説明

薄膜評価用基準基板及び薄膜評価方法

【課題】エリプソメータを用いて薄膜評価を行うために使用される薄膜評価用基準基板及び薄膜評価方法を提供する。
【解決手段】エリプソメータを用いて薄膜評価を行うために使用される薄膜評価用基準基板であって、着色成分を含有する結晶化ガラスにより形成されることを特徴とする薄膜評価用基準基板とその基準基板を用いた薄膜評価方法であり、前記結晶化ガラスの主結晶として、Li2O・2SiO2を含有したり、前記着色成分としてCo、Cr、Ni及びMnの全てを含有し、前記Co、Cr、Niは酸化物CoO、Cr23、NiOとして各々0.3〜1.0重量%含有されており、前記Mnは酸化物MnO2として1.5〜2.5重量%含有されている場合や、前記薄膜評価用基準基板の表面の中心線平均粗さが2.0nm以下を満たすことがある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エリプソメータを用いた薄膜評価に使用される薄膜評価用基準基板及び薄膜評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体産業などの最先端技術を支える産業界において、薄膜技術についての研究が盛んに行われている。デバイスなどを薄膜化することによって高信頼化、高機能化、高密度化などが期待できる。このような薄膜化への開発を進めるにあたっては高機能性薄膜などの作成に関し、特に膜厚の均一性や再現性を適切に管理することが重要であり、2桁から1桁のナノメートル単位で膜厚を制御することが必須となる。そのため、薄膜評価を行うための高精度測定技術の重要性が増してきている。
【0003】
このような薄膜の評価方法としては、エリプソメータを用いた評価方法がよく知られている。エリプソメータを用いて薄膜の表面に偏光を入射し、その反射光の偏光状態を測定することによって、薄膜の光学定数及び膜厚を算出評価することができる。エリプソメータを用いた薄膜評価方法は比較的迅速かつ経済的であり、薄膜評価に広く利用され、その評価に使用される薄膜形成用基板としてはシリコン基板が利用されてきた。
【0004】
しかしながら、薄膜形成用の標準基板であるシリコン基板は、時間の経過とともに膜厚が増加する現象が確認されている。このシリコン基準基板の経時変化に伴う膜厚増加分は、近年要求されている数ナノメートル単位の薄膜を測定するにあたり、無視できないものとなっている。シリコン基板の膜厚増加は、シリコン基板表面に自然酸化膜が形成されたことによるものと考えられ、この自然酸化物を除去するためにはフッ酸等によりシリコン基板表面をエッチングしなければならない。ところが、実際にはフッ酸処理における自然酸化膜の除去の度合いを把握するのは非常に困難であり、エッチングによりシリコン基板表面にダメージを与える場合や、シリコン基板状の自然酸化膜の除去が不完全な場合などがあった。さらに、たとえフッ酸処理により自然酸化膜を完全に除去できたとしても、フッ酸処理後30分程度でシリコン基板表面には再び自然酸化膜が生じるため、エリプソメータによる薄膜評価までの時間的な余裕がないなど、基準基板としてシリコン基板は極めて不安定な側面を有していた。
【0005】
そこで、エリプソメータにより極薄絶縁膜の膜厚測定を行う直前にシリコン基板を空気中あるいは酸素および窒素を含む雰囲気中でコロナ放電ワイヤの直下を通過させることにより、コロナ放電に暴露させる前処理機構を有する膜厚測定装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。これにより、シリコン基板表面に形成されている絶縁膜本来の膜厚を正確に再現性よく測定できる。
【0006】
ところが、コロナ放電に暴露するのは、薄膜測定の直前である30分前に行うこととされており、コロナ処理を行っても時間の経過とともにシリコン基板の膜厚が増加することに変わりはなく、さらに、コロナ放電のための前処理機構を備えるため、余計なコストがかかることとなる。
【0007】
以上のように、数ナノメートル程度の薄膜を測定するにあたり、エリプソメータによる薄膜評価に用いる基準基板として、シリコン基板は不十分であり、基板表面の安定性が高く、かつコスト的に有利な基準基板、及び前記のような基板を用いた薄膜評価方法はこれまで存在しなかった。
