リチウム−マンガン−コバルト酸化物(LiMnCoO,LiMnCoO等),リチウム−チタン酸化物(LiTi12,LiTi等)等を使用することができる。正極活物質層4の膜厚は、できるだけ薄いことが望ましいが、充放電容量を確保できる0.05〜5μm程度とするとよい。
【0043】
固体電解質層5は、リチウムイオンの伝導性が良いリン酸リチウム(LiPO)、リン酸リチウムの酸素を窒素で一部置換したリン酸リチウムオキシナイトライドガラス(LiPON)、又はTaとNbのいずれか一つ以上の遷移金属及びLiとNを含む複合酸化物等を用いることができる。固体電解質層5の膜厚は、ピンホ−ルの発生が低減され且つできるだけ薄い0.05〜1μm程度が好ましい。
【0044】
負極活物質層6は、リチウムイオンの離脱、吸蔵が可能である物質であればよく、特に限定はないが、好ましくは、シリコン−マンガン合金(Si−Mn),シリコン−コバルト合金(Si−Co),シリコン−ニッケル合金(Si−Ni),リチウム−チタン酸化物(LiTi,LiTi12等)、五酸化ニオブ(Nb),酸化チタン(TiO),酸化インジウム(In),酸化亜鉛(ZnO),酸化スズ(SnO)、酸化ニッケル(NiO)、スズが添加された酸化インジウム(ITO)、アルミニウムが添加された酸化亜鉛(AZO)、ガリウムが添加された酸化亜鉛(GZO)、アンチモンが添加された酸化スズ(ATO)、フッ素が添加された酸化スズ(FTO)、リチウムが添加された酸化ニッケル(NiO−Li)等を用いると好適である。
【0045】
負極集電体層7は、負極活物質層6との密着性がよく、電気抵抗が低い導電膜を用いることができる。
電極取り出し金属膜2及び正極集電体層3と同様にバナジウム、チタン、ニオブ、アルミニウム、銅、ニッケル、金等を使用することができる。
【0046】
また、負極活物質層6として、ニオブ酸化物(Nb)を用いた場合、負極集電体層7をニオブとすることにより、同一のニオブ金属ターゲットを用いてスパッタリング成膜時の酸素ガス流量を調節して作製する事ができる。これにより、電池セルを作製する際に、必要なターゲット数と電源数を少なくする事ができ、装置の小型化を実現でき、原価削減につながる。
【0047】
上記の薄膜固体二次電池は、充電を行うと、正極活物質層4からリチウムがイオンとなって離脱し、固体電解質層5を介して負極活物質層6に吸蔵される。このとき、正極活物質層4から外部へ電子が放出される。
また、放電時には、負極活物質層6からリチウムがイオンとなって離脱し、固体電解質層5を介して正極活物質層4に吸蔵される。このとき、負極活物質層6から外部へ電子が放出される。
【0048】
次に、図面を参照して、本発明の実施例、比較例について説明する。図2は負極活物質と負極集電体を変更した電池セルのサイクル特性比較のグラフ図であり、充放電サイクル数と放電容量との関係を示すものである。図3は負極活物質と負極集電体を変更した電池セルの放電曲線比較のグラフ図であり、電池容量と電池電圧との関係を示すものである。図4は比較例1の実施形態に係る薄膜固体二次電池の概略側面図であり、正極活物質層4、固体電解質層5、負極活物質層6を連続成膜したことを示すものである。図5は比較例2の実施形態に係る薄膜固体二次電池の概略側面図であり、正極活物質層4、固体電解質層5、負極活物質層6、負極集電体層7を連続成膜したことを示すものである。
【実施例】
【0049】
図1の構成をなすよう基板1上に、電極取り出し金属膜2、正極集電体層3、正極活物質層4、固体電解質層5、負極活物質層6、負極集電体層7をこの順にスパッタリング法により形成し、薄膜固体二次電池を作成した。このとき、前記したように、基板上に予め電極取り出し金属膜2を成膜した後、マスク交換、大気開放を行い、その後、正極集電体層3、正極活物質層4、固体電解質層5、負極活物質層6、負極集電体層7を連続的に成膜した。
基板1は、縦50mm、横50mm、厚さ1mmのソーダライムガラスを用いた。
電極取り出し金属膜2は、チタン(Ti)ターゲットを用いてDCマグネトロンスパッタリング法により形成した。このとき、DCパワーは1KW、無加熱で成膜した。これにより、電極取り出し金属膜2として0.1μmのチタン薄膜を形成した。
次に、電極取り出し金属膜2を成膜後、大気開放、マスク交換を行った。その後の作製工程は全て、高真空状態を維持した成膜装置内で連続して行った。
正極集電体層3は電極取り出し金属膜2と同様にチタン(Ti)ターゲットを用い、DCマグネトロンスパッタリング法にて形成した。DCパワーは1KW、無加熱で成膜した。これにより、正極集電体層3として0.1μmのチタン薄膜を形成した。
