説明

薄膜素子構造の作製方法、及び薄膜素子構造作製用の機能性基体

【課題】剥離層を用いた薄膜素子構造の作製において、前記剥離層を汚染物質に相当しない新規な材料から構成し、その作製方法の実用性を向上させる。
【解決手段】基体11上に、少なくとも酸化ゲルマニウムを含む物質を有する剥離層12を形成する。次いで、剥離層12上に、膜構造13を形成する。次いで、剥離層12を含む積層体を所定の溶液21中に浸漬させて、剥離層12を除去し、薄膜素子構造13を基体11から剥離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜素子構造の作製方法、及び薄膜素子構造作製用の機能性基体に関する。
【背景技術】
【0002】
単結晶シリコン表面に形成されるバイポーラ及びMOS型トランジスタは良好な特性を有し、広く電子デバイスを構成する素子として用いられている。さらに、現在では素子サイズの微細化に対応するため、シリコン表面に絶縁膜を介して作製された薄膜シリコン上にトランジスタが作製されている。
【0003】
これらの素子形成は熱酸化法等1000℃の高温の熱処理プロセス技術を基本としている。最近、レーザ結晶化、プラズマCVD等比較的低温で、多結晶シリコン薄膜トランジスタ(poly-Si TFT)又はアモルファスシリコン薄膜トランジスタ(a-Si:H TFT)が作製できるようになった。さらに、大画面直視型ディスプレイの駆動回路への薄膜トランジスタの応用が期待されている。そのため、大型基板処理技術の確立が必須となっている。
【0004】
上述のシリコントランジスタプロセス技術は高温の熱処理技術を基本としているために、耐熱性の無い基板上に形成されるトランジスタ作製には適用出来ない問題点があった。レーザ結晶化、プラズマCVD等の新規技術によってプロセス温度の低温化が図られてはいるが、なお300℃以上が必要であり、プラスチック等の非耐熱基板上のトランジスタ回路作製は困難であった。さらに、大面積基板上に直接トランジスタ回路を作製する場合、基板サイズの大型化によって、作製プロセス装置の巨大化、低精度、且つコスト高になる問題点があった。
【0005】
このような問題に鑑み、特許第3116085号公報には、剥離層を使用した剥離手法によって半導体薄膜素子を製造するいくつかの手法が知られている。この方法によれば、剥離層を介して半導体薄膜素子を構成する膜構造を形成した後、前記剥離層を溶解除去し、前記膜構造を前記剥離層から剥離した後、別体の支持基板上に転写形成するようにしている。この支持基板は前記半導体薄膜素子の実際の基板として機能するものであるが、前記支持基板は前記膜構造を作製する際の高温プロセスに晒されることがない。したがって、前記支持基板は安価な高分子材料などから構成することができるとともに、上述した転写形のプロセスによって作製プロセスが簡易化され、上述したような作製プロセス装置の巨大化、低精度及びコスト高などの問題を回避することができる。
【0006】
【特許文献1】特許第3116085号公報
【0007】
前記剥離層は、前記膜構造作製中の高温プロセスにおいて変質及び剥離することなく、また、化学的に不安定で酸性溶液などに可溶し、その除去を簡易に行うことが必要である。かかる観点より、前記剥離層は主としてクロム、ニッケルなどの金属材料を用いて形成していた。しかしながら、このような金属材料から剥離層を形成すると、この剥離層を廃棄する際に、前記剥離層を汚染物質として処理しなければならず、環境保全との関係上、実用上好ましくなかった。したがって、前記剥離層を構成する材料を汚染物質と位置づけられる以外の材料から構成することが望まれる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、剥離層を用いた薄膜素子構造の作製において、前記剥離層を汚染物質に相当しない新規な材料から構成し、その作製方法の実用性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成すべく、本発明は、
基体上に、少なくとも酸化ゲルマニウムを含む物質を有する剥離層を形成する工程と、
前記剥離層上に、薄膜素子構造を形成する工程と、
前記剥離層を除去し、前記薄膜素子構造を前記基体から剥離する工程と、
を具えることを特徴とする、薄膜素子構造の作製方法に関する。
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、酸性溶液などに浸漬した場合に容易に溶解し、その除去を極めて簡易に行うことができるとともに、汚染に寄与しない、金属材料に代わる新規な材料を見出すべく鋭意検討を実施した。その結果、前記剥離層が酸化ゲルマニウムを含むようにすることによって、前記剥離層を所定の溶液中に浸漬させた場合に、前記酸化ゲルマニウムが還元されて、前記溶液中に溶出するようになり、その結果、前記剥離層が溶解除去できることを見出した。
