説明

薄膜製造装置

【課題】 放出装置によってマスク板が加熱されない有機薄膜製造装置を提供する。
【解決手段】蒸気を放出しながら移動する放出装置31〜36を、マスク板14と対面する位置を通過させ、マスク板14の貫通孔底面に露出する部分の基板13の成膜面に有機薄膜を形成する有機薄膜製造装置10に於いて、高温に昇温される放出装置31〜35又は36は、マスク板14に近い位置を通過させないようにする。高温の放出装置31〜35又は36が放射する熱によるマスク板14の加熱が緩和され、マスク板14が変形しないようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸着方法によって薄膜を製造する技術に関し、特に、薄膜を製造する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年は、薄膜を形成する基板が大型化し、細長の放出装置を長手方向に対して垂直に移動させ、上方に配置した大型の基板表面に薄膜を形成する技術が用いられている。
図5の符号210は、そのような従来技術の薄膜製造装置を示している。この薄膜製造装置210は真空槽211を有しており、該真空槽211の内部の天井側には基板ホルダ212が設けられ、基板ホルダ212には、成膜面を下方に向けて基板213が配置されている。
【0003】
基板213の成膜面には、マスク板214が配置され、マスク板214に設けられた貫通孔の底面に、基板213の成膜面が部分的に露出されている。
基板213とマスク板214との下方には、ここでは、三台の細長の放出装置231〜233が配置されている。
【0004】
各放出装置231〜233は、開口が上方に向けられた放出容器261〜263をそれぞれ有しており、各放出容器261〜263には、内部に有機化合物291〜293がそれぞれ配置されている。
各放出容器261〜263には、ヒータ241〜243がそれぞれ設けられており、ヒータ241〜243に通電して発熱させると、有機化合物291〜293が加熱されて蒸気が発生し、蒸気は放出容器261〜263の開口から真空槽211の内部に放出される。
【0005】
細長の各放出装置231〜233は、真空槽211の内部で、長手方向とは垂直な方向にそれぞれ移動できるように構成されており、放出装置231〜233が蒸気を放出しながら移動すると、マスク板214の一端から他端まで蒸気が到達することができる。
そして一部の蒸気はマスク板214の貫通孔を通過して、貫通孔の底面に露出する部分の基板213の成膜面に付着して、その部分に有機化合物の薄膜が形成される。
【0006】
しかし、多数層の有機薄膜を形成するためには多数の放出装置が必要であり、上記のような従来技術の薄膜製造装置においては、待機している放出装置を、マスク板214の下方から退避する位置で静止させるための空間が長くなり、そのため、大型で、設置面積が長い真空槽211が必要となる。
【0007】
また、各放出装置231〜233のヒータ241〜243は、蒸発させる有機化合物291〜293の蒸発温度以上の温度に放出装置231〜233を昇温させるため、有機化合物の蒸発温度が高いもの程、放出装置231〜233の温度が高くなるが、全ての放出装置231〜233はマスク板214から同じ距離だけ離間して移動するため、マスク板214は高温の放出装置231、232又は233から加熱されて歪んでしまうという問題がある。
【0008】
従来の薄膜製造装置が記載された文献としては、下記特許公報がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4149771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記従来技術の不都合を解決するために創作されたものであり、その目的は、設置面積が小さい多層薄膜の製造装置を提供することにある。