【0050】
正極活物質層4は、マンガン酸リチウム(LiMn)ターゲットを用い、酸素を導入してRFマグネトロンスパッタリング法にて形成した。RFパワーは1KW、無加熱で成膜した。これにより、0.2μmのLiMn薄膜を形成した。
固体電解質層5は、リン酸リチウム(LiPO)の焼結体ターゲットを用い、窒素を導入してRFマグネトロンスパッタリング法にて形成した。RFパワーは1KW、無加熱で成膜した。これにより、0.1μmのリン酸リチウムオキシナイトライドガラス(LiPON)薄膜を形成した。
負極活物質層6はニオブ(Nb)ターゲットを用い、酸素を導入してDCマグネトロンスパッタリング法にて形成した。DCパワーは1KW、無加熱で成膜した。これにより、0.1μmの酸化ニオブ薄膜を形成した。
負極集電体7は負極活物質層6と同様にニオブ(Nb)ターゲットを用い、DCマグネトロンスパッタリング法にて形成した。DCパワーは1KW、無加熱で成膜した。これにより、0.1μmのニオブ薄膜を形成した。
【0051】
上述のようにして得られた薄膜固体二次電池について、X線回折測定を行い、この結果、回折ピークが現れないことを確認した。これにより、いずれの構成層も非晶質であることが確認できた。また、上述の方法により作成した薄膜固体二次電池の歩留まりは91.0%であった(測定個数78個、可動数71個)。
【0052】
次に電池性能を評価するために、充放電測定器を用いて充放電特性を測定した。
測定条件は、充電及び放電時の電流はいずれも0.02mA、充電及び放電の終止電圧はそれぞれ3.5V、0.3Vとした。その結果、繰り返し充放電動作を示すことが確認できた。
【0053】
[比較例1]
比較例1では、実施例と同様に、図4の構成の薄膜固体二次電池をスパッタリング法により作成した。ただし、正極集電体層3を成膜後、大気開放、マスク交換を行った。その後正極活物質層4、固体電解質層5、負極活物質層6の3層を連続成膜し、大気開放、マスク交換を行った。その後負極集電体層7を成膜し、薄膜固体二次電池を作製した。
正極集電体層3、正極活物質層4、固体電解質層5、負極活物質層6、負極集電体層7の各層毎の成膜条件は実施例と各々同様である。
【0054】
また、上述の方法により作成した薄膜固体二次電池の歩留まりは77.0%であった(測定個数126個、可動数97個)。
【0055】
[比較例2]
比較例2では、実施例と同様に、図5の構成の薄膜固体二次電池をスパッタリング法により作成した。ただし、正極集電体層3を成膜後、大気開放、マスク交換を行った。その後正極活物質層4、固体電解質層5、負極活物質層6、負極集電体層7の4層を連続成膜し、薄膜固体二次電池を作製した。
正極集電体層3、正極活物質層4、固体電解質層5、負極活物質層6、負極集電体層7の各層毎の成膜条件は実施例と各々同様である。
【0056】
図2に示されるように、同じ充放電回数のとき、連続で積層させる層の数が多いほど、高い放電容量を維持できることが示された。例えば20サイクル目では、実施例の方法により5層連続で成膜して作製した薄膜固体二次電池は、比較例1の方法により3層(正極活物質層4、固体電解質層5、負極活物質層6)連続で成膜して作製した薄膜固体二次電池よりも約1.3倍高い放電容量を維持できることが示された。また、実施例の方法により5層連続で成膜して作製した薄膜固体二次電池は、比較例2の方法により4層(正極活物質層4、固体電解質層5、負極活物質層6、負極集電体層7)連続で成膜して作製した薄膜固体二次電池よりも約1.2倍高い放電容量を維持できることが示された。
【0057】
図3に示されるように、等しい電池容量においては、連続で積層させる層数が多いほど、高い電池電圧を維持できることが示された。
例えば電池電圧が1.0V以上を維持できる電池容量を比較すると、実施例の方法により5層連続で成膜して作製した薄膜固体二次電池は、比較例1の方法により3層(正極活物質層4、固体電解質層5、負極活物質層6)連続で成膜して作製した薄膜固体二次電池の約1.3倍の電池容量であることが示された。また、実施例の方法により5層連続で成膜して作製した薄膜固体二次電池は、比較例2の方法により4層(正極活物質層4、固体電解質層5、負極活物質層6、負極集電体層7)連続で成膜して作製した薄膜固体二次電池のも約1.2倍の電池容量であることが示された。
【0058】