【0011】
すなわち、酸化ゲルマニウムは還元されやすく、酸のような水素イオン濃度の多い溶液中で、ゲルマニウムは酸素と解離してGeHxとなり溶液中に溶出ようになる。酸化ゲルマニウムは、クロム、ニッケルなどの金属材料などのように汚染物質の範疇には入らないため、前記剥離層を前記酸化ゲルマニウムを含むようにすることによって、前記剥離層を用いた薄膜素子構造の作製の実用性を向上させることができるようになる。したがって、上述した転写形成プロセスなどを用いることにより、剥離層を用いた薄膜素子構造本来の作用効果である、作製プロセスの簡易化、作製プロセス装置の巨大化、低精度及びコスト高などの問題を、実用上の問題を解決した上で回避することができる。
【0012】
前記剥離層は、非アルカリ性溶液を用いて除去することができる。前記非アルカリ性溶液としては、pH=0.1〜7未満の酸性溶液、あるいは中性の水を用いることができる。前記剥離層は、前記非アルカリ性溶液に浸漬させて除去することもできるし、前記非アルカリ性溶液を噴射させて除去することもできる。なお、この際に、前記非アルカリ性溶液は、好ましくは10−90℃の温度に加熱する。これによって、前記剥離層に対するエッチング速度が増大し、前記剥離層の除去をより短時間で行うことができる。
【0013】
また、前記剥離層は、例えば100−300℃の高温水蒸気に暴露することによっても除去することができる。この際、前記高温水蒸気の噴射圧力は30MPa程度まで増大させる。
【0014】
なお、本発明の好ましい態様においては、少なくとも前記薄膜素子構造を含む積層体に対して、その厚さ方法において、前記剥離層の上面が露出するような、少なくとも1つのスルーホールを形成し、その後に前記剥離層を除去する。この場合、上述した非アルカリ性溶液は、前記剥離層の側面部分のみではなく、前記スルーホールに露出した前記上面からも浸漬するようになるので、前記剥離層のエッチング時間が短縮化され、前記剥離層の除去操作を短時間化することができる。
【0015】
また、本発明の他の好ましい態様においては、前記剥離層上に、この剥離層の全体を覆うようにして被覆層を形成し、この被覆層上に、薄膜素子構造を形成する。この場合、前記薄膜素子構造の形成過程において、前記剥離層は前記被覆層によって覆われているので、前記薄膜素子構造の形成過程におけるウエットプロセスなどにおいて、その際に使用するエッチング溶液などに前記剥離層が晒されるようなことがない。したがって、前記薄膜素子構造の形成過程において前記剥離層の剥離などが生じるのを防止することができ、前記薄膜素子構造の形成歩留りの低下を抑制することができる。
【0016】
さらに、本発明のさらに他の好ましい態様においては、前記剥離層の除去において、前記剥離層に対して応力付加を行うことが好ましい。前記応力付加は、例えば前記剥離層上方に弾性体を形成し、この弾性体を変形させ、前記剥離層に対して引張応力を付加するようにすることが好ましい。これによって、前記剥離層の端部が、基体から若干浮き上がって、前記基体との間に微小の隙間を形成するようになり、前記隙間を通じて前記非アルカリ性溶液などが前記剥離層内に徐々に浸漬するようになるので、前記剥離層の除去をより簡易に行うことができるようになる。なお、この態様は、前記剥離層の厚さに対して、面積が極めて大きい場合に特に有効である。
【0017】
なお、本発明における「薄膜素子構造」とは、目的とする半導体素子などの基本的及び主たる機能を果たす部分の構造を意味し、その素子の機能に応じて、所定の薄膜回路素子、又は単なる単一の層あるいは複数の層の積層体など、任意の形態を採るものである。
【0018】
また、本発明は、上記薄膜素子構造の作製に用いる機能性基体に関するものであって、
所定の基体と、
前記基体上に形成された、少なくとも酸化ゲルマニウムを含む物質を有する剥離層と、
前記剥離層上に形成された、薄膜素子構造と、
を具えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明によれば、剥離層を用いた薄膜素子構造の作製において、前記剥離層を汚染物質に相当しない新規な材料から構成し、実用性を向上させた作製方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の詳細、その他の特徴及び利点について、最良の形態に基づいて説明する。
本発明の方法の実施形態を図面を参照しながら説明する。
【0021】
