説明

薄膜電極製造装置及び薄膜電極製造方法並びに発光素子

【課題】成膜速度を安定的に制御することができ、均一かつ高品質の膜質を有する薄膜電極を再現性良く形成することができる薄膜電極製造装置及び薄膜電極製造方法を提供する。
【解決手段】電子ビーム真空蒸着装置100は、真空チャンバー110内に、水冷ハース111とインサート坩堝112Aと密着治具113Aからなる原材料収容部が設けられている。密着治具113Aは、水冷ハース111とインサート坩堝112Aの間に介在し、水冷ハース111の凹部111aの内面(側面及び底面)と、インサート坩堝112Aの外周面(側面及び底面)との間に均一に密着する形状を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜電極製造装置及び薄膜電極製造方法並びに発光素子に関し、特に、電子ビーム真空蒸着装置による薄膜電極の製造方法、及び、該薄膜電極を適用した発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話や携帯音楽プレーヤ等の電子機器の表示デバイスとして、有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、「有機EL素子」と略記する)等の発光素子を2次元配列した表示パネル(発光素子型表示パネル)を適用したものが知られている。特に、アクティブマトリクス駆動方式を適用した発光素子型表示パネルにおいては、広く普及している液晶表示装置に比較して、表示応答速度が速く、視野角依存性も小さく、また、高輝度・高コントラスト化、表示画質の高精細化等が可能であるという特長を有している。加えて、発光素子型表示パネルは、液晶表示装置のようにバックライトや導光板を必要としないので、一層の薄型軽量化が可能であるという特長を有している。
【0003】
そして、このような表示パネルに適用される発光素子として、近年、量産性に優れる高分子有機EL素子の開発が進んでいる。この高分子有機EL素子は、正孔注入層及び発光層からなる有機EL層に対し、正孔注入層側にITO(Indium Thin Oxide)等の透明電極からなるアノード電極を形成し、発光層側にアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属からなる電子注入層と、その上面にカソード電極を形成した構造を有している。このような有機EL素子の素子構造において、ガラスなどの透明基板の一面側にアノード電極(ITO等)を形成し、最上層にカソード電極を形成することにより、有機EL層において発光した光がガラス基板を介してガラス基板の他面(背面)側から外部に放出されるタイプの有機EL素子は、ボトムエミッション型と呼ばれている。なお、有機EL素子の具体的な素子構造(ボトムエミッション型)については後述する。
【0004】
ここで、ボトムエミッション型の有機EL素子のカソード電極は、有機EL層において発光した光をガラス基板側に反射して放出するために、アルミニウム等の光反射特性を有する金属材料からなる薄膜電極が用いられている。そして、このようなカソード電極を構成する薄膜電極の製造方法としては、有機EL層がプラズマ中で致命的なダメージを受けやすいため、電子ビーム蒸着法を使用することが多い。
【0005】
電子ビーム蒸着法においては、概略、真空チャンバー内において、Cuなどの水冷ハースに蒸着させるアルミニウム等の原材料を収容し、該原材料に電子線を照射することによって、原材料を加熱、融解、蒸発させる。そして、蒸発した原材料を、坩堝から離間して配置された基板表面に付着させて薄膜電極を成膜する。
【0006】
しかし、このような電子ビーム蒸着法を適用した薄膜電極の製造方法において、その成膜速度が非常に不安定であるという問題を有している。そのため、量産時に必要とされる膜質を再現性良く、かつ、高品質に実現するために、成膜速度が安定であることが望まれている。さらに、有機EL素子の駆動に使用される薄膜トランジスタ(TFT)や、有機EL層は電子線が原材料に当たることにより発生するX線や二次電子により多少のダメージを受けるという問題も有している。そのため、成膜時における電子線強度は低い方が望ましい。
【0007】
このような問題を解決する手法として、例えば特許文献1に、冷却される収容体に、蒸着材料を充填した坩堝状の容器を収容する際に、両者の間で直接熱の授受が行われないようにした装置構成が記載されている。特許文献1によれば、このような装置構成により、蒸着材料を効率良く加熱することができ、電子ビーム発生源の電力(すなわち、電子線強度)をより小さくしつつ、高い蒸発レートを実現できることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−232492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1等に開示されたような装置構成においては、坩堝状の容器が冷却される収容体から断熱されているため、容器内の蒸着材料の温度制御が難しく、薄膜電極の成膜速度(成膜レート)のフィードバック制御性の悪化を招くという問題を有している。そのため、成膜速度の短時間の変動は抑制されるものの、成膜速度が一方的に上昇して一定にならない(安定しない)ため、量産時における高品質の膜質を再現性良く実現することができないという問題を有していた。
【0010】
一方、蒸着材料を充填した坩堝状の容器を、冷却される収容体に密着させて収容する装置構成について検討すると、容器に高融点金属材料を用いた場合、収容体に形成された凹部の内面に沿って均一に密着するように容器を精度良く加工又は成形することは極めて困難である。そのため、収容体と容器との熱接触が一定にはならず、蒸着材料が加熱される容器から収容体への熱伝導にムラが発生して成膜速度が安定しないため、この場合においても、量産時における高品質の膜質を再現性良く実現することができないという問題を有していた。なお、このような従来技術の問題点については、後述する発明の詳細な説明において、本発明との比較検証として詳しく説明する。