以上のように、3層又は4層連続で成膜した場合と比較した結果、5層連続で成膜した時は放電カーブが緩やかになり、より長い時間、所定電圧を維持できる効果が見られた。これは、各層を連続成膜することにより、大気開放による各層の劣化が抑えられ、より高性能の薄膜固体二次電池が作成できたことを示唆している。また、5層連続で成膜して作成した電池は4層連続で成膜して作成した電池よりも歩留まりが良いことも示された。
【0059】
なお、本発明には以下のような実施形態も含まれる。すなわち、基板1上に、電極取り出し金属膜2、下部電極集電体層3、下部電極の活物質層4、固体電解質層5、上部電極の極活物質層6、上部電極集電体層7を、この順にそれぞれ所定の膜厚で積層してなる薄膜固体二次電池の製造方法であって、前記基板1上に電極取り出し金属膜2を、マスクを用いて、所定の厚さで成膜する第1成膜工程と、前記第1成膜工程の後で、前記第1成膜工程で使用したマスクを交換するマスク交換工程と、前記第1成膜工程で成膜した電極取り出し金属膜2に重なるように、前記マスク交換工程で交換された同一のマスクを使用して、前記下部電極集電体層3、前記下部電極の活物質層4、前記固体電解質層5、前記上部電極の極活物質層6、前記上部電極集電体層7を、連続成膜して所定の厚さまで成膜する第2成膜工程と、を備えてなることを特徴とする薄膜固体二次電池の製造方法であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明により製造された薄膜固体二次電池は、デバイスを備えた複合型機器の電源として用いられることにより、安定的かつ長時間にわたってデバイスを駆動することができる。このようなデバイスとして、たとえば、携帯電話、ノートパソコン、デジタルカメラ、携帯型ゲーム等のモバイル機器が挙げられる。
【符号の説明】
【0061】
1 基板
2 電極取り出し金属膜
3 下部電極集電体層(正極集電体層)
4 下部電極の活物質層(正極活物質層)
5 固体電解質層
6 上部電極の活物質層(負極活物質層)
7 上部電極集電体層(負極集電体層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に導電層を有する基板の該導電層上に、下部電極集電体層、下部電極の活物質層、固体電解質層、上部電極の活物質層、上部電極集電体層を、この順にそれぞれ所定の膜厚で積層してなる薄膜固体二次電池の製造方法であって、
前記下部電極集電体層、前記下部電極の活物質層、前記固体電解質層、前記上部電極の活物質層、前記上部電極集電体層を、同一マスクにより連続して所定の厚さまで成膜する成膜工程、
を備えてなることを特徴とする薄膜固体二次電池の製造方法。
【請求項2】
前記下部電極集電体層を正極集電体層、前記下部電極の活物質層を正極活物質層、前記上部電極の活物質層を負極活物質層、前記上部電極集電体層を負極集電体層とし、各層が前記導電層上にこの順に成膜して積層したことを特徴とする請求項1に記載の薄膜固体二次電池の製造方法。
【請求項3】
前記固体電解質層は、リン酸リチウム(LiPO)、リン酸リチウムの酸素を窒素で一部置換したリン酸リチウムオキシナイトライドガラス(LiPON)、又は遷移金属及びLiとNを含む複合酸化物の内の一つであることを特徴とする請求項1に記載の薄膜固体二次電池の製造方法。
【請求項4】
前記導電層は電極取り出し金属膜であり、絶縁性基板上に金属層を形成する工程で形成されたことを特徴とする請求項1に記載の薄膜固体二次電池の製造方法。
【請求項5】
前記電極取り出し金属膜と前記下部電極集電体層は、同一材料からなることを特徴とする請求項1に記載の薄膜固体二次電池の製造方法。
【請求項6】
前記電極集電体層のうち負極集電体層がニオブであり、前記電極活物質層のうち負極活物質層がニオブ酸化物(Nb)であることを特徴とする請求項1に記載の薄膜固体二次電池の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の薄膜固体二次電池の製造方法によって製造されたことを特徴とする薄膜固体二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−192170(P2010−192170A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−33257(P2009−33257)
【出願日】平成21年2月16日(2009.2.16)
【出願人】(591124765)ジオマテック株式会社 (35)
【Fターム(参考)】