説明

薄膜状物体の保持装置

【課題】ベルヌーイハンドで薄膜状物体を吸着したときに、薄膜状物体を損傷させることなく、横滑りを防止する。
【解決手段】半導体ウェハ2と当接させるための摩擦部材13と、摩擦部材13の周囲に設けられたガス噴射口12,12,…と、ガス噴射口12,12,…から放射状に噴射されたガスによって生じた負圧で、半導体ウェハ2を非接触で吸着して保持する吸着パッド11とを備える。そして、半導体ウェハ2が吸着パッド11に吸着されているときに、半導体ウェハ2と摩擦部材13とが当接する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェハなどの極めて薄い薄膜状物体を損傷しないように保持する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
極薄の半導体ウェハなどの薄膜状物体を吸着して保持する装置として、ベルヌーイの定理を応用した吸着パッドを備えるものが知られている。つまり、その吸着パッドは、空気などのガスを噴射することにより発生する負圧により、非接触で半導体ウェハを吸着する。ここで、特に、その吸着パッドを備え、薄膜状物体を吸着するハンドをベルヌーイハンドと呼ぶ。
【0003】
このベルヌーイハンドでは、上述のように、吸着パッドと半導体ウェハとは非接触であり、これらの間にはガスが流れている。従って、ベルヌーイハンドが半導体ウェハを吸着しているときにわずかな衝撃が加わると、半導体ウェハが横滑りしてハンドから脱落してしまうことがある。このようなことを防止するために、例えば特許文献1,2のように、吸着した半導体ウェハと当接するための摩擦部材を備えたベルヌーイハンドが知られている。
【特許文献1】特開2005−142462号公報
【特許文献2】USP3,438,668
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、厚さ50μm程度の極薄のウェハでは、ベルヌーイハンドで吸着する際に、しわが寄って変形してしまうことがある。これは、ウェハの破損の原因となり、好ましくない。
【0005】
例えば特許文献1では、複数の吸着パッドで半導体ウェハを吸着するので、吸着パッドにより吸着されている部分とそうでない部分とが生じ、ウェハ全体は波打つように変形する。このように変形すると、極めて薄いウェハは応力集中により破損してしまうことがある。
【0006】
また、特許文献2では、半導体ウェハの横滑りによる脱落防止のために、周囲に突出部を設けているが、極めて薄いウェハの場合、この突出部に接触するだけで破損してしまう。
【0007】
一方、ベルヌーイハンドは、ウェハの表面にガス流を生じさせるので、ウェハ表面が乾いてしまう。このとき、ウェハ表面にウェハの削りクズ(スラッジ)が残ったまま乾燥してしまうと、削りクズがウェハの表面に張り付いてしまい、洗浄してもシミが残ってしまう。シミが残ったウェハの商品価値は著しく低いものとなってしまう。
【0008】
そこで、本発明の目的は、ベルヌーイハンドで薄膜状物体を吸着したときに、薄膜状物体を損傷させることなく、横滑りを防止することである。
【0009】
本発明の他の目的は、ベルヌーイハンドで薄膜状物体を吸着したときに生じる薄膜状物体の変形を抑制することである。
【0010】
本発明のさらに他の目的は、ベルヌーイハンドで薄膜状物体を吸着したときに、薄膜状物体の表面を乾燥させないようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一つの実施態様に従う薄膜状物体(2)の保持装置は、前記薄膜状物体のほぼ中心部と当接するように配置された弾性部材(13)と、前記弾性部材の周囲に設けられたガス噴射口(12)と、前記ガス噴射口から放射状に噴射されたガスによって生じた負圧で、前記薄膜状物体を非接触で吸着して保持する吸着パッド(11)とを備える。そして、前記薄膜状物体が前記吸着パッドに吸着されているときに、当該薄膜状物体と前記弾性部材とが当接する。
【0012】