図1は、本発明の薄膜素子構造の作製方法の一例を示す工程図である。なお、以下に示す図面において、同一又は類似の構成要素に関しては、同一の参照符号を用いている。最初に、図1(a)に示すように、所定の基体11上に剥離層12を形成し、さらにその上に、所定の薄膜電子回路素子形成に必要な単層又は複数の層からなる膜構造13を形成する。剥離層12は、少なくとも酸化ゲルマニウムを含む物質から構成する。
【0022】
次いで、図1(b)に示すように、剥離層12を含む積層体を所定の溶液21中に浸漬する。酸化ゲルマニウムは還元しやすく、前記溶液中への浸漬中において、前記溶液が比較的高い水素イオン濃度を含む場合において、ゲルマニウムは酸素と解離してGeHxとなり前記溶液中に溶出するようになる。この結果、剥離層12を基体11から容易に除去できるようになる。なお、剥離層12は、酸化ゲルマニウム又はこれを含む物質とエッチング不可能な物質の混合又は積層によって構成してもよい。
【0023】
剥離層12は、基体11上に、例えば、スパッタリング法、プラズマ気化学反応法、真空蒸着法などの公知の方法を用いて形成することができる。
【0024】
また、剥離層12内の酸素濃度は5−80原子%であることが好ましく、その厚さは100−10000nmであることが好ましい。これによって、剥離層12自体の被剥離機能を増大させることができ、以下に詳述する種々の好ましい剥離手段によって簡易に剥離することができる。
【0025】
なお、膜構造13は、それ自身が物理的支持を必要としないときは、そのまま半導体素子として、又はそれを用いる回路デバイスとして使用することができる。また、薄膜電子回路素子として、又はそれを用いる回路デバイスの形成工程を続けて行うことができる。
【0026】
さらに剥離した基体11は繰り返し用いることができ、再び、剥離層12と所定の電子回路素子に必要な膜構造13の形成に利用することができる。
【0027】
溶液21は、非アルカリ性溶液から構成することが好ましい。これによって、剥離層12の剥離操作をより簡易化及び短時間化することができる。非アルカリ性溶液としては、pH=0.1〜7未満の酸性溶液、具体的には、塩酸、硝酸、燐酸、酢酸などの溶液を用いることができる。なお、エッチング速度は塩酸濃度が高いほど大きくなることが実験的に確かめられている。また、上述した酸性溶液に加えて、中性の水を用いても剥離層12の剥離除去を十分に行うことができ、実験的にも確認されている。
【0028】
なお、前記非アルカリ性溶液は、好ましくは10−90℃の温度に加熱する。これによって、前記剥離層に対するエッチング速度が増大し、前記剥離層の除去をより短時間で行うことができる。
【0029】
図2は、図1に示す作製方法の変形例を示す図である。図2に示す例では、図2(a)に示すように、膜構造30上に保護層14を形成している。この場合、剥離層12を剥離すべく、図2(b)に示すように、剥離層12を含む積層体を溶液21内に浸漬した場合において、膜構造30が直接的に溶液21に接触するのを防止し、膜構造30の劣化を抑制することができる。また、このような操作の際のハンドリングにおいて、膜構造30に対して機械的なダメージが及ぶのを抑制することができる。
【0030】
図3は、図1に示す作製方法の変形例を示す図である。図3に示す例においては、図1に示す例における、例えば酸性溶液などの非アルカリ性溶液に剥離層を浸漬させる代わりに、前記剥離層に対して前記溶液を噴射するようにしている。このような場合、図3(a)に示すように、溶液21が、液滴あるいは蒸気の状態で剥離層12に接触するようになる。したがって、この場合においても、図3(b)に示すように、剥離層12を効率良くエッチングして剥離することができる。また、溶液21の、剥離層12以外への接触を抑制できることから、特に膜構造13などのダメージを抑制することができる。
【0031】
図4は、図1に示す作製方法の変形例を示す図である。図4に示す例においては、図1に示す例における、例えば酸性溶液などの非アルカリ性溶液に剥離層を浸漬させる代わりに、前記剥離層を含む積層体を高温水蒸気に暴露するようにしている。本例においては、隔離壁を有する所定の容器22内に、基体11、剥離層12及び膜構造13(必要に応じて保護層なども形成することができる)が形成された積層体を、容器22の、前記隔離壁の下方の部屋を配置し、容器22内を高温水蒸気22で満たし、剥離層12をこの高温水蒸気22に接触させることによってエッチング除去する。
【0032】
高温水蒸気22の温度は100−300℃であることが好ましく、その圧力は30MPa程度であることが好ましい。
【0033】