このように、有機EL素子の製造工程において、均一かつ高品質の膜質を有するカソード電極を形成することが困難であったため、有機EL素子の発光特性が悪化するという問題を有していた。
【0011】
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑み、成膜速度を安定的に制御することができ、均一かつ高品質の膜質を有する薄膜電極を再現性良く形成することができる薄膜電極製造装置及び薄膜電極製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、均一かつ高品質の膜質を有する薄膜電極を備え、良好な発光特性を有する発光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1記載の発明は、真空蒸着法により基板上に薄膜電極を形成する薄膜電極製造装置において、蒸着用の原材料が収容される坩堝と、前記坩堝が嵌合される凹部を有するとともに、温度が略一定に保持される坩堝収容体と、前記坩堝収容体の前記凹部に前記坩堝を嵌合した状態で、前記坩堝と前記坩堝収容体との間に介在し、前記坩堝の熱を前記坩堝収容体に均一に伝達するための密着部材と、を備えることを特徴とする。
【0013】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の薄膜電極製造装置において、前記密着部材は、前記坩堝の外周面及び前記坩堝収容体の前記凹部の内面に均一に密着する形状を有していることを特徴とする。
請求項3記載の発明は、請求項1記載の薄膜電極製造装置において、前記坩堝は、開放端に円周状のフランジ部を有し、前記密着部材は、前記坩堝の前記フランジ部及び前記坩堝収容体上面の前記凹部の周辺領域に均一に密着する形状を有していることを特徴とする。
請求項4記載の発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の薄膜電極製造装置において、前記密着部材は、前記坩堝よりも融点が低く、かつ、前記蒸着用の原材料と同等以上の融点を有する材料により形成されていることを特徴とする。
請求項5記載の発明は、請求項1乃至4のいずれかに記載の薄膜電極製造装置において、前記密着部材は、加熱、溶融することにより、前記坩堝及び前記坩堝収容体に密着していることを特徴とする。
請求項6記載の発明は、請求項1乃至5のいずれかに記載の薄膜電極製造装置において、前記蒸着用の原材料は、アルミニウムであり、前記坩堝は、高融点金属材料により形成されていることを特徴とする。
請求項7記載の発明は、請求項6記載の薄膜電極製造装置において、前記高融点金属材料が、タングステン、タンタル、モリブデンのいずれかであることを特徴とする。
【0014】
請求項8記載の発明は、坩堝に収容された蒸着用の原材料を、加熱、蒸発させて、基板上に薄膜電極を形成する薄膜電極製造方法において、温度が略一定に保持される坩堝収容体に設けられた凹部に、前記坩堝の熱を前記坩堝収容体に均一に伝達するための密着部材を介して、前記坩堝が嵌合された状態で、前記坩堝に収容された前記蒸着用の原材料を、加熱、蒸発させる工程を有することを特徴とする。
【0015】
請求項9記載の発明は、請求項8記載の薄膜電極製造方法において、前記密着部材は、前記坩堝収容体の前記凹部の内部に設けられ、前記坩堝の外周面及び前記坩堝収容体の前記凹部の内面に密着することにより、前記坩堝の熱を前記坩堝収容体に均一に伝達することを特徴とする。
請求項10記載の発明は、請求項8記載の薄膜電極製造方法において、前記坩堝は、開放端に円周状のフランジ部を有し、前記密着部材は、前記坩堝収容体上面の前記凹部の周辺領域に設けられ、前記坩堝の前記フランジ部及び前記坩堝収容体上面の前記凹部の周辺領域に密着することにより、前記坩堝の熱を前記坩堝収容体に均一に伝達することを特徴とする。
請求項11記載の発明は、請求項8乃至10のいずれかに記載の薄膜電極製造方法において、前記蒸着用の原材料を加熱、蒸発させる工程に先立って、前記坩堝と前記坩堝収容体との間に介在する前記密着部材を加熱、溶融して、前記坩堝及び前記坩堝収容体に密着させる工程を有することを特徴とする。
請求項12記載の発明は、請求項8乃至11のいずれかに記載の薄膜電極製造方法において、前記蒸着用の原材料を加熱、蒸発させて、前記基板上に形成される前記薄膜電極は、有機エレクトルミネッセンス素子の有機層に接する電極であることを特徴とする。
請求項13記載の発明に係る発光素子は、前記請求項8乃至12に記載の薄膜電極製造方法を適用して形成された電極を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る薄膜電極製造装置及び薄膜電極製造方法によれば、成膜速度を安定的に制御して、均一かつ高品質の膜質を有する薄膜電極を再現性良く形成することができる。また、本発明に係る発光素子によれば、均一かつ高品質の膜質を有する薄膜電極を備え、良好な発光特性を実現ことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る薄膜電極製造装置を適用した電子ビーム真空蒸着装置の第1の実施形態を示す概略構成図である。
【図2】第1の本実施形態に係る電子ビーム真空蒸着装置に適用される原材料収容部の一例を示す要部断面図である。
【図3】第1の実施形態に係る原材料収容部の嵌合状態を示す斜視図である。
【図4】第1の実施形態の比較対象となる原材料収容部の第1の例における特性を説明するための図である。
【図5】第1の実施形態の比較対象となる原材料収容部の第2の例における特性を説明するための図である。
【図6】本実施形態に係る原材料収容部を適用した場合における特性を説明するための図である。
【図7】第2の実施形態に係る電子ビーム真空蒸着装置に適用される原材料収容部の一例を示す要部断面図である。
【図8】第2の実施形態に係る原材料収容部の嵌合状態を示す斜視図である。