【特許文献1】特開2003−37140公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明は前記の問題点を鑑みなされたものであり、エリプソメータを用いて薄膜評価を行うために使用される薄膜評価用基準基板及び薄膜評価方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、請求項1の発明は、エリプソメータを用いて薄膜評価を行うために使用される薄膜評価用基準基板であって、着色成分を含有する結晶化ガラスにより形成されることを特徴とする薄膜評価用基準基板に係る。
【0010】
請求項2の発明は、前記結晶化ガラスの主結晶として、Li2O・2SiO2を含有する請求項1に記載の薄膜評価用基準基板に係る。
【0011】
請求項3の発明は、前記着色成分としてCo、Cr、Ni、Mn、V、Fe、Cu、Mo、Wのうち少なくともいずれか1種類以上を含有する請求項1又は2に記載の薄膜評価用基準基板に係る。
【0012】
請求項4の発明は、前記着色成分としてCo、Cr、Ni及びMnの全てを含有し、前記Co、Cr、Niは酸化物CoO、Cr23、NiOとして各々0.3〜1.0重量%含有されており、前記Mnは酸化物MnO2として1.5〜2.5重量%含有されている請求項1ないし3のいずれか1項に記載の薄膜評価用基準基板に係る。
【0013】
請求項5の発明は、前記薄膜評価用基準基板の表面の中心線平均粗さが2.0nm以下を満たす請求項1ないし4のいずれか1項に記載の薄膜評価用基準基板に係る。
【0014】
また、請求項6の発明は、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の薄膜評価用基準基板を使用することを特徴とするエリプソメータを用いる薄膜評価方法に係る。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明に係る薄膜評価用基準基板によると、エリプソメータを用いて薄膜評価を行うために使用される薄膜評価用基準基板であって、着色成分を含有する結晶化ガラスにより形成されるので、薄膜評価用基準基板としての安定性が高く、特殊な研磨工程を必要とすることなく、加工性が容易でありかつコスト的にも有利である。
【0016】
請求項2に係る発明にあっては、請求項1に記載の薄膜評価用基準基板において、前記結晶化ガラスの主結晶として、Li2O・2SiO2を含有するので、溶融温度及び結晶化の熱処理温度も比較的低温で製造することが可能である。
【0017】
請求項3に係る発明にあっては、請求項1又は2に記載の薄膜評価用基準基板において、前記着色成分としてCo、Cr、Ni、Mn、V、Fe、Cu、Mo、Wのうち少なくともいずれか1種類以上を含有するので、結晶化との相乗効果により、測定用光源であるレーザー光の全てを透過することはなく、基準基板として使用することができる。
【0018】
請求項4に係る発明にあっては、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の薄膜評価用基準基板において、前記着色成分としてCo、Cr、Ni及びMnの全てを含有し、前記Co、Cr、Niは酸化物CoO、Cr23、NiOとして各々0.3〜1.0重量%含有されており、前記Mnは酸化物MnO2として1.5〜2.5重量%含有されているので、結晶化との相乗効果により、測定用光源であるレーザー光の全てを透過することはなく、基準基板として安定して使用することができる。
【0019】
請求項5に係る発明にあっては、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の薄膜評価用基準基板において、前記薄膜評価用基準基板の表面の中心線平均粗さが2.0nm以下を満たすので、平滑性の高い薄膜評価用基準基板を得ることができる。
【0020】
また、請求項6の発明に係るエリプソメータを用いる薄膜評価方法は、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の薄膜評価用基準基板を使用するので、信頼性が高くかつコスト的に有利な薄膜評価を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下添付の図面に従って本発明を説明する。図1は本発明に係る薄膜評価用基準基板の製造工程の概略図である。
【0022】
請求項1の発明として規定するように、薄膜評価用基準基板は、エリプソメータを用いて薄膜評価を行うために使用される薄膜評価用基準基板であって、着色成分を含有する結晶化ガラスにより形成されることを特徴とする。
【0023】