好適な実施形態では、前記ガス噴射口及び前記吸着パッドは、略円形の第1の薄膜状物体(2A)の外縁の位置よりも内側に設けられた第1のガス噴射口(12A)及び第1の吸着パッド(11A)と、前記第1の薄膜状物体よりも直径の大きい略円形の第2の薄膜物体(2B)の外縁の位置よりも内側に設けられた第2のガス噴射口(12B)及び第2の吸着パッド(11B)とを含む。そして、前記第1の薄膜状物体を保持するときは、前記第1のガス噴射口からガスを噴射して前記第1の吸着パッドで前記第1の薄膜状物体を吸着し、前記第2の薄膜状物体を保持するときは、前記第2のガス噴射口からガスを噴射して前記第2の吸着パッドで前記第2の薄膜状物体を吸着するように構成されていてもよい。
【0013】
好適な実施形態では、前記弾性部材は、ガスにより膨らませることにより、前記吸着パッドの吸着面(110)から突出するように構成されていてもよい。
【0014】
好適な実施形態では、前記弾性部材の前記薄膜状物体との当接面(130)は湾曲していてもよい。
【0015】
好適な実施形態では、前記弾性部材を、前記薄膜状物体の吸着面に対して垂直方向へ移動させるための移動機構(15)をさらに備え、前記移動機構により前記弾性部材を移動させることにより、前記薄膜状物体に対する押しつけ力を調整するようにしてもよい。
【0016】
好適な実施形態では、前記弾性部材と前記吸着パッドとは、前記薄膜状物体と対向する面が開口したケース(30)に収容されていて、前記薄膜状物体が戴置されたワークテーブル(5)に接近するときは、前記ガス噴射口からガスを噴射すると共に、前記ケース内の気圧をほぼ大気圧とするようにしてもよい。
【0017】
好適な実施形態では、前記弾性部材が前記薄膜状物体と当接した後は、前記ガス噴射口からガスを噴射すると共に、前記ケース内の気圧を大気圧よりも高くするようにしてもよい。
【0018】
好適な実施形態では、前記弾性部材と前記吸着パッドとは、前記薄膜状物体と対向する面が開口したケース(30)に収容されていて、吸着されている前記薄膜状物体を解放するときは、前記ガス噴射口からのガスの噴射を停止すると共に、前記ケース内の気圧を大気圧よりも高くするようにしてもよい。
【0019】
本発明の一つの実施態様に従う薄膜状物体の保持装置は、ガス噴射口(12)と、前記ガス噴射口から噴射されたガスによって生じた負圧で、前記薄膜状物体を非接触で吸着して保持する吸着パッド(11)とを備える。そして、前記ガス噴射口から噴射するガスは、ミスト状の液体を含むガスである。
【0020】
本発明の一つの態様に従う薄膜状物体を吸着し、その後解放する方法は、薄膜状物体(2)のほぼ中心部と当接するように配置された弾性部材(13)と、前記弾性部材の周囲に設けられたガス噴射口(12)と、前記ガス噴射口から放射状に噴射されたガスによって生じた負圧で、前記薄膜状物体を非接触で吸着して保持する吸着パッド(11)と、前記弾性部材と前記吸着パッドとを収容し、前記薄膜状物体と対向する面が開口したケース(30)とを備えた薄膜状物体の保持装置が行う以下のステップを含む。すなわち、その方法は、前記ガス噴射口からガスを噴射すると共に、前記ケース内の気圧をほぼ大気圧とした状態で、前記薄膜状物体が戴置されたワークテーブル(5)に接近するステップと、前記弾性部材が前記薄膜状物体と当接した後は、前記ガス噴射口からガスを噴射すると共に、前記ケース内の気圧を大気圧よりも高くして、前記薄膜状物体を吸着するステップと、前記薄膜状物体が吸着されているときに、前記ガス噴射口からのガスの噴射を停止するとともに、前記ケース内の気圧を大気圧よりも高くして、吸着されている前記薄膜状物体を解放するステップと、を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の薄膜状物体の保持装置の一実施形態として、半導体ウェハの保持装置について、図面を参照して説明する。以下の説明では特に、半導体ウェハの保持装置において、図示しないアームの先端に取り付けられ、実際に半導体ウェハを吸着して保持するためのベルヌーイハンド及びそのベルヌーイハンドを用いた半導体ウェハの吸着方法などについて説明する。
【0022】
図1は、本発明の第1の実施形態に係るハンド1Aの、半導体ウェハを吸着する吸着面の平面図及びA−A断面図を示す。
【0023】
本実施形態に係るハンド1Aは、半導体ウェハ2を吸着するリング状の吸着パッド11と、吸着パッド11に設けられたガス噴射口12、12,…と、半導体ウェハ2を吸着したときに、その半導体ウェハ2が横滑りするのを防止するための摩擦部材13とを有する。
【0024】