図5は、さらに、図1に示す作製方法の変形例を示す図である。最初に、図5(a)に示すように、絶縁性基板11の上に剥離層としての酸化ゲルマニウム膜12を成膜し、更に第1のカバー膜15を成膜し、その上に薄膜デバイス13を形成し、最後に薄膜デバイス13の上面に保護層14を形成する。
【0034】
次いで、図5(b)に示すように、酸化ゲルマニウム膜12を含む積層体を溶液21中に浸漬させる。溶液21は、例えば酸性溶液から構成され、前記酸化ゲルマニウムの、酸溶液に対するエッチング速度が非常に高速であるため、横方向から急速にエッチングが進行し、酸化ゲルマニウムの一部又は全部が溶解する。また、保護層14及び被覆層15の存在により、薄膜デバイス13は酸溶液のダメージに曝されることが無い。これにより、絶縁性基板11から薄膜デバイス13を非常に容易に且つ歩留まり良く剥離できる。
【0035】
次いで、図5(c)に示すように、絶縁性基板11を除去した面に支持基体16を貼り付け、薄膜デバイス13を支持基体16上に転写形成する。次いで、図5(d)に示すように、保護層5を剥離することによって、薄膜デバイス13を含む電子デバイスが完成する。
【0036】
なお、図5(d)に示すように、支持基体16は前記電子デバイスを構成する基板として機能するが、上述した説明から明らかなように、薄膜デバイス13の形成時には存在しないので、その形成時における高温プロセスの影響などを受けることがない。したがって、支持基体16は、前記電子デバイスの使用態様などに応じて任意の材料から構成することができ、例えば安価であって柔軟性に富む、高分子フィルムなどから構成することもできる。
【0037】
図6は、図5に示す作製方法に従って、MOS型電界効果型トランジスタ(FET)を作製する具体例を示すものである。MOSFETの作製工程として、結晶性シリコン膜51の形成、ゲート絶縁膜52の形成、ドープシリコンによるソース・ドレイン領域53、54の形成、ゲート電極55、ソース電極56、ドレイン電極57の形成、さらには層間絶縁膜58、59、及びパッシベーション膜60の形成及びトランジスタ間或いは外部回路との金属配線71、72の形成が含まれる。図6(a)は、トランジスタ回路13を構成する総ての要素が基体11上において剥離層20を介して形成された様子を示しているものである。
【0038】
結晶性膜形成、ゲート絶縁膜形成、ドープシリコン領域形成のための不純物活性化等には、基体11が石英等のように耐熱性を有するときは、高温(>600℃)の加熱処理工程を用いることができる。さらには、レーザ結晶化、レーザ活性化、プラズマCVD等の比較的低温度で処理できる技術を用いることもできる。 次に、図6(b)に示すように、保護層14をトランジスタ回路13上に接着させ、剥離層12を含む積層体を、酸性溶液などの所定の溶液中に浸漬させて除去する。次いで、図6(c)に示すように、剥離したトランジスタ回路13を別の支持基体16上に転写形成し、図6(d)に示すように、保護層14を除去することによって、支持基体16を含むトランジスタ(MOSFET)を形成することができる。
【0039】
なお、図6に示す工程において、例えば金属配線71及び72は、トランジスタ回路13を構成する要素を支持基体16上に転写形成した後に、形成するようにすることができる。
【0040】
図7は、図5に示す作製方法の変形例を示す工程図である。図7に示す工程において、図7(a)及び(b)に示す工程は、図5(a)及び(b)に示す工程と同様であって、図7(c)及び(d)に示す工程において異なる。本例においては、図7(b)に示すようにして、酸化ゲルマニウム膜12を含む積層体を溶液21中に浸漬し、剥離層12を除去した後、図7(c)に示すように、薄膜デバイス13を、その面積よりも大きな面積を有する支持基板16上に転写形成する。そして、図7(d)に示すように、保護層14を除去して薄膜デバイス13が大面積支持基板16上に転写形成した電子デバイスを得ることができる。
【0041】
本例によれば、大面積支持基板上に薄膜デバイスを転写して形成するようにしているので、前記支持基板上に複数の薄膜デバイスを転写形成することによって、前記複数の薄膜デバイスを集積させるようにすることができる。したがって、高精度のパターニング技術などを必要とすることなく、前記薄膜デバイスが集積した半導体回路などを形成することができるようになる。
【0042】
図8は、図5に示す作製方法の他の変形例を示す工程図である。本例においては、図8(a)に示すように、絶縁性基板11の上に剥離層としての酸化ゲルマニウム膜12を成膜し、更に被覆層15を成膜した後、その上に複数の微細な薄膜デバイス13を形成し、最後に薄膜デバイス13の上面に保護層14を形成する。
【0043】