エリプソメータとは、薄膜表面に偏光を入射しその反射光の偏光状態を測定して薄膜の屈折率や膜厚などを算出する薄膜評価装置であり、ここでいうエリプソメータには、単波長エリプソメータ、分光エリプソメータなど光学的手法による公知の薄膜評価装置が含まれる。実施例においては、エリプソメータとして島津製作所株式会社製のAEP−100型を用いている。光源としてHe−Neレーザー光、632.8nmの波長を使用しており、前記レーザー光の薄膜表面への入射角度は70度である。薄膜評価においてエリプソメータを用いることにより、薄膜の膜厚、光学定数(屈折率、吸収係数(消衰係数))、物質特性(組成、微細構造など)の情報を得ることができる。
【0024】
結晶化ガラスはガラスに再び熱処理を行うことにより、結晶を析出させるものである。熱処理温度やその温度での保持時間により緻密な結晶を析出させることができ、その粒界も緻密となる。そのため、研磨による平坦な表面が得られやすくなり、シリコン基板などのように特殊な研磨を必要とすることなく、後述するような一般的なガラスの研磨方法により平滑性の高い基板を容易に得ることができる。また、基板上に薄膜を形成して測定した後でも、再度表面を研磨することにより、基準基板として再利用することができるためコスト的に極めて有利である。さらに、従来使用されてきたシリコン基板のように基板表面上に自然酸化膜が生じることがないので、薄膜評価用の基準基板として非常に安定性が高く、基板上に形成された薄膜の膜厚の測定値についても極めて信頼性の高い数値が得られることが期待できる。
【0025】
次に、薄膜評価用基準基板の製造工程の概略について説明する。図1に示すように、まず着色成分を含む公知のガラス原料を均一に混合し、公知の坩堝、溶融炉等において所定の温度で溶融される。前記金属種を添加する場合には、酸化物、塩、硫化物等の形態で使用することができる。ここで、結晶化ガラスの主結晶は特に限定はないが、請求項2の発明として規定するように、Li2O・2SiO2を析出させることが望ましい。溶融温度が約1350〜1400℃であり、加えて結晶化のための熱処理温度が800℃前後であることから、比較的低温で溶融と熱処理を行うことができるためである。
【0026】
また、着色成分として添加する金属種に限定はないが、請求項3に規定するようにCo、Cr、Ni、Mn、V、Fe、Cu、Mo、Wのうち少なくともいずれか1種類以上を含有することが望ましい。これらの金属種は1種類あるいは2種類以上としてもよく、後述するように所望とする薄膜評価用基準基板の光学特性を勘案して適宜配合される。さらには、請求項4に規定するように、着色成分としてCo、Cr、Ni及びMnの全てを含有し、前記Co、Cr、Niは酸化物CoO、Cr23、NiOとして各々0.3〜1.0重量%含有されており、前記Mnは酸化物MnO2として1.5〜2.5重量%含有されることが好ましい。上記の組成とすることで、目視上いわゆる黒色で色調の均一な安定した結晶化ガラスが得られ、所望とする光学的な特性を有する薄膜評価用基準基板を作製することができる。
【0027】
前述のように、着色成分と均一に混合させた公知のガラス原料は溶融した後に、粗加工がしやすいような例えば板状の成形品とされる。成形後は、約550℃前後で一定時間保持した後に室温まで徐冷され、適当な大きさに粗加工される。次に、ガラスを結晶化させるために、再び550〜800℃程度の熱処理を一定時間行う。結晶化させるための熱処理は、均一な結晶を析出させるため異なる温度で一定時間保持するなど段階的に行う。熱処理後は、冷却されて基準基板の表面研磨が行われる。
【0028】
前記研磨工程は一般的なガラスを研磨するときの公知の研磨方法が採用できる。例えば、シリコンカーバイドにより粗研磨を行い、仕上げにセリウムによる研磨を行うことで、極めて容易に平滑性の高い基板表面を得ることができる。また、結晶化ガラスは加工性が容易であることから、一度、基板上に薄膜を成膜して測定を行った後でも、再び表面を研磨することで基準用基板として再利用することが可能である。基板上に成膜された薄膜によっては、通常仕上げに行うセリウムによる研磨を行うことにより基準基板として再生することができる。なお、基準基板が再利用できるか否かは、基板表面の表面粗さにより判断できる。薄膜評価用基準基板表面の表面粗さは、請求項5に規定するように、薄膜評価用基準基板の表面の中心線平均粗さとして、2.0nm以下を満たすことが望ましい。評価する薄膜の膜厚が数nmであるような場合に、基準基板の表面粗さが大きいと、均一に成膜できず、薄膜についての評価が正確に行えないからである。なお、より高精度な膜厚測定のためには、さらに基準基板表面の平滑性、表面粗さの精度向上を図ることもできる。