ここで、ベルヌーイハンドの特徴として、吸着パッド11と半導体ウェハ2との間にはガスが流れているので、吸着パッド11と半導体ウェハ2とは非接触である。従って、半導体ウェハ2が横滑りしやすい。
【0025】
そこで、本実施形態に係るハンド1Aは、摩擦部材13を設けている。すなわち、摩擦部材13が、吸着された半導体ウェハ2と当接し、摩擦部材13と半導体ウェハ2との摩擦力により、半導体ウェハ2の横滑りを防止する。
【0026】
ガス噴射口12、12,…は、同一円周上に、ほぼ等間隔に設けられている。それぞれのガス噴射口12は、ハンド1Aの中心から直径方向の外側へ向かう方向にガスを噴射する。従って、各ガス噴射口12から同時にガスが噴射されると、ハンド1Aの吸着面全体としては放射状のガス流7が発生する。
【0027】
これにより、吸着パッド11と半導体ウェハ2との間に負圧が生じ、半導体ウェハ2が非接触で吸着パッド11に吸着される。また、同一円周上でほぼ等間隔に設けられたガス噴射口12、12、…から放射状にガスが噴射されることにより、半導体ウェハ2の略同一円周上に、ほぼ均等の吸着力が働く。従って、半導体ウェハ2が吸着パッド11に安定的に吸着され、横滑りが生じにくい。
【0028】
ここで、吸着パッド11の直径を、半導体ウェハ2の直径よりもわずかに小さくし、半導体ウェハ2を吸着したときにその外縁が吸着パッド11に触れないようにしてもよい。
【0029】
摩擦部材13は、ハンド1Aのほぼ中央に配置されている。また、摩擦部材13は、弾性体などの摩擦係数が大きい部材で構成されている。弾性体は、摩擦力が大きく、かつウェハを傷つけにくいので好適である。従って、摩擦部材13は、シリコンゴム、フッ素ゴムなどのゴムで構成してもよい。あるいは、摩擦部材13は、導電性ゴムであってもよい。導電性ゴムであれば、摩擦部材13と半導体ウェハ2が当接することにより、ウェハ2に帯電した静電気を逃がすことができるし、あるいは、摩擦部材13と半導体ウェハ2との摩擦による帯電も起きず、帯電防止としての効果もある。
【0030】
摩擦部材13の当接面110は、吸着パッド11の吸着面110よりも突出していてもよい。
【0031】
なお、ガス噴射口12、12,…は、必ずしも同一円周上に配置されていなくてもよいし、それぞれの間隔は等間隔でなくてもよい。さらに、摩擦部材13は、必ずしもハンド1Aの中央に配置されていなくてもよい。これは、以下の実施形態においても同様である。
【0032】
次に、図2を参照して、本発明の第2の実施形態に係るハンド1Bについて説明する。
【0033】
第2の実施形態に係るハンド1Bは、直径の異なる複数のサイズの半導体ウェハ2A,2Bを吸着可能なユニバーサルハンドである。すなわち、本実施形態のハンド1Bは、小径ウェハ2A及び大径ウェハ2Bの2種類のウェハを吸着して保持できる。
【0034】
本実施形態のハンド1Bは、それぞれリング形状の小径用吸着パッド11Aと、大径用吸着パッド11Bを有する。そして、小径用吸着パッド11Aに小径用ガス噴射口12A,12A,…が設けられ、大径用吸着パッド11Bに大径用ガス噴射口12B,12B,…が設けられている。それぞれのガス噴射口12A,12A,…、12B,12B,…は、第1の実施形態と同様に、同一円周上に等間隔で配置されていてもよい。さらに、第1の実施形態と同様に、中心に摩擦部材13が設けられている。
【0035】
ここで、同図Bに示すように、小径ウェハ2Aを吸着する場合は、小径用ガス噴射口12A,12A,…からガスを放射状に噴射し、小径用吸着パッド11Aで吸着する。このとき、吸着された半導体ウェハ2Aは、摩擦部材13と当接する。ここで、吸着パッド11Aの直径を半導体ウェハ2Aの直径よりもわずかに小さくすると共に、吸着パッド11Bとの間に溝を設けるようにしてもよい。これにより、吸着したときに半導体ウェハ2Aの外縁が吸着パッド11A、11Bに触れないようにする。
【0036】
また、同図Cに示すように、大径ウェハ2Bを吸着する場合は、大径用ガス噴射口12B,12B,…からガスを放射状に噴射し、大径用吸着パッド11Bで吸着する。このとき、吸着された半導体ウェハ2Bは、摩擦部材13と当接する。ここで、吸着パッド11Bの直径を、半導体ウェハ2Bの直径よりもわずかに小さくし、吸着したときに半導体ウェハ2Bの外縁が吸着パッド11Bに触れないようにしてもよい。
【0037】