次いで、図8(b)に示すように、酸化ゲルマニウム膜12を含む積層体を溶液21中に浸漬させ、酸化ゲルマニウム膜12を除去した後、図8(c)に示すように、薄膜デバイス13のそれぞれを対応した支持基板16上に転写形成する。その後、図8(d)に示すように、保護層14を除去して、支持基板16上に転写形成された薄膜デバイス13を有する電子デバイスを複数同時に作製することができる。
【0044】
なお、図7及び図8に示す例においても、保護層14及び被覆層15を設けているので、薄膜デバイス13が酸溶液のダメージに曝されることが無く、絶縁性基板11から薄膜デバイス13を非常に容易に且つ歩留まり良く剥離できる。
【0045】
また、図5〜図8に示す例における作製方法では、特に図6に関連させて、MOSFETを作製する場合について説明したが、その他の半導体素子、例えば、バイポーラ素子、太陽電池素子、アモルファスシリコンTFT、アモルファスイメージセンサなどに適用することができる。
【0046】
図9は、本発明の薄膜素子構造の作製方法の他の例を示す工程図である。最初に、図9(a)に示すように、所定の基体11上に剥離層12を形成し、この剥離層12上に、順次被覆層15、膜構造13及び保護層14を形成する。次いで、図9(b)に示すように、被覆層15、膜構造13及び保護層15を含む積層体の、膜構造13が存在しない部分に、剥離層12の上面が露出するようにしてスルーホール19を形成する。その後、図9(c)に示すように、前記積層体を上述したような溶液21中に浸漬すると、溶液21は剥離層12の端部のみからでなく、その上面からも浸漬するようになる。したがって、前記剥離層のエッチング時間が短縮化され、前記剥離層の除去操作を短時間化することができる。
【0047】
図10は、本発明の薄膜素子構造の作製方法のその他の例を示す工程図である。最初に、図10(a)に示すように、所定の基体11上に剥離層12を形成し、この剥離層12の全体を覆うようにして被覆層15を形成し、さらに膜構造13及び保護層14を順次形成する。次いで、図10(b)に示すように、図10(a)に示す積層体を、剥離層12の側面が露出するようにして厚さ方向に切断する。その後、図10(c)に示すように、前記積層体を上述したような溶液21中に浸漬すると、溶液21は剥離層12の側面から浸漬し、その結果、剥離層12はエッチング除去されるようになる。
【0048】
次いで、図10(d)に示すように、基体11から剥離した膜構造13を支持基体16上に転写形成した後、図10(e)に示すように、保護層14を除去することによって、目的とする(薄膜)素子構造を得ることができる。
【0049】
本例によれば、膜構造13の形成過程において、剥離層12は被覆層15によって覆われているので、膜構造13の形成過程におけるウエットプロセスなどにおいて、その際に使用するエッチング溶液などに剥離層12が晒されるようなことがない。したがって、膜構造13の形成過程において剥離層12の剥離などが生じるのを防止することができ、膜構造13、すなわち素子構造の形成歩留りの低下を抑制することができる。
【0050】
図11は、図1に示す作製方法の好ましい態様を示す例である。図11に示す例では、図11(a)及び(b)に示すように、基体11、剥離層12、膜構造13及び保護層14が順次に形成されてなる積層体上に、さらに応力付加のための固体形状の弾性体31が周回状に形成されている。次いで、図11(c)に示すように、弾性体31を含むアセンブリを溶液21内に浸漬するとともに、弾性体31を変形させて剥離層12に対して引張応力が作用するようにする。
【0051】
これによって、剥離層12の端部が、基体11から若干浮き上がって、基体11との間に微小の隙間を形成するようになり、前記隙間を通じて溶液21が剥離層12内に徐々に浸漬するようになるので、前記剥離層の除去をより簡易に行うことができるようになる。なお、この態様は、剥離層12の厚さに対して、面積が極めて大きい場合に特に有効である。具体的に、基体11としてメートルオーダの直径のガラス基板などを用いる場合、上述したように、剥離層12の好ましい厚さが100−10000nmであって、前記ガラス基板の前面に剥離層12を形成すると、剥離層12の厚さと面内の長さ(面積)とが数桁のオーダで異なるようになる。したがって、このような場合、本例の方法は極めて有効である。
【0052】
図12は、図11に示す作製方法の変形例である。図12に示す例では、図11に示す固体形状の弾性体の代わりに、バルーンを用いている。バルーン32は、保護層14に対して接着させ、この状態でバルーン32内にエアーを送り込む。すると、バルーン32は膨らんで、所定の曲率を呈するようになり、これに伴って保護層14もその端部が外側へ変形するようになる。したがって、この場合においても、剥離層12の端部が、基体11から若干浮き上がって、基体11との間に微小の隙間を形成するようになり、前記隙間を通じて溶液21が剥離層12内に徐々に浸漬するようになるので、前記剥離層の除去をより簡易に行うことができるようになる。