【0029】
ここで、エリプソメータを用いた薄膜評価方法においては、エリプソメータの光源となるレーザー光を透過しない基準基板である必要がある。前記レーザー光が基準基板を透過してしまえば、反射光の偏光状態を正しく測定できず、エリプソメータによる薄膜評価を正確に行えないからである。本発明に係る結晶化ガラスにより形成された薄膜評価用基準基板は、例えば25×75×1.2mmの基板としたときに、目視において黒色を呈し、エリプソメータの光源となる波長632.8nmのHe−Neレーザー光を透過せず、薄膜の評価を高精度で行えることが期待できる。
【0030】
上記のような特性をもつ他の材料としてセラミックスがあり、なかでもエリプソメータの測定光源となるレーザー光を透過することがないと推測される黒色を呈するセラミックスとして、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ジルコニア等がある。実施例において、詳述するように、前記セラミックスは、ビッカース硬度が高く、結晶化ガラスと比較して非常に硬い材料である。従って、前記セラミックスを薄膜評価用基準基板として、表面を研磨しようとする場合には、前述のようなガラスを研磨する方法では加工することができず、研磨剤としてダイヤモンド粉末又はダイヤモンド砥石が必須となる。このような加工方法は、特殊加工であって加工コストが極めて高価となるため、薄膜評価用の基準基板の材料として用いるには適していない。
【0031】
従って、以上のような結晶化ガラスにより形成される薄膜評価用基準基板を使用するエリプソメータを用いる薄膜評価評価方法は、請求項6に規定するように、従来使用されてきたシリコン基板と比較すると、基準基板に自然酸化膜が発生しないため、基準基板に薄膜を成膜して評価を行う間で、時間的制約がなく余裕を持って薄膜の評価を行うことができる。従って、薄膜材料が雰囲気の影響を受けない材料であれば、薄膜成膜後の基板を通常の室内で保管することも可能であり、取り扱いが極めて容易である。
【0032】
さらに、従来のように、シリコン基板を用いる場合には、経時変化に伴う基板の表面上に生成する自然酸化膜を除去するために、エッチングを行う必要があった。しかしながら、本発明のように結晶化ガラスにより薄膜評価用基準基板を形成する場合には、エッチング剤として用いられてきたフッ酸等の危険な薬品を扱う必要がないため、安全性が高く、エッチングのための処理時間を省くことができ、かつ廃水処理などの工程が必要なくなるため、極めて簡便かつ容易にエリプソメータを用いた薄膜の評価を行うことができる。
【0033】
また、結晶化ガラスの原料はガラス原料として公知の原料で足り、着色成分として特殊な金属種を用いる必要がない。さらに、表面を平滑にするための研磨加工が非常に容易に行えるため、基準基板に薄膜を形成してエリプソメータによる薄膜評価が終了した後でも、表面を研磨すれば再び薄膜評価用基準基板として使用することができる。従って、結晶化ガラスにより形成された薄膜評価用基準基板を製造することにより、コスト的に極めて有利であり、かつ基準基板表面の安定性や平滑性が極めて高いため、基板上に成膜した薄膜について精度の高い評価結果を得ることができる。
【実施例】
【0034】
[結晶化ガラスの組成]
次に、本発明における薄膜評価用基準基板を用いた薄膜評価の実施例について示す。結晶化ガラスの各成分とその割合については、特に限定はないが、好ましい組成範囲は次の通りである。LiO2の割合は全体量に比して、10〜12重量%であることが好ましい。これより少ないと、結晶が粗大化して結晶化が不十分となり、多いと耐化学性が低下する原因となるためである。以下同様に、SiO2は70〜75重量%であることが好ましい。これより少ないと、耐化学性が低下し、多いと難溶融性となるためである。P25は1.0〜2.5重量%であることが好ましい。これより少ないと、結晶が粗大化してしまい、多いと失透するおそれがあるためである。K2Oは1.5〜3.0重量%であることが好ましく、これより少ないと、溶融性及び成形性が低下し、多いと耐久性が低下する傾向がある。
【0035】