これにより、ベルヌーイハンドにおいても、径の異なる複数種類の半導体ウェハを吸着できるユニバーサルハンドを実現できるとともに、このユニバーサルハンドにおいても、第1の実施形態と同様に、半導体ウェハ2の横滑りを防止する効果を得ることができる。
【0038】
次に、図3を参照して、本発明の第3の実施形態に係るハンド1Cについて説明する。
【0039】
第3の実施形態に係るハンド1Cは、摩擦部材13を吸着面に対して垂直方向へ移動させる移動機構15を備えたハンドである。
【0040】
本実施形態のハンド1Cも、第1の実施形態のハンド1Aと同様に、ガス噴射口12、12,…からの噴射ガス流7により生じる負圧で、吸着パッド11がウェハ2を吸着する。このとき摩擦部材13とウェハ2が当接するが、移動機構15により摩擦部材13の突出度合いを調整することにより、摩擦部材13のウェハ2への押しつけ力を調整することができる。この結果、吸着したときの半導体ウェハ2の撓みを抑制しつつ、適当な摩擦力を得るように、摩擦部材13の突出度合いを調整することが可能となる。
【0041】
図4は、ハンドの他の変形例を示す。
【0042】
例えば、同図Aに示すハンド1Dは、摩擦部材13Dがリング状になっている。
【0043】
また、同図Bに示すハンド1Eは、摩擦部材13Eを中心部以外にも設けることにより、さらに摩擦力を上げて、半導体ウェハ2の横滑りを防止することができる。
【0044】
同図Cに示すハンド1Fは、摩擦部材13Fとして弾性体を用いるのではなく、真空吸着パッドを用いている。これにより、半導体ウェハ2との摩擦力を上げるようにしてもよい。
【0045】
ここに示した変形は一例に過ぎず、本発明に係るベルヌーイハンドは、ここに示したもの以外にも様々な変形が可能である。
【0046】
図5は、摩擦部材13の断面形状及び吸着される半導体ウェハ2の変形の様子について示す。
【0047】
これまでに説明したとおり、摩擦部材13は、半導体ウェハ2と当接することにより、ウェハ2の横滑りを防止するものである。しかしながら、極薄の半導体ウェハ2を吸着する場合、同図Aに示すように、半導体ウェハ2が、摩擦部材13の当接面130の外縁部131において折れ曲がるように、大きく変形する場合がある。
【0048】
そこで、同図Bに例示するように、略円形の摩擦部材13の中央の突出量を外縁部131付近よりも大きくし、摩擦部材13の当接面130を湾曲させるようにしてもよい。これにより、吸着されたウェハ2は、当接面130に沿って変形し、外縁部131においてなめらかに変形するようになる。つまり、ウェハ2の外縁部131における変形の曲率を大きくすることができ、ウェハ2に係るストレスを軽減することができる。
【0049】
また、同図Cに示す別の態様では、台座16にゴムなどの弾性部材でできた14を張っておき、背面からガスを送って圧力をかけ、幕14を風船のように膨らませることにより、吸着パッド11の吸着面110よりも突出させて、摩擦部材13を構成してもよい。これにより、幕14の表面は同図Bの場合と同様に湾曲した状態となるので、同図Bと同様に半導体ウェハ2に係るストレスを軽減することができる。さらにこの態様の場合、幕14は空気圧で膨らんでいるので、当接面130にはすべて均一の圧力がかかっている。この結果、半導体ウェハ2が当接面130から受ける力は均一であり、さらに半導体ウェハ2に係るストレスが緩和される。
【0050】
また、ベルヌーイハンドでは半導体ウェハを吸着する際にガスを吹き付けるので、ウェハの表面が乾燥しやすく、ウェハの削りクズ(スラッジ)がウェハ表面にくっついてしまうことがある。そこで、上述のいずれの実施形態でも、ガス噴射口からガスを噴射する前に、乾燥防止のために半導体ウェハの表面に水などの液体を吹き付けるようにしてもよい。つまり、半導体ウェハへ水などの液体を吹き付けるための液体噴射口を備えていてもよい。あるいは、ガス噴射口から噴射するガスの中に、ミスト状の液体を混ぜて噴射するようにしてもよい。これにより、乾燥によるスラッジの張り付きを防止できる。
【0051】
なお、ガスを噴射する前に液体を吹き付けたり、ガスにミスト状の液体を混入したりすることは、あらゆるタイプのベルヌーイハンドに適用できる。
【0052】
次に、図6を参照して、ワークテーブル上の半導体ウェハ2を吸着する際、および吸着して保持しているウェハ2をハンド1から解放する際のガスの噴射について説明する。