【図9】本発明に係る薄膜電極製造装置及び薄膜電極製造方法を適用して形成される画素の一例を示す等価回路図である。
【図10】本発明に係る薄膜電極製造装置及び薄膜電極製造方法が適用される画素の要部素子構造を示す概略断面図である。
【図11】本発明に係る薄膜電極製造方法が適用される画素の製造方法を示す工程断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る薄膜電極製造装置及び薄膜電極製造方法、並びに、該製造方法により形成された薄膜電極を適用した発光素子について、実施形態を示して詳しく説明する。
<第1の実施形態>
(薄膜電極製造装置)
まず、本発明に係る薄膜電極製造装置について、図面を参照して説明する。ここでは、本発明に係る薄膜電極製造装置を電子ビーム真空蒸着装置に適用した場合について説明する。
【0019】
図1は、本発明に係る薄膜電極製造装置を適用した電子ビーム真空蒸着装置の第1の実施形態を示す概略構成図である。また、図2は、本実施形態に係る電子ビーム真空蒸着装置に適用される原材料収容部の一例を示す要部断面図であり、図3は、本実施形態に係る原材料収容部の嵌合状態を示す斜視図である。なお、図1、図2においては、図示の都合上、断面のハッチングの表記を一部省略する。
【0020】
図1、図2に示すように、本実施形態に係る電子ビーム真空蒸着装置(薄膜電極製造装置)100は、概略、真空チャンバー110内に、水冷ハース(坩堝収容体)111と、インサート坩堝112Aと、密着治具(密着部材)113Aと、電子線源115と、基板ホルダー116と、が設けられている。ここで、水冷ハース111とインサート坩堝112Aと密着治具113Aは原材料収容部をなす。
【0021】
真空チャンバー110は、気密性に優れた構造を有し、真空ポンプ121を備えた真空制御機構120により内部の気圧が制御される。
水冷ハース111は、例えば銅(Cu)等の熱伝導性に優れた材質からなり、図1に示すように、内部に冷却水が循環されることにより、蒸着処理中の銅の融解を防ぐことができる。また、図2、図3に示すように、水冷ハース111の上面には凹部111aが設けられ、当該凹部111a内に、密着治具113Aを介してインサート坩堝112Aが着脱可能に嵌合される。
【0022】
インサート坩堝112Aは、図1〜図3に示すように、上記水冷ハース111の凹部111aに密着治具113Aを介して嵌合された状態で、その内部に蒸着用の原材料114が収容される。インサート坩堝112Aは、内部に収容された蒸着用の原材料114に対して、それよりも融点が高く、かつ、溶融した原材料114に対して、濡れ性が比較的低い材質からなる。具体的には、蒸着用の原材料114として例えばアルミニウム(Al:融点660℃)を用いる場合、インサート坩堝112Aは、例えばタングステン(W:融点3420℃)やタンタル(Ta:融点3017℃)、モリブデン(Mo:融点2623℃)等の高融点金属、又は、これらを含む合金等により形成される。
【0023】
密着治具113Aは、図2、図3に示すように、水冷ハース111とインサート坩堝112Aの間に介在し、特に、水冷ハース111の凹部111aの内面(側面及び底面)と、インサート坩堝112Aの外周面(側面及び底面)との間に均一に密着する形状を有している。これにより、密着治具113Aは、蒸着処理中に、インサート坩堝112Aの熱を水冷ハース111に略均一に伝達し、インサート坩堝112A内に収容され、溶融した原材料114の温度が略均一に制御される。
【0024】
そのため、密着治具113Aは、熱伝導性や加工性に優れ、かつ、原材料114と融点が同等か、あるいは、それよりも融点の高い材料により形成される。すなわち、密着治具113Aは、蒸着処理時に溶融した蒸着用原材料114の熱により、変形や変質等を生じることがないように、当該蒸着用原材料114よりも融点の高い材料であることが望ましい。これに加えて、本実施形態に係る原材料収容部の構成においては、密着治具113Aが水冷ハース111に直接接触して常時冷却されるので、原材料114と同じ材料を適用することができる。したがって、密着治具113Aは、例えばアルミニウム(Al)や銅(Cu)等の金属、あるいは、これらを含む合金により形成される。
【0025】
電子線源115は、上記水冷ハース111に嵌合されたインサート坩堝112A内に収容された蒸着用原材料114に所定のエネルギー強度の電子ビームを照射することにより、当該原材料114を加熱、溶融して蒸発させる。ここで、電子線源115から照射される電子ビームは、周知の偏向コイルによりその照射方向が調整され、電子ビームの照射位置は水冷ハース111の凹部111a内において任意に調整することができる。
基板ホルダー116は、上記水冷ハース111に嵌合されたインサート坩堝112Aに対向するように、発光素子等の形成される基板11を保持、固定する。
【0026】
(作用効果の検証)
次に、上述したような構成を有する電子ビーム真空蒸着装置の作用効果について説明する。ここでは、まず、比較対象となる従来技術の構成とその特性を説明し、その後、本実施形態における作用効果の優位性について説明する。
【0027】
図4は、比較対象となる原材料収容部の第1の例における特性を説明するための図である。図4(a)は、比較対象となる原料収容部の第1の構成、及び、原材料の溶融状態を示す概略断面図であり、図4(b)は、比較対象となる構成における成膜レートの時間変化を示す図である。また、図5は、比較対象となる原材料収容部の第2の例における特性を説明するための図である。図5(a)は、比較対象となる原料収容部の第2の構成、及び、原材料の溶融状態を示す概略断面図であり、図5(b)は、比較対象となる構成における成膜レートの時間変化を示す図である。なお、図4、図5において、本実施形態に係る原料収容部と同等の構成については、同一又は同等の符号を付して示す。
【0028】