更に、設置面積が小さく、マスク板の歪みのない多層薄膜の製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために本発明は、真空槽と、蒸着材料の蒸気を前記真空槽内に放出する複数個の放出装置と、前記放出装置を前記真空槽内で移動させる移動装置と、を有し、前記真空槽内に基板を搬入し、前記基板の成膜面にマスク板を配置して成膜対象物を構成し、前記放出装置から前記蒸気を放出させながら、前記成膜対象物の前記マスク板に対面する位置を移動させ、放出された前記蒸気が前記マスク板の貫通孔を通過して前記基板の前記成膜面に到達し、到達した前記蒸気から、前記成膜面に薄膜が形成される薄膜製造装置であって、前記真空槽内には、複数の移動経路が設定され、前記放出装置は、前記真空槽内で、それぞれいずれか一個の前記移動経路に沿って移動して前記マスク板に対面するように構成され、各前記放出装置には、加熱装置がそれぞれ設けられ、前記マスク板に対面する前記放出装置と前記マスク板との間の距離は、前記移動経路毎に異なるようにされた薄膜製造装置である。
本発明は、前記放出装置は車輪を有し、前記真空槽内に配置されたレール上に前記車輪が乗り、前記放出装置は前記車輪が回転して移動する薄膜製造装置である。
本発明は、各前記放出装置には、供給管によって蒸気生成装置が接続され、前記蒸気生成装置内で生成された前記蒸気が、前記供給管を通って前記放出装置に供給されるように構成された薄膜製造装置であって、前記放出装置と前記蒸気生成装置は一緒に移動するように構成された薄膜製造装置である。
本発明は、前記蒸気生成装置は前記真空槽の外部に配置され、前記供給管は伸縮可能なベローズに挿通されて前記真空槽の壁を気密に貫通した薄膜製造装置である。
本発明は、前記蒸着材料は前記放出装置内に配置され、前記蒸気は前記放出装置内で生成される薄膜製造装置である。
本発明は、上記記載の薄膜製造装置を用い、異なる蒸発温度の前記蒸着材料の前記蒸気を異なる前記放出装置から放出させる薄膜形成方法であって、前記蒸着材料のうち、最高の前記蒸発温度を有する前記蒸着材料の前記蒸気は、前記移動経路のうち、各前記放出装置が前記基板に対面するときに前記基板から最遠距離の位置にする前記移動経路を移動する前記放出装置から放出させる薄膜の製造方法である。
本発明は、発光する薄膜を形成する薄膜の製造方法であって、前記移動経路の一つには二個の前記放出装置を設け、一方の前記放出装置には、発光する前記薄膜の主成分となるホストの前記蒸着材料の蒸気を放出させ、他方の前記放出装置には、前記蒸着材料の発光色を決定する添加物となるドーパントの前記蒸着材料の蒸気を放出させ、前記ホストの前記蒸着材料の蒸気を放出する前記放出装置と、前記ドーパントの前記蒸着材料の蒸気を放出する前記放出装置とを、放出する前記蒸気が混合されて前記成膜対象物に到達するように近接させ、一緒に移動させる薄膜の製造方法である。
本発明は、前記ホストの前記蒸着材料の蒸気を放出する前記放出装置と、前記ドーパントの前記蒸着材料の蒸気を放出する前記放出装置とが移動する前記移動経路を三個設け、一個の前記移動経路を移動する二台の放出装置によって、赤色の発光光を放出する発光層である前記薄膜と、他の一個の前記移動経路を移動する二台の放出装置によって、青色の発光光を放出する発光層である前記薄膜と、他の一個の前記移動経路を移動する二台の放出装置によって、緑色の発光光を放出する発光層である前記薄膜と、とを形成する薄膜の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
温度が高い放出装置をマスク板から遠い位置を通過させるようにできるため、高温の放出装置を用いてもマスク板を変形させずに済み、精度の高い形状の薄膜を形成することができる。
蒸気生成装置と放出装置とは離れて設置されたので、蒸気生成装置から発生したダストは、長い蒸気供給管内で止まり、放出装置に到達しなくなる。
蒸気生成装置は材料の蒸発面を小さく設計することができ、ダスト発生確率も小さくなる。
従来技術では、決められた順番で積層膜が形成されるが、本発明は、蒸着の順番と蒸気生成装置の位置との間には関係が無く、薄膜材料の配置は柔軟である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第一例の薄膜製造装置の内部側面図
【図2】その薄膜製造装置の平面図
【図3】その薄膜製造装置の動作を説明するための側面図
【図4】本発明の第二例の薄膜製造装置の内部側面図
【図5】従来技術の薄膜製造装置を説明するための図
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1、2の符号10は、本発明の第一例の薄膜製造装置であり、図1は内部を説明するための側面図、図2は内部を説明するための平面図である。