【0053】
図13は、図1に示す作製方法の応用例である。図13に示す例では、剥離層12を、酸化ゲルマニウム層121とその他の材料、具体的には、SiO、SiN、Alなどの材料からなる層122とから構成する。この場合、剥離層12を上述したような溶液21に浸漬することにより、剥離層12中の、酸化ゲルマニウム層121のみが除去されるようになり、層122は残存するようになる。したがって、この場合、基体11が支持基体となり、膜構造13は層122を介して基体11上に残存するようになる。
【0054】
このような素子構造において、層122は全体として見た場合、多孔質となるので熱伝導率などが低くなる。したがって、このようにして得た素子構造は高感度センサーなどに適用することができる。
【0055】
なお、層122を構成する材料は、酸化ゲルマニウム層121がエッチング除去される条件下において、エッチング除去されない材料から構成されることが必要であるが、上記に例示したSiOなどはこの条件を満足する。
【0056】
また、図14に示すように、図13で得た素子構造(図14(a))に対して、さらに同様の操作(図14(b))を施すことによって、図14(c)に示すような、多孔質の層122が積層された素子構造を得ることができる。
【0057】
図13に示すような剥離層12は、最初に酸化ゲルマニウム層121又は層122を一様に形成し、その後のこの層に対してフォトリソグラフィの技術などを通じて部分的にエッチング除去した領域を形成し、この領域内を埋設するようにして層122又は酸化ゲルマニウム層121を形成し、その後、前記領域からはみ出した余分な部分をCMPなどによって除去することによって形成することができる。なお、酸化ゲルマニウム層121及び層122の形成は公知の成膜技術を用いて実施することができる。
【0058】
なお、図13及び図14に示す例では、剥離層12を2種類の材料(層)から構成する場合について述べているが、3種類以上の材料(層)から構成するようにすることもできる。
【0059】
図15には、酸化ゲルマニウム膜を塩酸水溶液に浸すことによって除去する工程を実時間観測した概念図を示す。レーザ光61をプローブ光として塩酸溶液21に通し、光検出器62を用いてレーザ光強度を測定する。剥離層12を形成した基体11をレーザ光を横切るように酸性溶液に浸す。剥離層12の屈折率は基体11の屈折率と異なった値を持つので、光干渉効果により透過強度は剥離層12の膜厚に依存する。したがって、レーザ光強度の時間変化を測定することにより、剥離層12の除去の様子を測定することができる。
【0060】
図16には、石英基板上に形成した3ミクロン厚酸化ゲルマニウム膜12を、図15に示す方法を用いて、塩酸0.1モル%の溶液を用いたときに測定した光強度の時間変化を示す。基体11及び剥離層12を溶液21に浸漬した後、光強度は特有の強くあるいは弱くなる振動パターンを示した。そして2.5秒後に一定の値になった。これは塩酸によって剥離層12が除去され、膜厚が薄くなることに伴って光強度が変化したことを示している。そして光強度が一定になったとき剥離層12は完全に除去されたことを示している。
【実施例】
【0061】
図5に示す工程に基づいて、薄膜素子構造の作製を実施した。最初に、50mm角のガラス基板11の上に酸化ゲルマニウム膜12を厚さ2μmに成膜し、次いで、被覆層として酸化シリコン膜15を厚さ0.3μmに成膜した。その後、ポリシリコン膜からなる薄膜トランジスタアレイ13を形成し、最後に薄膜トランジスタアレイ13の上面に保護層としてポリエチレンフィルム14を貼り付けた。
【0062】
ここで酸化ゲルマニウム膜12は、ゲルマニウムをターゲットとして、アルゴンと酸素の混合ガスを用いたスパッタリング法で成膜した。アルゴン流量40sccm、酸素流量20sccmの条件にて成膜したところ、40℃におけるこの酸化ゲルマニウムの塩酸に対するエッチングレートは100μm/分であった。塩酸の濃度は、0.1mol/lである。また、薄膜トランジスタアレイは、熱CVD法で成膜したアモルファスシリコンをエキシマレーザー照射で多結晶化したポリシリコン膜をベースとして作成した。
【0063】
次いで、図5(b)に示すように、上述のようにして得た積層体を、濃度0.1mol/lの塩酸溶液21中に室温で浸漬させた。なお、浸漬中は塩酸溶液を十分攪拌した。そ2時間の浸漬が経過した後、酸化ゲルマニウム膜12はほぼ溶解して、ガラス基板11からポリエチレンフィルム14付き薄膜トランジスタアレイ13を剥離することができた。