比較対象となる原材料収容部の第1の例は、図4(a)に示すように、水冷ハース111の上面に設けられた凹部111aを、そのまま坩堝として利用した構成を有している。このような構成において、凹部111a内に蒸着用の原材料114xとして例えばアルミニウムを直接収容し、電子ビームを照射して加熱、溶融した場合、溶融した原材料114x(アルミニウム)に対して水冷ハース111を形成する銅の濡れ性が高いため、図4(a)に示すように、溶融した原材料114xがしばしば凹部111a内面に全体的に広がり、また、その表面に凹凸が生じることが知られている。ここで、水冷ハース111は、銅(Cu)等の熱伝導度の高い材料で作られているために、融解した原材料114xは、水冷ハース111との接触面で大きく熱を奪われる。そのため、電子ビームが照射された領域の原材料114xの僅かな厚みの差や変化により、原材料114xの温度は大きく異なり、その結果蒸発速度が大きく変化する。これにより、図4(b)に示すように、時間経過に伴い、蒸着膜の成膜レート(成膜速度)が大きく変化するという問題を有していた。
【0029】
また、比較対象となる原材料収容部の第2の例は、図5(a)に示すように、水冷ハース111に設けられた凹部111a内にタングステン等の高融点金属からなるインサート坩堝112pを直接嵌合した構成を有している。このような構成において、インサート坩堝112pに収容した蒸着用の原材料114を加熱、溶融した場合、上述した第1の比較対象例のように溶融した原材料114が直接水冷ハース111に接触していないので、原材料114からの極端な熱流出を制限することができる。また、蒸着用の原材料114として例えばアルミニウムを用いる場合、インサート坩堝112pを形成するタングステンは、溶融したアルミニウムに対して、濡れ性が低いので、原材料の広がりや表面の凹凸を抑制することができる。
【0030】
したがって、第2の比較対象例においては、第1の比較対象例に示したような、溶融した原材料114内部での温度分布の極端な偏り(ばらつき)を緩和して、原材料114を比較的安定した速度で蒸発させることができる。また、第2の比較対象例においては、溶融した原材料114の温度を比較的高く保持することができるので、蒸着処理時における電子線強度を低くすることができる。
【0031】
しかしながら、第2の比較対象例に示した構成においては、次のような問題が生じる可能性がある。すなわち、図5(a)(図2、図4(a)においても同様)に示すように、水冷ハース111に設けられた凹部111aの側面の断面形状は、直線ではなく、緩いカ−ブを有していることが多い。これは、上述した第1の比較対象例に示したように、水冷ハース111の凹部111aが本来坩堝として直接使用されるものであることに起因する。
【0032】
一方、インサート坩堝112pを構成する高融点金属は、一般的に堅く、精度の高い成形加工が極めて難しい。インサート坩堝112Aに適用される高融点金属の堅さをヤング率で示すと、例えばタングステン(W)は4.08×1011Paと非常に高く、堅い材料である。このような高融点金属を絞り加工や切削加工等を行って成形し、図5(a)に示したような水冷ハース111の凹部111aにおける緩いカーブを有する内面に均一に密着するようにインサート坩堝112pの側面を加工(例えば絞り加工において側面部分の曲率を指定)することは極めて困難であり、それを実現するためには、多大な加工時間とコストを必要とする。そのため、インサート坩堝112pの外周面の断面形状は、図5(a)に示すように、ある程度直線部分の多い形に加工せざるを得なかった。
【0033】
そして、図5(a)に示すように、このようなインサート坩堝112pを直接水冷ハース111の凹部111aに嵌合した場合、例えば図中HPで示す箇所とそれ以外の箇所で、両者の接触状態が均一にならないため、溶融した原材料114の温度分布に偏り(ばらつき)が生じやすい。また、両者が離間している領域(例えば図中HPで示す箇所以外)では、溶融した原材料114から水冷ハース111への熱の伝達が行われず、その温度が上昇しやすくなる。そのため、第2の比較対象例においては、原材料114の蒸発速度の制御が困難になり、図5(b)に示すように、時間経過に伴い、蒸着膜の成膜レート(成膜速度)が一方的に上昇して安定しなくなる可能性があった。
【0034】
図6は、本実施形態に係る原材料収容部を適用した場合における特性を説明するための図である。図6(a)は、本実施形態に係る原料収容部における原材料の溶融状態を示す概略断面図であり、図6(b)は、本実施形態に係る原料収容部における成膜レートの時間変化を示す図である。
【0035】
上述した各比較対象例に対して、本実施形態に係る原材料収容部においては、図6(a)に示すように、水冷ハース111に設けられた凹部111aと、高融点金属からなるインサート坩堝112Aとの間に、熱伝導性が高く、かつ、成型加工性が高い比較的柔らかい材料により形成された密着治具113Aを介在させた構成を有している。ここで、本実施形態において密着治具113Aに適用されるアルミニウムのヤング率は0.76×1011Paであり、インサート坩堝112Aに適用されるタングステン(ヤング率4.08×1011Pa)に比較して非常に柔らかい材料であり、高精度の成形加工に適している。また、蒸着用の原材料114としてアルミニウムを用いる場合、密着治具113Aの融点(660℃)が同じになるが、密着治具113Aは水冷ハース111に直接接触して常時冷却されるので、変形や変質を生じることはない。
【0036】