この薄膜製造装置10は、真空槽11を有している。真空槽11は真空排気装置25に接続されており、真空排気装置25を動作させると真空槽11の内部を真空排気できるように構成されている。この薄膜製造装置10は有機薄膜を形成する装置であり、薄膜の製造中は、真空排気装置25によって真空槽内部を継続して真空排気する。
【0015】
真空槽11の内部には、基板ホルダ12が配置されている。真空槽11の内部には、基板13が搬入され、基板13の薄膜を形成する成膜面とは反対側の面を基板ホルダ12に向けて、基板ホルダ12に配置されている。基板13の成膜面上には、貫通孔が所定パターンに形成されたマスク板14が配置されており、基板13とマスク板14とは互いに静止されて成膜対象物15が構成されている。成膜対象物15は、基板ホルダ12と真空槽11に対して静止されている。
【0016】
真空槽11内には、少なくとも二台(ここでは6台)の放出装置31〜36が配置されている。図2では、二個の放出装置35、36が、他の放出装置33、34に重なって隠れて見えない。
真空槽11内には、放出装置31〜36が沿って移動する複数の移動経路が設定されており、各放出装置31〜36はいずれかの移動経路に配置され、配置された移動経路に沿って所定方向に移動するようにされている。
【0017】
移動経路のうち、各放出装置31〜36の中心部分の移動経路を、図示する移動経路として符号21〜23を付して図1、2に示す。各放出装置31〜36は、いずれかの移動経路21、22、又は23に配置されている。
ここでは、三個の移動経路21〜23が設けられており、一個の移動経路21、22又は23上には、放出装置31〜36のうちの二個ずつが配置されている。
【0018】
基板ホルダ12は真空槽11内の上方の位置に配置され、成膜対象物15の基板13の成膜面は水平にされ、各放出装置31〜36は、基板ホルダ12の下方位置を移動するようにされている。
基板ホルダ12に配置した基板13の成膜面と、成膜面と対面するマスク板14の表面とは平行にされており、各放出装置31〜36が配置された移動経路21、22又は23に沿って、基板13の成膜面と平行な一の平面内で直線移動するように構成されている。
【0019】
各放出装置31〜36は、同じ構造であり、同じ部材には同じ符号を付して説明すると、各放出装置31〜36は、細長の放出容器71を有しており、放出容器71の両端には、ホイール(車輪)72が一個ずつ設けられている。
【0020】
この実施例の薄膜製造装置10では、一個の移動経路21〜23にレール26〜28が二本ずつ配置されており、各放出装置31〜36のホイール72は、各放出装置31〜36が配置された移動経路21〜23のレール26〜28上に乗せられて、放出装置31〜36が移動する際には、ホイール72が回転してレール26〜28上を転がることで、放出装置31〜36は配置された移動経路21〜23に沿って移動する。
レール26〜28の両端は、成膜対象物15と対面する領域の外側に位置し、両端の間の少なくとも一部分のレール26〜28は、成膜対象物15と対面する領域中に配置されている。
【0021】
従って、放出装置31〜36が移動経路21〜23の一端から他端までレール26〜28上を移動すると、各放出装置31〜36は、真空槽11の内部で、成膜対象物15のマスク板14と対面する領域の外側から、成膜対象物15と対面する領域内に入り、成膜対象物15と対面する領域を、基板13との距離が一定にされて対面しながら通過し、成膜対象物15と対面する領域の外側に出るようになっている。
【0022】
薄膜製造装置10は、放出装置31〜36に蒸気を供給する蒸気生成装置91〜96を有している。
蒸気生成装置91〜96の内部には、有機化合物から成る蒸着材料が配置されており、各蒸気生成装置91〜96は蒸発用加熱装置をそれぞれ有し、蒸発用加熱装置によって蒸着材料を加熱し、その蒸着材料の蒸発温度以上の温度に昇温させて、蒸着材料から蒸気を発生させるように構成されている。
【0023】
この薄膜製造装置10では、蒸気生成装置91〜96と、放出装置31〜36の個数は同数であり、蒸気生成装置91〜96と、放出装置31〜36に設けられた放出容器71とは、供給管41〜46によって、一対一に接続されている。
各放出装置31〜36の放出容器71には、放出孔74が形成されている。