【0053】
同図は、ワークテーブル5に乗っているウェハ2を吸着及び解放するときの様子を示した断面図である。
【0054】
摩擦部材13及び吸着パッド11は、ワークテーブル5に対向する面が開口したケース30に収容されている。そして、例えばケース30の背面に、ケース30内に空気を送り込んだり、ケース30内の空気を排気したりするための通気口31が設けられている。
【0055】
まず、同図Aは、ハンド1を半導体ウェハ2が載ったワークテーブル5に対して接近させ、摩擦部材13がウェハ2と接触するまでの制御を示す。すなわち、この場合、摩擦部材13がウェハ2と接触するまでの間、ガス噴射口12からは低圧のガスを噴射すると共に、通気口31からケース30内の空気を排気するか、あるいは、通気口31を開放してケース30内を大気圧と同じにする。
【0056】
これにより、吸着パッド11の表面には負圧による吸引力が発生し、ワークテーブル5上のウェハ2が吸着される。
【0057】
次に、同図Bは、摩擦部材13にウェハ2を押しつけて、吸着パッド11にウェハ2を確実に吸着させるための制御を示す。すなわち、この場合は、ガス噴射口12からは引き続き低圧のガスを噴射すると共に、通気口31からケース内30に低圧の空気を吹き込む。
【0058】
ここで、ガス噴射口12から噴射されるガス流7の影響で、ケース30内がわずかに負圧になり、ウェハ2のケース30に対向する部分がケース30内に吸い込まれて変形する可能性がある。そこで、本実施形態では、上述のようにケース30内を大気圧よりもやや高い気圧とすることで、ウェハ2の変形を防止しつつ、吸着パッド11に確実に吸着できるようにしている。
【0059】
これにより、半導体ウェハ2を変形させずに、確実に吸着することができる。
【0060】
次に、同図Cは、吸着したウェハ2をハンド1から解放して、ワークテーブル5に置くときの制御を示す。すなわち、この場合は、ガス噴射口12からのガスの噴射を停止すると共に、通気口31からケース内30に高圧のガスを吹き込む。
【0061】
これにより、ガス噴射口12からのガスの噴射が停止するので、吸着パッド11に対する吸引力はなくなる。さらに、ケース30内が高圧になり、摩擦部材13と吸着パッド11との間からガスが流れ出る。そして、このケース30から流れ出たガスがウェハ2に当たり、さらにウェハ2の外縁へ向けて流れる。この結果、極薄のウェハ2が内側から外側へ向かって延ばされ、しわが寄ることなくワークテーブル5へ押しつけられて、ハンド1から解放される。
【0062】
なお、図6の例では、摩擦部材13と吸着パッド11とがワークテーブルに対応する面が開口したケース30に収容されていたが、単に摩擦部材13と吸着パッド11との間が溝になっている場合にも適用できる。
【0063】
上述した本発明の実施形態は、本発明の説明のための例示であり、本発明の範囲をそれらの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。当業者は、本発明の要旨を逸脱することなしに、他の様々な態様で本発明を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るハンド1Aを示す。
【図2】本発明の第2の実施形態に係るハンド1Bを示す。
【図3】本発明の第3の実施形態に係るハンド1Cを示す。
【図4】本発明の他の実施形態に係るハンド1D〜1Fの例を示す。
【図5】摩擦部材13の構成の例を示す。
【図6】半導体ウェハ2の吸着及び解放の様子を示した図である。
【符号の説明】
【0065】
1,1A−1F…ハンド、2,2A,2B…半導体ウェハ、5…ワークテーブル、7…ガス流、11,11A,11B…吸着パッド、12,12A,12B…ガス噴射口、13…摩擦部材、14…幕、15…移動機構、16…台座、30…ケース、31…通気口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄膜状物体(2)の保持装置であって、
前記薄膜状物体のほぼ中心部と当接するように配置された弾性部材(13)と、
前記弾性部材の周囲に設けられたガス噴射口(12)と、
前記ガス噴射口から放射状に噴射されたガスによって生じた負圧で、前記薄膜状物体を非接触で吸着して保持する吸着パッド(11)とを備え、