なお、密着治具113Aの加工精度が十分ではなく、インサート坩堝112Aの外周面や水冷ハース111の凹部111a内面に対して、均一な密着性が得られない場合には、密着治具113Aとなる材料(インサート坩堝112Aの融点よりも低い材料)をインサート坩堝112Aと水冷ハース111の間に挟み込んで、加熱、溶融して成形し、密着させるものであってもよい。具体的には、インサート坩堝112Aに収容された蒸着用原材料114を加熱、溶融して蒸発させる蒸着処理工程に先立って、水冷ハース111の凹部111aに密着治具113Aとなる材料(密着用材料)を挿入し、インサート坩堝112Aを水冷ハース111に嵌合させた状態で、インサート坩堝112Aを密着用材料の融点以上に加熱して密着用材料を溶融する。これにより、溶融した密着用材料を、インサート坩堝112Aの外周面と水冷ハース111の凹部111a内面に十分馴染ませて、高い密着性を有する密着治具113Aを形成することができる。ここで、密着用材料は、予め想定される密着治具113Aの形状(図3参照)に粗加工した素材を挿入するものであってもよいし、粉末や顆粒状の材料を挿入するものであってもよいし、インサート坩堝112Aを嵌合する際にフィルムや箔状の素材を挟み込んで挿入する(押し込む)ものであってもよい。
【0037】
このような構成を有することにより、本実施形態においては、水冷ハース111に設けられた凹部111aの内面(側面及び底面)と、インサート坩堝112Aの外周面(側面及び底面)との間に、均一に密着するように、熱伝導性の高い密着治具113Aが介在するので、インサート坩堝112Aと水冷ハース111との間で、略均一で、かつ、適切な熱接触を図ることができる。
【0038】
したがって、加熱、溶融した原材料114から水冷ハース111への熱伝導を均一化しつつ、極端な熱流出を抑制することができ、また、原材料114内部の温度分布の偏り(ばらつき)を緩和することができるので、図6(b)に示すように、経過時間に対して安定した成膜レート(成膜速度)で蒸着膜を形成することができる。また、この場合における電子線強度も比較的低く設定することができる。したがって、本実施形態によれば均一な膜質の蒸着膜を再現性良く形成することができる。
【0039】
<第2の実施形態>
次に、本発明に係る薄膜電極製造装置の第2の実施形態について説明する。
図7は、第2の実施形態に係る薄膜電極製造装置(電子ビーム真空蒸着装置)に適用される原材料収容部の一例を示す要部断面図である。図8は、本実施形態に係る原材料収容部の嵌合状態を示す斜視図である。ここで、上述した第1の実施形態と同等の構成については、同等又は同一の符号を付して、その説明を簡略化又は省略する。
【0040】
上述した第1の実施形態においては、水冷ハース111の凹部111a内に設けられた密着治具113Aを介して、インサート坩堝112Aの外周面(側面及び底面)が水冷ハース111に均一に熱接触する場合について説明した。第2の実施形態においては、水冷ハース上面の凹部周辺の平坦な領域において、円周状(ドーナツ形状)に形成された密着治具を介して、インサート坩堝のフランジ部と水冷ハースが熱接触する構成を有している。
【0041】
第2の実施形態に係る電子ビーム真空蒸着装置に適用される原料収容部は、図7、図8に示すように、凹部111aが設けられた水冷ハース111と、上部(開放端)にフランジ部112fが設けられたインサート坩堝112Bと、インサート坩堝112Bのフランジ部112fの形状に対応して円周状(ドーナツ形状)に形成された密着治具113Bと、を有している。
【0042】
水冷ハース111は、上述した第1の実施形態と同様に、上面にインサート坩堝112Bを嵌合するための凹部111aが設けられている。インサート坩堝112Bは、図7(a)、図8に示すように、図面上部の開放端から円周状(つば状)に外方に張り出したフランジ部112fが設けられている。密着治具113Bは、上述した第1の実施形態と同様に、アルミニウムや銅等の熱伝導性や加工性に優れた材質により形成されている。また、密着治具113Bは、インサート坩堝112Bのフランジ部112fに対応して中央部分が円形に除去された円周状(ドーナツ形状)を有している。これにより、図7(a)、図8に示すように、インサート坩堝112Bを水冷ハース111の凹部111aに嵌合した際に、インサート坩堝112Bのフランジ部112f及び水冷ハース111上面の凹部111a周辺の平坦な領域が密着治具113Bを介して均一に密着する。
【0043】
ここで、本実施形態においては、インサート坩堝112Bを密着治具113Bを介して水冷ハース111の凹部111aに嵌合した状態で、図7(a)に示すように、インサート坩堝112Bがフランジ部112fにおいてのみ水冷ハース111と直接熱接触し、その外周面(すなわち側面及び底面)は水冷ハース111の凹部111aの内面から離間して、略断熱状態になっている。
【0044】
このような構成を有する原料収容部においても、インサート坩堝112Bのフランジ部112fを介して、水冷ハース111と略均一で、かつ、適切な熱接触を図ることができる。これにより、本実施形態によれば、図7(b)に示すように、加熱、溶融した原材料114から水冷ハース111への熱伝導を均一化しつつ、極端な熱流出を抑制することができ、また、原材料114内部の温度分布の偏り(ばらつき)を緩和することができる。したがって、本実施形態によっても、安定した成膜レートで蒸着膜を形成することができるので、均一な膜質の蒸着膜を再現性良く形成することができる。
【0045】
なお、本実施形態においては、インサート坩堝112Bと水冷ハース111が密着治具113Bを介して均一かつ良好に密着するように、インサート坩堝112Bのフランジ部112fを水冷ハース111方向に押圧するための機構を備えているものであってもよい。例えば、フランジ部112fを水冷ハース111に圧着固定するようにねじ止めしたり、クランプしたりする機構を備えるものであってもよい。
【0046】
(画素)
次に、本発明に係る薄膜電極製造装置及び薄膜電極製造方法を適用して形成される画素について説明する。
図9は、本発明に係る薄膜電極製造装置及び薄膜電極製造方法を適用して形成される画素(発光駆動回路及び発光素子)の一例を示す等価回路図である。なお、図9に示す画素PIXの回路構成は、有機EL素子を備えた画素に適用される一例を示すものに過ぎず、他の回路構成を有するものであってもよいことはいうまでもない。
【0047】