【0024】
各蒸気生成装置91〜96の内部に配置された蒸着材料が加熱され、その蒸着材料の蒸気が生成されると、生成された蒸気は供給管41〜46を通って、各蒸気生成装置91〜96から放出装置31〜36の放出容器71に移動し、放出孔74から真空槽11内に放出される。
【0025】
各蒸気生成装置91〜96には、キャリアガス供給装置(不図示)が接続されており、キャリアガス供給装置から蒸気生成装置91〜96にキャリアガスを供給するように構成されている。キャリアガスは加熱され、蒸着材料の蒸気は加熱されたキャリアガスと共に各放出装置31〜36の放出容器71に供給され、放出孔74からは、蒸気とキャリアガスとが一緒に放出される。
【0026】
蒸気生成装置91〜96は、真空槽11の内部にも外部にも配置することができる。ここでは各蒸気生成装置91〜96は真空槽11の外部に配置されており、供給管41〜46は、真空槽11の槽壁を貫通して蒸気生成装置91〜96と放出装置31〜36の放出容器71との間を接続している。
【0027】
供給管41〜46は、一端が供給管41〜46の周囲と気密に密着し、他端が真空槽11の供給管41〜46が挿通された部分の周囲と気密に密着するベローズ51〜56に挿通されている。
ベローズ51〜56は蛇腹状の筒であり、べローズ51〜56の外部に位置する雰囲気と、ベローズ51〜56の内部の雰囲気とは遮断されている。
ベローズ51〜56は、伸縮可能になっており、ベローズ51〜56が伸縮しても、ベローズ51〜56の外部に位置する大気がベローズ51〜56の内部に侵入しない。
【0028】
供給管41〜46には、移動装置(不図示)が設けられている。供給管41〜46は直線状であり、供給管41〜46を長手方向に直線移動させることで、各供給管41〜46に接続された放出装置31〜36は、配置された移動経路21〜23に沿って、接続された供給管41〜46と一緒に移動する。
【0029】
このとき、ベローズ51〜56は伸び、又は縮み、供給管41〜46が移動しても、真空槽11の気密性は維持され、真空排気装置25の真空雰囲気も維持される。
蒸気生成装置91〜96は、接続された供給管41〜46と一緒に移動するように構成されており、従って、蒸気生成装置91〜96と、放出装置31〜36と、供給管41〜46とは、ベローズ51〜56が伸縮しながら、一緒に移動する。真空槽11内の真空雰囲気は維持される。
【0030】
なお、供給管41〜46ではなく、各放出装置31〜36又は蒸気生成装置91〜96に移動装置を設け、放出装置31〜36と供給管41〜46と蒸気生成装置91〜96とを一緒に移動させるようにしてもよい。
【0031】
また、蒸気生成装置91〜96を真空槽11の内部に配置し放出装置31〜36と、蒸気生成装置91〜96とを供給管41〜46で接続して蒸気生成装置91〜96内で生成した蒸気を供給管41〜46を通して放出装置31〜36に供給する場合でも、本発明では、放出装置31〜36と供給管41〜46と蒸気生成装置91〜96とを一緒に移動させる。
【0032】
各放出装置31〜36の放出容器71は細長に形成されており、各放出装置31〜36には、放出容器71の成膜対象物15と対面する位置に、放出容器71の長手方向に沿って複数個の放出孔74が列設されている。
放出装置31〜36が静止して成膜対象物15と対面したときには、放出装置31〜36から放出された蒸気が到達する範囲は、成膜対象物15表面で帯状になり、蒸気が到達する帯状の範囲に位置する部分に存するマスク板14の貫通孔の底面に基板13の表面が露出していると、貫通孔の底面に露出する部分の基板13の成膜面に蒸気が付着する。
【0033】
放出容器71の長手方向は、各放出装置31〜36の移動方向とは垂直であり、従って、放出孔74が列設された方向も、放出孔74を有する放出装置31〜36の移動方向とは垂直である。
基板13は長方形又は正方形形状であり、各放出装置31〜36の移動方向は、基板13の四辺のうち、二辺と平行な方向であって、他の二辺が伸びる方向とは垂直な方向になるようにされている。
【0034】
放出装置31〜36の放出孔74の列設された範囲の長さは、放出装置31〜36の移動方向と平行に伸びる基板13の二辺間の距離よりも大きくされており、蒸気が成膜対象物15に到達する領域は、放出装置31〜36の移動方向と平行に伸びる基板13の二辺間の距離よりも長い帯状の範囲である。