【0064】
次いで、図5(c)に示すように、ガラス基板を除去した面に、支持基体として厚さ100μmのポリイミドフィルム16を接着剤を介して貼り付けた。最後に、図5(d)に示すように、ポリエチレンフィルム14を剥がして、フレキシブル薄膜トランジスタ基板を完成させた。
【0065】
ガラス基板上の初期のトランジスタ特性と、ガラス基板から剥離してポリイミドフィルム基板上へ転写した後のトランジスタ特性とはほとんど差が無く、良好な特性を有するフレキシブル薄膜トランジスタ基板を実現することができた。
【0066】
以上、具体例を挙げながら発明の実施の形態に基づいて本発明を詳細に説明してきたが、本発明は上記内容に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない限りにおいてあらゆる変形や変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の薄膜素子構造の作製方法の一例を示す工程図である。
【図2】図1に示す作製方法の変形例を示す図である。
【図3】図1に示す作製方法の変形例を示す図である。
【図4】図1に示す作製方法の変形例を示す図である。
【図5】図1に示す作製方法の変形例を示す図である。
【図6】図5に示す作製方法に従って、MOS型電界効果型トランジスタ(FET)を作製する具体例を示すものである。
【図7】図5に示す作製方法の変形例を示す工程図である。
【図8】図5に示す作製方法の他の変形例を示す工程図である。
【図9】本発明の薄膜素子構造の作製方法の他の例を示す工程図である。
【図10】本発明の薄膜素子構造の作製方法のその他の例を示す工程図である。
【図11】図1に示す作製方法の好ましい態様を示す例である。
【図12】図11に示す作製方法の変形例である。
【図13】図1に示す作製方法の応用例である。
【図14】図13に示す作製方法の変形例である。
【図15】酸化ゲルマニウム膜を塩酸水溶液に浸すことによって除去する工程を実時間観測するための概念図である。
【図16】石英基板上に形成した3ミクロン厚酸化ゲルマニウム膜を、図15に示す方法を用いて、塩酸0.1モル%の溶液を用いたときに測定した光強度の時間変化を示す。
【符号の説明】
【0068】
11 基体
12 剥離層、酸化ゲルマニウム膜
13 膜構造、薄膜デバイス
14 保護層
15 被覆層
16 支持基体
19 スルーホール
21 溶液
22 高温水蒸気
31 弾性体
32 バルーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体上に、少なくとも酸化ゲルマニウムを含む物質を有する剥離層を形成する工程と、
前記剥離層上に、薄膜素子構造を形成する工程と、
前記剥離層を除去し、前記薄膜素子構造を前記基体から剥離する工程と、
を具えることを特徴とする、薄膜素子構造の作製方法。
【請求項2】
前記基体上に、少なくとも酸化ゲルマニウムを含む物質を有する剥離層を形成する工程と、
前記剥離層上に、薄膜素子構造を形成する工程と、
少なくとも前記薄膜素子構造を含む積層体に対して、その厚さ方法において、前記剥離層の上面が露出するような、少なくとも1つのスルーホールを形成する工程と、
前記剥離層を除去し、前記薄膜素子構造を前記基体から剥離する工程と、
を具えることを特徴とする、薄膜素子構造の作製方法。
【請求項3】
前記基体上に、少なくとも酸化ゲルマニウムを含む物質を有する剥離層を形成する工程と、
前記剥離層上に、この剥離層の全体を覆うようにして被覆層を形成する工程と、
前記被覆層上に、薄膜素子構造を形成する工程と、
前記被覆層の、前記剥離層の側面を覆う部分を除去して、前記剥離層の前記側面を露出させる工程と、
前記剥離層を除去し、前記薄膜素子構造を前記基体から剥離する工程と、
を具えることを特徴とする、薄膜素子構造の作製方法。
【請求項4】
前記剥離層中の酸素濃度が5−80原子%であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一に記載の薄膜素子構造の作製方法。
【請求項5】
前記剥離層の厚さが100−10000nmであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一に記載の薄膜素子構造の作製方法。
【請求項6】
前記剥離層の除去は、非アルカリ性の溶液を用いて行うことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一に記載の薄膜素子構造の作製方法。
【請求項7】