図9に示すように、本発明に係る薄膜電極製造装置及び薄膜電極製造方法を適用して形成される画素PIXは、発光素子である有機EL素子(発光素子)OELと、該発光素子を駆動するための発光駆動回路DCと、を備えている。
【0048】
発光駆動回路DCは、例えば、トランジスタ(選択トランジスタ)Tr11とトランジスタ(駆動トランジスタ)Tr12とキャパシタCsとを備えている。トランジスタTr11は、ゲート端子が選択ラインLsに接続され、ドレイン端子がデータラインLdに接続され、ソース端子が接点N11に接続されている。トランジスタTr12は、ゲート端子が接点N11に接続され、ドレイン端子が電源電圧ラインLaに接続され、ソース端子が接点N12に接続されている。キャパシタCsは、トランジスタTr12のゲート端子(接点N11)及びソース端子(接点N12)間に接続されている。また、有機EL素子OELは、アノードが上記発光駆動回路DCの接点N12に接続され、カソードが所定の低電位電源(基準電圧Vss;例えば接地電位Vgnd)に接続されている。
【0049】
ここで、トランジスタTr11、Tr12は、いずれもnチャネル型の薄膜トランジスタが適用されている。また、キャパシタCsは、トランジスタTr12のゲート・ソース間に形成される寄生容量であり、該ゲート・ソース間に付加的に補助容量が設けられているものであってもよい。
【0050】
なお、図9に示した画素PIXにおいて、選択ラインLsは、図示を省略した選択ドライバに接続され、所定のタイミングで画素PIXを選択状態に設定するための選択電圧Sselが印加される。また、データラインLdは、図示を省略したデータドライバに接続され、画素PIXの選択状態に同期するタイミングで画像データに応じた階調信号(データ電圧)Vpixが印加される。また、電源電圧ラインLaは、所定の高電位電源に接続され、トランジスタTr12により有機EL素子OELのアノードに画像データに応じた発光駆動電流を流すために、有機EL素子OELのカソードに印加される基準電圧Vssより電位の高い供給電圧Vddが印加される。
【0051】
図10は、図9に示した回路構成を有する画素の要部素子構造を示す概略断面図である。ここでは、図10に示した画素の回路構成のうち、図示の都合上、トランジスタTr12とキャパシタCsと有機EL素子OELとデータラインLdについてのみ断面構造を示す。なお、図10に示す画素PIXの断面構造は、本発明を適用可能な一例を示すものに過ぎず、他の断面構造を有するものであってもよいことはいうまでもない。
【0052】
図9に示した画素PIXは、例えば図10に示すように、ガラス基板等の透明な基板11の一面側(図面上面側)に設定された画素形成領域Rpxごとに形成される。この画素形成領域Rpxには、少なくとも、有機EL素子OELの形成領域(EL素子形成領域)Relと、隣接する画素PIXとの境界領域Rbdと、が設定されている。ここで、境界領域Rbdには、隣接する画素PIXのEL素子形成領域Relとの間に、図10に示すように、層間絶縁膜15及び隔壁層(バンク)16が設けられている。そして、隔壁層16の側壁により囲まれた領域が、EL素子形成領域Relとして画定されている。
【0053】
トランジスタTr12(図示を省略したトランジスタTr11も同じ)は、図10に示すように、基板11上に形成されたゲート電極Tr12gと、ゲート絶縁膜13を介してゲート電極Tr12gに対応する領域に形成された半導体層SMCと、該半導体層SMCの両端部に延在するように形成されたソース電極Tr12s及びドレイン電極Tr12dと、を有している。また、ソース電極Tr12sとドレイン電極Tr12dが対向する半導体層SMC上には、チャネル保護層BLが形成されている。また、ソース電極Tr12s及びドレイン電極Tr12dと半導体層SMCとの間には、不純物層OHMがそれぞれ形成されている。このようなトランジスタTr12(トランジスタTr11を含む)は、図10に示すように、基板11上の境界領域Rbdに形成され、層間絶縁膜15及び隔壁層16により被覆されている。また、トランジスタTr12に隣接して、基板11上に配設されるデータラインLd(図示を省略した選択ラインLs、及び、電源電圧ラインLaも同じ)も同様に、境界領域Rbdに形成され、層間絶縁膜15及び隔壁層16により被覆されている。
【0054】
キャパシタCsは、基板11上に形成された透明電極からなる下部電極12(Eca)と、誘電体層として兼用されるゲート絶縁膜13を介して下部電極12(Eca)に対応する領域に形成された透明電極からなる上部電極Ecbと、を有している。ここで、キャパシタCsの下部電極12(Eca)は、図10に示すように、トランジスタTr12のゲート電極Tr12gに電気的に接続されている。この接続部は、図9に示した画素PIXの回路構成においる接点N11に相当する。また、キャパシタCsの上部電極Ecbは、図10に示すように、トランジスタTr12のソース電極Tr12sに電気的に接続されている。この接続部は、図9に示した画素PIXの回路構成においる接点N12に相当する。また、キャパシタCsの上部電極Ecbは、有機EL素子OELのアノード電極(画素電極)14を兼用している。
【0055】
有機EL素子OELは、図10に示すように、キャパシタCsの上部電極Ecbとして兼用されるアノード電極(画素電極)14と、正孔注入層17a及び発光層17bからなる有機EL層17と、電子注入層18と、カソード電極(対向電極)19と、を順次積層した素子構造を有している。有機EL層17は、基板11上に形成された隔壁層16の側壁により画定されたEL素子形成領域Relに露出するアノード電極14上に形成される。電子注入層18及びカソード電極19は、有機EL層17を介して、アノード電極14に対向するように設けられる。また、図10に示した素子構造においては、電子注入層18及びカソード電極19は、有機EL層17が形成されるEL素子形成領域Rel、及び、該EL素子形成領域Relを画定する隔壁層16を含む基板11の全域に設けられている。
【0056】