【0035】
この帯状の範囲の幅は、放出装置31〜36の移動方向とは垂直な二辺間の距離よりも短い。
従って、蒸気生成装置91〜96内で蒸気を生成し、放出装置31〜36に供給して、放出装置31〜36から蒸気を放出させながら、少なくとも移動方向とは垂直な基板13の二辺の間を移動させれば、マスク板14の貫通孔底面に露出する基板13の成膜面のどの部分にも到達できるようになる。
【0036】
次に、移動経路21〜23と放出装置31〜36との関係について説明する。
放出装置31〜36から蒸気を放出するためには、蒸気生成装置91〜96内で生成された蒸着材料の蒸気は、供給管41〜46を通って放出装置31〜36に導入され、放出装置31〜36から真空槽11内に放出される。このとき、蒸着材料の蒸気が供給管41〜46の内部や放出装置31〜36の内部で冷却され、蒸発温度よりも低い温度になると、固体となって析出してしまう。
【0037】
本発明の薄膜製造装置10では、放出装置31〜36と供給管41〜46には、放出装置31〜36と供給管41〜46の移動を妨げない位置に、加熱装置が設けられている。
図1の符号73は、放出装置31〜36に設けられた加熱装置を示しており、この実施例の放出装置31〜36では、加熱装置73は放出容器71の壁に設けられている。ここでは内部に設けられているが、外部に設けられていてもよい。
【0038】
加熱装置73は、真空槽11の外部に配置された電源に接続されており、接続された電源によって通電されると発熱する。放出装置31〜36と供給管41〜46とは発熱した加熱装置によって加熱され、各放出装置31〜36は、接続された蒸気生成装置91〜96の内部に配置された蒸着材料の蒸発温度以上の温度に昇温されている。その結果、各放出装置31〜36に供給され、放出装置31〜36内を通過する蒸気は、放出装置31〜36内では析出しない。
【0039】
このような放出装置31〜36が移動する移動経路21〜23の基板ホルダ12からの距離は、移動経路21〜23毎に異なって設定されており、移動経路21〜23が重なったり交叉したりしないようになっている。
従って、放出装置31〜36がマスク板14と対面するときには、各放出装置31〜36は、各放出装置31〜36が配置された移動経路21〜23に応じた距離だけマスク板14と離間する。
【0040】
蒸着材料の蒸発温度は蒸着材料の化学構造によって異なっており、放出装置31〜36は蒸発温度以上の温度に加熱され、異なる蒸着材料が配置された放出装置31〜36は異なる温度になっている。
【0041】
本発明は、各放出装置31〜36のうち、最高の温度に昇温される放出装置31〜35、又は36は、マスク板14から最近の移動経路21、22又は23に沿って移動しないようにされており、一例として、最高温度の放出装置31〜35、又は36は、マスク板14から最遠の位置を通過する移動経路21、22又は23に配置されている。図1、2では、符号23の移動経路が最遠である。
【0042】
従って、最高温度の放出装置31〜35、又は36が最近の移動経路21、22又は23に沿って移動するようにされた場合に比べて、最高温度の放出装置31〜36が真空雰囲気中で放出し、マスク板14に到達する輻射熱は大きく減衰し、マスク板14が昇温しにくく、熱による歪みが生じないようになっている。
【0043】
本発明では、各放出装置31〜36を所望場所に配置できる場合は、温度が高い放出装置は、温度が低い放出装置よりも基板ホルダ12から遠い位置を通過する移動経路21、22、又は23に配置する。
【0044】
上記放出装置31〜36は、個別に同速度で移動してもよいし、異なる速度で移動してもよい。また、同じ移動経路21〜23に配置された二以上の放出装置31〜36は同方向に一緒に移動してもよいし、交叉したり重なったりしなければ、異なる移動経路21〜23に配置された放出装置31〜36も一緒に移動してもよい。
【0045】
次に、この実施例の薄膜製造装置10によって、赤色光を放出する薄膜(赤色有機EL層)と、青色光を放出する薄膜(青色有機EL層)と、緑色光を放出する薄膜(緑色有機EL層)との三色の薄膜を形成する工程について説明する。
【0046】