また、Al23は4.0〜7.0重量%であることが好ましい。これより少ないと失透が起きるとともに、耐化学性が低下するおそれがあり、多いと他の結晶が析出するためである。As23は0.2〜0.7重量%であることが好ましく、これより少ないときはSb23への代替が可能である。また、多いときは清澄剤、泡切りとして用いられる。着色成分であるCoO、Cr23、NiOはアベンチュリンの発生の要因になるため、抑制する方が好ましく、0.3〜1.0重量%であることが望ましい。MnO2は1.5〜2.5重量%であることが好ましい。以上の点を勘案し、薄膜評価用基準基板として好適な各成分の割合を下記表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
[薄膜評価用基準基板の作製]
各成分が表1に示す割合となるようにガラス原料の混合を行った後、アルミナ坩堝を用いて1350〜1400℃において5時間程度保持して溶融した。板状などの適当な形状に成形後、550℃で30分間保持し、室温まで徐冷を行った。薄膜評価用基準基板として研磨加工しやすいように粗加工してから、結晶化のために550℃で1時間保持し、さらに800℃において1時間熱処理を行った後に冷却した。
【0038】
冷却後は一般的なガラス研磨方法で研磨を行った。ここでは、研磨装置として不二越機械工業株式会社製の9B4ウェー研磨機を用いた。薄膜評価用基準基板の表面研磨を行うにあたり、まず粗研磨として、粒径20〜75μmの緑色炭化ケイ素研磨材を使用して定盤回転数60回/分において、15分間研磨を行った。以下の研磨において、定盤回転数は同様である。次に、粒径7〜32μmの同じく緑色炭化ケイ素研磨剤を使用して15分間、表面研磨を行った。最後に仕上げ研磨として、平均粒径2.5μmのセリウム研磨剤を用いて30分間研磨を行った。なお、薄膜評価用基準基板の大きさは25×75×1.2mmとした。
【0039】
[薄膜評価用基準基板の表面粗さ]
このとき得られた薄膜評価用基準基板(以下、試料1とする。)の表面粗さデータを次の表2に示す。これらの表面粗さは、ランクテイラーホブソン社製の「RANK TAYLOR HOBSON NANOSTEPII」を用いた測定により得られた値である。ここで、表中RzISOは、ISOに準拠したRz値、RzDINは、DINに準拠したRz値である。表2から明らかなように、前述の通り作製した、試料1の表面は中心線平均粗さ(Ra)が2.0nm以下を満たし、十点平均粗さ(Rz)の標準偏差も非常に小さい値であり、表面研磨を行い得られる試料1の表面は、極めて平滑性の高い状態であることが確認された。また、上述の研磨方法により、結晶化ガラスの試料によっては、基板表面のRa値が1.0nm以下である0.73nmや0.54nmなどの値も得られた。なお、上記研磨方法において最終的に用いられる研磨粒子をさらに細かくすることにより、基板表面の平滑性がより高いものが得られるので、測定精度を向上させることが可能である。
【0040】
【表2】

【0041】
[結晶化ガラスとセラッミックスのビッカース硬度等の比較]
下記表3に、上述の方法により作成した結晶化ガラスを用いた薄膜評価用基準基板である試料1と、セラミックスのビッカース硬度等の研磨に関する特性の比較について示す。前記セラミックスとして、エリプソメータの測定光源となるレーザー光を透過することがないと推測される黒色を呈するものを選んだ。表3から明らかなようにZrO2、ZrO2−NbC、ZrO2−WCのジルコニア系セラミックス、窒化ケイ素、炭化ケイ素は、ビッカース硬度が高く、結晶化ガラスにより形成した試料1と比較して非常に硬い材料である。従って、結晶化ガラスを研磨するような方法では、前記セラミックスは、研磨加工ができず、ダイヤモンド砥石など特殊な加工方法が必要となるため、薄膜評価用基準基板として適さないことが明らかである。
【0042】
【表3】

【0043】
[エリプソメータによる薄膜評価]
以上のように作製した結晶化ガラスからなる薄膜評価用基準基板の試料1を用いて、エリプソメータを用いた薄膜の評価を行った。使用したエリプソメータは株式会社島津製作所製、AEP−100型であり、測定光源は波長が632.8nmのHe−Neレーザー光である。薄膜評価用基準基板として、上述のように作製した試料1を用いて下記の方法で薄膜を成膜した。それに対する比較例としてスライドガラス基板、シリコン基板を用いて、同様にして薄膜を成膜し、それぞれの薄膜についてエリプソメータを用いて膜厚測定を行った。前記基板サイズはそれぞれ25×75×1.2mmの大きさである。
【0044】
なお、スライドガラス基板については、そのままではエリプソメータの測定光源の光を透過してしまうので、スライドガラス基板の裏面に黒色の塗料を塗布したもの、及び黒色の有機フィルムを接着したものを用いた。また、シリコン基板上に薄膜を成膜するにあたり、基板表面の酸化膜を除去するためエッチング処理を行った。フッ酸の濃度が2.0重量%の水溶液を用い、シリコン基板を約15分間浸漬して酸化膜の除去を行い、その後30分以内に後述のように薄膜の成膜を行い、エリプソメータを用いて膜厚の測定を行った。