ここで、電子注入層18は、例えばアルカリ金属、あるいは、アルカリ土類金属からなる仕事関数の低い薄膜電極により形成される。また、カソード電極19は、アルミニウム(Al)等の金属単体、又は、その合金からなる仕事関数が高く、光反射特性を有する薄膜電極により形成される。そして、本適用例においては、少なくとも有機EL素子OELのカソード電極19が、上述した各実施形態に係る薄膜電極製造装置を用いた真空蒸着法により成膜される。
【0057】
このような素子構造を有する画素PIXにおいては、有機EL素子OELのアノード電極(画素電極)14が光透過特性を有し、カソード電極19が光反射特性を有することにより、有機EL層17において発光した光は、光透過特性を有するアノード電極14を介して直接、あるいは、光反射特性を有するカソード電極19で反射したのち、基板11を透過し、視野側である基板11の他面側(図10の図面下方)に出射される。すなわち、図10に示した素子構造を有する有機EL素子OELは、ボトムエミッション型の発光構造を有している。
【0058】
(画素の製造方法)
次に、上述した素子構造を有する画素の製造方法について簡単に説明する。
図11は、本発明に係る薄膜電極製造方法が適用される画素の製造方法を示す工程断面図である。
【0059】
上述した表示装置の製造方法は、まず、図11(a)に示すように、例えばガラスや石英、透明な樹脂等からなる基板11の一面側(図面上面側)に、ITOや亜鉛ドープ酸化インジウム(Indium Zinc Oxide)等の透明な(光透過特性を有する)電極材料膜を形成した後、フォトリソグラフィ法を用いてパターニングすることにより、キャパシタCsの下部電極12(Eca)を形成する。そして、基板11上にゲートメタル層を形成した後、フォトリソグラフィ法を用いてパターニングすることにより、上記下部電極12(Eca)に電気的に接続されたゲート電極Tr12gと、データラインLdを同時に形成する。
【0060】
次いで、図11(b)に示すように、基板11の全域にゲート絶縁膜13を形成した後、トランジスタTr12のゲート電極Tr12gに対応するゲート絶縁膜13上に、半導体層SMC、チャネル保護層BL、不純物層OHMを形成する。次いで、EL素子形成領域Relのゲート絶縁膜13上に、ITOや亜鉛ドープ酸化インジウム(Indium Zinc
Oxide)等の透明な(光透過特性を有する)電極材料からなるアノード電極14(上部電極Ecb)を形成する。これにより、アノード電極14(上部電極Ecb)と下部電極12(Eca)が、誘電体層として兼用されるゲート絶縁膜13を介して対向した、キャパシタCsが形成される。
【0061】
次いで、基板11上にソース、ドレインメタル層を形成した後、フォトリソグラフィ法を用いてパターニングすることにより、トランジスタTr12の半導体層SMCの両端部に、不純物層OHMを介して延在するように、ソース電極Tr12s及びドレイン電極Tr12dを形成する。このとき、図11(b)に示すように、トランジスタTr12のソース電極Tr12sは、その一端がアノード電極14上に延在するように形成されて、ソース電極Tr12sとアノード電極14(上部電極Ecb)が電気的に接続される。
【0062】
次いで、図11(c)に示すように、基板11上の境界領域Rbdに形成されたトランジスタTr12(図示を省略したトランジスタTr11や選択ラインLs、電源電圧ラインLaを含む)を被覆するように、層間絶縁膜15を形成する。その後、図11(c)に示すように、基板11上の境界領域Rbdに連続的に突出する隔壁層16を形成する。ここで、隔壁層16は、例えば感光性の樹脂材料からなり、少なくとも各画素PIXのEL素子形成領域Relのアノード電極14を露出させる開口部を有している。
【0063】
次いで、図11(d)に示すように、基板11上のEL素子形成領域Relに露出するアノード電極14上に、例えばノズルプリンティング(又はノズルコート)法やインクジェット法等を用いて、例えば正孔注入層17a及び発光層17bを順次形成して、有機EL層17を形成する。
【0064】
その後、図11(d)に示すように、少なくとも有機EL層17が形成された基板11上に、カルシウム(Ca)、バリウム(Ba)、リチウム(Li)、インジウム(In)のいずれかからなる低仕事関数の電子注入層18を形成する。さらに、アルミニウム(Al)等からなる、光反射特性を有し、かつ、高仕事関数のカソード電極19を、上記隔壁層16及び有機EL層17が形成された基板11上に形成することにより、図10に示したボトムエミッション型の発光構造を有する有機EL素子OELを備えた画素PIXが完成する。
【0065】
ここで、カソード電極19は、上述した実施形態に示したような原材料収容部を備えた薄膜電極製造装置(電子ビーム真空蒸着装置)を用いた真空蒸着法により成膜される。具体的には、上述した実施形態に示した電子ビーム真空蒸着装置(図1参照)において、銅(Cu)等の熱伝導性が高い材質からなる水冷ハース111の凹部111aに、タングステン(W)等の高融点金属からなるインサート坩堝112A又は112Bを勘合する。このとき、水冷ハース111とインサート坩堝112A又は112Bとの間に、アルミニウム(Al)等の熱伝導性が高く、かつ、成形加工が容易な比較的軟らかい材質からなる密着治具113A、113Bを介在させることにより、水冷ハース111とインサート坩堝112A又は112Bとの間で均一な熱接触を図る。その後、インサート坩堝112A又は112Bにカソード電極19の電極材料(蒸着用原材料114)として、例えばアルミニウム(Al)を収容し、真空チャンバー110を真空状態にして、当該電極材料に電子線を照射する。これにより、インサート坩堝112A又は112B内の電極材料が加熱、溶融して蒸発し、基板ホルダー116に保持、固定された基板11表面に付着してアルミニウムの薄膜電極が成膜され、カソード電極19が形成される。
【0066】