赤色、青色、又は緑色用の母材となる蒸着材料である主材料と、母材の蒸着材料薄膜を赤色、青色、又は緑色に発光させる蒸着材料である添加剤とが、それぞれ異なる蒸気生成装置91〜96に配置され、別々の放出装置31〜36に供給されて放出されるように構成されている。
【0047】
各色の主材料の蒸気を放出する放出装置31、33、35と、主材料と同色用の添加剤の蒸気を放出する放出装置32、34、36とは、同じ移動経路21、22又は23の一つに配置されている。
【0048】
そして薄膜形成の際には、同色用の主材料の放出装置31、33、35と添加剤の放出装置32、34、36とは、できるだけ近接した状態で同方向に同速度で一緒に移動する。この場合、成膜対象物15には、二台の放出装置31と32、33と34、又は35と36から放出された主材料の蒸気と添加剤の蒸気とが混合されて、成膜対象物15表面の同一の帯状の領域に到達する。
【0049】
各色の添加剤は異なる種類の蒸着材料が用いられ、蒸発温度が異なっているが、各色の主材料には同じ蒸着材料が用いられており、蒸発温度は同じであるが、最高温度は、添加剤が配置された放出装置36であり、マスク板14に最近の移動経路21には配置されないようになっている。
添加剤が配置された放出装置32、34、36のうち、温度が高い方が、マスク板14から遠い位置を通過する移動経路21〜23に配置されている。
【0050】
この薄膜製造装置10によって、赤、青、緑で発光する薄膜を形成する場合には、先ず、真空排気装置25によって真空槽11を真空排気して真空槽11の内部を真空雰囲気にすると共に、同じ移動経路21〜23に配置された各色の主材料の放出装置31、33、35と添加剤の放出装置32、34、36とを近接させた状態で、成膜対象物15と対面する領域の外側に移動させる。
【0051】
各移動経路21〜23とマスク板14との間であって、成膜対象物15と対面する領域の外側の位置の、各移動経路21〜23用の両端上には、防着板57〜59が設けられている。
防着板57〜59が設けられた場所は、成膜対象物15と対面する放出装置31〜36から、成膜対象物15の表面に向かって放出された蒸気が遮蔽されない位置であり、図3に示すように、各放出装置31〜36の放出孔74を、放出装置31〜36が配置された移動経路21〜23に対応する防着板57〜59のいずれか一個と近接して対面させる。
【0052】
各蒸気生成装置91〜96と放出装置31〜36との間のバルブを閉じた状態で、各蒸気生成装置91〜96内で、配置された蒸着材料を加熱して昇温させ、各蒸気生成装置91〜96内で蒸気を生成しておき、次いで、放出孔74が防着板57〜59と対面した状態で、バルブを開けて各蒸気生成装置91〜96の内部と放出装置31〜36の内部とを接続すると、蒸気がバルブを開けた放出装置31〜36に移動し、放出装置31〜36の放出孔74から蒸気が放出される。
【0053】
各防着板57〜59の、放出孔74と対面する位置には、蒸発速度測定装置47〜49がそれぞれ設けられている。
各放出装置31〜36から放出された蒸気は、いずれか一台の蒸発速度測定装置47〜49にそれぞれ到達し、蒸発速度(単位時間当たりの到着する蒸気の重量)が、放出装置31〜36毎に測定され、その状態での成膜対象物15表面での薄膜の成長速度が求められる。
【0054】
測定する成長速度が一定速度で安定した後、先ず、処理対象物15のマスク板14に対応する色の主材料の放出装置31、33、又は35と、主材料と同色の添加剤の放出装置32、34、又は36とを、蒸気を放出させながら、同じ移動経路21、22又は23の一端側から、成膜対象物15と対面する領域内を通過して、他端側まで移動させ、主材料の蒸気と主材料と同色用の添加剤の蒸気とが混合された状態で成膜対象物15の表面に到達する帯状の領域を移動させる。
移動の際には、移動する放出装置31〜36に接続された供給管41〜46と蒸気生成装置91〜96とも一緒に移動させる。
【0055】
成膜対象物15に到達した蒸気のうち、一部はマスク板14の貫通孔を通過して基板13の表面に到達して付着しており、貫通孔の底面の基板13の成膜面上には、基板13上に配置されたマスク板14に対応した色(ここでは赤色、青色又は緑色のうち一色)で発光する薄膜(有機EL層)が形成される。
【0056】