【0045】
まず、住友スリーエム株式会社製の撥水剤NovecECG−1720を用いて、以下の通り薄膜を成膜した。この撥水剤NovecECG−1720は、ハイドロフルオロエーテルにフッ素ポリマーを溶解させた溶液である。この溶液を用いて各基板についてディッピング処理を行い、速度5.0mm/secで引き上げた後、室温乾燥後に約100℃で30分間程度加熱して、基板上に薄膜を成膜した。さらに比較のため、フッ素ポリマーの添加量を0.1重量%、0.5重量%、1.0重量%と増加させたときの溶液を用いて成膜を行った。
【0046】
基板上に形成された薄膜について、エリプソメータを用いて膜厚測定を行った結果を下記表4に示す。なお、各試料についてそれぞれ10点の膜厚測定を行った。結晶化ガラスによりなる薄膜評価用基準基板である試料1の表面上に形成された薄膜は、表4に示すように、測定値にバラツキがないので標準偏差の値も小さく、安定した膜厚測定値を得ることができた。また、薄膜が形成された前記試料1を1週間、1ヶ月間保管して測定を行ったところ、膜厚値は同様の値を示した。なお、フッ素ポリマーの添加量を増加しても、膜厚値の増加は認められなかったが、図2に示すように、これはフッ素ポリマー膜が平面方向に成長し緻密化しているためであることが、FESEMにより確認できた。
【0047】
【表4】

【0048】
一方、スライドガラス基板を用いた場合には、薄膜の膜厚測定が不可能であった。また、シリコン基板を用いた場合には、前記試料1を用いて測定した場合と、同様の膜厚値が得られたものの、24時間後に再度、同様に膜厚測定を行ったところ、5nm程度膜厚が増加しており、安定した膜厚値を得られることはできなかった。この膜厚増加は、自然酸化膜が形成されたことによるものと推定される。
【0049】
以上のように、結晶化ガラスによりなる薄膜評価用基準基板を用いたエリプソメータによる薄膜評価において、安定性の高い膜厚値が得られた。さらに、1週間後、1ヶ月間保管後においても膜厚値は同様の結果を示し、前記薄膜評価用基準基板は安定性の高い基板であることが確認できた。そのため、前記薄膜評価用基準基板を用いた薄膜評価方法により得られた測定値は信頼性の高い測定値であることが推察される。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明に係る薄膜評価用基準基板の製造工程の概略図である。
【図2】FESEM観察による薄膜表面を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エリプソメータを用いて薄膜評価を行うために使用される薄膜評価用基準基板であって、着色成分を含有する結晶化ガラスにより形成されることを特徴とする薄膜評価用基準基板。
【請求項2】
前記結晶化ガラスの主結晶として、Li2O・2SiO2を含有する請求項1に記載の薄膜評価用基準基板。
【請求項3】
前記着色成分としてCo、Cr、Ni、Mn、V、Fe、Cu、Mo、Wのうち少なくともいずれか1種類以上を含有する請求項1又は2に記載の薄膜評価用基準基板。
【請求項4】
前記着色成分としてCo、Cr、Ni及びMnの全てを含有し、
前記Co、Cr、Niは酸化物CoO、Cr23、NiOとして各々0.3〜1.0重量%含有されており、
前記Mnは酸化物MnO2として1.5〜2.5重量%含有されている請求項1ないし3のいずれか1項に記載の薄膜評価用基準基板。
【請求項5】
前記薄膜評価用基準基板の表面の中心線平均粗さが2.0nm以下を満たす請求項1ないし4のいずれか1項に記載の薄膜評価用基準基板。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の薄膜評価用基準基板を使用することを特徴とするエリプソメータを用いる薄膜評価方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−71839(P2007−71839A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−262380(P2005−262380)
【出願日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(000198477)石塚硝子株式会社 (77)
【Fターム(参考)】