前記薄膜状物体が前記吸着パッドに吸着されているときに、当該薄膜状物体と前記弾性部材とが当接することを特徴とする薄膜状物体の保持装置。
【請求項2】
前記ガス噴射口及び前記吸着パッドは、
略円形の第1の薄膜状物体(2A)の外縁の位置よりも内側に設けられた第1のガス噴射口(12A)及び第1の吸着パッド(11A)と、
前記第1の薄膜状物体よりも直径の大きい略円形の第2の薄膜物体(2B)の外縁の位置よりも内側に設けられた第2のガス噴射口(12B)及び第2の吸着パッド(11B)とを含み、
前記第1の薄膜状物体を保持するときは、前記第1のガス噴射口からガスを噴射して前記第1の吸着パッドで前記第1の薄膜状物体を吸着し、
前記第2の薄膜状物体を保持するときは、前記第2のガス噴射口からガスを噴射して前記第2の吸着パッドで前記第2の薄膜状物体を吸着するように構成されている、請求項1記載の薄膜状物体の保持装置。
【請求項3】
前記弾性部材は、ガスにより膨らませることにより、前記吸着パッドの吸着面(110)から突出するように構成されている、請求項1記載の薄膜状物体の保持装置。
【請求項4】
前記弾性部材の前記薄膜状物体との当接面(130)は湾曲している、請求項1記載の薄膜状物体の保持装置。
【請求項5】
前記弾性部材を、前記薄膜状物体の吸着面に対して垂直方向へ移動させるための移動機構(15)をさらに備え、
前記移動機構により前記弾性部材を移動させることにより、前記薄膜状物体に対する押しつけ力を調整する、請求項1記載の薄膜状物体の保持装置。
【請求項6】
前記弾性部材と前記吸着パッドとは、前記薄膜状物体と対向する面が開口したケース(30)に収容されていて、
前記薄膜状物体が戴置されたワークテーブル(5)に接近するときは、前記ガス噴射口からガスを噴射すると共に、前記ケース内の気圧をほぼ大気圧とする、請求項1記載の薄膜状物体の保持装置。
【請求項7】
前記弾性部材が前記薄膜状物体と当接した後は、前記ガス噴射口からガスを噴射すると共に、前記ケース内の気圧を大気圧よりも高くする、請求項6記載の薄膜状物体の保持装置。
【請求項8】
前記弾性部材と前記吸着パッドとは、前記薄膜状物体と対向する面が開口したケース(30)に収容されていて、
吸着されている前記薄膜状物体を解放するときは、前記ガス噴射口からのガスの噴射を停止するとともに、前記ケース内の気圧を大気圧よりも高くする、請求項1記載の薄膜状物体の保持装置。
【請求項9】
薄膜状物体(2)の保持装置であって、
ガス噴射口(12)と、
前記ガス噴射口から噴射されたガスによって生じた負圧で、前記薄膜状物体を非接触で吸着して保持する吸着パッド(11)とを備え、
前記ガス噴射口から噴射するガスは、ミスト状の液体を含むガスであることを特徴とする保持装置。
【請求項10】
薄膜状物体(2)のほぼ中心部と当接するように配置された弾性部材(13)と、前記弾性部材の周囲に設けられたガス噴射口(12)と、前記ガス噴射口から放射状に噴射されたガスによって生じた負圧で、前記薄膜状物体を非接触で吸着して保持する吸着パッド(11)と、前記弾性部材と前記吸着パッドとを収容し、前記薄膜状物体と対向する面が開口したケース(30)とを備えた薄膜状物体の保持装置が、薄膜状物体を吸着し、吸着した薄膜状物体を解放する方法であって、
前記ガス噴射口からガスを噴射すると共に、前記ケース内の気圧をほぼ大気圧とした状態で、前記薄膜状物体が戴置されたワークテーブル(5)に接近するステップと、
前記弾性部材が前記薄膜状物体と当接した後は、前記ガス噴射口からガスを噴射すると共に、前記ケース内の気圧を大気圧よりも高くして、前記薄膜状物体を吸着するステップと、
前記薄膜状物体が吸着されているときに、前記ガス噴射口からのガスの噴射を停止するとともに、前記ケース内の気圧を大気圧よりも高くして、吸着されている前記薄膜状物体を解放するステップと、を含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−329375(P2007−329375A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−160589(P2006−160589)
【出願日】平成18年6月9日(2006.6.9)
【出願人】(394018524)コマツ工機株式会社 (27)
【Fターム(参考)】