真空槽11の内部には、マスク交換装置(不図示)が設けられており、一色目の薄膜がパターニングされて基板13の成膜面上に形成された後、薄膜が形成された基板13は基板ホルダ12に配置した状態で、マスク板14を他の色用のマスク板に交換する。交換したマスク板は、基板13の成膜面上に配置され、成膜対象物が構成される。
【0057】
次いで、そのマスク板に対応する色の主材料の蒸気が供給される放出装置31、33、又は35と、添加剤の蒸気が供給される放出装置32、34、又は36とを、蒸気を放出させながら、成膜対象物のマスク板と対面する位置を通過させ、マスク板の貫通孔の底面下の部分の基板13の成膜面に混合された蒸気を到着させ、パターニングされた二色目の色で発光する薄膜を形成する。
【0058】
次いで、同様に、薄膜を形成したマスク板を、残りの三色目のマスク板に交換して成膜対象物を構成させた後、そのマスク板に対応する色の主材料の蒸気が供給される放出装置31、33、又は35と、同色用の添加剤の蒸気が供給される放出装置32、34、又は36とを、蒸気を放出させながら成膜対象物のマスク板と対面する位置を通過させ、マスク板の貫通孔底面下の基板13の成膜面上に到達させ、三色目の色で発光する薄膜を形成する。
【0059】
このように、主材料に添加剤が添加された薄膜は、発光色毎に一層ずつ形成することができるので、例えば移動経路を四個設け、各移動経路に沿って放出装置を二個ずつ配置して移動させるようにすれば、パターニングされた四色の薄膜を基板13の成膜面に形成することもできる。
【0060】
なお、各放出装置31〜36と蒸気生成装置91〜96と供給管41〜46とは、往復移動できるように構成されており、各放出装置31〜36は、往動で一枚の基板の成膜面に一層の薄膜を形成した後、基板を交換し、復動で交換した基板の成膜面に一層の薄膜を形成することができる。
【0061】
また、往復移動して、一枚の基板の成膜面に二槽積層された一色の薄膜を形成することもできる。
なお、この実施例では、各放出装置31〜36の移動方向は互いに平行にされていたが、本発明は互いに平行にされた場合に限定されるものでもない。
【0062】
また、本発明の薄膜製造装置10の放出装置31〜36には、主材料と添加剤を配置する場合に限定されるものではなく、電荷輸送層や電荷注入層に用いる薄膜を形成することもできる。また、主材料と添加剤とを同じ蒸気生成装置に配置して、主材料の蒸気と添加剤の同じ放出装置に供給して一緒に放出させてもよい。
【0063】
薄膜製造装置10の放出装置31〜36のうち、所望の放出装置31〜36から所望の蒸着材料の蒸気を放出できる場合、温度が高い順に、マスク板14から遠距離の位置を通過する移動経路21〜23に配置するとよい。
【0064】
上記例では、蒸気生成装置91〜96を真空槽11の外部に配置したが、真空槽11の内部に配置してもよい。
また、蒸気生成装置を設けず、蒸気を発生させる蒸着材料を放出装置の内部に配置してもよい。
【0065】
図4の薄膜製造装置10’は、上記実施例の薄膜製造装置と同じ部材には同じ符号を付して説明すると、真空槽11内の移動経路21〜23は、上記実施例と同じであり、マスク板14からの距離が異なる位置に配置されている。
各移動経路21〜23には、放出装置131〜136が一個以上配置されている。
【0066】
この放出装置131〜136は、放出容器171の内部に有機化合物から成る蒸着材料175が配置されており、放出容器171に設けられた加熱装置173によって蒸着材料175を蒸発温度以上の温度に昇温させると、放出容器171の内部で蒸着材料175の蒸気が生成され、生成された蒸気は放出容器171に設けられた放出孔174から放出容器171の外部に放出される。
【0067】
各放出装置131〜136には移動装置(不図示)が設けられており、各放出装置131〜136は、移動装置により、放出容器171に設けられたホイール172が回転して、レール26〜28上を移動経路21〜23に沿って移動する。
各放出装置131〜136のうち、最高温度の放出装置133〜135又は136は、マスク板14に最近の移動経路21には配置されないようにする。
【0068】
以上は有機化合物から成る蒸着材料の蒸気から有機薄膜を形成したが、LiFの蒸気によるLiF薄膜の形成や、MoO3の蒸気によるMoO3薄膜の形成や、Liの蒸気によるLi薄膜の形成等、本発明の薄膜製造装置と薄膜製造方法は、無機薄膜の形成にも用いることができる。