このようなカソード電極19の形成方法(薄膜電極の製造方法)によれば、アルミニウムの薄膜電極を成膜する際の成膜レート(成膜速度)を安定的に制御することができるので、有機EL素子、又は、有機EL素子を備えた画素アレイを量産する場合であっても、均一かつ高品質の膜質を有する薄膜電極を再現性良く形成することができる。したがって、本発明によれば、良好な発光特性を有する発光素子(有機EL素子)を備えた画素アレイを実現することができる。
【0067】
なお、図10に示した有機EL素子OELにおいては、ボトムエミッション型の発光構造を有する場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、例えば、図10に示した素子構造において、アノード電極14又は下部電極Ecaがアルミニウム等の光反射特性を有する薄膜電極により形成され、カソード電極19がITO等の光透過特性を有する薄膜電極により形成されたトップエミッション型の発光構造を有するものであってもよい。この場合、上述した実施形態に示した薄膜電極製造装置において、蒸着用原材料としてアルミニウムに換えてITO等の透明電極材料を原材料収容部(インサート坩堝)に収容して、基板11表面に蒸着させるものであってもよい。また、有機層上に薄膜電極を形成する類似の素子構造を有するデバイスとして太陽電池パネルがあるが、本発明に係る薄膜電極製造装置及び薄膜電極製造方法は、このようなデバイスの製造時においても良好に適用することができる。
【符号の説明】
【0068】
OEL 有機EL素子
14 アノード電極
17 有機EL層
18 電子注入層
19 カソード電極
100 電子ビーム真空蒸着装置
110 真空チャンバー
111 水冷ハース
111a 凹部
112A、112B インサート坩堝
112f フランジ部
113A、113B 密着治具
115 電子線源
116 基板ホルダー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空蒸着法により基板上に薄膜電極を形成する薄膜電極製造装置において、
蒸着用の原材料が収容される坩堝と、
前記坩堝が嵌合される凹部を有するとともに、温度が略一定に保持される坩堝収容体と、
前記坩堝収容体の前記凹部に前記坩堝を嵌合した状態で、前記坩堝と前記坩堝収容体との間に介在し、前記坩堝の熱を前記坩堝収容体に均一に伝達するための密着部材と、
を備えることを特徴とする薄膜電極製造装置。
【請求項2】
前記密着部材は、前記坩堝の外周面及び前記坩堝収容体の前記凹部の内面に均一に密着する形状を有していることを特徴とする請求項1記載の薄膜電極製造装置。
【請求項3】
前記坩堝は、開放端に円周状のフランジ部を有し、
前記密着部材は、前記坩堝の前記フランジ部及び前記坩堝収容体上面の前記凹部の周辺領域に均一に密着する形状を有していることを特徴とする請求項1記載の薄膜電極製造装置。
【請求項4】
前記密着部材は、前記坩堝よりも融点が低く、かつ、前記蒸着用の原材料と同等以上の融点を有する材料により形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の薄膜電極製造装置。
【請求項5】
前記密着部材は、加熱、溶融することにより、前記坩堝及び前記坩堝収容体に密着していることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の薄膜電極製造装置。
【請求項6】
前記蒸着用の原材料は、アルミニウムであり、
前記坩堝は、高融点金属材料により形成されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の薄膜電極製造装置。
【請求項7】
前記高融点金属材料が、タングステン、タンタル、モリブデンのいずれかであることを特徴とする請求項6記載の薄膜電極製造装置。
【請求項8】
坩堝に収容された蒸着用の原材料を、加熱、蒸発させて、基板上に薄膜電極を形成する薄膜電極製造方法において、
温度が略一定に保持される坩堝収容体に設けられた凹部に、前記坩堝の熱を前記坩堝収容体に均一に伝達するための密着部材を介して、前記坩堝が嵌合された状態で、前記坩堝に収容された前記蒸着用の原材料を、加熱、蒸発させる工程を有することを特徴とする薄膜電極製造方法。
【請求項9】
前記密着部材は、前記坩堝収容体の前記凹部の内部に設けられ、前記坩堝の外周面及び前記坩堝収容体の前記凹部の内面に密着することにより、前記坩堝の熱を前記坩堝収容体に均一に伝達することを特徴とする請求項8記載の薄膜電極製造方法。
【請求項10】
前記坩堝は、開放端に円周状のフランジ部を有し、
前記密着部材は、前記坩堝収容体上面の前記凹部の周辺領域に設けられ、前記坩堝の前記フランジ部及び前記坩堝収容体上面の前記凹部の周辺領域に密着することにより、前記坩堝の熱を前記坩堝収容体に均一に伝達することを特徴とする請求項8記載の薄膜電極製造方法。
【請求項11】
前記蒸着用の原材料を加熱、蒸発させる工程に先立って、
前記坩堝と前記坩堝収容体との間に介在する前記密着部材を加熱、溶融して、前記坩堝及び前記坩堝収容体に密着させる工程を有することを特徴とする請求項8乃至10のいずれかに記載の薄膜電極製造方法。
【請求項12】
前記蒸着用の原材料を加熱、蒸発させて、前記基板上に形成される前記薄膜電極は、有機エレクトルミネッセンス素子の有機層に接する電極であることを特徴とする請求項8乃至11のいずれかに記載の薄膜電極製造方法。
【請求項13】
前記請求項8乃至12に記載の薄膜電極製造方法を適用して形成された電極を有することを特徴とする発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−32506(P2011−32506A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−177825(P2009−177825)
【出願日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(000001443)カシオ計算機株式会社 (8,748)
【Fターム(参考)】