前記非アルカリ性溶液は酸性溶液であることを特徴とする、請求項6に記載の薄膜素子構造の作製方法。
【請求項8】
前記非アルカリ性溶液は水であることを特徴とする、請求項6に記載の薄膜素子構造の作製方法。
【請求項9】
前記剥離層の除去は、前記剥離層を前記非アルカリ性溶液に浸漬させて行うことを特徴とする、請求項6〜8のいずれか一に記載の薄膜素子構造の作製方法。
【請求項10】
前記剥離層の除去は、前記剥離層を所定温度に加熱した前記非アルカリ性溶液に浸漬させて行うことを特徴とする、請求項6〜8のいずれか一に記載の薄膜素子構造の作製方法。
【請求項11】
前記非アルカリ性溶液は10−90℃の温度に加熱することを特徴とする、請求項10に記載の薄膜素子構造の作製方法。
【請求項12】
前記剥離層の除去は、前記剥離層に対して前記非アルカリ性溶液を噴射させて行うことを特徴とする、請求項6〜8のいずれか一に記載の薄膜素子構造の作製方法。
【請求項13】
前記剥離層の除去は、前記剥離層に対して100−300℃の温度範囲にある高温水蒸気を暴露させて行うことを特徴とする、請求項6〜8のいずれか一に記載の薄膜素子構造の作製方法。
【請求項14】
前記高温水蒸気は、前記剥離層に対して30MPa以上の圧力で噴出することを特徴とする、請求項13に記載の薄膜素子構造の作製方法。
【請求項15】
前記剥離層の除去において、前記剥離層に対して応力付加を行うことを特徴とする、請求項1〜14のいずれか一に記載の薄膜素子構造の作製方法。
【請求項16】
前記応力付加は、前記剥離層上方に弾性体を形成し、この弾性体の変形を通じて行うことを特徴とする、請求項15に記載の薄膜素子構造の作製方法。
【請求項17】
前記応力付加における応力は引張応力であることを特徴とする、請求項15又は16に記載の薄膜素子構造の作製方法。
【請求項18】
前記剥離層の除去は、前記薄膜素子構造上に保護層を設けた後に行うことを特徴とする、請求項1〜17のいずれか一に記載の薄膜素子構造の作製方法。
【請求項19】
前記薄膜素子構造を前記基体から剥離した後に、前記薄膜素子構造上に、この薄膜素子構造を転写形成するための支持基板を形成する工程を具えることを特徴とする、請求項1〜18のいずれか一に記載の薄膜素子構造の作製方法。
【請求項20】
前記支持基板は、高分子材料を含むことを特徴とする、請求項19に記載の薄膜素子構造の作製方法。
【請求項21】
前記支持基板は、前記薄膜素子構造よりも大きな面積を有することを特徴とする、請求項19又は20に記載の薄膜素子構造の作製方法。
【請求項22】
前記薄膜素子構造は複数の素子を含むとともに、前記支持基板は前記薄膜素子構造よりも小さい面積の複数の基板要素を含む、前記複数の素子はそれぞれ対応する前記基板要素上に転写形成することを特徴とする、請求項19又は20に記載の薄膜素子構造の作製方法。
【請求項23】
前記剥離層は、前記酸化ゲルマニウムを含む複数の材料からなるとともに、前記複数の材料それぞれからなる領域を有し、前記剥離層の、前記酸化ゲルマニウムを含む領域のみを除去し、前記剥離層を所定の立体構造を呈するように残存させることを特徴とする、請求項1〜22のいずれか一に記載の薄膜素子構造の作製方法。
【請求項24】
所定の基体と、
前記基体上に形成された、少なくとも酸化ゲルマニウムを含む物質を有する剥離層と、
前記剥離層上に形成された、薄膜素子構造と、
を具えることを特徴とする、薄膜素子構造作製用の機能性基体。
【請求項25】
少なくとも前記薄膜素子構造を含む積層体に対して、その厚さ方法において、前記剥離層の上面が露出するような、少なくとも1つのスルーホールを形成したことを特徴とする、請求項24に記載の薄膜素子構造作製用の機能性基体。
【請求項26】
前記剥離層上に、この剥離層の全体を覆うようにして形成した、被覆層を具えることを特徴とする、請求項24に記載の薄膜素子構造作製用の機能性基体。
【請求項27】
前記剥離層中の酸素濃度が5−80原子%であることを特徴とする、請求項24〜26のいずれか一に記載の薄膜素子構造作製用の機能性基体。
【請求項28】
前記剥離層の厚さが100−10000nmであることを特徴とする、請求項24〜27のいずれか一に記載の薄膜素子構造作製用の機能性基体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2006−216891(P2006−216891A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−30479(P2005−30479)
【出願日】平成17年2月7日(2005.2.7)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】