【符号の説明】
【0069】
10、10’……薄膜製造装置
11……真空槽
13……基板
14……マスク板
15……成膜対象物
21〜23……移動経路
31〜36、131〜136……放出装置
73……加熱装置
26〜28……レール


【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空槽と、
蒸着材料の蒸気を前記真空槽内に放出する複数個の放出装置と、
前記放出装置を前記真空槽内で移動させる移動装置と、
を有し、
前記真空槽内に基板を搬入し、前記基板の成膜面にマスク板を配置して成膜対象物を構成し、
前記放出装置から前記蒸気を放出させながら、前記成膜対象物の前記マスク板に対面する位置を移動させ、
放出された前記蒸気が前記マスク板の貫通孔を通過して前記基板の前記成膜面に到達し、到達した前記蒸気から、前記成膜面に薄膜が形成される薄膜製造装置であって、
前記真空槽内には、複数の移動経路が設定され、
前記放出装置は、前記真空槽内で、それぞれいずれか一個の前記移動経路に沿って移動して前記マスク板に対面するように構成され、
各前記放出装置には、加熱装置がそれぞれ設けられ、
前記マスク板に対面する前記放出装置と前記マスク板との間の距離は、前記移動経路毎に異なるようにされた薄膜製造装置。
【請求項2】
前記放出装置は車輪を有し、
前記真空槽内に配置されたレール上に前記車輪が乗り、前記放出装置は前記車輪が回転して移動する請求項1記載の薄膜製造装置。
【請求項3】
各前記放出装置には、供給管によって蒸気生成装置が接続され、
前記蒸気生成装置内で生成された前記蒸気が、前記供給管を通って前記放出装置に供給されるように構成された請求項1又は請求項2のいずれか1項記載の薄膜製造装置であって、
前記放出装置と前記蒸気生成装置は一緒に移動するように構成された薄膜製造装置。
【請求項4】
前記蒸気生成装置は前記真空槽の外部に配置され、
前記供給管は伸縮可能なベローズに挿通されて前記真空槽の壁を気密に貫通した請求項3記載の薄膜製造装置。
【請求項5】
前記蒸着材料は前記放出装置内に配置され、前記蒸気は前記放出装置内で生成される請求項1記載の薄膜製造装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の薄膜製造装置を用い、異なる蒸発温度の前記蒸着材料の前記蒸気を異なる前記放出装置から放出させる薄膜形成方法であって、
前記蒸着材料のうち、最高の前記蒸発温度を有する前記蒸着材料の前記蒸気は、前記移動経路のうち、各前記放出装置が前記基板に対面するときに前記基板から最遠距離の位置にする前記移動経路を移動する前記放出装置から放出させる薄膜の製造方法。
【請求項7】
発光する薄膜を形成する請求項6記載の薄膜の製造方法であって、
前記移動経路の一つには二個の前記放出装置を設け、一方の前記放出装置には、発光する前記薄膜の主成分となるホストの前記蒸着材料の蒸気を放出させ、他方の前記放出装置には、前記蒸着材料の発光色を決定する添加物となるドーパントの前記蒸着材料の蒸気を放出させ、
前記ホストの前記蒸着材料の蒸気を放出する前記放出装置と、前記ドーパントの前記蒸着材料の蒸気を放出する前記放出装置とを、放出する前記蒸気が混合されて前記成膜対象物に到達するように近接させ、一緒に移動させる薄膜の製造方法。
【請求項8】
前記ホストの前記蒸着材料の蒸気を放出する前記放出装置と、前記ドーパントの前記蒸着材料の蒸気を放出する前記放出装置とが移動する前記移動経路を三個設け、
一個の前記移動経路を移動する二台の放出装置によって、赤色の発光光を放出する発光層である前記薄膜と、
他の一個の前記移動経路を移動する二台の放出装置によって、青色の発光光を放出する発光層である前記薄膜と、
他の一個の前記移動経路を移動する二台の放出装置によって、緑色の発光光を放出する発光層である前記薄膜と、
とを形成する請求項7記載の薄膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−169128(P2012−169128A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−28675(P2011−28675)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】